説明

遠心分離機

【課題】
電源周波数によって動作する交流電圧が異なる冷却機を用いた遠心分離機において、現地で設置する作業者による配線の接続切替え作業ミスを無くした遠心分離機を提供する。
【解決手段】
試料を収容するロータ2と、ロータ2を回転駆動するモータ3と、ロータ室を冷却する冷却機8を有する遠心分離機において、複数の二次側タップを有し、一次側から入力される交流電圧30を複数の電圧に変換して出力するトランス15と、トランス15の複数の二次側タップと接続され二次側タップのいずれかの出力を選択して冷却機8に出力する電圧切替え手段21を設けた。マイクロコンピュータ27は、ゼロクロス検出回路26の出力を用いて判別された電源周波数に対応して電圧切替え手段21を制御し、冷却機8に所望の駆動電圧を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータを高速回転させる遠心分離機に関し、特に、電源周波数判別による冷却機への駆動電圧切替えを自動で行うようにした遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠心分離機は商用電源で動作するコンプレッサを搭載した冷却機を備え、ロータに収容された分離すべき試料を高速回転させて遠心分離する際、ロータ室内の空気とロータとの摩擦熱により試料温度が上昇するのを防止するため、冷却機を駆動してロータ室内を冷却し、試料の温度が所望の目標温度になるように制御していた。
【0003】
具体的には、ロータ室内の温度を温度センサでセンシングし、冷却機をオン/オフ制御する。ロータ室内温度はオーバーシュート、アンダーシュートを繰返してロータ室内の温度を脈動させながら所望の目標温度に近づけるように制御していた。このとき、温度制御誤差を補うため、予め実験して求めておいた目標温度と試料温度の差である温度補正値を用いて制御温度の高精度化を図っていた。
【0004】
上記した冷却機には、電源周波数が50Hz又は60Hzによって駆動電圧が異なるように構成されたものがあり、このような冷却機を用いる場合には、電源周波数の違いによって冷却機に供給される駆動電圧を変更させる必要がある。例えば、駆動電圧がAC100V付近で動作する冷却機の場合、交流周波数が50Hz環境の場合は冷却機にAC100Vの駆動電圧を供給し、交流周波数が60Hz環境の場合はAC115Vの駆動電圧を供給する必要がある。
【0005】
近年、遠心分離機においては海外規格適合の要求が益々高まっている。こうした中、北米などの海外規格に適合した冷却機の多くは、電源周波数(50Hz/60Hz)に関わらずに同じ電圧で動作するものがラインナップされておらず、電源周波数によって動作電圧が異なる。そのため、遠心分離機の製造業者は、仕向け先の国・地域別に電圧を切り替える作業、具体的にはトランスのタップ接続切替え等の作業を行っていた。
【0006】
また電源周波数に関しては、日本のように50Hz/60Hzを併用している国があることから、国別に自動的に仕向けることができない場合もあり、その場合は、設置する場所の電源周波数に応じて、現地の設置作業者が接続切替え作業を現地で行うようにしている。こうした作業は手間が掛かる上に、作業ミスなどのリスクを伴う。また、現地の設置作業者がトランスのタップ接続切替えを忘れてしまうといった問題がある。
【0007】
電源周波数の違いで駆動能力が異なる電気機器の例として、交流電源で駆動する冷却ファンがある。交流駆動式の冷却ファンは、電源周波数50Hzと60Hzとでは回転数が異なるため、風量及びファン音が異なる。そこで特許文献1では、必要風量の確保、またファン音の低減を目的に電源周波数を分別し冷却ファンに印加する電圧を制御するようにしているが、遠心分離機における冷却機の駆動電圧を変えることについては何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3291856号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、コンバータ回路/インバータ回路を用いて冷却機を駆動する方式がある。本方式では電源周波数に関わらず冷却機を駆動できるというメリットがある一方、駆動回路が複雑、大きい、高額になってしまうなどのデメリットがある。
【0010】
一方、遠心分離機においてはロータ室を所望の温度に保つために、冷却機を断続的に稼働させるオン/オフ制御が行われる。この冷却機をオンにして起動する際に、起動電流が数サイクル間で数十アンペア流れることから、リレーなどの機械的なオン/オフ動作は接点が痛んでしまい遠心分離機の寿命を短くしてしまう恐れがある。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、現地の設置作業者が行っていた配線の切替え作業を無くして、冷却機を駆動する電圧の切替えを自動化させた遠心分離機を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、マイクロコンピュータによって冷却機等の周波数及び電圧依存機器への電圧供給を容易に切り替えるように構成した遠心分離機を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、冷却機を頻繁にオン/オフ制御してもリレーの接点が溶着しない長寿命の冷却機の駆動回路を有する遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0015】
本発明の一つの特徴によれば、遠心分離される試料を収容するロータと、ロータを回転駆動するモータと、ロータを収容するロータ室を画定するボウルと、ボウルを冷却することによってロータ室を所望の温度に保つための冷却機と、モータの回転と冷却機の運転の制御する制御部(制御装置)を有する遠心分離機において、複数の二次側タップを有し一次側から入力される交流電圧を複数の電圧に変換して出力するトランスと、トランスの複数の二次側タップと接続され二次側タップのいずれかの出力を選択して冷却機に出力する電圧切替え手段と、交流電圧の周波数を判別する周波数判別手段とを設け、制御部は周波数判別手段によって判別された電源周波数に対応した二次側タップを選択するように電圧切替え手段を制御する。ここで用いられる冷却機は、複数の電源周波数によって動作可能であって、電源周波数毎に動作電圧が異なるように構成されたものである。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、モータ及び制御部に供給される交流電圧は、電圧切替え手段を介さずにトランスの二次側タップのいずれかから供給される。トランスは一次巻線及び二次巻線に複数のタップを有する降圧トランスとすると好ましい。周波数判別手段は、トランスの二次側タップのいずれかと接続され、トランスの出力電圧が0V電位をクロスするタイミングを検出するゼロクロス検出手段と、ゼロクロス検出手段から出力されたゼロクロス信号の間隔を測定することにより電源周波数を算出する算出手段を含む。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御部はマイクロコンピュータを含み、算出手段はマイクロコンピュータによって実現される。電圧切替え手段から冷却機の接続は、冷却機へ通電をオン又はオフ制御する半導体リレーを介して行い、半導体リレーは制御部によってオン/オフ制御される。半導体リレーは、ゼロクロス内蔵タイプのソリッドステートリレーとすると良い。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、トランスの複数の二次側タップと接続され、いずれかの二次側タップの出力を選択して冷却機に出力する電圧切替え手段を設け、制御部が周波数判別手段によって判別された電源周波数に対応した二次側タップを選択するように電圧切替え手段を操作し、適切な電圧を冷却機に供給するようにしたので、現地で行っていた配線の切替え作業を無くすことができ、冷却機を駆動する電圧の切替えを自動化させた遠心分離機を提供することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、冷却機は複数の電源周波数によって動作可能であって、電源周波数毎に動作電圧が異なるように構成されるので、電源周波数に即した適切な電源電圧を自動的に供給できる遠心分離機を提供することができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、モータ及び制御部に供給される交流電圧は、電圧切替え手段を介さずに、トランスの二次側タップのいずれかから供給されるので、電圧切替え手段による電圧切替え時の瞬断に影響されることなく安定して動作させることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、トランスは一次巻線及び二次巻線に複数のタップを有する降圧トランスであるので、複数の電源電圧、電源周波数の国においても使用することができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、ゼロクロス検出手段から出力されたゼロクロス信号の間隔を測定することにより電源周波数を算出するので、制御部は電源周波数に応じた適切な電源電圧管理を行うことができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、制御部はマイクロコンピュータを含み、算出手段はマイクロコンピュータによって実現されるので、コンピュータプログラムを用いて様々な制御を行うことができる。
【0024】
請求項7の発明によれば、電圧切替え手段から冷却機の接続は、冷却機へ通電をオン又はオフ制御する半導体リレーを介して行うので、リレーなどのように機械的な接点で直接冷却機をオン/オフしないですみ、冷却機の駆動回路の寿命を長くすることができる。
【0025】
請求項8の発明によれば、半導体リレーは、ゼロクロス内蔵タイプのソリッドステートリレーであるので、出力電圧のONへの切り替えを電圧0Vの時に行うことができ、冷却機の起動電流が安定するため、起動時の動作が安定するとともにノイズレベルを抑えることができる。
【0026】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構成の概略を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る遠心分離機1の電源供給回路を示すブロック図である。
【図3】図2の電圧切替え手段21の構成を示す切替え回路図である。
【図4】図2の電圧切替え手段21の変形例の構成を示す切替え回路図である。
【図5】本発明の実施例に係る遠心分離機1の電源周波数判別処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0028】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。図1は本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構成の概略を示す断面図である。
【0029】
遠心分離機1は、本体内部にロータ室4を備え、ロータ室4の下方には駆動源であるモータ3とモータ3の回転数を検出するためのエンコーダ11が設けられる。モータ3から上方であってボウル5の内部へ延びる出力軸(モータ軸)13の先端部には、ロータ2が着脱可能に装着される。ボウル5は、上部に円形の開口部を有する略円筒形の容器であり、ロータ室4を画定する。ボウル5の上側の開口部は、ドア12により開閉可能に構成される。遠心分離機1の運転時には、図示していないロック機構でドア12が開かないようにロックされ密閉される。ボウル5の外周には、冷却機8より配管されたエバポレータ(蒸発器)9が巻装され、その周囲は断熱材10で覆われる。ロータ室4の底部にはロータ室4内の温度またはロータ2からの輻射熱を検出する温度センサ14が設けられる。ここで、冷却機8は、ボウル5の温度を所定の低温に下げるように冷却する電気機器であって、冷蔵機又は冷凍機とも呼ばれる。冷却機8の種類は、閉じたパイプの中を冷媒を循環させながら圧縮する冷媒使用型の冷却機であっても良いし、その他の冷却装置を用いても良い。
【0030】
遠心分離機1の上部には操作パネル7が設置される。操作パネル7は、例えばタッチ式の液晶表示パネルとすると情報の表示だけでなく、各種情報の入力も操作パネル7から可能となる。遠心分離機1の内部には制御装置6が設けられる。制御装置6は、図示しないマイクロコンピュータ、タイマー、記憶装置等を含んで構成され、モータ3の回転制御、ロータ室4の温度制御のための冷却機8の運転制御を含め、遠心分離機1の全体の制御を行う。制御装置6は、トランス15の電圧切替え制御ライン31、冷却機8への制御信号ライン32、モータ3の回転制御ライン33、エンコーダ11からの出力信号ライン34、温度センサ14の出力信号ライン35、及び操作パネル7への入出力ライン36によって各部と電気的に接続される。
【0031】
次に、遠心分離機1の電源周波数判別による冷却機8への駆動電圧切替えについて、図2及び図3に基づいて説明する。図2は本発明の実施例に係る遠心分離機1の電源供給回路を示すブロック図である。
【0032】
遠心分離機1に設けられた電源コード(図示せず)を商用電源30のコンセントに接続することにより、商用電源30がトランス15の一次側に入力される。トランス15は、交流電力の電圧を電磁誘導を利用して変換する装置であり、例えば、入力側の巻線(一次巻線)の交流電流により変化する磁場を発生させ、それを相互インダクタンスで結合された出力側の巻線(二次巻線)に伝えて再び電流に変換するものである。相互インダクタンスで結合する磁気回路として例えば鉄心が用いられ、異なる電圧の二次電圧に対応するために二次巻線側には複数のタップが設けられる。さらに、異なる電圧の一次電圧に対応する場合には、一次巻線側にも複数のタップを設けると好ましい。本実施例では図示していないが一次巻線側に、例えば0V、200V、208V、220V、230V、240Vの5つのタップ(端子)が設けられ、商用電源電圧に合わせて任意のタップ(例えば商用電圧が220Vの時は、0Vと220Vのタップ)を選択する。同様にして二次巻線側には、0V、100V、115Vの3つのタップが設けられ、100V及び115Vのタップは電圧切替え手段21の入力側に接続される。
【0033】
トランス15の異なるタップから出力された異なる電圧ライン(AC100VまたはAC115V)は電圧切替え手段21に接続される。電圧切替え手段21はマイクロコンピュータ27によって操作され、異なる電圧ラインのどちらか片方を選択して出力させるものであり、本実施例においては冷却機8のように周波数及び電圧に依存する電気機器に供給される電圧のみを電圧切替え手段21によって切り替えるように構成し、その他の電圧
機器(周波数にも電圧にも依存しない電気機器、別の表現をすれば更に変換される電圧で駆動される電気機器)には電圧切替え手段21を介さずにAC100Vのタップから接続される。尚、本実施例では、その他の電圧機器にはAC100Vのタップから接続する例を示したが、トランス15のAC100V側のタップから、あるいはその他の電圧のタップから接続するようにしても良い。
【0034】
トランス15から出力された電圧ライン(AC100Vと0V)は、マイクロコンピュータ27用に例えば直流5Vの低電圧を生成するAC/DCコンバータ23と、商用電圧の周波数の判別のために用いられるゼロクロス検出手段26と、モータ3を駆動するインバータ回路29用の直流電力を生成するAC/DCコンバータ28に接続される。ゼロクロス検出手段26は、トランス15の100V出力波が0V電位をクロスするタイミングでゼロクロス信号を生成し、マイクロコンピュータ27へ伝達する。マイクロコンピュータ27は、内蔵するタイマーを用いて後述する電源周波数の判別処理を実行し、電源周波数を確定する。この判別は、例えば商用電圧の周波数が50Hzか60Hzかを識別する。マイクロコンピュータ27は確定した電源周波数の情報から、電源周波数に対応した適正な電圧が冷却機8に供給されるように電圧切替え手段21を制御する。
【0035】
図3は本発明に係る遠心分離機1の電圧切替え手段21の一実施例を示す切替え回路図である。図3に示す電圧切替え手段21はc接点タイプのリレーであり、リレーのオン/オフで接続先を接点(ア)または接点(イ)に切替える。このc接点タイプのリレーは、冷却機などの大電流に耐えるものが少なく、高容量タイプは大型で高価である。
【0036】
また、電圧切替え手段21の変形例として、図4に示されるような電圧切替え手段21aを用いても良い。電圧切替え手段21aは、比較的安価なa接点タイプのリレーを2個(RY1とRY2)設け、マイクロコンピュータ27によってリレーRY1かリレーRY2のいずれか一方だけをオンすることで電圧切替えを実現できる。電圧切替え手段21aにおいて、誤って2個(RY1とRY2)のリレーを同時にオンしてしまうと、トランス15間で短絡回路となってしまうため、冷却機8の保護も含めたヒューズ(F1、F2)を設けるようにした。
【0037】
再び図2に戻り、電圧切替え手段21の出力側と冷却機8の間に配置される半導体リレー22は、マイクロコンピュータ27によってオン又はオフが制御されるスイッチ手段であって、例えば、ソリッドステートリレー(SSR:Solid State Relay)が用いられる。電磁リレーを用いることも可能であるが、半導体を使った無接点リレーであるソリッドステートリレーを用いれば接点の劣化を防止できるので、長期にわたって安定して動作をさせることができる。ソリッドステートリレーは、入力側と出力側が絶縁され、入力と出力のON、OFFが一致する機能を半導体素子を用いて無接点化した半導体制御部品である。
【0038】
尚、冷却機8は通常、起動電流が大きいことから、起動時にノイズが発生し易くなる。そこで、位相制御用のソリッドステートリレーを用いるのではなく、0V電位からオン動作するように構成したゼロクロス内蔵タイプのソリッドステートリレーを用いる方が好ましい。ゼロクロス内蔵タイプのソリッドステートリレーでは、入力電圧が交流電源電圧のピーク値近傍で印加されたとすると、ゼロクロス回路の作用により出力回路にすぐには電流が流れない。交流電源電圧が減少して0V近くになると、ソリッドステートリレーの出力回路のトライアックがオン状態となり、負荷に電流が流れるようになる。このようにゼロクロス内蔵タイプのソリッドステートリレーでは、出力電圧のONへの切り替えを交流電源電圧が0Vの時に行うようにしたので、冷却機8の起動電流が安定し、冷却機8の寿命を大幅に伸ばすことができ、起動時のノイズレベルを抑えることができる。
【0039】
トランス15から出力された電圧ライン(AC100Vと0V)の一つは、AC/DCコンバータ23に入力される。AC/DCコンバータ23は、商用の交流電力からマイクロコンピュータ27及びその他の制御装置6や操作パネル7等の動作電源を提供するものである。ここで、AC/DCコンバータ23を電圧切替え手段21の後段側(出力側)から接続するのではなく、前段側(入力側)から接続するようにしたのは、電圧切替え手段21による切り替え時に、電圧切替え手段21からの出力電圧が瞬断されるため、それによってマイクロコンピュータ27の動作に影響が出るためである。尚、電圧切替え手段21からの出力電圧が瞬断を補償するためのバックアップ電源をマイクロコンピュータ27に設けるならば、AC/DCコンバータ23を電圧切替え手段21の後段側(出力側)から接続するように構成しても良い。
【0040】
トランス15から出力された電圧ライン(AC100Vと0V)は、さらにAC/DCコンバータ28に入力される。AC/DCコンバータ28は、商用の交流電力からモータ3を駆動するための高電圧の直流電圧を生成し、インバータ回路29に接続される。インバータ回路29は、例えば6個の半導体スイッチング素子を用いてスター結線された三相のブラシレスDCモータ等のモータ3のステータ巻線に、順次駆動電圧を供給するためのものである。インバータ回路29は、エンコーダ11によって検出された回転数信号を用いてマイクロコンピュータ27によって制御される。以上のように、マイクロコンピュータ27はモータ3の回転数制御を実行し、ロータ2に収容された試料を所定の回転数で所定の時間だけ遠心分離運転を行う。
【0041】
次に図5のフローチャートを用いて電源周波数の判別処理の手順について説明する。図5は本発明に係る遠心分離機1の電源周波数判別処理を示すフローチャートである。図5の手順は、遠心分離機1の電源コードが、商用電源のコンセントに接続された際に実行される。電源コードがコンセントに接続されると、トランス15の一次側に商用電源30が供給される。用いられる商用電源30には、国や地域によって、200V、208V、220V、230V、240V等の様々な電圧があるが、工場での組立時にトランスの適切な入力端子に接続されるか、遠心分離機1を設置する現地の設置作業者によって、トランスの適切な入力端子が選択されている。
【0042】
トランス15の一次側に商用電源30が供給されると、所定の巻線比に応じた出力電源がトランス15の二次側の端子である100Vタップ、115Vタップに出力される。二次側の100V及び0Vタップから出力される電圧はゼロクロス検出手段26に入力され、ゼロクロス検出手段26からゼロクロス信号がマイクロコンピュータ27の外部割込み端子に入力される。
【0043】
先ず、電源コンセントが接続されると(ステップ101)、ゼロクロス検出手段26に所定電圧の交流信号が入力されるので、マイクロコンピュータ27はゼロクロス信号が10回入力されるまで待つ(ステップ102)。これは、電源接続直後の電圧歪みが無くなるまで待つのと、ゼロクロス検出手段26によってゼロクロス信号が正しく生成されているかの確認を行うためである。同時に、ゼロクロス信号によってゼロクロス検出手段26からの出力信号(ゼロクロス信号)と、マイクロコンピュータ27のタイマーとの同期が取られる。ゼロクロス信号の出力間隔(割り込み間隔)は、50Hzの場合10ms、60Hzの場合8.3msになる。
【0044】
その後、ゼロクロス信号がさらに100回入力されたときの時間を計測する(ステップ103)。このとき、ゼロクロス信号の割り込み間隔が異常に早い信号がある場合(例えば5ms以内)は、ノイズの混入と判断して、異常に早い信号はカウントに含めないようにすると良い。次に、ゼロクロス信号の100回分の時間から1周期分の平均時間を算出し、平均時間から周波数に換算する(ステップ104)。
【0045】
次に、周波数への換算値が50±3Hz以内かを判定する(ステップ105)。換算値が50±3Hz以内ならば電源周波数を50Hzと確定し(ステップ106)、マイクロコンピュータ27は電圧切替え手段21の設定信号により、冷却機8に出力するトランス15の出力として100Vタップを選択する(ステップ107)。この際、トランス15のアース出力(0V)は、予め冷却機8に接続されているので、電圧切替え手段21によって100Vタップが選択されることにより、冷却機8に交流100Vが供給される回路が形成されることになる。
【0046】
ステップ105において、周波数への換算値が50±3Hz以内で無い場合は、60±3Hz以内かを判定する(ステップ108)。換算値が60±3Hz以内ならば電源周波数を60Hzと確定し(ステップ109)、マイクロコンピュータ27は電圧切替え手段21の設定信号により、冷却機8に出力するトランス15の出力として115Vタップを選択する(ステップ110)。ステップ108において、周波数への換算値が60±3Hz以内で無い場合は、50Hzでも60Hzでもないので、電源周波数異常と判断してアラームを出力する(ステップ111)。アラームの出力の仕方は、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば音で警告すると良い。また、同時に操作パネル7に“電源周波数異常”である旨と、その状況を表示すると好ましい。尚、ステップ105とステップ108において、所望の周波数から±3Hz以内であるかをチェックしたが、この3Hzという範囲は、必ずしもこの範囲に限られずに、用いられる冷却機8の仕様や遠心分離機1に応じて任意に設定すれば良い。
【0047】
ステップ107又はステップ110にて正しい電圧が設定されると、遠心分離機1の冷却機8が駆動できる状態、即ちスタンバイ状態となる。冷却機8以外に、電源周波数及び電源電圧に依存しない機器は、あらかじめトランス15の出力タップ(ここでは、100Vと0V)に接続されているため電圧設定制御は不要である。この状態で、マイクロコンピュータ27は、ユーザ(オペレータ)による遠心分離運転の設定及び開始(スタートボタンの押下)を待つ。
【0048】
ユーザ(オペレータ)は、図示しない試料をロータ2にセットし、モータ軸13の先端部に装着する。ドア12を閉じ、操作パネル7からロータ2の回転数と遠心時間と設定温度などのパラメータを入力して運転を開始する。制御装置6は、入力された回転数に基づきエンコーダ11によって検出された回転数信号をフィードバックしてモータ3の回転数制御を実行する。このとき、制御装置6は、ロータ2が収容されるロータ室4の底部に設けた温度センサ14の検出温度をフィードバックして、ロータ2の温度が設定された温度になるように冷却機8を半導体リレー22によりオン又はオフの制御をして、冷却機8を断続運転する。
【0049】
電圧切替え手段21は、マイクロコンピュータ27により電源周波数に対応した電圧に接点を切り替えられており、半導体リレー22をオンにすることによって、設定済みの適切な電圧が冷却機8に供給されることになり、冷却機8は稼働を開始する。このように、電圧切替え手段21の電圧切替え動作は、図5のフローチャートで示したように電源コンセントの接続時に行われ、冷却機8をオン又はオフにする制御の際には、半導体リレー22を使用するので、電圧切替え手段21の接点部は大きな電流の開閉動作をしないため、電圧切替え手段21の接点部が受ける負荷は軽減され、接点寿命を心配する必要はほとんど無い。
【0050】
以上説明したように、本実施例によれば通電された電源周波数を判別して適切な電圧を冷却機に供給するようにしたので、従来は設置する国や地域で行っていたトランスの二次側配線の切替え作業を無くすことができ、冷却機を駆動する電圧の切替えを自動化させた遠心分離機を実現できる。また、リレーなどのように機械的な接点で冷却機をオン/オフせずに、半導体リレーを用いて冷却機を駆動するようにしたので、寿命が長い遠心分離機を提供することができる。
【0051】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では、遠心分離機中の周波数及び電圧に依存する機器として、冷却機の例をもって説明したが、冷却機だけに拘わらず、その他の周波数及び電圧依存機器(例えばACファン等)が有る場合は、その機器に対しても同様に電圧切替え手段21を介して電圧を供給するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 遠心分離機 2 ロータ 3 モータ 4 ロータ室
5 ボウル 6 制御装置 7 操作パネル 8 冷却機
9 エバポレータ 10 断熱材 11 エンコーダ
12 ドア 13 モータ軸 14 温度センサ
15 トランス 21、21a 電圧切替え手段
22 半導体リレー 23 AC/DCコンバータ
26 ゼロクロス検出手段 27 マイクロコンピュータ
28 AC/DCコンバータ 29 インバータ回路
30 商用電源 31 制御ライン 32 制御信号ライン
33 回転制御ライン 34、35 出力信号ライン
36 入出力ライン RY1、RY2 リレー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離される試料を収容するロータと、
前記ロータを回転駆動するモータと、
前記ロータを収容するロータ室を画定するボウルと、
前記ボウルを冷却することによって前記ロータ室を所望の温度に保つための冷却機と、
前記モータの回転と前記冷却機の運転の制御する制御部を有する遠心分離機において、
複数の二次側タップを有し、一次側から入力される交流電圧を複数の電圧に変換して出力するトランスと、
前記トランスの複数の二次側タップと接続され、二次側タップのいずれかの出力を選択して前記冷却機に出力する電圧切替え手段と、
前記交流電圧の周波数を判別する周波数判別手段と、を設け、
前記制御部は、前記周波数判別手段によって判別された電源周波数に対応した前記二次側タップを選択するように前記電圧切替え手段を制御することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記冷却機は複数の電源周波数によって動作可能であって、電源周波数毎に動作電圧が異なるように構成されることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記モータ及び前記制御部に供給される交流電圧は、前記電圧切替え手段を介さずに、前記トランスの二次側タップのいずれかから供給されることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記トランスは一次巻線及び二次巻線に複数のタップを有する降圧トランスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記周波数判別手段は、
前記トランスの二次側タップのいずれかと接続され、
前記トランスの出力電圧が0V電位をクロスするタイミングを検出するゼロクロス検出手段と、
前記ゼロクロス検出手段から出力されたゼロクロス信号の間隔を測定することにより電源周波数を算出する算出手段を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記制御部はマイクロコンピュータを含み、
前記算出手段はマイクロコンピュータによって実現されることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記電圧切替え手段から前記冷却機の接続は、前記冷却機へ通電をオン又はオフ制御する半導体リレーを介して行われ、
前記半導体リレーは前記制御部によってオン又はオフの制御がされることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記半導体リレーは、ゼロクロス内蔵タイプのソリッドステートリレーであることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate