説明

運動神経細胞・感覚神経細胞特異的エンハンサー

運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において特異的に、遺伝子の発現効率を高める。以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。(a)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列からなるDNA(b)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA(c)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において、任意の遺伝子の発現を特異的に増強できるエンハンサーに関する。
【背景技術】
Arberら(Neuron,1999 August 23:659−674)により、運動神経細胞特異的な発現を示すマウスHb9遺伝子のプロモーターが単離されている。このプロモーターは、トランスジェニックマウスにおいて体性運動神経細胞(somatic motoneurons)に特異的にレポーター遺伝子の発現を誘導することが知られている。しかし、Hb9遺伝子の運動神経細胞での発現は一過性のものであり、成熟した細胞にはレポーター遺伝子の発現を誘導することは困難であると考えられる。さらに、この系では内臓運動神経(visceral motoneurons)にはレポーター遺伝子の発現を誘導しない。また、このプロモーターは、Hb9遺伝子の転写開始点から上流約9kbpを含んでおり、組み換え体作製などの作業において取扱いの煩雑さを伴うことが予想される。また、マウス由来のプロモーターであることから、仮に治療で用いられることがあるとすると、倫理的な問題も生じかねない。
一方、エンハンサーとは、RNAポリメラーゼによる転写効率を高める特定の塩基配列である。エンハンサーは、特定の遺伝子の上流或いは下流に存在し、遺伝子発現制御能を有する制御タンパク質等が結合することによって、特定の遺伝子の転写を促進することができる。
そこで、本発明は、上述した実状に鑑み、運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において特異的に、遺伝子の発現効率を高めることができるエンハンサーを提供することを目的とする。また、本発明は、当該エンハンサーを有するベクター、トラスジェニック動物、遺伝子発現調節方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該エンハンサーを用いた多能性幹細胞の分化判別方法及び運動神経・感覚神経の再生方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
上述した目的を達成した本発明は、以下を包含する。
(1)以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(2)以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号1における235〜560番目の塩基配列、配列番号2における204〜528番目の塩基配列、配列番号3における206〜530番目の塩基配列又は配列番号4における211〜555番目の塩基配列のいずれか1に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1における235〜560番目の塩基配列、配列番号2における204〜528番目の塩基配列、配列番号3における206〜530番目の塩基配列又は配列番号4における211〜555番目の塩基配列のいずれか1に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号1における235〜560番目の塩基配列、配列番号2における204〜528番目の塩基配列、配列番号3における206〜530番目の塩基配列又は配列番号4における211〜555番目の塩基配列のいずれか1に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(3)上記運動神経細胞は、背側に軸索を進展する運動神経細胞であることを特徴とする(1)又は(2)記載のエンハンサー。
(4)以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号5に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号5に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、感覚神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号5に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、感覚神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(5)以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号5又は6に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号5又は6に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、腹側に軸索を進展する運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号5に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、腹側に軸索を進展する運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(6)(1)〜(5)いずれか1記載のエンハンサーを有するベクター。
(7)プロモーターと、コード領域を含む遺伝子とを更に有することを特徴とする(6)記載のベクター。
(8)(6)又は(7)記載のベクターを有する遺伝子導入細胞。
(9)(6)又は(7)記載のベクターを有するトランスジェニック動物。
(10)(1)〜(5)いずれか1記載のエンハンサーの制御下で、所定の遺伝子の発現効率を向上させることを特徴とする遺伝子発現調節方法。
(11)(1)〜(5)いずれか1記載のエンハンサー及び上記所定の遺伝子とを有する核酸構築物を細胞に導入する工程を有し、
運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において、上記所定の遺伝子の発現効率を高めることを特徴とする遺伝子発現調節方法。
(12)(1)〜(5)いずれか1記載のエンハンサー、プロモーター及びレポーター遺伝子を含む核酸構築物を多能性幹細胞に導入する工程と、
上記多能性幹細胞に対して分化誘導する工程とを有し、
レポーター遺伝子の発現を検定することによって、上記多能性幹細胞が運動神経細胞又は感覚神経細胞に分化したか否かを判別することを特徴とする多能性幹細胞の分化判別方法。
(13)(1)〜(5)いずれか1記載のエンハンサー、プロモーター及びレポーター遺伝子を含む核酸構築物を多能性幹細胞に導入する工程と、
上記多能性幹細胞に対して分化誘導する工程と、
レポーター遺伝子の発現を検定することによって、上記多能性幹細胞が運動神経細胞又は感覚神経細胞に分化したか否かを判別し、運動神経細胞又は感覚神経細胞を選択する工程と、
選択された運動神経細胞又は感覚神経細胞を移植する工程とを有する
運動神経・感覚神経の再生方法。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2002−254829号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、ゼブラフィッシュゲノムにおけるIslet−1遺伝子近傍のEcoRI制限酵素地図を示す図である。
図2は、ICP−GFPプラスミドの一部を示す模式図である。
図3は、CM領域の部分断片を有するプラスミドの設計を示す図である。
図4は、hsp−GFPプラスミドの一部を示す模式図である。
図5は、CMB3−hsp−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける頭部を背側面から撮像した写真である。
図6は、CM−ICP−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける頭部を背側面から撮像した写真である。
図7は、SS領域の部分断片を有するプラスミドの設計を示す図である。
図8は、SSd25/30−hsp−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける頭部を側面から撮像した写真である。
図9は、SSd25/30−hsp−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける脊髄を側面から撮像した写真である。
図10は、SS−hsp−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける頭部を側面から撮像した写真である。
図11は、SS−hsp−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける脊髄を側面から撮像した写真である。
図12は、SS−ICP−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける頭部を側面から撮像した写真である。
図13は、SS−ICP−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける脊髄を側面から撮像した写真である。
図14は、zCM、huCM、mCM及びfuguCM間での相同性を調べた結果をアライメントして示す図である。
図15は、zCM−ICP−GFP、huCM−ICP−GFP或いはmCM−ICP−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける頭部を背側面から撮像した写真である。
図16は、huCM−ICP−GFP或いはmCM−ICP−GFPを注入したゼブラフィッシュにおける脊髄を側面から撮像した写真である。
図17は、zSS及びhuSS間での相同性を調べた結果をアライメントして示す図である。
図18は、zSS−ICP−GFPを用いて作製したトランスジェニックゼブラフィッシュにおける頭部及び脊髄を側面から撮像した写真である。
図19は、zCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスにおける頭部を側面から撮像した写真である。
図20は、zCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスにおける頭部を全面から撮像した写真である。
図21は、zCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスにおける肋骨を側面から撮像した写真である。
図22は、zCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスにおける肋骨を内側から撮像した写真である。
図23は、zSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスにおける頭部を側面から撮像した写真である。
図24は、SS−hsp−GFPを用いて作製したトランスジェニックゼブラフィッシュ及び、zSS−ICP−PLAP並びにhuSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスの写真である。
図25は、huCM−ICP−GFPを用いて作製したトランスジェニックゼブラフィッシュ及びhuCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスの写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るエンハンサーは、(a)配列番号1に示す塩基配列からなる、(b)配列番号1の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換又は付加してなり、運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる、或いは、(c)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる。
配列番号1の塩基配列は、ゼブラフィッシュゲノムにおいて、Islet−1遺伝子の転写開始点から約10kbp下流に存在する領域(以下、CM領域と呼ぶ)に含まれている。配列番号1の塩基配列からなるDNA断片は、運動神経細胞核において特異的に遺伝子発現効率を高める作用を有するエンハンサーである。なお、Islet−1遺伝子は、分化した運動神経細胞の早期マーカーの一つであり、ゼブラフィッシュ24時間胚においては、運動神経細胞ならびに感覚神経細胞に強く発現する。
また、本発明に係るエンハンサーは、(a)配列番号2、3又は4に示す塩基配列からなる、(b)配列番号2、3又は4の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換又は付加してなり、運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる、或いは、(c)配列番号2、3又は4の塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる。
配列番号1の塩基配列に基づいて、National Center for Biotechnology Information(NCBI)で公開されているヒトゲノムデータベースに対して相同性検索を行うことによって配列番号2の塩基配列を同定することができる。また、配列番号1の塩基配列に基づいて、NCBIで公開されているマウスゲノムデータベースに対して相同性検索を行うことによって、配列番号3の塩基配列を同定することができる。また、配列番号1の塩基配列に基づいて、NCBIで公開されているフグゲノムデータベースに対して相同性検索を行うことによって、配列番号4の塩基配列を同定することができる。
すなわち、配列番号1の塩基配列はゼブラフィッシュゲノム由来のエンハンサーであり、配列番号2の塩基配列はヒトゲノム由来のエンハンサーであり、配列番号3の塩基配列はマウス由来のエンハンサーであり、配列番号4の塩基配列はフグゲノム由来のエンハンサーである。
なお、以下の説明において、(a)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列からなるDNAからなるエンハンサー、(b)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNAからなるエンハンサー及び(c)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNAからなるエンハンサーをまとめてCMエンハンサーと呼ぶ。
一方、本発明に係るエンハンサーは、(a)配列番号5に示す塩基配列からなる、(b)配列番号5の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換又は付加してなり、感覚神経細胞及び腹側に軸索を進展する運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる、或いは、(c)配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、感覚神経細胞及び腹側に軸索を進展する運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる。
配列番号5の塩基配列は、ゼブラフィッシュゲノムにおいて、Islet−1遺伝子の転写開始点から約55kbp下流に存在する領域(以下、SS領域と呼ぶ)に含まれている。配列番号5の塩基配列からなるDNA断片は、感覚神経細胞核及び腹側に軸索を進展する運動神経細胞において特異的に遺伝子発現効率を高める作用を有するエンハンサーである。
また、配列番号5の塩基配列に基づいて、National Center for Biotechnology Information(NCBI)において公開されているヒトゲノムデータベースに対して相同性検索を行うことによって配列番号6の塩基配列を同定することができる。したがって、本発明に係るエンハンサーは、(a)配列番号6に示す塩基配列からなる、(b)配列番号6の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換又は付加してなり、腹側に軸索を進展する運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる、或いは、(c)配列番号6の塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、腹側に軸索を進展する運動神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有する塩基配列からなる。なお、配列番号6の塩基配列からなるエンハンサーは、感覚神経細胞においては活性を示さない。
なお、以下の説明において、(a)配列番号5又は6に表される塩基配列からなるDNAからなるエンハンサー、(b)配列番号5又は6に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、感覚神経細胞及び/又は腹側に軸索を進展する運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNAからなるエンハンサー及び(c)配列番号5又は6に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、感覚神経及び/又は腹側に軸索を進展する運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNAからなるエンハンサーをまとめてSSエンハンサーと呼ぶ。
ここで、配列番号1乃至6のいずれかに表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加した塩基配列とは、例えば、1〜30塩基、好ましくは1〜20塩基、より好ましくは1〜10塩基が欠失、置換又は付加した塩基配列を意味する。特に、欠失、置換又は付加する領域としては、配列番号1における235〜560番目以外の領域、配列番号2における204〜528番目以外の領域、配列番号3における206〜530番目以外の領域、配列番号4における211〜555番目以外の領域、配列番号5における378〜553番目以外の領域、配列番号6における178〜353番目以外の領域が好ましい。
配列番号1における235〜560番目の領域、配列番号2における204〜528番目の領域、配列番号3における206〜530番目の領域、及び配列番号4における211〜555番目の領域は、互いに高い相同性を示す領域であり、生物種間において高度に保存されている。このため、配列番号1乃至4におけるこれらの領域は、運動神経細胞において遺伝子発現効率を高めるといったエンハンサーの機能に寄与する領域であると示唆される。また、配列番号5における378〜553番目の領域、配列番号6における178〜353番目の領域は、互いに高い相同性を示す領域であり、生物種間において高度に保存されている。このため、配列番号5及び6におけるこれらの領域は、感覚神経細胞及び/又は腹側に軸索を進展する運動神経細胞において遺伝子発現効率を高めるといったエンハンサーの機能に寄与する領域であると示唆される。
配列番号1乃至6のいずれかに表される塩基配列に1以上の塩基を欠失、置換又は付加する際には、従来公知の手法を特に限定することなく、適宜使用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発方法を使用して、所定の塩基を置換することができる。部位特異的突然変異誘発方法としては、例えばT.クンケル(Kunkel)の部位特異的変異導入法(Kunkel,T.A.Proc.Nati.Acad.Sci.U.S.A.82,488−492(1985))、Gapped duplex法等が挙げられる。また、通常のクンケル法で使用する1〜2本の改変用オリゴヌクレオチドを、最高16本のオリゴヌクレオチドを同時に用いて多部位での効率よい置換を行う改良法なども採用することができる。本発明では、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan−K(宝酒造社製)やMutan−G(宝酒造社製))などを用いて、あるいは、宝酒造社製のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異を導入することもできる。
また、配列番号1乃至6のいずれかに表される塩基配列の相補的な塩基配列にしてストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、ストリンジェントな条件下において、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されないことを意味する。例えば、相同性が高い核酸同士、すなわち60%以上、好ましくは80%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い場合はハイブリダイズしないことを意味する。ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が15〜900mMであり、温度が37〜70℃、好ましくは68℃での条件においてハイブリダイズすることを意味する。
ここで、運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能とは、特に、任意の遺伝子の転写効率を高める機能が運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において特異的に出現することを意味する。任意の塩基配列を有するDNA断片が当該機能を有するか否かは、任意のプロモーター及びレポーター遺伝子を有する発現ベクターに当該DNA断片を組み込んで組換えベクターを作製し、組換えベクターを用いて作製したトランスジェニック動物の運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞におけるレポーター遺伝子の発現が増大しているか否かを検討する。トラスジェニック動物の運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞におけるレポーター遺伝子の発現が増大している場合、当該DNA断片は上記機能を有する。
特に、CMエンハンサーは、運動神経細胞のなかでも背側に軸索を進展する運動神経細胞においてエンハンサー活性を示すとともに、全ての運動神経細胞において一過的なエンハンサー活性を示す。また、SSエンハンサーは、運動神経のなかでも腹側に軸索を進展する運動神経細胞において特異的なエンハンサー活性を示す。なお、ゼブラフィッシュ由来のSSエンハンサーは、感覚神経細胞においてもエンハンサー活性を示すが、ヒト由来のSSエンハンサーは感覚神経細胞においてエンハンサー活性を示さない。
ここで、作製するトランスジェニック動物としては、特に限定されないが、運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞におけるレポーター遺伝子の発現が容易に判別可能なトランスジェニック動物を作製することが好ましい。例えば、トランスジェニック動物としては、トランスジェニックゼブラフィッシュやトランスジェニックマウス等を用いることができる。
また、ゼブラフィッシュ1細胞卵に顕微鏡注入等の手法によって上述した組換えベクターを注入し、24時間後、胚におけるレポーター遺伝子の発現を確認することで、任意のDNA断片について、運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において遺伝子発現効率を高める機能を有するか否かを確認できる。
ここで、レポーター遺伝子としては、蛍光緑色タンパク質をコードするGFP遺伝子(Green Fluorescent Protein遺伝子)やアルカリフォスファターゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子等を使用することができる。
また、プロモーターとしては、ゼブラフィッシュ由来のIslet−1遺伝子上流約4kbpに存在するIslet−1プロモーター(Islet−1 Core Promoter、以下、ICPと呼ぶ)や、ゼブラフィッシュ由来熱ショック70プロモーターや、ヒト由来のプロモーター、具体的にはβグロビンプロモーター等を用いることができる 一方、上述した本発明に係るエンハンサーを用いて、所望の遺伝子を運動神経細胞或いは感覚神経細胞において特異的に発現量を増大できる発現ベクターを構築することができる。プロモーターとしては、上述した各種プロモーターを用いることができる。特に、ヒトに対する遺伝子治療用発現ベクターの場合には、プロモーターとして、ヒト由来のプロモーター、具体的には、βグロビンプロモーターを用いることが好ましい。
また、運動神経細胞或いは感覚神経細胞において特異的に発現量を増大させる遺伝子としては、何ら限定されないが、例えば、家族性ALS(amyotrophic lateral sclerosis)のうちSOD1遺伝子に変異を持つ群に対して、過剰発現することにより生命予後を改善することが知られている原癌遺伝子Bcl−2(Science,1997,July 25:277,559−562)挙げることができる。本発明に係るエンハンサー、プロモーター及び原癌遺伝子Bcl−2を有する発現ベクターを用いて遺伝子治療を行う場合には、Bcl−2を運動神経細胞において特異的に発現させることができる。これにより、家族性ALSに罹患した患者の生命予後を改善する効果を期待することができる。
さらに、例えば、感覚神経細胞に特異的に発現を増大させる遺伝子としては、プレプロエンケファリン遺伝子があげられる。プレプロエンケファリンは内因性麻薬様物質の一つであるエンケファリンの前駆物質であり、これを感覚神経細胞に過剰に発現誘導することにより例えば慢性関節リウマチなどの慢性疼痛を緩和することが可能であると期待することができる。(Braz J.ら、J Neurosci 2001 Oct 15;21(20):7881−8)。
また、上述した本発明に係るエンハンサーは、多能性幹細胞の分化判別方法に用いることができる。この場合、先ず、上記エンハンサー、プロモーター及びレポーター遺伝子を有する核酸構築物を作製する。ここで核酸構築物とは、上述したような、上記エンハンサー、プロモーター及びレポーター遺伝子を有する発現ベクターであってもよい。多能性幹細胞とは、発生初期に存在する個体を構成する全ての組織細胞に分化する能力、すなわち多能性(pluripotency)をもつ幹細胞を意味する。多能性幹細胞としては、発生初期に存在する多能性を有する幹細胞を選別し、in vitroで培養できるように株化した胚性幹細胞(ES細胞;embryonic stem cell)を挙げることができる。
多能性幹細胞に対して核酸構築物を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、顕微鏡を用いた注入方法、エレクトロポレーション等を挙げることができる。
次に、核酸構築物を導入した多能性幹細胞が運動神経細胞又は感覚神経細胞に分化すべく、当該多能性幹細胞に対して分化誘導を行う。分化誘導方法としては、例えば、レチノイン酸を含む培養液を用いて培養するなどの方法を挙げることができる。
次に、分化した多能性幹細胞におけるレポーター遺伝子の発現を検定する。すなわち、レポーター遺伝子の発現量が対照と比較して有意に増加している細胞を、運動神経細胞に分化したものであると判断することができる。そして、レポーター遺伝子の発現量が有意に増加した細胞を選択することによって、多能性幹細胞から分化した運動神経細胞を容易に且つ精度よく選別することができる。
さらに、選別した運動神経細胞は、いわゆる再生医療に用いることができる。具体的には、選別した運動神経細胞を更に培養した後、対照となる動物、例えばヒトに移植することによって、運動神経を欠損した患者に対して有効な治療方法を提供することができる。
一方、上述した本発明に係るエンハンサーは、いわゆる遺伝子治療に用いることができる。具体的には、上述したエンハンサーが制御しうる形で導入対象の遺伝子を有する核酸構築物を作製する。核酸構築物としては、遺伝子治療に用いることができるものであれば特に限定されないが、上記エンハンサー、プロモーター及び導入対象の遺伝子を有するアデノウィルスベクター、ヘルペスウィルスベクター及びレトロウィルスベクター等を用いることができる。
導入対象の遺伝子は、特に限定されないが、運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において特異的に発現させることによって、所定の疾患に対する治療・改善効果を奏することが知られている遺伝子を挙げることができる。例えば、導入対象の遺伝子としては、上述したような、原癌遺伝子Bcl−2(Science,1997,July 25:277,559−562)、プレプロエンケファリン遺伝子等を挙げることができる。
次に、核酸構築物を用いて治療対象である患者に対して定法に従って遺伝子治療を行う。
以上のように遺伝子治療を行うことによって、当該遺伝子治療が施された患者では、運動神経細胞又は感覚神経細胞において導入対象の遺伝子を特異的に発現させることができる。本発明に係るエンハンサーを用いた遺伝子治療によれば、運動神経細胞又は感覚神経細胞において、特異的に導入対象の遺伝子を発現させることができるため、より効果的な治療・改善効果を期待することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕エンハンサー領域の同定
先ず、Islet−1遺伝子の転写開始点から約10kbp下流に存在するCM領域及び約55kbp下流に存在するSS領域に含まれるエンハンサー機能を示す領域を、以下のように特定した。
i)Islet−1遺伝子プロモーターの同定
ゼブラフィッシュゲノムライブラリーを、Islet−1 cDNAをプローブとしてサザンハイブリダイゼーションによりスクリーニングし、Islet−1遺伝子全長並びにその上流のゲノム配列約4.1Kbpを含む陽性クローンを単離した。この陽性クローンを鋳型として標準的なPCR法を用いてICPを単離した(図1参照)。
なお、具体的にゼブラフィッシュゲノムライブラリーは、定法に従いファージベクターとしてλ DASH IIを用いて調製した。上記PCR法には、プライマーとして、ファージベクター由来の配列(ICP5prime)と3’端に制限酵素Kpn1認識配列を付加したIslet1遺伝子の5’非翻訳領域を含む配列(ICP3prime)を用いた。プライマーの配列を以下に示す。

上記PCRによって増幅した領域がプロモーターとしての機能を有するか否かを以下のように確認した。すなわち、先ず、PCRによって増幅したDNA断片のすぐ下流に、SV40ウイルス由来のイントロン/ポリA付加シグナルを連結したGreen Fluorescent Protein(GFP)をレポーター遺伝子として連結したpBluescript II SK(Stratagene社製)を構築した(図2参照)。構築したプラスミドをICP−GFPと命名した。
ICP−GFPをゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入した。具体的には、顕微注入には、プラスチック製注射筒を繋いだホルダーにガラス製マイクロピペットを用いた。ガラス製マイクロピペットに約25ng/microlitterの濃度に調整したDNA溶液を入れ、実体顕微鏡(ZEISS社製)下に、細胞質の径約1/3程度に溶液が拡散するくらいの量を注入した。顕微注入後、通常の飼育条件下に飼育し、GFPの発現を24時間胚について蛍光実体顕微鏡(Leica社製)下で検定した。
その結果、Islet−1遺伝子のプロモーターを同定するとともに、単離することができた。
ii)CM領域及びSS領域の同定
ゼブラフィッシュBACライブラリーから、Islet−1cDNAを鋳型としてIslet−1遺伝子を含む約100Kbpのクローンを単離した。
単離したIslet−1遺伝子を含む約100Kbpのクローンを、制限酵素EcoR1を用いて完全消化し、得られた断片をそれぞれICP−GFPのICP上流に挿入した。BACクローンのEcoR1処理断片を含むICP−GFPを、それぞれゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入し、GFPによる蛍光の発現を一過性発現系において検定した。
その結果、脳神経運動核に特異的にGFPを発現誘導するゲノム断片(約15Kbp)を同定した。このゲノム断片はIslet−1遺伝子の転写開始点から約10kbp下流に存在した。なお、このゲノム断片をCM領域と命名した(図1)。
また、感覚神経に特異的にGFPを発現誘導するゲノム断片(約4.5Kbp)を同定した。このゲノム断片はIslet−1遺伝子の転写開始点から約55kbp下流に存在した。なお、このゲノム断片をSS領域と命名した(図1)。
iii)CM領域及びSS領域に含まれるエンハンサーの解析
上記ii)で同定したCM領域及びSS領域に関して、エンハンサー機能を示す最小領域を解析した。
CM領域については、図3に示すように、CM領域中に存在するXhoI、PstI及びBstXI認識部位を用いてCM領域の部分断片を設計した。これら部分断片のエンハンサー機能を解析するために、図4に示したプラスミドhsp−GFPを用い、GFPの発現を検定した。なお、hsp−GFPは、ゼブラフィッシュ熱ショックタンパク(hsp)70プロモーターをenhanced GFP(図4においてEGFPと表す)の上流に挿入したものである。
CM領域の部分断片については、PCRで増幅したCM領域を所定の制限酵素(XhoI、PstI及びBstXI)で処理することによって調製した。CM領域の部分断片それぞれを、hsp−GFPにおけるhspの直上に挿入し、8種類のプラスミド、CMEX−hsp−GFP、CMX−hsp−GFP、CMXP−hsp−GFP、CMP−hsp−GFP、CMB1−hsp−GFP、CMB3−hsp−GFP、CMB4−hsp−GFP、CMB2−hsp−GFPを構築した(図3)。
次に、これら8種類のプラスミドを、それぞれゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入し、EGFPによる蛍光の発現を検定した。
その結果、CMX−hsp−GFP、CMP−hsp−GFP及びCMB3−hsp−GFPを注入した場合には、蛍光を観察することができ、EGFPの発現が認められた。CMB3−hsp−GFPをゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから60時間後の写真を図5に示す。また、比較のため、ICP−GFPにおけるIPCの直上にCM領域全体を挿入したCM−ICP−GFPを、ゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから60時間後の写真を図6に示す。なお、図5及び6中、「n.III」は脳神経である動眼神経を示し、「n.IV」は滑車神経を示し、「n.V」は三叉神経を示し、「n.VII」は顔面神経を示し、「n.X」は迷走神経を示している。図5及び6から判るように、脳神経である動眼神経、滑車神経、三叉神経、顔面神経と迷走神経の細胞体並びに軸索にGFPが発現している様子が観察できた。
以上の結果より、CM領域における約800kbpの領域を、エンハンサー機能を示す最小領域とした。この約800kbpの領域の塩基配列を決定することによって(配列番号1)、運動神経細胞において所定の遺伝子の発現効率を高める機能を有するエンハンサーを同定することができた。なお、このエンハンサーが存在する領域は、Islet−1遺伝子の転写開始点から約20kbp下流に存在する領域であった。
一方、SS領域に関しては、適当な制限酵素認識部位がないことからkilo−sequence用deletion Kit(タカラ社製)を使用し、図7に示すように、所定の領域を欠失した部分断片を有する5種類のプラスミド、SSd25−hsp−GFP、SSd30−hsp−GFP、SSd25/30−hsp−GFP、SSd30rev−hsp−GFP及びSSd25rev−hsp−GFPを構築した。
次に、これら5種類のプラスミドと、SS領域全体を有するプラスミドSS−hsp−GFPと、ICP−GFPにおけるIPCの直上にSS領域全体を挿入したSS−ICP−GFPとを、それぞれそれぞれゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入し、EGFPによる蛍光の発現を検定した。
その結果、SSd25−hsp−GFP、SSd25/30−hsp−GFP及びSSd30rev−hsp−GFPを注入した場合には、蛍光を観察することができ、EGFPの発現が認められた。SSd25/30−hsp−GFPをゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから32時間経過後、側面からの写真を図8及び9に示す。また、比較のため、SS−hsp−GFPをゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから32時間経過後、側面からの写真を図10及び11に示す。さらに、比較のため、SS−ICP−GFPゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから32時間経過後、側面からの写真を図12及び13に示す。なお、図8〜13中、「T.G」は三叉神経細胞を示し、「R.B」はRohon−Beard(ローハン・ベアード)細胞を示し、「eye」は目を示し、「yolk」は卵黄を示している。
図8、10及び12から、三叉神経節細胞にGFPが発現している様子が確認できた。一方、図9、11及び13から、脊髄内に存在する一次感覚神経細胞であるローハン・ベアード細胞にGFPが発現している様子が確認できた。
以上の結果より、SS領域における約600kbpの領域を、エンハンサー機能を示す最小領域とした。この約600kbpの領域の塩基配列を決定することによって(配列番号5)、感覚神経細胞において所定の遺伝子の発現効率を高める機能を有するエンハンサーを同定することができた。なお、このエンハンサーが存在する領域は、Islet−1遺伝子の転写開始点から約55kbp下流に存在する領域であった。
〔実施例2〕他生物由来エンハンサーの同定
運動神経細胞におけるエンハンサーの塩基配列(以下、zCMと呼ぶ。配列番号1)に基づいて、NCBIのデータベースを用いて相同性検索を行った。相同性検索はBLASTを使用した。その結果、ヒトゲノムデータベースから、配列番号1の塩基配列と約230bpにわたり高度に相同性(81%)を持つ配列が得られた(以下、huCMと呼ぶ。配列番号2)。また、マウスゲノムデータベース及びフグゲノムデータベースからも、配列番号1の塩基配列と高い相同性を持つ配列が得られた(以下、それぞれ以下、mCM及びfuguCMと呼ぶ。それぞれ配列番号3及び4)。これらzCM、huCM、mCM及びfuguCM間での相同性を調べた結果を図14に示す。図14に示した相同性の結果を検討したところ、相同性の高低に基づいて3つの領域に分類することができた。すなわち、最も相同性が高く、生物種を超えて高度に保存されている領域2、領域2に次いで相同性が高い領域3、及び領域3に次いで相同性が高い領域1に分類することができた。なお、zCMとhuCMとの間では、領域2における相同性が81%であり、領域3における相同性が63%であり、領域1における相同性が53%であった。
zCMにおける領域2は配列番号1における235〜560番目に相当し、huCMにおける領域2は配列番号2における204〜528番目に相当し、mCMにおける領域2は配列番号3における206〜530番目に相当し、fuguCMにおける領域2は配列番号4における211〜555番目に相当する。領域2は、生物種を超えて高度に保存された領域であるため、エンハンサー機能にとって最も重要な領域であると示唆される。
次に、huCM及びmCMそれぞれについて、周辺の配列を含むようにプライマーを設計し、PCR法で各ゲノムDNAより増幅を行い、単離した。具体的には、huCMをヒトゲノムより増幅する目的でプライマー(huCMforward,huCMreverse)を設計した。以下にその配列を示す。

なお、これらプライマーには、後のプラスミドコンストラクト構築のために制限酵素EcoR1認識配列をそれぞれ両端に付加した。
同様に、mCMをマウスゲノムより増幅する目的でプライマー(mCMforward,mCMreverse)を設計した。配列を以下に示す。

これらのプライマーを用いて、ヒト及びマウス各ゲノムから標準的なPCR法を用いてそれぞれゲノム断片(huCM及びmCM)を増幅し、TAクローニング法によりpGEMT easyベクター(promega社製)にサブクローニングし、単離した。単離されたゲノム断片(huCM及びmCM)を含むプラスミドを、アルカリSDS法を用いて大量調整し、制限酵素EcoR1で消化し、目的とするゲノム断片(huCM及びmCM)をアガロースゲルによる電気泳動で回収した。回収したゲノム断片(huCM及びmCM)を、制限酵素EcoR1で消化したICP−GFPにおけるICPの上流にサブクローニングし、プラスミドhuCM−ICP−GFP及びmCM−ICP−GFPを構築した。
次に、得られたプラスミドhuCM−ICP−GFP及びmCM−ICP−GFPをゼブラフィッシュ1細胞卵に顕微注入し、GFPの発現を検定した。その結果を図15及び図16に示す。なお、図15中、AはzCM−ICP−GFPをゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから60時間経過後、頭部を背面から撮像した写真であり、BはhuCM−ICP−GFPをゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから60時間経過後、頭部を背面から撮像した写真であり、CはmCM−ICP−GFPをゼブラフィッシュ1細胞胚に顕微注入してから60時間経過後、頭部を背面から撮像した写真である。また、図15中、「n.III」は動眼神経を示し、「n.IV」は滑車神経を示し、「n.V」は三叉神経を示し、「n.VII」は顔面神経を示し、「n.X」は迷走神経を示している。
図16中、AはhuCM−ICP−GFPを用いた場合の脊髄を側面から撮像した写真であり、BはmCM−ICP−GFPを用いた場合の脊髄を側面から撮像した写真である。図16中、「CaP」はCaudal primaryと呼ばれる一次運動神経細胞を示し、「MiP」はMiddle Primaryと呼ばれる一次運動神経細胞を示し、「RoP」はRostral primaryと呼ばれる一次運動神経細胞を示し、「smn」は二次運動神経細胞を示している。これらRoP、MiP及びCaPは、ゼブラフィッシュ胚の各体節ごとに3つづつ存在する一次運動神経細胞であり、それぞれ体幹の中隔部、背側部及び腹側部に軸索を伸ばすことが知られている。その役割は詳細には分かっていないが、体節の筋肉を最終的に支配する二次運動神経細胞の軸索進展のガイダンスの役割を担っていると考えられている。
図15から判るように、huCM及びmCMを用いた場合には、zCMを用いた場合と同様に、脳神経である動眼神経、滑車神経、三叉神経、顔面神経と迷走神経の細胞体並びに軸索にGFPが発現している様子が観察できた。このことから、huCM及びmCMについても、運動神経細胞において遺伝子の発現効率を高めるエンハンサー機能を示すことが実証された。
また、図16からは、zCM−ICP−GFPを用いた場合とは異なり、mCM−ICP−GFP及びhuCM−TCP−GFPを用いた場合においてのみ、脊髄運動神経細胞にGFPの発現が見られた。このことから、huCM及びmCMを用いた場合には、運動神経細胞のなかでも脊髄運動神経細胞において遺伝子の発現効率を高めるエンハンサー機能を示すことが明らかとなった。
一方、感覚神経細胞におけるエンハンサーの塩基配列(以下、zSSと呼ぶ。配列番号5)に基づいて、NCBIのデータベースを用いて相同性検索を行った。相同性検索はBLASTを使用した。その結果、ヒトゲノムデータベースから、配列番号5の塩基配列と約120bpにわたり高度に相同性(80%)を持つ配列が得られた(以下、huSSと呼ぶ。配列番号6)。これらzSS及びhuSS間での相同性を調べた結果を図17に示す。
図17に示した相同性の結果を検討したところ、1)おおまかに解析されたヒトゲノムの全配列と比較してもhuSSが明らかな繰り返し配列を持たないこと、2)huSSとzSSが比較的長い配列において高度に相同性を示すこと(配列番号5における378〜553番目の領域、配列番号6における178〜353番目の領域は)、3)huSSがヒトIslet−1遺伝子の比較的近傍に存在することなどから、その感覚神経細胞におけるエンハンサー活性も有しているものと考えられる。
〔実施例3〕トラスジェニック動物の作製1
1)トラスジェニックゼブラフィッシュ
先ず、実施例2で作製したプラスミドのうちzCM−ICP−GFP、huCM−ICP−GFP、mCM−ICP−GFP、zSS−ICP−GFP及びhuSS−ICP−GFPを、NotIで処理してエンハンサー領域の上流で切断し、直鎖状のプラスミドとした。次に、直鎖状プラスミドをゼブラフィッシュ1細胞胚にそれぞれ顕微注入した。このとき、直鎖状プラスミドを、DNAの濃度が50ng/microlitterとなるように調製した。
その後、24時間胚においてGFPが強く発現している個体のみを選別し成魚(F0世代)へと育成した。得られた成魚をかけ合わせ、F1世代を蛍光実体顕微鏡下にスクリーニングした。得られたトラスジェニックゼブラフィッシュのうち、zSS−ICP−GFPトランスジェニックゼブラフィッシュの共焦点画像(ZEISS社製LSM510)を図18に示す。なお、図18中、Aは三叉神経細胞を示し、Bは脊髄内のローハン・ベアード細胞を示している。図18から判るように、zSS−ICP−GFPトランスジェニックゼブラフィッシュにおいては、感覚神経細胞である三叉神経節細胞と脊髄内のローハン・ベアード細胞とにGFPの発現が見られた。
2)トランスジェニックマウス
トランスジェニックマウス作製にあたりレポーター遺伝子をGFPからヒト胎盤由来アルカリフォスファターゼ(PLAP)に変更した。PLAPはGPIリンカー型のタンパク質で、神経細胞に発現させた際に膜への移行が非常に良く、神経軸索を良好に染色できる。また、マウスの内在性アルカリフォスファターゼは熱に弱いのに対して、PLAPは熱耐性であることから、熱処理を行うことによりPLAPの活性のみを検出することが可能となる。以上のことから、トランスジェニックマウスを作製する際には、レポーター遺伝子としてPLAPを用いることとした。
先ず、ICPの下流にPLAP遺伝子を配置した基本ベクター(ICP−PLAP)を作製した。具体的には、先ず、PLAP遺伝子はZ/APベクター(Sunnybrook & Women’s College Health Sciences CenterのCorrinne G.Lobe博士から分与)から標準的なPCR法を用いて増幅、単離した。このPCRで使用するプライマー(PLAP5prime,PLAP3prime)は、5’側に制限酵素KpnI認識配列を、3’側にBglII認識配列を加えて設計した。配列は以下に示す通りである。

次に、PCRで増幅したDNA断片をpGEMT easyベクターへサブクローニングし、このベクターを制限酵素KpnI及びBglIIで消化することによってPLAP遺伝子をベクターから切断し、アガロースゲルによる電気泳動を用いてPLAP遺伝子を回収した。回収したPLAP遺伝子を、SV40ウイルス由来のイントロン/ポリA付加シグナルをBamHI,XbaI制限酵素認識部位に組み込んだpBluescript SKIIベクターのKpnI,BamHI制限酵素認識部位に組み込んだ。このPLAP遺伝子及びSV40ウイルス由来イントロン/ポリA付加シグナルを組み込んだプラスミドをアルカリSDS法で大量調整した。大量調整したプラスミドから制限酵素KpnI,XbaIを用いてベクターからPLAP遺伝子及びSV40ウイルス由来イントロン/ポリA付加シグナルを切断し、アガロースゲルによる電気泳動を用いて回収した。回収したPLAP遺伝子及びSV40ウイルス由来イントロン/ポリA付加シグナルを、同様に制限酵素Kpn1,Xba1で消化したICPプラスミドのICP下流に挿入した。なお、SV40ウイルス由来イントロン/ポリA付加シグナルはpcDNA1(Invitrogen社製)に由来する。次に、zCM及びzSSを、ICP−GFPプラスミド構築の時と同様に、それぞれICP−PLAPにおけるICP(プロモーター)の上流に挿入した。
zCMをICP−PLAPに挿入したプラスミドをzCM−ICP−PLAPと命名し、zSSをICP−PLAPに挿入したプラスミドをzSS−ICP−PLAPと命名した。
次に、作製したzCM−ICP−PLAP及びzSS−ICP−PLAPをアルカリSDS法により大量に調製した。次に、大量調整したzCM−ICP−PLAP及びzSS−ICP−PLAPを制限酵素NotI並びにXbaIを用いて消化することによりベクターからzCM−ICP−PLAP及びzSS−ICP−PLAPを切り出した。そして、切り出したzCM−ICP−PLAP及びzSS−ICP−PLAPを、最終濃度が30ng/microlitterとなるように調整した。回収したzCM−ICP−PLAP及びzSS−ICP−PLAPをB6マウス受精卵に顕微注入し、注入された受精卵を偽妊娠マウスの卵管内に移植した。離乳した産仔の尾からゲノムDNAを採取し、PCR法によりトランスジーン陽性個体を選別した。
選別したトランスジーン陽性個体(F0世代産仔(P0))のうち死産したものを用いてアルカリフォスファターゼ染色を行った。具体的には、当該個体をリン酸バッファーに浸漬し、その後、断頭しマイクロピンセットを用いて脳を摘出した。体幹は内臓を除去し、筋骨格が露出するように剥皮した。摘出した脳及び体幹部を、4%パラフォルムアルデヒドを用いて室温で3時間固定し、そののちリン酸バッファーで漱いだ。十分漱いだ後、内在性のアルカリフォスファターゼを失活させる目的で、熱処理(72度、45分)を行った。その後、発色バッファー(100mM TRIS pH=9.5、100mM NaCl、50mM MgCl)で2回洗浄し、BM purple(Roche社製)を用いて発色を行った。
zCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジーン陽性個体(死産)について各部位を撮像した結果を図19〜22に示す。図19は側面から頭部を撮像した写真であり、図20は全面から頭部を撮像した写真であり、図21は側面から肋骨を撮像した写真であり、図22は内側から肋骨を撮像した写真である。図19〜22中、「N.III」は動眼神経を示し、「N.IV」は滑車神経を示し、「N.V」は三叉神経を示し、「N.VI」は動眼神経を示し、「N.VII」は顔面神経を示し、「N.IX」は舌下神経を示し、「N.X」は迷走神経を示し、「N.XI」は副神経を示し、「sympathetic nerve」は交感神経を示している。図19〜22に示した写真から、zCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジーン陽性個体では、脳神経の神経軸索が染色されている様子と、体幹部での肋間神経と交感神経幹が染色されている様子を確認できた。
また、zSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジーン陽性個体(死産)について各部位を撮像した結果を図23に示す。図23は側面から頭部を撮像した写真である。図23中、「Trigeminal sensory」として矢印を付した箇所が三叉神経感覚枝の軸索である。図23に示した写真から、zSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジーン陽性個体では三叉神経感覚枝の軸索が染色されている様子を確認できた。
〔実施例4〕トラスジェニック動物の作製2
本例では、CM領域のエンハンサー活性及びSS領域のエンハンサー活性の局在性をさらに詳細に検討した。先ず、SS領域のエンハンサー活性の局所性を検討するため、実施例2で作製したSS−hsp−GFP(hsp−GFPにおけるhspの直上にSS領域全体を挿入したベクター)を用いて実施例3と同様にしてトランスジェニックゼブラフィッシュを作製するとともに、zSS−ICP−PLAP及びhuSS−ICP−PLAPを用いて実施例3と同様にしてトランスジェニックマウスを作製した。
SS−hsp−GFPを用いて作製したトランスジェニックゼブラフィッシュの各部位を撮像した結果を図24中a、b及びcに示す。図24中、aは三叉神経細胞を示し、bは胸ビレの外転筋を示し、cは体幹の腹側を示している。図24b及びc、中矢印は軸索の進展方向を示している。
zSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスの各部位を撮像した結果を図24中d、f及びgに示す。図24中、dはトランスジェニックマウス(E11.5)の側面から全体を撮像した写真であり、fはトランスジェニックマウス(E11.5)の頚髄を撮像した写真であり、gはトランスジェニックマウス(E14.5)の頚髄を撮像した写真である。また、huSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウス(E11.5)の頚髄を撮像した写真を図24中eに示す。図24d及びe中、矢印は三叉神経細胞を示している。図24中「DRG」は後根神経節細胞を意味している。
図24a〜bに示すように、SS−hsp−GFPを用いて作製したトランスジェニックゼブラフィッシュでは、三叉神経細胞及び腹側に軸索を進展する運動神経細胞においてリポーター遺伝子(GFP)を発現していることが判った。また、図24d、f及びgに示すように、zSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスでは、三叉神経細胞(図24d)、腋芽の腹側の体幹筋に軸索を進展する運動神経細胞(図24f)及び後根神経節細胞(図24g)においてリポーター遺伝子(PLAP)を発現していることが判った。
これに対して、図24eに示すように、huSS−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスでは、三叉神経細胞においてリポーター遺伝子(PLAP)を発現しておらず、腹側に軸索を進展する神経細胞においてリポーター遺伝子(PLAP)を発現していることが判った。
以上の結果から、zSS領域に基づくエンハンサー活性及びhuSS領域に基づくエンハンサー活性は、腹側に軸索を進展する運動神経細胞において共通して認められることが明らかとなった。また、感覚神経細胞では、zSS領域に基づくエンハンサー活性しか認められず、huSS領域に基づくエンハンサー活性は認められなかった。
次に、CM領域のエンハンサー活性の局所性を検討するため、実施例2で作製したhuCM−ICP−GFPを用いて実施例3と同様にしてトランスジェニックゼブラフィッシュを作製するとともに、huCM−ICP−PLAPを用いて実施例3と同様にしてトランスジェニックマウスを作製した。
zCMを含むさらに大きなゼブラフィッシュのゲノム断片を用いて作製した72時間のトランスジェニック胚の脊髄を撮像した結果を図25aに示す。huCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスの各部位を撮像した結果を図25中b、c及びdに示す。図25bはトランスジェニックマウス(E12.5)の凍結切片における胸髄を抗Islet−1抗体(緑色)と抗PLAP抗体(赤色)を用いて二重染色した写真であり、図25cはトランスジェニックマウス(E10.5)全体を側面から撮像した写真であり、図25dはトランスジェニックマウス(E11.5)の凍結切片における胸髄を抗Islet−1抗体(緑色)と抗PLAP抗体(赤色)を用いて二重染色した写真である。
図25aに示すように、トランスジェニックゼブラフィッシュでは、脊髄二次運動神経細胞のうち背側に軸索を進展する運動神経細胞においてリポーター遺伝子(GFP)を発現していることが判った。また、図25bに示すように、huCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスにおいても、背側に軸索を進展する運動神経細胞においてリポーター遺伝子(PLAP)を発現していることが判った。また、図25c及びdに示すように、huCM−ICP−PLAPを用いて作製したトランスジェニックマウスにおいては、全ての脳神経運動核並びに脊髄運動神経細胞及びIslet−1陽性運動神経細胞においてリポーター遺伝子(PLAP)を一過的に発現していることが判った。
以上の結果から、huCM領域に基づくエンハンサー活性は、全ての運動神経細胞において一過的に認められるとともに、背側に軸索を進展する運動神経細胞に特異的に認められることが明らかとなった。
本例で示したように、SS領域及びCM領域は、それぞれ異なる種類の運動神経細胞において特異的にエンハンサー活性を示すことが明らかとなった。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に取り入れるものとする。
【産業上の利用の可能性】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において、任意の遺伝子の発現効率を高める新規なエンハンサーを提供することができる。また、本発明によれば、当該エンハンサーを有するベクター、遺伝子導入細胞、トランスジェニック動物、遺伝子発現調節方法、多能性幹細胞の分化判別方法及び運動神経・感覚神経の再生方法を提供することができる。
【配列表】








【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】



【図17】


【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号1〜4いずれか1に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
【請求項2】
以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号1における235〜560番目の塩基配列、配列番号2における204〜528番目の塩基配列、配列番号3における206〜530番目の塩基配列又は配列番号4における211〜555番目の塩基配列のいずれか1に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1における235〜560番目の塩基配列、配列番号2における204〜528番目の塩基配列、配列番号3における206〜530番目の塩基配列又は配列番号4における211〜555番目の塩基配列のいずれか1に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号1における235〜560番目の塩基配列、配列番号2における204〜528番目の塩基配列、配列番号3における206〜530番目の塩基配列又は配列番号4における211〜555番目の塩基配列のいずれか1に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
【請求項3】
上記運動神経細胞は、背側に軸索を進展する運動神経細胞であることを特徴とする請求の範囲1又は2記載のエンハンサー。
【請求項4】
以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号5に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号5に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、感覚神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号5に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、感覚神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
【請求項5】
以下の(a)、(b)又は(c)のDNAからなるエンハンサー。
(a)配列番号5又は6に表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号5又は6に表される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、腹側に軸索を進展する運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
(c)配列番号5に表される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列からなり、腹側に軸索を進展する運動神経細胞で遺伝子の発現効率を高める機能を有するDNA
【請求項6】
請求の範囲1〜5いずれか1項記載のエンハンサーを有するベクター。
【請求項7】
プロモーターと、コード領域を含む遺伝子とを更に有することを特徴とする請求の範囲6記載のベクター。
【請求項8】
請求の範囲6又は7記載のベクターを有する遺伝子導入細胞。
【請求項9】
請求の範囲6又は7記載のベクターを有するトランスジェニック動物。
【請求項10】
請求の範囲1〜5いずれか1項記載のエンハンサーの制御下で、所定の遺伝子の発現効率を向上させることを特徴とする遺伝子発現調節方法。
【請求項11】
請求の範囲1〜5いずれか1項記載のエンハンサー及び上記所定の遺伝子とを有する核酸構築物を細胞に導入する工程を有し、
運動神経細胞及び/又は感覚神経細胞において、上記所定の遺伝子の発現効率を高めることを特徴とする遺伝子発現調節方法。
【請求項12】
請求の範囲1〜5いずれか1項記載のエンハンサー、プロモーター及びレポーター遺伝子を含む核酸構築物を多能性幹細胞に導入する工程と、
上記多能性幹細胞に対して分化誘導する工程とを有し、
レポーター遺伝子の発現を検定することによって、上記多能性幹細胞が運動神経細胞又は感覚神経細胞に分化したか否かを判別することを特徴とする多能性幹細胞の分化判別方法。
【請求項13】
請求の範囲1〜5いずれか1項記載のエンハンサー、プロモーター及びレポーター遺伝子を含む核酸構築物を多能性幹細胞に導入する工程と、
上記多能性幹細胞に対して分化誘導する工程と、
レポーター遺伝子の発現を検定することによって、上記多能性幹細胞が運動神経細胞又は感覚神経細胞に分化したか否かを判別し、運動神経細胞又は感覚神経細胞を選択する工程と、
選択された運動神経細胞又は感覚神経細胞を移植する工程とを有する
運動神経・感覚神経の再生方法。

【国際公開番号】WO2004/024911
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535886(P2004−535886)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011076
【国際出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】