説明

遺伝子導入ジカンバ−分解生物体を製造及び使用するための方法及び材料発明の分野

【課題】除草剤ジカンバ−分解酵素およびそれをコードする遺伝子等を提供する。
【解決手段】除草剤ジカンバ−分解酵素であるシュードモナス・マルトフィリア由来のジカンバ−オキシゲナーゼ、フェレドキシンと、レダクターゼ、および該酵素をコードするDNA分子、該遺伝子導入宿主細胞、さらに該遺伝子導入ジカンバ−耐性植物。これらの利用により、ジカンバ−耐性植物を含む畑での雑草の抑制、またジカンバーを含む物質の除染が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ジカンバ(dicamba)耐性を有するようにした遺伝子導入植物を含む、除
草剤であるジカンバを分解することができる遺伝子導入生物体に関する。この発明はまたジカンバ−分解酵素、及びジカンバ分解酵素の遺伝暗号を指定するDNA分子及びDNA構成に関する。この発明はさらに、ジカンバー耐性遺伝子導入植物の畑における雑草の制御方法及びジカンバで汚染された材料からジカンバを除去する方法(生物治療)に関する。最後に、この発明はジカンバ耐性を基に、あるいはジカンバが分解した結果生成する3,6−ジクロロサリチル酸の蛍光の検出を基に、形質転換株を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
除草剤は農業生産において日常的に使用される。除草剤の効果はしばしば、作物畑での雑草の成長を止める能力及び換金作物の除草剤に対する耐性により決定される。換金作物がその除草剤に対し耐性を有しなければ、除草剤は換金作物の生産性を減少させ、あるいは換金作物を共に枯らしてしまうこととなる。逆に、除草剤の強さが十分でなければ、作物畑で雑草が成長しすぎ、これにより換金作物の生産性が減少してしまう。このため、除草剤に対し耐性のある、経済的に重要な植物を生産することが望ましい。農業用土地の水質及び環境的な質を守るため、除草剤の不測の流出が起きた場合あるいは容認できない高レベルの土壌あるいは水質汚染が起きた場合に除草剤を分解する技術を開発することも望ましい。
【0003】
除草剤及び他のゼノフォビック化合物を不活性化する酵素を符号化する遺伝子が、様々な原核生物及び真核生物から以前単離された。場合によっては、これらの遺伝子は植物における発現が成功するように遺伝子的に工作されている。このアプローチを介して、除草剤、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸ストレバー(Streber)及びウィルミッツァ(Willmitzer)1989バイオ/テクノロジー 7:811−816;2、4−D、ブロモキシニルストーカー(Stalker)ら、(1988)サイエンス242:419−423;商標名
バクトリル(Buctril))、グリフォセート(コマイ(Comai)ら、(1985)ネイチャー
317:741−744;商標名ラウンドアップ(Round-up))及びホスフィノトリシン(デブロック(De Block)ら、(1997)エンボジャーナル6:2513−2518;商標名バスタ(Basta))に耐性を持つ植物が開発されている。
【0004】
ジカンバ(商標名バンベル(Banvel))は、とうもろこし、もろこし類、小穀粒、牧草地、干草、放牧地、さとうきび、アスパラガス、芝、イネ科種子作物における一年生及び多年生広葉雑草及び幾つかのイネ科雑草を抑制するための出芽前散布除草剤及び出芽後散布除草剤として使用される。クロッププロテクションレファレンスの1803−1821ページ参照のことケミカル&ファーマソイティカルプレス社、ニューヨーク、NY、11版、1995年。不幸なことに、ジカンバは多くの商業用の作物豆、大豆、綿花、エンドウ、ジャガイモ、ひまわり、トマト、タバコ及び果樹を含む、観賞植物及び樹木、及び他の広葉植物と触れると、それらに損害を与える。同上のジカンバは化学的に安定であり、環境において分解されにくい場合もある。
【0005】
ジカンバは安息香酸除草剤のクラスである。ジカンバを含む安息香酸除草剤に対し耐性を持つ植物は、1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸(ACC)シンターゼアンチセンス遺伝子、ACCオキシダーゼアンチセンス遺伝子、ACC脱アミノ酵素遺伝子、あるいはこれらの組み合わせを植物内に組み入れることにより産出することができることが示唆されている。カナダ特許出願第2,165,036号(1996年6月16日に公表
)を参照のこと。しかしながら、この出願では、このような耐性について立証をする実験的なデータは示されていない。
【0006】
ジカンバを代謝する細菌が知られている。米国特許第5,445,962号;クルーガー(Krueger)らの農芸化学・食物化学ジャーナル、37、534−5381989;コ
ーク(Cork)及びクルーガーの先進応用微生物、38、1−661991;コーク及びカリル(Khalil)の先進応用微生物、40、289−320(1995)を参照のこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの細菌によるジカンバ代謝の原因となる特定の遺伝子を単離し、ジカンバー耐性植物及び他の生物体を産出するのに使用することができることが示唆されている。同上及びヤング(Yang)らの分析生物化学、219、37−42(1994)を参照のこと。しかしながら、この発明以前では、そのような遺伝子は同定も単離もされていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は単離し少なくとも部分的に精製したジカンバ−分解O−デメチラーゼ、単離し少なくとも部分的に精製したジカンバ−分解オキシゲナーゼ、単離し少なくとも部分的に精製したジカンバ−分解フェレドキシン、単離し少なくとも部分的に精製したジカンバ−分解レダクターゼを提供するものである。これらは全て以下において規定、説明する。
【0009】
この発明はまた、ジカンバ−分解オキシゲナーゼの遺伝暗号を指定するDNA配列を含む単離DNA分子及びジカンバ−分解フェレドキシンの遺伝暗号を指定するDNA配列を含む単離DNA分子を提供するものである。この発明はさらに、発現制御配列と機能可能に結合したジカンバ−分解オキシゲナーゼの遺伝暗号を指定するDNA配列を含むDNA構成及び発現制御配列と機能可能に結合したジカンバ−分解フェレドキシンの遺伝暗号を指定するDNA配列を含むDNA構成を提供するものである。
【0010】
この発明はさらに、発現制御配列に機能可能に結合したジカンバ−分解オキシゲナーゼの遺伝暗号を指定するDNAを含む遺伝子導入宿主細胞、及び発現制御配列に機能可能に結合したジカンバ−分解フェレドキシンの遺伝暗号を指定するDNAを含む遺伝子導入宿主細胞を提供するものである。遺伝子導入宿主細胞はジカンバ−分解オキシゲナーゼ及びジカンバ−分解フェレドキシンの遺伝暗号を指定するDNAを含んでもよい。これらはどちらも発現制御配列に機能可能に結合している。遺伝子導入宿主細胞は植物細胞でも、原核あるいは真核微生物でもよい。
【0011】
さらに、この発明は発現制御配列に機能可能に結合したジカンバ−分解オキシゲナーゼの遺伝暗号を指定するDNAを含む1つ以上の細胞を有する遺伝子導入植物あるいは植物部分を提供するものである。植物あるいは植物部分の1以上の細胞はさらに、発現制御配列に機能可能に結合したジカンバ−分解フェレドキシンの遺伝暗号を指定するDNAを含んでもよい。遺伝子導入植物または植物部分はジカンバに対し耐性があり、そのジカンバに対する耐性はジカンバ−分解オキシゲナーゼの発現あるいはジカンバ−分解オキシゲナーゼとフェレドキシンの発現により増加する。
【0012】
この発明はまた、本発明にかかる遺伝子導入ジカンバー耐性植物を含む畑において雑草を抑制する方法を提供するものである。この方法は雑草を抑制するのに有効なある量のジカンバを畑に適用する工程を含む。
【0013】
この発明はさらに、ジカンバを含む物質の除染を行う方法を提供する。1つの実施の形態では、この方法は有効量の本発明にかかる遺伝子導入ジカンバ−分解微生物をその物質
に適用する工程を含む。他の実施の形態では、この方法は有効量のジカンバ−分解O−デメチラーゼまたは有効量のジカンバ−分解オキシゲナーゼと、ジカンバ−分解フェレドキシンとジカンバ−分解レダクターゼの組み合わせをその物質に適用する工程を含む。
【0014】
この発明はまた、選択標識としてジカンバ耐性を使用した形質転換植物細胞及び形質転換植物の選択方法も提供する。1つの実施の形態では、この方法は、発明にかかるDNA構成を用いて一群の植物細胞中の少なくともいくつかの植物細胞の形質転換を行い、得られた植物細胞群を、形質転換植物細胞は増殖するが形質転換されていない植物細胞は増殖しないように選択された濃度のジカンバを含む培地で増殖させる工程を含む。他の実施の形態では、この方法は、ジカンバの分解を起こす発明にかかるDNA構成を含むと思われる一群の植物にジカンバを適用する工程を含み、このジカンバは形質転換された植物は成長するが、形質転換されていない植物の成長は阻害されるように選択された量で適用される。
【0015】
最後に、この発明は、形質転換された宿主細胞、完全な生物体、及び生物体の部分に対する選択方法あるいはスクリーニング方法を提供する。この方法は、ジカンバ分解を提供する本発明にかかるDNA構成を含むと考えられる一群の宿主細胞、完全な生物体、あるいは生物体の部分を提供する工程と、3,6−ジクロロサリチル酸による蛍光の存在またはレベルを確認する工程とを含む。3,6−ジクロロサリチル酸は形質転換宿主細胞、完全な生物体、あるいは生物体の部分において、ジカンバの分解の結果生成し、形質転換されていない宿主細胞、完全な生物体、あるいは生物体の部分では生成されない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ジカンバO−デメチラーゼに対する電子伝達スキームを示した図である。NADHからの電子はレダクターゼDICからフェレドキシンDICまで、そしてオキシゲナーゼDICまで逐次伝達される。酸素と基質であるジカンバとから3,6−ジクロロサリチル酸が形成する反応はオキシゲナーゼDICにより触媒される。ここで、oxは酸化状態、redは還元状態である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の現在のところ好ましい実施の形態の詳細な説明 以前の研究(コークとクルー
ガー、先進応用微生物学、36:1−56及びヤングら1994、分析生物化学、219:37−42)では、土壌細菌、シュードモナス・マルトフィリア、DI−6株は一段反応でジカンバの除草活性を消失させることができることが示されている。この一段反応では、ジカンバ(3,6−ジクロロ−2−メトキシ安息香酸)は3,6−ジクロロサリチル酸(3,6−DCSA)に転化される。3,6−DCSAは除草活性を有しておらず、植物に対しいかなる有害な影響を与えないことが示されている。さらに、3,6−DCSAは土壌中に存在する通常の細菌叢により容易に分解される。
【0018】
この中で説明している実験により、シュードモナス・マルトフィリア株DI−6によりジカンバが3,6−DCSAに転化されるのはO−デメチラーゼが原因であるというヤングらの仮説(同書物参照のこと)が確認され、O−デメチラーゼはレダクターゼと、フェレドキシンと、オキシゲナーゼとからなる三成分酵素系であることが確立される。シュードモナス・マルトフィリアO−デメチラーゼ及びその三成分の単離、精製、キャラクタリゼーションについて詳細に説明している実施例1を参照のこと。ジカンバO−デメチラーゼの三成分により触媒される反応に対する反応スキームを図1に示す。図1に示されるように、NADHからの電子はレダクターゼとフェレドキシンからなる短い電子連鎖を介して末端のオキシゲナーゼまで往復し、このオキシゲナーゼがジカンバの酸化を触媒し、3,6−DCSAが生成される。
【0019】
第1の実施の形態では、この発明により、単離された、少なくとも部分的に精製されたジカンバ−分解酵素が提供される。この中で使用されている「単離された」という用語は、酵素が産出細胞から少なくとも取り出された(すなわち、酵素は細胞溶解物中に含まれる)ことを意味する。この中で使用されている「少なくとも部分的に精製された」とは、酵素が細胞溶解物の他の成分から少なくとも部分的に単離されていることを意味する。好ましくは、酵素は十分に精製され、酵素の試料は少なくとも70%は均一である。
【0020】
特に、この発明は単離された、少なくとも部分的に精製されたジカンバ−分解O−デメチラーゼを提供する。「ジカンバ−分解O−デメチラーゼ」はこの中では、ジカンバ−分解オキシゲナーゼ、ジカンバ−分解フェレドキシン及びジカンバ−分解レダクターゼの組み合わせを意味するものと規定される。これらは全て以下に規定する通りである。
【0021】
この発明はまた単離した、少なくとも部分的に精製したジカンバ−分解オキシゲナーゼを提供する。「ジカンバ−分解オキシゲナーゼ」はこの中では、シュードモナス・マルトフィリアDI−6株から精製したオキシゲナーゼ、及びシュードモナス・マルトフィリアオキシゲナーゼのアミノ酸配列に対し少なくとも65%、好ましくは少なくとも約85%が相同なアミノ酸配列を有し、ジカンバの分解に関わるオキシゲナーゼを意味するものと規定される。「ジカンバ−分解オキシゲナーゼ」には、シュードモナス・マルトフィリアオキシゲナーゼ配列のアミノ酸において1以上のアミノ酸が追加、欠失、または置換されているシュードモナス・マルトフィリアオキシゲナーゼのアミノ酸配列を有する突然変異オキシゲナーゼが含まれる。ジカンバ−分解オキシゲナーゼの活性は実施例1で説明しているように決定することができる。
【0022】
この発明はさらに、単離された、少なくとも部分的に精製されたジカンバー分解フェレドキシンを提供する。「ジカンバ−分解フェレドキシン」はこの中では、シュードモナス・マルトフィリアDI−6株から精製されたフェレドキシン、及びシュードモナス・マルトフィリアフェレドキシンのアミノ酸配列に対し少なくとも65%、好ましくは少なくとも約85%が相同なアミノ酸配列を有し、ジカンバの分解に関わるフェレドキシンを意味するものと規定される。「ジカンバ−分解フェレドキシン」には、シュードモナス・マルトフィリアフェレドキシン配列のアミノ酸において1以上のアミノ酸が追加、欠失、または置換されているシュードモナス・マルトフィリアフェレドキシンのアミノ酸配列を有する突然変異フェレドキシンが含まれる。ジカンバ−分解フェレドキシンの活性は実施例1で説明しているように決定することができる。
【0023】
最後に、この発明は単離された、少なくとも部分的に精製されたジカンバー分解レダクターゼを提供する。「ジカンバ−分解レダクターゼ」はこの中では、シュードモナス・マルトフィリアDI−6株から精製されたレダクターゼ、及びシュードモナス・マルトフィリアレダクターゼのアミノ酸配列に対し少なくとも65%、好ましくは少なくとも約85%が相同なアミノ酸配列を有し、ジカンバの分解に関わるレダクターゼを意味するものと規定される。「ジカンバ−分解レダクターゼ」には、シュードモナス・マルトフィリアレダクターゼ配列のアミノ酸において1以上のアミノ酸が追加、欠失、または置換されているシュードモナス・マルトフィリアレダクターゼのアミノ酸配列を有する突然変異レダクターゼが含まれる。ジカンバ−分解レダクターゼの活性は実施例1で説明しているように決定することができる。
【0024】
アミノ酸配列の相同性の程度を決定する方法は当業者には周知である。例えば、遺伝学的コンピューティンググループ(GCG)ソフトウエアパッケージのFASTAプログラム(ウィスコンシン大学、マディソン、WI)を使用して、スイスタンパク質データベースなどの様々なタンパク質データベースにおける配列を比較することができる。
【0025】
この発明のジカンバ−分解酵素は、実施例で説明しているように、シュードモナス・マルトフィリア及び他の生物体から単離、精製することができる。適した他の生物体としては、ジカンバを分解するシュードモナス・マルトフィリアDI−6株以外の細菌が挙げられる。そのような細菌の幾つかの株が周知である。米国特許第5,445,962号;クルーガーらの農芸化学・食物化学ジャーナル、37、534−5381989;コーク及びクルーガーの先進応用微生物、38、1−661991;コーク及びカリルの先進応用微生物、40、289−320(1995)を参照のこと。他のジカンバ−分解細菌株は、当業者に周知の方法により単離することができる。
【0026】
しかしながら、好ましくは、この発明のジカンバ−分解酵素は組み換えDNA技術(以下を参照)を用いて調製される。特に、シュードモナス・マルトフィリア配列のアミノ酸において1つ以上のアミノ酸が追加、欠失、または置換されているシュードモナス・マルトフィリア酵素のアミノ酸配列を有する突然変異酵素は、この様に、例えば、オリゴヌクレオチド−定方向突然変異誘発、リンカー−スキャニング変異誘発、ポリメラーゼ連鎖反応を用いた変異誘発、などを用いて調製される。オースベル(Ausubel)ら編集の分子生
物学における最近のプロトコルワイリーインターサイエンス(Wiley Interscience)1990、及びマクファーソン(McPherson)編集、定方向突然変異誘発:実際のアプローチ
(IRLプレス1991)を参照のこと。
【0027】
第2の実施の形態では、この発明は、この発明のジカンバ−分解酵素の遺伝暗号を指定する単離したDNA分子を提供する。「単離された」はこの中で、DNA分子がその自然環境から取り出されていること、あるいは自然発生DNA分子ではないことを意味するために使用される。これらのDNA分子の調製方法は当業者に周知である。例えば、マニアチス(Maniatis)らの分子クローニング:研究室マニュアル、コールドスプリングハーバー、NY1982、サムブルック(Sambrook)らの分子クローニング:研究室マニュアル、コールドスプリングハーバー、NYを参照のこと。
【0028】
例えば、この発明のDNA分子は単離したcDNAまたはゲノミッククローンでもよい。シュードモナス・マルトフィリアDI−6株のジカンバ−分解オキシゲナーゼ及びフェレドキシンの遺伝暗号を指定するクローンの同定及び単離は実施例2及び実施例3で説明されている。ジカンバ−分解レダクターゼの遺伝暗号を指定するクローンを含む、ジカンバ−分解酵素の遺伝暗号を指定するその他のクローンは同様に得ることができる。単離したクローン、あるいはそれらの一部をプローブとして使用して、最初にクローンを単離した生物体以外の生物体から追加のクローンを同定、単離することができる。適した生物体としては、ジカンバを分解する細菌が挙げられる。上述したように、シュードモナス・マルトフィリアDI−6株以外に、幾つかの細菌株がジカンバを分解することが知られている。米国特許第5,445,962号;クルーガーらの農芸化学・食物化学ジャーナル、37、534−5381989;コーク及びクルーガーの先進応用微生物、38、1−661991;コーク及びカリルの先進応用微生物、40、289−320(1995)を参照のこと。
【0029】
この発明のDNA分子はまた単離したクローンの配列を用いて化学的に合成することもできる。そのような技術は当業者に周知である。例えば、DNA配列は自動DNA合成器内でホスホアミダイト化学により合成してもよい。化学合成には多数の利点がある。特に、DNA配列が発現する宿主が選択したコドンを使用して発現を最適化してもよいため、化学合成は望ましい。発現を改良するためにコドンの全てを変える必要はないが、好ましくは、少なくとも宿主においてほとんど使用されないコドンは宿主選択コドンに変更される。約50%を超える、最も好ましくは少なくとも約80%のコドンを宿主選択コドンに変更することにより、高レベルの発現を得ることができる。多くの宿主細胞のコドン選択性は周知である。例えば、遺伝子発現の最大化、225−85ページレズニコフ(Reznik
off)及びドールド、編集、1986、PCT WO 97/311115、PCT WO97/11086、EP 646643、EP 553494、及び米国特許第5,689,052号、第5,567,862号、第5,567,600号、第5,552,299号、第5,017,692号を参照のこと。
【0030】
他の宿主細胞のコドン選択性は当業者に周知の方法により導き出すことができる。また、化学合成を用いて、DNA分子の配列あるいはそれにより遺伝暗号が指定されたタンパク質を容易に変更し、例えば発現を最適化すること例えば、転写または翻訳を阻害するmRNA2次構造を除去すること、好都合な点で独特な制限部位を付加すること、プロテアーゼ開裂部位を削除すること、などができる。
【0031】
第3の実施の形態では、この発明は発現制御配列に機能可能に結合したジカンバ−分解酵素の遺伝暗号を指定するDNAを含むDNA構成を提供する。「DNA構成」はこの中では、DNAを宿主細胞中に導入するために有効な構築した(非−自然的に生じた)DNA分子と定義される。この用語はキメラ遺伝子、発現カセット、及びベクターを含む。
この中で使用されている「機能可能に結合された」とは、遺伝暗号が指定されたタンパク質が発現されるようなDNA配列の結合(配列順序、配列の配向、及び様々な配列の相対的な距離を含む)を言う。遺伝暗号を指定する配列に表現制御配列を機能可能に結合する方法は当業者に周知である。例えば、アニアティス(Maniatis)らの分子クローニング:研究室マニュアル、コールドスプリングハーバー、NY(1982)及びサムブルック(Sam brook)らの分子クローニング:研究室マニュアル、コールドスプリングハーバー、
NY(1989)を参照のこと。
【0032】
「発現制御配列」は、原核生物及び真核生物における転写または翻訳の規制に何らかの関わりのあるDNA配列である。適した発現制御配列及びそれらの作成方法及び使用方法は当業者に周知である。
【0033】
発現制御配列にはプロモータが含まれなければならない。プロモータは選択された宿主細胞または生物体において転写活性を示すDNA配列であればどのようなものでもよい。プロモータは誘導性あるいは構成性であってもよい。自然発生したものでもよく、様々な自然発生プロモータの部分から構成されてもよく、部分的にあるいは全体的に合成されたものでもよい。プロモータの設計のガイダンスが、ハーレイ(Harley)及びレイノルド(Relnolds)、核酸リサーチ、15、2343−61(1987)などのプロモータ構造の研究により提供されている。また、転写開始に関するプロモータの位置は最適化してもよい。例えば、ロバートらのプロシーヂャー、国立アカデミー、サイエンス、USA、76、760−4(1979)を参照のこと。原核生物及び真核生物において使用するための多くの適したプロモータが当業者に周知である。例えば、植物において使用するための適した構成性プロモータとしては、植物ウィルスからのプロモータオデール(Odell)ら、ネ
イチャー313:810−8121985))、クロレラウィルスメチルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモータ米国特許第5,563,328号、ゴマノハグサモザイクウィルスからの全長転写プロモータ米国特許第5,378,619号、及びコメアクチンマクエローリー(McElory)ら、植物細胞2:163−1711990))、ユビキチンクリステン
セン(Christensen)ら、植物分子生物学12:619−632(1989)及びクリス
テンセンら、植物分子生物学18:675−689、pEMUラスト(Last)ら、理論応用遺伝子学81:581−5881991))、MASベルテン(Velten)ら、EMBOジャーナル3:2723−27301984))、トウモロコシH3ヒストンレペチット(Lepetit)ら、分子遺伝子遺伝学231:276−285(1992)及びアタナッソバ(Atanassova)ら、植物ジャーナル23:291−3001992))、アブラナ属ナプスA
LS3(PCT出願WO 97/41228)などの遺伝子からのプロモータ、及び様々
なアグロバクテリウム属遺伝子のプロモータ(米国特許第4,771,002号、第5,
102,796号、第5,182,200号、第5,428,147号)が挙げられる。
【0034】
植物において使用するのに適した誘導性プロモータとしては、銅に応答するACE1系からのプロモータメット(Mett)ら、PNAS90:4567−45711993))、ベンゼンスルホンアミド除草剤毒性緩和剤に応答するトウモロコシInZ遺伝子のプロモータハーシェイ(Hershey)ら、分子遺伝子遺伝学227:229−237(1991)及
びガッツ(Gatz)ら、分子遺伝子遺伝学243:32−381994))、及びTn10からのTetリプレッサのプロモータ(ガッツら、分子遺伝子遺伝学227:229−2371991)が挙げられる。植物に使用するのに特に好ましい誘導性プロモータは、植物が通常応答しない誘導剤に応答するものである。この型の誘導性プロモータの例としては、転写活性がグルココルチコステロイドホルモンにより誘導されるステロイドホルモン遺伝子からの誘導性プロモータが挙げられる(スケナ(Schena)ら、プロシーヂャー、国立アカデミー、サイエンス、USA88:104211991。植物に使用するための他の誘導性プロモータはEP 332104、PCT WO 93/21334、PCT WO
97/06269において説明されている。
【0035】
細菌において使用するのに適したプロモータとしては、バシラスステアロサーモフィラスマルトジェニックアミラーゼ遺伝子のプロモータ、バシラスリケニホルミスアルファーアミラーゼ遺伝子、バシラスアミロリケファシエンスBANアミラーゼ遺伝子、枯草菌アルカリプロテアーゼ遺伝子、バシラスプミラスキシロシダーゼ遺伝子、ファージラムダPp及びPlプロモータ、及び大腸菌lac、trp及びtacプロモータが挙げられる。PCT WO 96/23898及びPCT WO 97/42320を参照のこと。
【0036】
酵母宿主細胞において使用するのに適したプロモータとしては、酵母解糖遺伝子からのプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子からのプロモータ、TPI1プロモータ、及びADH2−4cプロモータが挙げられる。PCT WO 96/23898を参照のこと。
【0037】
糸状菌類において使用するのに適したプロモータとしては、ADH3プロモータ、tpiAプロモータ、アスペルギルス・オリザエTAKAアミラーゼ、リゾムコール・ミエヘイアスパラギンタンパク質分解酵素、アスペルギルス・ニガー中性α-アミラーゼ、アス
ペルギルス・ニガー酸安定性α-アミラーゼ、アスペルギルス・ニガーまたはアスペルギ
ルス・アワモリグルコアミラーゼ、リゾムコール・ミエヘイリパーゼ、アスパルギルス・オリザエアルカリプロテアーゼ、アスペルギルス・オリザエトリオースホスフェートイソメラーゼ、及びアスペルギルス・ニデュランスアセトアミダーゼの遺伝暗号を指定する遺伝子のプロモータが挙げられる。PCT WO 96/23898を参照のこと。
【0038】
哺乳類細胞において使用するのに適したプロモータとしては、SV40プロモータ、金属チオネイン遺伝子プロモータ、ネズミの乳房腫瘍ウィルスプロモータ、ラウス肉腫ウィルスプロモータ、及びアデノウィルス2主働遅発プロモータが挙げられる。PCT WO 97/42320を参照のこと。
【0039】
昆虫細胞において使用するのに適したプロモータとしては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリフォルニカ多角体病ウィルス塩基性タンパク質プロモータ、バクロウィルス初期遺伝子1プロモータ及びバクロウィルス39K遅発−早発遺伝子プロモータが挙げられる。PCT WO 96/23898を参照のこと。
【0040】
最後に、他のプロモータの一部からなるプロモータ及び部分的あるいは全体的に合成した合成プロモータも使用することができる。例えば植物において使用するためのそのようなプロモータについて説明している、ニ(Ni)らの植物ジャーナル7:661−676(
1995)及びPCT WO 95/14098を参照のこと。
【0041】
プロモータは1以上のエンハンサー要素を含んでもよく、あるいは1以上のエンハンサー要素を含むように修飾されてもよい。好ましくは、プロモータは複数のエンハンサー要素を含む。エンハンサー要素を含むプロモータは、エンハンサー要素を含まないプロモータに比べて高いレベルの転写を提供する。植物において使用するのに適したエンハンサーとしてはカリフラワーモザイクウィルスからの35Sエンハンサー(米国特許第5,106,739号及び第5,164,316号を参照のこと)及びゴマノハグサモザイクウィルスからのエンハンサー要素(マイティ(Maiti)ら、遺伝子導入リサーチ6:143−
156(1997)が挙げられる。他の細胞において使用するのに適した他のエンハンサーは周知である。PCT WO 96/23898及びエンハンサーと真核生物の発現(コールドスプリングハーバープレス、コールドスプリングハーバー、NY、1983)を参照のこと。
【0042】
有効な発現のために、暗号配列もまた3’未翻訳配列に機能可能に結合されていることが好ましい。3’未翻訳配列は転写及び/または翻訳終止配列を含む。3’未翻訳領域は細菌、植物あるいは他の真核生物細胞からの遺伝子の側面領域から得ることができる。原核生物において使用するためには、3’未翻訳配列は転写終止配列を含む。植物及び他の真核生物において使用するためには、3’未翻訳領域は転写終止配列及びポリアデニル化配列を含む。植物において使用するのに適した3’未翻訳配列はカリフラワーモザイクウィルス35S遺伝子、ファセオリン種子貯蔵タンパク質遺伝子、エンドウのリブロースビホスフェートカルボキシラーゼの小サブユニットE9遺伝子、大豆75貯蔵タンパク質遺伝子、オクトピンシンターゼ遺伝子、ノパリンシンターゼ遺伝子の3’未翻訳配列を含む。
【0043】
植物及び他の真核生物においては、5’未翻訳配列も用いられる。5’未翻訳配列は、5’CAP部位から翻訳開始コドンまで延在しているmRNAの部分である。このmRNAの領域は真核生物では翻訳の開始のために必要であり、遺伝子発現の制御において重要な役割を果たす。植物において使用するのに適した5’未翻訳配列としては、アルファルファモザイクウィルス、キュウリモザイクウィルス外皮タンパク質遺伝子、タバコモザイクウィルスの5’未翻訳配列が挙げられる。
【0044】
上述したように、DNA構成はベクターでもよい。ベクターは1以上の複製システムを含んでもよく、これによりベクターが宿主細胞において複製する。自己複製ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルスベクターが挙げられる。その代わりに、ベクターは組み込みベクターでもよく、これにより、この発明のジカンバ−分解酵素の遺伝暗号を指定する配列の宿主細胞染色体中への組込みが可能となる。ベクターはまた、DNA配列の挿入のためのユニークな制限部位を有することが望ましい。ベクターがユニークな制限部位を有していない場合、ベクターを修飾して制限部位を導入または除去しその後の操作により適したものとしてもよい。
【0045】
発明にかかるDNA構成を使用して様々な宿主細胞の形質転換を行うことができる下記参照のこと。形質転換宿主細胞を選択するためには、遺伝標識を使用しなければならない「選択標識」。選択標識により典型的には、形質転換された細胞は、負の選択によりすなわち、選択標識を含まない細胞の成長を阻害することにより、あるいは選択標識により遺伝暗号が指定された産出物をスクリーニングすることにより、回収することができる。植物の形質転換のための選択可能な標識遺伝子として最も普通に使用されるのは、Tn5から単離されたネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子であり、これを植物調節シグナルの制御下に置くと、カナマイシンに対する耐性が付与される。フラリー(Fraley)ら、プロシージャー国立アカデミーサイエンスUSA、BO:4803
1983。他の普通に使用される選択可能な標識遺伝子は、ヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子であり、この遺伝子は構成物質ヒグロマイシンに対する耐性を付与する。バンデンエルゼン(Vanden Elzen)ら、植物分子生物学5:2991985。
【0046】
抗生物質に対する耐性を付与する細菌起源のその他の選択可能な標識遺伝子としては、ゲンタマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ストレプトマイシンホスホトランスフェラーゼ、アミノグリコシド−3’−アデニルトランスフェラーゼ、及びブレオマイシン耐性決定基が挙げられる。ヘイフォード(Hayford)ら、植物生理学86:12161988
、ジョーンズ(Jones)ら、分子遺伝子遺伝学210:861987、スバブ(Svab)ら
、植物分子生物学14:1971990、ヒル(Hille)ら、植物分子生物学7:171
1986。他の選択可能な標識遺伝子は、グリフォセート、グルホシネートまたはブロモキシニルなどの除草剤に対する耐性を付与する。コマイ(Comai)ら、ネイチャー317
:741−7441985、ゴルドン−カム(Gordon-Kamm)ら、植物細胞2:603−
618(1990)及びストーカー(Stalker)ら、サイエンス242:419−423
1988。
【0047】
植物の形質転換のために選択可能な他の標識遺伝子は細菌起源のものではない。これらの遺伝子としては、例えば、マウスジヒドロフォレートレダクターゼ、植物エノールピルビルシキメート−3−ホスフェートシンターゼ及び植物アセトラクテートシンターゼが挙げられる。エイコルツ(Eichholtz)ら、体細胞分子遺伝学13:671987、サー(Shah)ら、サイエンス233:4781986、チャレスト(Charest)ら、植物細胞リポート8:6431990。
【0048】
形質転換細胞と仮定される細胞のスクリーニングを行うために普通用いられる遺伝子としては、β−グルクロニダーゼGUS、β−ガタクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼが挙げられる。ジェファーソン(Jefferson)、R.A、植物分子生物学リポート5:3871987、ティーリ(Teeri)ら、EMBOジャーナル8:3431989、コンクツ(Koncz)ら、プロシーヂャー国立アカデ
ミーサイエンスUSA84:1311987、デブロック(De Block)ら、EMBOジャーナル3:16811984、緑色蛍光タンパク質(GFP)チャルフィー(Chalfie)
ら、サイエンス263:8021994、ハセロッフ(Haseloff)ら、TIG11:328−329(1995)及びPCT出願WO 97/41228。比較的まれな形質転換
事象の同定へのアプローチは、トウモロコシのアントシアニン色素沈着経路の優性抗生性調節体の遺伝暗号を指定する遺伝子を使用するものである。ルードウィグ(Ludwig)ら、サイエンス247:4491990。
【0049】
植物以外の原核生物及び真核生物において使用するのに適した選択標識も周知である。例えば、PCT WO 96/23898及びPCT WO 97/42320を参照のこと。例えば、抗生物質(アンピシリン、カナマイシン、テトラシリン、クロラムフェニコール、ネオマイシンまたはヒグロマイシン)に対する耐性を選択標識として使用してもよい。
【0050】
本発明の別の観点によれば、植物及び植物細胞のための選択標識として、ジカンバに対する耐性を使用することができる。「耐性」は、形質転換された植物細胞が、形質転換されていない細胞の成長を妨害するレベルのジカンバを含む培地に置いた場合に成長する(生き残り、再生して植物になる)ことができることを意味する。「耐性」はまた、形質転換植物が、形質転換されていない植物の成長を阻害する量のジカンバを適用した後も成長することができることを意味する。
【0051】
形質転換植物細胞の選択方法は当業者に周知である。簡単に説明すると、一群の植物細
胞(例えば、外植体または胚懸濁培養)において少なくとも幾つかの植物細胞について、ジカンバ分解を提供する本発明にかかるDNA構成を用いて形質転換を行う。得られた植物細胞群を、形質転換された植物細胞は増殖するが、形質転換されていない植物細胞は増殖しないように選択された濃度のジカンバを含む培地に置く。適したジカンバ濃度は当業者に周知なように経験的に決定することができる。
【0052】
形質転換された植物を選択する方法は当業者に周知である。簡単に説明すると、ジカンバ分解を提供する本発明にかかるDNA構成を含むと思われる一群の植物にジカンバを適用する。ジカンバの量は、形質転換された植物は成長するが、形質転換されていない植物の成長は阻害されるように選択される。阻害レベルは、形質転換された植物とそうでない植物とが容易に識別できる(すなわち、阻害は統計学上、有意なものでなければならない)ように十分なものでなければならない。そのような量は当業者に周知なように経験的に決定することができる。
【0053】
さらに、ジカンバの分解の結果生成する3,6−DCSAを使用して選択、スクリーニングすることができる。3,6−DCSAの生成はこの化合物の蛍光を観測することにより簡単に確認することができ、このため、形質転換された宿主細胞、完全の生物体、生物体の一部(例えば、微生物、植物、植物の部分、及び植物細胞)の選択、スクリーニングすることができる。この点に関しては、この発明により、緑色蛍光タンパク質(GFP)に対する場合と同様に、形質転換された宿主細胞、完全な生物体、及び生物体の部分の選択及びスクリーニングが可能である。米国特許第5,162,227号、第5,491,084号、及びPCT出願WO 96/27675、WO 97/11094、WO 97
/41228、WO 97/42320を参照のこと。これらは全てこの中で引用され参
照される。特に、3,6−DCSAは、形質転換された宿主細胞、完全な生物体、及び生物体の部分において、従来の分光測光法を用いて検出することができる。例えば、顕微鏡は、蛍光励起及び検出用の適当なフィルタを組み合わせて適合させることができる。ベンチでの調査または現地調査では手持ちランプを使用してもよい実施例1を参照のこと。蛍光-活性化細胞分類も使用することができる。3,6−DCSAは312−313nmの
波長で励起され、極大発光波長は424nmである。
【0054】
生物体の「部分」は器官、組織、あるいはその他の全ての部分を含む。「植物の部分」は種子、花粉、胚芽、花、果実、苗条、葉、根、茎、外植片などを含む。
ジカンバ耐性植物またはジカンバ−分解微生物を産出するには、ジカンバ耐性またはジカンバ分解を基にした選択を使用することができる。この場合、他の選択標識の使用は必要ない。ジカンバ耐性またはジカンバ分解を基にした選択はまた、他の興味のある遺伝子が発現する遺伝子導入細胞または生物体の産出に使用することができる。多くのそのような遺伝子は周知であり、そのような遺伝子としては、経済価値のあるタンパク質の遺伝暗号を指定する遺伝子、植物に改良された農業経済学的特性を付与する遺伝子が挙げられる例えば、PCT WO97/41228を参照のこと。この開示内容は全てこの中で引用
され参照される。
【0055】
本発明のDNA構成を使用して、原核生物や真核生物を含む様々な宿主細胞の形質転換を行うことができる。別個の選択標識を使用する場合、ジカンバ−分解酵素の遺伝暗号を指定するDNA配列及び選択標識は、同じあるいは異なるDNA構成上にあってもよい。好ましくは、それらは転写単位としての単一のDNA構成上に配列され、遺伝暗号を指定する配列の全てが共に発現される。また、関心のある遺伝子及びジカンバ−分解酵素の遺伝暗号を指定するDNA配列は、ジカンバー耐性またはジカンバ−分解を選択標識として使用する場合、同じまたは異なるDNA構成上にあってもよい。そのような構成は以上で説明したのと同様に調製することができる。
【0056】
適した宿主細胞としては、原核微生物及び真核微生物例えば、細菌アグロバクテリウム・ツメファシエンス及び大腸菌を含む、酵母(サッカロミセス・セレビシエを含む)及び他の真菌アスペルギルス種を含む))、植物細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞が挙げられる。好ましくは、宿主細胞は通常ジカンバを分解しないものである。しかしながら、この発明はまた、通常ジカンバを分解する宿主細胞におけるジカンバ分解レベルを増加させるために使用することができる。
【0057】
このように、本発明の「遺伝子導入」細胞及び生物体には、通常ジカンバを分解しない細胞及び生物体が含まれるが、これらの細胞及び生物体はこの発明により形質転換され、この除草剤を分解することができるようになる。この発明の「遺伝子導入」細胞及び生物体には、通常ジカンバを分解する細胞及び生物体も含まれ、これらの細胞及び生物体はこの発明により形質転換され、この除草剤をより多く分解することができる、あるいはより効果的に分解することができるようになる。
【0058】
原核生物及び真核生物の宿主細胞の形質転換方法は当業者に周知である。例えば、マニアチス(Maniatis)らの分子クローニング:研究室マニュアル、コールドスプリングハーバー、NY1982、サムブルック(Sambrook)らの分子クローニング:研究室マニュアル、コールドスプリングハーバー、NY1989、PCT WO 96/23898、PCT WO 97/42320を参照のこと。
【0059】
例えば、生物学的及び物理学的形質転換プロトコルを含む、多くの植物形質転換方法が開発されている。例えば、ミキらの植物分子生物学及びバイオテクノロジーにおける方法における「異種DNAを植物に導入するための手順」、グリック(Glick)、B.R.及び
トンプソン(Thompson)、J.E.編集(CRCプレス、Inc.ボカ ラトン(Boca Raton)、1993)67−88ページを参照のこと。さらに、植物細胞または組織の形質転換
及び植物の再生のためのベクター及び生体外培養法が有効である。例えば、グルバー(Gruber)らの植物分子生物学及びバイオテクノロジーにおける方法おける「植物形質転換のためのベクター」、グリック、B.R.及びトンプソン、J.E.編集(CRCプレス、Inc.ボカ ラトン(Boca Raton)、1993)89−119ページを参照のこと。発現
ベクターを植物に導入するための最も広く使用されている方法は、アグロバクテリウムの自然形質転換システムに基づくものである。例えば、ホルシュ(Horsh)ら、サイエンス
227:1229(1985)を参照のこと。アグロバクテリウム・ツメファシエンス及びアグロバクテリウム・リゾゲネスは、遺伝学的に植物細胞の形質転換を行う植物の病原性土壌細菌である。アグロバクテリウム・ツメファシエンス及びアグロバクテリウム・リゾゲネスのTi及びRiプラスミドはそれぞれ、植物の遺伝的形質転換の原因となる遺伝子を運ぶ。例えば、カド(Kado)、C.I、評論レビュー、植物サイエンス10:1(1991)を参照のこと。アグロバクテリウムのベクターシステムの説明及びアグロバクテリウム−媒介遺伝子伝達の方法は多くの参考文献において示されている。例えば、グルバー(Gruber)ら前述、ミキら前述、モロニー(Moloney)らの植物細胞リポート8:238
1989、及び米国特許第4,940,838号及び第5,464,763号などである。
【0060】
一般に適用できる植物の形質転換方法は、DNAが微小噴射体の表面上で運ばれる微小噴射体−媒介形質転換である。発現ベクターは、微小噴射体を加速して植物細胞壁及び細胞膜を通過するのに十分な速度とするバイオリスティック装置を用いて植物組織内に導入される。サンフォード(Sanford)ら、特別サイエンステクノロジー5:271987、
サンフォード、J.C.トレンドバイオテクノロジー6:2991988、サンフォード、J.C,生理学植物79:2061990、クレイン(Klein)ら、バイオテクノロジ
ー10:2681992。
【0061】
DNAを物理的に植物まで運ぶための別の方法は目標細胞の音波処理である。ツァング(Zhang)ら、バイオ/テクノロジー9:9961991。その代わりに、リポソームま
たはスフェロプラストを使用して発現ベクターが植物内に導入されている。デシャエス(Deshayes)ら、EMBOジャーナル4:27311985、クリストウ(Christou)、プロシージャー国立アカデミーサイエンス USA84:39621987。CaCl2沈澱、ポリビニルアルコールまたはポリ−L−オルニチンを用いたDNAのプロトプラストへの直接摂取もまた報告されている。ヘイン(Hain)ら、分子遺伝子遺伝学199:161(1985)及びドラパー(Draper)ら、植物細胞生理学23:4511982。プロトプラスト及び、全細胞及び組織のエレクトロポレーションについても説明されている。ドン(Donn)ら、植物細胞及び組織培養に関する第7回国際会議IAPTCの要約において、A2−38、53ページ1990;ドハルイン(D'Halluin)ら、植物細胞4:1495
−1505(1992)及びスペンサー(Spencer)ら、植物分子生物学24:51−6
11994。
【0062】
本発明によれば、どの型の遺伝子導入ジカンバー耐性植物も産出することができる。特に、現在のところジカンバの被害を受けていることが知られている広葉植物(インゲン豆、大豆、綿花、エンドウ、ジャガイモ、ヒマワリ、トマト、タバコ、果樹及び観葉植物及び観葉樹木を含む)の形質転換を行い、それらの植物が除草剤に対し耐性を有するようにすることができる。現在ジカンバに対し耐性があると考えられている他の植物(例えば、トウモロコシ、モロコシ類、小穀粒、サトウキビ、アスパラガス及び草)も形質転換し、除草剤に対する耐性を増加させることができる。「耐性がある」とは、形質転換された植物が、形質転換されていない植物の成長を阻害する量のジカンバの存在下で成長することができることを意味する。
【0063】
本発明のジカンバ−分解オキシゲナーゼは、ジカンバを分解する遺伝子導入宿主細胞及び生物体において見出された内因性のレダクターゼとフェレドキシンと共に機能することができると考えられる。植物葉緑体は特にレダクターゼ及びフェレドキシンが豊富である。従って、遺伝子導入ジカンバー耐性植物を産出するための好ましい実施の形態では、ジカンバ−分解オキシゲナーゼを葉緑体内に導くペプチドの遺伝暗号を指定する配列(「葉緑体標的配列」)を使用する。葉緑体標的配列の遺伝暗号を指定するDNAは、好ましくはジカンバ−分解オキシゲナーゼの遺伝暗号を指定する配列の上流(5’)に位置するが、暗号づけ配列の下流(3’)に位置してもよく、あるいは暗号づけ配列の上流、下流両方に位置してもよい。葉緑体標的配列の例としては、トウモロコシcab−m7シグナル配列ベッカー(Becker)ら、植物分子生物学20:49(1992)及びPCT WO 97/41228を参照のこと、及びエンドウグルタチオンレダクターゼシグナル配列(クライセン(Cre issen)ら、植物ジャーナル2:1291991及びPCT WO 97/
41228を参照のこと)が挙げられる。
【0064】
代わりの好ましい実施の形態では、葉緑体内で機能するプロモータを含む構成を用いて葉緑体の直接形質転換が行われ、葉緑体内でオキシゲナーゼの発現が得られる。例えば、PCT出願PCT WO 95/24492及び米国特許第5,545,818号を参照のこと。
【0065】
更に別の実施の形態では、この発明は、遺伝子導入ジカンバー耐性植物が成長する畑での雑草の制御方法を提供する。この方法は、有効量のジカンバを畑に適用して雑草を制御する工程を含む。ジカンバの適用方法及び様々な型の雑草を制御するのに有効なジカンバの量は周知である。作物保護基準、1803−1821ページ(ケミカル&ファーマソイティカルプレス社、ニューヨーク、NY、11版、1995)を参照のこと。
【0066】
他の実施の形態では、この発明は土壌、水、あるいはジカンバ製造設備の老廃物などの
物質中に存在するジカンバを分解する方法を提供する。そのような分解は、この発明のジカンバ−分解酵素を用いて達成することができる。酵素は、酵素を自然に発現させる微生物から精製することができ実施例1を参照のこと、あるいは酵素を産出する形質転換宿主細胞から精製することができる。酵素をそのような方法に用いる場合、適当な補助因子も提供しなければならない実施例1を参照のこと。有効量は当業者に周知なように経験的に決定することができる実施例1を参照のこと。その代わりに、遺伝子導入原核微生物及び真核微生物を使用して、そのような物質中のジカンバを分解することもできる。遺伝子導入原核微生物及び真核微生物は以上で説明したように産出することができ、有効量は当業者に周知なように経験的に決定することができる。
【0067】
ジカンバは大量に、連続的に環境に導入される。ジカンバの除去は大部分が、地球の土壌及び水中に存在する微生物中で見出された酵素系の作用に依存している。ジカンバ−分解O−デメチラーゼ及びその3つの成分を含むこれらの酵素系を理解することが、汚染された土壌、水及び他の物質の生物治療及び回復のために自然のまたは遺伝的に修飾した微生物を開発しようとする場合、重要である。このように、本発明のジカンバ−分解酵素、DNA分子、DNA構成、などはジカンバ分解及び生物治療の研究のための調査ツールとして使用することができる。
【0068】
最後に、この発明のジカンバ−分解酵素はジカンバの分析に使用することができる。ジカンバを含むと考えられるサンプルをジカンバ−分解O−デメチラーゼ、またはジカンバ−分解オキシゲナーゼと、ジカンバ−分解フェレドキシンと、ジカンバ−分解レダクターゼとの組み合わせと共に混合する。適した分析が実施例1で説明されている。特に、3,6−DCSAの生成による蛍光の検出または定量は好都合な分析に役立つ。
実施例
実施例1. シュードモナス・マルトフィリアDI−6のジカンバO−デメチラーゼの成
分の精製とキャラクタリゼーション方法と材料細菌と成長条件
シュードモナス・マルトフィリアDI−6株(クルーガーら、(1989)農芸食物化学ジャーナル37:534−538)を、ジカンバに持続的に汚染された土壌から単離した。細菌はイリノイののテクノロジー会社(シカゴ、IL)のダクラス コーク(DouglasCork)博士により提供され、還元塩化物培地で維持しクルーガー、J.P、1989、Ph.D.論文、イリノイテクノロジ-研究所、シカゴ、IL、ジカンバ(2mg/ml)
またはグルコース(2mg/ml)とカザミノ酸(2mg/ml)の混合物のいずれかを追加した。炭素源を細菌濾過器で殺菌し、培地を加圧蒸気滅菌した後、その培地に添加した。固体培地は1%(wt/vol)のゲルライト(スコット研究所、ウエストウォリック、R.I)を添加することにより調製した。
薬品及び試薬
ジカンバ、3,6−DCSA、[14C]ジカンバ(U−フェニル−14C、42.4mCi/mmol、放射化学的純度は98%を超える)はサンドツ アグロ(Sandoz Agro)社(デスプレイネス、IL)から供給された。溶解性を増加させるため、ジカンバ及び3、6−DCSA保存液を、KOHを用い滴定してpH7.0に調製した。特に記載が無ければ、薬品は全てシグマ ケミカル(Sigma Chemical)社(セントルイス、MO)から購
入した。FPLC(高速液体クロマトグラフィー)用のスーパーロース(Superose)12、Mono Q,Q−セファロース(ファーストフロー)およびフェニル−セ七ファロー
ス(CL−4B)カラム充填物はファーマシア(Pharmacia)ミルウォーキー、WIから
得た。両性電解質pH4−6と両性電解質pH4−9はセルバ(Serva)ハイデルベルグ
、FRGから購入した。アクリルアミド、β−メルカプトエタノール、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)及び過硫酸アンモニウムはバイオ−ラッド(Bio-Rad)研究所(ヘルクレス、CA)から購入した。薄層クロマトグラフィー(
TLC)プレートはUV254指示薬を含むシリカゲル(厚さ250μm)であり、J.T.ベイカーケミカル(Baker Chemical)社(フィリプスバーグ、NJ)から購入した。
酵素分析 ジカンバO−デメチラーゼ活性は[14C]ジカンバからの[14C]3,6−DCSAの形成を測定することにより分析した。簡単に説明すると、酵素成分の混合物中での活性は30℃において、25mM燐酸カリウム緩衝液(pH7.0)と、10mMのMgCl2と、0.5mMのNADH(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、還元
型)と、0.5mMの硫酸鉄(II)と、50μMの冷ジカンバと、2.5μMの[14C]ジカンバ(放射性ジカンバの最終比活性は1.9mCi/mmolであった)と、異なる量の細胞溶解物または部分的に精製した酵素とを含む標準300μl反応混合物中で測定した。最終精製工程中の全ての酵素分析はリン酸緩衝液中で行った。ジカンバO−デメチラーゼ活性に対する最適pHはリン酸緩衝液の中央範囲であることが見出され、pH7.0のトリス−HCl[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンヒドロクロリド]に比ベリン酸緩衝液を用いるとより高い酵素活性が観察されたからである。反応は基質であるジカンバを添加することにより開始した。特定の時間で、50μlの5%(vol/vol)のH2SO4を添加して反応を止めた。その後、ジカンバ及びジカンバ代謝物を1体積のエーテルで2度抽出し、抽出物を蒸発させ乾燥させた。抽出手順の回収効率(平均±標準偏差)はジカンバで87%±2%、3,6−DCSAで85%±3%であったヤングら、分析生物化学218:37−421994))。
【0069】
14C]ジカンバ及び[14C]−標識代謝物を薄層クロマトグラフィー(TLC)により分離した。エーテル−抽出ジカンバ及びその代謝物を50μlのエーテルに再溶解させ、TLCプレート上にスポットとしてつけた。TLCで移動する溶剤系はクロロホルム−エタノール−一酢酸とした。分離した反応生成物は、TLCプレートを蛍光体スクリーンに24時間曝し、その後そのスクリーンを蛍光体イメージ器(モレキュラーダイナミクス、サニーベール、CA)において走査することにより可視化し、定量した。TLCプレート上の特別のスポット中の放射能の量は、周知の量の[14C]ジカンバを含む同じプレート上の1つのスポットに対し、そのスポット内の総画素数を比較することにより決定した。活性の1つの単位は、30℃で、1分につき、ジカンバから1nmolの3,6−DCSAの形成を触媒する酵素の量として規定した。比活性は分析混合物の総タンパク質濃度を基本とした。
【0070】
ジカンバジメチラーゼのレダクターゼ成分の活性は、日立のU−2000分光光度計を用いて2,6−ジクロロフェノリンドフェノール(DCIP)の還元を測定することにより分析した。反応は、総体積1ml中に、0.5mMのNADH、0.2mMのFADフラビンアデニンジヌクレオチド、50μMのDCIP、20mMのトリス緩衝液pH8.0、10−100μlの酵素サンプルを含んだ。時間経過に伴う600nmでの吸光度の変化を室温で測定した。比活性は還元DCIPに対し、21.0m・M-1・cm-1の600nmでの吸光率を用いて計算した。比活性は還元DCIPnmol/タンパク質mgで表した。
【0071】
さらに、in situDCIP分析を使用して、等電点電気泳動(IEF)ゲル上で
分離したタンパク質試料中のレダクターゼ活性を検出し、位置を確認した。IEFゲル上でのタンパク質の電気泳動後、ゲルから切り取ったレーンを20mlの冷mMトリス−HCl緩衝液pH8.0で洗浄した。低融点アガロースを10mlの20mMトリス−HCl緩衝液pH8.0中で加熱することにより溶解し、最終濃度1.5%(w/v)とした。アガロースを室温付近の温度まで冷却すると、0.2mMのFADと、50μMのDCIと、0.5mMのNADHとを追加した。分析混合物をガラスプレート上に注ぎ、固化させた。ゲル片を固化させた反応混合物上に置き、室温で10分間静置した。ゲル薄片がレダクターゼ活性を有するタンパク質を含んでいると、還元DCIPの無色バンドがDCIPの青色バックグラウンド中に生成した。
細胞溶解物
細胞は、回転振とう培養機(30℃で250rpm)で、グルコースとカザミノ酸の混
合物を含む液体還元塩化物培地中で、550nmで1.3から1.5の光学密度が得られるまで増殖させた。細胞は遠心分離により採取し、冷100mM MgCl2で2度洗浄し、再び遠心分離にかけた。細胞ペーストは液体窒素中で直ちに冷凍して使用するか、あるいは−80℃で保存した。酵素精製時に、25gの冷凍細胞を解凍して、25mMのトリス緩衝液(pH7.0)と、10mMのMgCl2と、0.5mMのEDTAとを含む5
0mlの単離緩衝液中に再懸濁させた。フェニルメチルスルホニルフルオリド及びジチオスレイトールを、それぞれ最終濃度が0.5mM及び1mMとなるまで添加した。10mgのリソチームと1mgのDNアーゼを添加した後、細胞を10分間氷上で撹拌し、氷上で、20秒の群発と40秒の静止間隔を12回行う中間セッティング(セッティング5)で、音波処理(モデルXL2020音波計;ヒートシステムズ)することにより粉砕した。得られた細胞溶解物は単離緩衝液を用いて90mlとなるまで希釈し、4℃、76,000xgで1時間、遠心分離にかけた。上清を用いて清んだ細胞溶解物源とした。
酵素の精製
特に記載がなければ、全ての手順は4℃で行った。常に撹拌しながら、固体硫酸アンモニウムを90ml体積の清んだ細胞溶解物にゆっくりと添加し、40%(wt/vol)飽和とした。15分の撹拌後、混合物を15,400xgで15分間遠心分離にかけ、沈澱を廃棄した。さらに、上清を常に撹拌しながら、固体硫酸アンモニウムを添加し70%(wt/vol)飽和とした。15分の撹拌の後、混合物を前記条件下で遠心分離にかけた。上清を廃棄し、沈澱を最小体積の緩衝液A(20mMのトリス[pH8.0]、2.5mMのMgCl2、0.5)mMのEDTA、5%(vol/vol)のグリセロール、
1mMのジチオスレイトール)中に再懸濁させた。
【0072】
その後、40−70%の硫酸アンモニウム切片を、FPLC装置(ファーマシア)に接続されたフェニル−セファロースカラム(2.5cm×10cm)上に負荷し、10%(w/v)から0%(w/v)までの(NH42SO4の線形減少勾配を用いて溶離した。
カラムは10%(wt/vol)硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aを用いて予め平衡させ
た。流速は1ml/分とした。カラム溶離中にA280でタンパク質濃度を連続的にモニタ
した。基線A280示数が得られるまで、カラムを120mlの10%(wt/vol)硫
酸アンモニウムを含む緩衝液Aで洗浄した。結合タンパク質は緩衝液A中の減少勾配の(NH42SO4[総体積210ml中10から0%(wt/vol)までの(NH42
4]を用いて溶離した。2mlの画分を収集した。非放射性ジカンバを基質として使用
した場合を除き、10μlのアリコットを各画分から取りだし、標準ジカンバO−デメチラーゼ分析混合物(前述部を参照のこと)に添加した。ジカンバO−デメチラーゼ活性は、暗室で手持ちのUVランプ(312nm、フォトダイン)を用いてジカンバの高蛍光反応性生物3,6−DCSAへの転化をモニタすることにより検出した。
【0073】
この手順により、ジカンバO−デメチラーゼを別個の成分(成分I、II、IIIとする)を含む3つのプールに分離することができた。各成分はジカンバO−デメチラーゼ活性に対し本質的なものである以下を参照のこと。単一成分を分析する場合、他の2つの成分は過剰に供給した。単一型の活性を含む画分をプールした成分I、画分128−145;成分II、非結合画分12−33;成分III、画分62−92。
【0074】
(i)成分Iの精製 成分I活性を含む画分(0Mの(NH42SO4でフェニル−セファロースカラムから溶離、画分128−145)をプールし、総体積34mlとした。このプールサンプルをセントリプレプ(Centriprep)−10装置(アミコン(Amicon))により10mlまで濃縮し、その後、緩衝液Aで平衡され80mlの緩衝液Aで洗浄されたQ−セファロース(ファーストフロー)FPLCカラム(ファーマシア)2.5cm×6cmに適用した。カラムに結合したタンパク質を緩衝液A中の0から0.6Mの線形勾配KCl、100mlを用いて溶離した。画分を1.5分間隔で収集した。成分I活性を示すそれらの画分(画分29−37)をプールし、4℃で一晩中緩衝液に対し透析し、緩衝液
A中のMono Q HR5/5FPLCアニオン交換カラムに適用した。増加勾配濃度(0から0.5M)のKCl 50mlを用いて1ml/分でタンパク質を溶離した。成分
I活性を示す画分(画分19から25まで)をプールし、セントリコン−10装置で遠心分離により0.4mlまで濃縮した。濃縮サンプルはその後、スーパーロース12FPLCカラム(1.6×5.0cm)上で、流速0.2ml/分、100mMのKClを含む緩衝液Aを用い、クロマトグラフィーにより分離した。成分I活性を示す画分7−10をプールし、セントリコン−10装置における遠心分離により濃縮した。
【0075】
部分的に精製した成分Iを冷1%(w/v)グリシンで希釈し、セントリコン−10装置における遠心分離により3倍に濃縮し、脱塩しIEF電気泳動の準備をした。脱塩、濃縮サンプルをその後、6%(w/v)IEF(pH4−6)ゲルに適用し、4℃で1時間電気泳動を行った下記参照。電気泳動の後、ゲルを25mMの冷リン酸緩衝液(pH7.0)で5分間洗浄し、ゲルレーンの各薄片を小片(6mm×4mm)に切断した。タンパク質を切断ゲル画分から、その切断ゲル核分を10μlの25mMリン酸緩衝液(pH7.0)の存在下ピペット先端を用いてすりつぶすことにより、溶離した。各セグメントからのタンパク質を過剰の成分IIと成分IIIと混合し、ジカンバO−ジメチラーゼ活性の分析を行った。成分I活性を示したゲルセグメント(これもまた赤茶色であった)を12・5%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル(SDS−PAGE)上に負荷し、サンプル純度を確認した。
【0076】
(ii)成分IIの精製
フェニル−セファロースカラムクロマトグラフィーにより得られた成分IIは4℃で一晩中緩衝液Aに対し透析し、FPLC Q−セファロースカラム(2.5×6cm)に適
用した。サンプル溶離条件は、溶離勾配を緩衝液A中0から1MKClとしたことを除き、成分Iについて以上で説明した条件と同一とした。成分II活性を示す画分(画分30−37)をプールし、緩衝液Aに対し透析し、0.4mlに濃縮し、FPLCスーパーロース12カラム(1.6×50cm)に適用した。サンプル適用及び溶離手順は成分Iについて以上で説明したものと同一であった。成分II活性を示す画分(画分3−6)をプールし、同量の緩衝液Aで希釈し、FPLC Mono Q カラムに適用した。成分Iの
場合と同じKCl勾配を用いてカラムからタンパク質を溶離した。画分20−25は成分II活性を示した。部分的に精製した成分IIをさらに、成分Iについて説明したのと同じ条件を用いてIEF(pH4−6)電気泳動により精製した。成分II活性を示すゲルセグメントを12.5%(w/v)SDS−PAGE上に負荷し、さらに分析した。
(iii)成分IIIの精製
フェニル−セファロースカラムクロマトグラフィーにより得られた成分IIIは4℃で一晩中緩衝液Aに対し透析し、FPLC Q−セファロースカラム(2.5×6cm)に
適用した。条件は、成分Iについて以上で説明した条件と同一とした。成分III活性を示す画分(画分26−38)を緩衝液B[10mMのトリス−HClpH7.5、2.5mMのMgCl2、5%(v/v)のグリセロール、1mMのジチオスレイトール]に対
し透析し、5mlに濃縮した。青色染料親和性マトリクス[シバルコンブルー(Cibarcon
Blue)3GA型3000シグマ]をFPLCカラム(1×5cm)に充填し、20ml
の緩衝液Bを用いて平衡させた。濃縮成分IIIを青色染料カラム上に負荷し、カラム廃液のA280が基線レベルに到達するまで、流速0.2ml/分で20mlの緩衝液Bで洗
浄した。その後、結合タンパク質を緩衝液B中の5mMのNADHを用いて溶離した。レダクターゼ活性を含む画分を、過剰の成分I及び成分IIの存在下でのジカンバO−デメチラーゼ活性分析により、NADHの存在下での各画分のDCIP還元能力により検出した。両方の分析において強いレダクターゼ活性を有する画分をプールし、100mMのKClを含む緩衝液Aに対し透析し、0.2mlに濃縮し、FPLCスーパーロース12カラムに適用した。スーパーロースカラムの移動には、成分Iについて説明したのを同一の条件を使用した。DCIP還元を触媒したタンパク質を含む画分をプールし、緩衝液Aに
対し透析し、FPLC Mono Q カラムに適用した。成分Iに対するのと同じ条件を
用いてタンパク質を溶離した。部分的に精製した成分IIIをさらに、IEF(pH4−6)ゲル電気泳動により精製した。IEFゲル内のタンパク質のレダクターゼ活性を、以上で説明したように、アガロースゲル被膜内のDCIP還元分析により検出した。成分II活性を示したゲルセグメントを12.5%(w/v)SDS−PAGE上に負荷しさらに分析した。
NH2−末端アミノ酸配列の決定
成分I、成分II、または成分IIIを有するとIEFゲル上で同定されたタンパク質バンドを摘出し、12.5%(w/v)のSDSポリアクリルアミドゲルのへこみに載せた。電気泳動後、精製したタンパク質を含むゲル薄片をトランス−ブロッドセル(バイオ−ラッド、リッチモンド、CA)中のPVDF(ポリビニリデンジスルフィド)膜(ミリポア)上に、25Vで16時間、密着印画した。ブロッティング緩衝液は10mMのCAPS[3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸を含む、pH10.0の20%(v/v)のメタノール溶液とした。配列決定は、応用バイオシステム社の420II機器を用いて、エドマン(Edman)分解(エドマン及びヘンシェン(Henschen)1975232−279ページ、S.B.ニードルマン(Needleman)編集、タンパク質
配列決定、第2版、スプリンガー−ベルラージ(Springer-Verlarge)、ニューヨーク)に
より実行した。
タンパク質濃度の定量
タンパク質濃度はウシ血清アルブミンを標準に用い、ブラッドフォード(Bradford)の方法1976、分析生物化学72:248−254、により決定した。SDS−PAGE
レムリ(Laemmli)の改良方法(レムリ(1970)ネイチャー227:680−68
5)に従い、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った。85×65×0.75nmの12.5%(w/v)SDSゲルを以下の様に作製した。泳動ゲルは2.5mlの40%(w/v)アクリルアミド/ビス溶液37:5:1、1mlの泳動緩衝溶液[3Mのトリス−HClpH8.8、0.8%(w/v
)SDS]、4.5mlのH2O、5μlのTEMED、40μlの10%(w/v)APSとした。スタッキングゲルは、0.5mlの40%(w/v)アクリルアミド/ビス、0.5mlのスタッキング緩衝溶液[1Mのトリス−HClpH6.8、0.8%(w/
v)SDS]、3mlのH2O、5μlのTEMED、12.5μlの10%(w/v)APSとした。泳動緩衝液の組成は25mMのトリス−HCl(pH8.3、0.2Mのグリシン及び0.1%(w/v)SDSとした。サンプル緩衝液は、50%(v/v)グリセロール中に、0.25mlのスタッキング緩衝液、0.6mlの20%(w/v)SDS、0.2mlのβ−メルカプトエタノール、及び0.95mlの0.1%ブロモフェノールブルー(w/v)を含んだ。電気泳動は、バイオ−ラッド ミニゲル(Bio-Rad Mini Gel)装置で80Vで、先導色素がゲルの陽極端から0.5cmの所に移動するまで、実
行した。タンパク質は、3:6:1(v/v/v)の比のイソプロパノールと水と酢酸との混合物中の0.1%(w/v)のクーマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)R−250により染色した。脱色は7:83:1(v/v/v)の比のメタノールと水と酢酸との混合物中で行った。標準タンパク質(ギブコ(Gibco)BRL)はミオ
シン214.2kDa、ホスホリラーゼB111.4kDa、ウシ血清アルブミン74.25kDa、卵白アルブミン45.5kDa、炭酸脱水素酵素29.
5kDa、β−ラクトグロブリン18.3kDa、及びリソチーム(15.4kDa
)を含んだ。
分子量の決定
変性条件下でのペプチドの分子量(Mr)をSDS−PAGE分析を用いて評価した。
本来の成分I、II、IIIの分子量を、100mMのKClを含む緩衝液A中、0.2ml/分の流速で、スーパーロース12HR10/30FPLCカラム(ファーマシア)を介したゲル濾過により評価した。基準タンパク質はバイオ−ラッドからのゲル濾過標準とした。基準タンパク質は、ウシチログロビン670kDa、ウシガンマグロビン158
kDa、ニワトリ卵白アルブミン44kDa、ウマミオグロビン(17kDa)及びビタミンB−12(135kDa)とした。スーパーロース12カラムの空隙容量はブルーデキストラン(Blue Dextran、Mrは2,000,000、シグマ)を用いて計算した。
IEF
C.B.Sサイエンティフィック社(デル マー、CA)からの垂直ミニ−ゲル装置(
モデルHMGV−100)等電点(IEF)ゲル電気泳動を行った。6%(w/v)ポリアクリルアミドを含むIEFゲル(70×90×1mm)は、以下のものを混合することにより作製した:1.6mlの30%(w/v)アクリルアミド/ビス(37:5:1)と、0.8gのグリセロールと、0.32mlの両性電解質pH4−6(サーバ:Serva
)と、0.08mlの両性電解質pH4−9(サーバ)と、5.2mlのH2O、10μ
lのTEMEDと、80μlの10%(w/v)APS。陰極緩衝液は100mMのβ−アラニン、陽極緩衝液は100mMの酢酸とした。約1から10μlの1%(w/v)グリシン中のタンパク質サンプルは等量のサンプル緩衝液[50%(v/v)のグリセロール、1.6%(v/v)の両性電解質pH4−9、2.4%(v/v)の両性電解質4−6]と混合した。サンプルはゲルの陰極端に負荷し、200Vで1.5時間、400Vで更に1.5時間、移動させた。タンパク質は、SDSポリアクリルアミドゲルに対し以上で説明した手順を用い、クーマシーブリリアントブルーR−250で染色した。IEF標識(シグマ)は、アミログルコソダーゼ、pI3.6;グルコースオキシダーゼ、pI4.2;トリプシン阻害因子、pI4.6;β−ラクトグロブリンA、pI5.1;炭酸脱水素酵素II、pI5.4;炭酸脱水素酵素II,pI5.9および炭酸脱水素酵素I、pI6.6とした。
速度論的分析
ジカンバO−デメチラーゼにより触媒される脱メチル反応の速度論について、一定濃度の酵素の存在下、基質であるジカンバの濃度を増加させ、反応の初期速度を分析することにより研究した。反応混合物は25mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)と、10mMのMgCl2と、0.5mMのNADHと、0.5mMのFeSO4と、25μgの部分的に精製したO−デメチラーゼ酵素[清んだ細胞溶解物からの40%−70%(w/v)NH42SO4画分]と、様々な濃度(0.5から50μM)のジカンバと、様々な濃度
(0.025から2.5μM)の[14C]ジカンバ(U−フェニル−14C、42.4mCi/mmo1)とを、総体積300μl中に含んだ。0.5μMと1μMのジカンバ濃度を用いて分析するために、反応体積を900μlまで増加させ、十分な放射性ジカンバとその代謝物を存在させ検出可能なようにした。これらの反応では、反応内の他の全ての成分量は3倍にした。各ジカンバ濃度において異なる時間の時点で、ホスファーイメージャーSFを用いてTLCプレートに24時間曝された蛍光体スクリーン上の放射能を走査することにより、[14C]ジカンバの[14C]3,6−DCSAへの転化の定量を行った。活性の1単位は、30℃における1分あたり1nmolの3,6−DCSAを形成する酵素量と規定した。各反応の初速度は、各基質濃度において反応速度対時間をプロットすることにより決定した。データはミカエリス−メンテン速度論をモデルとし、Km及びVmaxの値は、シグマプロット(登録商標、SigmaPlot)ジャンデルサイエンティフィック(Jandel
Scientific)、コルトマデラ、CAを用いて、ラインウィーバー−バークプロットにフィッティングさせることにより決定した。
酸素の必要性
クラーク酸素電極を用いた予備実験により、基質にジカンバを用いた標準ジカンバO−デメチラーゼ分析中に酸素が消費されることが示唆された。ジカンバO−デメチラーゼによるジカンバのO−脱メチルにおける酸素の必要性を証明するために、反応は1ppm未満の酸素を含む嫌気性チャンバ内で行った。反応混合物から酸素を排除する手順は4℃で行った。酵素を含まない反応混合物をバイアル中に入れ、ゴム栓で密閉した。酸素を排除するために、バイアルは2度真空により排気し、その都度窒素でフラッシングした。3度目の排気後、バイアルを90%の窒素と10%の水素を用いてフラッシングした。同様に、酵素溶液から酸素を除去した酵素溶液に気泡が入らないように注意して。反応混合物及
び酵素溶液の両方を嫌気性チャンバ内(95%のN2−5%のH2雰囲気)に移した。240mlの清んだ細胞溶解物を微量注射器を用いてゴム栓を介して注入し、960μlの酸素を含まない反応混合物と静かに混合した。反応は30℃で行った。
【0077】
TLCプレート上の反応生成物を調べると、嫌気性[14C]ジカンバからの[14C]3,6−DCSA生成速度は、同量の酵素を用いて好気性条件下で得られた反応速度を大きく下回った。嫌気性条件下では、1時間以内では、ジカンバから3,6−DCSAへの転化は実質的には起こらなかった。しかしながら、平行反応混合物を30分後に嫌気性チャンバから取りだし空気で培養すると、かなりの量のO−デメチラーゼ酵素錯体の成分の1つはオキシゲナーゼであった。
【0078】
14C]ジカンバから[14C]3,6−DCSAへの生体外転化は以前に証明された生体内転化経路(コーク及びクルーガー、先進応用微生物学36:1−661991;ヤングら、分析生物化学219:37−421994)によく似ていることに注意すべきである。これらの研究では、TLC及びキャピラリー電気泳動の両方によりDCSAが反応生成物であると同定された。生体内及び生体外の両方でジカンバ分解の第1主生成物がDCSAであるという厳格な同定は、ガスクロマトグラフィー−質量分析により得られている。
成分と補助因子の必要性
フェニル−セファロースカラムクロマトグラフィーによるジカンバO−デメチラーゼの3成分の初期分離後、部分的に精製した試料を個々に、Q−セファロースカラム(2.5×6cm)上での1回の追加精製により取り出した。サンプルを緩衝液A中、Q−セファロース(ファーストフロー)高速タンパク質液体クロマトグラフィーカラム(ファーマシア)に適用し、100mlの0から0.6MまでのKCl線形勾配(オキシゲナーゼ成分に対し)を用い、あるいは0から1.0MまでのKCl(フェレドキシン及びレダクターゼ成分に対し)を用いて、1.5mlの画分中で溶離した。オキシゲナーゼ精製に対する分離カラムから適当にプールした画分画分29から37まで、フェレドキシン精製に対する画分画分30から37まで、あるいはレダクターゼ精製に対する画分(画分26から38まで)を使用して、成分及び補助因子の必要性の決定を行った。
【0079】
3成分は様々な組み合わせでO−デメチラーゼ活性の分析を行い、成分の必要性を決定した。
補助因子の必要性を決定するために、3成分と[14C]ジカンバとの混合物を用いて、30℃で30分間、O−デメチラーゼ活性の分析を行った。反応混合物中の、(最適比率の)部分的に精製されたタンパク質の量は、85μgのオキシゲナーゼと、55μgのフェレドキシンと、50μgのレダクターゼであった。反応混合物中で使用した補助因子の濃度は0.5mMのNADHと、0.2mMのFADと、0.5mMのFeSO3と、1
0mMのMgCl2と、0.5mMのNADPHと、0.2mMのFMNであった。
結果
成分I
フェニル−セファロースカラムに最も強く結合したジカンバO−デメチラーゼの成分(最初成分Iと称し、後にオキシゲナーゼであることが同定された)は明確な赤茶色を示した。これにより、鉄−硫黄クラスターまたはヘム基を含むタンパク質の存在の可能性が示唆された。フェニル−セファロースカラムからの成分I活性を有する画分について、Q−セファロース(ファーストフロー)及びMono Qクロマトグラフィーにより更に精製
し、スーパーロース12サイズ排除カラム上で分離した。その後更にIEFゲル上で成分Iタンパク質を精製した。
【0080】
IEFゲル上の主要バンド(見かけのpIが約4.6である)からタンパク質を摘出し、SDS−PAGEにより残りの微量不純物から単離した。IEFにより精製した後に得
られた主成分Iタンパク質の純度は、クーマシーブルーで染色したこのSDS−ポリアクリルアミドゲルの濃度分析から判断すると、90%を超えた。
【0081】
見かけの分子量が約40,000ダルトンの優性タンパク質のN−末端アミノ酸配列を決定した。アミノ酸配列の結果から、N−末端領域の最初の29のアミノ酸が以下の配列で存在していることが示唆された括弧内の残基が最も良い推測である:
Thr Phe Val Arg Asn Ala Trp Tyr Val Ala Ala Leu Pro Glu Glu Leu Ser Glu Lys Pro Leu Gly Arg Thr Ile Leu Asp (Asp またはThr) (Pro) [配列番号1]
様々なデータベース中のアミノ酸配列と比較すると、他のモノオキシゲナーゼまたはジオキシゲナーゼについて報告されているNH2−末端配列とほとんどあるいは全く相同性
が見られないことが示唆された。
成分II
フェニル−セファロースカラムに結合しなかったタンパク質核分は成分IIと称した。この黄色がかった画分は、分析を成分Iと成分IIIと組み合わせて実行すると、クロストリジウム・パストリアヌムからのフェレドキシンと置換することができた(しかし、反応速度は遅くなる)ので、仮にフェレドキシン−含有画分と称した。クロストリジウムフェレドキシンは明らかに成分IIの代わりに機能したが、これらの実験で使用した成分IIの不純性が高いとすると、クロストリジウム酵素の効率は、DI−6株からの推定フェレドキシンの効率よりもかなり低い。特に、55μgの部分的に精製した成分IIを過剰の成分I及び成分IIIと共に混合したものでは、ジカンバの3,6−DCSAへの転化が触媒され、約5nmolmin-1mg-1の速度が得られたが、100μgのクロストリジウムからの高精製フェレドキシンではその活性は0.6nmolmin-1mg-1にすぎなかった。
【0082】
Q−セファロース(ファーストフロー)クロマトグラフィー、スーパーロース12ゲル濾過及びMono Q クロマトグラフィーを含む精製工程により、最初の25gの細胞ペーストから約1mgの精製タンパク質が得られた。この画分をオキシゲナーゼ成分と同様に、IEFゲル上で電気泳動を行い、その後活性IEF画分をSDS−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動することにより精製した。
【0083】
IEFゲルのセグメントから溶離したタンパク質における成分II活性の分析により、約3.0のpIを有する画分は成分II中に活性タンパク質を含んでいることが示唆された。このゲル薄片からのタンパク質を溶離しSDS−PAGEを行った。ゲルをクーマシブルーで染色すると、分子量のより低いタンパク質のしみに加えてタンパク質の1つの顕著なバンドが現れた。見かけの分子量が約28,000ダルトンの顕著なタンパク質をPVDF膜上に密着印画した。
【0084】
アミノ酸配列決定から以下の20のアミノ酸のN−末端配列が明らかになった。
Thr Tyr Val Val Thr Asp Ala Xaa Ile Lys Xaa Lys Tyr Met Asp Xaa Val Glu Val Xaa [配列番号2]
成分III
ジカンバO−デメチラーゼの成分IIIは高濃度の(NH42SO4中のフェニル−セ
ファロースカラム上に保持され、約4%(w/v)の(NH42SO4で溶離された。こ
の明るい黄色の画分は、酸化チトクロームc及びDCIPをNADHの存在下で還元する能力から、及び成分Iと成分IIを用いた分析でブタの心臓からのチトクロームcレダクターゼ(タイプI、シグマ)により置換することができるため、レダクターゼ含有画分であると仮に同定された。この組の反応では、50μgの部分的に精製した成分IIIを使用し、過剰の成分I及びIIと混合すると、約5nmolmin-1mg-1の反応速度が得られた。高精製チトクロームcレダクターゼは反応において約2.5nmolmin-1mg-1の比活性を示した。この活性は、これらの分析で使用した粗成分IIIの不純性を考
えると、成分IIIにより得られる活性よりもかなり低い。さらに、成分IIIは、NADHの存在下、チトクロームcまたは2,6−ジクロロフェニル−インドフェノール(DCPIP)と共に培養するとレダクターゼ活性を示した。成分I及び成分IIのどちらも、これら2つのレダクターゼ分析のいずれにおいても、活性を示さなかった。
【0085】
Q−セファロースファーストフロー、青色染料親和性マトリクス、スーパーロース12、及びMono Q充填材を含むカラム上でのクロマトグラフィーにより、この画分をさ
らに精製すると、レダクターゼ活性を有する画分中の少量のタンパク質が得られた。成分IIIタンパク質の純度は、SDS−PAGEによる分離及びクーマシーブルーによる染色後の活性タンパク質画分の濃度分析により判断すると、約70%であった。
【0086】
さらに成分IIIの精製を激化するために、Mono Qカラム段階からの2つの異な
るタンパク質画分は、フェレドキシン成分とオキシゲナーゼ成分とを用いて分析すると、レダクターゼ活性を含むことを見出した。IEFゲル上での電気泳動によりこれらの2つの画分をさらに精製すると、2つの画分のレダクターゼ活性は明確に異なる等電点を有することが明らかになった。これは、2つのレダクターゼ画分のそれぞれを含むレーンをIEFゲルから摘出し、この薄片をDCIP反応混合物を含む低融点アガロースのパッド上に置くことにより証明した。どちらのゲル薄片におけるレダクターゼ活性も、DCIPのその無色の還元型へのNADH−依存還元により同定した。画分35中のレダクターゼの見かけのpIは約5.6であったが、画分27のレダクターゼの見かけのpIは約4.8であった。
【0087】
IEFゲル薄片から単離したレダクターゼ活性はどちらも不安定で、その量は少なかった。実際、Mono Qカラム分別による画分35からのレダクターゼのみが十分なタン
パク質濃度と活性を有し、更に精製及びキャラクタリゼーションが可能であった。このレダクターゼ活性を含むIEFゲルからの薄片を溶離し、SDS−PAGEにより不純タンパク質から分離した。このゲル中の優先タンパク質は分子量が約45,000のタンパク質であった。サイズ排除クロマトグラフィーにより、成分IIIの分子量は、自然状態で約50,000ダルトンであることが示唆された。
【0088】
ジカンバO−デメチラーゼの生物化学特性
ジカンバO−デメチラーゼ活性を、温度が20℃から50℃、pH値が約6から9の生体外培養中に、測定した。活性のピークは30℃で鋭く、6.5から7.5のpHでブロードに現れた。酵素活性は用いたpH緩衝液の型に依存した。pH7では、例えば、活性はリン酸含有緩衝液の場合に比べトリス含有緩衝液の場合の方が約40%低かった。
【0089】
ジカンバO−デメチラーゼに対するKm及びVmaxの値は、2度の実験からのデータのミカエリス−メンテン及びラインウィーバー−バークプロットから最もフィッティングの良い曲線を生成するシグマプロット(登録商標)を用いて評価した。ジカンバのKmは約9
.9±3.9μMであり、反応のVmaxは約108±12nmol/分/mgであると判
断した。
【0090】
3成分について、様々な組み合わせで、ジカンバO−デメチラーゼ活性の分析を行った。どの成分も単一で分析すると酵素活性を示さなかった。実際、3成分全てを組み合わせた場合にのみ、有意の量のO−デメチラーゼ活性を検出することができた。成分Iと成分IIの混合物は少量の触媒活性を示した。おそらく、微量の成分IIIが成分I画分に混入していたためであろう。
【0091】
NADHとNADPHは酵素活性を補助した。NADHはNADPHよりも著しく効果的であった。酵素活性にはMg2+が必要であった。Fe2+、フラビンアデニンジヌクレオ
チドFAD、及びフラビンモノヌクレオチド(FMN)は、これらの実験における部分的に精製したタンパク質試料を用いた酵素活性をほとんどあるいは全く刺激しない。最も高い活性はNADH、Fe2+、Mg2+及びFADの組み合わせを用いた場合に得られた。考察 シュードモナス・マルトフィリアDI−6株からのジカンバO−デメチラーゼは、除草剤であるジカンバ(2−メトキシ−3,6−ジクロロ安息香酸)を3,6−ジクロロサリチル酸(3,6−DCSA:2−ヒドロキシ−3,6−ジクロロ安息香酸)へ転化する能力を持つ、3成分オキシゲナーゼ(ワング(Wang)、X−Z1996、Ph.D.論文、ネブラスカ−リンカン大学、リンカン、NE)である。3成分のそれぞれを均一状態または均一に近い状態で単離することができる精製スキームを発明した。
【0092】
3成分の最初の分離はフェニル−セファロースカラム上でのクロマトグラフィーにより達成した。部分的に精製した成分の酵素活性及び他の特性により、その成分がレダクターゼ、フェレドキシン及びオキシゲナーゼー多くの他の以前に研究したヘム含有及びノンヘム含有多成分オキシゲナーゼと同様の組成(バチー(Ba tie)ら(1992)543−565ページ、F.ミラー編集、フラボ酵素、vol.III、CRCプレス、ボカ ラト
ン;ハラヤマら1992、アニュアルレビュー微生物学46:565−601;メイソンとカマック(Mason,Cammack)1992、アニュアルレビュー微生物学46:277−3
05;ロシュ(Rosche)ら1995、生物化学、生物物理学、アクタ1252:177−179)−であることが仮に同定できた。フェニル−セファロースカラムから単離した成分IIIはチトクロームcと染料DCIPの両方のNADH−依存還元を触媒した。さらに、成分I及び成分IIと組み合わせるとジカンバの3,6−DCSAへの転化を助けることができる能力は、チトクロームcレダクターゼと部分的に置きかえることができた。成分IIは、成分Iと成分IIIを含む反応に対し、クロストリジウム・パストリアヌムからのフェレドキシンを添加することにより置きかえることができた。O−脱メチル反応を補助するには分子状酸素が絶対に必要であることから、残りの成分はオキシゲナーゼであることが示唆された。
オキシゲナーゼDIC
ジカンバO−デメチラーゼの成分I(オキシゲナーゼDICと称す)を精製して均一とし
、N−末端アミノ酸配列決定を行った。得られた29のアミノ酸残基の配列では、様々なデータバンク中の他のタンパク質配列との有意の相同性は見られなかった。しかしながら、このアミノ酸配列のから得られた情報により、縮重オリゴヌクレオチドプローブの設計が可能となり、このプローブは成分I遺伝子を検出しクローン化するのに使用することができた実施例2参照。さらに、このクローンのヌクレオチド配列から導かれるアミノ酸配列を、データベース中のタンパク質配列のアミノ酸配列と比較すると、他のオキシゲナーゼに対する強い相同性が見られた実施例2参照。
【0093】
SDS−ポリアクリルアミドゲル中の移動から評価したオキシゲナーゼDICの見かけの
分子量は約40,000ダルトンである。オキシゲナーゼの精製試料はクーマシーブルーで染色したSDS−ポリアクリルアミドゲル上で唯一の主バンドを示し、そのバンドに含まれていたタンパク質のエドマン分解により唯一のN−末端種の存在が示唆された。サイズ排除カラム上での天然オキシゲナーゼDICの挙動から導かれる評価により、分子サイズ
は約90,000ダルトンであることが示唆される。これらの結果から、天然オキシゲナーゼはホモダイマーとして存在することが示唆される。
【0094】
多くの多成分系のオキシゲナーゼ/ヒドロキシラーゼ成分は(αβ)n−型サブユニッ
ト配列から成り、このサブユニット配列では、より大きなαサブユニットのサイズは約50,000ダルトン、より小さなβサブユニットの分子量は約20、000ダルトンであったハラヤマら1992、アニュアルレビュー微生物学46:565−601。これとは対照的に、ジカンバO−デメチラーゼのオキシゲナーゼ成分は分子量が約40kDaの単一サブユニットを有し、これらが自然状態でダイマーとして存在すると考えられる。この
(α)n−型サブユニット配列は、他の良くキャラクタリゼーションの行われているオキ
シゲナーゼ、例えばシュードモナス・SP.CBC株からの4−クロロフェニルアセテート3,4−ジオキシゲナーゼマーカス(Markus)ら1986、ジャーナル生物化学261:12883−12888、シュードモナス・セパシアからのフタレートジオキシゲナーゼバチー(Batie)ら1991、生物化学ジャーナル274:833−842、シュード
モナス・プチダ86からの2−オキソ−1、2−ジヒドロキノリン 8−モノオキシゲナ
ーゼロシェ(Roche)ら(1995)生物化学・生物物理学・アクタ1252:177−
179、シュードモナス・シュードアルカリゲンスからの4−カルボキシジフェニルエーテルジオキシゲナーゼデーメル(Dehmel)ら(1995)構築微生物学163:35−41、及びシュードモナス・プチダからの3−クロロ安息香酸3,4−ジオキシゲナーゼナカツら1995、微生物学(読物)141:485−495、において見出されたものと同様である。フェレドキシンDIC ジカンバO−デメチラーゼの成分II(フェレドキシンDICと称す)を、カラムクロマトグラフィーとIEFの複数の工程により、均一に近い
状態まで精製した。SDS−PAGEによる最終精製により1つのタンパク質(Mr=2
8,000)の主バンドとわずかに小さなタンパク質のしみが生成した。これらは精製フェレドキシンの部分分解生成物を示しているかもしれない。
【0095】
主タンパク質バンドから得られた20のアミノ酸残基のN−末端配列を、遺伝学コンピューティンググループ(GCG)ソフトウエアパッケージ(ウィスコンシン大学、マディソン、WI)を用いて、様々なタンパク質データバンクの他のアミノ酸配列と比較すると、多くのジクラスター細菌フェレドキシンに対する強い相同性が明らかになった。例えば、シュードモナス・スツツェリ、シュードモナス・プチダ、ロドバクター・キャプシュラス及びアゾトバクター・ビネランジルからのフェレドキシンの最初の20のアミノ酸の整合及び比較により、これらのフェレドキシンのシュードモナス・マルトフィリアDI−6株からのタンパク質のN−末端配列との同一性はそれぞれ、65%、65%、65%、60%であることが示された。推定フェレドキシン配列中のXaaと指定された4つの残基の同一性は不確定であった。エドマン分解生成物のクロマトグラフ上の余分のピークの位置から、これらのXaa残基は実際には、SDS−PAGE中のシステイン残基のアクリルアミドによるアルキル化により形成したプロピオニル−システイン残基であると考えられるブルネ(Brune)1992分析生物化学207:285−190。4つのXaa残基
が全てシステイン残基であるとすると、細菌フェレドキシン配列の、シュードモナス・マルトフィリアからのフェレドキシンとの同一性はそれぞれ、85%、85%、85%及び0%となる。
【0096】
フェレドキシンDICに対し強い相同性を示す4つのジクラスターフェレドキシンは、タ
ンパク質のN−末端で、[3Fe−4S]クラスター及びこれに続く[4Fe−4S]クラスターを有していた。これにより、フェレドキシンDICは、通常ノン−ヘム多成分オキ
シゲナーゼと関連する[2Fe−2S]クラスターを有するフェレドキシン成分とは明確に異なることが示唆されるハラヤマら1992、アニュアルレビュー微生物学46:565−601;メイソンとカマック1992、アニュアルレビュー微生物学46:277−305;ロシェら(1995)生物化学、生物物理学、アクタ1252:177−179。実際、EPR(電子常磁性共鳴)スペクトル[他の場所で詳細に報告されている、キアノ(Qiano)、F、X−Z.ワング、P.L、D.P.ウィークス(Weeks)、及びJ.H.ゴルベック出版するために提出されている]の分析を行うと、フェレドキシンDICのN−末
端の[3Fe−4S]クラスターは電子伝達において活性な酸化還元中心であることが示唆される。
【0097】
フェレドキシンDICは、等電点が低いという点で、他の細菌フェレドキシンの典型であ
るすなわち、pIは3またはわずかに3以上である。pIが低いと、しばしば、SDS−ポリアクリルアミドゲル上で及びサイズ排除クロマトグラフィー中に、これらのタンパク
質の異常な移動をもたらすオキーフェ(O'Keefe)ら(1991)生物化学30:447
−455。フェレドキシンDICの場合、SDS−PAGE中のタンパク質の移動から、そ
の分子量は約28,000であると評価された。同様に、サイズ排除クロマトグラフィーにより、天然フェレドキシンDICのみかけの分子量は約28,000であることが示唆さ
れた。この分子量は細菌からの多成分オキシゲナーゼ中で見出される他のフェレドキシンの分子量[すなわち、8−13kDa]バチーら(1992)543−565ページ、F.ミュラーにおいて編集、フラボ酵素の化学及び生物化学、vol.III、CRCプレス、ボカ ラトン;ハラヤマら(1992)アニュアルレヴュー微生物学46:565−
601よりかなり高い。
レダクターゼDIC
ジカンバO−デメチラーゼの成分III(レダクターゼDICと称す)は、3成分中最も
精製が困難な成分であった。これは一部には、この成分の見かけの不安定さ及びDI−6株の溶解物中における量が少ないことによる。にもかかわらず、十分なタンパク質が単離され、その分子量は45,000と仮定された。これはサイズ排除クロマトグラフィーから得られた、約50,000ダルトンの分子量と同様であり、レダクターゼDICは自然状
態ではモノマーとして存在することが示唆される。レダクターゼ成分の精製は、MonoQカラム上でのクロマトグラフィー及びIEFにより精製レダクターゼ試料が明らかに異なるpI値を有する2つの活性に分割されるという事実により、さらに複雑となる。Mono Qカラムからの両方の画分は、精製フェレドキシンDIC及びオキシゲナーゼDICとの
組み合わせにおいて機能し、ジカンバO−デメチラーゼ活性を生成する。スフィンゴモナスsp.RW1株において、3成分ジベンゾフラン4,4a−ジオキシゲナーゼ中でレダクターゼ成分として同様によく機能する2つの同様のフラボタンパク質の存在が、最近、ビンツ及びクック(Bu ntz、Cook)により報告されているビンツ及びクック1993、細菌ジャーナル175:6467−6475。興味深いことに、どちらのレダクターゼもその分子量は44,000ダルトンであり、45,000ダルトンレダクターゼDICの分子量と非常に良く類似している。レグヘモグロビンレダクターゼの複数の成分もまた、等電点電気泳動技術を用いると、ルピナスの根の小結節において観察されているトプノブ(Topunov)ら(1982)バイオキミヤ(Biokymiya)英語版162:378−379。この場合、IEFにより、NADH−依存レダクターゼ活性を有する4つの別個の成分が明らかになった。DI−6株においては、唯一のレダクターゼDICが2つの形態で存在する
のか、それとも2つの別個のレダクターゼが存在するのかについての質問への回答は、より大量のタンパク質を単離するための改良方法の開発、及び/または、関係する遺伝子のクローン化と配列決定にかかっている。
ジカンバO−デメチラーゼ特性
以上で述べた個々の成分の物理的及び生物化学的特性の他に、酵素活性の分析により、O−デメチラーゼ系はその基質に対し強い親和性を有しKm=−10μM、Vmaxは約100−110nmol/分/mgであることが示された。
【0098】
温帯気候帯で収集した上壌細菌で予測したように、最大酵素活性は30℃付近の温度で観察された。酵素系の最適pHはpH6.5からpH7.5までであったが、酵素の一定の試料を用いた活性は使用したpH緩衝系の型に強く依存した。トリス緩衝液の存在下での活性は、同じpHでは、リン酸緩衝液を用いた場合に比べ少なくとも40%低かった。ジカンバO−デメチラーゼの3成分により触媒される反応に対する反応スキームを図1に示す。NADHからの電子は、レダクターゼとフェレドキシンからなる短い電子連鎖を介して、末端のジカンバの酸化を触媒するオキシゲナーゼのところまで往復する。ジカンバO−デメチラーゼと幾つかの多成分ジオキシゲナーゼ間の類似性から、ジカンバO−デメチラーゼが、隠れたジオキシゲナーゼ活性を有する可能性が示唆される。しかしながら、この酵素は、O2を分割し、酸素の1つの原子を主要基質内に組込み、他の1つをα−ケ
トグルタル酸塩などの小さな有機基質に組み込むジオキシゲナーゼのクラスのものではないことは、明らかであるフクモリ及びハウシンガー(Hukumori、Hausinger)1993、
生物・化学ジャーナル268:24311−24317。実際、高精製レダクターゼDIC
、フェレドキシンDIC及びオキシゲナーゼDICが活性を示すのに必要とするのはO2、NA
DH、Mg2+及びジカンバのみである。
実施例2
シュードモナス・マルトフィリアDI−6のジカンバO−デメチラーゼのオキシゲナーゼの遺伝暗号を指定するクローンの同定と配列決定 実施例1で述べたように、オキシゲ
ナーゼDICのN−末端アミノ酸配列の最初の29のアミノ酸は以下のように決定されてい
る括弧内の残基は最も良い推測である:Thr Phe Val Arg Asn Ala Trp Tyr Val Ala Ala Leu Pro Glu Glu Leu Ser Glu Lys Pro Leu Gly Arg Thr Ile Leu Asp (Asp またはThr) (Pro) [配列番号1]
この配列により、オペロン、アラミダ、CAにより合成された縮重オリゴヌ クレオチ
ドプローブの設計が可能となった。特に、それぞれが17ヌクレオチ ドの長さを持ち、
以上でとりわけ強調したアミノ酸配列の遺伝暗号を指定する ことができる可能なヌクレ
オチド配列の全てを含む32プローブの混合物を使 用した。オリゴヌクレオチドプロー
ブは、ボエーリンガー マンハイム (Boehringer Mannheim)、インディアナポリス、IN
により提供された指示に 従い、ジゴキシゲニン(DIG)を用いて3’−端標識した。
【0099】
まず、DIG−標識プローブは、制限酵素の様々な組み合わせで切断され、1%のアガロースゲル上で分離し、ナイロンフィルタに密着印画されていたシュードモナス・マルトフィリアDI−6ゲノムDNAとハイブリッド形成させた。これらの結果を基に、サイズ−分別ゲノムライブラリーをpブルースクリプト(Bluescript)II Ks+ベクター内
で構成し、大腸菌DH5αコンピテント細胞に変換した。ゲノムライブラリーは1−2kb Xho I/Hind III断片を含んでいた。DIG−標識オリゴヌクレオチドプ
ローブは、ナイロンフィルタ上の縞状の細菌コロニー列とハイブリッド形成させた。プラスミドDNAを陽性コロニーから単離しサブクローン化した。各サブクローンの両方のストランドの配列決定を、ネブラスカ−リンカンの大学でDNA配列決定設備を用いて行った。DIG−標識プローブのハイブッド形成及び検出は、ボアリンガーマンハイムが提示したプロトコルに従って行った。
【0100】
オキシゲナーゼDICの遺伝暗号を指定するゲノムDNAクローンを同定した。ヌクレオ
チド配列及び導き出した全オキシゲナーゼDICのアミノ酸配列を以下の配列表にそれぞれ
、配列番号SEQ ID NO:3及び配列番号SEQ ID NO:4として示す。
【0101】
このクローンのヌクレオチド配列から導き出したアミノ酸配列と、スイスタンパク質データベースのタンパク質配列のアミノ酸配列との比較から、他のオキシゲナーゼに対する相同性が見られた。相同性はGCGソフトウエアパッケージのFASTAプログラムを用いて決定した。最も強い相同性は(シュードモナス・sp.ATCC株19151からの)バニレートデメチラーゼのオキシゲナーゼ成分との間にあり、33.8%の同一性を示した。
実施例3
シュードモナス・マルトフィリアDI−6のジカンバO−デメチラーゼのフェレドキシンの遺伝暗号を指定するクローンの同定と配列
実施例1で述べたように、フェレドキシンDICのN−末端アミノ酸配列の最初の20ア
ミノ酸は以下のように決定された:
Thr Tyr Val Val Thr Asp Ala Xaa Ile Lys Xaa Lys Tyr Met Asp Xaa Val Glu Val Xaa [配列番号2] この配列により縮重オリゴヌクレオチドプローブの設計が可能となった。特に、それぞれが17ヌクレオチドの長さを持ち、以上でとりわけ強調した(XaaをCysとする)アミノ酸配列の遺伝暗号を指定することができる可能なヌクレオチド配列の全てを含む16プローブの混合物を使用した。
【0102】
DIG−標識プローブを使用して、ゲノムライブラリーが2−3 Kb Xho I/E
co RI断片を含むこと以外は実施例2で説明した様に、ゲノムライブラリーのスクリ
ーニングを行った。フェレドキシンDICクローンのヌクレオチド配列及び導き出した全フ
ェレドキシンDICのアミノ酸配列を以下の配列表にそれぞれ、配列番号SEQ ID NO
:5及び配列番号SEQ ID NO:6として示す。
【0103】
このクローンのヌクレオチド配列から導き出したアミノ酸配列と、スイスタンパク質データベースのタンパク質配列のアミノ酸配列との比較を、GCGソフトウエアパッケージのFASTAプログラムを用いて行った。この比較により、シュードモナス・スツツェリ、シュードモナス・プチダ、ロドバクター・キャプシュラツス、アゾトバクター・ビネランジイ及ロドスピルム・ルブルムからのフェレドキシンを含む他のフェレドキシンに対する強い相同性が見られた上記実施例1における考察を参照のこと。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカンバ−分解オキシゲナーゼをコードするDNA配列を含むDNA分子であって、
前記ジカンバ−分解オキシゲナーゼは、
(a)配列番号4のアミノ酸配列を有するジカンバ−分解オキシゲナーゼ、および
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有するオキシゲナーゼ内の1つまたは2つのアミノ酸が付加、削除、または置換されたジカンバ−分解オキシゲナーゼと、
からなる群より選択される、DNA分子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−187673(P2010−187673A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38572(P2010−38572)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【分割の表示】特願2008−211702(P2008−211702)の分割
【原出願日】平成10年4月3日(1998.4.3)
【出願人】(508221224)ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ネブラスカ (10)
【Fターム(参考)】