説明

遮光膜、光学素子及びその製造方法、ブラックマトリクス、カラーフィルタ並びに表示素子

【課題】反射率が低くしかも製造が容易でコスト低減を図ることができる遮光膜等を提供する。
【解決手段】遮光膜は、多数の微小突起CPを含む微細凹凸構造MRが表面に形成された、黒色材料を含有した樹脂層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光膜、これを用いた光学素子、その光学素子の製造方法、前記遮光膜を用いたブラックマトリクス及びカラーフィルタ、並びに、前記ブラックマトリクス又は前記カラーフィルタを用いた表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、基板上に遮光膜が形成された光学素子が開示されている。この光学素子では、石英基板等の基板上に遮光膜としてシリコン層が形成され、前記シリコン層の表面に、多数の微小突起を含む微細凹凸構造を形成している。この光学素子によれば、前記微細凹凸構造によって、遮光されるとともに、反射率が低減されて反射ノイズが低減される。したがって、この光学素子は、例えば、反射ノイズの少ないマスク等として使用することができる。また、特許文献1には、このような光学素子の例としてニッポウディスクが挙げられ、さらに、このニッポウディスクを用いたコンフォーカル光学系及び3次元測定装置も開示されている。
【0003】
さらに、特許文献1には、このような光学素子を製造する場合、シリコン層の表面に微細マスク物質を堆積させながら前記シリコン層の表面をドライエッチングすることで、前記シリコン層の表面に、ランダムに分布した多数の微小突起を含む微細凹凸構造を形成することが、開示されている。
【0004】
下記特許文献2には、液晶表示素子に用いられるカラーフィルタ及びブラックマトリクスが開示されている。このブラックマトリクスは、ネガ型ブラックレジストを塗布し、このネガ型ブラックレジストを露光・現像して形成されている。下記特許文献2には、露光・現像後のネガ型ブラックレジストに表面処理を施すことは何ら開示されていない。前記カラーフィルタは、前記ブラックマトリクスの開口部に着色層を形成することによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/046502号パンフレット
【特許文献2】特開2004−246094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニッポウディスクやブラックマトリクスなどの光学素子で用いられる遮光膜では、単に遮光するだけではなく、反射率が可能な限り低いことが要請される。一方、このような光学素子においても、製造が容易でコスト低減を図ることができることが要請されていることは、言うまでもない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、反射率が低くしかも製造が容易でコスト低減を図ることができる遮光膜、これを用いた光学素子、その光学素子の製造方法、前記遮光膜を用いたブラックマトリクス及びカラーフィルタ、並びに、前記ブラックマトリクス又は前記カラーフィルタを用いた表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、以下の各態様を提示する。第1の態様による遮光膜は、多数の微小突起を含む微細凹凸構造が表面に形成された、黒色材料を含有した樹脂層を有するものである。
【0009】
第2の態様による光学素子の製造方法は、基板上に、黒色材料を含有した樹脂層を形成する段階と、前記樹脂層の表面に微細マスク物質を堆積させながら前記樹脂層の表面をドライエッチングすることで、前記樹脂層の表面に、多数の微小突起を含む微細凹凸構造を形成する段階と、を備えたものである。
【0010】
第3の態様によるブラックマトリクスは、基板上に形成された遮光膜を備え、前記遮光膜が前記第1の態様による遮光膜であるものである。
【0011】
第4の態様によるカラーフィルタは、前記第3の態様によるブラックマトリクスと、前記遮光膜の開口部に形成された着色層とを備えたものである。
【0012】
第5の態様による表示素子は、前記第3の態様によるブラックマトリクス又は第4の態様によるカラーフィルタを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反射率が低くしかも製造が容易でコスト低減を図ることができる遮光膜、これを用いた光学素子、その光学素子の製造方法、前記遮光膜を用いたブラックマトリクス及びカラーフィルタ、並びに、前記ブラックマトリクス又は前記カラーフィルタを用いた表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるブラックマトリクスを模式的に示す概略平面図である。
【図2】図1中のA−A’線に沿った概略断面図である。
【図3】図1に示すブラックマトリクスの製造方法の各工程を模式的に示す概略断面図である。
【図4】図3に引き続く工程を模式的に示す概略断面図である。
【図5】図1に示すブラックマトリクスの製造方法で用いられる平行平板ドライエッチング装置を模式的に示す概略構成図である。
【図6】図1に示すブラックマトリクスの製造方法で用いられる他の装置を模式的に示す概略構成図である。
【図7】図1に示すブラックマトリクスに対応する最終サンプルの写真である。
【図8】図1に示すブラックマトリクスに対応する最終サンプルのブラックレジスト層の表面のSEM像である。
【図9】図1に示すブラックマトリクスに対応する最終サンプルを得る途中で得た中間サンプルのブラックレジスト層の表面のSEM像である。
【図10】中間サンプル及び最終サンプルのブラックレジスト層の反射率を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態によるカラーフィルタを含むカラーフィルタ基板を模式的に示す概略断面図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態による反射型液晶表示素子を示す概略断面図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態によるカラーフィルタを含むカラーフィルタ基板を模式的に示す概略断面図である。
【図14】図3に示すカラーフィルタ基板の製造方法の各工程を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による遮光膜、光学素子及びその製造方法、ブラックマトリクス、カラーフィルタ並びに表示素子について、図面を参照して説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態による光学素子としてのブラックマトリクス1を模式的に示す概略平面図である。図2は、図1中のA−A’線に沿った概略断面図である。
【0017】
本実施の形態によるブラックマトリクス1は、石英ガラス基板等の透明基板11上に形成された遮光膜で構成されている。本実施の形態では、前記遮光膜は、黒色材料を含有した樹脂層としてのブラックレジスト層2で構成されている。前記黒色材料としてはカーボンブラック等の顔料又は染料を挙げることができるが、これに限定されるものではない。ブラックレジスト層2は、ブラックレジスト組成物を塗布し露光・現像等の処理を施した後の層である。ブラックレジスト層2は、格子状にパターニングされ、マトリクス状に配置された開口部3を有している。
【0018】
ブラックレジスト層2の表面(基板11とは反対側の面)には、多数の微小突起CPを含む微細凹凸構造MRが形成されている。図2では、図面表記の便宜上、微小突起CPは、規則正しく分布しているかのように記載しているが、実際には高さや間隔などの形状がランダムに分布されていても良い。第1の微小突起CPの長さは、例えば0.1μm〜3μm程度とされる。もっとも、このような寸法に限定されるものではない。
【0019】
次に、本実施の形態によるブラックマトリクス1の製造方法の一例について、図3乃至図5を参照して説明する。図3及び図4は、各製造工程を模式的に示す概略断面図である。図5は、微細凹凸構造MRの形成工程で用いる平行平板ドライエッチング装置30を模式的に示す概略構成図である。
【0020】
まず、石英ガラス基板等の透明基板11を用意する。次に、透明基板11上にブラックレジスト組成物2’を塗布する(図3(a))。ブラックレジスト組成物2’としては、市販の組成物を用いてもよいし、他の種々の組成物を用いてもよい。ブラックレジスト組成物2’の塗布は、ロールコーターによる塗布、スピンコーターによる塗布、ダイコーターによる塗布、ディップコート、スプレーによる塗布、リップコート等の種々の方法を採用することができる。
【0021】
引き続いて、塗布したブラックレジスト組成物2’に対して、周知のベーク、露光、現像、ポストベーク等の処理を施すことで、ブラックレジスト組成物2’をパターニングされたブラックレジスト層2にする(図3(b))。
【0022】
次に、図5に示す平行平板ドライエッチング装置30を用いて、図3(b)に示す状態の基板11のブラックレジスト層2側の面に微細マスク物質SPを堆積させながらブラックレジスト層2の上面をドライエッチングすることで、ブラックレジスト層2の上面に微細凹凸構造MRを形成する(図3(c)、図4(a)、図4(b))。この点について、以下に説明する。
【0023】
平行平板ドライエッチング装置30は、図5に示すように、基本的にRIE装置と同様の構造を有し、アースに接続されたアノード電極31と、反応ガスをプラズマ化するための高周波電力が印加されるカソード電極32と、これらの電極31,32を収容する真空チャンバ34とを備える。カソード電極32は、反応ガスのプラズマ化や微細凹凸構造MR等の形成に必要な所定の高周波電圧を発生する交流電圧源36に接続されている。
【0024】
一方、真空チャンバ34は、アノード電極31と同様接地電位に設定される。真空チャンバ34は、真空ポンプ38により適当な真空度に維持することができる。反応ガス源39は真空チャンバ34に反応ガスを供給するためのガス源であり、必要な流量の反応ガスを真空チャンバ34中に導入することで真空チャンバ34内の反応ガスの密度を所望の値に設定することができる。反応ガス源39から供給される反応ガスとしては、例えば、OとCF(4フッ化炭素)とを適当な配分比で混合したものが用いられる。
【0025】
カソード電極32上には例えばアルミナ製で円盤状のトレイ37が載置されており、トレイ37上には、図3(b)に示す状態の基板11(図5では、ブラックレジスト層2の図示は省略。)が配置される。トレイ37は基板11の支持台として機能するとともに、後述するように、微細マスク物質(エッチング速度の小さい微細マスク)SPの材料としても機能する。トレイ37に載置された基板11上のブラックレジスト層2の上面は、両電極31,32間でプラズマ化され加速されたイオンの入射によりエッチングされる。
【0026】
通常のエッチングであれば、ブラックレジスト層2は、両電極31,32の上面に垂直な方向に所定の異方性で一様にエッチングされる。ところが、この場合、図3(b)に示す状態の基板11が載置されているトレイ37が反応ガスのイオンによってスパッタ・エッチされることにより、アルミナ(Al)製のトレイ37から出射した微細なスパッタ粒子SPが基板11の上面やブラックレジスト層2の上面にランダムに付着する。しかしながら、O及びCFからなる反応ガスの場合、アルミナのスパッタ速度よりもブラックレジスト層2のスパッタ速度の方が大きいので、基板11上のブラックレジスト層2の上面にランダムに付着したスパッタ粒子SPがマスクとして機能する。その結果、スパッタ粒子SPが付着した部分と付着していない部分とのエッチング速度の違いにより、ブラックレジスト層2の上面に渡ってランダムな突起CPが形成される。このとき、基板11のスパッタ速度はブラックレジスト層2のスパッタ速度よりもかなり小さいので、基板11の上面はほとんどエッチングされない。
【0027】
図3(c)、図4(a)及び図4(c)は、図5の装置30による微細凹凸構造MRの形成を概念的に示している。図3(c)は微細凹凸構造MR形成の初期段階を示し、図4(a)は微細凹凸構造MR形成の中間段階を示し、図4(b)は微細凹凸構造MR形成の最終段階を示している。
【0028】
図3(c)に示す初期段階においては、ブラックレジスト層2の表面とともにトレイ37の表面もスパッタ・エッチされるので、アルミナの微細粒子である無数のスパッタ粒子SPがトレイ37から基板11上のみならずブラックレジスト層2上へと飛来し、基板11の表面のみならずブラックレジスト層2の表面にランダムに付着する。なお、図面ではスパッタ粒子SPが一定周期で分布しているが、実際には規則性のないランダムな分布となる。
【0029】
図4(a)に示す中間段階においては、ブラックレジスト層2の表面に付着したスパッタ粒子SPがマスクとして機能するので、ブラックレジスト層2において、スパッタ粒子SPが付着していない領域において反応ガスのイオンGIによる異方性エッチングが進行し、スパッタ粒子SPの位置に対応してコーン状の突起CPが無数に形成されていく。なお、ブラックレジスト層2に比べてエッチング速度は遅いが、ブラックレジスト層2の表面に付着したスパッタ粒子SPもイオンGIによってエッチングされるので、突起CPの先端が徐々に露出することになる。しかし、突起CPの先端には別のスパッタ粒子SPが再付着する傾向があり、結果的に、突起CPが全体的に徐々に成長していく。なお、基板11の上面もわずかながらエッチングされるが、その図示は省略している。
【0030】
図4(b)に示す最終段階においては、突起CPが成長し、ブラックレジスト層2の上層は微小突起CPがランダムに密集して形成された状態となる。このように多数の微小突起CPが形成された上層部分が微細凹凸構造MRを構成する。これにより、本実施の形態によるブラックマトリクス1が完成する。
【0031】
図5に示す装置30の場合、スパッタ粒子SPが図3(b)に示す状態の基板11の周囲からその基板11上に飛来する。したがって、図3(b)に示す状態の基板11の面積が大きい場合には、周辺領域と中央領域とでスパッタ粒子SPの密度の差が大きくなる結果、周辺領域のブラックレジスト層2と中央領域のブラックレジスト層2とで、微小突起CPの密度に差が生じてしまい、好ましくない。
【0032】
図3(b)に示す状態の基板11の面積が大きい場合には、図5に示す装置30に代えて、例えば、図6に示す装置40を用いることが好ましい。図6に示す装置40を用いれば、図3(b)に示す状態の基板11の面積が大きくても、微小突起CPを均一な密度で形成することができる。図6に示す装置40は、気密性を有する真空チャンバ41を備え、真空チャンバ41内にスパッタリング用電極42とエッチング用電極43とが対向して配置され、両電極41,43間にプラズマが形成される空間44が設けられている。
【0033】
また、真空チャンバ41には、吸引路45と反応ガス導入路46とが接続されている。吸引路45には、図示しない真空ポンプ等が設けられており、真空チャンバ41内の気体や微粒子を吸引して排出可能となっている。稼働中に真空チャンバ41の内圧を、例えば、10Pa以下で維持可能に構成されている。
【0034】
反応ガス導入路46には、図示しない反応ガス供給源が設けられており、真空チャンバ41内の減圧状態を維持しつつ、真空チャンバ41内に反応ガスを存在させることが可能となっている。稼働中に、反応ガスを所定分圧で維持可能に構成されている。
【0035】
スパッタリング用電極42及びエッチング用電極43は、それぞれ平板状に形成されており、スパッタリング用電極42が上方に、エッチング用電極43が下方に、それぞれ水平に配置されて互いに平行となっている。
【0036】
スパッタリング用電極42及びエッチング用電極43には、それぞれに高周波電力を発生する交流電源47,48が接続され、真空チャンバ41がアース49で接地されており、スパッタリング用電極42とエッチング用電極43とに、それぞれ独立に高周波電力が印加可能となっている。
【0037】
エッチング用電極43は、図3(b)に示す状態の基板11(図6では、ブラックレジスト層2の図示は省略。)を載置可能となっている。エッチング用電極43の大きさは、基板11と同一又は基板11より大きいことが好適である。基板11上のブラックレジスト層2の全面に微細凹凸構造を均一な密度で形成し易いからである。
【0038】
このエッチング用電極43は、真空チャンバ41との間に高周波電圧が印加されることで、低圧の反応ガスを用いて空間44にプラズマを発生させると共に、プラズマ発生領域44aで生成されたイオンやラジカル等の活性種を基板11上のブラックレジスト層2に衝突させて、ブラックレジスト層2のエッチングを行うためのものである。
【0039】
スパッタリング用電極42は、スパッタリング材料が装着可能なものであってもよいが、ここでは、スパッタリング用電極42自体がスパッタリング材料により形成されている。このスパッタリング用電極42は、真空チャンバ41との間に高周波電圧が印加されることで、低圧の反応ガスを用いて空間44にプラズマを発生させると共に、プラズマ発生領域44aで生成されたイオン等の活性種をスパッタリング用電極42の表面に衝突させて、スパッタ粒子(微細マスク物質)SPを放出させるためのものである。
【0040】
スパッタリング用電極42は、エッチング用電極43上に載置された図3(b)に示す状態の基板11のブラックレジスト層2側の面の鉛直方向上方に、空間44を介して広い範囲で対向して配置されている。スパッタリング用電極42と基板11との対向させる面積は基板11の大きさに応じて適宜設定可能である。
【0041】
また、基板11上のブラックレジスト層2側の面とスパッタリング用電極42との間の間隔は、高周波電力が印加されることでプラズマ発生領域44aが形成可能であるとと共に、反応ガス導入路46から導入された反応ガスが流動可能な程度の間隔で調整されている。
【0042】
スパッタリング用電極42を構成するスパッタリング材料は、特に限定されないが、例えばアルミナを用いることができる。エッチング用電極43の材質は特に限定されず、プラズマを用いたエッチング装置或いはスパッタリング装置に使用可能なものであればよい。
【0043】
反応ガスとしては、例えば、OとCFとの混合ガスを用いてもよい。
【0044】
図6に示す装置40を用いる場合、エッチング用電極43上に図3(b)に示す状態の基板11を載置して、空間44を介してスパッタリング用電極42と基板11のブラックレジスト層2側の面とを対向させて空間44に露出した状態で配置する。そして、吸引路45から真空チャンバ41内の気体を吸引除去すると共に、反応ガス導入路46から反応ガスを供給して、反応ガスが存在した状態で真空チャンバ41内を所定の減圧雰囲気にすることで、準備を完了する。
【0045】
この状態で、スパッタリング用電極42とエッチング用電極43とに別々に調整された高周波電力を印加する。このとき、スパッタリング用電極42には、スパッタ粒子SPを適度に放出可能な程度となるように第1の高周波電力を印加する。一方、エッチング用電極43には、第1の高周波電力より大きい第2の高周波電力を印加する。
【0046】
すると、プラズマにより発生したイオンやラジカル等の活性種が、第1の高周波電力に応じてプラズマ発生領域44aから陰極降下部44bを通してスパッタリング材料側に飛散して衝突し、スパッタ粒子SPを放出させる。このスパッタ粒子SPは飛散して、図3(c)の場合と同様に、基板11の上面やブラックレジスト層2の上面にランダムに付着する。一方、プラズマにより発生した活性種は基板11側にも飛散し、第2の高周波電力に応じてプラズマ発生領域44aから陰極降下部44bを通して基板11のブラックレジスト層2側の面に衝突する。これにより、図4(a)及び図4(b)の場合と同様に、ブラックレジスト層2の上層に微細凹凸構造MRが構成される。
【0047】
本実施の形態によるブラックマトリクス1では、遮光層が、黒色材料を含有した樹脂層であるブラックレジスト層2で構成されている。このため、本実施の形態によるブラックマトリクス1の製造に際して、ブラックレジスト組成物2’の塗布を行えばよいので、シリコン層の成膜等を要する場合に比べて、製造が容易でコスト低減を図ることができ、また大面積化も容易である。
【0048】
また、本実施の形態によるブラックマトリクス1では、ブラックレジスト層2の表面に、多数の微小突起CPを含む微細凹凸構造MRが形成されているので、ブラックレジスト層2の反射率を著しく低下させることができる。
【0049】
本発明者は、本実施の形態によるブラックマトリクス1に相当する最終サンプルを、前述した製造方法で、実際に作製した。このとき、透明基板11として石英ガラス基板を用い、その上に、ブラックレジスト組成物2’として「東京応化製CFPR BK4611」を厚さ2μm塗布し、これに対しベーク・露光を行い、更に水酸化カリウム水溶液で現像した後にポストベークを行い、図3(b)に示す基板11に相当する中間サンプルを得た。この中間サンプルについて、微細凹凸構造MRが形成される前のブラックレジスト層2の反射率を測定するとともに、そのブラックレジスト層2の表面のSEM像(走査型電子顕微鏡による像)を得た。
【0050】
その後、図5に示す装置30を用いて、前記中間サンプルのブラックレジスト層2に微細凹凸構造MRを形成することで、本実施の形態によるブラックマトリクス1に相当する最終サンプルを得た。このとき、トレイ37はアルミナ製とし、反応ガス源39からCF:100sccmとO:30sccmとの混合ガスを真空チャンバ34内へ導入し、真空チャンバ34内の圧力は6Paとし、RIEパワーを500Wとして、前述したドライエッチングを行った。そのエッチング時間は、4分とした。この最終サンプルについて、微細凹凸構造MRが形成された後のブラックレジスト層2の反射率を測定するとともに、そのブラックレジスト層2の表面のSEM像を得た。また、最終サンプルのブラックレジスト層2側から見た写真を得た。
【0051】
図7は、最終サンプルのブラックレジスト層2側から見た写真である。図8は、最終サンプルのブラックレジスト層2の表面のSEM像である。図9は、中間サンプルのブラックレジスト層2の表面のSEM像である。図10は、各波長に対する、中間サンプル及び最終サンプルのブラックレジスト層2の反射率を示す図である。図10において、実線が中間サンプルのブラックレジスト層2の反射率を示し、破線が最終サンプルのブラックレジスト層2の反射率を示している。
【0052】
図9から、中間サンプルのブラックレジスト層2の表面には微細凹凸構造MRが形成されていないことがわかる。中間サンプルは、従来のブラックマトリクスに相当している。一方、図8から、最終サンプルの表面には、多数の微小突起CPを含む微細凹凸構造MRが形成されていることがわかる。図8から、微小突起CPの長さは400nm程度、微小突起CPの間隔は150nm程度であることが読み取れる。
【0053】
図10からわかるように、中間サンプルのブラックレジスト層2の反射率は、可視領域に渡って2.5%以上とかなり高いのに対し、最終サンプルのブラックレジスト層2の反射率は、可視領域に渡ってほぼ0%と非常に低く、ブラックマトリクスの反射率として従来は全く考えられなかった理想的なものである。
【0054】
このようにして、本実施の形態によるブラックマトリクス1は、微細凹凸構造が形成されていないブラックレジスト層を用いたブラックマトリクスに比べて、ブラックレジスト層2の反射率を著しく低くすることができることが、確認された。
【0055】
[第2の実施の形態]
図11は、本発明の第2の実施の形態によるカラーフィルタを含むカラーフィルタ基板51を模式的に示す概略断面図である。図11おいて、図2中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0056】
このカラーフィルタ基板51は、前記第1の実施の形態によるブラックマトリクス1を用いて構成されている。本実施の形態によるカラーフィルタは、ブラックマトリクス1と、ブラックマトリクス1のブラックレジスト層2の開口部3に設けられた着色層52とから構成されている。着色層52の色は、所定の色配列により赤色、緑色及び青色のいずれかとされている。着色層52は、任意の手法で開口部3に形成することができる。例えば、インクジェット方式により、ブラックマトリクス1のブラックレジスト層2の開口部3に、染料を含む硬化型のインキを付与し、硬化させて着色層52を形成することができる。
【0057】
なお、図3(b)に示す状態の基板11において開口部3に着色層52を形成し、その状態の基板11に対して、前述した微細凹凸構造の形成工程を行ってもよい。この場合には、ブラックレジスト層2の表面のみならず、着色層52の表面にも微細凹凸構造が形成されることになる。勿論、着色層52の表面に微細凹凸構造が形成されるか否かでその分光透過特性が異なってくるが、予め微細凹凸構造の着色層52に対する影響を考慮した上で、着色層52の染料等を選定しておけばよい。
【0058】
また、このカラーフィルタ基板51は、ブラックマトリクス1のブラックレジスト層2及び着色層52を覆うオーバーコート層53と、その上に形成された透明共通電極(ITO)54とを備えている。オーバーコート層53は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂等の材料を着色層52を形成した基板11の上にスピンナ等によって全面塗布した後、キュア処理して樹脂を硬化させてなるものである。このオーバーコート層53は、用いた着色材料の保護と平坦度を得るために設けられているが、省略してもよい。透明共通電極54は、オーバーコート層53の上に真空蒸着装置等によって成膜形成されている。
【0059】
[第3の実施の形態]
図13は、本発明の第3の実施の形態によるカラーフィルタを含むカラーフィルタ基板101を模式的に示す概略断面図である。
【0060】
本実施の形態のカラーフィルタは反射型カラーフィルタとして構成されている。本実施の形態のカラーフィルタ基板101が前記第2の実施の形態のカラーフィルタ基板51と相違する点は、着色層52と基板11との間に、反射膜102及び散乱膜103を有する点である。反射膜102及び散乱膜103としては、反射型カラーフィルタに通常用いられる公知の金属膜や樹脂膜を使用することができる。ただし、製造方法として次に説明する工程を採用する場合には、ブラックレジスト層2の表面に微細凹凸構造を形成する過程で反射膜102がプラズマに接触するため、反射膜102にはプラズマによってダメージを受けにくい材料を用いることが好ましい。
【0061】
なお、反射膜102及び散乱膜103は少なくとも着色層52の下側に存在すれば反射型カラーフィルタとしての機能を奏するが、これに加えてブラックレジスト層2の下側にまで存在した場合でも特段の悪影響を及ぼすことはないため、製造工程の簡略化の観点からは、図13に示すように反射膜102及び散乱膜103を基板11の全面に形成した構成であっても構わない。
【0062】
ここで本実施の形態の反射型カラーフィルタの製造方法について、図14を参照しながら説明する。基板11上に散乱膜103及び反射膜102を積層し、その上にブラックレジスト層2’を形成する(図14(a)〜(b))。次にブラックレジスト層2’を所定のパターンにパターニングした後、パターニングされたブラックレジスト層2の表面に微細凹凸形状を形成する(図14(c)〜(d))。このとき反射膜102としてアルミ等の金属膜を用いれば、ブラックレジスト層2の表面のみに微細凹凸形状を形成することができる。次にブラックレジスト層2の開口部3に所定の色配列により着色層52を形成し(図14(e))、オーバーコート層53及び透明電極層54を形成して反射型カラーフィルタ基板101が完成する(図14(f))。ここで着色層52、オーバーコート層52、及び透明電極層54の形成に関しては、第2の実施の形態で説明したものと同様の工程を採用することができる。
【0063】
[第4の実施の形態]
図12は、本発明の第4の実施の形態による表示素子としての反射型液晶表示素子61を示す概略断面図である。図12において、図13及び図14中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0064】
本実施の形態による液晶表示素子61は、前述したカラーフィルタ基板101と多数の画素電極70を備えるTFT側基板71を対向させ、両基板間に液晶69を封入してなるものである。
【0065】
TFT側基板71はその内側に個々の画素をソース線(信号線)に対して導通/非導通の選択をするスイッチの機能を果たす薄膜トランジスタ(TFT)(図示せず)及びマトリックス状に配列された透明な画素電極70を備え、さらに基板内面の全面を覆って配向膜68が設けられている。TFT側基板71の表側に偏光板72が設けられている。
【0066】
本実施の形態による液晶表示素子61では、前記第1の実施の形態によるブラックマトリクス1とその開口部3に配置された着色層52とから構成された前記第3の実施の形態によるカラーフィルタが、用いられている。したがって、ブラックマトリクス1の反射率が著しく低くなりしかもブラックマトリクス1の製造が容易でコスト低減を図ることができることから、得られる画像の画質が従来の液晶表示素子に比べて格段に向上するとともに、液晶表示素子61全体としても製造が容易でコスト低減を図ることができる。
【0067】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0068】
例えば、本発明による遮光膜の用途は、ブラックマトリクス1に限定されるものではない。本発明による遮光膜は、例えば、種々の光学機器において迷光等を吸収する吸収膜として用いることができる。この場合、その遮光膜は、パターニングせずに、基板の全面に形成してもよい。このようにパターニングする必要がない場合は、当該遮光膜を構成する黒色材料を含有した樹脂層として、ブラックレジスト層を用いる必要がなく、感光性を有している必要はない。
【0069】
また、本発明による光学素子は、ブラックマトリクス1やカラーフィルタに限定されるものではなく、本発明は、例えばニッポウディスクなどの種々の光学素子に適用することができる。
【0070】
さらに、本発明による表示素子は、液晶表示素子に限定されるものではなく、本発明は、例えば、有機EL表示素子、プラズマ表示素子などの種々の表示素子にも適用することができる。また、モノクロ用の液晶表示素子の場合は、前記第4の実施の形態による液晶表示素子61において、着色層52を取り除いてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 ブラックマトリクス
2 ブラックレジスト層
3 開口部
11 透明基板
52 着色層
61 液晶表示素子
CP 微小突起
MR 微細凹凸構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の微小突起を含む微細凹凸構造が表面に形成された、黒色材料を含有した樹脂層を有することを特徴とする遮光膜。
【請求項2】
前記黒色材料を含有した前記樹脂層は、ブラックレジスト層であることを特徴とする請求項1記載の遮光膜。
【請求項3】
基板上に形成された遮光膜を備え、前記遮光膜が請求項1又は2記載の遮光膜であることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
前記遮光膜が所定パターンにパターニングされたことを特徴とする請求項3記載の光学素子。
【請求項5】
基板上に、黒色材料を含有した樹脂層を形成する段階と、
前記樹脂層の表面に微細マスク物質を堆積させながら前記樹脂層の表面をドライエッチングすることで、前記樹脂層の表面に、多数の微小突起を含む微細凹凸構造を形成する段階と、
を備えたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂層を形成する前記段階は、基板上にブラックレジスト組成物を塗布する段階と、塗布された前記ブラックレジスト組成物に対して露光・現像を含む処理をしてブラックレジスト層を形成する段階と、を含むことを特徴とする請求項5記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
基板上に形成された遮光膜を備え、前記遮光膜が請求項1又は2記載の遮光膜であることを特徴とするブラックマトリクス。
【請求項8】
請求項7記載のブラックマトリクスと、前記遮光膜の開口部に形成された着色層とを備えたことを特徴とするカラーフィルタ。
【請求項9】
請求項7記載のブラックマトリクス又は請求項8記載のカラーフィルタを備えたことを特徴とする表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−13387(P2011−13387A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156280(P2009−156280)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】