説明

進角制御装置

【課題】冷態始動時にはエンジンの低中速域回転数にて進角量を大きく保持し、温態始動時にはエンジンの回転数に応じて進角量を大きくすることが可能であり、かつコンパクトに設計できる。
【解決手段】回転軸6を中心に回転するタイマーケース10と、タイマーケースに収容され、摺動方向に摺動可能な遠心ウエイト20・20と、遠心ウエイトを回転軸に接近する方向に付勢するタイマースプリング30と、遠心ウエイトに係合する位置が回転軸から遠心ウエイトまでの距離が大きくなるにしたがってタイマーケースに対して進角する向きに移動するタイマーハブ40と、遠心ウエイトの側方に配置され、所定の温度未満である場合には遠心ウエイトを回転軸から離間する方向に摺動させることによりタイマーハブがタイマーケースに対して進角した状態を保持する冷態時進角機構60と、を具備し、冷態時進角機構には遠心ウエイトに作用するピストンを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに適用される進角制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンに適用される機械式の進角制御装置が広く知られている。例えば特許文献1に記載の如くである。
特許文献1に記載の進角制御装置は、エンジンのクランク軸と燃料噴射ポンプのカム軸との間の位相角を適宜に変化させ、エンジンの回転数が上昇するのにともなって燃料噴射ポンプからの燃料の噴射時期を早める(進角させる)ことにより、着火時期を適正化するものである。換言すれば、特許文献1に記載の進角制御装置は、エンジンの回転数が上昇するほど(燃料噴射ポンプからの燃料の噴射時期の)進角量を大きくするように制御するものである。
このように制御することは、エンジンの着火性を向上させる上で望ましい。
【0003】
一方、進角量を大きくし過ぎると、燃料がエンジンの燃焼室内で急速に燃焼することとなるので、排ガス規制の対象物質である窒素酸化物(以下、「NOx」と記載する。)の排ガス中における濃度が上昇する、という問題が生じる。
そこで、エンジンの着火性を極力高くしつつ排ガス中におけるNOx濃度は極力低くすることが可能な「理想的なエンジンの回転数と進角量との関係」が、当該技術分野において模索されている。
【0004】
しかしながら、従来の如くエンジンの回転数が上昇するほど進角量を大きくするように制御するだけでは対処できない問題として、「冷態始動時における始動性」がある。
具体的には、エンジンの冷態始動時(燃焼室内の温度が低温の状態でエンジンを作動開始する場合)においては、燃焼室内の温度が燃料を充分に気化するのに必要な温度に到達していないため着火性が低く(始動性が悪く)、未燃焼の燃料が大量に発生し、ひいては白煙発生の原因となる等の問題が生じる。
【0005】
このような観点からは、(1)エンジンの冷態始動時に関してはエンジンの低中速域回転数にて進角量を大きく保持するように制御し、(2)エンジンの冷態始動時以外(燃焼室内が充分に高い温度となった後)に関しては従来と同様にエンジンの回転数が上昇するほど進角量を大きくするように制御する、ことが可能な進角制御装置が望ましい。
上記(1)および(2)の双方を実現することが可能な進角制御装置としては、特許文献2に記載の進角制御装置が挙げられる。
【0006】
特許文献2に記載の進角制御装置は、入力軸の一側部に出力軸を、他側部に一対の遠心ウエイト(遠心錘)を配置し、入力軸と出力軸とにわたって偏心カム型進角機構を設けている。
この偏心カム型進角機構は一対の遠心ウエイトの遠心力と圧縮コイルスプリング製のタイマースプリング(錘戻しスプリング)の求心側への張力との不釣合い力により作動して、入力軸に対して出力軸を進角制御するものである。
そして、一対の遠心ウエイトは、圧縮コイルスプリング製の始動進角用スプリングで遠心方向へ移動する(進角方向に移動する)のに対して、始動進角解除用感温作動手段が所定の温度以上であると感知したときには始動進角解除用感温作動手段が伸長することにより、始動進角用スプリングの張力に抗して進角駆動解除する(結果として、一対の遠心ウエイトは、遅角方向に移動可能となる)。
【0007】
特許文献2に記載の進角制御装置によれば、上記(1)および(2)の双方を実現することが可能である。
しかしながら、特許文献2に記載の進角制御装置では、始動進角用スプリングと始動進角解除用形状記憶スプリングとが、一対の遠心ウエイトの間に配置されるとともに、タイマースプリングに対して同心状に配置されている。このため、従来の進角制御装置と比べて部品点数が多く、構造が複雑であり、ひいては進角制御装置の大型化を招く、という問題がある。
【0008】
具体的には、互いに内外に挿嵌し合う始動進角用スプリングと始動進角解除用形状記憶スプリングとの干渉を回避するため、始動進角解除用形状記憶スプリングと始動進角用スプリングとの間に伝動用筒を挿入した構成とする必要があり、部品点数の増加および構造の複雑化の一因となっていた。
【0009】
また、始動進角用スプリングおよび始動進角解除用形状記憶スプリングの伸縮・伸長を可能とするため、一対の遠心ウエイトに錘開閉ガイド軸を摺動可能に嵌挿する必要があり、部品点数の増加および構造の複雑化の一因となっていた。
【0010】
また、特許文献2に記載の進角制御装置では、始動進角用スプリング、始動進角解除用形状記憶スプリング、伝動用筒、および錘開閉ガイド軸等の多数の部品を、一対の遠心ウエイトで挟まれる位置に配置する必要があるため、例えば一対の遠心ウエイトに切り欠きを設ける等によりこれらの部品を配置するスペースを確保した場合にはその分だけ一対の遠心ウエイトを外側に大きくして重量を確保しなければならず、進角制御装置の大型化を招く一因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−305639号公報
【特許文献2】特開2006−250013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は叙上の事情に鑑みてなされたものであり、冷態始動時にはエンジンの低中速域回転数にて進角量を大きく保持し、温態始動時にはエンジンの回転数に応じて進角量を大きくすることが可能であり、かつコンパクトな進角制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0014】
すなわち、請求項1においては、エンジンのクランク軸からの動力が伝達されることにより回転軸を中心に回転するタイマーケースと、前記タイマーケースにおいて前記回転軸を挟む位置に収容され、前記回転軸の軸線方向に対して垂直な方向である摺動方向に摺動可能な一対の遠心ウエイトと、前記一対の遠心ウエイトを前記摺動方向のうち前記回転軸に接近する方向に向かって付勢するタイマースプリングと、前記一対の遠心ウエイトに係合することにより前記回転軸を中心に前記タイマーケースと一体的に回転し、かつ、前記一対の遠心ウエイトに係合する位置が前記回転軸から前記一対の遠心ウエイトまでの距離が大きくなるにしたがって前記タイマーケースに対して進角する向きに移動するタイマーハブと、前記タイマーケースに収容されるとともに前記一対の遠心ウエイトからみて前記回転軸の軸線方向および前記一対の遠心ウエイトの摺動方向に対して垂直な方向である前記一対の遠心ウエイトの側方に配置され、前記エンジンが所定の温度未満である場合には前記一対の遠心ウエイトを前記タイマースプリングの付勢力に抗して前記摺動方向のうち前記回転軸から離間する方向に向かって摺動させることにより前記タイマーハブが前記タイマーケースに対して進角した状態を保持する冷態時進角機構と、を具備し、前記冷態時進角機構は、前記エンジンが所定の温度未満である場合には前記一対の遠心ウエイトの間に作用する拡張部材を備えるものである。
【0015】
請求項2においては、前記冷態時進角機構は、前記拡張部材を前記回転軸の軸線方向および前記摺動方向に対して垂直な方向に向かって付勢する付勢部材を備え、前記付勢部材は、前記エンジンが所定の温度以上である場合には記憶された形状となる形状記憶スプリングを含み、前記エンジンが所定の温度未満である場合には、前記拡張部材が前記付勢部材に付勢されて前記一対の遠心ウエイトを互いに離間する向きに押すように前記拡張部材が前記一対の遠心ウエイトの間に作用するものである。
【0016】
請求項3においては、前記形状記憶スプリングは、前記回転軸の軸線方向および前記摺動方向に対して垂直な方向に伸縮可能に設けられ、前記拡張部材には、前記一対の遠心ウエイトと面接触可能な第一テーパ面が形成され、前記一対の遠心ウエイトには、前記第一テーパ面と面接触可能な第二テーパ面が形成され、前記所定の温度未満である場合には、前記第一テーパ面が前記第二テーパ面を押すものである。
【0017】
請求項4においては、前記付勢部材は、前記付勢部材と同一直線上で伸縮可能なバイアススプリングを含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、冷態始動時にはエンジンの低中速域回転数にて進角量を大きく保持し、温態始動時にはエンジンの回転数に応じて進角量を大きくすることが可能であり、かつコンパクトに設計することが可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】進角制御装置とエンジン本体ならびに燃料噴射ポンプとの関係を示す模式図である。
【図2】本発明に係る進角制御装置の構成を示す分解説明図である。
【図3】温態始動時(温態作動停止直後)における進角制御装置の構成を示す図であり、回転軸方向からみた断面図である。図中の矢印はクランク軸の回転方向を示している。
【図4】温態作動時における進角制御装置の構成を示す図であり、回転軸方向からみた断面図である。進角量が最大値に到達した状態を示している。図中の矢印はクランク軸の回転方向を示している。
【図5】冷態時進角機構の構成を示す図であり、(a)は冷態始動時における回転軸方向からみた断面図、(b)は温態始動時(温態作動停止直後)における回転軸方向からみた断面図である。
【図6】冷態始動時における進角制御装置の構成を示す図であり、回転軸方向からみた断面図である。図中の矢印はクランク軸の回転方向を示している。
【図7】ディーゼルエンジンの作動にともなう進角量の経時変化を示す図であり、(a)はエンジンの回転数と進角量との相関関係を示す図、(b)はエンジンの回転数と燃料噴射ポンプからの燃料の噴射時期との相関関係を示す図である。図中の太い点線は、冷態時進角機構を具備することによって得られる特性を示している。図中の太い実線は、冷態時進角機構を具備しない構成とした場合に得られる特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の一形態である進角制御装置100について、添付図面に基づいて説明する。
進角制御装置100は、図1に示すようにディーゼルエンジン90に適用される装置であり、エンジン本体1のクランク軸2と燃料噴射ポンプ3のカム軸4との間の位相角を適宜に変化させることによって、燃料の噴射時期(実噴射タイミング)を制御する装置である。
【0021】
進角制御装置100は、エンジン本体1の近傍に配置される。
本実施形態では進角制御装置100はエンジン本体1から駆動力を取り出すためのギアあるいは伝達軸等の駆動力伝達機構とともにケースに収容され、当該ケースの内部およびエンジン本体1の内部を潤滑油が循環する。
したがって、ディーゼルエンジン90の作動により発生する熱は潤滑油を介して進角制御装置100に伝達されるので、エンジン本体1の温度の上昇に伴い進角制御装置100の温度も上昇する(エンジン本体1の温度と進角制御装置100の温度との間には、相関がある)。
【0022】
本実施形態では潤滑油を介してエンジン本体1と進角制御装置100との間で熱の伝達が行われるが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、エンジンを冷却する冷却水を介してエンジン(本体)と進角制御装置の間で熱を伝達してもよく、エンジン(本体)を構成する部材と進角制御装置とが当接することによりエンジン(本体)と進角制御装置の間で熱を伝達してもよく、エンジン(本体)および進角制御装置が収容されるスペース(エンジンルーム)内の空気を介してエンジン(本体)と進角制御装置の間で熱を伝達してもよい。
【0023】
ここで、エンジン本体1(ディーゼルエンジン90)のうち、エンジン本体1(ディーゼルエンジン90)の作動状況をよく反映し、測定が容易であり、かつ温度の変動がビジーではない(短時間で激しく変動しない)部位の温度を「エンジン本体1(ディーゼルエンジン90)の温度」として用いることが望ましい。
このような事情を勘案した場合、エンジン本体1の構造体を成す部材であるシリンダブロックあるいはシリンダヘッドの温度(表面温度)を、「エンジン本体1(ディーゼルエンジン90)の温度」として用いることが望ましい。
また、シリンダブロックおよびシリンダヘッドとこれらを冷却する冷却水との間、シリンダブロックとその内部を循環する潤滑油との間、あるいは潤滑油と冷却水との間では盛んに熱交換(熱の伝達)が行われていることから、冷却水の温度あるいは潤滑油の温度を「エンジン本体1(ディーゼルエンジン90)の温度」として用いてもよい。
【0024】
なお、本実施形態の進角制御装置100はディーゼルエンジン90に適用されるが、本発明に係る進角制御装置はディーゼルエンジンだけでなくガソリンエンジン等の種々のエンジンにも適用可能である。
【0025】
進角制御装置100は、図2に示すように、タイマーケース10、一対の遠心ウエイト20・20、タイマースプリング30・30・・・、タイマーハブ40、過剰進角規制機構50、および冷態時進角機構60等を具備する。
【0026】
タイマーケース10は、本発明に係るタイマーケースの実施の一形態である。
タイマーケース10は、進角制御装置100の外郭を成す部材である。本実施形態のタイマーケース10は、駆動ギア11、一対のウエイトガイド12・12、および押え板15等を備える。
【0027】
駆動ギア11は、中央部に空洞(空洞部)が形成された薄い環形状の部材である。
駆動ギア11の外周面には、等間隔を置いて歯が形成される。この駆動ギア11の外周面に形成された歯は、アイドルギア5を介してエンジン本体1のクランク軸2に噛合している(図1参照)。したがって、エンジン本体1が駆動することによりクランク軸2が回転し、クランク軸2からの動力がアイドルギア5を経て駆動ギア11(ひいては、タイマーケース10)に伝達される。その結果、駆動ギア11が回転軸6を中心に回転する。
なお、以下ではクランク軸2の回転にともなって駆動ギア11が回転するときの、駆動ギア11の回転軸6の軸線方向を「回転軸方向」と規定する。
【0028】
一対のウエイトガイド12・12は、駆動ギア11の内側に固定される。一対のウエイトガイド12・12は、駆動ギア11の回転軸6を挟んで回転軸に平行な一対の平面を成すように、駆動ギア11の対向する位置に配置される。この一対の平面は、後述の遠心ウエイト20・20の摺動面(遠心ウエイト20・20が摺動する面。以下、「摺動面」と記載する。)を成している。
各ウエイトガイド12の摺動面は、駆動ギア11から回転軸方向の一側に突出している。
各ウエイトガイド12の摺動面と反対側の面は、駆動ギア11の外周面に形成される歯の溝底(歯切り溝の溝底)に沿って円弧状に湾曲するように形成される。
【0029】
各ウエイトガイド12には、二つのネジ穴12a・12aが形成される。各ネジ穴12aの内周面には雌ネジが形成される。
【0030】
押え板15は、中央部に貫装孔15aが形成された薄い円盤形状の部材である。押え板15の外径は、駆動ギア11の外径と略同じである。押え板15の周縁部には、ツバボルト16・16・・・を貫装するための四つの貫装孔15b・15b・・・が形成される。
押え板15の周縁部の四隅には、後述のタイマースプリング30・30・・・における一側のスプリング受けを成す外スプリング受け15c・15c・・・が形成される。
【0031】
回転軸方向からみて押え板15の外形と駆動ギア11の外形とが重なるように合わせたとき、ウエイトガイド12・12のネジ穴12a・12a・・・と、押え板15の貫装孔15b・15b・・・と、を重ね合わせることが可能である。こうして、各貫装孔15bにツバボルト16を貫装し、対応するネジ穴12aに締め付けることにより、押え板15がウエイトガイド12を介して駆動ギア11に固定される。
【0032】
なお、本実施形態においては、タイマーケース10に駆動ギア11が備えられる構成とすることにより、タイマーケース10がアイドルギア5に噛合するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、タイマーケース10に当該タイマーケース10と一体的に回転する平歯車を別部材として固定し、アイドルギア5を介して当該平歯車とクランク軸2とを噛合させることにより、タイマーケース10とクランク軸2とを連結する構成としてもよい。
【0033】
一対の遠心ウエイト20・20は、本発明に係る一対の遠心ウエイトの実施の一形態である。
各遠心ウエイト20は、回転軸方向からみて略円弧形状の部材である。各遠心ウエイト20を回転軸方向からみたときの円弧の外縁を成す部分(膨出した部分)と反対側の端部には、半円形状の溝部20aが形成される。一対の遠心ウエイト20・20は、溝部20aと溝部20aとを対向するように合わせた状態で、タイマーケース10に収容される。
各遠心ウエイト20には、斜め溝20cが形成される。
【0034】
一対の遠心ウエイト20・20は、タイマーケース10において回転軸を挟む位置に収容される。タイマーケース10に収容されたとき、各遠心ウエイト20は、押え板15ならびにウエイトガイド12・12に当接しつつ、ウエイトガイド12・12の摺動面に沿って摺動可能である。遠心ウエイト20・20の摺動する方向は、回転軸の軸線方向に対して垂直な方向に相当する。
なお、以下では遠心ウエイト20・20の摺動する方向(本実施形態においては摺動面の長手方向)を「摺動方向」と規定する。
【0035】
図2および図3に示すように、各遠心ウエイト20には、後述のタイマースプリング30・30を嵌装するための一対の貫通孔20b・20bが形成される。各貫通孔20bは、遠心ウエイト20を回転軸方向からみたときの円弧の外縁を成す面からこれと反対側の面まで貫通している。各貫通孔20bは摺動方向に平行に貫通している。貫通孔20bの一端側(溝部20aが配置される側の一端側)は、縮径されている。
この縮径された部分と、貫通孔20bを構成するその他の部分と、の間に形成される段差の部分は、後述のタイマースプリング30・30・・・における他側のスプリング受け(以下、「内スプリング受け」と記載する。)を成している。
【0036】
タイマースプリング30・30・・・は、本発明に係るタイマースプリングの実施の一形態である。
進角制御装置100は、四つのタイマースプリング30・30・・・を具備する。本実施形態のタイマースプリング30・30・・・は、圧縮コイルスプリングである。
タイマースプリング30・30・・・は、遠心ウエイト20・20の貫通孔20b・20b・・・にそれぞれ嵌装される。より詳細には、各タイマースプリング30は、タイマーケース10に一対の遠心ウエイト20・20を収容した状態において、押え板15の外スプリング受け15cと、遠心ウエイト20の内スプリング受けと、の間に介装される。
【0037】
このように構成することにより、タイマースプリング30・30・・・は一対の遠心ウエイト20・20を摺動方向のうち回転軸6に接近する方向に向かって付勢する。
【0038】
本実施形態のタイマースプリング30・30・・・は、複数のシム31・31・・・とともに遠心ウエイト20・20の貫通孔20b・20b・・・に嵌装されている。このように構成することは、シムの種類および数を適宜に変更することでタイマースプリング30・30・・・の付勢力の大きさを簡単に調整することが可能である点で望ましい。
【0039】
タイマーハブ40は、本発明に係るタイマーハブの実施の一形態である。
タイマーハブ40は、基板部41、円筒部42、一対の駆動ピン43・43、および一対のシュー44・44等を備える。
【0040】
基板部41は、薄い円柱形状の部材である。基板部41の外径は、駆動ギア11の内径よりも若干小さい寸法に設定されている。したがって、基板部41はタイマーケース10における駆動ギア11の空洞部に内嵌することが可能である。基板部41は駆動ギア11(タイマーケース10)に対して回転軸6を中心として相対回転可能である。
【0041】
円筒部42は、中空の円筒形状の部材である。円筒部42は、回転軸方向からみたとき、基板部41の中央部を貫通している。円筒部42の軸線は、基板部41の軸線と一直線となるように備えられる。
摺動方向からみたとき、基板部41と円筒部42とを合わせたものは、段付きの円筒構造を成している。
【0042】
一対の遠心ウエイト20・20を収容したタイマーケース10にタイマーハブ40を取り付けた(内嵌した)とき、円筒部42は一対の遠心ウエイト20・20の溝部20a・20aの間に挟まれるとともに、押え板15の貫装孔15aを貫通する。
円筒部42には、燃料噴射ポンプ3のカム軸4(図1参照)が相対回転不能に貫装される(固定される)。このように構成することにより、進角制御装置100はタイマーハブ40の円筒部42を介して燃料噴射ポンプ3のカム軸4に連結されている。
【0043】
なお、本実施形態においては、燃料噴射ポンプ3のカム軸4が円筒部42を介してタイマーハブ40に連結されるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、タイマーハブ40に当該タイマーハブ40と一体的に回転するベベルギアを別部材として固定し、当該ベベルギアに噛合する別のベベルギアをカム軸4に固定することにより、タイマーハブ40とカム軸4とを連結する構成としてもよい。
【0044】
一対の駆動ピン43・43は、それぞれ軸形状の部材である。各駆動ピン43は、基板部41を成す一対の平面のうちタイマーケース10に対向する面から突出するように設けられる。各駆動ピン43は回転軸方向に平行である。回転軸方向からみたとき、一方の駆動ピン43は、他方の駆動ピン43と円筒部42を中心として点対称となる位置(位相が180°ずれた位置)に配置される。
【0045】
一対のシュー44・44は、それぞれ直方体形状の部材である。各シュー44には、貫通孔が形成される。この貫通孔の半径は、駆動ピン43の半径よりも若干大きい寸法となるように設定されている。
駆動ピン43はシュー44に形成された貫通孔に嵌装され、シュー44は駆動ピン43を中心として回転可能である。
タイマーハブ40を、遠心ウエイト20・20を収容したタイマーケース10に取り付けたとき、一対のシュー44・44は、遠心ウエイト20・20に形成される斜め溝20c・20cにそれぞれ係合する。
【0046】
一対の斜め溝20c・20cは、一対の遠心ウエイト20・20において押え板15に対向する面と反対側の面に形成される。各斜め溝20cは、遠心ウエイト20を回転軸方向からみたときの円弧の外縁を成す面から溝部20aを成す面(半円形状の曲面)まで到達している。各斜め溝20cは、回転軸方向に対して垂直な平面上において、摺動方向に対して傾斜した方向(平行ではない方向)が長手となるように、遠心ウエイト20に形成される。
一対の斜め溝20c・20cは、一対の遠心ウエイト20・20がタイマーケース10に収容されたとき、相互に平行となる。各斜め溝20cの幅は、シュー44の幅よりも若干大きい寸法となるように設定されている。シュー44・44は、斜め溝20c・20c内を斜め溝20c・20cの長手方向に摺動(スライド移動)することが可能である。
なお、図3に示すように、斜め溝20cは、進角制御装置100の回転方向(回転軸6の回転方向)を基準として、回転軸6に近くなるほど進角制御装置100の回転方向の正方向に向かうように傾斜している。
【0047】
このように構成される進角制御装置100によれば、エンジン本体1から得た動力を燃料噴射ポンプ3に伝達することが可能である。
【0048】
すなわち、エンジン本体1のクランク軸2が回転すると、これにともなって駆動ギア11(タイマーケース10)が回転軸6を中心として回転する。そして、タイマーケース10に収容された一対の遠心ウエイト20・20がタイマーケース10とともに回転軸6を中心として回転する。さらに、一対の遠心ウエイト20・20に係合しているタイマーハブ40が回転軸6を中心としてタイマーケース10と一体的に回転する。
こうして、エンジン本体1のクランク軸2からの動力が燃料噴射ポンプ3のカム軸4に伝達される。
【0049】
一対の遠心ウエイト20・20が回転軸6を中心として回転するとき、一対の遠心ウエイト20・20には摺動方向のうち回転軸6から離間する方向に遠心力が作用する。したがって、遠心ウエイト20・20は、遠心力と、当該遠心力とは逆向きに働く力(摺動方向のうち回転軸6に接近する方向に向かって働く力)であるタイマースプリング30・30・・・の付勢力と、が釣り合う位置まで、ウエイトガイド12・12の摺動面に沿って摺動方向に移動する(図3および図4参照)。
【0050】
エンジン本体1のクランク軸2の回転数(エンジンの回転数)が大きくなるにつれて、一対の遠心ウエイト20・20に作用する遠心力が次第に大きくなり、遠心力とタイマースプリング30・30・・・の付勢力とが釣り合う位置が回転軸6から離間する方向に向かって移動することとなる。
したがって、クランク軸2の回転数が大きくなるにつれて一対の遠心ウエイト20・20が回転軸6から離間する方向に向かって移動し(互いに離間し)、斜め溝20c・20cにおいてシュー44・44が係合する位置が、溝部20a・20a側に移動する。
このとき各シュー44は対応する斜め溝20c内を移動し、シュー44は斜め溝20cの壁面を押しながら、溝部20a側に相対的に移動することとなる。
これにより、タイマーハブ40がタイマーケース10に対して相対回転し、タイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角する向きに移動する(タイマーハブ40のタイマーケース10に対する位相角が大きくなる)。換言すれば、タイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角される。
【0051】
したがって、クランク軸2の回転数が大きくなるほど、斜め溝20c・20cにおいてシュー44・44が係合する位置が溝部20a・20a側に向かって移動し、ひいてはタイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角した状態で一対の遠心ウエイト20・20に係合することとなる。
換言すれば、進角制御装置100では、回転軸6から一対の遠心ウエイト20・20までの距離が大きくなるにしたがってタイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角する向きに移動する。
【0052】
結果として、クランク軸2の回転数が上昇するにともなって(N→N)、クランク軸2に対するカム軸4の進角量が次第に大きくなり(θ→θ)(図7(a)参照)、燃料噴射ポンプ3が燃料を噴射するタイミングが早められる(図7(b)におけるエンジン回転数がNからNまでの区間参照)。
【0053】
なお、本実施形態の進角制御装置100では、クランク軸2の回転数が大きくなるほど、斜め溝20c・20cにおいてシュー44・44が係合する位置が溝部20a・20a側に向かって移動し、これによりタイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角されるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。
すなわち、回転軸から一対の遠心ウエイトまでの距離が大きくなるにしたがってタイマーハブがタイマーケースに対して進角するように構成したものであればよく、例えば従来の偏心カム型の機械式タイマーとして本発明の進角制御装置を構成してもよい。
【0054】
以上の如く、ディーゼルエンジン90において、出力軸であるクランク軸2の回転数の上昇に合わせて燃料噴射ポンプ3からの燃料の噴射時期を進角させることは、以下のような利点を奏する。
すなわち、クランク軸2の回転数(エンジンの回転数)が上昇するのにともなって燃料噴射ポンプ3からの燃料の噴射時期を進角させることにより、着火時期を適正化することが可能である。より具体的には、エンジンの回転数が高い場合においても燃料が燃料室内で充分に気化するだけの時間を確保することが可能である。
したがって、ディーゼルエンジン90の着火性を向上させることが可能である。
なお、一対の遠心ウエイト20・20の摺動方向に対する斜め溝20cの長手方向の傾斜角度(傾き)を適宜選択することにより、排ガス中のNOx濃度を極力抑えるようにしている。
【0055】
過剰進角規制機構50は、エンジンの回転数が所定の回転数以上となった場合には、エンジンの回転数が上昇してもタイマーケース10に対するタイマーハブ40の進角量が上昇しないようにする機構である。
過剰進角規制機構50は、図2および図3に示すように、一対の貫装孔15d・15dと、一対のストッパー片20d・20dと、を組み合わせてなる機構である。
【0056】
一対の貫装孔15d・15dは、図2に示すように、押え板15に形成される円形状の孔である。回転軸方向からみたとき、一方の貫装孔15dは、他方の貫装孔15dと貫装孔15aを中心として点対称となる位置(位相が180°ずれた位置)に配置される。
【0057】
一対のストッパー片20d・20dは、図2に示すように、それぞれ一対の遠心ウエイト20・20に形成される。各ストッパー片20dは、遠心ウエイト20において押え板15に対向する面から回転軸方向に突出するように形成される。本実施形態の各ストッパー片20dは、円柱形状に形成される。ストッパー片20dの半径は、押え板15の貫装孔15dの半径よりも充分に小さい寸法となるように設定されている。
【0058】
一対の遠心ウエイト20・20をタイマーケース10に収容したとき、ストッパー片20d・20dは、押え板15の貫装孔15d・15dにそれぞれ収容される(図3参照)。
【0059】
このように構成することにより、遠心ウエイト20・20のタイマーケース10内における摺動方向への移動は、ストッパー片20d・20dが押え板15の貫装孔15d・15dの内側を移動可能な範囲内に規制される(図3および図4参照)。
貫装孔15d・15dならびにストッパー片20d・20dの位置・寸法を適宜に設定することにより、エンジンが所定の回転数以上の場合には回転軸6から一対の遠心ウエイト20・20までの距離がそれ以上大きくなることを防止することが可能である(最大値θ、図7(a)参照)。
【0060】
冷態時進角機構60は、本発明に係る冷態時進角機構の実施の一形態である。
なお、以下ではエンジン本体1の燃料室内の温度が低温の状態でディーゼルエンジン90を作動開始する時(ディーゼルエンジン90の温度が所定の温度未満の状態でディーゼルエンジン90を始動する時)を、「冷態始動時」と規定する。
【0061】
冷態時進角機構60は、ディーゼルエンジン90が所定の温度未満である場合には一対の遠心ウエイト20・20をタイマースプリング30・30・・・の付勢力に抗して摺動方向のうち回転軸6から離間する方向に向かって摺動させることによりタイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角した状態を保持し、ディーゼルエンジン90が所定の温度以上である場合にはディーゼルエンジン90の回転数に応じてタイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角することを妨げない機構である。
【0062】
換言すれば、冷態時進角機構60は、冷態始動時にタイマーハブ40をタイマーケース10に対して強制的に進角させることにより、タイマーハブ40に連結されたカム軸4をタイマーケース10に噛合されたクランク軸2に対して強制的に進角させ、ひいては冷態始動時における燃料噴射ポンプ3が燃料を噴射するタイミングを強制的に早める機構である。
【0063】
「ディーゼルエンジン90が所定の温度未満である場合」とは、より厳密には「エンジン本体1の温度」が所定の温度Te未満となることにより、進角制御装置100(本実施形態では、後述する形状記憶スプリング63)が所定の温度Ts未満となる場合をいう。
「ディーゼルエンジン90が所定の温度以上である場合」とは、より厳密には「エンジン本体1の温度」が所定の温度Te以上となることにより、進角制御装置100(本実施形態では、後述する形状記憶スプリング63)が所定の温度Ts以上となる場合をいう。
【0064】
冷態時進角機構60は、図3から図6に示すように、ピストン61および付勢部材62を備える。
冷態時進角機構60はタイマーケース10に収容される。より詳細には、冷態時進角機構60は、タイマーケース10に収容されるとともに一対の遠心ウエイト20・20からみて回転軸方向および一対の遠心ウエイト20・20の摺動方向に対して垂直な方向である一対の遠心ウエイト20・20の側方に配置される。
本実施形態の冷態時進角機構60は、ウエイトガイド12に形成されるピストン室12bに収容される。
【0065】
ピストン室12bは、一方のウエイトガイド12に形成される略円柱形状の空間である。ピストン室12bは、回転軸方向および摺動方向に垂直な方向を軸線方向として、ウエイトガイド12の中央部に形成される。
【0066】
ピストン61は、本発明に係る拡張部材の実施の一形態である。
本実施形態のピストン61は、図5に示すように、大径部61aおよび小径部61b等を有する。
【0067】
大径部61aは、短い円柱形状の部分である。大径部61aの外径はピストン室12bの内径よりも若干小さい寸法となるように設定されている。大径部61aの一端部には小径部61bが延設される。
【0068】
小径部61bは、短い円柱形状の部分の一端に、円錐形状の部分を延設した形状を有し、さらにその円錐形状の部分の先端部が小径部61bの軸線方向に垂直な平面を成すように切断されている。小径部61bの当該円錐形状の部分は、大径部61aが延設されている側の端部とは反対側の端部に形成されている。
小径部61bの半径は、大径部61aの半径よりも小さい。小径部61bの軸線は、大径部61aの軸線と一直線となるように形成されている。小径部61bの円錐形状の部分は、先端部(大径部61aが延設されている側の端部とは反対側の端部)に近づくにつれて半径が小さくなるように形成されており、その外面がテーパ面61cを成している。このテーパ面61cは、本発明に係る第一テーパ面の実施の一形態である。
【0069】
このように構成されるピストン61は、その軸線方向を回転軸方向および摺動方向に対して垂直とした状態で、かつ、小径部61bを一対の遠心ウエイト20・20側に向けた状態で、ピストン室12b内に収容される。ピストン61の大径部61aは、ピストン室12bの壁面に当接しつつピストン室12b内をピストン室12bの軸線方向に摺動可能である。
【0070】
回転軸方向からみたとき、大径部61aと小径部61bとの境界には段差が形成されている。この段差の部分は、後述の形状記憶スプリング63における一側のスプリング受け(以下、「ピストン側スプリング受け」と記載する。)を成している。
【0071】
ピストン61には、環形状の溝である環状溝部61dが形成される。本実施形態の環状溝部61dは、ピストン61における大径部61aの小径部61bが延設されている側とは反対側の端面から小径部61b側に向かって旋盤加工を施すことにより形成される。環状溝部61dは、大径部61aと同心円状となるように形成される。
【0072】
付勢部材62は、本発明に係る付勢部材の実施の一形態である。
付勢部材62は、ピストン61を付勢する部材である。本実施形態の付勢部材62は、形状記憶スプリング63とバイアススプリング64とを組み合わせてなる。
【0073】
形状記憶スプリング63は、本発明に係る形状記憶スプリングの実施の一形態である。
形状記憶スプリング63は、形状記憶合金製のスプリングである。本実施形態の形状記憶スプリング63は、Ni−Ti系形状記憶合金からなる圧縮コイルスプリングである。形状記憶スプリング63は、適当な形状に加工した後に熱処理を施すことにより、所定の形状が記憶されている。
以下では、この記憶されている形状を「記憶された形状」と記載する。
【0074】
なお、本実施形態の形状記憶スプリング63は、Ni−Ti系形状記憶合金からなる圧縮コイルスプリングとしたが、本発明はこれに限るものではない。
すなわち、適当な形状に加工した後に熱処理を施すことにより所定の形状が記憶される性質を有する合金からなるスプリングであればよく、例えばAu−Cd系形状記憶合金、Cu−Sn系形状記憶合金、あるいはCu−Zn−Sn系形状記憶合金等の公知の形状記憶合金を材料として形状記憶スプリングを構成してもよい。
【0075】
形状記憶スプリング63は、形状記憶合金製のスプリングであることに起因して、以下の特性を有している。
すなわち、形状記憶スプリング63は、所定の温度Ts未満の温度(変態点未満の温度)である場合には復元力が発生せず、伸縮方向に簡単に変形することが可能である。
一方、この所定の温度Ts以上の温度(変態点以上の温度)である場合は、形状記憶スプリング63には記憶された形状に戻ろうとする大きな復元力が発生する。
【0076】
なお、形状記憶スプリング63を着実に作動させるという観点からは、形状記憶スプリング63の変態点の温度は、ディーゼルエンジン90の冷態始動時におけるタイマーケース10内の温度として想定される温度と比べて充分に高い温度となるように設定することが望ましい。
【0077】
形状記憶スプリング63は、ピストン室12b内に配置される。
具体的には、形状記憶スプリング63は、ピストン61のピストン側スプリング受けと、ピストン室12bの入口側(一対の遠心ウエイト20・20が配置される側)からピストン室12bの内側に向かって延設される鍔状の部分(ウエイト側スプリング受け)と、の間に介装される。
【0078】
ピストン室12b内に備えられたとき、形状記憶スプリング63はピストン61を一対の遠心ウエイト20・20が配置される側とは反対側に向かって(回転軸6から離間する方向に向かって)付勢する。
【0079】
バイアススプリング64は、本発明に係るバイアススプリングの実施の一形態である。
本実施形態のバイアススプリング64は、一般的な金属材料(形状記憶合金ではない材料)からなる圧縮コイルスプリングである。
【0080】
バイアススプリング64は、形状記憶スプリング63とともにピストン室12b内に備えられる。
具体的には、バイアススプリング64は、環状溝部61dに嵌装されて、環状溝部61dにおける回転軸6に一番接近した壁面(環状溝部61dの奥の壁面)と、ピストン室12bにおける回転軸6から一番離間した壁面(ピストン室12bの奥の壁面)と、の間に介装される。
バイアススプリング64の付勢方向(伸縮方向)は、形状記憶スプリング63の付勢方向(伸縮方向)と一直線(同一直線上)となるように配置される。
【0081】
ピストン室12b内に備えられたとき、バイアススプリング64はピストン61を一対の遠心ウエイト20・20が配置される側に向かって(回転軸6に接近する方向に向かって)付勢する。
【0082】
本実施形態のバイアススプリング64は、形状記憶スプリング63と組み合わされたとき、下記の(A)および(B)の特性を発揮するように設定されている。
【0083】
(A)形状記憶スプリング63が所定の温度Ts未満の温度(変態点未満の温度)である場合には、バイアススプリング64の付勢力が形状記憶スプリング63の付勢力に打ち勝つ。したがって、ピストン61が一対の遠心ウエイト20・20が配置される側に向かって(回転軸6に接近する方向に向かって)付勢される。
結果として、形状記憶スプリング63の付勢力とバイアススプリング64の付勢力とは、ピストン61が一対の遠心ウエイト20・20の間に挟まれる位置まで移動したときに、釣り合うこととなる。
【0084】
(B)形状記憶スプリング63が所定の温度Ts以上の温度(変態点以上の温度)である場合には、形状記憶スプリング63に大きな復元力が発生することにより、形状記憶スプリング63の付勢力がバイアススプリング64の付勢力に打ち勝つ。したがって、ピストン61が一対の遠心ウエイト20・20が配置される側とは反対側に向かって(回転軸6から離間する方向に向かって)付勢される。
結果として、形状記憶スプリング63の付勢力とバイアススプリング64の付勢力とは、ピストン61が一対の遠心ウエイト20・20の間から退避した(挟まれない)位置まで移動したときに、釣り合うこととなる。
【0085】
このように構成することにより、付勢部材62はディーゼルエンジン90が所定の温度未満である場合に限りピストン61を一対の遠心ウエイト20・20側に向かって付勢し、ピストン61を一対の遠心ウエイト20・20の間に作用させることが可能である。
付勢部材62により一対の遠心ウエイト20・20側に向かって付勢されたピストン61のテーパ面61cは、一対の遠心ウエイト20・20に形成されるテーパ面20e・20eと面接触する。このテーパ面20e・20eは、本発明に係る第二テーパ面の実施の一形態である。
【0086】
テーパ面20e・20eは、一対の遠心ウエイト20・20にそれぞれ形成される。
本実施形態の各テーパ面20eは、遠心ウエイト20を回転軸方向からみたときの円弧を成す面(曲面)と反対側の面(平面)における回転軸6に平行な一対の辺(本実施形態では短手の辺)に、ワイヤ放電加工を施すことにより形成される(図1参照)。
回転軸方向からみたとき、ピストン室12b側に配置されるテーパ面20e・20eは、ピストン61のテーパ面61cと平行となるように設定されている。
【0087】
このように構成することにより、ピストン61が一対の遠心ウエイト20・20に当接したとき、ピストン61のテーパ面61cと、遠心ウエイト20・20のテーパ面20e・20eと、が面接触する。よって、ディーゼルエンジン90のエンジン本体1が所定の温度Te未満である場合にはテーパ面61cがテーパ面20e・20eを押すこととなる。
したがって、一対の遠心ウエイト20・20がタイマースプリング30・30・・・から受ける付勢力が、テーパ面20e・20eならびにテーパ面61cを介してピストン61に、回転軸6から離間する方向に向かって作用することとなる。
【0088】
このように構成される冷態時進角機構60を具備することにより、本実施形態の進角制御装置100では以下の動作態様が可能となる。
【0089】
すなわち、ディーゼルエンジン90の冷態始動時においては、一対の遠心ウエイト20・20には遠心力がほとんど作用しない。したがって、一対の遠心ウエイト20・20は、タイマースプリング30・30・・・の付勢力によって、回転軸6に接近する方向に向かって付勢され、互いに接近している。
このときピストン61は、形状記憶スプリング63が変態点未満の温度になることで付勢部材62により付勢されて、遠心ウエイト20・20に押し付けられる。より詳細には、ピストン61のテーパ面61cが遠心ウエイト20・20のテーパ面20e・20eと面接触する。
そして、ピストン61はタイマースプリング30・30・・・の付勢力に抗して、一対の遠心ウエイト20・20の間に押し込まれる。
換言すれば、ピストン61は一対の遠心ウエイト20・20を摺動方向のうち回転軸6から離間する方向に向かって摺動させる(図5(a)および図6参照)。
【0090】
したがって、タイマーハブ40がタイマーケース10に対して相対回転し、ひいてはタイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角される(0→θ)(図7(a)参照)。
その結果、冷態始動時における燃料噴射ポンプ3からの燃料の燃料噴射時期が早められる(図7(b)参照)。
【0091】
一方、ディーゼルエンジン90の始動後、燃焼室内の温度が高温となっている場合(ディーゼルエンジン90の温態作動時)には、一対の遠心ウエイト20・20は、遠心力とタイマースプリング30・30・・・の付勢力とが釣り合う位置まで摺動方向に移動し、互いに離間している。
このときピストン61は、形状記憶スプリング63が変態点以上の温度になることで付勢部材62により付勢されて、一対の遠心ウエイト20・20に当接する位置から退避する。より詳細には、ピストン61のテーパ面61cが、一対の遠心ウエイト20・20のテーパ面20e・20eから離間する(図4参照)。
【0092】
また、ディーゼルエンジン90の温態作動停止直後、燃焼室内の温度が依然して高温に保持されている場合には、一対の遠心ウエイト20・20には遠心力がほとんど作用しない。したがって、一対の遠心ウエイト20・20は、タイマースプリング30・30・・・の付勢力によって、回転軸6に接近する方向に向かって付勢され、互いに接近している。
このときピストン61は、形状記憶スプリング63が変態点以上の温度となることで付勢部材62により付勢されて、一対の遠心ウエイト20・20に当接する位置から退避した状態が保持される(図3および図5(b)参照)。
【0093】
一方、ディーゼルエンジン90の温態作動停止後、充分に時間が経過し、ディーゼルエンジン90のエンジン本体1の温度が冷態始動時(冷態始動直前)の温度に戻った場合には、ピストン61は、形状記憶スプリング63が変態点未満の温度となることで付勢部材62により付勢されて、一対の遠心ウエイト20・20に押し付けられる。より詳細には、ピストン61のテーパ面61cが遠心ウエイト20・20のテーパ面20e・20eと面接触する。
【0094】
冷態時進角機構60を具備することで、本実施形態の進角制御装置100は、例えば下記の(I)から(V)に記載の利点を奏する。
【0095】
(I)冷態時進角機構60は一対の遠心ウエイト20・20の側方に配置されている。このように構成することにより、従来の進角制御装置100と比べてコンパクトに設計することが可能である。
例えば、冷態時進角機構に備えられる付勢部材を一対の遠心ウエイトの間に配置するとともに、タイマースプリングに対して同心状に配置した場合には、伝動用筒、錘開閉ガイド軸等の部品を付随的に設ける必要があったが、冷態時進角機構60によればこれらの部品が不要となる。また、遠心ウエイトの内側に空間を形成し当該空間の限られたスペースに多数の部品を配置する必要がなくなるので、構造が複雑化し難く、また一対の遠心ウエイトを外側に大きくして重量を確保する必要がなくなり、進角制御装置の大型化を回避することが可能である。
また、例えば、冷態時進角機構を回転軸に平行な方向に設けた場合には、タイマーケースまたは/およびタイマーハブの回転軸方向の寸法をある程度確保する必要があり、進角制御装置の回転軸方向の寸法を大きく設定する必要があった。一方、冷態時進角機構60によればこのような必要が生じないので、進角制御装置100をコンパクトに設計することが可能である。
【0096】
(II)従来の進角制御装置においてタイマーケース内の空きスペースとなっていた部分に、冷態時進角機構60を具備することが可能である。
本実施形態においては、ウエイトガイド12の(摺動面に垂直な方向からみて)中央部にピストン室12bを形成することにより、ピストン室12bの軸線方向の寸法を充分に確保している。つまり、摺動面から当該摺動面と反対側の面(円弧状に湾曲した面)までの距離が最大となる位置に、ピストン室12bを形成している。
このように構成することにより、従来の進角制御装置と高い搭載互換性を保持しつつ、冷態始動時にはエンジンの低中速域回転数にて進角量を大きく保持し、温態始動時にはエンジンの回転数に応じて進角量を大きくすることが可能である進角制御装置100を実現している。
【0097】
(III)ピストン61が一対の遠心ウエイト20・20の間から退避するとき、ピストン61には、付勢部材62による付勢力の他、回転軸6から離間する方向に働く遠心力と、タイマースプリング30・30・・・の付勢力に起因するテーパ面20e・20eがテーパ面61cを押す力と、が作用する。
このため、形状記憶スプリング63により発生させる復元力を極端に大きく設定しなくても、ピストン61を一対の遠心ウエイト20・20の間から容易に退避させることが可能である。
したがって、形状記憶スプリング63に要求される付勢力が小さくなるので、形状記憶スプリング63をコンパクトに設計することが可能となり、ひいては冷態時進角機構60をコンパクトに設計することが可能となる。
【0098】
(IV)進角制御装置100では、タイマーケース10の回転にともなってピストン61に作用する遠心力の方向が、ピストン61がピストン室12b内において摺動する方向と一直線となる。
したがって、エンジンの回転数が高くなった場合においても、遠心力の影響によってピストン61が回転軸6に平行な方向に位置ずれする恐れがない。よって、一対の遠心ウエイト20・20とピストン61との相対的な位置関係を安定的に保持することが可能であり、ピストン61を一対の遠心ウエイト20・20の間に押し込む動作を精度よく実現することができる。
【0099】
(V)進角制御装置100では、ピストン61(拡張部材)が一対の遠心ウエイト20・20の間に作用するとき、ピストン61のテーパ面61cと、遠心ウエイト20・20のテーパ面20e・20eと、が面接触する。
したがって、拡張部材と遠心ウエイトとが点接触する構成とした場合と比べて、ピストン61と遠心ウエイト20・20との間に引っ掛かりが生じ難く(こぜる恐れが少なく)、ピストン61を遠心ウエイト20・20の間にスムーズに押し込むことが可能となる。
また、拡張部材と遠心ウエイトとが点接触する構成とした場合と比べて、ピストン61と遠心ウエイト20・20との間に発生する摩擦力が一箇所に集中して作用し難く、ピストン61の摩耗を極力少なくすることが可能である。
【0100】
なお、本実施形態の冷態時進角機構60は、一方のウエイトガイド12に形成されるピストン室12bに収容されるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、一対のウエイトガイド12・12の両方にピストン室12b・12bを形成し、回転軸6を挟んでタイマーケース10の両側に一対の冷態時進角機構60・60を具備する構成としてもよい。
このように構成すると、ピストン61がテーパ面20e・20eならびにテーパ面61cを介してタイマースプリング30・30・・・から受ける付勢力が、一対のピストン61・61に分散されることとなる。
このため、バイアススプリング64により発生させる張力を極端に大きく設定しなくても、ピストン61を一対の遠心ウエイト20・20の間に容易に押し込むことが可能となる。
したがって、バイアススプリング64に要求される付勢力が小さくなるので、バイアススプリング64をよりコンパクトに設計することが可能となり、ひいては冷態時進角機構60をコンパクトに設計することが可能となる。
【0101】
本実施形態におけるピストン61(拡張部材)は、大径部61aおよび小径部61b等を有する形状のピストン61として構成したが、本発明はこれに限るものではない。
すなわち、拡張部材は一対の遠心ウエイトを互いに離間する向きに押すように一対の遠心ウエイトの間に作用するものであればよく、例えば小径部61bに相当する部分を半球形状の部分として構成してもよい。この場合には、半球形状の外面が第一テーパ面を成す。
【0102】
以上の如く、本実施形態に係る進角制御装置100は、ディーゼルエンジン90のクランク軸2からの動力が伝達されることにより回転軸6を中心に回転するタイマーケース10と、タイマーケース10において回転軸6を挟む位置に収容され、回転軸6の軸線方向に対して垂直な方向である摺動方向に摺動可能な一対の遠心ウエイト20・20と、一対の遠心ウエイト20・20を摺動方向のうち回転軸6に接近する方向に向かって付勢するタイマースプリング30・30・・・と、一対の遠心ウエイト20・20に係合することにより回転軸6を中心にタイマーケース10と一体的に回転し、かつ、一対の遠心ウエイト20・20に係合する位置が回転軸6から一対の遠心ウエイト20・20までの距離が大きくなるにしたがってタイマーケース10に対して進角する向きに移動するタイマーハブ40と、タイマーケース10に収容されるとともに一対の遠心ウエイト20・20からみて回転軸6の軸線方向および一対の遠心ウエイト20・20の摺動方向に対して垂直な方向である一対の遠心ウエイト20・20の側方に配置され、ディーゼルエンジン90が所定の温度未満である場合には一対の遠心ウエイト20・20をタイマースプリング30・30・・・の付勢力に抗して摺動方向のうち回転軸6から離間する方向に向かって摺動させることによりタイマーハブ40がタイマーケース10に対して進角した状態を保持する冷態時進角機構60と、を具備し、冷態時進角機構60は、ディーゼルエンジン90が所定の温度未満である場合には一対の遠心ウエイト20・20の間に作用するピストン61を備えたものである。
このように構成することにより、進角制御装置100においては、冷態始動時にはエンジンの回転数(クランク軸2の回転数)が低い場合も進角量を大きく保持し、温態始動時にはエンジンの回転数(クランク軸2の回転数)に応じて進角量を大きくすることが可能である。また、タイマーケース10に冷態時進角機構60を収容したので、進角制御装置100をコンパクトに設計することが可能である。
したがって、既存の進角制御装置と高い搭載互換性を有する進角制御装置100でありながら、ディーゼルエンジン90の冷態始動時における始動性の悪化およびこれに起因する未燃焼の燃料の大量発生、白煙の発生等を抑制することが可能である。
【0103】
また、本実施形態に係る進角制御装置100は、冷態時進角機構60は、ピストン61を回転軸6の軸線方向および摺動方向に対して垂直な方向に向かって付勢する付勢部材62を備え、付勢部材62は、ディーゼルエンジン90が所定の温度以上である場合には記憶された形状となる形状記憶スプリング63を含み、ディーゼルエンジン90が所定の温度未満である場合には、ピストン61が付勢部材62に付勢されて一対の遠心ウエイト20・20を互いに離間する向きに押すようにピストン61が一対の遠心ウエイト20・20の間に作用するものである。
このように構成することにより、適宜の種類の形状記憶合金からなる形状記憶スプリングを採用したり、あるいは、形状記憶スプリングに記憶させる形状を適宜に変更したりすることで、所望の冷態時進角機構60を実現することができる。したがって、例えばエンジンの回転数がどのような範囲にある場合に冷態時進角機構60を作動させるか、といった設定基準を進角制御装置100の使用の状況に応じて適宜に変更することが可能である。
【0104】
また、本実施形態に係る進角制御装置100は、形状記憶スプリング63は、回転軸6の軸線方向および摺動方向に対して垂直な方向に伸縮可能に設けられ、ピストン61には、一対の遠心ウエイト20・20と面接触可能なテーパ面61c・61cが形成され、一対の遠心ウエイト20・20には、テーパ面61c・61cと面接触可能なテーパ面20e・20eが形成され、ディーゼルエンジン90が所定の温度未満である場合には、テーパ面61c・61cがテーパ面20e・20eを押すものである。
したがって、ピストン61を一対の遠心ウエイト20・20の間にスムーズに押し込むことができ、一対の遠心ウエイト20・20を摺動方向のうち回転軸6から離間する方向に向かって摺動させる際に要するバイアススプリング64の付勢力を極力小さく設定することが可能である。
また、ピストン61が一対の遠心ウエイト20・20の間から退避するとき、ピストン61にはテーパ面20e・20eがテーパ面61cを押す力が作用することとなる。したがって、形状記憶スプリング63により発生させる復元力を極端に大きく設定しなくても、ピストン61を一対の遠心ウエイト20・20の間から容易に退避させることが可能である。
結果として、付勢部材62をコンパクトに設計することができ、ひいては進角制御装置100をコンパクトに設計することが可能である。
【0105】
さらに、本実施形態に係る進角制御装置100は、付勢部材62は、付勢部材62と同一直線上で伸縮可能なバイアススプリング64を含むものである。
このように構成することで、形状記憶スプリング63がディーゼルエンジン90の温態作動によって一旦記憶された形状となった後に、初期の形状(冷態始動時もしくは冷態始動直前における寸法)に戻すことをバイアススプリング64の付勢力により容易に実現できる。したがって、ピストン61を一対の遠心ウエイト20・20の間に作用させるアクチュエータとして付勢部材62を使用することができ、少ない部品点数かつ簡単な構成で冷態時進角機構60を実現することが可能である。
【0106】
なお、本発明に係る冷態時進角機構は、別実施形態として以下のように構成することも可能である。
すなわち、冷態時進角機構60における形状記憶スプリング63に代えて形状記憶合金製の引張コイルスプリングからなる形状記憶スプリングを備えるとともに、冷態時進角機構60におけるバイアススプリング64に代えて一般的な(形状記憶合金ではない)金属製の引張コイルスプリングからなるバイアススプリングを備える構成とする。
当該形状記憶スプリングは冷態時進角機構60におけるバイアススプリング64の位置に相当する位置に配置し、当該バイアススプリングは冷態時進角機構60における形状記憶スプリング63の位置に相当する位置に配置する。
当該形状記憶スプリングとバイアススプリングとを組み合わせたもの(付勢部材)は、上述の(A)および(B)の特性を発揮するように設定する。
【符号の説明】
【0107】
1 エンジン本体
2 クランク軸
3 燃料噴射ポンプ
4 カム軸
6 回転軸
10 タイマーケース
11 駆動ギア
20 遠心ウエイト
20e テーパ面(第二テーパ面)
30 タイマースプリング
40 タイマーハブ
50 過剰進角規制機構
60 冷態時進角機構
61 ピストン(拡張部材)
61c テーパ面(第一テーパ面)
62 付勢部材
63 形状記憶スプリング
64 バイアススプリング
90 ディーゼルエンジン
100 進角制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸からの動力が伝達されることにより回転軸を中心に回転するタイマーケースと、
前記タイマーケースにおいて前記回転軸を挟む位置に収容され、前記回転軸の軸線方向に対して垂直な方向である摺動方向に摺動可能な一対の遠心ウエイトと、
前記一対の遠心ウエイトを前記摺動方向のうち前記回転軸に接近する方向に向かって付勢するタイマースプリングと、
前記一対の遠心ウエイトに係合することにより前記回転軸を中心に前記タイマーケースと一体的に回転し、かつ、前記一対の遠心ウエイトに係合する位置が前記回転軸から前記一対の遠心ウエイトまでの距離が大きくなるにしたがって前記タイマーケースに対して進角する向きに移動するタイマーハブと、
前記タイマーケースに収容されるとともに前記一対の遠心ウエイトからみて前記回転軸の軸線方向および前記一対の遠心ウエイトの摺動方向に対して垂直な方向である前記一対の遠心ウエイトの側方に配置され、前記エンジンが所定の温度未満である場合には前記一対の遠心ウエイトを前記タイマースプリングの付勢力に抗して前記摺動方向のうち前記回転軸から離間する方向に向かって摺動させることにより前記タイマーハブが前記タイマーケースに対して進角した状態を保持する冷態時進角機構と、
を具備し、
前記冷態時進角機構は、前記エンジンが所定の温度未満である場合には前記一対の遠心ウエイトの間に作用する拡張部材を備える、
進角制御装置。
【請求項2】
前記冷態時進角機構は、
前記拡張部材を前記回転軸の軸線方向および前記摺動方向に対して垂直な方向に向かって付勢する付勢部材を備え、
前記付勢部材は、
前記エンジンが所定の温度以上である場合には記憶された形状となる形状記憶スプリングを含み、
前記エンジンが所定の温度未満である場合には、前記拡張部材が前記付勢部材に付勢されて前記一対の遠心ウエイトを互いに離間する向きに押すように前記拡張部材が前記一対の遠心ウエイトの間に作用する、
請求項1に記載の進角制御装置。
【請求項3】
前記形状記憶スプリングは、前記回転軸の軸線方向および前記摺動方向に対して垂直な方向に伸縮可能に設けられ、
前記拡張部材には、前記一対の遠心ウエイトと面接触可能な第一テーパ面が形成され、
前記一対の遠心ウエイトには、前記第一テーパ面と面接触可能な第二テーパ面が形成され、
前記所定の温度未満である場合には、前記第一テーパ面が前記第二テーパ面を押す、
請求項2に記載の進角制御装置。
【請求項4】
前記付勢部材は、前記付勢部材と同一直線上で伸縮可能なバイアススプリングを含む、請求項3に記載の進角制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−12657(P2011−12657A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160105(P2009−160105)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】