説明

遊星歯車機構用キャリアにおけるキャリアプレート

【課題】本発明は自動車トランスミッション等に使用される遊星歯車機構のキャリアを構成するキャリアプレートに関し、板材からのプレス成形品であるにも関らず板材の肉厚や脚部幅を維持しつつ焼結品に勝るとも劣らない高剛性化を実現させることを目的とする。
【解決手段】キャリアは夫々が板材のプレス品であるキャリアベース10とキャリアプレート12との溶接構造をなし、キャリアプレート12は基部14と脚部16からなり、脚部16はキャリアベース10に向けて曲折される。基部14は脚部16との接続部にキャリアプレート側へ向けての段差18を有し、脚部16は段差16の底壁面16Aから延出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車トランスミッション等に使用される遊星歯車機構のキャリアを構成するキャリアプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車トランスミッション等に使用される遊星歯車機構のキャリヤとしてキャリアベースとキャリアプレートとから構成されたものがある。キャリアプレートは円周方向に等間隔に離間した脚部を備え、脚部がキャリアベースに溶接固定される。そのため、円周方向に離間する空間部がキャリアプレートとキャリアベースとの対向面間に形成され、この空間部がピニオンギヤの収納部を構成している。キャリアプレートとして金属板材からのプレス成形品のものがあるが、この場合、板材より、プレス加工によりキャリアプレートの基部となる円板状部とキャリアプレートの脚部となる半径方向張出し部とからなる中間素材を打ち抜き、中間素材におる半径方向張出し部をプレス曲げすることで脚部とする。そのままの曲げでは脚部からの移行部で基部の平面が出し難いため、中間素材における半径方向張出し部への移行部位において該周面に切欠部を設け、曲げ加工による影響を遮断するようにしている(特許文献1)。
【0003】
また、キャリアプレートとして焼結品によるものもある(特許文献2)。焼結品のキャリアプレートの場合はその基部をキャリアベースに接続する脚部は十分な剛性を持たせるべく円周方向のみならず半径方向にも相当大きな寸法を持つように構成されている。
【特許文献1】特開平8−300084号公報
【特許文献2】特開平7−208585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プレス成形品としての切欠部の存在は必然的に円周方向における曲げ剛性の降下要因であり、トルクアップ等の要求仕様との関係では円周方向における脚部の寸法を大きくしたり、板材の肉厚を大きくことで剛性を上げる対策をとるとすると、そのままのサイズではレイアウト上ピニオンギヤの収納ができない等の問題があり、大型化せざるを得ないことがありまた重量が嵩むことになるため、省スペース化や軽量化の要求を満たすことができない。
【0005】
他方、焼結品の場合は剛性上は全く問題がないが、コスト的にはプレス品と比較して相当な不利である。
【0006】
この発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、板材からのプレス成形品であるにも関らず板材の肉厚や脚部幅を維持しつつ焼結品とほぼ同等の高剛性化を実現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば、キャリアベースに固定されて遊星歯車機構のキャリアを構成する板材のプレス成形品であるキャリアプレートであって、キャリアプレートは基部と該基部の外周縁においてキャリアベースに向けて曲折された脚部とを備え、前記基部は脚部との接続部位にキャリアプレート側へ向けての段差を有し、前記脚部は前記段差の底壁面から延出されるキャリアプレートが提供される。
【0008】
好ましくは、前記各段差は円周方向に離間して対向し、各々が基部を底壁面に接続する一対の側壁面を形成するように構成することができる。
【0009】
また、前記基部はその外径を実質的に維持しつつ脚部に接続するように構成することができる。
【0010】
そして、本発明のキャリアプレートのプレス成形方法にあっては、板材より、プレス加工によりキャリアプレートの基部となる円板状部とキャリアプレートの脚部となる半径方向張出し部とからなる中間素材をカット成形し、中間素材における前記円板状部の外周部における半径方向張出し部との接続部位に段差を加圧成形し、その後、段差から延びる中間素材の延出部位をプレス曲げすることによりキャリアプレートに成形する。
【発明の効果】
【0011】
キャリアプレートの基部外周における脚部の延出部位に段差をプレス成形していることにより、段差を構成する円周方向に離間する側壁面がリブとなり、また脚部は段差の底壁面から延出している構成と相俟って周方向におけるキャリアプレートの剛性を高めることができる。そのため、肉厚を薄くしたり脚部の幅を狭くしても必要な剛性を確保することができ、ピニオンギヤなどのレイアウトの自由度が高められまた多くの車種への適用の可能性を広げることができ、加えて、部品重量の削減を期することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1はこの発明のキャリアプレートを備えた遊星歯車キャリアの斜視図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿って表される矢視断面図である。
【図3】図3は図1のキャリアプレートを得るためのプレス品である中間素材の平面図である。
【図4】図4は図3のIV−IV線に沿った矢視断面図であり、中間素材から図1のキャリアプレートをプレス加工する際の工程(イ)(ロ)(ハ)を示す。
【図5】図5は発明のキャリアプレートを備えた遊星歯車キャリアにつき段差深さとトルクに対する変位量についての模擬実験の結果を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の遊星歯車用キャリアは自動車の自動変速機などに使用されるもので、図1はその一例を斜視図にて示す。遊星歯車用キャリアはキャリアベース10とキャリアプレート12とからなり、キャリアベース10とキャリアプレート12は所定の肉厚の板材よりプレス加工により形成され、溶接等の接合によりキャリアとして一体化される。キャリアベース10は中心に遊星歯車機構の中心軸(図示しない)が挿通される中心孔10´を備え、外周には歯部10-1を形成している。この実施形態のキャリアはキャリアベース10の外周部の歯部10-1をその外側に設けられる図示しないクラッチドラムの内歯(スプライン)に噛合させるタイプのものであるが、本発明はこのタイプに限らず、キャリアベース自体を外周部が筒状に張出したドラム形状としたものにも勿論適用可能である。キャリアプレート12は中心孔12´を備え、円板状の基部14とこの基部14の外周面からキャリアベース10に向けて曲折された3本の脚部16とを備える。3本の脚部16に対向した位置において、キャリアベース10は3個の弓状孔20を形成し、夫々の弓状孔20に対応の脚部16が挿入され、この挿入部が溶接され、キャリアベースとキャリアプレートとがキャリアとして組立られる。この組み立て状態において、キャリアベース10とキャリアプレート12との間は3本の脚部16により円周方向に3個の空間に分けられ、各空間がそれぞれピニオンギヤ(図示せず)の収納空間となり、ピニオンギヤはキャリアベース10とキャリアプレート12間に軸支される。この実施形態においてはピニオンギヤは所謂ダブルギヤ構成のものであり、各ピニオンギヤ収納空間に互いに噛合するヘリカルギヤ形態のピニオンギヤが装着されるものであり、そのため、キャリアベース10とキャリアプレート12との間には対向するピニオン軸支持孔が10A, 12A; 10B, 12Bのように各ピニオンギヤ収納空間毎に2対設けられる。このキャリアベース10及びキャリアプレート12に形成されるピニオン軸支持孔10A, 12A; 10B, 12Bによりピニオンの支持軸の挿通支持を行う。この実施形態においては、また、キャリアベース及びキャリアプレートの中心孔10', 12'はばか孔となっており、図示しない中心軸はフリー挿通であるが、遊星歯車機構として、キャリアベース及びキャリアプレートの中心に内周若しくは外周部にスプラインを形成した片面若しくは両面ボス部を一体形成し、中心軸とスプライン嵌合させたタイプのものにも本発明はもとより適合可能であることはいうまでもない。
【0014】
この発明によれば、図1に示すように、キャリアプレート12の基部14はその外周部に近接した部位においてキャリアプレート10側へ向けての段差18を有する。即ち、各段差18は基部14と脚部16との接続部位に位置している。即ち、段差18は半径方向における外方には開口しており、この開口端(基部14の一般面から一段下がった部位)から夫々の脚部16がキャリアベース10に向けて延出するようになっている。3個の脚部16が設けられたこの実施形態においては、段差18は円周方向に間隔をおいて3個設けられている。そして、各段差18は、半径方向においては、キャリアプレート12の基部14における中心孔12に幾分近接した部位から始まり基部14の外周部まで延びており、円周方向の幅は中間側は脚部16の幅より幾分狭隘であるも、外側に向け拡開した形状をなし、また外周部では脚部16の幅より多少広くなっている。そして、段差18は脚部16に連なることから半径方向の外面は開放しており、平坦な底壁面18Aと、内側の円周方向に延びる側壁面18Bと、その外側において円周方向に対向した一対の半径方向に延びる側壁面18Cを備え、これらの側壁面18A, 18B, 18Cのうち内側の円周方向に延びる側壁面18Bは比較的緩い傾斜をもって底壁面18Aに連なるが、各々が半径方向に延び円周方向に対向した一対の側壁面18Cについては基部14との接続部において丸みを帯びているが、実質的に直立しながら底壁面18Aに連なるように構成される。従って、円周方向に対向した一対の側壁面18Cが底壁面18Aを介して脚部16に連なる構成となっており、この構成により後述のようにキャリアプレート12における円周方向の剛性を高めることが可能となる。
【0015】
この実施形態のキャリアプレート12において基部14はその外周のまま段差18(側壁面18C)を介して脚部16に連なっており、従来のプレス品のキャリアプレートにおける切欠部は備えないが、曲げ加工の効率化のため脚部の根元部位に小さな切欠を設けることは可能である。
【0016】
次に、この発明のキャリアプレート12のプレス成形方法について説明すると、素材となる鋼板は所定の肉厚のものであり、この鋼板より図3に示すようにキャリアプレートの基部となる円板状部30とキャリアプレートの脚部となる半径方向張出し部32とを備え、中心にキャリアプレート12の中心孔12´となる開口部34を備えた中間素材がプレス抜きされる(図4(イ)参照)。
【0017】
次の段階としては中間素材における円板状部30の外周部における半径方向張出し部32との接続部位に段差をプレスにより加圧成形する。2点鎖線36が付すべき段差の上面からの輪郭形状を示し、他方図4(ロ)は段差36のプレス成形後を示しており、製品としてのキャリアプレート12の段差18における、夫々、底壁面18A並びに側壁面18B及び 18Cは底壁面18Aとなる底壁面部位36A並びに側壁面部位36B及び 36Cが成形される。
【0018】
そして、段差成形後に、段差の底壁面部位36Aから延びる中間素材の延出部位32を外径面が面一となるようにプレス曲げ(プレス曲げ後の部位を図4(ハ)にて示す)する。これにより、この発明のキャリアプレート12が得られる。
【0019】
本発明において、支持板から延出する脚部の根元部位(曲げ工程前の素材としては図3のpにて示す部位)に曲げ加工の容易の観点から若干の切欠(製品としてのキャリアプレートの円周方向の剛性に実質的な影響を及ぼさない大きさ)を設けるができ、これも本発明に包摂される。
【0020】
この発明のキャリアプレートにおいては、キャリアプレートの基部12の外周部における脚部16との接続部位にプレス成形による段差18を設けることにより円周方向の剛性を高めることができる。即ち、キャリア12にはピニオンギヤから円周方向のトルクが加わるが、この円周方向のトルクに対しては、段差18を構成する円周方向に離間する一対の側壁面18Cが底壁面18Aを介して脚部16に連なっている構造が突っ張りとして機能し、これが剛性増加に寄与する。図5は脚部16の幅を一定とし段差の深さを変えた場合における円周方向の変位量の変化を有限要素法による模擬実験結果を実線aにて模式的に示し、図中○を付した点が測定点であり、段差を深くしてゆくと変位量は小さく、即ち、トルクに対する剛性は高くなることが分かる。他方、従来(特許文献2)の如き焼結構造のキャリアプレートの場合(脚部の幅は同じ)における同じく有限要素法による模擬実験による円周方向の変位量の大きさを2点鎖線bにて示す(焼結構造の場合は無段差でありデータは一個になる)。図5より、適当な段差の大きさを選択することにより焼結構造の場合と少なくとも同等若しくはこれより小さな変位量とすることができ、所期のトルク剛性値とすることができ、他方、板材よりのプレス品であるため焼結構造より利用可能な空間を大きくすることができ、コスト的にも重量的にも有利となる。
【符号の説明】
【0021】
10…キャリアベース
12…キャリアプレート
14…キャリアプレートの基部
16…キャリアプレートの脚部
18…キャリアプレートの段差
18A…段差の底壁面
18C…段差の円周方向に対向した一対の側壁面
30…板材からの本発明のキャリアプレートの成形のための中間素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアベースに固定されて遊星歯車機構のキャリアを構成する板材のプレス成形品であるキャリアプレートであって、キャリアプレートは基部と該基部の外周縁においてキャリアベースに向けて曲折された脚部とを備え、前記基部は脚部との接続部位にキャリアプレート側へ向けての段差を有し、前記脚部は前記段差の底壁面から延出されるキャリアプレート。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、キャリアプレートの前記前記各段差は、基部を段差の前記底壁面に接続しかつ円周方向に離間して対向した一対の側壁面を有するキャリアプレート。
【請求項3】
請求項2に記載の発明において、前記基部はその外径を実質的に維持しつつ脚部に接続するキャリアプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−99503(P2011−99503A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254123(P2009−254123)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000178804)ユニプレス株式会社 (83)
【Fターム(参考)】