説明

部分放電測定装置

【課題】
従来、接地線を用いた部分放電測定では、検出感度が低いという問題があった。この要因としては、接地線に流れる部分放電信号が機器内部で生じた部分放電信号の一部であり微弱な信号であること、及び、現地では外来ノイズが混在する中での測定となることが挙げられる。
【解決手段】
そこで、本件発明では、2次コイルと容量可変のコンデンサとを並列に配置した共振周波数可変型の部分放電測定器を提供する。これにより、測定環境に応じた高感度な部分放電測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧機器内部で発生した部分放電信号を、当該高電圧機器と接続されている接地線を介して検出及び測定する部分放電測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備の高経年化に伴い、機器の寿命評価あるいは延命化を判断できる絶縁診断技術の向上に大きな関心が寄せられている。絶縁診断の方法としては電気的、化学的、光学的手法など様々に試みが行われ、また、実績を重ねている。こうした中で、接地線を用いた部分放電測定は活線状態で測定が可能であり、かつ、機器への侵襲が少ないため現地測定には簡便であり広く使われている。一方、機器内部で発生した部分放電信号の一部しか接地線に流れないことから検出感度が低いという問題があった。そこで、特許文献1では、複数の特定周波数成分のそれぞれに共振する共振回路を備えることにより、検出感度の向上を図る測定装置が記載されている。
【0003】
ところで、現地測定においては、広範な周波数帯域にて存在する部分放電信号の測定を、多くの外来ノイズが混在する環境下で行わざるを得ず、特許文献1のように特定された共振周波数では十分な検出感度を得ることが困難である。そこで、特許文献2では、コイルの内側に挿入された鉄心によりインダクタンスを変化させる可変インダクタを備えた共振回路により共振周波数を調整可能とし測定環境に適応させることができる測定装置が記載されている。
【特許文献1】特開平7−12881
【特許文献2】特開平6−66873
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に示した測定装置では、そもそも微弱な部分放電信号が、鉄心を備えた可変インダクタにより信号の損失が生じてしまい、外来ノイズが混在する測定環境下で高感度を維持した部分放電測定が難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本件発明では、上記課題を解決するために、第一の発明として、高電圧機器にて発生する部分放電を測定するための装置であって、部分放電によって生じるパルス信号によって起電力を発生する1次コイルと、1次コイルからの電磁界を受けるインダクタンスが固定の2次コイルと、前記2次コイルと並列に配置され、1次コイルからの電磁界によって2次コイルとともに共振回路を構成可能に容量を調整できる第一可変コンデンサと、を備えた部分放電測定装置を提供する。この場合、磁性材による信号損失を回避するために、前記インダクタンスが固定の2次コイルは空心であることが好ましい。
【0006】
第二の発明としては、第二可変コンデンサと、前記第二可変コンデンサを第一可変コンデンサに並列に接続するための第一スイッチと、をさらに有する第一の発明に記載した部分放電測定装置を提供する。
【0007】
第三の発明としては、第二スイッチを介して前記共振回路と接続可能となる回路であって、前記共振回路の共振パルス信号を増幅する増幅回路をさらに有する第一または第二に記載した部分放電測定装置を提供する。
【0008】
第四の発明としては、前記増幅回路は、前記共振回路に第二スイッチを介して直列接続されるインダクタンスを可変とするピーキングコイルである第三の発明に記載した部分放電測定装置を提供する。
【0009】
第五の発明としては、前記1次コイルは、分断された接地線間に直接取り付けられる第一ないし第四の発明に記載した部分放電測定装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本件発明により、現地測定において、より高い検出感度で測定可能な部分放電測定装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0012】
実施形態1は主に請求項1について説明する。実施形態2は主に請求項2について説明する。実施形態3は主に請求項3について説明する。実施形態4は主に請求項4について説明する。実施形態5は主に請求項5について説明する。
<実施形態1>
<実施形態1 概要>
【0013】
本実施形態は、部分放電によって生じるパルス信号によって起電力を発生する1次コイルと、1次コイルからの電磁界を受けるインダクタンスが固定の2次コイルと、前記2次コイルと並列に配置され、1次コイルからの電磁界によって2次コイルとともに共振回路を構成可能に容量を調整できる第一可変コンデンサとを備えたことを特徴とする部分放電測定装置である。
【0014】
電力用変圧器などの高電圧機器には、感電事故防止や故障時の大電流による機器損傷防止のため接地がなされている。接地線には高電圧機器内部で生じた部分放電パルス信号が流れる。このパルス信号を、インダクタンスが固定のコイルと可変コンデンサとで構成される並列共振回路により共振周波数を変化させ現地において最も感度の良い共振周波数を選択する。
<実施形態1 構成>
【0015】
本実施形態の部分放電測定装置は、部分放電によって生じるパルス信号によって起電力を発生する1次コイルと、1次コイルからの電磁界を受けるインダクタンスが固定の2次コイルと、前記2次コイルと並列に配置され、1次コイルからの電磁界によって2次コイルとともに共振回路を構成可能に容量を調整できる第一可変コンデンサとを有する。本実施形態における回路構成の概略を図1に示す。
【0016】
「1次コイル」(0101)には、接地線(0102)から検出された部分放電によって生じたパルス信号が入力される。パルス信号の検出には、例えば、接地線等に取り付けたクランプ式の高周波変流器(CT)や、あるいは、接地線の近傍に取り付けた単巻ループアンテナを用いる。この単巻ループアンテナは、電線をリング状に複数回巻いたコイルであり、部分放電による電磁波を検出することができる。
【0017】
「2次コイル」(0103)は、前記1次コイルと相互インダクタンスにより結合されている。部分放電信号は高周波成分を含むので、相互インダクタンスには、鉄損の少ない材料の鉄心を使用した物や、あるいは、空心の物が好ましい。この2次コイルと並列に接続された第一可変コンデンサ(0104)とともに並列共振回路を構成し、1次コイルに入力されたパルス信号を共振周波数において増幅する。この2次コイルはインダクタンスが固定の空心コイルを使用する。これにより磁性材料を鉄心とすることに起因するパルス信号の損失は生じない。
【0018】
「第一可変コンデンサ」は、容量可変型コンデンサを用い前記2次コイルとともに並列共振回路を構成する。この第一可変コンデンサには、例えば、通信機の同調回路に用いられている、いわゆるバリコン等を使用することができる。容量の範囲は一般的には1pF〜100pF程度が多い。第一可変コンデンサの容量を調節して、現地測定の環境に応じて最も感度の良い共振周波数を選択することにより、簡易に検出感度を向上させることができる。
【0019】
具体的な測定においては、コンデンサ(0105)の両端の電圧が測定値となる。本実施例の部分放電測定装置は、種々の測定環境下で良好な測定感度を得られることから、ポータブルで汎用性の高い測定機器として利用することができる。以下の実施例2ないし実施例5についても同様である。
【0020】
本実施例の回路構成を用いた部分放電測定器を試作して実験を行った。接地線を模したリード線に高周波変流器(周波数特性:2kHz−30MHz)を取り付け、この出力を1次コイルに接続した。一次側電圧をV1、二次側電圧をV2とし、両者の比をQ値として測定した。信号源にはパルス発生器を用いた。回路定数を一定とし、周波数fを変えてQ値を測定した。結果は、20kHzから180kHzの範囲でQ値が10以上となった。すなわち、部分放電パルス電流に含まれる周波数がこの中にあれば、測定中に共振周波数を変化させることにより、検出感度を向上させることができる。また、周波数が1kHz以下や1MHz以上の時のQ値は、1以下となった。つまり、1kHz以下や1MHz以上の周波数で発生している外部ノイズ等を除去できる。
<実施形態1 効果>
【0021】
本実施形態の部分放電測定装置により、周囲の電気的雑音の影響を受けやすい現地測定において、共振周波数を可変とすることで電気的雑音の少ない周波数を選択することにより、SN比を向上させ高感度な部分放電測定が簡易に可能となる。
<実施形態2>
<実施形態2 概要>
【0022】
本実施形態は、第二可変コンデンサと、前記第二可変コンデンサを第一可変コンデンサに並列に接続するための第一スイッチと、をさらに有することを特徴とする部分放電測定装置である。
<実施形態2 構成>
【0023】
本実施形態の部分放電測定装置は、実施形態1の部分放電測定装置にさらに、第二可変コンデンサと、前記第二可変コンデンサを第一可変コンデンサに並列に接続するための第一スイッチを有する。本実施形態の回路構成の概略を図2に示す。
【0024】
「第二可変コンデンサ」(0201)は、第一スイッチにより第一可変コンデンサと並列に接続可能となり、第一可変コンデンサ(0203)と同様に容量を変化せることができる。部分放電パルス信号は幅広い周波数スペクトルにわたって発生するところ、二つのコンデンサを接続することにより静電容量の可変範囲を広くすることができ、現地測定においてより柔軟に対応することが可能となる。また、第三あるいは第四可変コンデンサ等をスイッチと共にさらに並列接続することにより、静電容量の可変範囲を広くして共振を得られる範囲を拡張することもできる。また、第三あるいは第四可変コンデンサ等を、第一あるいは第二可変コンデンサにスイッチと共に直列に接続することにより合成静電容量を小さくすることにより静電容量の可変範囲を広げることもできる。
【0025】
「第一スイッチ」(0202)は、第一可変コンデンサの調整では、測定中の周波数と十分な共振が得られない場合であっても、第一スイッチを第二可変コンデンサに接続することにより、静電容量の可変範囲を広くして共振を得ることができる。
<実施形態2 効果>
【0026】
本実施形態の部分放電測定装置により、広範な周波数帯域にわたり生じている部分放電パルス信号を、測定環境に応じて高感度で測定することが可能となる。
<実施形態3>
<実施形態3 概要>
【0027】
本実施形態は、第二スイッチを介して前記共振回路と接続可能となる回路であって、前記共振回路の共振パルス信号を増幅する増幅回路をさらに有することを特徴とする部分放電測定装置である。前記共振回路において所望の共振周波数にて検出された部分放電パルス信号は、第二スイッチを介して接続された増幅回路により所望の出力にて増幅される。
<実施形態3 構成>
【0028】
本実施形態の部分放電測定装置は、実施形態1または実施形態2の部分放電測定装置にさらに、第二スイッチ(0301)を介して前記共振回路と接続可能となる回路であって、前記共振回路のパルス信号を増幅する増幅回路を有する。本実施形態の回路構成の概略を図3に示す。
【0029】
「増幅回路」(0302)は、第二スイッチを介して前記共振回路に接続されている。共振パルス信号は、この増幅回路を経て所望の出力に増幅され、所定の機器、例えばオシロスコープやコンピュータ等へ伝送され、表示や記録等の処理に供される。
本実施例の増幅回路では、FET(電界効果トランジスタ)(0303)を用いている。可変抵抗(0304)は、動作点を定めるバイアスであり、これと並列に接続されているのは接地側への高周波バイパス用のコンデンサ(0305)である。コイル(0306)は高周波信号が電源(0307)へ流入することをブロックしている。増幅された高周波信号はハイパスフィルタとなるコンデンサ(0308)を経て所定の測定器等に出力される。なお、増幅回路は概略図においてはFETを用いたものとしているが、これに限定されるものではなく入力信号を所望のレベルに増幅するものであればよい。
<実施形態3 効果>
【0030】
増幅回路を備えた本実施形態の部分放電測定装置により、検出された部分放電パルス信号を所望の機器の入力インピーダンスに応じて出力することができる。
<実施形態4>
<実施形態4 概要>
【0031】
本実施形態は、前記増幅回路が、前記共振回路に第二スイッチを介して直列接続されるインダクタンスを可変とするピーキングコイルであることを特徴とする部分放電測定装置である。このピーキングコイルが前記共振回路と接続されることにより、さらに直列共振回路を構成する。
<実施形態4 構成>
【0032】
本実施形態の部分放電測定装置は、実施形態3における増幅回路が、前記共振回路に第二スイッチを介して直列接続されるインダクタンスを可変とするピーキングコイルとなるものである。本実施形態の回路構成の概略を図4に示す。
【0033】
「ピーキングコイル」(0401)は、空心コイルであってインダクタンスが可変のものである。このピーキングコイルは前記並列共振回路と直列に接続されることにより、さらに直列共振回路を構成する。
【0034】
前記並列共振回路と増幅器等を接続すると、その影響により共振条件が崩れてしまう場合が生じる。そこで、ピーキングコイルを接続することにより、前記並列共振回路で得られた共振条件に影響を及ぼすことなく、さらに直列共振回路を構成することができる。この場合、前記並列共振回路で共振を得られることに加え、前記並列共振回路とピーキングコイルとの直列共振回路により、さらに共振を得ることができる。したがって、共振が得られる周波数範囲を広げることができ、広範な周波数帯域に対して高い測定感度を維持することができる。また、ピーキングコイルは、増幅回路の高周波特性の改善に役立つ。
【0035】
測定においては、前記並列共振回路において第一並びに第二コンデンサを調整し共振条件を満たした上で、ピーキングコイルを接続し直列共振条件となるように可変インダクタンスを調整することが望ましい。また、測定環境によっては、部分放電信号の周波数成分が並列共振回路の共振条件と整合しない場合であっても、ピーキングコイルのインダクタンスの調整により共振条件とすることができる。
<実施形態4 効果>
【0036】
本実施形態の部分放電測定装置により、様々な現地測定環境下において、より広い周波数帯域に対し高感度、高SN比を有する部分放電測定が可能となる。
<実施形態5>
<実施形態5 概要>
【0037】
本実施形態は、前記1次コイルが、分断された接地線間に直接取り付けられることを特徴とする部分放電測定装置である。
<実施形態5 構成>
【0038】
本実施形態の部分放電測定装置は、実施形態1ないし実施形態4における1次コイルが、分断された接地線間に直接取り付けられるものである。
【0039】
高電圧機器の接地線が取り外し可能な場合には、上記クランプ式の高周波変流器等を介することは不要となり、上記1次コイルを分断された接地線間に挿入して取り付けることにより部分放電信号を検出する。この場合は、高周波変流器を介することによる部分放電信号の損失がなく、その分測定感度が向上する。
<実施形態5 効果>
【0040】
本実施形態の部分放電測定装置により、微小な電気信号である部分放電信号を高感度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態1の回路構成の概略図
【図2】実施形態2の回路構成の概略図
【図3】実施形態3の回路構成の概略図
【図4】実施形態4の回路構成の概略図
【符号の説明】
【0042】
0101 1次コイル
0102 接地線
0103 2次コイル
0104 第一可変コンデンサ
0105 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧機器にて発生する部分放電を測定するための装置であって、
部分放電によって生じるパルス信号によって起電力を発生する1次コイルと、
1次コイルからの電磁界を受けるインダクタンスが固定の2次コイルと、
前記2次コイルと並列に配置され、1次コイルからの電磁界によって2次コイルとともに共振回路を構成可能に容量を調整できる第一可変コンデンサと、
を備えた部分放電測定装置。
【請求項2】
第二可変コンデンサと、
前記第二可変コンデンサを第一可変コンデンサに並列に接続するための第一スイッチと、
をさらに有する請求項1に記載の部分放電測定装置。
【請求項3】
第二スイッチを介して前記共振回路と接続可能となる回路であって、前記共振回路の共振パルス信号を増幅する増幅回路をさらに有する請求項1または2に記載の部分放電測定装置。
【請求項4】
前記増幅回路は、前記共振回路に第二スイッチを介して直列接続されるインダクタンスを可変とするピーキングコイルである請求項3に記載の部分放電測定装置。
【請求項5】
前記1次コイルは、前記高電圧機器の分断された接地線間に直接取り付けられる請求項1ないし請求項4に記載の部分放電測定装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−8309(P2010−8309A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169951(P2008−169951)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年電気学会全国大会 社団法人電気学会 平成20年3月19発行
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】