説明

還元酵素遺伝子の取得方法、及び、還元酵素遺伝子

【課題】還元酵素をコードする遺伝子を取得する方法を提供する。
【解決手段】下記(1)〜(4)に記載する4工程:(1)特定の塩基配列からなる核酸断片、及び、該核酸断片;からなるプライマーセットを用い、DNAライブラリーを鋳型として、核酸増幅反応を行い、増幅産物を得る工程、(2)前記増幅産物を、宿主細胞内において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続し得るベクターに挿入して、組換えベクターを構築する工程、(3)前記組換えベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する工程、及び(4)前記形質転換体又はその処理物を用いて、カルボニル化合物を光学活性なアルコールに不斉還元する活性を有することを検出する工程、を備える、還元酵素遺伝子を取得する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元酵素をコードする遺伝子を取得する方法、還元酵素遺伝子等に関する。本発明は、特に、環境サンプル由来の環境DNAから還元酵素をコードする遺伝子を取得する方法、還元酵素遺伝子等に関する。
【背景技術】
【0002】
医農薬等の各種用途の化合物の製造中間体として有用性な光学活性なアルコールの製造方法としては、種々の方法が知られており、特許文献1には、ライフソニア エスピー(Leifsonia sp.)S−749(FERM BP−8291)から還元酵素遺伝子をクローニングし、当該還元酵素を発現する形質転換体を用いて光学活性アルコールを製造する方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−261042号公報
【非特許文献1】Jizhong Zhouら、Applied. Environ. Microbiol., 62(2):316,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスクリーニング方法によって微生物から目的の還元酵素を見出すには、純粋培養が可能な微生物を培養し、標的とする特定の基質を分解又は変換する微生物をスクリーニングする必要があった。純粋培養可能な微生物は土壌等の環境中に存在する全微生物の1%足らずであると言われていることから、従来のスクリーニング法であると還元酵素のスクリーニング源は環境中の微生物の約1%しかないことになる。また、従来の微生物の1次スクリーニング法では何千、何万もの多検体についてアッセイし、また、微生物の増殖等に長時間要する場合がある。さらに、還元酵素遺伝子を単離する場合には、かなりの労力と時間を要する問題があった。
【0005】
本願発明は、土壌等の環境中に存在する微生物由来のDNAから還元酵素をコードする遺伝子を効率的に取得し、有用な光学活性アルコールを工業的に有利に得るための方法等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
[1] (1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸断片;又は
(2)配列番号3に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号4に記載の塩基配列からなる核酸断片;
からなるプライマーセット。
[2] (1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片、及び、配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片;又は
(2)配列番号3に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片、及び、配列番号4に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片;
からなるプライマーセット。
[3] 上記[2]記載のプライマーセットが、
(1)配列番号5に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸断片;又は
(2)配列番号7に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号8に記載の塩基配列からなる核酸断片;
である、プライマーセット。
[4] 下記(1)〜(4)に記載する4工程:
(1)上記[1]〜[3]いずれかに記載のプライマーセットを用い、DNAライブラリーを鋳型として、核酸増幅反応を行い、増幅産物を得る工程;
(2)上記増幅産物を、宿主細胞内において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続し得るベクターに挿入して、組換えベクターを構築する工程;
(3)上記組換えベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する工程;及び
(4)上記形質転換体又はその処理物を用いて、カルボニル化合物を光学活性なアルコールに不斉還元する活性を有することを検出する工程;
を備える、還元酵素遺伝子を取得する方法。
[5] 上記DNAライブラリーが、環境サンプル由来の環境DNAである、上記[4]に記載の方法。
[6] 配列番号11、13、15、17、19、21、23、25及び27からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸。
[7] 配列番号12、14、16、18、20、22、24、26及び28からなる群より選ばれるアミノ酸配列をコードする核酸。
[8] 配列番号12、14、16、18、20、22、24、26及び28からなる群より選ばれるアミノ酸配列を有するタンパク質。
[9] 上記[6]又は[7]に記載の核酸を含有する組換えベクター。
[10] 上記組換えベクターが、受託番号FERM ABP−11043、FERM ABP−11044、FERM ABP−11045、FERM ABP−11046、FERM ABP−11047、FERM ABP−11048、FERM ABP−11049、FERM ABP−11050、及び、FERM ABP−11051からなる群より選ばれる、上記[9]に記載の組換えベクター。
[11] 上記[9]又は[10]に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
[12] 光学活性なアルコールの製造における、上記[6]又は[7]に記載の核酸の使用。
[13] 光学活性なアルコールの製造における、上記[8]に記載のタンパク質の使用。
[14] 光学活性なアルコールの製造における、上記[9]又は[10]に記載の組換えベクターの使用。
[15] 光学活性なアルコールの製造における、上記[11]に記載の形質転換体の使用。
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の核酸断片、プライマー、プライマーセット、還元酵素遺伝子の取得方法を用いることにより、不斉還元酵素をコードする遺伝子をより効率的に取得でき、取得した遺伝子を用いて還元酵素を生産することによって、ケトン化合物又はアルデヒド化合物から有用な光学活性アルコールを工業的に有利に得ることができる。また、本発明は、かかる還元酵素遺伝子、還元酵素、還元酵素遺伝子を含む組換えベクター、及び、その形質転換体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0009】
(核酸断片、プライマーセット)
本発明の核酸断片及びプライマーセットについて説明する。
本発明の核酸断片は、配列番号1〜4からなる群より選ばれる塩基配列からなる核酸断片である。
配列番号1:5’−TTAYTGCATGAACCAGCCGTGGCTGACGAYGAACG−3’
配列番号2:5’−ATGRGCAAYCTGAATGGCAARACCGCMRTCG−3’
配列番号3:5’−TTAGAWSGCRGTSRCSCCRCCRTCSACCGCCAGYGMATGGCCGG−3’
配列番号4:5’−ATGAGCATGACGTTTTCCGGYCAGGTRGCC−3’
なお、RはA又はGの塩基、YはC又はTの塩基、MはA又はCの塩基、KはG又はTの塩基、SはC又はGの塩基、WはA又はTの塩基を示す。
【0010】
本発明の核酸断片は、配列番号1〜4のいずれか1つに記載された塩基配列から選ばれる2つ以上の塩基配列からなる2つ以上の核酸断片であってもよく、また、配列番号1〜4のいずれか1つに記載された塩基配列の全ての組み合わせからなる核酸断片(ミックス核酸断片、縮重核酸断片)であることが好ましい。
【0011】
別の実施形態においては、本発明の核酸断片は、上記核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片であることが好ましい。制限酵素サイト(制限酵素認識配列)は、当業者にとって公知のものを適宜、選択することができる。また、制限酵素サイトの5’末端側にさらに数個の塩基を含むことが好ましい。制限酵素サイトのさらに5’末端側に付加する核酸の塩基数について、一般的には、3塩基以上あれば、酵素で効率よく切断することができるが、適宜、所望の制限酵素が制限酵素サイトを効率的に切断できる塩基数を選択することができる。
【0012】
本発明のプライマーセットは、
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸断片;又は
(2)配列番号3に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号4に記載の塩基配列からなる核酸断片;
からなるプライマーセットである。
【0013】
別の実施形態においては、本発明のプライマーセットは、
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片、及び、配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片;又は
(2)配列番号3に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片、及び、配列番号4に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片;
からなるプライマーセットである。
【0014】
また、特定の実施形態においては、本発明のプライマーセットは、
(1)配列番号5に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸断片;又は
(2)配列番号7に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号8に記載の塩基配列からなる核酸断片;
である、プライマーセットである。
配列番号5:5’−GGCCGGACAGGCCTTAYTGCATGAACCAGCCGTGGCTGACGAYGAACG−3’
配列番号6:5’−CATATGRGCAAYCTGAATGGCAARACCGCMRTCG−3’
配列番号7:5’−GGCCGGACAGGCCTTAGAWSGCRGTSRCSCCRCCRTCSACCGCCAGYGMATGGCCGG−3’
配列番号8:5’−CATATGAGCATGACGTTTTCCGGYCAGGTRGCC−3’
なお、RはA又はGの塩基、YはC又はTの塩基、MはA又はCの塩基、KはG又はTの塩基、SはC又はGの塩基、WはA又はTの塩基を示す。
【0015】
本発明の核酸断片及びプライマーセットは、配列番号1〜4に記載の塩基配列からなる核酸断片、又は、制限酵素による切断配列を含むように、これらの核酸断片に付加等の操作を施したものとすることができる。すなわち、本発明の核酸断片は、その配列の長さを10〜50塩基の長さとする一本鎖の核酸断片であり、本発明のプライマーセットは、その配列の長さを10〜50塩基の長さとする一本鎖の核酸断片のペアである。なお、制限酵素による切断配列を含むように、核酸断片に付加等の操作を施したものを用いる場合には、還元酵素遺伝子に特異的であり、他の酵素遺伝子と相同性の少ない部分を選択することが望ましい。また、プライマーセットの各プライマーが互いにハイブリダイゼーションを起こさないように、還元酵素遺伝子に対するハイブリダイゼーション能を保持する範囲内で、末端配列の付加等の操作を施したものとすることができる。また、本発明のプライマーセットは、ミックスプライマー、縮重プライマーとして用いることができる。
【0016】
本発明の核酸断片及びプライマーセットによれば、新規の還元酵素をコードする遺伝子をより効率的に取得できる。特に、環境中に存在する微生物であり、単離培養の困難なものに由来する新規の還元酵素遺伝子を効率的に取得できる。また、本発明の核酸断片及びプライマーセットの各核酸断片の5’末端側に制限酵素サイトを含む核酸断片が付加されることにより、取得した還元酵素遺伝子のクローニング、還元酵素遺伝子を含む組み換えベクターの構築等をより効率的に行うことができる。
【0017】
(還元酵素遺伝子を取得する方法)
次に、本発明の還元酵素遺伝子を取得する方法について説明する。
本発明の還元酵素遺伝子を取得する方法は、下記(1)〜(4)に記載する4工程:
(1)上記プライマーセットを用い、DNAライブラリーを鋳型として、核酸増幅反応を行い、増幅産物を得る工程;
(2)上記増幅産物を、宿主細胞内において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続し得るベクターに挿入して、組換えベクターを構築する工程;
(3)上記組換えベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する工程;及び
(4)上記形質転換体又はその処理物を用いて、カルボニル化合物を光学活性なアルコールに不斉還元する活性を有することを検出する工程;
を備える。
【0018】
(1)の工程は、上記プライマーセットを用い、DNAライブラリーを鋳型として、核酸増幅反応を行い、増幅産物を得る工程である。上記DNAライブラリーは、環境サンプル由来の環境DNAであることが好ましい。
【0019】
本発明において「環境」とは土壌、汚泥、下水、河川、湖沼、海水、海底、昆虫、動物、植物の固体の組織内部及び表面、並びに、排泄物等の微生物の生育環境を意味する。「環境サンプル」とは、環境から採取したサンプルであり、中でも、土壌、湖沼等から採取したサンプルであることが好ましい。また、「環境DNA」とは環境サンプルから得たDNAを意味する。環境DNAの抽出方法としては、例えば、5gの土壌サンプルを100mM Tris−HCl(pH8)、100mM sodium EDTA(pH8)、100mM sodium phosphate(pH8)、1.5M NaCl、1% hexadecylmethylammonium bromide(CTAB)を含む抽出溶液13.5mlと100μlのproteinase K(10mg/ml)を含む溶液に懸濁し、37℃で30分間振とう後、20%SDS水溶液を1.5ml添加し、65℃、2時間で抽出後、クロロホルム/イソアミルアルコールでその上清液から抽出する方法(非特許文献1)や、ISOIL for Bads Beating(ニッポンジーン社製)のマニュアルにしたがって調製する等、環境サンプル中に存在する微生物中のDNAを抽出することができればいかなる手段を用いてもよい。
【0020】
核酸増幅反応としては、当業者にとって公知の方法を用いることができるが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)であることが好ましい。特定の実施形態においては、環境DNAを鋳型として、配列番号1と2、又は、配列番号3と4の2種類のプライマーセットを用いて増幅させた増幅産物を得る。PCRの条件としては、例えば、4種類のdNTPを各々200μM、2種類のオリゴヌクレオチドプライマーを各々80pmol、Taq polymeraseを0.5U及び鋳型となるDNAライブラリーを混合した反応液を94℃(2分間)に加熱した後、94℃(0.5分間)−69℃(1分間)−72℃(1分間)のサイクルを40回行い、さらに72℃で10分間保持する条件が挙げられる。なお、PCRに用いるプライマーの5’末端側には、制限酵素サイト等を付加していてもよい。増幅産物が得られたことを確認する方法としては、アガロースゲル電気泳動法等が挙げられる。
【0021】
上記(1)の工程で得られる増幅産物には、所望の還元酵素遺伝子が含まれることが期待できる。増幅産物に含まれる遺伝子断片がコードするポリペプチドの中から、還元活性を有するものを本発明還元酵素と呼ぶことがある。また、本発明還元酵素をコードする拡散を、本発明還元酵素遺伝子と呼ぶこともある。そのような本願還元酵素遺伝子の単離及び同定は、以下のようにして行うことができる。まず、上記増幅産物を、宿主細胞内において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続し得るベクターに挿入して、組換えベクターを構築する(工程(2))、次いで、組換えベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する(工程(3))、そして、形質転換体又はその処理物を用いて、カルボニル化合物を光学活性なアルコールに不斉還元する活性を有することを検出する(工程(4))。その活性を指標に、所望の特性を備える形質転換体、組換えベクター、還元酵素、還元酵素遺伝子を得ることができる。
【0022】
以下に、工程(2)〜(4)について説明する。(2)の工程は、上記増幅産物を、宿主細胞内において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続し得るベクターに挿入して、組換えベクターを構築する工程である。(3)の工程は、上記組換えベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する工程である。
【0023】
上記(1)の工程で調製された本発明還元酵素遺伝子を含む増幅産物を、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載されている方法に準じてベクターにクローニングして発現ベクターを得ることができる。ベクターとしては、pUC119(タカラバイオ社製)、pTV118N(タカラバイオ社製)、pBlue scriptII(東洋紡社製)、pCR2.1−TOPO(Invitrogen社製)、pTrc99A(Pharmacia社製)、pKK223−3(Pharmacia社製)等を挙げることができる。
【0024】
本発明のプライマーセットの各核酸断片が、その5’末端側に互いに異なる制限酵素サイトを有する場合、又は、制限酵素サイトに方向性がある場合、増幅産物のベクターへの挿入方向をコントロールすることができる。また、発現量を向上させるために、SD配列と開始コドンの距離や、プロモーターと開始コドンの距離を工夫することもできる。例えば、SD配列と開始コドンの距離を5ヌクレオチド以上13ヌクレオチド以下にする等が挙げられる。
【0025】
ここで、「機能可能な形で」とは、該遺伝子を宿主細胞に導入することにより宿主細胞を形質転換させた際に、本発明還元酵素遺伝子が、プロモーターの制御下に発現するようにプロモーターと結合された状態にあることを意味する。プロモーターとしては、例えば、lacプロモーターやtrcプロモーター、tacプロモーター等を挙げることができる。
【0026】
本発明還元酵素遺伝子が挿入された組み換えベクターを導入する宿主細胞としては、例えば、Escherichia属、Bacillus属、Corynebacterium属に属する微生物等が挙げられる。上記宿主細胞としては大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。大腸菌としては、K−12由来株が好ましく、具体的にはJM109株、BL21(DE3)株、BL21株、XL1 Blue MRF’株、DH5α、HB101株、DH1株、MV1184株、JM105株、MC1061株、C600株等が例示される。
【0027】
本発明還元酵素遺伝子が挿入された組み換えベクターを宿主細胞へ導入する方法は、用いられる宿主細胞に応じて通常使われる導入方法であればよく、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載される塩化カルシウム法や、「METHODS in Electroporation:Gene Pulser/E.coli Pulser System」 Bio−Rad Laboratories,(1993)等に記載されるエレクトロポレーション法等を挙げることができる。
【0028】
本還元酵素遺伝子が挿入された組み換えベクター等が導入された形質転換体を選抜するには、例えば、前述のようなベクターに含まれる選択マーカー遺伝子の表現型を指標にして選抜すればよい。
【0029】
形質転換体が還元酵素遺伝子を保有していることは、形質転換体又はその処理物を用いて、カルボニル化合物を光学活性なアルコールに不斉還元する活性を有することを検出する工程(工程(4))によって、確認することができる。また、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press等に記載される通常の方法に準じて、塩基配列の解析、サザンハイブリダイゼーション等を行うことによっても、確認することができる。
【0030】
形質転換体を培養するための培地としては、例えば、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される炭素源や窒素源、有機塩や無機塩等を適宜含む各種の培地を用いることができる。
【0031】
炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、スクロース等の糖類、グリセロール等の糖アルコール、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0032】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コーン・スティープ・リカー(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のアンモニウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0033】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001〜5%(w/v)程度である。
【0034】
さらに、アロラクトースで誘導されるタイプのlacプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター等と本還元酵素遺伝子とが機能可能な形で接続された組み換えベクターが導入された形質転換体の場合には、還元酵素の生産を誘導するための誘導剤として、例えば、isopropyl thio−β−D−galactoside(IPTG)を培地中に少量加えることもできる。
【0035】
本発明還元酵素遺伝子を保有する形質転換体の培養は、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される方法に準じて行うことができ、例えば、試験管振盪式培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養、タンク培養等の液体培養、及び、固体培養が挙げられる。
【0036】
培養温度は、該形質転換体が生育可能な範囲で適宜変更できるが、通常約15〜40℃である。培地のpHは約6〜8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが通常約1日〜約5日が好ましい。
【0037】
活性を検出するために用いる形質転換体又はその処理物としては、例えば、形質転換体の培養物、生形質転換体、破砕物、無細胞抽出液、粗精製タンパク質、精製タンパク質、及び、これらの固定化物が挙げられる。ここで、形質転換体の処理物としては、例えば、凍結乾燥形質転換体、有機溶媒処理形質転換体、乾燥形質転換体、形質転換体摩砕物、形質転換体の自己消化物、形質転換体の超音波処理物、形質転換体抽出物、形質転換体のアルカリ処理物が挙げられる。また、固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等に還元酵素等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギーナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に還元酵素等を閉じ込める方法)が挙げられる。
【0038】
カルボニル化合物を光学活性なアルコールに不斉還元する活性は、以下の方法により検出することができる。上記の形質転換体又はその処理物を、基質及びNADHと混合して30℃で保温し、消費されるNADH量を反応液の340nmにおける吸光度を指標に定量することにより測定することができる。基質としては、アセトフェノン、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、3’−クロロアセトフェノン、n−バレルアルデヒド、4−クロロ−3−オキソ酪酸エチル、4’−クロロアセトフェノン、3−メチル−2−オキソ酪酸エチルエステル、2−ヘプタノン、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、n−ヘプチルアルデヒド、ベンゾイルギ酸エチル、プロピオンアルデヒド、1−フェニル−2−ブタノン、n−ブチルアルデヒド、3−オキソ酪酸エチル等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、アセトフェノンを還元して1−フェニルエタノールを生産する能力を指標にして選抜することができる。
【0039】
また、本発明還元酵素遺伝子の塩基配列は、F.Sanger er al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1977) 74:5463−5467頁等に記載されているダイデオキシターミネーター法等により解析することができる。塩基配列分析用の試料調製には、例えば、パーキンエルマー社のABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit等の市販の試薬を用いてもよい。
【0040】
本発明の還元酵素遺伝子を取得する方法を用いることにより、不斉還元酵素をコードする遺伝子をより効率的に取得でき、取得した遺伝子を用いて還元酵素を生産することによって、ケトン化合物又はアルデヒド化合物から有用な光学活性アルコールを工業的に有利に得ることができる。また、本発明は、かかる還元酵素遺伝子、還元酵素、還元酵素遺伝子を含む組換えベクター、及び、その形質転換体を提供することができる。
【0041】
(還元酵素遺伝子、還元酵素、組換えベクター、形質転換体)
本発明の還元酵素遺伝子、還元酵素、組換えベクター、及び、形質転換体について説明する。本発明の還元酵素遺伝子、還元酵素、組換えベクター、及び、形質転換体は、上記還元酵素遺伝子を取得する方法により単離同定したものである。
【0042】
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25及び27からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸である。また、本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号12、14、16、18、20、22、24、26及び28からなる群より選ばれるアミノ酸配列をコードする核酸である。また、本発明の還元酵素遺伝子は、その遺伝子がコードするタンパク質の還元活性を損なわない限り、1〜数個の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有する塩基配列を有する核酸であってもよい。
【0043】
本発明の還元酵素は、配列番号12、14、16、18、20、22、24、26及び28からなる群より選ばれるアミノ酸配列を有するタンパク質である。また、本発明の還元酵素は、その還元活性を損なわない限り、1〜数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。
【0044】
本発明の組換えベクターは、上記還元酵素遺伝子を含有する組換えベクターである。特定の実施形態においては、本発明の組換えベクターは、受託番号FERM ABP−11043、FERM ABP−11044、FERM ABP−11045、FERM ABP−11046、FERM ABP−11047、FERM ABP−11048、FERM ABP−11049、FERM ABP−11050、及び、FERM ABP−11051(それぞれプラスミドLS−1、LS−7、LS−10、LS−11、LS−17、LS−20、LS−22、LS−24、及び、LS−26)である。また、本発明の形質転換体は、上記組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0045】
以下に、プラスミドLS−1、LS−7、LS−10、LS−11、LS−17、LS−20、LS−22、LS−24、及び、LS−26の各々の組換えベクターに関して、還元酵素遺伝子、還元酵素、組換えベクター、及び、形質転換体を説明する。
【0046】
(A)プラスミドLS−1
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号11に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号12に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号11に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−1と命名された受託番号FERM ABP−11043である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−1と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0047】
(B)プラスミドLS−7
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号13に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号14に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号14に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号13に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−7と命名された受託番号FERM ABP−11044である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−7と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0048】
(C)プラスミドLS−10
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号15に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号16に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号15に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−10と命名された受託番号FERM ABP−11045である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−10と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0049】
(D)プラスミドLS−11
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号17に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号18に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号17に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−11と命名された受託番号FERM ABP−11046である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−11と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0050】
(E)プラスミドLS−17
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号19に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号20に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号20に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号19に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−17と命名された受託番号FERM ABP−11047である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−17と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0051】
(F)プラスミドLS−20
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号21に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号22に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号21に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−20と命名された受託番号FERM ABP−11048である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−20と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0052】
(G)プラスミドLS−22
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号23に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号24に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号23に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−22と命名された受託番号FERM ABP−11049である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−22と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0053】
(H)プラスミドLS−24
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号25に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号26に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号26に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号25に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−24と命名された受託番号FERM ABP−11050である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−24と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0054】
(I)プラスミドLS−26
本発明の還元酵素遺伝子は、配列番号27に記載の塩基配列を有する核酸である。また、配列番号28に記載のアミノ酸配列をコードする核酸である。本発明の還元酵素は、配列番号28に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の組換えベクターは、配列番号27に記載の塩基配列を有する核酸を含有する組換えベクターである。本発明の組換えベクターは、プラスミドLS−26と命名された受託番号FERM ABP−11051である。本発明の形質転換体は、プラスミドLS−26と命名された組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0055】
本発明の還元酵素遺伝子、還元酵素、還元酵素遺伝子を含む組換えベクター、及び、その形質転換体を用いることにより、ケトン化合物又はアルデヒド化合物から有用な光学活性アルコールを工業的に有利に得ることができる。
【0056】
(アルコールの製造方法)
本発明の光学活性なアルコールの製造方法について説明する。本発明の光学活性なアルコールの製造方法は、上記の還元酵素遺伝子、還元酵素、組換えベクター、又は、形質転換体を用いることを特徴とするものである。また、上記製造方法は、上記の還元酵素遺伝子を取得する方法により単離同定した還元酵素遺伝子、還元酵素、組換えベクター、又は、形質転換体を用いるものであってもよい。本発明の光学活性なアルコールの製造方法は、基質であるケトン化合物又はアルデヒド化合物に、還元酵素、それを産生する形質転換体又はその処理物を作用させることを特徴とする。
【0057】
形質転換体の培養方法、形質転換体の処理物の調製方法等は、上述の還元酵素遺伝子を取得する方法の工程(4)において説明した方法を用いることができる。また、形質転換体の培養物から還元酵素を精製する方法としては、通常のタンパク質の精製において使用される方法を適用することができ、例えば、次のような方法を挙げることができる。
【0058】
まず、形質転換体の培養物から遠心分離等により細胞を集めた後、これを超音波処理、ダイノミル処理、フレンチプレス処理等の物理的破砕法又は界面活性剤若しくはリゾチーム等の溶菌酵素を用いる化学的破砕法等によって破砕する。得られた破砕液から遠心分離、メンブレンフィルター濾過等により不純物を除去することにより無細胞抽出液を調製し、これを陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー等の分離精製方法を適宜用いて分画することによって、還元酵素を精製することができる。
【0059】
クロマトグラフィーに使用する担体としては、例えば、カルボキシメチル(CM)基、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、フェニル基若しくはブチル基を導入したセルロース、デキストリン又はアガロース等の不溶性高分子担体が挙げられる。市販の担体充填済カラムを用いることもでき、かかる市販の担体充填済カラムとしては、例えば、Q−Sepharose FF、Phenyl−Sepharose HP(商品名、いずれもアマシャム ファルマシア バイオテク社製)、TSK−gel G3000SW(商品名、東ソー社製)等が挙げられる。
【0060】
なお、還元酵素を含む画分を選抜するには、例えば、アセトフェノンを還元して1−フェニルエタノールを生産する能力を指標にして選抜すればよい。
【0061】
次に、本発明の光学活性なアルコールの製造方法に用いる基質であるケトン化合物又はアルデヒド化合物について説明する。
【0062】
ケトン化合物又はアルデヒド化合物は、例えば、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−ペプチルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、2−オキソプロピオンアルデヒド、トランス−シンナムアルデヒド、4−ブロモベンズアルデヒド、2−ニトロベンズアルデヒド、3−ニトロベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、4−クロロベンズアルデヒド、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−ペンタノン、3−クロロ−2−ブタノン、tert−ブチルアセトアセテート、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、ヒドロキシアセトン、1,1−ジクロロアセトン、クロロアセトン、ジヒドロキシアセトン、1,1−ジクロロアセトン、ピルビン酸エチル、メチル 3−オキソブタノエート、エチル 3−オキサブタノネート、エチル 4−クロロアセトアセテート、メチル 4−ブロモー3−オキサブタノエート、エチル 4−ブロモ−3−オキサブタノエート、N−tert−ブトキシカルボニル−3−ピロリジノン、イソプロピル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、エチル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、メチル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、メチル 3−オキソペンタノエート、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、アセトフェノン、2’−ブロモアセトフェノン、3’−ブロモアセトフェノン、4’−ブロモアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、3’−クロロアセトフェノン、4’−クロロアセトフェノン、ベンジルアセトン、1−フェニル−2−ブタノン、m−メトキシアセトフェノン、3,4−ジメトキシアセトフェノン、4’−メトキシアセトフェノン、2,3’−ジクロロアセトフェノン、3,4−ジメトキシフェニルアセトン、シクロペンタノン、4−アセチル安息香酸、D−(+)-グルコース、4−クロロ-3-オキソ酪酸エチル、3−メチル-2-オキソ酪酸エチル、4−ヒドロキシ-2-ブタノン、ベンゾイルギ酸エチル、1−フェニル-2-ブタノン、3−オキソ酪酸エチル等が挙げられる。
【0063】
上記方法は、通常、水及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと記す。)の存在下に行うとよい。この際に用いられる水は、緩衝水溶液であってもよい。該緩衝水溶液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム等の酢酸アルカリ金属塩及びこれらの混合物が挙げられる。
【0064】
上記方法においては、水に加えて有機溶媒を共存させることもできる。共存させることができる有機溶媒としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロプルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類;トルエン、ヘキサン、シクロへヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の炭化水素類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;ジメチルスルホキシド等の有機硫黄化合物;アセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類、及び、これらの混合物が挙げられる。
【0065】
上記方法における反応は、例えば、水、NADH、及びケトン化合物又はアルデヒド化合物を、還元酵素又はそれを産生する形質転換体又はその処理物とともに、必要によりさらに有機溶媒等を含有した状態で、攪拌、振盪等により混合することにより行われる。
【0066】
上記方法における反応時のpHは適宜選択することができるが、通常pH3〜10の範囲である。また反応温度は適宜選択することができるが、原料及び生成物の安定性、反応速度の点から通常0〜60℃の範囲である。また、窒素や空気等を吹き込みながら、反応を行なってもよい。通気量は通常0.1〜5L/分の範囲である。
【0067】
反応の終点は、例えば、反応液中のケトン化合物又はアルデヒド化合物の量を液体クロマトグラフィー等により追跡することにより決めることができる。反応時間は適宜選択することができるが、通常0.5時間から10日間の範囲である。
【0068】
反応液からのアルコールの回収は、一般に知られている任意の方法で行えばよい。例えば、反応液の有機溶媒抽出操作、濃縮操作等の後処理を、必要によりカラムクロマトグラフィー、蒸留等を組み合わせて、行うことにより精製する方法が挙げられる。
【0069】
形質転換体又はその処理物としては、上述のものを用いることができるが、本発明の形質転換体を用いた工業的な生産を考慮すれば、生形質転換体を用いるよりも形質転換体を死滅化させた処理物を用いる方法が、製造設備の制限が少ないという点では好ましい。そのための死菌化処理方法としては、例えば、物理的殺菌法(加熱、乾燥、冷凍、光線、超音波、濾過、通電)や、化学薬品を用いる殺菌法(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、硫黄、ホウ素、砒素、金属、アルコール、フェノール、アミン、サルファイド、エーテル、アルデヒド、ケトン、シアン及び抗生物質)が挙げられる。一般的には、これらの殺菌法のうちできるだけ還元酵素の酵素活性を失活させず、かつ反応系への残留、汚染等の影響が少ない処理方法を選択することが望ましい。
【0070】
また、本発明還元酵素を用いたアルコールの製造方法はNADHの存在下に行われ、ケトン化合物又はアルデヒド化合物の還元反応の進行に伴い、NADHは酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADと記す)に変換される。配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する還元酵素は、変換により生じたNADを、例えば、2−プロパノールの酸化反応に伴って、還元型(NADH)に変換する能力を有するので、上記方法の反応系内には、NADをNADHに変換を可能にする基質として、2−プロパノール等を共存させることもできる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0072】
(実施例1:環境DNAの取得)
環境サンプルとして、4℃保存した以下の環境サンプル(A)〜(C)を用いて、ISOIL for Beads Beating(ニッポンジーン社製)のマニュアルにしたがって、環境DNA(A)〜(C)をそれぞれ抽出した。DNAの抽出確認は1.5%アガロースゲル電気泳動を行って確認した。
(A)滋賀県琵琶湖周辺の土壌(表層土から下に10cm程度下にある黒色土)
(B)富山県砺波市の土壌(表層土から下に10cm程度下にある黒色土)
(C)富山県魚津市付近の土壌(表層土から下に10cm程度下にある黒色土)
【0073】
(実施例2:人工オリゴヌクレオチドプライマーの調製)
以下の4種類の縮重プライマーを人工合成した。
プライマー1:5’−TTAYTGCATGAACCAGCCGTGGCTGACGAYGAACG−3’(配列番号1)
プライマー2:5’−ATGRGCAAYCTGAATGGCAARACCGCMRTCG−3’(配列番号2)
プライマー3:5’−TTAGAWSGCRGTSRCSCCRCCRTCSACCGCCAGYGMATGGCCGG−3’(配列番号3)
プライマー4:5’−ATGAGCATGACGTTTTCCGGYCAGGTRGCC−3’(配列番号4)
プライマー1と2、プライマー3と4のペアで遺伝子増幅反応を行った。なお、RはA又はGの塩基、YはC又はTの塩基、MはA又はCの塩基、KはG又はTの塩基、SはC又はGの塩基、WはA又はTの塩基を示す。
【0074】
(実施例3:pHAR1sベクターの構築)
以下の手順により、特開2007−061065に記載のプラスミドpHAR1を改変し、EcoT14I制限酵素サイトを含まないpHAR1sベクターを構築した。
まず、プラスミドpHAR1を含む以下の組成液1を調製し、37℃で3時間処理した。
[組成液1]
pHAR1溶液(100μg/ml) 1μl
EcoT14I(宝酒造社製) 1μl
10×H Buffer(宝酒造社製)2μl
滅菌水 16μl
【0075】
反応終了後、60℃で15分間処理し、反応を止めた。得られた反応液に以下の組成液2を添加した。
[組成液2]
0.1% BSA 2μl
dNTPs(各1.7mM−mix) 2μl
10×T4 DNA Polymerase Buffer
(New England Biolabs社製) 2μl
滅菌水 2μl
【0076】
70℃で15分間処理後、37℃にし、T4 DNA Polymerase(New England Biolabs社製)を2μl加えて30分間保温した。保温後、エタノール沈殿処理し、乾燥後、DNAを得た。得られたDNAを10μlの滅菌水で溶解し、Ligation Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いて16℃、30分間反応させた。反応液から、エタノール沈殿にて乾燥DNAを得た。得られた乾燥DNAを5μlの滅菌水で溶解し、エレクトロポレーション法で大腸菌JM109株を形質転換した。100μg/mlのアンピシリンを含有するLB(1%バクト−トリプトン、0.5%バクト−酵母エキス、1%塩化ナトリウム)培地に、得られた形質転換体を接種し培養した。培養菌体からWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いてプラスミド(以下、プラスミドpHAR1sと記すこともある。)を取り出した。
【0077】
(実施例4:本発明還元酵素遺伝子の増幅、発現プラスミド及び形質転換体調製)
(4−1)還元酵素遺伝子の増幅
配列番号1で示される塩基配列の5’末端側に制限酵素サイト(SfiI)を付加したオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号5)、配列番号2で示される塩基配列の5’末端側に制限酵素サイト(NdeI)を付加したオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号6)を用いて、環境サンプル(A)由来の環境DNAを鋳型にして、下記反応液組成、反応条件でPCRを行った。
【0078】
また、配列番号3で示される塩基配列の5’末端側に制限酵素サイト(SfiI)を付加したオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号7)、配列番号4で示される塩基配列の5’末端側に制限酵素サイト(NdeI)を付加したオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号8)を用いて、環境サンプル(B)又は(C)由来の環境DNAを鋳型にして、下記反応液組成、反応条件でPCRを行った。
【0079】
[プライマー配列]
配列番号5:5’−GGCCGGACAGGCCTTAYTGCATGAACCAGCCGTGGCTGACGAYGAACG−3’
配列番号6:5’−CATATGRGCAAYCTGAATGGCAARACCGCMRTCG−3’
配列番号7:5’−GGCCGGACAGGCCTTAGAWSGCRGTSRCSCCRCCRTCSACCGCCAGYGMATGGCCGG−3’
配列番号8:5’−CATATGAGCATGACGTTTTCCGGYCAGGTRGCC−3’
なお、RはA又はGの塩基、YはC又はTの塩基、MはA又はCの塩基、KはG又はTの塩基、SはC又はGの塩基、WはA又はTの塩基を示す。
[反応液組成]
環境DNA液 2μl
dNTPs(各2mM−mix) 2μl
プライマー(100μM) 各0.8μl
10×Buffer for BlendTaq 2μl
Blend Taq−Plus−(東洋紡社製) 0.2μl
DMSO 2μl
滅菌水 10.2μl
[反応条件]
上記組成の反応液が入った容器をBio−RAD DNA Engineにセットし、94℃(2分間)に加熱した後、94℃(0.5分間)→69℃(1分間)→72℃(1分間)のサイクルを40回行い、さらに72℃で10分間保持した。増幅産物はWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いて精製した。
【0080】
(4−2)還元酵素遺伝子を含む組み換えベクターを用いた形質転換体の構築
精製後の溶液に2種類の制限酵素(NdeI及びSfiI)を加え、DNA断片を2重消化し、方向性がある制限酵素切断末端を有するDNA断片を調製した。一方、プラスミドpHAR1sを2種類の制限酵素(NdeI及びSfiI)により2重消化した。DNA断片の酵素消化確認は1.5%アガロースゲル電気泳動を行って確認した。1.5%アガロースゲル電気泳動後、ゲルから酵素消化DNA断片を切り出し、それぞれWizard Plus SV Gel and PCR Clean−up System(Promega社製)を用いて精製した。得られた精製液をエタノール沈殿後、乾燥させた後、それぞれの酵素消化DNA断片に滅菌水を5μl添加した。それぞれの酵素消化DNA断片水溶液を混合し、Ligation High(東洋紡社製)を10μl添加した。16℃にて一晩放置し、エタノール沈殿後、乾燥させた。5μlの滅菌水を添加後、エレクトロポレーション法によりE.coli JM109株を形質転換した。
【0081】
滋賀県琵琶湖周辺から採取した環境DNA(A)から増幅させたDNA断片を含む大腸菌組換え体は約1200コロニー認められた。また、富山県砺波市付近から採取した環境DNA(B)から増幅させたDNA断片を含む大腸菌組換え体は約1200コロニー認められた。また、富山県魚津市付近から採取した環境DNA(C)から増幅させたDNA断片を含む大腸菌組換え体は約400コロニー認められた。それら大腸菌組換え体から、240個のコロニーをランダムに選択し、コロニーPCRを行なった。
【0082】
[反応液組成]
コロニー 1白金耳
dNTPs(各2mM−mix) 1.6μl
M13−47プライマー(100μM) 1.0μl
PARSQR0プライマー(100μM) 1.0μl
10×Buffer for BlendTaq 2μl
Blend Taq−Plus−(東洋紡社製)) 0.2μl
滅菌水 14.2μl
[プライマー]
M13−47 :5’−CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC−3’(配列番号9)
PARSQR0:5’−GAAAGCGGGCAGTGAGCGCAACGC−3’(配列番号10)
[反応条件]
上記組成の反応液が入った容器をBio−RAD DNA Engineにセットし、94℃(2分間)に加熱した後、95℃(0.5分間)→50℃(0.5分間)→72℃(1.5分間)のサイクルを30回行い、さらに72℃で10分間保持した。
PCR増幅断片を1.5%アガロースゲル電気泳動を行って確認した結果、34個のコロニーに遺伝子の挿入を確認した。
【0083】
(実施例5:本発明還元酵素遺伝子を有する形質転換体のアセトフェノン還元活性測定)
(5−1)粗酵素液の調製
得られた34種類の形質転換体、プラスミドpHAR1sにてE.coli JM109株を形質転換した形質転換体、又は、プラスミドpKELA(特許文献:特開2008−017773)にてE.coli XL一Blue MRF’株を形質転換した形質転換体を100μg/mlのアンピシリン、及び、0.4mMのIPTGを含有するLB培地4ml中で培養(37℃、22時間、振盪培養)した。その後、培養液2mlを2ml容の遠心チューブに入れ、遠心分離(15000rpm、30秒、4℃)することにより、沈殿として湿菌体を得た。培養上清液を除いた湿菌体に、500mgのビーズ(Φ0.1mm)と、50mMのMOPS−NaOHバッファー(pH7.0)を0.5mlを加え、Multi−Beads Shocker(安井器械社製)で破砕した(2500rpm、150秒、ON(30秒×3)、OFF(30秒×2))。破砕液を短時間遠心分離した後、破砕液の入ったチューブの底に穴をあけ、チューブを1.5ml容の新しい遠心チューブに押し込んだ。遠心分離(3000rpm、5分、4℃)後、2ml容の遠心チューブを抜き、1.5ml容の遠心チューブのサンプルをさらに遠心分離(15000rpm、5分、4℃)し、得られた遠心上清液を粗酵素液とした。なお、プラスミドpKELAは、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールに還元する能力を有するポリペプチドをコードする還元酵素遺伝子を含有する組換えベクターである。
【0084】
(5−2)還元活性測定
50mM MOPS−NaOHバッファー(pH7.0)、0.27mM NADH、3mM アセトフェノンを含む反応液990μlを25℃で1.5分保温し、粗酵素液を10μl添加後、NADHの340nmにおける吸収の減少を測定した。なお、プラスミドpHAR1sにてE.coli JM109株を形質転換した形質転換体から得られた粗酵素液で測定した結果をブランクとした。また、酵素活性はarbitrary unit(aU)とし、下記の計算式を用いて算出した。結果を表1に示した。
酵素活性(aU)=(340nmでの減少量(ΔA)/測定時間(1分))
【0085】
【表1】

【0086】
酵素活性0.003(aU)以上の酵素を還元活性ありと判断すると、34個の酵素中28個の酵素(LS−1〜28)で還元活性を確認できた。
【0087】
還元活性の確認できた上記28種類の形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen社製)を用い、各種PCR増幅断片を含む組み換えベクター(以下、プラスミドLS−1〜LS−28と記すこともある。)を取り出した。
【0088】
(実施例6:本発明還元酵素遺伝子を有する形質転換体の基質特異性検討(その1))
基質として、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、3’−クロロアセトフェノン、n−バレルアルデヒド、又は、4−クロロ−3−オキソ酪酸エチルを用いた以外は実施例5に記載の方法で還元活性を測定した。なお、実施例5で活性の確認できた28種類について、各形質転換体から調製した粗酵素液を用いて基質特異性を検討した。結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
(実施例7:本発明還元酵素遺伝子を有する形質転換体の基質特異性検討(その2))
基質としてアセトフェノン、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、3’−クロロアセトフェノン、n−バレルアルデヒド、4−クロロ−3−オキソ酪酸エチルエステル、4’−クロロアセトフェノン、3−メチル−2−オキソ酪酸エチルエステル、2−ヘプタノン、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、n−ヘプチルアルデヒド、ベンゾイルギ酸エチル、プロピオンアルデヒド、1−フェニル−2−ブタノン、n−ブチルアルデヒド、又は、3−オキソ酪酸エチルを用いた以外は実施例5に記載の方法で還元活性を測定した。結果を表3〜6に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【0095】
(実施例8:本発明還元酵素遺伝子を有する形質転換体を用いた2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元反応)
(8−1)湿菌体調製
増幅された還元酵素遺伝子を含む34種類の形質転換体の中から20種類(LS−1、2、3、5、6、7、8、11、13、15、16、17、18、20、22、23、24、25、26、27)の形質転換体、又は、プラスミドpKELA(特開2008−017773)にてE.coli XL1Blue MRF’株を形質転換した形質転換体を100μg/mlのアンピシリン、及び、0.4mMのIPTGを含有するLB培地4ml中で培養(37℃、22時間、振盪培養)した。その後、培養液2mlを2ml容の遠心チューブに入れ、遠心分離(15000rpm、30秒、4℃)することにより、沈殿として湿菌体を得た。
【0096】
(8−2)還元反応
湿菌体に、50mM MOPS−NaOHバッファー(pH7.0)、2mM 2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、1mM NAD+、10%(w/v)2−プロパノールを含む反応液0.5mlを加え、バイオシェーカーで振とうした(1200rpm、22時間、30℃)。その後、1−ブタノールを1ml添加して振とうした(1200rpm、30分、30℃)。遠心分離(12000rpm、5分、30℃)し、有機層を得た。この有機層を、無水NaSOを用いて乾燥後、ガスクロマトグラフィーによる含量分析を行った。
【0097】
(8−3)1−フェニルトリフルオロエタノールの含量分析、及び、光学純度分析
以下の条件で、ガスクロマトグラフィーによる1−フェニルトリフルオロエタノールの含量分析を行い、溶出時間の違いにより、得られた還元体の光学純度を調べた。その結果を表7に示す。
<含量分析条件(ガスクロマトグラフィー条件)>
カラム:CP−cyclodextrin−β−236−N19(0.25mm×25M)
カラム温度:130℃
Injection温度:250℃
Detection温度:250℃
キャリアーガス:ヘリウム(流量:0.5ml/分)
検出器:FID
溶出時間:(S)−(+)−1−フェニルトリフルオロエタノール(8.3分)、(R)−(−)−1−フェニルトリフルオロエタノール(8.5分)
【0098】
【表7】

【0099】
(実施例9:本発明還元酵素遺伝子の塩基配列決定)
実施例4でアセトフェノン還元活性を示した28株(LS−1〜28)のプラスミドに挿入されたDNA断片の中から、LS−1、LS−7、LS−10、LS−11、LS−17、LS−20、LS−22、LS−24、LS−26について塩基配列を解析した。塩基配列の解析は、Dye Terminator Cycle sequencing FS ready Reaction Kit(パーキンエルマー製)を用いて各プラスミドを鋳型としてシークエンス反応を行い、得られたDNAの塩基配列をDNAシーケンサー373A(パーキンエルマー製)で解析することにより行った。得られた塩基配列を配列番号8、10、12、14、16、18、20、22、24に示した。
【0100】
プラスミドLS−1、LS−7、LS−10、LS−11、LS−17、LS−20、LS−22、LS−24、及び、LS−26は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 つくばセンター 中央第6(郵便番号305−8566))に2008年10月21日に寄託されており、寄託番号は、それぞれ、FERM ABP−11043、FERM ABP−11044、FERM ABP−11045、FERM ABP−11046、FERM ABP−11047、FERM ABP−11048、FERM ABP−11049、FERM ABP−11050、及び、FERM ABP−11051である(表8参照)。
【0101】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本願発明の方法によれば、カルボニル化合物から光学活性アルコール化合物を効率よく得ることができる還元酵素が環境サンプル由来のDNAから得ることができることから、産業に有用な還元酵素を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸断片;又は
(2)配列番号3に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号4に記載の塩基配列からなる核酸断片;
からなるプライマーセット。
【請求項2】
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片、及び、配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片;又は
(2)配列番号3に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片、及び、配列番号4に記載の塩基配列からなる核酸断片の5’末端側に、制限酵素サイトを含む核酸断片が付加された核酸断片;
からなるプライマーセット。
【請求項3】
請求項2記載のプライマーセットが、
(1)配列番号5に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号6に記載の塩基配列からなる核酸断片;又は
(2)配列番号7に記載の塩基配列からなる核酸断片、及び、配列番号8に記載の塩基配列からなる核酸断片;
である、プライマーセット。
【請求項4】
下記(1)〜(4)に記載する4工程:
(1)請求項1〜3いずれか一項に記載のプライマーセットを用い、DNAライブラリーを鋳型として、核酸増幅反応を行い、増幅産物を得る工程;
(2)前記増幅産物を、宿主細胞内において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続し得るベクターに挿入して、組換えベクターを構築する工程;
(3)前記組換えベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する工程;及び
(4)前記形質転換体又はその処理物を用いて、カルボニル化合物を光学活性なアルコールに不斉還元する活性を有することを検出する工程;
を備える、還元酵素遺伝子を取得する方法。
【請求項5】
前記DNAライブラリーが、環境サンプル由来の環境DNAである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
配列番号11、13、15、17、19、21、23、25及び27からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸。
【請求項7】
配列番号12、14、16、18、20、22、24、26及び28からなる群より選ばれるアミノ酸配列をコードする核酸。
【請求項8】
配列番号12、14、16、18、20、22、24、26及び28からなる群より選ばれるアミノ酸配列を有するタンパク質。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の核酸を含有する組換えベクター。
【請求項10】
前記組換えベクターが、受託番号FERM ABP−11043、FERM ABP−11044、FERM ABP−11045、FERM ABP−11046、FERM ABP−11047、FERM ABP−11048、FERM ABP−11049、FERM ABP−11050、及び、FERM ABP−11051からなる群より選ばれる、請求項9に記載の組換えベクター。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
【請求項12】
光学活性なアルコールの製造における、請求項6又は7に記載の核酸の使用。
【請求項13】
光学活性なアルコールの製造における、請求項8に記載のタンパク質の使用。
【請求項14】
光学活性なアルコールの製造における、請求項9又は10に記載の組換えベクターの使用。
【請求項15】
光学活性なアルコールの製造における、請求項11に記載の形質転換体の使用。

【公開番号】特開2010−115163(P2010−115163A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291407(P2008−291407)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(503081210)
【Fターム(参考)】