説明

遮光フィルター

【課題】 本発明の課題は、光の減衰率を簡単に調節することにより、植物等にとって適した透過光及び温度を簡単に得るための遮光フィルターを提供する。
【解決手段】 光透過性材料によって少なくとも一部が画された空間に遮光性気体、又は遮光性液体を導入した遮光フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の減衰率が調節可能な遮光フィルターに関し、特に建築物の屋根又は側壁、例えば農業用又は園芸用の温室ハウスに使用するのに好適な遮光フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
植物育成のためには、その植物に適した光量が必要となる。また、強い太陽光の照射によって温室ハウス内が高温になる等問題が生じるため、遮光が必要である。例えば、トマト、イチゴ等の栽培のためには、一般的に夏場には50%程度の遮光が必要となる。そのために、従来から、農業用又は農園芸用ハウスでは、例えば、特許文献1で開示されたような農業ハウス用遮光資材が取り付けられることがあった。また、植物のみならず、人間の生活においても家屋などでは好ましい光量を必要とするため、遮光用のブラインドなどによって太陽光を遮光している。
【0003】
太陽の日射量は、時間や天候により変化するので、最適な光量を得るためには、遮光による光の減衰率を調節する必要がある。その方法として、例えば、特許文献2及び特許文献3では、透光性のある上部材と下部材とで構成され気密性のある袋状の気密体と、気密体内に気体を充填又は排出する気体吸排機構とから構成し、上部材と下部材との相反する部分を不透明部とし、気密体を気体の吸排によって膨らませあるいは萎ませ、採光および遮光を行なう技術が開示されている。しかしながら、上部材と下部材との相反する部分に不透明部を形成することは、特に大面積の遮光が必要な場合には容易ではなかった。そのため、容易に人間や植物等にとって最適な光量及び温度を得る技術が求められていた。
【特許文献1】特開2002-320414号公報
【特許文献2】特開平6-93689号公報
【特許文献3】特開平6-101385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光の減衰率を容易に調節することにより、人間や植物等にとって適した透過光及び温度を容易に調整することができる遮光フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、光透過性材料によって少なくとも一部が画された空間に遮光性媒体を導入した遮光フィルターである。好ましくは、光透過性材料がシート状材料である遮光フィルターである。また、好ましくは、シート状材料がフッ素系樹脂からなる遮光フィルターである。また、好ましくは、遮光性媒体が遮光性気体である遮光フィルターである。また、好ましくは、空間が媒体出入口を有する遮光フィルターである。
【0006】
また、本発明は、遮光フィルターを有する遮光建築部材である。
【0007】
また、本発明は、遮光建築部材を、屋根又は側壁の全部又は一部に有する建築物である。
【0008】
また、本発明は、遮光建築部材を、屋根又は側壁の全部又は一部に有する温室ハウスである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の遮光フィルターによって、光の減衰率を簡単に調節し、植物等にとって最適な光量を簡単に得ることができるようになる。そのため、強い光の照射によって温室ハウス内の温度が上昇するという問題を抑制することも容易になる。また、遮光フィルターによって、例えば家屋などの建築物において、遮光を必要とする場所での最適な光量を容易に得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、光透過性材料によって画された空間に遮光性媒体を導入することによって遮光を行なう技術である。遮光性媒体としては、気体(遮光性気体)を用いる場合と液体(遮光性液体)を用いる場合がある。遮光性気体を用いる場合には、気体は軽いために遮光フィルターを構成するための構造物を軽量化できるという特徴がある。また、遮光性液体を用いる場合には、一般的に遮光性気体の場合より減衰率を高くすることができるので、遮光性媒体を有する空間を小さくできるという特徴がある。ただし、液体が漏れないような構造にすることが必要となるため、構造物は一定の強度が必要となる。したがって、温室ハウスのように軽量の建築物に対しては、遮光性気体を用いる遮光フィルターの方が好ましい。
【0011】
まず、遮光性媒体として遮光性気体を用いる場合について説明する。
【0012】
本発明の遮光フィルターの構造を模式的に図1の断面図に示す。遮光フィルター100は、光透過性材料1によって画された空間に、遮光性気体2を導入する構造となっている。図1の上方から照射する図示しない太陽等の光源からの入射光50は、入射光側の光透過性材料1、遮光性気体2及び透過光側の光透過性材料1を透過し、図1の下方へ透過光51が透過する。光が遮光性気体2を透過する際に、遮光性気体2により光が吸収又は反射されるため、透過光51は、入射光50と比べて減衰した光強度となる。そのため、遮光性気体2での光の減衰率を調節することにより、透過光51の光強度を調節する(遮光する)ことができるのである。遮光フィルターは、気体出入口3を少なくとも一つ有しており、そこから遮光性気体2を導入、導出することができる。なお、気体出入口3は、遮光性液体を使用する場合には、液体出入口となるが、以下では気体出入口と液体出入口の両方を含めて媒体出入口という。
【0013】
遮光制御について、図2と図3を用いて、遮光性気体による光の減衰のメカニズムをより詳しく説明する。
【0014】
図2は、遮光性気体2による入射光50の減衰の様子を模式的に示す断面図である。光透過性材料1に入射した入射光50は、その一部は光透過性材料1の表面で反射し、反射光52となる。なお、反射は屈折率の異なる媒質の全ての界面で生じる。反射を少なくするためには、光透過性材料表面に反射防止膜を形成する方法等があげられる。光透過性材料1を透過した光は、遮光性気体2に入射する。光が遮光性気体2を透過中には、光は遮光性気体2によりその一部が吸収及び反射されるので、光の減衰が生じる。
【0015】
図3に、光が遮光性気体中を透過する際のミクロな様子を模式図として示す。遮光性気体とは、搬送気体中に遮光性粒子が一定の濃度含まれる気体である。例えば、空気(光透過性気体)中に、粒径数μm程度の粒子(遮光性粒子)が一定濃度存在するものが遮光性気体である。入射光50aは、遮光性粒子53に入射すると、その表面で入射光50aの一部が反射され、反射光52aとなる。遮光性粒子53に入射した光は、遮光性粒子53による光吸収のため、その透過経路の長さに対して対数的に減衰する。入射光50aのうち、遮光性粒子53によって反射されず、且つ吸収されなかった光のみが透過光51aとなる。一方、入射光50bが、遮光性粒子53が存在しないところを通過する場合には、遮光性粒子による光の減衰は生じず、光強度を保ったまま透過光51bとなる。つまり、遮光性気体による光の減衰率の調節は、遮光性粒子の径、密度及び遮光性気体の存在する空間の長さDを適切に選ぶことにより行なうことができ、本発明の遮光フィルター100による光の減衰率を調節することができるのである。
【0016】
一般に、遮光性気体の光吸収係数をA、遮光性気体の存在する空間の厚さ(遮光フィルターの厚さ)をDとすると、入射光強度Iinと透過光強度Ioutとの関係は、(1)式のようになる。
out = Iin・exp(−A・D) (1)
ここで、遮光性気体の光吸収係数Aは、遮光性粒子の径、密度及び遮光性気体粒子材料の光吸収係数αや反射率Rなどの光学定数の関数となる。したがって、遮光フィルターの厚さ、遮光性気体の光吸収係数及び空間の厚さDを制御することによって、遮光フィルターの光の減衰率を調節することができ、必要な透過光強度を得ることができる。実際には、太陽光の強度は時間や天候によって一定ではなく、入射角度も時間によって異なる。そのため、一定の強度の透過光を得るためには、その時の太陽光強度を測定し、その強度に合わせて遮光フィルターの光の減衰率を調節する。太陽光強度を測定は、遮光フィルターへの入射光を測定することにより行なうことができるが、より好ましくは、透過光強度Ioutを測定する。この光強度測定値を用いて、所定の透過光強度Ioutとなるように遮光フィルターの減衰率を調節するというフィードバック制御を行なう。
【0017】
なお、遮光性粒子は粒子全体が均一の材料であっても良いし、微粒子の周りに水が凝集した粒子であってもよい。また、遮光性気体粒子の光吸収係数αや反射率Rは、材料によって異なった波長依存性を有するため、遮光性気体粒子材料を適宜選択することにより、一定の波長の光を吸収、又は反射することができる。したがって、本発明の遮光フィルターを透過する光の波長を、植物の成長促進や建築物内部の照明等、その用途に応じて特定の波長とすることができる。
【0018】
光透過性材料1としては、可視光の透過率が高く、フレキシブルなシート状材料が好ましい。具体的には、可視光の透過率が90%以上のフッ素系樹脂を材料としたシート状材料、例えば、特開2002-320414号公報で開示されたフッ素樹脂フィルムを用いることができる。また、適度な強度及び耐久性を有することも必要となるため、シート状材料の厚さは10から200μm程度とすることができる。また、大きさ3m×6m程度を一つのユニットとした場合には、シート状材料の強度及びシート状材料による不必要な光の減衰を避けるという観点から、シート状材料の厚さを50から200μmとすることが好ましい。また、遮光フィルターの厚さDは、一般的には10〜40cm程度が好ましいが、遮光性気体の光の減衰率等を考慮の上、用途により適宜最適な値を取ることができる。シート状材料を光透過性材料1として用いる場合には、空間への遮光性気体の導入量を調節することにより、遮光フィルターの厚さDを制御することができる。
【0019】
また、用途によっては、光透過性材料1はシート状材料ではなくガラスや樹脂材料などの板状材料を用いることができる。特に、遮光性媒体が遮光性液体の場合には、光透過性材料としてガラスを用いて空間を形成することが、空間からの液漏れを避けるために好ましい。この場合には、ガラスの間隔を調整することにより遮光性液体の厚さDを変えることにより光の減衰率を調節することができる。しかし、ガラスの間隔を調整することは容易ではないため、遮光性液体の光吸収係数Aを制御することにより光の減衰率を調節することが好ましい。
【0020】
遮光性気体2を光の透過経路に存在させるために、例えば、シート状材料などの光透過性材料を袋状にするなど、光透過性材料1によって少なくとも一部が画された空間とすることが必要である。袋状にするための方法として、二枚のシート状樹脂の外周部を接着材で張り合わせる、あるいは過熱して融着するなどの方法がある。また、二枚のシートを直接接着せずに、特定の固定用部材、例えば、雌型構造のフィルム固定用下地レールと雄型構造のアルミ上材によってシート状材料をはさみ、嵌合させることにより外周部を封止してもよい。また、一枚のシート状樹脂を二つに折り曲げて端部を接着・封止する、あるいは両端が封止された筒状のシート状樹脂を用いるなどの方法によっても、光透過性材料1によって少なくとも光が透過する面が画された空間を形成することができる。
【0021】
また、ガラス等の板状材料を光透過性材料として用いる場合には、二枚のガラスの間にスペーサーを配置し、スペーサーと二枚のガラスを接着することによって画された空間を形成することができる。同様に、シート状材料を用いる場合にも二枚のシート状材料を張り合わせる際に、その間にスペーサーを配置して張り合わせてもよい。
【0022】
本発明の遮光フィルターには、空間に遮光性気体を導入するために、気体出入口を少なくとも一つ有していることが好ましい。気体出入口が無い場合にも、光透過性材料によって画された空間の中に遮光性気体を封じ込めることによって遮光フィルターを得ることは可能である。しかしながら、入射光強度の変化に合わせて、最適な遮光フィルターの光減衰率を容易に得ることができるように、遮光性気体を容易に出し入れできるように気体出入口を有していた方が好ましい。
【0023】
次に、遮光性気体2を遮光フィルター100へ導入するための構成について図4を用いて説明する。図4は、遮光フィルターに遮光性気体を導入するための配管及び付属する装置を模式的に表した図である。遮光性気体発生装置10は、気体導入管6により、遮光フィルター100の気体導入口4に接続されている。気体導入管6には、加圧ブロア14及び気体導入バルブ8が配置されている。加圧ブロア14により、遮光性気体を大気圧より高い圧力にして、遮光フィルター100の気体導入口4から遮光フィルターの空間へと送り込む構造になっている。また、遮光フィルター100の気体導出口5には、気体排出管7が接続されている。気体排出管7は、切替弁42を介して除害装置15に接続されているが、切替弁42によって循環用配管41へも接続できる構造になっている。循環用配管41は、遮光性気体発生装置10へと接続されている。除害装置15は、遮光性気体に有毒物が含まれている場合に大気中へ排気する前に除害するための装置である。具体的には、スクラバーを利用した装置、吸着筒により遮光性粒子を吸着する装置などを用いることができる。そのため、遮光性気体に有毒物が含まれていない場合には除害装置15は不要である。切替弁42の替わりに遮光フィルターに循環用配管及び除害装置への気体導出口をそれぞれ設けてもよく、配管系はその具体的な応用によって様々な形に設計変更をすることができる。
【0024】
次に、遮光性気体発生装置10について説明する。遮光性気体発生装置10は、一定の濃度の遮光性粒子を含む遮光性気体を発生することができる装置であれば、どのようなものであってもよい。一例として、遮光性気体発生装置10の構成について図5を用いて説明する。遮光性気体発生装置10は、主に遮光性粒子生成部11、搬送気体供給部12、遮光性粒子濃度調節部13からなる。
【0025】
遮光性粒子生成部11では、一定の粒径と光学定数を有する遮光性粒子を発生するための機構を備える。例えば、特開平8-299613号公報で開示されているように、スモーク発生液を過熱気化する方法により、遮光性粒子生成部11において遮光性粒子を発生する。この場合のスモーク発生液としては、例えば、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、蒸留水を混合した液体を用いることができる。遮光性粒子の粒径は、0.01〜100μm程度の範囲を使用できるが、遮光性粒子が搬送気体中に安定して浮遊させるためには0.05〜10μm程度が好ましい。
【0026】
搬送気体供給部12からは、遮光性粒子を搬送するための搬送気体を供給する。搬送気体は可視光に対して透明であることが望ましく、例えば空気、窒素、酸素などの気体を使用することができる。空気の場合は特に製造する必要は無く、大気中の空気を利用することができる。また、窒素や酸素の場合は、ボンベなどの容器に入った圧縮窒素や圧縮酸素を利用することができる。
【0027】
遮光性粒子濃度調節部13では、搬送気体の量に対する遮光性粒子の濃度を制御し、混合することにより遮光性気体を生成する。遮光性気体発生装置10には、搬送気体の流量及び遮光性気体の発生量をモニターしながら、一定の濃度の遮光性気体を遮光性粒子濃度調節部13で発生するためのフィードバック機構を備えることが望ましい。
【0028】
なお、図4では気体導入管6に加圧ブロア14を配置したものを図示したが、加圧ブロア14は遮光性気体発生装置10内に配置してもよい。その場合には、図4に示した加圧ブロア14を省略することができる。また、搬送気体が既に加圧された気体である等の場合には、加圧ブロア14は不要となる場合がある。なお、遮光性気体発生装置は、上述した方法以外のものであっても、一定の遮光性粒子濃度の遮光性気体を発生することができる装置であれば、どのようなものであってもよい。
【0029】
次に、遮光性気体2を遮光フィルター100へ導入するための方法について、図4と図5を用いて説明する。まず、遮光性粒子生成部11では、一定の粒径と光学定数を有する遮光性粒子を発生する。搬送気体供給部12から供給した搬送気体と、遮光性粒子とを一定の濃度となるように、遮光性粒子濃度調節部13にて混合し、遮光性気体を得る。遮光性気体発生装置10で製造された遮光性気体は、加圧ブロア14により加圧され、気体導入管6を経由して気体導入口4より遮光フィルター100の空間へと導入される。遮光性気体中の遮光性粒子の濃度は容易に調節することができるので、遮光フィルターの光の減衰率を簡単に調節することができる。
【0030】
また、遮光フィルターでの光の減衰率を調節するための別な方法として、遮光性気体発生装置10からは一定の濃度の遮光性気体を供給し、遮光性気体が存在する空間の中の遮光性気体の量を調節することにより、遮光性気体の長さDを調節することもできる。この調節方法は、上述の遮光性粒子濃度を制御する方法と併用することもできる。
【0031】
切替弁42を循環用配管41方向に切り替えることにより、遮光フィルター100内の遮光性気体は、気体導出口から循環用配管41を通って遮光性気体発生装置10の遮光性粒子濃度調節部13に戻ることができる。遮光性粒子濃度調節部13では、再度、遮光性気体の濃度を調節され、遮光フィルターへと戻される。このため、遮光性気体を再利用でき、また、遮光フィルターでの光の減衰率を一定に保つことができる。
【0032】
また、遮光フィルター100の空間に遮光性気体が十分導入された後、気体導入バルブ8及び気体排出バルブ9を閉じて、遮光性気体を空間の中に閉じ込めてもよい。その後、遮光フィルター100での光の減衰率を高くさせたい場合は、気体導入バルブ8を開き、遮光性気体を気体導入口4から更に導入することで遮光性気体の厚さDが厚くすることができる。また、遮光フィルター100での光の減衰率を低下させたい場合には、気体排出バルブ9を開き、一部の遮光性気体を空間の気体導出口5から排出することで遮光性気体の厚さDを低下させることができる。また、切替弁42を除害装置15方向に切り替えることにより、遮光フィルター100内の不要になった遮光性気体は除害装置15に導入されて無毒化され、大気中に放出される。遮光性気体に毒性が無い場合には除外装置は不要のため、不要となった遮光性気体はそのまま大気中に放出される。
【0033】
上記の説明は、遮光フィルターには、気体導入/排出口が二つある場合について説明したが、一つの気体導入/排出口だけを有する構造としてもよい。また、逆に、気体導入/排出が三つ以上必要な場合には、適宜、必要な数だけ気体導入/排出口を設けてもよい。
【0034】
上記の説明では、遮光フィルターの空間が一つの場合について説明したが、遮光フィルターは二つ以上の空間を有しても良い。図6に、一例として、二つの空間を有する遮光フィルター110の模式的断面図を示す。それぞれの空間には、独立の気体出入口3a、3bを有しており、異なった濃度や種類の遮光性気体2、2aを導入することができる。この場合、一方の空間の遮光性気体を一定の濃度とし、もう一方の空間の遮光性気体濃度を調節することで、遮光フィルターの光減衰率を、狭い範囲で、より精密に調節することができる。
【0035】
次に、本発明の遮光フィルターを用いる遮光建築部材について図7を用いて説明する。図7(a)は、遮光性気体が無い状態の遮光フィルター(遮光フィルター外被)の模式的断面図を示す。図を簡単化するため、気体導入口等は省略してある。図7(a)に示すように、2枚の光透過性材料1の外周部が、接着部21で張り合わされている。接着部21は、接着材、接着テープ等を用いることができ、また熱を加えて融着する等の場合には接着部を省略することができる。
【0036】
図7(b)では、上述の遮光フィルター外被の周囲に、取付部22を設置した遮光建築部材120を示す。取付部22は、遮光建築部材120を建築物に取り付けるための部分であり、その目的のためであればどのような形状、機能を有してもよい。また、接着部21の部分に加工を施すことで取付部22としてもよい。また、接着部21を省き、特定の固定用部材、例えば、雌型構造のフィルム固定用下地レールと雄型構造のアルミ上材を取付部22として用い、この固定用部材によってシート状材料をはさみ、嵌合させることにより外周部を封止してもよい。取付部22を金属製の骨組み等使用することで、遮光建築部材120をユニット化することができる。ユニット化することにより、建築物に取り付けることが容易になる。
【0037】
図7(c)は、建築物200の建築物骨格31に、建築物200の屋根となるように遮光建築部材120を取り付けた構造の模式的断面図を示す。この図では、建築物200の屋根の全部に本発明の遮光建築部材120を設置した例を示したが、必要に応じて屋根の一部に設置しても良い。また、建築物側壁32には遮光建築部材を取り付けてはいないが、例えば建築物の窓材として、建築物の側壁の一部又は全部に遮光建築部材を用いてもよい。このように、本発明の遮光建築部材は、必要に応じて、建築物の屋根又は側壁のどちらか又は両方の、全部又は一部に取り付けることができる。
【0038】
図7(d)は、遮光建築部材120の空間に、遮光性気体2を導入したときの模式的断面図を示す。この構造により、屋根から入射する光の強度を減衰することができ、建築物内では遮光した光を得ることができる。このとき、建築物内での、屋根から入射する光の強度を等しくするためには、遮光建築部材120の空間の厚さを等しくする必要がある。そのためには、遮光性気体2を導入したときに空間全体が同じ厚さで膨らむように、2枚の光透過性材料1を、一定の長さの紐状、又はシート状の材料で内部から連結する、あるいは外部からバンド状に押さえるなどの方法で、空間の厚さを一定にする機構を備えてもよい。
【0039】
図8に本発明の遮光建築部材130を用いる温室ハウスの模式的断面図を示す。遮光建築部材130は建築物骨格31に取り付けられ、温室ハウスの屋根を形成している。入射光50の光量を、遮光建築部材130により減衰して、植物35の成長に最適な透過光51することができる。また、この遮光により、透過光による不必要なハウス内温度の上昇を抑制することができる。図7では遮光性気体の遮光建築部材から遮光性気体が遮光性気体発生装置へと戻るための循環用配管は図示していないが、必要に応じて設けることができる。また、図示しない光強度測定装置を、遮光温室内に設置し、透過光強度が所定の値となるように、遮光性気体の減衰率を調節するというフィードバック制御を行なってもよい。
【0040】
本発明の遮光性建築部材は、温室ハウス以外にも、ドーム球場の屋根や一般建築物の側壁や窓部など、遮光が必要なところにはどこへでも設置することができる。
【0041】
上述の遮光フィルター及び遮光建築部材は、光透過性材料がシート状材料を用いる場合について説明してきたが、光透過性材料をガラスや樹脂材料などのように板状材料とした場合でも、本発明を適用できる。この場合には、二重ガラス窓の、二枚のガラス及び枠材で画される空間に遮光性気体を導入する。上記のシート状材料の場合の説明と同様な方法で、遮光性気体の濃度を制御し、光の減衰率を調節することができる。このような遮光建築部材は、一般建築物の窓材として使用することができる。
【0042】
また、遮光性気体を構成する遮光性粒子や搬送気体の種類を、吸収係数の波長依存性などの光学定数に基づき適切に選択すると、様々な色の透過光を得ることができる。そのため、温室ハウスの場合には植物にとって好ましい波長の光だけを得ることができる。また、例えばドーム球場などに設置した場合にはイベントの際などに様々な色(波長)の光をドーム内に得ることができるなど、様々な用途に応用することができる。
【0043】
また、上記の説明では、本発明の遮光性気体を用いる遮光フィルターについて説明したが、遮光性気体の代わりに、遮光性液体を用いることができる。この場合には、遮光性液体発生装置で遮光性液体を発生し、搬送液体中の遮光粒子濃度を制御した遮光性液体を空間に導入することにより、遮光フィルターを得ることがことができる。遮光性液体としては、例えば水の中に水溶性顔料や水溶性染料を溶解したものを用い、顔料や染料の濃度を変えることにより遮光率を調節することができる。この際には、気体出入口の代わりに液体出入口を用い、気体導入/排出バルブの代わりに液体導入/排出バルブを用い、加圧ブロアの代わりに水ポンプを使用し、及び遮光性気体発生装置の代わりに遮光性液体発生装置することなど、気体の場合とは若干の設計変更が必要となるが、上述した本発明の遮光フィルターの範囲に含まれる。
【実施例1】
【0044】
光透過性材料として、フッ素系樹脂のシート状材料(旭硝子社製「エフクリーン」(商標)、厚さ100μm)を用いた。このシート状材料二枚を重ね、雌型構造のフィルム固定用下地レールと雄型構造のアルミ上材によってはさみこみ、嵌合させることにより外周部を封止し、大きさは、3m×6mの遮光フィルターを得た。この遮光フィルターを、木材の取付け枠に水平面に対して約23度の角度で設置した。
【0045】
遮光フィルターには、気体導入口を一箇所、気体導出口を三箇所設置した。気体導入口には気体導入管に接続し、気体導入管のもう一端を遮光性気体発生装置(ダイニチ社製「ポータースモークPS−2001」(商品名))に接続した。スモーク発生液としては、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、蒸留水を混合した液体を用いた。遮光性気体発生装置を作動させ、遮光性気体を遮光フィルターの空間に導入することで遮光を行なった。これにより、遮光性気体が導入された空間の厚さは40cmとなった。遮光性気体の導入の前後での遮光フィルターの透過光の強度を、三和電気計器社製照度計「LX2」を用いて測定した。その結果、遮光性気体の導入前には64.6klxだった透過光が、遮光性気体導入後には30.4klxまで低下し、本発明の遮光フィルターによる遮光の効果を確認できた。
【実施例2】
【0046】
実施例1と同様の遮光フィルター及び遮光性気体発生装置を用い、遮光フィルターへの遮光性気体の導入量を調節することにより、遮光性気体の厚さを調節し、遮光率の制御を確認した。遮光フィルターの三箇所の気体導出口を全て閉じ、遮光性気体発生装置を作動し、気体導入口より遮光性気体を30m/分の流量で所定の導入時間、遮光フィルターの空間へ導入した。流量と導入時間から、遮光フィルターの空間への遮光性気体の導入量を求めた。なお、遮光性気体発生装置での遮光性粒子の発生は、スモーク発生液の消費量が1リットル/時間となるように設定して行なった。遮光性気体導入後に遮光フィルター下での透過光強度を照度計により測定し、別途測定した遮光フィルターの外側の日射光強度(直射日射光強度)との比を求めることで、遮光フィルターによる日射光の透過率を求めた。
【0047】
図9に結果を示すように、直射日射光強度は変動したが、遮光性気体の遮光フィルターへの導入量を調節することにより、日射光の透過率を調節することができた。遮光性気体の導入量を150mとした場合の透過率は36%となった。以上のように、本発明の遮光フィルターを用いて遮光率を調節し、十分な遮光効果を得ることができた。
【0048】
また、遮光フィルター下において、遮光性気体導入前の気温が32℃であったところ、遮光性気体の導入量を150mとしたときには23℃まで低下し、強い太陽光の照射よる高温を防止する効果も確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の遮光フィルターの動作原理を示す模式的断面図。
【図2】遮光性気体による入射光の減衰の様子を示す模式的断面図。
【図3】光が遮光性気体中を透過する際の模式図。
【図4】本発明の遮光フィルターに遮光性気体を導入するための配管と付属装置の模式図。
【図5】遮光性気体発生装置を示す模式図。
【図6】二つの空間を有する遮光フィルターの模式的断面図。
【図7】本発明の遮光フィルターを用いる遮光建築部材の模式図。
【図8】本発明の遮光建築部材を屋根に用いる遮光温室ハウスの模式的断面図。
【図9】遮光性気体導入量と日射光の透過率との関係。
【符号の説明】
【0050】
1 光透過性材料
2、2a 遮光性気体
3、3a、3b 気体出入口
4 気体導入口
5 気体導出口
6 気体導入管
7 気体排出管
8 気体導入バルブ
9 気体排出バルブ
10 遮光性気体発生装置
11 遮光性粒子生成部
12 搬送気体供給部
13 遮光性粒子濃度調節部
14 加圧ブロア
15 除害装置
21 接着部
22 取付部
31 建築物骨格
32 建築物側壁
35 植物
41 循環用配管
42 切替弁
50、50a、50b 入射光
51、51a、51b 透過光
52、52a 反射光
53 遮光性粒子
100、110 遮光フィルター
120、130 遮光建築部材
200 建築物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性材料によって少なくとも一部が画された空間に遮光性媒体を導入した遮光フィルター。
【請求項2】
光透過性材料がシート状材料である、請求項1記載の遮光フィルター。
【請求項3】
シート状材料がフッ素系樹脂からなる、請求項2記載の遮光フィルター。
【請求項4】
遮光性媒体が遮光性気体である、請求項1〜3のいずれか1項記載の遮光フィルター。
【請求項5】
空間が媒体出入口を有する、請求項1〜4項のいずれか1項記載の遮光フィルター。
【請求項6】
請求項1〜5項のいずれか1項記載の遮光フィルターを有する遮光建築部材。
【請求項7】
請求項6項記載の遮光建築部材を、屋根又は側壁の全部又は一部に有する建築物。
【請求項8】
請求項6項記載の遮光建築部材を、屋根又は側壁の全部又は一部に有する温室ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−54547(P2008−54547A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233372(P2006−233372)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(506294897)株式会社ホッコウ (2)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)
【Fターム(参考)】