説明

遊離カルボン酸の製造方法

本発明の主題は、以下の方法工程:
A)水性媒体中に存在する生物学的細胞により一般式(I)
[式中、R1、R2及びR3は相互に独立して同じか又は異なる、分枝又は非分枝の、場合により置換された炭化水素基又はHを表す]
のアミンの添加下でカルボン酸を製造する方法工程
B)方法工程A)においてこの添加されたアミンが水溶性である場合には、一般式(I)の水不溶性アミンを添加する方法工程、
その際、この方法工程A)又はB)においては多相系が得られ、かつ、この水不溶性アミン及びカルボン酸からは相応するアンモニウムカルボキシラートが形成される、及び
C)この水不溶性相を分離する方法工程、及び
D)この水不溶性相を遊離カルボン酸の放出下で加熱する方法工程
を含む遊離カルボン酸の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の主題は、以下の方法工程:
A)水性媒体中に存在する生物学的細胞により一般式(I)
【化1】

[式中、R1、R2及びR3は相互に独立して同じか又は異なる、分枝又は非分枝の、場合により置換された炭化水素基又はHを表す]
のアミンの添加下でカルボン酸を製造する方法工程
B)方法工程A)においてこの添加されたアミンが水溶性である場合には、一般式(I)の水不溶性アミンを添加する方法工程、
その際、この方法工程A)又はB)においては多相系が得られ、かつ、この水不溶性アミン及びカルボン酸からは相応するアンモニウムカルボキシラートが形成される、及び
C)この水不溶性相を分離する方法工程、及び
D)この水不溶性相を遊離カルボン酸の放出下で加熱する方法工程
を含む遊離カルボン酸の製造方法である。
【0002】
先行技術
カルボン酸の生化学的製造は例えば乳酸又はクエン酸生成を基礎として良く知られている。この大抵の発酵プロセスは製造すべきカルボン酸のpKa値の上方にある媒体のpH値で実施されるので、このカルボン酸は大部分が塩として生じ、遊離酸としては生じない。これらカ−ボナートは大抵は酸の添加によりその遊離酸に移行する。
【0003】
WO9815517は、塩基性の、有機溶媒又は水混合不能アミンを用いた乳酸の抽出方法を記載する。
【0004】
DE 102006052311は、遊離α−ヒドロキシカルボン酸の製造方法であって、第3級アミンの存在下でこの相応するアンモニウムカルボキシラートを、発生するアンモニアを蒸留により除去しながら加熱し、この後に更なる留去及びこれに伴う第3級アミン及び遊離α−ヒドロキシカルボン酸の形成が引き続く方法を記載する。
【0005】
US 4,275,234は、抽出剤としてアミンを用いたカルボン酸の抽出方法を記載し、これはカルボン酸を再度水溶液中に存在させる付加的な水性逆抽出工程を含む。
【0006】
US 4,444,881は、発酵ブイヨンから有機酸を単離するための方法であって、この酸をそのカルシウム塩に移行させ、トリアルキルアンモニウム塩及び沈殿する炭酸カルシウムの形成下で水溶性第三級アミン−カーボナートを添加し、このトリアルキルアンモニウム塩溶液を濃縮し、かつ、加熱によってこのトリアルキルアミン塩を分解することによる方法を記載する。
【0007】
EP 1385593は、短鎖カルボン酸をそのアルキルアンモニウム錯体の溶液から後処理するための方法であって、共沸性(azeotrophierend)炭化水素の添加下で、このアルキルアンモニウム錯体がこの遊離の短鎖カルボン酸及びアルキルアミンに分解する条件で蒸留することによる方法を記載する。
【0008】
US 5,510,526は発酵ブイヨンから遊離乳酸を後処理するための方法であって、水と混合可能でない、少なくとも18個の炭素原子数を有するトリアルキルアミンを含有する抽出剤で、CO2の存在下で抽出し、この有機相を水相から分離し、引き続きこの遊離乳酸をこの有機相から分離することによる方法を記載する。
【0009】
WO02090312は、水溶液から遊離カルボン酸を精製するための方法であって、この水溶液を有機溶媒との混合物として加熱し、このようにして遊離酸が得られる方法を記載する。
【0010】
US 5,132,456は、水性媒体から遊離カルボン酸を精製するための多工程方法を記載し、ここでまずこのカルボン酸を酸吸収剤で抽出し、水溶性アミンを用いてこの水性媒体からこの酸吸収剤から/のこの剤の分離後にこのカルボン酸を新たにアンモニウムカルボキシラートとして再抽出する。引き続きこのアンモニウムカルボキシラートを分解する。
【0011】
全ての方法では、大量の水性物質流が発生するか又は生成物が生じることが欠点であり、これはこの方法に再度供給することができず、したがって廃棄物として残存する。
【0012】
本発明の課題は、先行技術の前述の欠点を克服する方法を提供することであった。
【0013】
発明の説明
意外なことに、アミンの添加下で生物学的細胞によりカルボン酸を製造する方法工程、及び場合により、この添加されたアミンが水溶性である場合には、更なる、水不溶性アミンを添加する方法工程、この水不溶性相を分離する方法工程、及び、遊離カルボン酸の放出下でこれを加熱する方法工程を含む遊離のカルボン酸の製造方法が、本発明の課題を解決することが見出された。
【0014】
本発明の利点は、反応溶液の例えば鉱酸又は二酸化炭素を用いた酸性化の省略である。これにより大量の酸、例えば硫酸アンモニウム又は石膏の発生が省略され、これは他のプロセスでしばしば生じる。
【0015】
更なる利点は、水が早期に方法においてエネルギー的に有利に、例えば相分離により分離されることであり、これにより更にエネルギー消費性物質流が方法において減少されることである。同様に、この物質流を蒸発する必要はない。
【0016】
さらに本発明の利点は、この生物化学的プロセスではしばしば生じる生成物阻害(Produktinhibierung)が水溶性でないアミンの使用により回避されることができるとの事実である。
【0017】
本発明の範囲内において概念「カルボン酸」とは、遊離カルボン酸(−COOH)もまた同様にこの相応する塩(−COO-)も含む。
【0018】
本発明の範囲内において概念「ヒドロキシカルボン酸」とは、少なくとも1のヒドロキシル基及びカルボン酸基を有するカルボン酸を記し、かつ、遊離カルボン酸(−COOH)もまた同様にこの相応する塩(−COO-)も含む。
【0019】
本発明の範囲内において概念「アンモニウムカルボキシラート」とは、四価の窒素を有する、一価の正に荷電した基の全てのカルボキシラートを含む。例として以下の一般式
【化2】

[式中、R1'、R2'、R3'及びR4'は相互に独立して同じか又は異なる、分枝又は非分枝の、場合により置換された炭化水素基又はHである]
が挙げられる。
【0020】
本発明の範囲内において概念「水不溶性」とは100g/kg水溶液より少ない溶解性として定義されている。
【0021】
本発明の範囲内において概念「水溶性」とは100g/kg水溶液以上の溶解性として定義されている。
【0022】
全ての記載されたパーセント(%)は、他のことが記載されていない場合には、質量パーセントである。
【0023】
したがって、本発明の主題は、以下の方法工程:
A)水性媒体中に存在する生物学的細胞により一般式(I)
【化3】

[式中、R1、R2及びR3は相互に独立して同じか又は異なる、分枝又は非分枝の、場合により置換された炭化水素基又はHを表す]
のアミンの添加下でカルボン酸を製造する方法工程、
B)方法工程A)においてこの添加されたアミンが水溶性である場合には、一般式(I)の水不溶性アミンを添加する方法工程、
その際、この方法工程A)又はB)においては多相系が得られ、かつ、この水不溶性アミン及びカルボン酸からはこの相応するアンモニウムカルボキシラートが形成される、及び
C)この水不溶性相を分離する方法工程、及び
D)この水不溶性相を遊離カルボン酸の放出下で加熱する方法工程
を含む遊離カルボン酸の製造方法である。
【0024】
本発明の範囲内において好ましいカルボン酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、マロン酸及びコハク酸を含む群から選択されている。
【0025】
本発明の範囲内においてカルボン酸がヒドロキシカルボン酸であることも同様に好ましい。
【0026】
好ましいヒドロキシカルボン酸の群は、α−ヒドロキシカルボン酸を含む。ここで好ましくはこれは乳酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸及び2−ヒドロキシイソ酪酸であり、その際2−ヒドロキシイソ酪酸が特に好ましい。
【0027】
好ましいヒドロキシカルボン酸の更なる群は、β−ヒドロキシカルボン酸を含む。ここで好ましくはこれは3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、3−ヒドロキシヘプタン酸、3−ヒドロキシオクタン酸及び3−ヒドロキシイソ酪酸であり、その際3−ヒドロキシイソ酪酸が特に好ましい。
【0028】
方法工程Aにおいてカルボン酸は水性媒体中に存在する生物学的細胞により当業者に知られている方法に応じて製造される。使用される細胞及び製造されるカルボン酸に応じてこの方法パラメーターは相応して適合される。この方法は例えば発酵による方法であることができる。
【0029】
方法工程A)において使用される細胞が微生物であることが好ましい。
【0030】
好ましくはこの使用される細胞は次のものを含む属の群から選択されている:
アスペルギルス(Aspergillus)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、バシラス(Bacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、ラクトバシラス(Lactobacillus)、パラコッカス(Paracoccus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、カンジダ(Candida)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、エシェリキア(Escherichia)、ザイモモナス(Zymomonas)、ヤロウイア(Yarrowia)、メチロバクテリウム(Methylobacterium)、ラルストニア(Ralstonia)、シュードモナス(Pseudomonas)、ロドスピリルム(Rhodospirillum)、ロドバクター(Rhodobacter)、バークホルデリア(Burkholderia)、クロストリジウム(Clostridium)及びクプリアビダス(Cupriavidus)。
【0031】
特に好ましくは使用される細胞はアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、黒色アスペルギルス(Aspergillus niger)、アルカリゲネス・レイタス(Alcaligenes latus)、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシラス・サチラス(Bacillus subtilis)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、大腸菌(Escherichia coli)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)、カンジダ・ブランキ(Candida blankii)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・ エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、メチロバクテリウム・エキストルクエンス(Methylobacterium extorquens)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)を含む群から選択されており、特にラルストニア・ユートロファH16(Ralstonia eutropha H16)、ロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、パラコッカス・ベルスタス(Paracoccus versutus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、アシネトバクター・カルコアセティクス(Acinetobacter calcoaceticus)及びピキア・パストリス(Pichia pastoris)を含む群から選択されており、その際大腸菌、ヤロウイア・リポリティカ、コリネバクテリウム・グルタミクム及びラルストニア・ユートロファが特にとりわけ好ましい。
【0032】
本発明による方法の特別な一実施態様は、方法工程A)において、二酸化炭素及び一酸化炭素からなる群から選択される少なくとも1の炭素供給源からカルボン酸を形成することができる細胞が使用されることにより特徴付けられるしたがって、この場合にこれはアセトゲン(acetogen)として又は独立栄養的に成長可能な細胞の使用であり、好ましくはアセトゲニウム・キブイ(Acetogenium kivui)、アセトバクテリウム・ウッディ(Acetobacterium woodii)、アセトアンアエロビウム・ノテラ(Acetoanaerobium notera)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、ブチリバクテリウム・メチロトロフィカム(Butyribacterium methylotrophicum)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・テルモアセチカム(Clostridium thermoaceticum)、ユウバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)、ペプトストレプトコッカス・プロダクツス(Peptostreptococcus productus)、クロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)及びクロストリジウム・カルボキシディボランス(Clostridium carboxidivorans)を含む群から選択されたものである。
【0033】
方法工程A)において添加されるアミンとしてアンモニア及びアルキルアミンが使用されることができる;この場合に第一級、第二級及び第三級アルキルアミン並びに第四級アミン塩が使用されることができる。
【0034】
方法工程A)において添加されるアミンを、この水性媒体のpH値に影響を及ぼすために、好ましくはこのpH値を高めるために使用することが好ましい。好ましくはこのpH値は方法工程A)において添加されるアミンにより2〜9、好ましくは4〜8、特に好ましくは5〜7の範囲に維持される。
【0035】
好ましくはアミンとして方法工程A)において水不溶性アミンが使用される。好ましくは、R1、R2及びR3が相互に独立して同じか又は異なる、非分枝の、非置換のアルキル基であって好ましくは2〜20個、特に好ましくは4〜16個、特にとりわけ好ましくは6〜12個のC原子を有する基、又はHであるアミンが方法工程A)において使用される。
【0036】
好ましくは方法工程A)において水不溶性アミンは、少なくとも16個のC原子を有するアルキルアミン、特にトリアルキルアミン、特に好ましくはトリアルキルアミンであって、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリカプリルアミン、トリドデシルアミンを含む群から選択されるものである。
【0037】
本発明による方法の特別な一実施態様において、方法工程A)においてより大きな塩基強度を有するアミンを使用することが好ましくあることができる;この場合に、アミンとしてジアルキルアミン、好ましくはジ−イソ−トリデシルアミン、ビス(2−エチルヘキシルアミン)、ラウリル−トリアルキルメチルアミン、ジウンデシルアミン、ジデシルアミンを含む群から選択されたジアルキルアミンを使用することが好ましい。
【0038】
このアミンを方法工程A)においてカルボン酸に対して少なくとも1.1:1、好ましくは1.5〜5:1のモル比で添加する。
【0039】
方法工程A)の後又は常にその間にこの液状含分又はこの液状含分の一部が当業者に知られている方法、例えば遠心分離、タンジェント濾過その他に応じて、及び生物学的細胞が相互に分離されることができる。場合により、分離された成分、例えば水性媒体又は細胞は本方法に新たに供給されることができる。
【0040】
場合によりこの方法工程A)で得られた液状成分は更なる方法工程前に濃縮されることができる。
【0041】
方法工程B)において添加されるアミンとして当業者に知られている全ての水不溶性アミン、好ましくはアルキルアミンが使用されることができる。好ましくは、R1、R2及びR3が相互に独立して同じか又は異なる、非分枝の、非置換のアルキル基であって好ましくは2〜20個、特に好ましくは4〜16個、特にとりわけ好ましくは6〜12個のC原子を有する基、又はHである水不溶性アミンが方法工程B)において使用される。
【0042】
更に好ましく使用されるアミンは方法工程A)における上述の水不溶性アミンに相当する。
【0043】
このアミンを方法工程B)においてカルボン酸に対して少なくとも1.1:1、好ましくは1.5〜5:1のモル比で添加する。
【0044】
方法工程B)においてはこの方法工程A)の水不溶性アミンは少なくとも部分的に除去されることができる。特に、方法工程B)においてこの水溶性アミンよりもより弱塩基である(より小さいpKBを有する)水不溶性アミンが使用される場合には、この水溶性アミンの少なくとも一部が除去されることが好ましい。
【0045】
これは例えば抽出、イオン交換により、加熱により、すなわちこの水溶性アミンの熱による追い出し(Austreiben)により達成されることができるか、しかし又は、CO2の導入により達成されることができ、その際水溶性アミンはカーボナートとして沈殿する。水溶性アミンの分離のための例示的方法はDE 102006052311に記載されている。
【0046】
この除去された水溶性アミンは方法工程A)に新たに供給されることができる。
【0047】
方法工程A)又はB)後に多相系が存在し、かつ水不溶性アミン及びカルボン酸からこの相応するアンモニウムカルボキシラートが形成される。
【0048】
このアンモニウムカルボキシラートは好ましくは−有機相に対する水相の同じ体積に対して−大部分が、好ましくは60%より多くが、特に好ましくは80%より多くが、特にとりわけ好ましくは90%より多くが水不溶性相に存在する。
【0049】
更なる水不溶性溶媒が、水不溶性アミンに場合により添加されることができ、これは好ましい特性、例えばより良好な相分離又はより安定な相を保証するため、このアミンの粘度を減少させるため、又はこのカルボキシル酸の溶解性を高めるためである。
【0050】
更なる水不溶性溶媒として、例えば少なくとも8個の炭素原子を有するアルコール、ケトン、例えばメチルイソブチルケトン、芳香族溶媒、例えばトルエン及びキシレン、脂肪族非極性溶媒、例えばケロシン及びヘキサンが使用されることができる。好ましくはオレイルアルコール及びドデカノールが使用される。
【0051】
好ましくは沸点が水不溶性アミンの上方にある更なる溶媒が使用される。
【0052】
方法工程C)においてはアンモニウムカルボキシラートを含有する水不溶性相がこの水相から分離される。これは、有機相を水相から分離できる当業者に知られている全ての方法、例えばデカンテーション、遠心分離により、又は蒸留によっても行うことができる。このための例は特にPerry's Chemical Engineers ' Handbook (Section 15); By Robert H Perry, Don W Green, James O Malone; Published 1999; McGraw-Hillに見出される。
【0053】
本発明の方法の範囲内では、この分離された水相が本方法に再度供給されることが好ましくあることができる。
【0054】
同様に、この分離された水不溶性相を更に精製することが好ましくあることができ、これは例えば抽出、濾過、遠心分離イオン交換又は濃縮、例えば蒸留、抽出によるものであることができる。
【0055】
方法工程D)における遊離カルボン酸の放出はこの水不溶性相の加熱により、好ましくは減圧下で、このアンモニウムカルボキシラートの分解により行われる。
【0056】
減圧は本発明の範囲内において1*105Pa未満、好ましくは0.9*105Pa未満、特に好ましくは0.8*105Pa未満の圧力を意味する。
【0057】
この加熱の種類は使用される装置/設備に依存し、例えば熱浴、温度調節可能な反応器ジャケットにより、又はこの水不溶性相と加熱したガス流との接触により行うことができる。この温度は、熱による塩分解が起こり、かつ副生成物の形成が最低限にされるように、使用される圧力に依存して選択される。好ましくは同時に、この反応の間に形成されたカルボン酸の少なくとも一部を蒸留により除去する。適した温度範囲及び圧力範囲は、熱処理の必要な期間と同様に当業者により決定されることができ、例えばこれは形成されるアミン又はカルボン酸の量又はこの反応溶液の温度経過の監視による。
【0058】
好ましい一実施態様において方法工程D)においてこの温度は80℃〜300℃、好ましくは120℃〜250℃、特に好ましくは150℃〜220℃の温度範囲内にある。
【0059】
この方法工程D)において得られる水不溶性アミンは再度本方法に供給されることができる。
【0060】
この方法工程D)において得られる、カルボン酸を含有する生成物分画は更なる精製無く反応生成物(Folgeprodukt)へと変換されることができる。好ましくは本発明の範囲内において例えばヒドロキシカルボン酸の不飽和カルボン酸への脱水である。
【0061】
ヒドロキシカルボン酸の脱水のための一連の方法は当業者に知られており、これは例えばPCT/EP2007/055394, US 3,666,805及びUS 5,225,594に記載されている。
【0062】
本発明による方法は更にこの生成物分画からのカルボン酸の精製及び単離のための1又は複数の後続の工程を含むことができる。適した方法工程は特に濃縮、結晶化、イオン交換クロマトグラフィ、電気透析、反応性溶媒を用いた抽出、及び、カルボン酸と適したアルコールでエステル化し、この得られるエステルを引き続き蒸留し、かつこのエステルを遊離酸へと引き続き加水分解することによる精製、並びに、これら工程の組み合わせである。この生成物分画中に含有される副生成物はこの熱による塩分解の際に形成される遊離カルボン酸の単離前又は後に除去されるか、又はカルボン酸へと反応させられることができる。
【0063】
以下に記載の実施例は、この全体の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲から適用の幅が明らかである本発明をこの実施例に挙げる実施態様に限定することなく、本発明を例示的に記載する。
【0064】
以下の図面は実施例の一部である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】様々なTOA濃度の存在下での細胞の成長。
【図2】様々なTOA濃度の存在下での2−ヒドロキシイソ酪酸の製造。
【図3】方法工程A)における水不溶性アミンの使用と一緒のプロセス略図。
【図4】方法工程A)における水溶性アミンの使用と一緒のプロセス略図。
【0066】
実施例:
TOA(トリオクチルアミン)とラルストニア・ユートロファとの生体親和性
配列番号1を有するプラスミド: pBBR1MCS-2 : licmA-icmBでトランスフォーメーションしたラスルストニア・ユートロファPHB−4(カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)として再分類、DSMZ541)の培養物を400mlの規模で標準培地中で46時間OD(600nmでの光学密度)約30まで、CFU(colony formed units)1×1011/mlに相当、標準条件(30℃;pH6.8、rpm250−750;pO2 20%)で発酵させた。発酵時間48時間後に0.5%、1%、5%及び10%(w/v)トリオクチルアミン(TOA)を滅菌して添加した。更なる6及び20時間後にこのCFUを測定した。
【0067】
このCFUの算出のためにこのブイヨンの希釈系列を作成した。この希釈物を寒天プレートに播き、24時間30℃でインキュベーションした。この後にこの希釈物107及び108の測定を4回行った。
【0068】
結果:20時間の期間(発酵時間46−65時間)にわたりこのCFUはTOA(0.5%、1%、5%及び10%(w/v))の存在下で更に増加した。
【0069】
この値は以下の表にまとめてあり、このCFU値は1mlの発酵ブイヨンに対して規格化標準化してある。
【表1】

【0070】
トリアルキルアミンの存在下での水性媒体中に存在する生物学的細胞によるカルボン酸の製造
プラスミドpBBR1MCS-2 : : icmA-icmB、配列番号1、でトランスフォーメーションしてある2−ヒドロキシイソ酪酸を産生するラルストニア・ユートロファPHB−4(カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)として再分類、DSMZ541)を、2つの50mlの培養物として振盪インキュベーター中で標準条件(30℃、140rpm、20h)下でLB培地中で成長させた。
【0071】
ここからバイオマス生成のために5×10mlを40mlの改変した無機塩培地(Schlegel et al . , 1961による)に植え付け、10時間標準条件下でインキュベーションした。
【0072】
このバイオマス培養物を遠心分離により分離し、10mlの改変した無機塩培地中に再懸濁した。この再懸濁物を用いてRamos振盪インキュベーター(Respiration Activity Monitoring System)の5つのフラスコを植え付けた。このフラスコはビタミンB12(60mg/l)を有する改変した無機塩培地(1g/Lの酵母エキス及び15g/Lのフルクトースの添加)で充填されていた。3つのフラスコは更に1、5及び10%(w/v)のトリオクチルアミン(TOA)を含有した。
【0073】
このフラスコを24時間標準条件(30℃、140rpm)下でインキュベーションした。
【0074】
0、15及び24時間後に試料を取り出し、CFU(OD)、pH及び2HIB−濃度をこのブイヨン中で測定した。
【0075】
このCFU測定のためにこのブイヨンの希釈系列を製造した。この希釈物を300mg/lのカナマイシンを有するLB寒天プレート上に播き、24時間30℃でインキュベーションした。この後に希釈物10-8及び10-9の測定を4回行った。
【0076】
図1は、この培養の結果を示し、CFU値は1mlの発酵ブイヨンに対して標準化されている。この細胞成長は明らかにアルキルアミンの存在により影響されていない。
【0077】
この生成したカルボン酸2−ヒドロキシイソ酪酸の濃度の測定をイオンクロマトグラフィ(IC(Methrom 761 Compact、オートサンプラー付き, Methode Dionex AS154 x 250mm+前カラムAG 154 x 350ml)及びHPLC(Agilent Technologies HPLC 1200系列, Methode Aminex)を用いて行った。
【0078】
図2は、この2−HIB−濃度の上述の培養のIC測定値を示す。
【0079】
全てのバッチにおいてこの全試験期間を超えて2−ヒドロキシイソ酪酸が形成される。
【0080】
アルキルアンモニウム−塩の熱による分解
トリオクチルアンモニウム塩溶液を2−ヒドロキシイソ酪酸(2−HIB)のトリオクチルアミン(TOA)との混合により作成した。このために2−ヒドロキシイソ酪酸10gを秤量し、TOA90g中に溶解させた。この秤量物からTOA/2−ヒドロキシイソ酪酸の化学量論比2.64が生じる。
【0081】
反応蒸発器中にこのトリオクチルアンモニウム塩溶液50.6gを装入した。真空ポンプを使用して熱による塩分解のために絶対圧27mbarが調整された。この使用されたオイルバスはこの装入物の温度調節のために180℃に調整され、一定に維持された。約20分間後にこの冷たいガラス部分に白色結晶が晶出した。約4時間後にこの試験を中断した。熱による分解後のこの装入物の計量は3.5gの質量減少を生じた。ガラスに存在する白色結晶を水で洗浄し、HPLCを用いて分析した。この分析はこの結晶が2−ヒドロキシイソ酪酸であることを示した。元素分析(C、H、N、O)によりこの試料を試験開始前にもまた同様にこの実験終了後にも分析した。この分析を基礎としてこのそれぞれの物質の濃度及び物質量が算出されることができた。供給されたTOA量の98.4%がこの試験後にまだ装入物中に存在した;2−ヒドロキシイソ酪酸の当初の物質量の34.4%が試験終了時にまだトリアルキルアンモニウム塩としてこの装入物中に存在した。秤量した2−ヒドロキシイソ酪酸の質量の65.6%が熱により塩から分解されることができ、部分的に結晶としてこの冷たいガラス部分に回収されることができた。
【0082】
方法工程A)における水不溶性アミンの使用と一緒の例示的なプロセス略図
図3は、本発明による方法の一構成を記載し、この場合に方法工程A)において水不溶性アミンが使用される。これは発酵器中でpH値制御のために使用される。これにより発酵器中でアンモニウムカルボキシラートが形成される。バイオマス分離後にこの水不溶性相及びこの水相が分離されることができる。この水相は場合による精製後に発酵器中に返送されることができる。この水不溶性相中にはアンモニウムカルボキシラートが存在した。これは後続の熱による塩分解においてこの遊離酸及びこの相応するアミンに分解されることができる。場合による精製後にこのアミンは再度発酵器中にpH値制御のために返送され、これにより循環されることができる。
【0083】
方法工程A)における水溶性アミンの使用と一緒の例示的なプロセス略図
図4は、本発明による方法の一構成を記載し、この場合に方法工程A)において水溶性アミンがpH値制御のために使用される。これにより発酵器中でアンモニウムカルボキシラートが形成される。バイオマス分離後にこの水溶液に水不溶性アミンを添加する。この方法工程B)においてこのカルボキシラートは有機相に移行され、場合によりこの水不溶性アミンは部分的に除去される。この有機相は熱による塩分解に供給され、これにより一方ではこの遊離酸が、他方ではこのアミンが形成される。両方の物質流は必要な場合には別個の精製段階で精製されることができる(方法では考慮されていない)。このようにして取得されたアミンはこのプロセスに再度供給されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の方法工程:
A)水性媒体中に存在する生物学的細胞により一般式(I)
【化1】

[式中、R1、R2及びR3は相互に独立して同じか又は異なる、分枝又は非分枝の、場合により置換された炭化水素基又はHを表す]
のアミンの添加下でカルボン酸を製造する方法工程
B)方法工程A)においてこの添加されたアミンが水溶性である場合には、一般式(I)の水不溶性アミンを添加する方法工程、
その際、この方法工程A)又はB)においては多相系が得られ、かつ、この水不溶性アミン及びカルボン酸からは相応するアンモニウムカルボキシラートが形成される、及び
C)この水不溶性相を分離する方法工程、及び
D)この水不溶性相を遊離カルボン酸の放出下で加熱する方法工程
を含む遊離カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
カルボン酸がα−又はβ−ヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
方法工程A)において一般式(I)の水不溶性アミンが添加されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
方法工程A)又はB)においてR1、R2及びR3が相互に独立して同じか又は異なる、非分枝の、非置換アルキル基又はHであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
方法工程D)においてこの遊離カルボン酸を減圧下で放出させることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
方法工程D)においてこの遊離カルボン酸を80℃〜300℃、好ましくは120℃〜250℃、特に好ましくは150℃〜220℃の温度範囲で放出させることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
方法工程A)においてこの添加されたアミンが、この水性媒体のpH値に影響を及ぼすために使用されることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
方法工程D)において一般式(I)の化合物が回収され、本方法に再度供給されることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
方法工程A)において使用される細胞が微生物であることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
方法工程A)において使用される細胞が、次のもの:
アスペルギルス(Aspergillus)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、バシラス(Bacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、ラクトバシラス(Lactobacillus)、パラコッカス(Paracoccus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、カンジダ(Candida)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、エシェリキア(Escherichia)、ザイモモナス(Zymomonas)、ヤロウイア(Yarrowia)、メチロバクテリウム(Methylobacterium)、ラルストニア(Ralstonia)、シュードモナス(Pseudomonas)、ロドスピリルム(Rhodospirillum)、ロドバクター(Rhodobacter)、バークホルデリア(Burkholderia)、クロストリジウム(Clostridium)及びクプリアビダス(Cupriavidus)を含む属の群から選択されていることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526149(P2011−526149A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515261(P2011−515261)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055163
【国際公開番号】WO2010/000506
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】