説明

遠心機の運転管理システム及び遠心機

【課題】
共通の電源装置に接続された複数の遠心機を、効率よく起動又は加速させることができる遠心機の運転管理システムを提供する。
【解決手段】
ロータ4を回転させる駆動装置3と、駆動装置3の回転を制御する制御装置2と、外部装置とデータの送受信を行う通信インターフェース2aを有する複数の遠心機1―1〜nと、複数の遠心機と通信ネットワーク11を介して接続される運転管理装置10を有する遠心機の運転管理システムにおいて、停電が発生して複数の遠心機が停止した後に復電した場合、運転管理装置10は、設定された優先順位に従って所定数の遠心機1―1〜nに対して加速許可を与えることにより、電源設備20の電源容量を超えないように遠心機を起動又は加速させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
同一電源設備に接続された複数の遠心機と、通信手段を介して複数の遠心機と接続される運転管理装置を有するシステムにおいて、運転開始時又は停電発生後の復電時に効率よく複数の遠心機の運転を開始させることができる運転管理システム、及び、遠心機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心機は試料を収容したロータを回転させることにより試料の分離を行う装置であり、ロータを高速で回転させるためにロータ自身に大きな遠心力がかかる。また、回転中にロータが破壊しないように十分な強度を持たせるための材質および形状としているが、その結果ロータの重量が重くなり慣性モーメントが大きくなる。そのためロータの駆動装置として高出力のモータを用いる必要があるため、モータの出力増加に伴い消費電力が増大する。消費電力の増大は、特に、起動時における電流の増加が著しくなる。
【0003】
図8は、遠心機のロータの回転速度と消費電力の時間的関係を示すグラフである。図8において、ロータの回転速度81とモータの消費電力82との関係を示す。回転速度81のカーブから理解できるように、遠心機においては、ロータを停止状態(回転数0rpm)から所定の回転速度まで加速させ、所定の回転速度に達したらその回転速度を維持して一定速度でロータを回転させる。この加速中のモータの制御が加速モード83による回転制御であり、一定速度でロータを回転させる際のモータの制御が整定モード84による回転制御である。一般にモータには、起動時や加速時には定速回転中よりも大きな電流が流れ、例えば、加速モード83中に要する消費電力は、整定モード84中に要する消費電力よりも大きくなり、図8に示す例では2倍以上の消費電力の差が生ずる。
【0004】
上記背景から、遠心機を接続する電源設備の容量は、遠心機が加速モードに要する電力より大きな容量が必要となる。更に複数の遠心機を同じ電源設備に接続する場合には、複数の遠心機が同時に加速できる程度の容量の電源設備を設けることが好ましい。しかしながら、遠心機を順次増設する場合等、遠心機の増設に併せてその都度電源設備を更新することが困難な場合が生ずる。そこで、複数の遠心機を同時に運転したい場合は、例えば使用者が同時に加速させる遠心機の台数を制限し、加速中の遠心機が整定状態となるまで他の遠心機の起動を待機させ、起動中の遠心機が整定状態になってから、次の遠心機を起動して回転加速させることで全体の消費電力が電源設備の容量を超えないようにすることが行われていた。
【0005】
一方、従来の遠心機は運転中に停電が発生した場合でも、試料の損失を極力防止するために停電検知手段を備え、さらに電源が復帰した際に再度設定回転速度までロータを加速させる運転復帰手段を備えている。しかし、停電前に複数の遠心機が稼働していた場合、復電後に各遠心機の運転復帰手段が同時に動作すると、複数の遠心機が同時に加速モードとなるため、電源容量オーバーの現象が起こりうる。そのため、多数の遠心機を同時に運転しているような環境下では、復電時の一時的な電力不足を防止するために容量の大きな電源設備がどうしても必要となっていた。
【0006】
このように多数の遠心機が同時に起動することによって生じる一時的な電力不足を防止するため、例えば空気清浄機の分野においては特許文献1に開示されるように、停電復帰後に再起動するまでの遅延時間を設定できるようにして、複数の装置を同時に起動させないように制御することで、電源設備の容量を超えないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−322260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された技術のように、復電時の再起動時の遅延時間を可変させることで同時起動を避け、電源設備の容量オーバーを防止する手段は、空調設備に使用されるコンプレッサの起動電流のように加速に要する時間がある程度一定で短時間である場合は有効な手段である。しかし、遠心機は慣性モーメントの異なるロータを複数種交換して使用でき、設定回転速度も試料によって異なるため、運転復帰手段が動作してからロータが設定回転速度に到達するまでの時間(加速時間)が一定とはならず、特許文献1の技術を遠心機に適用することは現実的ではない。即ち、復帰までの遅延時間を固定として設定する場合、最も長い遅延時間を設定時間として用いなければならなくなり、結果として何れの遠心機も加速していない状態(無駄時間)が発生することになり、効率の面で十分な効果は期待できない。
【0009】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、共通の電源設備に接続された複数の遠心機を、効率良く起動又は加速させることができる遠心機の運転管理システムを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、共通の電源設備に接続された複数の遠心機を、電源設備の容量を超えないように起動又は加速させることができる遠心機の運転管理システムを提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、運転管理装置を用いて複数の遠心機の運転状況を管理することができる遠心機の運転管理システム、及び、そのシステムに用いられる遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次の通りである。
【0013】
本発明の一つの特徴によれば、試料を収容するロータを回転させる駆動装置と、駆動装置の回転を制御する制御装置と、外部装置とデータの送受信を行う通信手段を有する複数の遠心機と、複数の遠心機に電気を供給する電源装置(電源設備)と、複数の遠心機と通信回線を介して接続される運転管理装置を有する遠心機の運転管理システムにおいて、運転管理装置は、複数の遠心機のいずれかに対して加速許可を与えることにより運転中の遠心機の消費電力の合計が電源装置の電源容量を超えないように管理する。そのため運転管理装置は、複数の遠心機のうち回転加速中(加速モード)である遠心機の台数をカウントし、カウント値が予め定めた値を超えない範囲で、加速許可要求を発した遠心機に対して加速許可を与える
【0014】
本発明の他の特徴によれば、遠心機は、運転状態データを定期的に運転管理装置に報告し、運転管理装置は、複数の遠心機から報告される運転状態データを用いて加速許可を与えるか否かを判断する。運転状態データには、遠心機が現在加速モードであるか否かを識別するためのデータを含む。また、運転状態データは、設定回転速度と現在の回転速度のデータを含み、運転管理装置は設定回転速度と現在回転速度の差分を算出して、差分の大きい順番に加速許可を与える。遠心機は、停電からの復電時に、運転管理装置に対して加速許可要求信号を送信し、加速許可要求信号の返答を受信するまで、モータの運転再開をしないように構成する。加速許可を受信しない遠心機は、例えば停電後の復電時にロータが回転中である場合は、ロータを惰性で回転させながら待機することになる。
【0015】
本発明のさらに他の特徴によれば、通信回線を介して外部運転管理装置に接続可能であって、運転中に定期的に運転データを外部運転管理装置に報告する遠心機において、停電が発生したか否かを検出し、停電発生後の復電状態であることを認識した場合には、通信回線経由で外部運転管理装置に運転再開の加速許可要求信号を送信し、外部運転管理装置から加速許可信号を受信してから遠心機の運転を再開させるように構成した。加速許可要求信号を示すフラグは、運転データに含めて外部運転管理装置に送信するように構成すると好ましい。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、運転管理装置は、複数の遠心機のいずれかに対して加速許可を与えることにより運転中の遠心機の消費電力の合計が電源装置の電源容量を超えないように管理するので、停電発生後の復電時に複数の遠心機が同時に加速モードとなって、電源装置の容量をオーバーすることを防止できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、運転管理装置は、複数の遠心機のうち回転加速中(加速モード)である遠心機の台数をカウントし、カウント値が予め定めた値を超えない範囲で、加速許可要求を発した遠心機に対して加速許可を与えるので、加速モードとなった遠心機による電源装置の容量オーバーを防止できる。
【0018】
請求項3の発明によれば、遠心機は、運転状態データを定期的に運転管理装置に報告し、運転管理装置は、複数の遠心機から報告される運転状態データを用いて加速許可を与えるか否かを判断するので、各遠心機の運転状況に応じて優先的に加速処理を行う遠心機を決定することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、運転状態データには、遠心機が現在加速モードであるか否かを識別するためのデータを含むので、運転管理装置は各遠心機が消費電力の多い加速中であるか、消費電力の少ない定速運転中であるかを容易に識別することができ、この結果に応じて電源装置の容量をオーバーしないように管理することができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、運転状態データは、設定回転速度と現在の回転速度のデータを含み、運転管理装置は設定回転速度と現在回転速度の差分を算出して、差分の大きい順番に加速許可を与える遠心機を決定するので、加速が必要な緊急度に応じてきめ細かい加速許可管理をすることができる。
【0021】
請求項6の発明によれば、停電からの復電時に、遠心機は運転管理装置に対して加速許可要求信号を送信し、加速許可要求信号の返答を受信するまで、モータの運転再開をしないので、電源装置の容量をオーバーする状態を効果的に回避することができる。
【0022】
請求項7の発明によれば、遠心機は、停電からの復電時に、運転管理装置に対して加速許可要求信号を送信し、加速許可要求信号の返答を受信するまで、モータの運転再開をしないので、複数の遠心機が停電時の自動復帰モードにより加速を開始することによる電源装置の容量オーバーの発生を防止することができる。
【0023】
請求項8の発明によれば、加速許可要求信号を示すフラグを、運転データに含めて外部運転管理装置に送信するので、従来の遠心機において用いられている運転管理装置へのデータ送信の内容を修正するだけで、容易に本発明を実現することができる。また、本発明の実現のためにシステムのハード構成を変える必要がないので、コストアップを最小に抑えることができる。
【0024】
本発明の上記および他の目的、ならびに上記および他の特徴および効果は、以下の本明細書の記述および添付図面からさらに明らかにされるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例に係る遠心機の運転管理システムの全体構成図である。
【図2】本発明の実施例に係る運転管理装置の処理を示す概略フローチャートである。
【図3】本発明の実施例に係る遠心機1と運転管理装置10の間で送受信されるデータ構造を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る運転管理装置10の運転状態収集処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例に係る運転管理装置10の運転管理処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例に係る遠心機1の受信割込み処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例に係る遠心機1の制御処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】遠心機1のロータの回転速度と消費電力の時間的関係を示すグラフである。
【図9】複数の遠心機1−N(N=1,2,3,4)を順番に加速した場合の全体の消費電力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例に係る遠心機の運転管理システムについて図面を参照して説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0027】
図1は、本発明に係る遠心機の運転管理システムの全体構成図である。図1に示すように電源設備20に集約される共通の電源ライン21に接続されたn台の遠心機1が通信ネットワーク(通信回線)11を介して運転管理装置10と相互にデータの送受信が出来るように構成される。各遠心機1は、同一仕様の遠心機であっても良いし、異なる仕様の遠心機であっても良い。本明細書においては、遠心機1を識別するため、各遠心機1を、1−N(但し、N=1,2,・・・n)の様に枝番号を付して識別することとする。
【0028】
運転管理装置10としては、例えばパーソナルコンピュータ等の公知のコンピュータ装置を用いることができる。運転管理装置10は、図示していないが、中央処理装置、キーボード等の入力装置、LCDディスプレイ等の表示装置、マウス等のポインティングディバイス、RAM(ランダムアクセスメモリ)やハードディスク等の記憶手段、通信ネットワークを接続するための通信インターフェース手段等を含んで構成される。また、運転管理装置10には、停電の際にも停止しないようにバックアップ電源たる無停電電源装置12が接続される。運転管理装置10は、通信ネットワーク11を介して遠心機1−1〜1−nからの運転状態を示す情報を定期的に収集して管理する。また、運転管理装置10は、電源設備20に設けられた停電検出装置22と通信インターフェース22aを介して通信可能であり、停電が生じた場合にはその旨の情報を受信できるように構成される。
【0029】
本実施例による運転管理に必要なパラメータ等、例えば、後述する同時起動可能な台数の制限値や、運転指示の際の優先順位の設定は、電源設備管理者等が入力装置からあらかじめ運転管理装置10に入力しておく。運転管理装置10は、複数の遠心機の運転状態を収集・分析し、現在の消費電力と設定された運転可能な遠心機1の台数とを比較し、許容値を超えない台数の範囲で、加速開始許可要求のあった遠心機に対して加速許可信号を与えるように制御する。運転管理装置10の中央処理装置は、上述した処理をプログラムを実行することによりソフト的に実行する。記憶手段には、制限値等の運転管理に必要な各種データや、制御プログラム等が格納される。またRAMには、遠心機1−1〜1−nから収集した運転状態データの一時記憶や演算等のワークエリアとして利用される。通信ネットワーク11は、周知の技術を用いることができ、例えばIEEE802 LAN/MAN規格、または、EIA−485(RS−485)規格等のLAN技術が利用できる。
【0030】
遠心機1−1〜1−nのそれぞれは、試料を収容する交換可能なロータ4と、ロータ4を回転駆動する電気モータ等の駆動装置3と、駆動装置3の回転速度の制御を行う制御装置2と、作業者がロータ4の回転速度や運転時間の設定やロータ4の運転開始または停止指示を行うための入力装置5と、ロータ4の回転速度や運転時間等の運転状態または設定値等を表示する表示装置6を含んで構成される。各遠心機1の仕様が同一でない場合は、ロータ4を収容するロータ室を冷却する冷却装置を有したり、ロータ室を減圧するための真空ポンプを有する遠心機であっても良い。
【0031】
各遠心機1の制御装置2はマイクロコンピュータ(図示せず)と、通信ネットワーク11を介して運転管理装置10とデータを送受信するための通信インターフェース2aを含んで構成される。通信ネットワーク11を用いることによって、各遠心機1は運転管理装置10に対して運転状態を示すデータを送信することができ、また、運転管理装置10からの運転指示情報を受信することができる。さらに制御装置2は、通信ネットワーク11を介して運転管理装置10から加速許可信号を受信するまで、加速開始を遅延するように動作する。
【0032】
各遠心機1を運転するためには、通常作業者が入力装置5から回転速度や運転時間等の設定値を制御装置2に入力し、その後、入力装置5のスタートボタン(図示せず)を押すことにより運転開始の指示を行う。作業者によって入力された各設定値は、制御装置2に含まれるマイコンの記憶手段内に格納される。運転開始の入力を受けた制御装置2は、駆動装置3を制御してロータ4を設定回転速度まで回転加速させる。ここで、図8で示したように、遠心機1の消費電力は、回転速度を上昇させる”加速モード83”に対して、設定回転速度に到達後一定速度を保つ”整定モード84”では消費電力が低い値となる。これは、駆動装置3によって回転させるロータ4の慣性モーメントが単に駆動装置2を回転させるだけの場合に比較して非常に大きい事に由来する。例えば、“超遠心機”と呼ばれる最高回転数が15万回転の遠心機を用いると、設定回転速度や使用するロータの種類による多少の違いはあるものの、加速モードでの最大消費電力が約3kW程度要するのに対し、整定モードでは約1kW程度の消費電力となる。
【0033】
従って、遠心機1−1〜1−nを同時に加速モードとした場合に電源設備29には少なくとも最大消費電力のn倍の容量が必要となる。ここで例えば電源設備20の容量が6kWで、接続する遠心機の最大消費電力および整定モードの消費電力がそれぞれ3kWおよび1kWであった場合、同時に加速モードとなる可能性を考慮すると、電源設備20に接続できる遠心機は2台が限度である。しかし、図9に示すように先ず1台の遠心機(遠心機1−1)を加速させ、整定モードとなってから次の遠心機を順次1台ずつ加速させるようにした場合は、電源設備20の容量を超えないように4台まで遠心機を同時に整定モードにすることができる。しかしながら、複数の遠心機を同時に運転している場合に停電が発生した場合は、復電時に各遠心機1−1〜1−4が有する運転復帰手段によって同時に加速モードとなることが起こり、その場合は、電源設備の容量を超えてしまう。
【0034】
そこで、本実施例に係る遠心機の運転管理システムにおいては、遠心機1−1〜1−nは起動又は加速をする前に運転管理装置10に対して加速許可の伺いをし、その伺いを受信した運転管理装置10が、通信ネットワーク11を介して遠心機1−1〜1−nに加速許可命令を送信するように構成した。この際、運転管理装置10は同時に加速モードとなる遠心機の数を制限することにより、運転中の遠心機1の合計消費電力が電源容量を超えないように制御する。各遠心機1は、運転管理装置10から加速許可命令を受信してからロータの回転加速開始をするので、加速許可命令を受信していない遠心機1は、加速許可命令を受信するまで停止状態のまま、あるいは惰性で回転する状態(短い時間の停電時など)のまま待機する。
【0035】
図2は本発明に係る運転管理装置10の制御を示す概略フローチャートである。運転管理装置10において運転管理が開始されると(ステップ101)、先ず複数の遠心機1の運転状態を順次収集する収集処理を行う(ステップ102)。次に、受信した運転管理情報を集計する(ステップ103)。この集計処理には、現在加速状態にある遠心機1の台数のカウント処理も含む。次に、運転管理装置1は収集された運転管理情報に加速許可要求信号が含まれるか否か(加速許可要求を受信したか否か)を判断する(ステップ104)。加速許可要求信号が含まれる場合は、運転管理装置1は、予め設定した電源設備20の電源容量(制限値)を超えない範囲で運転開始を許可する遠心機1を選択し、選択された遠心機1に対して加速許可信号を送信する(ステップ105)。その後、ステップ101に戻り、運転管理終了まで同様の処理を繰り返す。尚、ステップ104において加速許可要求を受信しなかった場合は、ステップ102に戻る。
【0036】
図3は運転管理装置10と遠心機1−1〜1−nの間で送受信されるデータ構造を示す図である。運転管理装置10から遠心機1側に送信されるデータは、(a)運転状態送信命令31と、(b)加速許可命令32である。また、遠心機1から運転管理装置10に送信されるデータは(c)運転状態データ33である。各送受信データは共通してデータの先頭を示すスタートマーク(D1、D11、D21)が1バイトと、命令または応答を判別するコマンド(D2、D12、D22)が3バイトと、通信データの信頼性をチェックするチェックサム(D3、D13、D25)が2バイトと、データの末尾を示すストップマーク(D4、D14、D26)の1バイトを含む。更に運転状態データ33には、少なくとも現在遠心機の状況を示す運転モードデータ(D23)を含み、運転モードデータ(D23)内の1バイトが加速モードであるか否かを示すフラグである。運転モードデータ(D23)に続いて、加速要求があるか否かを判別する加速許可要求フラグ(D24)の1バイトが含まれる。
【0037】
次に図4を参照して運転管理装置10の運転状態収集処理について説明する。図4に示す処理は運転管理装置10の中央処理装置が実行する。運転状態収集処理の主な処理内容は、運転管理装置10が遠心機1−1〜1−nの各々の運転状態を収集してRAMに記憶するとともに、現在加速モードにある遠心機1の台数を集計することである。先ず運転管理装置10は、現在加速モード中である遠心機1の台数を集計するためのカウンタCをゼロクリアし、次に各遠心機1の運転状態を記憶するためのメモリ領域を初期化する。このメモリ領域には、遠心機1毎にアドレスが割り当てられ、割り当てられたアドレス内に遠心機1のデータが格納される。次いで、Nの初期値として1をセットする(ステップ202)。
【0038】
次に、運転管理装置10は遠心機1−Nに運転状態データの送信を命令するための運転状態送信命令を送信する(ステップ203)。次に、通信タイムアウトタイマをセットする(ステップ204)。通信タイムアウトを用いた処理をするのは、遠心機1―Nの電源が入っていない場合や、通信ネットワーク11の障害に対応するものであり、所定の時間内に送信した対象の遠心機1―Nからの返答があったか否かを判定するために用いられる。次に、通信タイムアウトが発生したか否かをチェックする(ステップ205)。通信タイムアウトが発生していた場合、遠心機1−Nは動作していないものとみなしてステップ210に進む。通信タイムアウトが発生していない場合は、運転管理装置10は、対象の遠心機1−Nから運転状態データを受信したかチェックする。運転状態データを受信していなければステップ205に戻る(ステップ206)。運転状態データを受信した場合は、運転状態データをRAMの対応する記憶エリアに格納する(ステップ207)。
【0039】
次に、受信した運転状態データから、その遠心機1―Nが加速モードであるかをチェックする(ステップ208)。加速モード、即ち、その遠心機が加速中である場合はカウンタCの値を1だけ増加させる(ステップ209)。ステップ208で、遠心機1が加速モードでない場合は、ステップ210に進む。以上の処理によって、一つの遠心機1―Nに対する運転情報収集処理は終了し、次の遠心機1の運転状態データを収集するため、Nの値を1つ増加させる(ステップ210)。次に、Nが遠心機の許容加速台数nを超えるか否かチェックする。超えていなければ処理203に戻って、ステップ203から211の処理を繰り返す。Nが遠心機の総数nを超えた場合は遠心機1−1〜1−nの運転状態データを全て収集したことになるので、運転状態収集処理を終了する(ステップ212)。
【0040】
以上説明した図4のフローチャートは、運転管理装置10が一定の時間間隔で繰り返して行い、これによって運転管理装置10は遠心機1−1〜1−nから運転状態データを定期的に収集することができ、遠心機1−1〜1−nの運転状態をリアルタイムで収集し、監視することができる。
【0041】
次に図5を用いて本発明に係る運転管理装置10の運転管理処理の手順について説明する。図5に示す処理は運転管理装置10の中央処理装置が実行する。運転管理処理の主たる処理内容は、管理者が予め設定した制限値(同時に加速モードとできる遠心機の台数)を超えない範囲で複数の遠心機に加速開始の許可を与えることである。運転管理処理を開始すると(ステップ301)、先ず運転管理装置10の記憶装置から同時に加速させてよい遠心機の台数の制限値Sを読み出す(ステップ302)。この制限値Sは、電源設備20に応じて作業者又は管理者が運転管理装置10に事前に登録しておくものである。次に、遠心機1を示すNに初期値1をセットし、現在加速モードにある遠心機1の台数を示すカウンタCの値をクリアする(ステップ303)。次に、運転管理装置10の中央処理装置は、現在加速モードにある遠心機1の台数を示すカウンタCの値を読み出し(ステップ304)、カウンタCの値が制限値Sよりも小さい否かをチェックする(ステップ305)。
【0042】
カウンタCの値が制限値Sよりも小さい場合は、運転状態収集処理で記憶した運転状態データを読み出す(ステップ305、306)。カウンタCの値が制限値よりも大きい場合は、運転管理処理を終了する(ステップ305、312)。次に、ステップ306で読み出した運転状態データを参照し、遠心機1−Nが加速許可要求中であるかチェックする(ステップ307)。加速許可要求中でない場合はステップ310に移る。加速許可要求中である場合は、アドレスNの遠心機1に加速許可命令を送信した後、カウンタCの値を1だけ増加させる(ステップ308、309)。そして、次の遠心機を指定するためNを1増加させる(ステップ310)。Nを増加させた際に、Nが遠心機の総台数nを超えたか否かをチェックし、nを超えていなければ、処理304に戻って処理を繰り返し、Nがnを超えていれば処理を終了する(ステップ311、312)。
【0043】
以上、図4及び図5のフローチャートを用いて運転管理装置10の処理手順を説明したが、次に図6及び図7を用いて遠心機1の制御装置2における処理手順を説明する。制御装置2は、通常、遠心機1内の駆動装置3の回転制御やロータ室の温度管理等の制御処理を行う。この制御処理を実行中に通信インターフェース2aを通じて運転管理装置10から運転状態送信命令等のデータを受信した場合、割り込み処理を発生させ、受信したデータに対する処理を実行する。
【0044】
図6は、本発明の実施例に係る遠心機の受信割込み処理を示すフローチャートである。図6において受信割り込みが発生した場合(ステップ401)、受信したデータを読み出し(ステップ402)、受信データが、運転管理装置10からの運転状態送信命令であるか否かを判断する(ステップ403)。運転状態の送信要求命令であった場合は、運転状態データを運転管理装置10に送信した後、処理405で加速許可フラグをオフして処理を終了する(ステップ404、405)。この加速許可フラグは、図示しないが、遠心機1の制御装置2内のRAMに記憶されるもので、後述する遠心機の制御ルーチン処理内において、ロータ4を加速させるか否かの判断に使用されるものである。ステップ403において、受信データが運転状態送信命令でない場合は、受信データが加速許可命令であるか否かを判断する(ステップ406)。加速許可命令であった場合には、制御装置2内のRAMに記憶された加速許可フラグをオンして割り込み処理を終了する(ステップ407)。ステップ406で、受信データが加速許可命令でない場合は、その受信データは無効であるものと判断し(ステップ408)、割り込み処理を終了する(ステップ409)。
【0045】
以上のように、各遠心機1は自らの遠心分離作業の実行を行うが、上位装置である運転管理装置10からの割り込みデータを受信した場合は、その受信データの内容に応じた処理を実行する。このように各遠心機1が運転管理装置10の指示に従って必要な処理を行うことにより、運転管理装置10は各遠心機の運転状況を把握することができると共に、各遠心機1に対して加速許可の指示を出すことができる。
【0046】
次に、図7を参照して本発明に係る遠心機の制御処理ルーチンについて説明する。遠心機1の制御処理ルーチンが開始されると(ステップ501)、制御装置2はRAMに記憶された加速開始要求フラグがオンであるか判断する(ステップ502)。加速開始要求フラグがオンである場合とは、例えば作業者によりスタートボタン(図示せず)を押された場合である。次に、加速許可フラグがオンであるか判断する(ステップ503)。加速許可フラグは、図6における受信割り込み処理にて運転管理装置10から送信された加速許可命令によってオンにされるもので、加速許可フラグがオンである場合は、加速開始要求フラグをオフにしてから、ロータ4を回転加速させるため駆動装置3を起動する(ステップ504)。次に、遠心機1の運転状態データを更新して、RAM内に記憶させる(ステップ505)。
【0047】
ステップ503において加速許可フラグがオフである場合は、遠心機1の表示装置6に加速待機中である事を示すメッセージを表示して、ステップ505に進む(ステップ506)。ステップ502において、加速開始要求フラグがオフである場合は、運転復帰処理要求が発生しているか判断する(ステップ507)。ここで、加速開始要求フラグがオフであって、運転復帰要求があるのは、例えば遠心機1が停電検知手段を有し、停電後に電源が復帰した際に停電検知手段が遠心機1の運転復帰要求命令を発生させるためである。ここで、停電検知手段については周知の技術であるため説明は省略する。運転復帰処理要求がある場合には、加速開始要求フラグをオンにし(ステップ508)、ステップ505へ進む。ステップ507で加速開始要求が発生していない場合にはステップ505に進む。
【0048】
ステップ505で更新された運転状態データは、運転管理装置10からの要求(運転状態送信命令)に応じて運転管理装置10に送信される。この送信処理は、図6で説明したように割り込み処理にて行われる。次に制御装置2は遠心機1内の他の制御処理を実行し、ステップ502に戻る(ステップ509)。ここで、他の制御処理とは温度制御、表示装置の制御、エラー検出処理等であり、本発明に係る部分以外の公知の処理である
【0049】
以上説明したように、各遠心機1は、作業者がSTARTボタンを押して運転開始を指示した場合、あるいは、停電検知手段によって運転再開指示が出された場合であっても、運転管理装置10から送信される加速許可命令に従ってロータ4の加速を開始あるいは再開するので、仮に停電が発生しても電源設備の容量を超えない範囲で無駄時間を発生させず自動で順番に遠心機を加速させることができる。この結果、電源設備の容量をオーバーすることが無く、信頼性の高い遠心機の運転管理システムを提供することができる。
【0050】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、以上の実施例では電源設備の容量を超えないために同時に稼働可能な遠心機の数を制限して管理したが、遠心機の数で管理するのではなく、各遠心機の消費電力と、電源設備の容量を運転管理装置10に登録しておき、運転管理装置10は消費電力の合計値を求めることによって、遠心機からの加速許可要求に対する許可を判断するようにしても良い。このように構成すれば、消費電力が大きく異なる複数の遠心機を用いる場合であっても効率的に管理することができる。
【符号の説明】
【0051】
1−1〜1−n 遠心機 2 制御装置
2a 通信インターフェース 3 駆動装置 4 ロータ
5 入力装置 6 表示装置 10 運転管理装置
11 通信ネットワーク 12 無停電電源装置
20 電源設備 21 電源ライン 22 停電検出装置
22a 通信装置 31 運転状態送信命令
32 加速許可命令 33 運転状態データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容するロータを回転させる駆動装置と、該駆動装置の回転を制御する制御装置と、外部装置とデータの送受信を行う通信手段を有する複数の遠心機と、
前記複数の遠心機に電気を供給する電源装置と、
前記複数の遠心機と通信回線を介して接続される運転管理装置を有する遠心機の運転管理システムにおいて、
前記運転管理装置は、前記複数の遠心機のいずれかに対して加速許可を与えることにより前記運転中の遠心機の消費電力の合計が前記電源装置の電源容量を超えないように管理することを特徴とする遠心機の運転管理システム。
【請求項2】
前記運転管理装置は、前記複数の遠心機のうち回転加速中(加速モード)である遠心機の台数をカウントし、該カウント値が予め定めた値を超えない範囲で、前記加速許可要求を発した遠心機に対して加速許可を与えることを特徴とする請求項1に記載の遠心機の運転管理システム。
【請求項3】
前記遠心機は、運転状態データを定期的に前記運転管理装置に報告し、
前記運転管理装置は、複数の遠心機から報告される運転状態データを用いて加速許可を与えるか否かを判断することを特徴とする請求項2に記載の遠心機の運転管理システム。
【請求項4】
前記運転状態データには、遠心機が現在加速モードであるか否かを識別するためのデータを含むことを特徴とする請求項3に記載の遠心機の運転管理システム。
【請求項5】
前記運転状態データは、設定回転速度と現在の回転速度のデータを含み、前記運転管理装置は前記設定回転速度と現在回転速度の差分を算出して、前記差分の大きい順番に加速許可を与える遠心機を決定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の遠心機の運転管理システム。
【請求項6】
前記遠心機は、停電からの復電時に、前記運転管理装置に対して加速許可要求信号を送信し、該加速許可要求信号の返答を受信するまで、モータの運転再開をしないことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の遠心機の運転管理システム。
【請求項7】
通信回線を介して外部運転管理装置に接続可能であって、運転中に定期的に運転データを前記外部運転管理装置に報告する遠心機において、
停電が発生したか否かを検出し、
停電発生後の復電状態であることを認識した場合には、前記通信回線経由で前記外部運転管理装置に運転再開の加速許可要求信号を送信し、
前記外部運転管理装置から加速許可信号を受信してから遠心機の運転を再開させることを特徴とする遠心機。
【請求項8】
前記加速許可要求信号を示すフラグを、前記運転データに含めて前記外部運転管理装置に送信することを特徴とする請求項7に記載の遠心機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−56397(P2011−56397A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208740(P2009−208740)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】