透過試験装置
【課題】簡易な構成で試料を攪拌可能な透過試験装置を提供する。
【解決手段】レシーバー液体Rを受け入れ可能な複数のウェルWを有するウェルプレート10と、透過膜21が下部に配置されてウェルプレート10のウェルWに設置可能な供給プレート30とを有し、ドナー液体Dが透過膜21を介してレシーバー液体Rに浸透可能な透過試験装置1において、ウェルWの内周面を移動可能な攪拌球Bを備えた。
【解決手段】レシーバー液体Rを受け入れ可能な複数のウェルWを有するウェルプレート10と、透過膜21が下部に配置されてウェルプレート10のウェルWに設置可能な供給プレート30とを有し、ドナー液体Dが透過膜21を介してレシーバー液体Rに浸透可能な透過試験装置1において、ウェルWの内周面を移動可能な攪拌球Bを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の透過性を試験する透過試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や化粧品等に利用される物質の研究において、研究対象となる試料の透過性を試験するために、フランツ型拡散セルや、水平拡散セルといった透過試験装置が利用される(非特許文献1、2参照)。また、マルチウェルプレートを利用した透過試験装置も知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2004−531267
【非特許文献1】The effect of terpene concentrations on the skin penetration of diclofenac sodium.Int J Pharm. 2007 Apr 20;335(1−2):97−105. Epub 2006 Nov 3.PMID: 17174049 [PubMed − in process]
【非特許文献2】Effect of the absorption enhancer, Azone, on the transport of 5−fluorouracil across hairless rat skin.J Pharm Pharmacol. 1985 Aug;37(8):578−80.PMID: 2864423 [PubMed − indexed for MEDLINE]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フランツ型拡散セルや水平拡散セルでは、試料を攪拌するための攪拌装置として、マグネチックスターラーや電磁スターラーが利用される。しかしながら、ウェルプレートに対してマグネチックスターラーや電磁スターラーを利用しようとしてもウェル同士が隣接しているため、複数のウェルにそれぞれ回転子を入れても回転されないおそれがある。さらに、ウェルプレートによってはスターラーの載置面とウェル底部との間が離れてしまうものもあり、十分な回転力が得られないおそれがある。また、単に揺動を与えるのみでは、十分に攪拌されないおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は簡易な構成で試料を攪拌可能な透過試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の透過試験装置は、レシーバー液体(R)を受け入れ可能な複数のウェル(W、Wa)を有するウェルプレート(10、40)と、透過性を有する膜(21、61)が下部に配置されて前記ウェルプレートのウェルに設置可能な受入部材(30、60)と、を有し、ドナー液体(D)が前記膜を介して前記レシーバー液体に浸透可能な透過試験装置(1、1a)において、前記ウェルの内周面を移動可能な攪拌球(B)を備えたことにより上記課題を解決する。
【0006】
本発明の透過試験装置によれば、透過性を有する膜に対してドナー液体の透過性を試験する際に、攪拌球をウェルプレートに備えたので、ウェルプレートに保持されたレシーバー液体は攪拌される。これにより、レシーバー液体を均一に攪拌することができる。
【0007】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記攪拌球が前記ウェルの内周面に対して移動するように前記ウェルプレートを振動させる攪拌装置(3)を備えてもよい。この形態によれば、攪拌装置により、攪拌球がウェルプレートに対して相対的に移動してレシーバー液体を攪拌する。これにより、レシーバー液体を十分に攪拌することができる。
【0008】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記ウェルの底面に、前記攪拌球の移動が可能な移動領域(41a、81a)を制限する移動領域制限部材(41、80)を設けてもよい。この形態によれば、移動領域制限部材を設けることにより、安定して攪拌することができる。
【0009】
移動領域制限部材を設けた透過試験装置の一形態において、前記移動領域がリング形状であってもよい。この形態によれば、攪拌球の移動領域がリング形状なので、攪拌球が停止することなく安定して移動することができる。これにより、安定して攪拌することができる。
【0010】
移動領域がリング形状である透過試験装置の一形態において、前記移動領域制限部材を複数設け、前記複数の移動領域制限部材の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えてもよい。この形態によれば、複数の攪拌球により攪拌することで、より均一に攪拌することができる。
【0011】
移動領域がリング形状である透過試験装置の一形態において、前記移動領域制限部材には、前記移動領域が複数設けられ、前記複数の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えてもよい。この形態によれば、複数の攪拌球により攪拌することで、より均一に攪拌することができる。
【0012】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記攪拌球は、白金で構成されていてもよい。この形態によれば、攪拌球が白金からなるので、薬物の吸着がなく、質量も比較的大きい。これにより、レシーバー液体を変質させることなく安定して実験できる。
【0013】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記ウェルは、前記膜により密閉されていてもよい。この形態によれば、ウェルが膜により密閉されてレシーバー液体が空気と接触しない場合でも、攪拌球により確実に攪拌できる。
【0014】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
以上に説明したように、本発明の透過試験装置によると、透過性を有する膜に対してドナー液体の透過性を試験する際に、攪拌球をウェルプレートに備えたので、ウェルプレートに保持されたレシーバー液体は攪拌される。これにより、レシーバー液体を均一に攪拌することができる。従って、簡易な構成で試料を十分に攪拌することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の一形態に係る透過試験装置を示す概略図である。透過試験装置1は、試料の透過性を試験するウェルプレートユニット2と、ウェルプレートユニット2内の試料を攪拌するための攪拌装置3と、ウェルプレートユニット2内の試料の温度を均一化する金属プレート4とを備える。ウェルプレートユニット2についての詳細は後述する。攪拌装置3は、ウェルプレートユニット2を載置する載置部5と、載置部5上に設置されてウェルプレートユニット2に熱を供給する熱供給プレート6とを備える。載置部5は、図示しない駆動装置により所定の振幅で揺動する。水平方向で少なくとも一つの方向に揺動すればよい。例えば、直線往復運動や水平回転運動するように載置部5を駆動すればよい。駆動装置としては、電動モータ等が利用される。
【0017】
熱供給プレート6は、熱伝導性のよい素材、例えば金属等で構成される。図示の例では、熱供給プレート6は載置部5上に6つ設置されている。攪拌装置3は、内部に図示しない温度調整装置を備え、その温度調整装置により熱供給プレート6に対して熱が供給される。熱供給プレート6には、熱供給プレート6を囲む仕切り7が設けられている。仕切り7は、熱供給プレート6に載置されるウェルプレートユニット2を保持する。これにより、攪拌装置3の揺動によるウェルプレートユニット2の移動を制限する。金属プレート4は熱供給プレート6の上に設置され、金属プレート4の上にはウェルプレートユニット2が設置可能である。金属プレート4は、複数の凹部8を備える。複数の凹部8は、後述するウェルプレート10の複数のウェルW(図3)を嵌め込み可能に設けられる。
【0018】
図2はウェルプレートユニット2の斜視図であり、図3はその側面図である。ウェルプレートユニット2は、レシーバー液体Rが注入されるウェルプレート10と、ウェルプレート10の上部に設けられる透過部20と、透過部20の上部に設けられてドナー液体Dを受け入れ可能な受入部材としての供給プレート30とを備える。図示の例では、1つのウェルプレート10に対して透過部20及び供給プレート30が2つずつ設置されている。レシーバー液体R及びドナー液体Dは、透過試験のために調製された試料を用いる。
【0019】
図4はウェルプレート10の上面図である。ウェルプレート10は、マトリクス状に並べられた複数のウェルWを有する。図示のウェルプレート10は96個のウェルWを有している。各ウェルWは略円筒状で、ウェル上部W1は開口が形成され、かつウェル底部W2は閉じている。ウェル上部W1からレシーバー液体Rを注入可能である。ウェル底部W2の直径は、ウェル上部W1の直径よりも若干小さい。ウェルプレート10は、各種市販のウェルプレートを利用してもよい。また、レシーバー液体Rの注入対象のウェルWには、攪拌球Bが1つずつ入れられる。攪拌球Bは、球状で、白金により形成される。また、攪拌球Bは、ウェル底部W2内で回転移動可能な程度の大きさであればよい。
【0020】
図5は透過部20の上面図である。透過部20は、透過性を有する膜としての透過膜21と、透過膜21を保持する膜保持枠22と、膜保持枠22に透過膜21を固定する留め具23とを備える。透過膜21は、ドナー液体Dの透過性を試験する膜であり、例えば、ラット等の生物から摘出した皮膚や、人工膜、培養膜組織等が利用される。培養膜組織とは、細胞を培養することによって得られる膜状の組織のことをいい、培養皮膚や培養角膜などが挙げられる。これらの膜は、透過試験の目的に応じて選択される。膜保持枠22は、透過膜21の縁を保持してウェルプレート10上に設置可能である。膜保持枠22は、少なくとも2個以上のウェルWを内部に取り込む大きさである。膜保持枠22は、複数のウェルWに対して1枚の透過膜21が利用されるようにして透過膜21を保持する。図示の例では、膜保持枠22は、40個のウェルWを内部に取り込んでいる。膜保持枠22の大きさは、ウェルプレート10の大きさ、又は使用する透過膜21の大きさに応じて決定してもよい。また、試験で利用するウェルWの個数に応じて大きさを決定してもよい。膜保持枠22は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂により形成される。膜保持枠22と透過膜21とは留め具23で留められる。膜保持枠22は、留め具23を留めたことによる割れが生じることなく、透過膜21を保持できる程度の強度があればよい。留め具23は、金属からなる芯で、例えば、タッカーやステープラー等の各種市販の装置を利用して留められる。また、その他にも接着剤等を利用することにより、透過膜21を膜保持枠22に固定してもよい。膜保持枠22の内周22aは、供給プレート30の外周30a(図6)と略一致する。膜保持枠22内に供給プレート30を嵌め込むことで、供給プレート30は透過部20に対して位置決めされる。
【0021】
図6は供給プレート30の上面図である。供給プレート30は、例えば、ガラスといった薬物の吸着がない素材で形成される。供給プレート30は、供給プレート30を貫通する円筒形状の複数の貫通孔31を有する。貫通孔31は、供給プレート30がウェルプレート10の上部に設置されたときに、ウェルプレート10の複数のウェルWと上下に連なるように供給プレート30に設けられている。これにより、一対の貫通孔31及びウェルWがウェルプレートユニット2に複数形成される。供給プレート30は透過部20の上部に設置されて、透過膜21と供給プレート底部30bとが密着する。この状態でドナー液体Dが貫通孔31に注入可能となる。
【0022】
次に本発明の一形態に係る透過試験装置1を利用した試験の手順について説明する。まず、ウェルプレートユニット2での準備を説明する。ウェルプレート10の複数のウェルWのうち、試験で使用するウェルWに対して攪拌球Bと、レシーバー液体Rとを入れる。本形態では、透過部20及び供給プレート30を2つずつ使用しているので、設置の都合上、一部に利用されないウェルWcが存在する。次に、透過部20をウェルプレート10の所定の位置に設置する。ウェルWと貫通孔31とが上下に連なるように膜保持枠22の位置を予め設定しておけばよい。なお、試験精度の観点からウェルW内に空気が入らないようにして透過部20を設置するとよい。供給プレート30は、膜保持枠22内に設置する。供給プレート30の外周30aが膜保持枠22の内周22aに嵌め込まれて膜保持枠22内に固定されることにより位置決めされる。そして、ドナー液体Dを貫通孔31に注入する。注入するドナー液体Dは試験の目的に応じて調製される。例えば、試験対象となる試料の混合割合を貫通孔31毎に変化させてもよい。なお、レシーバー液体R及びドナー液体Dは、市販されている各種分注装置によりウェルW及び貫通孔31に注入してもよい。
【0023】
攪拌装置3の熱供給プレート6には、予め金属プレート4が設置される。準備が終了したウェルプレートユニット2は、金属プレート4の複数の凹部8のそれぞれと、ウェルプレート10の複数のウェルWのそれぞれのウェル底部W2の外周とが嵌め込まれるようにして攪拌装置3に載置される。熱供給プレート6は、所定の温度に設定されて金属プレート4に熱を供給する。金属プレート4を介して加温されるため、それぞれのウェルWは均一な温度に保たれる。攪拌装置3により載置部5に載置されたウェルプレートユニット2が振動する。これにより、攪拌球BがウェルW内を回転移動して、レシーバー液体Rが攪拌される。透過試験の目的に応じて攪拌に要する時間は設定される。なお、透過膜21が培養膜組織であれば、その細胞が破壊されない程度の速度と振幅で振動させるとよい。攪拌中、各貫通孔31に注入されたドナー液体Dの透過膜21に対する透過性が試験される。所定の時間の後、攪拌が終了される。複数のウェルWのレシーバー液体Rがそれぞれ採取されて試料の透過度が測定される。
【0024】
次に、本発明の他の形態に係る透過試験装置について説明する。他の形態に係る透過試験装置1aではウェルプレートユニット2に換えてウェルプレートユニット2aを使用する。攪拌装置3については、ウェルプレートユニット2での使用と同様の条件なので説明を省略する。金属プレート4は、ウェルプレートユニット2aでは使用しない。
【0025】
図7はウェルプレートユニット2aの斜視図であり、図8はその側面図である。ウェルプレートユニット2aは、レシーバー液体Rを受け入れ可能なウェルプレート40と、ウェルプレート40の上部に配置されるスペーサー50と、スペーサー50の上部に配置されてドナー液体Dを受け入れ可能な受入部材としての膜保持部材60と、膜保持部材60を覆う蓋70とを備える。
【0026】
図9はウェルプレート40の上面図である。ウェルプレート40は、マトリクス状に並べられた複数のウェルWaを有する。図示のウェルプレート40は12個のウェルWaを有している。各ウェルWaは略円筒状で、ウェル上部Wa1は開口が形成され、かつウェル底部Wa2は閉じている。ウェル上部Wa1からレシーバー液体Rを注入可能である。ウェル底部Wa2の直径は、ウェル上部Wa1の直径よりも若干小さい。ウェルプレート40は、各種市販のウェルプレートを利用してもよい。
【0027】
ウェル底部Wa2にはそれぞれ移動領域制限部材としての仕切り41が複数設けられる。各仕切り41にはそれぞれ攪拌球Bがひとつずつ入れられている。仕切り41はリング形状で、攪拌球Bは移動領域41a内を移動する。図示の例では、ひとつのウェル底部Wa2に3つの仕切り41が設けられている。仕切り41は、例えばガラスといった、薬物の吸着がない素材で形成され、ウェル底部Wa2に接着されている。なお、ウェルプレート40と一体的に形成してもよい。攪拌球Bは、球状で、白金により形成される。仕切り41の高さは、攪拌球Bの移動を制限できる程度であればよい。攪拌球Bの大きさは、仕切り41内で回転移動可能な程度の大きさであればよい。
【0028】
図10はスペーサー50の上面図である。スペーサー50は、板状の部材で、ウェルプレート40に設置したときにウェルWaと上下に連なるように設けられたプレート設置部51を複数備える。プレート設置部51は、ウェル上部Wa1の直径より小さい直径の円形の孔で、膜保持部材60を設置可能である。設置された膜保持部材60の外周とウェルWaの内周との間には空隙が形成される。レシーバー液体Rの蒸散防止のため、膜保持部材60とプレート設置部51との間に無駄な空隙ができない大きさにプレート設置部51の直径を決定してもよい。また、スペーサー50の板厚Tは、ウェルWaの大きさと膜保持部材60の大きさとの関係により所望の厚みに決定される。
【0029】
プレート設置部51には、レシーバー液体Rを採取可能な切欠き部52が設けられる。切欠き部52は、プレート設置部51の一部を切り欠いて形成される。レシーバー液体Rを採取するピペットPが挿入可能な大きさであればよい。切欠き部52を利用して、膜保持部材60を設置したままピペットPでレシーバー液体Rが取り出される。なお、ピペットPの他に、各種市販の自動装置を利用してレシーバー液体Rを取り出してもよい。また、切欠き部52からレシーバー液体Rの注入をしてもよい。プレート設置部51の近傍には、膜保持部材60を位置決めする位置決め部としての凸部53が設けられている。凸部53は、スペーサー50の上側表面に設けられた突起で、膜保持部材60の移動を制限する。凸部53は、一体成型によりスペーサー50に設けてもよい。また、突起部材を接着することによりスペーサー50に設けてもよい。
【0030】
図11は膜保持部材60の側面図であり、図12は膜保持部材60の上面図である。膜保持部材60は、両端部が開口した筒状部61と、筒状部61の一方の端部から外側に向かって延ばされた支持部62とを備え、筒状部61の内部には単一のフィルターウェルWfが形成されている。筒状部61の他方の端部には、透過性を有する膜としての透過膜63が開口を封するように接着されている。透過膜63として、例えば、ラット等の生物から摘出した皮膚や、人工膜、培養膜組織等が利用される。培養膜組織とは、細胞を培養することによって得られる膜状の組織のことをいい、培養皮膚や培養角膜などが挙げられる。他方の端部に透過膜63が接着された状態で、一方の端部からドナー液体Dが注入可能である。
【0031】
支持部62がスペーサー50と接触して筒状部61をウェルW内に支持することで、スペーサー50の板厚Tの分だけウェル底部W2と透過膜63との距離が長くなり、レシーバー液体Rの容積が増える。支持部62は、嵌合部としての切欠き部64を有する。この切欠き部64がスペーサー50の凸部53と嵌合可能である。また、フィルターウェルWfの外周には、ウェルWaの内周に対してがたつきを抑える凸部65が設けられている。これにより、ウェルWaの内周とフィルターウェルWfの外周との間隔を保って、安定してレシーバー液体Rが取り出される。プレート設置部51に膜保持部材60を設置する際、凸部65を切欠き部52に逃がすことにより通過させることができる。また、図示のように凸部65を複数設けた場合、切欠き部52では逃がすことができない凸部65に対応する切欠き部54をプレート設置部51に設けることにより、凸部65を逃がしてもよい。
【0032】
蓋70は、レシーバー液体R及びドナー液体Dの蒸散を防止する。蓋70は、ウェルプレート40にスペーサー50及び膜保持部材60が設置された状態で蓋をすることができる。また、蓋70は、ウェルプレート40のみを対象にして蓋をすることも可能である。
【0033】
次に本発明の他の形態に係る透過試験装置1aを利用した試験の手順について説明する。まず、ウェルプレートユニット2aでの準備を説明する。ウェルプレート40の各ウェルWaの仕切り41のそれぞれに攪拌球Bを配置して、各ウェルWaにレシーバー液体Rを注入する。ウェルプレート40の上部にスペーサー50を所定の位置に設置する。各ウェルWaと各プレート設置部51とがそれぞれ対応する位置に設置すればよい。透過膜63が接着されたフィルターウェルWfにドナー液体Dが注入された膜保持部材60を設置個数分用意して、各プレート設置部51に各膜保持部材60を設置する。スペーサー50の切欠き部52、54から膜保持部材60の凸部65を通過させた後、膜保持部材60を回転させて、切欠き部64とスペーサー50の凸部53とを嵌合させる。これにより、膜保持部材60がスペーサー50に対して位置決めされる。なお、スペーサー50に予め膜保持部材60を設置した後に、ウェルプレート40にスペーサー50及び膜保持部材60を設置してもよい。
【0034】
準備が終了したウェルプレートユニット2aは、攪拌装置3の熱供給プレート6に載置される。熱供給プレート6は、所定の温度に設定されてウェルプレート40を加温する。そして、攪拌装置3により載置部5に載置されたウェルプレートユニット2aが振動する。これにより、攪拌球BがウェルWaの仕切り41内を回転移動して、レシーバー液体Rが攪拌される。透過試験の目的に応じて攪拌に要する時間は設定される。なお、透過膜63が培養膜組織であれば、その細胞が破壊されない程度の速度と振幅で振動させるとよい。膜保持部材60の凸部65が揺動の際のがたつきを防止する。攪拌中、各膜保持部材60に注入されたドナー液体Dの透過膜63に対する透過性が試験される。所定の時間の後、攪拌が終了される。複数のウェルWaのレシーバー液体Rがそれぞれ採取されて試料の透過度が測定される。
【0035】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。本形態では、攪拌装置3の載置部5に熱供給プレート6が6つ設置された例で説明したが、これに限定されない。例えば、熱供給プレート6が1つ設置された攪拌装置3を利用してもよい。載置部5のスペースが熱供給プレート6の1つ分で足りるので、攪拌装置3の設置スペースが少なくてすむ。
【0036】
透過部20及び供給プレート30をウェルプレート10に対して2つずつ設置した例で説明したが、これに限定されない。例えば、1つのウェルプレート10に対して透過部20及び供給プレート30が1つずつの設置でもよい。また、実験対象となる透過膜21に合わせて、3つ以上の透過部20を設けてもよい。複数のウェルに対して1つの透過膜21を利用することで、多数の試料の透過性を並行して試験することができる。透過部20は、実験により適宜設計してもよい。供給プレート30は、膜保持枠22の設計に合わせて作成すればよい。
【0037】
ウェルプレートユニット2では、ウェルWが96個設けられたウェルプレート10で説明したが、これに限定されない。例えば、6個、12個、24個、48個、384個又は1536個等のウェルを有するウェルプレートを利用してもよい。これらの場合においても、複数のウェルに対して1つの透過膜21を利用することで多数の試料の透過性を平行して試験することができる。
【0038】
ウェルプレートユニット2aでは、ウェルWが12個設けられたウェルプレート10で説明したがこれに限定されない。例えば、6個、24個、48個又は96個等の比較的大きなウェルを有するウェルプレートを利用してもよい。これらの場合においても、スペーサーによりウェルプレートと膜保持部材の間の距離が長くなり、レシーバー液体Rの容積を増やすことができる。
【0039】
ウェルに入れられる攪拌球の大きさは、ウェルの大きさに応じて決定すればよい。攪拌装置による揺動の振幅に応じて決定してもよい。また、ウェルの大きさに応じた数の攪拌球を入れてもよい。実験条件により攪拌球の数を増減してもよい。ウェルの大きさに応じて、適する大きさの仕切りを設けてもよいし、必要なければ仕切りがなくてもよい。仕切りはリング形状に限定されない。例えば、楕円形状や、多角形状であってもよい。攪拌装置による揺動に適した形状にすればよい。攪拌球はウェル底部を移動するものに限られず、ウェルプレートの側面を移動するものであってもよい。例えば、ウェルプレートの側面に攪拌球の移動を案内する溝を設けて側面を移動させてもよいし、遠心力を強めて側面を移動させてもよい。
【0040】
また、仕切り41に換えて攪拌球の移動を制限する制限部材を設けてもよい。例えば、図13に制限部材80を示す。制限部材80は、ウェル底部に配置可能な大きさの板形状で、攪拌球Bの移動を制限する穴部81が設けられる。穴部81は、板面82に対して凹んだ形状であってもよいし、又は貫通していてもよい。穴部81はリング形状で、攪拌球Bは移動領域81a内を移動する。穴部81の形状はリング形状に限らず、例えば、楕円形状や、多角形状であってもよい。
【0041】
攪拌球Bの形状は球に限定されない。例えば、円盤形状や楕円形状であってもよい。攪拌装置3による揺動により移動可能な形状であれば、いずれの形状でもよい。また、攪拌球Bの素材として白金を利用した例で説明したが、これに限定されない。例えば、ガラスやステンレスといった薬物の吸着がない材料で形成されていてもよい。また、比較的質量の大きい金属をフッ素樹脂で覆ってもよい。回転安定性及び耐薬品性を高めることができる。
【0042】
スペーサー50と膜保持部材60との位置決めをスペーサー50の凸部53と膜保持部材60の切欠き部64との嵌合により位置決めされる例で説明したが、これに限定されない。例えば、膜保持部材60に凸部53と嵌合可能な凹部を設けて位置決めしてもよい。また、スペーサー50及び膜保持部材60に互いに噛み合う溝を設けて位置決めしてもよい。位置決め可能であれば、位置決め部はいずれの形状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一形態に係る透過試験装置を示す概略図。
【図2】ウェルプレートユニットの斜視図。
【図3】ウェルプレートユニットの側面図。
【図4】ウェルプレートの上面図。
【図5】透過部の上面図。
【図6】供給プレートの上面図。
【図7】本発明の他の形態に係る透過試験装置のウェルプレートユニットの斜視図。
【図8】本発明の他の形態に係る透過試験装置のウェルプレートユニットの側面図。
【図9】本発明の他の形態に係る透過試験装置のウェルプレートの上面図。
【図10】スペーサーの上面図。
【図11】膜保持部材の側面図。
【図12】膜保持部材の上面図。
【図13】制限部材の斜視図。
【符号の説明】
【0044】
1、1a 透過試験装置
2、2a ウェルプレートユニット
3 攪拌装置
10、40 ウェルプレート
20 透過部
21、63 透過膜(膜)
22 膜保持枠
30 供給プレート(受入部材)
31 貫通孔
50 スペーサー
51 プレート設置部
60 膜保持部材(受入部材)
62 支持部
B 攪拌球
D ドナー液体
R レシーバー液体
W、Wa ウェル
Wf フィルターウェル
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の透過性を試験する透過試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や化粧品等に利用される物質の研究において、研究対象となる試料の透過性を試験するために、フランツ型拡散セルや、水平拡散セルといった透過試験装置が利用される(非特許文献1、2参照)。また、マルチウェルプレートを利用した透過試験装置も知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2004−531267
【非特許文献1】The effect of terpene concentrations on the skin penetration of diclofenac sodium.Int J Pharm. 2007 Apr 20;335(1−2):97−105. Epub 2006 Nov 3.PMID: 17174049 [PubMed − in process]
【非特許文献2】Effect of the absorption enhancer, Azone, on the transport of 5−fluorouracil across hairless rat skin.J Pharm Pharmacol. 1985 Aug;37(8):578−80.PMID: 2864423 [PubMed − indexed for MEDLINE]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フランツ型拡散セルや水平拡散セルでは、試料を攪拌するための攪拌装置として、マグネチックスターラーや電磁スターラーが利用される。しかしながら、ウェルプレートに対してマグネチックスターラーや電磁スターラーを利用しようとしてもウェル同士が隣接しているため、複数のウェルにそれぞれ回転子を入れても回転されないおそれがある。さらに、ウェルプレートによってはスターラーの載置面とウェル底部との間が離れてしまうものもあり、十分な回転力が得られないおそれがある。また、単に揺動を与えるのみでは、十分に攪拌されないおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は簡易な構成で試料を攪拌可能な透過試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の透過試験装置は、レシーバー液体(R)を受け入れ可能な複数のウェル(W、Wa)を有するウェルプレート(10、40)と、透過性を有する膜(21、61)が下部に配置されて前記ウェルプレートのウェルに設置可能な受入部材(30、60)と、を有し、ドナー液体(D)が前記膜を介して前記レシーバー液体に浸透可能な透過試験装置(1、1a)において、前記ウェルの内周面を移動可能な攪拌球(B)を備えたことにより上記課題を解決する。
【0006】
本発明の透過試験装置によれば、透過性を有する膜に対してドナー液体の透過性を試験する際に、攪拌球をウェルプレートに備えたので、ウェルプレートに保持されたレシーバー液体は攪拌される。これにより、レシーバー液体を均一に攪拌することができる。
【0007】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記攪拌球が前記ウェルの内周面に対して移動するように前記ウェルプレートを振動させる攪拌装置(3)を備えてもよい。この形態によれば、攪拌装置により、攪拌球がウェルプレートに対して相対的に移動してレシーバー液体を攪拌する。これにより、レシーバー液体を十分に攪拌することができる。
【0008】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記ウェルの底面に、前記攪拌球の移動が可能な移動領域(41a、81a)を制限する移動領域制限部材(41、80)を設けてもよい。この形態によれば、移動領域制限部材を設けることにより、安定して攪拌することができる。
【0009】
移動領域制限部材を設けた透過試験装置の一形態において、前記移動領域がリング形状であってもよい。この形態によれば、攪拌球の移動領域がリング形状なので、攪拌球が停止することなく安定して移動することができる。これにより、安定して攪拌することができる。
【0010】
移動領域がリング形状である透過試験装置の一形態において、前記移動領域制限部材を複数設け、前記複数の移動領域制限部材の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えてもよい。この形態によれば、複数の攪拌球により攪拌することで、より均一に攪拌することができる。
【0011】
移動領域がリング形状である透過試験装置の一形態において、前記移動領域制限部材には、前記移動領域が複数設けられ、前記複数の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えてもよい。この形態によれば、複数の攪拌球により攪拌することで、より均一に攪拌することができる。
【0012】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記攪拌球は、白金で構成されていてもよい。この形態によれば、攪拌球が白金からなるので、薬物の吸着がなく、質量も比較的大きい。これにより、レシーバー液体を変質させることなく安定して実験できる。
【0013】
本発明の透過試験装置の一形態において、前記ウェルは、前記膜により密閉されていてもよい。この形態によれば、ウェルが膜により密閉されてレシーバー液体が空気と接触しない場合でも、攪拌球により確実に攪拌できる。
【0014】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
以上に説明したように、本発明の透過試験装置によると、透過性を有する膜に対してドナー液体の透過性を試験する際に、攪拌球をウェルプレートに備えたので、ウェルプレートに保持されたレシーバー液体は攪拌される。これにより、レシーバー液体を均一に攪拌することができる。従って、簡易な構成で試料を十分に攪拌することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の一形態に係る透過試験装置を示す概略図である。透過試験装置1は、試料の透過性を試験するウェルプレートユニット2と、ウェルプレートユニット2内の試料を攪拌するための攪拌装置3と、ウェルプレートユニット2内の試料の温度を均一化する金属プレート4とを備える。ウェルプレートユニット2についての詳細は後述する。攪拌装置3は、ウェルプレートユニット2を載置する載置部5と、載置部5上に設置されてウェルプレートユニット2に熱を供給する熱供給プレート6とを備える。載置部5は、図示しない駆動装置により所定の振幅で揺動する。水平方向で少なくとも一つの方向に揺動すればよい。例えば、直線往復運動や水平回転運動するように載置部5を駆動すればよい。駆動装置としては、電動モータ等が利用される。
【0017】
熱供給プレート6は、熱伝導性のよい素材、例えば金属等で構成される。図示の例では、熱供給プレート6は載置部5上に6つ設置されている。攪拌装置3は、内部に図示しない温度調整装置を備え、その温度調整装置により熱供給プレート6に対して熱が供給される。熱供給プレート6には、熱供給プレート6を囲む仕切り7が設けられている。仕切り7は、熱供給プレート6に載置されるウェルプレートユニット2を保持する。これにより、攪拌装置3の揺動によるウェルプレートユニット2の移動を制限する。金属プレート4は熱供給プレート6の上に設置され、金属プレート4の上にはウェルプレートユニット2が設置可能である。金属プレート4は、複数の凹部8を備える。複数の凹部8は、後述するウェルプレート10の複数のウェルW(図3)を嵌め込み可能に設けられる。
【0018】
図2はウェルプレートユニット2の斜視図であり、図3はその側面図である。ウェルプレートユニット2は、レシーバー液体Rが注入されるウェルプレート10と、ウェルプレート10の上部に設けられる透過部20と、透過部20の上部に設けられてドナー液体Dを受け入れ可能な受入部材としての供給プレート30とを備える。図示の例では、1つのウェルプレート10に対して透過部20及び供給プレート30が2つずつ設置されている。レシーバー液体R及びドナー液体Dは、透過試験のために調製された試料を用いる。
【0019】
図4はウェルプレート10の上面図である。ウェルプレート10は、マトリクス状に並べられた複数のウェルWを有する。図示のウェルプレート10は96個のウェルWを有している。各ウェルWは略円筒状で、ウェル上部W1は開口が形成され、かつウェル底部W2は閉じている。ウェル上部W1からレシーバー液体Rを注入可能である。ウェル底部W2の直径は、ウェル上部W1の直径よりも若干小さい。ウェルプレート10は、各種市販のウェルプレートを利用してもよい。また、レシーバー液体Rの注入対象のウェルWには、攪拌球Bが1つずつ入れられる。攪拌球Bは、球状で、白金により形成される。また、攪拌球Bは、ウェル底部W2内で回転移動可能な程度の大きさであればよい。
【0020】
図5は透過部20の上面図である。透過部20は、透過性を有する膜としての透過膜21と、透過膜21を保持する膜保持枠22と、膜保持枠22に透過膜21を固定する留め具23とを備える。透過膜21は、ドナー液体Dの透過性を試験する膜であり、例えば、ラット等の生物から摘出した皮膚や、人工膜、培養膜組織等が利用される。培養膜組織とは、細胞を培養することによって得られる膜状の組織のことをいい、培養皮膚や培養角膜などが挙げられる。これらの膜は、透過試験の目的に応じて選択される。膜保持枠22は、透過膜21の縁を保持してウェルプレート10上に設置可能である。膜保持枠22は、少なくとも2個以上のウェルWを内部に取り込む大きさである。膜保持枠22は、複数のウェルWに対して1枚の透過膜21が利用されるようにして透過膜21を保持する。図示の例では、膜保持枠22は、40個のウェルWを内部に取り込んでいる。膜保持枠22の大きさは、ウェルプレート10の大きさ、又は使用する透過膜21の大きさに応じて決定してもよい。また、試験で利用するウェルWの個数に応じて大きさを決定してもよい。膜保持枠22は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂により形成される。膜保持枠22と透過膜21とは留め具23で留められる。膜保持枠22は、留め具23を留めたことによる割れが生じることなく、透過膜21を保持できる程度の強度があればよい。留め具23は、金属からなる芯で、例えば、タッカーやステープラー等の各種市販の装置を利用して留められる。また、その他にも接着剤等を利用することにより、透過膜21を膜保持枠22に固定してもよい。膜保持枠22の内周22aは、供給プレート30の外周30a(図6)と略一致する。膜保持枠22内に供給プレート30を嵌め込むことで、供給プレート30は透過部20に対して位置決めされる。
【0021】
図6は供給プレート30の上面図である。供給プレート30は、例えば、ガラスといった薬物の吸着がない素材で形成される。供給プレート30は、供給プレート30を貫通する円筒形状の複数の貫通孔31を有する。貫通孔31は、供給プレート30がウェルプレート10の上部に設置されたときに、ウェルプレート10の複数のウェルWと上下に連なるように供給プレート30に設けられている。これにより、一対の貫通孔31及びウェルWがウェルプレートユニット2に複数形成される。供給プレート30は透過部20の上部に設置されて、透過膜21と供給プレート底部30bとが密着する。この状態でドナー液体Dが貫通孔31に注入可能となる。
【0022】
次に本発明の一形態に係る透過試験装置1を利用した試験の手順について説明する。まず、ウェルプレートユニット2での準備を説明する。ウェルプレート10の複数のウェルWのうち、試験で使用するウェルWに対して攪拌球Bと、レシーバー液体Rとを入れる。本形態では、透過部20及び供給プレート30を2つずつ使用しているので、設置の都合上、一部に利用されないウェルWcが存在する。次に、透過部20をウェルプレート10の所定の位置に設置する。ウェルWと貫通孔31とが上下に連なるように膜保持枠22の位置を予め設定しておけばよい。なお、試験精度の観点からウェルW内に空気が入らないようにして透過部20を設置するとよい。供給プレート30は、膜保持枠22内に設置する。供給プレート30の外周30aが膜保持枠22の内周22aに嵌め込まれて膜保持枠22内に固定されることにより位置決めされる。そして、ドナー液体Dを貫通孔31に注入する。注入するドナー液体Dは試験の目的に応じて調製される。例えば、試験対象となる試料の混合割合を貫通孔31毎に変化させてもよい。なお、レシーバー液体R及びドナー液体Dは、市販されている各種分注装置によりウェルW及び貫通孔31に注入してもよい。
【0023】
攪拌装置3の熱供給プレート6には、予め金属プレート4が設置される。準備が終了したウェルプレートユニット2は、金属プレート4の複数の凹部8のそれぞれと、ウェルプレート10の複数のウェルWのそれぞれのウェル底部W2の外周とが嵌め込まれるようにして攪拌装置3に載置される。熱供給プレート6は、所定の温度に設定されて金属プレート4に熱を供給する。金属プレート4を介して加温されるため、それぞれのウェルWは均一な温度に保たれる。攪拌装置3により載置部5に載置されたウェルプレートユニット2が振動する。これにより、攪拌球BがウェルW内を回転移動して、レシーバー液体Rが攪拌される。透過試験の目的に応じて攪拌に要する時間は設定される。なお、透過膜21が培養膜組織であれば、その細胞が破壊されない程度の速度と振幅で振動させるとよい。攪拌中、各貫通孔31に注入されたドナー液体Dの透過膜21に対する透過性が試験される。所定の時間の後、攪拌が終了される。複数のウェルWのレシーバー液体Rがそれぞれ採取されて試料の透過度が測定される。
【0024】
次に、本発明の他の形態に係る透過試験装置について説明する。他の形態に係る透過試験装置1aではウェルプレートユニット2に換えてウェルプレートユニット2aを使用する。攪拌装置3については、ウェルプレートユニット2での使用と同様の条件なので説明を省略する。金属プレート4は、ウェルプレートユニット2aでは使用しない。
【0025】
図7はウェルプレートユニット2aの斜視図であり、図8はその側面図である。ウェルプレートユニット2aは、レシーバー液体Rを受け入れ可能なウェルプレート40と、ウェルプレート40の上部に配置されるスペーサー50と、スペーサー50の上部に配置されてドナー液体Dを受け入れ可能な受入部材としての膜保持部材60と、膜保持部材60を覆う蓋70とを備える。
【0026】
図9はウェルプレート40の上面図である。ウェルプレート40は、マトリクス状に並べられた複数のウェルWaを有する。図示のウェルプレート40は12個のウェルWaを有している。各ウェルWaは略円筒状で、ウェル上部Wa1は開口が形成され、かつウェル底部Wa2は閉じている。ウェル上部Wa1からレシーバー液体Rを注入可能である。ウェル底部Wa2の直径は、ウェル上部Wa1の直径よりも若干小さい。ウェルプレート40は、各種市販のウェルプレートを利用してもよい。
【0027】
ウェル底部Wa2にはそれぞれ移動領域制限部材としての仕切り41が複数設けられる。各仕切り41にはそれぞれ攪拌球Bがひとつずつ入れられている。仕切り41はリング形状で、攪拌球Bは移動領域41a内を移動する。図示の例では、ひとつのウェル底部Wa2に3つの仕切り41が設けられている。仕切り41は、例えばガラスといった、薬物の吸着がない素材で形成され、ウェル底部Wa2に接着されている。なお、ウェルプレート40と一体的に形成してもよい。攪拌球Bは、球状で、白金により形成される。仕切り41の高さは、攪拌球Bの移動を制限できる程度であればよい。攪拌球Bの大きさは、仕切り41内で回転移動可能な程度の大きさであればよい。
【0028】
図10はスペーサー50の上面図である。スペーサー50は、板状の部材で、ウェルプレート40に設置したときにウェルWaと上下に連なるように設けられたプレート設置部51を複数備える。プレート設置部51は、ウェル上部Wa1の直径より小さい直径の円形の孔で、膜保持部材60を設置可能である。設置された膜保持部材60の外周とウェルWaの内周との間には空隙が形成される。レシーバー液体Rの蒸散防止のため、膜保持部材60とプレート設置部51との間に無駄な空隙ができない大きさにプレート設置部51の直径を決定してもよい。また、スペーサー50の板厚Tは、ウェルWaの大きさと膜保持部材60の大きさとの関係により所望の厚みに決定される。
【0029】
プレート設置部51には、レシーバー液体Rを採取可能な切欠き部52が設けられる。切欠き部52は、プレート設置部51の一部を切り欠いて形成される。レシーバー液体Rを採取するピペットPが挿入可能な大きさであればよい。切欠き部52を利用して、膜保持部材60を設置したままピペットPでレシーバー液体Rが取り出される。なお、ピペットPの他に、各種市販の自動装置を利用してレシーバー液体Rを取り出してもよい。また、切欠き部52からレシーバー液体Rの注入をしてもよい。プレート設置部51の近傍には、膜保持部材60を位置決めする位置決め部としての凸部53が設けられている。凸部53は、スペーサー50の上側表面に設けられた突起で、膜保持部材60の移動を制限する。凸部53は、一体成型によりスペーサー50に設けてもよい。また、突起部材を接着することによりスペーサー50に設けてもよい。
【0030】
図11は膜保持部材60の側面図であり、図12は膜保持部材60の上面図である。膜保持部材60は、両端部が開口した筒状部61と、筒状部61の一方の端部から外側に向かって延ばされた支持部62とを備え、筒状部61の内部には単一のフィルターウェルWfが形成されている。筒状部61の他方の端部には、透過性を有する膜としての透過膜63が開口を封するように接着されている。透過膜63として、例えば、ラット等の生物から摘出した皮膚や、人工膜、培養膜組織等が利用される。培養膜組織とは、細胞を培養することによって得られる膜状の組織のことをいい、培養皮膚や培養角膜などが挙げられる。他方の端部に透過膜63が接着された状態で、一方の端部からドナー液体Dが注入可能である。
【0031】
支持部62がスペーサー50と接触して筒状部61をウェルW内に支持することで、スペーサー50の板厚Tの分だけウェル底部W2と透過膜63との距離が長くなり、レシーバー液体Rの容積が増える。支持部62は、嵌合部としての切欠き部64を有する。この切欠き部64がスペーサー50の凸部53と嵌合可能である。また、フィルターウェルWfの外周には、ウェルWaの内周に対してがたつきを抑える凸部65が設けられている。これにより、ウェルWaの内周とフィルターウェルWfの外周との間隔を保って、安定してレシーバー液体Rが取り出される。プレート設置部51に膜保持部材60を設置する際、凸部65を切欠き部52に逃がすことにより通過させることができる。また、図示のように凸部65を複数設けた場合、切欠き部52では逃がすことができない凸部65に対応する切欠き部54をプレート設置部51に設けることにより、凸部65を逃がしてもよい。
【0032】
蓋70は、レシーバー液体R及びドナー液体Dの蒸散を防止する。蓋70は、ウェルプレート40にスペーサー50及び膜保持部材60が設置された状態で蓋をすることができる。また、蓋70は、ウェルプレート40のみを対象にして蓋をすることも可能である。
【0033】
次に本発明の他の形態に係る透過試験装置1aを利用した試験の手順について説明する。まず、ウェルプレートユニット2aでの準備を説明する。ウェルプレート40の各ウェルWaの仕切り41のそれぞれに攪拌球Bを配置して、各ウェルWaにレシーバー液体Rを注入する。ウェルプレート40の上部にスペーサー50を所定の位置に設置する。各ウェルWaと各プレート設置部51とがそれぞれ対応する位置に設置すればよい。透過膜63が接着されたフィルターウェルWfにドナー液体Dが注入された膜保持部材60を設置個数分用意して、各プレート設置部51に各膜保持部材60を設置する。スペーサー50の切欠き部52、54から膜保持部材60の凸部65を通過させた後、膜保持部材60を回転させて、切欠き部64とスペーサー50の凸部53とを嵌合させる。これにより、膜保持部材60がスペーサー50に対して位置決めされる。なお、スペーサー50に予め膜保持部材60を設置した後に、ウェルプレート40にスペーサー50及び膜保持部材60を設置してもよい。
【0034】
準備が終了したウェルプレートユニット2aは、攪拌装置3の熱供給プレート6に載置される。熱供給プレート6は、所定の温度に設定されてウェルプレート40を加温する。そして、攪拌装置3により載置部5に載置されたウェルプレートユニット2aが振動する。これにより、攪拌球BがウェルWaの仕切り41内を回転移動して、レシーバー液体Rが攪拌される。透過試験の目的に応じて攪拌に要する時間は設定される。なお、透過膜63が培養膜組織であれば、その細胞が破壊されない程度の速度と振幅で振動させるとよい。膜保持部材60の凸部65が揺動の際のがたつきを防止する。攪拌中、各膜保持部材60に注入されたドナー液体Dの透過膜63に対する透過性が試験される。所定の時間の後、攪拌が終了される。複数のウェルWaのレシーバー液体Rがそれぞれ採取されて試料の透過度が測定される。
【0035】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。本形態では、攪拌装置3の載置部5に熱供給プレート6が6つ設置された例で説明したが、これに限定されない。例えば、熱供給プレート6が1つ設置された攪拌装置3を利用してもよい。載置部5のスペースが熱供給プレート6の1つ分で足りるので、攪拌装置3の設置スペースが少なくてすむ。
【0036】
透過部20及び供給プレート30をウェルプレート10に対して2つずつ設置した例で説明したが、これに限定されない。例えば、1つのウェルプレート10に対して透過部20及び供給プレート30が1つずつの設置でもよい。また、実験対象となる透過膜21に合わせて、3つ以上の透過部20を設けてもよい。複数のウェルに対して1つの透過膜21を利用することで、多数の試料の透過性を並行して試験することができる。透過部20は、実験により適宜設計してもよい。供給プレート30は、膜保持枠22の設計に合わせて作成すればよい。
【0037】
ウェルプレートユニット2では、ウェルWが96個設けられたウェルプレート10で説明したが、これに限定されない。例えば、6個、12個、24個、48個、384個又は1536個等のウェルを有するウェルプレートを利用してもよい。これらの場合においても、複数のウェルに対して1つの透過膜21を利用することで多数の試料の透過性を平行して試験することができる。
【0038】
ウェルプレートユニット2aでは、ウェルWが12個設けられたウェルプレート10で説明したがこれに限定されない。例えば、6個、24個、48個又は96個等の比較的大きなウェルを有するウェルプレートを利用してもよい。これらの場合においても、スペーサーによりウェルプレートと膜保持部材の間の距離が長くなり、レシーバー液体Rの容積を増やすことができる。
【0039】
ウェルに入れられる攪拌球の大きさは、ウェルの大きさに応じて決定すればよい。攪拌装置による揺動の振幅に応じて決定してもよい。また、ウェルの大きさに応じた数の攪拌球を入れてもよい。実験条件により攪拌球の数を増減してもよい。ウェルの大きさに応じて、適する大きさの仕切りを設けてもよいし、必要なければ仕切りがなくてもよい。仕切りはリング形状に限定されない。例えば、楕円形状や、多角形状であってもよい。攪拌装置による揺動に適した形状にすればよい。攪拌球はウェル底部を移動するものに限られず、ウェルプレートの側面を移動するものであってもよい。例えば、ウェルプレートの側面に攪拌球の移動を案内する溝を設けて側面を移動させてもよいし、遠心力を強めて側面を移動させてもよい。
【0040】
また、仕切り41に換えて攪拌球の移動を制限する制限部材を設けてもよい。例えば、図13に制限部材80を示す。制限部材80は、ウェル底部に配置可能な大きさの板形状で、攪拌球Bの移動を制限する穴部81が設けられる。穴部81は、板面82に対して凹んだ形状であってもよいし、又は貫通していてもよい。穴部81はリング形状で、攪拌球Bは移動領域81a内を移動する。穴部81の形状はリング形状に限らず、例えば、楕円形状や、多角形状であってもよい。
【0041】
攪拌球Bの形状は球に限定されない。例えば、円盤形状や楕円形状であってもよい。攪拌装置3による揺動により移動可能な形状であれば、いずれの形状でもよい。また、攪拌球Bの素材として白金を利用した例で説明したが、これに限定されない。例えば、ガラスやステンレスといった薬物の吸着がない材料で形成されていてもよい。また、比較的質量の大きい金属をフッ素樹脂で覆ってもよい。回転安定性及び耐薬品性を高めることができる。
【0042】
スペーサー50と膜保持部材60との位置決めをスペーサー50の凸部53と膜保持部材60の切欠き部64との嵌合により位置決めされる例で説明したが、これに限定されない。例えば、膜保持部材60に凸部53と嵌合可能な凹部を設けて位置決めしてもよい。また、スペーサー50及び膜保持部材60に互いに噛み合う溝を設けて位置決めしてもよい。位置決め可能であれば、位置決め部はいずれの形状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一形態に係る透過試験装置を示す概略図。
【図2】ウェルプレートユニットの斜視図。
【図3】ウェルプレートユニットの側面図。
【図4】ウェルプレートの上面図。
【図5】透過部の上面図。
【図6】供給プレートの上面図。
【図7】本発明の他の形態に係る透過試験装置のウェルプレートユニットの斜視図。
【図8】本発明の他の形態に係る透過試験装置のウェルプレートユニットの側面図。
【図9】本発明の他の形態に係る透過試験装置のウェルプレートの上面図。
【図10】スペーサーの上面図。
【図11】膜保持部材の側面図。
【図12】膜保持部材の上面図。
【図13】制限部材の斜視図。
【符号の説明】
【0044】
1、1a 透過試験装置
2、2a ウェルプレートユニット
3 攪拌装置
10、40 ウェルプレート
20 透過部
21、63 透過膜(膜)
22 膜保持枠
30 供給プレート(受入部材)
31 貫通孔
50 スペーサー
51 プレート設置部
60 膜保持部材(受入部材)
62 支持部
B 攪拌球
D ドナー液体
R レシーバー液体
W、Wa ウェル
Wf フィルターウェル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシーバー液体を受け入れ可能な複数のウェルを有するウェルプレートと、透過性を有する膜が下部に配置されて前記ウェルプレート上に設置されてドナー液体を受け入れ可能な受入部材と、を有し、前記ドナー液体が前記膜を介して前記レシーバー液体に浸透可能な透過試験装置において、
前記ウェルの内周面を移動可能な攪拌球を備えたことを特徴とする透過試験装置。
【請求項2】
前記攪拌球が前記ウェルの内周面に対して移動するように前記ウェルプレートを振動させる攪拌装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の透過試験装置。
【請求項3】
前記ウェルの底面に、前記攪拌球の移動が可能な移動領域を制限する移動領域制限部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の透過試験装置。
【請求項4】
前記移動領域がリング形状であることを特徴とする請求項3に記載の透過試験装置。
【請求項5】
前記移動領域制限部材を複数設け、前記複数の移動領域制限部材の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えたことを特徴とする請求項4に記載の透過試験装置。
【請求項6】
前記移動領域制限部材には、前記移動領域が複数設けられ、前記複数の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えたことを特徴とする請求項4に記載の透過試験装置。
【請求項7】
前記攪拌球は、白金で構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の透過試験装置。
【請求項8】
前記ウェルは、前記膜により密閉されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の透過試験装置。
【請求項1】
レシーバー液体を受け入れ可能な複数のウェルを有するウェルプレートと、透過性を有する膜が下部に配置されて前記ウェルプレート上に設置されてドナー液体を受け入れ可能な受入部材と、を有し、前記ドナー液体が前記膜を介して前記レシーバー液体に浸透可能な透過試験装置において、
前記ウェルの内周面を移動可能な攪拌球を備えたことを特徴とする透過試験装置。
【請求項2】
前記攪拌球が前記ウェルの内周面に対して移動するように前記ウェルプレートを振動させる攪拌装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の透過試験装置。
【請求項3】
前記ウェルの底面に、前記攪拌球の移動が可能な移動領域を制限する移動領域制限部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の透過試験装置。
【請求項4】
前記移動領域がリング形状であることを特徴とする請求項3に記載の透過試験装置。
【請求項5】
前記移動領域制限部材を複数設け、前記複数の移動領域制限部材の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えたことを特徴とする請求項4に記載の透過試験装置。
【請求項6】
前記移動領域制限部材には、前記移動領域が複数設けられ、前記複数の移動領域のそれぞれに前記攪拌球を備えたことを特徴とする請求項4に記載の透過試験装置。
【請求項7】
前記攪拌球は、白金で構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の透過試験装置。
【請求項8】
前記ウェルは、前記膜により密閉されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の透過試験装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−275347(P2008−275347A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116136(P2007−116136)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(501028541)株式会社フロンティア・サイエンス (3)
【出願人】(507138103)株式会社ライフサイエンスエージェント (3)
【出願人】(399051858)株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(501028541)株式会社フロンティア・サイエンス (3)
【出願人】(507138103)株式会社ライフサイエンスエージェント (3)
【出願人】(399051858)株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング (21)
【Fターム(参考)】
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