説明

遺伝子発現の活性化用人工的二方向プロモーター

両方の方向における遺伝子発現を活性化しかつ転写を調節する二方向モジュールが開示される。二方向モジュールは、 「転写開始モジュール」 からの高いレベルの発現を達成する 「転写活性化モジュール」 を与えるように戦略的に配置された、多数のシス調節DNA配列要素を含んでなる。転写開始モジュールは最小プロモーターのように機能する。転写活性化モジュールは、転写開始モジュールから両方向における転写を同時に活性化し、また、両方向における外部の刺激を含む、いくつかの転写に対して応答する。転写活性化モジュールは人工的に設計された二方向転写モジュールであるので、植物ゲノムにおけると同等のDNA配列をもたない。これにより、相同性に基づく機構によりサイレンスされる遺伝子の変化が減少される。したがって二方向プロモーターモジュールはそれ自体として、植物における遺伝子操作のための効率よいベクターを開発するために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、完全に人工的な二方向(bidirectional)発現モジュール (また、二方向プロモーターモジュールと呼ぶことができる) の設計を含んでなる。二方向モジュールは、 「転写開始モジュール」 からの高いレベルの発現を達成する 「転写活性化モジュール」 を与えるように戦略的に配置された、多数のシス調節DNA配列要素を含んでなる。転写開始モジュールは最小プロモーターとして機能する。
【0002】
転写活性化モジュールは、転写開始モジュールからの両方向における転写を同時に活性化し、また、両方向における外部の刺激を含む、いくつかの転写に対して応答する。転写活性化モジュールは人工的に設計された二方向転写モジュールであるので、植物ゲノムにおけると同等のDNA配列をもたない。これにより、相同性に基づく機構によりサイレンスされる遺伝子の変化が減少される。したがって二方向プロモーターモジュールはそれ自体として、植物における遺伝子操作のための効率よいベクターを開発するために使用できる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景および先行技術
遺伝子発現のプロセスは、2つの連続的段階、すなわち、転写および翻訳を含み、タンパク質またはポリペプチドの生成に導き、またはある場合において特異的機能をもつRNAの生成に導く。転写のプロセスは、遺伝子発現のプロセスおよびその調節において最も重要な調節段階である。真核生物遺伝子における転写開始および遺伝子発現のモジュレーションは、プロモーターと呼ばれるより大きい配列で集合的に配置された種々のDNA配列要素により指令される。
【0004】
プロモーターは5’ 側、すなわち、遺伝子のコーディング領域の開始前における、DNA配列の一部分である。プロモーターは、転写を開始し、また転写レベルをモジュレートするRNAポリメラーゼ機構のためのシグナルを含有する。典型的な真核生物のプロモーターは2つの部分、すなわち、最小プロモーターまたはコアプロモーターの一方の部分および上流の調節配列またはシス調節要素と呼ばれる他方の部分から成る [Odell J. T.、Nagy F. およびChua N. -H. Nature 313、810-812 (1985) およびBenfey P. N. およびChua N. -H. Science 250、959-966 (1990)]。
【0005】
最小プロモーターまたはコアプロモーターは、RNAによる正確な転写開始を指令するために十分な隣接DNA配列の最小ストレッチである [Pol II machinery. S. T.、Genes Dev 15、2503-2508 (2001)]。典型的なコアプロモーターはいくつかの配列モチーフをもつ転写開始部位を含み、前記配列モチーフはTATAボックス、イニシエーター (Intr) 配列、TFIIB認識要素 (BRE) および他のコアモチーフを包含する [Jennifer E. F. 他、Gene & Dev 16: 2583-2592 (2002)]。コアプロモーターは、基本的または一般的転写因子、例えば、TFIIA、B、D、E、FおよびHをもつマルチサブユニット酵素であるRNAポリメラーゼIIに対して作用部位を提供する。これらの因子は集成して、DNAテンプレートからのRNAの合成を触媒する転写前開始複合体 (PIC) となる。
【0006】
コアプロモーターの活性化は、調節DNA配列要素の追加の配列により実施され、これらの要素に種々のタンパク質が結合し、引き続いて転写開始複合体と相互作用して遺伝子発現を活性化させる。これらの調節要素は、個々にまたは組合わせてプロモーターの空間-末端の発現パターンを決定するDNA配列を含んでなる [Benfey P. N.、Ren L. およびChua N. -H. EMBO 9: 1685-96 (1990)]。
【0007】
これらの短い調節要素は転写開始点から変化する距離に位置し、いくつかの調節要素 (近接要素と呼ぶ) はコアプロモーターに隣接するが、他の要素はプロモーターから上流または下流の数キロ塩基に位置することができる (エンハンサー)。プロモーター要素の両方の型はコアプロモーターからの転写のレベルをモジュレートする [Wasylyk B. CRC, Critical Rev. Biochem. 23: 77-120 (1988)、JohnsonおよびMcKnight、Ann. Rev. Biochem. 58: 799-839 (1989)、FusslerおよびGussin、Methods in Enzymology 273: 3-29 (1996)]。プロモーターは、対応する遺伝子のコーディング領域の転写開始部位に関して通常5’ 上流に位置する。
【0008】
トランスジェニック植物は、必要な特性 (例えば、収量、病気耐性、植物治療およびその他) を改良するためにかつタンパク質ファクトリーとしてそれらを使用するために開発される。しばしば、遺伝子発現の目標を達成するために、多数の遺伝子を導入することが必要である。例えば、トランスジェニック細胞および組織の選択を可能とするために、ほとんど常に1つの遺伝子が使用される (例えば、カナマイシンのような抗生物質に対する耐性) が、トランスジェニック植物の品質を改良するためにターゲット遺伝子として第2 遺伝子が使用される (例えば、収量を増大しまたは病気に対する耐性を付与するための遺伝子およびその他の遺伝子)。
【0009】
このような遺伝子の各々は、それ自身のプロモーター配列から通常発現されなくてはならない。トランスジェニック植物の開発において最も広く使用されている構成的プロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス35S転写プロモーター、およびノパリンおよびオクタパインシンターゼ、ユビクイチンプロモーターおよびその他のプロモーターである。しかしながら、同一プロモーターを反復して使用して多数の問題の遺伝子を植物の中に導入すると、遺伝子のサイレンス化が起こる。
【0010】
遺伝子操作により多数の遺伝子を導入するために、いくつかの戦略が開発され、それらは異なる選択可能なマーカーをもつ多数の遺伝子構築物を使用する逐次形質転換、多数の構築物を使用する共形質転換、異なる構築物で形質転換された植物間の遺伝的交雑およびその他を包含する。植物形質転換ベクターの大きさおよび必要なプロモーターの数を減少させると同時に多くの遺伝子の発現を達成させる1つの方法は、二方向において転写を開始しかつ調節できる転写調節シグナルを開発することであろう。
【0011】
二方向プロモーターの使用は、2つの遺伝子を使用する逐次形質転換および共形質転換の制限を確実に克服することができる。Xie 他 [Nature Biotechnology 19: 677-679 (2001)] は、天然に存在する一方向または極性プロモーターを二方向プロモーターに変換する方法を発明した。このようなプロモーターは、2つの遺伝子または遺伝子融合物の発現を一度に指令することができる。ほんのわずかの型の強いプロモーター、例えば、CaMV 35Sプロモーターが報告され、そして二方向化可能であるだけである。自然ゲノムDNAと相同性を有する長いストレッチをもたない、完全に人工的に設計されたプロモーターを構築することは従来報告されてきていない。ゲノムに対して配列の相同性をもたない人工的プロモーターを設計する能力を開発することが非常に重要である。なぜなら、このようなプロモーターは相同性のためにサイレンス化しないであろうからである [Davies 他、The Plant Journal 12、791-804 (1997)]。
【0012】
この研究の発明者らは人工的合成プロモーターを設計する技術を早期に確立した (米国特許出願09/263692; EP出願99301419.0-2106、Sawant 他、2001、Theor. Appl. Genet. 102、635-644)。このような以前の合成プロモーターは前記参考文献中に詳細に記載されており、そしてこれらは引用することによって本明細書の一部とされる。
【0013】
本発明は、下記の配列番号1に示す人工的プロモーターの一部分をエンハンサー配列または 「転写活性化モジュール」 (TAM) として使用できるという発見に部分的に基づく:
GTCGACCATCATTTGAAAGGGCCTCGGTAATACCATTGTGGAAAAAGTTGGTAATACGGAAAAAGAAGATTCATCATCCAGAAAAGGTGTGGAAAAGTTGTGGATTGCGTGGAAAAAGTTCGATCTGACCATCTCTAGATCGTGGAAAAAGTTCACGTAAGCGCTTACGTACATATGTGGATTGTGGAAAAAGAAGACGGAGGCATCGGTGGAAAAAGAAGCTTGTACGCTGTACGCTGACGATAGATAGATACACGTGCACGCGTCCACTTGACGCACAATTGACGCACAATGACGCCACTTGACGCTACT………配列番号1
【0014】
配列番号1の他の部分は、転写イニシエーターまたは転写開始モジュール (TIM) として使用することができる。本発明は、TAMがTIMから両方向において遺伝子発現を活性化し、かつ調節することを教示する。強い遺伝子発現モジュールの人工的合成はいわゆる強いプロモーターの反復使用を回避する道具を提供する。なぜなら、広範な種類の人工的プロモーターを設計することができるからである。その上、多数の組織特異的または誘導可能な特性をもつ強い二方向プロモーターの開発は、植物における必要な耕種学的形質の改良において主要な用途を提供するであろう。いわゆる二方向発現モジュールを使用する形質転換のための発現ベクターを設計することは、トランスジェニック開発およびバイオテクノロジー産業のために大きい価値を有するであろう。完全にコンピュータ的方法により二方向プロモーターを設計する技術は、本明細書において証明するように、遺伝子操作において大変な柔軟性を提供する。
【0015】
合成遺伝子発現モジュールの構築は、天然のプロモーターに対する依存性に対する重要な代替法である。これにより、遺伝子のサイレンス化を回避することができ、また、植物において特に経済的に重要である価値のあるタンパク質または化合物の発現レベルを調節しかつ改良することができる [Rance I. 他、Plant Science 162: 833-842 (2002)、3つのウイルスプロモーター配列を組合わせて、植物における強いトランスジーンの発現を可能とする、高度に活性なプロモーターを発生させた]。
【0016】
本発明の著者ら (Sawant S. 他、Theor. Appl. Genet. 102: 635-644) は、植物における高いレベルの発現のために設計された完全に人工的な合成プロモーターを開発する唯一の例を提供した。このプロモーター (米国特許出願09/263692; EP出願 99301419.0-2106) はコンピュータ的方法により開発され、そして広範な種類の植物において高いレベルで発現することが証明され、したがって、それを設計した目的を達成した。
【0017】
本発明以前において、ある種の二方向プロモーターを記載する、下記に要約するいくつかの代表的特許が存在する。米国特許第5,814,681号には、多数のtetオペレーター配列を有する二方向プロモーターが記載されている。この特許において、天然に見出される原核生物のtetリプレッサー/オペレーター/インデューサー配列の7反復は、テトラサイクリンインデューサーの存在下に2つの最小プロモーターでフランクされるとき、真核細胞における2つの遺伝子の発現を指令できることが示されている。米国特許第595564号には、植物においてトランスジーンを発現させるための二方向の異種であるが、再び天然に存在する構築物が開示されている。米国特許第5,359,142号には、遺伝子発現の増強を変化できるように操作された、天然のプロモーター配列が開示されている。米国特許第5,837,849号には、植物発現可能な遺伝子の転写レベルを増大する、なお他の天然の植物エンハンサー要素が開示されている。
【0018】
米国特許第5,627,046号には、天然に存在する二方向プロモーターが開示されている。真核生物の極性プロモーターを二方向とする技術は、米国特許第6,388,170号に開示されている。その特許の発明者らは、その技術を使用して天然に存在する植物プロモーター、例えば、CaMV 35S、PCISV、OPRおよびSAG12のある種のグループを二方向化した。
【発明の開示】
【0019】
発明の目的
本発明の重要な目的は、二方向転写活性化DNAモジュールをコンピュータにより設計しかつ人工的に合成して、植物における多数のトランスジーンの発現レベルを同時にモジュレートすることである。
本発明の他の目的は、「転写開始モジュール」を人工的に設計しかつ化学的に合成して、転写を活性化または開始し、そして任意の「転写活性化モジュール」からの発現のためにそれを使用することである。
【0020】
本発明のなお他の目的は、二方向プロモーターにおける転写の方向および開始点を決定する「転写開始モジュール」を提供することである。
本発明の他の目的は、一方または両方向におけるいずれかまたは両方の遺伝子の発現をモジュレートするために、いわゆる「転写活性化モジュール」のいずれかまたは両方の側にいわゆる転写開始モジュールを配置することによって、完全に人工的に設計された「二方向発現モジュール」を作ることである。
【0021】
本発明の他の目的は、ゲノムDNAと相同性の長いストレッチをもたず、したがってトランスジェニック集団においてトランスジーンを安定に発現し、サイレンシングを示さない、コンピュータにより設計されたプロモーターを提供することである。
本発明の他の目的は、植物において高いレベルで発現する可能性について選択された遺伝子のデータベースのヌクレオチド配列解析に完全に基づいて、新規な「二方向発現モジュール」を人工的に設計しかつ開発するために、本発明者らにより同定された配列の特徴の機能的有効性を提供することである。
【0022】
本発明のなお他の目的は、選択マーカー遺伝子、例えば、nptII (カナマイシン耐性) またはhptII (ヒグロマイシン耐性) または1つの有効な遺伝子を1方向においておよびリポーター遺伝子、例えば、GUS A、GFPまたは任意の他の有効なタンパク質コーディング遺伝子を他の方向において発現するいわゆる「二方向発現モジュール」を使用して、植物形質転換ベクターを提供することである。
本発明のなお他の目的は、上記設計した植物形質転換ベクターを使用してトランスジェニック植物を発生させ、そして植物における必要な耕種学的に重要な形質の改良におけるそれらの実用性を証明することである。
【0023】
発明の要約
本発明は、上に引用した出願人の初期の発明を超えた進歩に関する。さらに詳しくは、本発明は、いずれかまたは両方の方向において、1つまたは2つの遺伝子の発現を単独でまたは一緒にモジュレートすることができる、新規な人工的に合成されかつ戦略的に設計された二方向遺伝子発現モジュールに関する。この新規な二方向発現モジュールは、化学的に合成されかつ理論的に設計されたDNA配列から構成された、前の発明において報告した全DNA配列の一部分として選択された。本発明は、下記の配列番号1に示すDNA配列の一部分、いわゆる 「転写活性化モジュール」 (TAM):
【0024】
GTCGACCATCATTTGAAAGGGCCTCGGTAATACCATTGTGGAAAAAGTTGGTAATACGGAAAAAGAAGATTCATCATCCAGAAAAGGTGTGGAAAAGTTGTGGATTGCGTGGAAAAAGTTCGATCTGACCATCTCTAGATCGTGGAAAAAGTTCACGTAAGCGCTTACGTACATATGTGGATTGTGGAAAAAGAAGACGGAGGCATCGGTGGAAAAAGAAGCTTGTACGCTGTACGCTGACGATAGATAGATACACGTGCACGCGTCCACTTGACGCACAATTGACGCACAATGACGCCACTTGACGCTACT………配列番号1
【0025】
が、「転写開始モジュール」 (TIM) と呼びかつ配列番号2に示す第2 構成成分DNA配列:
TCACTATATATAGGAAGTTCATTTCATTTGGAATGGACACGTGTTGTCATTTCTCAACAATTACCAACAACAACAAACAACAAACAACATTATACAATTACTATTTACAATTACATCTAGATAAACAATG………配列番号2
【0026】
がいずれかまたは両方の方向において配置されているとき、いずれかまたは両方の方向における転写を活性化できるという発見に基づく。こうして、「転写開始モジュール」 (TIM) が戦略的に配置される場合、第1部分、すなわち、「転写活性化モジュール」 (TAM) はセンスおよびアンチセンスの両方向における発現を同時にモジュレートすることができる。したがって、TIMは本質的にTAMを利用する。TIMは最小またはコアプロモーターのように機能し、本明細書に記載する実施例においてPtimと呼ぶ。
【0027】
本発明において同定する 「転写活性化モジュール」 は、植物において高いレベルで発現する可能性のために選択された遺伝子のデータベース中のヌクレオチド配列に基づいて完全に設計された。この活性化モジュールは多数のシス調節要素を含んでなり、これらの要素は残りに対して100〜500 bpの上流領域において、または高度に発現可能な植物遺伝子の転写開始部位の5’ 方向において同定された。
【0028】
これらのシス-要素は、トランスジェニック植物において配向独立的方法で遺伝子の発現レベル増強できる、人工的 「転写活性化モジュール」を設計するために、コンピュータにより配置された。それゆえ、「転写活性化モジュール」は二方向転写増強配列のように機能する。
【0029】
本発明の他の特徴は初期の発明からの「転写開始モジュール」の同定であり、この 「転写開始モジュール」 は転写開始部位に対して下流に配置された遺伝子を活性化する。このいわゆる 「転写開始モジュール」 は、データベース中の高度に発現可能な植物遺伝子中のTATAボックス、転写開始部位、非翻訳リーダーおよび翻訳開始領域におけるヌクレオチド配列の特徴的面に基づいて設計された。
【0030】
本発明は、最初に、核酸配列のデータベースから高度に発現された植物遺伝子のデータセットのコンピュータによる解析に基づいた、「転写活性化モジュール」および「転写開始モジュール」から構成された完全に人工的に設計された「二方向発現モジュール」を記載する。このような人工的に設計された配列は、植物における実質的に同等なまたは相同的配列をもたない。それゆえ、人工的に設計された配列は、遺伝子の相同性に基づくサイレンス化のためにサイレンスとならないので、発現においていっそう安定である [G. J. Davies、M. A. Sheikh、O. J. Ratcliffe、G. CouplandおよびI. J. Furner、The Plant Journal 12、791-804 (1997)]。
【0031】
この二方向発現モジュールが示す結果は、本発明者らが初期に同定した特徴を有する追加の非常に有効な機能を証明する。本発明は、トランスジェニック植物における多数のトランスジーンの緊密に調節された、組織特異的、構成的および誘導可能な同時の発現のための、高度に発現可能な二方向遺伝子発現カセットの設計および開発における、コンピュータ生物学の可能性を証明する。
【0032】
本発明の他の重要な面は、種々の細胞的および環境的因子により人工的に設計された合成「転写活性化モジュール」の両方向に配置された遺伝子の発現の同時増強である。例えば、トランスジェニックタバコ中のサリチル酸、インドール酢酸、塩化ナトリウムおよびその他に応答する遺伝子発現の調節は、本発明の一部分として証明される。二方向発現モジュールのこの性質は、本発明の転写活性化モジュールがまた化学的に誘導可能な二方向エンハンサーのように機能することを示す。
【0033】
こうして、本発明は、
a) 配列番号1に示す配列またはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ植物における遺伝子の発現レベルを増強するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写活性化モジュール;
b) 配列番号2に示すか、あるいはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ下流に位置する遺伝子の転写を開始する最小配列として機能するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写開始モジュール;
を含んでなる二方向プロモーターを提供する。
【0034】
好ましくは、前記転写開始モジュールは「転写活性化モジュール」のいずれかの側または両側に位置して、遺伝子操作された植物を発生させるために1つまたは2つの遺伝子を一度に1つまたは両方共同時に発現させる。
好ましい態様において、転写開始モジュールは転写活性化モジュールのいずれかの側または両側で5’ → 3’ 方向に沿って配置されているモーター。
他の好ましい態様において、転写開始モジュールは転写活性化モジュールのいずれかの側または両側で5’ → 3’ 方向に沿って配置されている。
【0035】
好ましくは、注目の1または2以上の遺伝子は転写活性化モジュールの一方または両側から発現する目的で転写活性化モジュールから下流に配置されている。
本発明の他の好ましい面において、前記転写活性化モジュールは、植物における転写開始部位から上流の100〜500ヌクレオチド位置内において高度に発現される植物遺伝子中に普通に存在するものとして、統計的に同定された特徴配列の配列番号1を有するDNA配列を含んでなる。
【0036】
本発明の他の好ましい面において、前記転写開始モジュールは、植物における自然プロモーター中の転写開始部位から上流の100ヌクレオチド以内に存在するものとして、統計的に同定された特徴配列の配列番号2を有するDNA配列を含んでなる。
また、本発明は、農学および産業に対して注目の植物の特性を改良する目的で上に記載の二方向プロモーターで安定に形質転換された後に発生したトランスジェニック植物に関する。
【0037】
また、本発明は、選択マーカー、例えば、nptII、bar、hptおよびその他または一方向からの他のこのような遺伝子およびリポーター遺伝子、例えば、gusA、gfp、lucまたはその産物を好都合にモニターできる他の遺伝子を発現する前述の二方向プロモーターを含んでなる植物の形質転換ベクターおよびトランスジェニック植物の発生のためのこのようなベクターの使用に関する。
【0038】
好ましい態様において、本発明は、
a) 配列番号1に示す配列またはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ植物における遺伝子の発現レベルを増強するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写活性化モジュール;
b) 配列番号2に示すか、あるいはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ下流に位置する遺伝子の転写を開始する最小配列として機能するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写開始モジュール;
c) 前記転写開始モジュールは 「転写活性化モジュール」 のいずれかの側または両側に位置して、遺伝子操作された植物を発生させるために、1つまたは2つの遺伝子を一度に1つまたは両方共同時に発現させる;
を含んでなる二方向プロモーターに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
発明の詳細な説明
次に、図面を参照して本発明をいっそう詳細に説明する。
本発明は、高度に発現可能な植物遺伝子の転写開始部位から上流の領域 (100〜500) において同定された、多数の転写シス-調節要素を含んでなる「二方向転写アクチベーターDNAモジュール」の人工的設計および化学的合成を含んでなる。高度に発現する植物プロモーターのコンピュータ解析に基づく設計に関する詳細な特許請求の範囲は、係属中の米国特許出願No. 09/263692またはEU特許出願99301419.0-2106において以前に提出された。
【0040】
これらのいわゆるシス調節保存配列要素は、完全に新規な転写活性化モジュール (配列番号1) を形成するために高度に発現された植物遺伝子のデータセット中に前記要素が存在する百分率、それらのコピー数および最も普通の存在位置に基づいて戦略的に配置された。TAMは長さ312 bpの配列であり、その重大な機能は転写の活性化または増強である。
本発明のこのいわゆる合成「転写活性化モジュール」を使用して、完全に新規な人工的に合成された「二方向発現モジュール」を設計した。この「二方向発現モジュール」は、「転写開始モジュール」が「転写活性化モジュール」の両方向に配置されるとき、センスおよびアンチセンスの両方向において転写を増強することができる。
【0041】
本発明において使用するいわゆる「転写開始モジュール」は、また、理論的に設計されかつ化学的に合成され、これは再び高度に発現された植物遺伝子セット中のTATAボックス近接領域におけるヌクレオチド配列の特徴的面に基づいて設計された (配列番号2)。TIMは130 bpの長さであり、そしてその重大な機能は、ある遺伝子の下流に配置されたとき、その遺伝子の転写を開始することである。
次いで、本発明者らはいわゆる「転写活性化モジュール」および「転写開始モジュール」を利用して、センスおよびアンチセンスの両方向において遺伝子発現をモジュレートする、完全に合成的な「二方向発現モジュール」を作った。
【0042】
配列番号1は312 bpの長さであり、そして配列番号2は130 bpの長さである。実施例において使用したある数の遺伝子構築物を図1に示す。実施例は本発明の二方向の機能を証明する。本発明は、最初に、核酸配列のデータベースから高度に発現された植物遺伝子のデータセットのコンピュータによる解析に基づいた、「転写活性化モジュール」および「転写開始モジュール」から構成された完全に人工的に設計された「二方向発現モジュール」を記載する。このような人工的に設計された配列は、植物における実質的に同等なまたは相同的配列をもたない。それゆえ、人工的に設計された配列は、遺伝子の相同性に基づくサイレンス化のためにサイレンス化しないので、発現においていっそう安定である [G. J. Davies、M. A. Sheikh、O. J. Ratcliffe、G. CouplandおよびI. J. Furner、The Plant Journal 12、791-804 (1997)]。
【0043】
この二方向発現モジュールが示す結果は、本発明者らが初期に同定した特徴を有する追加の非常に有効な機能を証明する。本発明は、上記2つの配列のトランスジェニック植物における多数のトランスジーンの緊密に調節された、組織特異的、構成的および誘導可能な同時の発現のための、高度に発現可能な二方向遺伝子発現カセットの設計および開発における、コンピュータ生物学の可能性を証明する。しかしながら、この領域における専門家は知るように、30 % 程度の配列の変動はTAMおよびTIMの機能に影響を与えない。また、初期の特許出願 (米国特許出願No. 09/263692またはEU特許出願99301419.0-2106) において例示されているように、コンピュータにより設計された配列のいくつかの変動は事実存在する。
【実施例】
【0044】
次に、下記の非限定的実施例を参照して本発明を説明する。これらの実施例は本発明を例示のみを目的とする。
実施例1.
トランスジェニックタバコ植物における 「転写活性化モジュール」 (TAM) のセンス方向におけるリポーター遺伝子 (gusA) の発現。
【0045】
【表1】

【0046】
グルクロニダーゼの遺伝子 (gusA) を人工的に設計された「転写開始モジュール」 (Ptim) から下流に配置し、次いでこのようなカセットを5’ → 3’ 方向において人工的に設計された 「転写活性化モジュール」 (TAM) の右側 (センス方向) に配置した。この場合において、遺伝子カセットを左側 (アンチセンス方向) に配置しなかった。遺伝子構築物を図1に示す。TAMが左側にPtimまたは遺伝子が存在しなくてさえ右側への転写を活性化することを証明するために、この遺伝子構築物を作った。選択マーカー (nptII) としてカナマイシン耐性遺伝子を含有するアグロバクテリウム・ツメファシエンス (Agrobacterium tumefaciens) LBA 4404およびよく知られておりかつ商業的に入手可能な (Clontech、米国) バイナリーベクターpBI 101中でクローニングされた上記構築物TAM-Pmec gusAを使用して、トランスジェニックタバコ植物を発生させた。
【0047】
5つの植物におけるgusA発現の結果を表1に記載する。見られるように、TAMはトランスジェニックタバコ植物の葉においてリポーター遺伝子gusAを非常に効率よく発現する。期待するように、活性は植物 # 527-2の場合における10.8から # 527-1の場合における324.2に変化する。発現レベルにおけるこのような変動は期待され、そしてタバコの染色体上の異なる位置におけるトランスジーン (gusA) の組込みのためであることが知られる。
【0048】
実施例2.
トランスジェニックタバコ植物における 「転写活性化モジュール」 (TAM) のセンス向きに配置された第2 リポーター遺伝子 (gfp) の発現。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例1において使用したのと異なるリポーター遺伝子をこの場合において選択して、TAMの右側からの高いレベルの発現が一般的現象であり、そしてgusAに限定されないことを示した。この場合において、緑色蛍光性タンパク質の遺伝子 (gfp) を人工的に設計された転写開始モジュール (Ptim) から下流に配置し、次いでこのようなカセットを5’ → 3’ 方向において人工的に設計された「転写活性化モジュール」 (TAM) の右側 (センス方向) に配置した。この場合において、遺伝子カセットを左側 (アンチセンス方向) に配置せず、TAMが左側に遺伝子が存在しなくてさえ右側への転写を活性化することを証明した。
【0051】
適当な選択マーカー (nptII) をもつアグロバクテリウム・ツメファシエンス (Agrobacterium tumefaciens) LBA 4404およびバイナリーベクターpBI 101中に上記構築物TAM-Ptim gfpを使用して、トランスジェニックタバコ植物を発生させた。遺伝子構築物を図1に示す。5つの植物におけるgfp発現の結果を表1に記載する。見られるように、TAMはトランスジェニックタバコ植物の葉においてリポーター遺伝子gfpを非常に効率よく発現する。期待するように、活性は植物 # 528-32の場合における165.5から # 528-12の場合における881.0に変化する。発現レベルにおけるこのような変動は期待され、そしてタバコの染色体上の異なる位置におけるトランスジーン (gfp) の組込みのためであることが知られる。
【0052】
実施例3.
トランスジェニックタバコ植物における 「転写活性化モジュール」 の二方向の機能を証明するために 「転写活性化モジュール」 の反対の向きに配置されたgusAおよびgfpの発現。
【0053】
【表3】

【0054】
この実施例において、実施例1および2に記載する2つのリポーター遺伝子が人工的に設計された二方向モジュールTAMの2つの反対側に配置されているとき、これらの発現が活性化されることを示した。両方の遺伝子はトランスジェニックタバコの葉において同時に発現される。リポーター遺伝子gfpは人工的に設計されたPtimと一緒にセンス方向 (TAMの右側) に配置したが、gusAはPtimと一緒にアンチセンス方向 (TAMの左側) に配置した。両方はTAMに沿って5’ → 3’ の方向であった。
【0055】
前の2つの実施例におけるように、アグロバクテリウム・ツメファシエンス (Agrobacterium tumefaciens) を使用してトランスジェニックタバコ植物を発生させ、カナマイシン耐性に基づいて選択した。これらの結果は、2つのリポーター遺伝子がすべての植物において2方向に同時に発現されたことを示す。両方の遺伝子の発現レベルは、期待するようにゲノム中のトランスジーンの異なる位置における組込みのために、変動を示した。この実施例は、図1に示すようにモジュールTAMすなわち、配列番号1をフォーマットPtim (アンチセンス) - TAM-Ptim (センス) で使用するとき、そのモジュールの二方向特質を確立する。
【0056】
実施例4.
トランスジェニックタバコ植物におけるサリチル酸による転写誘導に応答した2方向に配置された遺伝子の発現の同時増強。
【0057】
【表4】

【0058】
この実施例において、人工的に設計された「転写活性化モジュール」(TAM) が、実施例3に示すように、両方向において遺伝子発現を活性化するばかりでなく、かつまた実施例4に示すように外部の刺激に応答して発現をさらに増強することを例示する。この実施例において、サリチル酸を外部の刺激として使用した。表4における結果は、TAMがサリチル酸による増強を両方向において同時に数倍にすることができることを確立する。例えば、グルクロニダーゼ活性 (gusA) はトランスジェニック植物 # 1301-3において約57倍に増強された。
【0059】
同時に、同一植物において、緑色蛍光性タンパク質 (gfp) もまた8倍に増強された。前者はアンチセンス方向であったが、後者はセンス方向であった。また、これは図1中の遺伝子構築物において示されている。同様に、植物 # 1301-5において、約788倍の増加がgusA (アンチセンス方向) について認められたが、31倍の増加がgfp (センス方向) について認められた。これらの結果は、TAMがサリチル酸に対して両方向において応答することを確立する。しかしながら、増強の程度は2方向において異なることがある。
【0060】
実施例5.
NaClによる転写開始の誘導に応答した2方向に配置された遺伝子の発現の同時増強。
【表5】

【0061】
この実施例において、実施例4におけるように設計した「二方向発現モジュール」 がNaCl (塩化ナトリウム) 処理に応答して発現をさらに増加させることを例示する。表5における結果が示すように、TAMはトランスジェニック系統1301-3においてアンチセンス方向におけるGUS活性を10倍増加させ、そしてセンス方向におけるgfpを12倍増加させる。ゲノム中のトランスジーンの組込み位置が異なるために、異なるトランスジェニック系統におけるgusAおよびgfpの発現レベルは変化する。遺伝子構築物を図1に示す。トランスジェニック植物は表4に記載する植物と同一である。
【0062】
実施例6.
トランスジェニックタバコ植物におけるインドール酢酸 (IAA) による転写誘導に応答した2方向に配置された遺伝子発現の増強。
【0063】
【表6】

【0064】
この実施例において、トランスジェニックタバコの葉に対するインドール酢酸 (IAA) 処理に対するgusAおよびgfp活性の増加を示す。グルクロニダーゼ活性 (gusA) はトランスジェニック植物1301-4において約7倍増強された。同一植物において、gfpは22倍増強された。植物1301-5 (アンチセンス方向) において、gusA活性が4倍増加し、そしてgfp (センス方向) が8倍増加した。実施例4、5および6における結果が示すように、合成 「転写活性化モジュール」 の化学的に誘導可能な挙動は両方向において発現をモジュレートする。
【0065】
実施例7.
発現による耕種学的に改良されたタバコ植物の発生および二方向エンハンサーからの殺虫性タンパク質。
【0066】
【表7】

【0067】
この実施例において、人工的に設計された転写活性化モジュールを使用して、植物の形質転換およびよりすぐれた農学的性能について改良されたトランスジェニック植物を発生させるためのベクターを開発できることを確立する。この実施例において、カナマイシン耐性についてよく知られている選択マーカー遺伝子 (nptII) をPtimと一緒にTAMの左 (アンチセンスストランド) に配置させて、カナマイシン耐性に基づくトランスジェニック植物の選択を可能とした。結晶タンパク質遺伝子 (土壌細菌バシラス・スリンジェンシス (Bacillus thuringiensis) から本来クローニングされた) と呼ぶ作物栽培学的に価値のある遺伝子cryIAcをPtimと一緒にTAMの右側 (センス方向) に配置させた。
【0068】
cryIAcは燐翅類 (Lepidoptera) 昆虫ヘリコベルパ (Helicoverpa) 種およびその他の幼虫に対して高度に毒性のタンパク質をコードする。トランスジェニック植物をカナマイシン耐性について選択した。すべての5種類の選択したトランスジェニック植物は、ELISAにより推定して全可溶性葉タンパク質の0.07〜0.16 % の範囲で殺虫性タンパク質cryIAcの発現を示した。すべての5種類の植物は幼虫に対して毒性であり、そしてトランスジェニックタバコ植物の葉を食べた第1齢期の幼虫の89〜100 % の死亡率を与えた。
【0069】
これらの結果により確立されるように、完全に人工的に設計された配列TAMはPtimと組合わせて使用して、産業的に高い価値を有するトランスジェニック植物の発生に使用できる、二方向プロモーターに基づくベクターを開発することができる。トランスジェニックワタ系統を発生させるとき、同様な結果が得られた。同様な二方向モジュールからδ-エンドドキシンを発現する昆虫毒性コーカー (Coker) ワタ系統が得られた。ヘリコベルパ (Helicoverpa) 種およびスポドプテラ (Spodoptera) 種と呼ぶ2つの主要なオオタバコガ幼虫を包含する、燐翅類 (Lepidoptera) 有害生物による摂食被害に対して、これの植物は高度に抵抗性である。
【0070】
結論
設計された「二方向発現モジュール」の有効性および特徴を証明するために、発現モジュールのセンスおよびアンチセンスの両方向 (図1) に配置されたリポーター遺伝子グルクロニダーゼA (gusAまたはGUS)、緑色蛍光性タンパク質 (gfp)、δ-エンドドキシン (cry) およびその他を使用して種々の遺伝子構築物を作り、実施例において使用した。リポーター遺伝子の発現パターンは同様であり、そして1つを一度に (実施例1および2) または2つを一度に (実施例3、4、5、6、7) に取ったとき、センスおよびアンチセンスの両方向において匹敵し、同一構築物をもつ種々の系統内における発現レベルの変動は期待した通りであった。このような発現レベルの変動は期待され、そしてターゲット植物の染色体上の異なる位置におけるトランスジーンの組込みのためであることが知られている。
【0071】
本発明者らが示す他の重要な特徴は、実施例 (4、5および6) に示すように両方向における遺伝子発現を増強させるばかりでなく、かつまたサリチル酸処理 (実施例4) または他の環境的因子 (実施例5) に応答して発現をさらに増強させる、設計された 「転写活性化モジュール」 の化学的に誘導可能な挙動である。これらの結果により、両方向におけるサリチル酸による同時の数倍の増強が示される。同様な結果は、NaCl (実施例5) およびIAA (実施例6) の場合において観察され、これは転写活性化モジュールの化学的に誘導可能な挙動を証明する。
【0072】
本発明者らは二方向発現をさらに利用して、植物遺伝子発現ベクターモジュールを開発した。このようなベクターは、選択マーカー、例えば、カナマイシン耐性 (nptII) を1方向において発現しかつ殺虫性δ-エンドドキシンコーディングcryIAc遺伝子を他の方向において発現する、二方向プロモーターから構成された (実施例7)。この実施例は、作物栽培学的に改良されたトランスジェニック植物の発生における、このような開発されたベクターの実験的実用性を明瞭に証明する。
【0073】
設計された発現モジュールがトランスジェニックタバコにおいて示した結果は、この新規な「二方向遺伝子発現モジュール」 を開発するために本発明者らが利用した特徴およびアプローチの機能的有効性を確立する。これにより、植物において調節された、組織特異的、構成的および誘導可能なトランスジーンを発現させる、人工的二方向発現カセットを設計するとき利用できる、コンピュータによる生物学の潜在的応用が明瞭に証明される。これらはバイオテクノロジーにおいて大きい用途を有することは明らかである。
【0074】
引用された米国特許
米国特許第5,359,192号 (1994年10月、McPherson 他、800/205);
米国特許第5,424,200号 (1995年6月、McPerson 他、435/70);
米国特許第5,627,046号 (1997年5月、Falconc 他、435/69);
米国特許第5,814,618号 (1998年9月、Bajard 他、514/44);
米国特許第5,837,849号 (1998年11月、Ellis 他、536/24);
米国特許第6,004,941号 (1999年12月、Bujard 他、514/44);
米国特許第6,338,170号 (2002年5月、Gan 他、800/278)。
【0075】
他の参考文献
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【0076】
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【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、本発明に従い作られたある数の遺伝子構築物を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 配列番号1に示す配列またはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ植物における遺伝子の発現レベルを増強するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写活性化モジュール;
b) 配列番号2に示すか、あるいはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ下流に位置する遺伝子の転写を開始する最小配列として機能するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写開始モジュール;
を含んでなる二方向プロモーター。
【請求項2】
前記転写開始モジュールが前記「転写活性化モジュール」のいずれかの側または両側に位置して、遺伝子操作された植物を発生させるために1つまたは2つの遺伝子を一度に1つまたは両方共同時に発現させる、請求項1に記載の二方向プロモーター。
【請求項3】
前記転写開始モジュールが前記転写活性化モジュールのいずれかの側または両側で5’ → 3’ 方向に沿って配置されている、請求項1に記載の二方向プロモーター。
【請求項4】
前記転写開始モジュールが前記転写活性化モジュールのいずれかの側または両側で5’ → 3’ 方向に沿って配置されている、請求項2に記載の二方向プロモーター。
【請求項5】
注目の1または2以上の遺伝子が転写活性化モジュールの一方または両側から発現する目的で、転写活性化モジュールから下流に配置されている、請求項2に記載の二方向プロモーター。
【請求項6】
前記転写活性化モジュールが、植物における転写開始部位から上流の100〜500ヌクレオチド位置内において高度に発現される植物遺伝子中に普通に存在するものとして、統計的に同定された特徴配列の配列番号1を有するDNA配列を含んでなる、請求項1に記載の二方向プロモーター。
【請求項7】
転写開始モジュールが、植物における自然プロモーター中の転写開始部位から上流の100ヌクレオチド以内に存在するものとして、統計的に同定された特徴配列の配列番号2を有するDNA配列を含んでなる、請求項1に記載の二方向プロモーター。
【請求項8】
農学および産業に対して注目の植物の特性を改良する目的で請求項1に記載の二方向プロモーターで安定に形質転換された後に発生したトランスジェニック植物。
【請求項9】
選択マーカー、例えば、nptII、bar、hptおよびその他または一方向からの他のこのような遺伝子およびリポーター遺伝子、例えば、gusA、gfp、lucまたはその産物を好都合にモニターできる他の遺伝子を発現する請求項1に記載の二方向プロモーターを含んでなる植物の形質転換ベクターおよびトランスジェニック植物の発生のためのこのようなベクターの使用。
【請求項10】
a) 配列番号1に示す配列またはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ植物における遺伝子の発現レベルを増強するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写活性化モジュール;
b ) 配列番号2に示すか、あるいはそれに対して70 % まで相同性であり、かつ下流に位置する遺伝子の転写を開始する最小配列として機能するように設計された、化学的に合成されかつ戦略的に設計された人工的ヌクレオチド配列を含んでなる転写開始モジュール;
c) 前記転写開始モジュールは 「転写活性化モジュール」 のいずれかの側または両側に位置して、遺伝子操作された植物を発生させるために、1つまたは2つの遺伝子を一度に1つまたは両方共同時に発現させる;
を含んでなる二方向プロモーター。

【図1】
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【公表番号】特表2007−518392(P2007−518392A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512741(P2005−512741)
【出願日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000442
【国際公開番号】WO2005/063993
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(595059872)カウンシル オブ サイエンティフィク アンド インダストリアル リサーチ (81)
【Fターム(参考)】