説明

連続鋳造設備におけるダミーバー引抜方法

【課題】かつ鋳造開始時におけるバックラッシュを起こすことなくダミーバーを引き抜くことができる連続鋳造設備のダミーバー引抜方法を提案する。
【解決手段】連続鋳造鋳型の下流側に、2対以上のピンチロールを含むロール群が配設され、上記鋳型下部およびロール群間に装入されたバミーバーを引き抜きながら連続鋳造を開始する連続鋳造設備におけるダミーバーの引抜方法において、ダミーバー引き抜き時における隣り合うピンチロール間の駆動モータ負荷電流差を、全ての関係において下流側の方が上流側よりも駆動側となるよう制御することを特徴とする連続鋳造設備におけるダミーバー引抜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造設備の鋳造開始時におけるバミーバーの引抜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造設備(以降、「連続鋳造機」ともいう。)において、連続鋳造を開始するに当っては、まず、鋳型の下方に配設された多数のロール群の間にダミーバーを挿入し、ダミーバーの後端(上流側端部)が鋳型下部に位置にするように保持した状態で、タンディッシュから鋳型内に溶鋼を注入し、注入された溶鋼が凝固して凝固殻(シェル)が形成されて鋳片となり、かつダミーバー後端との連結が完了した時点で、連続鋳造機の下流側へ向かってダミーバーの引き抜きを開始し、それに伴ってダミーバー後端に連結された鋳片も共に下流側へ向かって引き抜かれる。
【0003】
鋳型の下方に配設された上記多数のロール群の中には、図1の左側に示したように、鋳片を挟持し、鋳片を引抜く駆動機構を有する2対以上のピンチロールが所定の間隔で配設されており、ダミーバーも、これらのピンチロールによって、上流側から下流側へと受け渡されながら、順々に連鋳機の下流側へ向かって搬送されて引き抜かれる。
【0004】
ところで、上記ダミーバーは、通常、図2に示したように、複数のリンク部材を連結ピンで連ねて湾曲自在に構成したものであり、そのピン連結部は、円滑に回動するために不可欠な若干のガタ(バックラッシュ、アローアンス)を有しているため、ダミーバーは、その総量分だけ長手方向に伸縮することができる。
【0005】
そのため、従来の連続鋳造機においては、連続鋳造の開始にともなって、ピンチロールで挟持されたダミーバーが引き抜かれてダミーバーの後端が上流側のピンチロールの挟持から解放されると、ダミーバーの後端側が、ガタの総量分だけ下流側へ向かって自重で落下しようとする。その結果、ダミーバー後端に連結した鋳片の急激な引抜きを誘発し、これによって、鋳型内溶鋼の湯面変動を引き起こし、鋳片の表面品質や内部品質を大きく低下させることとなる。
【0006】
上記問題点を解決する技術として、特許文献1には、ダミーバーの移動に伴って順次ダミーバーの下流側に位置するドライブロール用モータをブレーキング運転することにより、ダミーバーの両端間にコンプレッションを働かせて誘導していくことで、ダミーバーリンクの結合部のガタ(バックラッシュ)を除去する方法が開示されている。しかし、この技術のようには、モータの動作をそのトルクによって制御するのは技術的に難しいという問題がある。
【0007】
そこで、特許文献2には、ダミーバーを上流側のピンチロールから下流側のピンチロールへ受け渡されるとき、すなわち、ダミーバーが上流側のピンチロールの挟持から解除されたときに、ダミーバーの長さ方向のガタ総量に基づいて、特許文献1のトルク制御に代えて、下流側のピンチロールの周速度を、上流側のピンチロールの周速度に対して所定の比率となるよう制御することで、ダミーバーの後端の急激な落下を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−032865号公報
【特許文献2】特開2007−044742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2の方法は、ダミーバーの長手方向のガタ総量に応じで、下流側のピンチロール周速度を、上流のピンチロール周速度に対して1以下の所定の範囲に制御する、つまり、連続鋳造開始時において、ダミーバーにコンプレッション(圧縮力)を付与し、ダミーバー長手方向ガタをなくす技術思想である点において、特許文献1と同じである。
【0010】
しかし、ダミーバーに圧縮力を付与する場合には、適正な範囲とする必要がある。例えば、圧縮力が小さいと、ダミーバーのガタが残存した状態で引き抜かれるため、ダミーバー引き渡し時の問題は解消されない。一方、圧縮力が大きすぎるときには、ダミーバーが弛んで座屈した状態で引き抜かれるため、周辺設備と干渉を起こして設備破損を起こしたり、ダミーバーの引掛りを起こしたりする等のトラブルの原因となる。また、特許文献2の技術では、ダミーバー長手方向のガタの量は、実測が困難であり、さらに、ピンチロールの外径は、長年の使用で変化し、これに伴って周速度も変化するため、ダミーバーに与える圧縮力も大きく変化するという問題もある。
【0011】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御が簡単で、かつ鋳造開始時におけるバックラッシュを起こすことなくダミーバーを引き抜くことができる連続鋳造設備のダミーバー引抜方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた。その結果、従来技術は逆に、2対以上配設された各ピンチロールの駆動モータの負荷電流を適正に制御し、隣り合うピンチロール間のダミーバーに常に張力を付与しつつ引き抜くことで、上記問題点を解決できることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、連続鋳造鋳型の下流側に、2対以上のピンチロールを含むロール群が配設され、上記鋳型下部およびロール群間に装入されたバミーバーを引き抜きながら連続鋳造を開始する連続鋳造設備におけるダミーバーの引抜方法において、ダミーバー引き抜き時における隣り合うピンチロール間の駆動モータ負荷電流差を、全ての関係において下流側の方が上流側よりも駆動側となるよう制御することを特徴とする連続鋳造設備におけるダミーバー引抜方法である。
【0014】
本発明の連続鋳造設備におけるダミーバー引抜方法は、上記2対以上のピンチロールのうちの最上流のピンチロール駆動モータの負荷電流を回生側、最下流のピンチロール駆動モータの負荷電流を駆動側とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上流側と下流側のピンチロールの駆動モータの負荷電流に差を設け、下流側が常に駆動側となるよう負荷電流を制御することによって、上流側と下流側のピンチロール間のダミーバーに常に張力を付与するようにしたので、制御が容易で、しかも、バックラッシュを引き起こすことなくダミーバーを引き抜くことができる。また、本発明によれば、ダミーバーに張力を常に付与して引き抜くため、ダミーバーの長手方向のガタの大きさが不明であっても、また、ピンチロールが磨耗していても、バックラッシュを引き起こすことなくダミーバーを引き抜くことができるので、連続鋳造製品の品質向上にも大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】連続鋳造設備の部分断面図および本発明のダミーバー引抜方法を説明する図である。
【図2】一般的なダミーバーの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、ピンチロール間のダミーバーにコンプレッション(圧縮力)を加える従来技術に代わる、バックラッシュを起こすことなくダミーバーを引き抜く方法について鋭意検討を重ねた。その結果、連鋳鋳型の下方に所定の間隔をおいて設置されている2対以上のピンチロールの、隣り合う上流側および下流側のピンチロール間に存在するそれぞれのダミーバーに適切な値の張力を付与しつつ引抜くことで、上記課題を解決できることに想到した。
【0018】
ただし、各ピンチロール間のダミーバーに付与される張力を実測することは不可能である。そこで、本発明では、隣り合うピンチロールの駆動モータの負荷電流の差は、そのピンチロール間に発生する張力に置き換えて考えることができるので、各ピンチロールを駆動させるモータの負荷電流を測定し、下流側のピンチロールの負荷電流が上流側のピンチロールの負荷電流よりも駆動側にあるときに張力が付与されている判断し、また、張力の大きさは、電流差の大きさから判断することとした。
【0019】
そして、本発明においては、ダミーバー引き抜き時における隣り合うピンチロール間の駆動モータの負荷電流差を、全ての隣り合うピンチロール間の関係において下流側の方が上流側よりも駆動側となるよう制御する、すなわち、上流側から下流側に行くにしたがいピンチロール駆動モータの負荷電流を徐々に駆動側になるように、逆にいえば、下流側から上流側に行くにしたがいピンチロール駆動モータの負荷電流を徐々に回生側となるように制御する。なお、このとき、上流側のピンチロール駆動モータは、駆動モータとしてではなく、完全に回生機(発電機)となっていても構わない。ただし、上記負荷電流の大きさは、いずれもモータの定格範囲内に入るようにする必要がある。
【0020】
なお、隣り合うピンチロール間の駆動モータの負荷電流の差は、最上流から最下流の範囲で、できるだけ均等になるように設定するのが好ましい。隣り合うピンチロール駆動モータの負荷電流の差は、そのピンチロール間に発生する張力に置き換えて考えることができるので、負荷電流の差が均等かつ適切な値になっていれば、ダミーバーに付与される張力も均等かつ適切な値とすることができる。
【0021】
以上の考え方をもとに、本発明においては、ダミーバー引き抜き時においては、最上流から最下流側に行くにつれてピンチロールの駆動モータの負荷電流を徐々に駆動側にするとともに、隣り合うピンチロール間での負荷電流差をできるだけ均等となるように負荷電流の目標値を設定し、その目標値となるようにピンチロールの回転(周速度)を制御することにした。
【0022】
なお、鋳造開始時にピンチロールを起動する際の、各ピンチロール駆動モータの負荷電流値は、ダミーバーに適切な張力を付与することができる各ピンチロール駆動モータの最適な負荷電流値を従来の操業実績から予め決定しておき、その負荷電流値を初期値として設定するのが好ましい。
【0023】
なお、本発明は、鋳造開始時のダミーバー引き抜き中に適用するものであって、ダミーバー後端(つまり鋳片先端)が最上流のピンチロールを通過して以降となると、上記周速度差をそのままにしておくと、ピンチロールの駆動モータの負荷電流は、上流側ピンチロールはより回生側に、下流側ピンチロールはより駆動側に急激に変化し、過剰な負荷によって駆動モータが故障する原因ともなる。これは、鋳片にはダミーバーのようなガタがなく、ピンチロール間で張力をかけても伸びる要素がないためである。
【0024】
そこで、ダミーバー後端位置をトラッキングし、トラッキング長が最上流のピンチロールを通過する位置に到達したら、最上流のピンチロールの周速度を下流側の次のピンチロールの周速度に切り替える必要がある。その後、ダミーバー後端は、下流側のピンチロールを順次通過していくが、上記と同様にして、通過したピンチロールの周速度を下流側の次のピンチロールの周速度に順次切り替えていけばよい。
【実施例】
【0025】
図1に、本発明の実施例に用いる連続鋳造設備において、鋳型下方に配設されたロール群の間にダミーバーが挿入され、引き抜きが行われている状態を示す模式図である。この図では、説明を簡略化するため、3対のピンチロールを用いた例が示してあり、最上流のピンチロールを上段ピンチロール、最下流のピンチロールを下段ピンチロール、それらの中間に位置するピンチロールを中断ピンチロールと称することとする。また、鋳型下方のロール群は、通常、湾曲部を有するが、説明を簡略化するため、湾曲表示は省略した。
【0026】
鋳造開始時のダミーバーの引き抜きにおいては、まず、下段ピンチロールは駆動側に、上段ピンチロールは、下段ピンチロールよりも回生側となるように、各ピンチロールの駆動モータの負荷電流値の目標値を定める。例えば、駆動モータの定額電流値に対して、上段ピンチロールは回生側に50%(−50%)、下段ピンチロールは駆動側に50%(+50%)、上段と下段の中間の中段ピンチロールは、上段と下段の中間である0%の値と設定する。
【0027】
ダミーバーの引抜きを開始後は、下段ピンチロールと中段ピンチロールの負荷電流差が、定額電流の50%となるように制御する。これにより、中段ピンチロールの周速度を、下段ピンチロールよりも遅くすることができるので、この間のダミーバーに張力が付与され、ダミーバーが緩みを起こすことなく引き抜くことができる。
【0028】
同様にして、中段ピンチロールと上段ピンチロールの負荷電流差が、定額電流の50%となるように制御する。これにより、上段ピンチロールの周速度を、中段ピンチロールよりも遅くすることができるので、この間のダミーバーに張力が付与され、ダミーバーが緩みを起こすことなく引き抜くことができる。
【0029】
なお、本発明は、前述したように、ダミーバー引き抜き中に適用するものであって、鋳片がピンチロールに到達したら、負荷電流が急激に上昇するため、ダミーバー後端(鋳片先端)をトラッキングして、各ピンチロールにダミーバー後端が到達したら、そのピンチロール周速度を、下流側の次のピンチロールの周速度と同一の速度に切り替える必要がある。
そこで、本実施例では、ダミーバー後端が上段ピンチロールに到達した時点で、上段ピンチロールを中段ピンチロールの周速度が周一になるようにする。また、ダミーバー後端が中段ピンチロールに到達した時点で、中段ピンチロールを下段ピンチロールの周速度と同一になるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の技術は、上記に説明した鋳造開始時において、上流側から下流側にダミーバーを引抜く方法に限定されるものではなく、例えば、バミーバーを下流側から上流側に挿入する場合にも適用可能である。このときには、上流側ピンチロールの負荷電流を駆動側に、下流側ピンチロールの負荷電流を回生側に設定してやればよい。また、上記実施例においては、3対のピンチロールを例にとって説明したが、ピンチロール本数は、何本であっても本発明の技術は適用することができる。また、ピンチロールがセグメント帯に組み込まれた鋳造設備であっても構わない。
【符号の説明】
【0031】
1:鋳造鋳型
2:鋳片
3:ダミーバー
4:セグメント帯
5:ピンチロール
6:ロール
7:リンク部材
8:連結ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳型の下流側に、2対以上のピンチロールを含むロール群が配設され、上記鋳型下部およびロール群間に装入されたバミーバーを引き抜きながら連続鋳造を開始する連続鋳造設備におけるダミーバーの引抜方法において、ダミーバー引き抜き時における隣り合うピンチロール間の駆動モータ負荷電流差を、全ての関係において下流側の方が上流側よりも駆動側となるよう制御することを特徴とする連続鋳造設備におけるダミーバー引抜方法。
【請求項2】
上記2対以上のピンチロールのうちの最上流のピンチロール駆動モータの負荷電流を回生側、最下流のピンチロール駆動モータの負荷電流を駆動側とすることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造設備におけるダミーバー引抜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−71144(P2013−71144A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210877(P2011−210877)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)