説明

部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型及び部分凝固鋳塊の加工試験用準備方法。

【課題】 凝固シェルが十分薄く、かつ、多様な鋳塊サイズに対応することのできる部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を提供すること、及び、その鋳型を用いて加工試験用部分凝固鋳塊の準備方法を提供する。
【解決手段】 部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を分割鋳型と該分割鋳型を固定・分離可能に載置する定盤とからなり、前記定盤は前記分割鋳型を立位に固定する手段を備えるものであり、前記鋳型は、該鋳型を高さ方向に沿って分割してなるセグメントを前記定盤上で組立・分離可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型及びその鋳型を利用して加工試験用部分凝固鋳塊を準備する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造鋳片の内部割れなど内部品質重大な影響を及ぼす欠陥の発生原因のひとつとして鋳片が完全凝固する前の未凝固状態(部分凝固状態)における凝固殻の変形が挙げられている。かかる凝固殻の変形挙動と内部割れとの関係を明らかにするために、例えば、非特許文献1には、鋳型内に注湯した後、鋳型を分割して取り出した未凝固鋳片に対して曲げ試験を行う方法が開示されている。また、非特許文献2には、凝固途中の鋳片を拘束しながら曲げを与える試験を行って、凝固界面に作用する歪、歪速度と割れの関係を調査する手段が開示されている。
【0003】
【非特許文献1】成田貴一他,小型鋳塊曲げ変形により発生する内部割れ,鉄と鋼,66(1980)S806
【非特許文献2】杉谷康夫他,連鋳々片の内部割れの発生原因と防止対策,鉄と鋼,66(1982)A149
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしなら、非特許文献1に開示の実験手段は、鋳型に注湯して凝固を開始した後に鋳型を取り外して得た鋳塊に曲げ試験を行うものであるために、必然的に鋳型取外し後、曲げ試験箇所まで鋳塊を搬送しなければならず、その間に鋳塊の凝固が進行するために凝固シェルが十分薄い鋳塊の変形挙動を推定することができないという問題があった。一方、非特許文献2に記載の実験手段は、凝固途中の鋳塊から鋳型の一部を取り除き、回転曲げを与える装置を用いており、前記鋳塊の搬送時間が不要になるため、凝固シェルが十分薄い鋳塊の変形挙動を測定することが可能になるが、試験装置が大掛かりになるだけでなく、鋳塊の寸法、形状が制約されるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来手段の包含する問題を解決し、凝固シェルが十分薄い鋳塊を得ることができ、かつ、多様な鋳塊サイズに対応することのできる部分凝固鋳塊を得ることができる部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を提供すること、及び、その鋳型を用いて加工試験用部分凝固鋳塊の準備方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明において使用する部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型は、分割鋳型と該分割鋳型を固定・分離可能に載置する定盤とからなり、前記定盤は前記分割鋳型を立位に固定する手段を備えるものであり、前記鋳型は、該鋳型をその軸線に沿って分割してなるセグメントを前記定盤上で組立・分離可能に構成されたものである。上記分割鋳型を立位に固定する手段として、定盤上において分割・組立可能に構成されたケージを採用することができる。
【0007】
また、本発明に係る加工試験用部分凝固鋳塊の準備方法は、前記部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を準備して、溶融金属を注湯する段階と、前記注湯後予定時間に亘って静置して溶湯を部分凝固させる段階と、前記段階で部分凝固鋳させた鋳塊を鋳型と共に加工試験装置に移送する段階と、加工試験装置内において鋳型を分解・取り外す段階と、からなる。
【0008】
上記発明において、部分凝固鋳させた鋳塊から鋳型を分解・除去する段階を加工試験装置に移送する前段階において行うことも可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明による部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を利用することにより、多様な鋳塊サイズに対応しながら凝固シェル厚さを変えた部分凝固鋳塊を得ることができ、かかる部分凝固鋳塊を加工試験に供することにより、連続鋳造鋳片の内部割れなど内部品質に重大な影響を及ぼす欠陥の発生原因の究明を進展させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の1実施例に係る部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型の全体斜視図である。図1に示すとおり、本発明に係る部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型は、定盤10とその上に固定・分離可能に載置される分割鋳型20によって構成されている。
【0011】
本例では、定盤10はやや厚手の鉄製の円盤であって、その周囲の一部には直径を挟んで固定用突起部11が定盤10の本体と一体に取り付けられている。この固定用突起部11の側面には、固定用突起部11を貫通し、定盤10の上に載置される分割鋳型20の下部に至る共通のかすがい差込孔12が穿たれている。
【0012】
分割鋳型20は、本例では、鋳鉄製の円筒をその直径方向に2分割したセグメント22とセグメント23によって構成されており、これらを合わせて一体化することにより、円筒状鋳型が形成されるようになっている。そのため、鋳型上面には、上記セグメント22及びセグメント23の合わせ面21を挟んでかすがい差込孔24が穿たれており、ここに上部固定用かすがい25が差し込まれて、上記各セグメントが一体に固定されるようになっている。
【0013】
また、分割鋳型20の下部においては、前述のとおり、定盤10の固定用突起部11を貫通し、定盤10の上に載置される分割鋳型20の下部に至る共通のかすがい差込孔12が穿たれている。したがって、図1に示すように、定盤10の上に分割鋳型20を載置した状態で、前記かすがい差込孔12に下部固定用かすがい13を差し込めば、分割鋳型を構成するセグメント22及びセグメント23が、その下部において定盤10の固定用突起部11と一体に固定されることになる。
【0014】
このようにして定盤10上に形成された分割鋳型20は、下部固定用かすがい13及び上部固定用かすがい25を抜き去ることによって、容易に分解可能である。したがって、定盤10上において分割鋳型20を組立た状態において、溶鋼を注入し、所定時間経過後、分割鋳型20を分解すれば、定盤10の上には一定厚さのシェル(凝固殻)を有する部分凝固鋳塊が得られることになる。この場合において、溶鋼注入後の経過時間を変更すれば、自由にシェル厚(凝固殻厚)を変更することができる。
【0015】
上記のようにして、準備された部分凝固鋳塊は、例えば、図2に示す加工試験装置30内において加工試験に供することができ、例えば、種々の厚さの凝固シェルに変形を加えたとき、鋳片内部にいかなる内部欠陥が生ずるか、について推定することができるようになる。
【0016】
加工試験装置30は、その1例が図2に示されているように、垂直方向に昇降可能でかつ水平方向に回転可能な試験材載置台31を備える試験材載置機構32と、該試験材載置台31に載置された試験材Sに対し側方から圧下を加える圧下機構33とを備えている。圧下機構33には、油圧シリンダー34によって試験材Sに圧下を加える圧下ロール35が設置されている。この試験装置30は、また、チャック36を備える試験材把持機構37を有しており、試験材Sに圧下や曲げ加工などを任意に与えることができるようになっている。
【0017】
本発明に係る部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を用いて、加工試験装置30に供する試験材を準備するには、以下の工程を取る。まず、図1に示すように部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を準備して溶融金属を注湯し、予定時間に亘って静置して溶湯を部分凝固させる。予定時間は、予備実験等により必要な厚さの凝固シェルが得られる時間として定められる。
【0018】
本発明の加工試験用部分凝固鋳塊の準備方法の第1の実施形態においては、上記予定時間経過後、部分凝固させた鋳塊を鋳型と共に加工試験装置30に移送し、加工試験装置30内において、必要に応じ、さらに凝固時間を経過させた後に、分割鋳型20の分解を行う。分割鋳型20の分解は、すでに述べたように、分割鋳型20から下部固定用かすがい13及び上部固定用かすがい25を抜き取り、セグメント22,23の拘束を解くことにより行う。
【0019】
これにより、加工試験装置30内の試験材載置台31の上には、凝固シェルを有し、内部が未凝固の部分凝固鋳塊が定盤10の上に裸の状態で残されることになる。この部分凝固鋳塊を試験材Sとして、加工試験を行うことによって、前記のとおり、鋳片内部にいかなる内部欠陥が生ずるか、について推定することができるようになる。
【0020】
本発明の加工試験用部分凝固鋳塊の準備方法の第2の実施形態においては、上記予定時間経過後、部分凝固鋳させた鋳塊を、注湯箇所において分割鋳型20を分解・除去して定盤10上に部分凝固鋳塊を残置し、しかる後、該鋳塊を定盤とともに加工試験装置30内に移送する。なお、この場合においては、分割鋳型20の分解・除去後の時間経過に伴って鋳塊内部の凝固が進行しないようにするために、露出した部分凝固鋳塊に適当な保温材、例えばガラスウールを被せておくのが好ましい。
【0021】
前記実施例においては、分割鋳型20は定盤10に備えた固定用突起部11と下部固定用かすがい13によって定盤11に載置・固定されているが、この手段は、以下の図3〜6に示すように、定盤10上に分割可能に固定・載置されるケージ40を介して分割鋳型20を固定する方式に変更することができる。
【0022】
図3は、分割鋳型20を定盤10上に固定・載置するためのケージ40の部分切断正面図(図4のA−A視図)であり、図4、図5、図6は、それぞれ、そのB−B、C−C、D−D矢視図である。これらの各図に示されているように、ケージ40は、上フランジ41、下フランジ42、中間フランジ43およびこれらフランジを内面側で貫く支柱45によって構成され、このケージ40に対して分割鋳型20が固定されるようになっている。
【0023】
ケージ40は、図3に示すように左右に2分割されており、これらに備えたかすがい差込孔46にかすがい48を差し込むことにより、上部側を一体化することができるようになっている。一方、定盤10には、図3のA部部分拡大図及び図5に示すように、下部フランジ42の分割面近傍を貫くように固定片51が、前記分割面に対して左右対称に取り付けられており、そのピン差込孔47にピン49を差し込むことによって下部側を一体化することができるようになっている。なお、上記2つのピンを結合してかすがい49’とし、これをピン差込孔47に押込むようにしてもよい。
【0024】
上記のように一体に組み立てられ定盤10に対して固定されたケージ40に対して分割鋳型20が固定される。この固定のために、図3のB部部分拡大図に示すように、フランジの側面に設けた支柱45に余裕孔55を通して分割鋳型20に螺合される取付ボルト56を設けるとともに、該支柱45に螺合される調整ネジ57を分割鋳型20の側面を押圧するように取り付けている。
【0025】
分割鋳型20とケージ40の固定は、次のように行われる。まず、分割鋳型20のセグメント23の合わせ面21を合わせた状態で定盤10のほぼ中央の所定位置に分割鋳型20を載置する。この状態で、ケージ40の調整ネジ57をねじ込んで支柱45と分割鋳型20との間に適度のスペースが生ずるように調整し、その状態で、取付ボルト56を分割鋳型20のボルト孔に螺合する。これらの組立作業により、分割鋳型20がケージ40に対して適度のスペースを有して固定されることになる。
【0026】
なお、分割されたケージ40の上面には、それぞれ1組のアイボルト58が取り付けられるようにアイボルト孔60が設けられており、同様に、分割鋳型20を構成するセグメント23の上面にもそれぞれ1組のアイボルト59が取り付けられるようにアイボルト孔60が設けられている。これによって、ケージ40を定盤10上に組み立て、その中に分割鋳型20を固定することができるようになっている。したがって、このように組み立てられた分割鋳型20内に溶湯を注湯し、所定のシェルを形成させた後、先に述べたように、加工試験装置30内に搬送し、加工試験装置30内で分割鋳型を取り外し、所定の試験を行うことができる。あるいは、予め分割鋳型を取り外した後、加工試験装置30内に部分凝固させた鋳塊を搬送し、所定の試験を行うこともできる。
【0027】
なお、上記試験における分割鋳型の分解作業は、前記のように組み立てられたケージ及び分割鋳型からかすがい48, 49及び取付ボルト56を取り外し、アイボルトを用いてケージ及び分割鋳型を構成するセグメントを吊り上げれることによって行えばよい。
【0028】
以上、本発明について分割鋳型として円筒状鋳型を採用した場合について説明したが、分割鋳型として例えば、角柱状鋳型を採用できる。また、分割形式として、鋳型軸を含んだ面内で2分割した例について説明したが、これを例えば3分割とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型の全体斜視図である。
【図2】本発明に用いる加工試験装置の一例を示す斜視図である。
【図3】分割鋳型を定盤上に固定・載置するためのケージの部分切断正面図である。
【図4】図3に示したケージのB−B矢視図である。
【図5】図3に示したケージのC−C矢視図である。
【図6】図3に示したケージのD−D矢視図である。
【符号の説明】
【0030】
10:定盤,11:固定用突起部,12:かすがい差込孔,13:下部固定用かすがい
20:分割鋳型,21:(セグメントの)あわせ面,22:セグメント,23:セグメント,24:かすがい差込孔,25:上部固定用かすがい,26:かすがい差込孔
30:加工試験装置,31:試験材載置台,32:試験材載置機構,33:圧下機構,34:油圧シリンダー,35:圧下ロール,36:チャック,37:試験材把持機構,S:試験材
40:ケージ,41:上フランジ,42:下フランジ,43:中間フランジ,45:支柱,46:かすがい差込孔,47:ピン差込孔,48:かすがい,49:ピン,49’:かすがい,51:固定片,55:余裕孔,56:取付ボルト,57:調整ネジ,58:アイボルト,59:アイボルト,60:アイボルト孔,61:アイボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割鋳型と該分割鋳型を固定・分離可能に載置する定盤とからなり、前記定盤は前記分割鋳型を立位に固定する手段を備えるものであり、前記鋳型は、該鋳型をその軸線に沿って分割してなるセグメントを前記定盤上で組立・分離可能に構成されたものであることを特徴とする部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型。
【請求項2】
前記分割鋳型を立位に固定する手段が定盤上において分割・組立可能に構成されたケージであることを特徴とする請求項1記載の部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を準備して溶融金属を注湯する段階と、前記注湯後予定時間に亘って静置して溶湯を部分凝固させる段階と、前記段階で部分凝固させた鋳塊を鋳型と共に加工試験装置に移送する段階と、加工試験装置内において鋳型を分解・取り外す段階と、からなる部分凝固鋳塊の加工試験用準備方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の部分凝固鋳塊鋳造用組立鋳型を準備して溶融金属を注湯する段階と、前記注湯後予定時間に亘って静置して溶湯を部分凝固させる段階と、前記段階で部分凝固鋳させた鋳塊から鋳型を分解・除去する段階と、前記段階で鋳型が除去された鋳塊を定盤とともに加工試験装置に移送する段階と、からなる部分凝固鋳塊の加工試験用準備方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−125497(P2010−125497A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303958(P2008−303958)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】