説明

通信システム

【課題】製造が容易、かつ、安価であって、漏洩伝送線路の近傍の限られた空間内だけの通信を可能とすることができる通信システムを提供する。
【解決手段】中心導体101と中心導体101を被覆した絶縁体102と絶縁体102の周囲に金属線を編み込んだ編組を外部導体103とする漏洩伝送線路2と、漏洩伝送線路2の外部導体103に電磁結合した金属片4とを備え、漏洩伝送線路2及び金属片4は、漏洩金属体として構造体に組み込まれ、または、構造体上に設置され、漏洩金属体から漏洩金属体により伝送される電磁波の波長の1倍未満の距離の範囲内において、漏洩金属体を介しての通信が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩伝送線路を使用した通信システムに関し、特に、漏洩伝送線路の近傍でのみ通信を可能とするため、漏洩伝送線路と金属片とを一体とした漏洩金属体を組み込んだ構造体を使用した通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、漏洩伝送線路として、例えば、漏洩同軸ケーブル(LCX:Leaky Coaxial Cable)が提案され、無線通信システムの送受信用アンテナとして利用されている。LCXは、例えば、列車と地上との間の無線連絡を目的として、列車軌道沿いに布設され、また、地下鉄構内や地下街と地上との間の消防無線や警察無線による連絡を目的として、地下鉄構内や地下街に布設される。また、携帯電話や無線LANに代表される無線通信システムは、いつでも、どこでも、誰でも通信ネットワークを利用できることから、急速に拡大しつつある。
【0003】
また、無線通信システムの大容量伝送にともない、使用周波数の高周波帯ヘの移行が進んでおり、地上波の行き届かない地下街やビル内のみならず、ビルの影等、電磁波不感地帯ヘ電磁波を確実に送り届けることが行われている。漏洩伝送線路は、伝送する電気信号の一部が漏洩伝送線路の外側の空間を伝搬し、周囲に電磁界を形成するので、電磁波不感地帯用のアンテナとして使用することができる。
【0004】
このような漏洩伝送線路の代表的なものとして、伝送線路型のLCX(漏洩同軸ケーブル)が使用されている。LCXは、非特許文献1に記載されているように、図16中の(a)に示すように、中心導体101と、この中心導体101を被覆した絶縁体102と、この絶縁体102の周囲に配置された外部導体103と、この外部導体103を被覆した外被104とを備えた同軸ケーブルとして構成されている。LCXの中心導体101及び外部導体103をなす材料は、一般的には銅であるが、アルミニウムを使用する場合もある。絶縁体102をなす材料としては、主にポリエチレンなどが使用されている。
【0005】
そして、LCXの外部導体103には、図16中の(b)に示すように、電磁波漏れ機構として、ケーブル長さ方向に周期的に開孔部105が設けられている。LCXの放射原理は、ケーブル内部を伝送する電気信号エネルギーの一部が、開孔部105を通して電磁波として外部ヘ放射するものである。なお、LCXも一般のアンテナと同様で、送信(放射)と受信(入射)とには可逆性が成立し、遠方まで送信できれば、遠方からの微弱な電磁波も受信できる。
【0006】
ところで、無線LANを会議室等で使用する場合には、情報セキュリティの点から、無線LANの電波がその会議室等の内部だけに留まり、外部に漏れないような通信システムが求められる。前述した従来のLCXは、電磁波を遠方にまで積極的に放射することを目的としていたため、情報セキュリティの確保のために限られた空間内だけの通信用途としては使用されていなかった。
【0007】
限られた空間内だけの通信を目的とする漏洩伝送線路では、前述した「どこでも、誰でも」が可能である通信ではなく、漏洩伝送線路の近傍でのみ無線通信を可能とする必要がある。
【0008】
このような限られた空間内だけの通信を目的とする場合には、約1m以上の遠方ヘの放射は必要なく、信号を伝送する電磁波は、漏洩伝送線路近傍のみに主に存在していればよい。そのような漏洩伝送線路としては、図16中の(b)に示す開口部105の他に、外部導体を金属編組で構成した同軸ケーブルにおいて、その編組密度を少なくして金属線間に隙間を設け、外部導体の内側に存在する電磁波エネルギを外部に漏洩する構造のものも使用できる。
【0009】
このように外部導体の編組密度を減少させた漏洩伝溝線路も、図17中の(a)(b)に示すように、中心導体101と、この中心導体101を被覆した絶縁体102と、この絶縁体102の周囲に配置された外部導体103と、この外部導体103を被覆した外被104とを備えた同軸ケーブルとして構成される。
【0010】
この漏洩伝送線路の外部導体103は、金属線106を絶縁体102の上に編み込んで構成されている。編組密度は、絶縁体102を覆う金属線106の面積を絶縁体102の表面積で割ることによって計算される。この漏洩伝送線路では、編組密度を低くして、外部導体103をなす金属線106間に適当な隙間107が存在するように編組密度を選んでいる。
【0011】
また、特許文献1に記載されている信号伝達装置は、装置近傍でのみ通信を可能とするものである。この信号伝達装置は、図18中の(a)(b)に示すように、メッシュ状の第1導体部201とこれに平行な平板状の第2導体部202を備えている。第1導体部201と第2導体部202とに挟まれる領域203には、電磁波エネルギーが外部から供給される。メッシュ状の第1導体部201から電磁エネルギーが滲み出す領域204が生ずるので、このシート状の信号伝達装置の第1導体部201側の上面の滲み出る領域204に無線通信装置のアンテナ部を近接させると、信号伝達装置と無線通信装置との間で通信を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−82178号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「LCX通信システム」(岸本利彦、佐々木伸共著)コロナ社初版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、前述のように、金属編組で構成した外部導体103の編組密度を少なくして金属線106間に隙間107を設けた同軸ケーブルにおいては、近傍領域及び遠方領域における結合損失の差を十分に大きくすることができず、無線通信を近傍に限定することが困難である。
【0015】
また、前述したような信号伝達装置においては、メッシュ状の複雑な形状の第1導体201、平板状の第2導体202、第1導体と第2導体とを平行に対向させる平板及びこれらを全体を取り囲むシースが必要となり、加工費と材料費のコストが高額であり、製作が煩雑であった。また、コネクタ取り付け加工費も高額である。
【0016】
さらに、通信エリアが平面状であればそのまま敷き詰めればよいが、通信エリアが曲がった形状の領域である場合には、その通信エリアの形状に合わせた形状の第1導体201及び第2導体202を製作しなければならならず、煩雑であった。
【0017】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、製造が容易、かつ、安価であって、漏洩伝送線路の近傍の限られた空間内だけの通信を可能とすることができる通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係る通信システムは、以下の構成のいずれか一つを有するものである。
【0019】
〔構成1〕
中心導体とこの中心導体を被覆した絶縁体とこの絶縁体の周囲に金属線を編み込んだ編組を外部導体とする漏洩伝送線路と、漏洩伝送線路の外部導体に電磁結合した金属片とを備え、漏洩伝送線路及び金属片は、漏洩金属体として、構造体に組み込まれ、または、構造体上に設置され、漏洩金属体から、この漏洩金属体により伝送される電磁波の波長の1倍未満の距離の範囲内において、この漏洩金属体を介しての通信が可能であることを特徴とするものである。
【0020】
〔構成2〕
構成1を有する通信システムにおいて、漏洩伝送線路における外部導体の編組密度は、20%乃至80%であることを特徴とするものである。
【0021】
〔構成3〕
構成1を有する通信システムにおいて、金属片は、長さ及び幅がともに伝送される電磁波の波長の半分以下であることを特徴とするものである。
【0022】
〔構成4〕
構成1を有する通信システムにおいて、金属片は、漏洩伝送線路に直交する方向の長さが伝送される電磁波の波長の半分にほぼ等しく、漏洩伝送線路に平行な方向の幅が伝送される電磁波の波長の半分以下であることを特徴とするものである。
【0023】
〔構成5〕
構成1を有する通信システムにおいて、金属片は、1辺の長さが伝送される電磁波の波長のほぼ半分である正方形であることを特徴とするものである。
【0024】
〔構成6〕
構成1乃至構成5のいずれか一を有する通信システムにおいて、金属片は、漏洩伝送線路に沿って、複数個配列されていることを特徴とするものである。
【0025】
〔構成7〕
構成1乃至構成6のいずれか一を有する通信システムにおいて、構造体は、机であることを特徴とするものである。
【0026】
〔構成8〕
構成7を有する通信システムにおいて、漏洩金属体は、机の天板の上部、内部、下部に設けられた溝内、または、天板上に設置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る通信システムにおいては、漏洩伝送線路と、この漏洩伝送線路の外部導体に電磁結合した金属片とを備え、漏洩伝送線路及び金属片は、漏洩金属体として構造体に組み込まれ、または、構造体上に設置され、漏洩金属体から、この漏洩金属体により伝送される電磁波の波長の1倍未満の距離の範囲内において、この漏洩金属体を介しての通信が可能である。
【0028】
この通信システムにおいては、構造が簡素であり、製造が容易、かつ、安価でありながら、限られた空間内だけの通信が可能であり、セキュリティの保護を図ることができる。
【0029】
すなわち、本発明は、製造が容易、かつ、安価であって、漏洩伝送線路の近傍の限られた空間内だけの通信を可能とすることができる通信システムを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】漏洩伝送線路の近傍での電磁界の強さの変化状態を確認するための実験系を示す側面図(a)及び平面図(b)である。
【図2】図1に示した実験系において金属片がない状態で得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【図3】本発明に係る通信システムの第2の実験例の構成を示す平面図である。
【図4】図3に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【図5】本発明に係る通信システムの第3の実験例の構成を示す平面図である。
【図6】図5に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【図7】本発明に係る通信システムの第1の実施の形態の構成を示す平面図である。
【図8】図7に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【図9】本発明に係る通信システムの第2の実施の形態の構成を示す平面図である。
【図10】図9に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフ(a)及びその拡大図(b)である。
【図11】本発明に係る通信システムの第3の実施の形態の構成を示す平面図である。
【図12】図11に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【図13】本発明の第4の実施の形態に係る通信システムの構成を示す斜視図である。
【図14】本発明の第4の実施の形態に係る通信システムの要部の構成を示す断面図である。
【図15】第4の実施の形態における漏洩伝送線路の設置状態の他の例を示す断面図である。
【図16】従来の漏洩同軸ケーブルの構成を示す断面図及び側面図である。
【図17】従来の漏洩伝送線路の構成を示す断面図及び側面図である。
【図18】従来の信号伝達装置の構成を示す断面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
本発明に係る通信システムは、アンテナの一種である漏洩伝送線路から、この漏洩伝送線路により伝送される波長の1倍程度未満の距離の領域内において漏洩伝送線路を介しての通信が可能となっており、限られた空間内だけの通信を行うことを目的とした通信システムである。
【0033】
この通信システムにおいては、漏洩伝送線路として、図17に示した同軸ケーブルの外部導体の編組密度を低減させたものを使用する。漏洩伝送線路として、中心導体101として外径1mmの銅線、その上に厚さ2mmの絶縁体102で覆い、その上に外部導体103として直径0.1mmの銅線を編組密度が60%となるように編み込んだものを用いた。銅線の編組密度は、20%乃至80%であることが望ましい。この漏洩伝送線路は、後述する各実験例及び各実施の形態において用いている。
【0034】
〔第1の実験例〕
図1は、漏洩伝送線路の近傍での電磁界の強さの変化状態を確認するための実験系を示す側面図(a)及び平面図(b)である。
【0035】
この通信システムに用いる漏洩伝送線路からの電磁波の放射強度を調査するため、図1に示す実験系を用いて、漏洩伝送線路2の周囲の結合損失(Lc)の分布を測定した。
【0036】
漏洩伝送線路2を、木製の机1上に設置した発泡スチロール板3上に水平に配置した。漏洩伝送線路2には、一端側のコネクタ5を介して、入力電力(Pin)を供給する。漏洩伝送線路2の他端側には、終端抵抗6を取付けておく。漏洩伝送線路2の周囲に半波長ダイポールアンテナ7を配置して、図1中にに示す座標(x、y、z)にしたがって移動させ、Z方向電界Ezを測定し、結合損失(Lc)を求めた。測定周波数は、2.4GHz(波長125mm)とした。
【0037】
なお、後述する各実験例及び各実施の形態においては、漏洩伝送線路2と発泡スチロール板3との間に、金属片4を設置する。
【0038】
結合損失(Lc)は、以下の〔式1〕により計算されるので、半波長ダイポールアンテナ7からの出力(Pout)を測定すれば、結合損失(Lc)が算出され、漏洩伝送線路2からの電磁波の放射がどの程度であるかがわかる。
Lc=−10・Log(Pout/Pin)・・・・・・・・〔式1〕
(ただし、Lcは、結合損失(dB)、Pinは、漏洩伝送線路2ヘの入力電力(W)、Poutは、漏洩伝送線路2の周辺に置いた半波長ダイポールアンテナ7からの出力(W)である。)
【0039】
図2は、図1に示した実験系において金属片4がなく漏洩伝送線路単独の状態で得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【0040】
測定の結果、結合損失(Lc)は、図2に示すように、漏洩伝送線路2からの距離yが20mmの地点では78dBと小さく(電磁波強度が強く)、距離が増加するにしたがって増加し(電磁波強度は弱まり)、距離yが125mmの地点では、89dBだった。さらに、距離が増加し、距離yが1250mmの地点では、95dBだった。なお、本測定系の外来ノイズレベルは98dB程度であった。
【0041】
近傍領域を1波長の125mmとし、遠方領域を10波長の1250mmと定義する。この測定結果より、近傍領域y=125mmでの結合損失(Lc)は89dB、遠方領域のy=1250mmでは95dBであり、その差はわずかに6dBだった。無線通信の可能領域を近傍領域に限定するためには、近傍領域と遠方領域との結合損失(Lc)の差が15dB以上あることが望ましい。したがって、この漏洩伝送線路2では、無線通信を近傍に限定する応用には使用できない。
【0042】
〔第2の実験例〕
図3は、本発明に係る通信システムの第2の実験例の構成を示す平面図である。
【0043】
この実験例では、近傍領域での電磁波強度を強める目的で、図3に示すように、漏洩伝送線路2の外部導体103に複数の金属片4を接触させ、漏洩伝送線路2と金属片4とを一体とした漏洩金属体とした。これは、外部導体103からの漏洩電磁波が金属片4に電磁結合して、波源強度範囲が外部導体103の部分だけではなく金属片4の部分にも拡大できる効果がある。
【0044】
金属片4としては、幅5mm、長さ15mm、厚さ0.1mmの銅板15枚を、等間隔10mmで配列させて、外部導体103に接触させた。なお、ここでは金属片4を外部導体103に直接接触させたが、適当な電磁結合が得られれば、薄い絶縁体が介在していてもよい。
【0045】
図1に示したと同様の測定系により漏洩伝送線路2及び金属片4の周囲の結合損失(Lc)を測定した。
【0046】
図4は、図3に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【0047】
測定の結果、結合損失(Lc)は、図4に示すように、金属片4の前方の近傍領域である距離yが125mmの地点では82dB、遠方領域のである距離yが1250mmの地点では95dBであり、その差は13dBであった。無線通信の可能領域を近傍領域に限定するための目標値15dBには不足だった。
【0048】
したがって、この金属片4及び漏洩伝送線路2では、無線通信を近傍に限定することは困難である。
【0049】
〔第3の実験例〕
図5は、本発明に係る通信システムの第3の実験例の構成を示す平面図である。
【0050】
この実験例では、通信が可能となる近傍領域でのx、z方向の範囲を拡大させるために、外部導体103に接触させる金属片4の大きさ及び枚数を変更した。
【0051】
金属片4としては、図5に示すように、1辺が250mm、厚さ0.1mmの銅板を使用した。1辺を250mmの正方形とした理由は、正方形状の金属板に電磁的な共振を発生させるために高次共振となる2波長分とした。
【0052】
図1に示したと同様の測定系により漏洩伝送線路2及び金属片4の周囲の結合損失(Lc)を測定した。
【0053】
図6は、図5に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【0054】
測定の結果、図6に示すように、結合損失(Lc)の小さい位置が金属片4の端部であるz=±125mmの地点に集中してしまっていることがわかる。したがって、通信可能な領域を均一に得ることができないので、この金属片4と漏洩伝送線路2との組み合わせによっては、無線通信を近傍に限定することは困難である。
【0055】
〔第1の実施の形態〕
図7は、本発明に係る通信システムの第1の実施の形態の構成を示す平面図である。
【0056】
この実施の形態では、通信が可能となる近傍領域での電磁波強度を強める目的で、外部導体103に複数の金属片4を接触させ、漏洩伝送線路2と金属片4とを一体とした漏洩金属体とした。なお、ここでは金属片4を外部導体103に直接接触させたが、適当な電磁結合が得られれば、薄い絶縁体が介在していてもよい。
【0057】
金属片4としては、図7に示すように、幅(漏洩伝送線路2に平行な方向)が5mm、長さ(漏洩伝送線路2に直交する方向)が62.5mm、厚さ0.1mmの銅板15枚を等間隔15mmで配列させて、外部導体103に接触させた。長さを62.5mmとした理由は、電磁的な共振を発生させるために第1次共振である半波長分とした。
【0058】
図1に示したと同様の測定系により漏洩伝送線路2及び金属片4の周囲の結合損失(Lc)を測定した。
【0059】
図8は、図7に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【0060】
測定の結果、結合損失(Lc)は、図8に示すように、金属片4の前方の近傍領域である距離yが125mmの地点で80dB、遠方領域である距離yが1250mmの地点で95dBであり、その差は15dBだった。したがって、この金属片4及び漏洩伝送線路2によって、無線通信を近傍に限定することができる。
【0061】
〔第2の実施の形態〕
図9は、本発明に係る通信システムの第2の実施の形態の構成を示す平面図である。
【0062】
この実施の形態では、近傍領域での電磁波強度を強める目的で、外部導体に金属片4を接触させ、漏洩伝送線路2と金属片4とを一体とした漏洩金属体とした。なお、ここでは金属片4を外部導体103に直接接触させたが、適当な電磁結合が得られれば、薄い絶縁体が介在していてもよい。
【0063】
金属片4としては、図9に示すように、1辺が62.5mm、厚さ0.1mmの銅板を外部導体103に接触させた。1辺を62.5mmの正方形とした理由は、正方形状の金属板に電磁的な共振を発生させるために第1次共振となる半波長分とした。
【0064】
図1に示したと同様の測定系により漏洩伝送線路2及び金属片4の周囲の結合損失(Lc)を測定した。
【0065】
図10は、図9に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフ(a)及びその拡大図(b)である。
【0066】
測定の結果、結合損失(Lc)は、図10(a)(b)に示すように、金属片4の前方の近傍領域である距離yが125mmの地点では74dB、遠方領域である距離yが1250mmの地点では93dBであり、その差は19dBだった。したがって、この金属片4及び漏洩伝送線路2により無線通信を近傍に限定することができる。また、近傍領域と遠方領域とでの結合損失(Lc)の差が複数の金属片4を用いた場合より大きいことから、無線通信を近傍に限定するのに有効である。
【0067】
〔第3の実施の形態〕
図11は、本発明に係る通信システムの第3の実施の形態の構成を示す平面図である。
【0068】
この実施の形態では、漏洩伝送線路2の長さ方向(Z方向)の通信可能範囲を拡大するために、図11に示すように、第2の実施の形態における金属片4を100mm間隔で5枚配列させ、導体103に接触させ、漏洩伝送線路2と金属片4とを一体とした漏洩金属体とした。なお、ここでは金属片4を外部導体103に直接接触させたが、適当な電磁結合が得られれば、薄い絶縁体が介在していてもよい。
【0069】
図1に示したと同様の測定系により漏洩伝送線路2及び金属片4の周囲の結合損失(Lc)を測定した。
【0070】
図12は、図11に示した通信システムにおいて得られた漏洩伝送線路からの結合損失の分布を示すグラフである。
【0071】
測定の結果、結合損失(Lc)は、図12に示すように、5個の金属片4の前方の近傍領域である距離yが125mmの地点では74dB〜76dB、遠方領域である距離yが1250mmの地点では93dBであり、その差は17dB〜19dBだった。したがって、この5個の金属片4及び漏洩伝送線路2によって、無線通信を近傍に限定することができる。
【0072】
なお、金属片4の間隔は、必要な通信範囲により自由に変更が可能である。
【0073】
〔第4の実施の形態〕
図13は、本発明の第4の実施の形態に係る通信システムの構成を示す斜視図である。
【0074】
この通信システムにおいては、図13に示すように、構造体となる木製の机1に漏洩伝送線路2及び金属片4を取り付けている。机1の寸法は、例えば、幅0.7m、長さ1m、高さは0.7mである。漏洩伝送線路2は、中心導体として外径1mmの銅線を用い、その上を厚さ2mmの絶縁体で覆い、その上に外部導体として直径0.1mmの銅線を編組密度が60%となるように編み込んだものを用いて、その上をシースで覆い、全体の外径は7mmに構成されたものである。
【0075】
図14は、本発明の第4の実施の形態に係る通信システムの要部の構成を示す断面図である。
【0076】
机1の天板1aの幅方向の中央部には、図13及び図14に示すように、深さ8mm、幅7.5mmの溝3が設けられており、この溝3内に漏洩伝送線路2及び金属片4が嵌め込まれている。そして、溝3の上から、厚さ1mmのプラスチックシート8で覆っている。なお、金属片4は、溝3の両側にはみ出していてもよい。
【0077】
図15は、第4の実施の形態における漏洩伝送線路の設置状態の他の例を示す断面図である。
【0078】
漏洩伝送線路2及び金属片4は、図15中の(a)に示すように、天板1aの上部に設けた溝3内に組み込んでもよいし、図15中の(b)に示すように、天板1aの裏側に設けた溝3a内に組み込んでもよいし、あるいは、図15中の(c)に示すように、天板1aの内部に穿設した穴3b内に組み込んでもよい。
【0079】
本発明に係る通信システムは、外部導体を金属線編組とした一般に大量に販売されている同軸ケーブルである漏洩伝送線路2と、形状が単純な金属片4とからなっているので、製造は容易であり、また、極めて安価である。また、コネクタについても、同軸ケーブル用の汎用コネクタをそのまま使用することができるので、安価に入手できる。したがって、本発明に係る通信システムは、極めて安価に実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、漏洩伝送線路を使用した通信システムに適用され、特に、近傍での通信が可能な漏洩伝送線路を組み込んだ構造体を使用した通信システムに適用される。
【符号の説明】
【0081】
1 机
2 漏洩伝送線路
3 溝
4 金属片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、この中心導体を被覆した絶縁体と、この絶縁体の周囲に金属線を編み込んだ編組を外部導体とする漏洩伝送線路と、
前記漏洩伝送線路の外部導体に電磁結合した金属片と
を備え、
前記漏洩伝送線路及び金属片は、漏洩金属体として、構造体に組み込まれ、または、構造体上に設置され、
前記漏洩金属体から、この漏洩金属体により伝送される電磁波の波長の1倍未満の距離の範囲内において、この漏洩金属体を介しての通信が可能である
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記漏洩伝送線路における外部導体の編組密度は、20%乃至80%である
ことを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記金属片は、長さ及び幅がともに伝送される電磁波の波長の半分以下である
ことを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項4】
前記金属片は、前記漏洩伝送線路に直交する方向の長さが伝送される電磁波の波長の半分にほぼ等しく、漏洩伝送線路に平行な方向の幅が伝送される電磁波の波長の半分以下である
ことを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項5】
前記金属片は、1辺の長さが伝送される電磁波の波長のほぼ半分である正方形である
ことを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項6】
前記金属片は、前記漏洩伝送線路に沿って、複数個配列されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の通信システム。
【請求項7】
前記構造体は、机である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一に記載の通信システム。
【請求項8】
前記漏洩金属体は、前記机の天板の上部、内部、下部に設けられた溝内、または、天板上に設置されている
ことを特徴とする請求項7記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−60487(P2012−60487A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202760(P2010−202760)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】