説明

適応的薬剤搬送用システム

【課題】本発明は、患者に対し所望の作用を達成・維持するのに十分な薬剤濃度を該患者において決定・維持するためのシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】本発明の一つの実施態様では、薬剤搬送コントローラは、患者に対し所望の作用を実現する、患者における薬剤濃度を決定するのに患者反応プロフィールを用いる。患者反応プロフィールは、特定濃度における薬剤濃度と該薬剤の作用の間の関係に関して、グラフ的に、表的に、または、分析的に表したものである。この情報を用いて、薬剤搬送コントローラは、薬剤搬送ユニット、例えば、輸液ポンプまたは吸引装置に対し、患者に薬剤の所望の濃度が実現されるような速度で薬剤を患者に搬送するように指令を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、薬剤の投与法に関し、より詳細には閉鎖ループシステム、および、薬剤投与を適応的に調節するための方法に関する。
【0002】
本出願は、米国特許法119(e)条に基づいて、2004年1月27日登録、名称「適応的薬剤搬送用システムおよび方法」なる、米国特許仮出願第60/539,472号に対する優先権を主張する。なお、この特許文書全体を参照することにより本出願に含める。
【背景技術】
【0003】
薬剤の静注投与は、薬剤を患者に投与するための、よく知られた、普通に用いられる技術である。薬剤の静注投与は、患者に対して所望の作用を実現する目的で、その患者の血中においてある薬剤濃度をもたらす。薬剤用量、濃度、作用、および時間との間の相互関係を理解することは薬理学の基本である。このような理解は、薬物速度論-薬理動態学(PK-PD)モデルを理解することによって獲得することが可能である。このモデルは、薬剤用量の薬物速度論的影響を、次に、薬剤用量が患者に対して及ぼす薬理動態作用を分析することによって濃度、作用、および用量のそれぞれの関与を明らかにする。
【0004】
具体的に言うと、薬物速度論(PK)は、薬剤濃度(通常血液における)の時間経過を記述し、理解し、予測しようとする。すなわち、PKは、用量と濃度の関係を定量化する。薬理動態学(PD)は、その濃度の生理的作用の時間経過および大きさを記述しようとする。すなわち、PDは、濃度と作用の間の関係を定量化する。従って、速度論と動態学の緊密な結びつきによって、薬物作用の時間経過に関する洞察が得られ、薬物用量を最適化し、調節する基盤が形成される。
【0005】
薬剤の用量/作用関係の調節に関わる一つの問題点は、薬剤作用測定の正確度から生ずる。もう一つの問題点は、他のいくつかの要因が関与して、患者における用量-作用関係を変えてしまうという事実から生ずる。これらの問題点は、薬剤投与全般に、特に麻酔剤に当てはまる。
【0006】
様々な麻酔剤が、異なる作用および副作用を持つのであるから、薬物作用は様々なやり方で測定されることがあり得る。現在、特定の麻酔状態を実現するための薬剤投与の基盤として様々な臨床インディケーターが使用されている。従来の経験智によれば、麻酔深度と麻酔剤の作用とは、体性反射(患者の動き)および自律反射(心拍および血圧の増加、涙の分泌および瞳孔の散大)を観察することによって臨床的に判断される。一方で、体性反射が消失している非麻痺患者において、手術中意識が覚醒していたという症例報告がある。これらの症例は比較的稀ではあるが、それでもそのような例が見られるということは、術中の自発性運動の観察だけではうっかり間違いを防ぐ安全弁とはならないことを示している。
【0007】
筋弛緩剤が、患者において、運動を阻止する用量で存在する場合、麻酔が十分か否かの判断は、多くの場合自律反射を観察することによって行われる。ただし、自律反射と意識との関係ははっきりとは定められていない。さらにもう一つの紛らわしい要因として、麻酔作用は、病気、薬剤、および手術法によって修飾されることがあるということがある。さらに、麻酔剤の用量/作用関係には患者間の分散の度合いが高い。実際の臨床的実地場面では、アヘン剤およびその他の薬剤が、鎮静麻酔剤と組み合わせて使用されることがあり、これが、麻酔深度の臨床的評価をさらに難しくする。
【0008】
麻酔深度および麻酔剤の作用に関するもう一つの従来の尺度は、脳波記録(EEG)である。しかしながら、EEG形態の変化は意味深長であり、投与される各タイプの麻酔剤によって異なるので、生の(未処理の)EEGにおける微妙な変化の解釈は、熟練した脳波読図専門家を必要とするので、通常、麻酔中および鎮静中には行われない。このために、多くの場合、生のEEGに存在する大量の情報を圧縮する一方で、監視用途に関わる情報を保存するためにコンピュータによるEEG処理が用いられる。
【0009】
手術室、集中治療室、およびその他の臨床背景において使用されるように、いくつかのEEGモニターが設計されている。これらの装置は、データ圧縮を実行し、周波数内容、振幅、およびチャンネル間の非対称の傾向を出力する。この目的のために主に二つの方法が用いられている。すなわち、フーリエ解析と二スペクトラム分析である。
【0010】
フーリエ解析法は、複雑な波形を、異なる周波数と振幅を持つ正弦波の集合として表す。高速フーリエ変換(FFT)解析によってパワースペクトラムを計算することが可能である。次に、このパワースペクトラムを用いて、いくつかの記述的尺度、例えば、スペクトラム辺縁周波数(それ以下において、パワースペクトラムの95%(SEF95%)、または、パワーの50%(中央周波数、MF)が存在する周波数)を計算する。EEGのこれらの尺度は、しばしば麻酔剤の薬理学的研究に用いられる。しかしながら、臨床麻酔時におけるパワースペクトラムEEG分析の使用は、いくつかの理由によって制限される。先ず、様々な薬剤は、これらのパワースペクトラム尺度に対して異なる作用を及ぼす。さらに、低濃度ではこれらの薬剤は活性化をもたらすのに、高濃度では同じ薬剤がEEG徐波化をもたらし、バーストサプレッションと呼ばれる等電位性EEG発作を導く。従って、低濃度および高濃度の両方において、パワースペクトラム尺度と患者の臨床状態の間には、非単調的関係が生ずることがある。
【0011】
二スペクトラム分析は、麻酔中に使用されるように開発されたEEGの定量的分析法である。EEGの二スペクトラム分析は、EEGの各種周波数成分間の位相とパワーの関係の一貫性を測定する。Aspect Medical Systems, Inc., ニュートン、マサチューセッツ州によって開発されたBispectral Index(登録商標)(BIS)は、EEGの二スペクトラム分析から得られたもので、様々な麻酔状態と関連するEEG変化を追跡する、単一の複合EEG尺度である。
【0012】
近年、薬物速度論の原理を用いて、静注麻酔剤および鎮静剤の、コンピュータ制御による注入に関して各種スキームが開発されている。使用される薬剤について、所望の血漿濃度を含む、平均的集団的薬物速度論データがコンピュータに供給される。次に、コンピュータは、所望の(「標的」)濃度を実現するための薬剤の量および注入速度を計算する。次に注入ポンプは、標的濃度を実現するために必要な注入速度と容量を供給する。このようなシステムは、標的調節注入(TCI)システムと呼ばれる。
【0013】
薬剤投与の問題点は麻酔薬に限らないし、薬剤の静注投与にも限定されない。臨床的実地場面では、ある薬剤作用を実現するための理想的血漿濃度というようなものはない。必要とされる特定濃度は、薬理学的個体変動、他の、同時に使用される薬剤との相互作用、および、外科刺激の強度等の要因に依存する。さらに、TCIは、モデルに基づく前向き調節のみであるから、TCI法を用いることによって実現される実際の濃度は、患者間の分散、臨床状況、および集団特性によって大きく変動する可能性がある。
【0014】
モデルに基づく適応的薬剤搬送システムおよび方法が、本発明の発明者の内の二人によって米国特許第6,605,072号において記載される。このシステムは、導入相において得られた測定データ点を用いて個別の患者の反応プロフィールを推定する。導入相は、調節的開放ループ計画で実行され、その特定の患者における薬剤濃度対作用が測定される。この測定値から、患者の個別の関係式が定められ、より優れた調節を実現するために閉鎖ループ調節時に応用される。ある特定の投与薬理学的用量から得られた作用の偏倚を用いて、現在観察される条件に適合するように導入相反応プロフィールを移動させ、薬剤投与速度の必要な変化を計算する。
【0015】
この技術はいくつかの欠点を有する。すなわち、
*典型的な手術における導入相は時間が限られている。さらに、導入相において、手術中に起こる可能性のある、麻酔剤濃度の全範囲を通覧することは不可能である。代わりに、仮定された関係(例えば、c0の周囲における対称性)の数学的特性を用いて、より高い濃度に向けて患者反応プロフィールを外挿する。
*導入相における測定エラーは、患者反応プロフィールの正確度を損なう。実際のデータが推定反応プロフィールにどのぐらい正確に適合するかに関して推定が為されない。
*既に麻酔された患者において、現在の麻酔状態が未知である場合、導入相データが欠如しているために、麻酔コントローラにその患者を引き受けさせることができない。
*手術中の患者反応プロフィールの形の変化を手直しし、飽和、刺激等の作用に対して補正することは不可能である。すなわち、導入相曲線は移動するが、その形は保持する。
【0016】
本発明は、これらの欠点を是正する方法を提示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、患者において、その患者に対し所望の作用を実現し、維持するのに十分な薬剤の濃度レベルを定め、維持するためのシステムおよび方法を提供する。一般に、本発明の一つの実施態様によれば、薬剤搬送コントローラは、患者に対して所望の作用を実現する薬剤濃度を確定するために患者反応プロフィールを用いる。患者反応プロフィールは、薬剤の濃度と、その特定の濃度における薬剤の作用の間の関係をグラフ的に、表的に、または分析的に表現したものである。この情報を用いて、薬剤搬送コントローラは、薬剤搬送器、例えば、輸液ポンプまたは吸引装置に対し、患者においてその薬剤の所望の濃度レベルを実現する速度で患者に薬剤を搬送するように指示を与える。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は先ず、非投薬基礎状態から段階的増加、または連続的増加の薬剤投与を用いて患者個別の反応プロフィールを定め、ある範囲の薬剤濃度に対する患者の反応を確定する。このような初期の基礎データが無い場合には、本発明は、母集団による患者反応プロフィールを用いる。薬剤の患者に対する作用の測定値はシステムによって連続的に獲得され、現在濃度と共に保存される。このデータは、薬剤搬送コントローラによって、過去のデータと共に患者の反応プロフィールを改めて連続的に計算するのに用いられる。患者の反応プロフィールが変化した場合、薬剤搬送コントローラは、患者の実際の瞬間的反応により近似する、新規の患者反応プロフィールを計算する。薬剤搬送コントローラは、この新規の患者反応プロフィールを用いて、患者に対し所望の作用を実現すると予測される、新規の薬剤濃度レベルを確定する。次に、この新規の濃度に対する患者の反応を反映した作用データが収集され、反応プロフィールの再計算が繰り返される。このようにして、手術中に収集された作用と薬剤濃度データを用いて、母集団に基づく患者反応プロフィールを閉鎖ループ調節において連続的に個別化し、特定の患者の、変動する個別反応を反映するようにさせる。患者の反応が変わらない場合には、新規の反応プロフィールは、以前のプロフィールと同じになる。
【0019】
本発明の一つの例示の応用では、患者に対し所望の鎮静化レベルを実現するための麻酔剤の所望の濃度レベルを定めるために、薬剤搬送コントローラが導入される。しかしながら、多種多様な薬剤から選ばれる任意の薬剤について、患者に対し所望の作用をもたらす薬剤の濃度レベルを定め、維持するために本発明を導入することが可能である。実際に実現される濃度は測定しても、測定しなくともよい。ただし、実現された濃度におけるずれは無関係である。なぜなら、システムは、測定された作用が、所望の作用とは依然として異なっていることを検出し、それに応じて所望の濃度レベルを調節するからである。
【0020】
一つの実施態様では、患者の1種以上の属性を感受するために、1個以上のセンサーを含むセンサーパッケージを含めることも可能である。このような属性としては、薬剤の患者に対する作用を確定するのに使用することが可能な、一つ以上の患者の状態が挙げられる。センサーパッケージは、これらの属性を定量化する測定値を、薬剤搬送コントローラに供給する。例えば、麻酔剤の場合、患者の鎮静化レベルを定めるのに有用な属性としては、患者の脳波記録(EEG)を始め、その他の属性、例えば、患者の心拍数、血圧、および酸素飽和が挙げられる。これらの属性を定量化する測定値、例えば、患者のEEGのBispectral Indexを定め、薬剤搬送コントローラに供給することも可能である。薬剤搬送コントローラは、これらの測定値を利用して患者の鎮静化レベルを確定する。同様に、他の属性や、それらと関連する測定値を用いて、他のタイプの薬剤の患者に及ぼす作用を測定したり、別のやり方で定量化することも可能である。
【0021】
薬剤搬送コントローラは、センサーパッケージによって採取された1種以上の測定値を用いて薬剤の患者に及ぼす作用を定める。患者について求めた患者反応プロフィールに基づいて、薬剤搬送コントローラは、薬剤搬送器にたいして、求めた濃度を実現するために、患者に対し、薬剤を所望の速度または濃度で搬送するように指示する。
【0022】
反応プロフィールを記述するどのパラメータについても最適化アルゴリスムによってある程度の変動が許されるが、この許容程度は、従来の知識、または医学専門家の熟達した意見を利用して、反応プロフィールの個別化をさらに改善するように調節される。さらに、獲得された複数の作用測定値間の関連性は、標本年齢の増加とともに減少するものであるから、本発明は、データを、標本年齢とは逆に重み付けする。すなわち、最新の作用データに対しもっとも大きな影響を割り当て、ある年齢よりも古いデータは使用から排除する潜在的傾向を持つ。
【0023】
本発明の利点は、ある薬剤に対する患者の反応の変化を、センサーパッケージから得られる情報を用いて確定することが可能であることである。この情報があるために、薬剤搬送パラメータ、例えば、輸液速度を、患者に対する所望の作用が実現・維持されるように調節することが可能となる。この適応的フィードバック過程があるために、患者に対する薬剤の所望の作用を、仮令その薬剤に対する患者の反応が外部刺激のために変化した場合でも、自動的に維持することが可能となる。
【0024】
本発明の、上記以外の特質および利点を始め、本発明の各種実施態様の構造および動作が、付属の図面を参照しながら下記にさらに詳細に記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を付属の図面を参照しながら説明する。図面において、類似の参照番号は、同一の、または機能的に類似の要素を示す。さらに、参照番号において左端の数字(単数および複数)は、その参照番号が最初に現れる図面を特定する。
【0026】
発明の概観
本発明は、患者に対する薬剤の搬送を適応的フィードバックコントロースシステムを用いて調節するシステムおよび方法に向けられる。本発明の一つの実施態様によれば、反応プロフィールを用いて、患者の薬剤の推定濃度とその薬剤濃度の生理作用との関係を明らかにする。
【0027】
反応プロフィールを用いて、患者に、所望の作用を実現するのに十分な濃度の薬剤を供給する。所望の作用が維持されているかどうかを判断するために、患者の生理学的反応が監視される。この初期反応プロフィールは、導入期に投与された様々な薬剤濃度から求めたものであってもよいし、あるいは、同じ薬剤を同じ被験者について本発明に従って行った早期の使用の際に収集したデータから求めたものであってもよい。患者特異的な反応プロフィールデータが無い場合には、母集団由来の反応プロフィールを用いてもよい。薬剤濃度と、患者に対するその濃度の作用の両方を明らかにするデータを用いて、馴化、手術操作または刺激、時間経過、他の薬剤の作用、または、生理的状態の変化から生ずる患者反応の変化−この変化は、薬剤の患者に及ぼす作用を変更させる可能性があるが−に適応するように反応プロフィールのパラメータを連続的に再計算する。
【0028】
例示環境
本発明は、外来刺激が用量/作用関係に影響を及ぼす可能性のある場合でも、所定の作用を達成することが望ましい、あるいは必要とされる場合に、任意の薬剤搬送環境に導入することが可能である。このような一つの例示の環境として、所望の麻酔深度を実現するために麻酔薬を患者に静注輸液する場合がある。本発明は、本明細書において折に触れてこの例示の環境を参照しながら説明する。このように参照しながら説明するのは、議論を進める都合のためだけである。この説明を読了したならば、当業者であれば、所望の結果を達成するために薬剤搬送を監視または調節することが望ましい場合、いくつかの異なる薬剤搬送環境の内から選ばれる任意のものに対して本発明を導入することが可能であることは明白であろう。
【0029】
調節的フィードバック薬剤搬送
図1は、本発明の一つの実施態様に従って薬剤搬送コントローラを用いる応用例を概観するブロックダイアグラムである。外科処置、集中治療、またはその関連医療を受ける患者116は、搬送された薬剤に対する患者の反応を判断するためにセンサーパッケージ104によって監視される。センサーパッケージ104は、患者の状態または属性を感受するための1種以上のセンサーを含むことが可能である。センサーパッケージ104は、測定値、例えば、患者の血圧、心拍、体温、EEG測定値、EKG測定値、あるいは、患者の全身状態を表す、または患者に関する特異的属性を表す、その他の測定値を提供する。
【0030】
薬剤搬送コントローラ108は、前記1種以上の測定値を受け取り、これらの測定値を利用して薬剤の所望の濃度レベルを決定する。薬剤搬送コントローラ108は、薬剤を患者116に対して所望の速度または間隔で投与し、それによって患者の血流において薬剤の所望の濃度を実現するよう薬剤搬送ユニット112を調節する。薬剤搬送コントローラ108は、薬剤搬送ユニット112を、患者の血流における薬剤の濃度が維持される、増加する、または減少するように制御する。薬剤搬送の速度または間隔を維持する、または調節するとの決定は、センサーパッケージ104から受容される測定値の評価に基づいて為される。
【0031】
薬剤搬送ユニット112は、薬剤搬送コントローラ108から、薬剤の反応される速度または間隔を調節するようにとの指示を受け取る。薬剤搬送ユニット112は、輸液ポンプ、吸引装置、またはその他の薬剤搬送装置として導入することが可能である。例えば、輸液ポンプの場合、薬剤搬送コントローラは、患者116における対象薬剤の血中濃度が高くなるように、または低くなるように、薬剤搬送ユニット112の注入速度を調節することが可能である。
【0032】
図2は、本発明の一つの実施態様による薬剤搬送コントローラ108の動作を図示する動作フローダイアグラムである。決定ステップ200において、開放ループ薬剤搬送によって患者反応プロフィールを求めるか、または、薬剤コントローラ中に保存される母集団由来の患者反応プロフィールを用いるか、そのどちらを選ぶかの決定が、システムを操作する臨床家によって為される。個別の反応プロフィールを求めるには開放ループモードの選択肢を用いるのが望ましいが、これが不可能な場合がしばしばある。例えば、開放ループ選択肢を用いるには時間が足りない場合もあるし、あるいは、患者は、薬剤未投薬の基礎状態にないために、現在の薬剤濃度が未知である場合もある。このような状況では、システムを操作する臨床家は、母集団による反応プロフィールを選ぶのが適切である。ステップ24では、薬剤搬送コントローラ108は、開放ループモードで、できればセンサーパッケージ104からの測定値を参照すること無しに動作する(安全の場合を除いて)。この開放ループモードでは、薬剤搬送コントローラ108は、薬剤搬送ユニット112を制御して、様々の濃度の薬剤が患者116に配送され、それらの濃度の作用を示す測定値がセンサーパッケージ104から供給されるようにする。
【0033】
ステップ208において、患者の反応曲線、すなわち反応プロフィールが、開放ループ操作の結果作製される。さらに具体的に言うと、センサーパッケージ104から受容した測定値を用いて、各種濃度レベルにおける薬剤の患者116に対する作用を追跡し、最初の患者反応プロフィールを獲得する。ステップ202では、母集団による患者プロフィールを用いて開始条件を設定する。
【0034】
一旦患者反応プロフィールが決定されたならば、薬剤搬送コントローラ108は、ステップ210に図示されるように閉鎖ループモードで作動する。この閉鎖ループモードでは、薬剤搬送コントローラ108は、センサーパッケージ104から、投与薬剤の患者116に対する測定作用を反映する1種以上の測定値を受信する。次に、この得られた患者反応プロフィールを用いて薬剤投与速度の必要な変化を計算する。外部刺激、例えば、追加薬剤、患者の状態を変化させる外科または侵襲的処置、または、その他の患者116に影響を及ぼす要因のために、患者反応プロフィールは変更させられる場合がある。すなわち、外部刺激が、患者に対し一定の濃度の投薬に対して異なる反応をさせる場合がある。そのような場合、閉鎖ループモードにおいて、薬剤搬送コントローラ108は、ステップ220で、センサーパッケージ104から受信した測定値を始め、投与濃度および患者の現在の反応プロフィールを記述するパラメータを用いて、ステップ210で使用される、最新の一組の患者反応プロフィールのパラメータを計算する。この最新の反応プロフィールによって、薬剤投与速度を現在の実際状態により適合するようにすることが可能となる。これらのパラメータは反応プロフィールを完全に記述するので、これらのパラメータを更新することは、反応プロフィールを更新することと等しく、これによって、現在計算された反応プロフィールは、患者の反応プロフィールの変化に適合することができる。患者の反応プロフィールが変化した場合には、更新パラメータも同様に変化し、ステップ210において、薬剤搬送コントローラ108は、更新された患者反応プロフィールを用いて、所望の作用を維持すると予想される、新規の薬剤投与速度を計算する。もしも例えば、患者に対して所望の作用を実現する、または維持するのにさらに高い濃度の薬剤が必要とされる場合には、薬剤搬送コントローラ108は、薬剤搬送ユニット112に対して、薬剤が患者に対して投与される速度を調節するように指示する。例えば、薬剤搬送ユニット112が輸液ポンプである場合には、薬剤搬送コントローラ108は、薬剤搬送ユニット112に対し、輸液速度を上昇させるように指示し、そうすることによって患者の血流中の薬剤濃度を増すようにしてもよい。
【0035】
前述したように、閉鎖ループモードで操作する前に、未投薬基礎ラインに基づいて患者反応プロフィールを求めることが好ましい。なぜなら薬剤の患者に対する作用は極めて個体差が大きいからである。しかしながら、現実の実施時には、この判断が実行できないことがよくある。このような条件下でも使用がやり易くなるように、薬剤搬送コントローラ108には、基準母集団から求められたあらかじめ指定の反応プロフィールを前もってプログラムしておいてもよい。これらのあらかじめ指定のプロフィールは、患者の属性、例えば、身長、体重、性別等に基づいて調節してもよい。
【0036】
図3は、本発明の一つの実施態様に従って、未投薬基礎ラインから患者反応プロフィールを求める一つの技法を図示する動作フローダイアグラムである。ステップ304において、初期レベルの薬剤が患者に投与される。この初期レベルは、患者の血流において初期濃度を実現する。
【0037】
ステップ308では、この初期濃度の作用が測定される。図1に示した実施態様では、薬剤の作用はセンサーパッケージ104によって測定される。センサーパッケージ104は、薬剤搬送コントローラ108に測定値を供給し、この測定値は、患者116に対する薬剤の作用を判断または定量するのに用いられる。
【0038】
ステップ312では、薬剤濃度が増加され、この増加濃度の作用がステップ308で測定される。ステップ312において与えられる濃度の増加は段階的増加であることが好ましい。その場合、患者116に対する特定の、または定量可能な濃度レベルの作用が測定可能となるからである。
【0039】
濃度を増し、その増加濃度の患者に対する作用を測定する過程を、最終濃度レベルが実現されるまで繰り返す。この有様は、決定ステップ310によって図示される。なお、ステップ310における決定のために用いられる最終濃度レベルは、比較的正確な患者反応プロフィールを作製するのに必要な最終濃度レベルであることが好ましい。この最終濃度レベルが、患者116に対して注入が可能な、薬剤の最大レベルであることは通常必要でもないし、恐らく望ましいことでもない。この最終濃度は、標的作用に向けて実現される、ある最大レベルまたは安全性レベルと定められてもよい。
【0040】
ステップ316では、様々の濃度レベルにおいて測定された作用を用いて患者の反応プロフィールを計算する。得られたデータポイントから内挿および外挿を用いて完全な曲線を作成する。内挿および外挿のためには、薬剤の作用全般に関する知識が用いられる。このような知識は、特に、患者の最大濃度レベルに外挿する場合に有用である。
【0041】
前述したように、ステップ220において、薬剤搬送コントローラ108は変化するプロフィールに適応し、患者116において所望の作用が実現されることを確保する。図4は、本発明の一つの実施態様に従って、プロフィールの変化に対する適応を実現するために、患者反応プロフィールのパラメータが連続的に再計算される過程を概観する動作フローダイアグラムである。ステップ408において、薬剤搬送コントローラ108は、所望の作用と初期反応プロフィールとに基づいて第1動作点を決定する。具体的に言うと、一つの実施態様では、現在動作点は、患者反応プロフィールに基づいて患者116に対して所望の作用を実現すると計算された所望の濃度レベルをもたらす薬剤搬送レベルである。患者反応プロフィールが変化するにつれて、ステップ410では、センサーパッケージ104から得られた作用、投与された薬剤濃度、および、既存の反応プロフィールを用いて反応プロフィールのパラメータが再計算される。
【0042】
ステップ412では、薬剤搬送コントローラ108は、この新たに再計算された反応プロフィールを用い、薬剤搬送ユニット112が患者116に対し適切濃度の薬剤を供給し、それによって患者116に対して所望の作用を確実に実現できるようにする。
【0043】
患者反応プロフィールの決定と調節
患者反応プロフィールは、数式またはグラフ形式で表した、薬剤濃度と薬剤作用の関係である。生体に対して投与されたある量の薬剤は、それによって得られる生体内における薬剤濃度とは、生体における薬剤速度論的相互作用のために複雑なやり方で関連する。正常過程では、生体の薬剤濃度が測定されることは滅多に無いので、薬剤反応濃度プロフィールという観点からする薬剤濃度は、TCI、または、呼気中の薬剤濃度のような関連濃度を用いた薬剤濃度モデル使用のように、モデル化された薬剤濃度であってもよい。さらに、薬剤速度論科学では、薬剤作用部位において、潜在的にモデル化された血漿薬剤濃度と、モデル化された理論的濃度とを区別することは通常のことである。後者は、作用開始にさらに遅延の加わることを容認する。下記の文節において患者反応プロフィールを用いるが、これは、薬剤の注入量、血漿における薬剤の定常濃度、または作用部位濃度のいずれかを指すものと理解しなければならない。反応プロフィールを用いて説明するモデル概念は、追加の属性を含ませるために簡単に拡張される。
【0044】
ここで図5を参照すると、薬剤の定常濃度(C)と、ゼロ濃度(E0)における作用から最大作用Emaxの範囲を持つ薬剤作用(E)との関係を明らかにするために、抑制性S字状Emax薬理動態モデルを用いるのは薬理動態学の常法である。本発明では、作用Eは、二スペクトラム指数(BIS)によって定量化される。別の実施態様では、別処理されたEEG測定値、例えば、周波数中央値、スペクトラム辺縁、エントロピー距離、および、非EEG測定値、例えば、平均動脈圧が、単独で、あるいは、二スペクトラム指数と組み合わせて用いられる。Hillの式と呼ばれる、抑制性S字型Emax式は下記の通りである。すなわち、
【0045】
(式1)

【0046】
式中、γは、曲線の勾配およびS字型に影響を及ぼすパラメータであり、C50は、最大作用の半分をもたらす、薬剤の血漿定常濃度である。好ましい実施態様では、患者反応プロフィールの形式としてHillの式が用いられる。測定された作用と薬剤濃度の関係を記述するHillの式を用いて、ある個人患者について、または患者集団について、式1のパラメータ(E0、C50、Emax、およびγ)が推定される。これらの値の内、薬剤ゼロ濃度における作用E0は、誘発前の(すなわちC=0において)基線状態において測定してもよい。Hillの曲線におけるその他のパラメータ(Emax、C50、およびγ)は、濃度および作用の測定値に基づいて、下記の利得関数が最小となるようにすることによって推定することが可能である。
【0047】
(式2)

【0048】
式中、BIS(C)sampleは、濃度Cにおける実際作用を測定した不連続時点に対応する、一組のサンプルされたBIS値であり、BIS(C)Estimatedは、同じ濃度における一組の予測BIS値である。この予測値は、推定パラメータ(E0、Emax、C50、およびγ)を用いHillの曲線方程式に基づいて推定される。前記利得関数に対して非直線性最小化アルゴリスムを適用することによって、データに可能な限り緊密に適合する最適組のパラメータが決定される。本説明の残りの部分では、BISsample、およびBISEstimatedという用語に連結する「(C)」を分かり易くするために省略するが、各BIS値は、ある特定の濃度と関連するものと理解しなければならない。
【0049】
本発明は、患者の反応プロフィール変化にパラメータ組を適応させるために、ベイズの統計学から得られた技術を、式2の利得関数の一般形に応用する。ベイズ法は、客観的経験から得られたデータから純粋に主観的意見へと変更することが可能な先験的確率関数(患者反応プロフィール)を仮定する。統計的に推測のために、未知のパラメータについて先見的分布が指定される。ベイズ法は、測定値から結論を導く際に、予想される結果に関する一般的知識を考慮するように教える。本発明では、先験的確率関数は、通常、母集団由来の反応プロフィールである。先験的情報がない場合でもベイズ法の正規の運用を可能とするために、先験的分布として均一分布を仮定する。ベイズ法を用いて、サンプルの確率関数を先験確率(密度)に掛けて事後確率(密度)を入手する。次に、最高の事後確率を持つパラメータを最適決定とする。このようにして、先験情報は、その後の観察によって修正される。
【0050】
反応プロフィール推定のためのベイズ予想の運用
導入相で高濃度の麻酔剤に対する患者の反応に関してデータが得られないこと、また、コントローラが、外科手術の導入相後に開始される場合患者の反応プロフィールが得られないこと、これらの問題点はベイズ予想を用いることによって解決される。さらに具体的に言うと、スタート点として母集団由来の反応プロフィールが用いられる。導入相データが利用可能な場合には、母集団由来の反応プロフィールの低濃度部分を、導入時に得られた低濃度範囲麻酔剤情報によって修正してもよい。このようにして、導入相で得られた患者反応データを用いて、母集団由来の薬剤-作用関係を、特定の患者に「同調」させる。
【0051】
数学的には、一つの実施態様では、下記のHillの式の利得関数が導入相データについて最小化される。
【0052】
(式3)

【0053】
最小化される元の関数は、対象患者特異的反応プロフィールの、母集団由来反応プロフィールからの「距離」を定量化する、Hill式の4項によって拡張される。導入相データ点が利用できない場合、モデル化アルゴリスムは母集団由来反応プロフィールに集束する。なぜならこれが利得関数を最小化するからである。逆に、導入相データ点が多数(例えば、百以上)ある場合は、モデル化アルゴリスムは、ほとんどを測定ポイントのみによって決定された反応プロフィールを作成する。
【0054】
母集団由来反応プロフィールパラメータにおいて、その初期の正確度は変動してもよい。この場合、モデル化過程が各種パラメータを変動させる範囲を限定した方がよいかも知れない。これは、全てのパラメータに標準偏差を導入することによって各種パラメータに重み付けを行うことで実現される。
【0055】
(式4)

【0056】
あるいは、別法として、
【0057】
(式5)

【0058】
これらの標準偏差は、先験的既定値およびサンプル点の正確度に関する推定値と考えてもよいし、あるいは、最適化アルゴリスムが、パラメータを元の値から遠ざけるやり方に影響を及ぼし、そうすることによって結果的に、その特定の患者について曲線が形成されるやり方にも影響を及ぼすようにわざと選ばれてもよい。もしもσ2を極めて大きく取るならば、対応するパラメータは、最適化アルゴリスムによって簡単に修正することが可能である。σ2が極めて大きい場合、初期値との僅かの差は、利得関数の評価において大きな値を発生することになり、このパラメータの変化を効果的に限定することになる。
【0059】
モデル化過程の際にHill曲線パラメータの変動を調節するために、曲線、または利得関数におけるその推定から、他のいくつかの特徴を導入してもよい。例えば、(E0 - Emax)である曲線の範囲が僅かしか修正されないように定めてもよい。これは、式5の合計に下記の項を加えることによって実現することが可能である。すなわち、
【0060】
(式6)

【0061】
式中、σ2DeltaFlowは極めて小さいと考えられる。
【0062】
さらに、データ測定値に基づいて特定のパラメータに対して特異的に影響を及ぼす項を利得関数に加えてもよい。例えば、連続的にサンプルされたBIS値に見られる変動を、Hill曲線の勾配に結びつけると考えられる項を導入することによって一つのパラメータを特異的に補正するよう、測定点における揺らぎまたは変異を導入してもよい。すなわち、
【0063】
(式7)

【0064】
利得関数を修飾するには他にも沢山の方法があるが、これらは当業者には明白であろう。上記の例は網羅的リストを意図するものではない。
【0065】
本法の利点は、様々な境界または制限を用いることによって、全てのパラメータについて同時に推定することが可能となることである。これは、いくつかの式を応用するその他の方法や、一つのパラメータをいくつかの制限に適合させるために反復が必要な様々な推定法とは対照的である。もちろん、我々がE0の場合にそうしたように、別の方程式のパラメータを誘導するために最小二乗法、またはその他の任意の方法を用いることも可能である。
【0066】
変化する患者反応プロフィールに対するHill曲線パラメータの適応−時間制限因子
ベイズ予想のもう一つの応用は、手術中における患者の反応プロフィールの変化に適応するようにHill曲線パラメータを修正することである。この変化は、導入時には活性を持っていた前投薬作用の衰退の結果であるかも知れないし、あるいは、術中に患者に起こる他の生理的現象のためであるかも知れない。この応用の重要な成分は、手術時にアルゴリスムが修正する一組のパラメータと、どの程度それら修正するかを選ぶことである。さらに、サンプルされたデータの値は、サンプル年齢の上昇と共に減少するものであるから、もう一つの重要な因子は、様々な年齢のデータに対して適用される相対的重み付けを決定することである。
【0067】
一般に、前述の利得関数は、追加される項とともに拡張され、最小化される下記の総合計を生じる。
【0068】
(式8)

【0069】
式8は、所謂「時間制限因子」を導入することによって、測定データの影響を時間的に制限する。例えば、導入相データが、手術中を通じて同等に関与することを我々は望まない。時間制限因子の減衰率、ということはすなわち、異なる年齢サンプルの相対的影響率を定義するために、一定のsample_half_lifeを選ぶ。好ましい実施態様では、sample_half_life = 600秒である。
【0070】
この時間制限係数の指数関数形は、初期の極めて急峻な減衰と、長い「尾部」をもたらす。その結果、最新のサンプルが極めて強力な影響を持つことになる。すなわち、サンプルが年齢を重ねるにつれて、その影響は減少する。ただし、若干の影響は極めて長時間維持されるのではあるが。様々な時間サンプルの影響は、異なる時間制限因子を用いることによって修飾してもよい。これによって、モデル化過程に含まれるサンプルの年齢に絶対的時間制限が適用される。
【0071】
(式9)

【0072】
加重アルゴリスムは、ある特定サンプルに対する時間制限因子が0未満である場合、そのサンプルはもはや合計には加えないように実行される。この計算法はいくつかの利点を有する。
*この計算法は、急激に低下する指数関数的減衰と違って、比較的最近のデータポイントを強調する。
*この計算法は、指数関数計算ではなく乗法計算を必要とする。
*任意の特定サンプルに適用される相対的重み付けは、サンプル時では1であり、time = sample_half_lifeでは0である。
*合計におけるサンプルポイントの寄与は有限である。従って計算はより速く実行される。
【0073】
時間制限因子を組み込むことによって、利得関数においてさらに大きな項の使用が可能となる。例えば、曲線勾配に合わせるのに最新のデータポイントを用いることが可能となり、あるいは、最大および最小曲線値に合わせるのに極端な測定ポイントを用いることが可能となる。
【0074】
log正規分布することが期待される曲線の場合、別に、下記のように利得関数を指定してもよい。すなわち、
【0075】
(式10)

【0076】
この技法によって、患者反応プロフィールの変化に対するHill曲線パラメータの適応が可能となる。
【0077】
利得関数の最小化:Levenberg-Marquart法
サンプルデータyi(導入時、または手術時にサンプルされたN個のサンプルから成る)は、Hillの曲線モデルyに合致しなければならない。ここに、Hillの曲線モデルyは、1組の、M個の未知のパラメータ(E0、Emax、C50、およびγ)に非直線的に依存し、式中、xiは1組の濃度値である。最大尤度の最適化を実現するために、我々は、χ2利得関数を定義し、それを最小化することによって最善適合パラメータを決定する。
【0078】
(式11)

【0079】
この方法はどのようなモデルにも使用が可能である。残念ながら、非直線的依存の場合、χ2の最小化は反復的に進めなければならない。1組のパラメータ初期値から始めて、最初の解答を改良する過程を作製する。次に、この過程を、χ2が減少するのを止めるまで(効果的に停止するまで)繰り返し、それによって最大尤度のパラメータを得る。
【0080】
最大尤度モデルの適合良好度は、下記の手順を用いて計算することが可能である。測定誤差が正規分布することが仮定されるならば、χ2は、それぞれ単位分散に対して正規化された、N個の正規分布量の平方の合計である。
【0081】
最適化の後、合計の中の各項がもはや直線的に独立でなくなっていても、最小時のχ2の様々な値における確率分布は、N-M自由度においてカイ二乗分布となる。これは、そのパラメータにおいて厳密には直線的ではないモデルにも適用されると考えられる。
【0082】
このようにして、自由度ν(サンプルポイント数、マイナス、推定されるパラメータの数)と、それによって得られるχ2値が与えられたならば、我々は、得られた数値を含むカイ二乗分布計算を実行することによって、カイ二乗(誤差)が、χ2計算値を上回る確率Q(従って、適合の良好度)を計算することができる。
【0083】
(式12)

【0084】
χ2は、サンプルポイントの仮定された標準偏差に依存するのであるから、信頼できる適合良好度を得るためには、この標準偏差を正確に推定しなければならないことは銘記すべき重要な事柄である。この適合良好度は下記の決定基準として用いてもよい。すなわち、その推定の質は、その反応プロフィールを閉鎖ループ操作において使用することを可能とするほど、従って、反応プロフィール更新用の次の反復計算における次回初期値として使用することを可能とするほど十分に高いかどうかを決める際の基準として用いてもよい。
【0085】
非直線関数の最小化を実行する一般的方法がLevenberg-Marquardt法である。この方法は、Press, et al., Numerical Recipes in C: The Art of Scientific Computing, 2nd Edition, Cambridge University Press, New York, NY, 1992, Chapter 15.5に詳細に記載される。表題から窺われるように、この記述は特定の解法のみを提供するが、中間のステップを省略している。
【0086】
今、下記のχ2利得関数が与えられたとして、すなわち、
【0087】
(式13)

【0088】
式中、aは1組のHill曲線パラメータである場合、我々はLevenberg-Marquardt法を適用する。下記の1組の連立方程式を解くことによって前記利得関数χ2を最小化する1組のパラメータを獲得する。すなわち、
【0089】
(式14)

【0090】
式中、
【0091】
(式15)

【0092】
かつ、
【0093】
(式16)

【0094】
1組の適合パラメータaについて最初の推定値が与えられているならば、Levenberg-Marquardt手順は下記の通りである。
1. χ2(a)を計算する。
2. λについて小さな値、例えば、0.001を選ぶ。
3. Δaについて1組の直線方程式14を解き、χ2(a + Δa)を評価する。
4. もしもχ2(a + Δa) >=χ2(a)であるなら、λを10倍(またはその他の任意の実質的な倍数)増加して、(3)に戻る。
5. もしもχ2(a + Δa) < χ2(a)であるなら、λを10分の1に減らし、試みの解法を更新しa ← a + Δa、(3)に戻る。
【0095】
停止の条件を指定することが必要である。集束(装置の正確度、または四捨五入限界)に向かって反復することは一般に無駄であり、不要である。なぜなら、最小値は、せいぜいのところ、パラメータaの統計的推定値に過ぎないからである。好ましい実施態様は、前段階ステップから現段階ステップへのχ2の絶対パーセント変化が0.1%未満、すなわち、
【0096】
(式17)

【0097】
であり、新しいχ2が、前段階値以上である場合に停止条件が満たされたと定義する。この条件は、ステップ3の終了時に評価される。
【0098】
Levenberg-Marquardt法を拡張して先験値を取り込む
再びサンプルデータ(導入時、または手術時のいずれかにおいてサンプルされたもの)を、1組のM個の未知のパラメータ(E0、Emax、C50、およびγ)に非直線的に依存するHillの曲線モデルに適合させる。一般的Levenberg-Marquardt法の場合と同様、我々は利得関数χ2を定義し、それを最小化することによって最良適合パラメータを決めるが、ただ、未知のパラメータ値から出発する前述のアルゴリスムとは違って、このベイズ適合では、我々は、これらのパラメータに対し既知の値から出発する。この過程は強力である。既知の値は信頼に足ると考えられ、また、高信頼を保証するほど十分な数のサンプルポイントがあるならば、最適化されたパラメータ値は、あらかじめ指定された値と有意に異なっていてもよい。
【0099】
利得関数は、典型的Levenberg-Marquardt法のものと同様であるが、式4に記載されるものと同様の追加項が取り込まれる。具体的に言うと、我々は、下記の追加要求をさらに付加したいと思っていると仮定する。すなわち、
【0100】
(式18)

【0101】
式中、現在のパラメータ組a = (E0、Emax、C50、およびγ)であり、もとのパラメータ組aori = (E0ori、Emaxori、C50ori、およびγori)である。
【0102】
我々は先ず、以後変動性と呼ぶ重み付け因子を導入する。この変動性は、パラメータの分散または標準偏差と区別しなければならない。パラメータの、先に求めた母集団由来の既知の標準偏差は、もとの推定状況から得られるものである。利得関数において、各パラメータの、その標準偏差に対する寄与に重み付けすることは、利得関数における各パラメータの寄与を等しくする。それでも、我々は、最小化ルーチンを使うことによって、他のパラメータより、あるパラメータについて、元の数値と異なる数値をもっと簡単に選ぶことが可能となることを望む。このことは、利得関数において寄与に等しく重み付けをする状態から始めて、その指定のパラメータの分母に乗法項を付加することによって実現することが可能である。従って、変動性とは、任意の係数を乗じた分散と定義される。このようにして、我々は、元のパラメータ値を、同種の入力データと考えることができる。変動性とは、単純に、最終的にパラメータ計算値の分散に影響を及ぼすパラメータである。我々は、パラメータについて先に求めた母集団由来の既知の分散をガイドラインとして用いて、この場合の変動性を設定してもよい。
【0103】
(式19)

【0104】
Levenberg-Marquardt最適化法は、前述のものと近似する。ただし、式15はここでは下記のようになる。
【0105】
(式20)

【0106】
(式21)

【0107】
時間制限因子を含むHill曲線モデルの最小化
式9の利得関数の最小化も、Levenberg-Marquardt法を用いて達成することが可能である。時間制限因子は、利得関数について考慮されるサンプル数を年齢の関数として制限する。さらに、サンプル年齢の増加と共にサンプルポイントに与えられる重要性も漸減する。
【0108】
適用される時間制限因子は注意深く選ばなければならない。利得関数のデータポイントに与えられる重要性は漸減することが望ましい。最新データポインには1の数値が与えられるが、一方、考慮される最後のデータポイントにはゼロの数値が与えられる。中間のデータポイントは、下記の関数に一致する適合値を持つ。すなわち、
【0109】
(式22)

【0110】
利得関数(式19)はここでは下記のようになる。すなわち、
【0111】
(式23)

【0112】
式23は、サンプルに対する加算が、(t-tsample) > sample_half_lifeとなった時に終了するようにするために導入されたことに注意しなければならない。考慮されるデータポイントの数は常に限定されるので、ここでは、利得関数におけるサンプルデータポイントの寄与と、パラメータの偏倚とのバランスが取り易い。
【0113】
我々は、1秒当たり1個のデータポインを持つと仮定して、漸減する適合値を持つデータポイントの合計に対し等価的乗数を求めることができる。すなわち、
【0114】
(式24)

【0115】
この「等価的乗数」を用いて、データポイント数の重み付けをすることができる。式23は、下記のように書き変えることができる。すなわち、
【0116】
(式25)

【0117】
定常状態では、1秒1回のデータ獲得率における、少なくともsample_half_lifeでは、サンプルデータポイントの重み付け寄与は、パラメータ偏倚の寄与と等価である。利用できるデータ組がより少ない場合、パラメータ偏倚の寄与はより重要となる。数学的には、項MULと時間制限因子の導入は最適化アルゴリスムを大きく変えることはない。両方の組み合わせは、サンプル特異的分散と考えることが可能である。
【0118】
最良適合の正確度に関しては、我々は、サンプルと、その「補正された」分散の組み合わせを、単一サンプルと見なすことができる。このことは、サンプル数の代わりに1自由度を用いながらではあるが、我々が依然としてgammq関数を用いることが可能であることを意味する。仮令合計において正確にsample_half_lifeのサンプルを持っていなくとも、得られた正確度は十分に期待できるものである。なぜなら、利得関数の結果はより少なくなるからである。
【0119】
麻酔剤投与における本発明の実施態様
前述したように、本発明の一つの応用は、患者に対して所望の鎮静レベル、または、鎮静作用を実現するために麻酔薬を搬送する環境において行われる。ここで、本発明の一つ以上の実施態様が、この例示の環境に基づいて記述される。患者に対する麻酔剤の作用を監視するために、それぞれ個別に使用される、または組み合わせて使用される、いくつかの測定値がある。一つのパラメータである二スペクトラム指数は、麻酔剤の脳活動に対する麻酔作用を測定するのに使用することが可能である。
【0120】
本発明の一つの実施態様では、患者のEEG信号の二スペクトラム分析を、患者に対する麻酔剤の麻酔(鎮静)作用を監視する方法として使用される。特に、EEG二スペクトラムおよびバーストサプレッションの時間ドメインレベルにおける予測性および相関性特徴を特定することによって、Bispectral Index(登録商標)(BIS(登録商標))と呼ばれる多変量パラメータを計算することが可能である。このBispectral Indexは、従来技術でよく知られる定量可能なパラメータである。このBispectral Indexは、米国特許第5,792,069号(引用することにより本明細書に含める)に記載されており、かつ、二スペクトラム性EEGモニター、例えば、Aspect Medical Systems, Inc., Newton、マサチューセッツ州、米国から市販されるモニターの中に組み込まれている。Bispectral Indexは、薬剤搬送コントローラ108によって、患者に対して所望の作用が、すなわち、所望の鎮静レベルが実現されているかどうかを判断するのに利用される。
【0121】
麻酔の深さを監視するには、単一のパラメータよりも、EEGと血液動態の組み合わせの方が十分であることは確かであるから、本発明の一つの実施態様では、閉鎖ループシステムにおける測定値として血液動態とBispectral Indexの両方が使用される。前述したように、多くの場合、患者に対して所望の作用を実現・維持することが薬剤搬送システムの達成目的である。この所望の作用または作用レベルは、設定ポイントまたは標的値と呼ぶことも可能である。麻酔医または他の医療専門家によって指定される設定ポイントに対しては、麻酔すなわち鎮静の維持の際に好んで接近が図られ、できるだけそれに近接して維持される。一つの実施態様では、コントロールされるいくつかの異なる変数について複数の設定ポイントが、導入後、気管挿管前の安静状態において測定される値として、医療専門家に提供されるのが好ましい。設定ポイントは、処置の経過の間に、または患者の治療の間に、臨床要求に応じて変更することが可能である。
【0122】
図6は、薬剤搬送コントローラ108、および、平均動脈圧およびBispectral Indexを、閉鎖ループ搬送システムにおける作用の尺度として利用する麻酔剤搬送環境の設置例を示すブロックダイアグラムである。ここで図6を参照すると、本実施態様に図示されるように、センサーパッケージ104は、EEGモニター608およびBispectral Index装置612を含む。図6に示すように、患者116は、EEG監視装置608に結線される。EEG監視装置608は、EEGデータを受容し、計算を実行し、EEG処理データを獲得するように構成されていることが好ましい。処理としては、薬剤搬送コントローラ108に供給される、Bispectral Indexの決定、抑圧比、およびアーチファクト情報が挙げられる。センサーパッケージ104はまた、これも薬剤搬送コントローラ108に供給される平均動脈圧(MAP)を定量する測定装置610を含む。これらの作用の測定値は、有線または無線通信インターフェイス、例えば、RS-232インターフェイスを通じて薬剤搬送コントローラ108に供給され、薬剤作用の相関数値として使用される。Bispectral Indexは調節変数として使用されるが、一方、一つの実施態様では、抑圧比およびアーチファクト情報が安全性尺度として利用される。別の実施態様では、他の信号(EEG、または誘発電位(EP))も、上記信号、例えば、EEGスペクトラム辺縁、中央周波数、各種周波数帯域における絶対的および相対的EEGパワー等に基づいて計算される他の処理数値も、調節変数として使用してよい。
【0123】
図7は、本発明の一つの実施態様による本例示の環境における薬剤搬送コントローラ108の動作を示す動作フローダイアグラムである。ステップ704において、薬剤搬送システムが起動される。このステップでは、患者の個別の人体計測データ、例えば、体重、年齢、身長、および性別が入力される。さらに、このステップで、標的Bispectral Indexおよび安全数値(例えば、抑圧比限界、MAP限界等)を入力することも可能である。システムは、患者の麻酔導入前に起動することが好ましい。さらに、麻酔医が、初期の作用部位濃度を設定する。麻酔医またはその他の臨床家が、これらの初期データを、さらに詳細に後述するユーザーインターフェイスを用いて手入力によって入力することも可能である。さらに、このデータは、通信インターフェイス、例えば、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)またはその他の通信手段を通じて、ただし、その情報がその媒体によって再生可能である限り、入力することが可能である。
【0124】
ステップ708で、導入過程が起動される。ステップ712では、導入時に、薬剤搬送コントローラ108は、麻酔剤の特定の作用部位濃度に対する患者の反応を、作用に関する様々の測定値、例えば、Bispectral Index、MAP等を用いて観察する。この観察は、薬剤搬送コントローラ108が患者の個別の反応プロフィールを計算することができるように実行される。麻酔剤の場合、反応プロフィールは、一つの実施態様では、薬理動態Hill曲線である。薬剤速度論・薬理動態結合モデルを用いた場合、患者間に見られる大きな薬理動態学的変動性によって誤差が生じることがある。このことは、ある特定の薬剤投与プログラムのために母集団薬剤速度論平均値ならびに母集団薬理動態平均値を用いることは、いかなる個人患者においても著明な投与誤差を招く可能性のあることを意味する。この誤差発生の可能性は、麻酔剤の搬送を調節するのに個別のHill曲線を利用することで最小化、または少なくとも低減させることが可能である。このために、この好ましい実施態様では、個別のHill曲線が計算され、この曲線は、患者の反応プロフィールとして使用され、麻酔剤の搬送を調節するのに使用される。具体的に言うと、一つの実施態様では、薬剤搬送コントローラ108は、できれば麻酔医によって設定された、麻酔剤の指定作用部位濃度において導入を開始する。この濃度は、あらかじめ定義された段階と共に一定間隔で自動的に増加される。例えば、一つの実施態様では、濃度は、毎分0.5マイクログラム/ミリリットルの段階的増加を伴って自動的に増加される。このステップは、母集団薬剤速度論モデル化による作用部位調節性開放ループ薬剤搬送と呼ばれる。薬剤速度論モデル化は、麻酔化学ではよく知られる。ステップ712の各濃度レベルにおいて、作用(例えば、BIS)の測定値が観察される。このようにして得られた、対になった濃度と作用の一連データは、ステップ712において、最初の、患者の個別の反応プロフィールを計算するのに用いられる。
【0125】
ステップ714で、薬剤搬送コントローラ108は、指定の作用部位濃度を達成するための輸液処方を計算する。この輸液処方は、ボーラスとして計算しても、持続注入として計算してもよいが、ml/時として指定し、その指定値を用いて、患者116に対する薬剤搬送において薬剤搬送ユニット112を操縦することが可能である。輸液中、薬剤搬送コントローラ108は作用測定値を観測する。もしも標的Bispectral Indexが達成されたならば、作用部位濃度の増加は停止され、コントローラ108は自動的にHill曲線を計算する。その後、薬剤搬送コントローラ108は、開放ループ調節から閉鎖ループ調節に自動的に切り替わる。ステップ718とステップ720はこの点を図示する。
【0126】
閉鎖ループ調節では、薬剤搬送コントローラ108は、適応的閉鎖ループモードで動作する。すなわち、患者116において所望の鎮静レベルを実現するために、変動する患者の状態に応じてHillの曲線を再計算する。
【0127】
別の実施態様では、ステップ712において、個別に決定された反応プロフィールの代わりに、母集団に基づく反応プロフィールが使用される。もしも導入相反応データの利用が可能であるなら、前述したように、ベイズ法を用いてHill曲線パラメータを修飾してもよい。次に、閉鎖ループ動作時に、ベイズ法を用いて、変化する患者の状態に反応曲線のパラメータを適応させてもよい。これによって、導入相データの利用が不可能な場合、あるいは、導入相データが、患者の特性、例えば、基礎疾患、または、好ましくない身体条件等によって信頼できないと判断された場合でも、薬剤搬送システムの使用が可能となる。この場合でも、変化する患者の状態に適合するように患者反応曲線の形を変えることが可能である。
【0128】
薬剤搬送コントローラ
薬剤搬送コントローラは、所望の結果を実現するために、多様な技術を用い、様々な構造物として導入することが可能である。前述したように、薬剤搬送コントローラ108の主要目的は、センサーパッケージ104から得られる作用の測定値を通じて患者116に対する作用を感受し、所望の結果を実現できるように薬剤搬送速度を調節することである。この機能を実行するために、マイクロプロセッサーによるソフトウェア調節性の装置を利用することが好ましい。このマイクロプロセッサー搭載装置は、センサーパッケージ104からの測定値を受容する入力インターフェイスと、薬剤搬送ユニット112にコントロール情報を供給する出力インターフェイスとを含む。
【0129】
当業者には本説明の読後理解されるように、これらの機能を実行するために導入することが可能な装置および/または構造体はいくつかある。そのような一つの例示の構造体が図8に示される。図8に示される例示の構造体は、マイクロプロセッサー808、局所メモリー812、センサーインターフェイス826、および薬剤搬送ユニットインターフェイス830を含む。マイクロプロセッサー808は、多様なマイクロプロセッサータイプ、例えば、X86ファミリーのマイクロプロセッサー、またはペンチアム(登録商標)マイクロプロセッサーを含むプロセッサータイプを利用して設置することが可能である。
【0130】
局所メモリー812は、ランダムアクセス・メモリー(RAM)およびリードオンリー・メモリー(ROM)を含んでもよい。局所メモリー812は、マイクロプロセッサー808を制御するプログラム指令、プログラム指令を実行する際にマイクロプロセッサー808の操作に用いられる数値または他の変数、および、薬剤搬送コントローラ108の動作結果を保存するために使用することが可能である。
【0131】
センサーインターフェイス826および薬剤搬送ユニットインターフェイス830は、それぞれ、センサーパッケージ104と薬剤搬送ユニット112に対するインターフェイスを提供するために含まれる。各種通信基準、例えば、RS-232、RS-422、または、いくつかある別の通信基準またはプロトコールの中から選ばれる任意のものを用いることが可能である。
【0132】
さらに、機能性強調または機能性追加のために、薬剤搬送ユニット108に特質を含めることも可能である。これら追加の特質としては、例えば、ディスプレイ816、データインターフェイス818、ユーザーインターフェイス820、および局所保存体が挙げられる。これら追加成分のそれぞれについて様々な実施態様をこれから記述する。ディスプレイ816は、薬剤搬送コントローラ108を利用する麻酔科医またはその他の臨床家に対して情報を提供できるように含められる。ディスプレイ816は、従来技術を用いて設置されるが、例えば、LCDまたはCRTディスプレイとして設置することが可能である。ディスプレイ816は、薬剤搬送コントローラ108によって現在実行される状態または操作に関してユーザーに情報を与える1行以上の文章をユーザーに提供する、単純なテキストのみのディスプレイとして設置することが可能である。別に、ディスプレイ816は、多くのWindows(登録商標)準拠パーソナルコンピュータにおいて見られるもののように、ユーザーに対してテキストとグラフィックスとを提供するような、より一般的なコンピュータディスプレイであってもよい。実際、一つの実施態様では、薬剤搬送コントローラ108を制御するのに利用されるソフトウェアは、Windows(登録商標)オペレーティングシステムの上で動作するように設計されたソフトウェアである。ディスプレイ816はまた、ユーザー入力をやり易くするようにタッチスクリーン・ディスプレイとして設置されてもよい。アプリケーションによっては、別のディスプレイ装置または構成を使用することも可能である。
【0133】
ユーザーインターフェイス820は、薬剤搬送コントローラ108に対してユーザーデータを入力する手段をユーザーに提供するために含められる。ユーザーインターフェイスは、例えば、キーボードまたはキーパッド、マウスのようなポイント指示装置またはその他のポイント指示装置、および符号化ラベルリーダーを含んでもよい。符号化ラベルリーダーの例としては、例えば、バーコードラベル・リーダー、磁気ストリップリーダー、OCRリーダー、またはその他の読み取り装置が挙げられる。ユーザーインターフェイス820は、臨床家によって、動作時に薬剤搬送コントローラによって使用されるデータを提供することを始め、薬剤搬送コントローラ108を制御、またはその他のやり方でその動作を変更するのに使用される。前述のように、オペレータは、患者の属性、例えば、身長、体重、年齢、および性別を、薬剤搬送コントローラ108に入力することが可能である。ユーザーインターフェイス820はこのような入力を助けるために提供される。
【0134】
データインターフェイス818はまた、薬剤搬送コントローラ108が、他の実体または装置からのデータにアクセスすること、あるいは、そのような実体または装置へデータを提供することを可能とするために含められる。例えば、薬剤搬送コントローラ108は、患者属性またはその他のデータを、外部のデータベースまたはその他の外部ソースを介して、利用可能とするようになっていてもよい。データインターフェイス818は、このようなデータを薬剤搬送コントローラ108に供給するための導管として利用される。一つの実施態様では、データインターフェイス818は、ネットワークインターフェイスを用いて設置される。これは、そうすることによって、薬剤搬送コントローラ108が、コンピュータネットワーク上の1種以上のデータベースまたはその他の実体に情報を供給する、または、それらのデータベースまたは実体の情報にアクセスすることを可能にするためである。データインターフェイス818は、有線インターフェイスまたは無線インターフェイスとして設置することが可能である。
【0135】
薬剤搬送装置108は、携帯装置としてよりは、固定された、または輸送可能装置として設置されることが好ましい。従って、薬剤搬送コントローラ108は、A/C外部コンセントに差し込まれるように設計される。しかしながら、別の実施態様、すなわち、薬剤搬送コントローラ108が、バッテリー、あるいは、その他の携帯的な、または輸送可能な独立した電源によって動作する、そのような実施態様を導入することも可能である。もちろん、成分、特に、例えば、ディスプレイの選択は、電力消費および放熱特性に基づいて為されてもよい。
【0136】
さらに、局所保存装置814が、データ保存、または、プログラム指令の追加保存を実現するために含められる。局所保存体814は、例えば、ディスクドライブ、またはその他の保存装置として含めることが可能である。局所保存体814は、各種患者データまたは薬剤データを保存する他に、薬剤搬送コントローラ108によって実行された過去の手術履歴を保存するためにも使用される。
【0137】
前述したように、薬剤搬送コントローラ108の機能性を実現するために導入が可能な構造体は他にも種々ある。図8を参照しながら上に論じた実例は、単に例示のために挙げたのに過ぎない。本説明の読了後においては、いくつかの別の構造体および成分を用いどのようにして薬剤搬送コントローラを設置したらよいかという問題に対した場合、その解答は当業者には明白であろう。
【0138】
上に論じたように、薬剤搬送コントローラ108は、求めた反応プロフィールに基づいて薬剤の搬送パラメータを決定する。一つの実施態様では、求める搬送パラメータは、必要輸液速度である。薬剤の輸液速度は、測定値と、ユーザーによって設定された選択値との間の差に基づく単純な数式によって計算される。従来のコントローラは、薬剤代謝や実現された濃度値に関してまったく知ることなく動作する場合が多かった。これら従来のコントローラは、ある特定の状況に合わせて微調整されることがないと、制御を確立するのがゆっくりすぎて、発振の可能性のあるため使用が危険となることがあり得る。さらに従来のコントローラでは、微調整は、人体、および薬剤に対する人体の反応が複雑すぎるために困難である。その結果、用いられる製品の薬理学的振る舞いの複雑さ、薬理学的個人差、および、外来刺激に対する患者の反応のために臨床的困難が生ずる。
【0139】
臨床作用に応じて薬剤投与を調節するのに、モデル準拠コントローラを用いてもよい。この場合、調節は、薬剤および、数学モデルに基づく人体における薬剤の作用に関する知識に基づく。好ましい実施態様では、モデル準拠適応的コントローラが用いられる。このコントローラは、モデルによって予測される出力を、実際の出力値と比較し、そうすることによってその個人用にモデルパラメータを調節する。本発明のある好ましい実施態様によれば、薬剤搬送コントローラ108は、TCT(標的調節輸液)システム用の標的濃度を計算し、TCTシステムは、対応する輸液処方を計算することによってこの標的濃度に向かって舵取りを行う。TCTシステムを用いると、入力・出力の複雑さが軽減される。言い換えると、このシステムが、ポンプの吸引速度ではなく、直接血液濃度または作用・部位濃度を舵取りすることが可能であるならば、薬剤搬送コントローラ108が、人体における麻酔剤またはその他の薬剤の第三次行動を考慮する必要が無くなる。なぜなら、TCTシステムがこの第三次行動を補償するからである。従って、このために、調節されるシステムの全体次元は低減されるので、はるかに速く結果が得られる。さらに、これによって、薬剤搬送コントローラ108の活動をチェックするための簡単な方法が実現される。なぜなら、薬剤のある特定の血液濃度または作用・部位濃度をある作用に簡単に関連付けることが可能となるからである。さらに、薬剤搬送コントローラ108は、危険な状態の回避を可能とするように、ある限界、例えば、用量に関する限界、または薬剤投与期間に関する限界を超えないようにプログラムすることも可能である。
【0140】
一つの実施態様では、本発明は、薬剤速度論的(PK)TCIプログラムとしてRUGLOOP(登録商標)を利用する。RUGLOOPプログラムは、Tom De SmetおよびMichel Struysによって書かれた。別の実施態様は、PK TCIプログラムとしてSTANPUMPを使用する。このプログラムは、スタンフォード大学、麻酔学科(112A) PAVAC, 3801 Miranda Avenue, Palo Alto、カリフォルニア州94304のSteven L. Shafer修士によって書かれ、作者から無料で入手が可能である。これらのTCIプログラムによって、血液濃度と作用・部位濃度の両方を舵取りすることが可能となる。RUGLOOPは、Tom De Smetによって書かれ、1995年、Gent大学、応用科学部、電子情報システム科提出の、表題「コンピュータ調節閉鎖ループ麻酔システムの設計(”Design of a Computer-Controlled Closed-Loop Anesthesia System”)」なる学位論文の中に記載される。RUGLOOPのアルゴリスムは、Shafer, S.L. and Gregg, K.M., “Algorithms to Rapidly Achieve and Maintain Stable Drug Effect with a Computer-Controlled Infusion Pump,” J. Pharmacokinetics Biopharm. 20(2):147-169、およびShafer, S.L., Siegel, L.C., Cooke, J.E. and Scott, J.C. “Testing Computer-Controlled Infusion Pumps by Simulation,” Anesthesiology, 68:261-266, 1988から引用される。RUGLOOPは、Aspect Medical Systems, Newton、マサチューセッツ州から無料で入手することが可能である。
【0141】
RUGLOOPは一つの実施態様で使用されているので、あらかじめ設定された薬剤速度論パラメータは修飾無しに用いることが可能である。母集団準拠のHill曲線が用いられ、それを個別の患者の特異的反応に適応させるのにベイズ法が利用される。一つの実施態様では、開始処置の際に麻酔医または臨床家によってプログラムされた、ある作用設定ポイントに対応した所望の作用・部位濃度を舵取りするのにRUGLOOPが利用される。この所望の作用設定ポイントを実現し維持するために、導入相情報を用いて、母集団準拠Hill曲線を個別の患者に適応させてもよい。前述したベイズ法を用いて、手術またはその他の刺激時において患者の身に起こる変化に対してHill曲線を適応させてもよい。
【0142】
前述したように、薬剤投与において実行すべき変化を決定するに当たって、他の生命徴候測定値を使用することも可能である。例えば、麻酔応用では、例えば、SpO2、ETCO2、およびHRのような測定尺度を、薬剤の安全な投与を監視するために、マイクロプロセッサーによってあらかじめログ指定することが可能である。麻酔医またはユーザーに危険な状況について警告を発するようアラームを供給することも可能である。
【0143】
前述したように、薬剤搬送ユニット112は各種技法を用いて設置することが可能である。一つの実施態様では、Grasby(登録商標)3400注射筒ポンプが、薬剤搬送ユニット112として設置される。このポンプは、RS-232インターフェイスを通じてコントローラと通信することが可能である。上記実施態様において、ポンプ注入速度は、薬剤搬送コントローラ108によって0と1200 ml/時の間に設定することが可能である。注射筒ポンプを用いて十分な薬剤投与を行おうとする場合、注入速度が極めて頻繁に変わる、特に低速度範囲において頻繁に変わる場合に問題が生じることに注意を払うことが重要である。特に、あるポンプでは、計算された注入容量と、実際投与された容量の間の誤差は、速度変化頻度の増加とともに増大し、平均投与速度と共に減少する。従って、注射筒ポンプに対し、ポンプの新規速度計算値を送る頻度を低下させる指定をあらかじめアルゴリスムに含める。例えば、ポンプに対し3秒置きに新規計算値を送る代わりに、薬剤搬送コントローラ108は、ポンプの新規計算速度を10秒毎に1回送るように設定され、これによってより正確な投与が実現される。この特定の例では、10秒間隔が、それが薬剤速度論モデルアルゴリスムから得られる新規計算値の時間範囲にあるので選ばれる。
【0144】
一つの実施態様では、安全のために、薬剤投与時、開放ループコントロールに復帰するための選択肢が麻酔医に与えられる。このモードでは、コントローラはスタンバイ状態に留まり続け、閉鎖ループモードに復帰することが望まれた場合、患者の反応プロフィールの利用が可能となる。開放ループモードでは、薬剤搬送コントローラ108は、ユーザーによって設定された通りに特定の濃度で薬剤を搬送するように設定される。一つの実施態様では、薬剤投与がオペレータによって取り消しされる、または中断された場合でも、薬剤搬送コントローラ108は接続状態を維持し、薬剤が搬送されない場合でも、患者の反応プロフィールを更新し、患者における薬剤濃度を更新し続ける。従って、オペレータが指定措置を止めたいと思った場合、薬剤搬送コントローラは再び閉鎖ループモードに入り、その活動を再スタートさせることができる。その場合、薬剤搬送コントローラ108は、その時点における薬剤の残留濃度を用い、設定された濃度ポイントを実現・維持するためにどれぐらいの投薬が必要であるかを計算する。
【0145】
一つの実施態様では、薬剤搬送コントローラ108は、麻酔医またはコントローラに対し、反応プロフィールについて計算された最低ポイントについて彼または彼女は同意するかどうかについて尋ねる。この最低値が的外れな場合、麻酔医またはオペレータは、臨床的判断および経験を用いて、その値をより低い、またはより高い値に変更することが可能である。次に、反応プロフィールがこの新規の最低値を用いて再計算される。
【0146】
前述したように、一つの実施態様では、閉鎖ループコントローラは、コントローラ機能を管理するのに患者の個別の薬剤速度論関係を用いる。閉鎖ループ操作の間、薬剤搬送コントローラ108は測定値を用いて、対応する輸液処方を実現する搬送ユニットプログラムのための標的濃度値を計算する。TCIシステムを用いて入力・出力の複雑さを緩和することが可能である。なぜなら、TCIシステムの場合、ポンプ注入速度ではなく、血液または作用部位濃度を標的とすることが可能だからである。すなわち、そのため、生体における麻酔剤の第三次薬剤速度論的振る舞いが回避されるからである。これによって、制御されるシステムの全体次元が低減されることになり、注入速度を制御するのに、PID(比例型積分導関数)コントローラを使用するよりも良い結果が保証される。
【0147】
ソフトウェア実施態様
本発明の様々の成分は、ハードウェア、ソフトウェア、またはその両者の組み合わせを用いて設置することが可能である。図9は、本明細書に記載した機能性を実現するためのコンピュータソフトウェアまたは指令を供給する、コンピュータ読み取り可能な媒体の例を含めた、汎用コンピュータシステムを示すブロックダイアグラムである。図示のコンピュータシステム902は、1種以上のマイクロプロセッサー、例えば、マイクロプロセッサー904を含む。このマイクロプロセッサー904は通信バス906に接続される。各種ソフトウェア実施態様は、この例示のコンピュータシステムの関連付けて記載される。本説明の読了後においては、他のコンピュータシステムまたはコンピュータ構造体、例えば、図1、6、および8に示した構造体、またはその構造体の成分を用いどのようにして本発明を導入したらよいかという問題に対した場合、その解答は当業者には明白であろう。
【0148】
コンピュータシステム902は、主メモリー908、好ましくはランダムアクセスメモリー(RAM)を含み、さらに二次メモリー910を含むことも可能である。この二次メモリー910は、例えば、ハーデディスクドライブ912、および/または、取り外し可能な保存ドライブ、すなわち、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブ等を表す取り外し可能な保存ドライブを含むことも可能である。取り外し可能な保存ドライブ914は、取り外し可能な保存媒体928から読み取り、および/または、同媒体へ書き込む。取り外し可能な保存媒体928とは、取り外し可能な保存ドライブ914に読み取られ、かつ、書き込まれる、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気テープ、光ディスク等を表す。理解されるように、取り外し可能な保存媒体928は、その中にコンピュータソフトウェアおよび/またはデータを含む、コンピュータの利用可能な媒体を含む。
【0149】
別の実施態様では、二次メモリー910は、コンピュータプログラムまたはその他の指令が、コンピュータシステム902に負荷されるのを可能とする他の類似手段を含む。そのような手段としては、例えば、取り外し可能な保存ユニット922および取り外し可能な保存ユニットインターフェイス920が挙げられる。このようなものの例として、プログラムカートリッジおよびカートリッジインターフェイス(例えば、ビデオゲーム装置に見られるもの)、取り外し可能なメモリーチップ(例えば、EPROM、PROM、またはその他のメモリーデバイス)と連結ソケット、およびその他の取り外し可能な保存ユニット922および、ソフトウェアおよびデータを、取り外し可能な保存ユニット922からコンピュータシステム902へ移送することを可能とする、取り外し可能な保存ユニットインターフェイス920が挙げられる。ある実施態様では、取り外し可能な保存ユニット922は、取り外し可能な保存ユニットインターフェイス920に恒久的に付着させられてもよい。
【0150】
コンピュータシステム902はさらに通信インターフェイス924を含んでもよい。通信インターフェイス924は、ソフトウェアおよびデータが、コンピュータシステム902と外部装置との間で互いに転送されるのを可能とする。例示の通信インターフェイス924としては、モデム、ネットワークインターフェイス(例えば、イーサーネットカード)、通信ポート、PCMCIAスロットおよびカード等が挙げられる。通信インターフェイス924を介して転送されるソフトウェアおよびデータは、通信インターフェイス924が受容することが可能な、電子、電磁、光、またはその他の信号であってもよい信号の形を取る。これらの信号は、チャンネル928を通じて通信インターフェイス924に供給される。このチャンネル928は信号を運ぶものであるが、無線媒体、電線またはケーブル、光ファイバー、あるいはその他の通信媒体を用いて設置することが可能である。チャンネルの例をいくつか挙げると、電話線、携帯電話リンク、RFリンク、ネットワーク、インターネット、およびその他の通信チャンネルがある。
【0151】
本文書において、「コンピュータプログラム媒体」および「コンピュータの利用可能な媒体」という用語は、一般に、取り外し可能な保存媒体928、ハードディスクドライブ912に搭載されるハードディスク、取り外し可能な保存ユニット922、およびチャンネル928上の信号を指して用いられる。これらの用語はまた、主メモリー908を指すことも可能である。この場合、主メモリー908は、コンピュータプログラム、またはその一部を保存する。これらコンピュータプログラム製品とは、コンピュータシステム902にソフトウェアを提供する手段である。
【0152】
コンピュータプログラムまたは指令(別にコンピュータ制御ロジックとも呼ばれる)は、主メモリー908および/または二次メモリー910に保存される。コンピュータプログラムはまた、通信インターフェイス924を介して受信することも可能である。このコンピュータプログラムは、起動されると、コンピュータシステム902が本明細書に記載される本発明の特質を実行することを可能とする。特に、コンピュータプログラムは、起動されると、マイクロプロセッサー904が本明細書に記載される本発明の特質を実行することを可能とする。従って、このコンピュータプログラムは、コンピュータシステム902のコントローラを表す。
【0153】
複数要素がソフトウェアを用いて導入される実施態様では、ソフトウェアは、コンピュータプログラム製品に保存され、取り外し可能な保存ドライブ914、取り外し可能な保存ユニット922、およびハードドライブ912または通信インターフェイス924によって、コンピュータシステム902に負荷されてもよい。制御ロジック(ソフトウェア)は、マイクロプロセッサー904によって起動されると、マイクロプロセッサー904に対し、本発明の機能を本明細書に記述するままに実行させる。
【0154】
別の実施態様では、複数の要素が、例えば、ハードウェア成分、例えば、アプリケーション特異的集積回路(ASIC)を用いて主にハードウェアとして導入される。本明細書に記載される機能を実行するためにハードウェア機器を設置することは、関連分野に通常の熟練度を有する当業者には明白であろう。従来の意味では「コンピュータプログラム」ではないけれども、このようなハードウェア成分は、コンピュータプログラム媒体(もっともおそらく結線されてはいないであろうが)と考えることが可能である。なぜなら、これらの成分は、システムが、ここに記載の機能を実行することを可能にするからである。さらに別の実施態様では、複数の要素が、ハードウェアとソフトウェア両方の組み合わせによって導入される。この実施態様でも、先のものと同様、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを、コンピュータプログラム媒体と見なすことが可能である。これも、システムが、記載の機能を実行することを可能にするからである。
【0155】
本発明について様々の実施態様を上に記述してきたが、これらは、単に例示のためにのみ提示されたのであって、限定のために提示されたものではないことを理解しなければならない。従って、本発明の幅および見通しは、前述の例示の実施態様の内のいかなるものによっても限定されてはならず、ただ、頭書の特許請求項およびそれらの等価物に従って定義されるのみである。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】図1は、本発明の一つの実施態様による、センサーパッケージ、薬剤搬送コントローラ、および薬剤搬送ユニットを示すブロックダイアグラムである。
【図2】図2は、本発明の一つの実施態様に従って、投薬されていない基礎状態、または母集団に基づく反応プロフィールのいずれかに基づいて初期の患者反応プロフィールを作成する課程を図示する動作フローダイアグラムである。
【図3】図3は、本発明の一つの実施態様に従って、未投薬基礎状態から患者の初期反応プロフィールを求める過程を図示する動作フローダイアグラムである。
【図4】図4は、本発明の一つの実施態様に従って、患者反応プロフィールの適応法を図示する動作フローダイアグラムである。
【図5】図5は、抑制的S字状Emax薬理動態モデル(Hillの曲線)によって特徴付けられる患者反応プロフィールを示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の一つの実施態様に従って、麻酔剤投与に使用するのに好適な本発明の応用例を示すブロックダイアグラムである。
【図7】図7は、本発明の一つの実施態様による、麻酔剤投与の例示の環境における薬剤搬送コントローラの動作を示す動作フローダイアグラムである。
【図8】図8は、本発明の一つの実施態様による薬剤搬送コントローラの例示の構造を示すブロックダイアグラムである。
【図9】図9は、本発明の一つの実施態様に従って本発明の機能性を導入するために用いられる、コンピュータシステムの例示の構造を示すブロックダイアグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤搬送の制御法であって、
薬剤搬送時に患者からデータをサンプルする工程と
閉鎖ループ過程において、患者からサンプルされた前記データに基づいて薬剤反応プロフィールを繰り返し更新する工程であって、更新は、前記薬剤の搬送に対する患者の反応変化を示すパラメータを適応させることによって実行する工程と
を含むことを特徴とする前記薬剤搬送制御法。
【請求項2】
初期薬剤反応プロフィールが、母集団由来の薬剤反応プロフィールであることを特徴とする、請求項1による薬剤搬送制御法。
【請求項3】
初期薬剤反応プロフィールが、薬剤の初回投与時にサンプルされたデータから計算される、患者特異的薬剤反応プロフィールであることを特徴とする、請求項1による薬剤搬送制御法。
【請求項4】
前記薬剤反応プロフィールの前記パラメータは、前記サンプルされたデータと前記初期薬剤反応プロフィールの重み付けされた組み合わせによって患者に対して調節的に適応されることを特徴とする、請求項2による薬剤搬送制御法。
【請求項5】
前記薬剤反応プロフィールの前記パラメータは、前記サンプルされたデータと前記初期薬剤反応プロフィールの重み付けされた組み合わせによって患者に対して調節的に適応されることを特徴とする、請求項3による薬剤搬送制御法。
【請求項6】
前記薬剤反応プロフィールの各パラメータが個別に適応されることを特徴とする、請求項1による薬剤搬送制御法。
【請求項7】
既存の薬剤反応プロフィールに対するサンプルデータ適合の誤差と、初期薬剤反応プロフィールからの該薬剤反応プロフィールの偏倚とを組み合わせた単一利得関数に対して最小化技法を用いて、前記薬剤反応プロフィールを更新することを特徴とする、請求項1による薬剤搬送制御法。
【請求項8】
前記サンプルされたデータを用いて、患者反応における変化に応じて前記薬剤反応プロフィールを更新する程度が、前記データの履歴に基づいて重み付けされることを特徴とする、請求項7による薬剤搬送制御法。
【請求項9】
前記履歴に基づいて重み付けされたデータは、サンプル数によらず、利得関数の全ての寄与因子に関する客観的重み付けを改善するために、等価的な一つのサンプル値に変換されることを特徴とする、請求項8による薬剤搬送制御法。
【請求項10】
請求項7による薬剤搬送制御法であって、得られた薬剤反応プロフィールの適合度に関する推定値を計算する工程をさらに含むことを特徴とする、薬剤搬送制御法。
【請求項11】
請求項10による薬剤搬送制御法であって、閉鎖ループ操作において計算された薬剤プロフィールを、前記適合度推定値に基づいて使用するか否かを決定する工程をさらに含むことを特徴とする、薬剤搬送制御法。
【請求項12】
請求項10による薬剤搬送制御法であって、薬剤投薬時、計算された適合度に基づいて新規薬剤反応プロフィールを設定する工程をさらに含むことを特徴とする、薬剤搬送制御法。
【請求項13】
請求項1による薬剤搬送制御法であって、過程が一過性開放ループで動作している場合、データをサンプルし続け、薬剤反応プロフィールを更新する工程をさらに含むことを特徴とする、薬剤搬送制御法。
【請求項14】
薬剤の搬送制御システムであって、
薬剤の搬送時、患者からデータをサンプルするためのデータサンプル器と
患者からサンプルされた前記データに基づいて薬剤反応プロフィールを更新するプロセッサーであって、更新は、前記薬剤の搬送に対する患者の反応変化を示すパラメータを適応させることによって実行するプロセッサーと
を含む前記薬剤搬送制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−519487(P2007−519487A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551412(P2006−551412)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/002365
【国際公開番号】WO2005/072792
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(500568240)アスペクト メディカル システムズ,インク. (8)
【Fターム(参考)】