説明

運動用飲料の製造方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明はカフェインを含有する運動用飲料に関する。
(従来の技術)
従来の運動用飲料のほとんどは、浸透圧の調整による急速水分補給とミネラル分の補給を主目的に作られていた。
一方、カフェインの生理作用としては、眠気防止を目的として、中枢神経を興奮させることが知られている程度であった。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、従来の運動用飲料では運動時のスタミナ持続効果はさして期待できなかった。
本発明は、運動用飲料がこれらの効果を奏し得るようにすることを目的とし、そのための効果的な手段としてカフェインに着眼したものである。
カフェインは、緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶類に多く含有されている。このようなカフェイン含有天然物から、多量のカフェインを摂取することが考えられる。その方法として、茶抽出液を濃縮することが可能であるが、しかしこのような方法によると、ベースになる天然物の濃度が著しく高濃度にならざるを得ず、香味が悪くなり、しかも天然物中のタンニン類と結合して劣化が著しく早まり、商品となり得ない。
本発明はこのような点を踏まえ、飲料にカフェインを添加して強化することに着眼し、運動時のスタミナ持続効果を発現させ得んとするものであり、この場合、茶抽出液の濃度、及び飲料のPHを調整することによって、香味が良く、かつ劣化の少ない飲料適性を維持したカフェイン添加運動用飲料を提供せんとするものである。
(課題を解決するための手段)
上記課題を解決するために、本発明は、茶抽出液を有効成分として含有する運動用飲料であって、1回量(例えば350ml)の飲料中に約10mg〜500mgのカフェインを含有してなる運動用飲料を提供することとした。この運動用飲料は、継続摂取用とすることにより極めて優れた効果を発揮する。
このような本発明の運動用飲料は、茶抽出液を、必要に応じて濃縮し、カフェイン濃度20〜30mg/350mLとし、この茶抽出液を、必要に応じて濃縮し、カフェイン含有量20〜30mg/350mLに調整した後、この茶抽出液にカフェインを添加して飲料中のカフェイン合計量が40mg〜60mg/350mLとなるように調製することによって製造することができる。
また、アスコルビン酸とクエン酸とを添加することによって、pH4以下に調整して運動用飲料とするのが好ましい。
(作用)
本発明のように、茶抽出液を有効成分として運動用飲料を調製すれば、茶抽出液中のカフェインが運動時のスタミナ持続並びに中性脂肪分解促進に寄与するほか、単にカフェインを含有させた水や飲料に比べ、茶抽出液がより一層優れたスタミナ持続効果を発揮する。
また、茶抽出液にカフェインを添加して、飲料中のカフェイン合計量を所望の範囲に調整するように運動用飲料を製造すれば、香味維持及び劣化防止を図りつつ、所望のスタミナ持続効果を得ることができるようになる。
更に、アスコルビン酸とクエン酸との添加よってpH4以下に調整することにより、酸性域での劣化が問題となる茶抽出液であっても、劣化がなく、しかも酸味が適当にあり爽快な運動用飲料を提供することができる。
(実施例)
第1実施例 カフェイン添加飲料を、マウスに単回投与して、スタミナ発揮効果を試験した。その結果を自発運動量測定及び生化学的検査によって以下のように得た。
マウスは、10匹づつを表1の6群に分け、それぞれの群に表1に示された組成の飲料を投与した。


飲料の種類:A5群(※印)は、カフェインを添加していない天然ウーロン茶抽出液を飲料として与え、他の群はすべて水に表1のとおりの成分を添加した液を飲料として与えた。
飲料の投与方法:運動負荷試験開始直前に1.5mlを1回強制的に投与した。
自発運動測定:自発運動測定は、回転かご法を用いてその回転数を求めた。検査は、単回投与前と投与直後に、30分間の運動と30分間の休憩を1サイクルとして、これを4回繰り返し、それぞれ延べ2時間強制的に回転かごに入れて運動させ、それぞれの合計回転数を記録した。
最終実験終了後に採血を行ない、生化学的検査を実施した。
生化学的検査:採血して、トリグリセリド、乳酸及びカフェイン等を測定した。
以上の結果、マウスが実際に摂取したカフェイン量は表2のとおりであった。
また、自発運動量は表3のとおりであった。なお、自発運動量における比較増加率とは、対照群と各群の運動量の増減を比較しやすくするために対照群の増加分を0となるように修正し、これに応じて各群の増加分を修正した対比割合である。
計算式は次の通りである。








自発運動量は、表3に示すとおり、カフェインの入っていない対照群に対して、カフェイン入りのA1〜A5群すべてに約3〜10%の増加が見られ、運動時のスタミナ発揮にカフェインが寄与していることが示された。
生化学的検査の結果は表4のとおりであった。


トリグリセリド(中性脂肪)が対照群に較べて、A1〜A5群のすべてにおいて減少傾向を示し、特にカフェイン濃度の高いA3、A4、A5群で顕著であった。又、乳酸値も対照群に較べて、A1〜A5群のすべてにおいて減少傾向を示し、特にカフェイン濃度の高いA3、A4群で顕著であった。
この分析結果によれば、カフェインがトリグリセリド(中性脂肪)を分解し、血中の遊離脂肪酸を増加せしめ、生体内の脂肪の酸化が促進され、これが運動エネルギーとして消費されたため、グリコーゲンの消費が抑制され、乳酸の減少につながり、疲労回復に寄与しているものと推定される。スタミナ発揮効果として表れることが裏付けられた。
なお、上記生体内の化学変化によれば、痩身効果にも寄与しているものと推定される。
第2実施例 上記第1実施例と同旨で、スタミナ持続効果の実験を別途次のように行った。同条件の説明部分は省略する。
マウス10匹づつを4群に分け、それぞれの群に表5の組成の飲料を投与した。


飲料の投与方法:運動負荷試験開始直前に体重1kg当り20mlを1回強制経口投与した。
自発運動測定:投与後210分間回転かご運動をさせ、投与直後の30分、投与1時間後の30分間、投与3時間後の30分間の各回転数を求めた。
実際にマウスが摂取したカフェイン量は表6、自発運動量は表7のとおりであった。




なお、比較増加率の算出は次の方法によった。




自発運動量は、90分間総運動量が、表7に示す通りカフェインの入っていない群に対して、カフェイン入りのAA1、AA2群共に約20%弱の大幅な増加が見られ、運動時のスタミナ持続にカフェインが寄与していることが示された。
上記第1実施例、第2実施例の試験からヒトの効果を算出してみると、カフェインの1回の摂取量は、1回の適量の飲料中(例えば市販の缶入り飲料は350mlが一般的である)に、体重約50kg当りに換算して、第1実施例ではA1群に対応する38.5mg、第2実施例からAA1群に対応する約10mg以上であれば、効果が現れることが分かった。
カフェインの生体に対する極量制限が1回飲用量0.5gとされていることを勘案し、結果として、1回の飲用に有効な飲料のカフェイン含有量は約10〜500mgであることが判明した。
第3実施例 カフェイン添加飲料を、マウスに20日間連続経口投与して、スタミナ持続効果をさらに試験した。その結果を自発運動量測定検査によって以下のように得た。
マウスは表8の6群に分け、それぞれの群に示された組成の飲料を投与した。


飲料の種類:B5群(※印)は、カフェインを添加していない天然ウーロン茶抽出液を飲料として与え、他の群はすべて水に表8のとおり成分を添加した液を飲料として与えた。
飲料の投与方法:飲水装置を使用して自由に摂取させ翌日にその飲水量を測定し、投与量を求めた。
自発運動測定:投与前、投与直後、3日,10日、20日目にそれぞれ、30分間の運動と30分間の休憩を1サイクルとしてこれを4回繰り返し、延べ2時間強制的に回転かごに入れ、それぞれの合計回転数を記録した。
以上の結果、マウスが実際に摂取したカフェイン量及び自発運動量は表9、表10のとおりであった。また20日後のマウスの平均体重は45gであった。




自発運動量は、上記のとおりB1〜B5群すべてに約4〜41%の増加が見られた。特にカフェイン濃度が高いB4、B5群で、23.6〜41%と高い増加が見られ、運動時のスタミナ持続にカフェインが寄与していることが示された。
第4実施例香味及び劣化の改善策 茶は通常、中性で飲まれるが、本発明飲料は運動用飲料としての性格上、爽快感を出すために飲料のPHを酸性に調整するのが望ましい。しかし、茶飲料は酸性では著しく劣化が早い。
そこで本発明飲料は、爽快感を出すために又酸化による劣化防止のためにアスコルビン酸をPH調整の基本剤とし最終的なPHの微調整をクエン酸の添加量によって行った。
上記飲料のPH及び香味の官能試験を行った結果、PHは約3.6で香味は酸味が適当にあり爽快であった。
さらに、上記PH調整に加えて劣化対策試験として、原料となるウーロン茶を4種類の濃度に抽出し、これに天然抽出カフェインを添加して、合計カフェイン量がいずれも50mg/350mlとなるように調整して行った。標準缶詰商品の容量が350mlであることから、カフェインの濃度は350mlに対する濃度とした。50mg/350mlは、実施例1で得た有効カフェイン含有量約40〜500mgの中からほぼ確実にカフェインの効果が期待できる量として選定した。
劣化試験は、製造直後の飲料と35℃で一ヵ月間保存した飲料とを、複数人の試飲による対比官能試験によって行った。
香味及び劣化試験結果は表11のとおりであった。
また、科学的な分析検査を行った結果では、C1〜C4のいずれの飲料共、高温負荷試験で変化を認めなかった。ヒトの五感による官能検査でのみ表11に示すような変化が感じられた。


このことから、目的濃度達成のために抽出液を濃縮するとベースになる天然物が著しく高濃度となり香味が悪く、しかもカフェインが天然物中のタンニン類と結合して抽出液の劣化が著しく早く、商品となり得ないことが明らかとなる一方、本発明で使用したウーロン茶の場合、それ自身に由来したカフェイン濃度が25.0mg/350mlで、茶より抽出された天然抽出カフェインを25.0mg/350ml添加したC3の飲料が、香味や劣化防止の点で最も優れていた。C3の飲料は金くさ臭が若干するが、微量のグレープフルーツ等の適宜香料を添加する事によって官能試験ではほとんど問題なくなった。この結果香味や劣化防止の点で最も好ましい茶抽出液濃度は約20〜30mg/350mlで、かつ飲料中のカフェインの合計量が約40〜60mg/350mlであることが判明した。
また、香味、劣化はウーロン茶の抽出濃度に影響を受けるが、添加するカフェイン量の多少によっては顕著な影響は出ないことが判明した。
第5実施例本発明飲料の製造方法 本発明飲料の製造方法は、まず、ウーロン茶葉を熱湯抽出して濾過して、ウーロン茶抽出液を得た。この抽出液に、アスコルビン酸1.0g/■、クエン酸0.3g/■、果糖40g/■、天然カフェイン73.7mg/■、香料0.8g/■を添加した後、90℃まで加熱し、缶の巻き締めを行い、冷却した。
上記添加したカフェイン量は、茶より抽出された天然カフェイン量を測定し、最終濃度が1缶当たり50mg/350mlに成るように調整した量である。
このようにして得た本発明飲料のPHは約3.6で香味は酸味が適当にあり爽快であった。35℃1ケ月間保存した後の官能検査でもウーロン茶の風味があり、適当な酸味の爽快感があった。劣化臭はほとんどなかった。
なお、スタミナ持続効果を出来るだけ早く奏し得るためには、水分、及びカフェインの迅速な吸収が望まれる。そのため本発明飲料は上記方法で、果糖を40g/■を加えて水分吸収に都合が良いと言われている浸透圧250mOsm近傍に調整した。
(発明の効果)
以上のようにして、本発明飲料によれば、1回量の飲料中のカフェイン含有量が体重約50kg当り約10mg〜500mgとなるようにカフェインを添加することによって、運動時のスタミナ持続効果ばかりか中性脂肪分解促進効果を発揮し得た。茶抽出液にカフェインを添加することによって上記飲料に茶の香り与え、茶抽出液を自身が含有しているカフェイン濃度約20mg〜30mg(例えば350ml当り)に調整することによって、飲料に適当な茶の香りを与え、同時に劣化防止の効果を奏し得た。飲料中のカフェインの合計量を約40mg〜60mg(同)とすることで最も飲みやすくかつ運動時のスタミナ持続効果及び痩身効果を合わせ発揮する飲料とすることができ、この場合、PHを3%台に調整することによって酸味が適当となり運動用飲料としての爽快感をだすことができ、同時に上記作用により劣化防止が果たし得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】茶抽出液を、必要に応じて濃縮し、カフェイン含有量20〜30mg/350mLに調整した後、この茶抽出液にカフェインを添加して飲料中のカフェイン合計量が40mg〜60mg/350mLとなるように調製することを特徴とする運動用飲料の製造方法。
【請求項2】アスコルビン酸とクエン酸とを添加することによって、pH4以下に調整することを特徴とする請求項1に記載の運動用飲料の製造方法。

【特許番号】特許第3082920号(P3082920)
【登録日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【発行日】平成12年9月4日(2000.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−278479
【出願日】平成1年10月27日(1989.10.27)
【公開番号】特開平3−143377
【公開日】平成3年6月18日(1991.6.18)
【審査請求日】平成8年10月23日(1996.10.23)
【前置審査】 前置審査
【出願人】(999999999)株式会社伊藤園
【参考文献】
【文献】特開 昭59−216824(JP,A)
【文献】特公 昭29−7184(JP,B1)
【文献】Medicine and Science in Sports Vol.11 No.1(1979)p.6−11
【文献】小池五郎他監修「58年度版 四訂食品成分表」全国高等学校長協会家庭部会発行(昭58年)p.184−187