説明

過充填防止装置

【課題】液化ガス燃料の過充填を正確かつ安定して防止する作動の耐久性を向上し得る過充填防止装置を提案する。
【解決手段】ケーシング体3内に摺動可能に配した合成樹脂製のプレート状メイン弁7を、その前後に区画した内部連通流域12とガス閉鎖域21との圧力差によって前後方向に摺動し、該内部連通流域12内に後方突成したガス流出管路16を閉鎖する閉鎖位置と、該ガス流出管路16と内部連通流域12とを連通する開放位置とに位置変換するようにした構成である。本構成は、プレート状メイン弁7が一体的に摺動して、局所的な応力集中を生じないと共に、DME燃料等に対して高い耐食性を有するため、従来のダイヤフラム式の構成に比して、高い耐久性を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス燃料を貯留する燃料タンクに設けられ、燃料タンクへの液化ガス燃料の過充填を防止する過充填防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車などの車両は、近年の排ガス規制強化に伴って、低公害を目的として液化ガス燃料を用いる車両が増加する傾向にある。この液化ガス燃料としては、液化石油ガス(以下、LPGという)燃料が主流であるが、ジメチルエーテル(以下、DMEという)燃料も着目されている。このDME燃料は、セタン価が高く、PMやNOxの排出量を極めて少なくできるという優れた利点を有し、低公害対策としての期待も高い。
【0003】
ところで、上記したLPG燃料を貯留する燃料タンクにあっては、一般的に、該LPG燃料の貯留量を確認するための液面表示装置や、LPG燃料を燃料タンク内に充填する際に予め定められた最大充填量を超えて充填しないようにするための過充填防止装置などが取り付けられている。
【0004】
ここで、過充填防止装置としては、例えば特許文献1のように、燃料タンクに貯留するLPG燃料の液面高さに従って浮動するフロートを備えており、該フロートが燃料タンクの最大充填量となる液面高さ位置に達するとLPG燃料の充填を強制的に停止するようにしたものが提案されている。すなわち、この特許文献1の過充填防止装置にあっては、LPG燃料を燃料タンク内へ流出する流出口の内奥にダイヤフラムが設けられ、該ダイヤフラムにより区画された両側の各領域の圧力変化によって、ダイヤフラムをその両側方へ作動して流出口を開閉し、LPG燃料の充填と強制的な停止とを行い得るものである。そして、LPG燃料を充填する際に、最大充填量に達すると、ダイヤフラムにより流出口を強制的に閉鎖してこれ以上充填しないようにしている。
【0005】
ここで、上記の過充填防止装置は、燃料タンク内に配設されることから、比較的小型のものが採用されており、流出口を開閉するための作動距離の短いゴム製のダイヤフラムが適用されている。ダイヤフラムは、その外周縁に鍔部を備えており、該鍔部を周方向に亘って固定することによって、正確に位置決めできると共に、流出口の開閉作動を安定して行うことができる。そして、ゴム製であることから、高い密閉性を有し、弾性変形し易く、圧力変化に対する変形追従性に優れている。さらに、ゴムの弾性変形特性によって、ウォーターハンマー現象の水撃を吸収し易いという利点も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−263598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記したダイヤフラムは、その鍔部を拘束して位置決めした状態で開閉作動することから、該開閉作動によって前記鍔部の基周部が繰り返し屈曲変形するため、該基周部に応力集中を生ずる。そのため、液化ガス燃料の充填と消費とに従ってダイヤフラムが繰り返し開閉作動することにより、鍔部の基周部に損傷や塑性変形等を生じ易く、これに伴って耐久性に限界が生じている。一方、上記のDME燃料は、LPG燃料に比してゴムへの侵食性が極めて高いことから、前記耐久性をさらに低減することになってしまう。また、LPG燃料とDME燃料とを混合した場合にあっても、そのDME成分によって、前記のようにゴムを侵食し易く、耐久性を低減してしまう。さらにまた、LPG燃料にあっても、硫黄等の不純物を比較的多く含有する場合には、該硫黄成分等によりゴムを侵食し易く、耐久性を低減してしまう。このようにダイヤフラムの耐久性低減は、液化ガス燃料の過充填を安定して防止する機能を損なうことから、過充填防止装置として安定した機能を発揮する耐久性の向上が求められている。
【0008】
本発明は、液化ガス燃料の過充填を正確かつ安定して防止する作動の耐久性を向上し得る過充填防止装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、燃料タンク外に配設された充填バルブの開作動により燃料タンク内に液化ガス燃料を流出させるガス流路と接続されて燃料タンク内に配設され、燃料タンク内への液化ガス燃料の過充填を防止する過充填防止装置において、ガス流路と接続される接続管路と、該接続管路と常時連通する内部連通流域と、該内部連通流域内に後方突成された、液化ガス燃料を燃料タンク内へ流出するガス流出管路とを具備するケーシング体と、該ケーシング体の内部且つ前記ガス流出管路の後方で前後方向へ摺動可能に配設されて、前記内部連通流域と密閉状に区画されるガス閉鎖域を形成し、前記ガス流出管路の後方へ離間して該ガス流出管路と内部連通流域とを連通する開放位置と、ガス流出管路を閉鎖して該ガス流出管路と内部連通流域とを遮断する閉鎖位置とに位置変換する合成樹脂製のプレート状メイン弁と、該プレート状メイン弁を閉鎖位置方向へ付勢するメイン弁付勢手段と、ケーシング体内に設けられ、前記ガス閉鎖域と接続管路とを常時連通する細流路と、ケーシング体に軸支され、液化ガス容器内に貯留する液化ガスの液面高さに従って浮動するフロートと、該フロートの浮動に伴って、ガス閉鎖域に流入した液化ガス燃料を燃料タンク内へ流出する作動用流出口を開閉する作動弁と、該作動弁を、作動用流出口を閉鎖する方向へ付勢する作動弁付勢手段とを備えていることを特徴とする過充填防止装置である。
【0010】
ここで、ガス流出管路としては、略円筒形状を成す構成が好適であり、さらには、断面楕円形状を成す構成が一層好適である。また、プレート状メイン弁は、円盤形状を成す構成が好適であり、さらに、ガス流出管路と同心状に配設される構成が好適である。また、ケーシング体内に設けられた内部連通流域としては、ガス流出管路を囲むように環状に形成されて、その周方向に亘ってプレート状メイン弁を臨むように設けられている構成が好適である。
【0011】
本発明の構成あっては、燃料タンク内の燃料貯留量が所定の最大充填量未満の場合に液化ガス燃料を充填すると、作動弁により作動用流出口が開口していることから、接続管路を通じて内部連通流域に流入する液化ガス燃料によってプレート状メイン弁に作用する面圧が上昇して、該プレート状メイン弁を後方へ押し込んで開放位置とし、該内部連通流域からガス流出管路を介して液化ガス燃料を燃料タンク内へ流出する。ここで、細流路からガス閉鎖域に流入した液化ガス燃料は、作動用流出口を介して燃料タンク内へ流出する。そのため、ガス閉鎖域でプレート状メイン弁に作用する面圧は、前記した内部連通流域でプレート状メイン弁に作用する面圧に比して小さく、これら面圧の差がメイン弁付勢手段の付勢力より大きくなることによって、プレート状メイン弁が開放位置へ作動する。このようにして、燃料タンク内へ液化ガス燃料を充填していく。一方、液化ガス燃料の充填によって最大充填量に達すると、作動弁が作動用流出口を閉鎖することにより、細流路から流入した液化ガス燃料によりガス閉鎖域の内圧が上昇する。これに伴ってプレート状メイン弁に作用する面圧が上昇し、内部連通流域でプレート状メイン弁に作用する面圧よりも大きくなることによって、該プレート状メイン弁を前方へ押し込んで閉鎖位置とする。これにより、ガス流出管路が閉鎖されることから、液化ガス燃料の充填を強制的に停止できるため、最大充填量を越えて燃料タンク内に液化ガス燃料を充填しないようにしている。
【0012】
本構成は、プレート状メイン弁により区画するガス閉鎖域と内部連通流域とで該プレート状メイン弁に作用する面圧の差によって、該プレート状メイン弁を前後方向へ摺動し、ガス流出管路を開閉するようにした構成である。ここで、プレート状メイン弁は、上述した従来のダイヤフラムのように鍔部を固定して局所的に屈曲変形するものでなく、ほとんど変形を生じずに弁自体が一体的に前後方向へ摺動する。そのため、ダイヤフラムのように開閉作動の際に作用する局所的な応力集中による損傷や塑性変形等を、プレート状メイン弁では生じ難い。さらに、合成樹脂製のプレート状メイン弁は、高剛性であることから、前後方向へ摺動する際に作用する圧力によってほとんど変形せず、局所的な応力集中を生じ難い。そして、ウォーターハンマー現象による水撃に充分に耐え得る強さを発揮することもできる。また、合成樹脂製プレート状メイン弁は、ゴム製に比して、DME燃料や硫黄等の不純物による侵食を受け難い。したがって、本構成によれば、液化ガス燃料の充填と消費とによりプレート状メイン弁を繰り返し開閉作動しても、正確且つ安定した作動を長期に亘って保つことができ、優れた耐久性を発揮できる。
【0013】
尚、上述した従来のダイヤフラムを用いた構成にあって、DME燃料等に対する耐食性に優れた合成樹脂製のダイヤフラムを適用することが、通常考えられる。この場合には、ゴム製に比してDME燃料や硫黄等の不純物による侵食を受け難くなるが、合成樹脂製は、ゴム製に比して弾性変形歪みが小さいことから、局所的な応力集中を生じ易い。そのため、ゴム製に比して、耐久性が低減してしまうことから、合成樹脂製のダイヤフラムを単純に用いることには無理がある。このようなことから、過充填防止装置として一般的に用いられるダイヤフラム式の構成と異なる、本発明の構成を発明するに至った。
【0014】
上述した過充填防止装置にあって、プレート状メイン弁が、その外周端部に板厚方向に亘ってガイド溝を備えると共に、ケーシング体が、その内部に、前記ガイド溝に嵌入する前後方向に沿ったガイドレールを備えているものである構成が提案される。
【0015】
かかる構成にあっては、プレート状メイン弁が、そのガイド溝に嵌入したガイドレールに沿って移動することから、前後方向へ安定かつ正確に摺動することができる。これにより、プレート状メイン弁が開放位置や閉鎖位置で位置ズレを生じてしまうことを防止できる。そのため、閉鎖位置で、ガス流出管路を安定して繰り返し閉鎖することができ、その密閉性を長期に亘って保つことができる。したがって、液化ガス燃料が最大充填量を越えて充填されてしまうことを可及的に抑制するという、上述した本構成により発揮される耐久性を一層向上できる。
【0016】
ここで、プレート状メイン弁は、上述したダイヤフラムのようにその鍔部を拘束する構成と異なり、ケーシング体の内部で摺動するため、該ダイヤフラムの構成に比して、閉鎖位置で位置ズレを生じる可能性が懸念される。仮に、プレート状メイン弁が閉鎖位置で位置ズレを生ずると、ガス流出管路を確実に閉鎖することができず、最大充填量を越えて充填されてしまう虞がある。これに対して、本構成では、上記のようにプレート状メイン弁を精度良く閉鎖位置へ摺動して保つことができるため、確実に最大充填量で強制的に充填停止することができる。
【0017】
尚、ガイド溝とガイドレールとは、少なくとも各一つ毎に配設すれば良く、複数設ける構成としても良い。
【0018】
上述した過充填防止装置にあって、プレート状メイン弁が、その外周端部に板厚方向に亘って連通溝を備え、該連通溝によりガス閉鎖域と内部連通流域とを常時連通する細流路を構成しているものであるとした構成が提案される。
【0019】
かかる構成にあっては、プレート状メイン弁の外周端部に、細流路を構成する連通溝を摺動方向(前後方向)に沿って設けたものであるから、該連通溝を流れる液化ガス燃料によってプレート状メイン弁の前後方向に沿った摺動が妨げられ難く、摺動安定性を保ち得る。そのため、プレート状メイン弁を閉鎖位置に安定かつ正確に位置決めできるという作用効果を安定して発揮できる。
【0020】
また、プレート状メイン弁に設けた連通溝により細流路を構成していることから、メンテナンス性に優れるという利点も有する。さらに、細流路をケーシング体に設ける構成に比して、該ケーシング体のサイズを抑制できるという利点も有する。
【0021】
ここで、上記したプレート状メイン弁が、細流路を構成する複数の連通溝を周方向に均等間隔で配設したものである構成が提案される。
【0022】
かかる構成にあっては、周方向に均等間隔で複数の連通溝を設けていることから、各連通溝を通過する液化ガス燃料によりプレート状メイン弁に作用する力を、周方向に分散でき、バランスが良い。そのため、プレート状メイン弁の前後方向への摺動安定性が一層向上し、閉鎖位置に安定かつ正確に位置決めできるという作用効果が向上する。
【0023】
上述した過充填防止装置にあって、プレート状メイン弁が、その外周端部に、周方向に亘ってOリングを配設しているものである構成が提案される。
【0024】
かかる構成にあっては、プレート状メイン弁のOリングによって、ガス閉鎖域の密閉性を向上することができる。これにより、プレート状メイン弁を安定して摺動させることができ、閉鎖位置で安定して保持できる。尚、本構成の場合には、上記した連通溝を形成できないことから、細流路として、プレート状メイン弁の内側部分に穿設した連通孔により構成するもの、又はケーシング体に形成した構成のいずれかとすることが好適である。
【0025】
上述した過充填防止装置にあって、プレート状メイン弁が、ポリテトラフルオロエチレンにより形成されてなるものである構成が提案される。又は、プレート状メイン弁が、ポリフェニレンサルファイドにより形成されてなるものである構成が提案される。
【0026】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと言う)やポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと言う)は、合成樹脂のなかでも、DME燃料や硫黄等の不純物に対する耐食性に優れている。そのため、これらいずれかのプレート状メイン弁は、一層高い耐久性を発揮することができる。尚、特にPTFEは、DME燃料に対する耐食性が一層高いことから、DME燃料を液化ガス燃料として用いる燃料タンクに採用する場合に、最も好適に用い得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、上述したように、ケーシング体内に摺動可能に配した合成樹脂製のプレート状メイン弁を、その前後に区画した内部連通流域とガス閉鎖域との圧力差によって前後方向に摺動し、該内部連通流域の内部に後方突成したガス流出管路を閉鎖する閉鎖位置と、該ガス流出管路と内部連通流域とを連通する開放位置とに位置変換するようにしたものであるから、液化ガス燃料の充填の際に、フロートが最大充填量の液面位置となることに伴って閉鎖したガス閉鎖域でプレート状メイン弁に作用する面圧の上昇により、プレート状メイン弁を開放位置から前方へ摺動して閉鎖位置として、液化ガス燃料の充填を強制的に停止する。これにより、燃料タンクの最大充填量を越える液化ガス燃料の充填を安定かつ確実に防ぐことができる。また、プレート状メイン弁は、一体的に摺動することから、局所的な応力集中の発生を可及的に抑制できる。さらに、DME燃料や硫黄等の不純物による耐食性が高いため、比較的長期に亘って安定かつ正確に摺動することができる。したがって、本構成によれば、上述した従来のダイヤフラム式の構成に比して、高い耐久性を発揮することができる。
【0028】
上述した過充填防止装置にあって、プレート状メイン弁が、その外周端部に板厚方向に亘ってガイド溝を備えると共に、ケーシング体が、その内部に、前記ガイド溝に嵌入する前後方向に沿ったガイドレールを備えているものであるとした場合には、プレート状メイン弁を前後方向へ安定かつ正確に摺動することができるため、繰り返し正確に閉鎖位置に位置決めすることができる。したがって、液化ガス燃料が最大充填量を越えて充填されてしまうことを可及的に抑制するという、本発明の耐久性が一層向上する。
【0029】
上述した過充填防止装置にあって、プレート状メイン弁が、その外周端部に板厚方向に亘って連通溝を備え、該連通溝によりガス閉鎖域と内部連通流域とを常時連通する細流路を構成しているものであるとした場合には、摺動安定性を保つことができる。ここで、細流路を構成する複数の連通溝が、周方向に均等間隔で配設した構成の場合には、周方向のバランスが良くなるために、前記摺動安定性が一層向上し、閉鎖位置に安定かつ正確に位置決めできるという作用効果が向上する。
【0030】
上述した過充填防止装置にあって、プレート状メイン弁が、ポリテトラフルオロエチレン又はポリフェニレンサルファイドにより形成されてなるものであるとした場合には、DME燃料や硫黄等の不純物に対する耐食性が高く、一層高い耐久性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】燃料タンク1の断面図である。
【図2】本実施例1の過充填防止装置2の、燃料充填中の状態を表す断面図である。
【図3】同上の過充填防止装置2の、充填完了状態を表す断面図である。
【図4】図2中のP−P断面図である。
【図5】過充填防止装置2の作動態様を示す説明図である。
【図6】本実施例2の過充填防止装置52の、燃料充填中の状態を表す断面図である。
【図7】同上の過充填防止装置52の、充填完了状態を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0032】
本発明の実施例1を添付図面を用いて詳述する。
本実施例1の燃料タンク1は、例えば、DME燃料により駆動するエンジンを搭載したトラック等の車両に取り付けられるものであり、DME燃料を貯留するものである。すなわち、本実施例1にあっては、液化ガス燃料としてDME燃料を貯留するための燃料タンク1である。この燃料タンク1は、図1のように、円筒形状の胴部1aと、該胴部1aの両側開口に接合された半球形状の鏡部1b(片側は図示省略)とから構成されており、所定の固定部材(図示省略)により車両に固定される。この燃料タンク1には、その一方の鏡部1bに、充填バルブ45と該充填バルブ45を開閉する充填バルブ開閉ハンドル41とを備えたバルブ装置40が配設されている。バルブ装置40は、該バルブ装置40に設けられた被取付部材43が、鏡部1bに配設された取付部材48に固定されることによって、鏡部1bに取り付けられている。そして、この充填バルブ45には、外部からDME燃料が供給される供給口46が配設されており、DME燃料を充填する場合には、この供給口46から所定の充填圧力によってDME燃料が供給されて燃料充填される。
【0033】
燃料タンク1の内部には、上記した充填バルブ45と連通するガス充填管42が配設されている。そして、このガス充填管42は、その先端が燃料タンク1内の上部に配されており、当該先端に過充填防止装置2が接続されている。尚、ガス充填管42の内部により、本発明にかかるガス流路8を構成している(図2,3参照)。
【0034】
過充填防止装置2は、図2,3のように、フロート10と上記ガス充填管42に接続するケーシング体3とを備えている。尚、本実施例にあって、図2,3中で、過充填防止装置2の左側を後側とし、右側を前側として、前後方向を規定している。すなわち、フロート10側を後側とし、後述するガス流出口16a側を前側として、以下説明する。
【0035】
ケーシング体3は、前後方向に開口するケーシング主体4と、該ケーシング主体4の前面側を閉鎖する前側蓋体5と、後面側を閉鎖する後側蓋体6とを備え、これらが接合されて一体化されてなる。ケーシング主体4の上部は、略円環形状を成し、前側蓋体5と後側蓋体6とに密閉状に閉鎖されて、閉鎖内空域9が内部形成されている。すなわち、ケーシング体3は、その上部の内側に水平方向に沿って断面円形状の閉鎖内空域9を備えている。さらに、ケーシング主体4の下部には、下方開口する接続管部4aが上下方向に沿って設けられ、該接続管部4aが上記ガス充填菅42の先端に外嵌してカシメ等により固結されることによって、当該過充填防止装置2がガス充填菅42に接続される。そして、この接続管部4aの内部によりガス流路8と連通する接続管路11を構成しており、該接続管路11の上端が前記閉鎖内空域9の前方寄り下部で連通している。
【0036】
ケーシング体3を構成する前側蓋体5には、その径方向中央に、後方へ突出する楕円筒状の楕円状突出筒部13が形成されている。この楕円状突出筒部13が、上記の閉鎖内空域9の内部で水平方向に沿って後方突出して配設される。楕円状突出筒部13は、その前後で夫々開口しており、本発明にかかるガス流出管路16を構成する。そして、ガス流出管路16の後端に、閉鎖内空域9内に開口する開閉口16bを有し、前端に、燃料タンク1内に開口するガス流出口16aを有する。また、閉鎖内空域9には、楕円状突出筒部13の径方向外側を囲むように、前記接続管路11と連通する略円環形の内部連通流域12が形成されている。すなわち、この内部連通流域12の内部に、前記楕円状突出筒部13により構成されるガス流出管路16が設けられている。さらに、閉鎖内空域9には、前記楕円状突出筒部13(ガス流出管路16)の後方に、後述するプレート状メイン弁7が前後方向へ摺動可能に配されている。
【0037】
ケーシング体3を構成する後側蓋体6には、その径方向中央に、前記ガス流出管路16と対向するように、燃料タンク1内へ後方開口する作動用流出口17が設けられており、上記の閉鎖内空域9が該作動用流出口17を介しても燃料タンク1内と連通している。この作動用流出口17には、該作動用流出口17を開閉する弁部24aを備えた作動弁24が配設されており、該作動弁24が、コイル状のバネ25により作動用流出口17を閉鎖する方向(後方)へ付勢されている。ここで、バネ25により、本発明にかかる作動弁付勢手段が構成されている。
【0038】
また、ケーシング体3の後側蓋体6には、その外部に、上記した作動弁24の外端部24bに当接する傾動板27が軸支されている。この傾動板27は、その下部が作動弁24の外端部24bに当接し、その略中央部がケーシング体3に軸支されている。さらに、傾動板27の上部には、上記したフロート10を先端に備えた支持杆29が連結されている。このフロート10は、燃料タンク1内に貯留するDME燃料の液面高さに従って浮動する。
【0039】
ここで、フロート10の浮動について説明すると、DME燃料の貯留量が少ない場合には、フロート10が降下して、傾動板27がバネ25の付勢力に抗して作動弁24をケーシング体3の内部へ押し込み、作動用流出口17を開放する(図2,図5(A)参照)。尚、本実施例1にあっては、フロート10の最降下位置を規定するための停止片部28が、ケーシング体3に設けられている。この停止片部28に傾動板27が当接することにより、該傾動板27が作動弁24を最も押し込む位置を規定する。一方、DME燃料の充填によりフロート10が上昇するに伴って、傾動板27が作動弁24に作用する負荷を軽減する方向(作動弁24から離れる方向)へ傾動する。これにより、作動弁24が、バネ25の付勢力に従って作動用流出口17を閉鎖する方向へ移動する。尚、燃料タンク1は、そのタンク容量の85%を、DME燃料の最大充填量として設定している。そして、上記フロート10が、最大充填量で貯留しているDME燃料の液面高さで浮かぶ位置となると、傾動板27が、作動弁24により作動用流出口17を閉鎖する傾動位置となる。
【0040】
次に、上記したプレート状メイン弁7について説明する。
上記のケーシング体3の内部に形成された閉鎖内空域9には、楕円状突出筒部13(ガス流出管路16)の後方に、円盤形のプレート状メイン弁7が配されており、当該閉鎖内空域9を前側の内部連通流域12と後側のガス閉鎖域21とに区画する。このガス閉鎖域21が、内部連通流域12と密閉状に区画形成されており、上記した作動用流出口17を介して燃料タンク1内と連通する。
【0041】
プレート状メイン弁7は、その外径寸法が、閉鎖内空域9を構成するケーシング主体4の内周壁4bと所定のクリアランスを有するように設定されている。そして、図4のように、プレート状メイン弁7は、断面円形状の閉鎖内空域9および楕円状突出筒部13と同心状に配され、前後方向に沿って摺動可能である。すなわち、本実施例1の構成では、プレート状メイン弁7、閉鎖内空域9、楕円状突出筒部13(ガス流出管路16)、作動用流出口17は、同心状に配されている。
【0042】
このプレート状メイン弁7は、図3および図5(B)のように、その前面部7aが楕円状突出筒部13の内周端13aに密接することにより、ガス流出管路16の開閉口16bを閉鎖する。これにより、接続管路11と連通する内部連通流域12を、ガス流出管路16と非連通にし、ガス流路8から流入するDME燃料を燃料タンク1内へ流出不能とする。このようにプレート状メイン弁7が楕円状突出筒部13の内周端13aに密接する位置が、本発明にかかる閉鎖位置である。一方、プレート状メイン弁7が、図2および図5(A)のように、前記閉鎖位置から後方移動して、楕円状突出筒部13の内周端13aから離間すると、ガス流出管路16の開閉口16bを開放する。これにより、ガス流出管路16と内部連通流域12とが連通し、DME燃料をガス流出管路16を介して燃料タンク1内へから流出可能となる。このようにプレート状メイン弁7が楕円状突出筒部13の内周端13aから離間した位置が、本発明にかかる開放位置である。尚、プレート状メイン弁7には、その前面部7aの中央部分から前方へ突出する截頭円錐形状の突出部7bが形成されており、開放位置で、内部連通流域12からガス流出管路16へDME燃料が流れ易くなっている。
【0043】
ここで、プレート状メイン弁7は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により成形加工されている。このPTFEは、DME燃料に対する耐食性に優れたものである。そのため、比較的長期間に亘ってDME燃料と接触しても、膨潤等の侵食作用を可及的に抑制できる。詳述すると、上述した従来のダイヤフラムに用いられているゴム(ニトリルゴム等)をDME燃料に曝すと、該DME燃料の侵食作用によって該ゴムが膨潤する。このゴムの膨潤は、DME燃料に比較的短期間曝すことで容易に生ずる。一方、PTFEは、同様にDME燃料に曝すことによって生ずる膨潤を抑制する効果が高く、該抑制できる期間が前記ゴムに比して長くなるため、比較的長期間に亘って所望の形態を保ち得る。そのため、PTFE製のプレート状メイン弁7は、比較的長期間に亘って、上記した開放位置と閉鎖位置とに位置変換する摺動を安定かつ正確に行うことができ、高い耐久性を発揮できることとなり得る。さらに、本実施例1にあっては、上述したように、プレート状メイン弁7を、ケーシング体3の内周壁4bと所定のクリアランスを有するように形成されており、該クリアランスを、DME燃料により生ずる膨潤を考慮して設定する。そのため、長期間使用することにより、プレート状メイン弁7が膨潤しても、前記クリアランスのよる前後方向への摺動不良が生ずることを可及的に抑制することができる。したがって、プレート状メイン弁7を安定かつ正確に前後方向へ摺動する耐久性をさらに高め得る。
【0044】
さらに、プレート状メイン弁7は、図4のように、その外周端部に、周方向に均等間隔で二つの連通溝31,31を備え、各連通溝31,31が板厚方向に亘って形成されている。さらに、プレート状メイン弁7の外周端部には、板厚方向に亘ってガイド溝32が形成されている。ここで、ガイド溝32は、二つの連通溝31,31と夫々に略等距離となる位置に形成されている。
【0045】
また、図2〜4のように、ケーシング体3の内周壁4bには、その上部に、前後方向に沿ってガイドレール35が形成されている。このガイドレール35に、上記のガイド溝32を嵌め合わせるようにして、プレート状メイン弁7を、閉鎖内空域9内に配する。これにより、プレート状メイン弁7は、ガイドレール35とガイド溝32とによって、前後方向へ安定して摺動を繰り返すことができる。尚、ケーシング体3の閉鎖内空域9内にプレート状メイン弁7を配した状態で、該プレート状メイン弁7、ガス流出管路16(楕円状突出筒部13)、作動用流出口17とが、夫々の中心位置が同一線上に位置するようになっている。そして、プレート状メイン弁7は、その前面部7aが鉛直方向に沿うように配設され且つ該鉛直方向を保って前後方向へ摺動する。また、楕円状突出筒部13の内周端13aは、鉛直方向に沿って形成されている。そのため、プレート状メイン弁7は、その閉鎖位置で、楕円状突出筒部13の内周端13aに周方向に亘って均等に密着することから、ガス流出管路16の開閉口16bを安定かつ正確に閉鎖することができ、DME燃料の漏れを確実に防止でき得る。
【0046】
このようにプレート状メイン弁7を閉鎖内空域9内に配すると、その連通溝31,31によって、作動用流出口17側のガス閉鎖域21と内部連通流域12とを常時連通する。尚、この連通路31,31によって、本発明にかかる細流路が構成されている。そして、連通溝(細流路)31,31の断面積は、上記した作動用流出口17の開口面積に比して小さくなっている。
【0047】
また、ケーシング体3のガス閉鎖域21には、プレート状メイン弁7を上記の閉鎖位置方向へ付勢するコイル状のバネ22が配設されている。これにより、プレート状メイン弁7に何ら外力(圧力)が作用しない状態では、プレート状メイン弁7は閉鎖位置に保たれる。
【0048】
次に、本実施例1の過充填防止装置2の作動について説明する。
燃料タンク1内に貯留するDME燃料が、上記した最大充填量より少ない状態では、フロート10が降下しているため、該フロート10に連係する傾動板27によって作動弁24を前方へ押し込んで作動用流出口17を開放している(図2,図5(A)参照)。DME燃料を充填しない状態では、バネ22の付勢力によってプレート状メイン弁7を閉鎖位置で維持している(図示省略)。この状態でDME燃料を充填すると、充填バルブ45からガス充填管42を通じてケーシング体3の内部連通流域12にDME燃料が流入する。そして、プレート状メイン弁7には、その前面部7aにDME燃料の充填圧力が作用することから、該前面部7aに作用する面圧が上昇して、バネ22の付勢力に抗してプレート状メイン弁7を閉鎖位置から後方へ摺動し、図2および図5(A)のように、ガス流出管路16の開閉口16bを開放する。これにより、ケーシング体3の内部連通流域12に流入したDME燃料が、ガス流出管路16を介して当該燃料タンク1内へ流出し、DME燃料を充填する。さらに、前記のように作動用流出口17を開放していることから、内部連通流域12に流入したDME燃料が、プレート状メイン弁7の連通溝31,31を介してガス閉鎖域21へも流入し、作動用流出口17から当該燃料タンク1内へ流出する。ここで、連通溝31,31は、その断面積が作動用流出口17の開口面積より小さいことから、連通溝31,31を流れるDME燃料の流量に比して作動用流出口17を流出する流量が大きい。そのため、連通溝31,31を介してガス閉鎖域21へ流入したDME燃料によってプレート状メイン弁7の後面部7cに作用する面圧は、内部連通流域12に流入したDME燃料によってプレート状メイン弁7の前面部7aに作用する面圧に比して小さい。これにより、前記のようにプレート状メイン弁7を閉鎖位置から開放位置へ安定かつ正確に位置変換作動できる。さらにまた、プレート状メイン弁7の周方向に均等間隔となる位置に設けられていることから、DME燃料の流動中にあってもプレート状メイン弁7が開放位置にバランス良く保たれ、DME燃料が安定してガス閉鎖域21へ流れる。
【0049】
尚ここで、内部連通流域12とプレート状メイン弁7とが同心状に配されていることから、DME燃料の充填圧力をプレート状メイン弁7に周方向に亘ってほぼ均等に作用することができる。さらに、プレート状メイン弁7のガイド溝32とガイドレール35とによって、該プレート状メイン弁7が前後方向へ摺動する。これらによって、プレート状メイン弁7を安定かつ正確に後方へ摺動することができる。また、プレート状メイン弁7の前面部7aには、上記した截頭円錐形状の突出部7bが形成されていることから、内部連通流域12からガス流出管路16へDME燃料が流れ易くなっている。
【0050】
このようにDME燃料を充填していくことにより、燃料タンク1内の貯留量が増加し、その液面高さ位置が上昇するに伴って、フロート10が昇動する。フロート10の昇動に連係して傾動板27を傾動することにより、該傾動板27による作動弁24を前方へ押し込む力が低減し、これに伴って作動弁24がバネ25の付勢力に従って作動用流出口17を閉鎖する方向へ移動する。そして、DME燃料が最大充填量に達すると、図3および図5(B)のように、作動弁24が作動用流出口17を閉鎖する。これにより、プレート状メイン弁7の連通溝31,31を介してガス閉鎖域21に流入したDME燃料によって、該ガス閉鎖域21の内圧が増加し、当該内圧増加に伴ってプレート状メイン弁7の後面部7cに作用する面圧が上昇する。そして、プレート状メイン弁7の後面部7cと前面部7aとに夫々作用する面圧の差によって、該プレート状メイン弁7が前方へ摺動して楕円状突出筒部13の内周端13aに密着する。このようにプレート状メイン弁7が閉鎖位置に位置変換して、ガス流出管路16の開閉口16bを閉鎖する。ここで、プレート状メイン弁7は、そのガイド溝32とガイドレール35とにより、前方へ安定して摺動することから、楕円状突出筒部13の内周端13aに安定かつ正確に密着することができる。そのため、ガス流出管路16の開閉口16bを確実に閉鎖することができ得る。また、プレート状メイン弁7の連通溝31,31が、互いに対向する位置に設けられていることから、該連通溝31,31からガス閉鎖域21に流入したDME燃料により、当該ガス閉鎖域21の内圧を全体的にほぼ均等に向上することができるため、当該プレート状メイン弁7を前方へバランス良く押し込むことができる。そのため、プレート状メイン弁7が傾いてしまう等の不具合を生じず、前記開閉口16bを確実に閉鎖するという作用が向上する。
【0051】
これにより、内部連通流域12に流入したDME燃料が、ガス流出管路16へ流れることができずに、当該燃料タンク1へのDME燃料の充填が強制的に停止するため、最大充填量を越えて充填することを防止することができる。尚、このようにDME燃料を充填できなくなると、該DME燃料の充填が停止される。
【0052】
その後、DME燃料を消費すると、フロート10が降動することにより、傾動板27が作動弁24をケーシング体3の内部へ押し込み、作動用流出口17が開放する。この際には、充填バルブ45からDME燃料の充填が停止していることから、プレート状メイン弁7に充填圧力が作用しないため、該プレート状メイン弁7がバネ22の付勢力によって閉鎖位置で維持される。
【0053】
上述したようにDME燃料の充填と消費とを繰り返すと、これに伴ってプレート状メイン弁7が前後方向へ繰り返し摺動する。プレート状メイン弁7の摺動は、ガイドレール35とガイド溝32とに従っていること、充填圧力が周方向に亘って作用すること、および連通溝31,31がバランス良く配設されていることによって、前後後方へ安定かつ正確に繰り返し実行される。そのため、比較的長期に亘って繰り返し実行されても、プレート状メイン弁7を楕円状突出筒部13の内周端13aに安定して密着することができ、その閉鎖位置でDME燃料の充填を確実に強制停止できる。本実施例のようにプレート状メイン弁7を摺動する構成にあっても、閉鎖位置での位置ズレ(傾き等)の不具合を生じないことから、該閉鎖位置へ安定して位置変換できる。
【0054】
さらに、プレート状メイン弁7は、少なくとも充填の際にDME燃料に曝されるが、上述したようにDME燃料に対する耐食性に優れたPTFEにより成形されたものであることから、該DME燃料による膨潤を可及的に抑制することができる。尚、プレート状メイン弁7は、ケーシング体3の内周壁4bと所定のクリアランスを有するように形成されていることから、例え、DME燃料により膨潤を生じたとしても、前後方向の摺動を安定かつ正確に維持することができ得る。以上のことから、プレート状メイン弁7がDME燃料に比較的長期に亘って曝されていても、上記した開放位置と閉鎖位置との間での摺動を安定かつ正確に行うことができる。そして、本実施例1の過充填防止装置2は、DME燃料の充填と消費とを繰り返し行っても、燃料タンク1の最大充填量を越えて充填しないように正確かつ安定して作動することができ、高い耐久性を発揮できる。
【0055】
また、プレート状メイン弁7は、合成樹脂製であることから、剛性や強度に優れる。特に、プレート状メイン弁7は、上述した従来のダイヤフラムと異なり、板厚を比較的肉厚な寸法形状に設定することができる。そのため、プレート状メイン弁7が高い剛性と強度を発揮することにより、上述した充填圧力やガス閉鎖域21からの内圧が作用した場合にも高い形態安定性を発揮し、上記した開放位置と閉鎖位置とへの摺動を安定かつ正確に行うという作用効果が一層向上する。
【0056】
また、プレート状メイン弁7は、その板厚tと外径Dとが次の式(1)を満足するように定めている。
0.5<(D/t)<5 ・・・・(1)
ここで、板厚tと外径Dとの比(D/t)を、5より小さくすることにより、前後方向への摺動を安定かつ正確に行うという作用効果が一層向上する。これは、相対的に板厚tが大きくなることによって、摺動方向(前後方向)への移動が安定し易くなるためである。さらに、外径Dに比して板厚tが相対的に小さくなると、上記した充填圧力(面圧)に対する強度低下が懸念され、例えばウォーターハンマー現象による水撃に対する耐力低下が懸念される。一方、外径Dに比して板厚tが相対的に大きくなると、開放位置と閉鎖位置とに位置変換する際の摺動速度が鈍くなる傾向にある。このようなことから、式(1)を満足する構成を適用した。尚、さらに板厚tと外径Dとの比(D/t)を、1より大きく且つ3より小さく定めた構成が一層好適である。
【0057】
さらにまた、プレート状メイン弁7を閉鎖位置とする際に、該プレート状メイン弁7と楕円状突出筒部13の内周端13aとの密着性を一層安定して発揮できるようにすることが求められる。その具体的な構成として、プレート状メイン弁7の前面部にあって楕円状突出筒部13よりも外側領域の径方向距離、すなわちプレート状メイン弁7の外周端と楕円状突出筒部13の内周端13aとの距離が、少なくとも5mm以上とする構成が好ましい。
【実施例2】
【0058】
実施例2の構成にあっては、図6,7のように、過充填防止装置52のプレート状メイン弁57が、その外周端部にOリング58を備えた構成としたものである。そして、プレート状メイン弁57は、その前後に貫通する連通孔61を備えている。この連通孔61は、プレート状メイン弁57の前面部57aで内部連通流域12に臨む位置に開口し、後面部57cでその中央寄り位置に開口するように設けられている。そのため、プレート状メイン弁57が閉鎖位置にある状態でも、連通孔61は内部連通流域12とガス閉鎖域21とを連通している(図7参照)。すなわち、連通孔61は、内部連通流域12とガス閉鎖域21とを常時連通する。
【0059】
プレート状メイン弁57は、その外周端部の板厚方向中央寄りに、周方向に亘って装着溝57dが形成されており、該装着溝57dにOリング58が取り付けられている。ここで、Oリング58は、部分的に径方向外側に突出するように配設されていることから、ケーシング体3の閉鎖内空域9を規定する内周壁4bに密接する。これにより、ガス閉鎖域21の密閉性を高めている。
【0060】
本実施例2にあっては、プレート状メイン弁57を上記構成とした以外は実施例1と同じ構成としていることから、同じ構成要素には同じ符号を記し、その説明を省略している。そして、プレート状メイン弁57は、実施例1と同様に、楕円状突出筒部13の内周端13aに密着する前面部57aの中央に截頭円錐形の突出部57bを備えている。
【0061】
この実施例2の過充填防止装置52にあっても、フロート10の浮動に従って作動用流出口17が開閉し、これに伴ってプレート状メイン弁57が前後方向に摺動して開放位置と閉鎖位置とに位置変換する。そして、上述した実施例1と同様に、最大充填量を越えてDME燃料が充填されることを安定かつ正確に防ぎ得る。さらに、プレート状メイン弁57は、実施例1と同様のPTFE製であることから、DME燃料に対する耐食性に優れ、高い耐久性を発揮できる。
【0062】
本実施例2の構成では、プレート状メイン弁57がOリング58を備えた構成であることから、ガス閉鎖域21の密閉性が高く、作動用流出口17の閉鎖によって増加するガス閉鎖域21の内圧が当該プレート状メイン弁57に安定して作用し易く、閉鎖位置への摺動安定性が向上する。そのため、過充填防止装置52として、DME燃料の過充填を防ぐ作用効果に一層優れている。
【0063】
上述した実施例1,2の構成にあっては、プレート状メイン弁をPTFE製とした構成であるが、PPS(ポリフェニレンサルファイド)製とした構成とすることもできる。PPSにあっても、DME燃料に対して高い耐食性を有することから、実施例1,2と同様に優れた耐久性を発揮することができる。
【0064】
また、上述した実施例1,2は、DME燃料を貯留する燃料タンクに備えた過充填防止装置であるが、LPG燃料等の液化ガス燃料を貯留する燃料タンクにも適用することができる。他の液化ガス燃料の燃料タンクに適用した場合にあっても、上述した作用効果を奏し得る。特に、LPG燃料にあって、硫黄分などの不純物が比較的多く含まれる場合には、該硫黄分により侵食作用を生じ易いが、上記したPTFE製やPPS製のプレート状メイン弁は、前記硫黄分に対する耐食性にも優れていることから、上述した作用効果を適切に生ずる。
【0065】
本発明は、上述した実施例1,2に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で適宜用いることができる。例えば、コイル状のバネ22,25に代えて、板バネなどを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 燃料タンク
2,52 過充填防止装置
3 ケーシング体
7,57 プレート状メイン弁
8 ガス流路
10 フロート
11 接続管路
12 内部連通流域
16 ガス流出管路
17 作動用流出口
21 ガス閉鎖域
22 バネ(メイン弁付勢手段)
24 作動弁
25 バネ(作動弁付勢手段)
31 連通溝(細流路)
58 Oリング
61 連通孔(細流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク外に配設された充填バルブの開作動により燃料タンク内に液化ガス燃料を流出させるガス流路と接続されて燃料タンク内に配設され、燃料タンク内への液化ガス燃料の過充填を防止する過充填防止装置において、
ガス流路と接続される接続管路と、該接続管路と常時連通する内部連通流域と、該内部連通流域内に後方突成された、液化ガス燃料を燃料タンク内へ流出するガス流出管路とを具備するケーシング体と、
該ケーシング体の内部且つ前記ガス流出管路の後方で前後方向へ摺動可能に配設されて、前記内部連通流域と密閉状に区画されるガス閉鎖域を形成し、前記ガス流出管路の後方へ離間して該ガス流出管路と内部連通流域とを連通する開放位置と、ガス流出管路を閉鎖して該ガス流出管路と内部連通流域とを遮断する閉鎖位置とに位置変換する合成樹脂製のプレート状メイン弁と、
該プレート状メイン弁を閉鎖位置方向へ付勢するメイン弁付勢手段と、
ケーシング体内に設けられ、前記ガス閉鎖域と接続管路とを常時連通する細流路と、
ケーシング体に軸支され、液化ガス容器内に貯留する液化ガスの液面高さに従って浮動するフロートと、
該フロートの浮動に伴って、ガス閉鎖域に流入した液化ガス燃料を燃料タンク内へ流出する作動用流出口を開閉する作動弁と、
該作動弁を、作動用流出口を閉鎖する方向へ付勢する作動弁付勢手段と
を備えていることを特徴とする過充填防止装置。
【請求項2】
プレート状メイン弁が、その外周端部に板厚方向に亘ってガイド溝を備えると共に、
ケーシング体が、その内部に、前記ガイド溝に嵌入する前後方向に沿ったガイドレールを備えているものであることを特徴とする請求項1に記載の過充填防止装置。
【請求項3】
プレート状メイン弁が、その外周端部に板厚方向に亘って連通溝を備え、該連通溝によりガス閉鎖域と内部連通流域とを常時連通する細流路を構成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の過充填防止装置。
【請求項4】
プレート状メイン弁が、細流路を構成する複数の連通溝を周方向に均等間隔で配設したものであることを特徴とする請求項3に記載の過充填防止装置。
【請求項5】
プレート状メイン弁が、その外周端部に、周方向に亘ってOリングを配設されているものであることを特徴とする請求項1に記載の過充填防止装置。
【請求項6】
プレート状メイン弁が、ポリテトラフルオロエチレンにより形成されてなるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の過充填防止装置。
【請求項7】
プレート状メイン弁が、ポリフェニレンサルファイドにより形成されてなるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の過充填防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−7624(P2012−7624A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141154(P2010−141154)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】