説明

選択的酸素透過基体、空気電池用正極及び空気電池

【課題】空気中の酸素を選択的に内部に導入することが可能であるとともに電解液に対する耐性の高い選択的酸素透過基体を提供する。
【解決手段】炭素を主成分とし磁性体が分散された磁性体分散層を有し、磁性体分散層が、気体を内部に導入するための気体導入面を有し、好ましくは、磁性体分散層が、多孔質炭素膜に磁性体が分散されたものであり、空気電池用正極の基材として用いることが可能であり、更に好ましくは、磁性体分散層と多孔質基材とを有する選択的酸素透過基体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的酸素透過基体、空気電池用正極及び空気電池に関する。更に詳しくは、空気中の酸素を選択的に内部に導入することが可能であるとともに電解液に対する耐性の高い選択的酸素透過基体に関する。また、当該選択的酸素透過基体を備えた空気電池用正極、及び当該空気電池用正極を備えた空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、負極活物質として金属を用い、正極活物質として酸素を用いるため、「正極活物質の単位質量」当たりの放電容量が極めて大きいものである。近年、電気自動車や携帯機器等において、電池の高容量化や高出力化が求められており、空気電池の高性能化が期待されている。
【0003】
上記のように、空気電池の正極活物質は酸素であるため、当該正極活物質として空気中の酸素を使用することができる。しかし、空気電池に空気をそのまま導入すると、空気中の二酸化炭素も導入されることになる。二酸化炭素は、空気電池に用いられている電解液と反応して、電池性能を低下させることがあるため、空気電池内には、導入しないことが望ましい。このように、空気電池の正極として空気中の酸素を使用する場合には、空気電池の正極には導入しないことが好ましい二酸化炭素も、空気電池に供給されるという問題があった。
【0004】
このような問題点を解決するため、空気電池に供給される空気から二酸化炭素を除去する方法が検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一方、空気中に含有される酸素を濃縮することが可能な、磁性粒子を分散させた酸素選択透過膜(酸素富化膜)が検討されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−99629号公報
【特許文献2】特開2007−237138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の空気電池においては、フェライト系磁石とステンレス鋼を備えた気体分離器を、酸素を選択透過させるための装置として用いている。そのため、空気電池全体として、体積及び質量の大きなものになると推察される。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の酸素富化膜は、シリコーン系の膜を使用している。シリコーン等の有機高分子膜では、柔軟な分子鎖に由来する溶解拡散機構によってガス透過が行われるため、二酸化炭素の膜中への溶解を抑制できない。そのため、仮に、シリコーン系の膜を空気中の酸素を空気電池の正極活物質として用いる際の酸素濃縮用の膜として用いた場合、二酸化炭素の膜中への溶解のため、十分な酸素濃縮を行うことができないと推察される。また、シリコーン系の膜では、空気電池に用いられている電解液に対して十分な耐性を有していないものと推察される。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。すなわち、空気中の酸素を選択的に内部に導入することが可能であるとともに電解液に対する耐性の高い選択的酸素透過基体を提供することを目的とする。更に、当該選択的酸素透過基体を備えた空気電池用正極、及び当該空気電池用正極を備えた空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 炭素を主成分とし磁性体が分散された磁性体分散層を有し、前記磁性体分散層が、気体を内部に導入するための気体導入面を有する、選択的酸素透過基体。
【0011】
[2] 前記磁性体分散層が、多孔質炭素膜に磁性体が分散されたものである[1]に記載の選択的酸素透過基体。
【0012】
[3] 前記磁性体分散層と多孔質基材とを有する[1]又は[2]に記載の選択的酸素透過基体。
【0013】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の選択的酸素透過基体を備えた空気電池用正極。
【0014】
[5] 前記選択的酸素透過基体に担持された空気電池用触媒を更に備えた[4]に記載の空気電池用正極。
【0015】
[6] 正極と、金属を負極活物質とする負極と、前記正極と前記負極との間に介在する電解液とを備え、前記正極が、[4]又は[5]に記載の空気電池用正極である空気電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明の選択的酸素透過基体によれば、「炭素を主成分とし磁性体が分散された磁性体分散層」を有するため、磁性体により形成される磁場の影響で、常磁性体である酸素を選択的に選択的酸素透過基体内に導入する(取り込む)ことができる。一方、常磁性体でない二酸化炭素や水等の分子は排除することができる。また、磁性体分散層が炭素を主成分とするものであり、炭素は剛直な分子構造を有し、酸やアルカリにも強い耐性を有している。そのため、選択的酸素透過基体を、空気電池用正極に用いた場合に、当該空気電池用正極が、電解液に対して高い耐性を有するものとなる。
【0017】
本発明の空気電池用正極によれば、上記本発明の選択的酸素透過基体を備えるため、空気中の酸素を選択的に空気電池用正極内(選択的酸素透過基体内)に導入することができる。また、本発明の空気電池用正極は、上記本発明の選択的酸素透過基体を備えるため、電解液に対して高い耐性を有するものである。
【0018】
本発明の空気電池によれば、上記本発明の空気電池用正極を正極として用いるため、空気中の酸素を選択的に空気電池用正極内(選択的酸素透過基体内)に導入することができる。また、本発明の空気電池は、上記本発明の空気電池用正極を正極として用いるため、電解液に対して高い耐性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の選択的酸素透過基体の一実施形態の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の選択的酸素透過基体の他の実施形態の断面を示す模式図である。
【図3】本発明の空気電池の一実施形態の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0021】
(1)選択的酸素透過基体:
本発明の選択的酸素透過基体の一実施形態は、図1に示されるように、炭素を主成分とし磁性体3が分散された磁性体分散層2を有し、磁性体分散層2が、気体を内部に導入するための気体導入面5を有するものである。図1は、本発明の選択的酸素透過基体の一実施形態の断面を示す模式図である。
【0022】
このように、本実施形態の選択的酸素透過基体は、「炭素を主成分とし磁性体が分散された磁性体分散層」を有する。そのため、磁性体により形成される磁場の影響で、常磁性体である酸素を選択的に選択的酸素透過基体内に導入する(取り込む)ことができる。このとき、酸素は、気体導入面から選択的酸素透過基体内に取り込まれる。また、磁性体分散層が炭素を主成分とするものであるため、本実施形態の選択的酸素透過基体を、空気電池用正極に用いた場合に、当該空気電池用正極が、電解液に対して高い耐性を有するものとなる。また、本実施形態の選択的酸素透過基体を、燃料電池用正極に用いた場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0023】
本実施形態の選択的酸素透過基体1は、図1に示されるように、多孔質基材6に、「磁性体が分散された多孔質炭素膜」(磁性体分散層2)が配設されたものである。そのため、磁性体分散層も多孔質である。そして、磁性体分散層2と多孔質基材6とにより選択的酸素透過基体1が形成されている。そのため、選択的酸素透過基体1全体が多孔質である。尚、「多孔質である」とは、少なくとも酸素が透過可能であるということである。磁性体分散層2は、多孔質炭素膜に磁性体が分散されたものであるが、他の要素を有していてもよい。また、選択的酸素透過基体1は、磁性体分散層2と多孔質基材6とを有しているが、他の要素を有していてもよい。
【0024】
本実施形態の選択的酸素透過基体1は、空気中の酸素を、磁性体分散層2の気体導入面5から内部に導入する(取り入れる)。そして、磁性体分散層2内に導入された酸素は、磁性体分散層2を透過して多孔質基材6内に移動する。そのため、本実施形態の選択的酸素透過基体1を空気電池用正極の基材(構成要素)として使用すると、空気電池の正極に空気中の酸素を効率的に供給することが可能となる。この場合、多孔質基材6において正極の反応(例えば、リチウムイオンと酸素との反応)をさせることになる。
【0025】
磁性体分散層2は、炭素を主成分とするものである。ここで、「炭素を主成分とする」とは、磁性体を除いた成分の中で、炭素の含有量が50質量%以上であることを意味する。炭素以外の成分としては、酸素、窒素、水素、金属元素等が含有されていてもよい。磁性体分散層2は、炭素を主成分とするものである。そのため、本実施形態の選択的酸素透過基体1を空気電池用正極の構成要素として用いた場合に、空気電池用正極が電解液により劣化することを防止することができる。
【0026】
磁性体分散層2の形状としては、特に限定されないが、例えば、板状、膜状、シート状、フィルム状、棒状、チューブ状、モノリス状等が好ましい。磁性体分散層2が板状の場合、気体導入面5は、「板」における最大面積を有する「並行する一対の面(表面と裏面)」(例えば、「板」が直方体の場合平行な一対の面)の中の一方の面であることが好ましい。また、磁性体分散層2が膜状、シート状又はフィルム状の場合、「膜、シート若しくはフィルム」における一方の面(並行する一対の面(表面と裏面)の中の、一方の面)であることが好ましい。
【0027】
磁性体分散層2の厚さ(気体導入面5から、並行するもう一方の面までの距離)は、0.1〜1000μmであることが好ましく、0.5〜100μmであることが更に好ましい。0.1μmより薄いと、ピンホールなどの欠陥を生じることがあるため酸素を選択的に取り込む効果が低下することがある。1000μmより厚いと、酸素が、多孔質基材6まで移動し難くなることがある。また、磁性体分散層2の、気体導入面5の面積は、特に限定されず、用途に合わせて適宜決定することができる。
【0028】
磁性体分散層2(多孔質炭素膜)の平均細孔径は、0.3〜5nmであることが好ましく、0.4〜1nmであることが更に好ましい。0.3nmより小さいと、酸素分子径に近接するために酸素を取り込む速度が低下することがある。5nmより大きいと、酸素分子径よりも十分に大きいために酸素を選択的に取り込む効果が低下することがある。
【0029】
本発明における磁性体分散層2に含有される磁性体3とは、磁化された強磁性体又はフェリ磁性体を示す。磁性体としては、外部磁場がなくても自発磁化を持つものであれば種類は特に限定されない。磁性体としては、具体的には、酸化鉄、金属鉄、鉄を含む合金、希土類磁石、フェライト系磁石、マグネタイト等を挙げることができる。また、磁性体は、磁性体粒子であることが好ましい。磁性体粒子の平均粒子径は、0.01〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることが更に好ましい。0.01μmより小さいと、磁性体の磁力が不十分になることがある。10μmより大きいと、磁性体分散層2の機械的強度が低下することがある。
【0030】
磁性体分散層2には、磁性体3が均一に分散していることが好ましい。磁性体分散層2中に含有される磁性体3の含有率は、1〜90質量%が好ましいが、磁性体の磁力の強さにより適宜含有率を調整することができる。1質量%より少ないと、酸素を選択的に取り込む効果が低下することがある。90質量%より多いと、磁性体分散層2の機械的強度が低下することがある。
【0031】
本実施形態の選択的酸素透過基体1において、多孔質基材6の材質(材料)としては、セラミック、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、ガラス、炭素、及び金属からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。セラミックとしては、シリカ、チタニア、アルミナ、又はジルコニアが好ましい。金属としては、ステンレス又は貴金属が好ましい。材質をセラミック、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、ガラス、炭素、及び金属からなる群から選択される少なくとも1種とすることにより、本実施形態の選択的酸素透過基体1を空気電池用正極の構成要素として用いた場合に、空気電池用正極が電解液により劣化することを防止することができる。また、多孔質基材6の材質を炭素又は金属にすると、多孔質基材6が導電性になる。そのため、本実施形態の選択的酸素透過基体1を空気電池用正極の構成要素として使用する場合、正極の導電性は確保される。また、多孔質基材6の材質をセラミックにして、本実施形態の選択的酸素透過基体1を空気電池用正極の構成要素として使用する場合、正極の導電性を確保するために、当該セラミックに導電性部材を複合化してもよい。
【0032】
多孔質基材6は、磁性体分散層2の気体導入面5に並行する面(気体導入面5の裏側に位置する面)に配設(積層)されていることが好ましい。
【0033】
多孔質基材6の形状としては、特に限定されないが、例えば、板状、膜状、シート状、フィルム状、棒状、チューブ状、モノリス状等が好ましい。
【0034】
多孔質基材6の厚さは、0.1〜500μmであることが好ましく、1〜100μmであることが更に好ましく、2〜50μmであることが特に好ましい。0.1μmより薄いと、本実施形態の選択的酸素透過基体1を空気電池用正極の構成要素として用いた場合、空気電池の放電容量が低下することがある。500μmより厚いと、磁性体分散層2を透過して多孔質基材6内に導入される酸素が、多孔質基材6全体に供給され難くなることがある。尚、「多孔質基材6の厚さ」は、磁性体分散層2に接合している面(「接合面A」ということがある。)から、当該「接合面A」の裏側に位置する面までの距離のことである。また、多孔質基材6の、上記「接合面A」の面積は、特に限定されず、用途に合わせて適宜決定することができる。
【0035】
本実施形態の選択的酸素透過基体は、更に撥水性の層(撥水層)を有してもよい(図示せず)。本実施形態の選択的酸素透過基体は、撥水層を有することにより、水が内部に浸入したり外部に漏出することを防止することができる。これにより、本実施形態の選択的酸素透過基体を空気電池用正極の基材(構成要素)として用いた場合、空気電池用正極の水による影響を防止することが可能となる。
【0036】
撥水層の材質は、フッ素樹脂等であることが好ましい。また、撥水層は、多孔質基材(磁性体分散層)の気体導入面側に配設されてもよいし、磁性体分散層と多孔質基材との間に配設されてもよい。磁性体分散層の気体導入面側に撥水層が配設された場合には、気体導入面は、外部に露出しない状態になる。尚、気体導入面は外部に露出した状態であってもよいし、外部に露出しない状態であってもよい。撥水層の形状は、板状、膜状、シート状、フィルム状、棒状等が好ましい。撥水層の厚さは、水の透過を抑制できれば特に限定されない。
【0037】
本発明の選択的酸素透過基体は、図2に示されるように、選択的酸素透過基体全体が炭素を主成分とし、選択的酸素透過基体全体が磁性体分散層2であってもよい。図2は、本発明の選択的酸素透過基体の他の実施形態(選択的酸素透過基体21)の断面を示す模式図である。
【0038】
このように、本実施形態の選択的酸素透過基体21は、選択的酸素透過基体全体が炭素を主成分とするものである。そのため、選択的酸素透過基体21全体が導電性となり、選択的酸素透過基体21を空気電池用正極として使用した場合に、導電性部材等を付加しなくてもよい。また、炭素は、構造を選択することにより空気電池用の触媒として機能し得るため、選択的酸素透過基体21を空気電池用正極として使用した場合に、触媒の担持量を減らすことが可能となる。さらに必要に応じて二酸化マンガンなどの触媒層を有してもよい。
【0039】
本実施形態の選択的酸素透過基体21は、磁性体3が選択的酸素透過基体全体に分散しているため、酸素を選択的に取り込む効果を向上させることができる。
【0040】
本実施形態の選択的酸素透過基体21は、全体が炭素を主成分としているとともに、全体が磁性体分散層2である(磁性体3が選択的酸素透過基体全体に分散している)。そして、本実施形態の選択的酸素透過基体21は、このこと以外については、上記本発明の一実施形態の選択的酸素透過基体1と同様であることが好ましい。
【0041】
(2)選択的酸素透過基体の製造方法:
次に、本発明の選択的酸素透過基体の一実施形態(選択的酸素透過基体1(図1参照))の製造方法について説明する。
【0042】
本実施形態の選択的酸素透過基体は、まず、多孔質基材を作製し、その後、多孔質基材の一の面に磁性体分散層を配設することにより作製することが好ましい。
【0043】
(2−1)
多孔質基材の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法が好ましい。
【0044】
多孔質基材6の材質が、セラミックである場合、まず、粉末状のセラミック原料を含有する成形原料を調製する。セラミック原料としては、上記本発明の選択的酸素透過基体の一実施形態において、多孔質基材の材質(材料)として好ましいとされたものが好ましい。セラミック原料に、必要に応じて、バインダー、造孔材、可塑剤、分散剤、分散媒等を混合することにより、スラリー状の成形原料を作製することが好ましい。次に、得られたスラリー状の成形原料を、シート状に成形加工して、多孔質基材用グリーンシートを形成する。得られたグリーンシートを乾燥、脱脂し、その後に焼成することにより多孔質基材を得ることが好ましい。または、セラミック粉末原料を金型等によりブロック状に成形し、電気炉等で焼結させた後に、切断加工等によりシート状の多孔質基材を得ることもできる。
【0045】
多孔質基材6の材質が、炭素からなる場合、例えば、粉末状又は繊維状の炭素原料(アモルファスカーボン、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、メソポーラスカーボンなど)を調製する。そして、当該炭素原料に、必要に応じて、バインダー、造孔材、可塑剤、分散剤、分散媒等を混合することにより、スラリー状の成形原料を作製することが好ましい。次に、得られたスラリー状の成形原料を、シート状に成形加工して、多孔質基材を得ることが好ましい。また、別の製造方法として、シート状に成形加工した高分子原料を、炭化処理することにより、多孔質基材を得ることも好ましい。または、ポリイミド樹脂やフェノール樹脂等のブロック状樹脂を炭化処理した後に、切断加工等によりシート状の多孔質基材を得ることもできる。
【0046】
多孔質基材6の材質が、金属からなる場合、例えば、粉末状又は繊維状の金属原料をシート状に成形加工し、その後に焼結して、多孔質基材を得ることが好ましい。また、別の製造方法として、発泡樹脂に金属めっき処理を施し、加熱処理することにより、多孔質基材を得ることも好ましい。さらに、別の製造方法として、繊維状の金属原料をメッシュ状に成形加工し、多孔質基材を得ることも好ましい。または、金属粉末を金型等によりブロック状に成形し、電気炉等で焼結させた後に、切断加工等によりシート状の多孔質基材を得ることもできる。または、アルミニウム等の陽極酸化により多孔質基材を得ることもできる。
【0047】
製造過程における各条件は、所望の多孔質基材が得られるように適宜決定することができる。
【0048】
(2−2)
多孔質基材の一の面に磁性体分散層を配設する方法は以下の通りである。
【0049】
次に、多孔質基材上に磁性体分散層を積層して、選択的酸素透過基体を作製する。例えば、多孔質炭素膜の原料となる高分子材料と磁性体粒子を溶媒中で混合することにより原料溶液を調製する。そして、多孔質基材上に、ディップコート、スピンコート、ドリップコート、スプレーコート、ろ過コート等の方法によって原料溶液を被覆して、被覆体を得ることが好ましい。次に、得られた被覆体を乾燥し、真空中又は不活性雰囲気中で熱処理することによって炭化処理し、選択的酸素透過基体を得ることが好ましい。磁性体は、あらかじめ磁化したものを使用してもよいし、選択的酸素透過基体を得た後に磁化してもよい。
【0050】
(2−3)
図2に示される、本発明の選択的酸素透過基体21の製造方法は、以下の通りである。
【0051】
例えば、まず、多孔質炭素膜の原料となる高分子材料と磁性体粒子を溶媒中で混合することにより原料溶液を調製する。そして、テフロン(登録商標)等の板上に原料溶液をキャストして、シート状成形体を得ることが好ましい。次に、得られたシート状成形体を乾燥し、テフロン(登録商標)等の板から剥離する。その後に、乾燥させたシート状の成形体を、真空中又は不活性雰囲気中で熱処理することによって炭化処理し、選択的酸素透過基体を得ることが好ましい。または、ワニス状のポリイミド樹脂やフェノール樹脂等に磁性体粉末を分散させ、ブロック状に固化させ炭化処理した後に、切断加工等によりシート状の多孔質基材を得ることもできる。磁性体は、あらかじめ磁化したものを使用してもよいし、選択的酸素透過基体を得た後に磁化してもよい。
【0052】
(3)空気電池用正極:
本発明の空気電池用正極の一実施形態は、本発明の選択的酸素透過基体の一実施形態(選択的酸素透過基体1(図1参照))を備えたものである。また、本実施形態の空気電池用正極10(図3参照)は、選択的酸素透過基体に担持された空気電池用触媒を更に備えることが好ましい。
【0053】
本実施形態の空気電池用正極は、本発明の選択的酸素透過基体の一実施形態(選択的酸素透過基体1(図1参照))を備えるものである。そのため、本実施形態の空気電池用正極は、空気中の酸素を選択的に空気電池用正極内(選択的酸素透過基体内)に導入することができる。また、本発明の空気電池用正極は、上記本発明の選択的酸素透過基体を備えるため、電解液に対して高い耐性を有するものである。
【0054】
空気電池用触媒は、多孔質基材に担持されることが好ましい。また、更に磁性体分散層にも担持されていてもよい。
【0055】
空気電池用触媒としては、マンガンを含有する化合物、Au、Co、NiO、Fe、Pt、Pd、RuO、CuO、V、MoO、Y、炭素等を用いることができる。これらのなかでも、特に、マンガンを含有する化合物が好ましく、マンガン酸化物が更に好ましい。マンガン酸化物としては、二酸化マンガン(α−MnO、β−MnO等)等を挙げることができる。
【0056】
本実施形態の空気電池用正極には、導電性を良好にするために、導電性部材を配設してもよい。導電性部材としては、炭素や金属からなるものを用いることができる。
【0057】
(4)空気電池:
本発明の空気電池の一実施形態は、図3に示されるように、正極11と、金属リチウムを負極活物質とする負極12と、正極11と負極12との間に介在する電解液13とを備えるものである。そして、本実施形態の空気電池100は、正極11が本発明の空気電池用正極10である。図3は、本発明の空気電池の一実施形態(空気電池100)の断面を示す模式図である。
【0058】
本実施形態の空気電池は、本発明の空気電池用正極の一実施形態を正極として用いるため、空気中の酸素を選択的に空気電池用正極内(選択的酸素透過基体内)に導入することができる。また、本発明の空気電池は、上記本発明の空気電池用正極を正極として用いるため、電解液に対して高い耐性を有するものである。
【0059】
図3に示すように、本実施形態の空気電池100において、正極11は、一の面(電解液導入面11b)が電解液13に接し、他の面(空気導入面11a)が空気に接するように配設されていることが好ましい。尚、空気導入面11aの表面に撥水層が配設されている場合には、撥水層の表面が空気に接するように配設されていることが好ましい。ここで、選択的酸素透過基体の磁性体分散層の気体導入面5が、空気電池の正極の空気導入面11aになる。また、正極11の「一の面」と「他の面」は、例えば、正極11が板状、膜状、シート状、フィルム状等の場合、当該板、膜、シート、フィルム等の「表面」と「裏面」であることが好ましい。
【0060】
本実施形態の空気電池100において、電解液13は、非水電解液、水性電解液、又はこれら両方の組み合わせ(混合するのではなく、セパレータ等を介して複数の層を形成する)であることが好ましい。電解液としては、既知のものを用いることができる。
【0061】
本実施形態の空気電池100は、正極と負極との間にセパレータを備えてもよい(図示せず)。セパレータとしては、空気電池の使用に耐えうる材質であれば特に限定されない。
【0062】
本実施形態の空気電池100は、図3に示されるように、正極11、負極12及び電解液13が、保護体16に格納され、さらに空気電池用容器(ケーシング)14内に配設されたものである。正極、負極、電解液等で構成された電池構造を直接格納するための保護体16は、導電性を有しない材料により絶縁されていることが好ましい。保護体16の形状は、所望の形状にすることができる。保護体16の形状としては、図3に示すように、正極11、負極12及び電解液13の周囲を隔離し(気密封止し)それぞれの絶縁を確保し、かつ正極11の空気導入面11aに、外気(空気)が供給されるような形状であることが好ましい。例えば、図3に示すように、正極11の空気導入面11aを、外側に露出させることができるような形状であることが好ましい。保護体16に更なる機械的強度や水等からの保護を目的とするために配設する空気電池用容器(ケーシング)14は、金属等の剛性を有する材質を適宜用いるのが好ましい。また、空気電池用容器14の厚さは、空気電池の大きさ等に合わせて適宜決定することができる。また、本実施形態の空気電池100は、正極11及び負極12のそれぞれに、集電体15が配設されていることが好ましい。また、空気電池用容器14は、例えば、図3に示すように、正極11の空気導入面11aが、外側に露出するような形状であることが好ましい。ただし空気導入面11aは、外気(空気)が供給されるような形状であれば、メッシュや穴の開いた板等により表面を保護することができる。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミド酸濃度10質量%のポリアミド酸溶液に、平均粒子径が約1μmのバリウムフェライト(磁性体)粉末を添加してポリアミド酸溶液−磁性体混合物を得た。そして、得られたポリアミド酸溶液−磁性体混合物を24時間攪拌することで成膜用の原料溶液を作製した。上記ポリアミド酸溶液としては、宇部興産株式会社製のU−ワニス−A(商品名)を用いた。また、バリウムフェライト粉末は、ポリアミド酸100質量部に対して5質量部添加した。得られた原料溶液を、多孔質アルミナ板(多孔質基材)上に塗布し、150℃で60分加熱乾燥した後、250℃で30分間加熱してイミド化を行った(ポリイミド膜を得た)。以上の塗布から加熱までの工程を合計で3回繰り返した。その後、多孔質アルミナ板を、真空のボックス炉にて、800℃で熱処理し、前記イミド化により得られたポリイミド膜を炭化した。これにより、膜厚が約1μmの「バリウムフェライトが分散した炭素膜」を得た。得られた炭素膜を、磁束方向が多孔質アルミナ板に鉛直となるように1テスラの磁界を印加して着磁した。これにより、多孔質基材の表面に選択的酸素透過膜が配設された選択的酸素透過基体を得た。
【0064】
得られた選択的酸素透過基体について、以下の方法で「ガス透過試験」を行った。得られた結果を表1に示す。
【0065】
(ガス透過試験)
多孔質基材に配設された膜の一方の面側に、100cm/分で乾燥空気を供給する。そして、膜を透過して他方の面側に流出したガス(透過ガス)の成分をガスクロマトグラフィーにて分析し、透過ガスの酸素濃度を求める。
【0066】
【表1】

【0067】
(比較例1)
バリウムフェライト粉末を添加せずに成膜用の原料溶液を作製した以外は、実施例1と同様にして、多孔質基材の表面に炭素膜が配設された積層体を作製した。膜の厚さは、1μmであった。
【0068】
表1より、磁性体を含有する膜は、選択的酸素透過膜として機能していることが分かる。また、磁性体を含有しない膜は、酸素を選択的に透過させる機能を有さないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の選択的酸素透過基体は、空気電池の正極の基材として好適に利用することができる。また、本発明の空気電池は、電気自動車産業等の、電池が用いられる産業において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1,21:選択的酸素透過基体、2:磁性体分散層、3:磁性体、5:気体導入面、6:多孔質基材、10:空気電池用正極、11:正極、11a:空気導入面、11b:電解液導入面、12:負極、13:電解液、14:空気電池用容器、15:集電体、16:保護体、100:空気電池、A:接合面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を主成分とし磁性体が分散された磁性体分散層を有し、
前記磁性体分散層が、気体を内部に導入するための気体導入面を有する、選択的酸素透過基体。
【請求項2】
前記磁性体分散層が、多孔質炭素膜に磁性体が分散されたものである請求項1に記載の選択的酸素透過基体。
【請求項3】
前記磁性体分散層と多孔質基材とを有する請求項1又は2に記載の選択的酸素透過基体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の選択的酸素透過基体を備えた空気電池用正極。
【請求項5】
前記選択的酸素透過基体に担持された空気電池用触媒を更に備えた請求項4に記載の空気電池用正極。
【請求項6】
正極と、
金属を負極活物質とする負極と、
前記正極と前記負極との間に介在する電解液とを備え、
前記正極が、請求項4又は5に記載の空気電池用正極である空気電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−69667(P2013−69667A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129657(P2012−129657)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】