説明

遠近調節可能な眼内レンズシステム

【課題】本発明は、光学軸を有した眼の中に埋設するための遠近調節可能な眼内レンズを開示するものである。
【解決手段】本発明による眼内レンズは、前方側視野部材と前方側付勢部材とを備えた前方部分を具備している。本発明による眼内レンズは、さらに、前方側視野部材に対して離間して配置された後方側視野部材と後方側付勢部材とを備えた後方部分を具備している。前方部分と後方部分とは、眼内レンズの第1頂点および第2頂点において連接される。前方部分と後方部分と各頂点とは、印加された力に応答して、両視野部材間の離間間隔を変化させることができる。付加的な実施形態や方法も、開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズに関するものであり、より詳細には、眼の毛様筋の張力の変化に応答して眼の屈折力を変更させ得るような眼内レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
大部分の白内障手術においては、水晶体を摘出した後に、人工レンズを埋設する。典型的には、これらレンズは、固定された焦点距離を有している。あるいは、場合によっては、二焦点レンズや複数焦点レンズにおいては、互いに異なる複数の固定焦点距離を有している。そのような固定焦点距離レンズは、天然の水晶体における能力を欠いており、眼の屈折力を動的に変更させることができない。本発明において開示する眼内レンズの様々な実施形態は、眼の毛様筋の張力の変化に応答して眼の屈折力を変更させることができ、これにより、眼に対して近位置と遠位置との双方の対象物を網膜像上に焦点合わせさせ得るような、遠近調節可能な眼内レンズシステムを提供する。なお、本出願人の知る限りにおいては、本出願に関連性を有する先行技術文献は存在しない。
【特許文献1】米国特許出願第09/416044号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一見地は、光学軸を有した眼の中に埋設するための遠近調節可能な眼内レンズである。本発明による眼内レンズは、前方部分を具備している。前方部分は、屈折力を有した光学部材からなる前方側視野部材と、この前方側視野部材から延出された第1および第2前方並進部材を有した前方側付勢部材と、を備えている。本発明による眼内レンズは、さらに、後方部分を具備している。後方部分は、前方側視野部材に対して離間して配置された後方側視野部材と、この後方側視野部材から延出された第1および第2後方並進部材を有した後方側付勢部材と、を備えている。前方部分と後方部分とは、眼内レンズの第1頂点および第2頂点において連接される。この場合、光学軸に対して垂直でありかつ第1頂点および第2頂点を通過する平面が、両視野部材のうちの他方よりも、両視野部材のうちの一方に対して、より接近して位置している。前方部分と後方部分とは、これら前方部分および後方部分に対して印加された力に応答して、両視野部材どうしの離間間隔を変化させる。
【0004】
本発明の他の見地は、光学軸を有した眼の中に埋設するための遠近調節可能な眼内レンズである。本発明による眼内レンズは、前方部分を具備している。前方部分は、屈折力を有した光学部材からなる前方側視野部材と、この前方側視野部材から延出された第1および第2前方並進部材を有した前方側付勢部材と、を備えている。本発明による眼内レンズは、さらに、後方部分を具備している。後方部分は、前方側視野部材に対して離間して配置された後方側視野部材と、この後方側視野部材から延出された第1および第2後方並進部材を有した後方側付勢部材と、を備えている。前方部分と後方部分とは、眼内レンズの第1頂点および第2頂点において連接される。前方部分と後方部分とは、これら前方部分および後方部分に対して印加された力に応答して、両視野部材どうしの離間間隔を変化させる。第1前方並進部材は、眼内レンズに関する側面視において、光学軸に対して垂直でありかつ第1頂点および第2頂点を通過する平面に対して第1前方付勢角度を形成する。第1後方並進部材は、眼内レンズに関する側面視において、先の平面に対して第1後方付勢角度を形成する。第1前方付勢角度と第1後方付勢角度とは、互いに異なる角度とされている。
【0005】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズであって、55ジオプトリー未満の屈折力を有した光学部材を備えて構成された前方側視野部材と;屈折力を有した光学部材を備えて構成された後方側視野部材と;を具備している。両光学部材は、合計で、15〜25ジオプトリーという屈折力を有しているとともに、眼の水晶体嚢に対しての毛様筋からの収縮力に応答して、光学軸に沿って相対移動可能に設置されている。この相対移動は、両光学部材による合計での屈折力において、少なくとも1ジオプトリーという変化に対応する。変形例においては、遠近調節可能な眼内レンズは、さらに、−25〜0ジオプトリーという屈折力を有した光学部材を備えて構成された後方側視野部材を具備することができる。
【0006】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズであって、前方部分を具備し、この前方部分は、周縁部を有しているとともに屈折力を有した光学部材を備えて構成された前方側視野部材を備えている。前方部分は、さらに、前方側視野部材から延出された第1および第2前方並進部材を有した前方付勢部材を備えている。眼内レンズは、さらに、後方部分を具備し、後方部分は、周縁部を有しているとともに前方側視野部材に対して離間して配置された後方側視野部材と;この後方側視野部材から延出された第1および第2後方並進部材を有した後方付勢部材と;を備えている。第1前方並進部材と第1後方並進部材とは、眼内レンズの第1頂点のところにおいて当接し、第2前方並進部材と第2後方並進部材とは、眼内レンズの第2頂点のところにおいて当接し、前方部分と後方部分とに対して印加される力が、両視野部材どうしの離間間隔を変化させることができる。並進部材の各々は、少なくとも1つの取付箇所において前記両視野部材の一方に対して取り付けられる。取付箇所のすべては、頂点からの両視野部材の周縁部の離間度合いよりも、頂点から大きく離間している。
【0007】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズであって、視野部材を備えて構成された前方部分を具備している。視野部材は、屈折力を有した光学部材から構成されている。眼内レンズは、さらに、視野部材を備えて構成された後方部分を具備している。両視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って互いに移動し得るようにして取り付けられている。眼内レンズは、さらに、後方部分に対して取り付けられた固定端と水晶体嚢の一部を膨張させ得るようなサイズおよび向きとされた自由端とを有した第1張出部材を備えて構成された張出部分を具備している。これにより、水晶体嚢と眼内レンズとの間の結合力を、張出部分によって変更することができる。
【0008】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、前方側視野部材と、この前方側視野部材に対して連結された前方側付勢部材と、を備えて構成された前方部分を具備している。前方側視野部材は、屈折力を有した光学部材から構成されている。眼内レンズは、さらに、後方側視野部材と、この後方側視野部材に対して連結された後方側付勢部材と、を備えて構成された後方部分を具備している。眼内レンズは、埋設されたときに、眼の光学軸に対して実質的に一致し得るよう構成された光学軸を具備している。前方側および後方側視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って相対移動可能に設置されている。両付勢部材は、眼内レンズの光学軸から離間した第1および第2頂点のところにおいて、連結されている。眼内レンズは、さらに、第1および第2頂点の間にわたって延在する張出部分を具備している。
【0009】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズであって、視野部材を備えて構成された前方部分を具備している。視野部材は、屈折力を有した光学部材から構成されている。眼内レンズは、さらに、視野部材を備えて構成された後方部分を具備している。両視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って互いに移動し得るようにして取り付けられている。眼内レンズは、さらに、保持部材を備えて構成された保持部分を具備し、保持部材は、前方部分に対して取り付けられた固定端と、水晶体嚢の一部に対して接触し得るようなサイズおよび向きとされた自由端を有し、これにより、水晶体嚢の開口からの眼内レンズの飛び出しが防止されるようになっている。
【0010】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、屈折力を有した光学部材からなる視野部材を備えて構成された前方部分と;視野部材を備えて構成された後方部分と;を具備している。両視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って互いに移動し得るようにして取り付けられている。眼内レンズは、さらに、前方部分および後方部分の一方に対して取り付けられた張出部材を備えて構成された張出部分を具備し、張出部材は、水晶体嚢を膨張させ得るような向きとされ、これにより、光学軸に沿った後方側視野部材の後面と前方側視野部材の前面との間の距離は、毛様筋が弛緩して眼内レンズが非遠近調節状態とされたときには、3mm未満とされる。
【0011】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、屈折力を有した光学部材からなる視野部材を備えて構成された前方部分と;視野部材を備えて構成された後方部分と;を具備している。両視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って互いに移動し得るようにして取り付けられている。眼内レンズは、さらに、前方部分および後方部分の一方に対して取り付けられた張出部材を備えて構成された張出部分を具備している。張出部材は、水晶体嚢を膨張させ得るような向きとされ、この膨張により、水晶体嚢は、前方部分および後方部分のうちの少なくとも一方に対して作用し、視野部材どうしの離間距離を、毛様筋が弛緩して眼内レンズが非遠近調節状態とされたときには、減少させる。
【0012】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、屈折力を有した光学部材からなる視野部材を備えて構成された前方部分と;視野部材を備えて構成された後方部分と;を具備している。両視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って互いに移動し得るようにして取り付けられている。眼内レンズは、さらに、後方部分に対して取り付けられた張出部材を具備している。張出部材は、付勢部材とは別体として構成されているとともに、水晶体嚢の形状を変化させることができ、これにより、毛様筋と眼内レンズとの間の結合力が、眼内レンズが毛様筋に応答して非遠近調節状態と遠近調節状態との間にわたって移動したときに、両視野部材の間の相対移動をより大きなものとすることができる。
【0013】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、屈折力を有した光学部材からなる前方側視野部材と、この前方側視野部材に対して連結された前方側付勢部材と、を備えて構成された前方部分と;後方側視野部材と、この後方側視野部材に対して連結された後方側付勢部材と、を備えて構成された後方部分と;を具備している。眼内レンズは、埋設されたときに、眼の光学軸に対して実質的に一致し得るよう構成された光学軸を具備している。前方側および後方側視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って相対移動可能に設置されている。両付勢部材は、眼内レンズの光学軸から離間した第1および第2頂点のところにおいて、連結されている。眼内レンズは、さらに、前方部分および後方部分のうちの一方に対して取り付けられるとともに、光学軸から離間して延在している、第1および第2張出部材を具備している。第1張出部材は、眼内レンズの一方サイドにおいて両頂点間に配置され、第2張出部材は、眼内レンズの反対サイドにおいて両頂点間に配置されている。第1および第2張出部材は、水晶体嚢の各対応部分を膨張させ得るような向きとされ、これにより、両視野部材は、毛様筋の収縮に応答して、少なくとも1.0mmという範囲にわたって相対移動可能とされている。
【0014】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズであって、前方側視野部材を備えた前方部分を具備している。前方側視野部材は、3mm以下という直径と55ジオプトリー未満の屈折力とを有した光学部材から構成されている。眼内レンズは、さらに、視野部材を備えて構成された後方部分を具備している。両視野部材は、眼の毛様筋によって生成された力に応答して、光学軸に沿って互いに移動し得るようにして取り付けられている。眼内レンズは、さらに、後方部分に対して取り付けられた固定端と水晶体嚢の一部を膨張させ得るようなサイズおよび向きとされた自由端とを有した張出部材を備えて構成された張出部分を具備しており、これにより、水晶体嚢と眼内レンズとの間の結合力が、張出部分によって増大可能とされている。
【0015】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、55ジオプトリー未満という屈折力の屈折部分を有した光学部材からなる前方側視野部材を備えて構成された前方部分と;後方側視野部材を備えて構成された後方部分と;を具備している。眼内レンズは、埋設されたときに、眼の光学軸に対して実質的に一致し得るよう構成された光学軸を具備している。後方側視野部材は、眼内レンズの光学軸上において、前方側視野部材の光学部材と実質的に同軸的に配置された光学部材を備えている。この後方側視野部材の光学部材は、前方側視野部材の光学部材の屈折部分よりも大きな直径を有しているとともに、正の屈折力を有した周縁部を有し、この周縁部が、前方側視野部材の光学部材の屈折部分の周縁部よりも径方向外側に延在しており、これにより、後方側視野部材の光学部材へと入射した光線の少なくとも一部は、前方側視野部材の光学部材の屈折部分をバイパスすることができる。
【0016】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、55ジオプトリー未満という屈折力の屈折部分を有した光学部材からなる前方側視野部材を備えて構成された前方部分と;後方側視野部材を備えて構成された後方部分と;を具備している。眼内レンズは、埋設されたときに、眼の光学軸に対して実質的に一致し得るよう構成された光学軸を具備している。後方側視野部材は、眼内レンズの光学軸上において、前方側視野部材の光学部材と実質的に同軸的に配置された光学部材を備えている。後方側視野部材の光学部材は、前方側視野部材の光学部材よりも大きな直径を有しているとともに、正の屈折力を有した周縁部を有し、この周縁部が、前方側視野部材の光学部材の周縁部よりも径方向外側に延在しており、これにより、後方側視野部材の光学部材へと入射した光線の少なくとも一部は、前方側視野部材の光学部材をバイパスすることができる。
【0017】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。この眼内レンズは、1つの光学部材と;この光学部材から延出された一対の長尺部材と;を具備している。長尺部材は、形状記憶合金から構成されている。
【0018】
本発明の他の見地は、光学軸を備えた眼の中に埋設するための遠近調節可能な眼内レンズであって、その眼は、水晶体嚢を備え、その水晶体嚢は、眼内レンズを受領するための水晶体嚢開口を有している。眼内レンズは、後方側視野部材を備えて構成された後方部分と;屈折力を有した光学部材からなる前方側視野部材を備えて構成された前方部分と;を具備している。両視野部材は、眼の水晶体嚢に対しての毛様筋からの収縮力に応答して、光学軸に沿って相対移動可能に設置されている。前方部分は、少なくとも1箇所において水晶体嚢から離間しつつ、水晶体嚢の一部に対して接触し得るよう構成され、これにより、両視野部材の間の領域から水晶体嚢の外部にまで延在する流体流通チャネルが形成されている。
【0019】
本発明の他の見地は、遠近調節可能な眼内レンズである。眼内レンズは、前方部分を具備し、前方部分は、前方側視野部材を備え、前方側視野部材は、周縁部を有しているとともに、屈折力を有した光学部材を備えて構成され、前方部分は、さらに、前方付勢部材を備え、この前方付勢部材は、前方側視野部材の周縁部上の第1取付領域において取り付けられた少なくとも1つの前方並進部材を有している。第1取付領域は、周縁部に対して実質的に垂直な方向において厚さを有しているとともに、周縁部に対して実質的に平行な方向において幅を有している。厚さに対しての幅の比は、3以上とされている。
【0020】
本発明の他の見地は、共通の光学軸に沿って配置された前方側視野部材および後方側視野部材を備えた眼内レンズを製造するための方法である。この方法においては、前方側視野部材成型空間と、後方側視野部材成型空間と、を準備し;前方側視野部材成型空間と後方側視野部材成型空間とを、眼内レンズの光学軸に対して実質的に一致した成型軸に沿って配置し;前方側視野部材成型空間と後方側視野部材成型空間とを実質的に成型軸に沿って配置しつつ、前方側視野部材成型空間内において、前方側視野部材を成型する。
【0021】
本発明の他の見地は、光学軸を具備するとともにその後に埋設されることとなる遠近調節可能な眼内レンズを製造するための方法である。この方法においては、複数の部材によって相互連結された第1および第2視野部材を具備した眼内レンズを準備する。複数の部材の少なくとも一部は、両視野部材の少なくとも一方の周縁部よりも、光学軸に対して直交した方向において、光学軸から遠くに位置するようにして配置される。この方法においては、さらに、第1および第2視野部材を相対的に回転させることにより、部材を、光学軸に向けて内向きに引っ張る。
【0022】
すべての実施形態は、本発明の範囲内に属することを意図している。本発明のこれら実施形態および他の実施形態は、添付図面を参照しつつ、本発明を何ら限定するものではない好ましい実施形態に関しての以下の詳細な説明を読むことにより、当業者には明瞭となるであろう。
【0023】
さらに他の見地は、互いに離間する向きに付勢されている前方部分および後方部分を具備してなる遠近調節可能な眼内レンズを埋設するための方法である。埋設に際しては、眼内レンズを、眼の水晶体嚢内に配置するとともに、水晶体嚢に対して膨張する向きの力を印加することによって水晶体嚢を成形する。成形に際しては、水晶体嚢の膜の少なくとも一部に対して張力を印加することによって、眼の毛様筋が弛緩して眼内レンズが非遠近調節状態とされたときには少なくとも、水晶体嚢により、前方部分と後方部分とを互いに向けて引っ張る。好ましくは、張力の印加に際しては、水晶体嚢の後壁に対してのみ、膨張力を印加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の一般的特徴点について要約したけれども、本発明の複数の好ましい実施形態やそれらの変形例は、添付図面を参照しつつ以下の詳細な説明を読むことにより、当業者には明瞭となるであろう。
【0025】
図1は、ヒトの眼を示す断面図であって、水晶体が、非遠近調節状態とされている。
【0026】
図2は、ヒトの眼を示す断面図であって、水晶体が、遠近調節状態とされている。
【0027】
図3は、眼内レンズシステムの一実施形態を示す斜視図である。
【0028】
図4は、その眼内レンズシステムを示す側面図である。
【0029】
図5は、その眼内レンズシステムを背面側から見た斜視図である。
【0030】
図6は、その眼内レンズシステムを示す正面図である。
【0031】
図7は、その眼内レンズシステムを示す背面図である。
【0032】
図8は、その眼内レンズシステムを示す平面図である。
【0033】
図9は、その眼内レンズシステムを示す側断面図である。
【0034】
図10は、その眼内レンズシステムを示す平断面図である。
【0035】
図11は、その眼内レンズシステムを示す第2の斜視図である。
【0036】
図12は、その眼内レンズシステムを示す第3の斜視図である。
【0037】
図13は、非遠近調節状態とされている眼内レンズシステムを示す側面図である。
【0038】
図14は、非遠近調節状態とされている眼内レンズシステムを示す側断面図である。
【0039】
図15は、非遠近調節状態とされている眼内レンズシステムを示す平断面図である。
【0040】
図16は、ヒトの眼を示す断面図であって、眼内レンズシステムがカプセル状バッグ内に埋設されていて、眼内レンズシステムが、遠近調節状態とされている。
【0041】
図17は、ヒトの眼を示す断面図であって、眼内レンズシステムがカプセル状バッグ内に埋設されていて、眼内レンズシステムが、非遠近調節状態とされている。
【0042】
図17.1は、眼内レンズシステムのアームを示す断面図である。
【0043】
図17.2は、眼内レンズシステムのアームの他の実施形態を示す断面図である。
【0044】
図17.3は、眼内レンズシステムのアームの他の複数の実施形態を示す断面図である。
【0045】
図17.4は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側断面図である。
【0046】
図17.5は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側断面図である。
【0047】
図18は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側面図である。
【0048】
図19は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側断面図である。
【0049】
図20は、眼内レンズシステムの他の実施形態を背面側から見た斜視図である。
【0050】
図21は、カプセル状バッグ内に埋設された眼内レンズシステムの他の実施形態を、一部を断面として示す平面図である。
【0051】
図21.1は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す正面図である。
【0052】
図21.2は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す正面図である。
【0053】
図21.3は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す正面図である。
【0054】
図22は、カプセル状バッグ内に埋設された眼内レンズシステムの他の実施形態を、一部を断面として示す側面図である。
【0055】
図22.1は、眼内レンズシステムの一実施形態において使用される係止部材システムを示す側面図である。
【0056】
図23は、眼内レンズシステムを形成するためのモールドシステムを示す側面図である。
【0057】
図24は、そのモールドシステムを示す側断面図である。
【0058】
図25は、第1モールド部分を示す斜視図である。
【0059】
図26は、第2モールド部分を示す斜視図である。
【0060】
図27は、第2モールド部分を示す平面図である。
【0061】
図28は、第2モールド部分を示す側断面図である。
【0062】
図29は、第2モールド部分を示すさらなる側断面図である。
【0063】
図30は、中央モールド部分を示す底面図である。
【0064】
図31は、中央モールド部分を示す平面図である。
【0065】
図32は、中央モールド部分を示す断面図である。
【0066】
図33は、中央モールド部分を示すさらなる断面図である。
【0067】
図34は、中央モールド部分を示す斜視図である。
【0068】
図34.1は、眼内レンズシステムの頂点を示す部分断面図であって、頂点内に形成された一組をなす複数の膨張グルーブを示している。
【0069】
図35は、眼内レンズシステムの他の実施形態を概略的に示す図である。
【0070】
図36は、眼内レンズシステムの他の実施形態を概略的に示す図である。
【0071】
図37は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す斜視図である。
【0072】
図38は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す平面図である。
【0073】
図38.1は、カプセル状バッグ内に埋設された状態で、眼内レンズシステムの他の実施形態を概略的に示す図である。
【0074】
図38.2は、図38.1の実施形態を概略的に示す図であって、遠近調節状態とされている。
【0075】
図38.3は、眼内レンズシステム内に組み込まれた付勢手段を概略的に示す図である。
【0076】
図38.4は、眼内レンズシステム内に組み込まれた他のタイプの付勢手段を概略的に示す図である。
【0077】
図38.5は、眼内レンズシステムの他の実施形態を示す斜視図である。
【0078】
図39A,39Bは、眼内レンズシステムに関連して使用される挿入技術を概略的に示す一連の図である。
【0079】
図40は、カプセル状バッグの前面内に形成された複数の流体流通開口を概略的に示す図である。
【0080】
図40.1は、眼内レンズシステムを示す正面図であって、眼内レンズシステムに関して使用するための折曲技術における一ステージを示している。
【0081】
図40.2は、眼内レンズシステムを示す正面図であって、その折曲技術における他のステージを示している。
【0082】
図40.3は、その折曲技術における他のステージを示している。
【0083】
図40.4は、その折曲技術における他のステージを示している。
【0084】
図40.5は、その折曲技術における他のステージを示している。
【0085】
図40.6は、その折曲技術における他のステージを示している。
【0086】
図40.7は、眼内レンズシステムに対して使用するための折曲ツールを示す斜視図である。
【0087】
図41は、眼内レンズシステムと一緒に使用するための非球面光学部材を示す断面図である。
【0088】
図42は、眼内レンズシステムと一緒に使用するための、回折表面を有した光学部材を示す断面図である。
【0089】
図43は、眼内レンズシステムと一緒に使用するための、低屈折率の光学部材を示す断面図である。
【0090】
[I.ヒトの眼および遠近調節]
図1および図2は、ヒトの眼(50)を断面図で示している。本発明に特に関連するのは、角膜(52)と、虹彩(54)と、水晶体(レンズ)(56)と、である。水晶体(56)は、弾性的で膜状のカプセル状バッグすなわち水晶体嚢(58)内に配置されている。水晶体嚢(58)は、毛様小帯(62)と称される靭帯状構造によって毛様筋(60)内に囲まれかつ支持されている。
【0091】
光が眼(50)内に入射すると、角膜(52)と水晶体(56)とが協働することによって、入射光を焦点合わせし、眼の後方に位置した網膜(64)上に像を形成する。これにより、視覚を得る。遠近調節として公知のプロセスにおいては、水晶体(56)の形状が、変更されることにより(これにより、冷却の屈折特性が調節され)、眼(50)は、様々な距離のところに位置した対象物を焦点合わせすることができるようになる。典型的な健康な眼は、十分な遠近調節を行うことができて、無限遠(通常は、眼から6m(20フィート)以遠として定義される)のところから、非常に近いところ(254mm(10インチ)未満の距離)までにわたる範囲にわたって、対象物の像を焦点合わせすることができる。
【0092】
水晶体(56)は、天然的な弾性を有しており、弛緩状態においては、フットボールに似た断面形状となる。遠近調節は、毛様筋(60)が、水晶体を、弛緩状態すなわち『非遠近調節』状態(図1に示す状態)から、収縮状態すなわち『遠近調節』状態(図2に示す状態)へと、移動させた時に起こる。弛緩状態すなわち非遠近調節状態への毛様筋(60)の移動は、毛様小帯(62)および水晶体嚢(58)内における張力を増大させ、これにより、水晶体(56)は、図1に示すように、より薄い状態(光学軸に沿って測ったときに、より薄い状態)すなわちより背が高い状態となる。逆に、毛様筋(60)が、収縮状態すなわち遠近調節状態にある時には、毛様小帯(62)および水晶体嚢(58)内における張力が減少し、これにより、水晶体(56)が、図2に示すように、より厚い状態すなわちより低い状態となる。毛様筋(60)が収縮して、毛様小帯(62)および水晶体嚢(58)が緩められた時には、ある程度の張力が、水晶体嚢(58)および毛様小帯(62)内において維持される。
【0093】
[II.眼内レンズシステム:その構造]
図3〜図17は、眼内レンズシステム(100)の一実施形態を示している。この眼内レンズシステム(100)は、天然の水晶体(56)の代わりとして水晶体嚢(58)内に埋設し得るよう構成されており、さらに、眼の天然的遠近調節プロセスに応答して、眼の屈折特性を変更し得るよう構成されている。図3に示すように、眼内レンズシステム(100)の様々な特性を記述するため、ここでは、方向性を示すという観点において、一対をなす軸を規定する。『前方側』および『後方側』という用語を、図3に示すように眼内レンズ(100)の光学軸上の方向を表すために、使用する。眼内レンズ(100)が、眼の中に埋設されたときには、前方側の向きは、角膜に向けて延在し、後方側の向きは、網膜に向けて延在する。眼内レンズの光学軸は、図1および図2に示す眼の光学軸に対して実質的に一致している。光学軸に直交する横軸に関しては、『左方向』および『右方向』という用語を使用する。加えて、光学軸と横軸との双方に直交する縦軸に関しては、『上方向』および『下方向』という用語を使用する。
【0094】
複数の軸がなす空間体系は、ここでの説明を容易とするためのものに過ぎない。よって、眼内レンズシステム(100)が使用時に配置され得る可能な向きを限定する目的のためではない。例えば、眼内レンズシステム(100)は、眼内レンズの性能を劣化させることなく、使用時に光学軸回りに回転させることができるあるいは光学軸に沿ってずれることができる。眼内レンズシステム(100)がそのように光学軸回りに回転可能である場合には、縦軸がもはや上下方向を示すものではなくなること、および、横軸がもはや左右方向を示すものではなくなることは、明らかであるとともに、それでもなお、眼内レンズシステム(100)が、図3に示すような向きとされている場合と同様にして機能し得ることは、明らかである。したがって、眼内レンズシステム(100)の特性を記述するために上下左右という用語を使用する場合、そのような使用は、眼内レンズシステム(100)の使用時における絶対的な位置を表すものではないことは、理解されるであろう。同様に、そのような使用は、指示された向きに眼内レンズシステム(100)が維持されることを要求するものではないことは、理解されるであろう。
【0095】
図4に明瞭に示すように、眼内レンズシステム(100)は、A−A線(光学軸に対して実質的に直交した平面であり、かつ、第1頂点(112)および第2頂点(116)と交わっている平面、を表している)よりも前方側に位置した前方部分(102)と、A−A線よりも後方側に位置した後方部分(104)と、を備えている。前方部分(102)は、前方側視野部材(106)と、前方側付勢部材(108)と、を備えている。前方側付勢部材(108)は、前方側視野部材(106)から第1頂点(112)にまで延在する第1前方並進部材(110)と、前方側視野部材(106)から第2頂点(116)にまで延在する第2前方並進部材(114)と、を有している。図示の実施形態においては、第1前方並進部材(110)は、右アーム(110a)と左アーム(110b)とを有している(図3参照)。加えて、図示の第2前方並進部材(114)は、右アーム(114a)と左アーム(114b)とを有している。しかしながら、他の実施形態においては、第1および第2前方並進部材(110,114)の一方または双方は、単一のアームまたは部材を有することも、また、3つ以上のアームまたは部材を有することも、できる。
【0096】
図4,5,7に明瞭に示すように、後方部分(104)は、後方側視野部材(118)と、後方側付勢部材(120)と、を備えている。後方側付勢部材(120)は、後方側視野部材(118)から第1頂点(112)にまで延在する第1後方並進部材(122)と、後方側視野部材(118)から第2頂点(116)にまで延在する第2後方並進部材(124)と、を有している。図示の実施形態においては、第1後方並進部材(122)は、右アーム(122a)と左アーム(122b)とを有している。同様に、図示の第2後方並進部材(124)は、右アーム(124a)と左アーム(124b)とを有している。しかしながら、他の実施形態においては、第1および第2前方並進部材(122,124)は、単一のアームまたは部材を有することも、また、3つ以上のアームまたは部材を有することも、できる。
【0097】
図4に示す実施形態においては、前方側付勢部材(108)と後方側付勢部材(120)とは、眼内レンズシステム(100)を側方から見たときには、平面(A−A)に関して対称的であるように構成されている。ここで、付勢部材(108,120)を記述するにあたって、『対称』または『対称的』という用語は、眼内レンズシステム(100)を側方から見たときに、第1前方並進部材(110)と第1後方並進部材(122)とが、A−A線(この場合にも、光学軸に直交しかつ第1および第2頂点(112,116)に交わる平面のエッジを表している)に対してそれぞれ互いに実質的に等しい前方側および後方側付勢角度(θ,θ)でもって第1頂点(112)から延在していること、および/または、第2前方並進部材(114)と第2後方並進部材(124)とが、A−A線に対してそれぞれ互いに実質的に等しい前方側および後方側付勢角度(θ,θ)でもって第2頂点(116)から延在していること、を意味している。これに代えて、後述するように、付勢部材どうしを非対称配置とすることも可能である。付勢部材(108,120)どうしの対称配置が、A−A線に関しての視野部材どうしの対称配置を決定づけないことに、注意されたい。図4の実施形態においては、前方側視野部材(106)は、後方側視野部材(120)よりも、A−A線に対して接近している。
【0098】
好ましくは、前方側視野部材(106)と後方側視野部材(118)とは、屈折力を有した光学部材すなわちレンズを有している。(ここでは、『屈折』とか『屈折力』とかいう用語は、『回折』や『回折力』という意味合いも含んでいる)。光学部材に関しての好ましい屈折範囲については、後述する。代替可能な実施形態においては、前方側視野部材(106)と後方側視野部材(118)とは、完全に囲んでいるまたは部分的に囲んでいる1つまたは複数の周縁フレーム部材を有した光学部材を備えている。周縁フレーム部材は、付勢部材/並進部材に対して取り付けられている。さらなる代替例においては、視野部材(106,118)の一方が、光学軸上に配置された開口部/中央空所すなわちボイドを有した周縁フレーム部材を備えることができる(図20を参照して後述する)。あるいは、1つまたは複数の周縁フレーム部材は、内部に、ゼロ屈折部材すなわち透明部材を有している。さらに他の変形例においては、視野部材(106,118)の一方が、単一のゼロ屈折部材すなわち透明部材を備えることができる。
【0099】
現時点で好ましい実施形態においては、保持部材(126)が、前方部分(120)に対して連結されている、好ましくは、前方側視野部材(106)のところにおいて前方部分(120)に対して連結されている。保持部材(126)は、好ましくは、第1保持部材(128)と第2保持部材(130)とを備えている。しかしながら、代替可能な実施形態においては、保持部材(126)は、完全に省略することができる。あるいは、単一の保持部材を備えることも、あるいは3つ以上の保持部材を備えることも、できる。第1保持部材(128)は、固定端(128a)のところにおいて前方側視野部材(106)に対して連結されているとともに、固定端(128a)とは反対側に自由端(128b)を有している。同様に、第2保持部材(130)は、固定端(130a)と自由端(130b)とを有している。保持部材(128,130)は、前方側視野部材(106)の上エッジおよび下エッジのところにおいて前方側視野部材(106)に対して連結されるものとして図示されている。しかしながら、代替的には、保持部材(128,130)は、前方側視野部材(106)の他の適切なエッジ部分のところにおいて前方側視野部材(106)に対して連結することができる。
【0100】
好ましい実施形態においては、後方部分(104)は、張出部分(132)を備えている。この張出部分(132)は、好ましくは、後方側視野部材(118)に対して取り付けられている。好ましい張出部分(132)は、第1張出部材(134)を備えている。第1張出部材(134)は、固定端(134a)と、この固定端(134a)とは反対側に位置した自由端(134b)と、を有しており、さらに、内部に形成された開口(134c)を有していることが好ましい。好ましい張出部分(132)は、さらに、第2張出部材(136)を備えている。第2張出部材(136)は、固定端(136a)と、この固定端(136a)とは反対側に位置した自由端(136b)と、を有しており、さらに、内部に形成された開口(136c)を有していることが好ましい。代替可能な実施形態においては、張出部分(132)は、完全に省略することができる。あるいは、張出部分(132)は、単一の張出部材を備えることも、また、3つ以上の張出部材を備えることも、できる。有効性を最適化するために、張出部材(134,136)に関する好ましい配置は、後方部分(104)上において、各頂点(112,116)から(光学軸回りに)90°回転したところである。付勢部材が3つ以上の頂点を形成している場合には(あるいは、2つの頂点が、光学軸回りにおいて互いに180°回転した位置に位置していない場合には)、1つまたは複数の張出部材は、光学軸回りにおいて各頂点間の角度的に中央に位置した位置に配置することができる。これに代えて、張出部材は、頂点に対して他の適切な配置状況とすることができる(上述したような、『角度的に中央に位置した位置』以外にも)。つまり、他の実施形態においては、張出部材は、眼内レンズシステム(100)の前方部分(102)上に配置することができる。あるいは、頂点自体のところに配置することもできる。保持部材(126)の機能および張出部分(132)の機能については、詳細に後述する。
【0101】
[III.眼内レンズシステム:機能/光学部材]
前方側および後方側付勢部材(108,120)は、スプリング的に機能し、前方側視野部材(106)および後方側視野部材(118)を、全体的に光学軸に沿って互いに移動させることができる。付勢部材(108,120)が、視野部材(106,118)を互いに引き離すことにより、視野部材(106,118)が互いに離間し、図4に示すように、遠近調節配置または遠近調節状態となる。このため、外力が作用しなければ、両視野部材は、光学軸に沿った最大離間状態となる。眼内レンズシステム(100)の両視野部材(106,118)は、最大2g(グラム)という毛様筋の力に応答して、互いに移動することができる。これにより、前方部分(102)や後方部分(104)や頂点(112,116)に対して適切な力を印加することにより、非遠近調節状態とされる。
【0102】
眼内レンズシステム(100)が水晶体嚢(58)内に埋設されたときには(図16,17)、上記付勢力が、眼内レンズシステム(100)を光学軸に沿って拡張させることができ、これにより、水晶体嚢の前方側と後方側との双方に対して相互作用することができる。そのような相互作用は、毛様筋(60)の移動範囲全体にわたって引き起こされる。一方の限界状況においては、毛様筋が弛緩し、毛様小帯(62)が水晶体嚢(58)を径方向に引っ張り、これにより、水晶体嚢を、より平板的な形状とする。この場合、水晶体嚢の前方面および後方面が、眼内レンズシステム(100)の前方部分(102)および後方部分(104)に対して押圧力をもたらす。これにより、視野部材(106,118)どうしが互いに接近する向きに移動し、遠近調節状態となる。他方の限界状況においては、毛様筋が収縮し、毛様小帯(62)が内側に移動して、水晶体嚢(58)を弛緩させ、これにより、水晶体嚢を、よりフットボール的な形状とする。この場合、水晶体嚢の弛緩が、眼内レンズシステムに対して伝達され、視野部材(106,118)どうしが互いに離間する向きに付勢駆動される。水晶体嚢の径方向張力が減少すればするほど、両視野部材(106,118)が互いに離間する向きに移動し、非遠近調節状態となる。よって、視野部材(106,118)どうしの間の間隔は、毛様筋(60)の収縮または弛緩の程度に依存する。前方側および後方側視野部材(106,118)の間の間隔が変化することにより、この変化に応じて、眼内レンズシステム(100)の焦点距離が変化する。よって、眼内レンズシステム(100)が、水晶体嚢内に埋設された場合(図16,17)眼内レンズシステム(100)は、健全な『天然の』水晶体と全く同じ態様でもって、眼の天然的遠近調節プロセスに応答して動作し、遠近調節状態(図16)と非遠近調節状態(図17)との間にわたって移動する。好ましくは、眼内レンズシステム(100)は、約1秒以内でもって、遠近調節状態と非遠近調節状態との間にわたって移動することができる。
【0103】
眼内レンズシステム(100)は、眼内レンズシステム(100)が遠近調節状態から非遠近調節状態へと移動する際に前方側および後方側視野部材(106,118)がおよそ0.5〜4mmだけ接近移動し得るよう好ましくはおよそ1〜3mmだけ接近移動し得るようより好ましくはおよそ1〜2mmだけ接近移動し得るよう最も好ましくはおよそ1.5mmだけ接近移動し得るよう、十分な動作範囲を有している。言い換えれば、前方側および後方側視野部材(106,118)の間の離間間隔(X)(図9,10,14,15を参照されたい)は、便宜的には、前方側視野部材(106)の後面と光学軸との交差箇所と、後方側視野部材(118)の前面と光学軸との交差箇所と、の間の光学軸(あるいは、平行軸)に沿った距離として定義され得るものであって、この離間間隔(X)が、眼内レンズシステム(100)が非遠近調節状態へと移動する際に、上記の距離だけ減少する。同時に、好ましい態様においては、眼内レンズシステムの全体厚さ(Y)が、遠近調節状態におけるおよそ3.0〜4.0mmから、非遠近調節状態におけるおよそ1.5〜2.5mmへと、減少する。
【0104】
図6に最も明瞭に示すように、第1前方並進部材(110)は、左アーム(110a)および右アーム(110b)が取付箇所(142,144)においてそれぞれ第1および第2移行部材(138,140)に対して連結されていることにより、前方側視野部材(106)に対して連結されている。第2前方並進部材(114)は、左アーム(114a)および右アーム(114b)が取付箇所(146,148)においてそれぞれ第1および第2移行部材(138,140)に対して連結されていることにより、前方側視野部材(106)に対して連結されている。これは、第1および第2前方並進部材(110,114)に関して、現時点で好ましい構成である。代替可能な構成においては、第1および第2前方並進部材(110,114)は、第1および第2後方並進部材(122,124)が後方側視野部材(118)に対して連結されているのと同様に、前方側視野部材(106)に対して直接的に連結することができる。
【0105】
第1および第2前方並進部材(110,114)と前方側視野部材(106)との間において連結が確立されているけれども、第1前方並進部材(110)に対応した取付箇所(142,144)が前方側視野部材(106)の最近接エッジすなわち周縁よりも、第1頂点(112)から離間していることが好ましい。この構成は、頂点(112)と前方側視野部材(106)の最近接エッジすなわち上エッジとの間の直接的取付すなわち直線的取付の場合と比較して、第1前方並進部材(110)すなわち両アーム(110a,110b)の有効長さを増大させる。同じ理由により、第2前方並進部材(114)に対応した取付箇所(146,148)が前方側視野部材(106)の最近接エッジすなわち下エッジよりも、第2頂点(116)から離間していることが好ましい。
【0106】
図7に最も明瞭に示すように、第1後方並進部材(122)は、左アーム(122a)および右アーム(122b)が取付箇所(150,152)において後方側視野部材(118)に対して連結されていることにより、後方側視野部材(118)に対して直接的に連結されていることが好ましい。同様に、第2後方並進部材(124)は、左アーム(124a)および右アーム(124b)が取付箇所(154,156)において後方側視野部材(118)に対して連結されていることにより、後方側視野部材(118)に対して直接的に連結されていることが好ましい。代替可能な実施形態においては、第1および第2後方並進部材(122,124)は、前方側視野部材(106)の場合と同様に、中間介在部材を介して、後方側視野部材(118)に対して連結することもできる。連結態様にかかわらず、取付箇所(150,152)が、後方側視野部材(118)の最近接エッジすなわち周縁よりも、第1頂点(112)から離間していることが好ましい。同様に、取付箇所(154,156)が、後方側視野部材(118)の最近接エッジすなわち下エッジよりも、第2頂点(116)から離間していることが好ましい。
【0107】
並進部材(110,114,122,124)(アームが使用されている場合には、それらのアーム(110a,110b,114a,114b,122a,122b,124a,124b))のいくつかまたは全部の有効長さを増大させることにより、第1および第2頂点(112,116)に対しての取付箇所(142,144,146,148,150,152,154,156)の好ましい配置状況は、前方並進部材および/または後方並進部材の角度変位が同じであったとしても、前方側視野部材(106)と後方側視野部材(118)との一方または双方が、光学軸に沿って、より大きな長さにわたって相対移動することを可能とする。よって、この構成は、眼内レンズシステム(100)に対して、より応答性の良好なスプリング系をもたらし、曲げの繰返しを数多く繰り返すことに関する材料疲労効果を最小化する。
【0108】
図示の実施形態においては、第1前方並進部材(110)の取付箇所(142)は、第2前方並進部材(114)の対応取付箇所(146)から、前方側視野部材の周縁に沿って、離間している。同じ配置関係は、取付箇所に関する他の対(144,148;150,154;152,156)においても存在している。この構成は、有利には、前方側および後方側視野部材(106,118)のための支持ベースを広いものとし、両視野部材が遠近調節位置と非遠近調節位置との間にわたって移動する際に、横軸に対して平行な軸回りにおける捻れの発生を防止する。
【0109】
また、第1前方並進部材(110)の取付箇所(142,144)が、第1頂点(112)から互いに等距離のところに配置されていることが好ましく、また、第1前方並進部材(110)の右アーム(110a)と左アーム(110b)とが、互いに同じ長さであることが好ましい。さらに、取付箇所(146,148)、アーム(114a,114b)、および、第2頂点(116)の構成は、好ましくは、第1前方並進部材(110)に関して上述した内容と同様とされる。一方、頂点(112,116)は、好ましくは、光学軸から互いに等距離のところに位置しているとともに、180°だけ離間して配置されている。この構成は、前方側視野部材(106)が前後進移動する場合でもまた拡縮する場合にでも、前方側視野部材(106)を、光学軸に対しての直交状態に維持する。
【0110】
同じ理由により、第1および第2後方並進部材(122,124)およびそれらの構成アーム(122a,122b,124a,124b)、および、取付箇所(150,152,154,156)においても、頂点(112,116)に対して、同様の等距離関係や長さが同じという関係が好ましい。しかしながら、図示のように、アーム(122a,122b,124a,124b)は、第1および第2前方並進部材(110,114)のそれぞれの対応部材(110a,110b,114a,114b)に対して、同じ長さである必要はない。
【0111】
前方側および後方側視野部材(106,118)の周縁に対して部材が連結されているところにおいては、その部材は、連結幅(W)および連結厚さ(T)を有した連結幾何形状すなわち取付領域を形成する(図4を参照されたい。図4においては、一例として、後方側視野部材(118)に対しての第2後方並進部材(124)の取付に関して、例示がなされている)。明瞭化のために、連結幅は、対象となっている視野部材の周縁に対して実質的に平行な方向に沿って測ったものとして定義され、連結厚さは、対象となっている視野部材の周縁に対して実質的に垂直な方向に沿って測ったものとして定義される。(周縁自体は、図4に示すように、光学軸に対して全体的に垂直な向きに配向している)。好ましくは、眼内レンズシステム(100)において使用されているすべての取付領域は、厚さに対しての幅の比が、3よりも小さくなることがない。そのような幾何形状であると、局所的力に起因した視野部材の捻れが低減されることが見出されている。同じ理由により、また、各並進部材(110,114,122,124)が、それぞれ対応する各視野部材の周縁部に対して、上述した好ましい幾何形状とされた少なくとも2つの取付領域において連結されていることが好ましい。
【0112】
図17.1および図17.2は、並進部材および/またはアーム(110a,110b,114a,114b,122a,122b,124a,124b)の長さ全体にわたってあるいはその一部にわたって使用可能であるような、2つの好ましい横断面形状を示している。形状は、比較的広くかつフラットなあるいはわずかに湾曲した外表面(182)によって形成されている。これは、使用時に、この外表面が、眼内レンズシステムの内部を向かないことおよび/または水晶体嚢(58)を向くことを意図している。横断面形状を形成している他の表面や比率や寸法は、様々に変更することができる。しかしながら、有利には、眼内レンズシステムの使用時におけるアーム内の応力を最小化しつつ、モールド技術やキャスト技術によって眼内レンズシステム(100)を容易に製造し得るものであるように選択することができる。
【0113】
図17.3は、並進部材および/またはアーム(110a,110b,114a,114b,122a,122b,124a,124b)として適切であるような、複数の代替可能な横断面形状を示している。図示のように、非常に様々な横断面形状を使用することができる。しかしながら、好ましくは、横断面形状は、比較的広くかつフラットなあるいはわずかに湾曲した外表面(182)を有している。
【0114】
並進部材および/またはアーム(110a,110b,114a,114b,122a,122b,124a,124b)の横断面形状の寸法や形状や比率は、並進部材および/またはアームの長手方向に沿って様々に変更することができる。このような変更は、例えば、アームの高応力領域に対して強度を追加する目的で、あるいは、スプリング特性を微調整する目的で、あるいは、剛直さを追加する目的で、あるいは、フレキシブルさを追加する目的で、等により行うことができる。
【0115】
上述したように、前方側視野部材(106)および後方側視野部材(118)の各々は、好ましくは、屈折力を有した光学部材を備えている。好ましい実施形態においては、前方側視野部材(106)は、正の屈折力を有した両凸レンズとされ、後方側視野部材(118)は、負の屈折力を有した凸凹レンズとされる。前方側視野部材(106)は、有利には55ジオプトリー未満という屈折力を有した、好ましくは40ジオプトリー未満という屈折力を有した、より好ましくは35ジオプトリー未満という屈折力を有した、最も好ましくは30ジオプトリー未満という屈折力を有した、レンズを備えることができる。後方側視野部材(118)は、有利には−25〜0ジオプトリーという屈折力を有した、好ましくは−25〜−15ジオプトリーという屈折力を有した、レンズを備えることができる。他の実施形態においては、後方側視野部材(118)は、−15〜0ジオプトリーという屈折力を有した、好ましくは−13〜−2ジオプトリーという屈折力を有した、最も好ましくは−10〜−5ジオプトリーという屈折力を有した、レンズを備えることができる。有利には、眼内レンズシステム(100)内において使用されている(1つまたは複数の)光学部材の合計としての屈折力は、およそ5〜35ジオプトリーであり;好ましくはおよそ10〜30ジオプトリーであり;最も好ましくはおよそ15〜25ジオプトリーである。(ここでは、『ジオプトリー』という用語は、眼内レンズシステム(100)をヒトの眼の中に通常的な態様で埋設した状態で測定した眼内レンズシステムの屈折力を意味している)。大きな屈折力を有した材料(例えば、シリコーンの屈折率よりも大きな屈折力を有した材料)が使用された場合には、光学部材を薄く形成することができ、光学部材の移動範囲をより大きくすることが容易となることに、注意されたい。これにより、上記において特定したものよりも小さな屈折率の光学部材を使用することができる。加えて、大きな屈折力を有した材料は、与えられたレンズ厚さに対して、より屈折力が大きなレンズを形成することを可能とし、よって、与えられた遠近調節範囲を得るのに必要とされる移動範囲を低減させることができる。
【0116】
約1.432という屈折率を有した光学部材を備えた眼内レンズシステム(100)の実施形態において使用するのに現時点で好ましいいくつかのレンズ屈折率と曲率半径とは、以下の通りである。すなわち、5.944mmという前方側曲率半径と5.944mmという後方側曲率半径とを有した両凸レンズにおいて+31ジオプトリー;5.656mmという前方側曲率半径と7.788mmという後方側曲率半径とを有した両凸レンズにおいて+28ジオプトリー;6.961mmという前方側曲率半径と8.5mmという後方側曲率半径とを有した両凸レンズにおいて+24ジオプトリー;18.765mmという前方側曲率半径と18.765mmという後方側曲率半径とを有した両凹レンズにおいて−10ジオプトリー;9mm〜9.534mmという前方側曲率半径と40mmという後方側曲率半径とを有した凹凸レンズにおいて−8ジオプトリー;9mm〜9.534mmという前方側曲率半径と20mmという後方側曲率半径とを有した凹凸レンズにおいて−5ジオプトリー。ある実施形態においては、前方側視野部材は、上述した+31ジオプトリーのレンズを備え、後方側視野部材は、上述した−10ジオプトリーのレンズを備えている。他の実施形態においては、前方側視野部材は、上述した+28ジオプトリーのレンズを備え、後方側視野部材は、上述した−8ジオプトリーのレンズを備えている。他の実施形態においては、前方側視野部材は、上述した+24ジオプトリーのレンズを備え、後方側視野部材は、上述した−5ジオプトリーのレンズを備えている。
【0117】
上記において特定したレンズ屈折率と曲率半径との組合せは、有利には、像拡大を最小化する。しかしながら、望ましい場合には、他の構成と曲率半径とが、修正された拡大をもたらす。
【0118】
前方側視野部材(106)および後方側視野部材(118)の各レンズは、上述したように比較的移動可能である。有利には、この移動は、少なくとも1ジオプトリーという、好ましくは少なくとも2ジオプトリーという、最も好ましくは少なくとも3ジオプトリーという、遠近調節を形成するのに十分なものとされる。言い換えれば、光学部材どうしの相対移動および/または角膜に対しての各光学部材の移動は、(i)遠近調節状態における使用者の眼の屈折力と、(ii)非遠近調節状態における使用者の眼の屈折力と、の間において、ジオプトリーという単位でもって上述した大きさといったような十分な差を生成し得るものとされる。眼内レンズシステム(100)が、単一の光学部材を備えている場合には、角膜に対してのその光学部材の移動は、上述したような焦点合わせ力の十分な差を生成し得るものとされる。
【0119】
有利には、眼内レンズシステム(100)は、4つのレンズ面のうちの1つのレンズ面だけの形状を調節することによって眼内レンズシステム(100)の光学特性全体を変更することにより、個別の患者の要求に合わせた特注品とすることができる。このことは、埋設時に複雑な調節作業を必要とすることなく、多数の患者に適応するレンズを有した本発明による眼内レンズシステムを容易に生産することを可能とするとともに、メンテナンスを容易とする。本発明によるすべての眼内レンズシステムが、レンズ屈折力の組合せに関して標準的な組合せを有すること、および、『可変』レンズ面として構成された1つのレンズ面の形状を単に調節することによって、眼内レンズシステムを特定の患者に適合させ得ること、が想定される。このカスタム的形状調節作業は、注文に応じて工場において行うことも、また、個々の患者を治療している外科医が行うことも、できる。ある実施形態においては、前方側視野部材の前方面が、単一の可変レンズ面として構成される。他の実施形態においては、後方側視野部材の前方面が、単一の可変レンズ面として構成される。しかしながら、任意のレンズ面を、そのような可変レンズ面として適切に使用することができる。その結果、レンズの屈折力に対しての負担が最小化される(在庫をなすすべての眼内レンズシステムは、同一のレンズ屈折力を有している)。これにより、個々の患者に対しての複雑な調整が不要となる(適合プロセスにおいては、4つのレンズ面のうちの1つのレンズ面だけを調節するだけで良い)。
【0120】
[IV.眼内レンズシステム:代替可能な実施形態]
図17.4は、眼内レンズシステム(100)の他の実施形態を示している。この場合、前方側視野部材(106)は、後方側視野部材(118)よりも小さな直径の光学部材とされている。後方側視野部材(118)は、中央に位置した負レンズ部分(172)の周囲に、周縁に位置した正レンズ部分(170)を有した、光学部材とされている。この構成により、眼内レンズシステム(100)の使用者は、無限遠位置の対象物からの(全体的に平行な)光線が眼内へと前方側視野部材(106)をバイパスさせつつ入射させ得ることによって、無限遠位置の対象物に対して焦点合わせすることができる。後方側視野部材(118)の周縁に位置した正レンズ部分(170)は、光線の屈折に関し、単独で機能することができ、使用者に対して、(協働して動作する前方側および後方側視野部材によってもたらされている視覚距離範囲に加えて)無限遠位置に対しての焦点合わせ像をもたらす。他の実施形態においては、前方側視野部材(106)は、およそ3mmあるいはそれ以下という直径を有した光学部材とされる。さらに他の実施形態においては、前方側視野部材(106)は、およそ3mmあるいはそれ以下という直径を有し、かつ、55ジオプトリー未満という屈折力を有したより好ましくは30ジオプトリー未満という屈折力を有した、光学部材とされる。なおも他の実施形態においては、周縁に位置した正レンズ部分(170)は、約20ジオプトリーという屈折力を有している。
【0121】
図17.5は、代替可能な実施形態を示しており、この場合、前方側視野部材(106)は、屈折力を有した中央部分(176)と、それを囲んで位置しているとともに実質的にゼロという屈折力を有した周縁領域(174)と、を有した光学部材とされている。中央領域(176)は、後方側視野部材(118)をなす光学部材よりも小さな直径を有しており、好ましくは、約3mm以下という直径を有している。この構成は、また、いくらかの入射光線が、(ゼロという屈折率の周縁領域(174)を通過することにより)前方側視野部材を屈折することなく通過することを、可能とする。これにより、後方側視野部材(118)の周縁に位置した正レンズ部分(170)が、上述したのと同様にして、単独で機能することができる。
【0122】
図18および図19は、眼内レンズの他の実施形態(250)を示している。特に後述する点を除いては、この実施形態(250)は、図3〜図17に示す実施形態に対し、大部分において類似している。眼内レンズ(250)は、前方側付勢部材(108)と後方側付勢部材(120)とを特徴とするものである。前方側付勢部材(108)と後方側付勢部材(120)とは、眼内レンズシステム(100)の場合とは違って、側面視において非対称に配置されている。ここで、付勢部材(108,120)を記述するにあたって、『非対称』または『非対称的』という用語は、眼内レンズシステム(100)を側方から見たときに、第1前方並進部材(110)と第1後方並進部材(122)とが、B−B線(光学軸に対して実質的に直交しかつ第1および第2頂点(112,116)に交わる平面のエッジを表している)に対してそれぞれ互いに異なる前方側および後方側付勢角度(δ,δ)でもって第1頂点(112)から延在していること、および/または、第2前方並進部材(114)と第2後方並進部材(124)とが、B−B線に対して実質的に同じ前方側および後方側付勢角度(δ,δ)でもって第2頂点(116)から延在していること、を意味している。
【0123】
図18,19に示す実施形態においては、第1および第2前方側付勢角度(δ,δ)は、対応する第1および第2後方側付勢角度(δ,δ)よりも大きなものとされている。この構成は、有利には、後方側視野部材(118)および頂点(112,116)を、実質的に静止位置に維持する。その結果、眼内レンズシステム(250)の可動質量が低減し、前方側視野部材(106)が、与えられた駆動力が同じであったにしても、光学軸に沿って、より大きな範囲にわたって、より迅速に移動することができる。(後方側付勢部材(120)とその構成要素をなす第1および第2後方並進部材(122,124)とが、実質的に移動不可能であったにしても、これらは、なおも『付勢部材』および『並進部材』と称されることに、注意されたい)。他の実施形態においては、前方側付勢部材(108)と後方側付勢部材(120)とが、逆の関係で非対称に配置される。すなわち、第1および第2前方側付勢角度(δ,δ)が、対応する第1および第2後方側付勢角度(δ,δ)よりも小さなものとされる。この構成も、また、『対称的』システムと比較して、両視野部材の比較的大きな移動範囲をもたらす。
【0124】
図18,19に示す両視野部材(106,118)においては、後方側視野部材(118)が、B−B線に対して、前方側視野部材(106)よりも近接しているようにして、配置されていることに、注意されたい。この構成が、両視野部材(106,118)の構成にかかわらず、所望の性能特性をもたらすことが見出された。代替可能な実施形態においては、両視野部材(106,118)は、B−B線に対して対称的に配置することができる(図4を参照されたい。ただし、図4においては、B−B線は、A−A線として示されている)。あるいは、両視野部材(106,118)は、前方側視野部材(106)の方が、B−B線に対して、後方側視野部材(118)よりも近接しているようにして、非対称的に配置することができる。さらに、両付勢部材および両視野部材の対称性または非対称性は、互いに独立に選択することができる。
【0125】
図20は、眼内レンズの他の実施形態(350)を示しており、この場合、後方側視野部材(118)は、内部にボイドを形成した環状フレーム部材とされている。一方、前方側視野部材(106)は、屈折力を有した光学部材とされている。これに代えて、後方側視野部材(118)は、ゼロ屈折力のレンズすなわち単なる透明部材とすることができる。同様に、他の実施形態においては、前方側視野部材(106)の方を、内部にボイドを形成した環状フレーム部材あるいはゼロ屈折力のレンズあるいは単なる透明部材とすることし、かつ、後方側視野部材(118)の方を、屈折力を有した光学部材とすることができる。さらなる実施形態においては、前方側および後方側視野部材(106,118)の一方または双方が、環状フレーム部材すなわち周縁フレーム部材を有することができ、嵌合取付やその後の接着や溶接によって、着脱可能な光学部材(あるいは、『一時的に設置される』光学部材)を受領することができる。そのような構成は、詳細に後述するように、埋設作業時の眼内レンズシステムの組立および/または微調整を容易なものとする。
【0126】
[V.眼内レンズシステム:付加的な特徴点]
図21は、張出部分(132)の機能を詳細に示している。眼内レンズシステム(100)は、通常的な態様で水晶体嚢(58)内に配置されており、前方側視野部材(106)と後方側視野部材(118)とが光学軸に沿って配置されている。水晶体嚢(58)は、全体的に円形の前方開口(66)を有したものとして図示されている。前方開口(66)は、多くの場合、眼内レンズシステム(100)の埋設時に水晶体嚢内にカット形成することができる。張出部分(132)の第1および第2張出部材(134,136)は、水晶体嚢(58)を膨張させ、これにより、後方側視野部材の後面および/または後方側付勢部材(120)との間において、緊密な接触を形成する。加えて、前方側視野部材(106)の前面および/または前方側付勢部材(108)との間において、緊密な接触を形成する。よって、張出部材(134,136)は、水晶体嚢(58)からの一切の弛緩を除去し、毛様筋の作用によって水晶体嚢(58)が拡張と弛緩とを繰り返したにしても、水晶体嚢(58)と眼内レンズシステム(100)との間の力の連結を最適化する。
【0127】
さらに、張出部材(134,136)は、遠近調節範囲にわたっての背の高い薄い形状へと、水晶体嚢(58)の形状を調節する。これにより、両視野部材(106,118)の相対移動範囲が、より大きなものとなる。水晶体嚢(58)が非遠近調節状態にある場合、張出部材(134,136)は、水晶体嚢を、天然の水晶体が入っていた場合の水晶体嚢(58)の非遠近状態と比較して、(光学軸に沿って測ったときに)薄い状態とする。好ましくは、張出部材(134,136)は、水晶体嚢(58)を、非遠近調節状態の形状として、天然の水晶体が入っていた場合の非遠近状態での水晶体嚢の厚さよりも、光学軸に沿って測ったときに、およそ1.0〜2.0mmだけ薄いようなもの、より好ましくはおよそ1.5mmだけ薄いもの、とする。
【0128】
張出部材(134,136)によってもたらされたそのような薄い『出発状態』においては、眼内レンズシステムの両視野部材(106,118)は、より大きな離間状態へと移動することができ、より大きな遠近調節範囲をもたらし、しかも、眼内レンズシステムと虹彩との間の無用の接触を引き起こすことがない。したがって、水晶体嚢を上述のように再成形することによって、張出部材(134,136)は、前方側および後方側視野部材(106,118)の相対移動範囲を、およそ0.5〜4mmとし、好ましくはおよそ1〜3mmとし、より好ましくはおよそ1〜2mmとし、最も好ましくはおよそ1.5mmとする。
【0129】
張出部分(132)/張出部材(134,136)は、好ましくは、前方側および後方側付勢部材(108,120)とは個別のものとされる。よって、張出部材(134,136)は、好ましくは、前方側および後方側視野部材(106,118)の遠近調節に関する接近離間移動に対する付勢には、何の役割も果たさない。この構成は、有利である。それは、眼内レンズシステム(100)が遠近調節状態(図16参照)とされた時に、付勢部材(108,120)の頂点(112,116)が、光学軸から最小の突出位置に到達するからである(そして、これにより、両付勢部材が、水晶体嚢を径方向に拡張させるための最小効果位置に到達するからである)。このことは、ピンと張りつめた水晶体嚢における最も要求されることであり、そのため、毛様筋の弛緩に対して、即座の反応をもたらすことができる。好ましい張出部分は、(両視野部材(106,118)を遠近調節状態へと付勢しつつあるいは非遠近調節状態へと両視野部材を維持しつつ、両視野部材を『動的』に付勢することとは対照的に)『静的』なものである。張出部分をなす各部材は、両視野部材(106,118)の移動範囲全体にわたって光学軸から実質的に一定距離だけ突出している。いくらかの程度のフレキシブル度合いを、張出部材(134,136)において観測することができるけれども、張出部材(134,136)は、剛直である場合に、最も効果的である。さらに、張出部材(134/136)の厚さおよび/または横断面形状は、必要に応じて部材の長さ部分に応じて変更することができる。これにより、張出部材に対して所望程度の剛直さをもたらすことができる。
【0130】
張出部分(132)/張出部材(134,136)は、有利には、水晶体嚢(58)を径方向に引き伸ばすことによって、水晶体嚢(58)を再成形し、水晶体嚢(58)を、眼による遠近調節範囲の全体にわたって、より薄くかつより背が高い形状とする。この再成形は、眼内レンズシステム(100)の両視野部材の相対移動範囲を(上記において特定したようにして)、(上述したシステム全体厚さによって決定されるような)適切な両端を有した広い移動範囲とするものであると考えられる。これにより、眼内レンズシステムにおいて、許容しがたいような厚い光学部材を使用する必要性を、排除することができる。
【0131】
必要であれば、張出部材(134,136)は、また、水晶体嚢内における眼内レンズシステム(100)の向きを安定化させかつ固定させ得るよう、触覚として機能することもできる。好ましい張出部材(134,136)の開口(134c,136c)は、眼内レンズシステム(100)を水晶体嚢内に設置した際に、水晶体嚢からの細胞内部成長を可能とする。最後に、水晶体嚢内における『弛緩』を低減するために、張出部分(132)に代えてあるいは加えて、例えば個別のカプセル状張力リングや選択された領域において水晶体嚢に対しての接着剤の使用といったような他の手法を、使用することができる。
【0132】
また、張力リングは、水晶体嚢の内表面上への細胞内方成長に対する物理的バリアとして作用することができ、水晶体嚢の内表面上へと事後的に細胞内方成長が起こることを防止することができ、事後白濁化を制限する点において付加的な利点をもたらすことができる。埋設時には、張力リングは、水晶体嚢の内表面に対して堅固に接触し、バリアの側方等からの内表面上への細胞内方成長を防止するための、周縁バリアを形成する。
【0133】
図21.1は、張出部分(132)の代替可能な構成を示している。この場合、張出部材(134,136)は、頂点(112,116)に対して端部が連結されることにより頂点(112,116)と一緒に一体的周縁部を形成する第1および第2円弧部分を備えている。この構成においては、両張出部材と両頂点とが、高さ(I)が幅(J)よりも小さいような楕円形を形成することが好ましい。
【0134】
図21.2は、張出部分(132)の他の代替可能な構成を示している。この場合、円弧状リム部(137)が、両頂点(112,116)と両張出部材(134,136)の各自由端(134b,136b)とを、相互連結している。これにより、図21.1の構成よりも、全体的に側方剛直度がより大きい一体的周縁部が形成されている。
【0135】
図21.3は、張出部分(132)の他の代替可能な構成を示している。この場合、張出部材(134,136)は、第1および第2後方並進部材(122,124)と一体形成されている。これにより、張出部材(134,136)と、第1および第2後方並進部材(122,124)とは、後方側視野部材(118)の周縁部に対して連結された共通の移行部材(139)を形成している。
【0136】
図22は、保持部分(126)の機能を詳細に示している。第1および第2保持部材(128,130)が、眼内レンズシステム(100)の前方部分と、水晶体嚢(58)の前面と、の間の幅広い接触ベース部の形成を容易としていることが、容易にわかる。第1および第2保持部材(128,130)を適切に離間させることにより、これら第1および第2保持部材(128,130)が、前面開口(66)を通しての前方側視野部材(106)の突出を防止する。また、水晶体嚢(58)の前面と、保持部材(128,130)の一方または双方と、の間において接触が行われている部分においては、両保持部材が、また、毛様筋の作用によって水晶体嚢が広げられて弛緩された際に、水晶体嚢(58)と眼内レンズシステム(100)との間の押圧接触にも寄与することが容易にわかる。
【0137】
図21および図22に明瞭に示すように、眼内レンズシステム(100)の前方部分(102)は、前方側視野部材(106)の周縁回りにおいて、水晶体嚢(58)に対して複数の接触領域を形成している。図示の実施形態においては、これら接触領域の少なくともいくつかは、前方側付勢部材(108)の最前方部分上に配置されている。より詳細には、移行部材(138,140)のところにおいて、および、保持部材(128,130)のところにおいて、配置されている。移行部材および保持部材は、これらの間に、前方側視野部材(106)の複数のエッジのところにおいてスペースを形成している。これにより、水晶体嚢(58)の内部と水晶体嚢(58)の前方部分との間にわたって、流体が流通することを可能としている。言い換えれば、眼内レンズシステム(100)の前方部分は、水晶体嚢(58)から離間していて非接触状態とされた少なくとも1つの場所を備えており、これにより、両視野部材(106,118)の間の領域から、水晶体嚢(58)の外部までにわたって延在する流体流通チャネルが形成されている。そうでなければ、眼内レンズシステム(100)の前方部分(102)が、水晶体嚢(58)の前方開口(66)をシールすることとなってしまい、流体の流通ができなくなり、水晶体嚢内の房水が淀んでしまって、臨床的に悪い結果となり、遠近調節状態と非遠近調節状態との間にわたっての眼内レンズシステム(100)の移動が禁止されることとなってしまいかねない。
【0138】
要望によっては、保持部材(128,130)の一方または双方は、上述したような流体流通を可能とし得るよう、内部に形成された開口(129)(図21.1を参照されたい)を有することができる。
【0139】
保持部材(128,130)と移行部材(138,140)とは、また、前方側視野部材(106)の前面から前方開口(66)を離間させることによって、虹彩と前方側視野部材(106)との間の接触をも、防止している。言い換えれば、水晶体嚢(58)のうちの、前方開口(66)も含めた前面を、前方側視野部材(106)よりも前方側へと変位させ、眼内レンズシステムの遠近調節範囲全体にわたって、この変位に基づく隔離を維持する。よって、虹彩と、眼内レンズシステムと水晶体嚢とからなるアセンブリと、の間に接触が起こったにしても、眼内レンズシステムのいずれの部材も、虹彩に対して接触することがなく、水晶体嚢自体だけが、特に、水晶体嚢(58)のうちの、保持部材(128,130)および/または移行部材(138,140)に対して重なっている部分だけが、接触するのみである。したがって、保持部材(128,130)および/または移行部材(138,140)は、虹彩と眼内レンズシステムとの間の隔離を維持する。そうでなければ、眼内レンズシステムがシリコーンから構成されている場合には、虹彩に対して接触が起こった場合には、臨床的な悪影響が起こりかねない。
【0140】
図22.1に示すように、1つまたは複数の係止部材(190)を、前方側および/または後方側付勢部材(108,120)上の適切な場所に、配置することができる。これにより、前方側および後方側視野部材(106,118)の接近移動を制限することができ、好ましくは、それら視野部材どうしの接触を防止することができる。眼内レンズシステム(100)が、非遠近調節位置に向けて移動したときには、前方側付勢部材(108)上に配置された(1つまたは複数の)係止部材が、後方側付勢部材(120)に対して接触することとなり(あるいは、後方側付勢部材(120)上に配置された(1つまたは複数の)付加的な係止部材に対して接触することとなり)、または、後方側付勢部材(120)上に配置された(1つまたは複数の)係止部材が、前方側付勢部材(108)に対して接触することとなる(あるいは、前方側付勢部材(108)上に配置された(1つまたは複数の)付加的な係止部材に対して接触することとなる)。よって、係止部材(190)は、眼内レンズシステム(100)のすなわち両視野部材(106,118)間の、最大接近位置すなわち最大接近状態を規定(制限)する。そのような規定(制限)は、有利には、眼内レンズシステム(屈折力を有した2つ以上の視野部材を備えているような眼内レンズシステム)が形成し得る焦点合わせ範囲の一方の限界位置、および/または、眼内レンズシステム(100)の移動範囲の一方の限界位置、を設定することを補助する。
【0141】
図22.1に示す係止部材(190)は、前方側付勢部材(108)の第1および第2前方並進部材(110,114)上に配置されているとともに、それら第1および第2前方並進部材(110,114)から後方側に延出されている。前方側および後方側視野部材(106,118)が互いに接近する向きに移動する場合には、複数の係止部材(190)の一方または双方が、後方並進部材(122,124)に対して接触することとなり、これにより、両視野部材(106,118)どうしの間のそれ以上の接近移動を防止する。当然のことながら、他の実施形態においては、(1つまたは複数の)係止部材(190)を、眼内レンズシステム(100)上の他の任意の適切な場所に配置することができる。
【0142】
[VI.モールドツール]
図23および図24は、図3〜図17に示す眼内レンズシステム(100)をモールド成形するのに適したモールドシステム(500)を示している。モールドシステム(500)は、概して、第1モールド(502)と、第2モールド(504)と、中央モールド(506)と、を備えている。中央モールド(506)は、第1モールド(502)と第2モールド(504)との間に配置され得るように構成されている。これにより、中央モールド(506)は、眼内レンズシステム(100)を射出成型または圧縮モールド成型するためのモールド空間を形成する。モールドシステム(500)は、適切な金属や、耐衝撃性の大きなプラスチックや、あるいは、これらの組合せから形成することができるとともに、例えば旋盤加工やミリングやレーザー機械加工や電気放電機械加工といったような従来的機械加工技術によって形成することができる。
【0143】
第1モールド(502)は、第1モールドキャビティ(508)を備えている。第1モールドキャビティ(508)は、第1前方モールド面(510)と、これを囲んでいる環状トラフ(512)および第1周縁モールド面(514)と、を有している。第1モールド(502)は、さらに、第2モールド(504)との係合を容易とするための突起(516)を備えている。
【0144】
中央モールド(506)は、第1中央モールドキャビティ(518)を備えている。この第1中央モールドキャビティ(518)は、第1モールドキャビティ(508)と協働することによって、眼内レンズシステム(100)の前方部分(102)を形成するためのモールド空間を形成する。第1中央モールドキャビティ(518)は、中央前面モールド面(520)を有している。この中央前面モールド面(520)は、第1モールドキャビティ(508)内に中央モールド(506)を配置した時には、第1前方モールド面(510)と協働することによって、前方側視野部材(106)のためのモールド空間を形成する。そうすることによって、第1前方モールド面(510)が、前方側視野部材(106)の前面を形成し、中央前方モールド面(520)が、前方側視野部材(106)の後面を形成する。第1前方モールド面(510)と中央前方モールド面(520)とによって形成されたチャンバに対して流体連通可能として、側方チャネル(522,524)(図31に明瞭に示されている)が配置されている。側方チャネル(522,524)は、第1および第2移行部材(138,140)と、第1前方並進部材(110)のアーム(110a,110b)と、第2前方並進部材(114)のアーム(114a,114b)と、をモールド成型するための空間を形成する。第1中央モールドキャビティ(518)は、さらに、保持部材用キャビティ(526,528)を有している。これら保持部材用キャビティ(526,528)は、前方側視野部材(106)に対しての第1および第2保持部材(128,130)をモールド成型するための空間を形成する。
【0145】
第2モールド(504)は、第2モールドキャビティ(530)を備えている。第2モールドキャビティ(530)は、第2後方モールド空間(532)と、第2周縁モールド面(536)と、第2後方モールド空間(532)から延在しているとともに第2後方モールド空間(532)と第2周縁モールド面(536)とを連結している全体的に円筒形の移行部(534)と、を有している。第2周縁モールド面(536)内には、側方ノッチ(538,540)(図26,27に明瞭に図示されている)が形成されている。第2モールド(504)は、さらに、モールドシステム(500)内への材料導入を行うために、導入チャネル開口(544)に対して連結された導入チャネル(542)を備えている。さらに、第2モールド(504)内には、導出チャネル(546)と、導出チャネル開口(548)と、が形成されている。全体的に円筒形のリム(550)が、第1モールド(502)の突起(516)との係合のために、設けられている。
【0146】
中央モールド(506)は、第2中央モールドキャビティ(552)を備えている。この第2中央モールドキャビティ(552)は、第2モールドキャビティ(530)と協働することによって、眼内レンズシステム(100)の後方部分(104)を形成するためのモールド空間を形成する。第2中央モールドキャビティ(552)は、中央後面モールド面(554)を有している。この中央後面モールド面(554)は、第2モールドキャビティ(530)内に中央モールド(506)を配置した時には、第2後方モールド面(532)および移行部(534)と協働することによって、後方側視野部材(118)を形成するためのチャンバを形成する。中央後方モールド面(554)と第2後方モールド面(532)とによって形成されたチャンバに対して流体連通可能として、側方チャネル(556,558,560,562)が配置されている。これら側方チャネルは、第1後方並進部材(122)のアーム(122a,122b)と、第2後方並進部材(124)のアーム(124a,124b)と、をモールド成型するためのモールド空間をもたらす。第2中央モールドキャビティ(552)は、さらに、側方突起(564,566)を備えている。これら側方突起(564,566)は、第2モールドキャビティ(530)内に形成されたノッチ(538,540)と協働する。側方突起(564,566)とノッチ(538,540)との間に形成されたチャンバは、中央後方モールド面(554)と第2後方モールド面(532)とによって形成されたチャンバに対して、流体連通し、後方側視野部材(118)と一体成型された第1および第2張出部材(134,136)を形成する。
【0147】
中央モールド(506)は、第1縮径部(568)と第2縮径部(570)とを備えている。これら縮径部の各々は、モールドシステム(500)の組立時には、眼内レンズシステム(100)の頂点(112,116)のためのモールド空間を形成する。
【0148】
使用時には、モールドシステム(500)は、中央モールド(506)を、第1モールド(502)と第2モールド(504)との間に配置させるようにして、組み立てられる。この組立状態においては、モールドシステム(500)は、適切な技術によって、互いに堅固に保持される。レンズ材料が、導入チャネル(542)を通して、モールドシステム(500)内へと導入される。その後、レンズ材料は、第1モールド(502)と第2モールド(504)と中央モールド(506)とによって形成された空間を充填し、最終的な眼内レンズシステム(100)の形状をなす。
【0149】
他の実施形態においては、眼内レンズシステム(100)は、あるいはその一部は、キャスト手法あるいは液体キャスト手法によって形成される。その場合、第1モールドおよび第2モールドの一方が、最初に、その液体によって充填され、次に、中央モールドが、その液体充填済みモールドに対して係合配置される。続いて、中央モールドの露出面が、液体によって充填され、第1モールドおよび第2モールドの他方が、モールドシステムの残部に対して、係合配置される。液体は、硬化することができ、最終的に得られたキャスト製品が、モールドシステムから取り外される。
【0150】
モールドシステム(500)は、有利には、眼内レンズシステム(100)を、単一の一体型ユニットとして形成するために使用することができる。代替的には、眼内レンズシステム(100)の様々な部分を、互いに個別的に、モールド成型したりキャスト成型したりあるいは機械加工したりすること等によって形成することができ、その後に組立操作を行って、最終的な眼内レンズシステムを得ることができる。組立操作は、集中管理された複数の製造操作の一部として行うことができる。あるいはこれに代えて、外科医が、埋設手術時にあるいは埋設手術前に、組立操作の全部または一部を行うことができ、これにより、特定の患者に対して適切となるように、レンズの屈折力や付勢部材やシステムのサイズ等を選択することができる。
【0151】
中央モールド(506)は、第1および第2中央モールドキャビティ(518,552)を有した一体ユニットを備えてなるものとして示されている。これに代えて、中央モールド(506)は、モジュール型構成とすることができる。すなわち、第1および第2中央モールドキャビティ(518,552)を、取替可能なものとすることができ、それによって、所望仕様に応じた眼内レンズシステム(100)を製造するための中央モールド(506)を構成することができる。あるいは、中央モールドによって形成されるレンズの屈折力を変更することができる。
【0152】
[VII.材料/表面処理]
眼内レンズシステム(100)を形成するのに好ましい材料には、シリコーンや、アクリルや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンからなるブロックコポリマー(C−FLEX)(商標名)や、他のスチレンベースのコポリマーや、ポリビニルアルコール(PVA)や、ポリウレタンや、ヒドロゲルや、他の任意の適切なポリマーやモノマー、がある。加えて、眼内レンズシステム(100)のうちの、光学部材以外の任意の部分は、ステンレススチールや、例えばニチノール(登録商標)といったような形状記憶合金や、あるいは、他の鉄ベースの形状記憶合金、から形成することができる。金属製の構成要素は、生体適合性を高めるために、金によってコーティングすることができる。可能であれば、光学部材として、例えば15Aといったような比較的小さなショアA硬度を有した材料を使用することができ、眼内レンズシステム(100)の他の部材として、例えば35Aといったような比較的大きなショアA硬度を有した材料を使用することができる。最後に、光学部材は、1999年10月8日付けで“LENSES CAPABLE OF POST−FABRICATION POWER MODIFICATION” という題名でもって出願された特許文献1に記載されているように、埋設後の屈折力調節を容易とし得るよう、感光性シリコーンから形成することができる。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。
【0153】
メチルメタクリレートモノマーは、また、上述した非金属系材料の任意のものとブレンドすることができる。これにより、得られた眼内レンズシステムの潤滑性を向上させることができる(後述するように、挿入に際し、眼内レンズシステムの折曲や曲げや捻りを容易とすることができる)。メチルメタクリレートモノマーの添加は、また、眼内レンズシステムの強度と透明性とを増大させる。
【0154】
眼内レンズシステム(100)の光学部材および/または他の部材は、また、様々な材料からなる層から形成することができる。複数の層は、単なる積層によって、あるいは、同心状配置によって、構成することができる。加えて、複数の層は、一連のポリマー層や、ポリマーと金属との混合層や、ポリマーとモノマーとの混合層、を備えることができる。特に、眼内レンズシステム(100)の構成要素として、光学部材以外の部材としては、ニチノール(登録商標)コアがシリコーン製ジャケットによって囲まれたものを、使用することができる。光学部材としては、アクリルとシリコーンとのラミネートを使用することができる。層状構成は、2つ以上の層を互いに押圧/接着することによって、得ることができる。あるいは、成膜プロセスやコーティングプロセスを使用することもできる。
【0155】
ある実施形態においては、眼内レンズシステム(100)のうちの、光学部材以外の部分は、形状記憶合金から形成される。この実施形態は、形状記憶合金に特有の機械的性質を利用することができ、眼内レンズシステム(100)内における材料疲労を最小化しつつ、水晶体嚢内における各光学部材の移動応答性を高速化しかつ一定化することができる。ある実施形態においては、付勢部材(108,120)の一方または双方が、例えばニチノール(登録商標)や他の鉄ベースの形状記憶合金といったような形状記憶合金から、形成される。ニチノール(登録商標)の応力・歪み曲線がフラットであることのために、そのような付勢部材は、幅広い移動範囲にわたって、大いに一定化された遠近調節力をもたらす。さらに、特にニチノール(登録商標)といったような形状記憶合金から形成された付勢部材は、(ヒトの眼の中に埋設する際にそうされるように)熱に対して曝された際に、スプリング特性を保持する。これに対し、ポリマー製付勢部材は、スプリング特性を失う傾向があり、眼内レンズシステムの応答性を劣化させかねない。同様の理由により、光学部材以外の構成要素については、従来の(遠近調節状態不可能な)眼内レンズの任意の構成要素を形成するに際して、上述したような形状記憶合金を使用することが有利である。
【0156】
要望によっては、眼内レンズシステム(100)の様々な構成要素に対して、様々なコーティングが適切である。炎症的な細胞取付(inflammatory cell attachment,ICA)および/または事後白濁化(posterior capsule opacification,PCO)を防止するために、眼内レンズシステム(100)上の適切な場所にヘパリンコーティングを施すことができる。当然のことながら、そのようなコーティングが可能な場所には、後方側付勢部材(120)および後方側視野部材(118)の後面がある。コーティングは、また、眼内レンズシステム(100)に対して、生体適合性を改良するために適用することもできる。そのようなコーティングには、P−15ペプチドやRGDペプチドのような『能動的』コーティングや、例えばヘパリンや他のムコ多糖類やコラーゲンやフィブロネクチンやラミニンといったような『受動的』コーティング、がある。ヒルジンやテフロン(登録商標)やテフロン(登録商標)様コーティングやPVDFやフッ素化されたポリマーといったような水晶体嚢に対して不活性であるような他のコーティングも含めた他のコーティングを使用することによって、眼内レンズシステムが水晶体嚢に対して接触する場所(例えば、光学部材、張出部材)における潤滑性を改良することができる。あるいは、Hema(商標名)やシリコーンを使用することによって、眼内レンズシステム(100)に対して、親水性または疎水性を付与することができる。
【0157】
また、眼内レンズシステム(100)および/またはモールド面が、生体適合性を改良するための表面不動態化プロセスを受けることが望ましい。これは、例えば化学的エッチングやプラズマ処理といったような従来技術を使用して、行うことができる。
【0158】
さらに、眼内レンズシステム(100)の適切な表面(例えば、視野部材や付勢部材や張出部材や保持部材等の外側エッジ/外表面)を、凹凸化するあるいは粗面化することによって、水晶体嚢に対する付着特性を改良することができる。これは、例えばプラズマ処理やエッチングやディッピングや気相蒸着やモールド面改質等といったような従来的手法を使用することによって、行うことができる。ICA/PCOを防止するためのさらなる手段として、後方向きに延在する周縁壁(図示せず)を、後方側視野部材(118)に対して設置することができ、これにより、後方側光学部材の後面を囲むことができる。この壁は、水晶体嚢の後面に対して堅固に係合し、水晶体嚢の内面上における細胞内方成長の進展に対しての物理的バリアとして作用する。最後に、好ましい後方側視野部材(118)の横断面を比較的厚いものとすること(図9,10参照)は、局所的な変形を起こすことなく水晶体嚢後面に対して堅固に当接することを保証する。これにより、比較的尖鋭なリムを有していることにより、好ましい後方側視野部材(118)の後面は、それ自体が、細胞内方成長およびICA/PCOに対してのバリアとして機能することができる。この効果を得るためには、後方側視野部材(118)は、好ましくは、従来の眼内レンズよりも厚いものとして形成される。厚い後方側視野部材に代えてあるいはこれに加えて、後方側視野部材(118)の後面上に、顕著に後方向きに突出する周縁リムを形成することにより、細胞成長を禁止することができる。眼内レンズシステム(100)の埋設時には、そのような周縁リムは、水晶体嚢(58)の内面に対して堅固に当接し、後方側視野部材(118)の後面と水晶体嚢(58)との間に細胞が成長することに対しての物理的バリアとして機能する。
【0159】
選択された材料およびレンズ構成は、モールド形成/キャスト形成の後における、例えば、研磨プロセスや、クリーニングプロセスや、オートクレーブとか酸化エチレンとか放射とかを使用したような殺菌プロセス、といったような二次操作に耐え得るべきである。モールドの開放後には、レンズは、典型的には化学的プロセスや機械的プロセスやこれらの組合せといったような、洗浄操作や研磨操作やクリーニング操作を受けるべきである。適切な機械的プロセスには、タンブリングや、シェーキングや、振動、がある。タンブリングプロセスにおいては、様々な等級のガラスビーズを収容したバレルと、例えばアルコールまたは水といったような流体と、例えば酸化アルミニウムといったような研磨物質と、を使用することができる。プロセス速度は、材料に応じたものとされる。例えば、シリコーンに対するタンブリングプロセスにおいては、152.4mm(6インチ)という直径のバレルを使用して、30〜100RPMで回転させるべきである。研磨およびクリーニングに関する様々なステップを使用することによって、最終的な表面品質を得ることが想定される。
【0160】
ある実施形態においては、眼内レンズシステム(100)は、洗浄/研磨/クリーニング操作時には、前方側視野部材と後方側視野部材との間の増強された隔離をもたらすための固定具内に、保持される。これにより、前方側視野部材と後方側視野部材とに対しての、洗浄/研磨/クリーニングの効果を改良することができる。他の実施形態においては、眼内レンズシステム(100)は、内面と外面とが、めくり返されるすなわちひっくり返される。これにより、両視野部材の内面が、洗浄/研磨/クリーニング操作の一部において、より良好に露出される。図34.1は、複数の膨張グルーブ(192)を示している。これら膨張グルーブ(192)は、眼内レンズシステム(100)の頂点(112,116)の下面に形成することができ、頂点や前方側/後方側付勢部材(108,120)を損傷させたりまた引裂を引き起こしたりすることなく、眼内レンズシステム(100)のめくり返しを容易なものとすることができる。同じ理由により、下面上における膨張グルーブの設置に代えてあるいは加えて、同様の膨張グルーブを、頂点(112,116)の反対面(すなわち、外面)上に形成することができる。
【0161】
眼内レンズシステム(100)の製造においては、また、硬化プロセスも望ましいものである。眼内レンズシステムが全体的にシリコーンから室温で製造される場合、硬化時間は、数日間とすることができる。モールドが約50℃に維持されている場合には、硬化時間は、約24時間にまで短縮することができる。モールドが100〜200℃に予熱されている場合には、硬化時間は、約3〜15分間とすることができる。当然のことながら、時間と温度との組合せは、他の材料においては、変更されることとなる。
【0162】
[VIII.複数部材構成および他の実施形態]
図35は、2部材型構成とされた眼内レンズシステムの実施形態(600)を概略的に示している。この実施形態においては、前方部分(102)と後方部分(104)とは、互いに個別の部材として形成されているとともに、水晶体嚢内へと個別に挿入した後に、水晶体嚢内において組み立てることが意図されている。ある実施形態においては、前方部分(102)および後方部分(104)の各々は、水晶体嚢内への挿入前に、曲げられるあるいは折り曲げられるあるいは捻られる。(挿入操作に関しては、詳細に後述する)。前方部分(102)と後方部分(104)とは、上述した前方部分の構成および後方部分の構成を有したものとして概略的に図示されている。例えば、前方部分および後方部分は、図3〜図17に図示された眼内レンズシステム(100)が、図4におけるA−A線あるいはA−A平面に沿って単に分割されたものとすることができる。2部材型眼内レンズシステム(600)の前方部分(102)および後方部分(104)は、第1および第2当接箇所(602,604)を備えることとなる。これら当接箇所(602,604)は、組立操作時には、当接関係で配置されることが意図されている(よって、眼内レンズシステムの第1頂点および第2頂点を形成する)。第1および第2当接箇所(602,604)は、前方部分(102)と後方部分(104)との位置合わせおよび組立を容易とし得るよう、例えば互いに調和した突起および凹所といったような係合部材(図示せず)を、備えることができる。
【0163】
さらなる変形例として、眼内レンズシステム(600)の前方部分(102)および後方部分(104)は、当接箇所(602,604)の一方において関節結合的に連結することができ、かつ、他方において連結しないものとすることができる。これにより、水晶体嚢内へと前方部分(102)および後方部分(104)を(部分的に連結された状態で)順次的に挿入することができる。挿入に際しては、前方部分および後方部分を、個別的に曲げたり折り曲げたりすることができる。前方部分(102)および後方部分(104)は、互いに『揺動』され、非連結の当接箇所において連接される。これにより、双方の部分を挿入した後に必要に応じて曲げや折曲を解除することができ、その後に、最終的な眼内レンズシステムを形成することができる。
【0164】
図36は、2部材型眼内レンズシステムの他の実施形態(700)を概略的に示している。眼内レンズシステム(700)は、図35に示す眼内レンズシステム(600)と望ましくは同様のものであるけれども、当接箇所(702,704)が、比較的大きく形成されているとともに、湾曲している点において、相違している。これら当接箇所(702,704)が当接することによって、眼内レンズシステム(700)の頂点(112,116)が形成される。
【0165】
図37および図38は、眼内レンズシステムの他の実施形態(800)を示している。この場合、前方側および後方側付勢部材(108,120)は、第1および第2前方並進部材(110,114)と第1および第2後方並進部材(122,124)をそれぞれ形成する一体型『バンド』状部材を備えている。付勢部材(108,120)は、さらに、狭幅部分(802,804)を形成している。これら狭幅部分(802,804)は、眼内レンズシステム(800)の頂点において連接されているとともに、フレキシブルさの大きな領域をもたらしている。これにより、十分な遠近調節移動が容易なものとされる。図示の張出部分(132)は、3対をなす張出部材(134,136)を備えている。これら張出部材は、湾曲した構成を有しているけれども、それでもなお、全体的には光学軸から離間する向きに突出している。
【0166】
図38.1および図38.2は、水晶体嚢(58)内に埋設された状態で、眼内レンズシステムの他の実施形態(900)を示している。図38.1および図38.2に示す実施形態は、上記実施形態と同様のものとすることができるけれども、相違点は、図38.1に示すような非遠近調節状態において頂点(112,116)が毛様小帯(62)および毛様筋(60)に対して当接し得るように付勢部材(108,120)の寸法が構成されている点である。加えて、眼内レンズシステム(900)は、外力が存在しない時には非遠近調節状態のままであるように、構成されている。よって、毛様筋(60)が収縮したときには、毛様筋(60)は、頂点(112,116)どうしが近接する向きに頂点(112,116)を押圧し、付勢部材(108,120)を曲げて、両視野部材(106,118)を互いに離間させ、図38.2に示すような遠近調節状態を達成する。毛様筋(60)が弛緩したときには、頂点(112,116)に対して印加される力が減少しあるいは解除され、付勢部材(108,120)が、眼内レンズシステム(900)を、図38.1に示すような非遠近調節状態へと移動させる。
【0167】
図38.3および図38.4は、眼内レンズシステム(100)の所望動作特性に応じて遠近調節状態に向けてまたは非遠近調節状態に向けて眼内レンズシステム(100)を付勢するために使用し得るような、付勢手段(1000)を示している。したがって、付勢手段(1000)は、上述した眼内レンズシステム(100)のいずれの実施形態と一緒にも、使用することができる。付勢手段(1000)によってもたらされる付勢力は、付勢部材(108,120)によって生成される付勢力に代えてあるいは加えて、使用することができる。ある実施形態においては(図38.3を参照されたい)、付勢手段(1000)は、眼内レンズシステムの頂点(112,116)に対して隣接配置された頂点(1002)を有したU字形スプリング部材とすることができる。他の実施形態においては(図38.4を参照されたい)、付勢手段(1000)は、頂点(112,116)を跨いで架橋されているとともに前方側付勢部材(108)と後方側付勢部材(120)との間を相互連結している任意の適切な長手方向圧縮スプリングとすることができる。付勢手段(1000)のばね定数と寸法(U字形スプリングの場合には、頂点角度とアーム長さ;長手方向圧縮スプリングの場合には、全長)とを適切に選択することにより、付勢手段(1000)は、眼内レンズシステム(100)に対して、所望に応じて遠近調節状態に向けたまたは非遠近調節状態に向けた付勢力をもたらすことができる。
【0168】
付勢手段(1000)は、眼内レンズシステム(100)自体を構成する材料として適切な材料として上述したいずれの材料からでも、形成することができる。付勢手段(1000)のために選択される材料は、特定の眼内レンズシステム(100)において、付勢手段(1000)の連結対象をなす部分を形成するために使用されている材料と同じ材料とすることができる。あるいは、そのような材料とは異なる材料とすることができる。特定の眼内レンズシステム(100)内において使用される付勢手段(1000)の数は、眼内レンズシステム(100)の付勢部材によって形成されている頂点の数と同じとすることができる、あるいは、その数よりも少ない数とすることができる。
【0169】
図38.5は、眼内レンズシステム(100)のさらなる実施形態を示している。この場合、前方並進部材(110)および後方並進部材(120)とは、個別位置決め手段(1400)の数(例えば、図示の例では4個)において対をなしている。個別の位置決め手段(1400)は、光学軸回りにおいて、径方向において離間されており、好ましくは、径方向において等間隔で離間されている。図示の実施形態においては、前方および後方並進部材(110,120)は、視野部材(106,118)の周縁部に対して直接的に連結されている。しかしながら、他の実施形態においては、上述した任意の連結手法を使用することができる。図示のように、前方並進部材(110)は、好ましくは、前方側視野部材の周縁部から前方側に突出しており、その後、曲げられることによって、頂点(112)に向けて後方側へと延在している。上述したように、この構成は、水晶体嚢(58)の前面内に形成された開口を通しての流体流通を促進し得るという点において、有利である。図38.5に示された眼内レンズの構成が、図40.1および図40.2を参照して後述する折曲技術に関して、特に好適であることがわかっている。付加的な実施形態においては、図38.5に示す眼内レンズシステム(100)は、限定するものではないけれども詳細に上述したような例えば張出部材や保持部材といったような、上述した眼内レンズシステム(100)の他の実施形態における他の任意の適切な特徴点を、備えることができる。
【0170】
[IX.埋設手法]
患者の眼の中に眼内レンズシステムの様々な実施形態を埋設するに際しては、様々な技術を使用することができる。外科医は、まず最初に、任意の適切な技術を使用して、水晶体嚢(58)の前面に対してアクセスすることができる。次に、外科医は、水晶体嚢の前面を切開する。これにより、図21および図22に示すような円形開口(66)を形成することができる。あるいは、外科医は、2つの小さな円形の切開口すなわち開口を形成しさらにその後第3の直線状切開線によってそれら開口どうしを連結することによって、『ダンベル』形状の切開口を形成することも、できる。その後、例えば水晶体の乳状化法や極低温化法や放射法といったような任意の様々な公知技術を使用することによって、水晶体嚢から、天然の水晶体を、除去する。さらなる細胞成長を防止するため、すべての残存した上皮細胞を除去するまたは殺しておくことが望ましい。これは、極低温法や放射法や代謝拮抗剤や化学薬剤や浸透物質によって、行うことができる。また、細胞どうしを隔離することによって細胞成長を制限するために、例えばP15といったような薬剤を投与することもできる。
【0171】
次なるステップにおいて、外科医は、水晶体嚢内に眼内レンズシステムを埋設する。眼内レンズシステムが、互いに個別的なものとされた前方部分と後方部分とを備えている場合には、外科医は、まず最初に、後方部分を折り曲げてまたは曲げて、水晶体嚢内へと、前面開口を通して、折り曲げた後方部分を配置する。後方部分の折曲を解除した後に、外科医は、後方部分の配置状況を調節し、その配置状況を、満足のいく許容範囲内のものとする。次に、外科医は、前方部分を、同様にして折り曲げて配置する。そして、位置合わせを行って、前方部分および後方部分上に形成された係合部材等の係合を利用して、前方部分と後方部分とを組み合わせる。
【0172】
眼内レンズシステムが、部分的に組み立てられたあるいは部分的に一体化された前方部分と後方部分とを備えている場合(上記の[VIII.複数部材構成および他の実施形態]という項を参照されたい)には、外科医は、個別的に折曲可能/曲げ可能とされた各部分を折り曲げて眼内レンズシステムを挿入した後に、適切な埋設手法を使用する。ある実施形態においては、外科医は、まず最初に、部分的に組み立てられた眼内レンズシステムの一部を折り曲げてまたは曲げて、その部分を挿入する。外科医は、その後、部分的に組み立てられた眼内レンズシステムの他の部分を折り曲げてまたは曲げて、その部分を挿入する。システムの全体が水晶体嚢内に配置されるまで、この操作を繰り返す。この時点で、外科医は、必要に応じて、位置合わせを行って、各部分の組立を完成させる。他の実施形態においては、外科医は、まず最初に、部分的に組み立てられた眼内レンズシステムの全部を折り曲げてまたは曲げて、それを水晶体嚢内に挿入する。眼内レンズシステムを水晶体嚢内に配置した後に、外科医は、必要に応じて、位置合わせを行って、各部分の組立を完成させる。
【0173】
上述した各眼内レンズシステムの挿入に際して、従来の眼内レンズのための折曲デバイスや挿入器やシリンジやシューターを使用することが、想定される。好ましい折曲技術が、図39に示されている。眼内レンズシステム(100)は、まず最初に、標準状態で示されている(図39A)。前方側および後方側視野部材(106,118)を操作することにより、眼内レンズシステム(100)が、嵩低い状態とされる(図39B)。嵩低い状態においては、両視野部材(106,118)が、軸方向において互いに位置がずらされ、好ましくは、光学軸に沿って見たときに、前方側視野部材(106)と後方側視野部材(118)とが部分的にさえ全くオーバーラップしていないものとされる。嵩低い状態(図39B)においては、眼内レンズシステム(100)の厚さは、最小化される。それは、両視野部材(106,118)が、平面視において全く『重なって』おらず、サイドバイサイドに並置された構成とされているからである。嵩低い状態(図39B)から、両視野部材(106,118)および/または眼内レンズシステム(100)の他の部分を、ほぼ交差方向軸回りにあるいは交差軸に対して平行な軸回りに、折り曲げることができる。これに代えて、眼内レンズシステムは、横方向軸回りにあるいは横方向軸に対して平行な軸回りに、折り曲げることができる。折曲状態で、眼内レンズシステム(100)は、上述した標準的挿入ツール内に配置され、眼の中に挿入される。
【0174】
眼内レンズシステム(100)が嵩低い状態(図39B)とされている場合には、眼内レンズシステムは、溶解可能な縫糸を使用することによって、あるいは、取外し可能とされたまたは溶解可能な材料から形成された単なるクリップを使用することによって、一時的に、そのような嵩低い状態に維持することができる。縫糸またはクリップは、挿入時には、および、挿入後の所望時間にわたって、眼内レンズシステムを、嵩低い状態に保持する。挿入後において眼内レンズシステムを嵩低い状態に一時的に保持することにより、縫糸またはクリップは、眼内レンズシステムのエッジ上においてフィブリンが形成される時間をもたらす。フィブリンは、眼内レンズシステムを嵩低い状態から解除した後に、眼内レンズシステムを水晶体嚢の内表面に対して結合することができて有利である。
【0175】
外科医は、次に、調節ステップを行う。このステップは、特定の眼内レンズシステムを使用することによって容易なものとされる。眼内レンズシステムが、『開放型』フレーム部材内に光学部材を受領し得るように構成されている場合には、外科医は、まず最初に、水晶体嚢および眼内レンズシステムが遠近調節状態であるかまたは非遠近調節状態であるかといったように埋設後形状を観測/測定/決定し、観測された形状特性を考慮しておよび/または患者の光学的障害に関して利用可能な情報を考慮して、適切な眼内レンズシステム性能をもたらすように光学部材を選択する。その後、外科医は、それぞれのフレーム部材内に光学部材を設置する。この設置は、水晶体嚢自体内において、あるいは、眼内レンズシステムの必要部分を水晶体嚢から一時的に取り出した状態で、行われる。一部が取り出される場合には、光学部材をフレーム部材内に配置した状態で、最終的な設置および組立が行われる。
【0176】
1つまたは複数の光学部材が、上述したように適切な感光性シリコーンから形成されている場合には、外科医は、例えばレーザーといったようなエネルギー源でもって光学部材(前方側視野部材、あるいは、後方側視野部材、あるいは、双方)を照射し、その光学部材を、必要とされた物理的寸法や屈折率のものとする。外科医は、水晶体嚢および眼内レンズシステムが遠近調節状態であるかまたは非遠近調節状態であるかといったように埋設後形状を観測/測定/決定するという中間介在ステップを行うことができ、その後、対象となっている光学部材の物理的寸法や屈折率の必要な変更度合いを決定する。
【0177】
図40は、水晶体嚢(58)の内部と水晶体嚢(58)の前面領域との間における流体流通経路を形成するために、レンズ埋設時に使用し得る技術を示している。外科医は、水晶体嚢(58)の前面において、前方開口(66)の周囲の所望位置に、複数の流体流通開口(68)を形成する。複数の流体流通開口(68)は、前方開口(66)と眼内レンズシステムの視野部材との間にシールが形成された場合であってさえも、所望の流通経路が存在することを確保する。
【0178】
遠近調節可能とされた眼内レンズシステムが埋設される場合、開口(68)は、埋設された眼内レンズシステムの視野部材どうしの間の領域から、水晶体嚢(58)の前面領域への、流体流通経路を形成する。しかしながら、この技術は、従来的な(遠近調節不可能な)眼内レンズシステムに関する使用においても、同等に有効である。
【0179】
図40.1および図40.2は、眼内レンズシステム(100)の折曲方法の他の実施形態を示している。この方法においては、前方側視野部材(106)を、後方側視野部材(118)に対して、光学軸回りに約90°だけ回転させる。この回転は、後方側視野部材(118)を静止状態に保持しつつ、好ましくは張出部材(134,136)を把持すなわちクランプすることによって後方側視野部材(118)を静止状態に保持しつつ、図40.1において黒丸印によって示されているように第1移行部材(138)の上エッジと第2移行部材(140)の下エッジとに対して(あるいは、これとは逆に、第1移行部材(138)の下エッジと第2移行部材(140)の上エッジとに対して)回転力を印加することにより、行うことができる。これに代えて、回転力は、後方側視野部材(118)を静止状態に保持しつつ、保持部材(128,130)のうちの一方の右エッジに対しておよび保持部材(128,130)の他方の左エッジに対して同様にして印加することができる。さらなる代替例においては、張出部材(134,136)の一方の上エッジと張出部材(134,136)の他方の下エッジとおいて後方側視野部材(118)に対して回転力を印加しつつ、前方側視野部材(106)を、静止状態に保持することができる。あるいは、前方側視野部材(106)と後方側視野部材(118)との双方を、互いに回転させることもできる。
【0180】
好ましくは、前方側および後方側視野部材(106,118)は、眼内レンズシステムに対して回転力が印加される時には、いくらか離間される。これにより、並進部材および頂点を、回転力に応答させて、両視野部材(106,118)の間の空間内に引っ張ることができる。前方側視野部材(106)を、後方側視野部材(118)に対して光学軸回りに約90°だけ回転させた時点で、眼内レンズシステム(100)は、図40.2に示す状態となる。すなわち、保持部材(128,130)が、張出部材(134,136)に対して径方向においてほぼ位置合わせされているとともに、並進部材と頂点とが、両視野部材(106,118)の間に配置されている。この構成は、水晶体嚢(58)内への眼内レンズシステム(100)の挿入に際して有利である。それは、眼内レンズシステム(100)の挿入形状を小さくできるからであり、同時に、並進部材内に大きなポテンシャルエネルギーを蓄え得るからである。よって、曲げ構成とされた状態から、並進部材は、眼内レンズシステムが水晶体嚢(58)内に挿入され終わった時点で、大きな『リバウンド』力をもたらす。これにより、眼内レンズシステムは、自己接着力に打ち勝つことができて、外科医が付加的な操作を行う必要なく、図40.1に示す非折曲状態へと弾性復帰することができる。
【0181】
眼内レンズシステム(100)が、図40.2に示すような曲げ状態とされた後に、現在公知である任意の適切な手法によりあるいは今後開発されるであろう任意の適切な手法により、さらなる曲げを行うことができる、および/または、水晶体嚢(58)内に挿入することができる。例えば、図40.3に示すように、折曲方法においては、曲げ状態とされた眼内レンズシステム(100)を、クリップ(1200)のプロング(1202,1204)の間に挿入する。好ましくは、プロング(1202,1204)を、移行部材(138,140)に沿って延在する向きとする、あるいは、保持部材(128,130)および張出部材(134,136)に沿って延在する向きとする。
【0182】
図40.4〜図40.6は、眼内レンズシステム(100)がクリップ(1200)内に保持されているときに、プライヤまたはピンセットのジョー(1250,1252)を使用することによって眼内レンズシステム(100)を折り曲げる様子を示している。(図40.4〜図40.6においては、明瞭化のためにジョー(1250,1252)を断面によって示しつつ、クリップと眼内レンズとからなるアセンブリを端面図によって示している)。図40.4および図40.5に示すように、ジョー(1250,1252)の各エッジは、ジョー(1250,1252)がクリップ(1200)のプロング(1202)を跨ぐようにしつつ、前方側および後方側視野部材(106,118)に対して押圧される。これにより、眼内レンズシステム(100)に対して課される3点負荷は、図40.5に示すようにして、眼内レンズシステムを半分に折り曲げようとする。眼内レンズシステム(100)が、図40.6に示す折曲状態に近づきつつあるときには、ジョー(1250,1252)が、眼内レンズシステム(100)に対しての挟み込み位置へとスライドする。この状態は、ジョー(1250,1252)の内面(1254,1256)と、前方側視野部材(106)または後方側視野部材(118)と、の間の接触によって特徴づけられる。そのような挟み込みが確立された状態においては、ピンセットを使用することによって眼内レンズシステムを内向き圧力でもって押圧把持することができ、図40.6に示すように、クリップ(1200)を取り外すことができる。このように折り曲げられた状態で、現在公知である任意の適切な手法によりあるいは今後開発されるであろう任意の適切な手法により、眼内レンズシステム(100)を、水晶体嚢(58)内に挿入することができる。
【0183】
図40.7は、図40.1および図40.2を参照して上述した眼内レンズシステム(100)の曲げ(あるいは、捻り)を行うために使用可能であるような曲げツール(あるいは、捻りツール)(1300)を示している。このツール(1300)は、ベース(1302)と、このベースに付設された複数のブラケット(1304)と、を備えている。ブラケットは、張出ブラケット(134,136)を把持することによって、ベース(1302)に対して眼内レンズシステム(100)を保持する。ベース(1302)には、円弧状をなす複数のガイド(1306)が形成されている。ツールは、さらに、回転子(1308)を備えている。この回転子(1308)は、水平方向ロッド(1310)と、一体形成された鉛直方向ロッド(1312)と、を有している。鉛直方向ロッド(1312)は、円弧状ガイド(1306)と係合しており、これら両者は、眼内レンズシステム(100)の光学軸をそれぞれの幾何学的中心としている。よって、鉛直方向ロッド(1312)と円弧状ガイド(1306)とが協働することにより、水平方向ロッド(1310)を、眼内レンズシステム(100)の光学軸回りに少なくとも90°だけ回転させることができる。水平方向ロッド(1310)は、眼内レンズシステム(100)の前方側視野部材(106)に対して固定されている。このため、ロッド(1310)が(したがって、前方側視野部材(106)が)眼内レンズシステム(100)の回転軸回りに回転したときに、ロッド(1310)と前方側視野部材(106)との間の相対的角度回転が起こることを防止することができる。この固定関係は、接着剤によって、および/または、水平方向ロッド(1310)から下向きに延在するとともに図40.1に示すように移行部材(138,140)の一方の上エッジに対しておよび移行部材の他方の下エッジに対して係合する突起(図示せず)によって、行うことができる。この構成に代えてあるいは加えて、突起は、上記と同様にして保持部材(128,130)に対して係合することができる。
【0184】
回転子(1308)が、眼内レンズシステム(100)の回転軸回りにおいてその回転移動範囲にわたって回転したときには、前方側視野部材(106)が光学軸回りに回転子と一緒に回転させられる。これにより、図40.1および図40.2に関して上述したようにして、眼内レンズシステムの曲げ(あるいは、捻り、ひねり)が行われる。また、折曲ツール(1300)の下半分をパッケージとし、このパッケージ内に眼内レンズシステムを格納して使用者に届けることが想定される。これにより、使用時に眼内レンズシステムを曲げることの労力が最小化される。好ましくは、眼内レンズシステムは、眼内レンズシステムの無用の変形を防止し得るよう、非折曲状態でもってツール(1300)内に格納される。
【0185】
[X.光学部材を薄くした構成]
状況によっては、眼内レンズシステムの複数の光学部材の1つまたはいくつかを比較的薄いものとして構成し、これにより、曲げや折曲やひねりを容易としたり、また、眼内レンズシステムの全体的サイズや全体的質量を低減することが、有利である。以下においては、光学部材の形状を薄いものとした様々な構成について説明する。後述の各構成は、上述した各構成に関する2つ以上の任意の適切な組合せと同様に、使用することができる。
【0186】
1つの適切な技術は、1つまたは複数の光学部材を構成するに際して、比較的屈折率の大きな材料を使用することである。ある実施形態においては、光学部材をなす材料は、シリコーンの屈折率よりも大きな屈折率を有している。他の実施形態においては、光学部材をなす材料は、約1.43よりも大きな屈折率を有している。さらなる実施形態においては、光学部材をなす材料は、約1.46や、約1.49や、約1.55、といったような屈折率を有している。さらに他の実施形態においては、光学部材をなす材料は、およそ1.43〜1.55という屈折率を有している。比較的屈折率の大きな材料を使用することにより、光学部材の湾曲度合いを低減することができ(言い換えれば、曲率半径を増大させることができ)、これにより、屈折力を損なうことなく、光学部材の厚さを低減することができる。
【0187】
より薄い光学部材は、また、1つまたは複数の光学部材の1つまたは複数の表面を、光学部材の屈折力を維持しつつ、非球面として形成することにより、達成することができる。図41に示すように、非球面状の凸状光学表面(1100)は、頂点(1102)のところにおいては、(同等の屈折力の球面状表面と比較して)同じ曲率半径で形成することができ、周縁部(1104)においては、(共通の中心を有したものよりも)より大きな曲率半径で形成することができる。これにより、屈折力を損なうことなく、より薄い光学部材を形成することができる。これは、球面状光学表面(1106)と対照的である。球面状光学表面(1106)は、頂点(1108)のところにおいて、非球面状表面(1102)よりも厚い。ある実施形態においては、光学部材の厚さは、同等の屈折力を有した球面状光学部材と比較して、頂点のところにおいて約19%低減される。より薄い非球面状の凹状光学表面を同様にして使用し得ることも、想定される。非球面状光学表面のさらなる利点は、同等の球面状表面と比較して、収差がより小さく良好な像品質をもたらすことであり、より薄い光学部材を可能とすることである。
【0188】
図42は、より薄い光学部材(1150)を提供するための他の手法を示している。この光学部材(1150)は、湾曲した(球面状または非球面状)光学表面(1152)と、第2の湾曲表面(1156)の代わりとしての、フラットなすなわち平面状の(あるいは、同等の屈折表面よりも小さく湾曲した)回折性光学表面(1154)と、を備えている。回折性光学表面(1154)は、図示したような複数のグルーブも含めた任意の適切な回折格子を備えることができる。あるいは、例えばホログラフ的光学素子といったような現在公知のまたは将来的に開発されるであろう他の任意の回折性表面を備えることができる。当該技術分野においては周知なように、回折性表面(1154)を適切に構成することにより、光学部材(1150)を、同じ焦点合わせ性能をもたらしつつ、両面(1152,1154)が湾曲したものよりも、薄く形成することができる。回折性表面(1154)の使用は、より薄い光学部材を提供するだけでなく、得られる像内における収差も減少させる。
【0189】
薄くかつ曲げやすい光学部材を提供するためのさらに他の手法は、房水よりも大きな屈折率の(すなわち、約1.336よりも大きな屈折率の)両凸光学部材に代えて、約1.336よりも小さな屈折率を有するとともに光学軸のところにおいて両凸光学部材よりも薄いような両凹光学部材を使用することである。約1.336よりも小さな屈折率を有した材料から両凹光学部材を構成することにより、この両凹光学部材は、房水内に含浸されたときには、与えられた両凸光学部材と同じ焦点合わせ性能を有するように構成することができる。
【0190】
薄い光学部材を提供するさらに他の手法は、図43に示すように、屈折率の小さな(例えば、約1.40以下、あるいは、約1.336以下)両凹光学部材(1160)に、大きな屈折率(例えば、約1.43あるいはそれ以上)を有した材料からなる第1および第2クラッド部分(1162,1164)を付設することである。このような光学部材は、房水内に含浸されたときには、より厚い両凸光学部材と同じ実効的焦点合わせ性能を有するように構成することができる。
【0191】
さらなる代替例においては、光学部材の1つまたは複数の表面を、複数の球面状および/または非球面状焦点合わせ領域を有した複数焦点表面として、形成することができる。複数焦点表面は、同等の屈折力を有した単一焦点表面よりも小さな湾曲度合いでもって形成することができ、よって、光学部材を、より薄いものとすることができる。追加的な焦点は、表面の湾曲度合いが減少したことによって『失われた』屈折力を代替するあるいは超えるような屈折力を、もたらす。ある実施形態においては、複数焦点光学部材は、同中心的リングからなる屈折性光学部材として構成することができる。他の実施形態においては、複数焦点光学部材は、拡散性の複数焦点光学部材として具現される。
【0192】
いくつかの好ましい実施形態や例示を参照して本発明について説明してきたけれども、当業者であれば、本発明は、特定の上記実施形態をさらに変形させたものとし得ること、また、本発明において自明な修正や均等物を使用し得ることは、理解されるであろう。よって、本発明の範囲は、上記の複数の特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の適正な解釈によって決定されるべきものであることが、意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】ヒトの眼を示す断面図であって、水晶体が、非遠近調節状態とされている。
【図2】ヒトの眼を示す断面図であって、水晶体が、遠近調節状態とされている。
【図3】眼内レンズシステムの一実施形態を示す斜視図である。
【図4】その眼内レンズシステムを示す側面図である。
【図5】その眼内レンズシステムを背面側から見た斜視図である。
【図6】その眼内レンズシステムを示す正面図である。
【図7】その眼内レンズシステムを示す背面図である。
【図8】その眼内レンズシステムを示す平面図である。
【図9】その眼内レンズシステムを示す側断面図である。
【図10】その眼内レンズシステムを示す平断面図である。
【図11】その眼内レンズシステムを示す第2の斜視図である。
【図12】その眼内レンズシステムを示す第3の斜視図である。
【図13】非遠近調節状態とされている眼内レンズシステムを示す側面図である。
【図14】非遠近調節状態とされている眼内レンズシステムを示す側断面図である。
【図15】非遠近調節状態とされている眼内レンズシステムを示す平断面図である。
【図16】ヒトの眼を示す断面図であって、眼内レンズシステムが水晶体嚢内に埋設されていて、眼内レンズシステムが、遠近調節状態とされている。
【図17】ヒトの眼を示す断面図であって、眼内レンズシステムが水晶体嚢内に埋設されていて、眼内レンズシステムが、非遠近調節状態とされている。
【図17.1】眼内レンズシステムのアームを示す断面図である。
【図17.2】眼内レンズシステムのアームの他の実施形態を示す断面図である。
【図17.3】眼内レンズシステムのアームの他の複数の実施形態を示す断面図である。
【図17.4】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側断面図である。
【図17.5】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側断面図である。
【図18】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側面図である。
【図19】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す側断面図である。
【図20】眼内レンズシステムの他の実施形態を背面側から見た斜視図である。
【図21】水晶体嚢内に埋設された眼内レンズシステムの他の実施形態を、一部を断面として示す平面図である。
【図21.1】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す正面図である。
【図21.2】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す正面図である。
【図21.3】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す正面図である。
【図22】水晶体嚢内に埋設された眼内レンズシステムの他の実施形態を、一部を断面として示す側面図である。
【図22.1】眼内レンズシステムの一実施形態において使用される係止部材システムを示す側面図である。
【図23】眼内レンズシステムを形成するためのモールドシステムを示す側面図である。
【図24】そのモールドシステムを示す側断面図である。
【図25】第1モールド部分を示す斜視図である。
【図26】第2モールド部分を示す斜視図である。
【図27】第2モールド部分を示す平面図である。
【図28】第2モールド部分を示す側断面図である。
【図29】第2モールド部分を示すさらなる側断面図である。
【図30】中央モールド部分を示す底面図である。
【図31】中央モールド部分を示す平面図である。
【図32】中央モールド部分を示す断面図である。
【図33】中央モールド部分を示すさらなる断面図である。
【図34】中央モールド部分を示す斜視図である。
【図34.1】眼内レンズシステムの頂点を示す部分断面図であって、頂点内に形成された一組をなす複数の張出グルーブを示している。
【図35】眼内レンズシステムの他の実施形態を概略的に示す図である。
【図36】眼内レンズシステムの他の実施形態を概略的に示す図である。
【図37】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す斜視図である。
【図38】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す平面図である。
【図38.1】水晶体嚢内に埋設された状態で、眼内レンズシステムの他の実施形態を概略的に示す図である。
【図38.2】図38.1の実施形態を概略的に示す図であって、遠近調節状態とされている。
【図38.3】眼内レンズシステム内に組み込まれた付勢手段を概略的に示す図である。
【図38.4】眼内レンズシステム内に組み込まれた他のタイプの付勢手段を概略的に示す図である。
【図38.5】眼内レンズシステムの他の実施形態を示す斜視図である。
【図39A】眼内レンズシステムに関連して使用される挿入技術を概略的に示す一連の図である。
【図39B】眼内レンズシステムに関連して使用される挿入技術を概略的に示す一連の図である。
【図40】水晶体嚢の前面内に形成された複数の流体流通開口を概略的に示す図である。
【図40.1】眼内レンズシステムを示す正面図であって、眼内レンズシステムに関して使用するための折曲技術における一ステージを示している。
【図40.2】眼内レンズシステムを示す正面図であって、その折曲技術における他のステージを示している。
【図40.3】その折曲技術における他のステージを示している。
【図40.4】その折曲技術における他のステージを示している。
【図40.5】その折曲技術における他のステージを示している。
【図40.6】その折曲技術における他のステージを示している。
【図40.7】眼内レンズシステムに対して使用するための折曲ツールを示す斜視図である。
【図41】眼内レンズシステムと一緒に使用するための非球面光学部材を示す断面図である。
【図42】眼内レンズシステムと一緒に使用するための、回折表面を有した光学部材を示す断面図である。
【図43】眼内レンズシステムと一緒に使用するための、低屈折率の光学部材を示す断面図である。
【符号の説明】
【0194】
50 眼
58 水晶体嚢
60 毛様筋
66 円形開口(水晶体嚢開口)
68 流体流通開口
100 眼内レンズシステム
102 前方部分
104 後方部分
106 前方側視野部材
108 前方側付勢部材
110 第1前方並進部材
110a 右アーム
110b 左アーム
112 第1頂点
114 第2前方並進部材
114a 右アーム
114b 左アーム
116 第2頂点
118 後方側視野部材
120 後方側付勢部材
122 第1後方並進部材
122a 右アーム
122b 左アーム
124 第2後方並進部材
124a 右アーム
124b 左アーム
126 保持部材
128 第1保持部材
128a 固定端
128b 自由端
130 第2保持部材
130a 固定端
130b 自由端
132 張出部分
134 第1張出部材
134a 固定端
134b 自由端
134c 開口
136 第2張出部材
136a 固定端
136b 自由端
136c 開口
138 第1移行部材
140 第2移行部材
142 取付箇所
144 取付箇所
146 取付箇所
148 取付箇所
150 取付箇所
152 取付箇所
154 取付箇所
156 取付箇所
170 正レンズ部分(周縁部)
172 負レンズ部分(中央部)
174 周縁領域(周縁部)
176 中央部分(中央部)
190 係止部材
250 眼内レンズ
350 眼内レンズ
500 モールドシステム
502 第1モールド
504 第2モールド
506 中央モールド
600 眼内レンズシステム
700 眼内レンズシステム
800 眼内レンズシステム
900 眼内レンズシステム
1000 付勢手段
1150 光学部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学軸を有した眼の中に埋設するための遠近調節可能な眼内レンズであって、
55ジオプトリー未満という屈折力の光学部材からなる前方側視野部材を備えて構成された前方部分と;
屈折力を有した光学部材からなる後方側視野部材を備えて構成された後方部分と;
を具備してなり、
前記眼内レンズの標準状態において、前記両光学部材が、合計で15〜25ジオプトリーという屈折力を有し、また、眼の水晶体嚢に対しての毛様筋からの収縮力に応答して前記光学軸に沿って相対移動可能に設置され、
この相対移動により、前記両光学部材による合計での屈折力が、少なくとも1ジオプトリーは変化するものとされ、
前記眼内レンズが、前記両視野部材が軸方向において互いに位置がずらされている嵩低い状態であることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項2】
請求項1記載の眼内レンズにおいて、
前記両視野部材がサイドバイサイドに並置された構成である眼内レンズ。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の眼内レンズにおいて、
前記両視野部材が、前記光学軸に沿って見たときに、前記前方側視野部材と前記後方側視野部材とが部分的にさえ全くオーバーラップしていないものとされている眼内レンズ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の眼内レンズにおいて、
前記眼内レンズが折り曲げられている眼内レンズ。
【請求項5】
請求項4記載の眼内レンズにおいて、
眼の中に前記眼内レンズを挿入するための挿入ツール内に配置されている眼内レンズ。
【請求項6】
光学軸を有した眼の中に埋設するための遠近調節可能な眼内レンズを製造するための方法であって、
前記眼内レンズが、
55ジオプトリー未満という屈折力の光学部材からなる前方側視野部材を備えて構成された前方部分と;
屈折力を有した光学部材からなる後方側視野部材を備えて構成された後方部分と;
を具備してなり、
前記眼内レンズの標準状態において、前記両光学部材が、合計で15〜25ジオプトリーという屈折力を有し、また、眼の水晶体嚢に対しての毛様筋からの収縮力に応答して前記光学軸に沿って相対移動可能に設置され、
この相対移動により、前記両光学部材による合計での屈折力が、少なくとも1ジオプトリーは変化するものとされる眼内レンズであって、
前記方法が、
前記眼内レンズを、前記両視野部材が軸方向において互いに位置がずらされている嵩低い状態にするように、前記前方側視野部材及び前記後方側視野部材を操作する段階を備えた方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法において、
前記操作する段階により、前記両視野部材をサイドバイサイドに並置された構成とする方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7のいずれかに記載の方法において、
前記操作する段階により、前記光学軸に沿って見たときに、前記前方側視野部材と前記後方側視野部材とを部分的にさえ全くオーバーラップしていないものとする方法。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の方法において、
前記眼内レンズを折り曲げる段階を更に備えた方法。
【請求項10】
請求項8記載の方法において、
折り曲げられた前記眼内レンズを、眼の中に前記眼内レンズを挿入するための挿入ツール内に配置する段階を更に備えた方法。
【請求項11】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の眼内レンズにおいて、
前記前方部分及び前記後方部分が前記眼内レンズの第1頂点で連結されている眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図17.1】
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【図17.2】
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【図17.3】
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【図17.4】
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【図17.5】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図21.1】
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【図21.2】
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【図21.3】
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【図22】
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【図22.1】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図34.1】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図38.1】
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【図38.2】
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【図38.3】
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【図38.4】
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【図38.5】
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【図39A】
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【図39B】
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【図40】
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【図40.1】
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【図40.2】
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【図40.3】
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【図40.4】
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【図40.5】
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【図40.6】
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【図40.7】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【公開番号】特開2008−183434(P2008−183434A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115927(P2008−115927)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【分割の表示】特願2002−570943(P2002−570943)の分割
【原出願日】平成14年1月25日(2002.1.25)
【出願人】(503266013)
【出願人】(503266024)
【出願人】(503266035)
【出願人】(503266046)
【出願人】(503266057)
【出願人】(503266068)
【Fターム(参考)】