連続鋳造設備のモールド幅替装置
【課題】操業を停止しないでモールドの幅替えを行うことができ、同じモールドで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる連続鋳造設備のモールド幅替装置を提供する。
【解決手段】長辺フレームf1に沿って幅方向に移動可能なスライダ10と、長辺フレームf1に沿ってスライダ10を幅方向に移動させる移動用アクチュエータ40と、長辺フレームf1に対してスライダを固定する固定手段50と、スライダ10に対して短辺フレームf3を幅方向に近接離間させる幅替用アクチュエータ20とを備える。短辺フレームf3のストロークが長くなるので、同じモールドMで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる。操業を停止しないでモールドMの幅替えを行うことができる。短辺フレームf3に鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。
【解決手段】長辺フレームf1に沿って幅方向に移動可能なスライダ10と、長辺フレームf1に沿ってスライダ10を幅方向に移動させる移動用アクチュエータ40と、長辺フレームf1に対してスライダを固定する固定手段50と、スライダ10に対して短辺フレームf3を幅方向に近接離間させる幅替用アクチュエータ20とを備える。短辺フレームf3のストロークが長くなるので、同じモールドMで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる。操業を停止しないでモールドMの幅替えを行うことができる。短辺フレームf3に鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造設備のモールド幅替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、連続鋳造設備のモールド(鋳型)は一対の長辺フレーム、すなわち固定長辺フレーム101と該固定長辺フレーム101との間隔を調整できるように設けた可動長辺フレーム102と、前記一対の長辺フレーム101、102の間に挾まれた一対の短辺フレーム103、104とから構成されている。そして、一対の長辺フレーム101、102間の間隔を変えて鋳片厚さを変え、一対の短辺フレーム103、104間の間隔を変えて鋳片幅を変えて、種々の寸法の鋳片を鋳造できるようになっている。
【0003】
前記一対の短辺フレーム103、104間の間隔を変えるために、各短辺フレーム103、104には移動用油圧シリンダ151、152が設けられているが、この油圧シリンダ151、152の大きさは、最も厚さの薄い鋳片を鋳造する場合の一対の長辺フレーム101、102間隔内に収まるものでなければならない。そのため、移動用油圧シリンダ151、152の直径は大きくできず、したがって、そのシリンダストロークは、強度面から制約を受けるので長くすることができない。
このため、従来はある程度の幅調整範囲をもつモールドを2組以上用意し、要求される鋳片幅に応じてモールドを取り替えていた。しかし、モールドを取り替えるには、操業を停止しなければならないので生産性が劣り、またモールドの個数が増大するという欠点がある。
【0004】
上記のモールドの個数増大をいくらかでも解消するものとして、特許文献1に記載されたモールド幅替装置が提案されている。この従来装置は、短辺フレームを移動させる移動用油圧シリンダの取付位置を変更できるようにし、第1の取付位置および第2の取付位置のそれぞれでロックピンで固定できるようにしている。このため、第1の取付位置でのシリンダストロークと第2の取付位置でのシリンダストロークを合せると、短辺フレームの移動距離を十分に大きくでき、また、鋳造中の反力をロックピンで受けることができる。
【0005】
しかしながら、この従来装置では、移動用油圧シリンダの取付位置を変えるにはロックピンを解除して移動しなければならないため、いったん操業を停止しなければならず、生産性に劣るという問題は依然として解消できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−16754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、操業を停止しないでモールドの幅替えを行うことができ、同じモールドで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる連続鋳造設備のモールド幅替装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の連続鋳造設備用のモールドは、一対の長辺フレームと、該一対の長辺フレームに挟まれた一対の短辺フレームと、該短辺フレームを該長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動させるモールド幅替装置とを有する連続鋳造設備用のモールドであって、前記モールド幅替装置は、前記短辺フレームが取り付けられるとともに、前記長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動可能なスライダと、前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させる移動用アクチュエータと、前記長辺フレームに対して前記スライダを固定する固定手段と、前記スライダに対して前記短辺フレームを前記モールド幅方向に近接離間させる幅替用アクチュエータと、を備えることを特徴とする。
第2発明の連続鋳造設備用のモールドは、第1発明において、前記固定手段は、先端が円錐形の位置決めピンと、先端が楔形の幅方向固定ピンと、先端が楔形の上下方向固定ピンとからなり、前記スライダには、前記位置決めピンの先端が嵌合する位置決め用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、楔面が前記モールド幅方向を向いた前記幅方向固定ピンの先端が嵌合する幅方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、楔面が上下方向を向いた前記上下方向固定ピンの先端が嵌合する上下方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、前記位置決めピンは、該位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、前記幅方向固定ピンは、該幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、前記上下方向固定ピンは、該上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられていることを特徴とする。
第3発明の連続鋳造設備用のモールドは、第1または第2発明において、前記モールド幅替装置は、前記スライダをストランド中心に近接するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲と、前記スライダをストランド中心から離間するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲との間に、重なる範囲が存在するように構成されていることを特徴とする。
第4発明の連続鋳造設備用のモールドは、第1、第2または第3発明において、前記モールド幅替装置は、前記短辺フレームを前記スライダに引き付ける引付手段を備えることを特徴とする。
第5発明の連続鋳造設備用のモールドの幅替方法は、第2発明の連続鋳造設備用のモールドの幅替方法であって、前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させ、前記位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入した後に、前記幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入し、前記上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、長辺フレームに沿ってスライダを移動させ、スライダに対して短辺フレームを近接離間させることで、短辺フレームのストロークが長くなるので、同じモールドで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる。また、移動用アクチュエータを備えるので、固定手段を解除しても、移動用アクチュエータで鋳片からの外力に対抗しつつスライダを移動でき、操業を停止しないでモールドの幅替えを行うことができる。さらに、固定手段で長辺フレームに対してスライダを固定するので、短辺フレームに鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。
第2発明によれば、位置決めピンを位置決め用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダを固定できるとともに、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入しやすくなり、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入しやすくなる。また、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダのモールド幅方向の固定を行うことができ、短辺フレームに鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。さらに、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダの上下方向の固定を行うことができ、短辺フレームが自重により傾くことを防止できる。
第3発明によれば、移動範囲が重なる範囲では、スライダを移動させる必要がなく、スライダに対して短辺フレームを近接離間させるだけでモールド幅を替えることができるので、幅替作業における作業負担を軽減できる。
第4発明によれば、短辺フレームをスライダに引き付けることにより、幅替用アクチュエータ等の駆動系の隙間から発生する短辺フレームの位置ブレを防止することができる。
第5発明によれば、位置決めピンを位置決め用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダを固定できるとともに、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入しやすくなり、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入しやすくなる。また、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダのモールド幅方向の固定を行うことができ、短辺フレームに鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。さらに、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダの上下方向の固定を行うことができ、短辺フレームが自重により傾くことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るモールド幅替装置が設けられたモールドの平面図である。
【図2】図1におけるII-II線矢視図である。
【図3】同モールド幅替装置の側面図である。
【図4】同モールド幅替装置の背面図である。
【図5】同モールド幅替装置の正面図である。
【図6】同モールド幅替装置の動作説明図である。
【図7】従来のモールドの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1において、f1は固定長辺フレーム、f2は固定長辺フレームf1との間隔を調整
できるように設けた可動長辺フレーム、f3は長辺フレームf1、f2の間に挾まれた一対の短辺フレームである。長辺フレームf1、f2および短辺フレームf3,f3の表面には、それぞれ銅板fcが固定されている。これら一対の長辺フレームf1、f2および一対の短辺フレームf3,f3から連続鋳造設備用のモールドMが構成されている。
【0012】
短辺フレームf3,f3の背面には、それぞれ本発明の一実施形態に係るモールド幅替装置1,1が設けられており、この2組のモールド幅替装置1,1により短辺フレームf3を長辺フレームf1、f2に沿ってモールド幅方向に移動させることで、モールド幅を替えることができるようになっている。なお、本明細書においてモールド幅方向とは、モールドMの幅方向(図1における左右方向)を意味する。また、上下方向とは、モールド幅方向と直行する方向であって、鋳片が流れる方向(図1における紙面に対して垂直方向)を意味する。
【0013】
モールドMには2組のモールド幅替装置1,1が設けられているが、それらはストランド中心Cを軸として線対称に構成されているので、以下では一方(図1における左側の)のモールド幅替装置1についてのみ説明する。
【0014】
図2および図3において、10はスライダであり、14は固定長辺フレームf1に固定された上下一対のスライドガイドである。スライドガイド14,14はモールド幅方向に沿って設けられており、スライダ10の上縁および下縁を案内して、スライダ10が固定長辺フレームf1に沿ってモールド幅方向に摺動できるようになっている。
【0015】
スライダ10には、上下一対のスクリュージャッキ20,20が取り付けられている。スクリュージャッキ20は、スクリューシャフト21と、スクリューシャフト21の一端に取り付けられたウォームホイール22と、ウォームホイール22に噛み合うウォーム23と、ウォームホイール22およびウォーム23を納めるケース24と、スクリューシャフト21にねじ込まれたボールナット25とから構成されている。そのため、ウォーム23を回転させることにより、ウォームホイール22およびスクリューシャフト21を回転させ、ボールナット25をケース24に対して近接離間させることができる。
【0016】
スクリュージャッキ20のケース24はスライダ10に固定されており、ボールナット25は、スクリューシャフト21を内包する円筒状の連結部材26を介して短辺フレームf3に連結されている。そのため、スクリュージャッキ20を動作させることにより、スライダ10に対して短辺フレームf3をモールド幅方向に近接離間させることができる。
なお、スクリュージャッキ20を駆動するための駆動力は、モールドMの周囲に設置された駆動装置(図示せず)からユニバーサルジョイント等を介して伝達される。
【0017】
ここで、スクリュージャッキ20は特許請求の範囲に記載の幅替用アクチュエータに相当する。幅替用アクチュエータとしては、スクリュージャッキの他、油圧シリンダやステッピングシリンダ等を用いることができる。ただし、スクリュージャッキは駆動力が大きいという性質を有するので、鋳片から短辺フレームf3に作用する大きな外力に対抗して短辺フレームf3を移動でき、操業を停止しないでモールドの幅替えを行うことができるという利点を有する。また、スクリュージャッキは位置制御の精度が高いという性質を有するので、モールド幅を精度よく制御できるという利点を有する。
【0018】
スライダ10には、上記一対のスクリュージャッキ20,20の上下中間位置に引付シリンダ30が取り付けられている。引付シリンダ30のシリンダ31はスライダ10に固定されており、ピストンロッド32は短辺フレームf3に連結されている。そして、引付シリンダ30は、短辺フレームf3を移動させていない間は常に、短辺フレームf3をスライダ10に引き付けるように動作する。すなわち、引付シリンダ30は短辺フレームf3をスライダ10に対して近接させる方向に付勢する。
この引付シリンダ30の引き付け動作により、スクリュージャッキ20等の駆動系の隙間から発生する短辺フレームf3の位置ブレを防止することができる。
なお、引付シリンダ30は特許請求の範囲に記載の引付手段に相当する。
【0019】
図4に示すように、固定長辺フレームf1には移動用油圧シリンダ40のシリンダ41が固定されている。そして、移動用油圧シリンダ40のピストンロッド42はスライダ10に形成されたアーム15に連結されている。そのため、移動用油圧シリンダ40を動作させることで、スライダ10を固定長辺フレームf1に沿ってモールド幅方向に移動させることができる。
なお、移動用油圧シリンダ40は特許請求の範囲に記載の移動用アクチュエータに相当する。移動用アクチュエータとしては油圧シリンダの他に、スクリュージャッキ、ステッピングシリンダ等を用いることができる。
【0020】
図3に示すように、モールド幅替装置1には、位置決めピン51と、幅方向固定ピン52と、上下方向固定ピン53とからなる固定手段50が備えられており、スライダ10は、移動用油圧シリンダ40が収縮してスライダ10がストランド中心Cから離間した広幅位置Iと移動用油圧シリンダ40が伸長してスライダ10がストランド中心Cに近接した狭幅位置IIとで固定長辺フレームf1に対して固定されるようになっている。
【0021】
位置決めピン51は先端が円錐形のピンであり、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53は先端が楔形のピンである。
一方、スライダ10には、位置決めピン51の先端が嵌合する円錐形の位置決め用凹部11と、幅方向固定ピン52の先端が嵌合する楔形の幅方向固定用凹部12と、上下方向固定ピン53の先端が嵌合する楔形の上下方向固定用凹部13とが形成されている。
【0022】
図5に示すように、位置決め用凹部11はモールド幅方向に所定間隔を空けて2つ形成されている。この2つの位置決め用凹部11,11の間隔により、上記広幅位置Iと狭幅位置IIとの間の間隔が定められている。そして、図3に示すように、位置決めピン51は、その後端に油圧シリンダ54のピストンロッドが取り付けられており、その先端をいずれかの位置決め用凹部11に挿入抜去できるように、固定長辺フレームf1に取り付けられている。
【0023】
また、図5に示すように、幅方向固定用凹部12は位置決め用凹部11の上方に、楔面がモールド幅方向を向くように形成されている。ここで、楔面とは、楔形を形成する一対の面を意味する。幅方向固定用凹部12もモールド幅方向に所定間隔を空けて2つ形成されており、その間隔は2つの位置決め用凹部11,11の間隔と同一である。そして、図3に示すように、幅方向固定ピン52は、その後端に油圧シリンダ55のピストンロッドが取り付けられており、その先端をいずれかの幅方向固定用凹部12に挿入抜去できるように、固定長辺フレームf1に取り付けられている。
【0024】
また、図4に示すように、上下方向固定用凹部13は、楔面が上下方向を向くように形成されている。上下方向固定用凹部13もモールド幅方向に所定間隔を空けて2つ形成されており、その間隔は2つの位置決め用凹部11,11の間隔と同一である。そして、図3に示すように、上下方向固定ピン53は、その後端に油圧シリンダ56のピストンロッドが取り付けられており、その先端をいずれかの上下方向固定用凹部13に挿入抜去できるように、固定長辺フレームf1に取り付けられている。
【0025】
つぎに、図6に基づき、モールド幅替装置1によるモールド幅替方法を説明する。
(I)は、スライダ10が広幅位置Iに位置する状態であって、位置決めピン51、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53が、それぞれ位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13に挿入され、スライダ10が固定長辺フレームf1に対して固定されている状態である。
この状態でスクリュージャッキ20を動作させて、スライダ10に対して短辺フレームf3をモールド幅方向に近接離間させれば、短辺フレームf3の移動範囲は図6におけるaとなり、鋳片幅が中程度の鋳片から大きい鋳片までを鋳造できる。
【0026】
スライダ10を広幅位置Iに位置させ、スクリュージャッキ20を最も伸長させた場合のモールド幅よりも鋳片幅が小さい鋳片を鋳造する場合には、以下の動作が行われる。
まず、位置決めピン51、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53を、それぞれ位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13から抜去し、スライダ10の固定を解除する。
つぎに、移動用油圧シリンダ40を伸長し、スライダ10を広幅位置Iから狭幅位置IIに移動させる(図6(II)参照)。
【0027】
つぎに、位置決めピン51、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53でスライダ10を固定長辺フレームf1に対して固定するのであるが、その手順は以下の通りである。
まず、位置決めピン51を位置決め用凹部11に挿入する。これにより、スライダ10を仮に固定することができる。ここで、位置決めピン51の先端は円錐形であり、位置決め用凹部11も円錐形であるので、スライダ10の位置がモールド幅方向あるいは上下方向に多少ずれていたとしても、位置決めピン51を位置決め用凹部11に挿入することで、その位置ズレを補正することができる。そのため、つぎに行われる幅方向固定ピン52の幅方向固定用凹部12への挿入や、上下方向固定ピン53の上下方向固定用凹部13への挿入が容易となる。
【0028】
つぎに、幅方向固定ピン52を幅方向固定用凹部12に挿入する。ここで、幅方向固定ピン52の先端は楔形であり、幅方向固定用凹部12も楔形であり、それらの楔面はモールド幅方向に向けられているので、固定長辺フレームf1に対してスライダ10のモールド幅方向の固定を行うことができる。そのため、短辺フレームf3に鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。
【0029】
上記位置決めピン51および幅方向固定ピン52により、スライダ10はほぼ固定されているが、スライダ10には短辺フレームf3が連結されているので、その重量により短辺フレームf3が下がるように傾く恐れがある。
そこで、つぎに、上下方向固定ピン53を上下方向固定用凹部13に挿入する。ここで、上下方向固定ピン53の先端は楔形であり、上下方向固定用凹部13も楔形であり、それらの楔面は上下方向に向けられているので、固定長辺フレームf1に対してスライダ10の上下方向の固定を行うことができる。そのため、短辺フレームf3が自重により傾くことを防止できる。
【0030】
以上の動作で、スライダ10は狭幅位置IIに固定される。
この状態でスクリュージャッキ20を動作させて、スライダ10に対して短辺フレームf3をモールド幅方向に近接離間させれば、短辺フレームf3の移動範囲は図6におけるbとなり、鋳片幅が小さい鋳片から中程度の鋳片までを鋳造できる。
【0031】
再びスライダ10を狭幅位置IIから広幅位置Iに移動させる場合には、スライダ10の固定を解除し、移動用油圧シリンダ40を収縮し、スライダ10を狭幅位置IIから広幅位置Iに移動させた後に、上記の手順でスライダ10を固定すればよい。
【0032】
なお、上記では幅方向固定ピン52を幅方向固定用凹部12に挿入した後に、上下方向固定ピン53を上下方向固定用凹部13に挿入したが、これを逆の順番で行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0033】
以上のごとく、固定長辺フレームf1に沿ってスライダ10を移動させ、スライダ10に対して短辺フレームf3を近接離間させれば、短辺フレームf3は移動範囲aおよびbの範囲で移動でき、ストロークが長くなるので、同じモールドで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる。
また、スライダ10に移動用油圧シリンダ40が取り付けられているので、固定手段50を解除しても、移動用油圧シリンダ40で鋳片からの外力に対抗しつつスライダ10を移動でき、操業を停止しないでモールドMの幅替えを行うことができる。
【0034】
なお、図6に示すように、広幅位置Iにおける短辺フレームf3の移動範囲aと、狭幅位置IIにおける短辺フレームf3の移動範囲bとの間に、重なる範囲が存在するように構成してもよい。これは、スクリュージャッキ20のストロークや、位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13の配置により定めることができる。
このようにすれば、移動範囲aおよびbが重なる範囲cでは、スライダ10を移動させる必要がなく、スクリュージャッキ20でスライダ10に対して短辺フレームf3を近接離間させるだけでモールド幅を替えることができるので、移動範囲cにおける幅替が頻繁に発生する場合には、幅替作業における作業負担を軽減できるからである。
なお、必ずしも、広幅位置Iにおける短辺フレームf3の移動範囲aと、狭幅位置IIにおける短辺フレームf3の移動範囲bとの間に、重なる範囲が存在するようにしなくてもよい。
【0035】
なお、上記実施形態においては、スライダ10は広幅位置Iと狭幅位置IIの2つの位置で固定されるように構成されているが、3つ以上の位置で固定されるように構成してもよい。スライダ10が3つ以上の位置で固定されるように構成するためには、位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13をそれぞれ3つ以上形成すればよい。
【符号の説明】
【0036】
f1 固定長辺フレーム
f2 可動長辺フレーム
f3 短辺フレーム
1 モールド幅替装置
10 スライダ
11 位置決め用凹部
12 幅方向固定用凹部
13 上下方向固定用凹部
20 スクリュージャッキ
30 引付シリンダ
40 移動用油圧シリンダ
51 位置決めピン
52 幅方向固定ピン
53 上下方向固定ピン
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造設備のモールド幅替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、連続鋳造設備のモールド(鋳型)は一対の長辺フレーム、すなわち固定長辺フレーム101と該固定長辺フレーム101との間隔を調整できるように設けた可動長辺フレーム102と、前記一対の長辺フレーム101、102の間に挾まれた一対の短辺フレーム103、104とから構成されている。そして、一対の長辺フレーム101、102間の間隔を変えて鋳片厚さを変え、一対の短辺フレーム103、104間の間隔を変えて鋳片幅を変えて、種々の寸法の鋳片を鋳造できるようになっている。
【0003】
前記一対の短辺フレーム103、104間の間隔を変えるために、各短辺フレーム103、104には移動用油圧シリンダ151、152が設けられているが、この油圧シリンダ151、152の大きさは、最も厚さの薄い鋳片を鋳造する場合の一対の長辺フレーム101、102間隔内に収まるものでなければならない。そのため、移動用油圧シリンダ151、152の直径は大きくできず、したがって、そのシリンダストロークは、強度面から制約を受けるので長くすることができない。
このため、従来はある程度の幅調整範囲をもつモールドを2組以上用意し、要求される鋳片幅に応じてモールドを取り替えていた。しかし、モールドを取り替えるには、操業を停止しなければならないので生産性が劣り、またモールドの個数が増大するという欠点がある。
【0004】
上記のモールドの個数増大をいくらかでも解消するものとして、特許文献1に記載されたモールド幅替装置が提案されている。この従来装置は、短辺フレームを移動させる移動用油圧シリンダの取付位置を変更できるようにし、第1の取付位置および第2の取付位置のそれぞれでロックピンで固定できるようにしている。このため、第1の取付位置でのシリンダストロークと第2の取付位置でのシリンダストロークを合せると、短辺フレームの移動距離を十分に大きくでき、また、鋳造中の反力をロックピンで受けることができる。
【0005】
しかしながら、この従来装置では、移動用油圧シリンダの取付位置を変えるにはロックピンを解除して移動しなければならないため、いったん操業を停止しなければならず、生産性に劣るという問題は依然として解消できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−16754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、操業を停止しないでモールドの幅替えを行うことができ、同じモールドで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる連続鋳造設備のモールド幅替装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の連続鋳造設備用のモールドは、一対の長辺フレームと、該一対の長辺フレームに挟まれた一対の短辺フレームと、該短辺フレームを該長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動させるモールド幅替装置とを有する連続鋳造設備用のモールドであって、前記モールド幅替装置は、前記短辺フレームが取り付けられるとともに、前記長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動可能なスライダと、前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させる移動用アクチュエータと、前記長辺フレームに対して前記スライダを固定する固定手段と、前記スライダに対して前記短辺フレームを前記モールド幅方向に近接離間させる幅替用アクチュエータと、を備えることを特徴とする。
第2発明の連続鋳造設備用のモールドは、第1発明において、前記固定手段は、先端が円錐形の位置決めピンと、先端が楔形の幅方向固定ピンと、先端が楔形の上下方向固定ピンとからなり、前記スライダには、前記位置決めピンの先端が嵌合する位置決め用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、楔面が前記モールド幅方向を向いた前記幅方向固定ピンの先端が嵌合する幅方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、楔面が上下方向を向いた前記上下方向固定ピンの先端が嵌合する上下方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、前記位置決めピンは、該位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、前記幅方向固定ピンは、該幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、前記上下方向固定ピンは、該上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられていることを特徴とする。
第3発明の連続鋳造設備用のモールドは、第1または第2発明において、前記モールド幅替装置は、前記スライダをストランド中心に近接するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲と、前記スライダをストランド中心から離間するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲との間に、重なる範囲が存在するように構成されていることを特徴とする。
第4発明の連続鋳造設備用のモールドは、第1、第2または第3発明において、前記モールド幅替装置は、前記短辺フレームを前記スライダに引き付ける引付手段を備えることを特徴とする。
第5発明の連続鋳造設備用のモールドの幅替方法は、第2発明の連続鋳造設備用のモールドの幅替方法であって、前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させ、前記位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入した後に、前記幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入し、前記上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、長辺フレームに沿ってスライダを移動させ、スライダに対して短辺フレームを近接離間させることで、短辺フレームのストロークが長くなるので、同じモールドで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる。また、移動用アクチュエータを備えるので、固定手段を解除しても、移動用アクチュエータで鋳片からの外力に対抗しつつスライダを移動でき、操業を停止しないでモールドの幅替えを行うことができる。さらに、固定手段で長辺フレームに対してスライダを固定するので、短辺フレームに鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。
第2発明によれば、位置決めピンを位置決め用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダを固定できるとともに、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入しやすくなり、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入しやすくなる。また、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダのモールド幅方向の固定を行うことができ、短辺フレームに鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。さらに、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダの上下方向の固定を行うことができ、短辺フレームが自重により傾くことを防止できる。
第3発明によれば、移動範囲が重なる範囲では、スライダを移動させる必要がなく、スライダに対して短辺フレームを近接離間させるだけでモールド幅を替えることができるので、幅替作業における作業負担を軽減できる。
第4発明によれば、短辺フレームをスライダに引き付けることにより、幅替用アクチュエータ等の駆動系の隙間から発生する短辺フレームの位置ブレを防止することができる。
第5発明によれば、位置決めピンを位置決め用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダを固定できるとともに、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入しやすくなり、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入しやすくなる。また、幅方向固定ピンを幅方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダのモールド幅方向の固定を行うことができ、短辺フレームに鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。さらに、上下方向固定ピンを上下方向固定用凹部に挿入することで、長辺フレームに対してスライダの上下方向の固定を行うことができ、短辺フレームが自重により傾くことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るモールド幅替装置が設けられたモールドの平面図である。
【図2】図1におけるII-II線矢視図である。
【図3】同モールド幅替装置の側面図である。
【図4】同モールド幅替装置の背面図である。
【図5】同モールド幅替装置の正面図である。
【図6】同モールド幅替装置の動作説明図である。
【図7】従来のモールドの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1において、f1は固定長辺フレーム、f2は固定長辺フレームf1との間隔を調整
できるように設けた可動長辺フレーム、f3は長辺フレームf1、f2の間に挾まれた一対の短辺フレームである。長辺フレームf1、f2および短辺フレームf3,f3の表面には、それぞれ銅板fcが固定されている。これら一対の長辺フレームf1、f2および一対の短辺フレームf3,f3から連続鋳造設備用のモールドMが構成されている。
【0012】
短辺フレームf3,f3の背面には、それぞれ本発明の一実施形態に係るモールド幅替装置1,1が設けられており、この2組のモールド幅替装置1,1により短辺フレームf3を長辺フレームf1、f2に沿ってモールド幅方向に移動させることで、モールド幅を替えることができるようになっている。なお、本明細書においてモールド幅方向とは、モールドMの幅方向(図1における左右方向)を意味する。また、上下方向とは、モールド幅方向と直行する方向であって、鋳片が流れる方向(図1における紙面に対して垂直方向)を意味する。
【0013】
モールドMには2組のモールド幅替装置1,1が設けられているが、それらはストランド中心Cを軸として線対称に構成されているので、以下では一方(図1における左側の)のモールド幅替装置1についてのみ説明する。
【0014】
図2および図3において、10はスライダであり、14は固定長辺フレームf1に固定された上下一対のスライドガイドである。スライドガイド14,14はモールド幅方向に沿って設けられており、スライダ10の上縁および下縁を案内して、スライダ10が固定長辺フレームf1に沿ってモールド幅方向に摺動できるようになっている。
【0015】
スライダ10には、上下一対のスクリュージャッキ20,20が取り付けられている。スクリュージャッキ20は、スクリューシャフト21と、スクリューシャフト21の一端に取り付けられたウォームホイール22と、ウォームホイール22に噛み合うウォーム23と、ウォームホイール22およびウォーム23を納めるケース24と、スクリューシャフト21にねじ込まれたボールナット25とから構成されている。そのため、ウォーム23を回転させることにより、ウォームホイール22およびスクリューシャフト21を回転させ、ボールナット25をケース24に対して近接離間させることができる。
【0016】
スクリュージャッキ20のケース24はスライダ10に固定されており、ボールナット25は、スクリューシャフト21を内包する円筒状の連結部材26を介して短辺フレームf3に連結されている。そのため、スクリュージャッキ20を動作させることにより、スライダ10に対して短辺フレームf3をモールド幅方向に近接離間させることができる。
なお、スクリュージャッキ20を駆動するための駆動力は、モールドMの周囲に設置された駆動装置(図示せず)からユニバーサルジョイント等を介して伝達される。
【0017】
ここで、スクリュージャッキ20は特許請求の範囲に記載の幅替用アクチュエータに相当する。幅替用アクチュエータとしては、スクリュージャッキの他、油圧シリンダやステッピングシリンダ等を用いることができる。ただし、スクリュージャッキは駆動力が大きいという性質を有するので、鋳片から短辺フレームf3に作用する大きな外力に対抗して短辺フレームf3を移動でき、操業を停止しないでモールドの幅替えを行うことができるという利点を有する。また、スクリュージャッキは位置制御の精度が高いという性質を有するので、モールド幅を精度よく制御できるという利点を有する。
【0018】
スライダ10には、上記一対のスクリュージャッキ20,20の上下中間位置に引付シリンダ30が取り付けられている。引付シリンダ30のシリンダ31はスライダ10に固定されており、ピストンロッド32は短辺フレームf3に連結されている。そして、引付シリンダ30は、短辺フレームf3を移動させていない間は常に、短辺フレームf3をスライダ10に引き付けるように動作する。すなわち、引付シリンダ30は短辺フレームf3をスライダ10に対して近接させる方向に付勢する。
この引付シリンダ30の引き付け動作により、スクリュージャッキ20等の駆動系の隙間から発生する短辺フレームf3の位置ブレを防止することができる。
なお、引付シリンダ30は特許請求の範囲に記載の引付手段に相当する。
【0019】
図4に示すように、固定長辺フレームf1には移動用油圧シリンダ40のシリンダ41が固定されている。そして、移動用油圧シリンダ40のピストンロッド42はスライダ10に形成されたアーム15に連結されている。そのため、移動用油圧シリンダ40を動作させることで、スライダ10を固定長辺フレームf1に沿ってモールド幅方向に移動させることができる。
なお、移動用油圧シリンダ40は特許請求の範囲に記載の移動用アクチュエータに相当する。移動用アクチュエータとしては油圧シリンダの他に、スクリュージャッキ、ステッピングシリンダ等を用いることができる。
【0020】
図3に示すように、モールド幅替装置1には、位置決めピン51と、幅方向固定ピン52と、上下方向固定ピン53とからなる固定手段50が備えられており、スライダ10は、移動用油圧シリンダ40が収縮してスライダ10がストランド中心Cから離間した広幅位置Iと移動用油圧シリンダ40が伸長してスライダ10がストランド中心Cに近接した狭幅位置IIとで固定長辺フレームf1に対して固定されるようになっている。
【0021】
位置決めピン51は先端が円錐形のピンであり、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53は先端が楔形のピンである。
一方、スライダ10には、位置決めピン51の先端が嵌合する円錐形の位置決め用凹部11と、幅方向固定ピン52の先端が嵌合する楔形の幅方向固定用凹部12と、上下方向固定ピン53の先端が嵌合する楔形の上下方向固定用凹部13とが形成されている。
【0022】
図5に示すように、位置決め用凹部11はモールド幅方向に所定間隔を空けて2つ形成されている。この2つの位置決め用凹部11,11の間隔により、上記広幅位置Iと狭幅位置IIとの間の間隔が定められている。そして、図3に示すように、位置決めピン51は、その後端に油圧シリンダ54のピストンロッドが取り付けられており、その先端をいずれかの位置決め用凹部11に挿入抜去できるように、固定長辺フレームf1に取り付けられている。
【0023】
また、図5に示すように、幅方向固定用凹部12は位置決め用凹部11の上方に、楔面がモールド幅方向を向くように形成されている。ここで、楔面とは、楔形を形成する一対の面を意味する。幅方向固定用凹部12もモールド幅方向に所定間隔を空けて2つ形成されており、その間隔は2つの位置決め用凹部11,11の間隔と同一である。そして、図3に示すように、幅方向固定ピン52は、その後端に油圧シリンダ55のピストンロッドが取り付けられており、その先端をいずれかの幅方向固定用凹部12に挿入抜去できるように、固定長辺フレームf1に取り付けられている。
【0024】
また、図4に示すように、上下方向固定用凹部13は、楔面が上下方向を向くように形成されている。上下方向固定用凹部13もモールド幅方向に所定間隔を空けて2つ形成されており、その間隔は2つの位置決め用凹部11,11の間隔と同一である。そして、図3に示すように、上下方向固定ピン53は、その後端に油圧シリンダ56のピストンロッドが取り付けられており、その先端をいずれかの上下方向固定用凹部13に挿入抜去できるように、固定長辺フレームf1に取り付けられている。
【0025】
つぎに、図6に基づき、モールド幅替装置1によるモールド幅替方法を説明する。
(I)は、スライダ10が広幅位置Iに位置する状態であって、位置決めピン51、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53が、それぞれ位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13に挿入され、スライダ10が固定長辺フレームf1に対して固定されている状態である。
この状態でスクリュージャッキ20を動作させて、スライダ10に対して短辺フレームf3をモールド幅方向に近接離間させれば、短辺フレームf3の移動範囲は図6におけるaとなり、鋳片幅が中程度の鋳片から大きい鋳片までを鋳造できる。
【0026】
スライダ10を広幅位置Iに位置させ、スクリュージャッキ20を最も伸長させた場合のモールド幅よりも鋳片幅が小さい鋳片を鋳造する場合には、以下の動作が行われる。
まず、位置決めピン51、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53を、それぞれ位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13から抜去し、スライダ10の固定を解除する。
つぎに、移動用油圧シリンダ40を伸長し、スライダ10を広幅位置Iから狭幅位置IIに移動させる(図6(II)参照)。
【0027】
つぎに、位置決めピン51、幅方向固定ピン52および上下方向固定ピン53でスライダ10を固定長辺フレームf1に対して固定するのであるが、その手順は以下の通りである。
まず、位置決めピン51を位置決め用凹部11に挿入する。これにより、スライダ10を仮に固定することができる。ここで、位置決めピン51の先端は円錐形であり、位置決め用凹部11も円錐形であるので、スライダ10の位置がモールド幅方向あるいは上下方向に多少ずれていたとしても、位置決めピン51を位置決め用凹部11に挿入することで、その位置ズレを補正することができる。そのため、つぎに行われる幅方向固定ピン52の幅方向固定用凹部12への挿入や、上下方向固定ピン53の上下方向固定用凹部13への挿入が容易となる。
【0028】
つぎに、幅方向固定ピン52を幅方向固定用凹部12に挿入する。ここで、幅方向固定ピン52の先端は楔形であり、幅方向固定用凹部12も楔形であり、それらの楔面はモールド幅方向に向けられているので、固定長辺フレームf1に対してスライダ10のモールド幅方向の固定を行うことができる。そのため、短辺フレームf3に鋳片から大きな外力が作用しても、その外力に耐えることができる。
【0029】
上記位置決めピン51および幅方向固定ピン52により、スライダ10はほぼ固定されているが、スライダ10には短辺フレームf3が連結されているので、その重量により短辺フレームf3が下がるように傾く恐れがある。
そこで、つぎに、上下方向固定ピン53を上下方向固定用凹部13に挿入する。ここで、上下方向固定ピン53の先端は楔形であり、上下方向固定用凹部13も楔形であり、それらの楔面は上下方向に向けられているので、固定長辺フレームf1に対してスライダ10の上下方向の固定を行うことができる。そのため、短辺フレームf3が自重により傾くことを防止できる。
【0030】
以上の動作で、スライダ10は狭幅位置IIに固定される。
この状態でスクリュージャッキ20を動作させて、スライダ10に対して短辺フレームf3をモールド幅方向に近接離間させれば、短辺フレームf3の移動範囲は図6におけるbとなり、鋳片幅が小さい鋳片から中程度の鋳片までを鋳造できる。
【0031】
再びスライダ10を狭幅位置IIから広幅位置Iに移動させる場合には、スライダ10の固定を解除し、移動用油圧シリンダ40を収縮し、スライダ10を狭幅位置IIから広幅位置Iに移動させた後に、上記の手順でスライダ10を固定すればよい。
【0032】
なお、上記では幅方向固定ピン52を幅方向固定用凹部12に挿入した後に、上下方向固定ピン53を上下方向固定用凹部13に挿入したが、これを逆の順番で行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0033】
以上のごとく、固定長辺フレームf1に沿ってスライダ10を移動させ、スライダ10に対して短辺フレームf3を近接離間させれば、短辺フレームf3は移動範囲aおよびbの範囲で移動でき、ストロークが長くなるので、同じモールドで鋳片幅の小さいものから大きいものまで鋳造できる。
また、スライダ10に移動用油圧シリンダ40が取り付けられているので、固定手段50を解除しても、移動用油圧シリンダ40で鋳片からの外力に対抗しつつスライダ10を移動でき、操業を停止しないでモールドMの幅替えを行うことができる。
【0034】
なお、図6に示すように、広幅位置Iにおける短辺フレームf3の移動範囲aと、狭幅位置IIにおける短辺フレームf3の移動範囲bとの間に、重なる範囲が存在するように構成してもよい。これは、スクリュージャッキ20のストロークや、位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13の配置により定めることができる。
このようにすれば、移動範囲aおよびbが重なる範囲cでは、スライダ10を移動させる必要がなく、スクリュージャッキ20でスライダ10に対して短辺フレームf3を近接離間させるだけでモールド幅を替えることができるので、移動範囲cにおける幅替が頻繁に発生する場合には、幅替作業における作業負担を軽減できるからである。
なお、必ずしも、広幅位置Iにおける短辺フレームf3の移動範囲aと、狭幅位置IIにおける短辺フレームf3の移動範囲bとの間に、重なる範囲が存在するようにしなくてもよい。
【0035】
なお、上記実施形態においては、スライダ10は広幅位置Iと狭幅位置IIの2つの位置で固定されるように構成されているが、3つ以上の位置で固定されるように構成してもよい。スライダ10が3つ以上の位置で固定されるように構成するためには、位置決め用凹部11、幅方向固定用凹部12および上下方向固定用凹部13をそれぞれ3つ以上形成すればよい。
【符号の説明】
【0036】
f1 固定長辺フレーム
f2 可動長辺フレーム
f3 短辺フレーム
1 モールド幅替装置
10 スライダ
11 位置決め用凹部
12 幅方向固定用凹部
13 上下方向固定用凹部
20 スクリュージャッキ
30 引付シリンダ
40 移動用油圧シリンダ
51 位置決めピン
52 幅方向固定ピン
53 上下方向固定ピン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の長辺フレームと、該一対の長辺フレームに挟まれた一対の短辺フレームと、該短辺フレームを該長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動させるモールド幅替装置とを有する連続鋳造設備用のモールドであって、
前記モールド幅替装置は、
前記短辺フレームが取り付けられるとともに、前記長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動可能なスライダと、
前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させる移動用アクチュエータと、
前記長辺フレームに対して前記スライダを固定する固定手段と、
前記スライダに対して前記短辺フレームを前記モールド幅方向に近接離間させる幅替用アクチュエータと、を備える
ことを特徴とする連続鋳造設備用のモールド。
【請求項2】
前記固定手段は、先端が円錐形の位置決めピンと、先端が楔形の幅方向固定ピンと、先端が楔形の上下方向固定ピンとからなり、
前記スライダには、
前記位置決めピンの先端が嵌合する位置決め用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、
楔面が前記モールド幅方向を向いた前記幅方向固定ピンの先端が嵌合する幅方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、
楔面が上下方向を向いた前記上下方向固定ピンの先端が嵌合する上下方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、
前記位置決めピンは、該位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、
前記幅方向固定ピンは、該幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、
前記上下方向固定ピンは、該上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられている
ことを特徴とする請求項1記載の連続鋳造設備用のモールド。
【請求項3】
前記モールド幅替装置は、前記スライダをストランド中心に近接するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲と、前記スライダをストランド中心から離間するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲との間に、重なる範囲が存在するように構成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の連続鋳造設備用のモールド。
【請求項4】
前記モールド幅替装置は、前記短辺フレームを前記スライダに引き付ける引付手段を備える
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の連続鋳造設備用のモールド。
【請求項5】
請求項2記載の連続鋳造設備用のモールドの幅替方法であって、
前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させ、
前記位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入した後に、
前記幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入し、
前記上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入する
ことを特徴とする連続鋳造設備用のモールドの幅替方法。
【請求項1】
一対の長辺フレームと、該一対の長辺フレームに挟まれた一対の短辺フレームと、該短辺フレームを該長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動させるモールド幅替装置とを有する連続鋳造設備用のモールドであって、
前記モールド幅替装置は、
前記短辺フレームが取り付けられるとともに、前記長辺フレームに沿ってモールド幅方向に移動可能なスライダと、
前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させる移動用アクチュエータと、
前記長辺フレームに対して前記スライダを固定する固定手段と、
前記スライダに対して前記短辺フレームを前記モールド幅方向に近接離間させる幅替用アクチュエータと、を備える
ことを特徴とする連続鋳造設備用のモールド。
【請求項2】
前記固定手段は、先端が円錐形の位置決めピンと、先端が楔形の幅方向固定ピンと、先端が楔形の上下方向固定ピンとからなり、
前記スライダには、
前記位置決めピンの先端が嵌合する位置決め用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、
楔面が前記モールド幅方向を向いた前記幅方向固定ピンの先端が嵌合する幅方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、
楔面が上下方向を向いた前記上下方向固定ピンの先端が嵌合する上下方向固定用凹部が、前記モールド幅方向に複数形成されており、
前記位置決めピンは、該位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、
前記幅方向固定ピンは、該幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられており、
前記上下方向固定ピンは、該上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入抜去できるように、前記長辺フレームに取り付けられている
ことを特徴とする請求項1記載の連続鋳造設備用のモールド。
【請求項3】
前記モールド幅替装置は、前記スライダをストランド中心に近接するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲と、前記スライダをストランド中心から離間するように移動させた状態における前記短辺フレームの移動範囲との間に、重なる範囲が存在するように構成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の連続鋳造設備用のモールド。
【請求項4】
前記モールド幅替装置は、前記短辺フレームを前記スライダに引き付ける引付手段を備える
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の連続鋳造設備用のモールド。
【請求項5】
請求項2記載の連続鋳造設備用のモールドの幅替方法であって、
前記長辺フレームに沿って前記スライダを前記モールド幅方向に移動させ、
前記位置決めピンの先端を前記位置決め用凹部に挿入した後に、
前記幅方向固定ピンの先端を前記幅方向固定用凹部に挿入し、
前記上下方向固定ピンの先端を前記上下方向固定用凹部に挿入する
ことを特徴とする連続鋳造設備用のモールドの幅替方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−254471(P2012−254471A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129673(P2011−129673)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]