説明

過熱水蒸気を用いた湿熱処理澱粉の効率的な製造法

【課題】より安価で、多量に生産することができ、従来のものより品質の優れた湿熱処理澱粉を供給すること。
【解決手段】内壁の温度を高めるために周囲に加熱装置と内部の澱粉を混合する装置の付いた密閉できる容器を用いて、過熱度1〜30℃の過熱水蒸気を導入して加熱することにより、より安価で、多量に生産することができ、かつ膨潤が抑制され、耐熱性、耐酸性に優れた湿熱処理澱粉を作ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分散液を加熱したときに澱粉粒子の膨潤が抑制され、澱粉粒子が崩壊しにくくなり、糊液の耐熱性及び耐酸性が優れた湿熱処理澱粉の効率的製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工食品の製造時にその食品に耐熱性、耐熱性、機械耐性及び安定性を持たせるために化学的に合成された澱粉が使用されてきた。
【0003】
一方、化学的に処理された澱粉とは異なり、水と熱だけを使用して物理的に処理された澱粉として、湿熱処理澱粉が知られている。
【0004】
湿熱処理澱粉は、加熱しても糊化しない程度の水分を含む澱粉粒子を、適当な水分の存在下で加熱することにより得られるものであり、解重合などの科学的変化をほとんど伴わず、安全性の高い食品として認識されている(非特許文献1及び2参照)。
【0005】
最近、湿熱処理澱粉の特性が研究され、種々の食品に用いられるようになってきた。
例えばレトルト食品、カスタードクリーム、電子レンジ対応食品等がある。
【0006】
湿熱処理澱粉の製造法は馬鈴薯澱粉やコーンスターチを関係湿度100%の下で95〜100℃で、加熱すると、湿熱処理澱粉ができることはL.Sairによって報告されている。この報告によれば、澱粉を厚さ2cm程の薄い層にに広げて、関係湿度100%の加圧容器に入れ95〜100℃で16時間ほど加熱している。また澱粉に加湿して水分を18〜27%に調節して密閉した容器に入れエアーオーブン中で加熱することが試みられている。
【0007】
しかし、これらはいずれも研究用の製法で工業的に多量に生産することはできなかった。最近になって減圧加圧加熱法と言われる方法が関発され工業的に湿熱処理澱粉が生産されるようになった。この方法は第1段階で澱粉を容器中に入れ密閉し減圧し、第2段階で飽和蒸気を容器内に導入し、加湿加熱するシステムである。(特許文献1)
【0008】
しかし、この方法は装置等にコストがかかり、操作が困難なため湿熱処理澱粉が高価になっている。そのため特性は良く、安全性が高いのに使用が広がっていない状況である。
最近市場では安全性に優れ、かつ有用な特性を持つ湿熱処理澱粉がより安価に供給されることが強く求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2996707号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】福井俊郎、「澱粉科学実験法」、朝倉書店、1979年、242−245頁
【非特許文献2】蔵橋嘉樹、「澱粉科学の事典」、朝倉書店、2003年、417−421頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はより安価で、多量に製造することができ、従来のものより品質の優れた湿熱処理澱粉を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は湿熱処理澱粉をより安価で、多量生産でき、かつ品質の優れた製造方法を得ることを課題として鋭意検討を重ねた。
【0013】
その結果、過熱度が1〜30℃の過熱水蒸気を用いて、加熱を行うことにより、装置がより安価で、多量に生産ができ、かつ品質の優れた湿熱処理澱粉が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は以下の湿熱処理澱粉の効率的製造法に関する。
【0015】
項1:空気及び過熱水蒸気の排出ラインと加圧過熱水蒸気の投入ラインを付設し、内壁を加熱するために周囲に加熱装置を持ち、澱粉を混合する装置を付設した内圧に耐圧性の密閉できる容器を用い、予め内壁の温度を導入する過熱水蒸気の温度と過熱度に基づいて高めておき、そこへ澱粉を投入し、混合しながら、空気及び過熱水蒸気の排出バルブを開け、過熱度1〜30℃の過熱水蒸気を導入し、内部の空気を排出した後、排出ラインのバルブを閉じ、澱粉を所定時間加熱することを特徴とする湿熱処理澱粉の効率的製造法。
【0016】
導入される過熱水蒸気の温度は101〜180℃で、好ましくは102〜150℃、より好ましくは103〜140℃である。過熱水蒸気の温度が180℃より高くなると風味が悪くなり、101℃より低いと膨潤抑制効果が得られない。
【0017】
加熱時間は1〜180分で好ましくは2〜150分で、より好ましくは2〜140分である。加熱時間が180分より長くなると風味が悪くなり、1分より短くなると膨潤抑制効果が得られない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、より安価な装置で、より多量に、そしてより短い時間でしかも、より品質の優れた湿熱処理澱粉を製造することが可能である。
【0019】
また本発明の方法は、澱粉を処理する温度や時間そして過熱度をコントロールすることにより、所望の物性の湿熱処理澱粉を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
湿熱処理が澱粉に及ぼす機能については以下のようになる。
糊化開始温度の上昇する、耐熱性が増す、耐酸性が増す、耐機械せん断力が増す、レジスタントスターチの含有量が増す、電子レンジに対する耐性が増す等が知られている。
【0021】
過熱水蒸気とは沸点以上に熱せられた水蒸気のことであり、温度が多少下がっても復水しない水蒸気のことである。
このように圧力に相当した飽和水蒸気温度より高い温度の水蒸気を過熱水蒸気という。
本来過熱水蒸気はオーブン等に用いられ、食品の焼成や乾燥に用いられている。
これを湿熱処理澱粉の製造に用いるには過熱度が重要になる。
【0022】
過熱度とは過熱水蒸気の温度と飽和水蒸気の温度(沸騰点)との差のことである。
すなわち、過熱水蒸気の温度と同じ圧力の飽和水蒸気での温度との差である。
【0023】
装置のコストを安価に、かつ多量生産に適した湿熱処理澱粉の製造法を研究した結果、過熱水蒸気を用いれば、飽和水蒸気より熱効率が良いので適しているのではないかと検討行った結果、一般的に用いられている過熱水蒸気を用いたところ、逆に耐熱性が悪くなった。それは使用した過熱水蒸気の温度が常圧で350℃と高かったためであった。
【0024】
そこで本発明者は過熱度の問題ではないか考えと鋭意研究を行った。
その結果、過熱度が30℃より大きくなると澱粉は乾燥加熱状態になり、熱分解が起こり、澱粉粒子が湿熱処理澱粉の性質と異なり粒子の膨潤が抑制されにくくなり、耐熱性、耐酸性が無くなり、水に溶けやすくなった。
【0025】
過熱度が1℃より低くなると結露が起こりやすくなり、加熱の途中で澱粉の糊化が起こる。
【0026】
即ち過熱度1〜30℃の範囲であると、飽和水蒸気を用いて作った湿熱処理澱粉と比較して短時間に作ることができ、耐熱性、耐酸性、機械耐性に優れたものができる。
好ましくは2〜25℃、さらに好ましくは3〜20℃である。
【0027】
本発明を構成しているもう一つの重要なポイントは装置である。
即ちその過熱度を保つために内圧に耐える圧力容器が必要となり、そして内壁の温度は導入される過熱水蒸気の温度と過熱度に基づいて設定する。コントロールが安定化するには導入される過熱水蒸気と同程度の温度にしておくのが良い。
【0028】
又、原料となる澱粉も過熱水蒸気導入時に結露が起こらないようにするためにその品温を高めておく必要がある。
そして、原料澱粉を均一に混合するために攪拌機が必要である。
【0029】
本発明に用いられる澱粉はタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、とうもろこし澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等澱粉類があり、又澱粉を多く含む米粉、小麦粉、コーンフラワー等穀粉も含む。
【実施例】
【0030】
以下に本願発明を実験例及び実施例によって説明する。
下記の実験例において、下記のものを原材料として用いた。
コーンスターチ
馬鈴薯澱粉
小麦澱粉
評価 過熱度の異なった過熱水蒸気を用いて湿熱処理澱粉を作成してその効果を比較した。
【0031】
(1)過熱水蒸気を用いた湿熱処理澱粉の作成
周囲に加熱装置が付設され、過熱水蒸気導入ライン、空気と過熱水蒸気排出ライン、原料投入口、原料取り出し口及び内部に投入された澱粉を混合するための攪拌装置のついた内圧に耐圧の密閉容器を用い、密閉容器の内壁の温度を導入される過熱水蒸気と同じ温度に設定し、そこへ原料澱粉を投入し、攪拌を行いながら、過熱度の異なった過熱水蒸気を導入する。
【0032】
空気と過熱水蒸気の排出バルブを開き、内部の空気を十分に排出した後、その排出ラインを閉じ、加圧して一定温度で一定時間加熱を行い、加熱終了後過熱水蒸気導入ラインを閉じ、空気及び蒸気の排出ラインのバルブを開け、処理した澱粉を容器より取り出し冷却した後、粉砕を行い、その物性を調べた。
【0033】
かくして得た澱粉の物理的性質を次に示す方法で調べた。
【0034】
1) 湿熱処理を終了し容器が取り出した時の状態を目視で調べた。
評価基準 ◎:非常に均一で状態が良い
○:均一で状態が良い
△:やや均一である
×:不均一で塊がある
2) ブラベンダーアミログラフによる粘度の変化を調べた。
【0035】
ブラベンダーアミログラフによる粘度特性は以下のごとく行った。即ち、全量450gの澱粉乳液懸濁液を調製する。それぞれの澱粉に適応した濃度(無水物換算)で行う。そして、それをアミログラフにかけた。50℃より毎分1.5℃の速度で昇温し、95℃、即ち30分昇温加熱後30分間同温度に保ち以後毎分1.5℃の速度30分冷却し、この間連続的に粘度を読み取った。結果として粘度の立ち上がり開始温度(糊化開始温度)及び最高粘度到達温度、及びその時の粘度、95℃達温粘度、95℃30分加熱後の粘度、及び50℃まで冷却した時の粘度をそれぞれ測定した。
【0036】
その結果澱粉粒子が残存しており、昇温時の最高粘度が低いものは膨潤が良く抑制されていると認められる。澱粉の膨潤が良く抑制されていると糊液の耐熱性、耐酸性及び粘度安定性が増す。又食感も糊状感が少なくなり、いわゆる付着性が少なくなり、ショートな食感になる。
【0037】
アミログラフより澱粉粒子の膨潤及び崩壊の抑制を次の基準で評価した。
◎: 非常に抑制されている
○: 抑制されている
△: やや抑制されている
×: 抑制されてない
【0038】
3) ブラベンダーアミログラフ測定後の糊液の顕微鏡観察を行った。
澱粉粒子の状態を観察した。
評価基準 ◎:澱粉粒子の膨潤が抑制されており、崩壊していない。
○:大部分の澱粉粒子が崩壊せず残存している。
△:大部分の澱粉粒子が崩壊しているが、残存しているものもある。
×:澱粉粒子が崩壊している。
【0039】
4) 糊液を調製して、耐熱性試験を行った。
原料澱粉により、異なるが一定の濃度に調製した澱粉の水分散液を95℃で加熱後40℃に冷却してB型粘度計で粘度を測定した。これを、オートクレーブ中で120℃20分間加圧加熱し40℃に冷却後、粘度を計った。
【0040】
オートクレーブの加熱前後の粘度の低下のないものが耐熱性ありと評価した。
耐熱性は次の基準で評価した。
◎:非常に耐熱性あり
○:耐熱性あり
△:やや耐熱性あり
×:耐熱性なし
実験例1原料澱粉としてコーンスターチを用いた場合の試験結果を次に示す。
【0041】
【表1】

実験例2原料として馬鈴薯澱粉を用いた場合の試験結果を次に示す
【0042】
【表2】

実験例3原料として小麦澱粉を用いた場合の試験結果を次に示す
【0043】
【表3】

【0044】
表1、2、3より明らかなように、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉を用いて、過熱度を変えて試験を行った結果、過熱度が1〜30℃の時、澱粉の膨潤抑制に効果があり、かつ耐熱性に優れていることが分かった。
【産業上の利用の可能性】
【0045】
本発明の方法により、より安価で品質の良い、即ち耐熱性、耐酸性、機械耐性に優れた湿熱処理澱粉が供給されるようになり、安全で風味及び食感に優れた食品ができるようになる。
具体的には風味、食感及び粘度安定性に優れたカスタードクリーム、スープ、ソース、レトルト食品、ドレッシング、ソフトヨーグルトに多く使用されるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気及び過熱水蒸気の排出ラインと加圧過熱水蒸気の投入ラインを付設し、内壁を加熱するために周囲に加熱装置を持ち、澱粉を混合する装置を付設した内圧に耐圧性の密閉できる容器を用い、予め内壁の温度を導入する過熱水蒸気の温度と過熱度に基づいて高めておき、そこへ澱粉を投入し、混合しながら、空気及び過熱水蒸気の排出バルブを開け、過熱度1〜30℃の過熱水蒸気を導入し、内部の空気を排出した後、排出ラインのバルブを閉じ、澱粉を所定時間加熱することを特徴とする湿熱処理澱粉の効率的製造法。

【公開番号】特開2011−229515(P2011−229515A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115784(P2010−115784)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(505337456)
【Fターム(参考)】