説明

配管洗浄方法

【課題】チクソトロピック性の高い機能性液体に対し、配管を分解することなく効果的に洗浄することができ、既存の液供給ラインに対しても適用可能な洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】配管内に、平板を螺旋状に捻った形状に成形した螺旋状エレメントを挿入し、配管内壁面における洗浄液の流速を高めることにより配管内壁面の付着物を洗浄することを特徴とする配管内の洗浄方法である。また、前記螺旋状エレメントは、可撓性を有する素材によって構成されたことを特徴とする洗浄方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内の洗浄方法において、チクソトロピック性の高い液の残液に対し、配管を分解することなく洗浄する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性フィルムの開発が盛んであり、市場にもこれらの製品が多く出回っている。そして、これらフィルムの機能性膜の中には、極端なチクソトロピック性を持つ塗工液を、薄膜コーティング技術により基材上に塗工することにより、その機能を現出させているものがある。チクソトロピック性を持つ塗工液として、カーボンと白金触媒が分散した燃料電池用の触媒層用塗工液などが挙げられる。そのような液を流した後の配管は、液のチクソトロピック性により、内部に塗工液が詰まった状態で保持される。残液を溶剤等の洗浄液で洗い流そうとすると、まず圧力の掛かりやすい配管の中心付近に溶剤が流れる。その後は圧力の抜けた中心部のみ液が流れ、配管壁面に付着した残液は、一向に洗い流すことができない。さらに、枝管が多い場合には、先端付近の細い配管には圧力が掛からずに溶剤すら流すことができない。また、配管に付着した残液を放置した場合、時間の経過とともに壁面に厚く堆積し、ある時期に配管壁から剥がれ落ちることが起こる。多くの機能性塗工液は活性を保てる時間に制約があり、配管壁面から剥がれた活性を失った液が混ざった部分は機能を発現させることができず、不良品を生産してしまうことにもなり得る。また、そのような失活した液が混ざっていることを塗工前に発見できたとしても、失活した液の混じった塗工液は廃棄せねばならず、一般的に高価な機能性塗工液を廃棄することは重大な不経済である。
【0003】
上記の理由により、極端なチクソトロピック性を持つ塗工液を扱う場合、装置内配管は、作業が終了する度に分解洗浄する必要があった。しかし、分解洗浄を行うことは、配管内残液が飛び散ったり、作業者に残液が掛かるなどの危険も伴う。特に、強酸、強アルカリ性液を扱う場合には慎重な作業が求められ、作業者には非常に強い負荷が掛かっていた。また、分解洗浄をすることにより、配管内にコンタミが入ってしまう可能性があり、機能性塗工液に対してはこの問題も非常に大きなものであった。
【0004】
配管内を洗浄する方法として、以下に説明するような各種方法が提案されている。
下記特許文献1には、処理液供給ライン下流に大径配管と小径配管を並列に分岐配管接続し、大径配管と小径配管ともに流す強流ラインおよび小径配管のみ流す弱流ラインの切り替えにより、上流も含めた処理液供給ライン内の圧力を変化させ、また、処理液供給ライン内を流れる処理液の流量を変化させることで配管内の洗浄を行う方法が記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1に開示された方法においては、強流ラインから弱流ラインへ液を流しながら切り替える際には、配管内圧力が非常に高くなり、通常の配管やバルブ部品を用いた場合、配管、バルブの破損や、場合により破裂などを引き起こす恐れがあり、それを防ぐために処理液供給ライン全体に専用の配管やバルブを用いることは不経済である。また、供給ライン内の圧力および流量を変化させたとしても、配管内壁面に付着したチクソトロピック性を持つ液を洗い流すことは難しい。
【0006】
下記特許文献2には、配管内などの液体の流通経路内に圧縮気体を吹き込み、諸経路内の洗浄用液体中に圧縮気体を混合することによって洗浄用液体を乱流状態とすることにより、配管内を洗浄する方法が開示されている。乱流状態では、流通経路内の洗浄用液体中を圧縮気体が混合、通過する時、液体が少なくとも局部的に強制対流され、渦が発生し、
流通経路内に付着した汚染物質の除去が効率よく行われるとする記載がある。
【0007】
しかし、特許文献2に記載された方法においては、極端にチクソトロピック性の高い液体に用いた場合、まず圧力の掛かりやすい配管の中心付近に洗浄用液体および圧縮気体が流れる。その後は圧力の抜けた中心部のみ液および圧縮気体が流れ、配管壁面に付着した残液は、一向に洗い流すことができない。
【0008】
下記特許文献3には、洗浄対象配管内にワイヤを通し、ワイヤに取り付けられた洗浄対象配管の内壁に当接可能な洗浄用冶具を配管内に挿入し、この冶具を配管内で移動させて内壁に付着した付着物を剥離し、剥離された付着物を洗浄対象配管外へ取り出して回収する方法が記載されている。
【0009】
特許文献3に記載された方法においては、洗浄対象配管内にワイヤを通す際に、配管を一部分解せねばならず、分解前には配管内残液を抜く必要があり、チクソトロピック性の高い液では配管内の残液を抜くことは困難である。また、前述したように、分解洗浄を行うことは、配管内残液が飛び散る、作業者に掛かるなどの危険も伴う。特に、強酸、強アルカリ性液を扱う場合、作業者には非常に強い負荷が掛かる。また、分解洗浄をすることにより、配管内にコンタミが発生する可能性があり、機能性塗工液に対してはこの問題も非常に大きな問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-279320号公報
【特許文献2】特開平3-288582号公報
【特許文献3】特開2009-41211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は掛かる問題に鑑みてなされたもので、チクソトロピック性の高い機能性液体に対し、配管を分解することなく効果的に洗浄することができ、既存の液供給ラインに対しても適用可能な洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、配管内に、平板を螺旋状に捻った形状に成形した螺旋状エレメントを挿入し、配管内壁面における洗浄液の流速を高めることにより配管内壁面の付着物を洗浄することを特徴とする配管内の洗浄方法である。
【0013】
請求項1記載の配管洗浄方法では、配管内に螺旋状のエレメントを挿入することで、配管の長さが変わらなくても、配管内の流路は長くなり、また、狭くなる。この結果、同じ流量の洗浄を流しても、螺旋状のエレメントが挿入された配管では配管内を流れる洗浄液の流速が大きくなる。さらに、配管壁面付近では慣性エネルギーの作用も働き、最も洗浄効果が高くなる。つまり、請求項1記載の配管洗浄装置では、高チキソ性液に対し、洗浄液を流すだけで配管内の流速が高まり、壁面の付着物を洗浄することが可能である。
【0014】
螺旋状のエレメントは、配管内に常に挿入しておけば良く、配管内から取り出す必要は無い。螺旋状のエレメント部分でも流速が高くなるため、エレメントに残液が付着することもない。さらに、請求項1記載の方法では、配管内に螺旋状のエレメントを挿入するだけでその効果が得られることから、既存の配管ラインでも、エレメントを挿入することで、全く同様の効果を得ることができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記螺旋状エレメントが、可撓性を有する素材によって構成されたことを特徴とする請求項1記載の洗浄方法である。
【0016】
請求項2記載の配管洗浄方法では、請求項1記載の螺旋状のエレメントについて、可撓性を有する素材で構成することを特徴としている。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、配管内に供給する洗浄液の流速を変化させるために、洗浄液を供給するポンプを間欠運転させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の洗浄方法である。
【0018】
請求項3記載の配管洗浄方法では、請求項1または請求項2記載の洗浄方法に対し、ポンプを間欠運転させることで流速を変化させ、洗浄液の慣性により、管内にウォーターハンマーによる衝撃流を発生させ、より高い洗浄効果を得ることができる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明は、前記ポンプが、ダイヤフラムポンプであることを特徴とする請求項3記載の洗浄方法である。ダイヤフラムポンプを用いることで周期的に流速を変化させ、洗浄液の慣性により、管内に衝撃流を発生させ、より高い洗浄効果を得ることができる。
【0020】
また、請求項5に記載の発明は、配管洗浄後の洗浄液を再びポンプに供給し、循環洗浄を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の洗浄方法である。循環洗浄させることにより、洗浄液の使用量を抑えることができる。
【0021】
また、請求項6に記載の発明は、洗浄液の比重を監視することにより、洗浄完了を確認することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の洗浄方法である。洗浄液の比重を常に監視することで、機能性液の比重から、洗浄液の比重に変わった時点で洗浄を停止することができ、洗浄に掛かる洗浄液や洗浄時間のロスを無くすことができる。
【0022】
また、請求項7に記載の発明は、洗浄液の比重を監視することにより、洗浄完了を確認することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の洗浄方法である。洗浄液の粘度を常に監視することで、機能性液の粘度から、洗浄液の粘度に変わった時点で洗浄を停止することができ、洗浄に掛かる洗浄液や洗浄時間のロスを無くすことができる。
【0023】
また、請求項8に記載の発明は、洗浄液の濁度を監視することにより、洗浄完了を確認することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の洗浄方法である。洗浄液の濁度を常に監視することで、機能性液の濁度から、洗浄液の濁度に変わった時点で洗浄を停止することができ、洗浄に掛かる洗浄液や洗浄時間のロスを無くすことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。
即ち、上記請求項1に係る発明においては、高チクソトロピック性液に対し、洗浄液を流すだけで配管内の流速が高まり、壁面の付着物を洗浄することが可能である。請求項2に係る発明においては、可撓性を有する素材により構成されるエレメントを使用することにより、曲率を持った配管に対しても高い洗浄効果を得ることができる。請求項3および請求項4に係る発明においては、配管内の流速を変化させ、洗浄液の慣性により、管内に衝撃流を発生させ、より高い洗浄効果を得ることができる。請求項5に係る発明においては、循環洗浄させることにより、洗浄液の使用量を抑えることができる。請求項6乃至8に係る発明においては、洗浄液の比重、または粘度、または濁度を常に監視することで、機能性液の比重、または粘度、または濁度から、洗浄液の比重、または粘度、または濁度に
変わった時点で洗浄を停止することができ、洗浄に掛かる液や時間のロスを無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】配管内に挿入される螺旋状エレメントの説明図。
【図2】本発明を二液混合ラインに適用した場合の構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体例を図面に従って詳細に説明する。但し、以下に示す実施例は、本発明による配管洗浄方法を例示するものであり、本発明を以下に示す実施例に特定することを意図するものではない。
【0027】
図1は、配管内に挿入される螺旋状エレメントの説明図である。螺旋状エレメント2は、平板を螺旋状に捻った形状に成形した部材であり、外径が配管1の内径にぴったり納まる寸法になっている。
【0028】
螺旋状エレメント2に用いられる材料は、特に限定されず、目的により任意に選択することが可能である。例えば、チタン、アルミ、銅、あるいはガラス、セラミックスなどを選択することが可能である。多くの工業的利用においては、金属を用いることが多く、特に機能性液体に対してはステンレス鋼が広く用いられる。曲率を持ったエルボなどの配管に対しては、樹脂材料に代表される、柔軟性を持った素材により構成されるエレメントを使用することができる。特に、エンジニアリングプラスチックを用いることにより、強度、加工精度、耐薬液性能など、求める性能を満足することができる。機能性液体に対しては、フッ素樹脂材料が広く用いられる。
【0029】
螺旋状エレメント2の厚さについては、エレメントの強度や使用部位などにより最適な設計とする。通常の用途であれば、1.0mm以上、3.0mm以内に設定すると良い。
【0030】
また、螺旋状エレメントの捻り具合については、配管内を流す液の持つチクソトロピック性や圧損との兼ね合いにより最適な設計とする。通常の用途であれば、エレメントが180度捻られる長さを、配管内径に対し、1対1となるように設定すると良い。
【0031】
図2は本発明の配管洗浄方法を二液混合調液システムに適用した場合の構成を示した説明図である。この二液混合調液システムは、材料液であるA液およびB液について、A液給液タンク3よりA液送液ポンプ5を用いてA液を送り込み、もしくはB液給液タンク7よりB液送液ポンプ9を用いてB液を送り込み、スタチックミキサー11によりインラインで混合し、次工程に送り出すシステムとなっている。なお、スタチックミキサー以降は、螺旋状エレメントが挿入された配管12となっている。
【0032】
また、本実施例の二液混合調液システムでは、A液およびB液単体ではチクソトロピック性を持たず、A液とB液を混合した際に初めて、チクソトロピック性が現れることを想定した構成となっている。
【0033】
本実施例の二液混合調液システムを使用した後、スタチックミキサー以降の配管内にはチクソトロピック性を持った混合液により満たされた状態となっている。そこで、A液給液タンクおよびB液給液タンクに洗浄溶剤を入れ、ポンプを用いて送液を行う。単純に送液を行うだけでも、スタチックミキサー以降の配管には螺旋状エレメントが挿入されているため、配管内を流れる洗浄液の流速が上がり、さらに配管壁面付近では慣性エネルギーの作用も働くため、配管壁面に付着したチクソトロピック性を持つ混合液を洗い流すことができる。
【0034】
単純に洗浄液を送液するだけでも配管内の混合液を洗い流すことができるが、それぞれの送液ポンプを間欠運転させることで、流速を変化させ、洗浄液の慣性により、管内に衝撃流を発生させ、より高い洗浄効果を得ることができる。また、それぞれの送液ポンプをダイヤフラムポンプとすることで、同様に送液時の流速を変化させ、洗浄液の慣性により、管内に衝撃流を発生させ、より高い洗浄効果を得ることができる。
【0035】
本実施例の二液混合調液システムでは、次工程へ流すラインと、供給タンクへ戻すラインが三方弁14により選択できる。このため、混合調液時には次工程へ流し、洗浄時には洗浄液を供給タンクへ戻すことにより、循環洗浄が可能となり、使用洗浄液量を減らすことができる。図には示していないが、循環ラインの配管には螺旋状エレメントが挿入されている。
【0036】
本実施例の二液混合調液システムでは、混合後の液について、比重計、または粘度計、または濁度計13により、均質に混合されたかを監視している。洗浄時にもこの計器を用いて、洗浄液の比重、または粘度、または濁度を監視することで、混合液の残液から、洗浄液の比重または粘度または濁度に変わった時点で洗浄を停止することができ、洗浄に掛かる洗浄液や洗浄時間のロスを無くすことができる。もちろん、計器をそれぞれ併用することも有効である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・配管
2・・・螺旋状エレメント
3・・・A液給液タンク
4・・・A液給液タンクバルブ
5・・・A液送液ポンプ
6・・・A液送液ポンプバルブ
7・・・B液給液タンク
8・・・B液給液タンクバルブ
9・・・B液送液ポンプ
10・・・B液送液ポンプバルブ
11・・・スタチックミキサー
12・・・螺旋状のエレメントが挿入された配管
13・・・比重計、または粘度計、または濁度計
14・・・出口三方弁
15・・・循環用ポンプ
16・・・循環用三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内に、平板を螺旋状に捻った形状に成形した螺旋状エレメントを挿入し、配管内壁面における洗浄液の流速を高めることにより配管内壁面の付着物を洗浄することを特徴とする配管内の洗浄方法。
【請求項2】
前記螺旋状エレメントは、可撓性を有する素材によって構成されたことを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
配管内に供給する洗浄液の流速を変化させるために、洗浄液を供給するポンプを間欠運転させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記ポンプは、ダイヤフラムポンプであることを特徴とする請求項3記載の洗浄方法。
【請求項5】
配管洗浄後の洗浄液を再びポンプに供給し、循環洗浄を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の洗浄方法。
【請求項6】
洗浄液の比重を監視することにより、洗浄完了を確認することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の洗浄方法。
【請求項7】
洗浄液の粘度を監視することにより、洗浄完了を確認することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の洗浄方法。
【請求項8】
洗浄液の濁度を監視することにより、洗浄完了を確認することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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