説明

部材間の連結装置と高所作業工具の落下防止装置

【課題】 ナス環が係止環部に対して多方向に相対回転しても、係止環部から脱落するおそれがない2部材間の連結装置を提供する。
【解決手段】2部材間の連結装置は、工具21のような第1部材に取り付けられる係止部材1と、これに係止されるナス環3を一端側に有し他端側が作業者の安全帯のような第2部材に係止される連結ロープ2とを具備する。係止部材1は、係止環部6を有し、ナス環3は、フック7と閉止体8とを有する。閉止体8は、先端側がフック7の先端部の湾曲の内側に常時当接してフック7の開放部11を常時閉塞するように弾性的に付勢される。係止環部6の幅Wとフックの湾曲部の内径W0との寸法比は、1に接近して設定され、それによって係止環部6とフック7のどのような相対回転位置においても、係止環部6が閉止体8を外側から開放方向に押圧不可能に構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2つの部材間を連結して両部材間の分離を防止するための連結装置、例えば高所作業工具と作業者の安全帯とを連結する落下防止装置のような連結装置に係り、特に高圧電線の鉄塔における高所作業で用いる停止不良碍子の検出器等の棒状工具が作業中に落下することを防止するのに適した落下防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、停止不良碍子の検出器のような長尺の棒状工具を用いて鉄塔上で作業を行う場合、複数の作業者が共同して行うことがある。工具は、落下防止のために、作業者との間が落下防止ロープで結ばれる。工具には、係止環部を有する係止部材が取り付けられ、落下防止ロープの先端には、係止環部に着脱可能に係止されるナス環が設けられる。共同作業では、鉄塔上で工具の受け渡しを必要とすることがあるが、このとき、工具の落下を防止するために、両作業者の落下防止ロープのナス環が係止環部に接続されたことを確認してから、受け渡し側の作業者がナス環を係止環部から外す作業手順がとられる。
高圧電線の鉄塔における高所作業で用いる検電器や接地工具等が作業中に落下することを防止するための棒状工具の落下防止具として、特許文献1に記載されたものが知られている。この落下防止具は、紐状部材を棒状工具の外周面の全周にわたって少なくとも1周以上密着可能に巻き付けて形成される。紐状部材は、棒状工具の外周面を摺動する弛緩状態と、紐状部材が棒状工具の外周面に密着する締付状態とに変換可能な落下防止環と、落下防止環に連接され、補助ロープのナス環を着脱可能な接続環とを備える。落下防止環に対し、補助ロープ及び接続環を介して、棒状工具の軸方向と交差する方向に力が加わった場合に、落下防止環が弛緩状態から締付状態に変換するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−53835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の棒状工具の落下防止具のような2部材間の連結装置においては、紐状部材の接続環が柔軟で不定形となるので、作業者がナス環を着脱するのに手間取ることがある。例えば図6に示すように、係止部材31を剛性のある金具で構成すれば、この不都合は解消されるが、ナス環33が係止環部32に対して多方向に相対回転可能であるため、図示の(a),(b),(c)のような方向に相対回転すると、閉止体34が係止環部32によって外側から押され(図(b),(c))、フック35が開いて係止環部32から脱落する可能性があるという課題がある。
したがって、この出願に係る発明は、ナス環が係止環部に対して多方向に相対回転しても、係止環部から脱落するおそれがない2部材間の連結装置と高所作業工具の落下防止装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、この出願に係る発明の2部材間の連結装置は、第1の部材に取り付けられる係止部材1と、この係止部材1に係止されるナス環3を一端側に有し他端側が第2の部材に係止される索体2とを具備する。係止部材1は、第1の部材の表面から突出した係止環部6を有する。ナス環3は、フック7と閉止体8とを有し、フック7の基部には索体2の一端が結合されると共に、閉止体8の基端側が枢着される。閉止体8は、先端側がフック7の先端部の湾曲の内側に常時当接してフック7の開放部11を常時閉塞するように付勢される。係止環部6の幅Wとフック7の湾曲部10の内径W0との寸法比は、1に接近して設定され、それによって係止環部6とフック7のどのような相対回転位置においても係止環部6が閉止体8を外側から解放方向に押圧不可能に構成される。
上記2部材間の連結装置を適用した落下防止装置は、高所作業工具21に取り付けられる係止部材1と、この係止部材1に係止されるナス環3を一端側に有し他端側が作業者の安全帯に係止される連結ロープ2とを具備する。係止部材1は、工具21の表面から突出した係止環部6を有する。ナス環3は、フック7と閉止体8とを有する。フック7の基部9には、連結ロープ2の一端が結合されると共に、閉止体8の基端側が枢着される。閉止体8は、先端側がフック7の先端部の湾曲の内側に常時当接してフック7の開放部11を常時閉塞するように弾性的に付勢される。係止環部6の幅Wとフック7の湾曲部10の内径W0との寸法比は、1に接近して設定され、それによって係止環部6とフック7のどのような相対回転位置においても、係止環部6が閉止体8を外側から開放方向に押圧不可能に構成される。
本発明に係る他の2部材間の連結装置及び落下防止装置では、係止環部6が、湾曲した環状に形成され、係止環部6がフック7の湾曲部10の内側に当接する点Xと係止環部6が閉止体8の外側に当接する点Z間の距離R1と、点Xと閉止体8の枢支点Y間の距離R0との比が、1に接近して設定され、それによって係止環部6とフック7のどのような相対回転位置においても、係止環部6が閉止体8を外側から解放方向に押圧不可能に構成される。
【発明の効果】
【0006】
この出願に係る発明の装置によれば、係止環部6とフック7のどのような相対回転位置においても、係止環部6が閉止体8を外側から解放方向に押圧することがないので、作業中、あるいは、例えば連結された工具21の受け渡し中等に、不用意にナス環3が係止環部6から脱落することはなく、2部材間が離れることによる工具の落下のような事故を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る落下防止装置を取り付けた停止不良碍子検出器の正面図である。
【図2】図1の落下防止装置における係止部材の正面図である。
【図3】図1の落下防止装置における係止部材の平面図である。
【図4】係止部材における係止環とナス環との寸法比関係を示す説明図である。
【図5】係止部材における係止環の幅とナス環のフックの内径との関係を示す説明図である。
【図6】従来の脱落防止装置における係止環とナス環との離脱可能性を経過を追って示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して、この発明の2部材間の連結装置を、高所作業工具の落下防止装置に適用した実施の形態を説明する。
図において、高所作業工具としての停止不良碍子検出器21は、伸縮調整自在の長尺丸棒状の柄部22の先端部に、計測対象である碍子の両端に接触させて電位差を検知するためのホーン23を有する。
【0009】
落下防止装置は、作業工具21の柄部22に取り付けられる係止部材1と、この係止部材1にナス環3を介して係止される連結ロープ2とを具備する。連結ロープ2は、一般にカールコードと称される伸縮自在のコードからなり、一端側にナス環3が固着され、他端側は作業者の安全帯Bに係止される。
【0010】
図示の実施形態においては、高所作業工具21の柄部22の軸線方向に離れた適宜位置に、第1、第2の2つの係止部材1a,1bが取り付けられる。各係止部材1a,1bは、柄部22の外周に、円周方向に回転自在に、また所定範囲で軸線方向に移動自在に取り付けられる。軸線方向の移動範囲は、各係止部材1a,1bの上下に位置して柄部22の外周に取り付けられたストッパ4によって規定される。
【0011】
図2,3に示すように、係止部材1は、柄部22の外周に嵌め込まれるガイドリング5と、このガイドリング5の外周から半径方向外側へ突出するように相対向して設けられる一対の係止環部6とを具備する。係止環部6は、金属製の帯板材をほぼ円弧状に湾曲してなる。
【0012】
ナス環3は、公知の構造のもので、フック7と閉止体8とを具備する。フック7は、基部9と基部から延出してほぼJ字状に湾曲した湾曲部10と、開放部11とを有する。基部9には、連結環12を介して連結ロープ2の一端が結合される。基部9にはまた、閉止体8の基端側が枢着される。閉止体8は、先端側がフック7の湾曲部10の先端部内側に当接してフックの開放部11を常時閉塞するように内装ばねにより弾性的に付勢される。
【0013】
係止部材1とナス環3との不用意な離脱を防止するための第1の実施例では、図4に示すように、係止環部6が、滑らかに湾曲した環状に形成され、係止環部6がフック7の湾曲部10の内側に当接する点Xと係止環部6が閉止体8の外側に当接する点Z間の距離R1と、点Xと閉止体8の枢支点Y間の距離R0との比が、1に接近して設定され、それによって係止環部とフックのどのような相対回転位置においても、係止環部6が閉止体8を外側から解放方向に押圧不可能に構成される。すなわち、係止環部6が閉止体8こじることにより、閉止体8が押し開かれる現象が生じるが、閉止体8を押す力は、その力点Zが、閉止体8の枢支点Yから離れるほど大きくなる。したがって、閉止体8が押し開かれないようにするには、力点Zを枢支点Yに近づければよい。そのためには、R1を大きくし、可及的にR0近づける必要がある。係止環部6の曲率半径Rが相対的に小さ過ぎると、R1を大きくとることができない。
【0014】
同第2の実施例では、図5に示すように、係止環部6の幅Wとフック7の湾曲部10の内径W0との寸法比が、1に接近するように設定され、それによって係止環部6とフック7の相対回転範囲を制限し、両者がどのような相対回転位置においても係止環部6が閉止体8を外側から解放方向に押圧することがないように構成される。フック7の湾曲部10の内径W0との寸法比が、1に近いと、フック7の湾曲部10内で、係止環部6が閉止体8を外側からこじる方向に相対回転することができないので、閉止体8の押し開きが防止される。
なお、図1に示すように、例えば、柄部22の先端側の係止部材1(1c)のように、係止部材1は、柄部22の外周に固着することもできる。
【0015】
この発明の実施形態に係る停止不良碍子の検出器のような長尺の作業工具21を鉄塔上において作業者間で受け渡す場合、両作業者の位置関係に応じて、受け取り側作業者の連結ロープ2のナス環3を掛け止められる位置に係止部材1を移動させた上で、受け渡し側作業者が、工具21を受け取り側作業者に差し出す。受け渡し側作業者は、受け取り側作業者が連結ロープ2のナス環3を係止部材1に掛け止めたことを確認してから、自身の連結ロープ2のナス環3を手元の係止部材1から取り外し、受け渡しが完了する。受け渡し中、工具がどのような動きをしても、ナス環3は係止部材1から外れることがなく、万一、工具が作業者の手から離れても、落下するおそれはない。
【0016】
以上の落下防止装置の実施形態は、本発明における、係止部材1とこれに係合するナス環3との特殊条件の組み合わせに係る2部材間の連結装置を具体化したものであることが理解される。
【符号の説明】
【0017】
1 係止部材
1a 係止部材
1b 係止部材
1c 係止部材
2 連結ロープ(索体)
3 ナス環
4 ストッパ
5 ガイドリング
6 係止環部
7 フック
8 閉止体
9 基部
10 湾曲部
11 開放部
12 連結環
21 高所作業工具(第1の部材)
22 柄部
23 ホーン
B 安全帯(第2の部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材に取り付けられる係止部材と、この係止部材に係止されるナス環を一端側に有し他端側が第2の部材に係止される索体とを具備し、
前記係止部材は、前記第1の部材の表面から突出した係止環部を有し、
前記ナス環は、フックと閉止体とを有し、フックの基部には前記策体の一端が結合されると共に、閉止体の基端側が枢着され、閉止体は、先端側がフックの先端部の湾曲の内側に常時当接してフックの開放部を常時閉塞するように付勢され、
前記係止環部の幅と前記フックの湾曲部の内径との寸法比が、1に接近して設定され、それによって係止環部とフックのどのような相対回転位置においても係止環部が前記閉止体を外側から解放方向に押圧不可能に構成されることを特徴とする部材間の連結装置。
【請求項2】
高所作業工具に取り付けられる係止部材と、この係止部材に係止されるナス環を一端側に有し他端側が作業者のベルトに係止される連結ロープとを具備し、
前記係止部材は、前記工具の表面から突出した係止環部を有し、
前記ナス環は、フックと閉止体とを有し、フックの基部には前記連結ロープの一端が結合されると共に、閉止体の基端側が枢着され、閉止体は、先端側がフックの先端部の湾曲の内側に常時当接してフックの開放部を常時閉塞するように付勢され、
前記係止環部の幅と前記フックの湾曲部の内径との寸法比が、1に接近して設定され、それによって係止環部とフックのどのような相対回転位置においても係止環部が前記閉止体を外側から解放方向に押圧不可能に構成されることを特徴とする高所作業工具の落下防止装置。
【請求項3】
第1の部材に取り付けられる係止部材と、この係止部材に係止されるナス環を一端側に有し他端側が第2の部材に係止される索体とを具備し、
前記係止部材は、前記第1の部材の表面から突出した係止環部を有し、
前記ナス環は、フックと閉止体とを有し、フックの基部には前記策体の一端が結合されると共に、閉止体の基端側が枢着され、閉止体は、先端側がフックの先端部の湾曲の内側に常時当接してフックの開放部を常時閉塞するように付勢され、
前記係止環部が、湾曲した環状に形成され、係止環部が前記フックの湾曲部の内側に当接する点Xと係止環部が前記閉止体の外側に当接する点Z間の距離R1と、点Xと閉止体の枢支点Y間の距離R0との比が、1に接近して設定され、それによって係止環部とフックのどのような相対回転位置においても、係止環部が閉止体を外側から解放方向に押圧不可能に構成されることを特徴とする2部材間の連結装置。
【請求項4】
高所作業工具に取り付けられる係止部材と、この係止部材に係止されるナス環を一端側に有し他端側が作業者のベルトに係止される連結ロープとを具備し、
前記係止部材は、前記工具の表面から突出した係止環部を有し、
前記ナス環は、フックと閉止体とを有し、フックの基部には前記連結ロープの一端が結合されると共に、閉止体の基端側が枢着され、閉止体は、先端側がフックの先端部の湾曲の内側に常時当接してフックの開放部を常時閉塞するように付勢され、
前記係止環部が、湾曲した環状に形成され、係止環部が前記フックの湾曲部の内側に当接する点Xと係止環部が前記閉止体の外側に当接する点Z間の距離R1と、点Xと閉止体の枢支点Y間の距離R0との比が、1に接近して設定され、それによって係止環部とフックのどのような相対回転位置においても、係止環部が閉止体を外側から解放方向に押圧不可能に構成されることを特徴とする高所作業工具の落下防止装置。
【請求項5】
前記高所作業工具が、長尺丸棒状の柄部を有し、前記係止部材が、高所作業工具の柄部の外周に、円周方向に回転自在に、所定範囲で軸線方向に移動自在に取り付けられることを特徴とする請求項2又は4に記載の高所作業工具の落下防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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