説明

通信ケーブル

【課題】電送特性、誘電率、耐摩耗性、耐油性等の特性に優れた通信ケーブルの提供を目的とする。
【解決手段】3本の信号線2…とドレインワイヤー3とを撚り合わせてなる撚り線4の外面に、シールドテープ5を巻き付けてシールド層を形成している。シールドテープ5を巻き付けてなるシールド層の外面に、ポリエステル繊維からなるテープ状の押巻き体6を螺旋状に巻き付けている。押巻き体6の外面に、ポリウレタンからなるシース7を一体的に被覆している。信号線2は、導体2Aの外面にポリオレフィンからなる絶縁体を被覆して内側絶縁層2Bを形成し、内側絶縁層2Bの外面にポリウレタンからなる絶縁体を被覆して外側絶縁層2Cを形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電気信号を送信するための信号線、或いは、通信用の通信線等に用いられる通信ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前記通信ケーブルとしては、例えば複数本の絶縁線心と、該絶縁線心の外周に施されたシースを備えたケーブルにおいて、シースを、ポリオレフィン系エラストマーからなる被覆材で構成された特許文献1の可動部用耐溶剤性ケーブルがある。
【特許文献1】特許第3956033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1の可動部用耐溶剤性ケーブルは、絶縁線心の外周に被覆されたシースをポリオレフィン系エラストマーからなる被覆材で形成しているが、ポリオレフィンは耐摩耗性が悪いため、ケーブルを屈曲するか折曲げる等した際に、他のケーブルと接触するシースの接触部分に亀裂やひび割れ等が発生しやすい。また、シースをポリウレタンで形成した場合、ポリウレタンは伝送特性が悪いので、隣り合う絶縁線心同士が互いに干渉しあうだけでなく、外部から与えられる電磁波やノイズ等による影響を受けやすくなる。
【0004】
この発明は前記問題に鑑み、塩化ビニル等の規制化学物質を使用せず、伝送特性、誘電率、耐摩耗性、耐油性等の特性に優れた通信ケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、複数本の信号線を撚り合わせてなる撚り線の外面に、電気的な干渉を防ぐためのシールド層を形成し、該シールド層の外面にシースを被覆してなる通信ケーブルであって、前記信号線は、導電性を有する導体の外面に、ポリオレフィンからなる絶縁体を被覆して内側絶縁層を形成し、前記内側絶縁層の外面に、ポリウレタンからなる絶縁体を被覆して外側絶縁層を形成した通信ケーブルであることを特徴とする。
【0006】
この発明の態様として、前記内側絶縁層及び外側絶縁層の一方に、該内側絶縁層と外側絶縁層とを互いに密着するための接着添加剤を添加することにより、内側絶縁層と外側絶縁層との密着性が良くなる。ケーブルの屈曲時或いは折曲げ時において、内側絶縁層と外側絶縁層との密着面が剥離するか、密着面に隙間が生じることがなく、耐久性を向上させることができる。
【0007】
また、この発明の態様として、前記導体は、導電性を有する複数本の錫めっき軟銅線を撚り合わせて形成することができる。
【0008】
また、この発明の態様として、前記内側絶縁層の厚さは、0.20mm〜0.24mmの範囲に含まれる厚さに形成することができる。
【0009】
また、この発明の態様として、前記外側絶縁層の厚さは、0.10mm〜0.15mmの範囲に含まれる厚さに形成することができる。
【0010】
導体は、例えば錫めっき軟銅線等の導電性を有する金属線で構成することができるが、錫めっき軟銅線と略同等の特性を有する材質であれば、錫めっき軟銅線以外の材質を用いてもよい。
【0011】
内側絶縁層の絶縁体は、例えばポリオレフィン等の伝送特性、誘電率が良い材質で構成することができるが、ポリオレフィンと略同等の特性を有する材質であれば、ポリオレフィン以外の材質を用いてもよい。
【0012】
外側絶縁層の絶縁体は、例えばポリウレタン等の耐摩耗性、耐油性が高い材質で構成することができるが、ポリウレタンと略同等の特性を有する材質であれば、ポリウレタン以外の材質を用いてもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、信号線の導体に被覆された内側絶縁層を、伝送特性、誘電率等の特性に優れたポリオレフィンによって構成しているので、複数本の信号線を撚り合わせて配線する等しても、隣り合う信号線同士が互いに干渉しあうことがなく、外部から与えられる電磁波やノイズ等による影響が少なくなるため、伝送特性の向上を図ることができる。また、内側絶縁層に被覆された外側絶縁層を、耐摩耗性、耐油性等の特性に優れたポリウレタンによって構成しているので、ケーブルの配線時において、信号線を屈曲するか折曲げる等しても、外側絶縁層に亀裂やひび割れ等が発生しにくく、摩耗しにくい材質であるため、耐久性の向上を図ることができる。これにより、ケーブル全体の特性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明は、伝送特性、誘電率、耐摩耗性、耐油性等の特性が向上した通信ケーブルを提供するという目的を、通信ケーブル内部に配線される信号線を、導電性を有する導体の外面に、ポリオレフィンからなる絶縁体を被覆して内側絶縁層を形成し、該内側絶縁層の外面に、ポリウレタンからなる絶縁体を被覆して外側絶縁層を形成することで達成した。
【実施例】
【0015】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
【0016】
図面は、電気信号を送信するための信号線として用いられる通信ケーブルを示している。図1及び図2に於いて、この通信ケーブル1は、同一線径に形成された3本の信号線2…を螺旋状に撚り合わせる際に、ノイズの発生を抑制するための錫めっき軟銅線を撚り合わせてなるドレインワイヤー3を2本の信号線2,2の谷間に沿って長さ方向に配置している。信号線2…とドレインワイヤー3とを1本に撚り合わせてなる撚り線4の外面には、電気的な干渉を防ぐためのアルミニウムがラミネートされたシールドテープ5を螺旋状に巻き付けてシールド層を形成している。シールドテープ5を巻き付けてなるシールド層の外面には、ポリエステル繊維からなるテープ状の押巻き体6を螺旋状に巻き付けている。押巻き体6の外面には、ポリウレタンからなるシース7を一体的に被覆している。
【0017】
3本の信号線2…は、赤色に着色された信号線2と、黄色に着色された信号線2と、黒色に着色された信号線2とからなり、図2に示すように、赤色の信号線2は上方中央に配置され、黄色の信号線2は左側下方に配置され、黒色の信号線2は右側下方に配置されている。なお、信号線2…の識別色を、赤色、黄色、黒色以外の所望する識別色に変更してもよい。また、信号線2の本数を、2本或いは3本以上の多数本に変更してもよい。
【0018】
信号線2…の断面構造は同一であるので、1本の導線の断面構造を図2に基づいて詳述する。この信号線2は、導電性を有する12本の錫めっき軟銅線を撚り合わせてなる導体2Aの外周面長さ方向に、ポリオレフィンからなる絶縁体を被覆して内側絶縁層2Bを形成し、内側絶縁層2Bの外周面長さ方向に、ポリウレタンからなる絶縁体を被覆して外側絶縁層2Cを形成している。
【0019】
内側絶縁層2Bは、着色剤と接着添加剤とを添加してなる伝送特性及び誘電率が良いポリオレフィンを主とする材質で構成している。内側絶縁層2Bの標準的厚さは、約0.20mm〜約0.24mmの範囲に含まれる厚さに形成している。実施例では、内側絶縁層2Bの厚さを約0.20mmに形成している。内側絶縁層2Bの絶縁体は、ポリオレフィンで構成されている。
【0020】
実施例では、3本の信号線2…を識別する必要があるので、内側絶縁層2Bを構成する着色剤の一例として、赤色、黄色、黒色のカラーチップを使用しているが、信号線2の本数や用途に応じて所望する色のカラーチップを使用してもよい。
【0021】
外側絶縁層2Cは、離型添加剤を添加してなる耐摩耗性及び耐油性に優れたポリウレタンを主とする材質で構成している。外側絶縁層2Cの標準的厚さは、約0.10mm〜約0.15mmの範囲に含まれる厚さに形成している。実施例では、外側絶縁層2Cの厚さを約0.10mmに形成している。
【0022】
実施例では、外側絶縁層2Cを構成するポリウレタンの一例として、ET358−10(商品名)を使用しているが、その他の商品名からなるポリウレタンを使用してもよい。
【0023】
つまり、導体2Aの外周面に内側絶縁層2Bを被覆し、内側被覆層の外周面に外側絶縁層2Cを被覆して、信号線2全体の外径寸法が約1.38mm〜約1.39mmとなるように形成している。なお、内側絶縁層2Bの厚さを約0.20mm以下或いは約0.24mm以上に変更するか、外側絶縁層2Cの厚さを約0.10mm以下或いは約0.15mm以上に変更する等してもよい。
【0024】
内側絶縁層2Bの絶縁体には、接着添加剤を所定量添加しているので、その接着添加剤の特性により内側絶縁層2Bと外側絶縁層2Cとの密着面が隙間なく強固に接着される。これにより、接着添加剤が添加されていない信号線2よりも、内側絶縁層2Bと外側絶縁層2Cとの密着性が良くなる。通信ケーブル1の屈曲時或いは折曲げ時において、内側絶縁層2Bと外側絶縁層2Cとの密着面が剥離するか、該密着面に隙間が生じることがなく、耐久性が向上する。
【0025】
導体2Aは、線径約0.18mmに形成された導電性を有する12本の錫めっき軟銅線を所定のピッチで螺旋状に撚り合わせて1本に束ねることにより、1本の導体2A全体の外径寸法が約0.70mmとなるように形成している。
【0026】
なお、錫めっき軟銅線の線径を約0.18mm以下或いは約0.18mm以上の所望する寸法に変更するか、錫めっき軟銅線の本数を12本以下或いは以上の所望する本数に変更してもよい。また、導体2Aの外径寸法を約0.70mm以下或いは約0.70mm以上の所望する寸法に変更してもよい。
【0027】
ドレインワイヤー3は、線径約0.18mmに形成された12本の錫めっき軟銅線を螺旋状に撚り合わせて1本に束ねたものであり、図2に示す左側下方に配置した黄色の信号線2と、右側下方に配置した黒色の信号線2との谷間に沿って長さ方向に配置している。なお、ドレインワイヤー3を赤色信号線2と黄色信号線2の間、赤色信号線2と黒色信号線2の間に配置してもよい。
【0028】
実施例では、信号線2…とドレインワイヤー3とを1本に撚り合わせてなる撚り線4の外径寸法が約2.95mmとなるように形成しているが、撚り線4の外径寸法を約2.95mm以下或いは約2.95mm以上の所望する寸法に変更してもよい。
【0029】
シールドテープ5は、幅約15mmに形成されたポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)からなるテープの片面全長にアルミニウムを均一にラミネートしたものであり、アルミニウムがラミネートされた一方の面を内側にして、信号線2…とドレインワイヤー3とを所定のピッチで螺旋状に撚り合わせてなる撚り線4の外周面に沿って螺旋方向に巻き付け、撚り線4の外周面に電磁波等の電気的な干渉を防ぐためのシールド層を形成する。これにより、シールドテープ5を巻き付けてなるシールド層の外径寸法が約3.05mm〜約3.15mmとなるように形成している。
【0030】
なお、シールドテープ5の巻き付け外径寸法を約3.05mm以下或いは約3.15mm以上の所望する寸法に変更してもよい。また、PET樹脂製のシールドテープ5の代わりに、例えばポリエステルテープの片面全長にアルミ箔を貼り合わせてなるアルミテープ、スチールテープ、銅テープ等を用いてもよい。
【0031】
押巻き体6は、幅約15mmに形成されたポリエステル繊維からなり、前記撚り線4に巻回された遮光テープの外周面に沿って螺旋方向に巻き付けることにより、押巻き体6を巻き付けてなる外径寸法が約3.15mm〜約3.25mmとなるように形成している。なお、押巻き体6の巻き付け外径寸法を約3.15mm以下或いは約3.25mm以上の所望する寸法に変更してもよい。
【0032】
シース7は、黒色の着色剤を添加してなるポリウレタンからなり、前記遮光テープの外面に巻回された押巻き体6の外周面全長に被覆して、シールドテープ5を巻き付けてなる通信ケーブル1を形成している。これにより、シース7を被覆してなる通信ケーブル1の外径寸法が約4.35mmとなるように形成している。
【0033】
実施例では、シース7の標準的厚さを約0.55mmに形成しているが、シース7の厚さを約0.55mm以下或いは約0.55mm以上の所望する厚さに変更してもよい。また、シース7を構成するポリウレタンの一例として、外側絶縁層2Cと同一のET358−10(商品名)を使用し、着色剤の一例として、マスターカラー=880MB50ブラック(商品名)を使用しているが、その他の商品名からなるポリウレタンと接着剤を使用してもよい。
【0034】
本発明の通信ケーブル1は、信号線2の導体2Aに被覆された内側絶縁層2Bを、伝送特性、誘電率等の特性に優れたポリオレフィンによって構成しているので、複数本の信号線2…を撚り合わせて配線する等しても、隣り合う信号線2…同士が互いに干渉しあうことがなく、外部から与えられる電磁波やノイズ等による影響が少なくなるため、伝送特性の向上を図ることができる。また、内側絶縁層2Bに被覆された外側絶縁層2Cを、耐摩耗性、耐油性等の特性に優れたポリウレタンによって構成しているので、通信ケーブル1の配線時において、信号線2を屈曲するか折曲げる等しても、外側絶縁層2Cに亀裂やひび割れ等が発生しにくく、摩耗しにくい材質であるため、耐久性の向上を図ることができる。これにより、通信ケーブル1全体の特性が向上する。
【0035】
また、本発明の通信ケーブル1には、塩化ビニル等の規制化学物質が使用されていない。つまり、焼却時においてハロゲンガスを発生させるような使用が規制された規制化学物質が含まれておらず、一般に、ノンハロゲン、ハロゲンフリーと言える自然環境に与える影響が少ないケーブルである。
【0036】
なお、規制化学物質とは、例えばRoHS規制化学物質である鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、六価クロム(Cr6+)、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)である。
【0037】
本発明は、前記実施例の構成のみに限定されるものではなく、請求項に示される技術思想に基づいて応用することができ、多くの実施の形態を得ることができる。
【0038】
実施例のポリオレフィンに代わる接着添加剤の他の例として、例えば米国デュポン社製のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用してもよい。ポリテトラフルオロエチレンは、ポリオレフィンと比較して耐油性、誘電率がやや良であるが、実施例と略同等の作用及び効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】通信ケーブルの内部構造を示す端部斜視図。
【図2】図1の通信ケーブルの内部構造を示す縦断端面図。
【図3】信号線の絶縁体被覆構造を示す縦断端面図。
【符号の説明】
【0040】
1…通信ケーブル
2…信号線
2A…導体
2B…内側絶縁層
2C…外側絶縁層
3…ドレインワイヤー
4…撚り線
5…シールドテープ
6…押巻き体
7…シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の信号線を撚り合わせてなる撚り線の外面に、電気的な干渉を防ぐためのシールド層を形成し、該シールド層の外面にシースを被覆してなる通信ケーブルであって、
前記信号線は、
導電性を有する導体の外面に、ポリオレフィンからなる絶縁体を被覆して内側絶縁層を形成し、
前記内側絶縁層の外面に、ポリウレタンからなる絶縁体を被覆して外側絶縁層を形成したものであることを特徴とする
通信ケーブル。
【請求項2】
前記内側絶縁層及び外側絶縁層の一方に、該内側絶縁層と外側絶縁層とを互いに密着するための接着添加剤を添加したことを特徴とする
請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項3】
前記導体は、導電性を有する複数本の錫めっき軟銅線を撚り合わせて形成したことを特徴とする
請求項1又は2に記載の通信ケーブル。
【請求項4】
前記内側絶縁層の厚さは、0.20mm〜0.24mmの範囲に含まれる厚さに形成したことを特徴とする
請求項1〜3のいずれか一つに記載の通信ケーブル。
【請求項5】
前記外側絶縁層の厚さは、0.10mm〜0.15mmの範囲に含まれる厚さに形成したことを特徴とする
請求項1〜4のいずれか一つに記載の通信ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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