説明

部分的に硬化した組成物を有する歯科矯正用物品並びにその使用及び製造方法

歯科矯正装具と、該装具に隣接する部分的に硬化した硬化性組成物の層と、部分的に硬化した硬化性組成物に隣接する固着用接着剤と、を備える、歯牙構造に固着するための歯科矯正用物品が提供される。歯科矯正装具の基部に隣接する硬化性組成物を部分的に硬化する工程を含む、歯科矯正固着のための歯科矯正用物品の作製方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ブラケット等の歯科矯正用物品及びその固着方法が提供される。より具体的には、部分的に硬化した硬化性組成物を含む歯科矯正用物品、及びそれらを固着するための方法が、提供される。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正治療は、位置異常の歯群を口腔内の所望の位置に動かすことを伴う。ある一般的な形式の歯科矯正治療は、ブラケットとして知られる、小さなスロット付きの歯科矯正装具を使用することを含む。ブラケットは患者の歯群に固定され、アーチワイヤが各ブラケットのスロット内に配置される。アーチワイヤは、歯群を導き所望の位置に移動させるための軌跡を形成する。歯科矯正アーチワイヤの端部は多くの場合、バッカルチューブとして知られる小さな歯科矯正装具に接続され、その装具は患者の臼歯に固定される。多くの場合、1組のブラケット、バッカルチューブ及びアーチワイヤは、患者の上顎及び下顎歯列弓のそれぞれに対して準備される。ブラケット、バッカルチューブ、及びアーチワイヤは、一般に、総じて「ブレース」と称される。
【0003】
患者の歯群に接着固着されるように適合される歯科矯正装具は、例えば、ダイレクトボンディング及びインダイレクトボンディングとして知られる2つの技術のうちの1つを使用して、歯群に配置及び固定することができる。
【0004】
概して、ダイレクトボンディング技術は、歯科矯正医によって、患者の歯の表面にブラケット等の、個々に接着剤をコーティングした歯科矯正装具を連続的に配置することを含む。典型的には、治療に必要とされるブラケットのすべてが歯群上に配置されるまで、患者の歯の表面に、1度に1つのブラケットを配置していく。歯科矯正ブラケットは、それぞれのブラケットの基部に、歯科矯正用接着剤の層又はコーティングを伴って製作することができる。あるいは、歯科矯正用接着剤の層又はコーティングは、ブラケットが歯の表面に配置される直前に、歯科矯正医によって、各ブラケットの基部に適用されてもよい。歯科矯正ダイレクトボンディングでは、装具上の歯科矯正用接着剤の層又はコーティングは、装具が歯の表面に配置された後まで硬化しない。歯科矯正用接着剤の層又はコーティングは、接着剤が歯の表面と接触して配置されるまで、歯の表面のネガティブ複製である輪郭を有しない。ダイレクトボンディング技術は、患者の口腔内で、単一の歯科矯正装具又は多数の歯科矯正装具を配置及び固定するために使用されている。
【0005】
概して、インダイレクトボンディング技術は、配置装置、又は患者の歯列弓の少なくとも一部の外形に一致する形状を有する、移動装置の使用を伴う。ある形式の配置装置は、「移動トレイ」を含み、典型的には、複数の歯群を同時に受容するための空洞を有する。ブラケット等の1組の歯科矯正装具は、特定の、所定の位置で、トレイに解放可能に接続される(例えば、その中に埋め込まれる)。歯科矯正装具を埋め込んだトレイが、患者の歯列弓の一致する部分上に配置されると、各装具は、最終的に、適切な位置で患者の歯群上に位置づけられる。
【0006】
トレイが形成される前は、歯科矯正装具は、患者の歯列弓の模型(典型的には「石模型」)の複製歯群に固定される。典型的には、歯科矯正用接着剤を歯科矯正ブラケットに適用し、該ブラケットを複製歯群上に押し付け、例えば、歯科矯正用硬化光を使用して、歯科矯正用接着剤を完全に硬化する。この完全に硬化した歯科矯正用接着剤は、複製歯群から取り除かれる際に、歯科矯正装具上にとどまることができ、該装具を患者の歯群に固着するための、「特別注文の基部」としての役割を果たすことができる。
【0007】
インダイレクトボンディング技術では、固着前の歯の表面への各装具の個々の調整が不要になるように、移動装置が、装具を正確な目標位置に位置決めするのを助ける。歯科矯正装具の配置の確度は、インダイレクトボンディング技術によってもたらされることが多く、歯科矯正治療の完了までに、患者の歯群が、確実にそれらの正確な目標位置まで移動される助けとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、歯科矯正ダイレクトボンディングでは、該装具上の硬化性歯科矯正用接着剤は、該装具が歯の表面に配置された後まで硬化しない。したがって、硬化性歯科矯正用接着剤は、該接着剤が歯の表面に接触して配置されるまで、歯の表面のネガティブ複製である輪郭を有しない。該接着剤は、該装具が歯の上に配置されると、不均一に変形する場合があり、最終的には、歯牙構造と該装具との間の弱化した、又は信頼できない固着につながる。上記のように、歯科矯正インダイレクトボンディングでは、歯科矯正装具を石模型に固着するために使用された、完全に硬化した接着剤は、石模型から取り外した後、該装具の基部にとどまり得る。次いで、該接着剤は、石模型の前の取付け位置の凸状輪郭を複製する凹状輪郭、並びに患者の歯群上の、該装具を装着する目標位置の凸状外形を有する、「特別注文の基部」としての役割を果たし得る。しかしながら、歯科矯正装具の、複製の石膏又は「石」模型への固着は、結果として、特別注文の基部が、後で歯牙構造に固着される時に、歯牙構造と特別注文の基部をその上に有する該装具との間の弱化した、又は信頼できない固着に通じ得る。したがって、装具と歯牙構造との間に信頼できる強力な固着を提供する、歯科矯正装具のダイレクト及びインダイレクトボンディングのための物品及び方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
部分的に硬化した硬化性組成物をその上に有する、歯科矯正装具のダイレクト及びインダイレクトボンディングのための物品及び方法が提供される。該硬化性組成物は、化学線の透過に不透明である材料から作製される場合も、その範囲にわたって部分的に硬化する。
【0010】
一態様では、歯牙構造に固着するための歯科矯正用物品が提供される。歯科矯正用物品は、基部を有する歯科矯正装具と、基部に隣接する部分的に硬化した硬化性組成物と、部分的に硬化した硬化性組成物に隣接する固着用接着剤と、を備える。基部又は部分的に硬化した硬化性組成物のうちの少なくとも1つは、歯牙構造の少なくとも一部分の、ネガティブ複製の輪郭を有する。
【0011】
別の態様では、歯科矯正用物品を歯牙構造に固着する方法が提供される。該方法は、硬化性組成物を歯科矯正装具の基部に適用する工程と、硬化性組成物を部分的に硬化して、部分的に硬化した硬化性組成物を提供する工程と、部分的に硬化した硬化性組成物を伴う歯科矯正装具を、歯牙構造に向かって前進させる工程と、を含む。
【0012】
更に別の態様では、歯科矯正固着のための物品の作製方法が提供される。該方法は、硬化性組成物を歯科矯正装具の基部に適用する工程と、硬化性組成物を部分的に硬化して、部分的に硬化した硬化性組成物を提供する工程と、を含む。基部又は部分的に硬化した硬化性組成物の表面のうちの少なくとも1つは、歯牙構造の少なくとも一部分の、ネガティブ複製の輪郭を有する。
【0013】
この「課題を解決するための手段」は、それぞれかつすべての実施形態又は実装形態を記載することを意図するものではない。更なる実施形態、特徴、及び利点は、以下のそれらの「発明を実施するための形態」、「図面」、及び「特許請求の範囲」から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】歯科矯正用物品の実質的に平ら又は平面的な基部に隣接する、硬化性組成物を有する、歯科矯正物品の斜視図。
【図1B】歯科矯正用物品の輪郭形成した基部に隣接する、部分的に硬化した硬化性組成物を有する、図1Aのものと同様の歯科矯正用物品の側面図。
【図1C】歯科矯正用物品の基部に隣接する、部分的に硬化した硬化性組成物と、剥離基材と、を有する、歯科矯正用物品の斜視図。
【図2】歯科矯正用物品の部分図。
【図3】歯列弓の複製に適用されたスペーサ材料を伴う、該複製の図。
【図4】スペーサ材料を伴う、図3に例示される複製歯群のうちの1つの、拡大側面断面図。
【図5】スペーサ材料上に形成されたトレイを更に示す、図4と同様の拡大側面断面図。
【図6】スペーサ材料及びトレイが取り除かれた後の、歯牙構造の複製上の所定の位置に配置された、複数の歯科矯正装具を更に示す、図3に例示される該複製の図。
【図7】図6に描写され、複製及びトレイが反転されて、移動アセンブリを形成した後、図5に示される複製とトレイとの間に配置された、若干のマトリックス材料を更に示す、複製歯群及び装具のうちの1つの拡大側面断面図。
【図8】患者の歯群のうちの1つに向かって前進する、移動アセンブリ(移動トレイの形態の移動装置と、歯科矯正装具と、部分的に硬化した硬化性組成物と、固着用接着剤の成分と、を備える)を示す、拡大側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願の幾つかの箇所で、実施例の一覧として説明を提供するが、実施例は各種組み合わせにて使用することが可能である。それぞれの事例において、列挙された一覧は、代表的な群としてのみ役目を果たすのであって、排他的な一覧として解釈されるべきではない。
【0016】
端点による数の範囲の任意の列挙には、その範囲内に包含されるすべての数が含まれる(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5等)。
【0017】
用語「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つの」及び「1つ又はそれ以上の」は本明細書では交換可能に使用される。したがって、例えば、「1つの(an)」歯科矯正装具を提供する工程を含む方法は、該方法が、「1つ又はそれ以上」の歯科矯正装具を提供する工程を含むことを意味すると解釈することができる。
【0018】
用語「部分的に硬化した」は、硬化性組成物の部分的な硬化の状態を指し、即ち、部分的に硬化した硬化性組成物は、更に硬化することができるか、又は更なる硬化を受け得る。
【0019】
本発明の種々の態様及び実施形態を、以下に説明する。
【0020】
本発明において有用な硬化性組成物は、光硬化型接着剤の形態の、硬化性組成物を含む。幾つかの実施形態では、該接着剤は、光硬化型の歯科用又は歯科矯正用接着剤である。硬化性組成物は、典型的には、硬化性成分と、硬化性組成物の硬化を開始するための反応開始剤とを含む。硬化性組成物には、4.5未満(特定の実施形態では4未満、又は更には3未満)のpKを有する酸性成分(例えば、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、及び/又はスルホン酸官能基を有する)、充填剤、又は光退色性染料のうちの1つ又はそれ以上が含まれ得る。幾つかの実施形態では、硬化性組成物は、自己エッチング性硬化性組成物である。有用な歯科矯正用接着剤組成物は、例えば、米国特許第7,090,721号(Craigら)、同第6,960,079号(Brennanら)、同第5,971,754号(Sondhiら)、同第5,552,177号(Jacobsら)、同第5,354,199号(Jacobsら)、同第5,221,202号(James)、及び同第5,015,180号(Randklev)に開示されている。
【0021】
硬化性組成物には、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性不飽和基を含有する)を含む、硬化性成分(例えば、光重合可能化合物)が含まれ得る。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
硬化性組成物には、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有するモノマー類、オリゴマー類、及びポリマー類を含み得る、フリーラジカル活性不飽和基を有する化合物が含まれ得る。好適な化合物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含有し、付加重合を受けることが可能である。そのようなフリーラジカル重合性化合物には、アルキル(メタ)アクリレート類等のモノ−、ジ−、又はポリ−(メタ)アクリレート類(即ち、アクリレート類及びメタクリレート類)、多数のグリコール(メタ)アクリレート類、ポリオール類の(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類(即ち、アクリルアミド類及びメタアクリルアミド類)、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエチレングリコール類のビス−(メタ)アクリレート類(例えば、分子量200〜500の)、米国特許第4,652,274号(Boettcherら)のもの等の共アクリル化モノマーの重合可能な混合物、米国特許第4,642,126号(Zadorら)のもの等のアクリル化オリゴマー類、米国特許第4,648,843号(Mitra)で開示されるもの等のポリ(エチレン性不飽和)カルバモイルイソシアヌレート類、及びスチレン等のビニル化合物のうちのいずれか、並びにフタル酸ジアリルが挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合性化合物には、例えば、PCT国際特許出願公開第00/38619号(Guggenbergerら)、同第01/92271号(Weinmannら)、同第01/07444号(Guggenbergerら)、及び同第00/42092号(Guggenbergerら)で開示される、シロキサン官能(メタ)アクリレート、並びに、例えば、米国特許第5,076,844号(Fockら)、米国特許第4,356,296号(Griffithら)、及び欧州特許出願公開第0373384号(Wagenknechtら)、同第0201 031号(Reinersら)、及び同第0201778号(Reinersら)で開示される、フルオロポリマー官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0023】
硬化性成分は、同一分子内に、ヒドロキシル基及びエチレン性不飽和基を含有し得る。そのような材料の例には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、及びトリ−(メタ)アクリレート、ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート、及び2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)が挙げられる。必要であれば、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用することができる。
【0024】
特定の実施形態では、硬化性成分には、PEGDMA(ポリエチレングリコールジメタクリレート)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、及びビスEMA6(米国特許第6,030,606号(Holmes)に記載される)、及びNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)が挙げられる。所望であれば、この硬化性成分の様々な組み合わせを使用することができる。
【0025】
硬化性組成物は、酸官能基を有しないエチレン性不飽和化合物を含み得る。硬化性組成物は、無充填組成物の総重量を基準として、酸官能基を有しない、少なくとも1重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%のエチレン性不飽和化合物を含み得る。硬化性組成物は、無充填組成物の総重量を基準として、酸官能基を有しない、最大99重量%、最大95重量%、最大90重量%、最大85重量%、最大80重量%、最大70重量%、最大60重量%、最大50重量%、最大40重量%、最大30重量%、最大25重量%、最大20重量%、最大15重量%、最大10重量%、最大5重量%、又は最大1重量%のエチレン性不飽和化合物を含み得る。
【0026】
硬化性組成物は、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物の形態の、1つ又はそれ以上の硬化性成分を含み得る。本明細書で使用される、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物は、エチレン性不飽和、並びに酸及び/又は酸前駆体官能基の両方を有するモノマー類、オリゴマー類、及びポリマー類を含むことを意味する。酸前駆体官能基としては、例えば、無水物、酸ハロゲン化物、及びピロホスフェートが挙げられる。酸官能基としては、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0027】
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物としては、例えば、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート類、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート類、及びヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート類等の、ホスフェート、カルボン酸、スルホン酸、又はホスホン酸基を有する、α,β−不飽和酸性化合物が挙げられる。特定の組成物には、少なくとも1つのP−OH部分を有する酸官能基を有する、エチレン性不飽和化合物が含まれる。
【0028】
これらの化合物のうちの特定のものは、例えば、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレート類とカルボン酸類との間の反応生成物として得られる。酸官能性及びエチレン性不飽和成分の両方を有するこの種類の更なる化合物は、米国特許第4,872,936号(Engelbrecht)及び同第5,130,347号(Mitra)に記載されている。エチレン性不飽和部分及び酸部分の両方を含有する多種多様のこのような化合物を使用することができる。所望であれば、このような化合物の混合物を使用することができる。
【0029】
酸官能基を有する更なるエチレン性不飽和化合物には、例えば、例として米国特許出願公開第2004/0206932号で開示される、重合性ビスホスホン酸類;AA:ITA:IEM(例えば、米国特許第5,130,347号(Mitra)の実施例11に記載される、AA:ITAコポリマーを十分な2−イソシアナトエチルメタクリレートと反応させて、該コポリマーの酸基部分をペンダントメタクリレート基に変換することによって作製されるペンダントメタクリレートを有する、アクリル酸:イタコン酸のコポリマー);並びに、米国特許第4,259,075号(Yamauchiら)、同第4,499,251号(Omuraら)、同第4,537,940号(Omuraら)、同第4,539,382号(Omuraら)、同第5,530,038号(Yamamotoら)、同第6,458,868号(Okadaら)、及び欧州特許出願公開第EP712,622号(Tokuyama Corp.)及び同第EP1,051,961号(Kuraray Co.,Ltd.)に列挙されるものが挙げられる。
【0030】
フリーラジカル光重合性組成物を重合するのに好適な光開始剤としては、二成分及び三成分系が挙げられる。典型的な三成分系光開始剤には、米国特許第5,545,676号(Palazzottoら)に記載される、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体化合物が挙げられる。典型的なヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、及びジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレートである。好適な光増感剤は、カンファーキノン、ベンジル、フリル、及び3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン等の、400nm〜520nmの範囲内の一部の光を吸収する、モノケトン類及びジケトン類である。電子供与体化合物としては、置換アミン類、例えば、エチルジメチルアミノベンゾエートが挙げられる。カチオン的に重合可能な樹脂を光重合させるために有用な他の好適な三成分系光開始剤は、例えば、米国特許第6,765,036号(Dedeら)に記載されている。
【0031】
フリーラジカル光重合性組成物を重合させるための他の好適な光開始剤としては、典型的に380nm〜1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドの部類が挙げられる。380nm〜450nmの機能的波長範囲を有する、好ましいホスフィンオキシドフリーラジカル反応開始剤は、米国特許第4,298,738号(Lechtkenら)、同第4,324,744号(Lechtkenら)、同第4,385,109号(Lechtkenら)、同第4,710,523号(Lechtkenら)、及び同第4,737,593号(Ellrichら)、同第6,251,963号(Kohlerら)、並びに欧州特許出願第0173567号(Ying)に記載されるもの等の、アシル及びビスアシルホスフィンオキシドである。
【0032】
反応開始剤系は、所望の硬化率を提供するのに十分な量で存在する。光開始剤について、この量は、光源、化学線に曝露される組成物の厚み、及び光開始剤の吸光係数に部分的に依存する。典型的には、反応開始剤系は、組成物の重量を基準として、少なくとも0.01重量%、少なくとも0.03重量%、又は少なくとも0.05重量%の総量で存在する。典型的には、反応開始剤系は、組成物の重量を基準として、10重量%以下、5重量%以下、又は2.5重量%以下の総量で存在する。
【0033】
本明細書に記載される硬化性組成物は、任意に、充填剤を含有できる。充填剤は、歯科用修復組成物に現在使用されている充填剤など、歯科用途に使用される組成物に組み込むのに適した多種多様な材料の1つ以上から選択することができる。
【0034】
特定の実施形態では、充填剤は超微粒子状である。充填剤は、単峰性又は複峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。幾つかの実施形態について、充填剤の最大粒径(粒子の最大寸法、典型的には、直径)は、50マイクロメートル未満、20マイクロメートル未満、10マイクロメートル未満、5マイクロメートル未満、1マイクロメートル未満、0.5マイクロメートル未満、0.1マイクロメートル未満、又は0.05マイクロメートル未満である。
【0035】
充填剤は、無機物質であり得る。あるいは、充填剤は、硬化性組成物に不溶性である架橋された有機材料であり得、それ自体無機充填剤で充填され得る。充填剤は、放射線不透過性又は放射線透過性であり得る。充填剤は典型的には実質的に水に不溶性である。
【0036】
好適な無機充填剤の例は、天然起源材料又は合成材料であり、シリカ(例えば、石英);窒化物(例えば、窒化ケイ素);例えば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn、及びAl由来のガラス及び充填剤;長石;ホウケイ酸ガラス;カオリン;タルク;ジルコニア;チタニア;米国特許第4,695,251号(Randklev)に記載されているもの等の低モース硬度充填剤;並びに、サブミクロンシリカ粒子(例えば、(Evonik Degussa Corp.、Akron,OHからの)「OX50」、「130」、「150」、及び「200」シリカを含む商品名称AEROSILとして入手可能なもの、及び(Cabot Corp.、Tuscola,ILからの)CAB−O−SIL M5シリカ等の発熱性シリカ)が挙げられるが、これらに限定されない。好適な有機充填剤粒子の例としては、充填又は未充填粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシドなどが挙げられる。ポリマー充填剤の他の例は、米国特許仮出願第60/976,501号に記載される。
【0037】
好適な充填剤としては、石英(即ち、シリカ)、サブミクロンシリカ、ジルコニア、サブミクロンジルコニア、米国特許第4,503,169号(Randklev)記載されているような種類の非ガラス質の微小粒子が挙げられる。また、これらの充填剤、並びに有機及び無機材料から作製された組み合わせ充填剤を使用してもよい。
【0038】
充填剤粒子の表面を、表面改質剤又はカップリング剤で処理することができる。幾つかの実施形態では、表面改質剤はカップリング剤である。適切なカップリング剤としては、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。特定の実施形態では、シラン処理ジルコニア−シリカ(ZrO−SiO)充填剤、シラン処理シリカ充填剤、シラン処理ジルコニア充填剤、及びそれらの組み合わせが、特に好ましい。
【0039】
他の好適な充填剤は、米国特許第6,387,981号(Zhangら)及び同第6,572,693号(Wuら)、並びにPCT国際公開特許第01/30305号(Zhangら)、同第01/30306号(Windischら)、同第01/30307号(Zhangら)、及び同第03/063804号(Wuら)に開示されている。これらの参考文献に記載されている充填剤構成成分としては、ナノサイズシリカ粒子、ナノサイズ金属酸化物粒子、及びこれらの組み合わせが挙げられる。また、ナノ充填剤は、米国特許第7,090,721号(Craigら)、同第7,090,722号(Buddら)、及び同第7,156,911号(Kangasら)、並びに米国特許出願公開第2005/0256223号(Kolbら)に記載されている。
【0040】
幾つかの実施形態では、硬化性組成物は、硬化性組成物の総重量を基準として、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、少なくとも55重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%の充填剤を含む。幾つかの実施形態では、硬化性組成物は、該組成物の総重量を基準として、最大90重量%、最大80重量%、最大70重量%、最大60重量%、最大50重量%、最大45重量%、最大40重量%、最大35重量%、最大30重量%、最大25重量%、最大20重量%、最大15重量%、最大10重量%、最大5重量%、最大2重量%、又は最大1重量%の充填剤を含む。
【0041】
任意に、本発明の組成物は、アルコール(例えば、プロパノール、エタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル)、他の非水性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロロリジノン)等の溶媒、及び水を含有することができる。
【0042】
所望であれば、本発明の組成物は、指示薬、染料(米国特許第6,528,555号(Nikutowskiら)で開示されるもの等の光退色性染料を含む)、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調節剤、湿潤剤、緩衝剤、安定剤、及び当業者に明らかであろう他の同様の成分等の添加剤を含有することができる。
【0043】
更に、薬剤又は他の治療用物質を、任意に硬化性組成物に添加することができる。例としては、フッ化物源、増白剤、抗う歯剤(例えば、キシリトール)、カルシウム源、リン源、無機構成成分補給剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、息清涼剤、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤、化学療法剤、免疫反応変性剤、チキソトロピー剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤(抗菌性脂質構成成分に加えて)、抗真菌剤、口腔乾燥症治療剤、減感剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記添加剤のいずれの組み合わせを用いてもよい。当業者は、所望の結果を達成するために、過度な実験をすることなく、かかる添加剤の任意の1種の選択及び量を選ぶことができる。
【0044】
本発明の種々の態様において、硬化性組成物は、部分的に硬化するために、十分な化学線を硬化性組成物に照射する工程によって、部分的に硬化可能である。例えば、化学線源、化学線の強度、又は曝露時間を独立して管理して、硬化性組成物を所望の度合いまで、部分的に硬化することができる。部分的に又は完全に硬化した硬化性組成物の硬さの度合いは、組成物の硬化の程度、即ち、例えば化学線に曝露された時に、硬化性組成物の分子量を増加するか、硬化性組成物を架橋するか、あるいはその両方である、化学結合を形成するように反応した、反応性化学基の比率に関連する。部分的に硬化した硬化性組成物の反応の程度は、測定可能に増加し得る。つまり、反応した反応性化学基の比率は、部分的に硬化した硬化性組成物が、化学線への曝露等の硬化条件に更に曝露される時に、測定可能に増加し得る。そして、部分的に硬化した硬化性組成物の硬さの度合いは、部分的に硬化した硬化性組成物の硬化の程度を、反応した化学基の比率が、組成物を硬化条件に更に曝露した時に、認め得る程又は測定可能な程増加しない組成物の硬化の程度と比較することによって、決定することができる。
【0045】
部分的に又は完全に硬化した硬化性組成物の硬化の程度は、例えば化学線に曝露された時に、反応し得る化学基を検出することができる方法によって、決定することができる。例えば、紫外/可視分光測光法又は赤外分光測光法(ラマン、及び減衰全反射透過赤外分光測光法を含む)等の分析的分光測光法を使用することができる。また、H又は13C核磁気共鳴分光法等の他の分析方法も有用であり得る。幾つかの実施形態では、未硬化、部分的に硬化した、及び完全に硬化した硬化性組成物からの分析データの比較を使用して、例えば、硬化性組成物を部分的に硬化するために反応した、反応性化学基の割合を算出することができる。未硬化、部分的に硬化した、及び完全に硬化した硬化性組成物からのデータのかかる比較は、組成物の硬化の程度、したがって硬さの度合いに関する情報を提供する。幾つかの実施形態では、未硬化、部分的に硬化した、及び完全に硬化した硬化性組成物の分光測光分析の比較を使用して、例えば、硬化性組成物を部分的に硬化するために硬化していない化学基の割合(即ち、該組成物が部分的に硬化した後に残る化学基の割合)を算出することができる。かかる比較は、硬化性組成物が部分的に硬化した後に残る化学基の近似又は正確な割合を提供することができる。
【0046】
部分的に硬化した硬化性組成物の硬化の程度を算出するために使用することができる方法の一例は、反応した化学基の比率が、組成物が硬化条件に更に曝露された時に、認め得る程又は測定可能な程増加しない、組成物中の未反応の反応性化学基の吸光度に対する、部分的に硬化した硬化性組成物中の未反応の反応性化学基の吸光度(例えば、分光測光法によって決定される)の比率を算出し、その結果に100を乗じることである。
【0047】
典型的には、部分的に硬化した硬化性組成物は、組成物に依存して、硬さの度合い及び硬化の程度が同じであるとは限らないが、部分的に硬化する。この文脈において、用語「部分的に硬化した」は、測定可能に部分的に硬化し、更に測定可能に硬化することができる、又はそれを受け得る、組成物を指す。
【0048】
あるいは、部分的に硬化した硬化性組成物の硬さの度合いは、未硬化、部分的に硬化した、及び完全に硬化した硬化性組成物の物理的性質(硬さ、弾性率、又は基材への接着剤の固着の強度等)の測定値の比較によって、決定することができる。
【0049】
組成物を硬化するために反応し得る化学基としては、例えば、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基、及びビニル基等のエチレン性不飽和基が挙げられる。
【0050】
典型的には、部分的に硬化した硬化性組成物は、部分的に硬化しているが、完全な硬化には満たない。部分的に硬化した硬化性組成物は、100%未満、99.9%未満、99.5%未満、99%未満、98%未満、97%未満、96%未満、95%未満、94%未満、93%未満、92%未満、91%未満、90%未満、85%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、又は10%未満の硬化であり得る。部分的に硬化した硬化性組成物は、最大5%、最大10%、最大15%、最大20%、最大25%、最大30%、最大35%、最大40%、最大45%、最大50%、最大55%、最大60%、最大65%、最大70%、最大75%、最大80%、最大85%、最大90%、最大95%、最大98%、又は最大99%の硬化であり得る。幾つかの実施形態では、部分的に硬化した硬化性組成物は、27〜94%硬化している。
【0051】
典型的には、装具が歯牙構造上に位置づけられる前に、硬化性組成物の実質的にすべての部分が部分的に硬化される。幾つかの実施形態では、硬化性組成物の実質的にすべての部分が、実質的に同じ度合いまで、部分的に硬化される。他の実施形態では、硬化性組成物の様々な部分が、異なる度合いまで部分的に硬化される。
【0052】
図1Aは、基部14を有する歯科矯正装具12と、基部に隣接する硬化性組成物16とを含む、歯科矯正用物品10の一実施形態を例示する。図1Aでは、基部14は平ら又は平面として例示される。幾つかの実施形態では、歯科矯正装具12の基部14は、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する。
【0053】
図1Bは、基部14を有する歯科矯正装具12と、基部に隣接する部分的に硬化した硬化性組成物36とを含む、歯科矯正用物品10の一実施形態を例示する。図1Bでは、基部14は、歯牙構造の少なくとも一部分の輪郭を有するものとして例示される。
【0054】
図1Cは、基部14を有する歯科矯正装具12と、基部に隣接する部分的に硬化した硬化性組成物36と、表面27を含む剥離基材25とを含む、歯科矯正用物品10の一実施形態を例示する。例示される実施形態では、剥離基材25は、部分的に硬化した硬化性組成物36の表面15に隣接する。剥離基材25は、例えば、ポリオレフィン、ポリ(塩化ビニル)、ポリウレタン、及びポリ(テトラフルオロエチレン)等のフッ素化ポリマーを含む、複数の材料のうちのいずれを含むこともできる。幾つかの実施形態では、剥離基材25の表面27は、複数の孔を備える。図1Cに例示される実施形態では、歯科矯正装具12は歯科矯正ブラケットである。
【0055】
幾つかの実施形態では、基部14及び部分的に硬化した硬化性組成物36は、それぞれ、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する。幾つかの実施形態では、部分的に硬化した硬化性組成物36又は基部14のうちの1つは、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する。幾つかの実施形態では、表面15又は基部14のうちの1つは、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する。
【0056】
歯科矯正装具12の基部14は、例えば、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有するように、機械加工又はミリングすることができる。あるいは、歯科矯正装具12を、基部14が歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有するように、成形することができる。デジタルデータを使用して、例えば、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を含む形状に、歯科矯正装具、特に装具の基部を機械加工又はミリングすることができる。あるいは、デジタルデータを使用して、歯科矯正装具を成形することができる、歯牙構造の少なくとも一部分の成形型を製造することができる。各歯科矯正装具の基部が、特定の歯の構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有することができる、即ち、各基部が独自の輪郭を有することができる。該装具の作製に使用する患者の歯群のデジタルデータは、例えば、口腔内スキャナを使用して得ることができる。あるいは、デジタルデータは、患者の歯列弓の印象又は石又はポリマー模型をスキャンすることによって、得ることができる。
【0057】
部分的に硬化した硬化性組成物は、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有することができる。幾つかの実施形態では、装具に、基部に隣接する硬化性組成物を提供するように(例えば、図1Aに例示されるように)、歯科矯正装具の基部に硬化性組成物が適用され、光造形法又はレーザー干渉リソグラフィ等の方法を使用して、硬化性組成物の少なくとも予め選択した領域を部分的に硬化して、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有するように、化学線が硬化性組成物に照射される。光造形法又はレーザー干渉リソグラフィ等の方法を使用して、硬化性組成物の一部分(例えば、歯科矯正装具の基部に隣接する部分)が、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有するように、部分的に硬化され、残る未硬化の硬化性組成物があれば、例えば、溶媒を使用して取り除くことができる。あるいは、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する歯科矯正装具の基部に、硬化性組成物を適用してもよい。硬化性組成物を部分的に硬化する本方法では、患者の歯列弓の模型又は複製の使用は割愛することができる。
【0058】
幾つかの実施形態では、以下に記載するように、歯科矯正装具の基部に隣接する硬化性組成物は、部分的に硬化した時に、部分的に硬化した硬化性組成物が、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有するように、患者の歯列弓の少なくとも一部分の複製に隣接して、又はそれと接触して配置され得る。幾つかの実施形態では、各歯科矯正装具の部分的に硬化した硬化性組成物が、特定の歯の構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有し得、即ち、それぞれの部分的に硬化した硬化性組成物が、独自の輪郭を有し得る。
【0059】
装具は、ダイレクトボンディング手順を使用して、歯科矯正医によって歯群上に配置され得る。各装具を、対応する歯のその適切な位置に配置することができる。
【0060】
図2は、歯科矯正用物品が、歯科矯正用物品を囲む容器18を備える、歯科矯正用物品10の別の実施形態を例示する。幾つかの実施形態では、歯科矯正用物品10は、パッケージ化された歯科矯正用物品である。歯科矯正用物品は、歯科矯正装具12と、基部14に隣接する部分的に硬化した硬化性組成物36とを含む。歯科矯正ブラケットの形態で例示される歯科矯正装具12、及び部分的に硬化した硬化性組成物36は、容器18によって少なくとも部分的に取り囲まれる。図2に例示される代表的な容器18は、凹部又は孔20を画定する内壁部分を有する、一体成形された本体を含む。孔20は、側壁及び底部22を含む。任意に、孔20の側壁は、支持材料24の縁構造と係合するために水平に延在する凹部を含む。好適な支持材料の特徴は、米国特許第5,328,363号(Chesterら)に記載される。典型的には、歯科矯正用物品は剥離基材25を含む。幾つかの実施形態では、孔20の底部22は、剥離基材、あるいは剥離面を備える。典型的には、歯科矯正用物品10は、つまみ28を備えるカバー26を含み、カバー26は、例えば、接着剤30によって容器18に接続している。幾つかの実施形態では、接着剤30はシールを形成する。あるいは、シールは、孔20とカバー26との間に、例えば、ヒートシールによって形成されてもよい。
【0061】
図3は、例えば、歯科矯正インダイレクトボンディングのための移動装置又は移動アセンブリを作製する実施形態で使用するための、歯科矯正患者の歯列弓の一部分の複製100を例示する。例示目的で、複製100は、患者の下歯列弓を表す。あるいは、患者の上歯列弓、あるいは歯列弓の4分の1又は歯列弓の1つ若しくは2つの歯のみ等の、歯列弓の一部分のみの複製を提供することができる。例示される実施形態では、複製100は、患者の下歯列弓のそれぞれの歯に対応する、複数の複製歯群130を含む。
【0062】
複製100は、まず、ヒドロコロイド印象材又はビニルシロキサン印象材等の歯科用印象材を使用して、患者の下歯列弓の印象を取ることによって作製することができる。ポリ(ビニルシロキサン)印象材の例としては、IMPRINT 3及びPOSITION PENTAの商品名称で入手可能なものが挙げられ、共に3M ESPE、St.Paul,MNより入手可能である。
【0063】
次いで、この印象から模型又は複製100を作製することができる。任意に、複製100は、複製歯群130、及び複製歯群130を共に保持するのに十分な複製歯肉組織140のみを含み得る。幾つかの実施形態では、複製100は、焼石膏から作製される「石」模型である。幾つかの実施形態では、複製100(複製歯群130を含む)は、化学線を透過する材料を含む。好適な材料としては、硬化した時に透明又は半透明である、エポキシ樹脂等のポリマーを含む。幾つかの実施形態では、材料は光学的に透明かつ無孔である。ある好適なエポキシ樹脂系は、E−CAST F−82樹脂及びUCE−302ハードナーの商品名称で入手可能であり、共にUnited Resin Corp.、Royal Oak,MIより入手可能である。他の好適な材料としては、ポリエステル及びウレタンが挙げられる。
【0064】
あるいは、複製100は、患者の歯群及び隣接する歯肉組織を表すデジタルデータを使用して、作製することができる。デジタルデータは、手持ち式の口腔内スキャナ、又は当該技術分野において既知の他の装置を使用して、得ることができる。あるいは、デジタルデータは、印象又は石又はポリマー模型をスキャンすることによって、得ることができる。次いで、例えば、光造形プリンタ、及び化学線を透過する材料を使用して、デジタルデータから、複製100を作製することができる。
【0065】
また、複製100は、ミリングプロセスと併せて、デジタルデータを使用して作製することもできる。例えば、Buelach,SwitzerlandのCerec Networkによって販売されるCAD/CAMミリングマシンに類似した、コンピュータ数値制御(CNC)のミリングマシンを使用して、セラミックス、複合体、又は他の材料から作製される複製をミリングすることができる。Cerecのマシンに関連するカメラと類似した口腔内カメラを使用して、歯列弓の形状を表すデジタルデータを得ることができる。デジタルデータを使用して、ラピッドプロトタイピング等の方法によって、歯科矯正患者の歯列弓の少なくとも一部分の複製を準備することができる。好適なラピッドプロトタイピングプロセスの例としては、3Dプリンティングプロセス、光造形法、溶融物堆積法(fused deposition modeling)、薄板積層法(laminated object manufacturing)、レーザー加工ネットシェイピング法(laser engineered net shaping)、粉末焼結積層造形法(selective laser sintering)、形状堆積法(shape deposition manufacturing)、及び固体下地硬化(solid ground curing)等の固体自由形状製作が挙げられる。幾つかの実施形態では、ラピッドプロトタイピングは、整列ガイド、咬合止め部材(occlusal stop member)、及びトレイ成形容器を用いて、歯列弓模型をミリングするようにミリングマシンに指示する、CAD/CAMソフトウェアの使用を含み得る。かかる方法は、米国特許出願第11/689,845号に記載される。
【0066】
典型的には、複製100は、患者の口腔構造の正確な表現物であり、複製歯群130及び複製歯肉組織140は、それぞれ、該患者の対応する歯群及び歯肉組織の外形及び配向と同一の外形及び配向を有する。
【0067】
次に、図4でも示されるように、スペーサ材料が複製100に適用、又はその上に形成される。この例では、スペーサ材料は、複製歯群130上の近似の、所定の位置に配置される、材料の一連の別個の小塊又は予形成されたセグメントを備える、第1のスペーサ材料110を含む。スペーサ材料110の小塊又はセグメントのそれぞれは、歯科矯正装具のその後の目標位置に対応する位置に配置され、典型的には、選択した装具の基部と少なくとも同様の大きさである、全体の寸法を有する。スペーサ材料110のセグメントのそれぞれは、その後、歯科矯正装具を受容するための移動装置内のすきまを提供するように機能する。
【0068】
また、幾つかの実施形態では、スペーサ材料は、好ましくは、複製歯群130の表面の大部分にわたって、好ましくは複製歯肉組織140の表面の少なくとも一部分にわたって延在する、シート状のスペーサ材料120を含む。幾つかの実施形態では、図4に例示されるように、シート状のスペーサ材料120は、スペーサ材料110のセグメント上にも延在する。例示される例では、シート状のスペーサ材料120は、他の構成も可能ではあるが、複製歯群130の頬唇側表面積全体の上、複製歯群130の咬合縁に沿って、及び複製歯群130の舌側全体にわたって延在する。
【0069】
あるいは、スペーサ材料110、120は、材料の統合された一体型区画として提供されてもよい。更に、シート状の材料120は(単独であっても、あるいはスペーサ材料110と統合されていても)、歯列弓の形状に近似する外形に予形成することができる。この構成は、以下に記載するように、シート120の複製歯群130へのその後の適合を容易にする。
【0070】
スペーサ材料110、120は、複数の材料のうちのいずれであってもよい。好適な材料は、General Electric Co.、Wilton,CTからRTV615の商品名称で入手可能なもの等の、シリコーン材料である。幾つかの実施形態では、スペーサ材料の小塊は、若干の材料をシリンジから分注し、次いで手用器具で必要に応じてそれぞれの小塊を形状化することによって、提供することができる。幾つかの実施形態では、ラピッドプロトタイピングを用いて、米国特許公開第2006/0223031号(Cinaderら)に記載されるように、スペーサ110を準備することができる。
【0071】
次に、複製歯群130及び複製歯肉組織140の外形に、シート状のスペーサ材料120を適合させる、又は該シートをそれらの外形の方に引くように、複製100及びスペーサ材料110、120に真空を印加することができる。本明細書で使用される、用語「真空」は、気圧より低い任意の圧力を指す。典型的には、複製100は、スペーサ材料110と共に、真空ポンプと連通するチャネルを有する支持体の上に配置される。次いで、シート状のスペーサ材料120が該複製の上に配置され、真空ポンプが作動されて、複製歯群130及び複製歯肉組織140の形状と適合するように、シート状のスペーサ材料120を引き下げる。
【0072】
その後、図5に例示されるように、スペーサ材料110、120上にトレイ150が形成される。典型的には、トレイ150は、シート状のスペーサ材料120の上にシート状の材料を形成する、真空によって形状化される。トレイ150の好適な材料は、Bayer MaterialScience AG、Leverkusen,GermanyからMAKROLONの商品名称、又はSABIC Innovative Plastics Holding BV、Pittsfield,MAからLEXANの商品名称で入手可能なもの等の、ポリカーボネートシートである。シートは、例えば、1.52ミリメートル(0.06インチ)の厚みを有し得る。また、ポリ(エチレンテレフタラートグリコール)(「PETG」)等の他の材料を使用してもよい。シートのスペーサ材料110、120の外形への適合容易にするために、真空成形プロセス中に熱を印加することができる。次いで、スペーサ材料110、120からトレイ150を取り外すことができる。次いで、複製100からスペーサ材料110、120を取り外し、破棄する。トレイ150の余分な部分は、所望に応じて切り揃えることができる。
【0073】
次いで、幾つかの実施形態では、離型剤の薄層が複製に適用される。好適な離型剤の例は、水溶性ポリビニルアルコールである。好適な離型剤は、PTM&W Industries,Inc.、Santa Fe Springs,CAからPA0810の商品名称で入手可能である。
【0074】
次に、様々な方法のうちのいずれかを使用して、対応する患者の歯の上の同一装具の最終的な所望の位置に対応する、複製歯群130上の各装具の適切な目標位置の決定を行う。例えば、典型的には、MBTブラケット位置決めゲージ又はBooneブラケット位置決めゲージとして、共に3M Unitek、Monrovia,CAから入手可能なもの等の高さゲージの補助により、各複製歯130の唇側面に対して鉛筆の印を付けることができる。各歯科矯正装具(歯科矯正ブラケット等)のアーチワイヤスロット(例えば、図1Aで数字15によって指定される)を配置するための位置ガイドとして機能するように、各複製歯130の唇側面に対して鉛筆の線を引く。図6では、鉛筆の線は、数字160によって指定される。米国特許公開第2007/0031774号に記載されるように、マーカーを使用して、仮想及び物理的歯列弓を記録することができる。
【0075】
次に、施術者によって選択される歯科矯正装具12(例えば、歯科矯正ブラケット)が、対応する複製歯群130上、典型的には、各装具12のアーチワイヤスロットが、それぞれの鉛筆の線160とほぼ揃うような位置に、配置される。幾つかの実施形態では、歯科矯正装具12は、各装具12の基部の隣接、あるいはその上に、製造業者によって適用された硬化性組成物(典型的には光硬化性歯科矯正用接着剤の形態の)を有する、プレコーティングされた装具である。かかるプレコーティングされた装具は、米国特許第5,015,180号(Randklev)、同第5,172,809号(Jacobsら)、同第5,354,199号(Jacobsら)、及び同第5,429,229号(Chesterら)に記載される。装具12は、金属(例えば、ステンレス鋼)、セラミックス(例えば、半透明の多結晶アルミ)、又はプラスチック(例えば、半透明のポリカーボネート)等の、任意の好適な材料から作製することができる。幾つかの実施形態では、歯科矯正装具は、化学線を透過する材料から作製される。様々な実施形態において、歯科矯正装具は半透明又は透明である。幾つかの実施形態では、装具は、基部と、基部を通って延在する少なくとも1つの通路とを有し、通路は、米国特許第6,482,002号(Jordanら)に記載されるように、化学線を透過する要素を受容することができる。製造業者によって歯科矯正装具12に硬化性組成物がプレコーティングされていない場合、各装具12の基部の隣接、あるいはその上に、硬化性組成物を適用することができる。歯科矯正装具12が複製歯群130上に配置されると、必要に応じて装具12をずらして、装具12の中央咬合−歯肉軸線を各複製歯130の長軸線と揃え、各ブラケットのアーチワイヤスロットを下にある鉛筆の線160上に直接配置する。あるいは、位置決めゲージを使用して、対応する複製歯130の咬合縁から上記に指定の距離に各装具12のアーチワイヤスロットを正確に位置づけることができる。
【0076】
あるいは、該装具は、ロボット基材によって歯の上に配置されてもよい。例えば、ロボット基材は、1組の装具から適切な装具を選別し、選択した装具を適切な歯の上に配置するようにプログラムされた、把持アームを含み得る。次いで、ロボットアームは、別の歯の上に配置するために別の装具の把持へと進む。任意に、ロボットアームの移動経路、及び配置された歯科矯正装具12の最終的な位置は、複製100の仮想模型を表すデジタルデータへのアクセスを有するコンピュータソフトウェアによって決定される。ソフトウェアは、歯科矯正装具を選択する、不正咬合を分析する、並びに/又は歯の動き及び歯群の最終位置を予測するための、サブプログラムを含むことができる。装具を選択するためのソフトウェアの例は、米国特許第7,155,373号(Jordanら)に記載される。
【0077】
次に、施術者は、任意にスケーラー又は他の手用器具を用いて、確実に装具12が、複製歯130上にしっかりと定着するように、各歯科矯正装具12に強い圧力を印加して、各装具12のアーチワイヤスロット15に力を印加する。次いで、歯科用探針、歯科用スケーラー、綿棒、又はブラシ等のツールを使用して、定着の間に装具12の基部の周辺付近に押し出された可能性のあるいずれかの余分な硬化性組成物を取り除くことができる。幾つかの実施形態では、いずれかの余分な硬化性組成物は、硬化性組成物が部分的に硬化した後で取り除くことができる。
【0078】
図では、硬化性組成物16及び部分的に硬化した硬化性組成物36は、必ずしも原寸に比例しない。光硬化型接着剤の形態の硬化性組成物16の使用は、歯科矯正医の助手又は実験技術者がすぐ上に記載した工程を実行し、次いで複製100を歯科矯正医又は実験監督者に渡すことができるため、有利である。次いで、歯科矯正医又は監督者は、硬化性組成物16が部分的に硬化する前に、各歯科矯正装具12の対応する複製歯130上への正確な配置について、最終確認を行うことができる。一例として、複数の複製100を準備して、歯科矯正医又は監督者によって点検されるまで、黒色のプラスチックの箱等の不透明な容器(即ち、化学線を透過しない容器)に保存することができる。このようにして、歯科矯正医又は監督者は、硬化性組成物16が時期尚早に部分的に硬化することなく、都合のよい時に、装具12の複数の異なる複製100上への配置を点検することができる。
【0079】
歯科矯正装具の位置の正確さが確認されると、化学線源が硬化性組成物16に照射される。化学線が硬化性組成物に到達すると、光重合反応が開始され、硬化性組成物16が部分的に硬化する。好適な化学線源は、手持ち式の光硬化ユニット、並びに固定式硬化チャンバを含む。化学線は、硬化性組成物16を部分的に硬化するのに十分な時間、硬化性組成物に照射される。つまり、硬化性組成物を部分的に硬化するように、十分な化学線をそれに照射する。部分的に硬化した硬化性組成物は、数字36によって指定される。
【0080】
好適な硬化チャンバの例は、DENTSPLY International、York,PAからTRIAD 2000の商品名称で入手可能な可視光硬化システムである。好ましくは、硬化チャンバは複数の複製100を収容するのに十分な大きさであるため、複数の複製100上の硬化性組成物16を同時に部分的に硬化させることができる。そのようなチャンバ内では、硬化性組成物16のそれぞれの部分の(又はその範囲にわたる)部分的硬化を促進するように、光源が作動される間、光源と複製100とが、好ましくは互いに対して動く。
【0081】
歯科矯正装具12が金属又は他の不透明な材料から作製される場合、硬化性組成物16が、十分な度合いまで部分的に硬化したことを確実にするように、複製100を比較的長時間、硬化光に曝露してもよい。その時間の長さは、化学線の強度に依存して異なり得る。上述の光硬化チャンバの代替として、3M Unitek、Monrovia,CAからORTHOLUX LED硬化光の商品名称で入手可能なもの等の、手持ち式硬化ユニットを使用することができる。
【0082】
複製100を作製するために透明又は半透明な材料(即ち、化学線を透過する材料)を使用することは、化学線が、装具の基部の中央に隣接して位置する硬化性組成物16の部分を部分的に硬化するために、複製100を透過することができることから、歯科矯正装具12が不透明な材料から作製される場合、特に有利である。それらの部分は、別の方法では、硬化性組成物をその範囲にわたって部分的に硬化することができる十分な化学線を受けない可能性がある。その場合、硬化性組成物の未硬化又は不十分に部分的に硬化した部分は、装具が複製から引き離される時にずれて変形する可能性があり、その結果、複製の対応する領域又はそれが複製する歯牙構造の外形と一致する形状又は輪郭を保持しない可能性がある。化学線は、硬化性組成物16に含有される反応開始剤の種類によって、可視範囲(即ち、約400nm〜約750nm)、紫外線範囲(即ち、約4nm〜約400nm)、赤外線範囲(即ち、約750nm〜約1000マイクロメートル)、又はそれらの任意の組み合わせの波長を含み得る。
【0083】
複製100を通過する化学線は、1つ又はそれ以上の経路に沿って進むことができる。例えば、化学線は、歯科矯正装具の正反対にある複製100の舌側に位置する源から放射されて、装具の基部に向かって頬唇側方向に進むことができる。別の例として、化学線源は、装具の正反対の位置からオフセットされ得、化学線が、頬唇側−舌側基準軸線に対してある角度で延在する経路に沿って続くように、位置づけることができる。本明細書で使用される、複製を「通る」経路は、複製の反対側から出入りする経路に限定されず、複製の同じ側から出入りする経路も含む。
【0084】
幾つかの実施形態では、複製100は、化学線を透過する材料のみからなるわけではない。例えば、複製100は、化学線に不透明な材料から作製される芯又は他の区画を含んでもよく、次いで、光を透過する材料の層が、該芯又は他の区画の上に適用される。その場合、化学線の硬化性組成物16への透過を促進するように、反射性材料の層を、光を透過する材料の層と該芯又は他の区画との間に配置することができる。
【0085】
幾つかの実施形態では、歯科矯正アーチワイヤが装具12のスロットの中に配置され、適所に結紮されてもよい。この工程は、その後患者が椅子で費やす時間を更に低減する役割を果たす。
【0086】
複製100は、歯科矯正装具12と共に(もしあれば、アーチワイヤも同様)、図6に示されるように設定された、歯科矯正患者の治療模型180を表す。次いで、模型180又はトレイ150のチャネルのいずれかに、マトリックス材料を適用することができる。次いで、マトリックス材料が、トレイ150のチャネルの中、及びトレイ150と模型180との間に受容されるように、トレイ150の中に模型180を位置づける。次いで、マトリックス材料を固まらせる。図7では、マトリックス材料は数字190によって指定され、装具12、並びに複製歯130の唇側面及び舌面を取り囲む。本実施形態では、移動装置(トレイ150を備える)が装具12を保持する。
【0087】
幾つかの実施形態では、マトリックス材料は、固まる前には比較的低い粘度を有する。このように、マトリックス材料190は、装具12の様々な凹部、空洞、及び他の構造的特徴に実質的に浸透することができるので、装具12とマトリックス材料190との間のしっかりした接続を確率することができる。好適なマトリックス材料の例は、General Electric Co.、Wilton,CTからRTV615の商品名称で入手可能な、シリコーン材料である。あるいは、マトリックス材料190は、歯科用印象材又は咬合記録材料を含み得る。好適な材料としては、Heraeus Kulzer Inc.、Armonk,NYからMEMOSIL2、又はDiscus Dental Inc.、Culver City,CAからPEPPERMINT SNAP CLEAR BITE記録材料の商品名称で入手可能なもの等の、ポリ(ビニルシロキサン)印象材が挙げられる。幾つかの実施形態では、マトリックス材料190は化学線を透過する。
【0088】
マトリックス材料190が固まると、トレイ150は、マトリックス材料190及び部分的に硬化した硬化性組成物36を上に備える歯科矯正装具12と共に、複製100から取り外される。上記のような離型剤の使用は、装具12の対応する複製歯群130からの取り外しを容易にし得る。次いで、トレイ150の余分な材料及び余分なマトリックス材料190は、所望に応じて切り揃えることができる。得られた移動アセンブリ44(トレイ150の形態の移動装置と、マトリックス材料190と、部分的に硬化した硬化性組成物36を上に備える装具12とを備える)の断面図が、図8に示される。
【0089】
米国特許出願公開第2006/0134580号に記載されるような、高周波識別(RFID)タグの使用を含む、患者固有の物品を識別する方法が使用されてもよい。典型的には、上記の工程のうちの幾つかが、歯科矯正医の診療室を患者が訪れる間に実行される。患者が診療室に戻ると、歯科矯正装具を受け入れる患者の歯群は、口角鉤、タングガード、ロール綿、ドライアングル、及び/又は必要に応じて他の物品を使用して分離される。次に、エアシリンジからの加圧空気を使用して、歯群が十分に乾燥される。次いで、幾つかの実施形態では、エッチング液(3M Unitek、Monrovia,CAからTRANSBOND XTエッチングジェルの商品名称で入手可能なもの等)が、装具12によって被覆される領域全般の歯群に塗られる。エッチング液が、歯のエッチングに十分な時間、選択した歯の表面に留まった後、水流で歯群から該溶液を洗い流す。次いで、患者の歯群を、例えば、エアシリンジからの加圧空気を適用することによって乾燥させ、余分な水を吸引によって取り除く。次に、部分的に硬化した硬化性組成物36及び/又は患者の歯群の選択した領域に、固着用接着剤を適用する。幾つかの実施形態では、接着剤は、一成分型固着用接着剤である。図8に例示されるもの等の他の実施形態では、接着剤は二成分型固着用接着剤である。例えば、第1の成分200は、非乾湿性プライマー(3M Unitek、Monrovia,CAからTRANSBOND MIPの商品名称で入手可能なもの等)であり得、第2の成分210は、自己エッチングプライマー(3M UnitekからTRANSBOND PLUSの商品名称で入手可能なもの等)であり得る。自己エッチングプライマーが使用される場合、上記のエッチング工程は、典型的には割愛される。第1の成分200は、部分的に硬化した硬化性組成物36に適用され、第2の成分210は、歯科矯正装具12を受け入れる患者の歯の領域に適用される。図8では、患者の歯は数字220によって指定されている。好適な二成分型化学硬化接着剤の他の例としては、3M Unitek、Monrovia,CAからSONDHI RAPID−SETインダイレクトボンディング用接着剤、UNITE固着用接着剤、及びCONCISE歯科矯正用接着剤の商品名称で入手可能なものが挙げられる。あるいは、樹脂改質型ガラスアイオノマーセメントを使用してもよい。あるいは、3M UnitekからTRANSBOND光硬化接着剤の商品名称で入手可能なもの等の、光硬化性固着用接着剤を使用してもよい。
【0090】
第1の成分200が部分的に硬化した硬化性組成物36に適用され、第2の成分210が患者の歯220の対応する領域に適用された後、アセンブリ44は、対応する歯群上に位置づけられ、任意にヒンジ状に揺動するようにして定着される。マトリックス材料190の空洞の形状は、その下にある歯群の形状と一致するため、装具12は、複製100上の装具12の以前の位置と同じ位置に、下にある歯群220に接して同時に定着される。好ましくは、次いで、固着用接着剤が十分に硬化するまで、トレイ150の咬合面、唇側面、及び頬面に圧力が印加される。
【0091】
固着用接着剤が十分に硬化すると、患者の歯列弓からトレイ150が取り除かれる。典型的には、まずトレイ150が、歯科矯正装具12と共に歯列弓上の同じ場所にとどまる、マトリックス材料190から分離される。次に、マトリックス材料190が装具12から取り外される。任意に、マトリックス材料190が装具12から剥がされる時に、患者のそれぞれの歯220の表面に対して各装具12の保持を助けるように、スケーラー等の手用器具を使用することができる。別の選択肢として、固着用接着剤が硬化する前に、マトリックス材料190からトレイ150を分離することができる。この選択肢は、固着用接着剤が光硬化性固着用接着剤である時に、特に有用である。幾つかの実施形態では、例えば、米国特許第7,020,963号(Clearyら)に記載されるような、マトリックス材料190を破壊するための可撓性のコードを、トレイ150に提供することができる。
【0092】
マトリックス材料190が歯科矯正装具12から取り外されると、アーチワイヤが装具12のスロットに配置され、適所で結紮される。好適な結紮装置としては、弾性Oリング、並びに装具12の周りで縛ってループ状にされたワイヤ区画が挙げられる。あるいは、装具12は、米国特許第6,302,688号(Jordanら)及びPCT国際特許出願公開第02/089693号に記載されるもの等の、アーチワイヤを解放可能に係合するラッチを含む自己結紮装具であってもよい。
【0093】
有利に、部分的に硬化した硬化性組成物36は、対応する歯科矯正装具12の基部14に、「特別注文の基部」(固着面を有する)を提供する。幾つかの実施形態では、この固着面の輪郭は、患者の歯の表面の形状と緊密に一致し、その結果、装具12と歯220との間に確立されるその後の固着(固着用接着剤成分200、210を使用する)を容易にする。他の実施形態では、この固着面の輪郭は、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製である。特別注文の基部(部分的に硬化した硬化性組成物36を含む)は、装具12が、治療過程の間に歯から偶発的に取り外される可能性を有利に減少させる。
【0094】
複製100が化学線を透過すると、多くの利点が提供される。光を透過する複製100によって、化学線が、別の方法では到達し難くあり得る、歯科矯正装具の基部の中央付近の部分を含む、硬化性組成物16の実質的にすべての部分に到達できるようになる。その結果、装具12が複製100から取り外される前に、硬化性組成物16の実質的にすべての部分が部分的に硬化し得、得られた固着面の外形、形状、又は輪郭は乱されない。得られた固着面は、対応する複製の表面形状、即ち、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭と正確に一致する、外形、形状、又は輪郭を有する。
【0095】
更に、スペーサ材料110、120を使用することで、液体稠度を有するマトリックス材料等の、比較的低い粘度を有するマトリックス材料の使用が容易になる。典型的には、トレイ150は比較的剛性であり、その結果、マトリックス材料190の形成の間、その形状を維持する。結果として、トレイ150が患者の歯群又は歯肉組織と直接接触しないように、移動アセンブリ44を組み立てることができる。代わりに、マトリックス材料190のみが患者の歯群と接触し、その結果、口腔構造と密接に一致する嵌合が提供される。
【0096】
幾つかの実施形態では、患者の歯に単一の歯科矯正装具のみを固着するために、移動装置を使用することができる。例えば、歯へのアクセスが、最初は他の歯群によって妨げられるような場合などに、他の装具を固着した後、上記の移動装置の一部分を使用して、単一の装具を単一の歯に固着することができる。別の例として、上記の移動装置の一部分を使用して、歯から偶発的に剥離した歯科矯正装具を再固着するか、又は元の装具と置き換えて新しい装具を歯に固着することができる。
【0097】
任意に、移動装置は、単数又は複数の装具が患者の歯牙構造上に位置づけられる時に、患者の歯列弓の1つ又はそれ以上の咬合区画に係合する、1つ又はそれ以上の咬合止め部材を含むことができる。咬合止め部材のそれぞれは、患者の歯牙構造に対する装具の正確な位置づけを補助する。幾つかの実施形態では、咬合止め部材は、例えば、歯科矯正用若しくは歯科用接着剤、歯科用修復材、又は咬合記録材料から作製することができる。これら及び他の実施形態は、例えば、米国特許出願公開第2006/0223021号(Cinaderら)に開示される。
【0098】
任意に、例えば米国特許出願第11/689,869号で開示されるラピッドプロトタイピングを使用して、移動トレイの形態の移動装置を作製してもよい。
【0099】
任意に、例えば、口腔内スキャナ又はコーンビームコンピュータ断層撮影スキャナを使用して、患者の歯群(及び、任意に、隣接する歯肉組織)のデジタルデータを得ることができる。デジタルデータを使用して、施術者が、コンピュータを使用して仮想歯科矯正装具を上に配置し、位置づけることができる、仮想模型を作り出すことができる。更なるデジタル設計には、仮想ガイド、移動装具成形容器、及び咬合止め部材の設計が含まれ得る。次いで、米国特許出願第11/689,845号に記載されるような、ラピッドプロトタイピングを使用して、歯列弓の複製を準備することができる。
【0100】
他の実施形態では、米国特許出願公開第2007/0287120号及び同第2007/0287121号に記載されるような、歯科矯正装具の歯牙構造へのインダイレクトボンディングの間に、湿度制御を提供する構造を、トレイ150に追加することができる。
【実施例】
【0101】
固着強度試験手順
ウシの歯への歯科矯正ブラケットの固着強度を決定するために、メタクリレート樹脂中に歯(ブラケットを固着させた)を定置し、該樹脂を硬化させて、それぞれの歯を該樹脂中に装着した。0.50ミリメートルのステンレス丸鋼のワイヤーループをブラケットの咬合結合翼(occlusal tie wing)下に係合して、固着強度試験を実施した。荷重試験機(Instron、Norwood,MA)を使用して、1分当たり5ミリメートルの比率で荷重を印加した(剪断/剥離)。ブラケットを歯から取り除くための最大力(ニュートンの単位で)を、固着強度として記録した。実施例1及び2、並びに比較例1で報告された固着強度値は、それぞれ28個の測定値、33個の測定値、及び33個の測定値の平均である。
【0102】
(実施例1)
固着強度
ヒトの歯列弓を表す石模型を使用して、まず、該模型上に透明なマウスガード熱成形材料(Great Lakes Orthodontics,Ltd.、Tonawanda,NYから入手可能)を形成することによって、成形型を準備した。成形型を模型から取り除き、歯科用印象材(3M ESPE、St.Paul,MNからPOSITION PENTA QUICK VPSの商品名称で入手可能)を充填した。直後に、8〜14個のウシの歯群(個々の歯群の寸法に依存して)を、咬合面を下にし、唇側面を成形型の外壁と揃えて、成形型内の印象材の中に設置した。印象材が固まった後、歯科矯正用石混合物(Whip Mix Corp.、Louisville,KYから入手可能)を成形型に注入し(歯群の曝露される部分を被覆して埋め込むために)、固まらせた。ウシの歯群(「歯列弓」)を埋め込んだ、固まった石から成形型を取り除き、鎌型のセメント除去ツール、歯科矯正ブラケット位置決めツール、及び歯ブラシを使用して、余分な石を歯群から取り除いた。
【0103】
歯科用印象材(3M ESPE、St.Paul,MNからPOSITION PENTA QUICK VPSの商品名称で入手可能)、及びトレイ(3M ESPE、St.Paul,MNから3M ESPE DIRECTED FLOW IMPRESSION TRAYの商品名称で入手可能)を使用して、歯列弓の印象を作製した。固まった印象材を歯列弓から取り除いた後、3M ESPE、St.Paul,MNからEXPRESS STANDARD PUTTYの商品名称で得られる歯科用印象パテを使用して、印象の周辺部を強化した。次いで、約60℃で約4時間、オーブン内で印象を乾燥させた。この印象を使用して、エポキシ樹脂とハードナーとの混合物(F−82(樹脂)及びUCE−302(ハードナー)の商品名称で入手可能、共にUnited Resin Corp.、Royal Oak,MIから入手可能、製造業者によって提供される指示に従って混合された)を注入することにより、エポキシ模型(「歯列弓」の複製)を作製した。得られたエポキシ模型は、化学線を透過した。
【0104】
本質的に、例えば、米国特許第7,020,963号(Clearyら)に記載されるような方法を使用して、エポキシ模型の複製歯群上にシリコーンスペーサを配置し、次いで、ポリカーボネートシート(Bayer MaterialScience AG、Leverkusen,GermanyからMAKROLONの商品名称で入手可能)から、移動トレイの形態の移動装置を模型上に真空成形した。次いで、模型からトレイを取り除き、複製された模型の歯群からシリコーンスペーサを取り除いた。離型剤(PTM&W Industries,Inc.、Santa Fe Springs,CAからPA0810の商品名称で入手可能な水溶性ポリ(ビニルアルコール))の薄層を、模型に適用した。歯科矯正ブラケット(3M Unitek、Monrovia,CAからVICTORY SERIESの商品名称で入手可能)の基部に、シリンジを介して、歯科矯正用接着剤(TRANSBOND XT、3M Unitek、Monrovia,CA)の形態の硬化性組成物を適用した。基部全体を被覆して、すきまがないように見える組成物の層を提供するために十分な硬化性組成物を、各ブラケットの基部に適用した。それぞれのブラケットを模型の複製歯に手作業で押し付け、複製歯の表面から余分な硬化性組成物を手作業で取り除いた。5秒間、歯科矯正用硬化光(3M Unitek、Monrovia,CAからORTHOLUX LEDの商品名称で入手可能)からの化学線に曝露することにより、硬化性組成物を部分的に硬化した。曝露は、模型の舌側から行われた、即ち、模型を通って硬化性組成物へと化学線が透過された。次いで、印象材(EXPRESS BITE、3M ESPE、St.Paul,MN)の薄いパッドが、薄いロールに形成され、複製歯群の舌側に向かって押し付けられて、複製歯群の咬合面に押し付けられた。
【0105】
硬化性2部式シリコーン(General Electric Co.、Wilton,CTからRTV615の商品名称で入手可能)の両方の部を容器内で組み合わせ、次いでベルジャー内に定置し、次いで混合物中に同伴する気泡を除去するために排気した。次いで、ポリカーボネートの移動装置(移動トレイの形態の)の中にシリコーンを注入し、トレイ内にエポキシ模型(歯科矯正ブラケットを複製歯群に貼り付けた)を定置し、その結果、各複製歯の各ブラケット及び切縁は、シリコーンで被覆された。次いで、このアセンブリを約60℃の温度で約4時間オーブンの中に定置して、シリコーンを固まらせた。次いで、トレイ及び硬化したシリコーンを、ブラケットの歯肉結合翼に近いレベルまで切り揃えた。
【0106】
次いで、このアセンブリを、約60分間、超音波浴内で水に浸漬した。必要に応じて、ブラケットを複製歯群からこじ取るための歯科用ツールを使用して、移動トレイ/ブラケットアセンブリを模型から取り除いた。各ブラケットの基部上の部分的に硬化した硬化性組成物を蒸気洗浄し、次いで水洗いして、該組成物からいずれかの残留するポリ(ビニルアルコール)を取り除いた。次いで、約60℃で約1時間、オーブン内で移動トレイ/ブラケットアセンブリを乾燥させた。
【0107】
歯列弓内に埋め込まれたウシの歯群を、軽石粉の水性スラリーを使用して洗浄し、次いで、軽石粉を取り除くために、必要に応じて歯ブラシを使用して水洗いし、気流で乾燥させた。自己エッチングプライマー(3M Unitek、Monrovia,CAからTRANSBOND PLUS SELF ETCHING PRIMERの商品名称で入手可能)を歯群に適用し、次いで気流を使用して乾燥させた。各ブラケットの基部上の部分的に硬化した硬化性組成物の表面に、プライマー(TRANSBOND XT、3M Unitek、Monrovia,CA)のコーティングを適用し、切縁に沿う空隙が観察されないように、歯列弓上に移動トレイ/ブラケットアセンブリを定置して、完全に定着させた。各ブラケットと対応する歯との間の部分的に硬化した硬化性組成物を、近心及び遠心方向のそれぞれから10秒間、歯科矯正用硬化光(3M Unitek、Monrovia,CAからORTHOLUX LEDの商品名称で入手可能)を使用して更に硬化した。移動トレイを取り除き、硬化したシリコーンをブラケットから注意深く剥がした。次いで、歯列弓を終夜水浸させた。
【0108】
次いで、歯群の舌側にのみ及び金槌を使用して、石からウシの歯群を取り除いた。上記の固着強度試験を用いて、ブラケットの固着強度を決定した。データを表1に示す。
【0109】
(実施例2)
実施例2の手順は、本質的に、硬化性組成物が、10秒間、歯科矯正用硬化光からの化学線に曝露されることによって部分的に硬化することを除いて、実施例1で記載されたように実行された。データを表1に示す。
【0110】
(比較例1)
実施例1の手順は、本質的に、硬化性組成物が、20秒間、歯科矯正用硬化光からの化学線に曝露されることによって硬化することを除いて、実施例1で記載されたように実行された。比較例1の硬化した組成物は、完全に硬化したと見なされた。固着強度データを表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
(実施例3〜5)
硬化の程度
実施例1〜2及び比較例1の組成物を分光測光法により分析して、それぞれの代表的な組成物中の未反応の反応性化学基(これらの実施例では、メタクリレート基)の測定値の、比較例1の組成物中の未反応の反応性化学基の測定値に対する比率を算出することによって、硬化の程度を決定した。比較例1の組成物は、完全に硬化したと見なされた。減衰全反射FT赤外分光測光法(Bruker Optics,Inc.、Billerica,MAから入手可能な、HYPERION 2000 FT−IR顕微鏡モデル及びゲルマニウムATR対物レンズを使用)を使用して、実施例1〜2及び比較例1の組成物のそれぞれの赤外線スペクトルを測定した。まず、各試料の1637cm−1及び1510cm−1の吸光度の第1の比率を算出することによって、それぞれの組成物の3つの試料を分析した。次に、実施例1〜2の組成物のそれぞれの第1の比率の、比較例1の組成物の第1の比率に対する比率を算出し、100を乗じて、それぞれの代表的な組成物の硬化の程度(百分率として)を提供した。上記のように、比較例1の組成物は完全に硬化したと見なされたため、比較例1の硬化の程度は、100%であると見なされた。
【0113】
【表2】

【0114】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する特許請求の範囲によってのみ限定されると意図する本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙構造に固着するための歯科矯正用物品であって、
a)基部を有する歯科矯正装具と、
b)前記基部に隣接する、部分的に硬化した硬化性組成物と、
c)前記部分的に硬化した硬化性組成物に隣接する、固着用接着剤と、
を備え、
前記基部又は前記部分的に硬化した硬化性組成物のうちの少なくとも1つが、前記歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する、歯科矯正用物品。
【請求項2】
剥離基材を更に備える、請求項1に記載の歯科矯正用物品。
【請求項3】
前記歯科矯正用物品を囲む容器を更に備え、前記容器がシールを備える、請求項1に記載の歯科矯正用物品。
【請求項4】
前記歯科矯正装具が、歯科矯正ブラケットである、請求項1に記載の歯科矯正用物品。
【請求項5】
前記歯科矯正装具を保持する移動装置を更に備える、請求項1に記載の歯科矯正用物品。
【請求項6】
前記部分的に硬化した硬化性組成物が、95%未満硬化している、請求項1に記載の歯科矯正用物品。
【請求項7】
前記部分的に硬化した硬化性組成物が、接着剤組成物である、請求項1に記載の歯科矯正用物品。
【請求項8】
歯科矯正用物品を歯牙構造に固着する方法であって、
a)硬化性組成物を歯科矯正装具の基部に適用する工程と、
b)前記硬化性組成物を部分的に硬化して、部分的に硬化した硬化性組成物を提供する工程と、
c)前記部分的に硬化した硬化性組成物を伴う前記歯科矯正装具を、前記歯牙構造に向かって前進させる工程と、を含む、方法。
【請求項9】
前記基部又は前記部分的に硬化した硬化性組成物のうちの少なくとも1つが、前記歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記硬化性組成物を部分的に硬化する前記工程が、化学線を前記硬化性組成物に照射する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記部分的に硬化した硬化性組成物が、95%未満硬化する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記硬化性組成物が、接着剤組成物である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記前進させる工程が、前記装具を移動装置で保持する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記部分的に硬化した硬化性組成物に、固着用接着剤を適用する工程を更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記固着用接着剤を硬化する工程を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
歯科矯正固着のための物品を作製するための方法であって、
a)硬化性組成物を歯科矯正装具の基部に適用する工程と、
b)前記硬化性組成物を部分的に硬化して、部分的に硬化した硬化性組成物を提供する工程と、
を備え、
前記基部又は前記部分的に硬化した硬化性組成物の表面のうちの少なくとも1つが、歯牙構造の少なくとも一部分のネガティブ複製の輪郭を有する、方法。
【請求項17】
前記硬化性組成物が、接着剤組成物である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記部分的に硬化した硬化性組成物が、95%未満硬化する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記硬化性組成物を部分的に硬化する前記工程が、化学線を前記硬化性組成物に照射する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記歯科矯正装具が、歯科矯正ブラケットである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
歯牙構造のポジティブ複製を提供する工程を更に含み、前記部分的に硬化した硬化性組成物が、前記基部と前記複製との間に存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記複製及び前記歯科矯正装具のうちの少なくとも1つが、化学線を透過する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記硬化性組成物を部分的に硬化する前記工程が、化学線を前記硬化性組成物に照射する工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記化学線を前記硬化性組成物に照射する工程が、前記化学線の少なくとも一部分を、前記複製及び前記歯科矯正装具のうちの少なくとも1つを通るように照射する工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記複製の少なくとも一部分の上にスペーサ層を形成する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記複製の少なくとも一部分の上に移動装置を形成する工程を更に含み、前記移動装置の少なくとも一部分が前記スペーサ層の上に形成され、前記移動装置が前記装具を保持する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記部分的に硬化した硬化性組成物を前記複製から取り外す工程を更に含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記取り外す工程が、前記移動装置を前記複製から取り除く工程を含む、請求項26に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−505973(P2011−505973A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538017(P2010−538017)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/082952
【国際公開番号】WO2009/075977
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】