説明

連続垂直搬送式めっき装置

【課題】連続垂直搬送式めっき装置において、めっき液の液面に近いワークの上部にもワークの他の部分と均一なめっき膜厚でめっきすることができるめっき装置を提供する。
【解決手段】平板状のワークWを垂直な姿勢で連続的に搬送してめっきする連続垂直搬送式めっき装置において、ワークWの両面の上部と対向する位置に補助陽極9をワークW及びめっき液の液面と平行に設け、補助陽極9を補助直流電源装置のプラス極に接続し、補助直流電源装置のマイナス極をワークWに接続し、補助直流電源装置の出力電流をアノード8、8からワークWに流れるめっき電流の1%ないし10%に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直な姿勢で保持したフープ材やプリント基板のような平板状のワークを連続的に搬送してめっきする、連続垂直搬送式めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フープ材やプリント基板のような平板状のワークを垂直に搬送してめっきする連続垂直搬送式めっき装置としては、例えば特許文献1に示されるようなものが実用化されており、ワークは上部が給電グリップにより保持され、給電グリップを通して上部から給電されている。通常めっき液の液面は給電グリップの下端とほぼ同一高さに調整されており、めっき液の液面より上になるワークの給電グリップで保持されている部分がめっきされないのは当然であるが、めっき液の液面に近いワークの上部ではめっき膜厚が薄くなる傾向があった。
【0003】
連続垂直搬送式めっき装置でめっきされるこのようなワークのめっきは銅めっきであることが多く、均一電着性向上のために添加剤が加えられているが、めっき液の液面に近いワークの上部では電流密度が低くなり、ワークの他の部分に比べてめっき膜厚が薄くなる傾向は解消されず、従来こうしためっきがされない部分とめっき膜厚の薄い部分は切断して廃棄されていた。これに対し、資源の有効活用、コスト削減といった観点からワークの上端近くまで均一なめっき膜厚でめっきできるようにして、廃棄部分を少なくすることが強く求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−277783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、給電グリップを通してワークに上部から給電される連続垂直搬送式めっき装置では、めっき液の液面に近いワークの上部のめっき膜厚が薄くなり、その部分が有効に使用できないという問題があった。このめっき液の液面に近いワークの上部のめっき膜厚をワークの他の部分と均一にする方法は現在のところ実用化されておらず、そのような文献も見出すことができていない。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、めっき液の液面に近いワークの上部にもワークの他の部分と均一なめっき膜厚でめっきすることができる、連続垂直搬送式めっき装置を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は上記目的を達成するために、平板状のワークを垂直な姿勢で連続的に搬送してめっきする連続垂直搬送式めっき装置において、ワークの両面の上部と対向する位置にワーク及びめっき液の液面と平行に補助陽極を設け、補助陽極を補助直流電源装置のプラス極に接続し、補助直流電源装置のマイナス極をワークに接続し、補助直流電源装置の出力電流をアノードからワークに流れるめっき電流の1%ないし10%に設定したものである。ここにおいて、補助陽極を成型した棒材により構成した不溶性電極とすることが好ましい。
【0008】
上記の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、ワークの上部ではアノードからのめっき電流がワークの他の部分に比べて小さくなるが、小さくなった分のめっき電流が補助陽極から流れ、ワークの上部でも充分なめっき電流が流れてめっき膜厚が薄くなることがなくなるものである。補助陽極を成型した棒材により構成した不溶性電極とした場合には、補助陽極の加工が容易で補助陽極によってアノードからのめっき電流が遮られることがなく、また、既設の連続垂直搬送式めっき装置にも容易に設けることができる利点がある。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明の連続垂直搬送式めっき装置は、アノードからのめっき電流がワークの他の部分に比べて小さくなるワークの上部において、小さくなった分のめっき電流が補助陽極から流れるので、ワークの上部でも充分なめっき電流が流れ、めっき膜厚が薄くなることがない効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示す要部の縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態を示す要部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0012】
図において1はめっき槽であって、要求されるめっき厚みに応じて長さ方向の寸法が定められており、ワークWはめっき槽1の中央を搬送される。図1はワークの進行方向前方から見ためっき槽1の縦断面図、図2はめっき槽1の出口側の部分を示す平面図であり、ワークWは図1では中央部を紙面奥から手前に進行し、図2では矢印で示すように上から下へ進行する。図2では図示していないが、ワークWは複数の給電グリップ2によって保持されており、めっき槽1の上部には給電グリップ2を支持するレール3と、給電グリップ2を移動させてワークを搬送する図示しない搬送装置とが設けられている。また、図示していないが、めっき槽1の前端及び後端の側壁には従来の連続垂直搬送式めっき装置と同様の液漏れ防止装置が設けられている。
【0013】
めっき槽1にはワークWに向けてめっき液を噴射する多数のノズル4、4が上下方向及びワークの進行方向に並べて設けられている。該多数のノズル4、4は内部にめっき液供給路が設けられた柱状のノズル取り付け基盤5、5に取り付けられており、ノズル取り付け基盤5、5はめっき槽1の底部から立ち上がる形で設けられている。このノズル取り付け基盤5、5にはめっき液が供給されており、めっき液はノズル取り付け基盤5、5を経てノズル4、4からワークWに向けて噴射されることになる。
【0014】
ノズル4、4とワークWとの間には多数の垂直方向のガイド軸6、6がワークの進行方向に並べて設けられており、各ガイド軸6、6にはそれぞれ複数のガイド円盤7、7が回転自在に軸着されている。また、ノズル取り付け基盤5、5の外側には複数のアノード8、8がワークWの進行方向に並べて設けられている。前記ノズル4、4、ノズル取り付け基盤5、5、ガイド軸6、6、ガイド円盤7、7及びアノード8、8はワークWを中心として対称に配置されており、めっき液はノズル4、4からワークWの両面に噴射される。また、ワークWはガイド円盤7、7により挟まれて振れないように誘導され、アノード8、8からめっき電流が供給される。
【0015】
ワークW両面の上部のワークWと対向する位置には、それぞれワークWの進行方向に長い補助陽極9、9がワークW及びめっき液の液面と平行に設けられている。補助陽極9は例えばチタン材に白金めっきを施した棒状の不溶性電極とすることが好ましく、めっき液の液面から30mm以内でワークから20mmないし50mm離れた位置に設けることが好ましい。また、補助陽極9はめっき槽1の全長の3分の1以上の長さとすることが好ましい。図示したものは曲げ加工した直径6mm程度のチタン材の丸棒に白金めっきしたもので、ノズル取り付け基盤5、5に取り付けられた絶縁材からなる補助陽極保持具10、10に曲げ加工した両端が取り付けられている。
【0016】
アノード8、8は従来の連続垂直搬送式めっき装置と同様、ワークWの進行方向に連続するいくつかが一つの組となっており、めっき槽1の全長に対していくつかの組に分割された形となっている。アノード8、8はそれぞれの組ごとに一括して組の数と同数設けられた図示しないめっき用直流電源装置のプラス極にそれぞれ接続されている。補助陽極9はそれぞれアノード8、8の各組の長さとほぼ同じ長さのものとなっており、補助陽極9と同数設けられた図示しない補助直流電源装置のプラス極にそれぞれ接続されている。
【0017】
補助陽極9は各アノード8、8の組の全てに対応して設けることができ、また、アノード8、8の組の一部に対応して設けることができる。アノード8、8の組の一部に対応して設ける場合には、めっき槽1の出口側に近いアノード8、8の組に対応して設けることが好ましい。めっき用直流電源装置及び補助直流電源装置のマイナス極はいずれもレール3に接続されている。図示したものはアノード8、8を3組に分割し、補助陽極9はめっき槽1の出口側のアノード8、8の組とほぼ同じ長さとしてめっき槽1の出口側に設けたものである。
【0018】
したがって、この図示したものの場合、めっき用直流電源装置は3台、補助直流電源装置は1台それぞれ設けられることになる。めっき用直流電源装置及び補助直流電源装置はいずれも定電流制御されるものであり、めっき用電源装置の電流はワークWの進行に従って各組のアノード8、8と対向するワークWの面積に比例した値に設定される。また、補助直流電源装置の電流は、補助直流電源装置の電流の総和がめっき用電源装置の電流の総和の1ないし10%の範囲の値に設定され、実際にめっきをしてめっき膜厚の計測を行なった結果を見ながらワークWの上部のめっき膜厚と他の部分のめっき膜厚との差が小さくなるように調整される。
【0019】
このように構成された本発明の連続垂直搬送式めっき装置において、ワークWは従来の連続垂直搬送式めっき装置と同様に上端を給電グリップ2、2により保持され、搬送装置によって給電グリップ2、2が移動することによりめっき槽1内を搬送される。また、ノズル4、4からワークWの両面にめっき液が噴射されてめっき槽1内はめっき液で満たされる。給電グリップ2、2はレール3に支持されているので、ワークWは電気的にめっき用直流電源装置及び補助直流電源装置のマイナス極につながることになる。これによりアノード8、8を通してめっき用直流電源装置からワークW全体にめっき電流が流れ、それに加えて補助陽極9を通して補助直流電源装置からワークW上部にめっき電流が流れてワークWがめっきされることになる。
【0020】
したがって、ワークWの上部ではアノード8、8からのめっき電流に加えて補助陽極9からのめっき電流が流れ、ワークWの他の部分に比べて小さくなるアノード8、8からのめっき電流が補助陽極9からのめっき電流で補われるので、充分な電流が流れることによりワークWの上部のめっき膜厚が薄くなるということがなくなる。なお、前記実施の形態において、補助陽極をチタン材の丸棒に白金めっきしたものとしているが、角棒でもよいことは言うまでもなく、また、アノードからワークへのめっき電流を遮蔽しないような形状とすることができれば、ラス網、板等とすることも可能である。
【実施例】
【0021】
高さ方向330mmのプリント基板を従来の連続垂直搬送式めっき装置によりめっき膜厚25μmの銅めっきをしたところ、めっき液の液面から下方30mmの範囲のめっき膜厚は23μmないし20μmであった。これに対し、直径6mmのチタン材の丸棒に白金めっきした補助陽極を、その断面中心がめっき液の液面から3mm下方でワークから30mm離れた位置に位置するようにしてめっき槽全長にわたって設け、補助陽極にめっき電流の2%の電流を流したところ、めっき液の液面から下方5mmから30mmの範囲のめっき膜厚も25μmとなった。
【符号の説明】
【0022】
1 めっき槽
2 給電グリップ
3 レール
4 ノズル
5 ノズル取り付け基盤
6 ガイド軸
7 ガイド円盤
8 アノード
9 補助陽極
10 補助陽極保持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のワークを垂直な姿勢で連続的に搬送してめっきする連続垂直搬送式めっき装置において、ワークの両面の上部と対向する位置にワーク及びめっき液の液面と平行に補助陽極を設け、補助陽極を補助直流電源装置のプラス極に接続し、補助直流電源装置のマイナス極をワークに接続し、補助直流電源装置の出力電流をアノードからワークに流れるめっき電流の1%ないし10%に設定したことを特徴とする連続垂直搬送式めっき装置。
【請求項2】
補助陽極を成型した棒材により構成した不溶性電極としたことを特徴とする請求項1に記載の連続垂直搬送式めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−127193(P2011−127193A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287777(P2009−287777)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)