説明

配備箇所決定装置及びその決定方法

【課題】犯人の逃走方向と施設や地理条件を加味することにより、適切な配備箇所を決定することができる装置を提供する。
【解決手段】配備箇所決定装置1を、犯人の逃走方向や逃走可能範囲を入力する配備情報入力部10と、配備箇所を決定する配備箇所決定処理部20と、抽出結果を表示する配備箇所抽出結果表示部30とで構成する際、配備箇所決定処理部には、逃走可能範囲を多方向に分割した逃走方向範囲を算出する逃走方向範囲算出部201と、逃走方向範囲内の障害物を検索して抽出する地図障害物情報検索部202と、逃走方向範囲算出部で算出した各逃走方向範囲と同範囲内の地理的条件の係数を設定する係数設定部203と、この係数設定部の係数と配備箇所情報データベース207の配備箇所情報により各配備箇所の優先順を算出し、その優先順から配備箇所を抽出する配備箇所抽出部204とを設けて構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、警察や警備等における逃走者捕捉のための配備指示業務において、事案発生時に配備につく箇所を決定する配備箇所決定装置及びその決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
事案の発生した時に、配備箇所の決定等を行うため、従来では例えば特許文献1に記載されているように、事案情報に基づいて警備箇所の決定や、この警備箇所の警備を担当する警備員の決定から指令までを自動的に行ことが提案されている。
これによる警備箇所の決定は、犯人の逃走可能範囲内に位置する配備箇所は、事案の重要度に応じて即ち重要事案と通常事案に区分し、重要事案は配備箇所が厚く(多く)なるように抽出配備箇所の抽出数を変化させるようにしたり、移動型や潜伏型の事案の特性によって、事案発生位置からの距離について優先度を設け、配備箇所を決定している。この優先度は、移動型の事案では、発生場所から遠い方を優先し、潜伏型の事案では、発生場所から近い方を優先させている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−124783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では、配備箇所を決定する条件に犯人の逃走方向や逃走の妨げとなる障害物である警察施設、監視カメラ、信号機や交差点等の障害物情報が加味されていない。このため、犯人がどちらの方向にどのような施設・地理条件で逃走しているかが確実にわかっていても、発生位置から同条件で逃走範囲内の配備箇所が抽出されてしまうから、逃走方向と逆方向に位置する配備箇所や犯人が逃走する可能性の低い方向に位置する配備箇所も抽出されてしまい、適切な配備指令ができない恐れがある。本発明者らは、特願2004−304444号において、事件発生に犯人の逃走方向を加味した逃走可能範囲を算出する際、逃走方向の係数を加味するにあたり、逃走方向を8つの方位に分割して行うことを提案している。
【0005】
本発明の配備箇所決定装置及びその決定方法の目的は、犯人の逃走方向と地理的条件により各配備箇所に優先度を設け、より適切な配備箇所を決定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、配備箇所を決定する際に使用する配備箇所決定装置を、犯人の逃走方向や逃走可能範囲などを入力する配備情報入力部と、事案発生時に配備箇所を抽出して決定する配備箇所決定処理部と、抽出結果を表示する配備箇所抽出結果表示部とで構成するとき、配備箇所決定処理部には、逃走可能範囲を多方向の方位範囲に分割した逃走方向範囲を算出する逃走方向範囲算出部と、地図障害物情報データベースを参照して逃走方向範囲内の障害物を検索して抽出する地図障害物情報検索部と、係数定義ファイルを基に前記逃走方向範囲算出部で算出した各逃走方向範囲と同範囲内の地理的条件の係数を設定する係数設定部と、前記係数設定部の係数と配備箇所情報データベースの配備箇所情報により各配備箇所の優先順を算出し、その優先順から配備箇所を抽出する配備箇所抽出部とを設けるようにしたものである。
【0007】
この配備箇所決定装置を用いて配備箇所を決定するとき、犯人の逃走方向と地理的条件を係数として設定し、配備箇所決定時の優先順の算出条件に加味し、多方向の方位範囲に分割した逃走方向範囲にそれぞれ係数を付加し、各配備箇所について算出した優先順係数から優先順を求め、この高い順に決めることにより配備箇所を適切に決定できるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、犯人の逃走方向範囲及び同範囲内の地理的条件を加味することにより、逃走方向側と逃走を妨げる障害物の少ない範囲内に重きを置いた配備箇所が優先して抽出され、より適切な配備箇所の決定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0010】
本発明の一実施例を図1に示しており、配備箇所決定装置1は、配備箇所を抽出するための諸条件の入力を行う配備情報入力部10と、後述する各要素を備えて適切な配備箇所を抽出する配備箇所決定処理部20と、この抽出結果を表示する配備箇所抽出結果表示部30の各要素により構成される。
【0011】
配備情報入力部10は、配備箇所を抽出するための条件とする犯人の逃走方向及び逃走可能範囲及び配備可能箇所数の入力を行う。通常、逃走可能範囲は、事案発生場所、発生時刻、逃走手段、天候を入力としてシミュレーションにより決定する。
【0012】
配備箇所決定処理部20内には、逃走方向範囲算出部201が設けられ、この逃走方向範囲算出部201において、入力した逃走可能範囲を予め定めた方位範囲に分割した逃走方向範囲を算出する。逃走方向範囲を多数の分割した方位範囲例を、図3に示している。図3の例では、逃走方向範囲を北、東、南、西、北東、南東、南西、北西の8つの方位範囲に分割したものである。この逃走方向範囲の分割数については、12分割や16分割の方位範囲とすることもできるが、計算時間やデータ入力者の管理を考慮して適宜設定する。
【0013】
また、配備箇所決定処理部20内には、地図障害物情報検索部202が設けられ、ここで地図障害物情報データベース(以下DBと略称する)205に格納されている地図障害物情報の中から、算出した逃走方向範囲内に位置する障害物を検索して抽出を行う。地図障害物情報DB205には、例えば警察署や交番、監視カメラ、信号機や交差点等の犯人の逃走を妨げる要因となるものや、犯人が逃走経路として計画しにくい情報が、障害物情報として格納している。この障害物情報は、配備箇所決定装置1の管理者が、時間帯や発生場所付近の施設・地理条件により、状況に応じて追加や変更ができるようにする。例えば、夜間ならば24時間営業のコンビニを追加し、発生場所が河川沿いならば橋を追加する。
【0014】
配備箇所決定処理部20内に設ける係数設定部203は、算出した逃走方向範囲と障害物情報から、係数定義ファイル206を用いて犯人の逃走方向に関する係数と地図障害物情報に関する係数を設定する。
【0015】
図4(a)は、逃走方向範囲の係数と、地図障害物情報の係数の加味する仕方を表している。逃走方向範囲の係数については、8つに分割したそれぞれの方位範囲に係数T1からT8まで持たせる。この図の設定例では、係数の範囲を0.4〜1.4としている。逃走方向に当たる方位範囲の係数を1.4とし、次にその方向に近い方位範囲の係数を1.2、以降逃走方向から逆方向に向かうに従って順に係数値を小さく設定している。この逃走方向範囲の係数値は、係数定義ファイル206に定義されており、各係数T1〜T8は、入力された逃走方向によって決定される。
【0016】
地図障害物情報の係数は図4(c)に示すように、上記の逃走方向範囲係数と同様に、8分割したそれぞれの逃走方向範囲に係数M1からM8まで持たせる。この各係数M1からM8は、地図障害物情報検索部202で抽出した障害物の内、それぞれの逃走方向範囲内に位置する障害物の数により設定される。
【0017】
例えば、図4(b)の障害物情報の設定では、ランクA〜Eの5段階に分け、この各ランクA〜Eに対応する地図障害物情報の係数設定値を0.8〜1.2としている。障害物の最も少ない範囲については、犯人が逃走経路として計画する可能性が高いことを考慮して例えば1.2とし、逆に障害物が最も多い範囲は0.8と小さく設定している。このランクA〜E別の係数設定値は、係数定義ファイル206に定義されており、逃走可能な方位範囲の各係数M1〜M8は、このランクによって決定される。ランク分けの分割数や数値範囲については、配備箇所決定装置1の管理者が事案の発生場所付近が市街地か郊外などの地理的条件を考慮し、状況に応じて変更できる。
【0018】
上記のように設定した逃走方向範囲の係数T1〜T8と、地図障害物情報の各ランクA〜Eの係数設定値0.8〜1.2とを使用し、優先順係数を算出して優先順係数を求め、これから優先順を決定する。
【0019】
図5(a)には、事案の発生場所からの逃走方向が北の場合で、発生場所を中心として8分割した各方位範囲における配備箇所と障害物数を表示している。
【0020】
配備箇所の優先順の決定する優先順係数Pは、図5(b)に示し如く逃走方向の8分割した方位範囲でそれぞれ定めた係数T1〜T8と地図障害物情報の係数M1〜M8とを用い、それぞれの逃走方向範囲で算出する。この例では、逃走方向である北に比べて、障害物の少ない北東や東の方位範囲が、優先順係数が高く算出される結果となる。
【0021】
図5(c)に示す各配備箇所H1〜H4は、事案の重要度や特性による優先順は同一とし、この優先順係数を用いて各配備箇所に優先順を設定すると、逃走方向の方位範囲による優先順は、配備箇所H11→H2、H3→H4となるが、これに障害物情報を加味すると、優先順は配備箇所H2→H4→H1→H3の順になる。優先順係数の算出に地図障害物情報を、より重視する場合は、地図障害物情報の係数を更に大きくすればよい。
【0022】
配備箇所決定処理部20内の配備箇所抽出部204では、上述したように係数設定部203で設定された優先順に従って、優先順の高い逃走方向の方位範囲内に存在する配備箇所から配備箇所を決定する。配備箇所の抽出は、配備箇所情報DB207に予め格納されている配備箇所について行うものであるが、このすべてについて行う必要はなく、より早く配備箇所を抽出するために、配備情報入力部10で入力された配備可能箇所の数に達したときに終了する。
【0023】
配備箇所抽出結果表示部30では、配備箇所の抽出結果を画面上に表示する。逃走方向を北としたとき、地図障害物を考慮した場合の配備箇所抽出例を、図6に示している。このように、逃走方向側に位置する配備箇所が優先されるが、逃走方向側でも障害物の少ない方位範囲内の配備箇所が、優先的に決定される。
【0024】
この配備箇所決定装置1では、図2のフローに示す手順により、適切な配備箇所の抽出を行うものである。まず、事案発生時に管理者が配備箇所情報入力部10から、事案の逃走可能範囲や逃走方向の入力を行うと共に、事案の発生場所より該当地点の管轄署で、配備につける箇所数も入力する(ステップS1)。
【0025】
次に、逃走方向範囲算出部201において、入力した逃走可能な方位範囲として予め定めた多方向である例えば、北、東、南、西、北東、南東、南西、北西の8方向に分割した逃走方向範囲を算出する(ステップS2)。
【0026】
続いて、地図障害物情報検索部202において、地図障害物情報DB205に格納されている全地図障害物情報の中から、ステップS2で算出した逃走方向の各方位範囲内に位置する障害物を検索する(ステップS3)。
【0027】
その後、係数設定部203において、係数定義ファイル206中の逃走方向範囲係数テーブルを参照し、ステップS2で算出した各逃走方向範囲について、犯人の逃走方向に関する逃走方向範囲係数の値を設定し(ステップS4)、続いて同様に係数定義ファイル206中の地図障害物情報係数テーブルを参照すると共に、ステップS3で抽出した障害物の数から算出したランクを考慮し、同様に地図障害物情報の係数の値を設定する(ステップS5)。
【0028】
ステップS6では、ステップS4、S5で設定した逃走方向範囲係数と地図障害物情報係数より、各逃走方向範囲の優先順係数を求める。
【0029】
配備箇所情報DB207に格納されている全配備箇所情報の中から、逃走可能な方位範囲内の配備箇所を検索し、抽出をする。抽出した各配備箇所について、ステップS6で算出した優先順係数より優先順を設定し、優先順の高い箇所から配備箇所を決定するものであり、この配備箇所の抽出は、ステップS1で入力した配備可能箇所数に達した時点で終了する(ステップS7)。
【0030】
ステップS7の抽出結果は、画面上に表示(ステップS8)し、配備箇所決定装置1の管理者は、抽出表示された結果を基に配備箇所の手配を行うことになる。この決定方法により、犯人の逃走方向と施設や地理条件を考慮して、より適切な配備箇所を決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例である配備箇所決定装置の構成図である。
【図2】本発明の配備箇所決定装置を用いた配備箇所決定のフロー図である。
【図3】本発明の配備箇所決定装置における逃走方向範囲の方位範囲の分割例である。
【図4】本発明の配備箇所決定装置における逃走方向範囲の係数と地図障害物の係数の持たせ方及び係数値の設定例である。
【図5】本発明の配備箇所決定装置における配備箇所優先順の設定例である。
【図6】本発明の配備箇所決定装置における逃走方向と障害物を考慮した場合の配備箇所抽出例である。
【符号の説明】
【0032】
1…配備箇所決定装置、10…配備情報入力部、20…配備箇所決定処理部、30…配備箇所抽出結果表示部、201…逃走方向範囲算出部、202…地図障害物情報検索部、203…係数設定部、204…配備箇所抽出部、205…地図障害物情報DB、206…係数定義ファイル、207…配備箇所情報DB。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
犯人の逃走方向や逃走可能範囲などを入力する配備情報入力部と、事案発生時に配備箇所を抽出して決定する配備箇所決定処理部と、抽出結果を表示する配備箇所抽出結果表示部とを備えた配備箇所決定装置において、
前記配備箇所決定処理部には、逃走可能範囲を多方向の方位範囲に分割した逃走方向の方位範囲を算出する逃走方向範囲算出部と、地図障害物情報データベースを参照して逃走方向範囲内の障害物を検索して抽出する地図障害物情報検索部と、係数定義ファイルを基に前記逃走方向範囲算出部で算出した各逃走方向範囲と同範囲内の地理的条件の係数を設定する係数設定部と、前記係数設定部の係数と配備箇所情報データベースの配備箇所情報により各配備箇所の優先順を算出し、その優先順から配備箇所を抽出する配備箇所抽出部とを設けて構成したことを特徴とする配備箇所決定装置。
【請求項2】
事案発生時に事案の逃走可能範囲と逃走方向の入力を行うと共に、事案の発生場所より該当地点の管轄署で配備につける配備可能箇所数を入力し、入力した前記逃走可能範囲を多方向の方位範囲に分割した逃走方向範囲を算出し、地図障害物情報データベースに格納されている全地図障害物情報の中から、算出した前記逃走方向範囲内に位置する障害物を検索して抽出し、算出した前記各逃走方向範囲に犯人の逃走方向に関する係数値を設定すると共に、算出した前記各逃走方向範囲に、抽出した障害物の数から算出したランクで定める地図障害物情報に関する係数値を設定し、設定した前記逃走方向範囲係数と前記地図障害物情報係数より、各逃走方向範囲の優先順係数を算出し、配備箇所データに格納されている全配備箇所の中から、前記逃走可能範囲内の配備箇所を検索して抽出し、抽出した各配備箇所について算出した優先順係数より優先順を求めて、優先順の高い箇所から配備箇所を決定し、配備箇所の抽出結果を画面上に表示することを特徴とする配備箇所決定方法。
【請求項3】
請求項2の配備箇所決定方法において、前記逃走可能範囲内の配備箇所の抽出は、事案発生時に入力した配備可能箇所数に達した時点で終了することを特徴とする配備箇所決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−4464(P2007−4464A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183647(P2005−183647)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(390023928)日立エンジニアリング株式会社 (134)
【Fターム(参考)】