説明

遊離ヨウ素が低減されたポリアリーレンスルフィドの製造方法

【課題】遊離ヨウ素の含量が低減されたポリアリーレンスルフィド(polyarylene sulfide)の製造方法を提供する。
【解決手段】ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてポリアリーレンスルフィドを重合させる重合工程と、前記重合されたポリアリーレンスルフィドを100〜260℃で保持するヒートセット工程と、を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法である。本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド中の遊離ヨウ素の含量を効率よく低減して後続工程設備の腐食を防止することが可能であり、製造されたポリアリーレンスルフィドの熱安定性などの物性を改善してポリアリーレンスルフィドの製造に関する産業分野に有効に応用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィド(polyarylene sulfide)の製造方法に係り、さらに詳しくは、ポリアリーレンスルフィド中に含まれているヨウ素含量の低減及び熱安定性の向上を両立させたポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なエンジニアリングプラスチック(Engineering Plastic)であるポリアリーレンスルフィドは、高い耐熱性、耐化学性、難燃性(flame resistance)及び電気絶縁性などの優れた特性を有し、そのため、高温且つ腐食性環境及び電子製品分野における使用に対する要求が増加しつつある。このポリマーは主としてコンピュータ付属品、自動車部品、腐食性化学物質に接触する部分のコーティング、そして産業用耐化学性繊維などに使用される。
【0003】
特に、現在市販のポリアリーレンスルフィドは、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide;以下、「PPS」と称する。)によってもっぱら例示される。PPSは、p−ジクロロベンゼン(p−dichlorobenzene;以下、「pDCB」と称する。)及び硫化ナトリウム(sodium sulfide)を原料として、N−メチルピロリドン(N−methyl pyrrolidone)などの極性有機溶媒中で反応させることによって、商業的に生産される。この方法は、マッカラム工程(Macallum Process)として知られており、米国特許第2,513,188号明細書及び米国特許第2,583,941号明細書に基づいている。いくつかの別の種類の使用可能な極性溶媒が提案されているものの、N−メチルピロリドンが現在最も有用である。この工程は、ジクロロ芳香族化合物(dichloro aromatic compound)だけを使用して実施され、塩化ナトリウム(NaCl)が副生成物として発生する。
【0004】
マッカラム工程で得られるPPSは、約10,000〜40,000の分子量を有し、3000ポアズより高くない溶融粘度を有する。さらに高い溶融粘度を得るためには、通常PPSを融点(Tm)より低い温度で加熱し、酸素と接触させる後処理(養生:curing)を経る。この際、酸化、架橋(crosslinking)、高分子鎖延長(extension)などを経て、溶融粘度が一般的使用に必要なレベルまで増加する。
【0005】
ところが、この従来の工程で得られるPPSは、以下の問題を有する。
【0006】
第一に、重合反応に必要な硫黄源として硫化ナトリウムを使用するため、副生成物として塩化ナトリウムなどの金属塩が大量にポリマー中に存在することとなる。ポリマーを洗浄した後でさえも、金属塩が数千ppmのレベルで残留し得、ポリマーの電気伝導度を上昇させるのみならず、望ましくないことに加工装置の腐蝕や、繊維製造において紡糸工程に関連した問題も引き起こす。さらに生産者にとっては、硫化ナトリウムを使用する場合、副生成物として塩化ナトリウムが投入原料の重量に基づいて52%の量で製造される点が問題であり、たとえ回収しても経済的利益がないため、そのまま廃棄物にせねばならない。
【0007】
第二に、後処理において、ポリマーの特性が悪化する。すなわち、ポリマーは酸化及び架橋によって濃く色付き、そして、機械的特性に関して非常にもろくなる。
【0008】
最後に、溶液重合法で得たポリマーと同様に、PPSの最終形態は非常に微細な粉末状であり、これはそれらの見かけ密度を若干低くし、前記ポリマーの輸送を難しくし、そしてそれらの加工の過程で多くの不便さをも引き起こす。
【0009】
マッカラム工程以外の新規な工程が米国特許第4,746,758号明細書、米国特許第4,786,713号明細書及びその関連特許で開示されている。これらの特許は、従来の工程のジクロロ化合物と金属硫化物の代わりに、ジヨード化合物と固体硫黄から、極性溶媒を使用しない直接加熱によるポリアリーレンスルフィドの製造を言及する。この方法はヨード化及び重合の2段階を含み、ヨード化はアリール化合物とヨウ素とを反応させてジヨード化合物を得、重合はこうして得られたジヨード化合物を固体の硫黄と反応させて高分子量のポリアリーレンスルフィドを製造することを可能にする。反応途中で蒸気の状態であるヨウ素を回収し、アリール化合物と再度反応させることができるので、実質的にヨウ素は触媒として機能する。
【0010】
この方法は従来の工程の問題点を解決し得る。ヨウ素が副生成物であるため、金属塩のように電気伝導度を増加させず、反応物からの回収が容易であるため、最終製品中のそれらの含量の減少を容易にし、従って、従来工程による金属塩含量より低いものとなる。また、回収したヨウ素はヨード化において再使用し得、殆ど廃棄物がない。第二に、次に、重合工程では溶媒を使用しないので、ペレット状製品を製造し得、従来のポリエステル製品のように、微粉末製品の使用に関連する問題を回避することができる。最後に、この方法は、従来の工程に比べて最終ポリアリーレンスルフィドの分子量をさらに増加させ得、そのため、特性を悪化させる不利な後処理を必要としない。
【0011】
ところが、上記新規な工程は、以下の2つの問題点を伴うため、著しく不利である。第一に、ヨウ素が分子状態で残留する場合、その腐蝕性のため、少量でも最終ポリアリーレンスルフィド製品中に含まれると、加工装置に悪影響を与え得る。第二に、重合工程で固体硫黄を使用することから、最終ポリアリーレンスルフィド中にジスルフィド結合が存在し、これが融点などの熱的特性を望ましくないことに低下させる。
【0012】
この理由から、工程中に不要な金属塩が生成せず、加工装置に腐食を生じさせるヨウ素含量を大幅に低減しつつも、高い耐熱性、耐薬品性及び機械的強度を有するポリアリーレンスルフィドを効率よく製造し得る工程の開発への取り組みが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第2,513,188号明細書
【特許文献2】米国特許第2,583,941号明細書
【特許文献3】米国特許第4,746,758号明細書
【特許文献4】米国特許第4,786,713号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ヨウ素含量が低く、しかも、熱安定性に優れたポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、低いヨウ素含量及び優れた熱安定性を有するポリアリーレンスルフィドを提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂製の成形品、フィルム、シート又は繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてポリアリーレンスルフィドを重合させる重合工程と、前記重合されたポリアリーレンスルフィドを100〜260℃で保持するヒートセット工程と、を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記方法によって製造され、遊離ヨウ素の含量が20ppm以下であるポリアリーレンスルフィド及びこれを用いた製品を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド中の遊離ヨウ素の含量を効率よく低減して後続工程設備の腐食を防止することが可能であり、製造されたポリアリーレンスルフィドの熱安定性などの物性を改善してポリアリーレンスルフィドの製造に関する産業分野に有効に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明における「ヒートセット(熱固定;Heat Setting)」とは、重合されたポリマーの固相(solid phase)、特に、本発明においては、「ポリアリーレンスルフィド」の固相を熱を加えて特定の温度条件で保持する過程のことをいう。以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明者らは、前述したポリアリーレンスルフィドの製造方法による問題点に着目し、これを化学的方法で解決することに主力を注いだ。最終ポリマーからヨウ素を除去しなければならない理由は、その腐食性のみならず、経済的問題にも大きく関連する。前述した新規な工程によれば、ヨウ素はポリマー中に以下の2つのどちらかの様態で、すなわち、遊離のヨウ素分子が直接的にポリマー中に封入された様態、又は、ポリマーのアリール基にヨウ素原子が結合している様態で、含まれ得る。本発明は前者の様態に注目している。
【0022】
特に、本発明は、ポリアリーレンスルフィドの重合工程において、最終ポリマー中の残留ヨウ素含量を低減しながらも、ポリアリーレンスルフィドの物性を既存と同じレベル又は既存よりも高いレベルに維持し得るポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
【0023】
本発明の一実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法は、ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてポリアリーレンスルフィドを重合させる重合工程と、前記重合されたポリアリーレンスルフィドを100〜260℃で保持するヒートセット工程と、を含む。このように、本発明者らは、重合工程を経たポリアリーレンスルフィドにヒートセット工程を施すと、熱的安定性及び溶融粘度などの変化を極力抑え得ると共に、重合されたポリアリーレンスルフィド中の残留ヨウ素含量を最少化させ得るという知見を得た。
【0024】
ところで、本発明における「ヒートセット」とは、既に述べたように、重合されたポリマーを固相の状態で、所定の温度条件で保持する工程のことをいう。
【0025】
また、前記重合工程は、上述した反応物の重合を開始し得る温度及び圧力であれば、その条件に制限はないが、好ましくは、温度180〜250℃及び圧力50〜450torrの初期反応条件で昇温及び降圧を行い、最終反応条件である温度270〜350℃及び圧力0.001〜20torrまで変化させつつ、1〜30時間重合反応を行い得る。このような初期温度及び圧力の条件で、温度及び圧力の条件を変化させつつ重合を行う場合に、重合反応の速度を高速化させ得、重合されるポリアリーレンスルフィドの熱安定性及び機械的物性などを改善し得る。
【0026】
また、本発明の上述した実施形態に従い最終的に得られたポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィド中の遊離ヨウ素の含量が20ppm以下、好ましくは、10ppm以下であり、溶融粘度、融点などの物性が従来の方法によって生産されたものに同等であるか、又はそれより改善された値を有する。
【0027】
好ましくは、前記ポリアリーレンスルフィドは、ヒートセット工程の前後でのポリアリーレンスルフィドの溶融粘度の変化が35%未満であり、融点の変化が5%未満である。好ましくは、溶融粘度の変化は、ヒートセット工程の前後で20%未満であり、融点の変化は3%未満である。
【0028】
このとき、得られたポリアリーレンスルフィド中のヨウ素含量を20ppm以下に下げることにより、既存に比べて、工程装置などでの腐食可能性をほとんど無くし得る。また、ポリアリーレンスルフィドは、融点(Tm)が好ましくは265〜320℃、より好ましくは、268〜290℃であり、さらに好ましくは、270〜285℃である。このように高温の融点(Tm)を確保することにより、本発明に係るポリアリーレンスルフィドは、エンジニアリングプラスチックとして採用したときに、高強度及び向上した耐熱性などの優れた性能を発揮し得る。
【0029】
また、上述した実施形態に従い最終的に得られたポリアリーレンスルフィドは、溶融粘度が100〜100,000ポアズ(poise)であり、好ましくは、150〜5,000ポアズであり、より好ましくは、200〜20,000ポアズであり、さらに好ましくは、300〜15,000ポアズである。このように向上した溶融粘度を確保することにより、本発明に係るポリアリーレンスルフィドは、エンジニアリングプラスチックとして採用したときに、高強度及び向上した耐熱性などの優れた性能を発揮し得る。
【0030】
本発明の前記一実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法に使用可能なジヨード芳香族化合物は、主に、ジヨード化ベンゼン(diiodobenzene;DIB)、ジヨード化ナフタレン(diiodonaphthalene)、ジヨード化ビフェニル(diiodobiphenyl)、ジヨード化ビスフェノール(diiodobisphenol)、ジヨード化ベンゾフェノン(diiodobenzophenone)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。さらに、置換基としての役割を果たすアルキル基又はスルホン基がこれらの化合物に付加され得、或いは酸素又は窒素などの原子がアリール化合物に含有され得る。ヨウ素原子の位置によって、様々なジヨード化合物の異性体が形成され得る。ヨウ素原子の付着位置によって様々なジヨード化合物の異性体(isomer)が存在するが、特に有用なものは、分子の両端に最も遠い距離で対称的にヨウ素が付加された化合物であり、例えば、pDIB、2,6−ジヨードナフタレン、又はp,p'−ジヨードビフェニルである。
【0031】
使用可能な硫黄化合物は特定の形態に制限されない。典型的には、硫黄は、室温で8個の原子が連結されたシクロオクタ硫黄形態(cyclooctasulfur)(S8)で存在する。その他、市販の固体硫黄であればいずれの形態でも使用し得る。
【0032】
また、前記ジヨード芳香族化合物は、硫黄化合物に対して0.9モル以上投入され得る。また、前記硫黄化合物は、ジヨード芳香族化合物と硫黄化合物とを反応させて得られたポリアリーレンスルフィドの重量に基づいて15〜30重量%の量で使用される。前記範囲内で硫黄を添加すると、耐熱性及び耐薬品性が向上すると共に、物理的な強度などの物性にも優れたポリアリーレンスルフィドを重合させ得る。
【0033】
また、前記反応物は、重合されるポリアリーレンスルフィドの分子量を調節するために重合停止剤をさらに含み得るが、このような重合停止剤は、重合中に分子量が増大し過ぎて最終反応器に過度な負荷が生じることを防止し、且つ、重合された最終ポリマーの加工を行い易くするために添加され得る。
【0034】
使用可能な重合停止剤は、モノヨードアリール化合物(monoiodoaryl compound)、ベンゾチアゾール(benzothiazole)類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド(benzothiazolesulfenamide)類、チウラム(thiuram)類、ジチオカルバマート(dithiocarbamate)類及びジフェニルジスルフィドからなる群より選ばれる1種以上である。さらに好ましくは、前記重合停止剤は、ヨードビフェニル(iodobiphenyl)、ヨードフェノール(iodophenol)、ヨードアニリン(iodoaniline)、ヨードベンゾフェノン(iodobenzophenone)、2−メルカプトベンゾチアゾール(2−mercaptobenzothiazole)、2,2’−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2’−dithiobisbenzothiazole)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(N−cyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(2−morpholinothiobenzothiazole)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(N,N−dicyclohexyl−2−benzothiazolesulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuramdisulfide)、亜鉛ジメチルジチオカルバマート(Zinc dimethyldithiocarbamate)、亜鉛ジエチルジチオカルバマート(Zinc diethyldithiocarbamate)及びジフェニルジスルフィド(diphenyldisulfide)よりなる群から選ばれる1種以上であるが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0035】
このとき、前記重合停止剤の使用量には制限はないが、ポリアリーレンスルフィドの重量に基づいて0.01〜10.0重量%、好ましくは、0.1〜5.0重量%の量で使用される。前記使用量が0.01重量%未満であれば、実際、所望の効果はわずかなものとなる。他方、前記使用量が10.0重量%を超えると、重合されるポリアリーレンスルフィドの粘度が低下する傾向にあり、原料の過剰投入により商業性が低下する。
【0036】
また、上述した実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法は、前記重合工程前に、ジヨード芳香族化合物と硫黄化合物を溶融及び混合させる工程をさらに含み得る。上述した重合工程は、有機溶媒なしで行われる溶融重合反応工程であるが、このような溶融重合反応を行うために、ジヨード芳香族化合物を含む反応物を予め溶融及び混合させた後、重合反応を行い得る。
【0037】
このような溶融及び混合は、上述した反応物が完全に溶融及び混合可能な条件であれば、特に制限はないが、好ましくは、150〜250℃の温度で行われる。
【0038】
また、上述した実施形態において、重合工程は、ニトロベンゼン系触媒の存在下で行われ得る。また、重合反応前に、反応物の溶融及び混合工程をさらに含める場合、前記ニトロベンゼン系触媒は、上述した反応物の溶融及び混合工程の際に、反応物に含まれて溶融及び混合され得る。なお、重合停止剤を反応物に含める場合でも、前記重合停止剤は溶融及び混合工程の際に反応物にさらに添加されて混合され得る。
【0039】
ところで、発明者らは、反応触媒の存在下でポリアリーレンスルフィドの重合を行う場合に、pDIB及び硫黄のみをポリマー原料とするPPS単一ポリマー(homopolymer)重合時よりも高い融点を有するポリアリーレンスルフィドが製造されるということを見出した。ポリアリーレンスルフィドの融点が低い場合、望ましくないことに製品の耐熱性に問題を引き起こす。したがって、反応触媒の適切な選択は非常に重要である。前記反応触媒は、例えば、1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン、1−ヨード−4−ニトロベンゼンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
また、このようなニトロベンゼン系触媒の存在下で反応を行う場合、触媒の含量には特に制限はないが、重合されるポリアリーレンスルフィドの重量に基づいて0.01〜5重量%、好ましくは、0.05〜2重量%、さらに好ましくは、0.1〜1重量%の量で使用される。触媒の使用量が重合されるポリアリーレンスルフィドの重量に基づいて0.01重量%未満であれば、実際、所望の効果はわずかなものとなる。他方、触媒の使用量が5重量%を超えると、原料の過剰投入により商業性が低下し、しかも、最終的に重合されるポリアリーレンスルフィドの強度などの物性値が低下するおそれがある。
【0041】
また、重合されたポリアリーレンスルフィドに対してヒートセットを施す工程は、100〜260℃の温度条件で行われ得るが、100℃未満の温度でヒートセットを施す場合にはヒートセットによる遊離ヨウ素の含量の低減効果がわずかなものとなり、260℃以上の条件でヒートセットを施す場合、重合されたポリマーが溶融若しくは融着されてヒートセットを施す意味がなくなる。
【0042】
さらに好ましくは、130〜250℃の温度条件でヒートセットを施し、最も好ましくは、150〜230℃の温度条件でヒートセットを施す。ヒートセットの温度が高くなるにつれて、所定量以下にヨウ素含量を低減するためのヒートセット時間を短縮し得る。
【0043】
したがって、ヒートセット時間は、ヒートセット温度を考慮して、0.5〜100時間の範囲内で調節し得る。好ましくは、前記ヒートセット時間は、1時間〜40時間である。
【0044】
このとき、ヒートセットは、通常の大気環境下で行われ得るが、好ましくは、窒素、空気、ヘリウム、アルゴン及び水蒸気よりなる群から選ばれる1種以上のガスを注入しつつ行う。このようにガスを注入しつつヒートセットを施す場合、遊離ヨウ素の低減速度が速くなってヒートセット時間を短縮し得る点で有利である。
【0045】
また、前記ヒートセットは、好ましくは、真空の条件下でも行われるが、真空の条件下でヒートセットを施す場合にも、遊離ヨウ素の低減速度が速くてヒートセット時間を短縮し得る点で有利である。
【0046】
さらに、本発明は、上述した方法によって製造され、遊離ヨウ素の含量が20ppm以下であるポリアリーレンスルフィドを提供する。好ましくは、前記ポリアリーレンスルフィド中の遊離ヨウ素の含量は10ppm以下である。
【0047】
また、前記本発明に係るポリアリーレンスルフィドは、融点が265〜320℃であり得る。なお、前記ポリアリーレンスルフィドは、溶融粘度が200〜20,000ポアズであり得る。
【0048】
さらに、本発明は、前記ポリアリーレンスルフィドの成形により得られる製品を提供し、前記製品は、成形品、フィルム、シート、又は繊維状のものになり得る。
【0049】
本発明に係るポリアリーレンスルフィドは、射出成形、押出成形などの方法によって各種の成形品に加工して使用され得る。このとき、成形品は、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品などが挙げられる。射出成形時の金型の温度は、結晶化の観点から、好ましくは、30℃以上であり、より好ましくは、60℃以上であり、さらに好ましくは、80℃以上である。これに対し、試験片の変形の観点からは、好ましくは、150℃以下であり、より好ましくは、140℃以下であり、さらに好ましくは、130℃以下である。さらに、これらの成形品は、電気・電子部品、建築部材、自動車部品、機械部品、日用品などに使用され得る。
【0050】
フィルム又はシートは、未延伸、1軸延伸、2軸延伸などの各種のフィルム、シートが挙げられる。繊維は、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種の繊維が挙げられ、これらの繊維は、織物、編物、不織布(スパンボンド、メルトブロー、ステープル)、ロープ、ネットに使用され得る。
【実施例】
【0051】
[製造例]ポリアリーレンスルフィドの重合
1.製造例1
pDIB300.00g及び硫黄27.00gを含む混合物を180℃に加熱して完全にそれらを溶融及び混合した後、温度を220℃に昇温し、且つ、圧力を200Torrに降圧した。得られた混合物を、最終温度及び圧力が夫々320℃及び1Torrとなるように温度及び圧力を段階的に変化させつつ、8時間重合反応させた。
【0052】
生成したポリマーは、10,000ポアズの溶融粘度(Melting Viscosity;MV)、235.5℃の融点(Tm)、7,000ppmのヨウ素含量、100ppmの遊離ヨウ素の含量を有していた。
【0053】
2.製造例2
最初にpDIBと硫黄を溶融及び混合するとき、4−ヨードビフェニル(4−iodobiphenyl)を1.50gさらに添加した以外は、製造例1と同様の条件で重合反応を行った。
【0054】
生成したポリマーは、2,600ポアズのMV、235.0℃のTm、1,500ppmのヨウ素含量、85ppmの遊離ヨウ素の含量を有していた。
【0055】
3.製造例3
最初にpDIBと硫黄を溶融及び混合するとき、2,2’−ジチオビスベンゾチアゾール(MBTS)を1.10gさらに添加した以外は、製造例1と同様の条件で重合反応を行った。
【0056】
生成したポリマーは、2,200ポアズのMV、245.5℃のTm、670ppmのヨウ素含量、70ppmの遊離ヨウ素の含量を有していた。
【0057】
4.製造例4
最初にpDIBと硫黄を溶融及び混合するとき、PDS(ジフェニルジスルフィド)を0.60g、触媒としての1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼンを0.3g添加した以外は、製造例1と同様の条件で重合反応を行った。
【0058】
生成したポリマーは、5,300ポアズのMV、274.3℃のTm、610ppmのヨウ素含量、80ppmの遊離ヨウ素の含量を有していた。
【0059】
前記製造例に従い重合されたポリアリーレンスルフィドの物性を下記の実験例に準拠した方法により測定した。その結果を重合に使用された重合停止剤及び触媒と一緒に下記表1に示す。
【0060】
[比較例]
1.比較例1
製造例1と同様の条件で重合反応を行うが、1torr以下の反応工程(320℃)での重合反応時間を延ばして総14時間反応させた。
【0061】
生成したポリマーは、9,800ポアズのMV、237.5℃のTm、7,500ppmのヨウ素含量、75ppmの遊離ヨウ素の含量を有していた。
【0062】
2.比較例2
製造例1〜4に従い製造されたポリマーを長さ4mmのチップ状に切断し、25℃及び50℃で窒素を注入しつつ、遊離ヨウ素の含量を経時的に分析した。
【0063】
[実施例]
1.実施例1
製造例1〜4に従い製造されたポリマーを長さ4mmのチップ状に切断し、それぞれ150℃、200℃及び230℃でパージなしでヒートセットを施した後、遊離ヨウ素の含量を分析した。
【0064】
2.実施例2
製造例1〜4に従い製造されたポリマーを長さ4mmのチップ状に切断し、それぞれ150℃、200℃及び230℃で窒素ガス(N)を注入しつつヒートセットを施した後、遊離ヨウ素の含量を分析した。
【0065】
3.実施例3
製造例1〜4に従い製造されたポリマーを長さ4mmのチップ状に切断し、それぞれ150℃、200℃及び230℃で空気を注入しつつヒートセットを施した後、遊離ヨウ素の含量を分析した。
【0066】
4.実施例4
製造例1〜4に従い製造されたポリマーを長さ4mmのチップ状に切断し、それぞれ150℃、200℃の温度及び真空圧力の条件下でヒートセットを施した後、遊離ヨウ素の含量を分析した。
【0067】
前記比較例及び実施例に従い製造されたチップのヒートセット時の注入ガス、温度条件、及びヒートセット時間によるチップの遊離ヨウ素の含量を下記の実験例に準拠した方法により測定した。また、ヒートセットの前後での溶融粘度及び融点を測定した。比較例1、並びに製造例4のポリマーに関しての実施例1〜4及び比較例2の結果を表2及び表3に示す。
【0068】
[実験例]製造例のポリマー、比較例及び実施例に従い製造されたチップの物性測定
1.溶融粘度の測定
MVは回転円盤粘度計(rotating disk viscometer)を用いて300℃で測定した。
【0069】
2.融点の測定
Tmは、示差走査熱量分析器(Differential Scanning Calorimeter;DSC)を用いて測定した。
【0070】
3.ヨウ素の含量分析
ヨウ素の含量分析は、イオンクロマトグラフィ(Ion Chromatography)法を用いて行った。具体的には、試料を粉砕し、所定量の試料を燃焼させ、純水などの吸着剤でイオン化させた後、ヨウ素イオンの濃度を測定するという燃焼−イオンクロマトグラフィー(Combustion−Ion Chromatography)法を用いて行った。このとき、燃焼装置としては三菱社製のAQF−100を使用し、IC装置としてはDIONEX社製のICS−2500を使用した。
【0071】
4.遊離ヨウ素の含量分析
製造例、比較例及び実施例の遊離ヨウ素の含量分析は、試料を凍結粉砕した後、50℃で1時間メチレンクロリド(Methylenechloride)で超音波処理(Sonication)した試料をU.V(紫外線分光計;Varion)で定量分析することにより行った。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

表2から明らかなように、実施例の条件でヒートセットを施す場合、ポリアリーレンスルフィド中に含まれている遊離ヨウ素を、測定可能な濃度範囲内では現れないレベルまで低減し得る。
【0075】
また、表3から明らかなように、ヒートセットの前後での溶融粘度及び融点の物性変化がほとんどない。したがって、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法によれば、遊離ヨウ素の含量を低減させつつも、ポリマーの物性にはほとんど影響を与えないことから、ポリアリーレンスルフィドの製造に関する産業分野に幅広く使用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてポリアリーレンスルフィドを重合させる重合工程と、
前記重合されたポリアリーレンスルフィドを100〜260℃で保持するヒートセット(heat setting)工程と、
を含む、ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項2】
前記重合工程は、温度180〜250℃及び圧力50〜450torrの初期反応条件で昇温及び降圧を行い、最終反応条件である温度270〜350℃及び圧力0.001〜20torrに変化させつつ1〜30時間重合反応を行う工程である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
前記硫黄化合物は、固体硫黄である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
前記重合工程前に、ジヨード芳香族化合物と硫黄化合物を溶融及び混合させる工程をさらに含む、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
前記ポリアリーレンスルフィド中の遊離ヨウ素の含量は、20ppm以下である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
前記ポリアリーレンスルフィドは、ヒートセット工程の前後でのポリアリーレンスルフィドの溶融粘度の変化が35%未満であり、融点の変化が5%未満である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィドは、融点が265〜320℃である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項8】
前記ポリアリーレンスルフィドは、溶融粘度が200〜20,000ポアズ(Poise)である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項9】
前記ジヨード芳香族化合物は、ジヨード化ベンゼン、ジヨード化ナフタレン、ジヨード化ビフェニル、ジヨード化ビスフェノール及びジヨード化ベンゾフェノンよりなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項10】
前記反応物は、ヨードビフェニル(iodobiphenyl)、ヨードフェノール(iodophenol)、ヨードアニリン(iodoaniline)、ヨードベンゾフェノン(iodobenzophenone)、2−メルカプトベンゾチアゾール(2−mercaptobenzothiazole)、2,2’−ジチオビスベンゾチアゾール(2,2’−dithiobisbenzothiazole)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(N−cyclohexylbenzothiazole−2−sulfenamide)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(2−morpholinothiobenzothiazole)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(N,N−dicyclohexyl−2−benzothiazolesulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuramdisulfide)、亜鉛ジメチルジチオカルバマート(Zinc dimethyldithiocarbamate)、亜鉛ジエチルジチオカルバマート(Zinc diethyldithiocarbamate)及びジフェニルジスルフィド(diphenyldisulfide)よりなる群から選ばれる1種以上の重合停止剤をさらに含むものである、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項11】
前記重合工程は、ニトロベンゼン系触媒の存在下で行われる、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項12】
前記ヒートセット工程は、0.5〜100時間行われる、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項13】
前記ヒートセットの温度は、150〜230℃である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項14】
前記ヒートセット工程は、窒素、空気、ヘリウム、アルゴン及び水蒸気よりなる群から選ばれる1種以上のガスを注入しつつ行う、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項15】
前記ヒートセット工程は、真空の条件下で行う、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれかに記載の方法によって製造され、遊離ヨウ素の含量が20ppm以下である、ポリアリーレンスルフィド。
【請求項17】
前記ポリアリーレンスルフィド中の遊離ヨウ素の含量は、10ppm以下である、請求項16に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項18】
前記ポリアリーレンスルフィドの融点は、265〜320℃である、請求項16に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項19】
前記ポリアリーレンスルフィドの溶融粘度は、200〜20,000ポアズである、請求項16に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項20】
請求項16に記載のポリアリーレンスルフィドの成形により得られる製品。
【請求項21】
前記製品は、成形品、フィルム、シート又は繊維状のものである、請求項16に記載の製品。

【公表番号】特表2012−514068(P2012−514068A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543437(P2011−543437)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007831
【国際公開番号】WO2010/077039
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(500116041)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (49)
【Fターム(参考)】