説明

遺体用体液漏出防止剤の供給管

【課題】遺体の体液を吸収して膨潤し、体液漏出を封止する体液漏出防止剤が、遺体の体液漏出部分に確実に導入され、その位置で安定してゲル化される体液漏出防止装置を得る。
【解決手段】使用時には、容器内の体液漏出防止剤に蓄圧体から圧縮ガスと水分を加えられ、供給管を通って遺体に導入され、使用しない状態では、体液漏出防止剤は容器内に微粉末の状態で保持され、水分と混ざり合わないようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体からの体液漏出を防止するために、遺体の孔部に装填される体液漏出防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体は、死亡後に胃液、肺液、腹水などの体液を漏出させることがある。このため、例えば病院では、死亡確認後、遺体の口、鼻等にガーゼ、脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行なわれている。
【0003】
また、高吸水性の樹脂粉末を口、鼻、耳、咽喉などに装填することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、安定化二酸化塩素を含む吸水性樹脂粉末を咽喉には粉末のまま、耳孔、鼻孔には水溶性シートに包んで使用することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、注射器を使って口、鼻、耳に高吸水性樹脂粉末を装填することが開示されている。
【特許文献1】特開平7−265367号公報
【特許文献2】特開平10−298001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に行なわれている遺体の口、鼻等にガーゼ、脱脂綿等を装填する方法では、漏出体液が多い場合には、ガーゼ、脱脂綿等では不十分であって、対外に漏れ出たりしている。また新しいガーゼ、脱脂綿等と交換する必要があり、煩わしいだけでなく、遺体体液を介して病原菌が感染する危険性があり、交換時にはその周辺に漏出体液の悪臭が残るなどの問題がある。
【0007】
特開平7−265367号公報のように咽喉部に上記樹脂粉末を装填しようとしても、装填するための手段がなくては、咽喉部までに装填することが困難である。
【0008】
特開平10−298001号公報では、出来るだけ流動性を確保するために、高吸収ポリマの微粉末を使用することを述べている。しかし、鼻孔や耳孔の入口部分に入れるのであれば、この公報のように微粉末を注射器のようなシリンダで投入しても充填できるが、奥までは充填できない。特に、奥まで充填するために、急速にシリンダを動かすと、先端から出る微粉末が飛び散るだけで、かえって遺体周辺を汚すだけである。
【0009】
即ち、特開平7−265367号公報や特開平10−298001号公報のように粉末をそのまま遺体に充填する方法では、粉末を押圧しても粉末自体の密度が上がるだけで、充填器内をスムーズに流れないので、シリンダを使用しても充填することが困難である。また、飛び出る粉末が拡散するので、粉末を固めて栓をしたい所に粉末を留めることが困難であり、場合によっては、遺体外に出て遺体周辺を汚す恐れがある。さらに、粉末をそのまま遺体に装填する場合には、体液の少ない遺体に対しては微粉末がこぼれ出る又はゲルが溶けて漏れ出る可能性がある。
【0010】
粉末をそのまま遺体に装填するだけではうまくいかないので、実際の現場では、相変わらずガーゼや脱脂綿で応急処置しているだけであり、ガーゼや脱脂綿に代わる体液漏出技術の実現が強く望まれている。
【0011】
本発明の第1の目的は、微粉末をそのまま遺体に充填するだけでは、遺体の体液漏出を防止できないことに着目して、体液漏出防止剤に少し液体を加えて遺体に充填するようにしたものである。
【0012】
特に、使用時に体液漏出防止剤に水分を加えられるが、使用しない状態では、体液漏出防止剤は微粉末の状態で保持され、水分と混ざり合わないようにしてあることを特徴とする。
【0013】
第2の目的は、充填時、体液漏出防止剤に水分を加えるとともに、圧縮ガスを利用して充填することにより、体液漏出防止剤がスムーズに充填されるようにしたことを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、遺体の鼻孔から咽喉部に体液漏出防止剤を注入する供給管であって、遺体の該鼻孔から該咽喉部に挿入される細長いパイプ状の挿入管を有し、該挿入管の一端部には、内部に上記体液漏出防止剤が内蔵された容器に接続可能な接続部が形成され、該挿入管の他端部には注入孔が形成されている構成である。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、該注入孔は、異なる方向に向けて複数設けられている構成である。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、該挿入管の途中に、該注入孔が該咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられている。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管の該他端部の先端部は先細になっている構成である。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、該注入孔は、上記挿入管の該他端部の横部に複数設けられている構成である。
【0019】
請求項6の発明は、請求項5記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、該複数の該注入孔は、向き合った2つの注入孔を有する構成である。
【0020】
請求項7の発明は、請求項5又は6記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、該複数の該注入孔は、該挿入管の軸方向にずれて複数設けられている構成である。
【0021】
請求項8の発明は、請求項3ないし7のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記マークは挿入管の外周に設けられたストッパーを有する構成である。
【0022】
請求項9の発明は、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管の内径が2〜8ミリメートルである構成である。
【0023】
請求項10の発明は、請求項1ないし9のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管の外径が、該内径プラス1ミリメートル以下である構成である。
【0024】
請求項11の発明は、請求項1ないし10のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管には、潤滑剤が塗布されている構成である。
【0025】
請求項12の発明は、請求項1ないし11のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管が高吸水性ポリマを含む体液漏出防止剤を該咽喉部に供給する供給管である構成である。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、体液漏出防止剤に少し液体を加えて遺体に充填するようにしたものであり、特に、使用時に体液漏出防止剤に水分を加えられるが、使用しない状態では、体液漏出防止剤は微粉末の状態で保持され、水分と混ざり合わないようにしてある。したがって、不使用時に水分と体液漏出防止剤が不用意に混ざり合うことなく、かつ使用時には、水分と圧縮ガスにより体液漏出防止剤を遺体に注入できるので、体液漏出防止剤が供給管内をスムーズに流れて、遺体に導入される。
【0027】
挿入管の先端を先細にした場合には、遺体への挿入時に先端で遺体を傷つけることがなく、挿入管の前部と横部に注入孔を形成したので、一部の注入孔が詰まっても注入できる。
【0028】
挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にマークが設けられているので、作業者による挿入作業のばらつきが防止できる。ストッパーを設けた場合には、挿入管及び容器が鼻の穴に安定して保持されるので、蓄圧器を使って体液漏出防止剤を注入する時に作業が安定して行なえる。
【0029】
体液漏出防止剤として両親媒性ゲルの粉末を使用した場合には、遺体に導入された両親媒性ゲルの粉末が体液によりゲル化して体液漏出を防止できるとともに、水不溶性であるので、長期間遺体を放置しておいても、体液や湿気に対して溶け出すことなく、ゲル状態を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
図1は、本発明にかかわる体液漏出防止装置を遺体の鼻から挿入し、咽喉部で体液漏出を防止する場合の実施例である。蓄圧体1は、内部に噴出ガスと液体とを含有し、上部に噴出口2を備えている。押圧部材3は、噴出口2を押圧する押圧部4、一端が噴出口2に接続され、他端が外部に接続される連通ダクト5及び蓄圧体上部に嵌合する嵌合部6を有する。押圧部材3には、不用意に押圧部4が押圧されるのを防止するために、蓋部材7が被されている。
【0032】
容器8は、体液漏出防止粉末9を内蔵した本体10とこの本体10の両端に入口部11と出口部12を備えた細長いカプセル形状からなっている。
容器の入口部11には、第1仮封止機構としてのスポンジ状の栓13が配置されており、連通ダクト5の他端に接続されている。スポンジ状の栓13は、容器8の入口部11を下に向けた時に、体液漏出防止粉末9が連通ダクト5、噴出口2に流れ出るのを防止し、かつ蓄圧体1のガスが通過できる多孔体となっている。この栓13は蓄圧体1のガスが通過する時には、外れて容器本体10内に持ち込まれるようになっていても良い。この実施例では、扱いやすいのでスポンジ状の栓としたが、スポンジの栓に限らず、上記機能を果たせば良いものである。例えば、薄膜、ワンウエイ弁でも良い。
【0033】
容器8の入口部12と連通ダクト5との間には。蓄圧体1に対して容器8の向きの自由度を確保するために、蛇腹管14が設けられている。
【0034】
容器8の出口部12は先細に形成され、その先細部には、容器8の出口部12を下に向けた時に、体液漏出防止粉末9が流れ出るのを防ぐために、ゴム製の保護キャップ15が被せられている。
【0035】
供給管は鼻に挿入される細長いパイプ状の挿入管16からなり、中間部分16aが1回転している。その一端には容器の出口部12との接続部17が形成され、他端には注入孔18が形成されている。接続部17には、容器8の出口部12に外挿される外挿管部19が形成され、外挿管部19の段部にパッキン20が配置され、外挿管部19の先端には接続時の嵌合をしやすくするために溝19aが設けられている。
【0036】
この溝19aは、容器8の出口部12に設けても良い。
【0037】
使用時には、容器8の出口部12の保護キャップ15をはずし、挿入管16の外挿管部19に出口部12をその先端がパッキン20に当たるまで差し込む。これにより、容器8と挿入管16が接続される。
【0038】
保護キャップ15が外されるので、容器8の出口部12を下に向けた時に、容器12内の体液漏出防止粉末9が挿入管16内に流れ込むが、中間部分16aが1回転しているので、挿入管16から外部に体液漏出防止粉末9が流れ出ることはない。
【0039】
この実施例では、容器8と挿入管16を接続してない時は保護キャップ15により、接続した時は挿入管16の1回転した部分16aにより第2仮封止機構を構成している。第2仮封止機構の構成は、この実施例に限られるものではなく、例えば、入口部11と同様にスポンジ状の栓13を設けたり、薄膜、ワンウエイ弁を設けても良い。
このような栓を設けた場合には、不用意に体液漏出防止粉末9が流れ出ることはないので、敢えて挿入管16の中間部に1回転した部分16aを設けなくても良い。
また、この実施例のように容器8と挿入管16を使用時に接続するのではなく、容器8と挿入管16を一体的に構成したものを用意してあっても良い。
【0040】
図2に示すように、挿入管16の他端に形成された注入孔18は、鼻穴の内壁を傷つけないように先細に形成されている。この注入孔18は、先端に形成した第1注入孔18aと側部に形成した4つの第2封入孔18bからなる。
【0041】
第2注入孔18bは向き合った2つの孔を90°ずつ位相をずらして設けた円形の孔である。第1注入孔18aと第2注入孔18bは、どれかの注入孔が塞がれても、他の注入孔から体液漏出防止粉末9が咽喉部に導入されるように設けられている。
【0042】
したがって、この目的を外れないかぎり、第2注入孔18bは4つに限られるものではなく、また位置や形状も上記実施例に限られるものではない。
【0043】
挿入管16の途中にはマーク21が設けられている。このマーク21は、挿入管16の注入孔18が咽喉部に達したか否かの目印である。
【0044】
挿入管16は、内径が大きいと体液漏出防止粉末9が流れ易いが、挿入管16を鼻の穴に挿入することが困難となる。また、内径が小さいと、鼻の孔に挿入管16を挿入し易いが、体液漏出防止粉末9が流れにくなり、場合によっては、詰まることもある。そのため、いろいろの径の管をテストした結果、挿入管の内径は2〜8ミリメートルであり、好ましくは4〜6ミリメートルであった。その場合、外径は内径プラス1ミリメートルまでのものが良かった。
【0045】
蓄圧体1に入れる噴出ガスと液体との割合は、液体が少なすぎると体液漏出防止剤9がスムーズに挿入管16内を流れないとともに、体液が多くない遺体の場合に体液漏出防止剤9が咽喉部でゲル化しないで、鼻孔から漏出する場合があった。
液体が多すぎると容器8内または挿入管16内でゲル化が進み、挿入管16内で詰まる場合があった。テスト結果、噴出ガスと液体との割合が1:1〜5の容量割合、特に1.5〜3の割合が良かった。
【0046】
また、遺体からの菌汚染の心配があり、殺菌剤を体液漏出防止剤9とともに導入することが好ましい。本実施例では、テストした結果、上記液体には殺菌液と水分とを1:2〜6の容量割合としたものが良かった。
【0047】
体液漏出防止剤9としては、高吸水ポリマが知られている。本発明では、この知られた材料を使用しても良い。しかし、両親媒性ゲルの粉末または微粒子、特にジメチルアクリルアミドを主成分とする両親媒性ゲルの粉末を使用すると、体液を吸収してゲル化するだけでなく胃液や胆汁を含む体液に対してもゲル状態を維持できた。
【0048】
噴出ガスの吐出圧力が弱いと体液漏出防止剤が遺体に導入されず、逆に圧力が高いと、ガスが鼻孔から噴出し、体液も漏出ケースもあった。したがって、ガスの吐出圧力を調整することも必要であるが、体液漏出防止剤の供給スピードが、2〜10ml/secとなるようにした。特に、4〜8ml/secに調整すると、体液漏出防止剤がスムーズに鼻孔から咽喉部に供給されるとともに、ガスや体液の漏出もなかった。
【0049】
この実施例の操作を説明する。
【0050】
蓄圧体1が一体になった容器8の出口部12を上に向けて、容器8内の体液漏出防止剤9が漏れ出ないように維持して、保護キャップ15を取り外す。そして、この出口部12に挿入管16の外挿管部19を接続する。その後、挿入管16を遺体の鼻孔から挿入する。場合によっては、挿入管16に油脂、ゼリー、グリセリン等の潤滑剤を塗り、挿入し易くしても良い。
【0051】
挿入管16のマーク21が鼻先になったら挿入を止める。そして、蓄圧体1の蓋部材7を取り外し、押圧部4を押すと、蓄圧体1のガスと液体が体液漏出防止剤9を内蔵する容器8に送られるとともに、これらの混在物が挿入管16を通って先端の注入孔18から咽喉部に注入される。先端の第1注入孔18aと側部の第2注入孔18bから注入されるので、どれかの注入孔が詰まっているか若しくは出にくい場合でも咽喉部に速やかにかつ撒き散らすことなく、集中的に導入される。
【0052】
第3図は、挿入管16にマーク21の代わりにストッパー22を形成したものである。ストッパー22であれば、挿入者により挿入位置がバラツクことを防げるとともに挿入管16が鼻で支えられ、挿入管16の位置が安定するので、体液漏出防止剤9を封入する場合に作業が楽であり、誰でも同じように扱える。
【0053】
蓄圧器1に入れる圧縮ガスはジメチルエーテル、ブタン、プロパン、窒素、二酸化炭素等が使われる。
【0054】
鼻孔から導入し、咽喉部を封止する実施例で本発明を説明したが、遺体の口腔、鼻孔そのもの、耳孔、尿道、肛門、女性の膣に適用しても良い。また、事故や手術後の遺体の傷口や開口部分にも適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明にかかわる体液漏出防止装置の全体概略図を示す。
【図2】供給管の先端拡大図を示す。
【図3】供給管に設けたストッパーの拡大図を示す。
【符号の説明】
【0056】
1 蓄圧体
2 噴出口
3 押圧部材
4 押圧部
5 連通ダクト
6 嵌合部
7 蓋部材
8 容器
9 体液漏出防止剤
10 本体
11 入口部
12 出口部
13 栓
14 蛇腹管
15 保護キャップ
16 挿入管
17 接続部
18 注入孔
19 外挿管部
20 パッキン
21 マーク
22 ストッパー
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体からの体液漏出を防止するために、遺体の孔部に装填される体液漏出防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体は、死亡後に胃液、肺液、腹水などの体液を漏出させることがある。このため、例えば病院では、死亡確認後、遺体の口、鼻等にガーゼ、脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行なわれている。
【0003】
また、高吸水性の樹脂粉末を口、鼻、耳、咽喉などに装填することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、安定化二酸化塩素を含む吸水性樹脂粉末を咽喉には粉末のまま、耳孔、鼻孔には水溶性シートに包んで使用することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、注射器を使って口、鼻、耳に高吸水性樹脂粉末を装填することが開示されている。
【特許文献1】特開平7−265367号公報
【特許文献2】特開平10−298001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に行なわれている遺体の口、鼻等にガーゼ、脱脂綿等を装填する方法では、漏出体液が多い場合には、ガーゼ、脱脂綿等では不十分であって、対外に漏れ出たりしている。また新しいガーゼ、脱脂綿等と交換する必要があり、煩わしいだけでなく、遺体体液を介して病原菌が感染する危険性があり、交換時にはその周辺に漏出体液の悪臭が残るなどの問題がある。
【0007】
特開平7−265367号公報のように咽喉部に上記樹脂粉末を装填しようとしても、装填するための手段がなくては、咽喉部までに装填することが困難である。
【0008】
特開平10−298001号公報では、出来るだけ流動性を確保するために、高吸収ポリマの微粉末を使用することを述べている。しかし、鼻孔や耳孔の入口部分に入れるのであれば、この公報のように微粉末を注射器のようなシリンダで投入しても充填できるが、奥までは充填できない。特に、奥まで充填するために、急速にシリンダを動かすと、先端から出る微粉末が飛び散るだけで、かえって遺体周辺を汚すだけである。
【0009】
即ち、特開平7−265367号公報や特開平10−298001号公報のように粉末をそのまま遺体に充填する方法では、粉末を押圧しても粉末自体の密度が上がるだけで、充填器内をスムーズに流れないので、シリンダを使用しても充填することが困難である。また、飛び出る粉末が拡散するので、粉末を固めて栓をしたい所に粉末を留めることが困難であり、場合によっては、遺体外に出て遺体周辺を汚す恐れがある。さらに、粉末をそのまま遺体に装填する場合には、体液の少ない遺体に対しては微粉末がこぼれ出る又はゲルが溶けて漏れ出る可能性がある。
【0010】
粉末をそのまま遺体に装填するだけではうまくいかないので、実際の現場では、相変わらずガーゼや脱脂綿で応急処置しているだけであり、ガーゼや脱脂綿に代わる体液漏出技術の実現が強く望まれている。
【0011】
本発明の第1の目的は、微粉末をそのまま遺体に充填するだけでは、遺体の体液漏出を防止できないことに着目して、体液漏出防止剤に少し液体を加えて遺体に充填するようにしたものである。
【0012】
特に、使用時に体液漏出防止剤に水分を加えられるが、使用しない状態では、体液漏出防止剤は微粉末の状態で保持され、水分と混ざり合わないようにしてあることを特徴とする。
【0013】
第2の目的は、充填時、体液漏出防止剤に水分を加えるとともに、圧縮ガスを利用して充填することにより、体液漏出防止剤がスムーズに充填されるようにしたことを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、遺体の鼻孔から咽喉部に体液漏出防止剤を注入する供給管であって、遺体の鼻孔から咽喉部に挿入される細長いパイプ状の挿入管を有し、上記挿入管の一端部には、上記体液漏出防止剤が内蔵された容器に接続可能な接続部が形成され、上記挿入管の他端側における側部には、周方向に互いに離れた部位及び軸方向に互いに離れた部位に、該挿入管の外周面に開口する注入孔がそれぞれ形成されている構成である。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管が高吸水性ポリマを含む体液漏出防止剤を該咽喉部に供給する構成である。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管の他端部の先端部は先細になっている構成である。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管の内径が2〜8ミリメートルである構成である。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管において、上記挿入管の外径が、内径プラス1ミリメートル以下である構成である
【発明の効果】
【0019】
本発明では、体液漏出防止剤に少し液体を加えて遺体に充填するようにしたものであり、特に、使用時に体液漏出防止剤に水分を加えられるが、使用しない状態では、体液漏出防止剤は微粉末の状態で保持され、水分と混ざり合わないようにしてある。したがって、不使用時に水分と体液漏出防止剤が不用意に混ざり合うことなく、かつ使用時には、水分と圧縮ガスにより体液漏出防止剤を遺体に注入できるので、体液漏出防止剤が供給管内をスムーズに流れて、遺体に導入される。
【0020】
挿入管の先端を先細にした場合には、遺体への挿入時に先端で遺体を傷つけることがなく、挿入管の前部と横部に注入孔を形成したので、一部の注入孔が詰まっても注入できる。
【0021】
挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にマークが設けられているので、作業者による挿入作業のばらつきが防止できる。ストッパーを設けた場合には、挿入管及び容器が鼻の穴に安定して保持されるので、蓄圧器を使って体液漏出防止剤を注入する時に作業が安定して行なえる。
【0022】
体液漏出防止剤として両親媒性ゲルの粉末を使用した場合には、遺体に導入された両親媒性ゲルの粉末が体液によりゲル化して体液漏出を防止できるとともに、水不溶性であるので、長期間遺体を放置しておいても、体液や湿気に対して溶け出すことなく、ゲル状態を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明にかかわる体液漏出防止装置を遺体の鼻から挿入し、咽喉部で体液漏出を防止する場合の実施例である。蓄圧体1は、内部に噴出ガスと液体とを含有し、上部に噴出口2を備えている。押圧部材3は、噴出口2を押圧する押圧部4、一端が噴出口2に接続され、他端が外部に接続される連通ダクト5及び蓄圧体上部に嵌合する嵌合部6を有する。押圧部材3には、不用意に押圧部4が押圧されるのを防止するために、蓋部材7が被されている。
【0025】
容器8は、体液漏出防止粉末9を内蔵した本体10とこの本体10の両端に入口部11と出口部12を備えた細長いカプセル形状からなっている。
【0026】
容器の入口部11には、第1仮封止機構としてのスポンジ状の栓13が配置されており、連通ダクト5の他端に接続されている。スポンジ状の栓13は、容器8の入口部11を下に向けた時に、体液漏出防止粉末9が連通ダクト5、噴出口2に流れ出るのを防止し、かつ蓄圧体1のガスが通過できる多孔体となっている。この栓13は蓄圧体1のガスが通過する時には、外れて容器本体10内に持ち込まれるようになっていても良い。この実施例では、扱いやすいのでスポンジ状の栓としたが、スポンジの栓に限らず、上記機能を果たせば良いものである。例えば、薄膜、ワンウエイ弁でも良い。
【0027】
容器8の入口部12と連通ダクト5との間には、蓄圧体1に対して容器8の向きの自由度を確保するために、蛇腹管14が設けられている。
【0028】
容器8の出口部12は先細に形成され、その先細部には、容器8の出口部12を下に向けた時に、体液漏出防止粉末9が流れ出るのを防ぐために、ゴム製の保護キャップ15が被せられている。
【0029】
供給管は鼻に挿入される細長いパイプ状の挿入管16からなり、中間部分16aが1回転している。その一端には容器の出口部12との接続部17が形成され、他端には注入孔18が形成されている。接続部17には、容器8の出口部12に外挿される外挿管部19が形成され、外挿管部19の段部にパッキン20が配置され、外挿管部19の先端には接続時の嵌合をしやすくするために溝19aが設けられている。
【0030】
この溝19aは、容器8の出口部12に設けても良い。
【0031】
使用時には、容器8の出口部12の保護キャップ15をはずし、挿入管16の外挿管部19に出口部12をその先端がパッキン20に当たるまで差し込む。これにより、容器8と挿入管16が接続される。
【0032】
保護キャップ15が外されるので、容器8の出口部12を下に向けた時に、容器12内の体液漏出防止粉末9が挿入管16内に流れ込むが、中間部分16aが1回転しているので、挿入管16から外部に体液漏出防止粉末9が流れ出ることはない。
【0033】
この実施例では、容器8と挿入管16を接続してない時は保護キャップ15により、接続した時は挿入管16の1回転した部分16aにより第2仮封止機構を構成している。第2仮封止機構の構成は、この実施例に限られるものではなく、例えば、入口部11と同様にスポンジ状の栓13を設けたり、薄膜、ワンウエイ弁を設けても良い。
このような栓を設けた場合には、不用意に体液漏出防止粉末9が流れ出ることはないので、敢えて挿入管16の中間部に1回転した部分16aを設けなくても良い。
また、この実施例のように容器8と挿入管16を使用時に接続するのではなく、容器8と挿入管16を一体的に構成したものを用意してあっても良い。
【0034】
図2に示すように、挿入管16の他端に形成された注入孔18は、鼻穴の内壁を傷つけないように先細に形成されている。この注入孔18は、先端に形成した第1注入孔18aと側部に形成した4つの第2封入孔18bからなる。
【0035】
第2注入孔18bは向き合った2つの孔を90°ずつ位相をずらして設けた円形の孔である。第1注入孔18aと第2注入孔18bは、どれかの注入孔が塞がれても、他の注入孔から体液漏出防止粉末9が咽喉部に導入されるように設けられている。
【0036】
したがって、この目的を外れないかぎり、第2注入孔18bは4つに限られるものではなく、また位置や形状も上記実施例に限られるものではない。
【0037】
挿入管16の途中にはマーク21が設けられている。このマーク21は、挿入管16の注入孔18が咽喉部に達したか否かの目印である。
【0038】
挿入管16は、内径が大きいと体液漏出防止粉末9が流れ易いが、挿入管16を鼻の穴に挿入することが困難となる。また、内径が小さいと、鼻の孔に挿入管16を挿入し易いが、体液漏出防止粉末9が流れにくなり、場合によっては、詰まることもある。そのため、いろいろの径の管をテストした結果、挿入管の内径は2〜8ミリメートルであり、好ましくは4〜6ミリメートルであった。その場合、外径は内径プラス1ミリメートルまでのものが良かった。
【0039】
蓄圧体1に入れる噴出ガスと液体との割合は、液体が少なすぎると体液漏出防止剤9がスムーズに挿入管16内を流れないとともに、体液が多くない遺体の場合に体液漏出防止剤9が咽喉部でゲル化しないで、鼻孔から漏出する場合があった。
液体が多すぎると容器8内または挿入管16内でゲル化が進み、挿入管16内で詰まる場合があった。テスト結果、噴出ガスと液体との割合が1:1〜5の容量割合、特に1.5〜3の割合が良かった。
【0040】
また、遺体からの菌汚染の心配があり、殺菌剤を体液漏出防止剤9とともに導入することが好ましい。本実施例では、テストした結果、上記液体には殺菌液と水分とを1:2〜6の容量割合としたものが良かった。
【0041】
体液漏出防止剤9としては、高吸水ポリマが知られている。本発明では、この知られた材料を使用しても良い。しかし、両親媒性ゲルの粉末または微粒子、特にジメチルアクリルアミドを主成分とする両親媒性ゲルの粉末を使用すると、体液を吸収してゲル化するだけでなく胃液や胆汁を含む体液に対してもゲル状態を維持できた。
【0042】
噴出ガスの吐出圧力が弱いと体液漏出防止剤が遺体に導入されず、逆に圧力が高いと、ガスが鼻孔から噴出し、体液も漏出ケースもあった。したがって、ガスの吐出圧力を調整することも必要であるが、体液漏出防止剤の供給スピードが、2〜10ml/secとなるようにした。特に、4〜8ml/secに調整すると、体液漏出防止剤がスムーズに鼻孔から咽喉部に供給されるとともに、ガスや体液の漏出もなかった。
【0043】
この実施例の操作を説明する。
【0044】
蓄圧体1が一体になった容器8の出口部12を上に向けて、容器8内の体液漏出防止剤9が漏れ出ないように維持して、保護キャップ15を取り外す。そして、この出口部12に挿入管16の外挿管部19を接続する。その後、挿入管16を遺体の鼻孔から挿入する。場合によっては、挿入管16に油脂、ゼリー、グリセリン等の潤滑剤を塗り、挿入し易くしても良い。
【0045】
挿入管16のマーク21が鼻先になったら挿入を止める。そして、蓄圧体1の蓋部材7を取り外し、押圧部4を押すと、蓄圧体1のガスと液体が体液漏出防止剤9を内蔵する容器8に送られるとともに、これらの混在物が挿入管16を通って先端の注入孔18から咽喉部に注入される。先端の第1注入孔18aと側部の第2注入孔18bから注入されるので、どれかの注入孔が詰まっているか若しくは出にくい場合でも咽喉部に速やかにかつ撒き散らすことなく、集中的に導入される。
【0046】
第3図は、挿入管16にマーク21の代わりにストッパー22を形成したものである。ストッパー22であれば、挿入者により挿入位置がバラツクことを防げるとともに挿入管16が鼻で支えられ、挿入管16の位置が安定するので、体液漏出防止剤9を封入する場合に作業が楽であり、誰でも同じように扱える。
【0047】
蓄圧器1に入れる圧縮ガスはジメチルエーテル、ブタン、プロパン、窒素、二酸化炭素等が使われる。
【0048】
鼻孔から導入し、咽喉部を封止する実施例で本発明を説明したが、遺体の口腔、鼻孔そのもの、耳孔、尿道、肛門、女性の膣に適用しても良い。また、事故や手術後の遺体の傷口や開口部分にも適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明にかかわる体液漏出防止装置の全体概略図を示す。
【図2】供給管の先端拡大図を示す。
【図3】供給管に設けたストッパーの拡大図を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 蓄圧体
2 噴出口
3 押圧部材
4 押圧部
5 連通ダクト
6 嵌合部
7 蓋部材
8 容器
9 体液漏出防止剤
10 本体
11 入口部
12 出口部
13 栓
14 蛇腹管
15 保護キャップ
16 挿入管
17 接続部
18 注入孔
19 外挿管部
20 パッキン
21 マーク
22 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の鼻孔から咽喉部に体液漏出防止剤を注入する供給管であって、遺体の該鼻孔から該咽喉部に挿入される細長いパイプ状の挿入管を有し、
該挿入管の一端部には、内部に上記体液漏出防止剤が内蔵された容器に接続可能な接続部が形成され、
該挿入管の他端部には注入孔が形成されていることを特徴とする遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項2】
該注入孔は、異なる方向に向けて複数設けられていることを特徴とする請求項1記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項3】
該挿入管の途中に、該注入孔が該咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項4】
上記挿入管の該他端部の先端部は先細になっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つ記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項5】
該注入孔は、上記挿入管の該他端部の横部に、複数設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つ記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項6】
該複数の該注入孔は、向き合った2つの注入孔を有することを特徴とする請求項5記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項7】
該複数の該注入孔は、該挿入管の軸方向にずれて複数設けられていることを特徴とする請求項5又は6記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項8】
上記マークは挿入管の外周に設けられたストッパーを有することを特徴とする請求項3ないし7のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項9】
上記挿入管の内径が2〜8ミリメートルであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項10】
上記挿入管の外径が、該内径プラス1ミリメートル以下であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項11】
上記挿入管には、潤滑剤が塗布されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項12】
上記挿入管が高吸水性ポリマを含む体液漏出防止剤を該咽喉部に供給する供給管であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の鼻孔から咽喉部に体液漏出防止剤を注入する供給管であって、
遺体の鼻孔から咽喉部に挿入される細長いパイプ状の挿入管を有し、
上記挿入管の一端部には、上記体液漏出防止剤が内蔵された容器に接続可能な接続部が形成され、
上記挿入管の他端側における側部には、周方向に互いに離れた部位及び軸方向に互いに離れた部位に、該挿入管の外周面に開口する注入孔がそれぞれ形成されていることを特徴とする遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項2】
上記挿入管が高吸水性ポリマを含む体液漏出防止剤を咽喉部に供給することを特徴とする請求項1に記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項3】
上記挿入管の他部は先細になっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項4】
上記挿入管の内径が2〜8ミリメートルであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つ記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。
【請求項5】
上記挿入管の外径が、内径プラス1ミリメートル以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つ記載の遺体用体液漏出防止剤の供給管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−239440(P2006−239440A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109761(P2006−109761)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【分割の表示】特願2000−100955(P2000−100955)の分割
【原出願日】平成12年4月3日(2000.4.3)
【出願人】(500329906)
【Fターム(参考)】