説明

運転者保護装置

【課題】簡単でコンパクトな構造で低コストかつ誤動作が少ないとともに、与える危害を最小としつつ確実に運転者の安全を確保する運転者保護装置を提供する。
【解決手段】拘束用枠体110と駆動機構とを有する防犯手段を備えて運転者を保護する運転者保護装置100であって、拘束用枠体110が開放枠部112と回転軸部111と係合切欠部及びラチェット歯を形成したラチェット歯車130とを有し、駆動機構が拘束用枠体110を回転付勢する弾性体122と係合切欠部に係合して拘束用枠体を前後方向に開放する位置に固定する係止爪を備えるストッパ140と、弾性体122による付勢方向への回転を許容し反付勢方向への回転を阻止するラチェット爪と、ラチェット爪をラチェット歯と係合する方向に付勢するラチェットばね143と、係止爪と係合切欠部との係合を解除するストッパ作動部150とを有している運転者保護装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席の後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置に関し、特に、タクシー等の運転席の運転者が後部座席に乗車している乗客から刃物等の凶器で危害が加えられる被害を防止する運転者保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タクシー等において、運転席の背もたれ上部に運転席と後部座席とを遮断する防犯用の透明板等を配設固定した運転者保護装置が周知である。
これらの周知の運転者保護装置では助手席後部側から危害が加えられることを防止できないため、助手席側にも防犯用の透明板等を配設固定して前部座席と後部座席を完全に遮断するものも知られている。
【0003】
しかしながら、前部座席と後部座席を完全に遮断した場合、夜間のヘッドライトやネオン光が反射し運転の支障となるとともに、運転者と乗客とのコミュニケーションや運賃等の受け渡しに支障が生じたり、乗客にとって前方の視認性が悪く圧迫感があるなど、サービス面で問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、運転者が危険を感じたときに、隔離用のエアバックを作動させるものや、後部座席に向けて仕切りバー等を倒したり刺激性のガス等を噴射して乗客の動きを封じたりする運転者保護装置が提案されている(例えば、特許文献1、2、3等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−112215号公報(全頁、全図)
【特許文献2】特開2006−130951号公報(全頁、全図)
【特許文献3】実用新案登録3151955号公報(全頁、全図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの公知の運転者保護装置は、装置が大掛かりなものとなり設置にコストと手間がかかるという問題があった。
また、勘違い等で誤って作動させた場合に乗客に危害を与えてしまう虞があるとともに、その後の復帰作業に手間がかかることもあって、慎重な取扱いが必要となるため、運転者が操作をためらい、緊急時の対処が遅れてしまうという問題があった。
【0007】
さらに、車両の振動や、何かのはずみで運転者あるいは乗客の手がぶつかる等の場合に、誤動作が生ずる虞があるという問題もあった。
また、運転者が実際に襲撃された際には運転者自身気が動転してしまい、運転者保護装置を本来定められた手順で操作することを忘れてしまい、例えば、適宜の時期に解除すべき操作を解除せずにひたすら操作し続けてしまう、というように、装置が適切に操作されなかった場合には、保護装置が本来の機能を充分果たせなくなる、というような問題を内包する可能性があった。
【0008】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、コンパクトな構造で設置作業が容易かつ低コストであって、誤操作があっても確実に作動するとともに、作動時に与える危害を最小としつつ確実に運転者の安全を確保する運転者保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本請求項1に係る発明は、運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体と該拘束用枠体を回転させる駆動機構とを有する防犯手段を備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、前記拘束用枠体が、運転席と助手席との間の空間部の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部と該開放枠部の回転中心となる回転軸部と該回転軸部の端部に固定されて外周面に係合切欠部およびラチェット歯を形成したラチェット歯車とを有し、前記駆動機構が、前記拘束用枠体の回転軸部を一方向に回転付勢する弾性体と、前記ラチェット歯車の係合切欠部に係合して前記弾性体の回転付勢力に抗して拘束用枠体を前後方向に開放する待機位置に固定する係止爪を備えるストッパと、前記ラチェット歯車のラチェット歯と係合して前記弾性体による付勢方向への回転軸部の回動を許容し反付勢方向への回転を阻止するラチェット爪と、前記ラチェット爪をラチェット歯車に設けたラチェット歯と係合する方向に付勢するラチェットばねと、前記運転者の操作により前記ストッパを作動させて係止爪と係合切欠部との係合を解除するストッパ作動部とを有し、前記拘束用枠体が、前記ストッパ作動部により係止爪と係合切欠部との係合を解除されると前記弾性体の回転付勢力により前記待機位置から回転駆動され、前記ラチェット爪とラチェット歯との係合により反付勢方向への回転を阻止されることにより、前記課題を解決するものである。
【0010】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記駆動機構がさらに係合保持機構を有し、該係合保持機構が、前記ストッパに近接して係止爪と係合切欠部との係合を維持する係合位置から前記係止爪と係合切欠部との係合を解除する解除位置へ移動可能であるとともに、ピン挿通孔が貫通しているストッパ係合ピンと、該ストッパ係合ピンを係合位置から解除位置に向けて付勢する係合解除ばねと、前記ピン挿通孔に挿通されて前記ストッパ係合ピンを係合位置に維持する係合保持ピンと、前記ストッパ作動部と連動して前記係合保持ピンをピン挿通孔から抜出作動する副作動部とを備えていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0011】
本請求項3に係る発明は、請求項2に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記副作動部が前記ストッパ作動部によるストッパの駆動に先行して前記係合保持ピンを抜出作動するように設定されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記ストッパ作動部が前記運転者により操作される操作レバーと該操作レバーおよび前記ストッパに接続された主ワイヤとより構成され、前記副作動部が前記主ワイヤから分岐して前記係合保持ピンに接続された副ワイヤにより構成されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0013】
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記弾性体がねじりコイルばねであることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0014】
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記ストッパが、一端に係止爪また他端にラチェット爪を備えてこれらの間の揺動支点まわりに揺動自在であることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0015】
本請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記ラチェットばねが、前記ストッパの係止爪と係合切欠部とが係合するときにはストッパの係止爪を係合切欠部の方向に付勢し、前記ストッパのラチェット爪がラチェット歯と当接するときにはストッパのラチェット爪をラチェット歯の方向に付勢するように設置されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0016】
本請求項1に係る発明は、運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体と拘束用枠体を回転させる駆動機構とを有する防犯手段を備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、拘束用枠体が、運転席と助手席との間の空間部の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部と、この開放枠部の回転中心となる回転軸部と、この回転軸部の端部に固定されて外周面に係合切欠部およびラチェット歯を形成したラチェット歯車とを有し、駆動機構が、拘束用枠体の回転軸部を一方向に回転付勢する弾性体と、ラチェット歯車の係合切欠部に係合して弾性体の回転付勢力に抗して拘束用枠体を前後方向に開放する待機位置に固定する係止爪を備えるストッパと、ラチェット歯車のラチェット歯と係合して弾性体による付勢方向への回転軸部の回動を許容し反付勢方向への回転を阻止するラチェット爪と、ラチェット爪をラチェット歯車に設けたラチェット歯と係合する方向に付勢するラチェットばねと、運転者の操作によりストッパを作動させて係止爪と係合切欠部との係合を解除するストッパ作動部とを有し、拘束用枠体が、ストッパ作動部により係止爪と係合切欠部との係合を解除されると弾性体の回転付勢力により待機位置から回転駆動され、ラチェット爪とラチェット歯との係合により反付勢方向への回転を阻止されることにより、ラチェット歯車を備える拘束用枠体、弾性体、係止爪、ラチェット爪及びストッパ作動部、というような簡便な機構から運転者保護装置が構成されているため、簡単でコンパクトな構造で低コストかつ誤動作の少ない運転者保護装置を構成することができ、通常状態ではストッパの係止爪とラチェット歯車の係合切欠部とが係合した状態で拘束用枠体を前後方向に解放した位置として運転者と乗客との間で金銭等の授受を自由に行えるようにしておき、危害を意図した乗客が拘束用枠体の開放枠部に腕、刃物等を挿入しようとしたときには、運転者の操作により拘束用枠体を回転駆動して、後方から接近して開放枠部に挿入された乗客の腕が拘束され、あるいは、腕に持った凶器を払い除けて、運転者の安全を確保することができる。
【0017】
また、拘束用枠体が運転席と助手席との間の空間部の周囲に沿う外形を呈していることにより拘束用枠体の開放枠部を経由せずに運転者の側に何らかの物体を侵入させることが阻止されるため、拘束用枠体の回転動作によって後方から接近して開放枠部に挿入された腕または凶器が確実に拘束され、あるいは、腕に持った凶器等が払い除けられるため、作動時に相手に与える危害を最小としつつ運転者が危害を意図した乗客を取り押さえたり、車外へ逃げる時間を稼ぐことが可能となり運転者の安全を充分に確保することができる。
さらに、運転者が勘違い等で動作させても乗客が拘束用枠体に腕、刃物等を挿入していない限り乗客に危害を及ぼすこともないため、運転者が操作をためらい緊急時の対処に遅れる虞を未然に防止することができる。
【0018】
加えて、ラチェット歯、ラチェット爪及びラチェットばねを設けたことにより、係止爪と係合切欠部との係合が解放されて拘束用枠体が弾性体の回転付勢力により回転し始めると、反付勢方向、すなわち逆方向への回転が阻止されるため、乗客が拘束用枠体により拘束された腕、凶器を逃れようと逆に回転させようとしても、そのような逆方向の回転が制限されて、乗客がもがけば拘束用枠体が乗客の腕等をさらに拘束する方向にのみ回転するため、乗客の腕を拘束用枠体による拘束から簡単に離脱させることがなく、運転者が危害を意図した乗客を取り押さえたり車外へ逃げる時間をより充分に稼ぐことが可能となり、運転者の安全をさらに十全に確保することができる。特に、ラチェットばねの作用により、運転者が操作した後に操作を継続するか否かに係わらず、反付勢方向の回転が阻止されるため、運転者がストッパ作動部を操作し続けたとしても操作を止めたとしても、逆方向の回転が継続して阻止されるため、いずれの場合も運転者の保護が確実に達成される。
【0019】
本請求項2に係る発明の運転者保護装置は、請求項1に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、駆動機構がさらに係合保持機構を有し、係合保持機構が、ストッパに近接して係止爪と係合切欠部との係合を維持する係合位置から係止爪と係合切欠部との係合を解除する解除位置へ移動可能であるとともにピン挿通孔が貫通しているストッパ係合ピンと、ストッパ係合ピンを係合位置から解除位置に向けて付勢する係合解除ばねと、ピン挿通孔に挿通されてストッパ係合ピンを係合位置に維持する係合保持ピンと、ストッパ作動部と連動して係合保持ピンをピン挿通孔から抜出作動する副作動部とを備えていることにより、運転者によるストッパ作動部の操作と連動したストッパ係合ピンの解除位置への移動があって初めて拘束用枠体の作動が可能となり、運転者の積極的な操作による係合保持機構の解除なしに拘束用枠体を作動させることがないため、例えば釣銭授受の際の動作などで防犯手段が誤動作してしまうことや、悪路走行時に防犯手段が誤って作動してしまうというような、運転者の意に反した不都合な防犯手段の作動を確実に防止することができる。
【0020】
しかも、ストッパ係合ピンの作動には、係合保持ピンを抜出作動させることを条件としているため、車両の振動等でストッパ係合ピンが誤って抜け落ちることを完全に阻止しているため、防犯手段の誤動作の虞をより一層軽減することができる。
【0021】
本請求項3に係る発明の運転者保護装置は、請求項2に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、副作動部がストッパ作動部によるストッパの駆動に先行して係合保持ピンを抜出作動するように設定されていることにより、防犯手段の作動に際して予め係合保持ピンを引抜作動させてストッパ係合ピンを解除位置に移動させた後にストッパが作動して拘束用枠体を回転させることとなり、例えば、ストッパが作動した後にストッパ係合ピンが作動して、ストッパ係合ピンが円滑に解除位置へ移動せずにストッパに引っ掛かったままとなり拘束用枠体の回転に支障をきたしてしまう、というような不具合が生ぜず、設置した係合保持機構によって防犯手段の作動を阻害することなく、運転者の操作により確実に防犯手段を作動させることができる。
【0022】
本請求項4に係る発明の運転者保護装置は、請求項2又は請求項3に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、ストッパ作動部が運転者により操作される操作レバーと操作レバーおよびストッパに接続された主ワイヤとより構成され、副作動部が主ワイヤから分岐して係合保持ピンに接続された副ワイヤにより構成されていることにより、運転手による操作レバーの操作により主ワイヤを牽引するというように機械的な機構のみでストッパおよびストッパ係合ピンを作動させることができるため、ストッパ作動部および副作動部を簡素化して製造・組立てコストを大幅に低減できるとともに、電源の確保等、付帯的なことに捉われることなく防犯手段を設置でき、しかも電池切れ、断線等に起因する誤作動の虞を絶無とすることができる。
【0023】
本請求項5に係る発明の運転者保護装置は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、弾性体が、ねじりコイルばねであることにより、拘束用枠体を駆動する駆動機構の駆動源をねじりコイルばねという単純で小型の機械的手段のみで形成して、大きなスペースを必要とすることがないため、機構全体をコンパクトにまとめてしかも電源の確保等の付帯的な問題に捉われることなく防犯手段を設置することができる。
【0024】
本請求項6に係る発明の運転者保護装置は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、ストッパが一端に係止爪また他端にラチェット爪を備えてこれらの間の揺動支点まわりに揺動自在であることにより、係合切欠部と係合する係止爪とラチェット歯と係合するラチェット爪とを揺動するストッパにあわせて配置して係止爪及びラチェット爪を別個に装着することがなくなるため、部品点数を少なくして防犯手段の機構を簡素化することができるとともに組立て作業負担を軽減することができる。
【0025】
本請求項7に係る発明の運転者保護装置は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、前記ラチェットばねが、前記ストッパの係止爪と係合切欠部とが係合するときにはストッパの係止爪を係合切欠部の方向に付勢し、前記ストッパのラチェット爪がラチェット歯と当接するときにはストッパのラチェット爪をラチェット歯の方向に付勢するように設置されていることにより、拘束用枠体が待機位置に位置しているときは係止爪を係合切欠部に係合する係止方向に付勢し、係止爪が作動した後で拘束用枠体が回転するときはラチェット爪をラチェット歯と係合する方向に付勢する、というように、1本のラチェットばねを使用するだけで、それぞれの状態に応じた、相反する方向に係止爪及びラチェット爪を付勢するため、いずれの状態においても係止爪及びラチェット爪を安定、確実に動作させることができる。
特に、一つのストッパに係止爪及びラチェット爪を設けた場合には、係止爪を安定に係合状態に維持することとラチェット歯とラチェット爪とを確実に係合させることとが、時として相反する条件となりかねないものを、前述したような位置にラチェットばねを設置することにより、いずれの状態をも好適に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施例である運転者保護装置を装着した車室の平面図。
【図2】本発明の第1実施例である運転者保護装置の斜視図及びその一部拡大図。
【図3】(a)図2に示す駆動機構の待機位置を示す平面図、及び(b)同駆動機構のF-F断面矢視図。
【図4】(a)図2(a)に示す駆動機構のストッパ係合ピンが解除位置にある状態を示す平面図、(b)同状態における駆動機構のF-F断面矢視図。
【図5】図3(a)に示す駆動機構による逆回転阻止状態を示す平面図。
【図6】本発明の第2実施例である運転者保護装置の駆動機構を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の運転者保護装置は、運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体と拘束用枠体を回転させる駆動機構とを有する防犯手段を備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、拘束用枠体が、運転席と助手席との間の空間部の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部とこの開放枠部の回転中心となる回転軸部とこの回転軸部の端部に固定されて外周面に係合切欠部およびラチェット歯を形成したラチェット歯車とを有し、駆動機構が、拘束用枠体の回転軸部を一方向に回転付勢する弾性体とラチェット歯車の係合切欠部に係合して弾性体の回転付勢力に抗して拘束用枠体を前後方向に開放する待機位置に固定する係止爪を備えるストッパとラチェット歯車のラチェット歯と係合して前記弾性体による付勢方向への回転軸部の回動を許容し反付勢方向への回転を阻止するラチェット爪とラチェット爪をラチェット歯車に設けたラチェット歯と係合する方向に付勢するラチェットばねと運転者の操作によりストッパを作動させて係止爪と係合切欠部との係合を解除するストッパ作動部とを有し、拘束用枠体が、ストッパ作動部により係止爪と係合切欠部との係合を解除されると弾性体の回転付勢力により待機位置から回転駆動され、ラチェット爪とラチェット歯との係合により反付勢方向への回転を阻止されて、簡単でコンパクトな構造で低コストであるとともに、作動時に与える危害を最小としつつ確実に運転者の安全を確保するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0028】
すなわち、本発明の運転者保護装置は、タクシー、バス等の自動車の運転席に設置されてもよく、鉄道車両等の他の交通機関の運転席に設置されてもよい。
また、本発明の運転者保護装置に使用される駆動機構は、一方向に回転付勢する弾性体、ストッパおよびストッパ作動部などを使用した機構を使用しているが、特にこのような機構に限ることはなく、ドアなどに設置されて運転者により操作される操作スイッチ、およびこれに応答して回転駆動する電動モータ若しくは電磁ソレノイドなどを使用して構成してもよい。
弾性体に関しても、回転軸部を回動付勢するものであれば、引張コイルばね、ゴム等の素材を使用してもよい。
【0029】
同様に、運転者によるストッパ操作部の操作およびこれに応じたストッパの作動を、ハンドル、操作レバー、ボーデンワイヤ等の機械的操作部あるいは駆動部により構成してもよいし、操作スイッチ、電動モータ等の電気的駆動機構により構成してもよい。
機械的駆動部とした場合には、電源、配線等に注意する必要がないという利点を有するが、ワイヤを張設可能な位置が限定されるので運転者による操作できる操作部の位置が制約を受けることになり、他方、電気的駆動機構とした場合には、操作スイッチを運転席の周囲のどこにでも設置できるという利点を有するものの、電源、配線等を考慮する必要が生ずるが、タクシー等の車両に装備される電装設備、運転席周りの装備品の配置などを考慮の上、有利な機構を採用すべきである。
【0030】
さらに、本発明の運転者保護装置において拘束用枠体の作動時における回転方向は、上方からみて時計回り、反時計回りのいずれの方向でもよいが、開放枠部の運転者に近い側の枠が運転者から離れる方向、すなわち、上方から見て反時計回りがより運転者の安全確保の観点から好ましい。
加えて、本発明の運転者保護装置において拘束用枠体の開放枠部は、棒状部材を枠状に折り曲げたもの、複数の棒状部材を枠状に組み立てたもの、板状部材の中央部を開放したもの等、いかなる材料、手段で構成されても構わない。
【0031】
また、ストッパに、係止爪及びラチェット爪をあわせて設けても構わないし、これらを別途の揺動レバーとして設けてもよい。別個に設ける場合には、それぞれのレバーに、各々係合方向に付勢するばねを設けるようにし、係止爪についても係合方向に付勢するばねを設けると、係止爪が係合切欠部へ向けて付勢されるため、係止爪が外れる虞が低減して、係合保持機構がなくとも確実に待機位置を保持することができる。
【0032】
ストッパの大きさや、ラチェットばねや主ワイヤを取り付ける位置、並びに係止爪やラチェット爪を設ける位置、アーム部の形状、あるいはラチェットばねの付勢力などに関しては、主ワイヤを牽引する力、拘束用枠体を回転付勢する弾性体の回転付勢力等を勘案しつつ、最適の拘束力、応答性となるように、設計上適宜に決定すべきである。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の第1実施例である運転者保護装置について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施例である運転者保護装置100は、図1および図2に示すように、運転席170の背もたれ171と助手席180の背もたれ181との間の空間に立設された拘束用枠体110と、該拘束用枠体110の下方に設けた下方回転軸部111を下端中心に回転させる駆動機構120とを有する防犯手段からなり、運転席170の後部側方から接近する物体、例えば助手席180の後方に座った乗客が後部側方から拘束用枠体110の開放枠部112を通じて運転者Dに刃物等の凶器を近付けてきた場合など、拘束用枠体110の開放枠部112を回転させて腕またはや凶器を拘束し、あるいは、腕に持った凶器等を払い除けて運転者Dを保護する。
なお、運転席170のヘッドレスト172の後方には防御板173が設置されていて、運転席170を後方から遮断している。
【0034】
拘束用枠体110は、運転席170の背もたれ171と助手席180の背もたれ181との間の空間に近似する形状に開放された開放枠部112の上下に、コンソールボックス190に固定された駆動機構120によって回転される下方回転軸部111と、天井(図示せず)に回転軸支される上方回転軸部113が設けられて、これら下方回転軸部111、上方回転軸部113を回転軸として一体に回転するように構成されている。
なお、拘束用枠体110は、運転席170の側についてはヘッドレスト172部に設けた防御板173と近接させて凶器等が挿入されるような隙間を可能な限り小さくすべきであるが、助手席180の側については、助手席180に設けたヘッドレスト182に近接させてヘッドレスト182の運転者D側の端部付近までをカバーする程度の大きさ、形状としておけば、それより外側からは実際上運転者Dに凶器等を近付けることはできないため、防犯上は充分に機能する。
また、運転席170の背もたれ171の側面でコンソールボックス190の上部には、乗客用テレビ、小銭入れ191などの機器を設置しても構わず、その場合には拘束用枠体110は機器の上面までをカバーすることになる。
【0035】
図3(a)および(b)に示されるように、拘束用枠体110の下方回転軸部111は、ボルト等の固着手段によりコンソールボックス190の側面にしっかりと固定した支持部121に回転自在に軸支されている。
また、図示はしていないが、上方回転軸部113は車室の天井に回転自在に軸止されていて、拘束用枠体110は下方回転軸部111および上方回転軸部113とからなる回転軸部を回転軸として一体に回転するように構成されている。
下方回転軸部111の下端部には、下方回転軸部111と同軸に拘束用枠体110を回転方向に付勢する弾性体としてのねじりコイルばね122と、同じく下方回転軸部111と同軸にラチェット歯車130とが装着されていて、ねじりコイルばね122により下方回転軸部111が、図3(a)において反時計まわりに回転付勢されている。
【0036】
ラチェット歯車130は、従前知られたラチェット機構に使用されるラチェット歯車と同様に、一方向への回転のみを許容するラチェット歯132を外周面に備えているとともに、通常のラチェット歯車とは異なり、外周面の一箇所に係合切欠部131が形成されている。
支持部121には、一端にラチェット歯車130のラチェット歯132と係合するラチェット爪142、および他端にラチェット歯車130の係合切欠部131と係合する係止爪141を形成したストッパ140が揺動自在に設置されている。
また、ストッパ140に設けたラチェット爪142をラチェット歯車130に向けて付勢するようにラチェットばね143が設置されている。
【0037】
ストッパ140には、コンソールボックス190の前方付近に配置したストッパ作動部150に繋がる主ワイヤ151が接続されていて、運転者Dがストッパ作動部150に設けた操作レバー等の操作部を操作するとこの主ワイヤ151が牽引され、ストッパ140の係止爪141をラチェット歯車130の係合切欠部131から離脱する方向に移動させる。
【0038】
本実施例のラチェット歯車130およびストッパ140は、ストッパ140の係止爪141とラチェット歯車130の係合切欠部131とが係合しているときは、下方回転軸部111の、図3(a)において反時計回りの回転を阻止している。
また、ラチェットばね143の引張力によりストッパ140のラチェット爪142がラチェット歯車130に向けて付勢されているので、係止爪141と係合切欠部131との係合が解除された後は、ラチェット歯132とラチェット爪142との相互作用により、下方回転軸部111の、図3(a)において反時計まわりの回転を許容し、時計回りの回転を阻止している。
図3(a)の状態において、係止爪141と係合切欠部131との係合部に作用する摩擦力がラチェットばね143の引張力により反時計回り方向に働く回転付勢力に打ち勝つように係止爪141および係合切欠部131の先端部の角度や係合部表面の性状(粗さ)などが調整されていて、主ワイヤ151の牽引により係止爪141に引張力が作用するまでは、係止爪141と係合切欠部131との係合状態が維持されている。
【0039】
図3(a)から分かるように、ストッパ140は、ラチェットばね143により常にラチェット爪142をラチェット歯132に近づける方向に、すなわち係止爪を係合切欠部から抜き出す方向に付勢されており、このままでは、係止爪141と係合切欠部131との係合状態が不安定なので、この箇所の係合を確実とし、拘束用枠体110の不用意な回転を阻止するように係合保持機構160が設置されている。
【0040】
係合保持機構160は、主にストッパ係合ピン161、係合解除ばね162及び係合保持ピン163から構成されている。
ストッパ係合ピン161が、前述したストッパ140の係合爪141側の背面に当接する位置に出没自在に設けられていて、図3(b)に示されるように、拘束用枠体110が待機位置にあるときは、ストッパ係合ピン161が、支持部121から上方に突出する係合位置に位置していて、ラチェット歯車130の係合切欠部131と係合状態にある係止爪141が外れないように保持している。
このストッパ係合ピン161が係合位置から脱落することを阻止するため、ストッパ係合ピン161には、ストッパ係合ピン161を係合位置に位置させたときにちょうど支持部121の直上に位置する箇所にピン挿通孔を貫通して穿孔されている。このピン挿通孔に係合保持ピン163を挿入して、ストッパ係合ピン161が、図3(b)示される係合位置に位置して下方に離脱しないようにしている。
【0041】
ストッパ係合ピン161は、重力により係合位置から解除位置に落下させるようにすることも可能であるが、本第1実施例ではストッパ係合ピン161をより確実に離脱させるように、支持部121とストッパ係合ピン161との間に、ストッパ係合ピン161を係合位置から離脱する方向に付勢する係合解除ばね162を設置している。
これにより、ストッパ係合ピン161のピン挿通孔に係合保持ピン163が挿通されている間は、図3(b)に示されるように、ストッパ係合ピン161が確実に係合位置に保持され、係合保持ピン163がストッパ係合ピン161のピン挿通孔から抜き取られると、係合解除ばね162の付勢力により、図4(b)に示されるように、ストッパ係合ピン161はストッパ140の揺動範囲と干渉しない解除位置まで移動する。
なお、ストッパ係合ピン161の頭部と支持部121との間に吊下ワイヤ164を張設しておき、ストッパ係合ピン161が下方に離脱したときには、ストッパ保持ピン161が吊下ワイヤ164により支持部121から垂下されるようにしておき、ストッパ係合ピン161が行方不明にならないようにしている。
【0042】
ストッパ140の係止爪141側の背面には主ワイヤ151が装着されていて、運転者Dの操作により主ワイヤ151が牽引されるとストッパ140の係止爪141とラチェット歯車130の係合切欠部131との係合が解除されるが、この主ワイヤ151から係合保持ピン163にむかって副ワイヤ152が分岐されていて、主ワイヤ151が牽引されると副ワイヤ152も牽引されて、係合保持ピン163を引抜作動させる。
【0043】
ここで留意すべきことは、主ワイヤ151の分岐部からストッパ140までの長さに比して分岐部から安全保持ピン153までの副ワイヤ152の長さを短くしておいて、主ワイヤ151が牽引されたときに係合保持ピン163の引抜作動を先行させて、ストッパ係合ピン161が係合位置から離脱した後に係止爪141の係合切欠部131との係合を解除するように各ワイヤ151、152の長さを設定することである。
これにより、係止爪141と係合切欠部131との係合が解除されるときには、すでにストッパ係合ピン161をストッパ140の移動軌跡から退避させているため、係止爪141の係合解除動作がストッパ係合ピン161により阻害されることがなく、下方回転軸部111及び拘束用枠体110を円滑に回転させることができる。
【0044】
また、ストッパ作動部150は、前述したようにコンソールボックス190付近に操作部とともに配置してもよいし、コンソールボックス190付近にモータ等の駆動手段を設けて、運転席のドア付近に設けた操作スイッチにより駆動するようにしてもよい。
【0045】
次に、ラチェット歯車130の係合切欠部131とストッパ140の係止爪141との係合が解除されると、図4(a)、(b)に示されるように、ラチェットばね143の付勢力により、ストッパ140のラチェット爪142が、拘束用枠体110の下方回転軸部111に設置されたラチェット歯車130のラチェット歯132の背面に向けて回動し、図5に示されるように、ラチェット歯131の背面に当接する。
その結果、図5から理解されるように、ラチェット歯車130は図5(a)において反時計回り方向への回転は可能であるが、時計回り方向への回転を阻止されるので、当該ラチェット歯車130と固定されている下方回転軸部111及び拘束用枠体110が、運転席から離脱する方向には回転可能であるが、運転席側へ回転させることはできなくなる。
【0046】
また、図5(a)から分かるように、ラチェットばね143が常にラチェット爪142をラチェット歯132に当接するように付勢しており、ラチェット歯車130の時計回りの回転を阻止しているので、運転者Dが操作部を操作して主ワイヤ151を牽引し続けるか、途中で主ワイヤ151の牽引を放棄するかに係わらず、拘束用枠体110による拘束が緩むことはない。
【0047】
以上のように構成された本第1実施例の運転者保護装置について、その一連の作用を以下に説明する。
当初は、ストッパ140の係止爪141をラチェット歯車130の係合切欠部131に係合させて、図2に示されるように、拘束用枠体110の開放枠部112を、運転席170と背もたれ171とほぼ平行で前後方向に開放する待機位置に固定されている。
このとき、図3(b)に示されるように、ストッパ係合ピン161を係合位置に位置させた状態でピン挿通孔に係合保持ピン163が挿入されていて、ストッパ係合ピン161が離脱しないように保持されている。
【0048】
このような待機位置では、ストッパ係合ピン161が係合位置にあってストッパ140の移動を阻止しているため、ストッパ140に設けられた係止爪141がラチェット歯車130の係合切欠部131に係合した状態が確実に維持される。
また、ストッパ係合ピン161は係合保持ピン163により係止されているので、車両に大きな振動が加わったり、拘束用枠体110に腕などがぶつかったりしたとしても、それだけでストッパ係合ピン161が係合位置から移動することはない。したがって、係止爪141が誤動作することもなく、拘束用枠体110を前述した待機位置に確実に保持・固定しておくことができる。
【0049】
危害を意図する乗客が拘束用枠体110の開放面から腕または凶器を挿入しようとしたときに、運転者Dがストッパ作動部150の操作部を操作して主ワイヤ151を牽引すると、まず、主ワイヤ151に接続された副ワイヤ152により係合保持ピン163が引抜作動され、次に、係合保持ピン163による係止を解除されたストッパ係合ピン161が係合解除ばね162の付勢力により瞬時に係合位置から離脱する。
ストッパ係合ピン161が離脱したとき、すなわち解除位置に移動したときの駆動機構120の状態が図4(a)(b)に示されていて、図4(b)には、ベータ形状の係合保持ピン163が引き抜かれて下方の開放位置に移動した状態のストッパ係合ピン161が示されている。
また、主ワイヤ151の分岐部からストッパ140までの長さが、主ワイヤ151の分岐部と係合保持ピン163とを繋ぐ副ワイヤ152の長さに比して長く設定されているため、係合保持ピン163が引抜作動されたときにはまだストッパ140の係止爪141はラチェット歯車130の係合切欠部131に係合したままである。
【0050】
この後さらに主ワイヤ151が牽引されると、図4(a)、(b)に示されるように、ストッパ140がストッパ係合ピン161により邪魔されることなくラチェット歯車130の係合切欠部131から後退して両者の係合が解除されるので、ねじりコイルばね122の回転付勢力により下方回転軸部111及び拘束用枠体110が回転し、開放枠部112に挿入された腕あるいは凶器を拘束するか、あるいは払い除ける。
【0051】
拘束用枠体110がそのまま回転した場合の駆動機構120の状態が図5に示されているが、ラチェットばね143が常にラチェット爪142をラチェット歯車130のラチェット歯132に当接するように付勢しているので、図5に示されるように、運転者Dが主ワイヤ151を牽引し続けている場合はもちろん、運転者Dが主ワイヤ151を牽引しなくなったとしても、ラチェット爪142とラチェット歯132とが当接した状態で逆方向の回転を阻止し続ける。
これにより、運転者Dの挙動に係わらず、拘束用枠体110による乗客の腕、凶器などの拘束が継続するので、拘束が弛むことはなく、逆に、乗客がもがいて腕を振り回すと程拘束用枠体110が拘束を強める方向にのみ回転してさらに拘束を強めるため、乗客にとっては拘束された腕を振りほどくことが一層困難となる。したがって、乗客を取り抑えるにしても社外に脱出するにしても、運転者Dにとり、より多くの時間的余裕が得られるので、運転者Dを確実に保護することができる。
【0052】
以上のようにして得られた本第1実施例の運転者保護装置100によれば、拘束用枠体110が、運転席170と助手席180との間の空間部の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部112と、この開放枠部112の回転中心となる回転軸部111と、この回転軸部111の端部に固定されて外周面に係合切欠部131およびラチェット歯132を形成したラチェット歯車130とを有し、駆動機構120が、拘束用枠体110の回転軸部111を一方向に回転付勢するねじりコイルばね122と、ラチェット歯車130の係合切欠部131に係合してねじりコイルばね122の回転付勢力に抗して拘束用枠体110を前後方向に開放する待機位置に固定する係止爪141を備えるストッパ140と、ラチェット歯車130のラチェット歯132と係合してねじりコイルばね122による付勢方向への回転軸部111の回動を許容し反付勢方向への回転を阻止するラチェット爪142と、ラチェット爪142をラチェット歯車130に設けたラチェット歯132と係合する方向に付勢するラチェットばね143と、運転者Dの操作によりストッパ140を作動させて係止爪141と係合切欠部131との係合を解除するストッパ作動部150とを有し、拘束用枠体110が、ストッパ作動部150により係止爪141と係合切欠部131との係合を解除されるとねじりコイルばね122の回転付勢力により待機位置から回転駆動され、ラチェット爪142とラチェット歯132との係合により反付勢方向への回転を阻止されることにより、ラチェット歯車130を備える拘束用枠体110、ねじりコイルばね122、係止爪141、ラチェット爪142及びストッパ作動部150、というような簡便な機構から運転者保護装置100が構成されているため、簡単でコンパクトな構造で低コストかつ誤動作の少ない運転者保護装置100を構成することができ、また、通常はストッパ140の係止爪141とラチェット歯車130の係合切欠き部131とを係合させた状態で拘束用枠体を前後方向に解放した位置として運転者と乗客との間で金銭等の授受を自由に行えるようにしておいて、危害を意図した乗客が拘束用枠体110の開放枠部に腕、刃物等を挿入しようとしたときには、運転者Dの操作により拘束用枠体110を回転駆動して、後方から開放枠部112に挿入された乗客Pの腕が拘束され、あるいは、腕に持った凶器を払い除けられるため、運転者Dは次なる危害から保護され、乗客を取り押さえたり、車外に脱出する時間を充分に確保することができる。
また、防犯手段が、運転席と助手席との間の空間部の周囲に沿う外形を呈した拘束用枠体110及びねじりコイルばね122を使用した駆動機構120という程度の簡単・コンパクトな構造であり、タクシー等への装着も簡便で低コストに抑えることができるとともに、拘束用枠体110の存在が目立つことはなく乗客Pにとって前方の視認性が悪く圧迫感があるなどのサービス面での問題が生じることはない。
【0053】
さらに、係合保持機構160を有していて、ストッパ係合ピン161がストッパ140に近接してストッパ140の係止爪141とラチェット歯車130の係合切欠部131との係合を維持する係合位置から係止爪141と係合切欠部131との係合を解除する解除位置へ移動可能であるとともに径方向にピン挿通孔が貫通しているストッパ係合ピン161とストッパ係合ピン161を係合位置から解除位置に向けて付勢する係合解除ばね162と、ピン挿通孔に挿通されてストッパ係合ピン161を係合位置に維持する係合保持ピン163と、主ワイヤ151と連動して係合保持ピン163をピン挿通孔から抜出作動させてストッパ係合ピン161を解除位置に移動とする副ワイヤ152とを備えていることにより、車体の振動や不用意な行為に起因するような誤作動を確実に阻止することができて、簡易な構造であるにもかかわらず誤動作を確実に防止する信頼性の高い運転者保護装置を提供することができる。
【0054】
その上、ストッパ140に設けたラチェット爪142をラチェット歯車130の周面に設けたラチェット歯132と係合する方向に付勢するラチェットばね143を採用して、拘束用枠体110が、運転者Dの操作の有無に係わらず、ねじりコイルばね122により回転付勢されている方向には回転可能であるが逆方向には回動不能であることにより、悪意の乗客が拘束用枠体110による拘束から逃れようとして腕を逆方向に回そうとしても、ラチェット歯車130とラチェット爪140との係合により逆方向に回転させることができずもがくほどに拘束用枠体110が乗客の腕を拘束する方向のみに回転し乗客の自由を奪うため、運転者Dが相手を取り押さえることにも役立つとともに、運転者Dが逃亡する場合にも充分な時間を確保することができるなど、その効果は甚大である。
【実施例2】
【0055】
次に、本発明の第2実施例である運転者保護装置について、図6を参照して説明する。
図6は、本発明の第2実施例である運転者保護装置に使用される駆動機構を示す平面図である。
なお、本第2実施例の運転者保護装置200と前述した第1実施例の運転者保護装置100とは、ラチェットばねの装着態様を異にするのみで、その余の部分は特に異なるところはないので、共通する事項については下2桁を共通する200番代の番号を付すのみとして詳しい説明は省略する。
【0056】
本第2実施例の運転者保護装置200は、拘束用枠体210、駆動機構220、ストッパ作動部250などの基本的事項は第1実施例と同様であるが、ラチェットばね243を設置する位置に工夫を凝らして、ストッパ240の係止爪241がラチェット歯車230の係合切欠部に係合しているとき、すなわち拘束用枠体210が待機位置にあるときには、係止爪241をラチェット歯車230側に付勢し、係止爪241と係合切欠部231との係合を確実にする方向に作用するようにしている。
【0057】
第1実施例のような位置にラチェットばね143を配置した場合、ストッパ140が係止爪141とラチェット爪142とを揺動支点144を挟んで両端に備えている構造であるがゆえに、ラチェット爪142をラチェット歯車130方向に付勢すると、係止爪141はラチェット歯車130から離間するように付勢されることになる。
ということは、拘束用枠体110が待機位置に位置しているとき、係止爪141が係止爪141と係合切欠部131との係合を離脱する方向に付勢されることとなり、場合によっては係止爪141が係合切欠部131から外れやすくなり、拘束用枠体110を安定して待機位置に位置させ難くなる虞がある。
本第2実施例はこの点について考慮し、ラチェットばね243を設置したものであり、拘束用枠体210が待機位置にあるとき、すなわちストッパ240の一端にある係止爪241がラチェット歯車230の係合切欠部231と係合する位置にあるときは係止爪241を係合切欠部231に押しつけるように付勢し、拘束用枠体110が待機位置を離れ、ねじりコイルばね222の回転付勢力により回転するときは、ストッパ240の他端にあるラチェット爪242をラチェット歯車230の外周に設けたラチェット歯232の外面に押しつけるように付勢するようにしている。
【0058】
具体的には、図6に示されるように、ラチェットばね243のストッパ側装着点245の位置を、ラチェットばね243の支持部側装着部とストッパ240の揺動支点とを結ぶ仮想線(図上に一点鎖線で示す)を基準に、ストッパ240が係止爪241と係合切欠部231とを係合させる位置あるときには、実線で示されるように、仮想線の右側に位置させ、係止爪241が移動してラチェット爪242がラチェット歯車に当接するときには、2点鎖線で示されるように、当該ストッパ側装着点245が仮想線の左側に位置するように設置している。
このようにすると、ラチェットばね243の引張力により、係止爪241と係合切欠部231とが係合しているときは係止爪241を係合切欠部231側に付勢し、ラチェット爪242がラチェット歯232の外周に当接しているときはラチェット爪232をラチェット歯232側に付勢することができる。
【0059】
したがって、拘束用枠体210が待機位置にあるときにも、ラチェットばね243の付勢力が係止爪241と係合切欠部231との係合を促進する方向に作用して係合保持機構260が機能していないときも係止爪241を係合切欠部231に安定して位置させるので、初期設定時などに、ストッパ240の係止爪241を係合切欠部231側に押圧しながらストッパ係合ピン261を装着する、というような面倒な操作の必要がなくなり、ストッパ係合ピン261を装着する作業が非常にやり易くなる。
特に、機構を簡便にしたい場合には、ラチェットばね243の引張力や、ストッパ240における揺動支点244から係止爪241及びラチェット爪242までの距離を調整して係止爪241の係合安定性を高め、係合保持機構260を不要とすることも考えられる。
また、主ワイヤ251を牽引した後の動作については、前述した第1実施例の運転者保護装置100と同様であり、拘束用枠体210をねじりコイルばね222の回付勢する方向にのみ回動可能にして逆方向の回転を許容しないので、確実に運転者の保護を図ることができることも同様である。
【0060】
なお、上述の第1実施例及び第2実施例の記載から分かるように、係止爪241とラチェット爪242とは、ラチェット歯車230に対し揺動付勢される方向を逆としたほうがそれぞれの爪の動作が安定するので、係止爪241とラチェット爪242とをそれぞれ独立した揺動レバーに取り付けることも考えられる。
【0061】
以上のようにして得られた本第2実施例の運転者保護装置200は、先に記述した第1実施例の運転保護装置100に加えて、ストッパ240が、一端に係止爪241をまた他端にラチェット爪242を備えてこれらの間の揺動支点244まわりに揺動自在であるとともに、ラチェット243ばねが、ストッパ240が待機位置に位置するときにはストッパ240の係止爪241を係止方向に付勢し、ラチェット爪242がラチェット歯232と当接するときにはラチェット爪242をラチェット歯車230に当接する方向に付勢するように設置されていることにより、ストッパ240の係止爪241がラチェット歯車230の係合切欠部231に係合しているときにも当該係止爪241の位置が安定するので、運転保護装置200の拘束用枠体210を待機位置に設定する作業においても係止爪241がストッパ係合ピン261の装着作業を邪魔することがなく、運転保護装置の初期設定を簡便に遂行することができ、場合によっては、係合保持機構260を設けずに済ますことができるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0062】
100 ・・・ 運転者保護装置
110 ・・・ 拘束用枠体
111,211 ・・・ 下方回転軸部
112 ・・・ 開放枠部
113 ・・・ 上方回転軸部
120、220 ・・・ 駆動機構
121、221 ・・・ 支持部
122 ・・・ ねじりコイルばね
130、230 ・・・ ラチェット歯車
131、231 ・・・ 係合切欠部
132、232 ・・・ ラチェット歯
140、240 ・・・ ストッパ
141、241 ・・・ 係止爪
142、242 ・・・ ラチェット爪
143、243 ・・・ 引張ばね
144、244 ・・・ 揺動支点
150 ・・・ ストッパ作動部
151、251 ・・・ 主ワイヤ
152、252 ・・・ 副ワイヤ
153 ・・・ 操作レバー
160 ・・・ 係合保持機構
161、261 ・・・ ストッパ係合ピン
162 ・・・ 係合解除ばね
163、263 ・・・ 係合保持ピン
164 ・・・ 吊下ワイヤ
170 ・・・ 運転席
171 ・・・ 背もたれ
172 ・・・ 運転席ヘッドレスト
173 ・・・ 防御板
180 ・・・ 助手席
181 ・・・ 助手席背もたれ
182 ・・・ 助手席ヘッドレスト
190、290 ・・・ コンソールボックス
191 ・・・ 小銭入れ、テレビ
D ・・・ 運転者
P ・・・ 乗客

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体と該拘束用枠体を回転させる駆動機構とを有する防犯手段を備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、
前記拘束用枠体が、運転席と助手席との間の空間部の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部と該開放枠部の回転中心となる回転軸部と該回転軸部の端部に固定されて外周面に係合切欠部およびラチェット歯を形成したラチェット歯車とを有し、
前記駆動機構が、前記拘束用枠体の回転軸部を一方向に回転付勢する弾性体と、前記ラチェット歯車の係合切欠部に係合して前記弾性体の回転付勢力に抗して拘束用枠体を前後方向に開放する待機位置に固定する係止爪を備えるストッパと、前記ラチェット歯車のラチェット歯と係合して前記弾性体による付勢方向への回転軸部の回動を許容し反付勢方向への回転を阻止するラチェット爪と、前記ラチェット爪をラチェット歯車に設けたラチェット歯と係合する方向に付勢するラチェットばねと、前記運転者の操作により前記ストッパを作動させて係止爪と係合切欠部との係合を解除するストッパ作動部とを有し、
前記拘束用枠体が、前記ストッパ作動部により係止爪と係合切欠部との係合を解除されると前記弾性体の回転付勢力により前記待機位置から回転駆動され、前記ラチェット爪とラチェット歯との係合により反付勢方向への回転を阻止されることを特徴とする運転者保護装置。
【請求項2】
前記駆動機構がさらに係合保持機構を有し、
該係合保持機構が、前記ストッパに近接して係止爪と係合切欠部との係合を維持する係合位置から前記係止爪と係合切欠部との係合を解除する解除位置へ移動可能であるとともにピン挿通孔が貫通しているストッパ係合ピンと、該ストッパ係合ピンを係合位置から解除位置に向けて付勢する係合解除ばねと、前記ピン挿通孔に挿通されて前記ストッパ係合ピンを係合位置に維持する係合保持ピンと、前記ストッパ作動部と連動して前記係合保持ピンをピン挿通孔から抜出作動する副作動部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の運転者保護装置。
【請求項3】
前記副作動部が、前記ストッパ作動部によるストッパの駆動に先行して前記係合保持ピンを抜出作動するように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の運転者保護装置。
【請求項4】
前記ストッパ作動部が前記運転者により操作される操作レバーと該操作レバーおよび前記ストッパに接続された主ワイヤとより構成され、
前記副作動部が前記主ワイヤから分岐して前記係合保持ピンに接続された副ワイヤにより構成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の運転者保護装置。
【請求項5】
前記弾性体が、ねじりコイルばねであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の運転者保護装置。
【請求項6】
前記ストッパが、一端に係止爪をまた他端にラチェット爪を備えてこれらの間の揺動支点まわりに揺動自在であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の運転者保護装置。
【請求項7】
前記ラチェットばねが、前記ストッパの係止爪と係合切欠部とが係合するときにはストッパの係止爪を係合切欠部の方向に付勢し、前記ストッパのラチェット爪がラチェット歯と当接するときにはラチェット爪をラチェット歯の方向に付勢するように設置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の運転者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−236540(P2012−236540A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107549(P2011−107549)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)