説明

通信装置、通信方法及び通信プログラム

【課題】トポロジの動的な変更が発生した場合においても、ポテンシャル値の再計算を行うことなく、通信サービスを提供し続けることができる通信装置を提供する。
【解決手段】通信システムにおいてネットワーク上のノード間の通信を行う通信装置であって、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理手段1と、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算手段2と、受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定手段3と、受信データ判定手段の判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算手段4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、通信方法及び通信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、災害時に有用な通信手段の一つとして、インフラレスなアドホックネットワーク通信がある。アドホック通信は、その通信形態の特性から、自律分散的な制御機構が有効であり、その中の有望な手法の一つにポテンシャルベースルーティングがある。例えば非特許文献1には、関連する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】V. Lenders and R. Baumann, ``Link-diversity Routing: A Robust Routing Paradigm for Mobile Ad Hoc Networks,'' IEEE International Conference Wireless Communications and Networking Conference (WCNC ’08), March 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6に、一般的なポテンシャルベースのアドホック通信例を示す。各通信ノードは、自身のポテンシャル値を保有する。通信データを送信開始する通信ノード(以下、送信ノードともいう)のポテンシャル値は固定値0、最終的に通信データを受信する通信ノード(以下、宛先ノードともいう)のポテンシャル値は固定値1をとる。
【0005】
一方、その間の各通信ノードは、隣接する通信ノード(以下、隣接ノードともいう)間でポテンシャル値の情報交換を行い、隣接ノードのポテンシャル値を用いて、自身のポテンシャル値を更新する。この更新処理を繰り返し実行し、一定時間が経過したり、値の更新度が小さくなったりした際に、その通信系自体のポテンシャル値が収束したと判断し、更新処理を終了する。
【0006】
通信ノードは、通信データを転送する場合には、隣接ノードの中で最大のポテンシャル値を持つノードを選択して、そのノードへ通信データを転送する。各通信ノードがこの操作を行うことによって、送信データが送信された通信データが宛先ノードへとルーティングされる。
【0007】
しかし、このようなシステムでは、通信ノードが移動したり、通信ノードが故障したりすることに伴って、通信ネットワークのトポロジが変化した場合、ネットワーク全体に渡ってポテンシャル値を再計算する必要がある。そのため、その計算が収束するまでは通信が継続できない可能性があるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、トポロジの動的な変更が発生した場合においても、ポテンシャル値の再計算を行うことなく、通信サービスを提供し続けることができる通信装置、通信方法及び通信プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による通信装置は、通信システムにおいてネットワーク上のノード間の通信を行う通信装置であって、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理手段と、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算手段と、受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定手段と、受信データ判定手段の判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明による通信方法は、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理ステップと、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算処理ステップと、受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定処理ステップと、受信データ判定ステップの判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算処理ステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明による通信プログラムは、コンピュータに、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理と、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算処理と、受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定処理と、受信データ判定処理の判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算処理とを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トポロジの動的な変更が発生した場合においても、ポテンシャル値の再計算を行うことなく、通信サービスを提供し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る通信システムのネットワーク構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る通信システムにおける通信ノードの機能構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る通信システムのポテンシャル更新処理のフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る通信システムの通信データ転送のフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る通信システムの宛先ノードにおける適正パラメータ計算処理のフローチャートである。
【図6】既存通信システムの構成図である。
【図7】通信装置の最小の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態1.
次に、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の通信装置を用いた通信システムのネットワーク構成図である。図1を参照すると、通信システムは、通信装置(以下、通信ノードと表現する)が相互に接続されてアドホックネットワークを構成する。
【0015】
通信ノードは、通信データを転送することが可能な移動端末であり、具体的には、プログラムに従って動作するノート型パーソナルコンピュータや携帯電話機、スマートフォン等によって実現される。通信ノードは、隣接ノード間でポテンシャル情報を交換して、自身のポテンシャル値を計算し、それらのポテンシャル値に従って、通信データを転送することで、通信データを送信ノードから宛先ノードへ伝達する機能を備えている。
【0016】
図1では、宛先ノード101が移動することによって、最終ホップのリンクが断となり、通常のポテンシャルベースルーティングでは通信が不可となる例を示している。しかし、本実施形態の通信ノードを適用すると、宛先ノード101の一ホップ手前の通信ノード102から、矢印103に示したような複製配信処理が可能となるため、通信が可能となる。
【0017】
図2に通信ノードの構成図を示す。図1の通信ノードは、それぞれ同様の構成を備えている。通信ノード200は、ポテンシャル情報交換部203、ポテンシャル計算処理部202、複製要否処理部201、適正パラメータ計算部205、データ転送部208、情報記憶部204、受信データ判定部206および通信成功率計算部207を含む。
【0018】
ポテンシャル情報交換部203は、隣接ノードとの間でポテンシャル情報を交換する機能を備えている。ポテンシャル情報交換部203は、具体的には、プログラムに従って動作する移動端末のCPUおよびネットワークインタフェース部によって実現される。なお、ポテンシャル情報は、例えば通信ノードの識別情報やポテンシャル値等を含む。
【0019】
ポテンシャル計算処理部202は、ネットワークトポロジ情報にもとづいてポテンシャル値を計算する機能を備えている。具体的には、ポテンシャル計算処理部202は、隣接ノードのポテンシャル情報を元にして自身のポテンシャル値を更新する。ポテンシャル計算処理部202は、具体的には、プログラムに従って動作する移動端末のCPUによって実現される。
【0020】
複製要否処理部201は、受信した通信データを転送する際に複製を行うべきか否かを判定する機能を備えている。複製要否処理部201は、具体的には、プログラムに従って動作する移動端末のCPUによって実現される。
【0021】
適正パラメータ計算部205は、複製を行うべきか否かを判定する際に用いるパラメータの適正値を計算する機能を備えている。適正パラメータ計算部205は、具体的には、プログラムに従って動作する移動端末のCPUによって実現される。適正パラメータ計算部205は、例えば、最適な複製配信を行うための、最適ポテンシャル閾値(具体的には、複製配信処理を行う基準として設定されている閾値)、および複製配信を行った際に何ホップまで複製配信を有効にするかという最適ホップリミット値を計算する。
【0022】
データ転送部208は、データを転送する機能を備えている。データ転送部208は、プログラムに従って動作する移動端末のネットワークインタフェース部によって実現される。
【0023】
情報記憶部204は、通信ノードで受信または保有している通信関連の情報を格納する。情報記憶部204は、具体的には、磁気ディスク装置や光ディスク装置、メモリ等の記憶装置によって実現される。
【0024】
受信データ判定部206は、自身が宛先ノードだった場合に、受信データが複製処理を経て届けられた通信データか否かを判定する機能を備えている。受信データ判定部206は、具体的には、プログラムに従って動作する移動端末のCPUによって実現される。
【0025】
通信成功率計算部207は、複製処理なしの場合の通信成功率と複製処理ありの場合の通信成功率とを計算する機能を備えている。通信成功率計算部207は、具体的には、プログラムに従って動作する移動端末のCPUによって実現される。
【0026】
次に、本発明の第1の実施形態の具体的な処理についてフローチャートを参照して説明する。
【0027】
図3は、本実施形態の通信ノードが実行するデータ通信に利用するポテンシャル値の更新処理のフローチャートである。図3を参照すると、ポテンシャル値の更新処理は、隣接ノードからのポテンシャル情報収集処理(ステップS101)、自身のポテンシャル値更新処理(ステップS102)およびポテンシャル更新処理の収束判定処理(ステップS103)を含む。各通信ノードは、例えば通信を開始する最初期段階にポテンシャル値の更新処理を実行する。
【0028】
隣接ノードからのポテンシャル情報収集処理(ステップS101)では、自身の隣接に位置している通信ノードで、そのノードと有線または無線通信回線を保有している隣接ノードとの間で、信号メッセージを交換することによってそれぞれ自身のポテンシャル値を送信し、相手のポテンシャル値を受信する。すなわち、通信ノードは、隣接ノードと相互にポテンシャル情報を送受信して交換を行う。
【0029】
自身のポテンシャル値更新処理(ステップS102)では、通信ノードは、全ての隣接ノードから受信したポテンシャル情報を元にして、自身のポテンシャル値を更新する。一例としては、自身のポテンシャル値を全ての隣接ノードのポテンシャル値の平均値に設定するという手法で更新が可能である。
【0030】
ポテンシャル更新処理の収束判定処理(ステップS103)では、通信ノードは、ポテンシャル値の更新処理が収束したか否かを判定する。一例としては、ある所定期間が経過した後には値が収束したとみなす手法や、一つの前の時刻でのポテンシャル更新結果とのただいまのポテンシャル計算結果との差分がある所定値以下となったら収束したとみなす手法が考えられる。なお、ポテンシャル値の更新処理が収束していないと判定した場合には、通信ノードは、ステップS101、S102を繰り返し実行する。
【0031】
次に、本実施形態の通信ノードが実行するデータ通信処理について説明する。図4は、通信データ転送のフローチャートである。図4を参照すると、データ通信処理は、通信データ受信処理(ステップS201)、データ複製要否判定処理(ステップS202)、隣接ノードポテンシャル情報参照処理(ステップS203)、転送すべきノード抽出処理(ステップS204)、通信データ複製配信処理(ステップS205)、隣接ノードポテンシャル情報参照処理(ステップS206)、隣接ノードの中から最大ポテンシャルノード抽出処理(ステップS207)および最大ポテンシャルノードへ通信データ配信処理(ステップS208)を含む。
【0032】
通信データ受信処理(ステップS201)では、通信ノードは、隣接ノードが送信した通信データを受信する。
【0033】
データ複製要否判定処理(ステップS202)では、通信ノード(例えば、複製要否判定処理部201)は、自身の現在のポテンシャル値と複製配信処理を行う基準として設定されている閾値(例えば、最適ポテンシャル閾値)とを比較し、複製配信処理を行うか否かを判定する。以降、この判定処理によって、ポテンシャル値が閾値よりも大きいと判断した場合には複製配信処理を行い、小さいと判断した場合には複製配信処理は行わず通常データ転送処理を行う。
【0034】
ステップS202の判定処理がYesだった場合、隣接ノードポテンシャル情報参照処理(ステップS203)では、通信ノードは、隣接ノードから収集し、情報記憶部204に保管している全ての隣接ノードのポテンシャル情報を参照する。
【0035】
次いで、転送すべきノード抽出処理(ステップS204)では、通信ノードは、ステップS203で参照したポテンシャル値に従って複製配信処理を行うべき隣接ノードを抽出する。例えば、通信ノードは、複製配信先選択部(図2に図示せず)を備え、複製配信先選択部が通信データを複製して配信する隣接ノードを選択する。
【0036】
一例として、その通信データが送られてきたノード以外の全ての隣接ノードへ配信する手法や、複製配信を行う隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を数値的に設定する手法が考えられる。すなわち、通信ノードは、複製配信処理を行うべきノードとして、通信データの送信元のノード以外の全ての隣接ノードを選択したり、隣接ノードが保有するポテンシャル値と予め定められた閾値とに基づいて複製配信処理を行うべきノードを選択することができる。
【0037】
また、例えば複製配信を行う隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を自身のポテンシャル値との関係性を表す制御式から導出する手法(例えば、自身のポテンシャル値の何%以上/以下のポテンシャルを保有するノードへ配信する、自身のポテンシャル値±αのポテンシャル値を保有するノードへ配信するなど)や、隣接ノードの中から確率的に選択したノードへ配信する手法などが考えられる。
【0038】
次いで、通信データ複製配信処理(ステップS205)では、通信ノードは、ステップS204で抽出した隣接ノードに対して、通信データを複製し、複製した通信データを配信する。例えば、通信ノードは、複製配信処理部(図2に図示せず)を備え、複製配信処理部が通信データを複製し、複製した通信データを隣接ノードに配信する。
【0039】
一方、ステップS202の判定処理がNoだった場合、隣接ノードポテンシャル情報参照処理(ステップS206)では、通信ノードは、隣接ノードから収集し、情報記憶部204に保管している全ての隣接ノードのポテンシャル情報を参照する。
【0040】
次いで、隣接ノードの中から最大ポテンシャルノード抽出処理(ステップS207)では、通信ノードは、ステップS206で参照した隣接ノードのポテンシャル値の中で最大のポテンシャル値を保有している隣接ノードを選択して、抽出する。
【0041】
次いで、最大ポテンシャルノードへ通信データ配信処理(ステップS208)では、通信ノードは、ステップS207で抽出した隣接ノードへ通信データを転送する。
【0042】
次に、本実施形態の宛先ノードが実行する複製配信を行うか否かを判定する基準となる最適パラメータ値の更新処理について説明する。図5は、宛先ノードが実行する適正パラメータ計算処理のフローチャートである。図5を参照すると、最適パラメータ値の更新処理は、自身ノードの宛先ノード判定処理(ステップS301)、受信データの複製データ判定処理(ステップS302)、通信成功率更新処理(ステップS303)、適正パラメータ値更新処理(ステップS304)、および、計算結果格納処理(ステップS305)を含む。
【0043】
自身ノードの宛先ノード判定処理(ステップS301)では、通信ノードは、自身が宛先ノードであるか否かを判定する。本通信システムにおいては、ポテンシャル計算処理を開始する最初期段階において、送信ノードは、宛先ノードに対して通知開始の信号を通知する。その通知手段は限定せず、どのような手段を踏襲しても良い。この通知の有無をチェックすることによって、通信ノードは、自身が宛先ノードであるか否かは判断することが可能である。
【0044】
ステップS301の判定がYesだった場合、受信データの複製データ判定処理(ステップS302)では、通信ノード(例えば、受信データ判定部206)は、受信している通信データのTTL(Time To Live)値を参照すること、または複製配信を行う際にパケットヘッダに設定された複製であることを示す情報を参照することによって、その受信データが正常処理での転送データであるか、または複製配信によって転送されたデータであるか、の判定処理を行う。
【0045】
通信成功率更新処理(ステップS303)では、通信ノード(例えば、通信成功率計算部207)は、ステップS302で判定した処理結果に従って、通常の手順で複製配信手法を用いずとも通信が成功している通信成功確率、および、通常転送手法だけでは通信不可であったが、複製配信処理によって通信可能となった場合の通信成功確率をそれぞれ計算する。通信ノードは、これらの通信成功確率および通信環境情報(宛先ノードの移動情報、このエリア内に存在する端末の密度、無線通信の場合ではその通信伝搬可能距離(半径または直径など)など)を情報記憶部204へ保管し、その統計的性質を把握する。
【0046】
適正パラメータ値更新処理(ステップS304)では、通信ノード(例えば、適正パラメータ計算部205)は、現在の通信環境において、通信成功確率を最高の値に保ちつつ、不要な複製配信トラヒックを極力生成させないように、最適な複製配信を行うための、最適ポテンシャル閾値、および複製配信を行った際に何ホップまで複製配信を有効にするかという最適ホップリミット値を計算する。具体的には、通信ノードは、ステップS303で更新した通信成功確率、および通信環境状況(宛先ノードの移動情報、このエリア内に存在する端末の密度、無線通信の場合ではその通信伝搬可能距離(半径または直径など)など)を用いた統計的性質を活用して、最適ポテンシャル閾値および最適ホップリミット値を計算する。
【0047】
計算結果格納処理(ステップS305)では、通信ノードは、ステップS302〜305で行った処理結果を情報記憶部204へ保存する。その後、通信ノードは、情報記憶部204に保管している最適ポテンシャル閾値および最適ホップリミット値を用いて、複製配信処理を行うか否かの判断や、複製配信処理を行う場合の制御を行う。
【0048】
以上の制御処理を行うことによって、通信ノードが移動したり故障したりした際に、ネットワークトポロジが動的に変化した場合においても、複製配信を行い、かつ、その複製配信に伴う環境パラメータとして環境変動に対して適応的に追従した最適値を用いるため、通信成功確率が向上した通信サービスを提供できる。
【0049】
本発明によれば、ネットワークトポロジが動的に変化する通信環境においても、不要な冗長トラヒックを極力抑えつつ、高い通信成功確率を保持することが可能な通信システム基盤を提供することができる。
【0050】
実施形態2.
第1の実施形態では、ベースとするポテンシャルベースルーティング手法として、自律分散的に動作するポテンシャルベースルーティング手法を活用したシステムについて記述した。しかし、本提案システムは、その手法に限定されるものではない。集中管理的に制御動作する通信システムをベースとして本提案システムを構築することも可能である。
【0051】
例えば、第2の実施形態として、第1の実施形態では自律分散的に構築していた各ノードのポテンシャル値を、集中的に制御している制御ノードが全て計算をして、その結果を各通信ノードへ配信して、ポテンシャルベースルーティングを行うという手法をとることも可能である。このようなハイブリッドなシステム構成においては、各通信ノードで必要とされる処理能力が少なくて済むというメリットが得られる。また、制御ノードが集中的にポテンシャル計算を行うため、ノード間のメッセージ転送に伴う処理遅延をなくすことができ、全体的な計算時間を削減できる可能性があるというメリットが得られる。その他にも、各通信ノードがそのエリア内の通信環境情報をより容易に入手できるというメリットなどが得られる。なお、以上述べた以外の動作は第1の実施形態と同じである。
【0052】
実施形態3.
第1の実施形態では、ベースとするポテンシャルベースルーティング手法として、隣接ノードのポテンシャル値の平均値をとる手法を用いて記載した。しかし、本提案システムは、その手法に限定されるものではない。例えば、その他のネットワーク全体を一つの場として定義して、そのような場のポテンシャルの傾きに従ってトラヒック転送処理を制御する、その他の手法を用いた通信システムの実施形態が考えられる。このように柔軟なベースプロトコルを選択できることによって、使用するアプリケーションに従って、適時にベースプロトコルを使いわけることができ、より最適なシステム基盤を提供できるというメリットが考えられる。なお、以上述べた以外の動作は第1の実施の形態と同じである。また、本実施形態と第2の実施形態とを組み合わせて構成するようにしてもよい。
【0053】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上の実施形態にのみ限定されず、その他各種の付加変更が可能である。また、管理サーバ(例えば、制御ノード)は、その有する機能をハードウェア的に実現することは勿論、コンピュータとプログラムとで実現することができる。プログラムは、磁気ディスクや半導体メモリ等のコンピュータ可読記録媒体に記録されて提供され、コンピュータの立ち上げ時などにコンピュータに読み取られ、そのコンピュータの動作を制御することにより、そのコンピュータを前述した各実施形態における転送装置(例えば、通信ノード)、管理サーバとして機能させ、前述した処理を行わせる。
【0054】
本発明は、アドホックネットワーク通信システムに関し、通信ノードが移動することに伴って、ネットワークトポロジが動的に変更された場合においても、高品位な通信サービスをユーザへ提供する。
【0055】
本発明の通信装置を適用した通信システムは、通信データの複製配信を効率的に活用することによって、ポテンシャルの再計算を行うことなく、その通信精度を向上させることを特徴とする。また、複製配信処理で、通信ノードの移動速度情報、通信ノードの分布密度、および無線通信到達距離の情報に従って、複製配信を行うポテンシャル値、及び複製配信を継続するホップ数リミット値を適応的に制御することを特徴とする。
【0056】
次に、本発明による通信装置の最小構成について説明する。図7は、通信装置の最小の構成例を示すブロック図である。図7に示すように、通信装置は、最小の構成要素として、複製要否判定処理手段1と、適正パラメータ計算手段2と、受信データ判定手段3と、通信成功率計算手段4とを備えている。
【0057】
図7に示す最小構成の通信装置では、複製要否判定処理手段1は、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判断する。また、適正パラメータ計算手段2は、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する。また、通信成功率計算手段4は、受信データ判定手段3によって受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定された判定結果にもとづいて複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する。
【0058】
従って、最小構成の通信装置によれば、トポロジの動的な変更が発生した場合においても、ポテンシャル値の再計算を行うことなく、通信サービスを提供し続けることができる。
【0059】
なお、本実施形態では、以下の(1)〜(5)に示すような通信装置の特徴的構成が示されている。
【0060】
(1)通信装置は、通信システムにおいてネットワーク上のノード間の通信を行う通信装置であって、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理手段(例えば、複製要否判定処理部201によって実現される)と、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算手段(例えば、適正パラメータ計算部205によって実現される)と、受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定手段(例えば、受信データ判定部206によって実現される)と、受信データ判定手段の判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算手段(例えば、通信成功率計算部207によって実現される)とを備えたことを特徴とする。
【0061】
(2)(1)の通信装置は、複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、複製配信を行う隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を数値的に設定し、ポテンシャル値と閾値とにもとづいて選択する選択手段(例えば、複製配信先選択部によって実現される)を備えるように構成されていてもよい。
【0062】
(3)(1)の通信装置は、複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を自身のポテンシャル値との関係性を表す制御式から導出し、ポテンシャル値と閾値とにもとづいて選択する選択手段(例えば、複製配信先選択部によって実現される)を備えるように構成されていてもよい。
【0063】
(4)(1)の通信装置は、複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードの中から確率的に選択する選択手段(例えば、複製配信先選択部によって実現される)を備えるように構成されていてもよい。
【0064】
(5)(1)〜(4)の通信装置は、適正パラメータ計算手段は、通信成功率計算手段が計算した複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率にもとづいて、複製配信処理を行うか否かを判断する基準となる最適パラメータ値を計算し、複製要否判定処理手段は、最適パラメータ値とポテンシャル値とにもとづいて、複製配信処理を行うか否かを判断し、複製要否判定処理手段の判定結果にもとづいて、受信データを複製して配信する複製配信手段(例えば、複製配信処理部によって実現される)を備えるように構成されていてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、以下の(6)〜(11)に示すような通信方法および通信プログラムの特徴的構成が示されている。
【0066】
(6)通信方法は、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理ステップ(例えば、複製要否判定処理部201が処理を実行することによって実現される)と、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算処理ステップ(例えば、適正パラメータ計算部205が処理を実行することによって実現される)と、受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定処理ステップ(例えば、受信データ判定部206が処理を実行することによって実現される)と、受信データ判定ステップの判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算処理ステップ(例えば、通信成功率計算部207が処理を実行することによって実現される)とを含むことを特徴とする。
【0067】
(7)通信方法は、複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、複製配信を行う隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を数値的に設定し、ポテンシャル値と閾値とにもとづいて選択する処理ステップ(例えば、複製配信先選択部が処理を実行することによって実現される)を含むように構成されていてもよい。
【0068】
(8)通信方法は、複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を自身のポテンシャル値との関係性を表す制御式から導出し、ポテンシャル値と閾値とにもとづいて選択する処理ステップ(例えば、複製配信先選択部が処理を実行することによって実現される)を含むように構成されていてもよい。
【0069】
(9)通信方法は、複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードの中から確率的に選択する処理ステップ(例えば、複製配信先選択部が処理を実行することによって実現される)を含むように構成されていてもよい。
【0070】
(10)通信方法は、適正パラメータ計算処理ステップで、通信成功率計算処理ステップで計算した複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率にもとづいて、複製配信処理を行うか否かを判定する基準となる最適パラメータ値を計算し、複製要否判定処理ステップで、最適パラメータ値とポテンシャル値とにもとづいて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定し、複製要否判定処理ステップの判定結果にもとづいて、受信データを複製して配信する複製配信ステップ(例えば、複製配信処理部が処理を実行することによって実現される)を含むように構成されていてもよい。
【0071】
(11)通信プログラムは、コンピュータに、ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理と、複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算処理と、受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定処理と、前記受信データ判定処理の判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算処理とを実行させ、前記適正パラメータ計算処理で、前記通信成功率計算処理で計算した複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率にもとづいて、複製配信処理を行うか否かを判定する基準となる最適パラメータ値を計算する処理を実行させ、前記複製要否判定処理で、前記最適パラメータ値と前記ポテンシャル値とにもとづいて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する処理を実行させ、前記複製要否判定処理の判定結果にもとづいて、前記受信データを複製して配信する複製配信処理を実行させる通信プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、アドホックネットワーク通信を制御する用途に適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 複製要否判定処理手段
2 適正パラメータ計算手段
3 受信データ判定手段
4 通信成功率計算手段
100 送信ノード
101 宛先ノード
102 通信ノード
103 複製データ配信
200 通信ノード(送信ノードおよび宛先ノードを含む)
201 複製要否判定処理部
202 ポテンシャル計算処理部
203 ポテンシャル情報交換部
204 情報記憶部
205 適正パラメータ計算部
206 受信データ判定部
207 通信成功率計算部
208 データ転送

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信システムにおいてネットワーク上のノード間の通信を行う通信装置であって、
ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理手段と、
複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算手段と、
受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定手段と、
前記受信データ判定手段の判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算手段とを
備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理ステップと、
複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算処理ステップと、
受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定処理ステップと、
前記受信データ判定ステップの判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算処理ステップとを
含むことを特徴とする通信方法。
【請求項3】
複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、複製配信を行う隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を数値的に設定し、前記ポテンシャル値と前記閾値とにもとづいて選択する処理ステップを含む
請求項2記載の通信方法。
【請求項4】
複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を自身のポテンシャル値との関係性を表す制御式から導出し、前記ポテンシャル値と前記閾値とにもとづいて選択する処理ステップを含む
請求項2記載の通信方法。
【請求項5】
複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードの中から確率的に選択する処理ステップを含む
請求項2記載の通信方法。
【請求項6】
適正パラメータ計算処理ステップで、通信成功率計算処理ステップで計算した複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率にもとづいて、複製配信処理を行うか否かを判定する基準となる最適パラメータ値を計算し、
複製要否判定処理ステップで、前記最適パラメータ値とポテンシャル値とにもとづいて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定し、
前記複製要否判定処理ステップの判定結果にもとづいて、前記受信データを複製して配信する複製配信ステップを含む
請求項2から請求項5のうちのいずれか1項に記載の通信方法。
【請求項7】
コンピュータに、
ネットワークトポロジ情報にもとづいて計算されたポテンシャル値に応じて、受信データを複製して配信する複製配信処理を行うか否かを判定する複製要否判定処理と、
複製配信処理を行う際に用いる最適なパラメータ値を計算する適正パラメータ計算処理と、
受信データが複製配信処理によって転送されたものか否かを判定する受信データ判定処理と、
前記受信データ判定処理の判定結果にもとづいて、複製配信処理を行う場合と行わない場合との両方の場合における通信成功確率を計算する通信成功率計算処理とを
実行させるための通信プログラム。
【請求項8】
コンピュータに、
複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、複製配信を行う隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を数値的に設定し、前記ポテンシャル値と前記閾値とにもとづいて選択する処理を実行させる
請求項7記載の通信プログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードが保有するポテンシャル値の閾値を自身のポテンシャル値との関係性を表す制御式から導出し、前記ポテンシャル値と前記閾値とにもとづいて選択する処理を実行させる
請求項7記載の通信プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
複製配信処理で複製した受信データの配信対象とする通信装置の選択手法として、隣接ノードの中から確率的に選択する処理を実行させる
請求項7記載の通信プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−46174(P2013−46174A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181954(P2011−181954)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】