説明

通信システム及び、当該通信システムに用いられるサブマスタノード

【課題】 マスタノードから送信される同期信号が途絶えた場合であっても、通信を成立させることが可能な通信システムを提供する。
【解決手段】 ウェイクアップ信号を送信し(S100)、マスタノードからの同期信号の送信の有無を判断する(S110)。同期信号の送信がない場合で(S110:YES)一定時間が経過していないうちは(S120:NO)、ウェイクアップ信号の送信を繰り返す(S100)。そして、一定時間が経過してもマスタノードからの同期信号の送信がない場合(S120:YES,S130,S140:YES)、マスタノードに代わり同期信号の送信を開始する(S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック成分を含む同期信号をバス通信路へ出力するマスタノードと、同期信号をバス通信路を介して受信することで、マスタノードに同期して動作するスレーブノードとを備える通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される通信システムとして、CANやLIN等、バス通信路を利用するものが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
この種の通信システムにおいて効率の良い通信を行うには、バス通信路を介して信号を送受信するために各通信装置(以下「ノード」という)に設けられるトランシーバの動作を、互いに同期させることが望ましい。
【0003】
このような同期を実現する手法の一つとして、いずれか一つのノード(マスタノード)が、クロック成分を含む信号(以下「同期信号」という)をバス通信路に送信する手法が知られている。このとき、他のノード(スレーブノード)は、バス通信路上の同期信号からクロック成分を抽出して、自トランシーバで発生させた自走クロックを加工(分周等)することによって、その抽出したクロック成分に同期したバスクロックを生成し、そのバスクロックに従ってトランシーバを動作させる。
【0004】
つまり、図9に示すように、マスタノードによってバス通信路上に同期信号を送信することで、スレーブノードが同期処理を行って通信を実現するのである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤道夫著「車載ネットワークシステム徹底解説」CQ出版株式会社、2005年12月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マスタノードの故障などにより、同期信号がバス通信路に送信されない事態となると、スレーブノードは、バス通信路上の同期信号からクロック成分を抽出することができず、通信が成立しなくなってしまう。
【0007】
例えば図10に示すように、スレーブノードがウェイクアップ信号を繰り返し送信しているにもかかわらず一定時間以上マスタノードからの同期信号が送信されない事態になると、スレーブノードが再びスリープモードへ移行することになってしまう。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、マスタノードから送信される同期信号が途絶えた場合であっても、通信を成立させることが可能な通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するためになされた通信システムは、クロック成分を含む同期信号をバス通信路へ出力するマスタノードと、当該マスタノードからの同期信号をバス通信路を介して受信することで、マスタノードに同期して動作するスレーブノードとを備える。
【0010】
ここで本発明は、通常時はスレーブノードとして動作するサブマスタノードを備えている。
このサブマスタノードでは、同期信号生成部が同期信号を生成し、マスタノードからの同期信号が途絶えると、信号送信制御部によって、同期信号生成部にて生成される同期信号が、マスタノードに代わってバス通信路へ送信される。このとき、スレーブノードは、サブマスタノードからの同期信号をバス通信路を介して受信することで、サブマスタノードに同期して動作する。
【0011】
このようにすれば、マスタノードから送信される同期信号が途絶えた場合であっても、通信を成立させることができる。
一般的に、マスタノードからの同期信号が送信されている場合、各ノードは、予め割り当てられた全ての機能を実行可能な動作モードであるウェイクアップモードで動作する。これに対し、マスタノードからの同期信号が途絶えた場合、消費電力を抑えるために一部の機能を停止した動作モードであるスリープモードで動作する。したがって、マスタノードの故障などにより同期信号が途絶えると、各ノードは、スリープモードへ移行する。
【0012】
そこで、請求項2に示すように、信号送信制御部は、スリープモードからウェイクアップモードへ各ノードを移行させるためのウェイクアップ信号が送信されてから一定時間が経過しても、マスタノードからの同期信号が送信されない場合に、同期信号の送信を開始することが考えられる。このようにすれば、マスタノードの故障を適切なタイミングで判断して、同期信号を送信することができる。
【0013】
ところで、サブマスタノードがマスタノードに代わって同期信号の送信を開始した後、マスタノードが同期信号の送信を再開することも考えられる。
そこで、請求項3に示すように、信号送信制御部は、バス通信路へ出力する同期信号とバス通信路を介して取得される同期信号とを比較し、両信号が不一致である場合、同期信号の送信を停止することとしてもよい。このようにすれば、マスタノードが同期信号の送信を再開した場合にも、適切な通信が実現される。
【0014】
例えば、請求項4に示すように、信号送信制御部は、両信号の不一致の割合が所定閾値以上である場合、同期信号の送信を停止することが考えられる。また例えば、請求項5に示すように、信号送信制御部は、両信号が所定期間連続して不一致となった場合、同期信号の送信を停止することが考えられる。これらの構成を採用すれば、たとえノイズ等の影響があったとしても、両信号の不一致を適切に判断することができる。
【0015】
以上は、通信システムの発明として説明してきたが、上記通信システムに用いられるサブマスタノード(通信装置)の発明として実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】(a)はバス通信路で使用する伝送路符号の構成を示す説明図であり、(b)はバス通信路を介して送受信されるフレームの構成を示す説明図であり、(c)はUARTが送受信するブロックデータの構成を示す説明図である。
【図3】マスタノード,スレーブノードの構成を示すブロック図である。
【図4】タイミング生成部が生成する各種信号を示す説明図である。
【図5】サブマスタノードの構成を示すブロック図である。
【図6】信号送信開始処理を示すフローチャートである。
【図7】サブマスタノードによる同期信号の送信を示す説明図である。
【図8】信号送信停止処理を示すフローチャートである。
【図9】マスタノードによる同期信号の送信を示す説明図である。
【図10】マスタノードによる同期信号が途絶えた場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、車両に搭載される通信システム1の概略構成を示すブロック図である。ここでは、通信装置としてのノード3が、バス通信路5を介して相互に接続されている。ノード3は、ボデー系のアプリケーションを実現する電子制御装置(ボデー系ECU)や、車両の状態を検出したり車両の状態を制御したりするために設けられた関連機器(スイッチ、センサ等)である。
【0018】
図1に示すように、通信システム1を構成するノード3のうち、ボデー系ECUとしては、ボデー・ワイパECU,シートECU,スライドドアECU,ミラーECU,バックドアECU,ライトECU,チルテレ(電動ステアリング位置調整装置)ECU等があり、一方、関連機器としては、ライトSW,ワイパSW,ライトセンサ,レインセンサ等がある。
【0019】
バス通信路5は、異なるノード3からハイレベルの信号とロウレベルの信号とが同時に出力されると、バス通信路5上の信号レベルがロウレベルとなるように構成されており、この機能を利用してバス調停を実現する。
【0020】
ここで図2(a)は、バス通信路5で使用する伝送路符号を示す説明図である。
図2(a)に示すように、バス通信路5では、伝送路符号として、ビットの途中で信号レベルがロウレベルからハイレベルに変化するPWM符号が用いられ、ドミナント(本実施形態では0に対応)及びレセッシブ(本実施形態では1に対応)からなる二値の信号を2種類のデューティ比で表現する。
【0021】
具体的には、ドミナントの方がレセッシブよりロウレベルの比率が長くなるよう(本実施形態では、ドミナントが1ビットの2/3の期間、レセッシブが1ビットの1/3の期間)に設定され、バス通信路5上でドミナントとレセッシブとが衝突すると、ドミナントが調停勝ちするようにされている。
【0022】
そして、通信システム1では、調停負けしたノード3は送信を直ちに停止し、調停勝ちしたノード3のみが送信を継続する、いわゆるCSMA/CA方式のアクセス制御方式が用いられている。
【0023】
また、図2(b)はノード3間の通信に使用するフレームの構成を示す説明図である。
図2(b)に示すように、フレームは、送信を許可するデータを指定するためのヘッダと、ヘッダによって指定されたデータを送信するための可変長のレスポンスからなる。
【0024】
このうち、ヘッダは、送信を許可するデータの識別子(ID)からなり、IDの値が小さいほど、バス調停で勝ち残るように設定されている。一方、レスポンスには、データ以外に、データ(レスポンス)のサイズを示すサイズ情報、エラーの有無をチェックするためのCRC符号が少なくとも含まれている。
【0025】
ここで図1の説明に戻り、各ノード3は、予め割り当てられた全ての機能を実行可能な動作モードであるウェイクアップモード、消費電力を抑えるために一部の機能を停止した動作モードであるスリープモードで動作する。
【0026】
また、ノード3の一つ(ここではボデー・ワイパECU)をマスタノード(以下単に「マスタ」という)3aとし、他のノードをスレーブノード(以下単に「スレーブ」という)3b,3cとしている。なお、スレーブ3c(ここではシートECU)は、通常時はスレーブとして動作し、マスタ3aの故障時などにマスタ3aに代わるサブマスタノード(以下単に「サブマスタ」という)3cとなる。
【0027】
通常時は、マスタ3aがヘッダを送信することによって、送信を許可するデータ(ひいてはデータの送信元となるスレーブ3b,3c)を順次指定し、ヘッダによって指定されたデータの送信元となるスレーブ3b,3cがレスポンス(データ)を送信するポーリング(以下「定期通信」ともいう)と、マスタ3aからの指示によらずスレーブ3b,3cが自律的に通信を制御するイベント通信とを実行する。
【0028】
一方、マスタ3aの故障等が生じた場合、サブマスタ3cがヘッダを送信することでスレーブ3bがレスポンスを送信するポーリングと、サブマスタ3cからの指示によらずスレーブ3bが自立的に通信を制御するイベント通信とを実行する。
【0029】
以下、マスタ3a及び、スレーブ3b、サブマスタ3cの構成を、図3〜図5を参照して説明する。
マスタ3aは、バス通信路5を介した他ノード3との通信によって得られた情報等に基づき、自ノード3に割り当てられた各種処理を実行する信号処理部10と、信号処理部10から供給されるNRZ符号の送信データTXDをPWM符号の送信データTXに符号化してバス通信路5に出力し、バス通信路5から取り込んだPWM符号の受信データRXをNRZ符号の受信データRXDに復号化して信号処理部10に供給するトランシーバ20とを備えている。
【0030】
信号処理部10は、CPU,ROM,RAM,IOポート等からなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、更に、調歩同期(非同期)方式のシリアル通信を実現するUART(汎用非同期送受信回路:Universal Asynchronous Receiver Transmitter )、11、当該信号処理部10を動作させるための動作クロックや、UART11の通信速度と同じ速度(本実施形態では20Kbps)に設定されトランシーバ20に供給する内部クロックCKを発生させる発振回路12を備えている。
【0031】
但し、発振回路12は、水晶発振子を用いて構成され、安定した周波数で発振する高精度のものが用いられている。また、信号処理部10は、自ノードの動作モードを表すモード信号MDをトランシーバ20に供給するように構成されている。
【0032】
ここで図2(c)は、UART11が送受信するデータTXD,RXDの構成を示す説明図である。図示されているように、UART11は、データの開始を示す1ビット長のスタートビット(ロウレベル)と、データの終了を示すストップビット(ハイレベル)と、これらスタートビット,ストップビットに挟まれた8ビットのデータとで構成された合計10ビットのブロックデータを単位として送受信する。但し、主要部となる8ビットのデータは、LSB(最下位ビット)が先頭、MSB(最上位ビット)が末尾となるように設定されている。
【0033】
なお、前述のフレーム(図2(b)参照)を構成するヘッダは、単一のブロックデータで構成され、スタートビット,ストップビットを除く8ビットのデータのうち、7ビットはIDとして用いられ、1ビットはパリティビットとして用いられる。また、レスポンスは、1ないし複数個のブロックデータで構成され、最初のブロックに、サイズ情報が設定される。
【0034】
図3に戻り、トランシーバ20は、複数のインバータをリング状に接続することで構成されたリングオシレータ等からなる簡易な発振回路を備え、この発振回路が発生させたカウント用クロックCCKを分周することによって、信号処理部10から供給される内部クロックCKに同期した各種タイミング信号を生成するタイミング生成部21と、タイミング生成部21にて生成されたタイミング信号に従って、送信データTXDの符号化、受信データRXの復号化を行う符号化復号化部22と、符号化復号化部22にて符号化された送信データTXをバス通信路5に出力する送信バッファ23と、バス通信路5上のデータを取り込む受信バッファ24と、信号処理部10から供給されるモード信号MDに従って、タイミング生成部21および符号化復号化部22の動作を制御するモード管理部25とを備えている。
【0035】
なお、送信バッファ23は、上述したバス通信路5上でのバス調停が可能となるように、例えば、周知のオープンコレクタ回路を用いて構成されている。また、受信バッファ24は、バス通信路5の信号レベルが、予め設定された閾値より大きければハイレベル、閾値より小さければロウレベルを出力する周知のコンパレータによって構成されている。
【0036】
また、モード管理部25は、モード信号MDがウェイクアップモードを示している場合には、タイミング生成部21および符号化復号化部22を有効に動作させ、モード信号MDがスリープモードを示している時には、タイミング信号の生成が停止するようにタイミング生成部21を制御する。
【0037】
ここで図4は、タイミング生成部21が生成する各種タイミング信号を示す説明図である。なお、カウント用クロックCCKは、内部クロックCKに対して十分に高い周波数(数十〜数百倍程度)を有するように設定されている。
【0038】
タイミング生成部21は、内部クロックCKの立ち下がりエッジの間隔、即ち1周期の長さを、カウント用クロックCCKによってカウントするカウンタや、カウンタによって得られた周期カウント値Ci(i=1,2,…)に基づいて、カウント用クロックCCKを分周することによって内部クロックCKに同期した各種タイミング信号を発生させる分周回路等によって構成されている。
【0039】
なお、タイミング信号として具体的には、以下に示すクロックを生成する。
図4に示すように、タイミング生成部21は、周期カウント値Ciに相当する周期を有し、立ち下がりエッジから立ち上がりエッジまでの間隔が周期カウント値Ciの1/2に相当する長さに設定されたデューティ50%のバスクロックBCKと、同じく周期カウント値Ciに相当する周期を有し、バスクロックBCKの立ち下がりエッジのタイミングおよび該エッジから周期カウント値の1/4,2/4,3/4に相当する期間だけ経過したタイミングが立ち上がりエッジ(サンプリング用エッジ)となるサンプリングクロックSCKと、バスクロックBCKの立ち下がりエッジから周期カウント値の1/3に相当する期間だけ経過したタイミングが立ち上がりエッジとなるレセッシブ生成用クロックRCKと、バスクロックBCKの立ち下がりエッジから周期カウント値の2/3に相当する期間だけ経過したタイミングが立ち上がりエッジとなるドミナント生成用クロックDCKとを生成する。
【0040】
なお、タイミング生成部21では、モード管理部25からの指示に従い、動作モードがウェイクアップモードの時には、発振回路を動作させることによってタイミング信号の生成を行い、動作モードがスリープモードの時には、発振回路を停止することによってタイミング信号の生成を停止するように構成されている。
【0041】
図3に戻り、スレーブ3bの構成を説明する。
スレーブ3bは、マスタ3aと同様に、バス通信路5を介した他ノード3との通信によって得られた情報等に基づき、自ノード3に割り当てられた各種処理を実行する信号処理部30と、信号処理部30から供給される送信データTXDをPWM符号で符号化した送信データTXをバス通信路5に出力し、バス通信路5上のデータ(受信データ)RXを受信して復号した受信データRXDを信号処理部30に供給するトランシーバ40とを備えている。
【0042】
信号処理部30は、トランシーバ40に対して内部クロックCKを供給する機能が省略されている点以外は、信号処理部10と同様に構成されている。
但し、スレーブ3bの信号処理部30は、必ずしもマイコンによって構成する必要はなく、UART11に相当する機能を少なくとも備えたシーケンサと、そのシーケンサを動作させる動作クロックを生成する発振回路とによって構成してもよい。
【0043】
トランシーバ40は、トランシーバ20と同様に、タイミング生成部41,符号化復号化部42,送信バッファ23,受信バッファ24,モード管理部25を備えており、タイミング生成部41および符号化復号化部42の構成の一部が、タイミング生成部21および符号化復号化部22とは異なっている。
【0044】
具体的には、タイミング生成部41は、各種タイミング信号を生成する際に、同期の対象となる信号が、内部クロックCKではなく、受信バッファ24を介してバス通信路5から取得した受信データRXである点が異なる。なお、タイミング生成部41では、タイミング信号の一つであるレセッシブ生成用クロックRCKの生成を省略してもよい。
【0045】
また、符号化復号化部42は、内部回路の動作が一部異なる以外は、符号化復号化部22と同様に構成されている。
このように、スレーブ3bのトランシーバ40は、動作モードがウェイクアップモードの時には、バス通信路5から取り込んだPWM符号の受信データRXのビット境界となる立ち下がりエッジをクロック成分として抽出し、そのクロック成分に同期したバスクロックBCKを生成し、このバスクロックBCKに従って送信データTXDの符号化,受信データRXの復号化を行い、バス通信路5を介した通信を実現する。
【0046】
次に、サブマスタ3cの構成を説明する。図5は、サブマスタ3cの構成を示すブロック図である。
サブマスタ3cは、マスタ3a及びスレーブ3bと同様に、バス通信路5を介した他ノード3との通信によって得られた情報等に基づき、自ノード3に割り当てられた各種処理を実行する信号処理部50と、信号処理部50から供給される送信データTXDをPWM符号で符号化した送信データTXをバス通信路5に出力し、バス通信路5上のデータ(受信データ)RXを受信して復号した受信データRXDを信号処理部50に供給するトランシーバ60とを備えている。
【0047】
信号処理部50は、トランシーバ60に対して内部クロックCKを供給可能となっている点で、マスタ3aと同様に構成されている。
トランシーバ60は、トランシーバ20,40と同様に、タイミング生成部61,符号化復号化部62,送信バッファ23,受信バッファ24,モード管理部25を備えており、タイミング生成部61および符号化復号化部62の構成の一部が、タイミング生成部21,41および符号化復号化部22,42とは異なっている。
【0048】
具体的には、タイミング生成部41は、通常時においてはスレーブ3bと同様、各種タイミング信号を生成する際に、同期の対象となる信号が、内部クロックCKではなく、受信バッファ24を介してバス通信路5から取得した受信データRXとなる。一方、マスタ3aの故障時などにマスタ3aにてタイミング信号が生成されない状況下では、マスタ3aと同様、カウント用クロックCCKを分周することによって内部クロックCKに同期した各種タイミング信号を発生させる。
【0049】
また、サブマスタ3cでは、マスタ3aの故障時に同期信号として出力される送信データTXと受信データRXとの排他的論理和が信号処理部50へ出力されるように符号化復号化部62が構成されている。
【0050】
このように、サブマスタ3cのトランシーバ60は、動作モードがウェイクアップモードである通常時には、バス通信路5から取り込んだPWM符号の受信データRXのビット境界となる立ち下がりエッジをクロック成分として抽出し、そのクロック成分に同期したバスクロックBCKを生成し、このバスクロックBCKに従って送信データTXDの符号化,受信データRXの復号化を行い、バス通信路5を介した通信を実現する。一方、動作モードがウェイクアップモードであっても、マスタ3aからの同期信号が途絶えた場合にあっては、マスタ3aに代わり、発振回路を動作させることによってタイミング信号の生成を行う。
【0051】
次に、サブマスタ3cの信号処理部50で実行される信号送信開始処理を説明する。図6は、信号送信開始処理を示すフローチャートである。
最初のS100では、ウェイクアップ信号を送信する。マスタ3aの故障などにより、マスタ3aからの同期信号の送信が途絶えると、スレーブ3b,3cは、スリープモードへ移行する。そこで、ここでは、動作モードがスリープモードとなっている場合に、他のノード3に対してウェイクアップを促す信号を送信する。
【0052】
続くS110では、同期信号の送信がないか否かを判断する。この処理は、ウェイクアップ信号の送信に続くマスタ3aからの同期信号の送信の有無を判断するものである。ここで同期信号の送信がないと判断された場合(S110:YES)、S120へ移行する。一方、同期信号の送信があると判断された場合(S110:NO)、以降の処理を実行せず、信号送信開始処理を終了する。この場合は、サブマスタ3cは、スレーブ3bと同様に動作することとなる。
【0053】
S120では、一定時間が経過したか否かを判断する。この処理は、初回のウェイクアップ信号の送信から一定時間が経過したか否かを判断するものである。ここで一定時間が経過したと判断された場合(S120:YES)、S130へ移行する。一方、一定時間が経過していないうちは(S120:NO)、S100からの処理を繰り返す。この場合、一定時間が経過するまでウェイクアップ信号が繰り返し送信されることになる。
【0054】
一定時間が経過した場合に移行するS130では、同期信号の再確認を行う。この処理は、マスタ3aからの同期信号があるか否かの最終確認と位置づけられる。
続くS140では、同期信号の送信がないか否かを判断する。ここで同期信号の送信がないと判断された場合(S140:YES)、S150にて同期信号の送信を開始し、その後、信号送信開始処理を終了する。この場合、サブマスタ3cは、マスタ3aに代わるマスタノードとして動作することとなる。一方、S130における確認により同期信号が送信されていると判断された場合(S140:NO)、S150の処理を実行せず、信号送信開始処理を終了する。この場合は、サブマスタ3cは、スレーブ3bと同様に動作することとなる。
【0055】
なお、上記信号送信開始処理では、サブマスタ3c自らがウェイクアップ信号を送信しているが(図6中のS100)、他のスレーブ3bからのウェイクアップ信号を受信した場合も同様の処理を行うものとする。
【0056】
このようにサブマスタ3c自身にウェイクアップ要因が発生した場合、あるいは、他のスレーブ3bからのウェイクアップ要求が発生した場合、本実施形態では、図7に示すように、一定時間以上マスタ3aからの同期信号の送信がない場合、サブマスタ3cが同期信号の送信を開始する。
【0057】
次に、サブマスタ3cの信号処理部50で実行される信号送信停止処理を説明する。図8は、信号送信停止処理を示すフローチャートである。この信号送信停止処理は、サブマスタ3cが同期信号を送信している間、繰り返し実行される。
【0058】
最初のS200では、不一致情報を取得する。サブマスタ3cでは、上述したように、マスタ3aの故障時に同期信号として出力される送信データTXとバス通信路5からの受信データRXとの排他的論理和が信号処理部50へ出力される。この処理は、当該排他的論理和の信号を不一致情報として取得するものである。具体的には、送信データTXと受信データRXとが不一致である場合、すなわち何れか一方がハイレベル(1)で他方がロウレベル(0)である場合、不一致情報としての排他的論理和は、ハイレベル(1)となる。
【0059】
続くS210では、同期信号が不一致か否かを判断する。ここで同期信号が不一致であると判断された場合(S210:YES)、すなわち不一致情報がハイレベルであれば、S220へ移行する。一方、同期信号が不一致でないと判断された場合(S210:NO)、すなわち不一致情報がロウレベルであれば、以降の処理を実行せず、信号送信停止処理を終了する。
【0060】
S220では、不一致の割合が閾値以上であるか否かを判断する。ノイズなどによる一時的な不一致が検出される可能性があるため、ここでは、不一致の割合が閾値以上であるか否かを判断するのである。ここで不一致の割合が閾値以上であると判断された場合(S220:YES)、S230にて同期信号の送信を停止し、その後、信号送信停止処理を終了する。この場合、サブマスタ3cは、スレーブ3bと同様に動作することとなる。一方、不一致の割合が閾値を下回っていると判断された場合(S220:NO)、S230の処理を実行せず、信号送信停止処理を終了する。
【0061】
次に、本実施形態の通信装置が発揮する効果を説明する。
本実施形態では、ウェイクアップ信号を送信し(図6中のS100)、マスタ3aからの同期信号の送信の有無を判断する(S110)。同期信号の送信がない場合で(S110:YES)一定時間が経過していないうちは(S120:NO)、ウェイクアップ信号の送信を繰り返す(S100)。そして、一定時間が経過してもマスタ3aからの同期信号の送信がない場合(S120:YES,S130,S140:YES)、マスタ3aに代わり同期信号の送信を開始する(S150)。これによって、マスタ3aから送信される同期信号が途絶えた場合であっても、通信を成立させることができる。
【0062】
なお、マスタ3aからの同期信号が途絶えた場合、各ノード3は、消費電力を抑えるために一部の機能を停止した動作モードであるスリープモードで動作する。そこで、本実施形態では、初回のウェイクアップ信号の送信から一定時間の経過を判断して(S120)、同期信号の送信を開始する(S150)。これにより、マスタ3aの故障を適切なタイミングで判断して、同期信号を送信することができる。
【0063】
また、本実施形態では、バス通信路5へ出力する同期信号とバス通信路5を介して取得される同期信号との排他的論理和である不一致情報に基づき(図8中のS200)、同期信号が不一致である場合に(S210:YES)、同期信号の送信を停止する(S230)。これにより、マスタ3aが同期信号の送信を再開した場合にも、適切な通信が実現される。
【0064】
このとき、両信号の不一致の割合が閾値以上である場合に(図8中のS220:YES)同期信号の送信を停止するようにしたため(S230)、たとえノイズなどによる影響があったとしても両信号の不一致を適切に判断することができる。
【0065】
なお、本実施形態における通信システム1が特許請求の範囲における「通信システム」を構成し、マスタ3aが「マスタノード」に相当し、スレーブ3bが「スレーブノード」に相当し、サブマスタ3cが「サブマスタノード」に相当する。
【0066】
また、信号処理部50の発振回路12及びトランシーバ60のタイミング生成部61が「同期信号生成部」を構成し、信号処理部50が「信号送信制御部」を構成する。
さらに、図6の信号送信開始処理及び図8の信号送信停止処理が「信号送信制御部」の機能としての処理に相当する。
【0067】
以上、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施することができる。
上記実施形態では、バス通信路5へ出力する同期信号とバス通信路5を介して取得される同期信号との不一致を、その割合によって判断していた。
【0068】
これに対し、両信号が所定期間連続して不一致となった場合に、同期信号の送信を停止するようにしてもよい。すなわち、両信号の不一致を、その期間によって判断するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1:通信システム、3:ノード、3a:マスタノード、3b:スレーブノード、3c:サブマスタノード(スレーブノード)、5:バス通信路、10,30,50:信号処理部、11:UART(汎用非同期送受信回路)、12:発振回路、20,40,60:トランシーバ、21,41,61:タイミング生成部、22,42,62:符号化復号化部、23:送信バッファ、24:受信バッファ、25:モード管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック成分を含む同期信号をバス通信路へ出力するマスタノードと、当該マスターノードからの前記同期信号を前記バス通信路を介して受信することで前記マスタノードに同期して動作するスレーブノードとを備える通信システムにおいて、
通常時は前記スレーブノードとして動作し、
前記同期信号を生成する同期信号生成部、
及び、前記マスタノードからの前記同期信号が途絶えると、前記同期信号生成部にて生成される前記同期信号を、前記マスタノードに代わって前記バス通信路へ送信する信号送信制御部、
を有するサブマスタノードを備えていること
を特徴とする通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の通信システムにおいて、
前記信号送信制御部は、スリープモードからウェイクアップモードへ各ノードを移行させるためのウェイクアップ信号が送信されてから一定時間が経過しても、前記マスタノードからの前記同期信号が送信されない場合に、前記同期信号の送信を開始すること
を特徴とする通信システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の通信システムにおいて、
前記信号送信制御部は、前記バス通信路へ出力する同期信号と前記バス通信路を介して取得される同期信号とを比較し、両信号が不一致である場合、前記同期信号の送信を停止すること
を特徴とする通信システム。
【請求項4】
請求項3に記載の通信システムにおいて、
前記信号送信制御部は、両信号の不一致の割合が所定閾値以上である場合、前記同期信号の送信を停止すること
を特徴とする通信システム。
【請求項5】
請求項3に記載の通信システムにおいて、
前記信号送信制御部は、両信号が所定期間連続して不一致となった場合、前記同期信号の送信を停止すること
を特徴とする通信システム。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の通信システムに用いられるサブマスタノード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−30932(P2013−30932A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164705(P2011−164705)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】