説明

遮光材料付き光学レンズの製造方法、遮光材料形成用インク

【課題】優れた遮光性、および、低光沢性を示す遮光材料を備えた光学レンズを効率よく製造することができる、遮光材料付き光学レンズの製造方法を提供する。
【解決手段】所定の成分を含み、粘度が25mPa・s以下の遮光材料形成用インク12を、インクジェット方式により光学レンズ10上へ付与するインク付与工程と、付与されたインク内部に未硬化部分16を残しつつ、付与されたインクの最表面14を露光により硬化させる仮硬化工程と、加熱処理または露光処理により付与されたインク内部の未硬化部分16を硬化させて、表面に凹凸形状を有する遮光材料18を得る本硬化工程とを実施することにより遮光材料付き光学レンズ20を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光材料付き光学レンズの製造方法および遮光材料形成用インクに関する。より詳細には、所定の成分を含む遮光材料形成用インクをインクジェット方式により光学レンズ上に付与した後、所定の硬化工程を経て遮光材料を製造する、遮光材料付き光学レンズの製造方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像機能を備える携帯型電話機が普及している。このような携帯型電話機は、撮像用のレンズを搭載している。撮像用のレンズには、光軸方向に沿って重ね合わされる複数のレンズを備えるものがある。以下に、複数のレンズを備える撮像用のレンズ(以下、単に「撮像用レンズ」という)の一例について説明する。
【0003】
図2は、従来の撮像用レンズの一例を示す断面図である。図2に示したように、撮像用レンズ200は、G1レンズ202、G2レンズ204を備えている。G1レンズ202とG2レンズ204との間には、固定絞り部材として遮光部材206が設けられている。遮光部材206は、G1レンズ202におけるレンズ部分を通過した光がG2レンズ204へ入射するように、レンズ200におけるレンズ部分を縁取るように開口する開口部208を備え、G2レンズ204へ入射する光量を制限する環状部材である。
【0004】
従来、固定絞り部材としての遮光部材には、カーボンフェザーなど種々の遮光性フィルムが使用され、該材料を所定の形状になるように加工し、撮像レンズに適用していた(特許文献1)。
しかしながら、昨今、携帯型電話機用カメラモジュールなどのカメラモジュールは、更なる小型化、高解像度化、および低コスト化が求められており、従来の遮光部材を使用した態様ではその要望に十分に応えることができなかった。
【0005】
そのような状況下、光学レンズ上に遮光材料形成用インクを直接インクジェット方式により描画して、遮光部材を形成する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−534342号公報
【特許文献2】特開2001−330709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、消費者の美観に対する意識の高まりから、携帯型電話機用カメラモジュールの高解像度化など諸特性の向上が求められている。
本発明者らは、特許文献2を参照して、インクジェット方式により所定のインクを光学レンズに付与して遮光材料の製造を行ったところ、得られた遮光材料は昨今要求される材料特性(遮光能、表面光沢性など)を必ずしも十分に満たしていなかった。
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みて、優れた遮光性、および、低光沢性を示す遮光材料を備えた光学レンズを効率よく製造することができる、遮光材料付き光学レンズの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、該製造方法で使用される遮光材料形成用インクを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討を行った結果、インクジェット方式により所定の成分を含み、所定の粘度を示すインクを光学レンズ上に付与し、2段階の硬化処理を施すことにより、所望の性能を示す遮光材料を光学レンズ上に製造できることを見出した。
本発明者は、以下に示す手段により上記目的を達成しうることを見出した。
【0010】
(1) 黒色色材、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマー、および重合開始剤を含み、粘度が25mPa・s以下の遮光材料形成用インクを、インクジェット方式により光学レンズ上へ付与するインク付与工程と、
付与されたインク内部に未硬化部分を残しつつ、付与されたインクの最表面を露光により硬化させる仮硬化工程と、
加熱処理または露光処理により前記付与されたインク内部の前記未硬化部分を硬化させて、表面に凹凸形状を有する遮光材料を得る本硬化工程とを備え、
前記黒色色材の含有量が、インク全量に対して5質量%以上であり、
前記ラジカル重合性モノマーの含有量が、インク全量に対して60質量%以上であり、
前記遮光材料の表面粗さRaが0.3μm以上、平均膜厚が5μm以下、光学濃度(OD)が4以上、60°光沢度が15以下である、遮光材料付き光学レンズの製造方法。
【0011】
(2) 前記遮光材料形成用インクを1000倍希釈した際の吸光度(555nm)が、4以上である、(1)に記載の遮光材料付き光学レンズの製造方法。
(3) 前記仮硬化工程における露光量(mJ/cm2)が、1000以下である、(1)または(2)に記載の遮光材料付き光学レンズの製造方法。
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の方法で製造された遮光材料付き光学レンズ。
(5) (4)に記載の遮光材料付き光学レンズを備えるカメラモジュール。
【0012】
(6) 黒色色材、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマー、および光重合開始剤を含み、粘度が25mPa・s以下の遮光材料形成用インクであって、
前記黒色色材の含有量が、インク全量に対して5質量%以上であり、
前記重合性モノマーの含有量が、インク全量に対して60質量%以上である、遮光材料形成用インク。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた遮光性、および、低光沢性を示す遮光材料を備えた光学レンズを効率よく製造することができる、遮光材料付き光学レンズの製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、該製造方法で使用される遮光材料形成用インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)〜(C)は、それぞれ本発明の遮光材料付き光学レンズの製造方法における各製造工程を順に示す模式的断面図である。
【図2】従来の撮像用レンズの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の遮光材料付き光学レンズの製造方法について説明する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点について詳述する。
本発明の特徴点としては、所定の成分を含み、所定の粘度を示す遮光材料形成用インクを使用して、段階的に硬化工程を実施する点が挙げられる。まず、該インクが所定の成分を含むことにより、得られる遮光材料に所望の特性(遮光能など)が付与される。また、該インクが所定の粘度を有することにより、インクジェット方式による吐出安定性に優れる共に、後述する硬化工程においていわゆる座屈現象が生じやすい。
また、本製造方法では、まず、未硬化部分を残しつつインク最表面を硬化させ、その後未硬化部分の硬化を実施する。未硬化部分の硬化収縮の際に、インク最表層の硬化層に対してその表面と平行な方向から圧縮圧力が作用し、いわゆる座屈が引き起こされ、結果として表面に凹凸形状を有し、表面反射率が低い遮光材料を得ることができる。
【0016】
本発明の製造方法は、光学レンズ上にインクを付与するインク付与工程と、付与されたインクを仮硬化する仮硬化工程と、インクを本硬化する本硬化工程とを備える。
以下に、各工程で使用される材料、および、その手順について順番に詳述する。
【0017】
<インク付与工程>
インク付与工程は、黒色色材、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマー、および光重合開始剤を含み、粘度が25mPa・s以下の遮光材料形成用インクを、インクジェット方式により光学レンズ上へ付与する工程である。より具体的には、図1(A)に示すように、光学レンズ10上に、遮光材料形成用インク12が付与される。該工程を行うことにより、光学レンズ上の所定の位置にインクを付与することができる。なお、図1(A)は、光学レンズの一部のみを記載した模式的断面図であり、光学レンズの形状は該図には限定されない。
まず、本工程で使用される材料(インク、光学レンズなど)について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0018】
[遮光材料形成用インク]
(黒色色材)
本工程で使用される遮光材料形成用インク(以後、単にインクとも称する)には、黒色色材が含まれる。該色材がインクに含まれることにより、遮光能が担保される。
黒色色材は、各種公知の黒色顔料や黒色染料を用いることが出来るが、特に、少量で高い光学濃度を実現できる観点から、カーボンブラック、チタンブラック、酸化鉄、酸化マンガン、グラファイト等が好ましい。なかでも、カーボンブラック、チタンブラックが好ましく、最も好ましくはカーボンブラックである。
また、黒色色材としては、赤色色材、緑色色材、青色色材等の混合による黒色色材も使用可能である。
【0019】
黒色顔料の平均粒子径(平均一次粒子径)は、異物発生の観点、固体撮像素子の製造におけるその歩留まりへの影響の観点から、その平均一次粒子径は小さいことが好ましい。平均一次粒子径は100nm以下が好ましく、50nm以下がさらに好ましく、30nm以下が特に好ましい。
平均粒子径は、顔料を適当な基板へ塗布し、走査型電子顕微鏡により観察することにより測定することができる。
【0020】
インク中の黒色色材の含有量は、インク全量に対して、5質量%以上である。上記範囲であれば、所望の光学濃度を示す遮光材料を得ることができる。なかでも、より優れた遮光性を示す遮光材料が得られる点から、6質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、黒色色材の分散安定性、硬化後の遮光材料の基材(光学レンズ)への密着性の観点より、20質量%以下が好ましく、16質量%以下が好ましい。
含有量が5質量%未満の場合、一定の膜厚範囲内で、所望の遮光性を示す遮光材料を得ることができない。
【0021】
(ラジカル重合性モノマー)
本工程で使用されるインクには、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマーが使用される。該モノマーがインクに含まれることにより、主として使用する基材であるプラスチックレンズと遮光材料との密着性確保が容易であることに加え、該モノマーは、光による硬化、非硬化部の差異を発現させることが容易で、後述する硬化工程の際に硬化部の座屈を引き起こしやすい。
ラジカル重合性モノマーは、少なくとも1つのアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有していればよく、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を2個以上有する多官能ラジカル重合性モノマーであってもよい。
【0022】
ラジカル重合性モノマーとしては、公知の材料を使用することができる。
例えば、単官能(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトンアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクタム、)、2官能(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(エチレンオキサイド変性)ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、ジアクリル化イソシアヌレート)、3官能以上の(メタ)アクリレート(例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイロキシエチル)フォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート)などが挙げられる。なお、上記の記載中「(メタ)アクリレート」は、「メタアクリレート」と
「アクリレート」の両方を表す言葉である。
【0023】
ラジカル重合性モノマーの粘度は特に制限されないが、凹凸表面を有する遮光材料を製造しやすい点から、25℃において1〜20mPa・sであることが好ましく、2〜15mPa・sがより好ましい。
なお、粘度は、25℃にラジカル重合性モノマーを保持した状態で、一般に用いられるE型粘度計(例えば、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L)を用いることにより測定される値である。
【0024】
インク中のラジカル重合性モノマーの含有量は、インク全量に対して、60質量%以上である。上記範囲であれば、所望の遮光能を示す遮光材料を得ることができる。なかでも、より優れた低反射率、遮光性を示す遮光材料が得られる点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、インクの取扱い性(保存安定性など)と遮光能との両立の点より、95質量%以下が好ましく、90質量%以下が好ましい。
含有量が60質量%未満であると、インクの吐出安定性が損なわれる、または、遮光材料の基材(光学レンズ)への密着性が十分であり、所望の遮光能、表面特性を有する遮光材料が得られない。
【0025】
インク内のラジカル重合性モノマー全量中、単官能ラジカル重合性モノマーの含有量が、65質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることが好ましい。なお、上限は特に制限さないが、100質量%が挙げられる。上記範囲であれば、インクの吐出安定性と、遮光材料の特性(遮光性、光沢性など)をより高いレベルで両立することができる。
【0026】
(重合開始剤)
本工程で使用されるインクには、重合開始剤が含まれる。該重合開始剤がインクに含まれることにより、インクの良好な硬化性が担保される。
重合開始剤としては、公知の材料(光重合開始剤、熱重合開始剤など)を使用することができる。なかでも、オキシムエステル類、アシルホスフィンオキサイド類、α―ヒドロキシアルキルケトン類、ロフィンダイマー類、およびトリハロメチルトリアジン類からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0027】
インク中の重合開始剤の含有量は、インク全量に対して、0.1〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、インクの硬化が良好に進行すると共に、得られる遮光材料の特性(遮光性、光沢性など)により優れる。
【0028】
(任意成分:界面活性剤)
インクには、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤がインクに含まれることにより、インクの吐出安定性が向上すると共に、インクの光学レンズへの濡れ性を調整することが可能となる。
使用される界面活性剤は、公知の界面活性剤を用いることができる。
界面活性剤の例として、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルのベタイン類が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキル硫酸アンモニウム塩、アルキルアリール硫酸アンモニウム塩、アルキルアリールスルホン酸アンモニウム塩、アルキルリン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸系高分子のアンモニウム塩などが挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルアミンアセテート等が挙げられる。なお、上記以外にも、シリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が挙げられる。
【0029】
インク中の界面活性剤の含有量は、インク全量に対して、0.01〜3質量%が好ましく、0.05〜1.5質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、インクの吐出性とインクの光学レンズへの適度な濡れ性の調整がより容易となる。
【0030】
(任意成分:オリゴマーまたはポリマー)
インクには、オリゴマーまたはポリマーが含まれていてもよい。オリゴマーまたはポリマーがインクに含まれることにより、遮光材料の基材(光学レンズ)への密着性向上が可能と共に、インクの粘度が調整され、光学レンズ上でのインクの拡がりがより抑えられる。
なお、オリゴマーとは重量平均分子量が5000未満の化合物を意味し、ポリマーとは重量平均分子量が5000以上の化合物を意味する。
【0031】
オリゴマーまたはポリマーの主鎖構造は特に制限されないが、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
使用されるオリゴマーまたはポリマーの種類は特に制限されないが、インクの硬化性、他成分との相溶性の点から、重合性基を有するオリゴマー(重合性オリゴマー)を使用することが好ましい。重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基などが挙げられる。
【0032】
インク中のオリゴマーおよびポリマーの総含有量は、インク全量に対して、1〜10質量%が好ましく、1.5〜5質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、インクの取り扱い性に優れ、吐出安定性の点からも好ましい。
【0033】
(任意成分:その他)
インクには、上記任意成分以外に、溶媒、重合禁止剤などの公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0034】
遮光材料形成用インクの粘度は、凹凸表面を有する遮光材料を製造できる点から、25℃において25mPa・s以下である。なかでも、5〜25mPa・sが好ましく、10〜20mPa・sがより好ましい。
粘度が25mPa・s超の場合、遮光材料形成用インクの吐出安定性が損なわれる。
なお、粘度は、25℃にインクを保持した状態で、一般に用いられるE型粘度計(例えば、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L))を用いることにより測定される値である。
【0035】
遮光材料形成用インクを1000倍希釈した際の吸光度(555nmにおける吸光度)は、凹凸表面を有する遮光材料を製造しやすい点から、4以上が好ましく、4.5以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、インクの保存安定性と吐出安定性の点から、5.5以下が好ましく、5以下がより好ましい。
該吸光度の測定方法は、日本分光社製、紫外可視分光光度計V―560を使用し、10mm石英セルを用いて測定した。
なお、1000倍希釈の際に使用される溶媒は555nmに吸収を持たない溶媒であれば特に制限されず、例えば、遮光材料形成用インク中に溶媒が含まれる場合、該溶媒と同一種類の溶媒を使用できる(溶媒としては、例えば、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。なお、該溶媒をインク中に加えた場合に沈殿物を生じる場合は、他の溶媒で希釈してもよい。)。または、遮光材料形成用インク中に含まれるラジカル重合性モノマーと、同一のラジカル重合性モノマーで希釈してもよい。
【0036】
[光学レンズ]
本工程で使用される光学レンズの種類は特に制限されず、公知の用途に使用されているレンズ(例えば、カメラ用レンズ、眼鏡レンズ、望遠鏡レンズ、顕微鏡用レンズなど)を使用することができる。より具体的には、例えば、レンチキュラーレンズ、プリズムシート、マイクロレンズなどの凸レンズ、凹レンズ、非球面レンズなどが挙げられる。
光学レンズの材料は特に制限されず、公知の材料(例えば、ガラス、樹脂など)が挙げられる。また、光学レンズの形状も特に制限されない。
【0037】
[工程の手順]
本工程で使用されるインクジェット方式は、公知の方式を採用することができる。
例えば、静電力を利用してインクを吐出させる静電誘引方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変え、インクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式、などが挙げられる。
【0038】
本工程で使用されるインクジェット記録装置としては特に制限はなく、目的とする解像度を達成しうる公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。例えば、インク供給系、温度センサー、活性放射線源を含む装置が挙げられる。
インク供給系は、例えば、インクを含む元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、インクジェットヘッドからなる。
【0039】
使用されるインクジェットヘッドとしては、コンティニュアス型やオンデマンド型のピエゾ方式、サーマル方式、ソリッド方式、静電吸引方式等の種々の方式のインクジェットヘッド(吐出ヘッド)を用いることができる。なお、インクジェットヘッドには、必要に応じて、インク粘度を調整するための加熱手段(例えば、ヒーター)が備え付けられていてもよい。
【0040】
本工程において、インクジェットヘッドから吐出される1滴あたりのインク吐出量は、2〜30plが好ましく、2〜15plがより好ましい。上記範囲内であれば、光学レンズ上でインクの拡がりがより抑制できる。
インクジェットヘッドから吐出される際のインクの粘度は、インクの吐出安定性の点から、3〜20mPa・sが好ましく、7〜16mPa・sがより好ましい。なお、上述したように、必要に応じて、上記所望の粘度となるように吐出時にインクをインクジェットヘッドに取り付けられたヒーターで加熱してもよい。
【0041】
光学レンズ上に付与されたインクの厚みは特に制限されないが、所望の光学特性を示す遮蔽材料が得やすい点から、5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましい。
【0042】
上記インクジェット法により、インクを光学レンズ上の任意の場所(所望のパターン状)に滴下(吐出)することができる。
インクに溶媒が含まれる場合は、インクを吐出した後、溶媒の除去を行うため、必要に応じて乾燥処理を施してもよい。このような乾燥処理は、例えば、ホットプレート、電気炉などによる処理の他、ランプアニールによって行うこともできる。
【0043】
<仮硬化工程>
仮硬化工程は、上記インク付与工程で付与された光学レンズ上のインクの内部に未硬化部分を残しつつ、付与されたインクの最表面を露光により硬化させる工程である。より具体的には、図1(B)に示すように、該処理を施すことにより、表面の硬化部14とインク内部にある未硬化部16とを含むインク112が形成される。該工程を行うことにより、後述する本硬化工程の際に、未硬化部16の硬化収縮が起こり、硬化部14に水平方向から圧縮力が付与され、硬化部14で座屈現象が起き、所望の表面凹凸を有する遮蔽材料が得られる。
以下に、工程の手順について説明する。
【0044】
露光に使用される光の種類は特に制限されず、使用される材料に応じて適宜最適は波長の光が使用される。例えば、紫外線、可視光、赤外光、電子線などが使用できる。なかでも、インクの取り扱い易さ、原料の選択幅の観点で、光のピーク波長は、200〜450nmであることが好ましく、250〜380nmであることがさらに好ましい。
光源としては公知の光源が使用され、水銀ランプ、メタルハライドランプ、LED(UV−LED)、LD(UVLD)が挙げられる。
【0045】
露光時間は使用される光の種類に応じて適宜最適な時間が選択されるが、生産性、および、インクの硬化性の点から、0.1〜60秒が好ましく、0.5〜20秒がより好ましい。
【0046】
付与されたインクの最表面を硬化させる際の露光エネルギー量(積算光量)は使用される材料に応じて適宜最適な条件が選択されるが、1000mJ/cm2以下であることが好ましく、500mJ/cm2以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、内部に未硬化部を残ししつつ、インクの最表面を硬化させることができる。なお、露光エネルギー量の下限としては、インクの最表面をある程度硬化させるために、50mJ/cm2以上であることが好ましい。
【0047】
硬化部の厚み(T1)と未硬化部の厚み(T2)との割合(T1/T2)は、より好ましい表面凹凸形状を有する遮光材料が得られる点から、0.002〜0.2が好ましく、0.01〜0.1がより好ましい。
なお、硬化部とは光照射前後の赤外吸収(約810cm−1)から求めたラジカル重合性モノマーの反応率が50%以上の部分を示し、未硬化部とは反応率が50%より小さい部分を示す。尚、この測定には、光学レンズ上の遮光材料の断面をフーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−4000(日本分光社製)を用いた。硬化部の厚みと未硬化部の厚みは、インク中の任意の場所を10点以上測定して、得られた値を平均した平均値である。
【0048】
<本硬化工程>
本硬化工程は、加熱処理または露光処理により付与されたインク内部の未硬化部分を硬化させて、表面に凹凸形状を有する遮光材料を得る工程である。より具体的には、図1(C)に示すように、該工程を実施することにより、光学レンズ10上に表面に凹凸形状が形成された遮光材料18が形成され、遮光材料付き光学レンズ20が得られる。該工程においては、未硬化部16を硬化させる際に発生する硬化収縮により、未硬化部16上にある硬化部14も同時に水平方向からの圧縮力を受けながら収縮する。つまり、硬化部14が座屈し、結果として凹凸形状を有する遮光材料18が得られる。
以下に、工程の手順について説明する。
【0049】
本工程でインク内部の未硬化部を硬化させる際には、加熱処理または露光処理が実施される。
加熱処理の条件は使用される材料に応じて適宜最適な条件が選択されるが、50〜200℃(好ましくは、80〜150℃)で0.25〜2時間(好ましくは0.5〜1時間)加熱することが好ましい。
【0050】
露光処理の場合、露光に使用される光の種類は特に制限されず、上記仮硬化工程で使用される光などが使用できる。
露光条件は使用される材料に応じて適宜最適な条件が選択されるが、露光エネルギー量としては、500mJ/cm2以上であることが好ましく、1000mJ/cm2以上であることがより好ましい。上記範囲内であれば、インクを充分に硬化させることができる。なお、露光エネルギー量の上限は特に制限されないが、生産性、および、光学レンズなどへの影響の点から、5000mJ/cm2以下であることが好ましい。
【0051】
<遮光材料付き光学レンズ>
上記処理を施すことにより、光学レンズ10と遮光材料18とを備える遮光材料付き光学レンズ20が得られる。
遮光レンズ付き光学レンズ20は、種々の用途に使用できる。例えば、カメラモジュールなどが挙げられる。
【0052】
上記製造方法により得られる遮光材料18の表面粗さRaは、0.3μm以上である。上記範囲であれば、遮光能がより優れると共に、表面反射率がより優れる。なかでも、該効果がより優れる点で、0.4μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。上限に関しては、遮光性を保ちつつ全体の膜厚を低く抑える点から、1.5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
表面粗さRaが0.3μm未満であると、表面反射率が大きくなり、該遮光材料が光を散乱する為に、光学部材の性能が低下する。
なお、表面粗さRaは、JIS B 0633(2001)に従って、測定する。
【0053】
遮光材料18の平均膜厚は、5μm以下である。なかでも、レンズの小型化、光学部材としての精度の観点から、4μm以下が好ましい。下限は特に制限されないが、遮光性、基材(光学レンズ)との密着性、耐久性の点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。
平均膜厚が5μm超であると、光学部材の小型化の点で劣る。
平均膜厚は、公知の測定方法(例えば、接触式膜厚計、レーザー顕微鏡)を用いて、遮光材料の任意の場所10以上の膜厚を測定し、得られた値を平均したものである。
【0054】
遮光材料18の光学濃度(OD)は、4以上である。上記範囲内であれば、各種レンズの遮光材料として使用に適する。なかでも、光学部材としての精度の点から、5以上が好ましく、5.5以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、インク中の黒色色材の含有量を調整し、インクの吐出安定性を担保する点から、6以下がより好ましい。
光学濃度(OD)が4未満であると、遮光材料としての遮光能が十分でなく、結果として光学レンズの性能劣化を招く。
光学濃度(OD)の測定には、卓上式透過濃度計361T(X−Rite社製)を用いる。なお、上記光学濃度(OD)は、遮光材料の555nmにおける厚さ1μmあたりの光学濃度(OD)を意味する。
【0055】
遮光材料18の60°光沢度は、15以下である。上記範囲内であれば、各種レンズの遮光材料として使用に適する。なかでも、光学部材としての精度の点から、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。なお、下限に関しては特に制限されず、低ければ低いほど好ましく、0が最も好ましい。
60°光沢度が15より大きいと、光学部材の性能が低下する。
なお、60°光沢度の測定には、グロスチェッカIG−331(HORIBA社製)を用いる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0057】
<遮断材料形成用インクの調製>
下記の成分を表1に記載の配合割合で混合し、1時間撹拌した。その後、平均孔径0.25μmのミクロフィルターで減圧濾過して、遮断材料形成用インク(インク1および2、並びに、比較インク1および2)を調製した。
遮断材料形成用インクの調製に用いた各材料の詳細を以下に示す。
【0058】
(黒色色材)
・カーボンブラック(BASF社製、商品名:SPECIAL BLACK 250)
・Tiブラック(三菱マテリアル社製、商品名:チタンブラック12S)
【0059】
(ラジカル重合性モノマー)
・FA−511A:ジシクロペンテニルアクリレ−ト(日立化成工業(株)製)
・NVC:N−ビニルカプロラクタム(BASF社製)
・IBOA:イソボルニルアクリレート(SARTOMER社製)
・PhEA:2−フェノキシエチルアクリレート(SARTOMER社製)
・1,6−HDDA:1,6−ヘキサンジアクリレート(SARTOMER社製)
・EOTMPTA:EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(SARTOMER社製)
【0060】
(重合開始剤)
・IRGACURE 819(BASF社製)
・FIRST CURE ITX(ALBEMARLE社製)
【0061】
(オリゴマー)
・UA−122P:ウレタンアクリレート(新中村化学社製)
【0062】
(界面活性剤)
・BYK−323:Si系界面活性剤(ビックケミー社製)
【0063】
(重合禁止剤)
・MEHQ:p−メトキシフェノール(東京化成社製)
【0064】
【表1】

【0065】
なお、表1中のインク粘度の測定は、得られたインクを25℃に調温したまま、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L)を用いて以下の条件で測定した。
(測定条件)
・使用ロータ:1° 34’×R24
・測定時間 :2分間
・測定温度 :25℃
表1中のインク吸光度は、インク1および2、並びに、比較インク1および2を、それぞれトリプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いて1000倍に希釈した際の555nmにおける吸光度を意味する。なお、比較インク2においては、インク吸光度が5より大きかった。
【0066】
<遮断材料付き光学レンズの製造方法(実施例1および2)>
Dimatix社製インクジェットヘッド(SE−128:ヘッド温度はインク粘度が10〜12mPa・sになる様に加温調整)を搭載した富士フイルム製インクジェットプリンターDMP−3000を用いて、上記で調製した遮断材料形成用インク(インク1または2)を携帯電話カメラ用光学レンズ(富士フイルム社製)に付与した。インクジェットヘッドから吐出される1滴あたりのインク吐出量は、25pl(ピコリットル)であった。光学レンズ上のインク層の厚みは4μmであった。
【0067】
次に、メタルハライドランプ(U−0272:GS YUASA社製、1200mW/cm2)を用いて、光学レンズ上に付与されたインクを露光して、インクの最表層を硬化させた(露光時間:0.25秒、露光エネルギー量(積算光量):300mJ/cm2)。なお、インク内部は未硬化状態であり、硬化部の厚み(T1)と未硬化部の厚み(T2)との割合(T1/T2)は、0.04であった。
【0068】
その後、得られた光学レンズをオーブンに入れ、120℃で30分間加熱処理を施し、光学レンズ上のインクを硬化させ、遮断材料付き光学レンズを製造した。
得られた遮光材料の特性(表面粗さRa、光学濃度、平均膜厚、60°光沢など)を以下の測定方法に従って、測定した。
使用されたインクの種類、および、得られた遮光材料の特性を表2にまとめて示す。
【0069】
<比較例1>
実施例1で実施された、露光処理によるインク最表層の硬化処理(仮硬化工程に該当)を行わない以外は、実施例1と同様の手順に従って、遮光材料付き光学レンズを製造した。
【0070】
<比較例2>
遮断材料形成用インクとして比較インク1を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、遮光材料付き光学レンズを製造した。
【0071】
<比較例3>
遮断材料形成用インクとして比較インク2を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、遮光材料付き光学レンズを製造した。
【0072】
<(平均膜厚)および(表面粗さRa)測定>
形状測定レーザマイクロスコープVK−9700(KEYENCE社製)を用いて測定を行った。
なお、平均膜厚は、遮光材料の任意の場所10以上の膜厚を測定し、得られた値を平均したものである。また、表面粗さRaは、JIS B 0633(2001)に従って、測定した。
【0073】
<光学濃度測定>
卓上式透過濃度計361T(X−Rite社製)を用いて測定を行った。
【0074】
<60°光沢度測定>
ハンディ光沢計(グロスチェッカIG−331:HORIBA社製)を用い、60℃光沢度の測定を行った。
【0075】
【表2】

【0076】
なお、表2中、「表面粗さRa」が0.3μm以上、「平均膜厚」が5μm以下、「光学濃度(OD)」が4以上、「60°光沢度」が15以下を満たす場合を、遮光材料適正「○」として評価する。いずれかの項目で所定の範囲を満たさない場合を、遮光材料適正「×」として評価する。
【0077】
上記表2に示すように、所定の成分を含む遮光材料形成用インクを使用して得られた遮光材料は優れた特性(光学濃度、60°光沢など)を有しており、本発明の製造方法により効率的に遮光材料付き光学レンズを製造することができた。
【0078】
一方、露光処理を実施しなかった比較例1、および、所定の特性を満たさない遮光材料形成用インクを使用した比較例2においては、所望の遮光材料を得ることができなかった。
また、ラジカル重合性モノマーの含有量、および、粘度が所定の範囲でない比較インク2を使用した比較例3では、ノズルの目詰まりが生じ、インクの安定的な吐出をすることができず、遮光材料を製造することができなかった。
【符号の説明】
【0079】
10 光学レンズ
12、112 遮光材料形成用インク
14 硬化部
16 未硬化部
18 遮光材料
20 遮光材料付き光学レンズ
200 撮像用レンズ
202 G1レンズ
204 G2レンズ
206 遮光部材
208 開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色色材、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマー、および重合開始剤を含み、粘度(25℃)が25mPa・s以下の遮光材料形成用インクを、インクジェット方式により光学レンズ上へ付与するインク付与工程と、
付与されたインク内部に未硬化部分を残しつつ、付与されたインクの最表面を露光により硬化させる仮硬化工程と、
加熱処理または露光処理により前記付与されたインク内部の前記未硬化部分を硬化させて、表面に凹凸形状を有する遮光材料を得る本硬化工程とを備え、
前記黒色色材の含有量が、インク全量に対して5質量%以上であり、
前記ラジカル重合性モノマーの含有量が、インク全量に対して60質量%以上であり、
前記遮光材料の表面粗さRaが0.3μm以上、平均膜厚が5μm以下、光学濃度(OD)が4以上、60°光沢度が15以下である、遮光材料付き光学レンズの製造方法。
【請求項2】
前記遮光材料形成用インクを1000倍希釈した際の吸光度(555nm)が4以上である、請求項1に記載の遮光材料付き光学レンズの製造方法。
【請求項3】
前記仮硬化工程における露光量(mJ/cm2)が1000以下である、請求項1または2に記載の遮光材料付き光学レンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で製造された遮光材料付き光学レンズ。
【請求項5】
請求項4に記載の遮光材料付き光学レンズを備えるカメラモジュール。
【請求項6】
黒色色材、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマー、および光重合開始剤を含み、粘度が25mPa・s以下の遮光材料形成用インクであって、
前記黒色色材の含有量が、インク全量に対して5質量%以上であり、
前記重合性モノマーの含有量が、インク全量に対して60質量%以上である、遮光材料形成用インク。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−208391(P2012−208391A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75092(P2011−75092)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】