説明

遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管及びそれを用いた遺体処置装置

【課題】操作性に優れ、常に一定した施用部位に確実に体液漏出防止剤を作業性良く注入・装填できる遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管及びそれを用いた遺体処置装置を提供する。
【解決手段】遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管は、可撓性の合成樹脂製挿入管(40)であって、先端部に開孔部(42)を有すると共に、先端から所定距離離れた位置に湾曲部(46)を有する挿入管本体(40a)と、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器(10)の吐出筒部(22)に接続するための接続部(43)とを有し、該接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部(44)を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体の体腔、特に口、鼻、耳などの体腔に装填して封止することにより、遺体からの体液漏出を防止するための体液漏出防止剤注入用挿入管及びそれを用いた遺体処置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒトや動物の死亡後には体腔各部の筋肉が弛緩し、胃液、肺液、腹水、排泄物などの体液が漏出することが多く、悪臭や、病原菌による感染の原因ともなっている。このため、例えば病院では、死亡確認後、遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣等の体腔に多量のガーゼ、脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行なわれており、また、事故や手術後の遺体の開口部にも同様な処置がとられている。しかしながら、体腔へのガーゼ、脱脂綿等の装填作業の多くは、従業者や看護師等の手によって行われることが多く、その作業の煩雑さや不衛生さと同時に、ガーゼ、脱脂綿等は吸水能力が低いため、作業中もしくは作業後にしばしば体液が漏出してしまうという問題や、作業従事中にこの漏出物質による死後感染の可能性もあり、その解決が強く求められていた。
【0003】
このようなことから、ガーゼ、脱脂綿等に代えて高吸水性樹脂粉末を口、鼻、耳、咽喉などに装填することが知られており、例えば、注射器を使って口、鼻、耳に高吸水性樹脂粉末を装填する方法や(特許文献1参照)、安定化二酸化塩素を含む吸水性樹脂粉末を、咽喉には粉末のまま、耳孔、鼻孔には水溶性シートに包んで使用する方法(特許文献2参照)などが知られている。ところが、このような高吸水性樹脂粉末を装填しようとしても、流動性が悪いため、狭い体腔、例えば咽喉部、肛門等には装填することが困難である。また、鼻孔や耳孔の入口部分だけであれば、このような微粉末を注射器のような注入器で充填できるが、奥までは充填できない。また、奥まで充填するために注入器を動かしながら充填しようとすると、先端から出る微粉末が飛び散り、かえって遺体周辺を汚すだけである。
【0004】
このような高吸水性樹脂粉末の充填性や作業性の悪さや、飛散等の問題を解決するために、近年、粉体でなく、ゼリーを用いることが提案されており、例えば、消臭剤入りの粉末ポリマーを適当量の水で溶かし適当に混合してゼリー状にしたものを用いる方法(特許文献3参照)や、ジメチルアクリルアミドを主成分とする両親媒性ゲルを用いる方法(特許文献4参照)、アルコールを主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体を多数分散させたものを用いる方法(特許文献5参照)が知られている。
【0005】
このようなゼリー状の体液漏出防止剤を、例えば鼻孔奥の咽喉部に充填する場合の充填方法について図1を参照しながら説明すると、特許文献5に記載のように、ゼリー状の体液漏出防止剤2が収容されている注入器1は、後端部からピストン3が摺動自在に挿入されていると共に、その先端に保護キャップ5を被せた注入口4を備え、フイルムパック(図示せず)で包んでシールした状態にされている。咽喉部B等の体腔に挿入される挿入管6は、一端に注入器1の注入口4に接続される接続部7を有し、他端に鼻孔Aに挿入される開口部8を有する。
【0006】
次に、このようにして用意された遺体処置装置を使用する方法を説明する。図1において、Aは鼻孔、Bは咽喉部、Cは舌、Dは気管、Eは食道である。使用時には、フイルムパックから注入器1を取り出し、注入器1の注入口4の保護キャップ5を取り外し、挿入管6の接続部7を注入口4に嵌め合わせて挿入管6を接続する。次いで、挿入管6の開口部8を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管6のストッパ部9が鼻先Bに当たった時点で挿入を停止する。そして、注入器1のピストン3を押圧し、注入器1内のゼリー状の体液漏出防止剤2を挿入管6を経由して咽喉部Bに注入する。注入器1内の体液漏出防止剤2を押出し、充填した後は、注入器1と挿入管6を鼻孔Aから取り除く。
【0007】
前記したようなゼリー状の体液漏出防止剤は、流動性が高く、鼻孔、耳穴等の狭い体腔であっても充填され易く、注入器で圧入しても飛散することがないという利点を有する。特に、高吸水性ポリマー粉体を多数分散させたゼリーの場合、吸水性能が高く、このポリマーが体腔から漏出する体液を吸収し、外部へ漏出することを防止することが可能となる。しかしながら、従来の注入器と挿入管の組合せの場合、その操作性に問題があると共に、細長い挿入管の中間部に挿入停止位置を示すマーク又はストッパ部を有しているため、挿入管の挿入に熟練を要し、常に一定した施用部位に確実に体液漏出防止剤を注入・装填することが難しいという問題がある。また、挿入管の先端に開口があるため、施用部位に先端開口が当接した時に塞がれ、体液漏出防止剤を注入し難くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−298001号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−265367号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平8−133901号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2001−288002号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特許第3586207号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、操作性に優れ、挿入管の挿入に熟練を要することなく、常に一定した施用部位に確実に体液漏出防止剤を作業性良く注入・装填することができる、遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管及びそれを用いた遺体処置装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明によれば、遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管が提供され、その基本的な態様は、可撓性の合成樹脂製挿入管であって、先端部に開孔部を有すると共に、先端から所定距離離れた位置に湾曲部を有する挿入管本体と、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器の吐出筒部に接続するための接続部とを有し、該接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部を有していることを特徴としている。
前記体液漏出防止剤注入用挿入管の第一の態様は、可撓性の合成樹脂製挿入管であって、先端部が略半球状に閉鎖されて形成され、且つその側面に複数の開孔部を有する挿入管本体と、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器の吐出筒部に接続するための接続部とを有し、該接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部を有していることを特徴としている。
【0011】
また、第二の態様は、可撓性の合成樹脂製挿入管であって、先端部が半径方向中心へ向けて外側に湾曲して延びる複数の舌片により略半球状に形成されていると共に、該複数の舌片の先端により形成される開口と舌片間のスリットからなる開口部が形成されている挿入管本体と、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器の吐出筒部に接続するための接続部とを有し、該接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部を有していることを特徴としている。
【0012】
さらに本発明によれば、前記体液漏出防止剤注入用挿入管と;先端に上記挿入管の接続部に接続するための吐出筒部を有すると共に、後端部に指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した鍔部を有する筒状本体と、該筒状本体に後端部側から摺動自在に挿入されているピストンとを有する体液漏出防止剤用注入器とを備えていることを特徴とする遺体の処置装置が提供される。
好適な態様においては、前記体液漏出防止剤用注入器の筒状本体は、先端に吐出筒部を有する円筒状部材と、その外周に被冠されたカバー部材とからなり、前記鍔部は上記カバー部材に設けられており、また前記ピストンは上記円筒状部材に摺動自在に挿入されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管によれば、前記挿入管本体は、先端から所定距離離れた位置に湾曲部を有するため、鼻孔から咽頭部奥まで挿入する際、抵抗なくスムーズに挿入管を挿入できる。
【0014】
本発明に係る遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管の第一の態様によれば、可撓性の合成樹脂製挿入管本体の先端部が略半球状に閉鎖されて形成され、且つその側面に複数の開孔部を有するため、鼻孔から咽喉部にかけてスムーズに挿入管を挿入できると共に、施用部位に先端開口が当接した時に塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるというような問題はなく、スムーズに体液漏出防止剤を注入・装填することができる。また、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器の吐出筒部に接続するための接続部を有し、この接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部を有しているため、細長い挿入管の中間部にストッパ部を設けた場合に比べて挿入管の長さを短くでき、挿入管の挿入を熟練を要することなくスムーズに行うことができ、且つ、常に一定した施用部位に確実に開孔部が位置して体液漏出防止剤を注入・装填することができる。
【0015】
一方、本発明に係る遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管の第二の態様によれば、可撓性の合成樹脂製挿入管本体の先端部が半径方向中心へ向けて外側に湾曲して延びる複数の舌片により略半球状に形成されていると共に、該複数の舌片の先端により形成される開口と舌片間のスリットからなる開口部が形成されているため、注入器に充填されている体液漏出防止剤がピストンにより押し出される時、体液漏出防止剤が複数の舌片を押し広げて出ると共に、拡開された舌片間のスリットからも出るためにその表面積が広くなる。そのため、体腔内の体液と接触した際、素早く吸液して流動性の無い固いゲルになり、より効果的に迅速に体液漏出の防止が可能となる。また、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器の吐出筒部に接続するための接続部を有し、この接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部を有しているため、細長い挿入管の中間部にストッパ部を設けた場合に比べて挿入管の長さを短くでき、挿入管の挿入を熟練を要することなくスムーズに行うことができ、且つ、常に一定した施用部位に確実に開孔部が位置して体液漏出防止剤を注入・装填することができる。
【0016】
さらに、本発明の遺体の処置装置は、前記した体液漏出防止剤注入用挿入管と;先端に上記挿入管の接続部に接続するための吐出筒部を有すると共に、後端部に指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した鍔部を有する筒状本体と、該筒状本体に後端部側から摺動自在に挿入されているピストンとを有する体液漏出防止剤用注入器とを備えているため、前記した挿入管使用の効果を発揮すると共に、筒状本体の後端部に指を引っ掛けるための鍔部を有するため、遺体の体腔への体液漏出防止剤の注入操作をより簡便に作業性良く行うことができる。
【0017】
さらに、遺体処置装置の好適な態様においては、前記体液漏出防止剤用注入器の筒状本体は、先端に吐出筒部を有する円筒状部材と、その外周に被冠されたカバー部材とからなり、前記鍔部は上記カバー部材に設けられており、また前記ピストンは上記円筒状部材に摺動自在に挿入されているため、一体成形の場合に比べて低コストで容易に筒状本体を製造できると共に、カバー部材を断面多角形の外形にしたり、カバー部材を着色したり、あるいはその色を他の部材の色と異なるように着色してカラフルな注入器とすることにより、病院で看護師が一般の注射器と間違えずに容易に判別できる、あるいはまた施用場所を鮮明に把握できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の遺体処置装置の使用状態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る遺体処置装置の一実施態様を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。
【図3】図2に示す遺体処置装置の中心軸線に沿った縦断面図である。
【図4】図2に示す遺体処置装置の中心軸線に沿った横断面図である。
【図5】本発明に係る遺体処置装置の挿入管の一実施態様を示す縦断面図である。
【図6】本発明に係る遺体処置装置の挿入管の先端の他の実施態様を示す部分側面図である。
【図7】本発明に係る遺体処置装置の挿入管の湾曲部の一実施態様を示す側面図である。
【図8】本発明に係る遺体処置装置の挿入管のさらに他の実施態様を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管の第一の特徴は、前記挿入管本体は、先端から所定距離離れた位置に湾曲部を有する点にあり、そのため、鼻孔から咽頭部奥まで挿入する際、抵抗なくスムーズに挿入管を挿入できる。また、他の特徴では、可撓性の合成樹脂製挿入管本体の先端部が略半球状に形成されており、これにより鼻孔から咽喉部にかけてスムーズに挿入管を挿入できる。第一の態様によれば、挿入管本体の先端部が略半球状に閉鎖されて形成され、且つその側面に複数の開孔部を有するため、先端開口が当接した時に塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるというような問題はなく、体液漏出防止剤を充分に注入することができる。
【0020】
一方、第二の態様においては、挿入管本体の先端部が半径方向中心へ向けて外側に湾曲して延びる複数の舌片により略半球状に形成されていると共に、該複数の舌片の先端により形成される開口と舌片間のスリットからなる開口部が形成されている。そのため、体液漏出防止剤を充分に注入することができると共に、注入器に充填されている体液漏出防止剤がピストンにより押し出される時、体液漏出防止剤が複数の舌片を押し広げて出ると共に、拡開された舌片間のスリットからも出るためにその表面積が広くなる。そのため、体腔内の体液と接触した際、素早く吸液して流動性の無い固いゲルになり、より効果的に迅速に体液漏出の防止が可能となる、という付加的な効果が得られる。
【0021】
また、前記いずれの態様の体液漏出防止剤注入用挿入管にも共通する第二の特徴は、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器の吐出筒部に接続するための接続部を有し、この接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部を有している点にある。このため、細長い挿入管の中間部にストッパ部を設けた場合に比べて挿入間の長さを短くでき、挿入管の挿入を熟練を要することなくスムーズに行うことができ、且つ、常に一定した施用部位に確実に開孔部が位置して体液漏出防止剤を注入・装填することができる。また、鼻孔から咽頭部奥まで挿入する際、抵抗なくスムーズに挿入管を挿入できるように、挿入管本体の先端から所定距離離れた位置に湾曲部を設けることが好ましい。なお、挿入管本体と接続部は一体成形してもよく、あるいは別体としてもよい。別体とする場合、接続部は剛性な合成樹脂で形成することが好ましく、この接続部と挿入管本体は接着剤、溶着等の適当な手段により接合する。また、ストッパ部44は接続部の先端に形成してもよく、あるいは接続部の中間部に形成してもよい。
【0022】
さらに、本発明の遺体処置装置は、前記した体液漏出防止剤注入用挿入管を用いることを第一の特徴としているが、第二の特徴として、体液漏出防止剤用注入器の筒状本体の後端部に指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した鍔部を有する点にある。このような鍔部を設けることにより、これに指を引っ掛けることができるため注入操作がし易くなる。
【0023】
さらに、従来の体液漏出防止剤用注入器は一般の注射器と類似の外形を有するため、病院で看護師が一般の注射器と間違える恐れがある。万が一、一般の注射器と間違えた場合、重大な医療事故となるので絶対に避けなければならない。そのためには、体液漏出防止剤用注入器の筒状本体を、先端に吐出筒部を有する円筒状部材と、その外周に被冠されたカバー部材とに分けることが好ましい。これにより、一体成形の場合に比べて低コストで容易に筒状本体を製造できるという利点の他に、カバー部材を断面多角形の外形にしたり、カバー部材を着色したり、あるいはその色を他の部材の色と異なるように着色してカラフルな注入器とすることにより、病院で看護師が一般の注射器と間違えずに容易に判別できる、あるいはまた施用場所を鮮明に把握できるようにすることができる。
【実施例】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の体液漏出防止剤注入用挿入管及びそれを用いた遺体処置装置の各態様の具体例について説明する。
図2〜図5は、鼻孔から挿入して咽喉部に前記体液漏出防止剤を注入・装填するための処置装置を示しており、図2〜図4はその注入器10を、図5は挿入管40を示しており、符号Xは注入器10内に収容された体液漏出防止剤を示している。
【0025】
図2〜図4は注入器10を示しているが、図4は図2に示す状態から中心線のまわりに90°回転した状態の断面図を示している。図2〜図4に示されるように、注入器10は、いずれも高密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド等のプラスチックから作製された筒状本体20とピストン30とから構成されている。筒状本体20は、先端に吐出筒部22を有する円筒状部材21と、その外周に被冠されたカバー部材25とからなる。
【0026】
カバー部材25は、図2から明らかなように断面八角形の筒体であり、病院で看護師が一般の注射器と間違えずに容易に判別できるように構成されていると共に、先端側がやや先細のテーパ状に形成され、円筒状部材21を嵌入したときに容易に脱落しないように構成されている。なお、カバー部材を着色したり、あるいはその色を他の部材の色と異なるように着色してカラフルな注入器とすることにより、施用場所を鮮明に把握できるようにすることも可能である。図4に明瞭に示されているように、カバー部材25は、その後端部に指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した一対の鍔部26を有する。鍔部26の先端部分は、吐出筒部22の方向に湾曲しており、指が容易に引っ掛かり易いようになっている。鍔部26の円筒状部材21の外周面からの高さは約5〜18mm、先端部の湾曲の程度は0〜50°の範囲内に設定することが好ましい。さらに、円筒状部材21の後端には一対の凸状の係止部23が形成されており、鍔部26がこの係止部23に当接することによって、鍔部26に指を引っ掛けて注入操作をした時に、カバー部材25が円筒状部材21の後端より後方向に移動しないように構成されている。また、吐出筒部22の先端開口部には、注入器10内に本発明の体液漏出防止剤が充填された後に保護キャップ29が取り外し可能に被冠される。なお、本実施態様においては、円筒状部材21とカバー部材25は別体に形成されているが、一体成形してもよい。
【0027】
一方、ピストン30は、上記筒状本体20の円筒状部材21に、後端部側から摺動自在に挿入されている。ピストン30の長さは、内容物の体液漏出防止剤Xを全て押し出せるように、円筒状部材21の長さよりも長くなるように設計されている。ピストン30は、断面十字形のピストンロッド31を有し、その先端部には該ピストンロッドの断面寸法よりも若干大きな直径の円形フランジ部32が形成されている。該円形フランジ部32から突出して形成されたフランジ部33周囲には、合成樹脂やゴム等から作製されたガスケット34が被冠されている。また、ピストンロッド31の後端には、ピストンロッド31を指で押圧し易いように、指を当てる円板状部35が形成されている。ピストン30は、筒状本体20の円筒状部材21に後端部側から挿入したときに、上記ガスケット34が注入器10の円筒状部材21内周面に接触した状態で円筒状部材21内を摺動するように構成されている。さらに、円筒状部材21の後端部近傍の内周面には僅かに内方に突出したリング状の突条部24が形成されており、この突条部24にピストンロッド31の円形フランジ部32が当たることによって、ピストン30が筒状本体20から容易に抜け出ないように構成されている。なお、本実施態様ではピストンロッド31は断面十字形であるが、断面円形等の棒状であってもよい。
【0028】
挿入管40は、鼻孔に挿入した際、鼻腔形状に沿って撓む柔軟性を有するポリエステルエラストマー、軟質塩化ビニル樹脂、ゴム等の可撓性の合成樹脂から作製されている。図5に示されるように、挿入管40は挿入管本体40aと接続部43とからなり、挿入管本体40aの先端部41は鼻孔から挿入し易いように略半球状に形成されて閉鎖されており、且つその側面に、位置をずらした2ヶ所に、互いに直行する方向のそれぞれ一対の開孔部42を有すると共に、後端部には、前記注入器10の吐出筒部22に接続するための後側にやや拡開したテーパ状の接続部43が設けられている。また、接続部43の挿入管本体側の所定位置(好ましくは接続部43の先端位置)には、外周を囲繞するように半径方向外側に突出した断面円形のストッパ部44が形成されている。ストッパ部44の直径は、鼻孔等の所望の体腔に挿入されないようなサイズとする必要がある。
【0029】
上記挿入管40の先端部の開孔部42は、円形、楕円形等の所望の形状をした孔とすることができ、その位置は挿入管先端から約5〜30mmの距離が好ましい。また、開孔部42の数は、本実施態様では4個であるが、2〜6個程度の任意の数でよい。また、上記ストッパ部44は、挿入管本体を鼻孔から通して咽頭部に挿入する際の開孔部42の到達する長さ(注入位置)を決めるが、挿入管本体40aの先端からストッパ部44までの長さは約100〜140mmが好ましく、また、挿入管本体40aの外径は約3.5〜7mm、内径は約2〜5mmであることが好ましい。
【0030】
上記遺体処置装置の使用に際しては、まず、注入器10の吐出筒部22の保護キャップ29を取り外し、挿入管40の接続部43に吐出筒部22を嵌め合わせて挿入管40と注入器10を接続する。次いで、挿入管本体40aを鼻孔A(図1参照)から咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管40のストッパ部44が鼻先に当たった時点で挿入を停止する。この際、挿入抵抗を軽減するために、挿入管本体40aに潤滑剤を塗布してもよい。そして、注入器10のピストン30を押圧し、注入器10内のゼリー状の体液漏出防止剤Xを挿入管40を経由して咽喉部Bに注入する。注入器10内の体液漏出防止剤Xを押出し、充填した後は、注入器10と挿入管40を鼻孔Aから抜き出す。なお、上記操作方法では、挿入管40を注入器10に接続した状態で鼻孔Aに挿入したが、挿入管40を先に鼻孔Aに挿入し、次いで挿入管40に注入器10を接続してもよい。
【0031】
図6は、本発明に係る体液漏出防止剤注入用挿入管の先端部の変形例を示している。
この変形例においては、図6に示すように、挿入管本体40aの先端部が半径方向中心へ向けて外側に湾曲して延びる複数の舌片45により略半球状に形成されていると共に、該複数の舌片45の先端により形成される開口と舌片間のスリットからなる開口部が形成されている。各舌片45は、外側に曲げることができるような柔軟性を有する。そのため、注入器に充填されている体液漏出防止剤がピストンにより押し出される時、体液漏出防止剤は複数の舌片を押し広げて出ると共に、拡開された舌片間のスリットからも出るためにその表面積が広くなる。
【0032】
図7は、本発明に係る体液漏出防止剤注入用挿入管の湾曲部の一実施態様を示している。
この実施態様においては、前記した挿入管本体40aを先端部から所定位置で湾曲させたこと以外は、前記図5に示す挿入管と同じである。このような湾曲部46を形成することにより、鼻孔から咽頭部奥まで挿入する際、抵抗なくスムーズに挿入することができる。湾曲させる位置は、挿入管本体40aの先端から約22〜45mm、より好ましくは約20〜30mmの距離の任意の部分が好ましく、また、湾曲角度は0〜95°が好ましく、より好ましくは30〜70°である。
【0033】
前記した各実施態様では、挿入管本体40aの後端部に接続部43が一体成形されているが、接続部43を別体としてもよい。その一例を図8に示す。
挿入管本体40aと接続部43は予め別個に作製されるが、接続部43の先端部に形成された凹陥部48に、挿入管本体40aの後端部47を挿入し、例えば接着剤、溶着等の適当な手段により接合する。このように挿入管本体40aと接続部43を別体とする場合、接続部43は剛性な合成樹脂で形成することが好ましい。なお、この実施態様の場合、ストッパ部44は接続部43の先端に形成されている。
【0034】
前記した本発明の遺体処置装置により遺体の口、鼻、耳等の体腔に注入・装填する体液漏出防止剤としては、従来公知のゼリー状の各種体液漏出防止剤を用いることができるが、特に好ましくは、水と混和すると発熱し、速やかに水に可溶な液状のノニオン性界面活性剤(A)と、これに溶解した後述する特定の分散安定剤(B)とを含有する粘稠液基剤に、高吸水性樹脂粉末(C)を分散させてなるオイルゼリー状の体液漏出防止剤を用いることが望ましい。このような体液漏出防止剤を用いた場合、体液と接触した時の上記ノニオン性界面活性剤(A)の発熱作用により、上記高吸水性樹脂粉末(C)の吸液速度を高め、全体的に速やかに体液を吸収・膨潤して流動性の無い固いゼリー状に固化し、体液漏出防止を効果的に行うことができる。
【0035】
室温で液状のノニオン性界面活性剤(A)としては、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド1:1型、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド1:2型、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチールエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリエチレングリコール(重合度の平均分子量が600以下)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポリプロピレングリコールにエチレンオキシドを付加したプルロニック型非イオン界面活性剤)、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数12〜14)エーテル(エチレンオキサイドの付加モル数:7〜12モル)等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系などの界面活性剤が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのノニオン性界面活性剤(A)の中でも、液状のポリエチレングリコール(重合度の平均分子量が約200〜600)が好ましい。
【0036】
これらの液状のノニオン性界面活性剤(A)、特に液状のポリエチレングリコール(重合度の平均分子量が約200〜600)は、後述する分散安定剤(B)、特にポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂粉末を、低温(約30℃〜50℃)で容易に溶解することができ、また、水との混和時、以下に示す試験例から明らかなように、水に接触すると発熱して水温が上昇し(10℃〜12℃程度上昇)、さらに、界面活性剤なので水との相性が良く、水と容易に混和、溶解し、前記したように高吸水性樹脂の吸水速度を高め、速やかに流動性の無い固いゼリー状に固化して体液漏出防止をすることができる。
【0037】
試験例(供試原料の発熱温度測定試験)
試験方法:
30mlのビーカーに表1に示す各原料10gを秤量して入れ、次にイオン交換水8gを注入したときの混合液の発熱温度を、以下の条件で測定した。
測定器:安立計器(株)製DATA COLLECTORの液体用温度センサー。
測定時の室温:22.3℃。
試験結果を表1に併せて示す。
【0038】
【表1】

上記表1に示すように、液状のノニオン性界面活性剤であるPEG200の場合、水と混和すると直ちに発熱し、速やかに水に可溶となり、またその温度レベルをある程度の時間維持できた。これに対して、アルコール系溶剤である無水グリセリン、エチレングリコール、エチルアルコールの場合、水と混和した後に僅かに発熱するが、その温度レベルがかなり低い。このことから、液状のノニオン性界面活性剤であるPEG200は、高吸水性樹脂の吸水速度を高め、速やかに流動性の無い固いゼリー状に固化して体液漏出防止を図る体液漏出防止剤の基剤として最適であることがわかる。
【0039】
上記ノニオン性界面活性剤(A)の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約10〜85質量%が好ましく、より好ましくは約20〜80質量%、さらに好ましくは約30〜70質量%である。ノニオン性界面活性剤(A)の含有量が85質量%を越えて多量に配合されると、高吸水性樹脂粉末の分散性には問題ないが、ゼリー状になり難く、液の状態は水溶液に近くなるので好ましくない。一方、ノニオン性界面活性剤(A)の含有量が低すぎると、良好なゼリー状態とすることが困難になるので好ましくない。また、前記したノニオン性界面活性剤(A)の他に、前記した効果を損わない量的割合で必要に応じてアニオン性界面活性剤を含有することもできる。
【0040】
前記分散安定剤(B)は、高吸水性樹脂粉末の均一な分散状態を保持させるためのものであり、各種電解質水溶液の吸収が可能で、電解質濃度の影響を殆ど受けないポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂、アクリル酸の共重合体のカルボキシビニルポリマー、アクリル酸の共重合体のカルボキシビニルポリマー/アルカリ中和剤、親油性スメクタイト、合成ヘクトライト、天然ヘクトライト、及びベントナイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種が用いられる。これらの分散安定剤(B)の中でも、ポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂が好ましく、この樹脂は、各種電解質水溶液の吸収が可能で、電解質濃度の影響を殆ど受けず、酸やアルカリ水溶液の吸収が可能である。
【0041】
分散安定剤(B)の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約0.5〜40質量%が好ましく、より好ましくは約1〜30質量%である。分散安定剤(B)の含有量が低すぎると、高吸水性樹脂粉末の均一な分散性を保持し難くなり、一方、40質量%を越えて多量に配合してもそれ以上の効果の改善は見られず、経済性の点から好ましくない。
【0042】
前記高吸水性樹脂粉末(C)としては、従来知られている各種高吸水性樹脂の粉末を用いることができ、特定のものに限定されないが、それらの中でも、ポリビニルアクリレート、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩、アクリル酸グラフト共重合体架橋物、ビニルアルコールとポリアクリル酸の共重合物、ポリエチレングリコール系ポリマー、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアクリル酸マレイン酸の共重合物、ポリエチレンオキサイド系ポリマー、及びポリアルギン酸塩系ポリマーよりなる群から選ばれた少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0043】
前記高吸水性樹脂粉末(C)は、平均粒度が約18メッシュ〜160メッシュ(Tyler表示による)の粉体が好ましく、より好ましくは約30メッシュ〜140メッシュである。
また、高吸水性樹脂粉末(C)の含有量は、遺体内の体液を体腔から漏出することなく直ちに吸収・膨脹して流動性のないゲルを作成する必要な量でなければならない。高吸水性樹脂粉末の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約5〜50質量%が好ましく、より好ましくは約15〜35質量%である。
【0044】
また、前記体液漏出防止剤は、さらに補助溶剤としての水に可溶なエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤(D)及び流動性を向上させるためのカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ソラガム、アルギン酸ナトリウム等の増粘剤(E)のいずれか又は両方を含有することにより、粘度調整が容易となり、流動性を向上させることができ、咽喉部等の狭い体腔でも、よりスムーズに注入・装填することが可能となる。さらに、殺菌剤、防カビ・防腐剤、消臭剤及び香料よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することにより、これらの所望の効果も併せて発揮することができる。
【0045】
以上のような各成分を含有する体液漏出防止剤の粘度は、良好な流動性を持つためには、約6,000〜50,000cPsが好ましく、より好ましくは約10,000〜40,000cPsである。
なお、ここでいう粘度は、粘度計(米国ブルックフィールド社製、「デジタル粘度計」型式:DV−1+)を用い、スピンドルNo.07、回転数:20rpm、使用体液漏出防止剤温度:20℃の測定条件で測定した値であるが、これに限定されるものではなく、同様な条件で測定した測定値であればよい。
なお、前記ノニオン性界面活性剤(A)の含有量が低くなるほど、従って高吸水性樹脂粉末(C)の含有量が高くなるほど、体液漏出防止剤がゼリー状になる時間は短くなり、また液の粘度は上昇するので、これらの配合量を調節することにより、ゼリー状になる時間や所望の用途(施用部位)に応じた液粘度となるように調節することができる。
【0046】
前記体液漏出防止剤を体腔に注入して充填する量は、施用部位に応じて適宜設定できる。また、オイルゼリー状の体液漏出防止剤中に含有されている高吸水性樹脂の吸水性能にもよるが、水3,000mlをゲル状に固め、体腔内から体液の漏出を防止する吸水能力がある程度であればよく、一般に5〜60gが好ましく、より好ましくは10〜40gである。例えば、遺体の鼻孔から咽喉部に注入する体液漏出防止剤(高吸水性樹脂5〜50質量%含有)の充填量は約8〜40gが好ましく、より好ましくは10〜25g程度である。オイルゼリー状の体液漏出防止剤の注入量が多すぎると、注入器具が大きくなるので取り扱いが難しく、コストアップになる。一方、注入量が少なすぎると、体液をゲル状に固めることが困難になり、体液が漏出する危険性があるので好ましくない。
【符号の説明】
【0047】
1,10 注入器
20 筒状本体
21 円筒状部材
22 吐出筒部
23 係止部
24 突条部
25 カバー部材
26 鍔部
27 ストッパ部
28 舌片
29 保護キャップ
30 ピストン
31 ピストンロッド
32 円形フランジ部
33 フランジ部
34 ガスケット
35 円板状部
40 挿入管
40a 挿入管本体
42 開孔部
43 接続部
45 舌片
46 湾曲部
X 体液漏出防止剤
A 鼻孔
B 咽喉部
C 舌
D 気管
E 食道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の合成樹脂製挿入管であって、先端部に開孔部を有すると共に、先端から所定距離離れた位置に湾曲部を有する挿入管本体と、挿入管本体の後端部に設けられた体液漏出防止剤の注入器の吐出筒部に接続するための接続部とを有し、該接続部の挿入管本体側の所定位置に半径方向外側に突出したストッパ部を有していることを特徴とする遺体用の体液漏出防止剤注入用挿入管。
【請求項2】
前記請求項1に記載の体液漏出防止剤注入用挿入管と;先端に上記挿入管の接続部に接続するための吐出筒部を有すると共に、後端部に指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した鍔部を有する筒状本体と、該筒状本体に後端部側から摺動自在に挿入されているピストンとを有する体液漏出防止剤用注入器とを備えていることを特徴とする遺体の処置装置。
【請求項3】
前記体液漏出防止剤用注入器の筒状本体は、先端に吐出筒部を有する円筒状部材と、その外周に被冠されたカバー部材とからなり、前記鍔部は上記カバー部材に設けられており、また前記ピストンは上記円筒状部材に摺動自在に挿入されていることを特徴とする請求項2に記載の処置装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−131831(P2012−131831A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87342(P2012−87342)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2006−80542(P2006−80542)の分割
【原出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(508032309)株式会社 モデルクリエイト (12)
【Fターム(参考)】