説明

透湿防水加工布帛

【課題】既存の石油系ポリウレタン樹脂より形成される透湿防水加工布帛と同等の防水性能および透湿性能を維持しつつ、非石油系のポリウレタン樹脂であっても成膜環境の変化に左右されること無く安定した成膜が可能な透湿防水加工布帛を提供する。
【解決手段】セバシン酸を含むポリエステルジオールからなるポリウレタン樹脂を主体とする透湿防水層を有し、ポリエステルジオールが、1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールを含むことを特徴とする透湿防水加工布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透湿防水加工布帛に関するものであり、詳しくは織編物、不織布、紙、多孔性フィルム等と組み合わせることで、フィッシングウェアや登山衣等のアウトドアウェア、スキー関連ウェア、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、ゴルフウェア、テニスウェア、レインウェア、カジュアルコート、屋内外作業着、手袋や靴等の衣料、衣料資材分野に好適に用いることができる透湿防水加工布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透湿防水加工布帛を用いた衣料の多くには、その防水性能と着用時の衣服内のムレ感を軽減する快適性能を満足する為に、透湿性を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂を延伸して多孔質化させたフィルムや、同じく透湿性を有するポリウレタン樹脂製の湿式成膜フィルムのような微多孔質膜や、親水性を有するポリウレタン樹脂製の無孔膜等を利用したものが多数存在し、幅広く活用されている。様々な用途で用いられる透湿防水加工布帛ではあるが、用いられるポリウレタン樹脂の原料は石油系原料が主体であり、石油系原料の枯渇および入手価格の高騰の観点から、今後も安定的に透湿防水加工布帛を生産するためには、非石油系の樹脂を活用した新技術の開発が必須であり、多数の検討がされている。中でも、ポリウレタン樹脂の原料となるポリオール成分を非石油系の原料から得る検討が盛んであり、とくにヒマシ油変性ポリオールに着目した技術報告が多数存在する。しかし、単にヒマシ油変性ポリオールとMDIを重合したポリウレタン樹脂からなる透湿防水加工布帛は、その商品としての非石油系原料比率は高まるものの、その防水性能は既存の石油系ポリウレタン樹脂からなる透湿防水布帛におよばず、防水性能を向上させる為に、更に別の石油系ポリウレタン膜を追加加工する必要があり、逆に製造原価の悪化を招いているのが現状である。
【0003】
本発明者らは非石油系の原料の中でも、単なるヒマシ油変性ポリオールではなく、ヒマシ油を分解して得られるセバシン酸と非石油系原料から得られる1−3プロピレングリコールからなるポリエステルジオールを活用したポリウレタン樹脂を成膜することで得られる透湿防水加工布帛ならば、既存の石油系ポリウレタン樹脂からなる透湿防水加工布帛同等の性能が得られることを鋭意検討の末に見出した。しかし、この場合の非石油系のポリウレタン樹脂は分子構造が直線性に富んでいるため、気温低下や湿度上昇等の成膜環境の変化に伴いポリウレタン樹脂自身がにこごり状に凝集し、流動性を一切失ってしまうという低温固化の状態を引き起こす恐れがあることが最近明らかになり、安定成膜に至らないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−149876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、既存の石油系ポリウレタン樹脂より形成される透湿防水加工布帛と同等の防水性能および透湿性能を維持しつつ、非石油系のポリウレタン樹脂であっても成膜環境の変化に左右されること無く安定した成膜が可能な透湿防水加工布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る透湿防水加工布帛は、セバシン酸を含むポリエステルジオールからなるポリウレタン樹脂で形成される透湿防水層を有し、上記ポリエステルジオールが、1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールを含むことを特徴とするものからなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透湿防水層を、ヒマシ油等から得られるセバシン酸と1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールとを含むポリエステルジオールからなるポリウレタン樹脂で形成することにより、環境温度が13℃以下であっても低温固化を起こさず安定した透湿防水層の成膜が可能となるので、非常に好適な防水性能と透湿性能を有する透湿防水加工布帛が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施態様に係る透湿防水加工布帛におけるポリウレタン樹脂の動的粘弾性特性(処方1:U-5360)である。
【図2】本発明の他の実施態様に係る透湿防水加工布帛におけるポリウレタン樹脂の動的粘弾性特性(処方2: U-5060A)である。
【図3】本発明のさらに他の実施態様に係る透湿防水加工布帛におけるポリウレタン樹脂の動的粘弾性特性(処方3: U-5060B)である。
【図4】本発明のさらに他の実施態様に係る透湿防水加工布帛におけるポリウレタン樹脂の動的粘弾性特性(処方4:U-5306)である。
【図5】従来の透湿防水加工布帛におけるポリウレタン樹脂の動的粘弾性特性(処方5:U-5376)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
セバシン酸は例えばヒマシ油から得られる非石油系成分であり、石油系原料から得られるものではない。セバシン酸の合成方法としては、ヒマの種から得られる油をアルカリにより開裂反応させて、ジカルボン酸の形で得る方法が一般的である。
【0010】
ポリエステルジオール成分は、セバシン酸と1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールを合成して得ることができる。一般にポリウレタン樹脂を合成する際に必要とされるポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどが用いられる。しかし、透湿防水加工布帛の製造においては、ポリオール成分の水酸基数が2.1個を超えると、3価以上のポリオールの分枝構造と架橋構造により、極微量でも粘性変化が起きたり、架橋が増大し過ぎて、透湿防水膜を形成するためのコーティングに適したポリウレタン樹脂を得ることができなくなる恐れがある。コーティングに適したポリウレタン樹脂を得るためには、ポリウレタン樹脂のポリオールは平均水酸基が1.95〜2.05個のジオールを使用することが望ましく、これを非石油系原料で得るには、ヒマの油をアルカリにより開裂反応させて得られるジカルボン酸の一種であるセバシン酸とトウモロコシより得られる1−3プロピレングリコールを合成することで、完全に非石油系であるジオールを得るに至るが、有機ジイソシアネート成分と合成して得られるポリウレタン樹脂は、その分子構造が直線性に富んでいるため、環境の気温が13℃を下回るとポリウレタン樹脂自身が、にこごり状に凝集し、流動性を一切失ってしまうという低温固化の問題を起こしてしまい、ポリウレタンの成膜が不可能となる恐れがある。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の末、1−3プロピレングリコールに対して異なる分子構造を有する1−2プロピレングリコールに注目し、これをセバシン酸および1−3プロピレングリコールと併用しポリエステルジオールを得ることで、本発明に至った。この1−2プロピレングリコールを併用することで得られたポリエステルジオールの分子構造はその異なる分子構造による効果で直線性が崩されており、外気温が13℃以下になっても低温固化を起こさない。詳しくは、1−3プロピレングリコールに対して1−2プロピレングリコールを1:9〜9:1、より好ましくは3:7〜7:3の重量割合でセバシン酸と合成したポリエステルジオールを用いたポリウレタン樹脂は低温固化を起こさず、好適に用いることができる。一方で1−2プロパンジオールは石油系原料であるため、その使用量を極力少なくすることが、非石油系比率を維持するという観点で更に好ましい。
【0012】
また、低温固化の現象について動的粘弾性評価を行うことで、より定量的な評価も実施した。貯蔵弾性率および損失弾性率ならびに複素粘度は、一般的な動的粘弾性測定により得られるものである。測定装置としては一般的な動的粘弾性を測定できるものならば特に限定されるものではない。後述する実施例においては、株式会社三井化学分析センターにて、ティー・エイ・インスツルメント社製の粘弾性測定装置を用い、測定モードをずりモード(Auto Strain制御)、測定温度を30℃から−20℃に3℃/minで冷却し、連続で−20℃から50℃まで3℃/minで加熱し、窒素ガスをパージして測定を行った。また、動的粘弾性特性である貯蔵弾性率および損失弾性率ならびに複素粘度の変化率は、上記測定の冷却過程における20℃の貯蔵弾性率および損失弾性率ならびに複素粘度と5℃の貯蔵弾性率および損失弾性率ならびに複素粘度の変化率を意味する。
【0013】
ポリウレタン樹脂に合成する際の有機ジイソシアネートとしては、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記する)、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等が挙げられ、これらの2種以上の混合物も使用可能である。これらのうち好ましいものはMDIである。
【0014】
ポリウレタン樹脂の製造法としては一般的な方法を用いることができる。例えば、極性溶媒(DMF、DMSOなどに代表される)やメチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の溶剤に2価のセバシン酸からなるポリエステルジオールと有機ジイソシアネートを添加し十分に反応させ、末端イソシアネートまたは水酸基を有するプレポリマーを作った後、2価のセバシン酸からなるポリエステルジオールと有機ジイソシアネートを添加し、鎖長反応で重合度を上げることによってポリウレタン樹脂を製造することができる。なお、プレポリマーを製造する際に2価のセバシン酸からなるポリエステルジオールに加えて、2価のポリオール(エチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)を共重合することも可能である。2価のセバシン酸からなるポリエステルジオールを用いてなるポリウレタン樹脂の重合方法は、これらの方法に特に限定されるものではない。
【0015】
布帛としては、使用目的等に応じて適宜なものを用いるが、例を挙げると、ナイロン繊維やポリエステル繊維、ポリアミド繊維の如き合成繊維、アセテート繊維の如き半合成繊維、綿や麻や羊毛の如き天然繊維を単独でまたは2種以上を混合して、織物や編物、不織布等、特に限定することなく用いることができる。
【0016】
透湿防水層の積層方法としては、布帛にダイレクトにコーティングしたり、離型基材上にコーティング等で形成した透湿防水層を接着剤を用いて、ドットもしくは全面接着で布帛に接合させた後離型基材を剥離する方法等があるが、そのいずれかに限定されるものではない。なお、コーティング方式としてはナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、リバースロールコーティングなど各種のコーティング法を実施できる。主としてポリウレタン樹脂を水に可溶な溶剤に溶解させてなるポリウレタン溶液を布帛にコーティングしこれを湿式ゲル化させて微多孔質な透湿防水層を形成する方法や、透湿性を有するポリウレタンを主成分とする樹脂を布帛にコーティングしこれを乾燥させることにより無孔質な透湿防水層を形成する方法を採用するのが好ましい。
【0017】
また、防水層の性能を示す耐水圧とは、JIS規格L1092法で規定される評価方法で測定することができ、一般的に3000mmHO以上あれば防水性能はあると言えるが、非常に降雨量の多い場合や、降雨時にバイクの運転をする様な、濡れた椅子部に長時間座る場合や、釣りやヨット等のように長時間水中にて作業する場合にはより高い耐水圧が無いと漏水してしまう恐れがある。その様な非常に過酷な環境での用途を考慮した場合、耐水圧は5000mmHO以上さらに好ましくは8000mmHO以上のものが好適とされる。
【0018】
また、透湿防水加工布帛に要求される透湿性能としては、使用環境により必要性能は異なるが、一般にJIS規格L1099A−1法とB−1法により測定したA−1透湿度が2500g/m・24h以上、B−1透湿度が4000g/m・24h以上であることが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例で詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
なお、本実施例における透湿防水性布帛の評価は下記の方法に準じた。
(1)耐水圧
JIS L−1092法による。
(2)透湿度
JIS L−1099記載のA−1法およびB−1法による。
(3)20℃から5℃までの冷却時の貯蔵弾性率変化率
(4)20℃から5℃までの冷却時の損失弾性率変化率
(5)20℃から5℃までの冷却時の複素粘度
(6)洗濯方法
JIS L−0217(103)に準じた方法による。
【0021】
[実施例1]
40デニールのナイロンフィラメントヤーンで構成されたナイロンリップタフタを、ダイキン工業(株)製フッ素系撥水剤・ユニダイン(登録商標)TG−571:30g/Lの希釈液に浸漬し、絞り率40%でマングルで絞った後、120℃で乾燥し、160℃で30秒間熱処理し、撥水処理を行った。
【0022】
次に、下記処方1に示すポリウレタン樹脂配合溶液を先の撥水加工ナイロンリップタフタにナイフオーバーロールコーターで150g/mの塗布量でコーティングし、DMFを15重量%含有する水溶液をゲル化浴とする浴槽に30℃で2分間浸漬してポリウレタン樹脂配合塗布液を湿式凝固させ、ついで50℃の温湯で10分間水洗し、120℃にて3分間熱風乾燥し微多孔質の透湿防水層を形成した。
【0023】
<処方1>
東レコーテックス(株)製ポリウレタン・U−5060:100重量部
U−5060は、セバシン酸と1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールからなるポリエステルジオールとMDIからなるポリウレタン樹脂である。ポリエステルジオール中の1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールの重量比で1:1である。
日本アエロジル(株)製シリカ微粉末・R−972:6重量部
大日精化(株)製フッ素撥水剤・ダイアロマーFF−121D:1重量部
DIC(株)製顔料・DILAC(登録商標) WHITE L7551:3重量部
日本ポリウレタン(株)製架橋剤・コロネート(登録商標)HL:1重量部
DMF:50重量部
【0024】
[実施例2]
実施例1と同様の処理を施したナイロンリップタフタに、下記処方2に示すポリウレタン樹脂配合溶液を先の撥水加工ナイロンリップタフタにナイフオーバーロールコーターで150g/mの塗布量でコーティングし、DMFを15重量%含有する水溶液をゲル化浴とする浴槽に30℃で2分間浸漬してポリウレタン樹脂配合塗布液を湿式凝固させ、ついで50℃の温湯で10分間水洗し、120℃にて3分間熱風乾燥し微多孔質の透湿防水層を形成した。
【0025】
<処方2>
東レコーテックス(株)製ポリウレタン・U−5060A:100重量部
U−5060Aは、セバシン酸と1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールからなるポリエステルジオールとMDIからなるポリウレタン樹脂である。ポリエステルジオール中の1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールの重量比で3:7である。
日本アエロジル(株)製シリカ微粉末・R−972:6重量部
大日精化(株)製フッ素撥水剤・ダイアロマー(登録商標)FF−121D:1重量部
DIC(株)製顔料・DILAC(登録商標) WHITE L7551:3重量部
日本ポリウレタン(株)製架橋剤・コロネート(登録商標)HL:1重量部
DMF:50重量部
【0026】
[実施例3]
実施例1と同様の処理を施したナイロンリップタフタに、下記処方3に示すポリウレタン樹脂配合溶液を先の撥水加工ナイロンリップタフタにナイフオーバーロールコーターで150g/mの塗布量でコーティングし、DMFを15重量%含有する水溶液をゲル化浴とする浴槽に30℃で2分間浸漬してポリウレタン樹脂配合塗布液を湿式凝固させ、ついで50℃の温湯で10分間水洗し、120℃にて3分間熱風乾燥し微多孔質の透湿防水層を形成した。
【0027】
<処方3>
東レコーテックス(株)製ポリウレタン・U−5060B:100重量部
U−5060Bは、セバシン酸と1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールからなるポリエステルジオールとMDIからなるポリウレタン樹脂である。ポリエステルジオール中の1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールの重量比で7:3である。
日本アエロジル(株)製シリカ微粉末・R−972:6重量部
大日精化(株)製フッ素撥水剤・ダイアロマー(登録商標)FF−121D:1重量部
DIC(株)製顔料・DILAC(登録商標) WHITE L7551:3重量部
日本ポリウレタン(株)製架橋剤・コロネート(登録商標)HL:1重量部
DMF:50重量部
【0028】
[比較例1]
実施例1と同様の処理を施したナイロンリップタフタに、下記処方4に示すポリウレタン樹脂配合溶液を先の撥水加工ナイロンリップタフタにナイフオーバーロールコーターで150g/mの塗布量でコーティングし、DMFを15重量%含有する水溶液をゲル化浴とする浴槽に30℃で2分間浸漬してポリウレタン樹脂配合塗布液を湿式凝固させ、ついで50℃の温湯で10分間水洗し、120℃にて3分間熱風乾燥し微多孔質の透湿防水層を形成した。
【0029】
<処方4>
東レコーテックス(株)製ポリウレタン・U−5306:100重量部
U−5306は、重量比が1:1のセバシン酸と1−3プロピレングリコールからなるポリエステルジオールとMDIからなるポリウレタン樹脂である。
日本アエロジル(株)製シリカ微粉末・R−972:6重量部
大日精化(株)製フッ素撥水剤・ダイアロマー(登録商標)FF−121D:1重量部
DIC(株)製顔料・DILAC(登録商標) WHITE L7551:3重量部
日本ポリウレタン(株)製架橋剤・コロネート(登録商標)HL:1重量部
DMF:50重量部
【0030】
[比較例2]
実施例1と同様の処理を施したナイロンリップタフタに、下記処方5に示すポリウレタン樹脂配合溶液を先の撥水加工ナイロンリップタフタにナイフオーバーロールコーターで150g/mの塗布量でコーティングし、DMFを15重量%含有する水溶液をゲル化浴とする浴槽に30℃で2分間浸漬してポリウレタン樹脂配合塗布液を湿式凝固させ、ついで50℃の温湯で10分間水洗し、120℃にて3分間熱風乾燥し微多孔質の透湿防水層を形成した。
【0031】
<処方5>
東レコーテックス(株)製ポリウレタン・U−5376:100重量部
U−5376は、石油系のポリウレタン樹脂であり、セバシン酸と1−2プロピレングリコールおよび1−3プロピレングリコールは一切含まれない。
日本アエロジル(株)製シリカ微粉末・R−972:6重量部
大日精化(株)製フッ素撥水剤・ダイアロマー(登録商標)FF−121D:1重量部
DIC(株)製顔料・DILAC(登録商標) WHITE L7551:3重量部
日本ポリウレタン(株)製架橋剤・コロネート(登録商標)HL:1重量部
DMF:50重量部
【0032】
表1より、石油系原料のポリウレタン樹脂を使用した比較例1に対してセバシン酸からなるポリエステルジオールを含有するポリウレタン樹脂を使用した実施例はいずれも耐水圧、透湿の項目は同等もしくはそれ以上の性能を有していることが判る。また、比較例2に対してセバシン酸からなるポリエステルジオールに、1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールが両方含まれる実施例1、2、3については、低温固化の現象を引きこさず、安定したポリウレタンの成膜が可能となる。
【0033】
【表1】

【0034】
また低温固化の現象をより定量的に分析した動的粘弾性評価において、比較例1で示すとおりセバシン酸と1−3プロピレングリコールのポリエステルジオールを含有するポリウレタン樹脂の場合、図4から20℃から5℃までの冷却時に貯蔵弾性率と損失弾性率の数値の差が大きく変動し、最終的には逆転するまでに至っていることが判る。つまり比較例1で使用しているポリウレタン樹脂は、その分子構造が直線性に富んでいるため、環境温度が低くなることでポリウレタン樹脂の流動性が大きく損なわれ、低温固化の現象を引き起こすことを定量的に証明している。
【0035】
一方、実施例1〜3で示すとおりセバシン酸からなるポリエステルジオールが、1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールを3:7〜7:3の重量比で含む場合、ポリウレタン樹脂の分子構造の直線性が崩されているため、図1〜3から−20℃まで冷却しても貯蔵弾性率と損失弾性率および複素粘度は大きく変化をしないことを確認できた。これは、比較例2で示す従来の石油系ポリウレタン樹脂(図5)と同様に外気温が13℃以下になっても低温固化を起こさず、加工安定性を有することを意味し、同時に非石油系ポリウレタン樹脂であっても、従来の石油系ポリウレタン樹脂による透湿防水加工布帛と比較しても同等の性能であり、かつ環境温度の制限無しに安定的に加工できることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る透湿防水加工布帛は、フィッシングウェアや登山衣等のアウトドアウェア、スキー関連ウェア、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、ゴルフウェア、テニスウェア、レインウェア、カジュアルコート、屋内外作業着、手袋や靴等の衣料等材料として利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セバシン酸を含むポリエステルジオールからなるポリウレタン樹脂を主体とする透湿防水層を有し、前記ポリエステルジオールが、1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールを含むことを特徴とする透湿防水加工布帛。
【請求項2】
前記ポリエステルジオールが、1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールとを重量比1:9〜9:1の割合で含む、請求項1に記載の透湿防水加工布帛。
【請求項3】
20℃から5℃までの冷却過程において、前記ポリウレタン樹脂の貯蔵弾性率、損失弾性率および複素粘度の変化率がいずれも−100%〜+100%の範囲内である、請求項1または2に記載の透湿防水加工布帛。
【請求項4】
前記ポリエステルジオールが、1−2プロピレングリコールと1−3プロピレングリコールとを重量比3:7〜7:3の割合で含み、該ポリエステルジオールからなるポリウレタン樹脂の20℃から5℃までの冷却過程における貯蔵弾性率、損失弾性率および複素粘度の変化率がいずれも−20%から+20%である、請求項1〜3のいずれかに記載の透湿防水加工布帛。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−224951(P2012−224951A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91895(P2011−91895)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(591086407)東レコーテックス株式会社 (29)
【Fターム(参考)】