通電負荷平準化方法および装置
【課題】特定電力時間帯に生じ得る電力需要の極端な増減を平準化すること、多様な電力需要の形態に合わせて負荷平準化を図ることができる通電負荷平準化方法および装置の提供。
【解決手段】時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯において複数の被通電機器に通電を行う際の通電負荷平準化方法であって、各被通電機器について、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化方法および装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【解決手段】時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯において複数の被通電機器に通電を行う際の通電負荷平準化方法であって、各被通電機器について、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化方法および装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の時間帯とは電気料金の異なる深夜電力時間帯等の特定電力時間帯における被通電機器の通電負荷平準化方法および装置に関し、例えば、電気自動車や電気温水器などの多数の被通電機器が深夜電力時間帯に通電を行う際の通電負荷平準化方法および装置に関する。
なお、本明細書では、午後11時から翌朝午前7時までの深夜電力および午前1時から午前6時までの第二深夜電力をあわせて「深夜電力」という場合がある。
また、本明細書において「普通充電」とは、急速充電ではない充電のことであり、100Vあるいは200Vコンセントを備えた車両外部の小型充電装置を使って、車両に搭載した二次電池を充電することをいい、「電気自動車」とは、動力源が二次電池で駆動されるモータのみである自動車、二次電池で駆動されるモータ以外の動力源例えばエンジンなどを有する自動車のことをいう。
【背景技術】
【0002】
電力会社は、日中と夜間の電力消費量の差や夏季とそれ以外の季節の電力消費量の差を縮め電力消費量の平準化(負荷平準化)を図ることを目的として、深夜電力料金をはじめとする種々の時間帯別契約を用意している。しかしながら、特定電力時間帯において、一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電気機器が一斉に充電を開始した場合、電力需要の増加が一時的に著しく増加し、その後一斉に落ち込むという問題が生じる。このような問題を解消すべく、家庭への普及が進んでいる電気温水器においては、深夜電力を利用した様々な負荷平準化手段が既に実用化されている(例えば、特許文献1ないし3)。
【0003】
また、電力会社は、一斉に通電を開始・終了することを回避するため、地域ごとに個別の通電可能時間設定タイマー(例えば、特許文献4)を設け、電気温水器の通電制御を行うことにより深夜通電地域の電力負荷が集中しないようにする運用を行っている。
しかしながら、上記タイマーの設置数が非常に多いことから、定期的に設定値をずらすなどの管理作業に多くの手間を要するという課題がある。
【0004】
特許文献5には、深夜電力時間帯枠における最低負荷時刻の電力需要に他の時間帯の電力需要を割り当てる手法が開示され、ここでは乱数を使って通電開始時間を調整する手法が提案されている。しかしながら、特許文献5では必要通電時間が一定時間以下であることを前提としており、電気温水器のように比較的通電時間の長い機器類への適用には適していない。
【0005】
特許文献6には、通信を使って通電時間を調整する手法も各種提案されている。しかしながら、当該手法は、負荷端末の数が数万台以上のオーダーになった場合には、同時通信によるトラフィック対策の問題などが生じることから、実用化は難しいと考えられる。
【0006】
ところで近年、電気自動車の普及に備え、集合住宅などの賃貸駐車場でも深夜電力を利用した充電装置の提供が考えられているが、平準化のための仕組みを設けなければ深夜料金適用時間の開始と同時に消費電力が急増するという課題が生じることになる。現時点においては電動車両の普及率は低いためこの種の問題は発生していないが、今後電動車両が普及するのに伴い、充電による電力消費ピークの発生は無視できない問題になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−18106号公報
【特許文献2】特開平6−180147号公報
【特許文献3】特開平6−180148号公報
【特許文献4】特開平10−197069号公報
【特許文献5】特許第4142837号公報
【特許文献6】特2008−160902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特定電力時間帯に一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電気機器(例えば、電気温水器や電気自動車)に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することを課題とする。
【0009】
また、深夜電力の電力需要の形態は季節や地域により多様であり、画一的な負荷平準化手段を採用することは難しい。さらに、近年、深夜電力需要の平準化を目的とした第2深夜電力(1時〜6時)の導入により、1つの負のピークを有する形態のみならず、2つの負のピークを有する形態も出現するようになってきている(図6参照)。このような多様な電力需要の形態に合わせて負荷平準化を図ることも本発明が解決しようとする課題である。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決することのできる、通電負荷平準化方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、発明者は、乱数修飾関数なる概念を発案し、これにより特定の通電機器についての電力需要の形態を制御することにより、負荷平準化を自律的に行うことを可能とした。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の技術手段から構成される通電負荷平準化方法に関する。
[1]時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯において複数の被通電機器に通電を行う際の通電負荷平準化方法であって、
各被通電機器について、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化方法。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
[2]乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする上記[1]の通電負荷平準化方法。
[式B]
[式C]
[3]乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする上記[2]の通電負荷平準化方法。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
[4]特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする上記[3]に記載の通電負荷平準化方法。
[5]被通電機器に、電気温水器および電動車両が含まれることを特徴とする上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の通電負荷平準化方法。
[6]上記[1]ないし[5]のいずれかに記載の通電負荷平準化方法をコンピュータに実施させるプログラム。
【0013】
また、本発明は、以下の技術手段から構成される通電負荷平準化装置に関する。
[7]時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯に通電される被通電機器と電気的に接続され通電制御を行う自律型の通電負荷平準化装置であって、
当該通電負荷平準化装置が、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
[8]乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする上記[7]の通電負荷平準化装置。
[式B]
[式C]
[9]下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む累積分布関数群を記憶する記憶手段を有し、記憶した累積分布関数群の中から選択された一の関数を乱数修飾関数fnに設定することを特徴とする上記[8]の通電負荷平準化装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
[10]特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を設定することを特徴とする上記[7]ないし[9]のいずれかに記載の通電負荷平準化装置。
[11]上記[7]ないし[10]のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電動車両用充電装置。
[12]上記[7]ないし[10]のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電気温水器。
なお、上記[1]および[7]における乱数rndについての「所定の範囲」とは、例えば、0≦rnd≦1、0<rnd≦1、0≦rnd<1あるいは0<rnd<1のことである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定電力時間帯に電気温水器や電気自動車などの電気機器に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することが可能となる。
また、電気機器の充電装置に簡易な負荷分散手段を組み込むことにより、多様な電力需要の形態に合わせた負荷平準化を自律的な仕組みで実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の負荷平準化手段を搭載した電気自動車普通充電装置の基本構成図である。
【図2】本発明の負荷平準化手段を搭載した電気温水器の基本構成図である。
【図3】通電開始時刻の設定を説明するための概念図である。
【図4】通電している確率を説明するためのグラフである。
【図5】累積分布関数を説明するためのグラフである。
【図6】ある地域における第2深夜電力の需要を示すグラフである。
【図7】前山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図8】r=5、a=8時間の場合の前山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図9】後山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図10】r=5、a=8時間の場合の後山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図11】双山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図12】r=5、a=8時間の場合の双山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図13】均一型、前山型、後山型、双山型の確率密度関数のグラフである。
【図14】均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数のグラフである。
【図15】均一型、前山型、後山型、双山型の乱数修飾関数のグラフである。
【図16】本発明の負荷平準化手段の機能概要説明図である。
【図17】乗用車の1日走行距離から推定した電気自動車の充電時間(普通充電)の予想例である。
【図18】実施例1に係る電気自動車50台の充電負荷(普通充電)の期待値のグラフである。
【図19】実施例1に係る電気自動車50台の充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数k、および充電開始時刻の一覧表である。
【図20】実施例1に係る乱数修飾関数ごとの合成負荷のグラフである。
【図21】実施例2に係る電気温水器50台の通電負荷(普通充電)の期待値のグラフである。
【図22】実施例2に係る電気温水器50台の通電負荷の期待値のグラフである。
【図23】実施例2に係る電気温水器50台の充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数k、および充電開始時刻の一覧表である。
【図24】実施例2に係る乱数修飾関数ごとの合成負荷のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を、《一》電気自動車普通充電装置および《二》電気温水器の例で説明する。以下の説明に現れる主な変数は次のとおりである。
【0017】
《主な変数》
a:通電可能時間
b:通電時間
k:通電調整係数
m:電気温水器調整係数
t:通電可能時間内のある時刻
t1:通電可能開始時刻
t2:通電可能終了時刻
Ts:通電開始時刻
Te:通電終了時刻
Tsm:最も遅い通電開始時刻
We:合成電力期待値
【0018】
《第一の実施形態:電気自動車普通充電装置》
(1)装置構成
図1に、本発明の負荷平準化手段を搭載した電気自動車普通充電装置の基本構成図を示す。当該装置は、電気自動車に電気を供給するコンセント、回路を開閉する開閉器、回路を短絡や地絡から保護する漏電遮断器、電力会社から電気を受ける受電装置、および開閉器を制御する制御装置から構成される。
電気自動車のバッテリ残量は、電気自動車から充電用ケーブルを使った通信(PLC:電力線通信)で送られ、或いは電気自動車に通信機能がない場合は充電者によって電気自動車のバッテリ残量計の読みを手入力で入力装置に入力される。制御装置は、バッテリ残量を基に通電時間を計算し、通電調整ロジックに従い通電開始・終了時刻を決定し、その時刻に開閉器を入切する。
なお、図1では複数台を同時に充電できる装置構成を示しているが、本発明の負荷平準化手段は1台用の充電装置でも適用できる。1台用の充電装置単独では受電容量は低減できないものの、ある地域における全充電需要の観点から見れば、充電開始時刻を調整することにより全充電需要の負荷平準化に貢献することができる。
【0019】
(2)通電開始時刻の決定方法
(2-1)通電可能時間帯の設定
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”を設定する。
深夜電力時間帯であればt1=23時、t2=7時(31時)を設定する。この場合、“通電可能時間a”は8時間となる。なお、t1,t2は利用者の都合で変更する(例えば早朝に充電を完了する)ことも可能である。
【0020】
(2-2)通電時間の算定
電気自動車の充電に必要な“通電時間b”は式1により算出される。式1中、「電気自動車定格充電時間」とは、バッテリ残量0%→100%の充電に要する時間のことである。なお、本明細書では充電を含む意味で「通電」という用語を用いる場合がある。
【0021】
[式1]b=電気自動車定格充電時間×(100%−バッテリ残量計指示値(%))/100
【0022】
(2-3)通電開始時刻の決定
(2-3-1)乱数の発生
制御装置内でその演算機能を使って0以上1未満の乱数を発生させる。乱数は、平方採中法、混合合同法などで得られる疑似乱数でよい。本明細書では、疑似乱数も含めた意味で「乱数」という用語を用いる場合がある。
【0023】
(2-3-2)乱数の変換
負荷配分を調整するために、乱数に予め設定してある“乱数修飾関数fn”を掛合わせることで、発生確率が一定である乱数をある確率密度関数に従う数列(通電調整係数k:0≦k≦1)に変換する。乱数修飾関数fnを用いた通電調整係数kの算出手順については後述する。
【0024】
(2-3-3)通電開始時刻および通電終了時刻の決定
“通電開始時刻Ts”は通電可能開始時刻t1からt1+(a−b)までの間の任意の時刻を選定できる。通電開始時刻Tsは、通電調整係数kを使って式2を使って求める。
[式2]Ts=t1+k×(a−b)
【0025】
“通電終了時刻Te”は、式3に示すように、通電開始時刻に通電時間bを加えて求めることができる。
[式3]Te=t1+k×(a−b)+b
【0026】
《第二の実施形態:電気温水器》
(1)装置構成
図2に、本発明の負荷平準化手段を搭載した電気温水器の基本構成図を示す。当該装置は、電気温水器本体、電気温水器に電気を供給する回路を開閉する開閉器、回路を短絡や地絡から保護する漏電遮断器、電力会社から電気を受ける受電装置、および開閉器を制御する制御装置から構成される。
電気温水器の湯残量は電気温水器貯湯槽の上下方向に複数取り付けられた温度センサデータで推定し、制御装置は湯残量を基に必要通電時間を計算する。制御装置は通電調整ロジックに従い通電開始・終了時刻を決定し、その時刻に開閉器を入切する。
通電制御方式を採用している電気温水器は既にこの構成になっており、その場合は制御装置の制御ソフトウェアの変更だけで対応することができる。
【0027】
(2)通電開始時刻の決定方法
(2-1)通電可能時間帯の設定
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”の設定については、第一の実施形態と同じである。また、深夜電力時間帯の場合、“通電可能時間a”は8時間となる。
【0028】
(2-2)通電時間の算定
電気温水器の必要通電時間の算定法は各種提案されているが、基本的には貯湯槽に複数設置した温度センサから貯湯槽水の平均温度を求め、炊きあがり温度(85℃)まで昇温するのに必要な入熱を電熱器出力で割り算することで求めることができ、これを“通電時間b”とする(式4参照)。
【0029】
[式4]b=(85℃−貯湯槽水平均温度(℃))×貯湯槽体積(L)/(電熱器出力(kW)×860kcal/kW)×電気温水器調整係数m
電気温水器調整係数m:熱放散や容器熱容量を考慮した係数 (>1)
【0030】
(2-3) 通電開始時刻および通電終了時刻の決定
“通電開始時刻Ts”および“通電終了時刻Te”の決定については、第一の実施形態と同じである(上記式2および3参照)。
【0031】
《乱数を使った負荷平準化の数学的な理論》
乱数を使った負荷平準化の数学的な理論を、深夜電力時間帯(23時〜7時)など特定の通電可能時間帯にある負荷を通電する場合の例で説明する。
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”と“通電可能時間a”の関係は式5のとおりとなる。
[式5]a=t2−t1
【0032】
通電時間をb(b≦a)とすると、通電開始時刻Tsは、通電可能開始時刻t1から最も遅い通電開始時刻Tsmまでの範囲で任意の時刻を選択することができる。“最も遅い通電開始時刻Tsm”は式6により算出される。
[式6]Tsm=t2−b=t1+a−b
【0033】
通電開始時刻Tsは、通電調整係数k(0≦k≦1)を使って式7で表現することができる。
[式7]Ts=t1+k×(a−b)
【0034】
ある時刻に通電がされている条件を、図3を参照しながら具体例で説明する。
通電開始可能時刻t1から通電可能終了時刻t2の間のある時刻t1+t(0≦t≦a)において、通電がされている条件は、t1+tが通電時間帯(図3のii)内にあることから、下記の式8により表される。
[式8]t1+k×(a−b)≦t1+t≦t1+k×(a−b)+b
【0035】
ここで、式8中、t1は全辺に加わることから除くと下記式9が導かれる。
[式9]k×(a−b)≦t≦k×(a−b)+b
【0036】
さらに式9より、通電調整係数kについて下記式9−1および9−2が導かれる。
[式9−1]k≦t/(a−b)
[式9−2](t−b)/(a−b)≦k
【0037】
ここで図3を見ると、b≧0.5aの場合(上段)とb<0.5aの場合(下段)では条件の算出式を異なるものとする必要があることが分かる。すなわち、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦bの間(図3上段網掛け部分)は必ず通電されることとなるため、b≧0.5aの場合とそれ以外の場合を分けて、時刻t1+tで通電する条件を求める必要があることが分かる。
【0038】
(i)b≧0.5aの場合
(i−1)0≦t<a−bの場合、式9−2の左辺が負となることから、下記の式10−1が導かれる。
[式10−1]0≦k≦t/(a−b)
【0039】
(i−2)a−b≦t<bの場合、式9−1の右辺は1以上となり、式9−2の左辺は0以下となることから、下記の式10−2が導かれる。tがこの範囲の場合には、全ての場合に通電されることとなる。
[式10−2]0≦k≦1
【0040】
(i−3)b≦t≦aの場合、式9−1の右辺が1以上となることから、下記の式10−3が導かれる。
[式10−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
【0041】
(ii)b<0.5aの場合
(ii−1)0≦t<bの場合、式9−2の左辺が負となることから、下記の式11−1が導かれる。
[式11−1]0≦k≦t/(a−b)
【0042】
(ii−2)b≦t<a−bの場合、下記の式11−2が導かれる。
[式11−2](t−b)/(a−b)≦k≦t/(a−b)
【0043】
(ii−3)a−b≦t≦aの場合、式9−2の右辺が1以上となることから、下記の式11−3が導かれる。
[式11−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
ここでkが確率密度関数p(k)に従うとすると、0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0となる。
また、確率密度関数p(k)の特性として下記の式12が導かれる。
[式12]
【0044】
上記(i)および(ii)のそれぞれの場合において時刻t1+tに通電している確率Ponを求めるには、先に求めたkの範囲で確率密度関数p(k)を積分すればよい。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式13が導かれ、b<0.5aの場合には下記式14が導かれる。
【0045】
[式13]
【0046】
[式14]
【0047】
通電している確率Ponに被通電機器の消費電力を掛け合せるとことで、負荷電力の期待値を求めることができる。したがって、通電している確率Ponは、被通電機器の数(負荷数)が一定数以上であり合成電力が期待値に等しくなると考えられる場合の合成負荷の形状を表していることになる。
なお、全時間帯でPon(t)を積分すると通電時間の期待値となるため、下記式15に示すようにその値はbとなる。
【0048】
[式15]
【0049】
また、通電調整係数kを発生確率一定の乱数で与えると、確率密度関数p(k)=1であることから通電している確率はPon(t)に等しくなる。すなわち、多数の負荷の通電開始時刻Tsを乱数で与えた通電調整係数kで式7のとおり決定すると、その通電している確率はPon(t)に等しくなる。そして、その合成電力の大きさの期待値、すなわち合成電力期待値Weは、式16により表される。
[式16]We=負荷電力×負荷数×Pon(t)
【0050】
ここで、通電調整係数kを発生確率一定の乱数で与えた場合に時刻t1+tに通電している確率Ponを求める。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式18が導かれ、b<0.5aの場合には下記式19が導かれる。
なお、0以上1以下の値を取る乱数の確率密度関数prnd(k)は、下記式17およびprnd(k)=一定値より prnd(k)=1 となる。
[式17]
【0051】
[式18]
【0052】
[式19]
【0053】
図4は、通電可能時間a=8とし、通電時間bを1〜7時間の範囲で変えた場合における通電している確率Ponを図示したものである。図4を見ると、通電可能時間aに対する通電時間bの比(b/a)が小さい場合には通電している確率は比較的平坦な形状となるが、b/a=0.5付近で山型となり、b/aが大きくなると再び平坦になる。これは、図3の例で説明したように、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦b(図3上段網掛け部分)の間は必ず通電することから、bがある程度大きくなると確率密度関数p(k)をどのように変えても通電している確率Ponの形状の調整が難しくなることを示している。換言すれば、b/aが大きくなると通電開始時刻Tsを調整できる幅a−bが短くなり、調整できる範囲が小さくなることに対応している。
以上のことから、個々の負荷の通電開始時刻を調整することで全負荷の合成電力の形状を調整するためには、通電調整係数kの確率密度関数p(k)を負荷の状況に合わせて調整する必要があることが分かる。また、乱数を用いて通電調整係数kを決定する場合には、乱数に後述の“乱数修飾関数fn”を掛合わせて、確率密度一定の乱数を確率密度関数p(k)に従う分布を持つ数列に変換する必要がある。
【0054】
《累積分布関数》
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)について説明する。
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)は、k<0あるいはk>1ではp(k)=0であることから、下記の式20で表すことができる。これを図示したのが図5であり、例えば、通電調整係数kがk〜k+Δkの範囲の値になる確率はP(k+Δk)−P(k)となる。
[式20]
【0055】
《乱数修飾関数》
本明細書で乱数修飾関数とは、累積分布関数P(k)の逆関数のことをいう。図5の例で説明すると、0以上1以下の値を取る乱数を考えた場合、その確率密度関数はprnd(k)=1となる。乱数の累積分布関数は確率密度関数の積分で求められPrnd(k)=kとなり、P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数の発生確率は Prnd(P(k1+Δk))−Prnd(P(k1))=P(k1+Δk)−P(k1)となる。P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせると、乱数はk1以上k1+Δk以下の間に分布する。ただし、一義にkが決まるためにはP(k)は単調増加関数(p(k)>0、ただし1点でp(k)=0は許容)である必要がある。当然のことながら乱数にP(k)の逆関数を掛合わせてできたk1以上k1+Δk以下の間に分布する数列の発生する確率はP(k1+Δk)−P(k1)となる。この関係はk1およびk1+Δkが0以上1以下である限り常に成立する。すなわち、0以上1以下の値を取る発生確率一定の乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせて得られた数列がk1以上k1+Δk以下の値を取る確率は、P(k1+Δk)−P(k1)となる。これは累積分布関数の定義により、得られた数列の累積分布関数はP(k)に等しいことになる。以上により発生確率一定の乱数を累積分布関数P(k)あるいはその微分で求められる確率密度関数p(k)に従う数列に変換できたことになる。そして、この累積分布関数P(k)の逆関数が乱数修飾関数となる。
以上より、0以上1以下の乱数に乱数修飾関数を掛合わせて通電調整係数kを算出し、上記式7により通電開始時刻Tsを決定することで、通電している確率Pon(t)を確率密度関数p(k)あるいは累積分布関数P(k)で制御することができる。
【0056】
乱数修飾関数fnを用いた通電開始時刻Tsの算出手順を数式で表現すると下記(i)〜(iii)のとおりとなる。
(i)0以上1以下の乱数rndを発生する。発生する乱数は、実用的には疑似乱数で十分である。疑似乱数の発生方法は各種提案されているが、ここでは演算の簡単な混合合同法の例を示す。
a×p+q=a′4桁の疑似乱数を得るため、下2桁から5桁を利用する。
たとえば、最初のa=5678、p=678、q=789 とする。
5678×678+789=3850473 → 0.5047
5047×678+789=3422655 → 0.2265
2265×678+789=1536459 → 0.3645 (以下同様)
なお、混合合同法で得られた疑似乱数rndは0以上1未満となるが、実用上の問題はない。
【0057】
(ii)疑似乱数に乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを決定する。すなわち、通電調整係数kは下記式21により表すことができる。
[式21]
【0058】
(iii)通電開始時刻Tsを上記式8により決定する。
【0059】
《乱数修飾関数の類型化》
乱数修飾関数は、複数の型を予め用意しておき、電力需要の状況に応じて最適な型を選択するのが好ましい。深夜電力の場合、例えば負のピークとなる深夜4時頃を挟んで需要が増減する一山型の需要曲線が描かれる場合もあれば、図6に示すように深夜1時頃と早朝6時頃に負のピークが生じる双山型の需要曲線が描かれる場合もある。近年、深夜需要の平準化を目的とした第2深夜電力(1時〜6時)の導入により、この時間帯に通電する電気温水器が普及したことで深夜の電力需要がかさ上げされかなりの平準化が達成されるとともに、電力需要の負のピークが2回発生する状況が増えている。また、季節によっても電力需要曲線の形状は異なるものとなる。このような様々な電力需要に対応した平準化を実現するためには、類型化された乱数修飾関数の利用が効果的である。
通電調整係数kの確率密度関数p(k)に様々な関数を導入した際の通電している確率Pon(t)を求める手順を以下に説明する。
【0060】
(a)前山型
通電を早い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方に偏らせる分布(以下「前山型」という)を考える。前山型を実現するためには、べき数で減少させる関数として下記式22の関数を考える。
[式22]p(k)=(r+1)×(1−k)^r
r:正の整数
【0061】
式22ではrを大きくするほど前に偏る。前山型の確率密度関数p(k)のグラフと式22の関数で上記式13および14により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図7に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図8に示す。この場合もb/aの比が小さいほど早い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、rは任意の正の整数を選択することができるが、例えば3〜10の範囲で選択すると一般的な電力需要に対応できることが多いと思われる(以下同様)。
【0062】
(b)後山型
通電を遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが大きい方に偏らせる分布(以下「後山型」という)を考える。後山型を実現するためには、べき数で増加させる関数として下記式23の関数を考える。
[式23]p(k)=(r+1)×k^r
r:正の整数
式23ではrを大きくするほど後に偏る。後山型の確率密度関数p(k)のグラフと式23の関数で上記式13および14により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図9に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図10に示す。この場合もb/aの比が小さいほど遅い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。
【0063】
(c)双山型
通電を早い時間帯および遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方および大きい方に偏らせる分布(以下「双山型」という)を考える。前山型、後山型を平均した関数として下記式24の関数を考える。
[式24]p(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
r:正の整数
式24ではrを大きくするほど両端に偏る。双山型の確率密度関数p(k)のグラフと式24の関数で上記式13および14により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図11に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図12に示す。この場合もb/aの比が小さいほど両端時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、図6のような電力需要の場合には、双山型が好適である。
【0064】
(d)均一型
乱数をそのまま使う場合はp(k)=1である。これを均一型と呼ぶこととする。
【0065】
(e)均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数P(k)
上記式20にそれぞれの型の確率密度関数p(k)を導入すると下記式25のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の確率密度関数を図13に、累積分布関数を図14に示す。
[式25]
均一型 P1(k)=k
前山型 P2(k)=−(1−k)^(r+1)
後山型 P3(k)=k^(r+1)
双山型 P4(k)=(k^(r+1)−(1−k)^(r+1))/2
【0066】
上述したように、通電開始時刻Tsを制御するための乱数修飾関数(乱数をrndと表現)は、累積分布関数の逆関数となる。それぞれの型の乱数修飾関数を下記式26のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の乱数修飾関数を図15に示す。
[式26]
【0067】
均一型(k=rnd)以外の逆関数は代数的に表現できないものもあり、通電時間を制御する制御装置の演算能力にも限りがあるため、直線近似した結果(k=m×rnd+n)を下記に示す。ここで、表1は前山型乱数修飾関数f2であり、表2は後山型乱数修飾関数f3であり、表3は双山型乱数修飾関数f4である。
【表1】
【0068】
【表2】
【表3】
【0069】
以上、代表的な乱数修飾関数の型を示したが、乱数修飾関数fnは下記条件を満たせばどのような関数でも良い。
ア)確率密度関数 p(k)
0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0
[式27]
【0070】
イ)累積分布関数 P(k)
[式28]
【0071】
ウ)乱数修飾関数 fn(rnd) 累積分布関数P(k)の逆関数
[式29]
【0072】
《乱数を使った負荷平準化についての補足》
乱数および乱数修飾関数を使って通電開始時刻を調整し負荷平準化を行う手法では、通電可能時間aと通電時間bの比率b/aの大きさにより得られる負荷平準化効果が異なり、特にb/aが大きくなると負荷平準化効果が少なくなるとともに、得られる合成負荷の形状もkの確率密度関数p(k)の形状から予想されるイメージと異なってくる。適宜シミュレーション等を行い、それぞれの負荷の特性に適した乱数修飾関数の選定が重要である。
上記で例示した乱数修飾関数はb/aに係わらず一定の関数であった。b/aの比率で乱数修飾関数を変更するとさらに大きな平準化効果は得られるが、演算処理が非常に複雑になり通常の制御装置に使われるCPUでは対応できなくなる。本負荷平準化装置は最小の装置付加かつ低コストで対策が行えることが最大の特徴であり、上記で例示した程度の単純な乱数修飾関数でもかなりの効果を得られることから、この程度の関数で十分と言える。
b/aが小さい場合は自由度が大きい分負荷平準化効果は大きいが、その分疑似乱数のばらつきの影響も大きくなり、台数が少ない場合の効果は期待値よりもかなり小さくなる傾向がある。シミュレーションでの十分な検証が必要である。
電力需要の状況や負荷の状況は変化することからこれら変化に柔軟に対応するために、制御装置には上記で例示したような複数の乱数修飾関数を準備しておき、状況に応じて切り替えできるようにしておくことが望ましい。
【0073】
《小括》
以上に説明した本発明の負荷平準化手段の機能概要説明図が図16であり、その特徴をまとめると次のとおりである。
(一)中央局と通信を使った大規模な制御システムでなく、乱数を使うことでそれぞれの機器毎に独自に確率論的に制御を行い、機器数が非常に多いことから合成負荷は目標とした形態(確率論の期待値)に制御できる自律分散制御システムである。
(二)それぞれの機器は独立して通電開始時刻を決定できるため、運転機器の追加があっても他の機器の通電開始時刻に影響がなく、制御は非常に簡単でかつ制約が極めて小さい。
(三)装置構成は通常の機器電源装置に開閉器と制御装置を付加するだけであり、元々の装置に深夜電力の利用など負荷通電時間調整機能がある場合は、制御ソフトウェアの追加のみで対応できるなど非常に簡単な付加で機能を実現できる。したがって、機器コストや運用コストは極めて安価である。(定期的に行われる通電可能時間設定タイマーの設定値をずらす作業も必要なくなる。)
(四)乱数修飾関数を導入したことで合成負荷の形態を自由に調整できることから、さまざまな負荷形態、電力需給形態に柔軟に対応可能である。
【0074】
以下では本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
実施例1は、電気自動車の充電負荷の平準化手法に関する。
図17に、乗用車の1日走行距離から推定した電気自動車の充電時間(普通充電)の予想例を示す。図17から、約30%の電気自動車は走行しないことから充電が不要であること、また充電時間の短い電気自動車の割合が多いことが分かる。
【0076】
図18に、各種乱数修飾関数で負荷平準化を行った場合の電気自動車普通充電の充電負荷の期待値のグラフを示す。図18では、充電負荷容量を3kW/台、通電可能時間8時間として、充電負荷の期待値を式16を使って求めている。図18中の各グラフは次の条件を意味している。
対策なし: 通電可能開始時刻で一斉に充電開始
通電制御: 充電完了を通電可能終了時刻に合せる
均一型: 均一型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
前山型: 前山型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
後山型: 後山型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
双山型: 双山型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
【0077】
図18から、「対策なし」では通電可能開始時刻付近に大きなピークを生じ、「通電制御」では通電可能終了時刻付近に大きなピークを生じることが分かる。また、各種乱数を使った負荷平準化を行うと、電気自動車普通充電は充電時間が比較的短いことから、乱数修飾関数の特性に合致した平準化が行われることが分かる。より詳細には、均一型の乱数修飾関数を使うと負荷のピークは対策なしの場合に比べて約1/4に低減でき、前山型および後山型の乱数修飾関数を使うと負荷のピークは対策なしの場合に比べて約1/2に低減できることが分かる。この場合、所定の地域単位で定期的に行われる通電可能時間設定タイマーの設定値をずらす作業も必要なくなる。また、双山型の乱数修飾関数は、図6のような深夜の電力需要の状況の場合に好適であることが分かる。
なお、利用者の受電容量低減の観点からは最大電力が最も小さくなる均一型が望ましいといえる。マンションなど充電台数が多い需要家でこのような負荷平準化対策を行えば電気料金の基本料金の引き下げが可能となる。
【0078】
本実施例の負荷平準化装置の効果をシミュレーションにより確認する。
充電時間が図17の分布に従う50台の電気自走車の普通充電(3kW/台)に本実施例の負荷平準化装置を適用する。それぞれの充電時間、発生した疑似乱数、疑似乱数に各種乱数修飾関数を掛合わせて求めた通電調整係数k、充電開始時刻(通電可能開始時刻を0時、通電可能時間を8時間とした)を図19に、乱数修飾関数ごとの合成負荷の状況を図20に示す。
図20において、「対策なし」の場合には充電容量150kW(3kW/台×50台)に対し最大電力105kWであるのが、均一型の負荷平準化を行った場合には最大電力42kWに平準化されている。
期待値を示す図18と対比してみると、図18に示す均一型の平準化の期待値は0.453kW/台であり、50台での最大電力は23kWであるから、期待値とシミュレーション結果には多少のずれがあることが分かる。しかし、図20のグラフの形状と図18のグラフの形状には相関関係を認めることができ、検証台数が数百台以上となった場合には期待値とのずれは改善されことが推測される。よって、シミュレーションにより本実施例の負荷平準化装置の効果を確認することができた。
【実施例2】
【0079】
実施例2は、電気温水器の通電負荷の平準化手法に関する。
図21に、深夜電力利用の電気温水器の通電時間例を示す。図21から、電気温水器の通電時間は電気自動車普通充電時間に比べてかなり長く、傾向が異なることが分かる。
図22に、各種乱数修飾関数で負荷平準化を行った場合の電気温水器の通電負荷の期待値のグラフを示す。ここで、電気温水器の電熱器容量は通常4〜6kWであるが、図22では、電気自動車に係る図18と比較するため電熱器容量を3kW/台、通電可能時間8時間としている。通電負荷の期待値は、実施例1と同様に式16を使って算出した。
図22から、電気温水器負荷は通電時間が長いため、均一型の乱数修飾関数を用いた平準化では負荷は山型となることが分かる。また、双山型の乱数修飾関数を使った場合に最も平準化効果が大きいことが分かる。ここで、双山型をさらに強調するには、乱数修飾関数のべき数rを大きくすればよい。本実施例でも所定の地域単位で定期的に行われる通電可能時間設定タイマーの設定値をずらす作業も必要なくなる。
【0080】
ところで、現状では通電可能開始時刻で通電を開始する「対策なし」の電気温水器と、湯わき上がり時間を通電可能終了時刻に合せる「通電制御」型の電気温水器とが混在している。このため、図らずも負荷平準化が行われているのと実質同じような効果になっている。しかし、新型の電気温水器は通電制御型が多く、今後は通電制御型の比率が大きくなると予想され、その場合には新たに負荷平準化の手段を講じることが必要となる。この点、
通電制御型の電気温水器は、制御ソフトを追加するだけで本実施例の乱数を使った負荷平準化を実現可能であるため、本実施例の負荷平準化手法は、通電制御型電気温水器への導入に好適であるということができる。
【0081】
本実施例の負荷平準化装置の効果をシミュレーションにより確認する。
通電時間が図21の分布に従う50台の電気温水器(3kW/台)に本負荷平準化装置を適用する。それぞれの充電時間、発生した疑似乱数、疑似乱数に各種乱数修飾関数を掛合わせて求めた通電調整係数k、充電開始時刻(通電可能開始時刻を0時、通電可能時間を8時間とした)を図23に、乱数修飾関数ごとの合成負荷の状況を図24に示す。
図24において、「対策なし」の場合には充電容量150kW(3kW/台×50台)に対し最大電力147kWであるのが、双山型の負荷平準化を行った場合には最大電力84kWに平準化されている。
期待値を示す図22と対比してみると、図22に示す均一型の平準化の期待値は1.36kW/台であり、50台では68kWであるから、期待値とシミュレーション結果には若干のずれがあることが分かる。しかし、図24のグラフの形状と図22のグラフの形状には実施例1以上の高度の相関関係を認めることができ、検証台数が数百台以上となった場合には期待値とのずれは改善されことが推測される。よって、シミュレーションにより本実施例の負荷平準化装置の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、電気温水器や電動車両のみならず蓄電装置にも適用可能である。
なお、「電動車両」とは、電気自動車、電動スクータ、電動車いす等の車両に二次電池を搭載しており、外部から二次電池に充電された電力を使って走行用動力を得る車両のことをいう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の時間帯とは電気料金の異なる深夜電力時間帯等の特定電力時間帯における被通電機器の通電負荷平準化方法および装置に関し、例えば、電気自動車や電気温水器などの多数の被通電機器が深夜電力時間帯に通電を行う際の通電負荷平準化方法および装置に関する。
なお、本明細書では、午後11時から翌朝午前7時までの深夜電力および午前1時から午前6時までの第二深夜電力をあわせて「深夜電力」という場合がある。
また、本明細書において「普通充電」とは、急速充電ではない充電のことであり、100Vあるいは200Vコンセントを備えた車両外部の小型充電装置を使って、車両に搭載した二次電池を充電することをいい、「電気自動車」とは、動力源が二次電池で駆動されるモータのみである自動車、二次電池で駆動されるモータ以外の動力源例えばエンジンなどを有する自動車のことをいう。
【背景技術】
【0002】
電力会社は、日中と夜間の電力消費量の差や夏季とそれ以外の季節の電力消費量の差を縮め電力消費量の平準化(負荷平準化)を図ることを目的として、深夜電力料金をはじめとする種々の時間帯別契約を用意している。しかしながら、特定電力時間帯において、一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電気機器が一斉に充電を開始した場合、電力需要の増加が一時的に著しく増加し、その後一斉に落ち込むという問題が生じる。このような問題を解消すべく、家庭への普及が進んでいる電気温水器においては、深夜電力を利用した様々な負荷平準化手段が既に実用化されている(例えば、特許文献1ないし3)。
【0003】
また、電力会社は、一斉に通電を開始・終了することを回避するため、地域ごとに個別の通電可能時間設定タイマー(例えば、特許文献4)を設け、電気温水器の通電制御を行うことにより深夜通電地域の電力負荷が集中しないようにする運用を行っている。
しかしながら、上記タイマーの設置数が非常に多いことから、定期的に設定値をずらすなどの管理作業に多くの手間を要するという課題がある。
【0004】
特許文献5には、深夜電力時間帯枠における最低負荷時刻の電力需要に他の時間帯の電力需要を割り当てる手法が開示され、ここでは乱数を使って通電開始時間を調整する手法が提案されている。しかしながら、特許文献5では必要通電時間が一定時間以下であることを前提としており、電気温水器のように比較的通電時間の長い機器類への適用には適していない。
【0005】
特許文献6には、通信を使って通電時間を調整する手法も各種提案されている。しかしながら、当該手法は、負荷端末の数が数万台以上のオーダーになった場合には、同時通信によるトラフィック対策の問題などが生じることから、実用化は難しいと考えられる。
【0006】
ところで近年、電気自動車の普及に備え、集合住宅などの賃貸駐車場でも深夜電力を利用した充電装置の提供が考えられているが、平準化のための仕組みを設けなければ深夜料金適用時間の開始と同時に消費電力が急増するという課題が生じることになる。現時点においては電動車両の普及率は低いためこの種の問題は発生していないが、今後電動車両が普及するのに伴い、充電による電力消費ピークの発生は無視できない問題になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−18106号公報
【特許文献2】特開平6−180147号公報
【特許文献3】特開平6−180148号公報
【特許文献4】特開平10−197069号公報
【特許文献5】特許第4142837号公報
【特許文献6】特2008−160902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特定電力時間帯に一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電気機器(例えば、電気温水器や電気自動車)に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することを課題とする。
【0009】
また、深夜電力の電力需要の形態は季節や地域により多様であり、画一的な負荷平準化手段を採用することは難しい。さらに、近年、深夜電力需要の平準化を目的とした第2深夜電力(1時〜6時)の導入により、1つの負のピークを有する形態のみならず、2つの負のピークを有する形態も出現するようになってきている(図6参照)。このような多様な電力需要の形態に合わせて負荷平準化を図ることも本発明が解決しようとする課題である。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決することのできる、通電負荷平準化方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、発明者は、乱数修飾関数なる概念を発案し、これにより特定の通電機器についての電力需要の形態を制御することにより、負荷平準化を自律的に行うことを可能とした。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の技術手段から構成される通電負荷平準化方法に関する。
[1]時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯において複数の被通電機器に通電を行う際の通電負荷平準化方法であって、
各被通電機器について、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化方法。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
[2]乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする上記[1]の通電負荷平準化方法。
[式B]
[式C]
[3]乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする上記[2]の通電負荷平準化方法。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
[4]特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする上記[3]に記載の通電負荷平準化方法。
[5]被通電機器に、電気温水器および電動車両が含まれることを特徴とする上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の通電負荷平準化方法。
[6]上記[1]ないし[5]のいずれかに記載の通電負荷平準化方法をコンピュータに実施させるプログラム。
【0013】
また、本発明は、以下の技術手段から構成される通電負荷平準化装置に関する。
[7]時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯に通電される被通電機器と電気的に接続され通電制御を行う自律型の通電負荷平準化装置であって、
当該通電負荷平準化装置が、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
[8]乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする上記[7]の通電負荷平準化装置。
[式B]
[式C]
[9]下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む累積分布関数群を記憶する記憶手段を有し、記憶した累積分布関数群の中から選択された一の関数を乱数修飾関数fnに設定することを特徴とする上記[8]の通電負荷平準化装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
[10]特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を設定することを特徴とする上記[7]ないし[9]のいずれかに記載の通電負荷平準化装置。
[11]上記[7]ないし[10]のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電動車両用充電装置。
[12]上記[7]ないし[10]のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電気温水器。
なお、上記[1]および[7]における乱数rndについての「所定の範囲」とは、例えば、0≦rnd≦1、0<rnd≦1、0≦rnd<1あるいは0<rnd<1のことである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定電力時間帯に電気温水器や電気自動車などの電気機器に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することが可能となる。
また、電気機器の充電装置に簡易な負荷分散手段を組み込むことにより、多様な電力需要の形態に合わせた負荷平準化を自律的な仕組みで実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の負荷平準化手段を搭載した電気自動車普通充電装置の基本構成図である。
【図2】本発明の負荷平準化手段を搭載した電気温水器の基本構成図である。
【図3】通電開始時刻の設定を説明するための概念図である。
【図4】通電している確率を説明するためのグラフである。
【図5】累積分布関数を説明するためのグラフである。
【図6】ある地域における第2深夜電力の需要を示すグラフである。
【図7】前山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図8】r=5、a=8時間の場合の前山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図9】後山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図10】r=5、a=8時間の場合の後山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図11】双山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図12】r=5、a=8時間の場合の双山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図13】均一型、前山型、後山型、双山型の確率密度関数のグラフである。
【図14】均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数のグラフである。
【図15】均一型、前山型、後山型、双山型の乱数修飾関数のグラフである。
【図16】本発明の負荷平準化手段の機能概要説明図である。
【図17】乗用車の1日走行距離から推定した電気自動車の充電時間(普通充電)の予想例である。
【図18】実施例1に係る電気自動車50台の充電負荷(普通充電)の期待値のグラフである。
【図19】実施例1に係る電気自動車50台の充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数k、および充電開始時刻の一覧表である。
【図20】実施例1に係る乱数修飾関数ごとの合成負荷のグラフである。
【図21】実施例2に係る電気温水器50台の通電負荷(普通充電)の期待値のグラフである。
【図22】実施例2に係る電気温水器50台の通電負荷の期待値のグラフである。
【図23】実施例2に係る電気温水器50台の充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数k、および充電開始時刻の一覧表である。
【図24】実施例2に係る乱数修飾関数ごとの合成負荷のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を、《一》電気自動車普通充電装置および《二》電気温水器の例で説明する。以下の説明に現れる主な変数は次のとおりである。
【0017】
《主な変数》
a:通電可能時間
b:通電時間
k:通電調整係数
m:電気温水器調整係数
t:通電可能時間内のある時刻
t1:通電可能開始時刻
t2:通電可能終了時刻
Ts:通電開始時刻
Te:通電終了時刻
Tsm:最も遅い通電開始時刻
We:合成電力期待値
【0018】
《第一の実施形態:電気自動車普通充電装置》
(1)装置構成
図1に、本発明の負荷平準化手段を搭載した電気自動車普通充電装置の基本構成図を示す。当該装置は、電気自動車に電気を供給するコンセント、回路を開閉する開閉器、回路を短絡や地絡から保護する漏電遮断器、電力会社から電気を受ける受電装置、および開閉器を制御する制御装置から構成される。
電気自動車のバッテリ残量は、電気自動車から充電用ケーブルを使った通信(PLC:電力線通信)で送られ、或いは電気自動車に通信機能がない場合は充電者によって電気自動車のバッテリ残量計の読みを手入力で入力装置に入力される。制御装置は、バッテリ残量を基に通電時間を計算し、通電調整ロジックに従い通電開始・終了時刻を決定し、その時刻に開閉器を入切する。
なお、図1では複数台を同時に充電できる装置構成を示しているが、本発明の負荷平準化手段は1台用の充電装置でも適用できる。1台用の充電装置単独では受電容量は低減できないものの、ある地域における全充電需要の観点から見れば、充電開始時刻を調整することにより全充電需要の負荷平準化に貢献することができる。
【0019】
(2)通電開始時刻の決定方法
(2-1)通電可能時間帯の設定
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”を設定する。
深夜電力時間帯であればt1=23時、t2=7時(31時)を設定する。この場合、“通電可能時間a”は8時間となる。なお、t1,t2は利用者の都合で変更する(例えば早朝に充電を完了する)ことも可能である。
【0020】
(2-2)通電時間の算定
電気自動車の充電に必要な“通電時間b”は式1により算出される。式1中、「電気自動車定格充電時間」とは、バッテリ残量0%→100%の充電に要する時間のことである。なお、本明細書では充電を含む意味で「通電」という用語を用いる場合がある。
【0021】
[式1]b=電気自動車定格充電時間×(100%−バッテリ残量計指示値(%))/100
【0022】
(2-3)通電開始時刻の決定
(2-3-1)乱数の発生
制御装置内でその演算機能を使って0以上1未満の乱数を発生させる。乱数は、平方採中法、混合合同法などで得られる疑似乱数でよい。本明細書では、疑似乱数も含めた意味で「乱数」という用語を用いる場合がある。
【0023】
(2-3-2)乱数の変換
負荷配分を調整するために、乱数に予め設定してある“乱数修飾関数fn”を掛合わせることで、発生確率が一定である乱数をある確率密度関数に従う数列(通電調整係数k:0≦k≦1)に変換する。乱数修飾関数fnを用いた通電調整係数kの算出手順については後述する。
【0024】
(2-3-3)通電開始時刻および通電終了時刻の決定
“通電開始時刻Ts”は通電可能開始時刻t1からt1+(a−b)までの間の任意の時刻を選定できる。通電開始時刻Tsは、通電調整係数kを使って式2を使って求める。
[式2]Ts=t1+k×(a−b)
【0025】
“通電終了時刻Te”は、式3に示すように、通電開始時刻に通電時間bを加えて求めることができる。
[式3]Te=t1+k×(a−b)+b
【0026】
《第二の実施形態:電気温水器》
(1)装置構成
図2に、本発明の負荷平準化手段を搭載した電気温水器の基本構成図を示す。当該装置は、電気温水器本体、電気温水器に電気を供給する回路を開閉する開閉器、回路を短絡や地絡から保護する漏電遮断器、電力会社から電気を受ける受電装置、および開閉器を制御する制御装置から構成される。
電気温水器の湯残量は電気温水器貯湯槽の上下方向に複数取り付けられた温度センサデータで推定し、制御装置は湯残量を基に必要通電時間を計算する。制御装置は通電調整ロジックに従い通電開始・終了時刻を決定し、その時刻に開閉器を入切する。
通電制御方式を採用している電気温水器は既にこの構成になっており、その場合は制御装置の制御ソフトウェアの変更だけで対応することができる。
【0027】
(2)通電開始時刻の決定方法
(2-1)通電可能時間帯の設定
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”の設定については、第一の実施形態と同じである。また、深夜電力時間帯の場合、“通電可能時間a”は8時間となる。
【0028】
(2-2)通電時間の算定
電気温水器の必要通電時間の算定法は各種提案されているが、基本的には貯湯槽に複数設置した温度センサから貯湯槽水の平均温度を求め、炊きあがり温度(85℃)まで昇温するのに必要な入熱を電熱器出力で割り算することで求めることができ、これを“通電時間b”とする(式4参照)。
【0029】
[式4]b=(85℃−貯湯槽水平均温度(℃))×貯湯槽体積(L)/(電熱器出力(kW)×860kcal/kW)×電気温水器調整係数m
電気温水器調整係数m:熱放散や容器熱容量を考慮した係数 (>1)
【0030】
(2-3) 通電開始時刻および通電終了時刻の決定
“通電開始時刻Ts”および“通電終了時刻Te”の決定については、第一の実施形態と同じである(上記式2および3参照)。
【0031】
《乱数を使った負荷平準化の数学的な理論》
乱数を使った負荷平準化の数学的な理論を、深夜電力時間帯(23時〜7時)など特定の通電可能時間帯にある負荷を通電する場合の例で説明する。
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”と“通電可能時間a”の関係は式5のとおりとなる。
[式5]a=t2−t1
【0032】
通電時間をb(b≦a)とすると、通電開始時刻Tsは、通電可能開始時刻t1から最も遅い通電開始時刻Tsmまでの範囲で任意の時刻を選択することができる。“最も遅い通電開始時刻Tsm”は式6により算出される。
[式6]Tsm=t2−b=t1+a−b
【0033】
通電開始時刻Tsは、通電調整係数k(0≦k≦1)を使って式7で表現することができる。
[式7]Ts=t1+k×(a−b)
【0034】
ある時刻に通電がされている条件を、図3を参照しながら具体例で説明する。
通電開始可能時刻t1から通電可能終了時刻t2の間のある時刻t1+t(0≦t≦a)において、通電がされている条件は、t1+tが通電時間帯(図3のii)内にあることから、下記の式8により表される。
[式8]t1+k×(a−b)≦t1+t≦t1+k×(a−b)+b
【0035】
ここで、式8中、t1は全辺に加わることから除くと下記式9が導かれる。
[式9]k×(a−b)≦t≦k×(a−b)+b
【0036】
さらに式9より、通電調整係数kについて下記式9−1および9−2が導かれる。
[式9−1]k≦t/(a−b)
[式9−2](t−b)/(a−b)≦k
【0037】
ここで図3を見ると、b≧0.5aの場合(上段)とb<0.5aの場合(下段)では条件の算出式を異なるものとする必要があることが分かる。すなわち、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦bの間(図3上段網掛け部分)は必ず通電されることとなるため、b≧0.5aの場合とそれ以外の場合を分けて、時刻t1+tで通電する条件を求める必要があることが分かる。
【0038】
(i)b≧0.5aの場合
(i−1)0≦t<a−bの場合、式9−2の左辺が負となることから、下記の式10−1が導かれる。
[式10−1]0≦k≦t/(a−b)
【0039】
(i−2)a−b≦t<bの場合、式9−1の右辺は1以上となり、式9−2の左辺は0以下となることから、下記の式10−2が導かれる。tがこの範囲の場合には、全ての場合に通電されることとなる。
[式10−2]0≦k≦1
【0040】
(i−3)b≦t≦aの場合、式9−1の右辺が1以上となることから、下記の式10−3が導かれる。
[式10−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
【0041】
(ii)b<0.5aの場合
(ii−1)0≦t<bの場合、式9−2の左辺が負となることから、下記の式11−1が導かれる。
[式11−1]0≦k≦t/(a−b)
【0042】
(ii−2)b≦t<a−bの場合、下記の式11−2が導かれる。
[式11−2](t−b)/(a−b)≦k≦t/(a−b)
【0043】
(ii−3)a−b≦t≦aの場合、式9−2の右辺が1以上となることから、下記の式11−3が導かれる。
[式11−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
ここでkが確率密度関数p(k)に従うとすると、0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0となる。
また、確率密度関数p(k)の特性として下記の式12が導かれる。
[式12]
【0044】
上記(i)および(ii)のそれぞれの場合において時刻t1+tに通電している確率Ponを求めるには、先に求めたkの範囲で確率密度関数p(k)を積分すればよい。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式13が導かれ、b<0.5aの場合には下記式14が導かれる。
【0045】
[式13]
【0046】
[式14]
【0047】
通電している確率Ponに被通電機器の消費電力を掛け合せるとことで、負荷電力の期待値を求めることができる。したがって、通電している確率Ponは、被通電機器の数(負荷数)が一定数以上であり合成電力が期待値に等しくなると考えられる場合の合成負荷の形状を表していることになる。
なお、全時間帯でPon(t)を積分すると通電時間の期待値となるため、下記式15に示すようにその値はbとなる。
【0048】
[式15]
【0049】
また、通電調整係数kを発生確率一定の乱数で与えると、確率密度関数p(k)=1であることから通電している確率はPon(t)に等しくなる。すなわち、多数の負荷の通電開始時刻Tsを乱数で与えた通電調整係数kで式7のとおり決定すると、その通電している確率はPon(t)に等しくなる。そして、その合成電力の大きさの期待値、すなわち合成電力期待値Weは、式16により表される。
[式16]We=負荷電力×負荷数×Pon(t)
【0050】
ここで、通電調整係数kを発生確率一定の乱数で与えた場合に時刻t1+tに通電している確率Ponを求める。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式18が導かれ、b<0.5aの場合には下記式19が導かれる。
なお、0以上1以下の値を取る乱数の確率密度関数prnd(k)は、下記式17およびprnd(k)=一定値より prnd(k)=1 となる。
[式17]
【0051】
[式18]
【0052】
[式19]
【0053】
図4は、通電可能時間a=8とし、通電時間bを1〜7時間の範囲で変えた場合における通電している確率Ponを図示したものである。図4を見ると、通電可能時間aに対する通電時間bの比(b/a)が小さい場合には通電している確率は比較的平坦な形状となるが、b/a=0.5付近で山型となり、b/aが大きくなると再び平坦になる。これは、図3の例で説明したように、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦b(図3上段網掛け部分)の間は必ず通電することから、bがある程度大きくなると確率密度関数p(k)をどのように変えても通電している確率Ponの形状の調整が難しくなることを示している。換言すれば、b/aが大きくなると通電開始時刻Tsを調整できる幅a−bが短くなり、調整できる範囲が小さくなることに対応している。
以上のことから、個々の負荷の通電開始時刻を調整することで全負荷の合成電力の形状を調整するためには、通電調整係数kの確率密度関数p(k)を負荷の状況に合わせて調整する必要があることが分かる。また、乱数を用いて通電調整係数kを決定する場合には、乱数に後述の“乱数修飾関数fn”を掛合わせて、確率密度一定の乱数を確率密度関数p(k)に従う分布を持つ数列に変換する必要がある。
【0054】
《累積分布関数》
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)について説明する。
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)は、k<0あるいはk>1ではp(k)=0であることから、下記の式20で表すことができる。これを図示したのが図5であり、例えば、通電調整係数kがk〜k+Δkの範囲の値になる確率はP(k+Δk)−P(k)となる。
[式20]
【0055】
《乱数修飾関数》
本明細書で乱数修飾関数とは、累積分布関数P(k)の逆関数のことをいう。図5の例で説明すると、0以上1以下の値を取る乱数を考えた場合、その確率密度関数はprnd(k)=1となる。乱数の累積分布関数は確率密度関数の積分で求められPrnd(k)=kとなり、P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数の発生確率は Prnd(P(k1+Δk))−Prnd(P(k1))=P(k1+Δk)−P(k1)となる。P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせると、乱数はk1以上k1+Δk以下の間に分布する。ただし、一義にkが決まるためにはP(k)は単調増加関数(p(k)>0、ただし1点でp(k)=0は許容)である必要がある。当然のことながら乱数にP(k)の逆関数を掛合わせてできたk1以上k1+Δk以下の間に分布する数列の発生する確率はP(k1+Δk)−P(k1)となる。この関係はk1およびk1+Δkが0以上1以下である限り常に成立する。すなわち、0以上1以下の値を取る発生確率一定の乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせて得られた数列がk1以上k1+Δk以下の値を取る確率は、P(k1+Δk)−P(k1)となる。これは累積分布関数の定義により、得られた数列の累積分布関数はP(k)に等しいことになる。以上により発生確率一定の乱数を累積分布関数P(k)あるいはその微分で求められる確率密度関数p(k)に従う数列に変換できたことになる。そして、この累積分布関数P(k)の逆関数が乱数修飾関数となる。
以上より、0以上1以下の乱数に乱数修飾関数を掛合わせて通電調整係数kを算出し、上記式7により通電開始時刻Tsを決定することで、通電している確率Pon(t)を確率密度関数p(k)あるいは累積分布関数P(k)で制御することができる。
【0056】
乱数修飾関数fnを用いた通電開始時刻Tsの算出手順を数式で表現すると下記(i)〜(iii)のとおりとなる。
(i)0以上1以下の乱数rndを発生する。発生する乱数は、実用的には疑似乱数で十分である。疑似乱数の発生方法は各種提案されているが、ここでは演算の簡単な混合合同法の例を示す。
a×p+q=a′4桁の疑似乱数を得るため、下2桁から5桁を利用する。
たとえば、最初のa=5678、p=678、q=789 とする。
5678×678+789=3850473 → 0.5047
5047×678+789=3422655 → 0.2265
2265×678+789=1536459 → 0.3645 (以下同様)
なお、混合合同法で得られた疑似乱数rndは0以上1未満となるが、実用上の問題はない。
【0057】
(ii)疑似乱数に乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを決定する。すなわち、通電調整係数kは下記式21により表すことができる。
[式21]
【0058】
(iii)通電開始時刻Tsを上記式8により決定する。
【0059】
《乱数修飾関数の類型化》
乱数修飾関数は、複数の型を予め用意しておき、電力需要の状況に応じて最適な型を選択するのが好ましい。深夜電力の場合、例えば負のピークとなる深夜4時頃を挟んで需要が増減する一山型の需要曲線が描かれる場合もあれば、図6に示すように深夜1時頃と早朝6時頃に負のピークが生じる双山型の需要曲線が描かれる場合もある。近年、深夜需要の平準化を目的とした第2深夜電力(1時〜6時)の導入により、この時間帯に通電する電気温水器が普及したことで深夜の電力需要がかさ上げされかなりの平準化が達成されるとともに、電力需要の負のピークが2回発生する状況が増えている。また、季節によっても電力需要曲線の形状は異なるものとなる。このような様々な電力需要に対応した平準化を実現するためには、類型化された乱数修飾関数の利用が効果的である。
通電調整係数kの確率密度関数p(k)に様々な関数を導入した際の通電している確率Pon(t)を求める手順を以下に説明する。
【0060】
(a)前山型
通電を早い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方に偏らせる分布(以下「前山型」という)を考える。前山型を実現するためには、べき数で減少させる関数として下記式22の関数を考える。
[式22]p(k)=(r+1)×(1−k)^r
r:正の整数
【0061】
式22ではrを大きくするほど前に偏る。前山型の確率密度関数p(k)のグラフと式22の関数で上記式13および14により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図7に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図8に示す。この場合もb/aの比が小さいほど早い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、rは任意の正の整数を選択することができるが、例えば3〜10の範囲で選択すると一般的な電力需要に対応できることが多いと思われる(以下同様)。
【0062】
(b)後山型
通電を遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが大きい方に偏らせる分布(以下「後山型」という)を考える。後山型を実現するためには、べき数で増加させる関数として下記式23の関数を考える。
[式23]p(k)=(r+1)×k^r
r:正の整数
式23ではrを大きくするほど後に偏る。後山型の確率密度関数p(k)のグラフと式23の関数で上記式13および14により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図9に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図10に示す。この場合もb/aの比が小さいほど遅い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。
【0063】
(c)双山型
通電を早い時間帯および遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方および大きい方に偏らせる分布(以下「双山型」という)を考える。前山型、後山型を平均した関数として下記式24の関数を考える。
[式24]p(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
r:正の整数
式24ではrを大きくするほど両端に偏る。双山型の確率密度関数p(k)のグラフと式24の関数で上記式13および14により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図11に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図12に示す。この場合もb/aの比が小さいほど両端時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、図6のような電力需要の場合には、双山型が好適である。
【0064】
(d)均一型
乱数をそのまま使う場合はp(k)=1である。これを均一型と呼ぶこととする。
【0065】
(e)均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数P(k)
上記式20にそれぞれの型の確率密度関数p(k)を導入すると下記式25のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の確率密度関数を図13に、累積分布関数を図14に示す。
[式25]
均一型 P1(k)=k
前山型 P2(k)=−(1−k)^(r+1)
後山型 P3(k)=k^(r+1)
双山型 P4(k)=(k^(r+1)−(1−k)^(r+1))/2
【0066】
上述したように、通電開始時刻Tsを制御するための乱数修飾関数(乱数をrndと表現)は、累積分布関数の逆関数となる。それぞれの型の乱数修飾関数を下記式26のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の乱数修飾関数を図15に示す。
[式26]
【0067】
均一型(k=rnd)以外の逆関数は代数的に表現できないものもあり、通電時間を制御する制御装置の演算能力にも限りがあるため、直線近似した結果(k=m×rnd+n)を下記に示す。ここで、表1は前山型乱数修飾関数f2であり、表2は後山型乱数修飾関数f3であり、表3は双山型乱数修飾関数f4である。
【表1】
【0068】
【表2】
【表3】
【0069】
以上、代表的な乱数修飾関数の型を示したが、乱数修飾関数fnは下記条件を満たせばどのような関数でも良い。
ア)確率密度関数 p(k)
0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0
[式27]
【0070】
イ)累積分布関数 P(k)
[式28]
【0071】
ウ)乱数修飾関数 fn(rnd) 累積分布関数P(k)の逆関数
[式29]
【0072】
《乱数を使った負荷平準化についての補足》
乱数および乱数修飾関数を使って通電開始時刻を調整し負荷平準化を行う手法では、通電可能時間aと通電時間bの比率b/aの大きさにより得られる負荷平準化効果が異なり、特にb/aが大きくなると負荷平準化効果が少なくなるとともに、得られる合成負荷の形状もkの確率密度関数p(k)の形状から予想されるイメージと異なってくる。適宜シミュレーション等を行い、それぞれの負荷の特性に適した乱数修飾関数の選定が重要である。
上記で例示した乱数修飾関数はb/aに係わらず一定の関数であった。b/aの比率で乱数修飾関数を変更するとさらに大きな平準化効果は得られるが、演算処理が非常に複雑になり通常の制御装置に使われるCPUでは対応できなくなる。本負荷平準化装置は最小の装置付加かつ低コストで対策が行えることが最大の特徴であり、上記で例示した程度の単純な乱数修飾関数でもかなりの効果を得られることから、この程度の関数で十分と言える。
b/aが小さい場合は自由度が大きい分負荷平準化効果は大きいが、その分疑似乱数のばらつきの影響も大きくなり、台数が少ない場合の効果は期待値よりもかなり小さくなる傾向がある。シミュレーションでの十分な検証が必要である。
電力需要の状況や負荷の状況は変化することからこれら変化に柔軟に対応するために、制御装置には上記で例示したような複数の乱数修飾関数を準備しておき、状況に応じて切り替えできるようにしておくことが望ましい。
【0073】
《小括》
以上に説明した本発明の負荷平準化手段の機能概要説明図が図16であり、その特徴をまとめると次のとおりである。
(一)中央局と通信を使った大規模な制御システムでなく、乱数を使うことでそれぞれの機器毎に独自に確率論的に制御を行い、機器数が非常に多いことから合成負荷は目標とした形態(確率論の期待値)に制御できる自律分散制御システムである。
(二)それぞれの機器は独立して通電開始時刻を決定できるため、運転機器の追加があっても他の機器の通電開始時刻に影響がなく、制御は非常に簡単でかつ制約が極めて小さい。
(三)装置構成は通常の機器電源装置に開閉器と制御装置を付加するだけであり、元々の装置に深夜電力の利用など負荷通電時間調整機能がある場合は、制御ソフトウェアの追加のみで対応できるなど非常に簡単な付加で機能を実現できる。したがって、機器コストや運用コストは極めて安価である。(定期的に行われる通電可能時間設定タイマーの設定値をずらす作業も必要なくなる。)
(四)乱数修飾関数を導入したことで合成負荷の形態を自由に調整できることから、さまざまな負荷形態、電力需給形態に柔軟に対応可能である。
【0074】
以下では本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
実施例1は、電気自動車の充電負荷の平準化手法に関する。
図17に、乗用車の1日走行距離から推定した電気自動車の充電時間(普通充電)の予想例を示す。図17から、約30%の電気自動車は走行しないことから充電が不要であること、また充電時間の短い電気自動車の割合が多いことが分かる。
【0076】
図18に、各種乱数修飾関数で負荷平準化を行った場合の電気自動車普通充電の充電負荷の期待値のグラフを示す。図18では、充電負荷容量を3kW/台、通電可能時間8時間として、充電負荷の期待値を式16を使って求めている。図18中の各グラフは次の条件を意味している。
対策なし: 通電可能開始時刻で一斉に充電開始
通電制御: 充電完了を通電可能終了時刻に合せる
均一型: 均一型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
前山型: 前山型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
後山型: 後山型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
双山型: 双山型の乱数修飾関数を使った乱数による負荷平準化
【0077】
図18から、「対策なし」では通電可能開始時刻付近に大きなピークを生じ、「通電制御」では通電可能終了時刻付近に大きなピークを生じることが分かる。また、各種乱数を使った負荷平準化を行うと、電気自動車普通充電は充電時間が比較的短いことから、乱数修飾関数の特性に合致した平準化が行われることが分かる。より詳細には、均一型の乱数修飾関数を使うと負荷のピークは対策なしの場合に比べて約1/4に低減でき、前山型および後山型の乱数修飾関数を使うと負荷のピークは対策なしの場合に比べて約1/2に低減できることが分かる。この場合、所定の地域単位で定期的に行われる通電可能時間設定タイマーの設定値をずらす作業も必要なくなる。また、双山型の乱数修飾関数は、図6のような深夜の電力需要の状況の場合に好適であることが分かる。
なお、利用者の受電容量低減の観点からは最大電力が最も小さくなる均一型が望ましいといえる。マンションなど充電台数が多い需要家でこのような負荷平準化対策を行えば電気料金の基本料金の引き下げが可能となる。
【0078】
本実施例の負荷平準化装置の効果をシミュレーションにより確認する。
充電時間が図17の分布に従う50台の電気自走車の普通充電(3kW/台)に本実施例の負荷平準化装置を適用する。それぞれの充電時間、発生した疑似乱数、疑似乱数に各種乱数修飾関数を掛合わせて求めた通電調整係数k、充電開始時刻(通電可能開始時刻を0時、通電可能時間を8時間とした)を図19に、乱数修飾関数ごとの合成負荷の状況を図20に示す。
図20において、「対策なし」の場合には充電容量150kW(3kW/台×50台)に対し最大電力105kWであるのが、均一型の負荷平準化を行った場合には最大電力42kWに平準化されている。
期待値を示す図18と対比してみると、図18に示す均一型の平準化の期待値は0.453kW/台であり、50台での最大電力は23kWであるから、期待値とシミュレーション結果には多少のずれがあることが分かる。しかし、図20のグラフの形状と図18のグラフの形状には相関関係を認めることができ、検証台数が数百台以上となった場合には期待値とのずれは改善されことが推測される。よって、シミュレーションにより本実施例の負荷平準化装置の効果を確認することができた。
【実施例2】
【0079】
実施例2は、電気温水器の通電負荷の平準化手法に関する。
図21に、深夜電力利用の電気温水器の通電時間例を示す。図21から、電気温水器の通電時間は電気自動車普通充電時間に比べてかなり長く、傾向が異なることが分かる。
図22に、各種乱数修飾関数で負荷平準化を行った場合の電気温水器の通電負荷の期待値のグラフを示す。ここで、電気温水器の電熱器容量は通常4〜6kWであるが、図22では、電気自動車に係る図18と比較するため電熱器容量を3kW/台、通電可能時間8時間としている。通電負荷の期待値は、実施例1と同様に式16を使って算出した。
図22から、電気温水器負荷は通電時間が長いため、均一型の乱数修飾関数を用いた平準化では負荷は山型となることが分かる。また、双山型の乱数修飾関数を使った場合に最も平準化効果が大きいことが分かる。ここで、双山型をさらに強調するには、乱数修飾関数のべき数rを大きくすればよい。本実施例でも所定の地域単位で定期的に行われる通電可能時間設定タイマーの設定値をずらす作業も必要なくなる。
【0080】
ところで、現状では通電可能開始時刻で通電を開始する「対策なし」の電気温水器と、湯わき上がり時間を通電可能終了時刻に合せる「通電制御」型の電気温水器とが混在している。このため、図らずも負荷平準化が行われているのと実質同じような効果になっている。しかし、新型の電気温水器は通電制御型が多く、今後は通電制御型の比率が大きくなると予想され、その場合には新たに負荷平準化の手段を講じることが必要となる。この点、
通電制御型の電気温水器は、制御ソフトを追加するだけで本実施例の乱数を使った負荷平準化を実現可能であるため、本実施例の負荷平準化手法は、通電制御型電気温水器への導入に好適であるということができる。
【0081】
本実施例の負荷平準化装置の効果をシミュレーションにより確認する。
通電時間が図21の分布に従う50台の電気温水器(3kW/台)に本負荷平準化装置を適用する。それぞれの充電時間、発生した疑似乱数、疑似乱数に各種乱数修飾関数を掛合わせて求めた通電調整係数k、充電開始時刻(通電可能開始時刻を0時、通電可能時間を8時間とした)を図23に、乱数修飾関数ごとの合成負荷の状況を図24に示す。
図24において、「対策なし」の場合には充電容量150kW(3kW/台×50台)に対し最大電力147kWであるのが、双山型の負荷平準化を行った場合には最大電力84kWに平準化されている。
期待値を示す図22と対比してみると、図22に示す均一型の平準化の期待値は1.36kW/台であり、50台では68kWであるから、期待値とシミュレーション結果には若干のずれがあることが分かる。しかし、図24のグラフの形状と図22のグラフの形状には実施例1以上の高度の相関関係を認めることができ、検証台数が数百台以上となった場合には期待値とのずれは改善されことが推測される。よって、シミュレーションにより本実施例の負荷平準化装置の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、電気温水器や電動車両のみならず蓄電装置にも適用可能である。
なお、「電動車両」とは、電気自動車、電動スクータ、電動車いす等の車両に二次電池を搭載しており、外部から二次電池に充電された電力を使って走行用動力を得る車両のことをいう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯において複数の被通電機器に通電を行う際の通電負荷平準化方法であって、
各被通電機器について、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化方法。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【請求項2】
乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする請求項1の通電負荷平準化方法。
[式B]
[式C]
【請求項3】
乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする請求項2の通電負荷平準化方法。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
【請求項4】
特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする請求項3に記載の通電負荷平準化方法。
【請求項5】
被通電機器に、電気温水器および電動車両が含まれることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の通電負荷平準化方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の通電負荷平準化方法をコンピュータに実施させるプログラム。
【請求項7】
時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯に通電される被通電機器と電気的に接続され通電制御を行う自律型の通電負荷平準化装置であって、
当該通電負荷平準化装置が、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【請求項8】
乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする請求項7の通電負荷平準化装置。
[式B]
[式C]
【請求項9】
下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む累積分布関数群を記憶する記憶手段を有し、記憶した累積分布関数群の中から選択された一の関数を乱数修飾関数fnに設定することを特徴とする請求項8の通電負荷平準化装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
【請求項10】
特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を設定することを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の通電負荷平準化装置。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電動車両用充電装置。
【請求項12】
請求項7ないし10のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電気温水器。
【請求項1】
時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯において複数の被通電機器に通電を行う際の通電負荷平準化方法であって、
各被通電機器について、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化方法。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【請求項2】
乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする請求項1の通電負荷平準化方法。
[式B]
[式C]
【請求項3】
乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする請求項2の通電負荷平準化方法。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
【請求項4】
特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする請求項3に記載の通電負荷平準化方法。
【請求項5】
被通電機器に、電気温水器および電動車両が含まれることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の通電負荷平準化方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の通電負荷平準化方法をコンピュータに実施させるプログラム。
【請求項7】
時刻t1から開始し時刻t1+aに終了する特定電力時間帯に通電される被通電機器と電気的に接続され通電制御を行う自律型の通電負荷平準化装置であって、
当該通電負荷平準化装置が、被通電機器の通電時間bに基づき最も遅い通電開始時刻Tsmを算定し、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で被通電機器の通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする通電負荷平準化装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【請求項8】
乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする請求項7の通電負荷平準化装置。
[式B]
[式C]
【請求項9】
下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む累積分布関数群を記憶する記憶手段を有し、記憶した累積分布関数群の中から選択された一の関数を乱数修飾関数fnに設定することを特徴とする請求項8の通電負荷平準化装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
【請求項10】
特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を設定することを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の通電負荷平準化装置。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電動車両用充電装置。
【請求項12】
請求項7ないし10のいずれかに記載の通電負荷平準化装置を搭載した電気温水器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−24325(P2011−24325A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166493(P2009−166493)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
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