説明

酢酸を製造する方法

【課題】メタノールのカルボニル化によって酢酸を製造するための改良法を提供。
【解決手段】次の工程:すなわち、水、ヨウ化メチルおよび触媒を含む反応媒体中において、カルボニル化可能な反応体、例えばメタノール、酢酸メチル、ギ酸メチルまたはジメチルエーテルを、一酸化炭素と反応させて、酢酸を含む反応生成物を製造する工程;その反応生成物を分離させて、酢酸、水およびヨウ化メチルを含む揮発性相と、より揮発性の低い相とを提供する工程;その揮発性相を蒸留して、精製酢酸生成物と、水、酢酸メチルおよびヨウ化メチルを含む第一オーバーヘッドとを製造する工程;その第一オーバーヘッドを相分離させて、水を含む第一液相と、ヨウ化メチルを含む第二液相とを提供する工程;およびその第一オーバーヘッドの分離を高めるのに有効な量でプロセスにジメチルエーテルを加えて、第一液相および第二液相を形成させる工程を含む酢酸を製造する改良法。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、メタノールのカルボニル化によって酢酸を製造するための改良法に関する。
【0002】
2.技術的背景
酢酸を合成するために現在使用されている方法の中で、最も商業的に有用な方法は、1973年10月30日にPaulikらに与えられた米国特許第3,769,329号で教示されている一酸化炭素でメタノールを触媒カルボニル化する方法である。カルボニル化触媒は、ヨウ化メチルのようなハロゲン含有触媒促進剤と一緒に、液体反応媒体中に溶解されたもしくは分散された、または不活性固体上に担持されたロジウムを含む。ロジウムは多くの形態のうちのいずれかの形態で反応系に導入できるが、活性触媒錯体内のロジウム部分の正確な性質は不明である。同様に、ハロゲン化物促進剤の性質も重要ではない。特許権者は、極めて多くの適当な促進剤を開示しており、そのほとんどは有機ヨウ化物である。最も典型的にはかつ実用的には、反応は、触媒が溶解されている液体反応媒体中に一酸化炭素ガスを連続的に泡立てることによって実行する。
【0003】
ロジウム触媒の存在下で、アルコールに比べて炭素原子が1個多いカルボン酸を製造するためのアルコールをカルボニル化する従来法における主な改良は、米国特許第5,001,259号(1991年3月19日に発行された);第5,026,908号(1991年6月25日に発行された);第5,144,068号(1992年9月1日に発行された)および1992年7月1日に発行された欧州特許第EP 0 161 874 B2号で開示されている。これらの特許は、酢酸メチル、ハロゲン化メチル、特にヨウ化メチル、および触媒的に有効な濃度のロジウムを含む反応媒体中でメタノールから酢酸を製造する方法を開示している。これらの特許の発明者は、触媒的に有効な量のロジウムと一緒に、水、酢酸メチルおよびヨウ化メチルの少なくとも有限な濃度と、ヨウ化メチルまたは他の有機ヨウ化物として存在するヨウ化物含量に加えて、ヨウ化物イオンの特定の濃度とを反応媒体中で維持することによって、反応媒体中の水濃度が極めて低くても、すなわち(一般的な工業的通例では約14重量%または15重量%の水濃度に維持するにもかかわらず)4重量%未満でも、驚くほどに高いレベルで、カルボニル化反応器の触媒安定性と生産性とを維持できることを発見した。ヨウ化物イオンは単塩として存在し、好ましくはヨウ化リチウムである。上記特許は、酢酸メチルおよびヨウ化物塩の濃度が、特に低い反応器水濃度で酢酸を製造するメタノールのカルボニル化速度に影響を及ぼす重要なパラメータであることを教示している。酢酸メチルおよびヨウ化物塩の比較的高い濃度を使用することにより、水の「有限濃度」と単純に規定できるほど低い約0.1重量%程度の濃度で液体反応媒体が水を含むときでも、驚くべき程の触媒安定性および反応器生産性が得られる。更に、使用する反応媒体は、特にプロセスの生成物回収工程中に、ロジウム触媒の安定性、すなわち、触媒の沈殿に対するその抵抗性を向上させる。酢酸生成物を回収する方法で行われる蒸留では、触媒から一酸化炭素配位子が除去される傾向がある。これらの配位子は、反応器で維持される環境でロジウムに関して安定効果を有する。米国特許第5,001,259号、第5,026,908号および第5,144,068号は、その内容を本明細書に引用したものとする。
【0004】
酢酸生成のための低含水カルボニル化法は、二酸化炭素、水素およびプロピオン酸のような副生物を減少させるが、一般的に極微量存在する他の不純物の量は増加させること、また、触媒を向上させることによってまたは反応条件を変えることによって生成速度を上げようとすると、酢酸の品質が時に低下することも発見した。これらの極微量の不純物は、特に、それらを反応プロセスで再循環させるとき、酢酸生成物の品質に影響を及ぼす。
カルボニル化反応系の不純物に関して更に考察するためには、Catalysis of Organic Reactions,75,369−380(1998)を参照されたい。
【0005】
典型的には、1つ以上の蒸留塔で粗酢酸生成物を精製して、ライトエンド反応成分(典型的には酢酸メチルおよびヨウ化メチル)、水およびヘビーエンド不純物を除去する。ヨウ化メチルがライトエンド塔へと還流されると、酢酸生成物からのライトエンド反応成分の分離が著しく低下するので、大量のヨウ化メチルがライトエンド蒸留塔へと還流するのを防止するのは特に重要であることが既に観察されてきた。通常、ヨウ化メチルの還流は、ライトエンドオーバーヘッドから大部分のヨウ化メチルを別個の相として分離することによって、防止されるが、特定の条件下では、ライトエンドオーバーヘッドは、ヨウ化メチルを含む単一液相を形成し得る。本発明は、ライトエンド塔におけるこの単一相条件を防止する一つの方法を提供する。
【0006】
発明の概要
本発明の一つの面は、酢酸を製造する方法であり、その方法は次の工程:すなわち、
水、ヨウ化メチルおよび触媒を含む反応媒体中において、一酸化炭素を、カルボニル化可能な材料と、例えばメタノール、酢酸メチル、ギ酸メチル、ジメチルエーテルまたはそれらの混合物と反応させて、酢酸を含む反応生成物を製造する工程;反応生成物に関して気・液分離を行って、酢酸、水およびヨウ化メチルを含む揮発性相と、触媒を含むより揮発性の低い相とを提供する工程;その揮発性相を蒸留して、精製された酢酸生成物と、水およびヨウ化メチルを含む第一オーバーヘッドとを製造する工程;その第一オーバーヘッドを相分離させて、水を含む第一液相と、ヨウ化メチルを含む第二液相とを提供する工程;
および、ジメチルエーテルを、反応生成物、揮発性相、第一オーバーヘッド、または蒸留と関連がある流れのうちの少なくとも一つに加えて、第一オーバーヘッドの分離を促進して、第一液相および第二液相を形成させる工程を含む。
【0007】
本発明の別の面は、酢酸、ヨウ化メチルおよび水を含む混合物を蒸留して、精製酢酸生成物、水を含む第一液相、およびヨウ化メチルを含む第二液相を提供する改良法である。
この方法では、蒸留時のオーバーヘッド分画を分離して、第一液相および第二液相を形成させ、そして、その第一液相の一部を蒸留時に還流する。改良は、第一液相および第二液相の相分離を高めるのに有効な量で、ジメチルエーテルを、混合物に、オーバーヘッド分画に、または第一液相の還流された部分に加えることを含む。
【0008】
本発明は、様々な改良および別の形態が可能であるが、特定の態様を、図面において例として示し、また、本明細書で詳述する。しかしながら、本発明が、開示される特定の形態に限定されることを意図していないことを理解すべきである。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によって規定される発明の範囲内にあるすべての改良、等価物および代替物をカバーすることが意図される。
【0009】
実施態様の説明
以下、本発明の実施態様について説明する。分かり易くするために、本明細書では、実施に関するすべての特徴を説明しない。もちろん、このような実際の実施形態の開発においては、実装に特有な多くの決定を行って、システム関連の制約や業務関連の制約にしたがうなど、実装によって変化する開発者の特有の目的を達成しなければならないことが理解されよう。更に、そのような開発努力は、複雑かつ時間が掛かるであろうが、それにもかかわらずこの開示の利益を受ける当業者にとって日常的な仕事であるということが理解されるであろう。
【0010】
本発明は、ロジウムのようなVIII族金属触媒およびヨウ化物促進剤の存在下でメタノールを酢酸へとカルボニル化するのに使用される任意の方法において有用である。特に有用な方法は、上記した米国特許第5,001,259号で例示されているメタノールから酢酸への低含水ロジウム触媒カルボニル化である。触媒系のロジウム成分は、ロジウム金属、ロジウム塩、例えば酸化物、酢酸塩、ヨウ化物などの形態、またはロジウムの他の配位化合物の形態で、反応ゾーンにロジウムを導入することによって提供できる。
【0011】
触媒系のハロゲン促進成分は、有機ハロゲン化合物を含む。而して、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール、および置換ハロゲン化アルキルまたは置換ハロゲン化アリールを使用できる。好ましくは、ハロゲン化物促進剤は、ハロゲン化アルキルの形態で存在し、そのアルキル基はカルボニル化される供給アルコールのアルキル基に対応する。而して、酢酸へのメタノールのカルボニル化では、ハロゲン化物促進剤は、ハロゲン化メチルであり、更に好ましくはヨウ化メチルである。
【0012】
使用する液体反応媒体は、触媒系と相溶性の任意の溶媒を含むことができ、また、純粋なアルコール、またはアルコール供給原料と/または望ましいカルボン酸と/またはそれら2つの化合物のエステルとの混合物を含むことができる。低含水カルボニル化法のための好ましい溶媒および液体反応媒体は、カルボン酸生成物それ自体である。而して、酢酸へのメタノールのカルボニル化では、好ましい溶媒は酢酸である。
【0013】
水は、充分な反応速度を達成するのに実用的であると考えられた濃度を充分に下回る濃度で反応媒体中に存在する。本発明で記載されるタイプのロジウム触媒カルボニル化反応では、水の添加は、反応速度に関して有益な効果を及ぼすことは既に教示されている(米国特許第3,769,329号)。而して、ほとんどの商業運転は、少なくとも約14重量%の水濃度で行われる。而して、そのような高いレベルの水濃度で得られる反応速度に実質的に等しくかつそれを超える反応速度が、14重量%未満および約0.1重量%程度の低い水濃度で達成できたことは、全く予想外であった。
【0014】
本発明による酢酸を製造するために最も有用なカルボニル化法にしたがって、所望の反応速度は、酢酸メチルと、例えばヨウ化メチルまたは他の有機ヨウ化物のような触媒促進剤として存在するヨウ化物に加えて追加のヨウ化物イオンとを反応媒体中に含有させることによって、低い水濃度でも得られる。追加のヨウ化物促進剤は、ヨウ化物塩であり、好ましくはヨウ化リチウムである。低い水濃度下では、酢酸メチルおよびヨウ化リチウムは、これらの各成分が比較的高い濃度で存在するときにのみ、速度促進剤として作用すること、また、促進作用は、それらの成分の両方が同時に存在するときに、より強まることを発見した(米国特許第5,001,259号)。
【0015】
メタノールの酢酸生成物へのカルボニル化反応は、カルボニル化生成物を形成させるのに適する温度および圧力において、典型的には液相であるメタノール供給材料を、ロジウム触媒、ヨウ化メチル促進剤、酢酸メチル、および追加の可溶性ヨウ化物塩を含む液体酢酸溶媒反応媒体中に泡立てた気体一酸化炭素と接触させることによって、行うことができる。重要であるのは触媒系におけるヨウ化物イオンの濃度であり、ヨウ化物に伴うカチオンではないこと、また、ヨウ化物の所定のモル濃度では、カチオンの性質は、ヨウ化物濃度の効果ほど重要ではないことが一般的に認識される。而して、反応媒体中で塩が充分に可溶性であって所望のレベルのヨウ化物を提供するという条件付きで、任意のヨウ化金属塩、または任意の有機カチオンの任意のヨウ化物塩、または四級カチオン、例えば四級アミンカチオンもしくは四級ホスフィンカチオンもしくは四級無機カチオンを使用できる。ヨウ化物を金属塩として加える場合、好ましくは、オハイオ州クリーブランドにあるCRC Pressから2002年−03月に出版されたHandbook of Chemistry and Physics(第83版)に記載されている周期表のIA族およびIIA族の金属から成る群のメンバーのヨウ化物塩である。特に、アルカリ金属ヨウ化物は有用であり、好ましくはヨウ化リチウムである。本発明において最も有用な低含水カルボニル化法では、有機ヨウ化物促進剤に加えて追加のヨウ化物は、約2〜約20重量%で触媒液中に存在し、酢酸メチルは約0.5〜約30重量%で存在し、そしてヨウ化リチウムは約5〜約20重量%で存在する。ロジウム触媒は、重量基準で約200〜約2000ppm存在する。
【0016】
カルボニル化のための典型的な反応温度は、約150℃〜約250℃であり、好ましくは約180℃〜約220℃である。反応器中の一酸化炭素分圧は、広範に変化し得るが、典型的には約2〜約30気圧、好ましくは約3〜約10気圧である。副生物の分圧および含有液体の蒸気圧により、総反応器圧は、約15〜約40気圧である。
【0017】
メタノールから酢酸へのヨウ化物促進ロジウム触媒カルボニル化のために使用される典型的反応および酢酸回収システムは図1に示してある。反応系は、カルボニル化反応器10、フラッシャ12、そして更なる精製へと進む酢酸側流17を有するヨウ化メチル/酢酸ライトエンド塔14を含む。その内容を本明細書に引用したものとする米国特許第5,416,237号に記載されているように、ライトエンド塔14には、酢酸および水の分離を容易にして、前記の分離を達成するための分離乾燥塔の必要性を無くする追加の段階を組み込むこともできる。カルボニル化反応器10は、典型的には、撹拌槽または気泡塔のタイプであり、その中では、反応液体内容物は自動的に一定レベルに維持される。この反応器では、流れ6によって新鮮なメタノールを、流れ8によって一酸化炭素を、反応媒体において少なくとも有限濃度の水を維持するのに必要とされる充分な水を、フラッシャ12の底部から流れ13によって再循環触媒液を、再循環されるヨウ化メチルおよび酢酸メチルの相21を、およびヨウ化メチル酢酸ライトエンドのオーバーヘッドレシーバデカンタまたはスプリッター塔14から再循環水性酢酸相36を、連続的に導入する。粗酢酸を回収して、反応器に触媒液、ヨウ化メチルおよび酢酸メチルを再循環させるために提供する蒸留システムを使用する。一つの好ましい方法では、一酸化炭素を、撹拌機の真下にある撹拌カルボニル化反応器に連続的に導入し、それにより、一酸化炭素を反応液全体に完全に分散させる。気体副生物の蓄積を防止し、かつ、所定の総反応器圧において一酸化炭素の分圧を制御するために、気体パージ流を反応器から排気する。反応器の温度を制御し、そして、一酸化炭素供給を、所望の総反応器圧を維持するのに充分な速度で導入する。
【0018】
液体製品は、その中に一定レベルで維持するのに充分な速度でカルボニル化反応器10から取り出し、そしてフラッシャ12に導入する。フラッシャでは、触媒液が、ベース流(主として、より少量の酢酸メチル、ヨウ化メチルおよび水と一緒にロジウム触媒およびヨウ化物塩を含む酢酸)として取り出され、一方、フラッシャの蒸気オーバーヘッド流は、いくらかのヨウ化メチル、酢酸メチルおよび水と一緒に、粗酢酸生成物を含む。反応器を出てフラッシャに入る流れ11は、気体副生物、例えばメタン、水素および二酸化炭素と一緒に、少量の一酸化炭素を含む溶解ガスも含む。これらは、蒸気オーバーヘッド流26の一部分としてフラッシャを出て、ライトエンド塔またはスプリッター塔14へと指向する。
【0019】
ライトエンド塔またはスプリッター塔14の頂部から、流れ28によって蒸気を取り出し、凝縮させ、そしてデカンタ16へと指向する。図1に流れ29で示してあるように、流れ28は、排気することができる凝縮可能な水、ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドおよび他のカルボニル成分、ならびに非凝縮性ガス、例えば二酸化炭素および水素などを含む。その凝縮性蒸気は、好ましくは、凝縮性のヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドおよび他のカルボニル成分、および水を凝縮させかつ2つの液相へと分離させるのに充分な温度まで冷却する。流れ30の少なくとも一部分は、還流34としてライトエンド塔14へと指向し;本発明の好ましい態様では、流れ30の別の部分は、側流32として分流し、そして、反応系またはライトエンド塔へと戻す前に処理して、アセトアルデヒドおよび他の過マンガン酸塩還元化合物を除去する。アセトアルデヒドおよび他のPRCを除去するための多くの処理法は当業において公知であり;その方法の例は、米国特許第5,625,095号;第5,783,731号;第6,143,930号;および第6,339,171号で開示されており、前記特許のそれぞれは、その内容を本明細書に完全に引用したものとする。前記方法で水収支を維持するのを助けるために、軽質相30の更なる別の部分41を、システムからパージすることができるかまたは反応系に戻す前に過剰水を除去することができる。
【0020】
オーバーヘッドレシーバデカンタ16を出る流れ28の重質相21は、通常は、反応器に再循環させるが、その重質相の一般的には少量、例えば25体積%、好ましくは約20体積%未満の後流(slip stream)は、PRC除去プロセスへと指向し、そしてその残りは反応器または反応系に再循環させることもできる。重質相のこの後流は、個々に処理してもよいか、またはカルボニル不純物の更なる蒸留および抽出のために、軽質相、すなわち流れ30と組み合わせてもよい。
【0021】
既に説明したように、カルボニル化反応媒体において水の低濃度、例えば8%未満および好ましくははるかに低い水濃度を維持することは次の少なくとも二つの理由から非常に望ましい:すなわち、第一は、低い水濃度を維持することは、水性ガスシフト反応によって反応器中での副生物として形成される二酸化炭素の量を制御するのに役立つ。第二は、より有意には、水濃度が低いと、副生物として形成されるプロピオン酸の量を制御するのにも役立つ。しかしながら、反応媒体中の水濃度が低下すると、塔14への蒸気充填が増加する。この蒸気充填の増加は、結果として、ライトエンド塔14の頂部にあるデカンタ16中への容認できないほど高い酢酸のキャリオーバを招く。ヨウ化メチルおよび水相の双方への酢酸の溶解性は、相分離を低下させ、最終的には、デカンタで単一液相が生じる。この状態が起こる場合、塔14への還流は高濃度のヨウ化メチルを含む。この追加のヨウ化メチルの存在によって、例えば酢酸メチルのようなライトエンド材料を、酢酸生成物17から完全に分離する塔14の能力が有意に損なわれる。これにより、問題が修正できるまで、反応系全体を停止する必要がしばしば生じる。(このために、比較的ほとんどヨウ化メチルを有していない軽質相30のみを、塔14において還流として典型的に使用する。)
たとえ、前記の相分離が、上記したように単一相の形成を促進するライトエンド塔における高蒸気充填を発生させる低含水反応条件によって、また、酢酸メチルの高濃度の傾向によって、更に難しくなったとしても、この潜在的問題を考慮すると、デカンタ16において相分離を維持することは極めて重要である。この問題は、その開示を本明細書に引用したものとする米国特許第5,723,660号で、ある程度まで認識されていたが、その中で提案された解決法は、例えば、ライトエンドオーバーヘッドを蒸留して酢酸メチルを除去する工程、または、ライトエンドオーバーヘッドがデカンタに入る前にライトエンドオーバーヘッドが冷却される温度まで温度を有意に低下させる工程のようにコストの掛かる工程を含む。第三の提案された解決法、すなわち、酢酸メチル濃度を40重量%未満に維持することを保証するために水を回分式でライトエンド塔に供給すると、水を加えるたびに、プロセス全体にわたって水収支が有意に変化する可能性がある。
【0022】
本出願人は、米国特許第5,723,660号で提案された複雑な工程のいずれをも使用せずに、また、プロセスにおいて水収支を有意に変化させずに、ライトエンドオーバーヘッドデカンタ16における相分離を保証する別の効果的な方法を発見した。簡単に言えば、本出願人は、(a)水中で不混和性である成分;(b)プロセス化学と適合性のある成分、および(c)単一相を促進する際の酢酸の効果を打ち消す成分を加えることによって、デカンタにおける適当な相分離を保証できることを発見した。詳しくは、本出願人は、ジメチルエーテル(DME)を、ライトエンドオーバーヘッド、ライトエンド塔供給材料、またはライトエンド塔14と関係がある別の流れに対して加えることによって、デカンタ16の液体内容物が、単一相を形成するのを防止できる。
【0023】
水に関してほとんど不混和性であることに加えて、DMEは、プロセス化学と適合性がある。上記したように、デカンタ16で形成される有機(ヨウ化メチル富化)重質相は、カルボニル化反応器10に戻す。DMEは、カルボニル化反応条件下で水および一酸化炭素と反応して酢酸を生成する。更に、米国特許第5,831,120号で開示されているように、DMEのカルボニル化は水を消費するので、DMEも、プロセスにおける水の蓄積を制御するのに有用である。例えば、DMEのカルボニル化で消費される追加の水によって、反応器に戻される軽質相30の部分36をパージまたは処理して過剰の水を除去する必要は無くなるかもしれない。最後に、アセトアルデヒドを除去するために更に処理される軽質相30の側流32におけるDMEの存在は、一定の有益な効果を有する。最も特に、本発明と共に同時に出願された、本出願と同一の譲受人に譲渡された米国特許出願第10/708,420号および第10/708,421号で詳細に開示されているように、充分なDMEが、軽質相側流32に存在しているとき、または、アセトアルデヒド除去システムにおいてその場で形成されるとき、アセトアルデヒド除去プロセス中におけるヨウ化メチルの望ましくない損失はかなり低減される。
【0024】
上記プロセスのような酢酸法では、多くのプロセス流は、精製領域内で再循環されるかまたは精製領域から反応系まで再循環されることが理解される。而して、DMEの充分な量がライトエンドデカンタ16で蓄積して、その中での相分離を高める望ましい効果を達成するという条件の下で、DMEはプロセスのどこででも加えることができる。例えば、DMEは、(流れ37によって)フラッシャオーバーヘッド26の中に注入し、ライトエンド塔14に供給することができるか、または、前記ライトエンド塔に(流れ38によって)別途供給することができる。あるいは、DMEは、還流34によってライトエンド塔に注入できる。しかしながら、現在は、ライトエンド塔14の中に追加のDMEを供給すると、ライトエンド塔14で過度の蒸気充填が起こるかもしれないと考えられている。而して、ライトエンド塔14を通過しない流れまたは流れの系列によって、ライトエンドデカンタ16に直接的にまたは間接的にDMEを加えることが好ましい。例えば、DMEは、ライトエンドオーバーヘッド流28に(流れ35として)直接加えることができる。あるいは、本発明と共に同時に出願された、米国特許第6,143,930号および同時係属中の米国特許出願第10/708,420号と第10/708.421号で開示されているアセトアルデヒド除去技術の特定の態様では、アセトアルデヒド除去システムからの戻り流のすべてまたは一部は、デカンタ16またはライトエンド塔14へと戻る。DMEは、このような戻り流(例えば、米国特許第6,143,930号の図1の流れ46)にも加えることができたか、または、デカンタ16における相分離を高めるのに充分なDMEを戻り流が含むように、アセトアルデヒド除去システム内の他のところで流れに加えることができた。
【0025】
本発明を、好ましい態様に関して説明してきたが、明らかな改良および変更は当業者によって可能である。而して、本発明は、以下のクレームまたはそれらの等価物の範囲内に入るすべてのそのような改良および変更を最大限まで含むことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による方法のための工程系統図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチルおよび水を含む混合物を相分離させて、水および酢酸メチルを含む第一液相と、ヨウ化メチルを含む第二液相とを提供する方法における、ジメチルエーテルを該混合物に加えて該分離を容易にすることを含む改良。
【請求項2】
以下の工程:すなわち、
該混合物を蒸留して、オーバーヘッド分画および該精製酢酸生成物を提供する工程;
該オーバーヘッド分画を相分離させて、該第一液相および該第二液相を提供する工程;
該蒸留において該第一液相の一部を還流する工程;および
該第一液相および該第二液相の相分離を高めるのに有効な量で、ジメチルエーテルを、該混合物に、該オーバーヘッド分画に、または該第一液相の還流された部分に加える工程
を含む、酢酸、ヨウ化メチルおよび水を含む混合物を分離させて、精製酢酸生成物、水を含む第一液相およびヨウ化メチルを含む第二液相を提供する方法。
【請求項3】
該ジメチルエーテルを該オーバーヘッド分画に加える請求項2記載の方法。
【請求項4】
該混合物を、カルボニル化反応器の反応生成物の揮発性相として提供する請求項2記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190270(P2011−190270A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117866(P2011−117866)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【分割の表示】特願2007−501847(P2007−501847)の分割
【原出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(500175107)セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション (77)
【Fターム(参考)】