説明

配電系統の電圧調整装置および電力制御システム

【課題】配電系統に設置される電圧調整装置を効果的に制御し配電系統の電圧を適正に維持する。
【解決手段】タップ付変圧器を備え、タップ付変圧器の二次側電圧が所定時間を経過して所定電圧を超えるときにタップ位置を調整する配電系統に設置された配電系統の電圧調整装置であって、タップ付変圧器の、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分から一次側電圧の許容領域を定め、計測した一次側電圧が一次側電圧の許容領域内にあるときに、タップ付変圧器における所定時間を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統の電圧調整装置および電力制御システムに係り、特に複数台の電圧調整装置を、自端情報で協調動作させ、電圧維持や運用効率化を可能とする配電系統の電圧調整装置および電力制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
配電系統の電圧は、配電用変電所に設置された変圧器(負荷時タップ切替変圧器LRT:Load Ratio Control Transformer)のタップ切替や、配電線上に設置された自動電圧調整器(SVR:Step Voltage Regulator)などのタップ切替によって制御される。
【0003】
これらの電圧調整装置(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)は、タップの切替までに一般的に数十秒の応答時定数で動作するように設定されている。また複数の電圧調整装置が線路に直列に設置される場合、線路(フィーダ)の末端側に設置される電圧調整装置は、変電所側(送出し側)に設置される電圧調整装置よりも応答時定数を遅く設定するのが一般的である。これにより、末端側の電圧調整装置の不要な動作を少なくしている。
【0004】
一方で、これらの電圧調整装置の応答時定数は、負荷や太陽光発電出力など、早く変化する電力に起因する電圧変動の現象に比べて遅く、したがって可能であればできるだけ早い応答時定数とすることが望ましい。そのためには、応答時定数も含めて、線路電圧降下補償装置LDC(Line Drop Compensator:系統の電圧低下を補償するように負荷時タップ切替変圧器LRTや、自動電圧調整器SVR二次側電圧を決定する制御装置)の整定、タップ制御を適切に行う必要がある。
【0005】
電圧調整装置(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)の制御方法として、次のような手法が示されている。例えば、非特許文献1には、自動電圧調整器SVRにおいて、自端の二次側電圧と通過電流と力率からタップ値を決定する方法が示されている。また、特許文献1には、通信ネットワークを介して収集した計測情報を元に、遺伝的アルゴリズムで複数の電圧調整装置のタップを決定する制御手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−232067公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「線路電圧調整器の進歩と適用」現代の配電技術、電気書院 128−134頁(1972年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の非特許文献1に記載の方法では、複数台の電圧制御装置を協調させて動作させる制御が想定されていない。そのため、自動電圧調整器SVRの応答時定数を、ハンチング防止のために末端側ほど遅く設定する必要があり、したがって系統末端ほど電圧制御が遅くなり、電圧逸脱時間の増大につながる問題がある。
【0009】
具体的には、例えば、太陽光発電が多数フィーダに設置されているような場合、フィーダ末端側のみ曇って日射が低減してくるようなケースでは、末端側の自動電圧調整器SVRのみが動作すればよい。また、この他にも、フィーダ末端側にオール電化住宅が集中したり、末端側に出力変化を伴う誘導機のような負荷が設置されたり、電気自動車の急速充電器が設置されるようなケースも同様の現象となる。
【0010】
また、特許文献1に記載の方法では、複数台の自動電圧調整器SVRの計測値収集のために、通信ネットワークが必要となる。
【0011】
本発明は、複数台の電圧調整装置(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)を、通信情報を使うことなく、自端情報で動作させることで、電圧維持および運用効率化を可能とする配電系統の電圧調整装置および電力制御システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の特徴とするところは、タップ付変圧器を備え、タップ付変圧器の二次側電圧が所定時間を経過して所定電圧を超えるときにタップ位置を調整する配電系統に設置された配電系統の電圧調整装置であって、タップ付変圧器の、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分から一次側電圧の許容領域を定め、計測した一次側電圧が一次側電圧の許容領域内にあるときに、タップ付変圧器における所定時間を短縮する。
【0013】
また、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分として、タップ付変圧器の通過有効電力および無効電力あるいは、電流の実部および虚部を用いる。
【0014】
また、タップ付変圧器を備えた電圧調整装置は、配電用変電所の負荷時タップ切換え変圧器LRT、配電線路上の自動電圧調整器SVR、半導体電圧調整器TVR、または電圧調整機能付き柱上変圧器である。
【0015】
また、一次側電圧の許容領域は、基準電圧を基準とし、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分の変動により定まる領域とされる。
【0016】
本発明の特徴とするところは、タップ付変圧器を備え、タップ付変圧器の二次側電圧が所定時間を経過して所定電圧を超えるときにタップ位置を調整する電圧調整装置が、配電系統に複数直列設置された配電系統の電力制御システムであって、複数直列設置された電圧調整装置は、その所定時間が配電系統の末端側ほど長時間に設定されており、かつ各電圧調整装置は、そのタップ付変圧器の、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分から一次側電圧の許容領域を定め、計測した一次側電圧が一次側電圧の許容領域内にあるときに、タップ付変圧器における所定時間を短縮する。
【0017】
また、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分として、タップ付変圧器の通過有効電力および無効電力あるいは、電流の実部および虚部を用いる。
【0018】
また、タップ付変圧器を備えた電圧調整装置が、配電用変電所の負荷時タップ切換え変圧器LRT、配電線路上の自動電圧調整器SVR、半導体電圧調整器TVR、または電圧調整機能付き柱上変圧器である。
【0019】
また、一次側電圧の許容領域は、基準電圧を基準とし、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分の変動により定まる領域とされる。
【0020】
本発明の特徴とするところは、タップ付変圧器と、タップ付変圧器の二次側電圧が所定時間を経過して所定電圧を超えるときにタップ位置を調整するタップ制御装置を備え、配電系統に設置された配電系統の電圧調整装置であって、タップ付変圧器の、一次側電圧と、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分を求めるセンサ部と、センサ部の出力に乗ずるパラメータを保持するパラメータデータベースと、センサ部からの電流を含む一次側電気量の有効分と無効分と、パラメータデータベースのパラメータからタップ付変圧器の一次側電圧の許容領域を定める計算部と、計測した一次側電圧が一次側電圧の許容領域内にあることを判定し、タップ制御装置における所定時間を短縮する時定数決定部を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電圧自動調整装置および電力制御システムにより、系統の状態に応じて、電圧自動調整装置の動作時定数を動的に変更することで、電圧維持を適切に行い、電圧逸脱時間を低減し、電圧余裕を拡大することができる効果がある。
【0022】
また、本発明のそれ以外の効果については、明細書中で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】配電系統と電圧調整装置の構成例を示す説明図。
【図2】自動電圧調整器SVRのタップ制御装置の構成を示す図。
【図3】タップによって電圧を下げる場合の電圧経過を示す図。
【図4】複数台の自動電圧調整器SVRが設置された系統の一例を示す図。
【図5】自動電圧調整器300の一次側電圧値Vr1と、自動電圧調整器301の理想的な電圧値Vs1’の関係を示す図。
【図6a】電流実部Ir、電流虚部Iqと電圧Vr1を各軸に定義した3次元座標図。
【図6b】有効電力Pr1、無効電力Qr1と電圧Vr1を各軸に定義した3次元座標図。
【図7】本発明の自動電圧調整器SVRのタップ切換え処理フロー図。
【図8a】従来例によるときのタップ操作事例を示す図。
【図8b】本発明によるときのタップ操作事例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0025】
本発明の一実施例を示す図1は、電圧調整装置(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)が、複数設置された配電系統100(フィーダ)の一例を示した図である。但しここでは、電圧調整装置として自動電圧調整器SVRを配置した例を示しているが、これは負荷時タップ切替変圧器LRTとしてもよい。この図で示される典型的な配電系統100は、ノード(母線)120およびそれらを接続する配電線路140、ノード120に接続される負荷150や発電機130、配電線路に設置されるセンサ170などで構成される。
【0026】
ここで、配電用変電所は図示の左側方向に設置(図示せず)されており、左側をフィーダの送出し側、右側をフィーダの末端側と呼ぶこととする。自動電圧調整器300、301は、線路140に直列に設置され、線路電圧を調整する電圧調整装置である。この例では、第1の自動電圧調整器301の二次側(線路末端側)に第2の自動電圧調整器300が直列に設置されている。
【0027】
自動電圧調整器SVRは、配電用変電所における負荷時タップ切替変圧器(LRT:Load Ratio Control Transformer)であってもよいが、例えば自動電圧調整器300に例示されるように、単巻変圧器とタップチェンジャで構成される変圧器305と、制御部分を備える。また、複数の自動電圧調整器SVRは、線路に直列に設置されている。
【0028】
図1の自動電圧調整器SVRの制御部分は、配電線路の電気量を測定するセンサ170、変圧器のタップを制御するタップ制御装置310、タップ制御時定数を決定するタップ時定数決定装置400で構成される。本発明においては、従来からのタップ制御装置310に対し、本発明においてはタップ時定数決定装置400を用いてタップ変更時定数Tsvrを可変に調整する。タップ制御装置310とタップ時定数決定装置400は、係る関係にあるので、まず図2を用いて従来のタップ制御の考え方を説明する。
【0029】
図2には、自動電圧調整器300の主回路である単巻変圧器303、タップチェンジャ302と、制御装置であるタップ制御装置310が記載されている。タップ制御装置310は、計測部320、線路電圧降下補償回路(LDC)330、タイマ340を備え、単巻変圧器303の二次側電圧を所定値に制御すべくタップチェンジャ302を操作している。
【0030】
タップ制御装置310の計測部320には、配電線路の二次側電流Isvrを測定するセンサ311、および二次側電圧Vsvrを測定するセンサ312が接続される。
【0031】
線路電圧降下補償回路(LDC)330では、計測部320で測定された二次側電圧Vsvrが、所定の制限値を逸脱していることを検出し、かつタイマ340においてこの状態が所定の計測時間以上継続していることをもって、切替制御を実行する。
【0032】
タップ制御装置310における上記の切替制御については、従来から種々の方式が提案されている。本発明ではこの方式に限定されるものではないが、例えば以下のように行うことができる。
【0033】
タップ切替の典型的な一例では、線路電圧降下補償回路(LDC)330は、計測部320で測定された二次側電流Isvr、二次側電圧Vsvrから、有効電力Psvr、無効電力Qsvr、力率cosθを計算する。
【0034】
また線路電圧降下補償回路(LDC)330には、パラメータR、X、Vref(または、Ap、Aq、Vref)が設定されており、(1)式を実行するときに使用する。線路電圧降下補償回路(LDC)330における(1)式の実行により、タップ動作判定基準値Vsが計算される。
[数1]
Vs=Vref+R・Ir+X・Ii
=Vref+Ap・Psvr+Aq・Qsvr (1)
ここで、R、X、Vrefまたは、Ap、Aq、Vrefは、予め設定されたパラメータであり、IrとIiは、計測した通過電流Isvrと力率cosθから求めた通過電流の実部と、通過電流の虚部である。そして、Rは自動電圧調整器SVRの通過電流の実部Irに対する係数、Xは自動電圧調整器SVRの通過電流の虚部Iiに対する係数、Vrefは基準電圧である。また展開式において、Apは自動電圧調整器SVRの有効電力Psvrに対する係数、Aqは自動電圧調整器SVRの無効電力Qsvrに対する係数である。
【0035】
二次側電圧は、有効電力Psvrあるいは無効電力Qsvrによって変動するが、(1)式はその変動の大きさを基準値Vsとして計算したものである。二次側電圧は、単巻変圧器303のタップチェンジャ302のタップ位置が同じであっても、有効電力Psvrあるいは無効電力Qsvrによって変動するが、(1)式で定まる範囲を逸脱するときには、タップ位置を修正する必要がある。
【0036】
このため、(1)式で求めた基準値Vsに対して自動電圧調整器SVRの二次側電圧Vsvrが、所定の制限値εを超えるという条件を満たす時間をタイマ340で積算し、その値がTsを超えた場合にタップへ切換え指令が出される。
【0037】
例えば、自動電圧調整器SVRの二次側電圧Vsvrが、この基準値Vsより一定値ε以上小さい状態で一定時間(例えば、Tsvr秒)経過すると、自動電圧調整器SVRのタップ302を上げ方向に変更し、二次側電圧を上昇させる。逆に、自動電圧調整器SVRの二次側電圧Vsvrがこの基準値Vsより一定値ε以上大きい状態で一定時間経過すると、自動電圧調整器SVRのタップ302を下げ方向に変更し、二次側電圧を下降させる。
【0038】
図3に、タップによって電圧を下げる場合の電圧経過グラフを示す。図3は横軸に時間t、縦軸に二次側電圧Vsvrを示しており、二次側電圧Vsvrが時間の経過と共に増加していったとする。そして、時刻t1で自動電圧調整器SVRの二次側電圧Vsvrが基準値Vs+εを超えたとする。この場合に、自動電圧調整器SVRのタップ制御装置310が、所定の設定時間Tsvr秒経過しても二次側電圧Vsvrが基準値Vs+εを超えた状態が継続していることを確認し、タップ動作させる。これにより、(b)の点線波形のように自動電圧調整器SVR二次側電圧Vsvrは下降する。ここで、εは不感帯を設けるための定数であり、(a)は、タップ動作させない場合を示している。
【0039】
このように、線路電圧降下補償回路(LDC)330は、自動電圧調整器SVRの通過電流情報と線路電圧降下補償回路LDCに設定されたパラメータを元に、二次側電圧Vsvrの制御を行う。なお、自動電圧調整器SVRの詳細な構成は、非特許文献1にも詳しく記載されている。
【0040】
本発明では、通常の自動電圧調整器SVRのタップ制御装置に加えて、継続確認時間Tsvrの値をタップ時定数決定装置430によって変更することで、自動電圧調整器SVRの動作時間を変更する。
【0041】
図1に示すように、タップ時定数決定装置400は、センサ170から入力を得、パラメータデータベース410、電圧補正値計算部420、時定数決定部430で構成される。
【0042】
センサ170は、線路の送り出し側の各種電気量を求める。これは、自動電圧調整器300内の、変圧器305から見たときには、一次側の各種電気量を求めることを意味する。各種電気量は、線路から直接計測できるもの及び計測された電気量から間接的に求められるものを含み、例えば電流Ir1、電流力率cosθ、有効電力Pr1、無効電力Qr1、ノード電圧Vr1などである。ここで電流などの記号に付した数値1は、自動電圧調整器301と300の間の区間の情報であることを意味する。また、記号「r」は送り出し側の自動電圧調整器301での情報を「s」(送出側の意味)としたのに対して、受け側の情報であることを意味している。測定された一次側の各種電気量は、電圧補正値計算部420に情報として送られる。
【0043】
電圧補正値計算部420は、センサ170からの情報と、パラメータデータベース410に格納されたパラメータ値Vref、Ap、Aq、Vdなどから、自動電圧調整器300の一次側電圧補正値Vr1’を(2)式によって計算する。
[数2]
Vr1’=Vref+Ap・Pr1+Aq・Qr1 (2)
(2)式を(1)式と対比して明らかなように、これは(1)式を、一次側電気量を使用して実行し一次側電圧補正値Vr1’を得たものである。ただし、パラメータ値Vref、Ap、Aqの具体的な数値としては、全く相違する値のものである。
【0044】
さらに時定数決定部430では、一次側電圧補正値Vr1’および一次側電圧の計測値Vr1を用いて(3)式の判定基準を実行する。ここで、Vdは不感帯を表す定数である。この判定式によれば、一次側電圧補正値Vr1’および一次側電圧の計測値Vr1の差が、不感帯±Vd以上に変化したことを検知する。
[数3]
Vr1’−Vd<Vr1<Vr1’+Vd (3)
この(3)式の意味するところは、要するに「計測した一次側電圧Vr1が一次側電圧の許容領域内(Vr1’−Vd」内に存在することを確認することである。
【0045】
受け側の自動電圧調整器300では、Vr1’が(3)式の範囲内にあるときに、送り出し側の自動電圧調整器301がタップ制御する可能性が低いと判断する。逆にVr1’が(3)式の範囲から外れたときには、送り出し側の自動電圧調整器301がタップ制御する可能性が高いと判断する。
【0046】
このことから、図1の配電系統において電圧変動が発生したときに、受け側の自動電圧調整器300は、この変動を送り出し側の自動電圧調整器301が調整しようとしているのであれば送り出し側の自動電圧調整器301に対応を任せればよい。
【0047】
送り出し側の自動電圧調整器301が調整しようとしていないのであれば、受け側の自動電圧調整器300は、タイマ340で設定された確認時間の経過を待つことなく早期にタップ調整を行うのがよい。本発明では、送り出し側の自動電圧調整器301が調整に入らないときに自分が確認時間を短縮してタップ制御することで電圧制御を改善する。
【0048】
ここで、継続確認のための時間、つまり時定数Tsvrを切り換えることによって、電圧制御が改善できる理由について説明する。前述のように、自動電圧調整器SVRの電圧調整は、入力電圧(例えば二次側電圧+線路電圧降下補償回路LDCによる補正電圧の合計)が基準電圧に対し偏差を生じた場合、その偏差が不感帯を超えて高くなった場合にはタップを下げ、低くなった場合にはタップを上げることで行われる。
【0049】
このとき、タップ動作までの動作時間特性が、従来のように定限時動作が採用されているものとする。具体的には、動作時間整定範囲は、例えば、「45、60、90、120・・・・180秒」のように離散的または連続的に設定可能であり、個々の自動電圧調整器SVRは、このなかのいずれか一つの動作時間が整定値として予め設定される。また通常は、送出し側の自動電圧調整器SVRほど動作時間が早くなるように整定される。
【0050】
このような固定時限の従来方式の場合には、複数台の自動電圧調整器SVRの動作について下記の問題が懸念される。
【0051】
(a)自動電圧調整器SVR動作遅れによる電圧逸脱
通常、フィーダの末端側に設置される自動電圧調整器SVRほど動作時限が長く設定されるため、末端側での電圧変化に対して自動電圧調整器SVRの動作が遅れ、電圧逸脱期間が発生することが懸念される。
【0052】
(b)自動電圧調整器SVR動作回数の不均衡
電力変動の発生が例えばフィーダの末端付近に偏在するような場合、末端側の自動電圧調整器SVRの動作回数が極端に増加することが考えられる。
【0053】
図4に示す複数台の自動電圧調整器300、301が直列設置された系統を考える。この図4では、自動電圧調整器300、301の前後に設置された各種電気量計測のためのセンサ170が計測する電気量が記号で示されている。また、負荷150側での各種電気量と、センサ間での電圧差が示されている。
【0054】
ここで、末端の自動電圧調整器300は、上流側の自動電圧調整器301の動作を把握する必要があるが、末端の自動電圧調整器300で計測できるのは300の自端の一次側及び二次側の電圧、電流(あるいはここから得られる有効電力P、無効電力Q)のみである。この条件で、上流側の自動電圧調整器301の動作状況を把握するアルゴリズムを次に示す。
【0055】
図4において、末端の自動電圧調整器300の一次側電圧値Vr1と、上流側の自動電圧調整器301の理想的な電圧値Vs1’の関係を求める。これは、例えば、図5に示すように求められる。この図5において、横軸は時間、縦軸は電圧値である。また電圧の上限、下限は配電系統における管理電圧であり、通常は107ボルトと、103ボルトが設定されている。自動電圧調整器300の二次側電圧がこの範囲であれば末端需要家での端子電圧100ボルトが確保されるという値である。
【0056】
この図5において、計測値である一次側電圧値Vr1に対し、電圧値Vs1’は理想値であり、末端の自動電圧調整器300では見えない値であるが図示のような関係にあると想定される。まず、前提として上流側の自動電圧調整器301の理想的な電圧値Vs1’は、そのタップ制御により上限と下限の範囲内にあり、かつ上流側電圧のほうが高い。一次側電圧値Vr1も、そのタップ制御により上限と下限の範囲内にある。そして、一次側電圧値Vr1が上昇するときには、理想的な電圧値Vs1’は上限を超えようとしてタップ制御により低下方向に制御される。逆に一次側電圧値Vr1が低下するときには、理想的な電圧値Vs1’は下限を超えようとしてタップ制御により上昇方向に制御される。
【0057】
このことから、一次側電圧値Vr1の値は、系統の有効電力P、無効電力Qの状態毎に定義されることになるが、一次側電圧値Vr1がこの値に近い値であれば、Vs1も理想値Vs1’に近い値である、すなわち自動電圧調整器301のタップは動作する条件にない(不感帯内にある)と考えられる。
【0058】
次に、末端の自動電圧調整器300で計測可能な値(有効電力Pr1、無効電力Qr1と電圧Vr1)の相関を求めてみる。理想的に自動電圧調整器301が制御された場合(理想的なVs1の場合)を仮定し、Vr1の滞在範囲(領域α)を分析する。具体的には、図6に示すように、重回帰分析によって、Pr1、Qr1とVr1の相関を求める。
【0059】
図6bは、有効電力Pr1、無効電力Qr1と電圧Vr1を各軸に定義した3次元座標である。この3次元座標において、電圧Vrefは、タップ位置固定、有効電力Pr1と無効電力Qr1がそれぞれゼロの状態での基準電圧である。この基準電圧は、他の条件をそのままに有効電力Pr1を増大させると低減し、他の条件をそのままに無効電力Qr1を増大させると上昇する。Ap、Aqはこのときの傾きを示している。
【0060】
図6bの太線は、タップ位置固定のまま、有効電力Pr1と無効電力Qr1を変更したときに、基準電圧が取りうる範囲を示している。計測された受け側の一次側電圧値がこの範囲にあるとき、送り出し側の自動電圧調整器301側では、タップ制御を必要とするような電圧変動を生じていないと考えられる。(2)式の一次側電圧補正値Vr1’は、この太線上の電圧を計算している。
【0061】
またここで、回帰分析で求めた平面に、ばらつきの範囲を加えた領域を、”α”と定義する。領域αは、例えば太線上の電圧に対して、所定%の電圧Vdを考慮したものである。このバラツキの要因としては、送り出し側の自動電圧調整器301のタップ誤差などがあり、概ね1.5%乃至2%程度の大きさである。(3)式の不感帯Vdがこれに相当する。従って、この領域内にあるときに、送り出し側の自動電圧調整器301側では、タップ制御を必要とするような電圧変動を生じていないと考えられる。
【0062】
末端の自動電圧調整器300の一次側で計測されたPr1、Qr1、Vr1の関係が、領域α内にあるかどうかで、上流側の自動電圧調整器301のタップが変更されるかどうかを判定する。図6bの相関係数を、Pr1、Qr1に対応するものをAp、Aq、切片をVrefと定義し、また不感帯として±Vdを用いると、αの領域(Vr1の取りうる値Vr1’)は先に説明したの(2)式のように表すことができる。
【0063】
なお、図6aは、図6bの3次元領域を、有効電力、無効電力の代わりに通過電流の実部と虚部で表現したものである。
【0064】
次に、末端の自動電圧調整器300の動作時間を調整することについて説明する。
【0065】
上流側の自動電圧調整器301が不感帯内に存在する((2)式を満たす、αの内部にある)ことがわかれば、次のように、上流側の自動電圧調整器301の動作を待たずに末端の自動電圧調整器300を動作させることを考える。
【0066】
(a)Vr1が領域αの内部:末端の自動電圧調整器300の応答時定数を早める(例えば90秒→45秒)。
【0067】
(b)Vr1が領域αの外部:末端の自動電圧調整器300の応答時定数はデフォルト値(例えば90秒)。
【0068】
このように、Pr1、Qr1、Vr1に応じて、動的に応答時定数を変更するような制御を行えばよい。
【0069】
以上の考えに基づく自動電圧調整器SVRのタップ切換え処理フローを、図7に示し、以下、ステップS1〜ステップS9までの各ステップの処理概要を説明する。
ステップS1:自動電圧調整器SVR両端電圧、通過有効電力P、通過無効電力Q等の計測値を読み込む。
ステップS2:線路電圧降下補償回路LDCの補正電圧値を考慮して、自動電圧調整器SVR電圧目標値Vs2を計算する。
ステップS3:送出し側自動電圧調整器SVR動作判定に用いる基準値Vr1’を計算する。
ステップS4:基準値Vr1’が領域αの内部か、外部か判定。外部であればステップS5aへ進み、通常の時定数に設定し、内部であればステップS5bへ進み、時定数を高速設定のパラメータに変更する。
ステップS6:Vs2から、自動電圧調整器SVRの電圧が不感帯範囲内にあるか判定。範囲外の場合、ステップS7へ進む。
ステップS7:電圧の不感帯逸脱時間を積算し、Tsvr秒継続すれば、ステップS8へ進む。
ステップS8:自動電圧調整器SVR電圧逸脱方向(上昇、下降)に応じて、タップを変更する。
ステップS9:電圧の不感帯逸脱時間積算に用いたタイマをリセットし、最初に戻る。
【0070】
ここで、ステップS4では、時定数変更判定に、自動電圧調整器SVRの一次電圧値を用いているが、一次側電圧値を直接測定した値を用いてもよいし、二次側の電圧測定値に自動電圧調整器SVRタップ比を用いて一次側電圧に換算した推定値を用いてもよい。同様に、通過有効電力P、通過無効電力Qも一次側の計測値を用いる代わりに、二次側の計測値から自動電圧調整器SVRタップ比を用いて一次側の値を推定した値を用いてもよいし、二次側の計測値を近似的に用いてもよい。
【0071】
また、通過有効電力P、通過無効電力Qの代わりに、電流の実部、虚部を用いても同様の制御機能を構築することが可能となる。より広い概念では、電流を含む一次側電気量(電力あるいは、電流)の有効分と無効分から判断すればよい。
【0072】
図8にタップ操作事例示す。実線で示すVs1は送出し側の自動電圧調整器301の二次側電圧を、点線で示すVs2は末端側の自動電圧調整器300の二次側電圧を示す。
【0073】
図8aは、従来方式でのタップ操作事例であり、末端側の自動電圧調整器300の時定数を、送出し側の自動電圧調整器301の時定数45秒より遅く、90秒に固定した場合の電圧制御結果を示している。この事例では、末端側の自動電圧調整器300は電圧閾値以下になった時点t0から時間計測して90秒後のt2にタップ切替を実行するが、その前の時刻t1で電圧下限値を逸脱してしまい、電圧逸脱期間が生じていることがわかる。尚、図の例では更にその後時刻t4前後に、末端側の自動電圧調整器300と、送出し側の自動電圧調整器301が電圧閾値以下を検出して、ともに時間計測に入るが、計測時間の短い送出し側の自動電圧調整器301がタップ切替を実行したことを示している。
【0074】
一方、図8bは本発明を適用したときのタップ操作事例である。末端側の自動電圧調整器300の動作時間を、送出し側の自動電圧調整器301が動作しない場合に、45秒と高速にした場合の電圧制御結果を示している。この事例では、末端側の自動電圧調整器300は、電圧閾値以下になった時点t0から時間計測して45秒後のt3にタップ切替を実行するので、電圧逸脱が回避されていることがわかる。尚、図の例では更にその後時刻t5前後に、末端側の自動電圧調整器300と、送出し側の自動電圧調整器301が電圧閾値以下を検出して、ともに時間計測に入るが、計測時間の短い送出し側の自動電圧調整器301がタップ切替を実行したことを示している。
【0075】
この図で、2回目のタップ動作(Vs1、Vs2がステップ状に上昇するとき)するまでの期間について検討すると、図8aの従来手法では、動作時限の短い送出し側の自動電圧調整器301が動作して、Vs1、Vs2ともに電圧適正範囲に維持される。図8bの本発明では、送出し側の自動電圧調整器301が動作することを末端側の自動電圧調整器300が推測し、末端側の自動電圧調整器300の動作時限を短くしない(90秒に維持)ことで、図8aと同様に電圧を適正範囲に維持され、末端側の自動電圧調整器300の不要なタップ動作が回避される。
【0076】
以上の説明で、送出し側の自動電圧調整器301と末端側の自動電圧調整器300について本発明の実施形態の一例を示したが、送出し側の自動電圧調整器301の代わりに、配電用変電所の負荷時タップ切換え変圧器LRTを用いても同様の効果が得られる。また、自動電圧調整器SVRの代わりに、本発明をTVR(Thyristor Voltage Regulator)または、電圧調整機能付き柱上変圧器に適用しても、同様の効果が得られる。
【0077】
以上のような制御により、電圧逸脱の可能性を小さくでき、また早い周期の電圧変動を抑制するために必要となる他の高速応答可能な電圧制御機器の必要容量を削減できる。具体的には、例えば、太陽光発電が多数フィーダに設置されているような場合、フィーダ末端側のみ曇って日射が低減してくるようなケースを考える。この場合、末端側の自動電圧調整器SVRのみが動作すればよく、末端側の自動電圧調整器SVRが早く動作することで電圧逸脱時間を低減可能となる。また、この他にも、フィーダ末端側にオール電化住宅が集中したり、末端側に出力変化を伴う誘導機のような負荷が設置されたり、電気自動車の急速充電器が設置されるようなケースも同様の現象となり、本発明による電圧維持効果が期待できる。
【0078】
また、本発明では、自動電圧調整器SVRが自端の計測情報のみから制御可能な構成としており、自動電圧調整器SVRのパラメータ変更やタップ制御に、配電系統の他の地点と情報伝達を行うための通信設備を必要としない効果がある。
【0079】
また、本発明では、送出し側の自動電圧調整器SVRが動作する可能性の低いときのみ、末端側の自動電圧調整器SVRを動作させることが可能となり、自動電圧調整器SVRのタップ動作回数を低減させ、ハンチングを防ぐ効果がある。
【0080】
以上のように、系統の状態に応じて、自動電圧調整器SVRの動作時定数を動的に変更することで電圧維持を効率的に行うこと可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
配電系統の電圧を調整する電圧調整装置として活用することができる。また、電圧調整装置であるSVRや配電用変電所LRTの制御システムとして活用することがきる。また、配電系統において、有効電力や無効電力変動を伴う負荷、分散電源の増設に対応した、電圧維持対策、配電設備利用率向上対策として活用することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
100:配電系統
120:ノード
130:発電機
140:配電線路
150:負荷
170:センサ
300:SVR(末端側設置)
301:SVR(送出し側設置)
302:タップチェンジャ
303:単巻変圧器
305:変圧器
310:タップ制御装置
311:電流センサ
312:電圧センサ
320:制御装置の計測部
330:LDC
340:タイマ
400:タップ時定数決定装置
410:パラメータデータベース
420:電圧補正値計算部
430:タップ時定数決定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ付変圧器を備え、該タップ付変圧器の二次側電圧が所定時間を経過して所定電圧を超えるときにタップ位置を調整する配電系統に設置された配電系統の電圧調整装置であって、
前記タップ付変圧器の、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分から一次側電圧の許容領域を定め、計測した一次側電圧が前記一次側電圧の許容領域内にあるときに、前記タップ付変圧器における所定時間を短縮することを特徴とする配電系統の電圧調整装置。
【請求項2】
請求項1記載の配電系統の電圧調整装置において、
前記電流を含む一次側電気量の有効分と無効分として、タップ付変圧器の通過有効電力および無効電力あるいは、電流の実部および虚部を用いることを特徴とする配電系統の電圧調整装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の配電系統の電圧調整装置において、
タップ付変圧器を備えた電圧調整装置が、配電用変電所の負荷時タップ切換え変圧器LRT、配電線路上の自動電圧調整器SVR、半導体電圧調整器TVR、または電圧調整機能付き柱上変圧器であることを特徴とする配電系統の電圧調整装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の配電系統の電圧調整装置において、
前記一次側電圧の許容領域は、基準電圧を基準とし、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分の変動により定まる領域とされることを特徴とする配電系統の電圧調整装置。
【請求項5】
タップ付変圧器を備え、該タップ付変圧器の二次側電圧が所定時間を経過して所定電圧を超えるときにタップ位置を調整する電圧調整装置が、配電系統に複数直列設置された配電系統の電力制御システムであって、
複数直列設置された電圧調整装置は、その前記所定時間が配電系統の末端側ほど長時間に設定されており、
かつ各電圧調整装置は、その前記タップ付変圧器の、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分から一次側電圧の許容領域を定め、計測した一次側電圧が前記一次側電圧の許容領域内にあるときに、前記タップ付変圧器における所定時間を短縮することを特徴とする配電系統の電力制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の配電系統の電力制御システムにおいて、
前記電流を含む一次側電気量の有効分と無効分として、タップ付変圧器の通過有効電力および無効電力あるいは、電流の実部および虚部を用いることを特徴とする配電系統の電力制御システム。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の配電系統の電力制御システムにおいて、
タップ付変圧器を備えた電圧調整装置が、配電用変電所の負荷時タップ切換え変圧器LRT、配電線路上の自動電圧調整器SVR、半導体電圧調整器TVR、または電圧調整機能付き柱上変圧器であることを特徴とする配電系統の電力制御システム。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれかに記載の配電系統の電力制御システムにおいて、
前記一次側電圧の許容領域は、基準電圧を基準とし、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分の変動により定まる領域とされることを特徴とする配電系統の電力制御システム。
【請求項9】
タップ付変圧器と、該タップ付変圧器の二次側電圧が所定時間を経過して所定電圧を超えるときにタップ位置を調整するタップ制御装置を備え、配電系統に設置された配電系統の電圧調整装置であって、
前記タップ付変圧器の、一次側電圧と、電流を含む一次側電気量の有効分と無効分を求めるセンサ部と、
該センサ部の出力に乗ずるパラメータを保持するパラメータデータベースと、
センサ部からの電流を含む一次側電気量の有効分と無効分と、パラメータデータベースのパラメータから前記タップ付変圧器の一次側電圧の許容領域を定める計算部と、
計測した一次側電圧が前記一次側電圧の許容領域内にあることを判定し、前記タップ制御装置における所定時間を短縮する時定数決定部
を有することを特徴とする配電系統の電圧調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【公開番号】特開2012−182897(P2012−182897A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43633(P2011−43633)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】