説明

造水システム

【課題】風力エネルギーを熱エネルギーに変換し、その熱を利用して造水する新規な造水システムを提供する。
【解決手段】造水システムD1は、風力により回転する風車1と、エネルギー変換装置2と、導管3と、造水装置4と、を備える。エネルギー変換装置2は、風車1の回転エネルギーを熱エネルギーに変換し、熱媒体を加熱する。導管3は、エネルギー変換装置2により加熱した熱媒体を輸送する。造水装置4は、導管3に接続され、輸送された熱媒体の熱を利用して造水する。この造水装置4は、熱交換器41と、取水管42と、排水管43と、蒸気管44と、復水器45とを有する。そして、加熱した熱媒体と取水した原水(例、海水)とが熱交換器41に送られ、熱媒体の熱によって原水を加熱して蒸発させ、発生した水蒸気を蒸気管44を通して復水器45に送り、冷却する。冷却して得られた真水(例、淡水)は、貯水槽47に送られ、蓄えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力エネルギーを熱エネルギーに変換し、その熱を利用して造水する造水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な人口増加や気候変動により、水不足が深刻化しつつあり、水資源の確保が重要な課題となっている。こうした状況から、例えば海水から淡水(真水)を造水し、飲料水などの生活用水や農工業用水として利用する海水淡水化などの造水技術が注目されている。
【0003】
造水方法としては、蒸発法や逆浸透法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。蒸発法は、例えば海水を加熱して蒸発させ、発生した水蒸気を冷却して真水を得る方法である。逆浸透法は、塩類濃度が高い水(例、海水)と低い水(例、真水)との間を逆浸透膜(半透膜)で仕切り、浸透圧より大きい圧力を高濃度側に加えて真水を得る方法である。
【0004】
その他、最近では、膜蒸留法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。膜蒸留法は、温めた海水から発生する水蒸気を、水蒸気は通すが水滴は通さない多孔質疎水性膜を使用して取り出し、冷却して真水を得る方法である。具体的には、配管内の空間を長手方向に延びる多孔質疎水性膜で仕切り、片側に温海水を通し、膜の反対側に通り抜けた水蒸気を外部から冷却して水滴を生じさせ、真水を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003‐126841号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“膜蒸留海水淡水化システム”、[online]、株式会社竹中工務店、[平成22年4月15日検索]、インターネット<URL:http://www.takenaka.co.jp/environment/water/kaisui.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の造水システムでは、熱や電力などのエネルギーが必要であり、そのエネルギー源として、一般的には化石燃料が使用されている。そのため、エネルギー源の制約があり、造水コストも高い。一方、エネルギー源として太陽熱エネルギーを利用することも考えられるが、安定した造水を行うためには、大規模な集光集熱部が必要となり、広大な敷地が必要になる。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、風力エネルギーを熱エネルギーに変換し、その熱を利用して造水する新規な造水システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の造水システムは、風力により回転する風車と、エネルギー変換装置と、導管と、造水装置と、を備えることを特徴とする。エネルギー変換装置は、風車の回転エネルギーを熱エネルギーに変換し、熱媒体を加熱する。導管は、エネルギー変換装置により加熱した熱媒体を輸送する。造水装置は、導管に接続され、輸送された熱媒体の熱を利用して造水する。
【0010】
本発明の造水システムは、風車の回転エネルギーを直接熱エネルギーに変換し、その熱を利用して造水する従来にない新規な造水システムである。また、エネルギー源として風力エネルギーを利用しているため、在来の化石燃料を使用する場合に比較して、エネルギー源の制約が少なく、造水コストを安く抑え、CO2の排出も抑えることができる。風車を使用しているため、太陽熱を利用する場合に比較して、狭い敷地にも設置することができる。
【0011】
本発明の造水システムの一形態としては、さらに、導管から分岐する分岐導管と、分岐導管に流れる熱媒体の流量を調整する分岐流量調整弁と、分岐導管に接続され、分岐された熱媒体の熱を蓄える蓄熱器と、を備える構成が挙げられる。
【0012】
この構成によれば、エネルギー変換装置により加熱した一部の熱媒体の熱を蓄熱器に蓄えることができ、風況に左右されることなく、必要に応じてその熱を取り出すことができる。そして、蓄熱器に蓄えた熱エネルギーは、例えば蒸気タービンや蒸気ピストンといった蒸気機関の熱源に利用して、機械的(力学的)エネルギーに変換し、仕事として取り出すことができる。また、分岐流量調整弁を備えることで、造水装置に供給する熱媒体の流量と、蓄熱器に供給する熱媒体の流量とを調整することができる。そのため、例えば、造水装置による造水量と、蓄熱器に蓄えた熱から取り出す仕事量とを設置場所の環境や需要に応じて制御することが可能であり、エネルギーの有効利用を図ることができる。
【0013】
上記した蓄熱器を備える造水システムの一形態としては、蓄熱器に蓄えられた熱を利用して発電する発電装置を備える構成が挙げられる。
【0014】
この構成によれば、造水と発電とを同時に行うことができる。発電装置としては、例えば、蒸気タービンと発電機とを組み合わせた構成が挙げられる。この場合、蓄熱器から発電に必要な蒸気を蒸気タービンに供給し、蒸気タービンを回転させ、発電機を駆動して発電する。また、上記した発電装置は、風車の回転エネルギーを直接熱エネルギーに変換し、その熱を利用して発電する従来にない新規な発電装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の造水システムは、風力エネルギーを熱エネルギーに変換し、その熱を利用して造水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1に係る造水システムの一例を示す模式図である。
【図2】実施の形態2に係る造水システムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を、図を用いて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0018】
(実施の形態1)
図1に示す実施の形態1に係る造水システムD1は、風車1と、エネルギー変換装置2と、導管3と、造水装置4とを備える。以下、この造水システムD1の構成を詳しく説明する。
【0019】
風車1は、ブレード10を有し、風力により回転する。この例では、風車1は、地上に立設された塔101の上部にナセル102が設置され、そのナセル102に回転軸11が回転可能に支持された水平軸風車である。この風車1は、回転軸11の先端に固定されたハブ12に3枚のブレード10が放射状に取り付けられている。
【0020】
エネルギー変換装置2は、風車1の回転エネルギーを熱エネルギーに変換し、熱媒体を加熱する。熱媒体としては、例えば、水、油、液体金属(Na、Pbなど)、溶融塩などの液体、並びに気体が挙げられる。また、エネルギー変換装置2は、ナセル102に格納されている。エネルギー変換装置2において、回転エネルギーを熱エネルギーに変換する方式としては、例えば、誘導加熱を利用する方式や流体摩擦を利用する方式が挙げられる。エネルギー変換装置2の具体例を以下に示す。
【0021】
誘導加熱を利用するエネルギー変換装置の一例としては、磁場発生部と、少なくとも一部が導電材料で形成される加熱部と、熱媒体が流通する配管とを有する構成が挙げられる。この加熱部には磁場発生部による磁束が通過し、また、配管は加熱部に設けられ、加熱部と配管とは熱的に接続されている。そして、風車の回転軸に回転軸と連動して回転する回転体を取り付け、この回転体に対向するように加熱部を固定すると共に、回転体から加熱部を磁束が通過するように磁場発生部を設置する。このエネルギー変換装置は、風車の回転に伴い回転体が回転し、加熱部を通過する磁束が変化することで、加熱部に誘導電流(渦電流)が発生して加熱部が誘導加熱され、加熱部から熱を受け取って配管内の熱媒体を加熱する。
【0022】
なお、磁場発生部としては、永久磁石やコイル(電磁石)を使用することができる。コイルとしては、常電導の銅コイルや超電導コイルが挙げられる。また、加熱部に使用する導電材料としては、例えば、アルミニウムや銅、鉄などの金属が挙げられる。
【0023】
流体摩擦を利用するエネルギー変換装置の一例としては、風車で駆動する油圧ポンプとオリフィスとを組み合わせた構成が挙げられる。油圧ポンプには熱媒体(例、油)が流通する配管が接続され、この配管の途中にオリフィスが設けられている。このエネルギー変換装置は、風車の回転力によって油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプにより風車の回転エネルギーを圧力エネルギーに変換する。そして、油圧ポンプにより加圧された熱媒体を狭いオリフィスから高速に噴出して、オリフィス後段の低速の熱媒体に衝突させることで、摩擦熱を発生させ、熱媒体を加熱する。つまり、この過程において、オリフィスにより圧力エネルギーを運動エネルギーに変換し、噴出した熱媒体の衝突、摩擦により熱エネルギーに変換する。
【0024】
導管3は、エネルギー変換装置2により加熱した熱媒体を、塔101の下部(地上)に設置された造水装置4に輸送する。
【0025】
造水装置4は、導管3に接続され、導管3によって輸送された熱媒体の熱を利用して造水する。この例では、造水装置4は、熱交換器41と、取水管42と、排水管43と、蒸気管44と、復水器45とを有する。熱交換器41内には第一熱交換管41aと第二熱交換管41bとが配置されており、第一熱交換管41aには導管3が接続され、第二熱交換管41bには取水管42と排水管43とが接続されている。この取水管42には取水ポンプ46が取り付けられており、取水ポンプ46によって汲み上げられた原水(例、海水)が取水管42を通って第二熱交換管41bに送られ、排水管43から排出される。また、第二熱交換管41bの途中には蒸気管44が接続されている。そして、第一熱交換管41aに流れる熱媒体の熱によって第二熱交換管41bに流れる原水を加熱して蒸発させ、発生した水蒸気を蒸気管44を通して復水器45に送り、冷却する。水蒸気を冷却して得られた真水(例、淡水)は、貯水槽47に送られ、蓄えられる。なお、原水を加熱する際、原水を沸騰させ、全ての水分を蒸発させる必要は必ずしもなく、水分が蒸発し易い程度(例えば40°以上、好ましくは60°以上)に加熱できればよい。
【0026】
また、第一熱交換管41aを通過し、熱交換が行われた熱媒体は、循環ポンプ31により復路管32を通って、エネルギー変換装置2に供給されるようになっている。つまり、エネルギー変換装置2と造水装置4との間で熱媒体が循環するように構成されている。
【0027】
上記した造水システムD1において、処理する原水としては、海水の他、河川水、湖水、下水などが挙げられる。海水の場合は、水分を蒸発させることで海水の塩分濃度を高めることができ、塩分濃度の高い海水から効率良く塩を取り出すことも可能である。勿論、全ての水分を蒸発させ、塩を取り出してもよい。下水の場合は、水分を蒸発させることで下水汚泥を濃縮することができ、下水汚泥を減量化して効率良く処理することができる。
【0028】
また、取水管42の取水口には、原水中の濁質を除去する精密濾過膜を取り付けておくことが好ましい。
【0029】
(実施の形態2)
図2に示す実施の形態2に係る造水システムD2は、さらに、蓄熱器5と発電装置6とを備える点が、図1に示す実施の形態1に係る造水システムD1と相違し、以下ではその相違点を中心に説明する。
【0030】
蓄熱器5及び発電装置6は、塔101の下部(地上)に設置されている。蓄熱器5は、導管3から分岐する分岐導管33に接続され、分岐された熱媒体の熱を蓄える。この例では、蓄熱器5内に、蓄熱材が充填されると共に、蓄熱配管51と放熱配管52とが配置されている。そして、蓄熱配管51に分岐導管33が接続され、蓄熱配管51に流れる熱媒体によって蓄熱材に熱を蓄える。また、放熱配管52には二次熱媒体(例、水)が流通しており、蓄熱材と二次熱媒体との熱交換により、放熱配管52内の二次熱媒体を蒸気化する。発生した二次熱媒体の蒸気(例、水蒸気)は、放熱配管52を介して発電装置6に送られる。
【0031】
ここで、蓄熱配管51を通過し、熱交換が行われた熱媒体は、造水装置4の第一熱交換管41aの場合と同様、循環ポンプ31により復路管32を通って、エネルギー変換装置2に供給されるようになっている。つまり、エネルギー変換装置2と蓄熱器5との間で熱媒体が循環するように構成されている。
【0032】
発電装置6は、蓄熱器5に蓄えられた熱を利用して発電する。この例では、蒸気タービン61と発電機62とを組み合わせた構成であり、蓄熱器5から供給された蒸気によって蒸気タービン61が回転し、発電機62が駆動して発電する。
【0033】
また、発電装置6(蒸気タービン61)から排出された二次熱媒体の蒸気は、復水器53に送られて冷却され、液体に戻される。そして、液体に戻された二次熱媒体が循環ポンプ54により放熱配管52に供給され、蓄熱器5と発電装置6との間で二次熱媒体が循環するように構成されている。
【0034】
この造水システムD2によれば、造水と発電とを同時に行うことができ、発電装置6により発電した電力で造水システムの運転に必要な電力を賄うことができる。
【0035】
また、この例では、導管3から分岐導管33が分岐する箇所に、分岐導管33に流れる熱媒体の流量を調整する分岐流量調整弁34(例、三方弁)が取り付けられている。そのため、造水装置4による造水量と、発電装置6による発電量とを設置場所の環境や需要に応じて制御することが可能であり、エネルギーの有効利用を図ることができる。
【0036】
上記した造水システムD2において、第二熱媒体としては、水の他、水よりも低い温度で蒸気化する低沸点媒体(例えば、アルコール、アンモニア、ペンタンなど)を用いてもよい。
【0037】
上記した造水システムD2では、蓄熱器5に蓄えた熱を蒸気タービンの熱源に利用する場合を例に説明したが、蓄熱器5に蓄えた熱は、蒸気タービンの他、蒸気ピストンなどの蒸気機関(熱機関)の熱源に利用することも可能である。また、蓄熱器5に蓄熱し、その熱を熱源に利用しているため、風況に左右されることなく、蒸気機関から安定した出力が得られる。蓄熱器5に蓄えた熱で複数の蒸気機関を駆動するようにしてもよい。
【0038】
上記した造水システムD1、D2では、造水装置4において、原水から真水を造水する方法として、蒸発法を採用した場合を例に説明したが、蒸発法の他、膜蒸留法や逆浸透法などを採用することも可能である。
【0039】
膜蒸留法の場合は、例えば、取水管から取水した原水(例、海水)を熱交換器により加熱して温め、長手方向に延びる多孔質疎水性膜で空間が仕切られた配管の片側の空間に温めた原水を通し、反対側の空間を外部から冷却水(例、冷えた海水)で冷却することが挙げられる。これにより、温めた原水から発生する水蒸気だけが膜の反対側に通り抜け、膜の反対側の空間で水蒸気が冷却されて水滴となり、真水が得られる。
【0040】
逆浸透法の場合は、例えば、逆浸透膜で仕切られた容器の片側に塩類濃度が高い原水(例、海水)、もう片側に真水を入れ、熱交換器により発生させた蒸気で蒸気ピストンを動かし、この蒸気ピストンで原水を押圧することが挙げられる。これにより、原水を加圧することによって膜を透過した真水だけを取り出す。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の造水システムは、例えば海水淡水化の分野に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
D1,D2 造水システム
1 風車
10 ブレード 11 回転軸 12 ハブ
101 塔 102 ナセル
2 エネルギー変換装置
3 導管
31 循環ポンプ 32 復路管
33 分岐導管 34 分岐流量調整弁
4 造水装置
41 熱交換器 41a 第一熱交換管 41b 第二熱交換管
42 取水管 43 排水管 44 蒸気管 45 復水器
46 取水ポンプ 47 貯水槽
5 蓄熱器
51 蓄熱配管 52 放熱配管
53 復水器 54 循環ポンプ
6 発電装置
61 蒸気タービン 62 発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力により回転する風車と、
前記風車の回転エネルギーを熱エネルギーに変換し、熱媒体を加熱するエネルギー変換装置と、
前記エネルギー変換装置により加熱した熱媒体を輸送する導管と、
前記導管に接続され、輸送された前記熱媒体の熱を利用して造水する造水装置と、
を備えることを特徴とする造水システム。
【請求項2】
前記導管から分岐する分岐導管と、
前記分岐導管に流れる前記熱媒体の流量を調整する分岐流量調整弁と、
前記分岐導管に接続され、分岐された前記熱媒体の熱を蓄える蓄熱器と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の造水システム。
【請求項3】
前記蓄熱器に蓄えられた熱を利用して発電する発電装置を備えることを特徴とする請求項2に記載の造水システム。

【図1】
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【図2】
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