説明

遮音床及び遮音床用支持脚

【課題】床下空間の空気の移動を阻止して遮音性能を高める。
【解決手段】構造物1の壁2に沿って防振ゴム5がスラブ3の上に適宜の間隔で設置してあり、床支持材41、42が防振ゴム5に支持されて設置してある。この床支持材の枠体の上に床6を取り付けてあり、スラブ3と床支持材41、42の下端の隙間にグラスウールまたはフェルトが空気移動阻止材7として詰め込んである。この空気移動阻止材によって、床下空間が閉じた空間となり、空間内の空気の移動が阻止されることになり、床下の空気の移動を阻止しない場合に比較して遮音効果が大きくなることが確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床の遮音構造、特にコンクリート構造物の集合住宅などの遮音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の上下階の仕切りとしてスラブが形成されており、上階の住人が発する音楽などの音、及び、歩行音や物を床面に落下させた際の衝撃音が下階に伝わる。これらの音は下階の住人にとっては騒音であり、床に遮音性能を付与し、騒音が下階に伝導しないようにする必要がある。
【0003】
従来の建築物の遮音床は、スラブ上にグラスウール等の吸音材を敷き、その上にコンクリートを打設し、均しモルタルの上に仕上材で床表面を仕上げる湿式浮床構造があるが、この湿式浮床は、現場でコンクリート打設するため養生期間を必要とし、また、吸音材の間に配管を設置した場合は、遮音性能が低下する問題があった。また、上階の床が重量音(極低周波数)の衝撃音に共振し、低周波の耳障りな床衝撃音が下階に伝達され、下階の居住者に不快感を与える問題があった。(特許文献1参照)
【0004】
また、乾式遮音二重床として、特許文献2(特開2000−73526号公報)に示されているように、建築構造物のコンクリートスラブ上に、制振ゴム付き支持部材を所定間隔で配置し、その上に床下地パネルを配置し、必要に応じて吸音材をスラブ上に敷き詰めて遮音床とするものが開示されている。
特許文献3(特開平5−25918号公報)には、空気音や衝撃音を遮音するため、鋼製の大引を防振ゴムを介して梁上に設置し、スラブと床面の間に空気層を形成し、更にスラブ面にはグラスウールの吸音材を敷く遮音床が提案されている。
いずれにしても、床とスラブで構成される空間を密閉されたものとすると、遮音性能を低下するとして、床と壁の間などに隙間を設け、床下の空気が出入りさせるようにして床下空間での共鳴が発生しないようにするのが常識であり、 床材の周辺部と壁の間の空気を流通させるものである。
【0005】
【特許文献1】実開平2−9639号公報
【特許文献2】特開2000−73526号公報
【特許文献3】特開平5−25918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、建築物の床の遮音性能を従来の常識に反する手法によって向上させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来、遮音床においては、床下空間を閉塞することは、床根太材と床材及びスラブによって閉じた空間が形成されて共鳴する恐れがあるので、遮音効果を低下させるものと考えられており、床下空間の空気が移動することができるように、側根太には空気を逃がすことのできるスリットや穴を形成するなどして密閉空間が床下に形成されないようしていた。
本発明は、床下空間の空気の移動を阻止する部材を床下、または、空気流通させるために設けた開口を閉塞することによって常識に反し、逆に遮音効果が向上することを見出したことに基づくものである。
【0008】
本発明は、枠材に構造用合板を固定したパネルからなる床支持材をスラブ上に設け、この床支持材で囲まれる床下空間における空気の移動を阻止する空気移動阻止材を床下に設置することによって、遮音性能を向上させたものである。
空気移動阻止材は、グラスウールやフェルトなどの繊維材であり、それらを床下空間内の空気の移動を阻止するように配置することによって遮音性能の向上が達成できるのである。具体的には、床支持材で構成された枠の下側の空間に繊維材を充填したり、床下空間が繊維材でほぼ埋まるように繊維材を充填するものである。
繊維材はグラスウールやフェルト等の吸音材として使用されているものに限定されるものでなく、床下空間の空気の移動を阻止できるものであればよく、織物や不織布でもよく、繊維材は、繊維からなる紙も含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、グラスウール等の床下空間の空気の移動を阻止する部材を配設するだけでよく、簡易な手段で大きな遮音効果の改善が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をコンクリート構造の集合住宅に適用した例に基づいて説明する。
図1の断面図及び図2の平面図に示すように、コンクリート構造物1の壁2に沿って防振ゴム5が適宜の間隔で設置してあり、単板積層材(LVL)の床支持材41、42が外枠を構成している。床支持材41、42は、スラブ3に防振ゴム5を介して設置してある。床支持材41と42のコーナーの接合部は、金物等で固定してあり枠が形成されている。
【0011】
更に、対向する長手方向の床支持材41の間には補強材45を適宜の間隔で掛け渡して金物等で固定してある。このように構成された床枠の上に床6を取り付け、床下空間を構成する。床6は、パーティクルボードの床下地材にフローリング材を設置したものである。必要に応じて床下地とフローリングの間に制振シートを設置する。
【0012】
スラブ3と外枠を構成する床支持材41、42の下端の隙間には、グラスウールやフェルト等の繊維材が床下空間の空気移動阻止材7として詰め込んであり、この空気移動阻止材7によって床下空間は閉じた空間とする。床下空間の空気は、繊維材によって移動が阻止される。
【0013】
図3の例は、床下空間の高さを低くすることができるようにし、ひいては階高を低くできるようにしたものであって、防振ゴムの基台51と高さ調節体52及び取付金物53からなる防振支持脚54を床支持材41、42の側面に固定したものである。支持脚54を床支持材41、42の側面に固定したことによって、床6のスラブ3からの高さを200mm程度に抑えることができ、階高を低くすることができる。
【0014】
図4に示す例は、空気移動阻止材7としてのグラスウールを床下空間のスラブ3上に敷き詰めたものであり、床下空間の高さに応じてグラスウール等の繊維材を複数層に積み上げたものである。このように空気移動阻止材を単に床下空間に設置するだけであっても床下空間の空気の移動が阻止され、遮音性能が向上するのである。
【0015】
図5及び図6に示す例は、支持脚54の取付金物53を長くして床下空間を大きくしたものであり、支持脚54を取付金物53を介して床支持材41、42に固定して床面をスラブより比較的高いものとしたものである。
【0016】
高層建築物などの場合、コンクリート構造物1の梁のスパンが大きく、床支持材41の長さが長くなると床のたわみが大きくなるため、図7に示すように、スパンの中間部にスラブ3面から突出するリブ32を形成し、このリブ32の両側に沿って床支持材41、42の支持脚54を設置する。この場合も前述の実施例と同様に、グラスウール7を床支持材41、42とスラブ3面の隙間に詰めたり、床下空間に敷き詰めることによって床下空間の空気の移動を阻止する。
床支持材41、42は、単板積層材(LVL)に限らずツーバイ材でもよく、また、床材6と床支持材41、42は鋼材等の金属で構成したものであってもよい。
【0017】
比較例
図8に示すように、従来の乾式二重床構造であり、床6が防振支持脚54によって支持されている。本発明のように床支持材が外枠を構成しておらず、床周囲はオープンな状態である。スラブ3面には、グラスウールGが敷いてある。床6の構造は、実施例と同様であり、パーティクルボードとフローリングから構成されている。
図9に示すように、床構造は、図1の実施例と同様に、単板積層材(LVL)の床支持材41、42で外枠を構成したものであるが、床支持材41、42とスラブ3との間にグラスウール等の繊維材を詰め込まず、床下空間の空気の移動を許容したものである。
【0018】
実施例の遮音床及び比較例の遮音床に対して、JIS A1418に準拠して遮音性能を測定した。また、実生活音源に対する遮音性能の試験を以下に示す表1の項目について実施した。
【0019】
【表1】

【0020】
試験の結果、本発明の遮音床は比較例に対し、床の中央において、振動加速度レベルが20Hz以上において10〜25dBの低減が認められ、本発明の遮音効果が確認された。また、実生活音源に対しても、本発明の遮音効果の比較例に対する優位性が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の遮音床の実施例の断面図。
【図2】本発明の遮音床の実施例の平面図。
【図3】支持脚で床支持材を支持した本発明の実施例の断面図。
【図4】空気移動阻止材をスラブ面に敷設した実施例の断面図。
【図5】支持脚で床下空間を高くし、空気移動阻止材を床支持材の側面に沿って配設した実施例の断面図。
【図6】支持脚で床下空間を高くした実施例の断面図。
【図7】スラブにリブを設けた実施例の断面図。
【図8】比較例としての従来の遮音床構造の断面図。
【図9】比較例2の遮音床構造の断面図。
【符号の説明】
【0022】
1 構造物
2 壁
3 スラブ
41、42 床支持材
45 補強材
5 防振ゴム
53 取付金物
54 支持脚
6 床
7 空気移動阻止材(繊維材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床支持材からなる枠体をスラブ上に設け、この床支持材で囲まれる床下空間における空気の移動を阻止する空気移動阻止材を床下に設置した遮音床。
【請求項2】
請求項1において、床支持材がエンジニアリングウッドの加工木材である遮音床。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかにおいて、空気移動阻止材が繊維材である遮音床。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、床支持材の側面に金具を介して高さ調整可能な防振ゴム支持脚が取り付けてある遮音床。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、スラブの中間部にリブが設けてあり、リブに近接して床支持材が設けてある遮音床。
【請求項6】
防振ゴムの基台から延びる高さ調節体と床支持材の側面に固定するための取付金物が高さ調節体に設けてある遮音床用支持脚。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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