説明

過大トルクリリース機構を有する歯車組立体及びそれを備える減速機

【課題】過大トルクリリース機構が内蔵され、部品点数の少ない歯車組立体を提供する。
【解決手段】歯車組立体1は、同軸上において連結された小ギア部材10と大ギア部材30とを有する。大ギア部材30には凹部35が形成されており、小ギア部材10には、この凹部35と嵌合して両部材間でトルク伝達する凸部17が形成されている。凹部35は、前記軸の垂直断面において同軸を中心とする多角形をしており、凸部17には、凹部35の多角形の各隅部36に係合する外突部18を有している。凹部35の外側には、肉盗み部41と孔部43が形成されており、凹部35の外側の部分は弾性変形部となっている。トルクが所定値を超えると、弾性変形部が外方向へ変形し、外突部18が凹部35の隅部36から側面上を滑って両凹凸部間で同軸周りの角度滑りが生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクが所定値以下の場合にはトルクを伝達し、トルクが所定値を超えると同トルクをリリースする機構(クラッチ機構ともいう)を有する歯車組立体及びそれを備える減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機等を構成している歯車組立体には、ギアの破損を防止するために、トルクが所定値以下の場合にはギア間にトルクを伝達するが、トルクが所定値を超えると同トルクをリリースする機構(クラッチ機構ともいう)を備えたものがある。このようなトルクリリース機構には、外付けのものもあるが、これは小型化を考慮した場合好ましくない。
【0003】
そこで、歯車組立体内にトルクリリース機構を備えたものとして、アウターリングとインナーリングとの一方に係合部を設け、もう一方にこの係合部に弾性的に係合するバネ部材が固定されたものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。トルクが所定値以下の場合には、アウターリングとインナーリングとが係合し、両者間にトルクが伝達される。トルクが所定値を超えると、バネ部材が弾性変形して係合部から外れ、トルクの伝達が遮断される。
【特許文献1】特開平10−159866
【特許文献2】実開昭58−47561
【0004】
このような歯車組立体は、同組立内にトルクリリース機構を備えており、小型化が可能ではあるが、弾性変形するバネ部材を必要とするため、部品数が増え(これらの例では3点)、組み立て工程数も増える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、過大トルクリリース機構が内蔵され、部品点数の少ない歯車組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の過大トルクリリース機構付き歯車組立体は、 同軸上において連結された小ギア部材と大ギア部材、及び、両部材の間に設けられた過大トルクリリース機構からなる歯車組立体であって、 いずれか一方の部材には凹部が形成されており、 他方の部材には、前記凹部と嵌合して両部材間でトルク伝達する凸部が形成されており、 前記凹部が、前記軸の垂直断面において同軸を中心とする多角形をしており、 前記凸部が、前記凹部の多角形の各隅部に係合する外突部を有しており、 前記トルクが所定値以下では、前記凹部の隅部と前記外突部の係合により両部材間でトルク伝達され、 前記過大トルクリリース機構として、前記トルクが所定値を超えたときに、前記凸部の外突部が前記凹部の隅部から該凹部の側面上を滑って両凹凸部間で同軸周りの角度滑りが生じる機構が設けられており、 該角度滑りによって発生する、前記凹部の側面と前記凸部の外突部との間に生じる圧縮力を緩和する弾性変形部が、前記凹部の側面又は前記凸部の外突部の近傍に形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、小ギア部材と大ギア部材間に作用するトルクが所定値以下の場合は、いずれか一方の部材に設けられた凹部の隅部に、他方の部材に設けられた凸部の外突部が係合して、両ギア部材が一体となって回転し、両部材間でトルクを伝達する。しかし、トルクが所定値を超えると、凸部の外突部が凹部の隅部から同凹部の側面上を滑る。すなわち、凹部の側面又は凸部の外突部の近傍に形成されている弾性変形部の変形により、外突部と隅部との寸法的干渉が緩和され、凸部の外突部が凹部の隅部から同凹部の側面上を滑って両凹凸部間で同軸周りの角度滑りが生じ、過大トルクの伝達が遮断される。このように、歯車組立体内に過大トルクリリース機構(クラッチ機構)が組み込まれているため、クラッチ機構を別に設ける必要がなく、必要な部品数が最低限(2個)でよくなり、小型化が可能となる。
なお、凹部の多角形の辺は厳密な直線でなくともよい。
【0008】
前記角度滑りによって発生する、前記凹部の側面と前記凸部の外突部との間に生じる圧縮力は、 前記凸部の外突部先端と前記軸間の距離L1と、前記凹部の側面の中心付近と前記軸間の距離L2とが、L1>L2の関係であることによって、前記外突部が前記側面を押し上げる、あるいは、前記側面が前記外突部を押し下げるように作用する力である。
【0009】
本発明においては、 前記小ギア部材が、 ギア部と、該ギア部から同軸上に延びるシャフト部と、を有し、 該シャフト部の先端に前記凸部が形成されており、 前記大ギア部材が、 スリーブ部と、該スリーブ部の一方の端部から外方向に拡がり、周囲にギアが切られたフランジ部と、を有し、 前記スリーブ部の、前記フランジ部側端部付近の内面に、前記凹部が形成されていることが好ましい。
【0010】
小ギア部材と大ギア部材との寸法関係から、このように構成することにより、過大トルクリリース機構を小さいスペース中に実現できる。
【0011】
本発明においては、 前記弾性変形部が、前記大ギア部材の前記スリーブ部外面における、前記凹部の各側面の外側に位置する部分に形成された肉盗み部と、該肉盗み部と連通する、前記フランジ部の基部に開けられた孔部と、であることが好ましい。
【0012】
肉盗み部と孔部とからなる弾性変形部を大ギア部材に設ける方が、小ギア部材に設ける場合よりも弾性曲線の勾配がなだらかとなり、部品寸法の管理上有利である。
【0013】
本発明においては、 前記小ギア部材のシャフト部外面に回転対称外周面が形成されており、前記大ギア部材のスリーブ部内面に回転対称内周面が形成されており、両周面が密に嵌合することにより、角度滑り時(トルクリリース時)にも両部材の同軸度を維持することができるので、軸ブレが起こらない。
【0014】
さらに、本発明においては、 前記凸部及び凹部が、同軸上に2段に配置されており、 前記2段の凹部の隅部及び前記2段の凸部の外突部のいずれか一方又は双方が、各段において円周方向に小角度ずれて配置されており、 前記トルクが所定値以下のとき、前記ずれて配置されている隅部と外突部との係合部の各々の間に、両部の円周方向における中心位置に引き寄せられるねじれ力が発生することが好ましい。
このねじれ力により、小ギア部材と大ギア部材との予圧が生じ、角度滑り時の両部材間のガタが防止される。
【0015】
本発明においては、 前記小ギア部材が、 ギア部と、該ギア部から同軸上に延びるシャフト部と、を有し、 該シャフト部の先端に前記2段の凸部が形成されており、 前記大ギア部材が、 スリーブ部と、該スリーブ部の一方の端部から外方向に拡がり、周囲にギアが切られたフランジ部と、を有し、 前記スリーブ部の、前記フランジ部側端部の内面に、前記2段の凹部が形成されていることとできる。
【0016】
本発明の減速機は、 入力軸と、該入力軸と複数の歯車組立体を介して回転を伝達される出力軸と、を有する減速機であって、 前記出力軸の一段前側に設けられた歯車組立体が、前述に記載の歯車組立体であることを特徴とする。
【0017】
クラッチ機構が組み込まれた歯車組立を使用するので、減速機の構成が簡易となり、小型化できる。また、出力軸側からもたらされる過大トルクを極力出力軸寄りでリリースすることにより、減速機内の各パーツの破壊を防止できる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、同軸上において連結された小ギア部材と大ギア部材と2個の部品からなり、両部材の間に過大トルクリリース機構が備えられた歯車組立体を提供できる。したがって、歯車組立体が小型化でき、減速機などに組み込む際にも、省スペース化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る歯車組立体の分解斜視図である。
図2は、図1の歯車組立体を示す図であり、図2(A)は正面図、図2(B)は側断面図、図2(C)は図2(B)のC−C断面図である。
この例の歯車組立体1は、同軸上に連結される小ギア部材10と大ギア部材30とからなり、両部材の間に過大トルクリリース機構20が設けられている。小ギア部材10及び大ギア部材30は、この例では樹脂(例えば、ナイロン系エンジニアプラスチック)製である。その他、用途やリリース保持トルクの関係によっては焼結金属やダイキャスト製とすることができる。
【0020】
まず、小ギア部材10を説明する。
図3は、小ギア部材を示す図であり、図3(A)は正面図、図3(B)は側断面図である。
小ギア部材10は、ギア部11と、同ギア部11から同軸上に延びるシャフト部15と、を有し、軸芯上には軸孔13が貫通している。シャフト部15の外面15aは、回転対称外周面(この例では正面形状が円形)となっている。シャフト部15の反ギア部側の端面には、軸方向に突出した凸部17が形成されている。図3(A)に示すように、凸部17の外周面には、外方向に突出する外突部18が、等しい中心角度で8個形成されている。
【0021】
次に、大ギア部材30を説明する。
図4は、大ギア部材を示す図であり、図4(A)は正面図、図4(B)は側断面図である。
大ギア部材30は、スリーブ部31と、スリーブ部31の一方の端部から外方向に拡がるフランジ部33とを有し、両部は同じ軸芯上に並んでいる。フランジ部33の外周には、軸芯を中心としたギア34が切られている。スリーブ部31の、反フランジ部側の内周面31aは、小ギア部材10のシャフト部15の外面15aの回転対称外周面と同じ形状の回転対称内周面(この例では正面形状が円形)となっている。回転対称内周面31aの長さは、小ギア部材10のシャフト部15の回転対称外周面15aの長さとほぼ等しい。
【0022】
さらに、スリーブ部31の、回転対称内周面31aの奥側(ギア部側)には、軸方向に凹んだ凹部35が形成されている。凹部35は、正面形状が、小ギア部材10の凸部17に設けられた外突部18の個数と同じ数の隅部を有する多角形となるように形成されている。つまり、この例の場合、外突部18の個数が8個であるので、凹部35の正面形状は、8個の隅部36を有する軸芯を中心とする八角形となる。凹部35の径は、小ギア部材10の凸部17の径とほぼ等しく、深さは凸部17の長さとほぼ等しい。凹部35の奥側(ギア部側)は、ベース部37であり、軸芯には軸孔38が貫通している。軸孔38の径は、小ギア部材10の軸孔13の径に等しい。
【0023】
スリーブ部31の、凹部35の各側面(八角形の各辺に当たる面)の、外側の部分には、外周面からえぐられた肉盗み部41が設けられている。そして、同肉盗み部41に連続するフランジ部33の基部には、同部を貫通する孔部43が開けられている。肉盗み部41と孔部43の正面形状は、図4(A)に示すように、放射状外方向に向かって広がる略台形状である。詳細には、肉盗み部41の内側の縁は、スリーブ部31の曲率とほぼ同じ曲率の円弧であり、円弧の長さは、凹部35の側面の幅よりもやや狭い。連通する肉盗み部41と孔部43の幅は、この縁から外方向に向かって徐々に拡がっている。このような肉盗み部41及び孔部43を設けることにより、スリーブ部31の凹部35の各側面の外側の部分31bの厚さが薄くなっている。
【0024】
図2(B)に示すように、小ギア部材10と大ギア部材30とは、小ギア部材10のシャフト部15を、大ギア部材30のスリーブ部31に挿入することにより同軸上に連結されている。両部材10、30の軸孔13、38は連通し、シャフト部15はスリーブ部31に嵌合して、シャフト部15の先端面に形成された凸部17が、スリーブ部31の凹部35に嵌合している。この際、図2(C)に示すように、凸部17の外周面に設けられた外突部18が、凹部35の隅部36に位置するように、両部材10、30が位置決めされている。これにより、外突部18が隅部36に係合し、両部材10、30は一体に回転する。また、小ギア部材10のシャフト部15の外周面15aと大ギア部材30のスリーブ部31の内周面31aとは、同じ回転対称形(この例では正面形状が円形)であるので、両周面15a、31aが密に接触し、両部15、31は密に嵌合する。両部材10、30は、例えば、嵌合部のガタをなくすために、軽圧入で組み込むことができる。
【0025】
次に、トルクリリース機構20について説明する。
図5は、トルクリリース機構を説明する図であり、図5(A)はトルクが所定値以下の場合の、両ギア部材の係合部の一部を模式的に示す図であり、図5(A)はトルクが所定値を超えた場合の、両ギアの係合部の一部を模式的に示す図である。
小ギア部材10あるいは大ギア部材30のいずれかにかかるトルクが所定値以下の場合、図5(A)に示すように、小ギア部材10の凸部17に設けた外突部18と大ギア部材30の凹部35の隅部36との摩擦係合力によりトルクが伝達される。
【0026】
しかし、いずれかの部材に外突部18と隅部36との係合が耐えきれなくなるほどのトルクがかかると、両部材が相対的に回転しようとして、外突部18が隅部36から離れようとする。つまり、図5(A)の想像線に示すように、外突部18が隅部36から凹部35の側面に沿って円周方向(この図では反時計方向)に相対的に移動しようとする。ここで、外突部18の先端(隅部36)と軸芯O間の距離L1と、凹部35の側面の中心と軸芯O間の距離L2とは、L1>L2の関係である。図5(A)の想像線で示すように、外突部18が凹部35の隅部36から側面に沿って円周方向に側面の中心まで移動した場合、前述の寸法関係により、外突部18と凹部35の側面との間で寸法的な干渉が生じる。この干渉により、外突部18が側面を押し広げる、あるいは、側面が外突部18を押し付けるように作用する圧縮力が生じる。この例では、側面の外側に、肉盗み部41によって厚さが薄くなり、弾性変形しやすいスリーブ部31bが存在するので、圧縮力によって、図5(B)に示すように、外突部18が側面を外方向に押し広げる。言い換えると、このようにスリーブ部31bが外方向に弾性変形することによって、外突部18が、最も弾性変形性が発揮される凹部35の側面の中心付近まで移動できる。つまり、両ギア部材10、30間に同軸上の角度滑りが生じ、トルクの伝達が遮断される。なお、この角度滑りの際、前述のように小ギア部材10のシャフト部15は、大ギア部材30のスリーブ部31に密に嵌合しているので、両部材の同軸度が維持され、軸ブレが生じない。
【0027】
このような角度滑りによって過大なトルクがリリースされるので、過大トルク時に各ギア部材のギアの破壊を防ぐことができる。
【0028】
なお、角度滑りが生じる際は、小ギア部材10の凸部17の外突部18は、滑り前に係合していた大ギア部材30の凹部35の隅部36から、隣あるいはさらに次の隅部36まで滑り、弾性変形していたスリーブ部31は元の形状に戻る。そして、過大トルクが収まった後は、再びトルク伝達可能状態となる。
【0029】
この歯車組立体においては以下のような変更が可能である。
(1)小ギア部材10の凸部17に設けた外突部18の数(大ギア部材30の凹部35の隅部36の数)を8個以外とすることもできる。ただし、前述の、外突部先端と軸芯間の距離L1と、凹部の側面の中心と軸芯間の距離L2との差を考慮すると、8個以上であることが好ましい。
(2)小ギア部材10の凸部17の正面形状を多角形とし、大ギア部材30の凹部35の側面に、凸部17の角部と同じ数の突部を設けてもよい。
(3)大ギア部材30に設けた肉盗み部41と孔部43を、小ギア部材10の凸部17の、外突部18の内側の部分に設けてもよい。
(4)大ギア部材30の凹部35の正面形状の多角形の各辺は、必ずしも直線でなくてもよい。
【0030】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る歯車組立体を説明する分解斜視図である。
図7は、図6の歯車組立体の側断面図である。
図8は、小ギア部材を示す図であり、図8(A)は正面図、図8(B)は側断面図である。
図9は、大ギア部材を示す図であり、図9(A)は正面図、図9(B)は側断面図、図9(C)は図9(A)の一部を拡大して示す図である。
この例の歯車組立体1Aも、第1の実施の形態と同様に、同軸上に連結される小ギア部材10Aと大ギア部材30Aとからなり、両部材の間に過大トルクリリース機構20Aが設けられている。小ギア部材10A及び大ギア部材30Aは樹脂(ナイロン系エンジニアプラスチック)製である。以下、図1の歯車組立体1と異なる部分を主に説明する。図1の歯車組立体と同じ構成・作用を有する部品・部材は、図1と同じ符号を付し、説明を省略する。
【0031】
図8に示すように、小ギア部材10Aの凸部17(第1凸部という)の先端面には、軸方向に突出した第2凸部27が形成されている。第2凸部27の径は、第1凸部17の径よりも小さい。第2凸部27の外周面には、外方向に突出する外突部28が、等しい中心角度で8個形成されている。ここで、図8(A)に示すように、第1凸部17の外突部18と第2凸部27の外突部28の円周方向位置はほぼ等しい。
【0032】
図9に示すように、大ギア部材30Aの凹部35(第1凹部という)の奥側(フランジ部33側)には、軸方向に凹んだ第2凹部45が形成されている。第2凹部45の径は、第1凹部35の径よりも小さく、小ギア部材10Aの第2凸部27の径とほぼ等しい。また、第2凹部45の長さは、第2凸部27の長さとほぼ等しい。第2凹部45も、正面形状が、小ギア部材10Aの第2凸部27に設けられた外突部28の個数と同じ数の隅部を有する多角形となるように形成されている。この例の場合、第2凹部の正面形状は、8個の隅部46を有する軸芯を中心とする八角形となる。なお、図9(C)に示すように、第1凹部35の隅部36の円周方向位置と第2凹部45の隅部46の円周方向位置とは、所定の中心角度θ(この例では2〜7°)ずれている。
【0033】
次に、小ギア部材10Aと大ギア部材30Aとの係合について、図7、図10を参照して説明する。
図10は、大ギア部材と小ギア部材とを係合状態を模式的に説明する図である。
図7に示すように、小ギア部材10Aと大ギア部材30Aとは、小ギア部材10Aのシャフト部15を、大ギア部材30Aのスリーブ部31に挿入することにより同軸上に連結されている。シャフト部15はスリーブ部31に嵌合しており、シャフト部31の先端面に形成された第1凸部17は、スリーブ部31の第1凹部35に嵌合し、第2凸部27が第2凹部45に嵌合している。ただしこの例においては、図9(C)に示したように、大ギア部材30Aの第1凹部35の隅部36の円周方向位置と第2凹部45の隅部46の円周方向位置とが異なるので、例えば、小ギア部材10Aの第2凸部27の外突部28を大ギア部材30Aの第2凹部45の隅部46に係合させると、第1凸部17の外突部18は、第1凹部35の隅部36に係合しない。
【0034】
そこで、第2凸部27の外突部28を第2凹部45の隅部46に係合させた状態で、第1凸部17の外突部18を第1凹部35の隅部36に強制的に係合させると、図10に示すように、本来同じ円周方向位置(図のラインOP)にある第1凸部17の外突部18と第2凸部27の外突部28とが同じ円周方向位置に並ぼうとして、軸方向に離れた両係合部間に引き合う力が発生し、両部材がねじれる。具体的には、第1凸部17の外突部18と第1凹部35の隅部36との係合部に反時計方向に回転する力がかかり、第2凸部27の外突部28と第2凹部45の隅部46との係合部には、その反対方向である時計方向に回転する力がかかる。この力の関係により、小ギア部材10Aと大ギア部材30Aとの間にねじれの予圧がかかり、両者がガタつかなくなる。
【0035】
第1の実施の形態の歯車組立体1においては、トルクリリース機構の繰り返し動作によっては、各部材の弾性の劣化や疲労による回転ガタや、クリープによる部品のガタが発生する。一方、第2の実施の形態の歯車組立体1Aにおいては、前述したような大ギア部材30Aと小ギア部材10Aとの間に、素材の弾性変形により引き合う方向のねじれ力が作用しているので、両者の係合力が高められる。このため、回転ガタや部品のガタを低減できる。さらに、滑り状態から復帰する時の音の低減にも効果がある。
【0036】
この例の歯車組立体においては、前述の変更例の他に以下の変更が可能である。
(1)小ギア部材10Aの第1の外突部18と第2の外突部28とは、必ずしも同じ円周方向位置に並んでいなくてもよい。つまり、第1の外突部18と第1の隅部36とが係合する第1の係合部と、第2の外突部28と第2の隅部46とが係合する第2の係合部との間に、円周方向において引き合う力が発生する関係であればよい。
【0037】
次に、図1の歯車組立体を有する減速機について説明する。
図11は、図1の歯車組立体を有する減速機の構成の一例を模式的に説明する側断面図である。
この例の減速機50は、モータ51の回転軸51a(入力軸)と、同回転軸51aと第1の歯車組立体60と第2の歯車組立体70とを介して回転が伝達される出力軸57とを有する。
【0038】
モータ51はケーシング55の側面に取り付けられており、回転軸51aはケーシング55内に突き出ている。回転軸51aの先端にはギア52が固定されている。このギア52は、第1の歯車組立体60と噛み合っている。第1の歯車組立体60は、ピニオン軸61に固定された、大径の入力ギア62と小径の出力ギア63とを有する。ピニオン軸61の両端は、軸受65によってケーシング51に支持されている。モータ軸51aのギア52は、第1の歯車組立体60の入力ギア62に噛み合っている。第1の歯車組立体60の出力ギア63は、第2の歯車組立体70と噛み合っている。
【0039】
第2の歯車組立体70は、ピニオン軸71固定された、図1で示した歯車組立体1を有する。ピニオン軸71は、歯車組立体1の両部材10、30の軸孔を貫通して固定されており、両端は軸受72によってケーシング55に支持されている。第1の歯車組立体60の出力ギア63は、第2の歯車組立体70の大ギア部材30のフランジ部に形成されたギア34に噛み合っている。出力軸57にはギア58が固定されており、両端が軸受59でケーシング55に支持されている。第2の歯車組立体70の小ギア部材18のギア11は、出力軸57に固定されたギア58と噛み合っている。
【0040】
モータ51の回転は第1及び第2の歯車組立体60、70によって減速されて出力軸57に伝えられる。また、最も出力軸57寄りで歯車組立体70により過大トルクをリリースしているので、減速機内の各パーツの破壊を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る歯車組立体の分解斜視図である。
【図2】図1の歯車組立体を示す図であり、図2(A)は正面図、図2(B)は側断面図、図2(C)は図2(B)のC−C断面図である。
【図3】小ギア部材を示す図であり、図3(A)は正面図、図3(B)は側断面図である。
【図4】大ギア部材を示す図であり、図4(A)は正面図、図4(B)は側断面図である。
【図5】トルクリリース機構を説明する図であり、図5(A)はトルクが所定値以下の場合の、両ギア部材の係合部の一部を模式的に示す図であり、図5(A)はトルクが所定値を超えた場合の、両ギアの係合部の一部を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る歯車組立体を説明する分解斜視図である。
【図7】図6の歯車組立体の側断面図である。
【図8】小ギア部材を示す図であり、図8(A)は正面図、図8(B)は側断面図である。
【図9】大ギア部材を示す図であり、図9(A)は正面図、図9(B)は側断面図、図9(C)は図9(A)の一部を拡大して示す図である。
【図10】大ギア部材と小ギア部材とを係合状態を模式的に説明する図である。
【図11】図1の歯車組立体を有する減速機の構成の一例を模式的に説明する側断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 歯車組立体
10 小ギア部材 11 ギア部
13 軸孔 15 シャフト部
17 凸部(第1凸部) 18 外突部(第1外突部)
20 過大トルクリリース機構
27 第2凸部 28 第2外突部
30 大ギア部材 31 スリーブ部
33 フランジ部 34 ギア
35 凹部(第1凹部) 36 隅部(第1隅部)
37 ベース部 38 軸孔
41 肉盗み部 43 孔部
45 第2凹部 46 第2隅部
50 減速機 51 モータ
52 ギア 55 ケーシング
57 出力軸 58 ギア
60 第1の歯車組立体 61 ピニオン軸
62 入力ギア 63 出力ギア
65 軸受け 70 第2の歯車組立体
71 ピニオン軸 72 軸受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上において連結された小ギア部材と大ギア部材、及び、両部材の間に設けられた過大トルクリリース機構からなる歯車組立体であって、
いずれか一方の部材には凹部が形成されており、
他方の部材には、前記凹部と嵌合して両部材間でトルク伝達する凸部が形成されており、
前記凹部が、前記軸の垂直断面において同軸を中心とする多角形をしており、
前記凸部が、前記凹部の多角形の各隅部に係合する外突部を有しており、
前記トルクが所定値以下では、前記凹部の隅部と前記外突部の係合により両部材間でトルク伝達され、
前記過大トルクリリース機構として、前記トルクが所定値を超えたときに、前記凸部の外突部が前記凹部の隅部から該凹部の側面上を滑って両凹凸部間で同軸周りの角度滑りが生じる機構が設けられており、
該角度滑りによって発生する、前記凹部の側面と前記凸部の外突部との間に生じる圧縮力を緩和する弾性変形部が、前記凹部の側面又は前記凸部の外突部の近傍に形成されていることを特徴とする過大トルクリリース機構付き歯車組立体。
【請求項2】
前記角度滑りによって発生する、前記凹部の側面と前記凸部の外突部との間に生じる圧縮力が、
前記凸部の外突部先端と前記軸間の距離L1と、前記凹部の側面の中心付近と前記軸間の距離L2とが、L1>L2の関係であることによって、前記外突部が前記側面を押し上げる、あるいは、前記側面が前記外突部を押し下げるように作用する力であることを特徴とする請求項1に記載の歯車組立。
【請求項3】
前記小ギア部材が、
ギア部と、該ギア部から同軸上に延びるシャフト部と、を有し、
該シャフト部の先端に前記凸部が形成されており、
前記大ギア部材が、
スリーブ部と、該スリーブ部の一方の端部から外方向に拡がり、周囲にギアが切られたフランジ部と、を有し、
前記スリーブ部の、前記フランジ部側端部付近の内面に、前記凹部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車組立。
【請求項4】
前記弾性変形部が、前記大ギア部材の前記スリーブ部外面における、前記凹部の各側面の外側に位置する部分に形成された肉盗み部と、該肉盗み部と連通する、前記フランジ部の基部に開けられた孔部と、であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の歯車組立。
【請求項5】
前記小ギア部材のシャフト部外面に回転対称外周面が形成されており、前記大ギア部材のスリーブ部内面に回転対称内周面が形成されており、両周面が密に嵌合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯車組立。
【請求項6】
前記凸部及び凹部が、同軸上に2段に配置されており、
前記2段の凹部の隅部及び前記2段の凸部の外突部のいずれか一方又は双方が、各段において円周方向に小角度ずれて配置されており、
前記トルクが所定値以下のとき、前記ずれて配置されている隅部と外突部との係合部の各々の間に、両部の円周方向における中心位置に引き寄せられるねじれ力が発生することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯車組立。
【請求項7】
前記小ギア部材が、
ギア部と、該ギア部から同軸上に延びるシャフト部と、を有し、
該シャフト部の先端に前記2段の凸部が形成されており、
前記大ギア部材が、
スリーブ部と、該スリーブ部の一方の端部から外方向に拡がり、周囲にギアが切られたフランジ部と、を有し、
前記スリーブ部の、前記フランジ部側端部の内面に、前記2段の凹部が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の歯車組立。
【請求項8】
入力軸と、該入力軸と複数の歯車組立体を介して回転を伝達される出力軸と、を有する減速機であって、
前記出力軸の一段前側に設けられた歯車組立体が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯車組立体であることを特徴とする減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−96295(P2010−96295A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268482(P2008−268482)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(593137554)株式会社東京マイクロ (23)