説明

遺伝子導入材料及び培養容器

【課題】核酸の担持量が多く、優れた遺伝子導入活性を示し、かつ培養容器の表面に付着させることができる遺伝子導入材料、及びこの遺伝子導入材料を容器の内面に付着させた培養容器を提供する。
【解決手段】核酸と、ポリマー材料とからなる遺伝子導入成分を含む遺伝子導入材料において、該ポリマー材料は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする分岐鎖を複数本有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であり、該ポリマー材料と該核酸とのカチオン/アニオン比が1/0.7〜1/1.2であることを特徴とする遺伝子導入材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤と核酸とを含んでなる遺伝子導入材料、及びこの遺伝子導入材料を付着させた培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ付随ウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。本出願人らは、前述の合成高分子ベクターとして、ベンゼンなどの芳香環を核として分岐鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを見出し、先に特許出願した(特許文献1)。
【0004】
本出願人らはまた、前記特許文献1に記載の遺伝子導入剤が、所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であるという性質を利用し、この遺伝子導入剤を容器の内面に付着させた培養容器を提案した(特許文献2)。この特許文献2では、遺伝子導入剤の疎水性を利用して容器内面に遺伝子導入剤を長期に亘り付着させることが可能であるが、この遺伝子導入剤は、分岐鎖の電気的な親和力により核酸を凝集するのではなく、遺伝子導入剤の疎水性により核酸を凝集するため、担持できる核酸の量が十分ではない。
【0005】
本出願人らは、より多くの核酸を担持することができる遺伝子導入剤として、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに対して、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合してなる遺伝子導入剤について特許出願した(特許文献3)。
【0006】
この特許文献3に記載される遺伝子導入剤は、分岐鎖を構成する2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体が、僅かながらカチオン性を備えるため、このカチオン性の2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位が、核酸との結合に寄与し、核酸担持量を多くすることができる。また、分岐鎖が感温性を有していることから、温度を調整することにより、遺伝子導入剤を疎水性に変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−195681号公報
【特許文献2】特開2008−194003号公報
【特許文献3】特願2009−227405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載の遺伝子導入剤は、分岐鎖を構成する2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体が有するカチオン性により、核酸を十分に担持することができ、良好な遺伝子導入活性を示すと共に、分岐鎖の感温性により遺伝子導入剤を疎水性に変化させることができるため、培養容器に付着させることも可能であるが、培養容器への付着量が十分ではない。
【0009】
即ち、分岐鎖を構成する2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体は、常温の水溶液中において容易に加水分解される。従って、この遺伝子導入剤を疎水性に変化させ培養容器の表面に付着させても、分岐鎖が加水分解されることにより、分子全体が親水性に変化してしまうため、遺伝子導入剤が培養容器の表面から剥がれて培養液中に溶解してしまう。
【0010】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、核酸の担持量が多く、優れた遺伝子導入活性を示し、かつ培養容器の表面に付着させることができる遺伝子導入材料、及びこの遺伝子導入材料を容器の内面に付着させた培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位の加水分解を抑える方法について検討を重ねた結果、この2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを構成単位とする遺伝子導入剤と、核酸とを所定の割合で混合することにより、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位の加水分解を制御することが可能であることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
本発明(請求項1)の遺伝子導入材料は、核酸と、ポリマー材料とからなる遺伝子導入成分を含む遺伝子導入材料において、該ポリマー材料は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする分岐鎖を複数本有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であり、該ポリマー材料と該核酸とのカチオン/アニオン比が1/0.7〜1/1.2であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の遺伝子導入材料は、請求項1において、前記分岐鎖1本当りの2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体単位の分子量が、該分岐鎖1本当りの分子量の90%以上であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の遺伝子導入材料は、請求項1又は2において、前記分岐鎖は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体単位のみからなることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の遺伝子導入材料は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記遺伝子導入成分を含む水溶液であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項5の遺伝子導入材料は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリマー材料は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項6の遺伝子導入材料は、請求項5において、前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とするものである。
【0019】
請求項7の遺伝子導入材料は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ポリマー材料の分子量は、5,000〜500,000であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項8の遺伝子導入材料は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記遺伝子導入成分は、所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項9の遺伝子導入材料は、請求項8において、前記所定温度(T)は、25〜37℃の間の温度であることを特徴とするものである。
【0022】
本発明(請求項10)の培養容器は、培養液が接する容器内面に、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の遺伝子導入材料を付着させたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体(以下、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又は誘導体を、単に、「DMAEM」と略記する場合がある。)を重合主成分とする分岐鎖を複数本有する分岐型重合体からなるポリマー材料と、核酸とのカチオン/アニオン比を1/0.7〜1/1.2とすることにより、分岐鎖中のDMAEM由来の構成単位(以下、「DMAEM単位」と称す場合がある。)の加水分解を抑制することができ、若干のカチオン性を有するDMAEMを構成単位とし、核酸の担持効率に優れたポリマー材料を遺伝子導入材料に適用することが可能となる。
【0024】
なお、所定の比で混合した場合には、分岐鎖のDMAEM単位と核酸との電気的な親和力により、DMAEM単位の近傍に核酸が存在するようになり、この核酸が水分子の接近を阻害し、結果として、加水分解が生じにくくなることが考えられる。
【0025】
本発明において、前記分岐鎖1本当りのDMAEM単位の分子量は、該分岐鎖1本当りの分子量の90%以上であることが好ましく(請求項2)、特に、前記分岐鎖が、DMAEM単位のみからなることが好ましい(請求項3)。分岐鎖に含まれるDMAEM単位の量が多いほど、分岐鎖のカチオン性が高くなるため、アニオン性である核酸との親和性が向上し、ポリマー材料の核酸担持量が増加する。
【0026】
本発明の遺伝子導入材料は、ポリマー材料と核酸との複合体である遺伝子導入成分を水に溶解させた水溶液とすることができ(請求項4)、このような遺伝子導入材料であれば、有機溶媒を不使用として細胞に与える影響を低減させることができる。
【0027】
本発明で用いるポリマー材料は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともDMAEMを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましく(請求項5)、このN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合しているものが好ましい(請求項6)。
【0028】
また、本発明で用いるポリマー材料の分子量は5,000〜500,000であることが好ましい(請求項7)。ポリマー材料の分子量がこの範囲内であれば、核酸の担持量を十分なものとすると共に、遺伝子導入材料の培養容器などに対する付着性を高めることができる。
【0029】
本発明に係る遺伝子導入成分は、所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることが好ましく(請求項8)、この所定温度(T)としては、25〜37℃の間の温度であることが好ましい(請求項9)。
【0030】
本発明(請求項10)の培養容器は、本発明の遺伝子導入材料がコーティングされた培養容器であり、遺伝子導入材料の付着性、長期安定性に優れるため、優れた遺伝子導入活性を長期間に亘って持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】6分岐型重合体溶液の温度と光透過率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0033】
[遺伝子導入材料]
本発明の遺伝子導入材料は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体(DMAEM)を重合主成分とする分岐鎖を複数本有するポリマー材料と、核酸とを含むものであって、該ポリマー材料と核酸とのカチオン/アニオン比(以下、この比を単にC/A比という場合がある。)が1/0.7〜1/1.2であることを特徴とするものである。
【0034】
本発明によれば、前述の通り、DMAEMに由来する構成単位の加水分解を抑制することができ、これにより、遺伝子導入材料が疎水性を示すようになるため、培養容器の表面に長期に亘り安定に付着させることが可能となる。また、カチオン性のDMAEM単位により、十分量の核酸を安定に担持することができる。
【0035】
<遺伝子導入成分>
本発明に係る遺伝子導入成分を構成するポリマー材料と核酸とのカチオン/アニオン比は、1/0.7〜1/1.2、特に1/0.8〜1/1.1程度が好ましい。この比が上記範囲外である場合には、ポリマー材料中のDMAEM単位の加水分解を十分に抑制することができない。また、核酸の配合量が少ない場合には、細胞に対して十分に遺伝子を導入することができず、核酸の配合量が多すぎると製造コストが上昇する。ポリマー材料と核酸とのC/A比を上記範囲内とすることにより、DMAEM単位の加水分解を抑制した上で、十分な遺伝子導入活性を得ることが可能である。
なお、本発明において、C/A比とは、6分岐型重合体のカチオン(DMAME単位)のモル数と、核酸のアニオン(リン酸残基)のモル数との比を意味する。
【0036】
本発明において、遺伝子導入材料中のポリマー材料の濃度は、0.001〜1.0重量%、特に0.01〜0.1重量%程度が好ましい。遺伝子導入材料中のポリマー材料の濃度が上記下限よりも低い場合には、培養容器などに対して均一に塗布することができず、上記上限よりも濃度が高い場合には、ポリマー材料と核酸とを前述の重量比で混合しても、DMAEM単位の加水分解を抑制することができない。
【0037】
前記遺伝子導入成分を調製するには、ポリマー材料の低温の水溶液に対して核酸を添加して混合し、ポリマー材料に核酸を担持させればよい。
【0038】
ここで、遺伝子導入成分の調製に用いる水溶液、或いは、本発明の遺伝子導入材料が遺伝子導入成分を含む水溶液である場合の該水溶液の種類としては、生理食塩水、水(ミリQ水などの超純水など)、りん酸緩衝溶液、HEPES緩衝溶液、炭酸緩衝溶液、グッドバッファーなど当業者に周知のものが使用可能であるが、生理食塩水やりん酸緩衝溶液が好適であり、緩衝溶液のうち、りん酸緩衝溶液のうち、トリス緩衝溶液を使用する際は低濃度(例えば10mM以下、具体的には1〜5mM)で使用することが好ましい。
【0039】
前記所定濃度でポリマー材料と核酸とを混合させてなる遺伝子導入成分は、所定温度(T)よりも低温では親水性となり、所定温度(T)よりも高温では疎水性を示すようになる。この所定温度(T)としては、25〜37℃、特に30〜35℃が好ましい。
【0040】
前記所定温度が30℃である場合には、30℃よりも低い温度、例えば10〜25℃程度の遺伝子導入材料の水溶液を培養容器などに塗布などにより付着させ、30℃よりも高い温度に昇温させ、必要に応じ乾燥させることにより、水不溶性の、核酸を担持したコーティングが形成される。
【0041】
≪ポリマー材料≫
本発明において用いるポリマー材料は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに少なくともDMAEMを光照射リビング重合させたものが好ましい。
【0042】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0043】
イニファターとなるN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0044】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
【0045】
イニファターと上記DMAEMとを反応させるには、イニファター、及びDMAEMを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、DMAEMが結合した反応生成物を生成させる。
【0046】
該原料溶液中のDMAEMの濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適であり、イニファターの濃度は1〜20mM程度が好適である。
【0047】
照射する光の波長は250〜400nmが好適であり、例えば蛍光灯、ショートアークキセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜90分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1〜60分程度が特に好適である。市販の蛍光灯を用いて光照射を行う場合には、1〜100時間程度光照射を行うことが好ましい。
【0048】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製することにより、分岐鎖部分にDMAEM単位よりなるポリマー鎖が導入され、分岐鎖の末端がN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であるホモポリマーを得る。
【0049】
このポリマー材料の分岐鎖の1本当たりの分子量としては、100〜60,000程度、特に200〜30,000程度が好ましい。この分子量は、光照射の時間を制御することにより調整することができる。即ち、反応時間を長くすることにより、重合反応を進行させて分子量の大きい分岐型重合体を得ることができる。
【0050】
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
【0051】
ポリマー材料の分岐鎖は、前述のDMAEMをモノマーとする1種のモノマーのみからなるホモポリマーであることが好ましいが、DMAEMとDMAEMとは異なる1種以上のモノマーを導入したブロックコポリマー又はランダムコポリマーであってもよい。
【0052】
この場合の他のモノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、4−N,N-ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマーが挙げられ、特に、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH等のカチオン性ビニル系モノマーが好ましい。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
イニファターとDMAMEとDMAEMとは異なるモノマーとを反応させるには、前述のイニファターとDMAEMとを反応させる場合と同様に、イニファター、DMAEM、及びDMAEM以外のモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、DMAEM及びDMAEM以外のモノマーが結合したランダムコポリマーを得る。
【0054】
また、上記イニファターに対し、まず、DMAEMをブロック重合させて、ホモポリマーを形成し、その後、このホモポリマーに3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをブロック重合させ、分岐鎖の基端側をDMAEMのブロックポリマー、分岐鎖の先端側を3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドブロックポリマーで構成した分岐鎖としてもよい。このように、分岐鎖を2種類以上のモノマーのブロックコポリマーとする場合、イニファターに対する重合の順序は任意である。
いずれの場合も分岐鎖の末端は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基となる。
【0055】
前記のように、DMAEMとDMAEM以外のモノマーとを反応させた場合には、分岐鎖1本当りのDMAEM単位の分子量が、当該分岐鎖1本当りの分子量の90%以上、特に95〜100%となるようにするのが好ましい。DMAEM単位はカチオン性であるため、分岐鎖に含まれるDMAEM単位が多いほど、ポリマー材料とアニオン性である核酸との親和性が高くなり、核酸担持量を高めることができ、遺伝子導入材料の遺伝子導入活性が向上する。
【0056】
また、本発明において、ポリマー材料は核酸の担体として機能すると共に、培養容器等への付着のためのアンカーとして機能することから、ポリマー材料の分岐型重合体の分岐鎖は多い方が好ましく、分岐鎖は4本以上、特に6本であることが好ましい。
【0057】
また、ポリマー材料の分子量としては、上記機能を有効に得る上で5,000〜500,000程度、特に25,000〜150,000程度が好ましい。
【0058】
≪核酸≫
核酸としては、各種siRNA、アンチセンス、デコイや単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子)、p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子、IL−2遺伝子、IL−4遺伝子、HLA−B7/IL−2遺伝子、HLA−B7/B2M遺伝子、IL−7遺伝子、GM−CSF遺伝子、IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100、MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が利用できる。また、VEGF遺伝子、HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス、c−mybアンチセンス、cdc2キナーゼアンチセンス、PCNAアンチセンス、E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が利用できる。
【0059】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0060】
[培養容器]
培養容器としては、シャーレ、フラスコ、培養プレート(マルチウェルプレート)などが例示される。その材質は、合成樹脂、ガラス、金属などのいずれでもよい。本発明の遺伝子導入材料を培養容器などに適用する場合、培養容器の表面に本発明の遺伝子導入材料を0.7ng/mm〜70μg/mm程度の密度で付着させるのが好ましい。
【0061】
培養容器などに遺伝子導入材料を付着させる方法としては、後述の実施例に記載の方法を挙げることができるが、培養容器に遺伝子導入材料をピペッティングした後、培養容器を温和に上下左右に転倒させて容器内面全体に流延させることにより付着させ、次いで30〜40℃で10〜100分程度インキュベートする方法でもよい。この方法を採用する場合、前述のインキュベートを行った後に無菌雰囲気下で乾燥させても良く、インキュベートを省略して無菌雰囲気下で乾燥させても良い。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(1) イニファターの合成(6分岐型)
イニファターとしての1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0064】
1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gとをエタノール100mL中へ加え、遮光下、室温で4日間撹拌した。沈殿物を濾過し、3Lのメタノール中に投入して30分間撹拌した後、濾過した。この操作を繰り返し合計4回行った。沈殿物をクロロホルム200mLに溶解させた後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、熱濾過後、冷蔵庫内で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。この結晶を高速液体クロマトグラフィーで分析し、結晶中に原料が含まれていないこと、及び結晶が単一物質であることを確認した。
【0065】
H−NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,36H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,12H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,12H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,12H,Ar−CH)であった。
【0066】
【化1】

【0067】
(2) 6分岐型重合体の合成
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートをモノマーとして用い、1,2,3,4,5,6−ヘキサキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)メチル]ベンゼンの合成を行った。
【0068】
上記(1)により合成した1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン46.0mgを20mLのクロロホルムに溶解し、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート8.0gを加えて混合し、全量をクロロホルムで50mLに調整した。1mm厚軟質ガラスセル中で激しく撹拌しながら高純度窒素ガス(G1グレード、流量:2L/min)で10分間パージした後、丸管形ブラック蛍光灯(O字形)(東芝製:FCL30BL)の環の内側に前記ガラスセルとマグネットスターラーを配置し、ガラスセルの側面の全周方向から蛍光灯の光を96時間照射した。光照射後の溶液の色は薄い黄色であった。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、n−ヘキサンをデカンテーションした後、沈殿物をクロロホルムに溶解した。溶媒をエバポレーター留去し、フラスコの内壁面にフィルムを形成した。ジエチルエーテル/n−ヘキサン(v/v:1/1)の混合溶液で前記フィルムを洗浄することにより精製し、目的とする6分岐型重合体を得た。GPCにより、この重合体のポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量を測定したところ、26,000(Mw/Mn=2.0)であった。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量を求めたところ、4159であった。
【0069】
【化2】

【0070】
(3) 曇点の評価
上記(2)で合成した6分岐型重合体20mgを水に溶解させ、溶解させた直後(実験例1)、溶解から1時間後(実験例2)、3時間後(実験例3)、5時間後(実験例4)、及び24時間後(実験例5)の溶液の30〜40℃における光透過率を測定することにより前記重合体の曇点(LCST)を求めた。結果を図1に示す。
【0071】
全ての実験例において、温度の上昇により溶液が白濁したことから、前記重合体が温度感応性を備えていることが分かる。また、溶解させてから測定までの保持時間に比例して曇点が上昇したこと、及び時間の経過と共に溶液中に揮発性の低分子量アミン化合物が生成していたことから、経時的に6分岐型重合体中の2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位が、水溶液中で加水分解され、脱溶媒和の性質が徐々に失われることが分かる。
【0072】
(4) 核酸複合体(遺伝子導入成分)の調製
上記(2)で合成した6分岐型重合体と、ホタルルシフェラーゼをコードするDNA(プロメガ社:pGL3−Control)とを水溶液中で混合して複合体の形成を行った。6分岐型重合体の溶液として、濃度が1.6μg/100μLである水溶液を調製した。また、核酸(DNA)溶液として、濃度が1.5〜15.0μg/100μLである水溶液をそれぞれ調製した。前記6分岐型重合体水溶液と、各DNA水溶液とを混合し(実験例6〜11)、混合直後から24時間後まで経時的に30〜45℃における光透過率を測定し、曇点を求めた。
【0073】
各混合液の6分岐型重合体の濃度、DNA濃度、C/A比及び混合から5時間後及び24時間後の曇点を表1に示す。なお、6分岐型重合体溶液中のカチオンのモル数は、溶液に含まれる6分岐型重合体のモル数に下記6分岐型重合体1モル当りのカチオンの数を掛けることにより求めることができ、また、DNA溶液中のアニオンのモル数は、溶液中のDNAの重量をその分子量で除して求めることができる。なお、DNAの分子量は、遺伝子マップの情報から得られる塩基対の数と塩基対の平均分子量(660)より求めることができる。つまり以下の通りである。
<6分岐型重合体1モル当りのカチオン(DMAEM単位)の数>
6分岐型重合体の数平均分子量 : 26,000
イニファターの分子量 : 1046
DMAEM単位(1分子当り)の分子量 : 157
(26,000−1046)/157=159(カチオン(DMAEM単位)の数)
<DNA(pGL3)の分子量>
pGL3の塩基対 : 5256bp
塩基対の平均分子量 : 660
5,256×660≒3,470,000
【0074】
【表1】

【0075】
実験例6では、曇点が調製直後から徐々に上昇し、5時間後には35℃、24時間後には42℃まで上昇した。
実験例7では、混合後に非常に緩やかに曇点が上昇した。5時間後の曇点は33.5℃、24時間後の曇点は35.5℃であり、一般的な培養温度である37℃まで上昇しなかった。
実験例8では、調製直後から24時間後までの間で曇点の変化がほとんどなく、33.0℃付近で一定であった。
実験例9では、曇点にほとんど変化がなく、24時間後の曇点は32.3℃であった。
実験例10では、混合直後から曇点が上昇し、5時間後の曇点が40.0℃、24時間後の曇点が42.0℃であった。これは、前述の加水分解によるものではなく、調製液中のDNAの比率が高くなり、DNAのアニオン性電荷の効果により、6分岐型重合体自体の性質が発現しにくくなったためであると考えられる。
実験例11では、6分岐型重合体の温度感応性の性質が確認できず、42℃以上でも安定して水に分散していた。
【0076】
以上より、6分岐型重合体の濃度が1.6μ/100μLの場合、DNAの濃度が2.5〜4.5μg/100μLの範囲、即ち、C/A比が1/0.7〜1/1.2であると、混合から24時間後でも曇点に大きな変化がない。これは、DNAが、6分岐型重合体の分岐鎖の近傍に存在し、水分子の接近による加水分解を抑制するためであると考えられる。
【0077】
(5) 核酸複合体の調製と培養皿へのコーティング、及び遺伝子導入活性の評価
上記(2)で合成した6分岐型重合体1.6μgを生理食塩水へ溶解し、全量を60μLとした。一方、前記DNA(pGL3)3.0μgを希薄(1.0mM程度)なTE緩衝溶液へ溶解し、全量を90μLとした後、この溶液を速やかに前記重合体溶液に滴下することにより6分岐型重合体とDNAとを複合させた。この混合溶液を24Well培養皿へ25μLずつ分注し、転倒混和してWell表面になじませ、37℃で3分間インキュベートし、37℃のPBSで1回リンスした。
【0078】
この培養皿の各WellにCOS−1細胞の浮遊液(6×10個/mL)を1mLずつ播種し、48時間培養した。培養48時間後に培地を除去し、PBSで2回洗浄後に各Wellに細胞溶解剤200μLを加え、4℃で30分間放置し、超遠心処理で不溶物を沈殿させて上澄を遺伝子導入活性評価用の試料とした。遺伝子導入活性の評価はルシフェラーゼアッセイで行った。ホタルルシフェラーゼ活性はプロメガ社のルシフェラーゼアッセイキットを使用し、補正はタンパク濃度で行った。タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行い(実施例1)、後述の比較例1と比較した。
【0079】
(6) イニファターの合成(4分岐型)
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0080】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下室温で4日間撹拌した。沈殿物を濾過し、3Lのメタノール中に投入して30分間撹拌した後、濾過した。この操作を繰り返し合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、熱濾過後、冷蔵庫内で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後、大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥し、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。この結晶を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、結晶中に原料が含まれていないこと、及び結晶が単一物質であることを確認した。
【0081】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)であった。
【0082】
【化3】

【0083】
(7) 4分岐型重合体の合成
(7−1) 下記手順に従い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)メチル]ベンゼン(1次ポリマー)の合成を行った。
【0084】
上記(6)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、N−イソプロピルアクリルアミド3.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく撹拌しながら高純度窒素ガス(G1グレード,流量2L/min)で10分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で波長250〜400nmの混合紫外線を20分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に真空乾燥することにより、目的とする4分岐型重合体の1次ポリマーを得た。GPCにより、この重合体のポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量を測定したところ、35,000(Mw/Mn=1.6)であった。また、分岐鎖1本当たりの分子量を計算により求めたとこと、8,500であった。
【0085】
【化4】

【0086】
(7−2) 下記の手順に従い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)メチル]ベンゼンの合成を行った。
【0087】
上記(7−1)で合成した1次ポリマー1.0g及び3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド7.9gを約30mlのメタノールへ溶解させた。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく撹拌しながら高純度窒素ガス(G1グレード,流量2L/min)で10分間パージした後に、前記(7−1)と同じ装置を用いて40分間光照射を行った。重合体をクロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返し、エーテルを蒸散させた後、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて目的とする4分岐型重合体(2次ポリマー)を得た(重合率28%)。GPCによりこの重合体のポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量を測定したところ、83,000(Mw/Mn=2.6)であった。また、計算により、分岐鎖1本当たりの分子量は、20,500であることが分かった。
【0088】
以上の手順により、ベンゼンを中心核として放射状にN−イソプロピルアクリルアミドのポリマーブロック(分子量35,000)と3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのポリマーブロック(分子量48,000)とが導入された4分岐型重合体を合成した。
【0089】
【化5】

【0090】
(8) 4分岐型重合体と核酸との核酸複合体の調製と培養皿へのコーティング、及び遺伝子導入活性の評価
前記(7)で合成した4分岐型重合体を10℃の水へ溶解し、0.2μmシリンジフィルターで濾過した後、濃度を0.1mg/mLに調整した。この重合体溶液を24Well培養皿の各Wellへ200μLずつ加えて軽く転倒振盪し、底面の全面に溶液を流延した。これを37℃、5%炭酸ガス濃度の培養器へ移し、5分間インキュベートし、37℃のPBSで軽くリンスして廃液した。ここに37℃に温調したDNA溶液(0.5μL/mL)を各Wellへ1mLずつ加えて37℃で3分間インキュベートした。ここへCOS−1細胞を6×10個/mLに調整して播種し、48時間培養した。DNAは実施例1と同じものを用いた。
【0091】
培養48時間後に培地を除去し、PBSで2回洗浄後に各Wellに細胞溶解剤200μLを加え4℃で30分間放置し、遺伝子導入活性評価用の試料とした。遺伝子導入活性の評価は、実施例1と同様の評価方法で行った(比較例1)。
【0092】
(9) 評価結果及び考察
実施例1における遺伝子導入活性は、比較例1の遺伝子導入活性の10倍以上であった。比較例1においては、4分岐型重合体の分岐鎖中に、DNAの担持に寄与しないポリマーブロックが存在していたことから、基材表面がミクロ的には不均質になり、DNAの供給に寄与することができないスポットが存在したためであると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸と、ポリマー材料とからなる遺伝子導入成分を含む遺伝子導入材料において、
該ポリマー材料は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする分岐鎖を複数本有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤であり、
該ポリマー材料と該核酸とのカチオン/アニオン比が1/0.7〜1/1.2であることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項2】
請求項1において、前記分岐鎖1本当りの2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体単位の分子量が、該分岐鎖1本当りの分子量の90%以上であることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記分岐鎖は、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体単位のみからなることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記遺伝子導入成分を含む水溶液であることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリマー材料は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項6】
請求項5において、前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ポリマー材料の分子量は、5,000〜500,000であることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記遺伝子導入成分は、所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項9】
請求項8において、前記所定温度(T)は、25〜37℃の間の温度であることを特徴とする遺伝子導入材料。
【請求項10】
培養液が接する容器内面に、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の遺伝子導入材料を付着させた培養容器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−44986(P2012−44986A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162269(P2011−162269)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】