説明

透湿防水性布帛及びその製造方法

【課題】透湿性に優れかつ高い実用耐久性と軽量感とを備えた透湿防水性布帛を提供することを目的とする。
【解決手段】繊維の表面に多数の微細孔を有すると共に繊維の中心近傍に中空部を有し、該中空部により中空率が25〜65%である中空繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維布帛と、該繊維布帛の少なくとも片面に積層されてなる樹脂層とを有して構成されることを特徴とする透湿防水性布帛。本発明では、特に上記中空繊維がポリアミド繊維であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い実用耐久性と軽量感とを備えた透湿防水性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透湿防水性布帛は、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出する機能と、雨が衣服内に進入するのを防ぐ機能とを有しており、一般に、繊維布帛にポリウレタン系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂又はポリテトラフルオロエチレン樹脂などをコーティング、あるいはラミネートしたものが知られている。これらは、スポーツ衣料や防寒衣料などの基布として広く使用され、中でもスキーウエア、アスレチックウエア又はマウンテンウエアの基布として好適に使用されている。
【0003】
しかしながら、近年のアウトドアブームにより、透湿防水性布帛が上記した衣料用途以外、例えば、テント、シュラフなどのアウトドア用品の基布としても用いられるようになってきた。このような用途に供する場合は、透湿防水性布帛により高い実用耐久性が求められる。実用耐久性の高い透湿防水性布帛とする手段としては、繊維布帛として、ポリアミド系又はポリエステル系の繊維糸条からなる密度の高い織編物、すなわち高密度織編物を用いるのが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1では、経緯糸としてポリエステル84dtex246f、経糸密度250本/2.54cm、緯糸密度140本/2.54cmの高密度織物に、微多孔質のポリテトラフルオロエチレン樹脂が積層された透湿防水性布帛が記載されている。
【特許文献1】特開平10−298869号公報(段落〔0046〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高密度織編物は、単糸及び糸条が密に詰まった構造を有するため、強度・耐久性及び防水性にも優れるが、反面、通気性には乏しい。このため、透湿防水加工に用いる樹脂として透湿性に優れた樹脂が用いられたとしても、繊維布帛として従来の高密度織編物が用いられると、透湿防水性布帛としての透湿性は乏しいものとなってしまう。さらに、最近のアウトドア用品には、持ち運びの利便性を考慮して軽量性が要求されており、高密度織編物を繊維布帛として用いた場合、軽量性を実現するには布帛の厚みを薄くしなければならず、それに伴い透湿防水性布帛の実用耐久性が低下するという問題もある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するために、透湿性に優れかつ高い実用耐久性と軽量感とを備えた透湿防水性布帛を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、繊維の表面に多数の微細孔を有する中空繊維を用いて構成された布帛が、高密度であっても軽量感と吸放湿性を有するため、この布帛を透湿防水加工すれば、透湿性に優れかつ高い実用耐久性と軽量感とを備えた透湿防水性布帛が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、繊維の表面に多数の微細孔を有すると共に繊維の中心近傍に中空部を有し、該中空部による中空率が25〜65%である中空繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維布帛と、該繊維布帛の少なくとも片面に積層されてなる樹脂層とを有して構成されることを特徴とする透湿防水性布帛を要旨とするものであり、さらに、本発明は、熱可塑性ポリアミド(A)95〜70質量%とアルカリ易溶性ポリエステル(B)5〜30質量%との混合物が鞘部に配され、アルカリ易溶性ポリエステル(B)が芯部に配されてなり、芯/鞘質量比が30/70〜70/30である芯鞘複合繊維を含有する糸条を用いて繊維布帛となし、この繊維布帛にアルカリ処理を行って上記複合繊維中のアルカリ易溶性ポリエテル(B)を溶出させ、しかる後に繊維布帛の少なくとも片面に樹脂層を形成することを特徴とする透湿防水性布帛の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の透湿防水性布帛は、透湿性に優れかつ高い実用耐久性と軽量感とを備えたものである。したがって、本発明の透湿防水性布帛は、スポーツ衣料や防寒衣料などの基布としては勿論、軽量性が要求されるアウトドア用品の基布として好適に用いることができる。
【0010】
また、本発明の透湿防水性布帛の製造方法によれば、繊維表面に多数の微細孔を有する中空繊維を用いて構成された布帛を使用することで、透質性及び軽量感に優れた透湿防水性布帛を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の透湿防水性布帛について詳細に説明する。
【0012】
本発明では、繊維の表面に多数の微細孔を有すると共に繊維の中心近傍に中空部を有し、中空率25〜65%の中空繊維を用いる。
【0013】
該中空繊維を構成するポリマーは、特に限定されるものではなく、例えば、衣料用繊維などに多用されているポリアミド、ポリエステルなどを用いることができるが、透湿防水性布帛の風合い向上及び染料昇華の抑制の点でポリアミドが好ましい。
【0014】
ポリアミドとしては、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ポリパラキシリレンデカナミド又はポリビスシクロヘキシルメタンドデカナミドなどのホモポリマー、あるいはこれらを主体とする共重合ポリマーなどがあげられる。なお、繊維中には、必要に応じて艶消し剤、顔料、防炎剤、消臭剤、光安定剤、熱安定剤又は酸化防止剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0015】
また、本発明にいう微細孔は、好ましくは0.1〜5.0μm径の空孔である。この微細孔は繊維表面に開孔しているものであるが、本発明では、微細孔の一部が繊維表面から中空部まで連通するものであると、微細孔から吸い込まれた衣服内蒸気が中空部を通過して効率良く外部へ放出されるため好ましい。
【0016】
さらに、中心近傍とは、繊維横断面の中心に近い部分を指し、本発明で用いる中空繊維は、1つの中空部を有するタイプ(いわゆるマカロニ型)だけでなく、複数の中空部を有するタイプ(いわゆる海島中空型)も含むものである。
【0017】
また、本発明にいう中空繊維の中空率とは、中空部による中空率であって、中空部の体積を繊維全体の見かけ体積で除して下記式1により算出されるものである。ここで、繊維全体の見かけ体積には、中空部の体積及び上記した微細孔の体積が含まれる。一方、中空部の体積には、微細孔の体積は含まれない。
式1:中空率=〔(中空部の体積)/(繊維全体の見かけ体積)〕×100(%)
本発明では、この中空率の測定にあたっては、一般の中空繊維と同様に繊維横断面の写真に基づいて行う。具体的には、中空繊維の横断面を電子顕微鏡(倍率:7500倍)で写真撮影し、この写真を紙へ複写する。そして、複写した紙において、繊維全体の輪郭をマーキングし、このマーキングされた部分を切断部として、このマーキングで閉じられた部分を切り出し秤量する(これをS1とする)。次に、切り取られた紙において、中空部の輪郭をマーキングし、このマーキングされた部分を切断部として、このマーキングで閉じられた部分を切り出し秤量する(これをS2とする)。そして、S1及びS2の値を下記式2に代入し中空率を算出する。
式2:中空率=(S2/S1)×100(%)
本発明では、この作業を5本の中空繊維に対して行い、その平均値を本発明における中空繊維の中空率とする。
【0018】
本発明で用いる中空繊維は、中空率が25%未満になると、中空繊維の形状が肉厚となるため、中空による透湿度の向上効果がほとんど発現しない傾向にあり好ましくない。一方、65%を越えると、繊維強度が乏しくなり、繊維表面のフィブリル化もしくは中空部の潰れなどが生じ易く、実用耐久性に優れた透湿防水性布帛が得られ難い傾向にあり好ましくない。
【0019】
なお、中空繊維の繊維形態は、フィラメント又はステープルのいずれであってもよい。
【0020】
また、単糸繊度(後述の見かけ繊度ではなく、繊維の実質量と繊維長とから算出される繊度)としては特に限定されるものではないが、透湿防水性布帛の風合いをソフトなものとするため、0.1〜3.0dtexであることが好ましい。
【0021】
本発明では、上記の中空繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維布帛を使用する。本発明においては、繊維布帛とは、例えば、中空繊維を含む糸条を製編織した織物又は編物などがあげられる。本発明では、発明の効果をより高めるため、上記の中空繊維のみで構成された繊維布帛を用いるのが好ましいが、本発明の効果を損なわない程度に他繊維を併用してもよい。本発明では、通常、上記の中空繊維を繊維布帛全質量に対し60質量%以上含む繊維布帛を用いるのが好ましい。
【0022】
なお、他繊維としては、例えば、通常のポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル又はポリウレタンなどの合成繊維、綿、麻又はウールなどの天然繊維、あるいはビスコースレーヨン又は溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維などがあげられる。
【0023】
また、繊維布帛は、強度・耐久性の点からカバーファクターが1500以上、好ましくは1800〜2300の高密度織編物であることが好ましい。カバーファクターとは、布帛を構成する糸条の太さと布帛密度とによって定められる布帛構造の粗密を表す係数であり、下記式で示される。
CF=X・D11/2+Y・D21/2
ただし、CF:カバーファクター
X:布帛の経糸密度(本/2.54cm)
Y:布帛の緯糸密度(本/2.54cm)
D1:経糸の見かけ繊度(dtex)
D2:緯糸の見かけ繊度(dtex)
ここで、見かけ繊度とは、繊維断面外周から算出した見かけ繊度を指す。ただし、繊維断面形状が丸断面以外の場合は、電子顕微鏡で繊維断面を撮影し、得られた写真から繊維断面の平均巾を測定し、その値を直径とする丸断面繊維と見なして見かけ繊度を算出する。
【0024】
さらに、本発明の透湿防水性布帛は、繊維布帛の少なくとも片面に積層されてなる樹脂層を有する。
【0025】
本発明にいう樹脂層とは、雨水などの浸入を防止する防水性と水蒸気を透過する透湿性とを併せ持った、いわゆる透湿防水性能を有する樹脂層として公知の樹脂層を用いればよい。例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリアミノ酸ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂又はポリテトラフルオロエチレン系樹脂などで形成された樹脂層があげられる。
【0026】
なお、樹脂層として、無孔質であっても微多孔質であってもよいが、透湿性の点で微多孔質であることが好ましい。また、樹脂層としては、単層又は複層のいずれからなるものであってもよく、無孔質と微多孔質とからなる複層であってもよい。
【0027】
上記樹脂層の質量は、用いられる繊維布帛の組織又は繊維布帛表面の凹凸性などにも依るが、樹脂層が微多孔質の場合、3〜60g/mが好ましく、5〜40g/mがより好ましい。この樹脂層の質量が3g/m未満になると、防水性が不足する傾向にあり好ましくない。一方、微多孔質の樹脂層の質量が60g/mを越えると、透湿性が不足する上、布帛の風合いが硬くなる傾向にあり好ましくない。また、樹脂層が無孔質の場合、3〜20g/mが好ましく、5〜15g/mがより好ましい。樹脂層の質量が3g/m未満になると、防水性が不足する傾向にあり好ましくない。一方、無孔質の樹脂層の質量が20g/mを越えると、透湿性が不足する傾向にあり好ましくない。
【0028】
本発明の透湿防水性布帛は、以上のような構成を有するものであるが、これらの構成に加え、実用耐久性の点で、JIS L1096.8.15.5D法(ペンジュラム法)に準拠して測定した経緯糸の引裂強力が共に9.8N以上であることが好ましく、10.0〜30.0Nであることがより好ましい。また、衣服内蒸気を効率的に放出する点で、JIS L1099.4.1.1A−1法(塩化カルシウム法)に準拠して測定した透湿度が7000g/m・24hrs以上であることが好ましく、8000〜12000g/m・24hrsであることがより好ましい。
【0029】
次に、本発明の透湿防水性布帛の製造方法について説明する。
【0030】
まず、本発明の透湿防水性布帛の製造方法においては、熱可塑性ポリアミド(A)95〜70質量%とアルカリ易溶性ポリエステル(B)5〜30質量%との混合物が鞘部に配され、アルカリ易溶性ポリエステル(B)が芯部に配されてなり、芯/鞘質量比が30/70〜70/30である芯鞘複合繊維を含有する糸条を用いる。
【0031】
この芯鞘複合繊維は、後述のアルカリ処理によりアルカリ易溶性ポリエステル(B)が溶出されることで繊維表面に多数の微細孔を有する中空繊維となる。これは、ポリアミドポリマーとポリエステルポリマーとの相溶性は乏しいという性質を利用したもので、鞘部において、ポリアミドポリマー中にポリエステルポリマーが微細な塊となって分散している混合物から該ポリエステルポリマーを除去することで、繊維表面に微細孔を形成することができるのである。
【0032】
この芯鞘複合繊維において、熱可塑性ポリアミド(A)としては、例えば、既述した中空繊維を形成するポリマーなどがあげられ、アルカリ易溶性ポリエステル(B)としては、例えば、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、これにイソフタル酸、ポリアルキレングリコール又はスルホイソフタル酸アルカリ金属塩などを共重合させた共重合ポリエステルなどがあげられる。
【0033】
また、上記の芯鞘複合繊維では、鞘部に配される混合物中のアルカリ易溶性ポリエステル(B)が鞘部全質量に対し5質量%未満であると、微細孔の数が減って透湿性向上効果が得られ難い傾向にあり好ましくない。一方、30質量%を超えると、微細孔の径が大きくなりすぎたり、その数が多くなりすぎて繊維強度が乏しくなり、繊維表面のフィブリル化もしくは中空部の潰れなどが生じ易く、実用耐久性に優れた透湿防水性布帛が得られ難い傾向にあり好ましくない。
【0034】
さらに、この芯鞘複合繊維では、芯/鞘質量比の30/70を下回って芯部の質量比が低いと、中空繊維の形状が肉厚となるため、中空による透湿度の向上効果がほとんど発現しない傾向にあり好ましくない。一方、芯/鞘質量比の30/70を超えて芯部の質量比が高いと、繊維強度が乏しくなり、繊維表面のフィブリル化もしくは中空部の潰れなどが生じ易く、実用耐久性に優れた透湿防水性布帛が得られ難い傾向にあり好ましくない。
【0035】
本発明では、以上のような芯鞘複合繊維を含有する糸条を用いる。この糸条には、上記の芯鞘複合繊維以外の繊維、例えば、既述した他繊維などが含まれていてもよいが、本発明の効果を十分に発揮するには、芯鞘複合繊維だけからなる糸条を用いるのが好ましい。
【0036】
なお、芯鞘複合繊維以外の繊維との併用方法としては、例えば、混紡、混繊、引き揃え又は合撚などの方法があげられる。
【0037】
本発明では、以上のような糸条を用いて繊維布帛を作製する。
【0038】
繊維布帛を作製する方法としては、例えば、一般的な準備工程を経た後、織機や編機などを用いて製織編する方法などがあげられる。
【0039】
なお、繊維布帛には、上記の芯鞘複合繊維以外の繊維からなる糸条が含まれていてもよく、この場合は、例えば、配列又は交編織などの方法で繊維布帛を作製する。
【0040】
そして、本発明では、このような繊維布帛にアルカリ処理を行って芯鞘複合繊維中のアルカリ易溶性ポリエテル(B)を溶出させ、しかる後に繊維布帛の少なくとも片面に樹脂層を形成することで本発明の透湿防水性布帛を得ることができる。
【0041】
繊維布帛をアルカリ処理するためのアルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくは炭酸ナトリウム(ソーダ灰)などのアルカリ剤、又はそれからなる複合アルカリ剤、例えば、オリナックスAM−85(明成化学工業(株)製)、もしくはセンカバッファー85(センカ)のような複合アルカリ剤などがあげられる。アルカリ処理に当っては、このようなアルカリ剤を含む濃度10〜100g/Lのアルカリ水溶液を用いて、処理温度80〜110℃で繊維布帛を処理する方法などがあげられる。なお、処理温度が80℃未満であると、アルカリ易溶性ポリエステルの溶出速度が遅いため、溶出に長い時間を要する傾向にあり好ましくない。一方、110℃を超えると、熱可塑性ポリアミド(A)の劣化を招き易い傾向にあり好ましくない。
【0042】
また、繊維布帛の少なくとも片面に樹脂層を形成させる方法としては、例えば、既述の透湿防水性能を有する樹脂層を形成しうる樹脂などを用いて、コンマコータ又はナイフコータなどにより繊維布帛上に直接樹脂を塗布し乾燥して樹脂層を形成するいわゆる乾式コーティング法、あるいは繊維布帛上に直接樹脂を塗布し水などの凝固液で樹脂を凝固した後、湯洗、乾燥により樹脂層を形成するいわゆる湿式コーティング法、その他、離型紙へ樹脂溶液を塗布するなどして樹脂層だけを別個に形成してから該樹脂層を繊維布帛へ接着剤を用いて接着させるか、もしくは該樹脂層を繊維布帛へ直接熱圧着するいわゆるラミネート法などがあげられる。
【0043】
なお、繊維布帛上に樹脂層を形成させる際、樹脂が繊維布帛内部へ過度に浸透すると透湿防水性布帛としての風合いが固くなる場合がある。そのため、樹脂の繊維布帛内部への過度の浸透を抑制するために、樹脂層の形成前に繊維布帛へ撥水加工を施すのが好ましい。撥水加工の方法としては、例えば、パラフィン系又はフッ素系などの撥水剤を用いたパディング法又はスプレー法などがあげられる。
(実施例)
【0044】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
また、実施例及び比較例における性能評価は下記の方法で行った。
(1)中空繊維の中空率
既述の方法に準じ測定した。
(2)目付け
樹脂層形成前の繊維布帛及び形成後の透湿防水性布帛の1m当りの質量(目付け)をJIS L1096.8.4.2に準拠して測定した。
(3)溶出率
繊維布帛のアルカリ溶出率を下記式に準じ算出した。
溶出率(%)=〔(アルカリ溶出前の繊維布帛質量−アルカリ溶出後の繊維布帛質量)/アルカリ溶出前の繊維布帛質量〕×100
(4)透湿度
透湿防水性布帛の透湿度をJIS L1099.4.1.1A−1法(塩化カルシウム法)に準拠して測定した。
(5)耐水圧
透湿防水性布帛の耐水圧をJIS L1092.6.1A法(低水圧法)に準拠して測定した。
(6)引裂強力
透湿防水性布帛の経糸及び緯糸引裂強力をJIS L1096.8.15.5D法(ペンジュラム法)に準拠して測定した。
【実施例1】
【0046】
まず、熱可塑性ポリアミド(A)としてナイロン6を用いた。一方、アルカリ易溶性ポリエステル(B)として全繰り返し単位に対し5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.0モル%、分子量6000のエチレングリコールを13.3質量%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、共重合PETと略記する)を用いた。そして、85質量%のナイロン6と15質量%の共重合PETとの混合物を鞘部へ配し、共重合PETを芯部へ配した、芯/鞘質量比45/55の芯鞘複合繊維からなる糸条を作製した。この時の製造条件としては、24孔の紡糸口金を使用して紡糸温度265℃で溶融紡糸し、15℃の空気を吹き付けて冷却し、油剤を付与した後、1300m/分の速度で引き取り、その後、引き取りローラーと加熱ローラー(60℃)との間で3.0倍に延伸し、110dtex24fの芯鞘複合繊維からなる糸条を得た。
【0047】
得られた糸条を用い、経糸密度100本/2.54cm、緯糸密度70本/2.54cmの平織物の繊維布帛を製織した。次に、該繊維布帛にジェットスチームソーパー機(内外特殊染工(株)製)を用いて95℃の精練を行った後、130℃で乾燥し、さらに170℃×1分のプレセットを行った。続いて、液流染色機を用い、濃度40g/Lの水酸化ナトリウム水溶液で95℃×60分の条件で繊維布帛をアルカリ処理した。さらに、液流染色機を用いて繊維布帛を下記処方1にて95℃×30分で染色した後、130℃で乾燥し、160℃×1分のファイナルセットを実施した。なお、芯鞘複合繊維は、アルカリ処理後によりの繊維表面に多数の微細孔を有する中空繊維に変化したことを電子顕微鏡にて確認した。また、該中空繊維の中空率は35%であった。
(処方1)
酸性染料(住化ケムテックス(株)製「Suminol Milling Black VLG(商品名)」) 6%omf
均染剤(丸菱油化工業(株)製「レベランNKD(商品名)」) 2%omf
酢酸(48%) 0.2cc/L
次に、ファイナルセット後の繊維布帛に、フッ素系撥水剤(旭硝子(株)製「アサヒガードAG4210」)を8%含む水分散液を用いてパディング(絞り率40%)し、乾燥後、150℃×2分の熱処理を行い、引き続き、鏡面ロールを有するカレンダー加工機を用いて、温度150℃、圧力200kPa、速度30m/分の条件でカレンダー加工を行った。
【0048】
そして、カレンダー加工後の繊維布帛に、コンマコータを用いて下記処方2に示す組成のポリウレタン樹脂溶液を130g/m塗布した後、直ちに25℃の水中へ1分間浸漬し樹脂分を凝固させ、続いて50℃の温水で5分間の湯洗後、130℃×2分間の乾燥を行い、本発明の透湿防水性布帛を得た。
(処方2)
湿式コーティング用微多孔性ポリウレタン樹脂(セイコー化成(株)製「ラックスキンUJ8595」固形分25%) 100質量部
架橋剤(大日精化工業(株)製イソシアネート化合物「レザミンX」) 1質量部
溶媒(N−Nジメチルホルムアミド) 35質量部
(比較例1)
実施例1において、複合繊維からなる糸条の代わりに、通常のナイロン6繊維糸条を用い、かつ繊維布帛へのアルカリ処理を省略する以外は、実施例1と同様の方法で比較用の透湿防水性布帛を得た。
(参考例1)
実施例1において、複合繊維の鞘部に配した混合物を85質量%のナイロン6と15質量%の共重合PETとの混合物から、98質量%のナイロン6と2質量%の共重合PETとの混合物に変更する以外は、実施例1と同様の方法で行った。
(参考例2)
実施例1において、複合繊維中の鞘部に配した混合物を85質量%のナイロン6と15質量%の共重合PETとの混合物から、60質量%のナイロン6と40質量%の共重合PETとの混合物に変更する以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0049】
下記表1に、上記実施例、比較例及び参考例で得られた透湿防水性布帛の性能評価を示す。
【0050】
【表1】

表1から明らかなように、本発明たる実施例1の透湿防水性布帛は、透湿性、防水性及び軽量感に優れるものであった。また、通常、透湿防水性布帛の実用耐久性の指標として、経緯糸共に引裂強力が9.8N以上有することが好ましいとされるが、実施例1の透湿防水性布帛はこの条件を満足していた。
【0051】
対して、比較例1の透湿防水性布帛は、繊維布帛が通常のナイロン6繊維糸条からなるため繊維布帛の通気性が乏しく、その結果、透湿防水性布帛としての透湿性も乏しいものとなった。
【0052】
なお、参考例1では、繊維布帛において鞘部に配された混合物中のアルカリ易溶性ポリエステル(B)の質量比が低いため、繊維表面の微細孔が少なくなり透湿防水性布帛としての透湿性がやや低下していた。参考例2では、繊維布帛において鞘部に配された混合物中のアルカリ易溶性ポリエステル(B)の質量比が高いため引裂強力が低下した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の表面に多数の微細孔を有すると共に繊維の中心近傍に中空部を有し、該中空部による中空率が25〜65%である中空繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維布帛と、該繊維布帛の少なくとも片面に積層されてなる樹脂層とを有して構成されることを特徴とする透湿防水性布帛。
【請求項2】
前記中空繊維がポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の透湿防水性布帛。
【請求項3】
熱可塑性ポリアミド(A)95〜70質量%とアルカリ易溶性ポリエステル(B)5〜30質量%との混合物が鞘部に配され、アルカリ易溶性ポリエステル(B)が芯部に配されてなり、芯/鞘質量比が30/70〜70/30である芯鞘複合繊維を含有する糸条を用いて繊維布帛となし、この繊維布帛にアルカリ処理を行って上記複合繊維中のアルカリ易溶性ポリエテル(B)を溶出させ、しかる後に繊維布帛の少なくとも片面に樹脂層を形成することを特徴とする透湿防水性布帛の製造方法。


【公開番号】特開2006−45716(P2006−45716A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228086(P2004−228086)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】