説明

通気フィルター及びこれを用いた電気装置

【課題】通気フィルターから筐体の内部に発散される汚染物を減少させ、かつ、高拡散効率で低圧力損失の通気フィルターを提供する。
【解決手段】少なくとも1箇所に貫通孔1aを有する接着層1と、貫通孔1aに連通する流路2aを備えた流路部材2と、該流路部材2を覆い、かつ接着層1の一部も覆う通気膜3とを有する通気フィルターであって、通気膜3の周縁部3aが接着層1に固定され、流路部材2は、接着層1と通気膜3との間に形成される中空部内に保持されている通気フィルターを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気フィルター及びこれを用いた電気装置に関するものである。より詳細には、例えばハードディスクドライブ等の電気装置において、筐体通気口に装着して使用する通気フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の筐体や、薬品等の化学物質を貯蔵或いは運搬するための容器には、筐体(容器)内部の気圧(内圧)を緩和するための通気口が設けられている。その通気口には、外部から侵入する恐れのある塵埃や水滴等の汚染物を遮断するための通気フィルターが設けられている。そのような通気フィルターの一つとしてハードディスクドライブ(HDD)用の通気フィルターが知られている。
【0003】
通気フィルターには、筐体の外部に存在する汚染物が筐体の内部に侵入することを阻止する機能が要求されるほか、特にHDDでは非常に高い空気清浄度が要求される。このため、通気フィルター自体からの発塵や発ガスを低く抑えることが必要である。
【0004】
現在の通気フィルターには、塵埃だけでなくガス状汚染物の侵入を抑制する機能が備えられている。たとえば、特許文献1には、気体通路を内包するプラスチックハウジングと、ガス状汚染物の吸着が可能なフィルターシート(通気膜)を備えたフィルターアッセンブリが記載されている。プラスチックハウジング内の気体通路は、ブリーザ開口部(通気口)と通気膜の間の気体流通を可能としている。
【0005】
また、特許文献2には、両面粘着テープ、ガス吸着剤、通気膜の積層構造で構成される通気フィルターが開示されており、拡散流路(気体通路)が内包されていることにより特許文献1の通気フィルターと同様の機能を有する。特許文献2では、通気素材として多孔質PTFE膜の使用例が挙げられているが、PTFEは耐熱性が高く高温でも溶融しないため、プラスチックの中で最も発塵や発ガスが少ない素材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−211055号公報(第2図等)
【特許文献2】特許第3313725号公報(図2A等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された通気フィルターでは、通気膜とプラスチックハウジングが熱融着や超音波溶着によって接合されているため、接合時に発生するバリやプラスチックの熱劣化に伴う発塵が汚染源となり、HDD内部の空気清浄度を落としてしまう。また、フィルターアッセンブリ表面の大部分を占めるプラスチックハウジングには、成型時に発生するバリや切削屑が付着している。
【0008】
他方、上記特許文献2に記載された通気フィルターでは、拡散流路は薄い両面粘着テープに開口形状を打ち抜くことにより形成されたものであるため、拡散流路を長くしたり複雑にしたりするのが困難である。また、拡散流路の断面積は使用する両面粘着テープの厚みによって制限されるため、気体の流量を十分にとることができない。つまり特許文献2に記載の通気フィルターの構造では、流通する気体の拡散効率が悪く、また圧力損失が高いという問題がある。
【0009】
本発明は上記の様な状況のもとになされたものであって、通気フィルターから筐体等の内部に発散される汚染物を減少させ、かつ、高拡散効率で低圧力損失の通気フィルターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達し得た本発明の通気フィルターは、少なくとも1箇所に貫通孔を有する接着層と、前記貫通孔に連通する流路を備えた流路部材と、該流路部材を覆い、かつ前記接着層の一部も覆う通気膜とを有する通気フィルターであって、前記通気膜の周縁部が前記接着層に固定され、前記流路部材は、前記接着層と前記通気膜との間に形成される中空部内に保持されているものである。
【0011】
上記通気フィルターにおいて、前記流路部材がプラスチック形成物であることが望ましい。
【0012】
上記通気フィルターにおいて、前記接着層に対向する前記流路部材の第1主面に溝が形成されており、該溝を前記流路部材の流路とすることが望ましい。
【0013】
上記通気フィルターにおいて、前記流路部材と前記通気膜との間に気体吸着部材を形成することが望ましい。
【0014】
上記通気フィルターにおいて、前記気体吸着部材に対向する前記流路部材の第2主面に凹部および/または凸部が形成されていることが望ましい。
【0015】
上記通気フィルターにおいて、前記流路部材に対向する前記気体吸着部材の第1主面に凹部および/または凸部が形成されていることが望ましい。
【0016】
上記通気フィルターにおいて、前記気体吸着部材と前記流路部材との間に通気部材が狭持されていることが望ましい。さらに、前記通気部材の周縁部が、前記通気膜の周縁部において前記通気膜と前記接着層との間に狭持されていることが望ましい。
【0017】
上記通気フィルターにおいて、前記気体吸着部材と前記通気膜との間にバリア層が形成されていることが望ましい。
【0018】
上記通気フィルターにおいて、前記バリア層と前記通気膜との間に、さらに他の気体吸着部材が形成されていることが望ましい。
【0019】
上記通気フィルターにおいて、前記流路部材および/または前記気体吸着部材に係合部が形成されていることが望ましい。
【0020】
上記通気フィルターにおいて、前記通気膜がフッ素樹脂膜、より好ましくは延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で構成されていることが望ましい。
【0021】
上記通気フィルターにおいて、前記通気膜の表面に撥液剤を添加することが望ましい。
【0022】
上記通気フィルターにおいて、前記接着層を両面粘着テープで構成することができる。
【0023】
上記目的を達し得た本発明の電気装置は、開口部を有する筐体と、該開口部を覆うように形成された上記通気フィルターとを有するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の通気フィルターでは、接着層と通気膜との間に形成される中空部内に流路部材を保持しているため、流路部材を発生源とする汚染物が通気フィルターから発散されることが無い。また、流路部材の形状や材料に特に制限がないため流路の設計自由度が高く、高拡散効率の通気フィルターを構成でき、設計次第で高拡散効率と低圧力損失の両方を兼ね備えた通気フィルターを構成することもできる。
【0025】
また、通気膜の周縁部であって接着層と通気膜とが固定された部分(以下、「鍔部」ともいう。)は、接着層の強度を含めても、流路部材を保持している部分に比べると薄く柔軟であるため、通気フィルターを装着した筐体への密着性がよい。そのため、筐体に多少のうねりや変形が生じても鍔部が筐体に沿って変形し、よって気体がリークしにくい。
【0026】
また、通気フィルターを保管、運搬等する目的で接着層に貼り付けられる剥離フィルムを使用した場合、剥離フィルムに撓みが生じた場合であっても、撓み具合に合わせて鍔部も撓むので、剥離フィルムとの密着性が高く剥離フィルムからの脱落やズレが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る通気フィルターの上側斜視図である。
【図2】図2は、同通気フィルターの断面図である。
【図3】図3は、同通気フィルターの下側斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1に係る通気フィルターの断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2に係る通気フィルターの断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3に係る通気フィルターの断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態4に係る通気フィルターの断面図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態5に係る通気フィルターの断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態6に係る通気フィルターの断面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態7に係る通気フィルターの断面図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態7に係る他の通気フィルターの断面図である。
【図12】図12は、参考例の通気フィルターの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態における通気フィルター及びこれを用いた電気装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。電気装置の例として、ハードディスクドライブ(HDD)を用いる。
【0029】
(実施の形態1)
図1〜3は、本発明の実施の形態に係る通気フィルターの構造を解説する図である。より詳しくは、図1は本実施の形態に係る通気フィルターの上側斜視図であり、図2は断面図であり、図3は下側斜視図である。図1〜3に示されるように、通気フィルターは、少なくとも1箇所に貫通孔1aを有する接着層1と、貫通孔1aに連通する流路2aを備えた流路部材2と、流路部材2を覆い、かつ接着層1の一部も覆う通気膜3とを有する。通気膜3の周縁部(鍔部)3aが接着層1に固定されている。流路部材2は、接着層1と通気膜3との間に形成される中空部内に保持されており、流路部材2と通気膜3との間には気体吸着部材4が形成されている。
【0030】
図4は、HDDの筐体5の内壁に図1〜3に示した通気フィルターを貼り付けた状態を示す断面図である。筐体5には開口部5aが設けられている。開口部5aが存在することにより、筐体5内部の空気が膨張・収縮しても、この開口部5a及び通気フィルター(貫通孔1a、流路部材2内の流路2a、開口部2b)を経由して空気が筐体内外に出入可能な構造となっている。このため、HDD筐体5の内部を高清浄度に保ちつつ、HDD筐体5の呼吸を実現している。例えば、HDD筐体5が急激に低温の環境に持ち込まれ内部の空気が収縮したときでも、HDD筐体5の内部には通気フィルターによって汚染物が除去された空気が供給され、HDD筐体5は変形することなく内部は高清浄度が保たれる。また、多湿の環境で長期間使用されたときは、流路部材2がHDD筐体5の内部に水分が侵入するのを抑制し、HDD内部の結露が防止され、錆の発生が防止される。
【0031】
次に、筐体5の開口部5aを通過する気体の流れについて説明する。図4において、筐体5の外界側(図4下方側)から、筐体5の開口部5aを経由して侵入した気体は、接着層1の貫通孔1aから通気フィルターに流入し、流路2aを通り、開口部2bへと流れていく。開口部2bからは、気体吸着部材4、通気膜3をそれぞれ経由して筐体5の内部(図1上方側)へと抜けて行く。気体はその逆方向に流れることも可能であり、通気膜3側から流路2aを経由して、筐体5の開口部5aから外界へ抜け出る。
【0032】
本実施の形態における通気フィルターは、接着層1と通気膜3との間に形成される中空部内に流路部材2を保持(封止)するため、流路部材2からの発塵を捕集することができ、高清浄度の気体濾過(フィルタリング)を行うことができる。また、流路部材2の形状や使用する材料に特に制限がないため、流路2aを長く設計することにより高拡散効率を実現でき、流路2aの断面積を大きく取ることにより低圧力損失を実現することもできる。流路部材2にプラスチック成型体を用いれば流路2aの設計自由度を一層高くすることができ、高拡散効率と低圧力損失の両立が可能となる。
【0033】
また、鍔部3aは、接着層1の強度を含めても、流路部材2を保持している部分に比べると薄く柔軟であるため、鍔部3aにおいて通気フィルターと筐体5との密着性がよい。すなわち、筐体5に多少の外部応力がかかることにより筐体5に変形が生じても鍔部3aが筐体の変形に追従するため、鍔部3aが筐体5から浮き上がりにくく且つ剥がれにくい。したがって、気体が通気膜3を経由しないで筐体5の内外に流出入(リーク)することが有効に防止される。
【0034】
以上の機能を発揮するため、本発明の通気フィルターは、接着層1、流路部材2、通気膜3を必要な構成要素とするが、気体吸着部材4は、有害気体を吸着除去する必要に応じて場合により設けられる。以下、本実施の形態における構成部材の詳細を説明する。
【0035】
(1)接着層
接着層1は、接着性を有するシート状物であり、例えば、基材シートに接着剤を形成してなるものである。本発明において、接着剤とは、物と物を貼り合わせるのに用いる物質一般を指すものであり、粘着剤と呼ばれるものを含むものとする。接着剤(粘着剤)としては、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤等、従来公知のものが適宜使用できるが、アクリル系接着剤が耐熱性や低発ガス性に優れており好ましく用いられる。接着剤の耐熱温度(被着体に対して接着性を保持できる温度)は、例えば、80℃以上、好ましくは120℃以上である。耐熱温度が80℃未満では、使用時の熱負荷によって流路部材2または通気膜3が剥れてしまう場合がある。
【0036】
(2)流路部材
流路部材2は、上述の通り、気体を拡散させるための流路2aを有する部材である。流路部材2の材料としては、発ガスが少なく、ガスや水分の浸透性が小さいものが良いが、使用用途や目的に応じて適宜選定すればよい。好ましくはポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アクリルポリマー、ポリアセタール、液晶ポリマー、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、合成ゴム、熱可塑性エラストマー、特に好ましくは熱可塑性プラスチックである。プラスチックの形成方法は、例えば、射出成型、注型成型、圧縮成型、切削加工等の方法から適切なものを選択し得る。中でも射出成型は、加工精度や量産性に優れるため最も好ましい。流路部材2の厚みは必要とされる通気性や拡散抵抗によって適宜設定すればよいが、厚みが薄すぎると通気抵抗が高くなり、厚すぎると組み立て加工性やコストに影響が出るので、0.3mm〜5mmとすることが好ましい。
【0037】
流路2aは、流路部材2の内部に設けられた孔であってもよいし、流路部材2の表面に露出した通路(すなわち溝)であってもよい。例えば、接着層1に対向する流路部材2の第1主面に溝を設け、接着層1との間に流路空間を形成する方法をとれば、流路部材2に溝を形成加工するだけで流路2aを形成できるという製造上の利点がある。流路2aの形状は、直線状、曲線状、渦巻き状、スパイラル状、その他の形態をとることができる。流路2aの長さは、拡散効率を高めるために5mm以上(好ましくは10mm以上)であることが望ましく、流路2aの総体積は、通気フィルターの圧力損失を下げるために、例えば0.45mm以上(好ましくは0.9mm以上)であることが望ましい。
【0038】
(3)通気膜
通気膜3は、通気性を有する膜状物であり、使用環境に適合した通気性と捕集効率とクリーン性を備えたものであることが望ましい。通気膜3には、多孔質樹脂フィルムやエレクトレット不織布やナノファイバー不織布等を用いることができる。通気膜3の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド等を使用することができるが、好ましくは防水性に優れたフッ素樹脂、更に好ましくは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のフィルムを用いることが推奨される。多孔質PTFEフィルムと他の通気性素材をラミネートした薄膜を用いることは、補強の観点で好ましい。通気膜3の微視的形状としては、ネット状、メッシュ状、多孔質のものを用いることができる。多孔質PTFEフィルムは、防水性に優れ、水滴、塵埃、有害ガス等の侵入を防止しつつHDDの内外の通気性を持たせる用途に適している。
【0039】
多孔質PTFEフィルムとして、延伸多孔質PTFEフィルムを用いることができる。延伸多孔質PTFEフィルムは、PTFEのファインパウダーを成形助剤と混合することにより得られるペーストの成形体から、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸、さらに必要に応じて焼成することにより得られるものである。一軸延伸の場合、ノード(折り畳み結晶)が延伸方向に直角に細い島状となっていて、このノード間を繋ぐようにすだれ状にフィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している。そして、フィブリル間、又はフィブリルとノードとで画される空間が空孔となった繊維質構造となっている。また、二軸延伸の場合には、フィブリルが放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在して、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている。
【0040】
通気膜3は、1軸延伸多孔質PTFEフィルムであっても良いし、2軸延伸多孔質PTFEフィルムであってもよい。
【0041】
通気膜3は、その細孔内表面に撥液性ポリマーを被覆させて用いるのが好ましい。通気膜3の細孔内表面を撥水撥油性ポリマーで被覆しておくことによって、体脂や機械油、水滴などの様々な汚染物が、通気膜の細孔内に浸透若しくは保持されるのを抑制できる。これらの汚染物質は、通気膜の捕集特性や通気特性を低下させ、通気膜としての機能を損なわせる原因となる。
【0042】
なお、特許請求の範囲及び本明細書において「撥液剤」とは、液体をはじく性質乃至は機能を有する物質を指すものであるとし、「撥液剤」には、「撥水剤」、「撥油剤」、「撥水撥油剤」等を含むものとする。以下、撥水撥油性ポリマーを例に挙げて説明する。
【0043】
撥水撥油性ポリマーとしては、含フッ素側鎖を有するポリマーを用いることができる。撥水撥油性ポリマーおよびそれを多孔質PTFEフィルムに複合化する方法の詳細についてはWO94/22928号公報などに開示されており、その一例を下記に示す。
撥水撥油性ポリマーとしては、下記一般式(1)
【0044】
【化1】

【0045】
(式中、nは3〜13の整数、Rは水素またはメチル基である)
で表されるフルオロアルキルアクリレートおよび/またはフルオロアルキルメタクリレートを重合して得られる含フッ素側鎖を有するポリマー(フッ素化アルキル部分は4〜16の炭素原子を有することが好ましい)を好ましく用いることができる。このポリマーを用いて上記多孔質PTFEフィルムの細孔内を被覆するには、このポリマーの水性マイクロエマルジョン(平均粒径0.01〜0.5μm)を含フッ素界面活性剤(例、アンモニウムパーフルオロオクタネート)を用いて作製し、これを多孔質PTFEフィルムの細孔内に含浸させた後、加熱する。この加熱によって、水と含フッ素界面活性剤が除去されるとともに、含フッ素側鎖を有するポリマーが溶融して多孔質PTFEフィルムの細孔内表面を連続気孔が維持された状態で被覆し、撥水性・撥油性の優れた通気膜が得られる。
【0046】
通気膜3の形状は、本実施の形態においては円形のものとして説明したが、円形のものだけでなく、矩形、楕円、その他、流路部材2または気体吸着部材4の形状に応じて様々な形状をとることができる。通気膜3の周縁部と接着層1との接合面積(鍔部3aの面積)には特に制限はないが、気体のリーク防止のため、通気フィルターの底面積の0.15倍以上(好ましくは0.3倍以上)確保しておくことが望ましい。一方、通気フィルターをできるだけコンパクトに設計する観点及び取扱容易性の観点で、鍔部3aの面積は、通気フィルターの底面積の0.8倍以下(好ましくは0.6倍以下)としておくことが望ましい。
【0047】
(4)気体吸着部材
気体吸着部材4は、上述したように、本発明の必須の構成ではないが、有害気体を吸着除去する必要に応じて場合により設けられる。気体吸着部材4に用いられる気体吸着剤としては、活性炭、シリカゲル、イオン交換樹脂などが用いられる。有機ガスの吸着には活性炭が適している。活性炭にアルカリ成分や酸成分を添着すると無機系ガスの吸着特性も付加できるので適宜用いるのが良い。
【0048】
気体吸着部材4の形状としては、加工性や取り扱い性の観点から、シート状やタブレット状のものが好ましく用いられるが、流路部材2の底面および上面が小さく形成されている場合は、気体吸着部材4も、底面を小さく構成し、その分、有害気体を吸着除去する能力を確保するため、厚く構成する。
【0049】
本発明の通気フィルターには、上記した効果の他にも、電子装置の筐体に取り付ける製造工程においても有利な効果を発揮する場合がある。上述したように、接着層1と通気膜3との間に形成される中空部内に流路部材2を保持しているため、鍔部3aの部分においては接着層1と通気膜3との間に流路部材2が存在せず、そのため、通気フィルターを筐体5に貼り付ける際に鍔部3aに強い押圧をかけても、流路部材2には圧力が伝わらないため、流路部材2が破損することや、流路2aの変形に伴う通気障害を起こすことがない。
【0050】
以上のように実施の形態1では、本発明の基本的構成を示したが、実施の形態2以降では、基本となる実施の形態1の変形例や更なる改善例を示すものである。
【0051】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2に係る通気フィルターの断面図である。本実施の形態では、流路部材2の表裏2つの主面のうち、気体吸着部材4に対向する流路部材2の第2主面(接着層1に対向する第1主面とは反対側)に凹部および/または凸部を設けることにより、流路部材2と気体吸着部材4の間に通気用の隙間を設けた構造である。気体吸着部材4の通気性が低い場合に、通気フィルターの圧力損失が高まってしまうのを防止するのに有効である。気体吸着部材4の表面(下面:第1主面)に沿って空気が流れるときに有害ガスが吸着されるため、有害ガス除去の観点でも有効である。凹部および/または凸部を形成することにより流路部材2と気体吸着部材4の間に形成する空間は、このような効果を有効に発揮させるため、流路部材2の1mmあたり、0.02 mm以上(好ましくは0.1mm以上)とすることが望ましい。流路部材2の凹凸形状は、射出成型でも切削加工によっても形成し得るが、生産効率の観点からは、射出成型を用いることが望ましい。
【0052】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3に係る通気フィルターの断面図である。本実施の形態では、気体吸着部材4の表裏2主面のうち、流路部材2に対向する第1主面(通気膜3に対向する第2主面とは反対側)に凹部および/または凸部を設けることにより、実施の形態2と同様に流路部材2と気体吸着部材4の間に通気用の隙間を設けた構造である。実施の形態2と同様に、気体吸着部材4の通気性が低い場合に有効である。この場合も気体吸着部材4の表面(下面)に沿って空気が流れるときに有害ガスが吸着されるため、有害ガス除去の観点でも有効である。流路部材2と気体吸着部材4の間に形成する空間は、このような効果を有効に発揮させるため、気体吸着部材4の1mmあたり、0.02 mm以上(好ましくは0.1mm以上)とすることが望ましい。気体吸着部材4の凹凸形成には、圧縮成型を用いることが望ましい。
【0053】
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4に係る通気フィルターの断面図である。本実施の形態では、流路部材2と気体吸着部材4の間に通気部材6を狭持した構造である。通気部材6は、通気用の隙間を確保できる素材であり、好ましくは不織布やネット素材が使用できる。このとき、通気部材6を構成する素材に濾過特性を有するものを使えば、気体吸着部材4からの発塵が多い場合に、塵埃が流路2aへ移行して流路2aを詰まらせたり、通気フィルターの外へ流出したりするのを防ぐことができる。濾過特性を有する具体的な材料としては、多孔質樹脂フィルムやエレクトレット不織布やナノファイバー不織布などを用いることができる。本発明の実施の形態4に係る通気フィルターも、実施の形態2又は3と同様に気体吸着部材4の通気性が低い場合に有効であるが、実施の形態2又は3の場合に比べて、流路部材2や気体吸着部材4に凹凸を形成する工程が省けるほか、塵埃が通気膜3に到達するまでに捕集できるメリットがある。
【0054】
(実施の形態5)
図8は、本発明の実施の形態5に係る通気フィルターの断面図である。実施の形態5に係る通気フィルターは、基本的には実施の形態4に係る通気フィルターと同様の構成を有しているが、通気部材6が広めに形成されており、通気部材6の周縁部が、通気膜3の周縁部(鍔部3a)において通気膜3と接着層1との間に狭持されている。このような構造により、通気部材6を安定的に固定することができる。また、通気部材6の面内方向への気体の流通により、通気部材6が鍔部3aに接する部分においても気体流通が可能であるため、通気フィルターの圧力損失を低く抑えることができる。通気膜3にはある程度の強度が必要であるため、通気膜3の通気性を高くできない場合に有効である。
【0055】
(実施の形態6)
図9は、本発明の実施の形態6に係る通気フィルターの断面図である。本実施の形態に係る通気フィルターでは、気体吸着部材4と通気膜3との間に気体が透過できないバリア層7が形成されている。貫通孔1aから通気フィルターに流入する気体は、通気抵抗が最も低くなる経路で通気膜3に到達しようとするが、気体吸着部材4中を通過する距離が短くなるほど、有害気体が十分に除去できていない状態で通気膜3から筐体5内に透過してしまう。バリア層7は、気体をできるだけ長い経路で気体吸着部材4を横切らせようとする場合に有効である。このような効果を有効に発揮させるためには、流路部材2の開口部2bが気体吸着部材4の中央部に配置されていることが好ましい。有害気体を含む気体が、気体吸着部材4の幅の少なくとも1/2の距離に渡って気体吸着部材4中を透過するためである。なお、この通気フィルターにおいて、バリア層7と通気膜3との間に、さらに別の気体吸着部材を形成することが望ましい。図9のバリア層7を設けた場合、筐体5の内部(図9の上側)に存在するガスに対する吸着性能が低下するため、気体吸着部材4と、さらに別の気体吸着部材の二層の気体吸着部材にバリア層7が挟まれた構造にする方がより好ましい。
【0056】
(実施の形態7)
上記実施の形態1〜6において、気体吸着部材4を使用した場合、従来はなかった課題が生じる。すなわち、流路部材2および気体吸着部材4は、いずれもある程度の剛性を有するため、もし流路部材2と気体吸着部材4との相対位置関係にずれが生じると、通気フィルターの気体吸着性能が低下したり、ばらついたり、或いは、通気膜3に破損を生ずる可能性がある。これを防止するため、流路部材2および/または気体吸着部材4に係合部を設けることにより流路部材2と気体吸着部材4を固定することが望ましい。係合部としては、例えば、流路部材2に凹部または凸部、気体吸着部材4に凸部または凹部を設ける方法がある。図10は、本発明の実施の形態7に係る通気フィルターの断面図であり、流路部材2に凸部、気体吸着部材4に凹部を設けた場合の例である。凸部の形状は、柱状、錐状、台形状など、種々の形態をとることができる。
【0057】
図11は、本発明の実施の形態7に係る他の通気フィルターの断面図であり、気体吸着部材4には、流路部材2の全体を収めることができる凹部が形成されている例である。
【0058】
図10および図11の例に限らず、流路部材2または気体吸着部材4が互いに係合できる形状を有していれば流路部材2と気体吸着部材4との相対位置のずれを防止することができる。
【0059】
さらに、係合部を設ける/設けないに関わらず、流路部材2と気体吸着部材4とを接着(粘着)させることは有効な手段である。
【0060】
以上説明した実施の形態では、通気フィルターをHDDに用いた例について説明してきたが、HDDに限らず、筐体(容器)を有し、筐体内部の気圧(内圧)変動を緩和させる必要を有するものであればどのような筐体に対しても使用可能である。例えば、コンピュータを内蔵した各種制御ボックスや、薬品の貯蔵容器又は運搬容器でも使用することができる。
【0061】
(参考例)
図12は、参考例として示す通気フィルターの断面図である。この通気フィルターは容器状に形成された延伸多孔質PTFE膜に気体吸着剤を封入した気体吸着部材と、拡散流路を形成したプラスチック成型体8とを溶着により合体した構造である。この通気フィルターは、上記特許文献1に開示されている通気フィルターと比較するとプラスチックの使用量やプラスチックの露出面積は小さいものの、流路部材の側面は通気フィルター表面に露出しており、特許文献1に開示されている通気フィルターと同様に、バリ、切削屑、離型剤などが筐体内に飛散してしまう問題がある。
【符号の説明】
【0062】
1 接着層
1a 貫通孔
2 流路部材
2a 流路
2b 開口部
3 通気膜
4 気体吸着部材
5 筐体
6 通気部材
7 バリア層
8 プラスチック成型体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1箇所に貫通孔を有する接着層と、前記貫通孔に連通する流路を備えた流路部材と、該流路部材を覆い、かつ前記接着層の一部も覆う通気膜とを有する通気フィルターであって、前記通気膜の周縁部が前記接着層に固定され、前記流路部材は、前記接着層と前記通気膜との間に形成される中空部内に保持されていることを特徴とする通気フィルター。
【請求項2】
前記流路部材がプラスチック形成物である請求項1に記載の通気フィルター。
【請求項3】
前記接着層に対向する前記流路部材の第1主面に溝が形成されており、該溝が前記流路部材の流路である請求項1または2に記載の通気フィルター。
【請求項4】
前記流路部材と前記通気膜との間に気体吸着部材が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項5】
前記気体吸着部材に対向する前記流路部材の第2主面に凹部および/または凸部が形成されている請求項4に記載の通気フィルター。
【請求項6】
前記流路部材に対向する前記気体吸着部材の第1主面に凹部および/または凸部が形成されている請求項4または5に記載の通気フィルター。
【請求項7】
前記気体吸着部材と前記流路部材との間に通気部材が狭持されている請求項4〜6のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項8】
前記通気部材の周縁部が、前記通気膜の周縁部において前記通気膜と前記接着層との間に狭持されている請求項7に記載の通気フィルター。
【請求項9】
前記気体吸着部材と前記通気膜との間にバリア層が形成されている請求項4に記載の通気フィルター。
【請求項10】
前記バリア層と前記通気膜との間に、さらに気体吸着部材が形成されている請求項9に記載の通気フィルター。
【請求項11】
前記流路部材および/または前記気体吸着部材に係合部が形成されている請求項1〜10のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項12】
前記通気膜がフッ素樹脂膜で構成されている請求項1〜11のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項13】
前記フッ素樹脂膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で構成されている請求項12に記載の通気フィルター。
【請求項14】
前記通気膜の表面に撥液剤を添加した請求項1〜13のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項15】
前記接着層が両面粘着テープである請求項1〜14のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項16】
開口部を有する筐体と、該開口部を覆うように形成された請求項1〜15のいずれかに記載の通気フィルターとを有する電気装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−207663(P2010−207663A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53911(P2009−53911)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】