説明

遺伝子操作に由来するヒト血清アルブミンの精製方法

【課題】遺伝子操作により得られるヒト血清アルブミン(rHSA)の精製方法であり、高純度で、着色成分が十分除去されたrHSAを高収率、短時間に取得しうる簡易な方法を提供する。
【解決手段】rHSA産生宿主の培養液を宿主菌体を含んだまま加熱処理し、該加熱処理液を吸着体粒子が浮遊する流動床に上方送液して接触させた後、下降法により吸着画分を回収することを特徴とするrHSAの精製方法。また、25% 溶液のA350/A280 が0.015以下であることを特徴とする、rHSA含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子操作によって得られるヒト血清アルブミンの簡易でかつ高収率な精製方
法に関する。また、本発明は遺伝子操作由来のHSAに特有の問題である着色度に関し、
当該着色度が極めて低いことを特徴とする遺伝子操作由来のヒト血清アルブミン含有組成
物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト血清アルブミン(以下、HSAという)は血漿中に最も多く含まれている蛋白質で
、血液中で浸透圧の維持、栄養物質や代謝物質と結合してその運搬などの機能を果たして
いる。かかる機能を有するHSAは、アルブミンの喪失及びアルブミン合成低下による低
アルブミン血症、出血性ショックなどを治療する医薬品として用いられている。
【0003】
従来より、HSAは主として採取した血液の分画からの産物として製造されている。し
かし、血液を原料とするHSAの製造法は、血液供給の困難性、不経済性、および肝炎ウ
イルスのように好ましくない物質混入のおそれ等の欠点を有しており、代替の原料の開発
が望まれている。
【0004】
このような状況下、組換DNA技術の出現に伴い、血液由来のHSAに替わるべく、遺
伝子操作によるHSAの大量生産および精製の技術が確立されつつある。
遺伝子操作により得られるHSA(本発明において、遺伝子操作由来HSAという。な
お以下、rHSAと略称する。)の精製について、従来の血漿由来のHSAに関する精製
方法をそのまま適用することは不適切である。というのも、除去すべき夾雑成分が血漿由
来のHSAとは全く異なっているからである。例えば、遺伝子操作由来のHSAに特有の
着色物質、宿主細胞に由来する蛋白質、多糖類もしくはその他の夾雑成分などである。特
に宿主細胞に由来する成分は、ヒトなどの生体にとって異物であるため抗原性の問題から
これらの成分を十分除去する必要がある。
このため、培養処理により産生されたrHSAを宿主細胞に由来する成分および培養成
分等から、十分な精度をもって単離・精製する方法が各種研究されている。例えば、従来
行われている方法としてrHSAを含有する酵母培養液を、圧搾→限外濾過膜処理→加熱
処理→限外濾過膜処理に供した後、陽イオン交換体、疎水性クロマト、陰イオン交換体の
カラムクロマトグラフィー処理等の工程に供する方法(特許文献1、非特許文献1)が挙
げられる。また、上記従来法の後で、さらにキレート樹脂処理またはホウ酸・塩処理の工
程に供する方法も報告されている(特許文献2、3)。
【0005】
従来法による上記数工程からなる精製処理は、宿主細胞に由来する抗原を除去し高い精
製度を担保するため不可欠である一方、多工程を経ることによるrHSAの収率の低下、
処理時間の長期化等の欠点を有している。rHSAの収率を上げるため各工程の歩留向上
が図られてはいるが、もはや改善しつくした感があり収率の向上も頭うち状態となってい
る。また、上記従来法では圧搾処理を開放系で行うことにより汚染物が混入するおそれが
あり、rHSAを医薬品として調整する場合に必須である衛生管理が難しい等の問題があ
る。また、従来法に基づく精製法では、rHSAの着色度を、rHSA濃度として250
mg/mlに調製したものの場合でA350 /A280 =約0.015程度までに低減させる
ことが限度であった(特許文献4、5)
【0006】
ところで、最近、培養後の菌体細胞の除去や濃縮操作等の前処理を行わず、クルードな
培養原液から直接目的のタンパク質を回収する方法が開発されている〔ファルマシア社が
開発している吸着流動床技術(Expanded Bed Adsorption)を用いたストリームライン法な
ど(特許文献6)〕。
今までこのような吸着流動床技術がrHSAの精製、特に酵母培養液からrHSAを回
収・精製するために応用された例はなく、実際にこの方法がrHSA精製の合理化、収量
アップを図るのに有用であるか等についてはまったく知られていない。しかし、rHSA
についてもこの方法ないしはこれに準ずる方法が適用できれば、従来行われている数工程
からなる精製処理を簡略化することができるものと考えられる。
【0007】
ところが、上記方法で用いられるストリームラインカラム(吸着体:ストリームライン
SP)等への吸着条件である酸性下では、培養液中のプロテアーゼにより該培養液に含ま
れるrHSAが速やかに低分子化されてしまいrHSAの収率が著しく低下するという問
題があって、rHSAの精製に上記吸着流動床技術をそのまま用いることは困難であった
。そこで、吸着流動床技術の精製工程の簡略,簡便化等というメリットを減殺することな
く、rHSAを安定な状態で、高い収率をもって高度精製を図る方法の開発が望まれる。
【特許文献1】特開平5−317079号公報
【特許文献2】特開平6−56883号公報
【特許文献3】特開平6−245789号公報
【特許文献4】特開平7−170993号公報
【特許文献5】特開平7−170994号公報
【特許文献6】特表平6−500050号公報
【非特許文献1】Biotechnology of Blood Proteins. 1993, Vol. 227, 293-298
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、遺伝子操作により得られるHSAの精製方法に関し、純度の高い高品
質のrHSAを高収率でかつ短時間に取得しうる簡易な方法を提供することである。また
、本発明の課題は遺伝子操作によって得られ、かつ産生宿主または培地等に由来する遺伝
子操作特有の着色成分が十分除去されたrHSA、及びrHSA含有組成物を提供するこ
とである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねていたところ、rHSA産生宿主
の培養液を宿主細胞を含んだまま直接加熱することで簡単かつ有効にプロテアーゼを不活
性化させることができることを見出した。さらにこの知見をもとに該加熱処理液を、菌体
細胞を除去することなく直接流動床中に浮遊する吸着体粒子と接触処理したところ、高い
収率で簡便にrHSAが精製できることを見出した。また、当該加熱処理と吸着体粒子処
理を組み合わせることにより、従来のrHSA精製法である圧搾−限外濾過膜処理−加熱
処理−限外濾過膜処理−陽イオン交換体処理からなる5工程が加熱処理−吸着体粒子処理
からなる2工程に簡素化でき、精製工程時間が大幅に短縮できるとともに回収率も向上す
ることを確認して本発明を完成した。さらに、当該方法を用いることにより、宿主細胞に
由来する夾雑物質を実質的に含有せず、従来法以上に着色度が極めて低減されたrHSA
が得られることを確認して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、遺伝子操作により得られるHSA産生宿主の培養液をrHSAと
産生宿主を含んだまま加熱処理し、該加熱処理液を流動床中に浮遊する吸着体粒子に接触
させ、その吸着画分を回収することを特徴とするrHSAの精製方法である。より詳細に
は、遺伝子操作により得られるHSA産生宿主の培養液をrHSAと産生宿主を含んだま
ま加熱処理し、該加熱処理液を吸着体粒子が浮遊する流動床に上方送液して該吸着体粒子
に接触させた後、送液方向を切替えて緩衝液を下方送液することにより吸着体粒子に吸着
させたrHSAを溶出、回収することを特徴とするrHSAの精製方法である。
また、本発明は該精製方法において、rHSA産生宿主の培養液の加熱処理温度が50
〜100℃、時間が1分〜10時間であることを特徴とする精製方法、加熱処理液と前記
吸着体粒子との接触が、pH3〜5の液性、および電気伝導度0.1〜50mSの雰囲気
にて行われることを特徴とするrHSAの精製方法、また前記吸着体粒子が強陽イオン交
換基を有するものであることを特徴とするrHSAの精製方法である。
【0011】
さらに、本発明は、上記本発明の精製方法において流動床から回収されたrHSA含有
画分を、好ましくは還元剤の存在下で加熱処理した後、疎水性クロマト処理、陰イオン交
換体処理、キレート樹脂処理、ホウ酸・塩処理及び限外濾過膜処理からなる群から選択さ
れる少なくとも1つの精製処理に付すことを特徴とするrHSAの精製方法である。
また、本発明は、遺伝子操作由来のヒト血清アルブミンを含有し、当該アルブミン25
%溶液(rHSA濃度として250mg/ml)の場合にA350 /A280 が0.015以
下であることを特徴とするヒト血清アルブミン含有組成物である。
さらに、本発明は、遺伝子操作により得られるHSA産生宿主の培養液をrHSAと産
生宿主を含んだまま加熱処理し、該加熱処理液を流動床中に浮遊する吸着体粒子に接触さ
せ、その吸着画分を回収することを特徴とするrHSAの製造方法を提供する。当該製造
方法は、より詳細には、遺伝子操作により得られるHSA産生宿主の培養液をrHSAと
産生宿主を含んだまま加熱処理し、該加熱処理液を吸着体粒子が浮遊する流動床に上方送
液して該吸着体粒子に接触させた後、送液方向を切替えて緩衝液を下方送液することによ
り吸着体粒子に吸着させたrHSAを溶出、回収することを特徴とするrHSAの製造方
法である。
また、本発明は該製造方法において、rHSA産生宿主の培養液の加熱処理温度が50
〜100℃、時間が1分〜10時間であることを特徴とする製造方法、加熱処理液と前記
吸着体粒子との接触が、pH3〜5の液性、および電気伝導度0.1〜50mSの雰囲気
にて行われることを特徴とするrHSAの製造方法、また前記吸着体粒子が強陽イオン交
換基を有するものであることを特徴とするrHSAの製造方法である。
また、本発明は、上記本発明の製造方法において流動床から回収されたrHSA含有画
分を、好ましくは還元剤の存在下で加熱処理した後、疎水性クロマト処理、陰イオン交換
体処理、キレート樹脂処理、ホウ酸・塩処理及び限外濾過膜処理からなる群から選択され
る少なくとも1つの精製処理に付すことを特徴とするrHSAの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、培養液を酵母菌体を含んだまま直接加熱することで簡単かつ有効にプロテア
ーゼを不活化できるという知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、培
養液を酵母菌体を含んだまま加熱した処理液を直接吸着層に浮遊する吸着体粒子と接触さ
せることにより簡便かつ効果的にrHSAを精製する方法である。これにより、従来の圧
搾−膜−加熱−膜−陽イオン交換体処理までの5工程が2工程(加熱−吸着体粒子処理)
に簡素化でき工程時間が大幅に短縮されるとともに回収率も向上した。また、遺伝子操作
により製造されるHSAに特有の着色という問題も、本発明の精製方法によればその原因
である着色物質を効果的に除去することができるため、解消することができる。
さらに本発明の精製方法によれば、菌体の培養から精製に至る遺伝子操作によるHSA
の製造工程全てを閉鎖系の1ライン上で行うことが可能となり、rHSA製造の自動化が
図れるとともにrHSAを医薬品として調製する場合に必須である衛生管理が容易に行わ
れるという利点がある。
すなわち、本発明はrHSA精製において、工程の短縮および収量アップのみならず、
品質向上にも寄与する方法として極めて有用である。
また、本発明によれば、遺伝子操作により得られ、かつ産生宿主関連成分あるいはその
他の夾雑成分を含まず、着色も充分抑えられた、医薬品として有用なrHSAを提供する
ことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
(1)遺伝子操作により得られるHSA
本発明において用いられる遺伝子操作により調製されるrHSA産生宿主は、遺伝子操
作を経て調製されたものであれば特に限定されず、既に公知文献記載のものの他、今後開
発されるものであっても適宜利用することができる。具体的には、遺伝子操作を経てrH
SA産生性とされた菌(例えば、大腸菌、酵母、枯草菌等)、動物細胞などが例示される
。特に、宿主として酵母、就中サッカロマイセス属〔例えば、サッカロマイセス・セレビ
シエ(Saccharomyces cerevisiae)〕、もしくはピキア属〔例えば、ピキア・パストリス(P
ichia pastoris) 〕を用いることが好ましい。また、栄養要求性株や抗生物質感受性株を
用いてもよい。さらに好適には、サッカロマイセス・セレビシエAH22株(a, his 4, l
eu 2, can 1)、ピキア・パストリスGTS115株(his 4) が用いられる。
【0015】
これらのrHSA産生宿主の調製方法、該宿主を培養することによるrHSAの生産方
法及び培養物からのrHSAの分離採取方法は、公知ならびにそれに準じた手法を採用す
ることによって実施することができる。例えば、rHSA産生宿主の調製方法としては、
例えば通常のHSA遺伝子を用いる方法(特開昭58−56684号、同58−9051
5号、同58−150517号公報)、新規なHSA遺伝子を用いる方法(特開昭62−
29985号、特開平1−98486号公報)、合成シグナル配列を用いる方法(特開平
1−240191号公報)、血清アルブミンシグナル配列を用いる方法(特開平2−16
7095号公報)、組換えプラスミドを染色体上に組み込む方法(特開平3−72889
号公報)、宿主同士を融合させる方法(特開平3−53877号公報)、メタノール含有
培地で変異を起こさせる方法、変異型AOX2 プロモーターを用いる方法(特願平3−6
3598号、同3−63599号公報)、枯草菌によるHSAの発現(特開昭62−25
133号公報)、酵母によるHSAの発現(特開昭60−41487号、同63−395
76号、同63−74493号公報)、ピキア酵母によるHSAの発現(特開平2−10
4290号公報)が例示される。
【0016】
このうち、メタノール含有培地中で変異を起こさせる方法は具体的には以下のように行
う。すなわち、まず適当な宿主、好ましくはピキア酵母、具体的にはGTS115株(N
RRL寄託番号Y−15851)のAOX1 遺伝子領域に常法によりAOX1 プロモータ
ー支配下にHSAが発現する転写ユニットを有するプラスミドを導入して形質転換体を得
る(特開平2−104290号公報を参照)。この形質転換体はメタノール培地中での増
殖能は弱い。そこで、この形質転換体をメタノール含有培地中で培養して変異を起こさせ
、生育可能な菌株のみを回収する。この際、メタノール濃度としては、0.0001〜5
%程度が例示される。培地は人工培地、天然培地のいずれでもよい。培養条件としては1
5〜40℃、1〜1000時間程度が例示される。
【0017】
また、rHSA産生宿主の培養方法としては、上記の各公報に記載された方法の他に、
フェッドバッチ培養(半回分培養)により、高濃度のグルコース或いはメタノール等を適
度に少量ずつ供給し、産生菌体に対する高濃度基質阻害を避けて高濃度の菌体と産生物を
得る方法(特開平3−83595号公報)、培地中に脂肪酸を添加してrHSAの産生を
増強する方法(特開平4−293495号公報)等が例示される。
【0018】
形質転換宿主の培養に用いられる培地は、通常この分野で既知の培地に炭素数10〜2
6の脂肪酸またはその塩を添加したものが使用され、培養条件は一般的な常法に準じて実
施することができる。培地は合成培地、天然培地のいずれを用いてもよく、特に液体培地
が好ましい。例えば、合成培地としては、一般に炭素源として各種糖類、窒素源として尿
素、アンモニウム塩、硝酸塩など、微量栄養素として各種ビタミン、ヌクレオチドなどの
他、無機塩としてMg,Ca,Fe,Na,K,Mn,Co,Cuなど例示される。YN
B液体培地〔0.7%イーストナイトロジェンのベース(Difco社製) 、2%グルコース〕
等が挙げられる。また、天然培地としては、YPD液体培地〔1%イーストエキストラク
ト(Difco社製) 、2%バクトペプトン(Difco社製) 、2%グルコース〕など例示される。
培地のpHは中性または弱塩基性、弱酸性でよい。またメタノール資化性宿主の場合は、
メタノール含有培地を用いることができる。この場合メタノール濃度は0.01〜5%程
度である。
【0019】
培養温度は、15〜43℃(酵母は20〜30℃、細菌は20〜37℃)が好ましい。
培養時間は1〜1000時間程度であり、培養は静置または振盪、攪拌、通気下に回分培
養法や半回分培養法あるいは連続培養法により実施される。なお、当該培養に先立って前
培養を行うことが好ましい。この際の培地としては、例えばYNB液体培地やYPD液体
培地が使用される。前培養の培養条件は次の通りである。すなわち、培養時間は10〜1
00時間、温度は酵母では30℃、細菌では37℃程度が好ましい。
【0020】
(2)rHSAの精製
(i) 加熱処理
本発明のrHSA精製方法において、加熱処理は、前述の培養工程で得られるrHSA
産生宿主の培養液を遠心分離や限外濾過等の分離処理に付すことなく、宿主菌体を含んだ
まま直接加熱することを特徴とする。すなわち、加熱処理は本発明精製方法の第一番目に
行なわれる。
加熱条件としては、通常50〜100℃で1分〜10時間程度、好ましくは60〜80
℃で20分〜3時間程度、より好ましくは68℃で30分間程度である。また、本処理は
安定化剤の存在下に行うことが好ましい。安定化剤としては、アセチルトリプトファン,
炭素数6〜18の有機カルボン酸またはその塩等が例示される。両者の安定化剤は併用し
てもよい。アセチルトリプトファンの添加量としては溶液終濃度1〜100mM程度が例
示される。炭素数6〜18の有機カルボン酸としてはカプロン酸、カプリル酸、カプリン
酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などが例示される。好ましくは10mMのカ
プリル酸である。その塩としてはアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩,カリウム塩等
)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩等)が例示される。炭素数6〜18の有
機カルボン酸またはその塩の添加量としては、1〜100mM程度が例示される。
また、加熱処理時にチオール系化合物(例えば、メルカプトエタノール、システイン、
還元型グルタチオン等)を1〜100mM程度、好ましくは5〜30mM、さらにアミノ
グアニジンを10〜1000mM添加することにより、加熱で生じる着色を抑制すること
ができる(特開平3−103188号公報)という効果が得られる。
【0021】
従来から加熱処理は、宿主培養液を遠心分離または濾過することにより得られる上清(
濾液)に対して行なわれている。菌体を含んだ培養液を直接加熱処理すると、菌体内に存
する不純物、脂質、核酸、蛋白分解酵素等が漏洩することによって、目的物質の精製に悪
影響が及ぶことが懸念されるからである。しかして、今まで宿主菌体を含んだ培養液の直
接加熱処理が目的物質の精製に有効か否か全く不明であった。
【0022】
しかし、本発明によって、rHSAとrHSA産生宿主菌体を含んだ状態の培養液を直
接加熱しても、rHSAの構造上の機能および収率を低下させることなく、培養液中に存
在する強力なプロテアーゼを効果的に不活化できることが判明し、プロテアーゼ不活性化
処理の簡便化を図ることができた。さらにこのことにより、遺伝子操作によって得られる
HSAを後述する精製処理により効果的に精製できることとなった。
【0023】
(ii)加熱処理液の希釈および液性の調整
(i)で得られる加熱処理液は、つぎに流動床中に浮遊する吸着体粒子処理に付されるが
、その前に、加熱処理液と吸着体粒子との接触が電気伝導度0.1〜50mS,好ましく
は0.5〜35mS,より好ましくは5〜15mSの雰囲気で行われるように加熱処理液
を希釈することが好ましい。後述の実験例3で示されるように、加熱処理液の希釈倍数を
上げ、加熱処理液と吸着体粒子との接触雰囲気中の電気伝導度が低くなるに伴い、吸着体
粒子へのrHSAの結合量は増加し、該電気伝導度が8〜12mS付近である場合にほぼ
最高に達する。希釈溶媒は、加熱処理液中のrHSAの構造上の機能を低下させない限り
特に限定されず、吸着体粒子への吸着条件を考慮して適宜選択することができる。50m
M程度もしくはそれ以下の濃度の酢酸緩衝液、または蒸留水が例示される。簡便性等の点
から好ましくは蒸留水である。ついで、該溶液の液性を吸着体粒子への吸着条件である酸
性、通常pH3〜5、好ましくはpH4〜4.8程度、より好ましくはpH4.5程度に
調整する。調整に使用される酸性溶液は、特に制限されないが、好ましくは酢酸が挙げら
れる。
【0024】
(iii)吸着体粒子処理
次に、希釈、pH調整された加熱処理液を吸着体粒子に接触させる。
用いられる吸着体粒子としては、陽イオン交換基を有する担体(陽イオン吸着体)が挙
げられ、具体的にはスルホ基型、カルボキシル基型等の吸着体粒子が例示される。スルホ
基型としては、スルホ−アガロース〔商品名:ストリームラインSP,S−セファロース
(共にファルマシア社製)〕、スルホ−セルロース〔商品名:S−セルロファイン(チッ
ソ社製)〕、スルホプロピル−アガロース〔商品名:SP−セファロース(ファルマシア
社製),SP−セルスル−ビッグビーズ(ステロジーン社製)〕、スルホプロピル−デキ
ストラン〔商品名:SP−セファデックス(ファルマシア社製)〕、スルホプロピル−ポ
リビニル〔商品名:SP−トヨパール(東ソー社製)〕等が例示される。また、カルボキ
シル基型としては、カルボキシメチル−アガロース〔商品名:CMセルスル−ビッグビー
ズ(ステロジーン社製)〕,カルボキシメチル−デキストラン〔商品名:CM−セファデ
ックス(ファルマシア社製)〕,カルボキシメチル−セルロース〔商品名:CM−セルロ
ファイン(チッソ社製)〕等が例示される。好ましくは、スルホ基型の強陽イオン吸着体
粒子であり、より好ましくは、ストリームラインSP(ファルマシア社製)である。
また用いられる吸着体粒子の粒子径としては、通常30〜1100μm、好ましくは1
00〜300μmが例示される。
【0025】
接触条件としては、pH3〜5程度、好ましくはpH4〜4.8程度、より好ましくは
pH4.5程度、塩濃度0.01〜0.2M程度、好ましくは0.05〜0.1M程度が
例示される。
吸着体粒子は、予めかかる接触条件で平衡化しておくことが好ましい。具体的には、5
0mMの塩化ナトリウムを含有する50mMの酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化してお
くことが好ましい。
【0026】
吸着体粒子の平衡化、吸着体粒子を含む流動床への試料の注入、吸着体粒子への接触お
よび流動床からの溶出は、通常下記の方法に従って行われる。
すなわち、まず前述の吸着体粒子を適当なカラムに充填し沈降させた後、当該カラム下
部出口から上方向に平衡化緩衝液を送液し、吸着体粒子を浮遊させる。この際、カラム内
では、カラム下から上昇する緩衝液の流速と重力により沈降する吸着体粒子が互いの力を
打ち消しあって、吸着体粒子による均一な浮遊平衡状態が形成される(これを流動床とい
う)。ついで、かかる流動床が形成されたカラム内に、上記(i) 、(ii)処理した菌体を含
む培養粗液をカラム下部出口から上方送液により添加する。この際、目的のrHSAは吸
着体粒子と結合し、一方、宿主菌体や培養液に由来する微粒子および夾雑物は流動床の吸
着体粒子を素通りしカラム上部出口から排出除去され、またゆるく結合した夾雑成分も、
引き続いて上方送液される洗浄緩衝液で洗い流される。好ましくは、吸着流動床技術に従
って行われる〔Journal of Chromatography, 597 (1992), 129-145〕。
【0027】
洗浄緩衝液としては、平衡化緩衝液が用いられる。目的タンパク質であるrHSAの回
収は、送液方向を逆転し、溶出用の緩衝液をカラム上部出口から下方向に送液することに
より行われる。rHSAの溶出条件としては、pH8〜10程度、好ましくはpH8.5
〜9.5程度、より好ましくはpH9程度、塩濃度0.2〜0.5M程度、好ましくは0
.3〜0.4M程度が例示される。溶出用の緩衝液としてより具体的には、0.3Mの塩
化ナトリウムを含有する0.1Mのリン酸緩衝液(pH9)が例示される。
上記の吸着体粒子の平衡化、吸着体粒子を含む流動床への試料の注入、吸着体粒子への
接触および流動床からの溶出等の操作は、ストリームラインカラム(吸着体:ストリーム
ラインSP、ファルマシア社製)を備したストリームラインシステム(ファルマシア社製
)を用いることにより、より簡便に効率よく、かつ再現性よく行うことができる。
【0028】
以上の操作により、高い精製度をもったrHSAが取得できる。すなわち、上記吸着体
粒子処理を施すことにより得られるrHSAの精製度は、従来の圧搾−限外濾過膜処理−
加熱処理−限外濾過膜処理−陽イオン交換体処理の数工程を経て得られるrHSAの精製
度とほぼ同一である。また、吸着体粒子処理工程の前に培養液の加熱処理を行うことによ
り、rHSAを安定に(低分子化されずに)高収率で取得することができる。よって、本
発明によれば、上記5工程を2工程に簡素化することができるとともに、工程時間を大幅
に短縮化することができる。さらに本発明によれば、従来法によるrHSAの培養液から
回収率を向上させることができる。
【0029】
また、以上の処理により得られたrHSAは、引き続き通常の精製方法に付すことによ
りさらに高度に精製することができる。用いられる精製方法としては、例えば通常使用さ
れる精製処理、疎水性クロマト処理、限外濾過膜処理、陰イオン交換体処理、キレート樹
脂処理およびホウ酸塩処理等が挙げられる。なお、これらの精製処理は、単独もしくは数
種組み合わせて行うこともでき、一層高品質のrHSA精製品を得るためには疎水性クロ
マト処理、限外濾過膜処理、陰イオン交換体処理、限外濾過膜処理、キレート樹脂処理お
よびホウ酸塩処理、限外濾過膜処理の順で行われることが好ましい。
【0030】
尚、上記精製処理を行う前、吸着体粒子への接触処理後、溶出されたrHSA含有吸着
画分を再度、還元剤の存在下で加熱処理することが好ましい。後述の実験例6で示される
ように、当該加熱処理を行う場合と行わない場合とを比較すると、rHSAの回収率には
差がないが、rHSAに特有の着色に関して顕著な効果が認められ、加熱処理をすること
によってその後の精製処理により着色物質が有意に除去される。
処理温度としては通常50〜100℃、好ましくは60〜80℃程度、より好ましくは
60℃が例示される。処理時間としては通常10分間〜10時間、、好ましくは30分間
〜5時間程度、より好ましくは1時間が例示される。
【0031】
用いられる還元剤としては、還元作用を有する物質であれば、特に制限されないが、具
体的にはSH基を含む低分子化合物(例えば、システイン、システアミン、シスタミン、
メチオニン、グルタチオン等)、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩、亜リン酸・ピロ亜硫酸塩、ア
スコルビン酸など例示される。好ましくはシステインである。添加量としては、システイ
ン等の場合で終濃度1〜100mM程度、亜硫酸塩等の場合で終濃度0.001〜10%
程度が例示される。
【0032】
また、本処理は安定化剤の存在下に行うことが好ましい。安定化剤としては、アセチル
トリプトファン,炭素数6〜18の有機カルボン酸またはその塩等が例示される。両者の
安定化剤は併用してもよい。アセチルトリプトファンの添加量としては溶液終濃度1〜1
00mM程度が例示される。炭素数6〜18の有機カルボン酸としてはカプロン酸,カプ
リル酸,カプリン酸,ラウリン酸,パルミチン酸,オレイン酸等が例示される。好ましく
は10mMのカプリル酸である。その塩としてはアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩
,カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩等)が例示される。炭素
数6〜18の有機カルボン酸またはその塩の添加量としては、1〜100mM程度が例示
される。さらにアミノグアニジンを10〜1000mM添加することにより、加熱で生じ
る着色を抑制することができる(特開平3−103188号公報)という効果が得られる

【0033】
<1>疎水性クロマト処理
疎水性クロマト処理は、常法に従って行うことができる。疎水性クロマト用担体として
は、炭素数4〜18のアルキル基(ブチル基型、オクチル基型、オクチルデシル基型等)
、フェニル基を有する不溶性担体が例示される。好適にはフェニル基型が挙げられ、具体
的にはフェニル−セルロース(商品名:フェニルセルロファイン、チッソ社製)が例示さ
れる。本工程では、rHSAを担体非吸着画分に回収することができる。接触条件として
はpH6〜8程度、好ましくはpH6.5〜7程度、塩濃度0.01〜0.5M程度、好
ましくは0.05〜0.2M程度が挙げられる。
【0034】
<2>陰イオン交換体処理
陰イオン交換体処理もまた、常法に従って行うことができる。陰イオン交換体としては
、陰イオン交換基を有する不溶性担体であればいずれも使用することができる。陰イオン
交換基としては、ジエチルアミノエチル(DEAE)基型、四級アミノエチル(QAE)
基型等が例示される。好ましくはDEAE基型であり、具体的には、DEAE−アガロー
ス(商品名:DEAE−セファロース、ファルマシア社製)、DEAE−デキストラン(
商品名:DEAE−セファデックス、ファルマシア社製)、DEAE−ポリビニル(商品
名:DEAE−トヨパール、東ソー社製)等が例示される。本工程では、rHSAを非吸
着画分に回収することができる。接触条件としては、pH6〜8程度、好ましくはpH6
.5〜7程度、塩濃度0.01〜0.1M程度が挙げられる。
この陰イオン交換体処理により着色成分や微量存在する夾雑物等が除去される。
【0035】
<3>限外濾過膜処理
疎水性クロマト処理後および/または陰イオン交換体処理後、回収されたrHSA含有
画分は限外濾過処理に付されることが好ましい。当該限外濾過処理により、発熱性物質(
パイロジェン)を除去することができる。限外濾過処理は、分画分子量100〜300K
の限外濾過膜が好適に使用される。具体的には、ペリコンカセット膜100K(ミリポア
社製)が例示される。
【0036】
<4>キレート樹脂処理
キレート樹脂処理は、特に遺伝子操作によって得られるHSAに特有の着色物質の除去
に効果がある。当該処理は、前述の精製工程において、特に好ましくは疎水性クロマト処
理−限外濾過膜処理−陰イオン交換体処理−限外濾過膜処理の後の工程に組み込まれ、特
定のリガンド部を有するキレート樹脂とrHSAとを接触させることにより行われ、パス
画分にrHSAが取得される。キレート樹脂の担体部分は疎水性を有する担体であること
が好ましく、例えばスチレンとジビニルベンゼンの共重合体、アクリル酸とメタクリル酸
の共重合体等が例示される。一方、リガンド部は、N−メチルグルカミン基等のポリオー
ル基、イミノ基、アミノ基、エチレンイミノ基等を分子内に複数個有するポリアミン基(
この中にはポリエチレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン基も含まれる)、及び
チオ尿素基が挙げられる。簡便には、担体部分がいずれもスチレンとジビニルベンゼンの
共重合体であるDIAION CRB02(リガンド部:N−メチルグルカミン基、三菱化成社製)、
LEWATIT TP214 (リガンド部:─NHCSNH2 :バイエル社製)、アンバライトCG4
000などの市販品が用いられる。
【0037】
当該キレート樹脂により処理条件は、好適には次の通りである。
pH条件 :酸性、中性またはアルカリ性(pH3〜9、好ましくはpH4〜7)
時 間 :1時間以上、好ましくは6時間以上
イオン強度:50mmho以下、好ましくは1〜10mmho
混合比 :HSA250mgに対して樹脂0.1〜100g、好ましくは1〜10g(
湿重量)
【0038】
<5>ホウ酸またはその塩による処理
さらに、前述の処理により得られたrHSA含有溶液をホウ酸またはその塩(本発明に
おいて、ホウ酸・塩ともいう。)で処理することによって、宿主由来の抗原性を有する夾
雑物質、フェノール硫酸法により検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質を除去することが
できる。
用いられるホウ酸としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが例示される。
またその塩として、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属
塩(カリウム塩等)などが例示される。好ましくは、四ホウ酸カルシウムを用いる。ホウ
酸またはその塩の添加量は、終濃度で0.01〜1M程度、好ましくは0.05〜0.2
M程度である。処理pHは8〜11程度、好ましくはpH9〜10程度が例示される。ま
た処理時間は1〜100時間程度、好ましくは5〜50時間程度が例示される。処理時の
rHSA含有溶液の電導度は低いほうがよく、具体的には1mS以下が例示される。さら
に、rHSA含有溶液中のrHSA濃度は、高いほうがよく、具体的にはrHSA5%以
上、好ましくは15〜25%程度が例示される。
【0039】
上記ホウ酸・塩処理後、rHSAは、例えば遠心分離または限外濾過等の常法により、
上清から回収される。
【0040】
(3)高度精製された遺伝子操作由来のHSAの性状
高度精製により得られるrHSAは、分子量約67000,等電点4.9の単一物質で
ある。単量体のみからなり、二量体あるいは重合体、分解物(分子量約43000)を実
質的に含まない。また、産生宿主に由来する抗原性を有する夾雑成分、多糖類も実質的に含まない。着色度は、rHSA濃度として250mg/mlの溶液(25%溶液)に調製
した場合で、A350 /A280 が0.015以下、好ましくは0.013以下、就中0.0
1〜0.015程度である。なお、公知の精製方法(例えば、前述の<1>〜<5>の方
法等)をさらに適宜組み合わせて用いることにより、さらに着色度が抑制された、即ちA
350 /A280 の値が低いrHSAを得ることができる。
遺伝子操作に由来するHSA(含有組成物)で、着色度が、rHSA25%溶液の場合
でA350 /A280 が0.015以下であるというものは、本発明により初めて提供される

【0041】
(4)製剤化
本発明の方法で得られるrHSAは公知の手法(例えば、限外濾過、安定化剤の添加、
除菌濾過、分注、凍結乾燥等)により製剤化することができる。こうして調製されるrH
SA製剤は、血清アルブミン製剤として従来の血漿由来HSA製剤と同様に、また同様の
用量、用法で、臨床上用いることができる。また、医薬品の安定化剤あるいは担体、運搬
体としても利用することができる。
なお、本発明でいうrHSA含有組成物の意味は、本発明のrHSAが高純度であるが
100%純品ではなく、rHSA以外の物質が微量でも混在する状態を示す。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を具体的に説明するため実施例および参考例を示すが、本発明はこれら実
施例等によって何ら制限されるものではない。
【0043】
実施例1
スモールスケールでのストリームラインSPによるrHSAの精製
(1)培養液の加熱処理
rHSA産生酵母菌ピキアパストリスの取得およびその培養については、特開平5−3
17079号公報の第8欄第18行〜第11欄第19行、欧州公開特許655503号に
記載される方法に従って行った。
得られた培養液(含酵母菌体)約2.8リットルをそのまま68℃、30分の加熱処理
に付した。加熱処理は10mMカプリル酸ナトリウム存在下で行った。なお、この際の培
養液の液性はpH6であった。該加熱処理液を急速に約15℃に冷却し、蒸留水で約2倍
容量になるように希釈した後(総容量5.5リットル)、酢酸水溶液を用いてpH4.5
に調整した。
【0044】
(2)吸着体粒子処理(ストリームラインSP処理)
50mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化したストリ
ームラインSPカラム(C50、5×100cm:ゲル量300ml、ファルマシア社製
)に、(1)の加熱処理で得られた酵母菌体を含む培養液5.5リットル(電気伝導度〜
10mS)を上方送液することにより添加した(攪拌しながら流速100cm/hで添加
)。次にカラムを、平衡化に用いた緩衝液と同じ緩衝液(カラム容量の2.5倍量)を上
昇法で送液することにより洗浄し(条件:流速100cm/hで1時間、続いて流速30
0cm/hで30分)、ついで送液方向を逆転させて、溶出溶液〔300mM塩化ナトリ
ウムを含む100mMリン酸緩衝液(pH9)を送液(流速:50cm/h)して、rH
SAを含有する画分を得た。
なお、溶出するrHSA含有画分の検出は280nmにおける吸光度を測定することに
よって行った。
【0045】
(3)加熱処理
得られたrHSA含有画分に対して、10mMシステイン、5mMカプリル酸ナトリウ
ム,100mMアミノグアニジン塩酸、pH7.5の共存下に60℃、1時間の加熱処理
を行った。
【0046】
(4)疎水性クロマト処理
(3)で加熱処理したrHSA溶液を、0.15M塩化ナトリウムを含む50mMリン
酸緩衝液、pH6.8で平衡化したフェニルセルロファインを充填したカラム(5×25
cm,ゲル量500ml:チッソ社製)に添加した。この条件ではrHSAはフェニルセ
ルロファインに吸着することなくカラムを通過した。カラムを通過したrHSA含有溶液
を分画分子量3万の限外濾過膜(ミリポア社製)を用いて液量を約0.2リットルまで濃
縮するとともに、rHSA含有溶液を50mMリン酸緩衝液、pH6.8に交換した。
【0047】
(5)陰イオン交換体処理
疎水性クロマト処理後、濃縮および緩衝液交換を行ったrHSA含有溶液を50mMリ
ン酸緩衝液、pH6.8で平衡化したDEAE−セファロースFFを充填したカラム(5
×25cm,ゲル量500ml:ミリポア社製)に添加した。この条件ではrHSAはD
EAE−セファロースFFに吸着することなくカラムを通過した。カラムを通過したrH
SAは、分画分子量3万の限外濾過膜(ミリポア社製)を用いて液量を約0.2リットル
に濃縮するとともに、rHSA含有溶液を蒸留水に交換した。
【0048】
(6)キレート処理
約7%濃度の精製rHSA0.2リットルに酢酸を添加してpHを4.5とし、50m
M酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.5で平衡化したDIAION CRB02を充填した
カラム(5×2.5cm,ゲル量500ml:三菱化成製)に添加後、一夜循環した。こ
の条件ではrHSAは当該ゲルに吸着することなくカラムを通過した。
【0049】
(7)ホウ酸・塩処理
rHSA濃度を2.5%に調製し、溶液を電気伝導度1mS以下とした。四ホウ酸ナト
リウムを終濃度が100mMになるように添加し、ついで塩化カルシウムを終濃度が10
0mMになるように添加し、pHを9.5に維持した。10時間程度放置した後に沈澱を
除去し、上清を回収して濃縮脱塩した。次いで分画分子量約3万の限外濾過膜(ミリポア
社製)を用いて濃縮および緩衝液交換を行った。必要に応じて、安定化剤(カプリル酸ナ
トリウム,アセチルトリプトファン)を添加した後、0.22μmフィルター(ミリポア
社製)を用いて除菌濾過することにより、rHSAを注射剤として使用することができる

【0050】
実験例1 rHSA培養液の加熱処理による安定化効果
rHSA培養液中には強力なプロテアーゼが存在し、rHSAを低分子化することが知
られているが、表1に示すように特に酸性下pH4の条件で低分子化が著しく速い。
【0051】
【表1】

【0052】
ところで、ストリームラインSPのrHSAの吸着条件は、pH4.5付近で行われる
ことから、pH4.5付近での培養液中のrHSAの安定性を調べるとともに、より安定
に保てるような前処理としてプロテアーゼの不活化に有効な加熱処理条件を、加熱処理後
の溶液のpHを4.5に調製し室温で一晩放置した後のrHSAの安定性をみることによ
り検討した。結果を図1に示す。なお、加熱時には全検体に終濃度が10mMとなるよう
にカプリル酸ナトリウムを添加した。用いた加熱処理条件は、下記の通りである。
A:コントロール
B:68℃、30分間、pH6.0
C:68℃、30分間、pH6.8
D:68℃、30分間、pH7.5
E:68℃、30分間、pH8.2
F:60℃、2時間、pH6.0
G:60℃、2時間、pH6.8
H:60℃、2時間、pH7.5
I:60℃、2時間、pH8.2
J:60℃、2時間、pH6.8、10mM システイン
K:60℃、2時間、pH7.5、10mM システイン
L:室温(25℃)、2時間、pH6.0
M:室温(25℃)、2時間、pH8.2
【0053】
その結果、加熱は60℃で2時間の処理よりも68℃で30分の処理が有効であり、ま
た加熱処理に付す培養液のpHは培養液の初期値であるpH6付近が最も良好であった。
【0054】
実験例2 rHSA培養液のpHと吸着体結合能との関係
酢酸で種々のpH(4.5〜4.9)に調整した培養液(rHSA 55.6mg)に
各pHの酢酸緩衝液(50mM)で平衡化したストリームラインSPゲル(1ml)を添
加し、室温で1時間混合攪拌した後、各平衡化緩衝液で洗浄して未吸着画分のrHSA残
存量(%)を測定した。その結果、pHを下げるに伴い結合量は増加し、pH4.5付近
で最高に達した(表2)。
【0055】
【表2】



【0056】
実験例3 加熱処理液と吸着体粒子との接触雰囲気中の電気伝導度とrHSAの吸着体粒
子への結合能との関係
加熱処理を終えた培養液〔電気伝導度 約20mS(25℃)、rHSA 47.1m
g)を蒸留水で種々の倍数に希釈した後、酢酸でpHを4.5に調整し、同pHの50m
M塩化ナトリウムを含有する50mM酢酸緩衝液で平衡化したストリームラインSPゲル
を1ml添加した。そして室温で1時間混合後、平衡化緩衝液で洗浄し、0.3M塩化ナ
トリウム含有0.1Mリン酸緩衝液(pH9)でrHSAを溶出した。その結果、希釈倍
数を上げ、溶液中の電気伝導度を低下させるに伴いrHSAの吸着粒子への結合量は増加
し、加熱処理液と吸着体粒子との接触雰囲気中(ゲル混合液中)の電気伝導度8〜12m
S付近で最高に達した(図2)。
【0057】
実験例4 ストリームラインSP溶出液の安定性
培養液を蒸留水で2倍希釈した後、酢酸でpHを4.5に調整し同pHの50mM塩化
ナトリウム含有50mM酢酸緩衝液で平衡化したストリームラインSPゲルを一定量添加
し、室温で1時間混合攪拌した。次いで、ゲルを平衡化緩衝液で洗浄後、0.3M塩化ナ
トリウム含有0.1Mリン酸緩衝液(pH9)を用いてrHSAを溶出し、得られた画分
溶液(pH8)中のrHSAの室温での安定性を調べた。その結果、培養液を予め加熱処
理(68℃、30分間)したものでは、3日後でも全く変化が見られなかったのに対して
、未処理培養液由来のrHSAは約50%にまで減少・分解していた(表3)。
【0058】
【表3】

【0059】
実験例5 (加熱→吸着体粒子)処理と(非加熱→吸着体粒子)処理とのrHSAの回収
率および着色度の比較
前述の実験例1〜4で検討した結果を踏まえて、加熱→吸着体粒子処理工程の至適化フ
ローを設定した(図3)。
図3の工程フローに従い、ストリームラインSP(5×100cm、ゲル量300ml
)カラムを用い、酵母菌体を含んだ培養液(2.8リットル)からのrHSAの精製を試
みた。一方で酵母菌体を含んだ培養液(2.7リットル)を加熱処理しないで同様に吸着
体粒子処理を行い、rHSAを精製した。
その結果、培養液からの総回収率は、(非加熱→吸着体粒子)処理が50%であるのに
対して本発明の(加熱→吸着体粒子)処理では約85%と高く、得られるrHSAの着色
度も、(非加熱→吸着体粒子)処理が A350/A280で0.048であるのに対して本発明の
(加熱→吸着体粒子)処理では0.0345と低かった(表4)。尚、図4で(加熱→吸
着体粒子)処理のストリームラインSP溶出液のゲル濾過HPLCプロファイルと(非加
熱→吸着体粒子)処理のストリームラインSP溶出液のゲル濾過HPLCプロファイルと
を比較した。後者にrHSAの著しい分解・低分子化がみられた。
【0060】
【表4】



【0061】
実験例6 システイン加熱処理のrHSA着色度に及ぼす効果
次に、表4で得られた(加熱→吸着体粒子)処理でのストリームラインSPカラムのr
HSA溶出画分を出発原料として、実施例1(4)および(5)に記載する疎水性クロマ
ト処理および陰イオン交換体処理を行い着色度(A350/A280)の評価を行った。その際、ス
トリームラインSP溶出画分をシステイン存在下(終濃度10mM)で加熱処理したもの
と加熱処理しないものとの2通りで検討した。その結果、システイン加熱の有無にかかわ
らず同等のrHSA回収率が得られたが、着色度において顕著な差が見られ、陰イオン交
換体処理の段階において、システイン加熱処理しないほうは、0.0184であるのに対
し、システイン加熱処理由来のものは0.0128と有意な低値を示した(表5)。
【0062】
【表5】

【0063】
実験例7 ストリームラインSP組入れによるrHSA着色度(A350/A280)の低減
図5に従来精製法での工程別着色度(A350/A280)の推移とストリームラインSP工程を
組み入れた場合の陰イオン交換体処理濃縮工程段階までの工程別着色度(A350/A280)の推
移との比較した。ストリームラインSPを組み入れその直後にシステイン加熱処理を施し
た本発明の精製法の場合、疎水性クロマト処理をする段階で既に従来法と比べ、大きな差
が生じ、陰イオン交換体処理後の着色度は0.0128と極めて低い値を示した。図6に
、従来法の後さらにキレート樹脂処理した検体(曲線1)と、ストリームラインSPを組
み入れその直後にシステイン加熱処理を施した本発明の精製法による陰イオン交換体処理
後およびキレート樹脂処理後の検体(曲線2、3)との吸収スペクトルによる比較を示す
。その結果、本発明方法により精製したrHSAの吸収スペクトルは、陰イオン交換体処
理の段階で既に従来法の後さらにキレート樹脂処理したサンプルの吸収スペクトルより可
視(350nm-700nm)全域に渡り顕著に低いパターンを示し、同キレート樹脂処理後の段階で
はその差はより大きくなった。
【0064】
実験例8 本発明により得られるrHSAのゲル濾過HPLC分析
図7に、本発明方法により得られるrHSAの各工程サンプルのゲル濾過法による高速
液体クロマトグラフィー(GPC−HPLC)分析結果を示す(rHSA培養液:rHS
A培養液の上清、ストリームラインSP溶出画分:実施例1と同様の工程においてストリ
ームラインSP溶出画分、ストリームラインSP未吸着画分:実施例1と同様の工程にお
いてストリームラインSP未吸着画分、DEAE後精製画分:実施例1と同様の工程にお
いて陰イオン交換体(DEAE)処理後のもの)。その結果、培養液中のrHSA以外の
高分子や低分子物質の大半は酵母菌体と共に効率よくストリームラインSP未吸着画分に
洗い流され、アルブミンが特異的に溶出画分に回収されていることが明らかとなった。ま
た、この画分を出発原料とし、更に精製の進んだ陰イオン交換体(DEAE)処理後の検
体のHPLCのパターンはアルブミン(HSAモノマー)のシャープな単一ピークのみを
示し、従来精製法によるDEAE工程後のサンプルに比して、同一もしくはそれ以上の精
製度を示した。
【0065】
以上の実験例を踏まえて、従来精製法のDEAE濃縮工程段階までの回収率と実施例1
と同様の工程においてDEAE濃縮工程段階までの回収率を算出し比較した。実施例1と
同様の精製法を用いた場合、従来精製法の圧搾−膜−加熱処理−膜−陽イオン交換体処理
までの5工程が2工程となり、工程時間が大幅に短縮されるとともに、回収率が30%向
上した。
【0066】
実験例9 宿主由来夾雑成分の分析
アルブミン非産生酵母の培養液を本法と同様の方法で精製したものをウサギに免疫し、
得られた抗血清を用いて精製アルブミン溶液中に存在する酵母由来夾雑成分の検出を行っ
た。測定は酵素免疫測定法(EIA法)で行った。サンプルはアルブミン濃度として25
0mg/mlに調製したものを用いて測定した。
その結果、実施例1と同様の工程においてホウ酸・塩処理後の精製アルブミンでは、0
.1ng/mlの検出限界において、酵母由来の抗原性を有する夾雑成分は検出されなか
った。
【0067】
実験例10 本発明の精製rHSAの性状
(1)分子量
分子量の測定は、前述のHPLCゲル濾過法によった。本発明の実施例1と同様の工程
において、ホウ酸・塩処理後の精製rHSAの分子量は、約67,000であり、血漿由
来のHSAと同程度であった。
(2)等電点
等電点は、ポリアクリルアミドゲルを用い、Allenらの方法〔J. Chromatog., 146
, 1 (1978)〕に準じて測定した。本発明の精製rHSAの等電点は約4.9であり、血漿
由来のHSAと同程度であった。
(3)着色度
着色度は、精製rHSAをアルブミン濃度として250mg/mlに調製したものを用
いて、その280nm、350nmでの吸光度を測定し、A350 /A280 を算出して求め
た。本発明の精製度rHSAの着色度は、A350 /A280 で約0.012であり、極めて
低かった。
【0068】
参考例 rHSAの測定(回収率の評価)
上記実験例1〜8および実験例10において、rHSAの量的な評価(回収率を含む)
は、rHSA含有溶液をゲル濾過用HPLCに付すことにより行った。溶出条件は、詳細
には、下記の条件によって行った。
rHSAを含有する溶液をあらかじめ、0.1%のNaN3 、0.3%NaCl含有5
0mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)で平衡化しておいたTSK−ゲル G30
00SWXLカラム(0.78×30cm:東ソー社製)に付して、同平衡化緩衝液を溶
離液として用い、流速1ml/minでrHSAを分離し、280nmおよび350nm
における吸光度を測定することにより定量した。
【0069】
実施例2
ラージスケールでのストリームラインSPによる精製
実施例1の(1)の方法に従って得られたrHSA産生酵母菌ピキアパストリス培養液
(含酵母菌体)1000Lを、実施例1の(1)の条件(10mMカプリル酸ナトリウム
存在下、培養液の液性pH6で、68℃、30分間)でそのまま加熱処理した。該加熱処
理液を約25℃に冷却し、蒸留水で約2倍容量になるように希釈した後(総容量約200
0L)酢酸(99.7%)を用いてpH4.5に調整した。次いで、50mM塩化ナトリ
ウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化したストリームラインSPカラム
(C1000、100cm×110cm:ゲル量150L、ファルマシア社製)に、上記
加熱処理で得られた酵母菌体を含む培養液2000Lをカラム下部から上方送液するこに
より添加した(流速100〜250cm/h)。なお、培養液はカラムへの添加が終了す
るまで菌体が沈降しない程度に攪拌を続けた。次に、カラムを平衡化緩衝液と同じ緩衝液
(カラム容量の約5倍量)を上昇法により送液することにより洗浄し(流速100〜50
0cm/h)、次いで送液方向を逆転させ、カラム上部から溶出液(300mM塩化ナト
リウムを含む100mMリン酸緩衝液、pH9)を送液して(流速50〜100cm/h
)、rHSA含有画分を得た。なお、溶出するrHSA含有画分の検出は280nmによ
る吸光度を測定することにより行った。また、得られたrHSA含有画分に対して、10
mMシステイン、10mMカプリル酸ナトリウム、rHSAの4倍モル量のオレイン酸ナ
トリウム、100mMアミノグアニジン塩酸の共存下、pH7.5で60℃、1時間の加
熱処理を実施し、rHSAの着色度低減化および二量体から単量体への変換促進を行った

【0070】
実験例11 ラージスケールでの精製によるrHSAの収量、回収率および着色度
1トン規模の培養液を68℃、30分間加熱処理し、該加熱処理液を蒸留水で約2倍容
量に希釈、pH4.5に調整した後、ストリームラインSP(C1000)カラムによる
吸着体粒子処理に付した。rHSAを含有する溶出液を0.8μmフィルターで濾過し、
さらに分画分子量約3万の限外濾過膜に通して濃縮した後、システイン加熱処理を行い精
製した。4ロットの成績(表6に示す)を平均すると、培養液から加熱処理までの回収率
は98.6%、加熱後からストリームラインを経てシステイン加熱処理までの回収率は8
8.4%で、総回収率は87.1%と良好であった。この値はC50カラムを用いたスモ
ールスケールでの実験結果とよく一致し、ラージスケールでの再現性が確認された。
【0071】
【表6】



【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】rHSA培養液の加熱処理による安定化効果を示す図である。
【図2】吸着体粒子と加熱処理液との接触雰囲気中の電気伝導度と吸着体粒子に対するrHSAの結合能との関係を示す図である。
【図3】ストリームラインSPによる培養液(含酵母菌体)からのrHSAの精製の至適化フローを示す図である。
【図4】(加熱→吸着体粒子)処理のストリームラインSP溶出液のゲル濾過HPLCプロファイル〔図中、(a)〕および(非加熱→吸着体粒子)処理のストリームラインSP溶出液のゲル濾過HPLCのプロファイル〔図中、(b)〕を示す(吸光度 280nmで測定)。
【図5】工程別のrHSAの着色度(A350/A280)の推移を従来法と本発明方法とを比較した図である。
【図6】本発明方法により得られたrHSAの吸収スペクトルを従来法のものと比較した図である。
【図7】本発明方法により得られたrHSAのGPC−HPLC分析の結果を示すクロマトグラムである(吸光度 280nmで測定)。
【符号の説明】
【0073】
A コントロール
B 68℃、30分間、pH6.0
C 68℃、30分間、pH6.8
D 68℃、30分間、pH7.5
E 68℃、30分間、pH8.2
F 60℃、2時間、pH6.0
G 60℃、2時間、pH6.8
H 60℃、2時間、pH7.5
I 60℃、2時間、pH8.2
J 60℃、2時間、pH6.8、10mM システイン
K 60℃、2時間、pH7.5、10mM システイン
L 室温(25℃)、2時間、pH6.0
M 室温(25℃)、2時間、pH8.2
1 従来法(圧搾→膜→加熱→膜→陽イオン交換体→疎水クロマト→陰イオン交換体処
理)による精製の後、さらにキレート樹脂処理後のrHSA
2 実施例1と同様の工程において、陰イオン交換体(DEAE)処理後のrHSA
3 実施例1と同様の工程において、キレート樹脂処理後のrHSA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作により得られるヒト血清アルブミンの産生宿主を含有する培養液を、流動床中に浮遊する吸着体粒子に接触させ、その吸着画分を回収し、その吸着画分を加熱することを特徴とする遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの精製方法。
【請求項2】
遺伝子操作により得られるヒト血清アルブミンの産生宿主を含有する培養液を、吸着体粒子が浮遊する流動床に上方送液することにより該吸着体粒子に接触させた後、送液方向を切替えて緩衝液を下方送液することによりその吸着画分を溶出、回収し、回収した吸着画分を加熱することを特徴とする遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの精製方法。
【請求項3】
還元剤の存在下で加熱をすることを特徴とする請求項1または2記載の精製方法。
【請求項4】
加熱処理の温度が50〜100℃、時間が10分〜10時間であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの精製方法。
【請求項5】
培養液と前記吸着体粒子との接触が、pH3〜5にて行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの精製方法。
【請求項6】
培養液と前記吸着体粒子との接触が、電気伝導度0.1〜50mSの雰囲気にて行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの精製方法。
【請求項7】
前記吸着体粒子が強陽イオン交換基を有する吸着体粒子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの精製方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの精製方法で回収されるヒト血清アルブミンを含有する加熱処理液を、さらに疎水性クロマト処理、陰イオン交換体処理、キレート樹脂処理、ホウ酸・塩処理および限外濾過膜処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの精製処理に付すことを特徴とする遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの精製方法。
【請求項9】
遺伝子操作由来のヒト血清アルブミンを含有し、当該アルブミン25%溶液の場合にA350 /A280 が0.015以下であることを特徴とするヒト血清アルブミン含有組成物。
【請求項10】
A350/A280が0.01未満である請求項9記載の組成物。
【請求項11】
遺伝子操作により得られるヒト血清アルブミンの産生宿主を含有する培養液を、流動床中に浮遊する吸着体粒子に接触させ、その吸着画分を回収し、その吸着画分を加熱することを特徴とする遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの製造方法。
【請求項12】
遺伝子操作により得られるヒト血清アルブミンの産生宿主を含有する培養液を、吸着体粒子が浮遊する流動床に上方送液することにより該吸着体粒子に接触させた後、送液方向を切替えて緩衝液を下方送液することによりその吸着画分を溶出、回収し、回収した吸着画分を加熱することを特徴とする遺伝子操作由来ヒト血清アルブミンの製造方法。
【請求項13】
還元剤の存在下で加熱をすることを特徴とする請求項11または12記載の精製方法。
【請求項14】
加熱処理の温度が50〜100℃、時間が10分〜10時間であることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の遺伝子操作由来の精製ヒト血清アルブミンの製造方法。
【請求項15】
培養液と前記吸着体粒子との接触が、pH3〜5にて行われることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の遺伝子操作由来の精製ヒト血清アルブミンの製造方法。
【請求項16】
培養液と前記吸着体粒子との接触が、電気伝導度0.1〜50mSの雰囲気にて行われることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の遺伝子操作由来の精製ヒト血清アルブミンの製造方法。
【請求項17】
前記吸着体粒子が強陽イオン交換基を有する吸着体粒子であることを特徴とする請求項11〜16のいずれかに記載の遺伝子操作由来の精製ヒト血清アルブミンの製造方法。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれかの製造方法で回収されるヒト血清アルブミンを含有する加熱処理液を、さらに疎水性クロマト処理、陰イオン交換体処理、キレート樹脂処理、ホウ酸・塩処理および限外濾過膜処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの精製処理に付すことを特徴とする、遺伝子操作由来の精製ヒト血清アルブミンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−130025(P2007−130025A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348383(P2006−348383)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【分割の表示】特願2005−240504(P2005−240504)の分割
【原出願日】平成7年8月31日(1995.8.31)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】