説明

運転訓練シミュレータ

【課題】常時のプラント応答が複雑で、運転状態の表示内容が多様で、対応操作機器が多数ある原子力発電所の運転操作において、中央制御室設計の運転操作容易度を定量的に評価する運転訓練シミュレータを提供する。
【解決手段】複数の表示様式をもつ表示操作盤の運転シナリオをシミュレーションし、これに対応する運転員の視点情報と脳活動情報を計測して、その結果から熟練者の操作や判断のタイミングを比較して、種々の構成を持つ原子力発電所の中央制御室の運転操作容易度を定量的に評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における運転操作の容易度を評価する運転訓練シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所プラントの運転は、中央制御室において運転員によりオペレータコンソール(表示操作盤)を介して制御されている。運転員は中央制御室の表示操作盤の表示装置に表示される圧力、温度、流量等のプラントパラメータと、ポンプ起動/停止状態、弁開閉状態、警報状態等の運転状態表示から原子力発電所の運転状態を把握し、異常時にはその異常の影響が拡大しないように、また異常の影響を緩和するように、対応する操作機器を選択して手動操作により制御を行う。
【0003】
現在、日本国内の原子力発電所において、中央制御室等に設置されている表示操作盤の、表示する制御対象機器やプラントパラメータの項目、それらのシンボル、及び配置等の表示内容は、国内の研究開発結果に基づき、設計され採用されている。また運転員に対しては、上記表示操作盤を用いた原子力発電所の実際の運転前に、あらかじめ運転操作に熟練するように運転訓練シミュレータを用いた訓練を実施している。
【0004】
また、近年の原子力産業のグローバル化に伴い、国内用原子力発電所の中央制御室の設計設備を海外の原子力発電所に適用する機会が増加する傾向にあり、社会環境や教育環境が相違する海外の運転員に対して国内用の中央制御室の設計設備が運転操作しやすいものであるかを定量的に評価する必要が出てきた。上述のように、原子量発電所における運転操作の容易度を客観的に評価する技術が求められている。
【0005】
従来、訓練効果と脳の働きとを対比して訓練を最適化する技術として、例えば特許文献1が知られている。これは比較的簡単な表示内容に対する被験者の単純な操作応答と脳活動を評価して訓練を最適化する技術である。
【0006】
また脳機能の活動を精度よく計測する技術として、例えば特許文献2が知られている。これは被験者あるいは被験者の状態に応じて刺激の強度や課題の難易度を調整する汎用技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−294593号公報
【特許文献2】特開2007−54138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は比較的簡単な表示内容に対する被験者の単純な操作応答と脳活動を評価して訓練を最適化する技術であり、原子力発電所の運転操作のように、常時のプラント応答が複雑で、運転状態の表示内容が多様で対応操作機器が多数ある場合の、中央制御室設計の運転操作容易度を評価する場合には適用できなかった。
【0009】
また、特許文献2は、被験者あるいは被験者の状態に応じて刺激の強度や課題の難易度を調整する汎用技術であり、原子力発電所の中央制御室の設計に特化した運転操作容易度の評価には不十分であった。
【0010】
本発明の目的は、原子力発電所のように、常時のプラント応答が複雑で運転状態の表示内容が多様であり、多数の対応操作機器を持つプラント設備の運転操作において、中央制御室の表示操作盤の運転操作容易度を客観的、定量的に評価する運転訓練シミュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、原子力発電所プラントの運転状態を表示する表示手段及び運転指示を行う操作手段と、各種設計設備をもつ原子力発電所の運転シナリオを模擬して前記表示手段に表示する原子力発電所模擬手段とを有し、運転員の視点を計測する視点計測手段と、運転員の脳活動を計測する脳活動計測手段とを備えた原子量発電所の運転訓練シミュレータにおいて、前記視点計測手段の視点信号および脳活動計測手段の脳活動信号に基づき、運転員の前記表示手段および操作手段に対する運転操作容易度を評価する運転操作容易度評価手段を有することを特徴とする。
【0012】
また、運転訓練シミュレータは、前記原子力発電所模擬手段の情報により前記表示手段及び操作手段の複数の運転状態表示方式と複数の操作方式を切替える表示切替手段を有することを特徴とする。
【0013】
また、運転訓練シミュレータは、前記原子力発電所模擬手段の訓練シナリオを設定する訓練シナリオ設定手段を有することを特徴とする。
【0014】
また、運転訓練シミュレータは、前記表示手段及び操作手段の表示方式をあらかじめ選択して前記表示切替手段に指示する表示方式選択手段を有することを特徴とする。
【0015】
また、運転訓練シミュレータの前記表示手段及び操作手段は、原子力発電所の表示制御盤に設けられていることを特徴とする。
【0016】
また、原子力発電所模擬手段の運転シナリオは異常事象に関するシナリオを含むことを特徴とする。
【0017】
また、運転操作容易度評価手段は、熟練者の脳活動情報を含む基準情報を用いて、運転員の運転操作容易度を評価することを特徴とする。基準情報はさらに熟練者の対応操作情報を含むことを特徴とする。基準情報はさらに熟練者の表示確認対象情報を含むことを特徴とする。
【0018】
さらに、運転訓練シミュレータにおいて、前記運転操作容易度評価手段は、前記視点計測手段の視点信号及び前記脳活動計測手段の脳活動信号により運転者の表示認識レベルを決定する表示認識レベル決定手段と、前記脳活動計測手段の脳活動信号により運転者の脳活動レベルを決定する脳活動レベル決定手段と、熟練者の表示確認対象情報/対応操作情報/脳活動情報を含む基準情報と前記表示認識レベル決定手段および前記脳活動レベル決定手段の情報を比較して運転者の運転操作容易度を決定する比較手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、運転訓練シミュレータにおいて、あらかじめ設定した異常事象を含む各種運転シナリオに対応した表示を行い、運転員が運転状態の変化を認識した対象表示とその認識タイミング、及び対応操作までの脳活動状態を計測し、熟練者の脳活動情報と比較して、運転操作容易度を評価する。
【0020】
また、運転員に対して、各々の運転状態表示内容と操作機器を有する各種表示操作盤における運転シナリオを実行させ、上記運転操作容易度評価のデータを採取することにより、各種表示操作盤の表示方式に対する運転操作容易度を定量的に評価可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による運転訓練シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明による運転訓練シミュレータの運転操作容易度評価手段の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の説明を行う。図1は本発明による運転訓練シミュレータの概略構成を示すブロック図である。表示方式選択手段801は、運転操作容易度を評価する対象について、予め設定してある複数の表示操作盤表示方式の一つを選択し、選択結果を表示方式選択信号802として表示操作盤400の表示切替手段803に出力する。
【0023】
訓練シナリオ設定手段701は、予め設定してある機器の訓練シナリオ及び、異常発生機器、異常の程度、異常発生のタイミング等を含む訓練シナリオ情報702を原子力発電所模擬手段601に出力する。また、訓練シナリオ設定手段701は、熟練情報DB(データベース)704に格納された訓練シナリオに関する熟練者の操作/判断タイミング情報を含む表示確認対象情報/対応操作情報/脳活動情報を有する比較情報703を運転操作容易度評価手段301に出力する。熟練情報DB704は、訓練シナリオ設定手段701以外に設けても良い。
【0024】
原子力発電所模擬手段601は訓練シナリオ情報702に基づき原子力発電所のプラント挙動をシミュレーションし、また運転員の操作結果である操作機器信号504を表示操作盤400から取り込んでプラント挙動に反映し、ポンプ起動/停止状態、弁開閉状態、警報状態を含むシミュレーション結果としての運転状態情報404を表示切替手段803に出力する。
【0025】
表示切替手段803は、表示方式選択信号802に基づき表示手段401と操作手段501のポンプ起動/停止状態、弁開閉状態、警報状態の表示の大きさ、シンボルの形状、状態と表示色の組み合わせ、配置等の表示方式を切り替えるとともに、運転状態情報404に基づき、表示手段401の運転状態表示内容A及びBの表示状態を変更する。
【0026】
運転員は表示手段401の運転状態表示内容A及びBからポンプ起動/停止状態、弁開閉状態、警報状態等の運転状態表示を認識し、対応操作を決定し、操作手段501の操作機器S1とS2から必要な機器を選択して操作する。
【0027】
表示操作盤400は、運転員の対応機器とその対応量、例えば弁番号と弁開度などの対応操作情報である操作機器信号504を原子力発電所模擬手段601にフィードバックし、同時に運転操作容易度評価手段301に出力する。
【0028】
脳活動計測手段101は運転員の脳活動を脳血流測定装置等を用いて計測し、脳活動信号102を運転操作容易度評価手段301に出力する。また、視点計測手段201は運転員が表示手段401のどの運転状態表示内容を見ているかを計測し、視点信号202を運転操作容易度評価手段301に出力する。
【0029】
図2は運転操作容易度評価手段301の構成を示すブロック図である。表示認識レベル決定手段310は、脳活動信号102と視点信号202から運転員が何時何を認識したかを判断し、運転員の表示認識レベルを決定して比較手段312に送信する。
【0030】
脳活動レベル決定手段311は、脳活動信号102から運転員の脳活動レベルを決定して比較手段312に送信する。
【0031】
比較手段312は、訓練シナリオ設定手段701から出力された表示確認対象情報/対応操作情報/脳活動情報を含む比較情報703を基準情報として取り込む。次いで、運転員の表示確認対象を視点信号202と表示方式選択信号802から判断し、表示確認対象の確認タイミングを脳活動信号102の重み付け処理と視点信号202の重み付け処理から判断する。
【0032】
次いで、これらの判断情報と操作機器信号504の受信タイミングの重み付け処理から運転操作容易度を評価して、表示操作盤の表示方式に対応した運転操作容易度を含む運転操作容易度評価情報302を運転操作容易度評価DB303に出力する。
【0033】
図1において、運転操作容易度表示手段305は運転操作容易度評価DB303から運転操作容易度総合情報304を受信し、表示操作盤表示方式に対する運転操作容易度を表示する。
【符号の説明】
【0034】
101 脳活動計測手段
102 脳活動信号
201 視点計測手段
202 視点信号
301 運転操作容易度評価手段
302 運転操作容易度評価情報
303 運転操作容易度評価DB
304 運転操作容易度総合情報
305 運転操作容易度表示手段
310 表示認識レベル決定手段
311 脳活動レベル決定手段
312 比較手段
400 表示操作盤
401 表示手段
404 運転状態情報
501 操作手段
504 操作機器信号
601 原子力発電所模擬手段
701 訓練シナリオ設定手段
702 訓練シナリオ情報
703 比較情報
704 熟練情報DB
801 表示方式選択手段
803 表示切替手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所プラントの運転状態を表示する表示手段及び運転指示を行う操作手段と、各種設計設備をもつ原子力発電所の運転シナリオを模擬して前記表示手段に表示する原子力発電所模擬手段とを有し、運転員の視点を計測する視点計測手段と、運転員の脳活動を計測する脳活動計測手段とを備えた原子量発電所の運転訓練シミュレータにおいて、
前記視点計測手段の視点信号および脳活動計測手段の脳活動信号に基づき、運転員の前記表示手段および操作手段に対する運転操作容易度を評価する運転操作容易度評価手段を有することを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項2】
請求項1において、前記運転訓練シミュレータは、前記原子力発電所模擬手段の情報により前記表示手段及び操作手段の複数の運転状態表示方式と複数の操作方式を切替える表示切替手段を有することを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記運転訓練シミュレータは、前記原子力発電所模擬手段の訓練シナリオを設定する訓練シナリオ設定手段を有することを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記運転訓練シミュレータは、前記表示手段及び操作手段の表示方式をあらかじめ選択して前記表示切替手段に指示する表示方式選択手段を有することを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記運転訓練シミュレータの前記表示手段及び操作手段は、原子力発電所の表示制御盤に設けられていることを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記原子力発電所模擬手段の運転シナリオは異常事象に関するシナリオを含むことを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、前記運転操作容易度評価手段は、熟練者の脳活動情報を含む基準情報を用いて、運転員の運転操作容易度を評価することを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項8】
請求項7において、前記基準情報はさらに熟練者の対応操作情報を含むことを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項9】
請求項7において、前記基準情報はさらに熟練者の表示確認対象情報を含むことを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれかに記載された原子力発電所の運転訓練シミュレータにおいて、前記運転操作容易度評価手段は、前記視点計測手段の視点信号及び前記脳活動計測手段の脳活動信号により運転者の表示認識レベルを決定する表示認識レベル決定手段と、前記脳活動計測手段の脳活動信号により運転者の脳活動レベルを決定する脳活動レベル決定手段と、熟練者の表示確認対象情報/対応操作情報/脳活動情報を含む基準情報と前記表示認識レベル決定手段および前記脳活動レベル決定手段の情報を比較して運転者の運転操作容易度を決定する比較手段を有することを特徴とする原子力発電所の運転訓練シミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−158685(P2011−158685A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19907(P2010−19907)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】