説明

部分放電検出装置及び部分放電検出方法

【課題】課電電圧情報を伝送するための事前の信号ケーブル及び光ファイバ等の延線が不要で、殆どの場所で利用することができ、かつ実施が容易で低コストに課電電圧の情報を送ることができる部分放電検出装置及び部分放電検出方法を提供すること。
【解決手段】課電情報伝送システム100は、課電装置110から課電電圧信号を取り込み、課電電圧信号に同期した矩形波に変換する正弦波・矩形波変換回路121と、矩形波を携帯電話機130の入力レベルに合わせて調整するレベル調整回路122と、課電電圧信号に同期した矩形波を無線伝送する携帯電話機130,140と、無線伝送された信号から課電電圧情報を復調するとともに、携帯電話機140の出力を部分放電測定器160の入力に合わせて調整するレベル調整回路150と、部分放電測定器160とを備え、PC170は無線伝送された課電電圧情報と部分放電信号とを関連付けて部分放電パルスを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分放電検出装置及び部分放電検出方法に係り、特に、電力ケーブル線路から取込んだ微小な検出信号が部分放電信号か否かを高精度に測定する部分放電検出装置及び部分放電検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブル線路(具体的にはジョイントや終端接続部)の竣工試験においては、健全性の確認の一環として、部分放電信号の検出による絶縁診断が行われている。かかる絶縁診断においては、微小な信号を検出するため、高感度な測定が必要となる。しかし高感度になるほどノイズの影響も大きく、測定系にノイズ信号が侵入するおそれがあるため、このノイズ信号と真の信号、すなわち実際に電力ケーブル線路に発生している部分放電信号とを峻別することが重要となる。
【0003】
図1は、電力ケーブル線路に印加されている電圧(以下、課電電圧という)と電力ケーブル線路に発生する部分放電信号との関係を示す図である。
【0004】
図1に示すように、電力ケーブル線路における部分放電信号は、課電電圧の位相と密接な関係(課電電圧位相と同期して発生する)があることが知られている。すなわち、図1に示すように、電力ケーブル線路の課電電圧の1サイクル中における部分放電信号Spは、課電電圧位相の第1象限(0〜π/2)と第3象限(π〜3π/2)で集中して発生する。電力ケーブル線路から取込んだ検出信号と課電電圧位相との関係から、検出信号が部分放電信号であるかノイズであるかを判別することができる。
【0005】
しかし、現場での測定において課電電圧を得ることは、以下の理由から非常に難しい。
【0006】
(1)測定対象が課電装置の場所から離れているため、課電電圧の情報の取得が困難である。
【0007】
(2)ケーブル線路が地中に埋設され、ケーブルの接地線にアクセスし難い。
【0008】
(3)ケーブルの接地線にアクセスできたとしても周囲の商用電源周波数(50Hz/60Hz)の大きな誘導に影響され、課電電圧信号を精確に検出できない。
【0009】
また、放電の発生はばらつくため、確実な判断には多数の発生パターンをサンプルして判断することが求められる。いずれにしても、現場測定において、精確な部分放電測定を行うには課電電圧の情報を得ることが不可欠である。
【0010】
図2は、電力ケーブル線路における部分放電検出装置を示す回路図である。
【0011】
図2に示すように、まず、測定すべき電力ケーブル線路Cの変電所側端には課電電圧信号検出部1が、電力ケーブル線路Cの絶縁接続部IJには部分放電信号検出部2がそれぞれ配置され、部分放電信号検出部2と課電電圧信号検出部1間には電力ケーブル線路Cに沿って光ファイバ3が布設されている。
【0012】
課電用トランス12は、課電電圧位相を監視するためのモニタ端子11を有し、モニタ端子11は、課電電圧信号検出部1を構成する。課電用トランス12を介して電力ケーブル線路Cに試験用の交流電圧が印加されている。課電電圧信号検出部1には、モニタ端子11を介して電力ケーブル線路Cの課電電圧信号が取込まれる。
【0013】
また、部分放電信号検出部2は、絶縁接続部IJの両側に取付けられる一対の箔電極21a、21bと、この箔電極21a、21bにリード線を介して接続される部分放電測定器22とを備えている。部分放電信号検出部2には、箔電極21a、21bを介して電力ケーブル線路Cで発生した部分放電信号が取込まれる。
【0014】
以上の構成において、課電電圧信号検出部1であるモニタ端子11を介して取込まれた課電電圧信号は、光信号に変換されて光ファイバ3を介して部分放電信号検出部2まで伝送され、部分放電信号検出部2において電気信号に変換される。
【0015】
部分放電信号検出部2は、課電電圧信号に基づく課電電圧位相と、部分放電信号検出部2において箔電極21a、21bを介して取込まれた検出信号との関係から、検出信号が部分放電信号かノイズかを判別する。図1に示すように、部分放電信号検出部2は、課電電圧位相の第1象限及び第3象限に、箔電極21a、21bを介して取込まれた検出信号が集中して発生している場合は、検出信号は部分放電信号Spと判断し、また、課電電圧位相の第2象限(π/2〜π)及び第4象限(3π/2〜2π)に検出信号が集中して発生している場合や、全象限にわたって発生している場合は、検出信号はノイズと判断する。なお、検出信号を光ファイバ3を用いて伝送していることから、上記(3)の商用電源周波数(50Hz/60Hz)の誘導の影響は回避される。
【0016】
図2の部分放電検出方法は、課電電圧信号検出部1により課電電圧信号を取込み、この課電電圧信号を信号ケーブル又は光ファイバ3等を介して部分放電信号検出部2まで伝送する。このため、課電電圧信号検出部1と部分放電信号検出部2間に一時的に光ファイバ等を布設しなければならない。事前に光ファイバ3等の布設作業が必要となる上、測定後において光ファイバ3等の撤去作業が必要になり、特にケーブル線路が地下に埋設されている場合は、アクセスしにくく、コスト的にも割高になる。
【0017】
また、課電電圧信号検出部1と部分放電信号検出部2の間に道路や川がある場合や課電電圧信号検出部1と部分放電信号検出部2が非常に離れている場合、現実的に信号線用の光ファイバ等を延線することは不可能であった。
【0018】
一方、課電電圧信号検出部1と部分放電信号検出部2間に既に布設されている光ファイバ3等を利用する方法も考えられるが、この場合においては、既設の光ファイバ3等の一端を課電電圧信号検出部に接続し、他端を部分放電信号検出部に接続しなければならないことから、部分放電測定の準備等に長時間を要する。また、測定後に光ファイバ3等の両端を課電電圧信号検出部1及び部分放電信号検出部2から切離しなければならない。
【0019】
特許文献1には、地下マンホール内電力ケーブル線路から検出した部分放電パルス信号をマンホール蓋などをアンテナとして無線方式により送信し、地上では部分放電計測処理部の受信アンテナで受信し、部分放電計測処理部で測定する部分放電測定方法が記載されている。
【0020】
特許文献2には、各々の部分放電測定装置を設けた場所にGPS(Global Positioning System)受信装置を設置し、GPS衛星が発信する時刻信号を基準にして、課電電圧位相と部分放電信号検出部で検出した検出信号との関係を求めることによる部分放電検出方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平6-11534号公報
【特許文献2】特開2003−75501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、特許文献1に記載の部分放電検出方法は、無線方式による伝送方法が示唆されているだけで、具体的な伝送方法と装置については何ら開示されていない。例えば、無線送信機として携帯電話機を使うことを想定した場合、携帯無線機は人間の音声の伝送が目的のため、周波数特性は200Hz程度から3500Hz程度になり、50Hz前後となる課電電圧位相の信号(商用周波数)を直接送信することは不可能である。
【0023】
特許文献2に記載の部分放電検出方法は、GPS衛星が発信する時刻信号を課電電圧信号及び部分放電信号と同時に各々受信・記録し、時刻信号を基準にして、課電電圧信号の位相と部分放電信号検出部で検出した検出信号との関係を、演算により求める方法であって、課電電圧情報そのものを部分放電信号検出部側に伝送するものではない。したがって、GPS受信装置が必要になることは勿論のこと、各GPS衛星が発信する時刻と課電電圧位相とのデータマッチングの演算が必要となり装置規模が大きくなる可能性がある。また、GPS受信が利用できない環境及び状況では、課電電圧位相を用いた部分放電検出を行うことができない。
【0024】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、課電電圧情報を伝送するための事前の信号ケーブル及び光ファイバ等の延線が不要で、殆どの場所で利用することができ、かつ実施が容易で低コストに課電電圧の情報を送ることができる部分放電検出装置及び部分放電検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の部分放電検出装置は、課電電圧信号を取得する課電電圧取得部と、前記課電電圧信号に同期した信号を生成する同期信号生成部と、生成した信号を無線伝送する無線伝送部と、無線伝送された信号から課電電圧情報を復調する復調部と、部分放電信号を検出する部分放電信号検出部と、復調された課電電圧情報と前記部分放電信号とを関連付けて部分放電パルスを測定する測定部と、を備える構成を採る。
【0026】
本発明の部分放電検出方法は、課電電圧信号を取得するステップと、前記課電電圧信号に同期した信号を生成するステップと、生成した信号を無線伝送するステップと、無線伝送された信号から課電電圧情報を復調するステップと、部分放電信号を検出するステップと、復調された課電電圧情報と前記部分放電信号とを関連付けて部分放電パルスを測定するステップとを有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、課電電圧情報を伝送するための事前の信号ケーブル及び光ファイバ等の延線が不要で、殆どの場所で利用することができ、かつ実施が容易で低コストな部分放電検出装置及び部分放電検出方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】課電電圧と電力ケーブル線路に発生する部分放電信号との関係を示す図
【図2】従来の電力ケーブル線路における部分放電検出装置を示す回路図
【図3】本発明の実施の形態1に係る部分放電検出装置の全体構成を示す図
【図4】上記実施の形態1に係る部分放電検出装置の課電電圧に同期した信号の取り込みを示す図
【図5】上記実施の形態1に係る部分放電検出装置の携帯電話機の周波数特性、電圧特性、位相特性、部分放電模擬パルス検出を測定する測定回路を示す図
【図6】上記実施の形態1に係る部分放電検出装置の携帯電話機の周波数特性及び電圧特性を示す図
【図7】上記実施の形態1に係る部分放電検出装置の携帯電話機の位相特性を示す図
【図8】上記実施の形態1に係る部分放電検出装置の携帯電話機の入出力特性を示す図
【図9】上記実施の形態1に係る部分放電検出装置の矩形波入力時の携帯電話機の入出力波形を示す図
【図10】上記実施の形態1に係る部分放電検出装置の部分放電模擬パルス入力時の携帯電話機の入出力波形を示す図
【図11】本発明の実施の形態2に係る部分放電検出装置の全体構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
(実施の形態1)
図3は、本発明の実施の形態1に係る部分放電検出装置の全体構成を示す図である。本実施の形態の部分放電検出装置及び部分放電検出方法は、課電電圧の情報を送る課電情報伝送システムに適用した例である。
【0031】
図3において、課電情報伝送システム100は、課電装置110(課電電圧取得部)と、正弦波・矩形波変換回路121及びレベル調整回路122からなる送信側調整器120(同期信号生成部)と、無線伝送装置としての携帯電話機130,140(無線伝送部)と、受信側調整器であるレベル調整回路150(復調部)と、部分放電測定器160(部分放電信号検出部)と、パーソナルコンピュータ(PC)170(測定部)とを備えて構成される。
【0032】
上記課電装置110、正弦波・矩形波変換回路121、レベル調整回路122、及び携帯電話機130は、課電場所に設置され、携帯電話機140、レベル調整回路150、部分放電測定器160、及びPC170は、測定すべき電力ケーブル線路の近傍など測定場所に設置される。
【0033】
課電装置110は、分圧器や接地線などから課電電圧信号を取り込む。課電装置110は、例えば図2に示す従来例と同様に、測定すべき電力ケーブル線路の変電所側端に配置された課電電圧信号検出部を備える。電力ケーブル線路には、課電電圧位相を監視するためのモニタ端子を有する課電用トランスを介して試験用の交流電圧が印加されている。課電装置110は、このモニタ端子を介して電力ケーブル線路の課電電圧信号を取り込む。
【0034】
正弦波・矩形波変換回路121は、課電装置110から課電電圧信号(正弦波)を取り込み、課電電圧信号に同期した矩形波に変換する。なお、課電装置110から課電電圧信号に同期した矩形波を得られる場合、正弦波・矩形波変換回路121は不要である。課電電圧信号に同期した矩形波とすることで、50Hz前後となる課電電圧位相の信号情報を、音声帯域の周波数特性、具体的には200Hz程度から3500Hz程度の周波数成分を有する信号とすることができる。
【0035】
レベル調整回路122は、矩形波のレベルを携帯電話機130の入力レベルに合わせて調整する。例えば、携帯電話機130の入力レベルは15mVp程度に抑える必要がある。課電装置110あるいは正弦波・矩形波変換回路121等から出力される矩形波は、約10V程度と予想されるため、レベル調整回路122は、約1/1000(−60dB)に減衰させる必要がある。レベル調整回路122は、減衰率を調整できるアッテネータを内蔵/外付けで持つことが好ましい。
【0036】
本実施の形態では、無線伝送装置として携帯電話機130,140を例に採っている。無線伝送装置としてはこのほか、PHS(Personal Handy-Phone System)や携帯情報端末(以下、PDA(Personal Digital Assistants)という)などの無線通信端末がある。
【0037】
携帯電話機130,140は、課電電圧信号に同期した矩形波を無線伝送する。矩形波を無線伝送することで音声帯域の周波数特性の信号で送受信することができる。
【0038】
携帯電話機130,140間の無線通信は、キャリア無線通信システム180の電波を送受信して無線通信を行う。キャリア無線通信システム180は、キャリアサーバ181と、キャリアサーバ181に接続される専用回線からなるキャリア網182と、キャリア網182に接続される携帯電話機の複数の基地局183とを備えて構成される。キャリアサーバ181は、基地局183をキャリア網182で結ぶキャリアのネットワーク上のサーバである。キャリア網182は、移動体通信網、公衆電話網、LANやインターネットなどから構成するネットワークであり、有線系又は無線系などネットワークの種類とプロトコルの種類は特に問わない。基地局183は、携帯電話機130,140からの電波をアンテナを経由して送受信し、キャリア網182を通じてキャリアサーバ181に接続する。キャリア網182及び基地局183は、携帯電話機130,140において情報の送受信を行う際に、自端末と相手端末を接続する。
【0039】
なお、キャリア以外のネットワークを使った無線伝送については実施の形態2により後述する。
【0040】
レベル調整回路150は、無線伝送によりパルス状に変形した出力信号の立上がり及び立下がりを基にした課電電圧情報として復調するとともに、携帯電話機140の出力を部分放電測定器160の入力に合わせて調整する。本実施の形態では、レベル調整回路150は、無線伝送によりパルス状に変形した出力信号の、いわゆる立上がりエッジと立下がりエッジを基に課電電圧情報を復調しているが、立上がりか立下がりのいずれか一方を用いてもよい。
【0041】
部分放電測定器160は、測定すべき電力ケーブル線路から部分放電パルス信号を検出する。部分放電測定器160は、例えば図2に示す従来例と同様に、電力ケーブル線の絶縁接続部の両側に取付けられる一対の箔電極にリード線を介して接続し、箔電極を介して電力ケーブル線路で発生した部分放電信号を取込む。
【0042】
PC170は、部分放電測定器160により検出された部分放電信号(ノイズを含む)と携帯電話機130,140により伝送され、レベル調整回路150で復調された課電電圧情報とを関連付けて解析して表示部171に表示する。絶縁診断の一種である部分放電測定の場合、部分放電パルスは電力ケーブル線路に課電されている課電電圧情報と密接な関連を有している。PC170は、携帯電話機130,140から伝送された課電電圧情報を、部分放電測定と関連付けて解析することで、信頼性の高い部分放電測定結果を表示部171に表示することができる。
【0043】
PC170は、補正部として機能する場合、伝送された課電電圧情報と部分放電測定とを関連付けて解析する場合の各種調整(例えば、同期信号表示、トリガレベル調整、位相遅れ補正)を行う。同期信号表示、トリガレベル調整、及び位相遅れ補正については、後述する。
【0044】
なお、伝送された課電電圧情報と部分放電測定との関連付けは、部分放電測定器160が行う構成でもよい。このように構成すれば、部分放電信号検出部と測定部は一つにまとまり、PC170の接続は不要である。
【0045】
また、上記課電装置110(課電電圧取得部)、送信側調整器120(同期信号生成部)、携帯電話機130,140(無線伝送部)、レベル調整回路150(復調部)、部分放電測定器160(部分放電信号検出部)、PC170(測定部)の構成要素は、代表例を挙げたものであり、どのような回路部でも構わない。
【0046】
以下、上述のように構成された課電情報伝送システム100の動作について説明する。
【0047】
図4は、課電電圧に同期した信号の取り込みを示す図である。
【0048】
図4に示すように、課電装置110は、課電電圧信号(正弦波)を取り込む。正弦波・矩形波変換回路121は、課電電圧信号と同期した矩形波信号(10V程度)を出力する。出力された矩形波信号は、課電電圧信号のゼロクロス位置で立上がりと立下がりとなるため、課電電圧位相の信号として扱い易い。課電電圧信号は、正弦波である例を示したが、正弦波である必要はなく、課電周波数と同期した信号であればどのような波形でもよい。
【0049】
課電電圧情報として、課電電圧位相を知るには、矩形波そのものではなく、矩形波の立上がりと立下がりの位置(時間情報)を伝送できればよい。また、矩形波の立上がりと立下りの信号はレベルを調整する。矩形波の立上がりと立下り信号は、微分回路により、またレベル調整は減衰回路によりそれぞれ簡単に生成することができる。本実施の形態では、課電電圧信号と同期した矩形波の出力とレベル調整を送信側調整器120で行っている。具体的には、正弦波・矩形波変換回路121は、課電装置110から課電電圧信号(正弦波)を取り込んで課電電圧信号に同期した矩形波に変換する。なお、課電装置110が、課電電圧信号と同期した矩形波信号を出力するタイプであれば、正弦波・矩形波変換回路121は、不要である。
【0050】
レベル調整回路122は、矩形波のレベルを、携帯電話機130の入力レベルに合わせて調整する。本実施の形態では、レベル調整回路122は、矩形波のレベルを、10mVp程度に調整する。
【0051】
パルス状の信号を伝送するためには、携帯電話機130,140の周波数特性を知る必要がある。以下、図5乃至図10を参照して実測例について説明する。
【0052】
図5は、携帯電話機130,140の周波数特性、電圧特性、位相特性、部分放電模擬パルス検出を測定する測定回路を示す図である。
【0053】
図5において、信号発生器191は、課電電圧信号に対応する正弦波及び矩形波、部分放電に対応する模擬パルスをそれぞれ発生する。信号発生器191により発生した信号(正弦波、矩形波、及び模擬パルス)は、携帯電話機130と波形確認用オシロスコープ192と部分放電測定器160とに入力される。また、携帯電話機140の出力は、波形確認用オシロスコープ192及び部分放電測定器160に入力される。PC170は、信号発生器191により発生した信号(正弦波、矩形波、及び模擬パルス)と、伝送された信号とを関連付けて表示部171に表示する。PC170は、補正部として同期信号表示、トリガレベル調整、位相遅れ補正などの調整を行う。
【0054】
[正弦波入力時の出力波形]
(携帯電話機130,140の周波数特性)
図5において、信号発生器191は、課電電圧信号に対応する正弦波(図示せず)を発生し、携帯電話機130に入力する。携帯電話機130は、信号発生器191により発生した正弦波を伝送し、携帯電話機140は、伝送された信号を受信する。波形確認用オシロスコープ192は、携帯電話機130に入力される信号と携帯電話機140からの出力を比較できるように表示する。
【0055】
図6は、携帯電話機130,140の周波数特性及び電圧特性を示す図である。使用した携帯電話機130,140の周波数帯域は、300Hz〜3600Hzである。図6に示すように、入力レベルが10−15mVpでは出力は飽和しない。入力レベルが17mVp以上になると、出力は飽和し、この飽和レベルは約880mVpである。なお、飽和レベルは携帯電話機130,140の機種により異なる。
【0056】
(携帯電話機130,140の位相特性)
図7は、携帯電話機130,140の位相特性を示す図である。図7(a)に示すように、携帯電話機130,140の周波数帯域300Hz〜3600Hzにおいて、周波数により位相遅れが発生する。例えば周波数1000Hzでは、位相遅れは発生しないが、周波数1200Hzでは、約250度もの位相遅れが発生する。位相遅れは、図7(b)に示すように、入力波形に対する出力波形の位相の遅れである。図7(a)に示すように、周波数により位相遅れは変化する。しかし周波数が一定であれば入出力の位相差は一定であることが判明した。
【0057】
(携帯電話機130,140の入出力波形特性)
図8は、波形確認用オシロスコープ192で確認した携帯電話機130,140の入出力特性を示す図であり、図8(a)は入力(周波数500Hz,入力レベル15mVp)の入出力波形を、図8(b)は入力(周波数1000Hz,入力レベル15mVp)の入出力波形を示す。図8に示すように、周波数が一定であれば入出力の位相差は一定であることが判明した。したがって、周波数を一定にし、あらかじめ伝送時の位相ずれを補正しておけば、課電電圧位相の情報として適用が可能になる。
【0058】
[矩形波入力時の出力波形]
図9は、波形確認用オシロスコープ192で確認した矩形波入力時の携帯電話機130,140の入出力波形を示す図であり、図9(a)は矩形波(周波数30Hz,入力波形8mVp)の入出力波形を、図9(b)は矩形波(周波数75Hz,入力波形8mVp)の入出力波形を示す。一般に、携帯電話機130,140の周波数特性は、200Hz程度から3500Hz程度とされており、50Hz前後となる課電電圧位相の信号(商用周波数)を正弦波で送信することは不可能である。しかし、本実施の形態では、多くの周波数成分を有する矩形波を使用することにより、矩形波の立上がり又は立下がり部分には高周波成分を含むこととなり、200Hz程度から3500Hz程度の周波数特性である携帯電話機130,140での伝送が可能となる。
【0059】
図5において、信号発生器191は、課電電圧信号(正弦波)に対応する矩形波を発生し、携帯電話機130に入力する。携帯電話機130は、信号発生器191により発生した矩形波を伝送し、携帯電話機140は、伝送された信号を受信する。波形確認用オシロスコープ192は、携帯電話機130に入力される波形と携帯電話機140からの波形を比較表示する。
【0060】
図9に示すように、矩形波を携帯電話機130に入力すると、携帯電話機140からはパルス状の波形が出力された。これは図6に示すように、携帯電話機130,140の周波数特性が一種のバンドパスフィルタ(BPF)となっており、矩形波の立上がりと立下がりが強調されたことによる。このため、矩形波の立上がりと立下り信号を生成する微分回路は不要になる。また、図9(a)では位相遅れがみられるが、矩形波入力時においても周波数が一定であれば入出力の位相差は一定であることが判明した。
【0061】
[部分放電模擬パルス入力時の出力波形]
図5a.に示すように、信号発生器191は、課電電圧信号に対応する矩形波信号を発生し、携帯電話機130に入力する。また、図5b.に示すように、信号発生器191は、部分放電模擬パルスを矩形波と同期させ、1周期に4回発生し、部分放電測定器160に入力する。携帯電話機130は、位相信号(矩形波)を伝送し、この信号と同期させた部分放電模擬パルス信号を部分放電測定器160で測定する。図5c.に示すように、携帯電話機140からは矩形波がパルス状の波形として出力される。携帯電話機130,140の入出力は、携帯電話機130,140の汎用のマイク端子及びイヤホン端子に接続する。
【0062】
図10は、部分放電模擬パルス入力時の携帯電話機130,140の入出力波形を示す図であり、波形確認用オシロスコープ192で確認した波形である。
【0063】
図10に示すように、携帯電話機130への入力波形は、矩形波(周波数30Hz,8mVp)であり、図10矢印が携帯電話機140からの出力波形を示す。また、図10破線で囲んだ楕円が矩形波に同期させた部分放電模擬パルスである。部分放電模擬パルスは、1周期に4回発生させている。
【0064】
図10に示すように、矩形波の立上がり(課電電圧信号のゼロ度に相当する)と検出波形の位相差は、−42度である。位相差の極性は、右にずれれば正、左にずれれば負である。この伝送時の位相ずれ(ここでは−42度)は、位相補正により調整することができる。この場合、図10の画面左端が課電電圧位相のゼロ度となる。
【0065】
以上により、課電電圧信号に同期した矩形波を携帯電話機130により送信し、課電電圧信号に同期したパルス状波形の信号を携帯電話機140により受信できることが確認できた。
【0066】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、課電情報伝送システム100は、課電装置110から課電電圧信号(正弦波)を取り込んで、矩形波に変換する正弦波・矩形波変換回路121と、矩形波を携帯電話機130の入力レベルに合わせて調整するレベル調整回路122と、課電電圧信号に同期した矩形波を無線伝送にて送受信する携帯電話機130,140と、無線伝送された信号から課電電圧情報として復調するとともに、携帯電話機140の出力を部分放電測定器160の入力に合わせて調整するレベル調整回路150と、部分放電測定器160とを備え、PC170は、無線伝送された課電電圧情報と部分放電信号とを関連付けて部分放電パルスを測定するので、無線を利用することから事前の信号ケーブルや光ファイバの延線が不要で、殆どの測定場所で利用することができる。光ファイバを布設する従来例に比較して、電力ケーブル線路の部分放電測定を簡易にかつ迅速に行うことができ、格段の低コスト化を図ることができる。
【0067】
また、本実施の形態によれば、課電電圧信号を取得するステップと、課電電圧信号に同期した信号を生成するステップと、生成した信号を無線伝送するステップと、無線伝送された信号から課電電圧情報を復調するステップと、部分放電を検出するステップと、復調された課電電圧情報と部分放電信号とを関連付けて部分放電パルスを測定するステップを有する部分放電検出方法を提供することができる。この部分放電検出方法の各ステップの一部又は全部は、例えばコンピュータプログラムでも実現可能である。
【0068】
特に、本実施の形態では、無線伝送装置として、汎用かつ安価な携帯電話機130,140を利用しているので、実施が容易で殆どの測定場所で課電電圧位相情報が得られるため、精度の良い部分放電パルス測定をすることができる。すなわち、無線に関するハードは簡単に準備することができる。また、課電電圧位相をパラメータとした部分放電パルスの解析が可能となるので、部分放電パルスとノイズとの識別、測定サンプル以外からの部分放電パルスの識別が可能となる。
【0069】
また、特許文献2記載の装置のようなGPS受信装置は不要であり、高精度な演算も必要とされない。また、GPS受信が利用できない環境及び状況であっても、GPS受信環境よりも格段に広範囲な、あらゆる測定場所において課電電圧位相を用いた部分放電検出を行うことができる。
【0070】
(実施の形態2)
実施の形態1では、無線伝送装置としてキャリア通信を行う携帯電話機130,140を例に説明したが、課電電圧信号を無線伝送により伝送できるものであればよく、キャリア通信には限定されない。実施の形態2は、無線伝送装置としてキャリア以外の無線伝送装置を用いた例について説明する。
【0071】
図11は、本発明の実施の形態2に係る部分放電検出装置の全体構成を示す図である。図3と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0072】
図11において、課電情報伝送システム200は、課電装置110と、正弦波・矩形波変換回路121及びレベル調整回路122からなる送信側調整器120と、無線伝送装置としての携帯電話機230,240(無線伝送部)と、受信側調整器であるレベル調整回路150と、部分放電測定器160と、PC170とを備えて構成される。
【0073】
上記課電装置110、正弦波・矩形波変換回路121、レベル調整回路122、及び携帯電話機230は、課電場所に設置され、携帯電話機240、レベル調整回路150、部分放電測定器160、及びPC170は、測定すべき電力ケーブル線路の近傍など測定場所に設置される。
【0074】
携帯電話機230,240は、キャリア以外の無線伝送装置としてIEEE802.11x規格に基づく無線LAN(WLAN:Wireless Local Area Network)を備える。
【0075】
また、キャリア以外のネットワークに接続可能な携帯端末であればよく、上記WLANのほか、Bluetooth(登録商標)、UWB(Ultra Wideband)が使用される。WLANは、WLAN機能を持つ携帯ノート型パソコン、PDAなどの携帯情報端末に幅広く用いられている。より低消費電力が要求される携帯電話機では、Bluetooth(登録商標),UWBなどの小電力近距離双方向無線通信方式が注目されている。
【0076】
また、無線伝送装置として携帯電話機230,240を例に採っている。上記携帯電話機に限らず、PHSやPDAなどの携帯情報端末でもよい。また、PCMCIAカード,CFカード形状のBluetooth(登録商標)接続装置など、形態は限定されない。
【0077】
携帯電話機230,240は、実施の形態1の携帯電話機130,140と同様の方法で課電電圧信号に同期する矩形波を無線伝送する。
【0078】
このように、本実施の形態によれば、課電情報伝送システム200は、キャリア以外の無線伝送機能を備える携帯電話機230,240を用いて、課電電圧情報を無線伝送しているので、実施の形態1と同様の効果、すなわち課電電圧情報を伝送するための事前の信号ケーブル及び光ファイバ等の延線が不要で、殆どの場所で利用することができ、かつ実施が容易で低コストに課電電圧の情報を送ることができる。
【0079】
特に、キャリア以外のローカルネットワークであることで、より秘匿性のある環境で測定の信頼性を高めることができる。また、キャリアの電波がとどかない構内などにおいても実施可能であり、より一層測定できる場所と対象を広げることができる。
【0080】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。例えば、携帯端末装置として携帯電話機に適用した例について説明しているが、無線伝送できる機器であれば携帯電話機に限らず、どのような装置であってもよい。但し設置移動の容易性の観点から、携帯機器であることが好ましい。
【0081】
また、上記各実施の形態では、課電情報伝送システム、部分放電検出装置及び部分放電検出方法という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、装置は部分放電測定装置、方法は現地部分放電測定方法等であってもよい。
【0082】
さらに、上記課電情報伝送システムを構成する各部、例えばレベル調整回路等の種類、数及び接続方法などは前述した実施の形態に限られない。
【0083】
以上説明した部分放電検出方法は、この部分放電検出方法を機能させるためのプログラムでも実現される。このプログラムはコンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納されている。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る部分放電検出装置及び部分放電検出方法は、電力ケーブル線路から取込んだ微小な検出信号が部分放電信号か否かを判別する場合に有用な部分放電検出装置及び部分放電検出方法に適用できる。
【符号の説明】
【0085】
100,200 課電情報伝送システム
110 課電装置(課電電圧取得部)
120 送信側調整器(同期信号生成部)
121 正弦波・矩形波変換回路
122 レベル調整回路
130,140,230,240 携帯電話機(無線伝送部)
150 レベル調整回路(復調部)
160 部分放電測定器(部分放電信号検出部)
170 パーソナルコンピュータ(PC)(測定部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
課電電圧信号を取得する課電電圧取得部と、
前記課電電圧信号に同期した信号を生成する同期信号生成部と、
生成した信号を無線伝送する無線伝送部と、
無線伝送された信号から課電電圧情報を復調する復調部と、
部分放電信号を検出する部分放電信号検出部と、
復調された課電電圧情報と前記部分放電信号とを関連付けて部分放電パルスを測定する測定部と、
を備えることを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項2】
前記同期信号生成部は、前記課電電圧信号に同期した矩形波を生成することを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記同期信号生成部は、前記無線伝送部の入力レベルに合うように信号を調整することを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
前記同期信号生成部は、音声帯域の周波数特性の信号を生成することを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項5】
前記無線伝送部は、音声帯域の周波数特性の信号を送受信することを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項6】
前記無線伝送部は、キャリア通信を行う携帯端末装置であることを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項7】
前記無線伝送部は、キャリア以外の電波を送受信して無線通信を行う携帯端末装置であることを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項8】
前記復調部は、無線伝送によりパルス状に変形した信号の立上がり及び/又は立下がりを基に、課電電圧情報として復調することを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項9】
前記復調部は、前記部分放電信号検出部の入力レベルに合うように信号を調整することを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項10】
無線伝送により発生する位相遅れを補正する補正部を備えることを特徴とする請求項1記載の部分放電検出装置。
【請求項11】
課電電圧信号を取得するステップと、
前記課電電圧信号に同期した信号を生成するステップと、
生成した信号を無線伝送するステップと、
無線伝送された信号から課電電圧情報を復調するステップと、
部分放電信号を検出するステップと、
復調された課電電圧情報と前記部分放電信号とを関連付けて部分放電パルスを測定するステップと
を有することを特徴とする部分放電検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−210411(P2010−210411A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56838(P2009−56838)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(502122521)株式会社エクシム (25)
【Fターム(参考)】