説明

遊技機筐体

【課題】廃棄時に有効に再利用され組み立て作業では負荷を低減することができる遊技機筐体を提供する。
【解決手段】再生可能なABS樹脂および/または変性マレイミド系ABS樹脂を発泡成形した発泡ABS樹脂成形体を使用し、それから切り出した部材同士をホゾ穴結合させ、更にその接合部をABSが可溶な有機溶剤で溶着させることで、組立て時の作業負荷が低く、再利用が容易で、必要に応じた耐熱性が得られる遊技機筐体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊技機筐体あるいはパチスロ機用筐体と、それを用いたパチスロ機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から遊技機筐体には木製の合板や、パーティクルボードなどの木質部材が使われていた。また、遊技機の製品寿命は比較的短いものが多く、その廃棄の際にはこれらの木質部材が有用に利用されない問題があった。
これに対し、プラスチック製の部材やそれを用いた筐体も提案されているが(例えば、特許文献1、2参照)、剛性や再生のし易さの面で十分ではなく、またそれらの部材を組立てる際の作業性の悪さは木質部材製のものと大差が無かった。またプラスチックを利用することで一体成形する方法も提案されているが、専用の大型設備が必要で経済的でなかった。
【特許文献1】特許第2505630号公報
【特許文献2】特公平5−5517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
木質部材を用いた遊技機筐体を使い続けることにより天然資源の枯渇が心配されるが、その代替として考えられる樹脂製の遊技機筐体の問題点を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、かかる問題を解決するために、ABS樹脂を発泡させて作製した成形体を用い、それらをホゾ穴結合した上に、接合部分をABS樹脂が可溶な有機溶剤で溶着することにより筐体を構成させることを特徴としている。剛性と軽量化を目的として、発泡ABS樹脂成形体の見掛け比重が0.3〜0.7g/cmで、その厚みが10〜25mmであり、更に発泡ABS樹脂成形体にはABS樹脂に相溶性のある再生材を任意の割合で配合し、遊技機IC基盤から発生する熱による筐体のゆがみを防止する必要がある場合は用いられるABS樹脂に不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基を含むABS樹脂を使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、遊技機を廃棄する際に有効に利用されていなかった木質部材からなる筐体に代えて、再生可能な発泡ABS樹脂成形体から構成してなる筐体を用いることにより筐体部材を何度でも再生、即ち再利用でき、更に例えばパチンコ機のガラス枠のように遊技機の他の部分で多用されているABS樹脂製品も、本発明の筐体に再利用することが可能となる。
また、ABS樹脂を発泡成形して得られた成形体を必要な形状に切り出した後にホゾ穴結合し、その接合部を溶着させることで、筐体として必要な強度を保持した上に、筐体組立て時の位置合わせや釘打ち作業等が無くなり、その軽量性とあいまって作業負荷の軽減が図られる。更には、必要に応じて不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基を含むABS樹脂を使用することで、遊技機のIC基盤からの発熱により筐体内部が高温化してもゆがみが発生しにくい筐体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に使用される発泡ABS樹脂成形体は、ABS樹脂に化学発泡剤を配合するほかに押出し成形時に押出し機内にガスを圧入することで製造可能であるが、好ましくはABS樹脂を押出し成形して板状の成形体を作製するときに、化学発泡剤をABS樹脂に適量配合し、押出し機内で混錬混合するのが良い。
【0007】
発泡ABS樹脂成形品の剛性を向上させるために、成形体は発泡部と貧発泡部とからなる多層構造が好ましく、特に最外層に貧発泡層を有するのが好ましい。押出し成形で発泡ABS樹脂成形体を作製するときに、引取り装置のキャスティングロール温度をTダイから出た樹脂温度から80〜110℃低く設定することで最外層に発泡割合が極めて少ない貧発泡層を得る事ができる。
【0008】
本発明は、得られた発泡ABS樹脂成形体を遊技機筐体の部材として必要な形状に切り出した後に必要なホゾとホゾ穴を施し(図1、2)、これらを組み立てるいわゆるホゾ穴結合した後に、その接合部分にABS樹脂が溶解する有機溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン、トルエン等を少量注入することで、接合部分のABS樹脂界面を溶解させ、溶着することを特徴とする。ここでいうホゾ穴結合とは、部材の各接合部分に、双方が組手となるように雄と雌の細工を施して結合することを含む。
これにより、筐体組立作業時の位置合わせ等の煩わしさが大幅に軽減される。更に、使用された有機溶剤は最終的に揮散してしまうため、釘等で締結した場合のように再生前に釘等を取り除く手間が無く、この面でも作業負荷の軽減が図られる。
【0009】
このホゾ穴結合する場所や数は特定するものでは無いが、筐体の一つの稜線部に対し2箇所以上施すのが好ましい。
【0010】
発泡ABS樹脂成形体の見かけ比重は、0.3〜0.7g/cmが好ましい。剛性と重量の観点から更に好ましくは0.4〜0.6g/cmである。見かけ比重が0.3g/cm未満の場合は、発泡した一つ一つのセルの形状が安定せず必要な剛性が得られない場合がある。また、見かけ比重が0.7g/cmを超える場合は、成形体が必要以上に重くなる他、遊技機搬送時の仮止めや部品等を筐体に固定するときに用いられる釘が打てなくなる可能性がある。
【0011】
この見かけ比重は、次のようにして求めた。まず、発泡ABS樹脂成形体から100mm×100mmの試験片を切り出しその重量を計量する。次に、その試験片の厚みを求め、計算によりその試験片の体積を求める。
これらから、次式により発泡ABS樹脂成形体の見掛け比重を求めた。
見かけ比重(g/cm)=試験片の重量(g)/試験片の体積(cm
【0012】
発泡ABS樹脂成形体は、バージンのABS樹脂の他にパチンコ機ガラス枠などのABS樹脂製部品の粉砕品やそれらのリペレット品などの再生材を配合して製造することができる。ABS樹脂とは、AS共重合体とABS系グラフト共重合体からなるABS樹脂の他に、アクリル酸エステル類が共重合されたABS樹脂、α−メチルスチレンが共重合されたABS樹脂を指す。また、再生材としては、これらのABS樹脂を用いた製品の他、アクリル酸エステルとスチレンの共重合体や、アクリル酸エステル、スチレンおよびブタジエンからなる共重合体など、ABS樹脂に相溶性のある樹脂からなる製品であればどの様なものでも使用できる。
【0013】
本発明が用いられる遊技機で、IC基盤等からの発熱により大幅に内部温度が上昇し、その熱で筐体にゆがみを生じて内部機器が正常に作動しない恐れがある場合は、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基を含むABS樹脂(以下変性マレイミド系ABS樹脂と称す)を使用することが好ましい。ABS樹脂と変性マレイミドABS樹脂を混合して使用する場合の配合比や、変性マレイミド系ABS樹脂を単独で使用する場合の不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基含有率は、特定するものでは無いが、最終の発泡ABS樹脂成形体に要求される耐熱性の指標であるガラス転移点を参考に決めればよい。
【0014】
バージンのABS樹脂以外に再生材を使用したときは、最終成形体の衝撃強度や剛性、耐熱性を調整するために種類の異なるABS樹脂を適宜用いて調整することが好ましい。
再生材を含む場合も、変性マレイミド系ABS樹脂を使用する場合でも、最終の発泡ABS樹脂成形体中のゴム分は5〜30質量%が好ましく、更に好ましくは7〜25質量%である。
【0015】
発泡ABS樹脂成形体の厚みは10〜25mmが好ましい。更に好ましいのは12〜20mmである。成形体の厚みが10mm未満の場合は剛性が十分でない可能性があり、25mmを超えると作業性が悪くなるほか、遊技機内部が狭くなって内部部品との取り合いが難しくなる可能性がある。
【0016】
発泡ABS樹脂成形体は、筐体に取付ける内部部品の雄ネジを受ける雌ネジ金具を圧入することが木質部材に比べ極めて容易であり、筐体の側板や裏板の内側に各種の部品を取り付ける機構となっているパチスロ機の筐体には極めて有用である。
【実施例】
【0017】
本発明について、以下の実施例および比較例で説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例中の諸特性や評価結果の測定方法は以下のとおりである。
[ガラス転移点]
ガラス転移点温度はDSC測定機「DSC−220C」(セイコー電子(株)社製)にて測定した。測定体として樹脂を予めプレスして厚さ5mmの薄板上に成形し、10mgを精秤して用いた。測定条件は以下のとおりである。
温度範囲:室温〜200℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素気流化
[曲げ特性]
発泡ABS樹脂成形体から幅20mm、長さ200mmの試験片を切り出し、支点間距離140mm、荷重速度15mm/minでJIS K−7171に準じて曲げ特性を測定した。なお、試験片の切り出しは、試験片の長辺が成形体の押出し方向に対して直角の方向(MD方向)になるように行った。
【0018】
[実施例1]
100Kgの電気化学工業(株)製のABS樹脂GR3500を原料とし、それに1.0Kgの永和化成工業(株)製化学発泡剤FE−512をダンブラーで30分混合した後、Tダイ付きの日立造船(株)製の90mmφ単軸押出機SHT−90を用いてシリンダー温度180℃にて押出し成形を行った。引き取り装置のキャスティングロールの表面温度は110℃とした。成形中にトリミングして600mm×900mm×15mmの発泡ABS樹脂成形体を得た。その諸特性と評価結果は表1に示した。
【0019】
[実施例2]
引取り速度とキャスティングロール間の隙間を調整した以外は実施例1と同様の方法で成形を行い、厚みが12mmの発泡ABS樹脂成形体を得た。その諸特性と評価結果は表1に示した。
【0020】
[実施例3]
電気化学工業(株)製のABS樹脂、GR1000を住友重機械(株)製ネオマット515/150射出成形機を用いて230℃で120mm×120mm×3mmの成形品を成形し、それを粉砕機にて粉砕し、40Kgの粉砕品を得た。この粉砕品と60Kgの電気化学工業(株)製のABS樹脂GR3500を原料に用いた他は、実施例1と同様の方法にて発泡ABS樹脂成形体を得た。この成形体の諸特性と評価結果は表1に示した。
【0021】
[実施例4]
60Kgの電気化学工業(株)製のABS樹脂GR3500と、40Kgの電気化学工業(株)製の変性マレイミド系ABS樹脂であるマレッカK−300とを原料に用い、押出し機のシリンダー温度を190℃とした他は、実施例1と同様の方法にて発泡ABS樹脂成形体を得た。この成形体の諸特性と評価結果は表1に示した。
【0022】
[比較例1]
100Kgの電気化学工業(株)製のABS樹脂GR3500を原料とし、0.5Kgの実施例1で用いた化学発泡剤をダンブラーで20分混合した他は、実施例1と同様な方法にて発泡ABS樹脂成形体を得た。この成形体の諸特性と評価結果は表1に示した。
【0023】
[比較例2]
100Kgの東洋スチレン(株)製ハイインパクトポリスチレンE640を原料とし、押出し機のシリンダー温度を170℃とし、キャスティングロールの表面温度を100℃とした他は、実施例1と同様の方法で発泡ポリスチレン成形体を得た。この成形体の諸特性と評価結果は表1に示した。
【0024】
実施例1で得られた発泡ABS樹脂成形体から400mm×200mm×15mmの部材を2枚切り出し、一方の部材の200mmの端面部分に図3に示すような形状で30mm、厚み8mm、高さ15mmのホゾ2個をその間が50mmになるようNC旋盤で削り出し、もう一方の部材の200mmの端面にこのホゾが勘合するホゾ穴をNC旋盤で開け、これらを接合させた後、その接触部分の隙間全体にメチルエチルケトン約3mLを注射器で均等に流し込んだ。
各部材が完全に溶着するよう24時間常温で放置したのち、図4に示すようにホゾ加工しなかった2つの端部を地面に接触させ、接合部が上になるように置いた状態で、25Kg紙袋入りの電気化学工業(株)製のABS樹脂GR3500、1袋を接合部に置いて、接合部の強度評価をしたところ、破壊されず全く問題なかった。
【0025】
実施例1の発泡ABS樹脂成形体から上記と同様のサイズの部材を切り出し、図5のようにホゾを設けない部材の200mmの端面ともう一方のホゾ穴を設けない部材の端部を上記と同様に90度で組み合わせて、その接合部の隙間全体にメチルエチルケトン約3mLを注射器で均等に流し込み24時間放置したものを作製した。
この場合、各部材を90度に保持するためのジグが必要で、作業は上記のホゾ穴結合方法に比べ煩雑であった。
更に、上記の方法で接合部の強度評価をしたところ、接合部は破壊された。
【0026】
次に、実施例1の発泡ABS樹脂成形体から上記と同様のサイズの部材を切り出し、図6のように、ホゾ加工しない部材同士を90度で組み合わせた後、接合部を長さ33mm、直径の2mmの釘4本を5cm間隔で打ち込み締結したものを作製した。
この場合も、各部材を90度に保持するためのジグが必要で、作業は煩雑であった。
更に、上記の方法で接合部の強度評価をしたところ、接合部は破壊された。
【0027】
比較例2の発泡ポリスチレン成形体から上記と同様のサイズの部材を切り出し、図4のように2つの部材をホゾ穴結合し、更にメチルエチルケトン3mLを注射器で均等に流し込み24時間放置したものを作製した。
この結合部の強度を上記と同様の方法で評価したところ、接合部近傍の発泡ポリスチレン成形体が壊れてしまった。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】遊戯機筐体の各部材を模式的に表した組み立て図
【図2】図1の天板と側板の接合部分拡大図
【図3】ホゾ穴結合の強度評価時のテスト部材を模式的に表した図
【図4】ホゾ穴結合の強度評価におけるテスト部材配置を模式的に表した図
【図5】接着結合の場合の強度評価におけるテスト部材配置を模式的に表した図
【図6】釘打ち結合の場合の強度評価におけるテスト部材配置を模式的に表した図
【符号の説明】
【0030】
1 遊技機筐体天板
2 遊技機筐体裏板
3 遊技機筐体底板
4 遊技機筐体側板
5 遊技機筐体側板
6 ホゾ加工発泡成形体
7 ホゾ穴加工発泡成形体
8 発泡成形体
9 釘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ABS樹脂成形体から構成してなる遊技機筐体。
【請求項2】
発泡ABS樹脂成形体からなる部材同士をホゾ穴結合し、更に各部材の接合部分をABS樹脂が溶解する有機溶剤で溶着することを特徴とする請求項1記載の遊技機筐体。
【請求項3】
発泡ABS樹脂成形体の見かけ比重が0.3〜0.7g/cmである請求項1あるいは請求項2に記載の遊技機筐体。
【請求項4】
発泡ABS樹脂成形体がABS樹脂と、ABS樹脂に相溶する再生材とからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の遊技機筐体。
【請求項5】
発泡ABS樹脂成形体が不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基を含むABS樹脂からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の遊技機筐体。
【請求項6】
発泡ABS樹脂成形体の厚みが10〜25mmである請求項1〜5のいずれか1項に記載の遊技機筐体。
【請求項7】
遊技機筐体がパチスロ機用筐体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の遊技機筐体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の遊技機筐体を用いたパチスロ機

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−136585(P2006−136585A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329920(P2004−329920)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(504422519)柏松化工株式会社 (4)
【出願人】(502251876)関西化学工業株式会社 (1)
【出願人】(000111535)ハッポー化学工業株式会社 (8)
【出願人】(390005463)ヤマト・インダストリー株式会社 (16)